(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の発電装置を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて説明する。
<第1実施形態>
まず、本発明の発電装置の第1実施形態について説明する。
【0045】
図1は、本発明の発電装置の第1実施形態を示す斜視図、
図2は、
図1に示す発電装置の平面図、
図3は、
図1に示す発電装置が備える装置本体の分解斜視図、
図4は、
図1中のA−A線断面図(
図3に示す装置本体の縦断面図)、
図5は、
図3に示す装置本体が備える板バネの平面図、
図6は、
図1に示す発電装置が備える吸着手段の分解斜視図、
図7は、
図1中のB−B線断面図、
図8は、
図1に示す発電装置の使用状態(固定状態)を示す図、
図9は、
図8に示す発電装置を拡大して示す側面図、
図10は、
図1に示す発電装置の他の使用状態(固定状態)を示す図である。
【0046】
なお、以下の説明では、
図1、
図3、
図4、
図6〜
図10中の上側を「上」または「上方」と言い、下側を「下」または「下方」と言う。また、
図2および
図5中の紙面手前側を「上」または「上方」と言い、紙面奥側を「下」または「下方」と言う。
【0047】
図1および
図2に示す発電装置100は、磁性材料で構成される振動体に固定して使用するものであり、装置本体1と、この装置本体1を振動体に吸着により固定する吸着手段9と、装置本体1から側方に突出するようにして設けられ、外部装置に接続される接続コネクタ11とを有している。
【0048】
図3に示すように、装置本体1は、筐体20と、筐体20内に、
図4の上下方向に振動可能に保持された発電部10とを備えている。この発電部10は、一対の対向する上側板バネ60Uおよび下側板バネ60Lと、これらの間に固定された、永久磁石31を有する磁石組立体30、永久磁石31の外周側を囲むように設けられたコイル40およびコイル40を保持するコイル保持部50とを有している。なお、本実施形態では、上側板バネ60Uと下側板バネ60Lとは、同じ構造を有している。
【0049】
<<筐体20>>
筐体20は、
図3および
図4に示すように、カバー21と、発電部10を上面(一方の面)側に支持するベース(支持板)23と、カバー21とベース23との間に、発電部10を囲むように設けられた筒状部22とを備えている。
【0050】
カバー21は、円盤状をなし、その外周縁部に沿って、円環状(リング状)のリブ211が下方に向かって突出形成されている。このリブ211に対応する部分に沿って、ほぼ等間隔で6つの貫通孔212が形成されている。また、カバー21のリブ211より内側の部分には、上方に向かって凹没形成された凹部(逃げ部)214が形成されている。発電部10は、振動した際に、この凹部214内に位置(退避)し、カバー21と接触するのが防止されている。
【0051】
筒状部22は、円筒状をなし、その外径がカバー21の外径とほぼ等しくなっている。発電部10と筐体20とを組み立てた状態(以下、この状態を「組立状態」と言う。)で、筒状部22の内側に発電部10の発電に寄与する主要部が位置する。
【0052】
また、筒状部22の内周面には、カバー21の貫通孔212に対応する位置に、筒状部22の高さ方向に沿って6つのボス221が形成されている。このボス221の上端部には、上側ネジ孔221aが形成されている。また、上側板バネ60Uの外周部(第1の環状部61)には、その周方向に沿ってほぼ等間隔で6つの貫通孔66が形成されている。
【0053】
上側板バネ60Uの外周部をカバー21と筒状部22との間に位置させた状態で、ネジ213を、カバー21の貫通孔212および上側板バネ60Uの貫通孔66に挿通し、ボス221の上側ネジ孔221aに螺合させる。これにより、上側板バネ60Uの外周部が、カバー21と筒状部22とに固定される。
【0054】
ベース23は、円盤状をなし、その外周縁部に沿って、円環状(リング状)のリブ231が上方に向かって突出形成されている。このリブ231に対応する部分に沿って、ほぼ等間隔に6つの貫通孔232が形成されている。また、ベース23のリブ231より内側の部分には、下方に向かって凹没形成された凹部(逃げ部)234が形成されている。発電部10は、振動した際に、この凹部234内に位置(退避)し、ベース23と接触するのが防止されている。
【0055】
また、筒状部22のボス221の下端部には、下側ネジ孔(雌ネジ)221bが形成されている。下側板バネ60Lの外周部(第1の環状部61)をベース23と筒状部22との間に位置させた状態で、ネジ233を、ベース23の貫通孔232および下側板バネ60Lの貫通孔66に挿通し、ボス221の下側ネジ孔221bに螺合させる。これにより、下側板バネ60Lの外周部が、ベース23と筒状部22とに固定される。
【0056】
図4に示すように、ベース23の下面(他方の面)230は、下方に向かって突出する湾曲凸面で構成されている。なお、かかる構成とすることにより得られる効果については、後に説明する。また、ベース23の下面230の中央部には、吸着手段9の一部を構成する永久磁石911等を収納可能な凹部235が形成されている。
【0057】
筐体20(カバー21、筒状部22およびベース23)を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、金属材料、セラミックス材料、樹脂材料等が挙げられ、これらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
筐体20の寸法は、特に限定されないが、発電装置100を小型化(低背化)する観点からは、筐体20(ベース23)の平均幅は、60〜120mm程度であるのが好ましい。また、筐体20の平均高さは、20〜50mm程度であるのが好ましく、30〜40mm程度であるのがより好ましい。
【0059】
この筐体20内には、上側板バネ60Uおよび下側板バネ60Lにより、発電部10が振動可能に保持されている。
【0060】
<<上側板バネ60U、下側板バネ60L>>
上側板バネ60Uは、その外周部がカバー21と筒状部22との間に、これらに挟持されることにより固定され、また、下側板バネ60Lは、その外周部がベース23と筒状部22との間に、これらに挟持されることにより固定されている。
【0061】
各板バネ60L、60Uは、例えば、鉄、ステンレス鋼のような金属製の薄板材から形成され、その全体形状が円盤状をなす部材である。
図5に示すように、各板バネ60L、60Uは、外周側から、第1の環状部61、第1の環状部61の内径よりも小さい外径を有する第2の環状部62、および、第2の環状部62の内径よりも小さい外径を有する第3の環状部63を有している。
【0062】
これらの第1の環状部61、第2の環状部62および第3の環状部63は、同心的に設けられている。また、第1の環状部61と第2の環状部62とは、複数(本実施形態では、6つ)の第1のバネ部64によって連結されており、第2の環状部62と第3の環状部63とは、複数(本実施形態では、3つ)の第2のバネ部65によって連結されている。
【0063】
第1の環状部61には、その周方向に沿って、6つの貫通孔66がほぼ等間隔(およそ60°間隔)で形成されている。前述したように、上側板バネ60Uの貫通孔66には、ボス221の上側ネジ孔221aに螺合されるネジ213が挿通され、一方、下側板バネ60Lの貫通孔66には、ボス221の下側ネジ孔221bに螺合されるネジ233が挿通される。
【0064】
また、第2の環状部62にも、その周方向に沿って、6つの貫通孔67がほぼ等間隔(およそ60°間隔)で形成されている。また、後述するコイル保持部50には、その周方向に沿って、6つのボス511が上下方向に突出して形成されている。各ボス511には、その上端部に上側ネジ孔511aと、下端部に下側ネジ孔511bとが形成されている。
【0065】
ネジ82を上側板バネ60Uの貫通孔67に挿通し、ボス511の上側ネジ孔511aに螺合させる。これにより、上側板バネ60Uの第2の環状部62が、コイル保持部50に固定される。一方、ネジ82を下側板バネ60Lの貫通孔67に挿通し、ボス511の下側ネジ孔511bに螺合させる。これにより、下側板バネ60Lの第2の環状部62が、コイル保持部50に固定される。
【0066】
また、上側板バネ60Uの第3の環状部63には、磁石組立体30の上方に配置されるスペーサ70が固定されている。一方、下側板バネ60Lの第3の環状部63には、磁石組立体30が固定されている。また、本実施形態では、ネジ73により、スペーサ70と磁石組立体30とが連結されている。
【0067】
6つの第1のバネ部64は、それぞれ、円弧状の部分を有する形状(ほぼS字状)をなしており、第1の環状部61と第2の環状部62との間に配置されている。具体的には、第2の環状部62(コイル保持部50)を介して、互いに対向する一対の第1のバネ部64が3組で(第3の環状部63の中心軸を中心とした回転対象の位置に)配置されている。各第1のバネ部64は、その一端が第1の環状部61の貫通孔66近傍で第1の環状部61に連結され、円弧状の部分が第1の環状部61および第2の環状部62の周方向に沿って左回り(反時計回り)に延在して、他端が第2の環状部62の貫通孔67近傍で第2の環状部62に連結されている。
【0068】
6つの第1のバネ部64は、第2の環状部62を第1の環状部61に対して、
図4の上下方向に振動可能に支持(連結)している。上述したように、第1の環状部61は筐体20に固定され、第2の環状部62はコイル保持部50に固定されている。そのため、振動体からの振動が筐体20に伝達されると、この振動が第1のバネ部64を介して第2の環状部62に伝達され、コイル保持部50が筐体20に対して振動する。
【0069】
一方、3つの第2のバネ部65は、それぞれ、円弧状の部分を有する形状(ほぼS字状)をなしており、第2の環状部62と第3の環状部63との間に配置されている。具体的には、3つの第2のバネ部65は、第3の環状部63(磁石組立体30)の中心軸を中心とした回転対象の位置に配置されている。各第2のバネ部65は、その一端が第2の環状部62の貫通孔67近傍で第2の環状部62に連結され、円弧状の部分が第2の環状部62および第3の環状部63の周方向に沿って右回り(時計回り)に延在して、他端が第3の環状部63と連結している。
【0070】
3つの第2のバネ部65は、第3の環状部63を第2の環状部62に対して、
図4の上下方向に振動可能に支持(連結)している。上述したように、第2の環状部62はコイル保持部50に固定され、第3の環状部63は直接または間接的に磁石組立体30に固定されている。そのため、第2の環状部62に伝達された振動体からの振動が、第2のバネ部65を介して第3の環状部63に伝達され、磁石組立体30がコイル保持部50に対して振動する。
【0071】
このように、各板バネ60L、60Uは、
図5に示すように、その中心軸(第3の環状部63の中心軸)を中心とした回転対称の形状をなしている。これにより、各板バネ60L、60Uの周方向における第1のバネ部64および第2のバネ部65のバネ定数にバラつきが生じることを防止することができる。そのため、各板バネ60L、60Uの全体としての厚さ方向とほぼ直交する方向における剛性(横剛性)を向上させることができる。また、発電装置100(装置本体1)を組み立てる際には、その作業をより簡便に行うことができるようになる。
【0072】
かかる構成の装置本体1では、筐体20に対して、第1のバネ部64を介してコイル保持部50が振動する第1の振動系と、コイル保持部50に対して、第2のバネ部65を介して磁石組立体30が振動する第2の振動系とが形成されている。換言すれば、装置本体1では、発電部10が、第1の振動系および第2の振動系を有する2自由度振動系を構成している。
【0073】
このような2自由度振動系の発電部10では、第1の振動系が、コイルを保持した状態のコイル保持部50(以下、単に「コイル保持部50」と言うこともある。)の質量:m
1と、コイル保持部50と磁石組立体30との質量比:μと、第1のバネ部64のバネ定数:k
1とで決定される第1の固有振動数:ω
1を有し、第2の振動系が、磁石組立体30の質量:m
2と、コイル保持部50と磁石組立体30との質量比:μと、第2のバネ部65のバネ定数:k
2とで決定される第2の固有振動数:ω
2を有する。
ここで、各固有振動数ω
1、ω
2は、下記式(1)の運動方程式で表すことができる。
【0075】
すなわち、2自由度振動系の各固有振動数ω
1、ω
2は、上記μ、Ω
1、Ω
2の3つのパラメータで決定される。
【0076】
上記式(1)で表される2自由度振動系の発電量(発電能力)は、発電による減衰を伴い、各固有振動数ω
1、ω
2にそれぞれ起因する2つの共振周波数f
1、f
2において最大値をとる。そして、発電装置100では、この2つの共振周波数(f
1、f
2)間の周波数帯域にわたって発電部10が筐体20に対して効率良く振動する。なお、減衰が無い場合において各固有振動数ω
1、ω
2は各共振周波数f
1、f
2に一致する。
【0077】
したがって、各振動系の質量(m
1、m
2)およびバネ定数(k
1、k
2)を調整して、第1の振動系の共振周波数f
1と第2の振動系の共振周波数f
2とを異なる値に設定する(2重化する)ことにより、その設定された周波数帯域の外部振動(筐体20に付与される振動)に対して、発電部10を効率良く振動させることができる。
【0078】
例えば、振動体の振動周波数が、20〜40Hzの周波数帯域である場合には、上記各振動系の質量(m
1、m
2)およびバネ定数(k
1、k
2)を下記式(1A)〜(3A)の条件を満足するように調整することにより、この振動体に対する発電装置100の発電効率を特に優れたものとすることができる。
m
1[kg]:m
2[kg]=1.5:1 (1A)
m
1[kg]:k
1[N/m]=1:60000 (2A)
m
2[kg]:k
2[N/m]=1:22000 (3A)
【0079】
なお、各板バネ60L、60Uの平均厚さは、各バネ部64、65のバネ定数(k
1、k
2)を所望の値とするために適宜調整することができる。具体的には、各板バネ60L、60Uの平均厚さは、0.1〜0.4mm程度であるのが好ましく、0.2〜0.3mm程度であるのがより好ましい。各板バネ60L、60Uの平均厚さが上記範囲内であれば、各板バネ60L、60Uの塑性変形、破断などの発生を確実に防止することができる。これにより、発電装置100を振動体に取り付けた状態で長期間にわたって使用することができる。
【0080】
これらの上側板バネ60Uと下側板バネ60Lとの間には、永久磁石31を有する磁石組立体30が設けられている。
【0081】
<<磁石組立体30>>
磁石組立体30は、円柱状の永久磁石31と、有底筒状のバックヨーク32と、永久磁石31上に設けられた円盤状のヨーク33とを有している。この磁石組立体30は、バックヨーク32の底面の外周部が下側板バネ60Lの第3の環状部63に固定され、ヨーク33がスペーサ70を介して上側板バネ60Uの第3の環状部63に固定されている。
【0082】
永久磁石31は、N極を上側に、S極を下側にして配置されている。これにより、永久磁石31(磁石組立体30)は、その磁化方向(上下方向)に沿って変位する。
【0083】
永久磁石31には、例えば、アルニコ磁石、フェライト磁石、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石や、それらを粉砕して樹脂材料やゴム材料に混練した複合素材を成形してなる磁石(ボンド磁石)等を用いることができる。なお、永久磁石31は、例えば永久磁石31自体の磁力による吸着、接着剤による接着等により、バックヨーク32およびヨーク33に固定される。
【0084】
ヨーク33は、その平面視での大きさが永久磁石31の平面視での大きさとほぼ等しくなっている。また、ヨーク33の中央部にはネジ孔331が形成されている。
【0085】
バックヨーク32は、底板部321と、その外周部に沿って立設された筒状部322とを備えている。永久磁石31は、底板部321の中央部に、筒状部322と同心的に配置されている。また、底板部321には、その中央部に貫通孔が形成されている。かかるバックヨーク32を備える構成の磁石組立体30では、永久磁石31により発生する磁束を増大させることができる。
【0086】
バックヨーク32およびヨーク33の構成材料としては、それぞれ、例えば、純鉄(例えば、JIS SUY)、軟鉄、炭素鋼、電磁鋼(ケイ素鋼)、高速度工具鋼、構造鋼(例えば、JIS SS400)、ステンレスマーマロイ等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
磁石組立体30と筐体20との間には、コイル保持部50が設けられている。
【0087】
<<コイル保持部50>>
コイル保持部50は、全体形状が円筒状の本体部51と、本体部51の内周側に位置する円環状の円盤部52とを有している。
【0088】
本体部51は、円筒状のブロックを上下方向から肉抜きしたような形状をなしている。また、本体部51には、その周方向に沿って、6つのボス511が上下方向に突出して形成されている。各ボス511の上端部および下端部には、それぞれ、ネジ82が螺合する上側ネジ孔511aおよび下側ネジ孔(雌ネジ)511bが形成されている。
【0089】
円盤部52は、本体部51と一体的に形成され、その内径は、スペーサ70(本体部71)の外径よりも大きく形成されている。この円盤部52の下面の内周側には、コイル40が保持されている。
【0090】
<<コイル40>>
コイル40は、その外径がバックヨーク32の筒状部322より小さく、内径が永久磁石31およびヨーク33の外径より大きく設定されている。これにより、コイル40は、組立状態において、バックヨーク32の筒状部322と永久磁石31との間に、これらから離間して(これらに接触しないように)配置される。
【0091】
このコイル40は、発電部10の振動により、永久磁石31に対して相対的に上下方向に変位する。このとき、コイル40を通過する永久磁石31からの磁力線の密度が変化し、コイル40に電圧が発生する。
【0092】
コイル40は、例えば、銅製の基線に絶縁被膜を被覆した線材や、銅製の基線に融着機能を付加した絶縁被膜を被覆した線材等を巻回することにより形成されている。線材の巻き数は、線材の横断面積等に応じて適宜設定され、特に限定されない。また、線材の横断面形状は、例えば、三角形、正方形、長方形、六角形のような多角形、円形、楕円形等のいかなる形状であってもよい。
【0093】
なお、このコイル40を構成する線材の両端は、コイル保持部50の円盤部52の上側に設けられた電圧取出部(図示せず)を介して接続コネクタ11に接続されている。これにより、コイル40に発生した電圧は、接続コネクタ11から取り出すことができる。
また、磁石組立体30は、スペーサ70を介して、上側板バネ60Uに連結されている。
【0094】
<<スペーサ70>>
スペーサ70は、有底筒状の本体部71と、この本体部71の上端外周に沿って、本体部71と一体的に形成された円環状のフランジ部72とを備えている。本体部71の底部は、ネジ73により磁石組立体30(ヨーク33)に連結されている。また、フランジ部72の下面の外周側に、上側板バネ60Uの第3の環状部63が固定されている。
【0095】
このスペーサ70を構成する材料としては、例えば、マグネシウム、アルミニウム、成形樹脂等を用いることができる。
【0096】
このような装置本体1では、
図4に示すように、振動体から筐体20に振動が伝達されると、発電部10が、筐体20の内部で上下方向に振動する。より具体的には、筐体20に対して、コイル保持部50が、各板バネ60U、60Lの第1のバネ部64を介して上下方向に振動する(すなわち、第1の振動系が振動する)。また、同様に、コイル保持部50に対して、磁石組立体30が、各板バネ60U、60Lの第2のバネ部65を介して上下方向に振動する(すなわち、第2の振動系が振動する)。
【0097】
各板バネ60U、60Lは、その構造上、各バネ部64、65の振動方向のバネ定数よりも、振動方向に対してほぼ直交する方向(横方向)のバネ定数の方が大きい。すなわち、各板バネ60U、60Lは、その厚さ方向の剛性よりも、横方向の剛性(横剛性)が高い。そのため、各板バネ60U、60Lは、その横方向よりも、厚さ方向(振動方向)に優先して変形する。また、磁石組立体30とコイル保持部50とは、それぞれ、それらの厚さ方向の両側において、一対の板バネ60U、60Lに固定されている。そのため、磁石組立体30とコイル保持部50とは、各板バネ60U、60Lと一体となって振動する。
【0098】
このようなことから、磁石組立体30とコイル保持部50とは、各板バネ60U、60Lの厚さ方向とほぼ直交する方向を軸とする直動(横揺れ)および回動(ローリング)が阻止され、それらの振動軸が一定の方向(縦方向)に規制される。また、前述したように、コイル40は、磁石組立体30(永久磁石31およびヨーク33、バックヨーク32)と接触しないように配置されている。
【0099】
したがって、発電部10が振動する際に、磁石組立体30とコイル40とが互いに接触することが防止される。特に、磁石組立体30とコイル保持部50とは、いずれも、高い剛性を有する剛体であるため、板バネ60U、60Lの各バネ部64、65と同様に、振動方向とほぼ直交する方向への剛性(横剛性)も高い。そのため、発電部10の振動時においても、磁石組立体30とコイル40とが接触するのが確実に防止される。
【0100】
これにより、振動体からの振動エネルギーが第1の振動系に効率よく伝達され、この第1の振動系に伝達された振動エネルギーが、さらに第2の振動系に効率よく伝達される。その結果、磁石組立体30とコイル40との相対的な移動が確実になされる。発電部10には、
図4に示すように、永久磁石31の中心側からヨーク33を介して外側に向かって流れ、バックヨーク32を介して永久磁石31の中心側に向かって流れる磁界ループが形成されている。
【0101】
このため、磁石組立体30とコイル40との相対的な移動により、永久磁石31が発生した磁束密度Bの磁場(磁界ループ)のコイル40を通過する位置が移動する。このとき、磁場が通過するコイル40内の電子が受けるローレンツ力に基づいて起電力が発生する。この起電力が直接的に発電部10の発電に寄与するので、発電部10では、効率的な発電が可能となる。
【0102】
なお、発電部10において、上側板バネ60Uの第1のバネ部64と、下側板バネ60Lの第1のバネ部64との離間距離は、筐体20の筒状部22側とコイル保持部50側とでほぼ等しく設定しても、異なるように設定してもよい。また、上側板バネ60Uの第2のバネ部65と、下側板バネ60Lの第2のバネ部65との離間距離は、コイル保持部50側と磁石組立体30側(スペーサ70側)とでほぼ等しく設定しても、異なるように設定してもよい。
【0103】
離間距離を異なるように設定することにより、発電部10が振動していない状態において、第1のバネ部64や第2のバネ部65にプリテンション(初期荷重)を付与することができる。このような構成では、発電装置100を横置きした場合(
図8(a)に示す状態)と縦置きした場合(
図8(b)に示す状態)との間で、発電部10の姿勢変化を抑制することができる。したがって、かかる発電装置100は、設置場所にかかわらず、効率のよい発電が可能である。
【0104】
以上説明したような装置本体1には、ベース(支持板)23の下面(発電部10と反対の面)に吸着手段9が設けられている。この吸着手段9を磁性材料で構成される振動体に吸着させることにより、装置本体1(発電装置100)を振動体に固定することができる。
【0105】
<<吸着手段9>>
図6および
図7に示すように、吸着手段9は、複数(本実施形態では、7つ)の磁石組立体91と、磁石組立体91を保持する第1のシート材92と、磁石組立体91の装置本体1と反対側に設けられた第2のシート材93とを備えている。
【0106】
各磁石組立体91は、円環状をなす小型の永久磁石(磁石ブロック)911と、有底筒状をなし、底部(天井部)に貫通孔が形成されたヨーク912とで構成されている。そして、このヨーク912の内側に、永久磁石911が、例えば永久磁石911自体の磁力による吸着、接着剤による接着等により固定されている。かかるヨーク912を備える構成の磁石組立体91では、永久磁石911の吸引力を増大させることができる。
【0107】
永久磁石911は、十分な吸引力を発揮することができれば、特に限定されないが、例えば、前述した永久磁石31と同様のものを用いることができる。かかる永久磁石911を用いることにより、振動体の構成材料によらず、発電装置100を十分な吸引力(固定力)で振動体に固定することができるとともに、発電装置100を振動体から取り外す際には、その取り外し操作を容易に行うことができる。すなわち、発電装置100の振動体からの脱着を容易かつ確実に行うことができる。
【0108】
また、ヨーク912の構成材料としては、飽和磁束密度が高い軟磁性材料が好ましい。ヨーク912をプレス成形により製造することを考慮した場合、その素材には、亜鉛メッキ鋼板、錫めっき鋼板、ニッケルめっき鋼板のような鉄系材料で構成される基材にメッキを施した板材が好ましく用いられる。
【0109】
これらの磁石組立体91は、第1のシート材(取付機構)92を介して、ベース23の下面230に取り付けられている。第1のシート材92は、
図6に示すように、装置本体1のベース23に固定されるほぼ円形状の固定部921と、この固定部921の側方に延在し、固定部921と一体的に形成された複数の腕部922とを備えている。固定部921は、例えば接着剤による接着等により、ベース23に固定されている。
【0110】
固定部921の中央部、および、各腕部922の固定部921と反対側の端部には、各磁石組立体91を保持する凹部(保持部)923が形成されている。凹部923内に磁石組立体91が収納され、例えば接着剤による接着等により、固定部921または腕部922に固定されている。また、組立状態において、固定部921の凹部923に保持された磁石組立体91は、ベース23の凹部235内に位置する。
【0111】
第1のシート材92は、可撓性を有している。これにより、腕部922の凹部923に保持された磁石組立体91(永久磁石911)は、ベース23の厚さ方向に対して変位可能となっている。また、
図2に示すように、各腕部922は、発電装置100を平坦面に載置したとき、凹部923(磁石組立体91)が装置本体1より外側に位置するような長さを有している。
【0112】
これにより、各腕部922の長手方向(長さ方向)の引張剛性を低下させることなく、腕部922同士が接近する方向や、各腕部922の長手方向を中心軸とする捻じり方向への剛性を低下させることができる。その結果、例えば、
図10に示すパイプ300のような湾曲面(湾曲部)を備える振動体に対しても、装置本体1を安定的に固定することができる。
【0113】
また、腕部922は、固定部921の周方向に沿って、ほぼ等間隔(およそ60°間隔)で設けられている。すなわち、回転対称となる位置に、3つの磁石組立体91(永久磁石911)が配置されている。これにより、装置本体1を、その周方向に沿って均等な吸引力により、振動体に固定することができる。また、振動体の振動により、発電装置100が特定の方向に移動するのを防止すること、すなわち、振動体が振動しても、発電装置100を振動体の所定の位置に保持することができる。
【0114】
特に、本実施形態では、腕部922は、複数の第1の腕部922aと、これらの第1の腕部922aより長さの短い複数の第2の腕部922bとを含み、第1の腕部922a同士の間に、第2の腕部922bが位置するように配置されている。これにより、第1の腕部922aにより、曲率半径の比較的小さい湾曲面を備える振動体に対する装置本体1の固定力(保持力)を向上させ、第2の腕部922bにより、曲率半径の比較的大きい湾曲面や平坦面を備える振動体に対する装置本体1の固定力を向上させることができる。すなわち、腕部922をかかる構成とすることにより、振動体の形状や大きさを選ばず、装置本体1(発電装置100)を振動体に安定的に固定することができる。
【0115】
なお、固定部921の中心から第1の腕部922aの先端までの長さは、特に限定されないが、ベース23の半径の1.8〜4倍程度であるのが好ましく、2〜3.5倍程度であるのがより好ましい。一方、固定部921の中心から第2の腕部922bの先端までの長さも、特に限定されないが、ベース23の半径の1.2〜2.5倍程度であるのが好ましく、1.2〜2倍程度であるのがより好ましい。
【0116】
第1のシート材92は、十分な柔軟性および屈曲性を有し、かつ、引張強度が高いものが好ましい。かかる第1のシート材92の素材には、例えば、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリ塩化ビニル等のフィルムや、これらの高分子材料で構成される繊維を編み込んで作製した織布等を用いることができる。
【0117】
また、第1のシート材92の平均厚さは、特に限定されないが、0.01〜1.0mm程度であるのが好ましく、0.03〜0.1mm程度であるのがより好ましい。かかる厚さの第1のシート材92は、その構成材料によらず、優れた柔軟性および屈曲性を備えるので、振動体が振動する際に、その振動を阻害することを防止することができる。その結果、発電装置100の発電効率の低下を防止または抑制することができる。
【0118】
第1のシート材92の下面には、この第1のシート材92の外形とほぼ等しい外形を有する第2のシート材93が固定(ラミネート)されている。第2のシート材93の第1のシート材92に対する固定方法としては、例えば、融着(熱融着、超音波融着、高周波融着)や接着剤による接着等が挙げられる。
【0119】
第2のシート材93は、装置本体1を振動体に固定した際に、装置本体1の振動体に対する滑りを防止する機能を有する。吸着手段9が第2のシート材93を備えることにより、振動体が激しく振動しても、装置本体1が振動体に対して位置ズレするのをより確実に防止することができる。
【0120】
第2のシート材93は、摩擦係数が高く、振動体の表面に存在する微小な凹凸を吸収することができるものが好適である。かかる第2のシート材93の構成材料には、例えば、硬度10〜100程度のエラストマー材料(ゴム材料)が好ましく用いられる。このようなエラストマー材料としては、特に限定されないが、例えば、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0121】
これらの中でも、低硬度のエラストマー材料を用いることにより、第2のシート材93は、高い粘着性を発揮し、その摩擦係数を好ましくは0.7以上、より好ましくは0.85以上に設定することができる。
【0122】
また、第2のシート材93の平均厚さは、特に限定されないが、0.1〜2.0mm程度であるのが好ましく、0.3〜1.0mm程度であるのがより好ましい。かかる厚さの第2のシート材93は、その構成材料によらず、優れた柔軟性および屈曲性を備えるので、第2のシート材93が固定された状態で、第1のシート材92の可撓性(柔軟性および屈曲性)が低下するのを防止または抑制することができる。
【0123】
以上のような発電装置100は、
図8に示すダクト200や、
図10に示すパイプ300のような、磁性材料で構成される振動体に固定して使用される。
【0124】
図8に示すダクト200は、4つの変形可能な板状部201を備える四角筒状をなしている。ダクト200は、例えば、磁性材料で構成された板材(鋼板またはめっき鋼板)を折り曲げ、接合(溶接)すること等により形成されている。かかるダクト200は、例えば、蒸気、空気のような気体を移送(排気、換気、吸気、循環)する装置の流路を構成する。
【0125】
例えば、大型施設、ビル、駅等の施設に設置されている空調用のダクト200には、施設内の排気や換気を目的として、送風機等により空気を通過させている。このとき、送風機の空気圧の揺れ(脈動)やダクト200内を空気(流体)が移動することで発生する乱気流等によりダクト200が振動する。また、ダクト200内は、送風機の作用により常に正圧または負圧となっている。かかる圧力に、前述の脈動等によるダクト200の振動が加わり、板状部201が変形する。具体的には、ダクト200内が正圧の場合には、板状部201は、
図9(a)に示すように、ダクト200の外側に向かって突出した状態(凸状)に変形し、一方、ダクト200内が負圧の場合には、
図9(b)に示すように、板状部201がダクト200の内側に向かって突出した状態(凹状)に変形する。このような板状部201の変形によって、ダクト200の振動が増幅される。
【0126】
本発明によれば、磁石組立体91は、可撓性を有する第1のシート材92を介して装置本体1に取り付けられている。このため、仮に、板状部201の表面(発電装置100の取付面)に凹凸が存在しても、この凹凸に追従して第1のシート材92が変形することにより、凹凸による段差を吸収することができる。したがって、板状部201の表面形状によらず、吸着手段9を板状部201に確実に吸着させることができる。さらに、前述したように、板状部201が凸状に変形した状態(
図9(a)参照)や、板状部201が凹状に変形した状態(
図9(b)参照)となっても、第1のシート材92が、この板状部201の変形に追従して変形する。したがって、吸着手段9の板状部201に対する吸着状態が維持され、発電装置100がダクト200から脱落するのを確実に防止することができる。
【0127】
なお、本実施形態では、ベース23の下面230は、その中央部を凸とする湾曲凸面を構成している。このため、板状部201が
図9(b)に示す状態(凹状)となっても、ベース23の縁部が板状部201に接触し難くなっており、かかる観点からも、発電装置100がダクト200から脱落するのを確実に防止することができる。
【0128】
ここで、本来、ダクト200の振動は、施設内に騒音や不快な振動を発生させる不要な振動である。本発明では、板状部201に吸着手段9を吸着させることにより、装置本体1をダクト200に固定し、ダクト200の不要な振動を利用(回生)して発電部10に電力を発生(発電)させることができる。したがって、ダクト200が設置されている場所であれば、電源供給配線が存在しなくても、発電装置100から電力を得ることができる。
【0129】
そして、この発電装置100とセンサーおよび無線装置とを組み合わせることにより、例えば、次のような発電システムを構築することができる。かかる発電システムでは、発電装置100からの電力を電源として、センサーによりダクト200内や施設内の照度、温度、湿度、圧力、騒音等を計測し、得られた検出データーを無線装置を介して外部端末に送信し、この検出データーを各種制御信号やモニタリング信号として利用することができる。
【0130】
このようなダクト200には、
図8(a)に示すように、その天板部を構成する板状部201に発電装置100を固定してもよく、
図8(b)に示すように、その側壁部を構成する板状部201に発電装置100を固定するようにしてもよい。
【0131】
この場合、板状部201の質量およびバネ定数に対し、発電装置100の重量が大きすぎると、板状部201の振動を抑制してしまい、板状部201が十分に振動しない結果、発電装置100から目的とする発電量の電力を得ることができないおそれがある。そこで、空調用のダクト200の場合、発電装置100の重量は、200〜800gとするのが好ましく、400〜600gとするのがより好ましい。
【0132】
したがって、発電装置100の重量を400gとした場合、吸着手段9の板状部201に対する吸引力(磁石組立体91の板状部201に対する吸引力の総和)は、発電装置100の重量より大きくなるよう設定するのが好ましく、具体的には、600g以上に設定するのが好ましい、これにより、天板部を構成する板状部201のいかなる箇所にも、発電装置100を安定的に固定することができる。
【0133】
なお、発電装置100の振動加速度、および、地震などで発生する外部からの振動を考慮した場合、振動加速度を1G、地震による加速度1Gとすれば、重力加速度1Gを加えて3Gが発電装置100に加わることになる。したがって、発電装置100の重量が400gであれば、吸着手段9の板状部201に対する吸引力を1200g以上に設定するのが好ましい。これにより、
図8(b)に示すダクト200の側壁部を構成する板状部201に対しても、発電装置100を安定的に固定することができる。また、吸着手段9の板状部201に対する吸引力が1200g程度であれば、作業者による発電装置100のダクト200からの取り外し操作も容易に行うことができる。
【0134】
このような吸着手段9の板状部201に対する吸引力は、例えば、永久磁石911の種類(構成材料)や個数、ヨーク912の構成材料等を適宜選択することにより、調整することができる。
【0135】
一方、
図10に示すパイプ300は、例えば、磁性材料で構成された板材(鋼板またはめっき鋼板)を円管状に湾曲させ、接合(溶接)すること等により形成されている。すなわち、パイプ300は、その外周全体にわたって湾曲部(湾曲面)を備えている。かかるパイプ300は、例えば、水素燃料ガス、燃料油のような燃料(流体)を移送する装置の流路を構成する。
【0136】
例えば、大型プラント等の施設に設置されている燃料供給用のパイプ300には、ポンプ等により燃料油を通過させている。このとき、ポンプの油圧の揺れ(脈動)等によりパイプ300が振動している。本発明によれば、磁石組立体91は、可撓性を有する第1のシート材92を介して装置本体1に取り付けられている。このため、
図10に示すパイプ300のように湾曲面(湾曲部)を有する振動体に対しても発電装置100を固定することができる。
【0137】
また、前述したように、本実施形態では、第1のシート材92が長さの異なる2種類の腕部922a、922bを備えるため、横断面形状において曲率半径の異なる種類のパイプ300に対しても、発電装置100を確実に固定することができる。
【0138】
<第2実施形態>
次に、本発明の発電装置の第2実施形態について説明する。
【0139】
図11は、本発明の発電装置の第2実施形態の斜視図、
図12は、
図11に示す発電装置の使用状態(固定状態)を示す図である。なお、以下の説明では、
図11および
図12中の上側を「上」または「上方」と言い、下側を「下」または「下方」と言う。
【0140】
以下、第2実施形態の発電装置について、前記第1実施形態の発電装置との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。第2実施形態の発電装置100は、吸着手段9の構成が異なり、それ以外は、前記第1実施形態の発電装置100と同様である。
【0141】
すなわち、第2実施形態の吸着手段9は、可撓性を有する磁石シート94で構成され、ベース23の厚さ方向に対して変形可能となっている。この磁石シート94には、その外縁から装置本体1に向かって、複数のスリット941が形成され、これにより、磁石シート94は、複数の扇状部942を備えている。
【0142】
かかる構成の吸着手段9によっても、
図8に示すダクト200は勿論のこと、
図12に示すパイプ300にも、磁石シート94(各扇状部942)がパイプ300の湾曲形状に沿って変形することにより、装置本体1(発電装置100)を確実に固定することができる。特に、複数のスリット941を設けることにより、振動体が振動した際に、磁石シート94に剪断応力が生じるのを防止または緩和することができる。その結果、磁石シート94と振動体との密着性が低下するのを防止して、発電装置100の振動体からの不要な離脱を阻止することができる。
【0143】
また、複数のスリット941は、それぞれ幅がほぼ等しく、かつ、磁石シート94の周方向に沿って、ほぼ等間隔で設けられている。このため、複数の扇状部942も、それぞれ大きさがほぼ等しく、かつ、磁石シート94の周方向に沿って、ほぼ等間隔で設けられている。これにより、装置本体1を、その周方向に沿って均等な吸引力により、振動体に固定することができる。また、振動体の振動により、発電装置100が特定の方向に移動するのを防止すること、すなわち、振動体が振動しても、発電装置100を振動体の所定の位置に保持することができる。
【0144】
さらに、磁石シート94は、発電装置100を平坦面に載置したとき、その外縁が装置本体1の外縁より外側に位置するような大きさを有している。このため、横断面形状において曲率半径の異なる種類のパイプ300に対しても、発電装置100を確実に固定することができる。
【0145】
このような磁石シート94は、例えば、磁石材料とエラストマー材料(ゴム材料)とを含有する材料をシート状に形成することにより得られる。磁石材料としては、例えば、アルニコ磁石、フェライト磁石、ネオジム磁石またはサマリウムコバルト磁石を粉砕した磁石粉末等が挙げられる。一方、エラストマー材料としては、例えば、前述した第2のシート材93で挙げた材料を用いることができる。かかるエラストマー材料を用いて磁石シート94を構成することにより、磁石シート94は、装置本体1の振動体に対する滑りを防止する機能も発揮することができる。
【0146】
このような磁石シート94は、
図13に示す構成とすることもできる。
図13は、磁石シートの他の構成例を示す斜視図である。
【0147】
すなわち、
図13に示す磁石シート94は、各スリット941の幅が磁石シート94の外縁に向かって漸増している。これにより、磁石シート94は、複数の帯状部943を備えている。かかる構成の磁石シート94によっても、
図8に示すダクト200は勿論のこと、
図13に示すパイプ300にも装置本体1(発電装置100)を確実に固定することができる。
【0148】
なお、
図13に示す構成では、各スリット941の幅が磁石シート94の外縁に向かって連続的に増大(漸増)しているが、各スリット941の幅は、磁石シート94の外縁に向かって段階的に増大してもよく、連続的または段階的に増大した後、ほぼ一定となっていてもよい。
【0149】
<第3実施形態>
次に、本発明の発電装置の第3実施形態について説明する。
【0150】
図14は、本発明の発電装置の第3実施形態の斜視図(下面側から見た図)、
図15は、
図14に示す発電装置の吸着手段の構成を示す図((a)は縦断面図、(b)は分解斜視図)である。なお、以下の説明では、
図14中の上側を「下」または「下方」と言い、下側を「上」または「上方」と言い、
図15中の上側を「上」または「上方」と言い、下側を「下」または「下方」と言う。
【0151】
以下、第3実施形態の発電装置について、前記第1実施形態の発電装置との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。第3実施形態の発電装置100は、吸着手段9の構成が異なり、それ以外は、前記第1実施形態の発電装置100と同様である。
【0152】
第3実施形態の吸着手段9は、装置本体1のベース23の下面230側に設けられた複数の永久磁石911と、各永久磁石911をベース23に、その厚さ方向に対して変位可能に取付機構95と、各永久磁石911の下面側に固定された第2のシート材93を備えている。発電装置100を
図9に示すダクト200に固定した際には、板状部201が変形しても、板状部201の変形に追従して取付機構95の作用により各永久磁石911の取付角度が変化(傾倒)する。これにより、装置本体1(発電装置100)のダクト200に対する固定状態を確実に維持することができる。
【0153】
この取付機構95は、永久磁石911を保持するヨーク(保持部材)912と、ヨーク912をベース23の厚さ方向に対して変位可能に固定する固定機構96とを備えている。また、装置本体1のベース23の下面230には、その外縁部に沿って、永久磁石911を保持したヨーク912を収納する複数の凹部235が形成されている。凹部235は、ベース23の周方向に沿ってほぼ等間隔(およそ60°間隔)で設けられている。このため、永久磁石911もベース23の周方向に沿ってほぼ等間隔で配置されている。
【0154】
これにより、装置本体1(発電装置100)を、その周方向に沿って均等な吸引力により、振動体に固定することができる。また、振動体の振動により、発電装置100が特定の方向に移動するのを防止すること、すなわち、振動体が振動しても、発電装置100を振動体の所定の位置に保持することができる。
【0155】
本実施形態の固定機構96は、ヨーク912の貫通孔の周辺に嵌合する円環状の弾性リング(弾性体)961と、弾性リング961の内側(ヨーク912の貫通孔)に挿通される雄ネジ962と、各凹部235の中央部に形成され、雄ネジ962が螺合する雌ネジ236とで構成されている。なお、雄ネジ962は、雌ネジ236に螺合させた際に、永久磁石911の下面から突出しない。また、弾性リング961の構成材料としては、例えば、第2のシート材93と同様のエラストマー材料(ゴム材料)等を用いることができる。
【0156】
かかる固定機構96によれば、弾性リング961が柔軟に変形することにより、永久磁石911をベース23に対して傾倒可能とするのみならず、ベース23の厚さ方向(上下方向)へも移動可能とすることができる。このため、ダクト200の板状部201の表面(発電装置100の設置面)の湾曲や凹凸の程度、あるいは板状部201の変形にかかわらず、装置本体1とダクト200(振動体)との離間距離や、ダクト200に対する装置本体1の平行度を好適に維持することができる。その結果、発電装置100をダクト200に対して安定的に固定することができる。
【0157】
この場合、弾性リング961の弾性による発電装置100を質量とした、共振周波数F3を有する振動系(バネ系)が形成される。振動体の振動周波数F2と発電装置100の発電周波数F1は概ね一致し、振動体が空調用のダクト200である場合、発電周波数F1(振動周波数F2)は、10〜50Hz程度である。これに対して、弾性リング961と発電装置100とによる共振周波数F3を100〜500Hz程度、すなわち、発電周波数F1に対して10倍程度離せば、弾性リング961の弾性による振動系が、発電装置100の発電に関して影響を及ぼすことを防止することができる。
【0158】
例えば、発電装置100の重量が400gである場合、100Hz程度の共振周波数F3を得るためには、弾性リング961のバネ定数は158N/m程度に設定すればよい。したがって、弾性リング961が、かかるバネ定数を有するように、その形状や構成材料を選択するようにすればよい。
【0159】
本実施形態の構成によれば、永久磁石911の個数を増やして、これに対応する弾性リング961の個数を増やすと同時に、各弾性リング961のバネ定数を低く設定することにより、吸着手段9のフレキシビリティー(可撓性)の低下を防止しつつ、共振周波数F3については、これに影響を及ぼすバネ定数を弾性リング961の個数倍とすることができるため、高い値に維持することが可能である。
【0160】
また、
図15(a)に示すように、ベース23に形成された雌ネジ236は、ベース23を厚さ方向に貫通して形成されており、筒状部22のボス221と対応するように設けられている。したがって、雌ネジ236を、下側板バネ60Lの貫通孔66に挿通し、ボス221の下側ネジ孔(雌ネジ)221bに螺合させることにより、下側板バネ60Lの外周部がベース23と筒状部22とに固定される。かかる構成により、ネジ233を省略することができ、発電装置100の部品点数の削減に寄与する。
【0161】
第2のシート材93は、円環状をなしており、その外径がヨーク912の外形とほぼ等しく、内径が永久磁石911の内径とほぼ等しい。かかる第2のシート材93は、永久磁石911およびヨーク912に対して、例えば、接着剤による接着等により固定されている。
【0162】
また、雄ネジ962の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、磁性材料を用いるのが好ましい。これにより、永久磁石911の磁界ループを補強して、その吸引力を向上させることができる効果が得られる。
【0163】
<第4実施形態>
次に、本発明の発電装置の第4実施形態について説明する。
【0164】
図16は、本発明の発電装置の第4実施形態における吸着手段の構成を示す図((a)は縦断面図、(b)は分解斜視図)である。なお、以下の説明では、
図16中の上側を「上」または「上方」と言い、下側を「下」または「下方」と言う。
【0165】
以下、第4実施形態の発電装置について、前記第1および第3実施形態の発電装置との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。第4実施形態の発電装置100は、吸着手段9が備える固定機構96の構成が異なり、それ以外は、前記第3実施形態の発電装置100と同様である。
【0166】
第4実施形態の固定機構96は、雄ネジ962の頭部962aの外径が、ヨーク912の貫通孔の径より大きく設定されており、ヨーク912を装置本体1のベース23に対して遊嵌状態で固定するよう構成されている。また、固定機構96は、弾性リング961に代えて、永久磁石911の内側で、雄ネジ962の頭部962aとヨーク912との間に設けられたバネワッシャー963aと、ヨーク912とベース23に形成された凹部235の底部との間に設けられたバネワッシャー963bとを備えている。
【0167】
弾性リング961に代えて、バネワッシャー963a、963bを用いることにより、永久磁石911のベース23の厚さ方向(上下方向)へのより効率のよい移動が可能となる。バネワッシャー963a、963bの構成材料としては、例えば、板バネ60L、60Uと同様の金属材料を用いることができる。なお、バネワッシャー963aは省略するようにしてもよい。
【0168】
かかる構成の吸着手段9を備える発電装置100によっても、前記第1および第3実施形態の発電装置100と同様の作用・効果が得られる。特に、本実施形態では、弾性体として、金属材料で構成されるバネワッシャー963a、963bを用いるため、前記実施形態3のような弾性リング961を用いる場合と比較して、温度変化や経年劣化に対する安定性、耐久性を向上させることができる。
【0169】
<第5実施形態>
次に、本発明の発電装置の第5実施形態について説明する。
【0170】
図17は、本発明の発電装置の第5実施形態における吸着手段の構成を示す図((a)は縦断面図、(b)は分解斜視図)である。なお、以下の説明では、
図17中の上側を「上」または「上方」と言い、下側を「下」または「下方」と言う。
【0171】
以下、第5実施形態の発電装置について、前記第1、第3および第4実施形態の発電装置との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。第5実施形態の発電装置100は、吸着手段9が備える固定機構96の構成が異なり、それ以外は、前記第3および第4実施形態の発電装置100と同様である。
【0172】
第5実施形態の固定機構96は、ヨーク912の貫通孔の周辺に嵌合により連結される連結部964aと、この連結部964aの上側(ベース23側)に一体的に形成された球頭部964bとを備える連結部材(ジョイント)964と、ベース23の凹部235の中央部に形成され、連結部材964の球頭部964bが回動可能に嵌合する嵌合凹部237とで構成されている。
【0173】
かかる固定機構96によれば、弾性体を用いることなく、永久磁石911をベース23の厚さ方向に対して変位可能(傾倒可能)に固定することができる。このように弾性体を用いないので、固定機構96の経年劣化や温度および湿度による劣化を防止することができ、吸着手段9の耐久性を向上させることができる。
【0174】
連結部材964の構成材料としては、特に限定されないが、熱可塑性樹脂が好ましく、例えば、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0175】
なお、連結部材964の球頭部964bには、嵌合凹部237への挿入操作が容易となるように、スリットが形成されている。
【0176】
かかる構成の吸着手段9を備える発電装置100によっても、前記第1および第3実施形態の発電装置100と同様の作用・効果が得られる。
【0177】
このような固定機構96は、
図18に示す構成とすることもできる。
図18は、球頭部と嵌合凹部との嵌合を利用する固定機構96の他の構成例を示す縦断面図である。
【0178】
すなわち、
図18に示す固定機構96は、ヨーク912の貫通孔の周辺に嵌合により連結され、嵌合凹部964cが形成された連結部材964と、球頭部964bを備える雄ネジ962と、雄ネジ962が螺合する雌ネジ236とで構成されている。
【0179】
以上説明した実施形態の発電装置100では、発電部10が永久磁石31とコイル40とを用いた電磁誘導素子で構成されているが、発電部10は、静電素子(エレクトレット)、圧電素子、磁歪素子等で構成することもできる。
【0180】
また、振動体の一例として、ダクト200およびパイプ300を挙げたが、振動体としては、例えば、輸送機(貨物列車や自動車、トラックの荷台)、線路を構成するレール、高速道路やトンネルの壁面パネル、架橋、ポンプやタービンなどの機器等が挙げられる。これらの振動体の磁性材料で構成される部位に、発電装置100を固定して、本発明の発電システムを構成することができる。
【0181】
以上、本発明の発電装置および発電システムを図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、各構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成のものを付加することができる。
【0182】
例えば、本発明では、前記第1〜第5実施形態の任意の構成を組み合わせることもできる。