特許第6061052号(P6061052)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイキン工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6061052-赤外分光法による含フッ素重合体の分析 図000004
  • 特許6061052-赤外分光法による含フッ素重合体の分析 図000005
  • 特許6061052-赤外分光法による含フッ素重合体の分析 図000006
  • 特許6061052-赤外分光法による含フッ素重合体の分析 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6061052
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】赤外分光法による含フッ素重合体の分析
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/35 20140101AFI20170106BHJP
【FI】
   G01N21/35
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-159790(P2016-159790)
(22)【出願日】2016年8月17日
【審査請求日】2016年8月17日
(31)【優先権主張番号】特願2015-163854(P2015-163854)
(32)【優先日】2015年8月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100156085
【弁理士】
【氏名又は名称】新免 勝利
(72)【発明者】
【氏名】高橋 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】山本 育男
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 健
(72)【発明者】
【氏名】下赤 卓史
【審査官】 横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−185045(JP,A)
【文献】 特開2013−217751(JP,A)
【文献】 特表2005−522694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00,21/01
G01N 21/17−21/61
G01J 3/00− 3/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フーリエ変換赤外分光器(FT-IR)を用いる赤外全反射減衰法(IR-ATR法)によって、含フッ素表面処理剤が有するフルオロアルキル基の炭素数を求める、含フッ素表面処理剤を含有する物品を分析する方法であって、
含フッ素表面処理剤が含フッ素重合体を有効成分として含み、含フッ素重合体が、式:
CH2=C(-X)-C(=O)-Y-Z-Rf
[式中、Xは、水素原子、一価の有機基またはハロゲン原子であり、
Y は、-O- または -NH-であり、
Zは、直接結合または二価の有機基であり、
Rfは、炭素数1〜20のフルオロアルキル基である。]
で示される含フッ素単量体から誘導された繰り返し単位を有する分析方法。
【請求項2】
物品が、含フッ素表面処理剤の膜であるか、あるいは繊維製品、石材、フィルター、防塵マスク、燃料電池の部品、ガラス、紙、木、皮革、毛皮、石綿、レンガ、セメント、金属および金属酸化物、窯業製品、プラスチック、塗面、およびプラスターからなる群から選択された基材の上に含フッ素表面処理剤の層を有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
入射角可変ATR装置を用いる請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
フルオロアルキル基の炭素数が4である含フッ素単量体から誘導された繰り返し単位を有する含フッ素重合体を標準試料とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
Zは、
直接結合、炭素数1〜20の直鎖アルキレン基または分枝状アルキレン基、
あるいは
式−SON(R)R−または式−CON(R)Rで示される基
(式中、Rは、炭素数1〜10のアルキル基であり、Rは、炭素数1〜10の直鎖アルキレン基または分枝状アルキレン基である。)、
あるいは
式−CHCH(OR)CH−(式中、Rは、水素原子、または、炭素数1〜10のアシル基を表す。)で示される基、
あるいは、
式−Ar−CH−(式中、Arは、アリーレン基である。)で示される基、
あるいは
-(CH2)m−SO2−(CH2)n−基または-(CH2)m−S−(CH2)n−基(但し、mは1〜10、nは0〜10、である)
である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
含フッ素表面処理剤を含有しない物品のIR-ATR測定を行わずに、含フッ素表面処理剤を含有する物品を分析する請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素重合体を有効成分とする含フッ素表面処理剤が有するフルオロアルキル基の炭素数を赤外全反射減衰法(IR-ATR法)によって求める分析法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素有機化合物における含フッ素炭化水素鎖の表面偏析性を測定する方法が提案されている。
XPSや軌道放射光によるX線吸収を利用した方法により、試料を局所的に分析する技術が開示されている(例えば、K Honda, M Morita, H Otsuka, A Takahara. Macromolecules 38 (13), 5699-5705 (2005) およびK. Honda, M. Morita, O. Sakata, S. Sasaki and A. Takahara, Macromolecules, 43 (1), 454-460 (2010).)
しかし、装置が大掛かりでマシンタイムにも厳しい制約があり、手元にある生地試料を分析するには大きな技術的障壁がある。
WO2015/020100は、撥水撥油加工された繊維、被服、紙等の加工品の小片を採取し、これを加熱して得られる揮発成分をガスクロマトグラフによって分析し、含フッ素有機化合物の炭素数を測定する方法を開示している。しかし、この方法は、試料を加熱するので、試料を破損させることがある。
【0003】
Takeshi Hasegawa et al., “Stratified Dipole-Arrays Model Accounting for Bulk Properties Specific to Perfluoroalkyl Compounds”, ChemPlusChem, 79, 1421-1425 (2014).は、IR-ATR法により、パーフルオロアルキル化合物を分析し、パーフルオロアルキル基の炭素数を測定する方法を開示している。しかし、パーフルオロアルキル化合物は、ミリスチン酸にパーフルオロアルキル基を導入したCF3(CF2)n-(CH2)12-n-COOH (n = 3, 5, 7, 9)である小分子である。さらに、金基板上に形成された単分子膜の試料について、測定を行っている。加えて、このスペクトルはLongitudinal opticエネルギー損失関数(LO関数)スペクトルのみの測定に対応している。
Takeshi Hasegawa et al., “An Origin of Complicated Infrared Spectra of Perfluoroalkyl Compounds Involving a Normal Alkyl Group”, Chemistry Letters, 44, 834-836 (2015).およびTakeshi Hasegawa, “Understanding of the intrinsic difference between normal- and perfluoro-alkyl compounds toward total understanding of material properties”, Chemical Physics Letters, 627, 64-66 (2015).にも、パーフルオロアルキル化合物の分析方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2015/020100
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】K. Honda et al. Macromolecules 38 (13), 5699-5705 (2005).
【非特許文献2】K. Honda et al. Macromolecules, 43 (1), 454-460 (2010).
【非特許文献3】Takeshi Hasegawa et al., “Stratified Dipole-Arrays Model Accounting for Bulk Properties Specific to Perfluoroalkyl Compounds”, ChemPlusChem, 79, 1421-1425 (2014).
【非特許文献4】T. Hasegawa et al., “An Origin of Complicated Infrared Spectra of Perfluoroalkyl Compounds Involving a Normal Alkyl Group”, Chemistry Letters, 44, 834-836 (2015).
【非特許文献5】T. Hasegawa, “Understanding of the intrinsic difference between normal- and perfluoro-alkyl compounds toward total understanding of material properties”, Chemical Physics Letters, 627, 64-66 (2015).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、含フッ素重合体を有効成分とする含フッ素表面処理剤を含有する物品におけるフルオロアルキル基の炭素数(好ましくはパーフルオロアルキル基の炭素数)を簡便に求める分析方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、含フッ素表面処理剤が有するフルオロアルキル基の炭素数を赤外全反射減衰法(IR-ATR法)によって求める、含フッ素表面処理剤を含有する物品を分析する方法であって、
含フッ素表面処理剤が含フッ素重合体を有効成分として含み、含フッ素重合体が、式:
CH2=C(-X)-C(=O)-Y-Z-Rf
[式中、Xは、水素原子、一価の有機基またはハロゲン原子であり、
Y は、-O- または -NH-であり、
Zは、直接結合または二価の有機基であり、
Rfは、炭素数1〜20のフルオロアルキル基である。]
で示される含フッ素単量体から誘導された繰り返し単位を有する分析方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
含フッ素表面処理剤の有効成分である含フッ素重合体におけるRf基は、CF2対称伸縮振動バンドの波数位置がRf鎖長に大きく依存するという炭化水素鎖には見られない性質がある。赤外分光法という非破壊および室温測定の簡便な方法によってRf鎖長(好ましくは、C8およびC6)の違いを判別できる。入射角可変ATR装置をフーリエ変換赤外分光器(FT-IR)に組み込むことによって得られるスペクトルの多変量解析により、塗布層だけのスペクトルを取り出すことができるので、ブランクデータ(例えば、ブランク生地のデータ)を必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1〜5で得られた、バルクの IR-ATR スペクトルである。
図2】実施例6および7で得られた、重合体処理済みナイロン生地と未処理のナイロン生地との差スペクトルであるIR-ATR スペクトルである。
図3】実施例8および9で得られた、重合体処理済みポリエステル生地と未処理のナイロン生地との差スペクトルであるIR-ATR スペクトルである。
図4】実施例10および11で得られた、重合体処理済みナイロン生地のIR-ATR スペクトルを多変量解析により、塗布層だけのスペクトルを取り出した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、赤外全反射減衰法(IR-ATR法)を用いて、含フッ素表面処理剤を含有する物品を分析する。
【0011】
「含フッ素表面処理剤を含有する物品」とは、一般に、含フッ素表面処理剤で処理(表面処理)された物品である。含フッ素表面処理剤で物品を処理することによって、含フッ素表面処理剤によって形成された塗布層が物品の上に形成される。含フッ素表面処理剤は、一般に含フッ素撥水撥油剤および/または含フッ素防汚加工剤である。「物品」、特に、含フッ素表面処理剤(例えば、含フッ素撥水撥油剤)で処理される被処理物(基材)としては、繊維製品(糸、編物、織物、不織布、およびこれらを使用して作製した被服、寝具、カーテン、敷物類)、石材、フィルター(例えば、静電フィルター)、防塵マスク、燃料電池の部品(例えば、ガス拡散電極およびガス拡散支持体)、ガラス、紙、木、皮革、毛皮、石綿、レンガ、セメント、金属および酸化物、窯業製品、プラスチック、塗面、およびプラスターなどを挙げることができる。繊維製品は、特にカーペットであってよい。「処理」とは、処理剤を、浸漬、噴霧、塗布などにより被処理物(基材)に適用することを意味する。処理により、処理剤の有効成分である含フッ素重合体が被処理物の内部に浸透するおよび/または被処理物の表面に付着する。
【0012】
含フッ素表面処理剤は、一般に、含フッ素重合体を有効成分として含む。含フッ素重合体は、一般に、式:
CH2=C(-X)-C(=O)-Y-Z-Rf
[式中、Xは、水素原子、一価の有機基またはハロゲン原子であり、
Y は、-O- または -NH-であり、
Zは、直接結合または二価の有機基であり、
Rfは、炭素数1〜20のフルオロアルキル基である。]
で示される含フッ素単量体から誘導された繰り返し単位を有する。
【0013】
Y は、-O-であることが好ましい。
【0014】
Zの具体例は、
直接結合、
炭素数1〜20の直鎖アルキレン基または分枝状アルキレン基、
[例えば、式−(CH−(式中、xは1〜10である。)で示される基]、
あるいは
式−SON(R)R−または式−CON(R)Rで示される基
(式中、Rは、炭素数1〜10のアルキル基であり、Rは、炭素数1〜10の直鎖アルキレン基または分枝状アルキレン基である。)、
あるいは
式−CHCH(OR)CH−(式中、Rは、水素原子、または、炭素数1〜10のアシル基(例えば、ホルミルまたはアセチルなど)を表す。)で示される基、
あるいは、
式−Ar−CH−(式中、Arは、置換基を必要により有するアリーレン基である。)で示される基、
あるいは
-(CH2)m−SO2−(CH2)n−基または-(CH2)m−S−(CH2)n−基(但し、mは1〜10、nは0〜10、である)
である。
本発明において、Zは、直接結合、炭素数1〜20のアルキレン基、−SON(R)R−であることが好ましい。
【0015】
Rfは、水素原子を有していてもよいフルオロアルキル基であるが、水素原子を有しないパーフルオロアルキル基であることが好ましい。Rfの具体例は、−CF3、−C25、−C37、−C49、−C511、−C613、−C817、−C1021、−C1225である。
【0016】
含フッ素重合体は、含フッ素単量体の単独重合体または共重合体であってよい。含フッ素重合体は、含フッ素単量体から誘導された繰り返し単位に加えて、非フッ素単量体(例えば、フッ素原子を有しない(メタ)アクリレートエステル)から誘導された繰り返し単位を有していてよい。
【0017】
FT-IRを用いて赤外全反射減衰法(IR-ATR法)によりバルク試料のスペクトル(生スペクトル)を得る。生スペクトルからクラマース・クローニッヒ(Kramers-Kronig)の関係式を利用し、αスペクトル(α=4πn”/λ(λ:波長))を得る。αスペクトルをさらにクラマース・クローニッヒ(Kramers-Kronig)変換し、屈折率n'を得る。なお、試料の複素屈折率nは、実部n' と虚部n” の和として、n = n' + i n” で表される。つぎに、関係式ε=n(試料の複素誘電率:ε)を利用して複素誘電率関数を得て、ここから2つのエネルギー損失関数(TOおよびLO関数)を得る。
TO: Im (ε)
LO: Im (-1/ε)
TOおよびLO関数は、薄膜の赤外透過(Tr)および反射吸収(RA)スペクトルに厳密に対応し、これによりバルク試料のスペクトルを薄膜試料のスペクトルと比較可能になる。
αスペクトルまたはTO関数を用いて試料(物品)を分析することが好ましい。TO関数とLO関数の組み合わせを用いてもよい。
【0018】
IR-ATR法のスペクトルの解析については、例えば、V.P.Tolstoy, I.V.Chernyshowa, V.A.Skryshevsky, Handbook of Infrared Spectroscopy of Ultrathin Films, Wiley, Chichester, (2003) (この開示を参照として本明細書に組み込む。)を参照できる。
クラマース・クローニッヒの関係式(およびクラマース・クローニッヒの変換式)は、例えば、
[ε:誘電率、ε:高周波誘電率、ω:角速度、P∫:コーシーの主値積分]
あるいは
[φ:位相変化、ν:波数、R:反射スペクトル]
で示される。
【0019】
IR-ATR法の測定結果は、TOおよびLO関数の重ね合わせである。TOおよびLO関数スペクトルは、ピーク位置の絶対値および相対強度が対応するTrおよびRAスペクトルと比較可能である。
【0020】
ATR法は入射角可変ATR法または入射角可変偏光ATR法であることが好ましい。入射角可変偏光ATR法を用いることにより、基材上に塗布層が設けられている試料において、塗布層だけのスペクトルを取り出すことができる。
【0021】
平滑な表面を持つ赤外線に透明な基材に吸着した薄膜試料については、界面での化学結合の配向角などの配向構造を取得可能である多角入射分解分光法(MAIRS法)を用いることができる。MAIRS法(p-MAIRSも含む)は、1つの試料から、従来の赤外透過(Tr)および反射吸収(RA)スペクトルのそれぞれに相当する、IPスペクトル(面内スペクトル)およびOPスペクトル(面外スペクトル)が同時に得られる測定手法である。
【0022】
TOおよびLO関数はMAIRS法によっても得られ、TOはIPスペクトル [面内の透過] (MAIRS IP)に対応し、LOはOPスペクトル[面外の反射吸収](MAIRS OP)に対応する。
【0023】
含フッ素重合体は、ミリスチン酸にパーフルオロアルキル基を導入したCF3(CF2)n-(CH2)12-n-COOH (n = 3, 5, 7, 9)に比較して、TOとLOスペクトルの差が大きくなっていることを見いだした。
【0024】
特に、パーフルオロアルキル基の炭素数が4である含フッ素単量体(好ましくは、CF3CF2CF2CF2-CH2CH2OCOCH=CH2(C4SFA))から誘導された繰り返し単位を有する含フッ素重合体は、TOとLOスペクトルに現れるCF2対称伸縮振動バンドのピーク位置の差が大きい。また、C4SFAはゲル状で試料の構造異方性が無視でき、試料作製の再現性に優れることから、パーフルオロアルキル基の炭素数が4である含フッ素単量体は、赤外MAIRS法の標準試料として使用できる。
【0025】
赤外MAIRS法(p-MAIRSも含む)においては、平滑基板上に作製した1つの薄膜試料から、従来の赤外透過(Tr)および反射吸収(RA)スペクトルに相当する、IPスペクトル(面内スペクトル)およびOPスペクトル(面外スペクトル)が同時に得られる。MAIRS測定が正しく行えているかどうかを確かめるには、従来、配向試料を用いてIPおよびOPスペクトルに配向を反映したバンド“強度比”が現れることを利用してきた。しかし、配向試料としてLB膜やSAM膜など構造が既知の薄膜を標準試料として作らねばならず、測定者にとっても分光器メーカーにとっても標準試料作製は高い壁であった。
【0026】
これを克服するには、バンド強度比ではなく、IPおよびOPスペクトルのバンド“位置”の違いを確かめる確認法を用いるとよい。これは、同じ薄膜試料であっても、IPおよびOPスペクトルにはそれぞれTOおよびLOエネルギー損失関数スペクトルが現れ、吸収強度の強いバンド位置が異なる位置に現れる(TO-LO分裂)ことを利用する。C4SFAは、TO-LO分裂が4.5 cm-1と際立って大きく測りやすい。また、もっとも利用価値の高いCF2対称伸縮振動バンドが1150 cm-1付近にあって、水蒸気のバンドと重ならないため、分光器の設置条件によらず測れ、標準試料として理想的である。
【0027】
本発明において、ブランク試料(すなわち、表面処理していない物品)のIR-ATR測定を行わなくてもよい。ブランク試料と表面処理物品との差スペクトルをとらなくても、含フッ素表面処理剤によって形成された塗布層のスペクトルを(例えば、入射角可変ATR法によって)得ることができるので、含フッ素表面処理剤を含有する物品を分析できる。
【実施例】
【0028】
下記装置を用いて赤外全反射吸収測定を行った。
(1)実施例1〜9
装置 :Nicolet 6700 (ThermoFisher Scientific製) FT-IR
入射角 :45度
反射回数:1回
プリズム:Ge
(2)実施例10および11
入射角可変ATR装置:角度可変反射/ATR Seagull (Harrik Scientiffic製)
反射回数:1回
プリズム:Ge
【0029】
合成例1
C8F17CH2CH2OCOCH=CH2/C10F21CH2CH2OCOC(CH3)=CH2(重量比80/20)30.0g、酢酸ブチル81.0gを四つ口フラスコ内で撹拌溶解し、窒素置換しながら65℃で保持した後、有機過酸化物1.3gを添加し、65℃で8時間反応させ、ポリマー溶液を得た。ガスクロマトグラフにより求めた単量体の転化率は95%以上であった。得られた重合液をエバポレータで酢酸ブチルを除去し、重合体を得た。
【0030】
合成例2
CF3CF2-(CF2CF2)2-CH2CH2OCOC(Cl)=CH2 30.0g、酢酸ブチル81.0gを四つ口フラスコ内で撹拌溶解し、窒素置換しながら65℃で保持した後、有機過酸化物1.3gを添加し、65℃で8時間反応させ、ポリマー溶液を得た。ガスクロマトグラフにより求めた単量体の転化率は95%以上であった。得られた重合液をエバポレータで酢酸ブチルを除去し、重合体を得た。
【0031】
合成例3
CF3CF2-(CF2CF2)2-CH2CH2OCOC(CH3)=CH2 30.0g、酢酸ブチル81.0gを四つ口フラスコ内で撹拌溶解し、窒素置換しながら65℃で保持した後、有機過酸化物1.3gを添加し、65℃で8時間反応させ、ポリマー溶液を得た。ガスクロマトグラフにより求めた単量体の転化率は95%以上であった。得られた重合液をエバポレータで酢酸ブチルを除去し、重合体を得た。
【0032】
合成例4
CF3CF2-(CF2CF2)2-CH2CH2OCOCH=CH2 30.0g、酢酸ブチル81.0gを四つ口フラスコ内で撹拌溶解し、窒素置換しながら65℃で保持した後、有機過酸化物1.3gを添加し、65℃で8時間反応させ、ポリマー溶液を得た。ガスクロマトグラフにより求めた単量体の転化率は95%以上であった。得られた重合液をエバポレータで酢酸ブチルを除去し、重合体を得た。
【0033】
合成例5
CF3CF2CF2CF2CH2CH2OCOCH=CH2 30.0g、酢酸ブチル81.0gを四つ口フラスコ内で撹拌溶解し、窒素置換しながら65℃で保持した後、有機過酸化物1.3gを添加し、65℃で8時間反応させ、ポリマー溶液を得た。ガスクロマトグラフにより求めた単量体の転化率は95%以上であった。得られた重合液をエバポレータで酢酸ブチルを除去し、重合体を得た。
【0034】
合成例6
1Lの四つ口フラスコにC8F17CH2CH2OCOC(CH3)=CH2/C10F21CH2CH2OCOC(CH3)=CH2(重量比80/20)204g、水溶性グリコール系溶剤 75.8g、純水 446g、ポリオキシエチレンアルキルエーテル 20.2g、カチオン系乳化剤2.6gを入れ、60℃で加温後、高圧ホモジナイザーで乳化分散させた。さらにアゾ基含有水溶性開始剤1.9gを添加し、60℃で3時間反応させ、重合体の水性分散液を得た。ガスクロマトグラフにより求めた単量体の転化率は95%以上であった。その固形分濃度が30重量%となるように純水で濃度調整した。
【0035】
合成例7
1Lの四つ口フラスコにC6F13CH2CH2OCOC(CH3)=CH2 204g、水溶性グリコール系溶剤 75.8g、純水 446g、ポリオキシエチレンアルキルエーテル 20.2g、カチオン系乳化剤2.6gを入れ、60℃で加温後、高圧ホモジナイザーで乳化分散させた。さらにアゾ基含有水溶性開始剤1.9gを添加し、60℃で3時間反応させ、重合体の水性分散液を得た。ガスクロマトグラフにより求めた単量体の転化率は95%以上であった。その固形分濃度が30重量%となるように純水で濃度調整した。
【0036】
比較合成例1
1Lの四つ口フラスコにステアリルアクリレート 179g、水溶性グリコール系溶剤 75.8g、純水 446g、ポリオキシエチレンアルキルエーテル 20.2g、カチオン系乳化剤2.6gを入れ、60℃で加温後、高圧ホモジナイザーで乳化分散させた。さらにアゾ基含有水溶性開始剤1.9gを添加し、60℃で3時間反応させ、重合体の水性分散液を得た。ガスクロマトグラフにより求めた単量体の転化率は95%以上であった。その固形分濃度が30重量%となるように純水で濃度調整した。
【0037】
実施例1
合成例1で得られた重合液を風乾により得られた重合体を赤外ATR装置のプリズム上に載せ、IR-ATR測定を行った。得られたデータをαスペクトルに変換することで、1149 cm-1 にCF2対称伸縮振動ピークが見られた。1149cm-1のピークは、C8F17基に特徴的である。IRスペクトルを図1(a)に示す。
【0038】
実施例2
合成例2で得られた含フッ素重合体を実施例1と同様の方法で、IR-ATR測定を行った。得られたデータをαスペクトルに変換することで、1146 cm-1 にCF2対称伸縮振動ピークが見られた。1146cm-1のピークは、C6F13基に特徴的である。IRスペクトルを図1(b)に示す。
【0039】
実施例3
合成例3で得られた含フッ素重合体を実施例1と同様の方法で、IR-ATR測定を行った。得られたデータをαスペクトルに変換することで、1146 cm-1 にCF2対称伸縮振動ピークが見られた。1146cm-1のピークは、C6F13基に特徴的である。IRスペクトルを図1(c)に示す。
【0040】
実施例4
合成例4で得られた含フッ素重合体を実施例1と同様の方法で、IR-ATR測定を行った。得られたデータをαスペクトルに変換することで、1146 cm-1 にCF2対称伸縮振動ピークが見られた。1146cm-1のピークは、C6F13基に特徴的である。IRスペクトルを図1(d)に示す。
【0041】
実施例5
合成例5で得られた含フッ素重合体を実施例1と同様の方法で、IR-ATR測定を行った。得られたデータをαスペクトルに変換することで、1135 cm-1 にCF2対称伸縮振動ピークが見られた。1135cm-1のピークは、C4F9基に特徴的である。IRスペクトルを図1(e)に示す。
【0042】
実施例6
合成例6で得られた重合体の水性分散液を1.5重量%になるよう水で希釈して処理液を調整した。ナイロン布を処理液に浸漬し、マングルで4kg/cm、4m/分で絞って、170℃で1分間熱処理し処理布を得た。赤外ATR装置のプリズム上に載せ、IR-ATR測定を行った。得られたデータをαスペクトルに変換した。未処理のナイロン布との差スペクトルをとることで、1149 cm-1 にCF2対称伸縮振動ピークが見られた。1149cm-1のピークは、C8F17基に特徴的である。IRスペクトルを図2(a)に示す。
【0043】
実施例7
合成例7で得られた重合体の水性分散液を実施例6と同様の方法で処理布を得て、IR-ATR測定を行った。得られたデータをαスペクトルに変換した。未処理のナイロン布との差スペクトルをとることで、1145 cm-1 にCF2対称伸縮振動ピークが見られた。1145cm-1のピークは、C6F13基に特徴的である。IRスペクトルを図2(b)に示す。
【0044】
実施例8
合成例6で得られた重合体の水性分散液を1.5重量%になるよう水で希釈して処理液を調整した。ポリエステル布を処理液に浸漬し、マングルで4kg/cm、4m/分で絞って、170℃で1分間熱処理し処理布を得た。赤外分光器のプリズム上に載せ、IR-ATR測定を行った。得られたデータをαスペクトルに変換した。未処理のポリエステル布との差スペクトルをとることで、1149 cm-1 にCF2対称伸縮振動ピークが見られた。1149cm-1のピークは、C8F17基に特徴的である。IRスペクトルを図3(a)に示す。
【0045】
実施例9
合成例7で得られた重合体の水性分散液を実施例6と同様の方法で処理布を得て、IR-ATR測定を行った。得られたデータをαスペクトルに変換した。未処理のポリエステル布との差スペクトルをとることで、1144 cm-1 にCF2対称伸縮振動ピークが見られた。1144cm-1のピークは、C6F13基に特徴的である。IRスペクトルを図3(b)に示す。
【0046】
実施例10
入射角可変ATR装置をフーリエ変換赤外分光器(FT-IR)に組み、実施例6で得られた処理布を用いて、IR-ATR測定を行った。得られたデータをαスペクトルに変換し、多変量解析により、塗布層だけのスペクトルを取り出した。1149 cm-1 にCF2対称伸縮振動ピークが見られた。1149cm-1のピークは、C8F17基に特徴的である。未処理のナイロン布のIR-ATR測定を行わなくても、実施例6と同様の位置にCF2対称伸縮振動ピークが見られた。塗布層のスペクトルを図4(a)に示す。
【0047】
実施例11
入射角可変ATR装置をフーリエ変換赤外分光器(FT-IR)に組み、実施例7で得られた処理布を用いて、IR-ATR測定を行った。得られたデータをαスペクトルに変換し、多変量解析により、塗布層だけのスペクトルを取り出した。1145 cm-1 にCF2対称伸縮振動ピークが見られた。1145cm-1のピークは、C6F13基に特徴的である。未処理のナイロン布のIR-ATR測定を行わなくても、実施例7と同様の位置にCF2対称伸縮振動ピークが見られた。塗布層のスペクトルを図4(b)に示す。
【0048】
比較例1
比較合成例1で得られた重合体の水性分散液を実施例6と同様の方法で処理布を得て、IR-ATR測定を行った。得られたデータをαスペクトルに変換した。未処理のナイロン布との差スペクトルをとったが、CF2対称伸縮振動ピークが見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の方法によれば、含フッ素表面処理剤が有するフルオロアルキル基の炭素数を赤外全反射減衰法(IR-ATR法)によって求めることができる。
【要約】      (修正有)
【課題】含フッ素重合体を有効成分とする含フッ素表面処理剤を含有する物品におけるフルオロアルキル基の炭素数を簡便に求める分析方法を提供する。
【解決手段】フーリエ変換赤外分光器(FT-IR)を用いる赤外全反射減衰法(IR-ATR法)によって、含フッ素表面処理剤が有するフルオロアルキル基の炭素数を求める、含フッ素表面処理剤を含有する物品を分析する方法であって、含フッ素表面処理剤が含フッ素重合体を有効成分として含み、含フッ素重合体が、式:CH2=C(-X)-C(=O)-Y-Z-Rf[式中、Xは、水素原子、一価の有機基またはハロゲン原子であり、Yは、-O-または-NH-であり、Zは、直接結合または二価の有機基であり、Rfは、炭素数1〜20のフルオロアルキル基である。]で示される含フッ素単量体から誘導された繰り返し単位を有する分析方法。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4