特許第6061058号(P6061058)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061058
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】電子装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 45/00 20060101AFI20170106BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20170106BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   H01L45/00 C
   H01L29/78 618B
   H01L29/78 622
   H01L41/09
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-550277(P2016-550277)
(86)(22)【出願日】2015年9月17日
(86)【国際出願番号】JP2015076529
(87)【国際公開番号】WO2016059941
(87)【国際公開日】20160421
【審査請求日】2016年8月4日
(31)【優先権主張番号】特願2014-212695(P2014-212695)
(32)【優先日】2014年10月17日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 友美
(72)【発明者】
【氏名】勝野 高志
(72)【発明者】
【氏名】上杉 勉
【審査官】 加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−320058(JP,A)
【文献】 特開2010−166039(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0073997(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0328984(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 45/00
H01L 29/786
H01L 41/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられており、形状変化により金属相と絶縁体相の間を相転移する相転移材料を含むチャネル部と、
前記チャネル部上に設けられており、前記チャネル部の上面の一部に電気的に接続する第1電極と、
前記チャネル部上に設けられており、前記チャネル部の上面の他の一部に電気的に接続する第2電極と、
前記チャネル部に形状変化を起こさせるように構成されている形状変化生成部と、を備えており、
前記形状変化生成部は、圧電素子を有し、
前記圧電素子は、少なくとも前記第1電極と前記第2電極の間の前記基板下に固定されている、電子装置。
【請求項2】
基板と、
前記基板上に設けられており、形状変化により金属相と絶縁体相の間を相転移する相転移材料を含むチャネル部と、
前記チャネル部上に設けられており、前記チャネル部の上面の一部に電気的に接続する第1電極と、
前記チャネル部上に設けられており、前記チャネル部の上面の他の一部に電気的に接続する第2電極と、
前記チャネル部に形状変化を起こさせるように構成されている形状変化生成部と、を備えており、
前記形状変化生成部は、圧電素子を有し、
前記圧電素子は、前記第1電極と前記第2電極の間の前記チャネル部上に固定されている、電子装置。
【請求項3】
前記チャネル部と前記圧電素子の間に設けられている絶縁膜をさらに備える、請求項2に記載の電子装置。
【請求項4】
基板と、
前記基板上に設けられており、形状変化により金属相と絶縁体相の間を相転移する相転移材料を含むチャネル部と、
前記チャネル部上に設けられており、前記チャネル部の上面の一部に電気的に接続する第1電極と、
前記チャネル部上に設けられており、前記チャネル部の上面の他の一部に電気的に接続する第2電極と、
前記チャネル部に形状変化を起こさせるように構成されている形状変化生成部と、を備えており、
前記形状変化生成部は、気圧差を利用して前記チャネル部に形状変化を起こさせるように構成されている気圧調整手段を有し、
前記気圧調整手段は、前記チャネル部の上面側の気圧と前記基板の下面側の気圧の間に気圧差を生じさせるように構成されている電子装置。
【請求項5】
前記基板の下面に溝が形成されており、
前記溝は、前記基板の上面に直交する方向から観測したときに、前記第1電極と前記第2電極の間に配置されている、請求項2〜4のいずれか一項に記載の電子装置。
【請求項6】
前記相転移材料は、ペロブスカイト構造を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の電子装置。
【請求項7】
前記相転移材料は、d−ブロック遷移元素を含む酸化物である、請求項6に記載の電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示される技術は、電子装置に関する。特に、本明細書で開示される技術は、金属相と絶縁体相の間を相転移する相転移材料を含むチャネル部を備える電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属相と絶縁体相の間を相転移する相転移材料を利用した電子装置の開発が進められている。特開2011−243632号公報は、この種の相転移材料をチャネル部に適用した電子装置を開示する。この電子装置は、チャネル部の相転移材料の相転移を制御可能に構成されており、相転移材料が金属相のときにチャネル部に電流を流し、相転移材料が絶縁体相のときにチャネル部を流れる電流を遮断するように動作する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特開2011−243632号公報の電子装置では、チャネル部の相転移材料に相転移を生じさせるために、高濃度の電荷をイオン液体からチャネル部に注入するように構成されている。このため、この電子装置は、チャネル部に接触した状態のイオン液体を封入するための封入構造を必要とする。しかしながら、イオン液体を長期間に亘って安定的に封入できる封入構造を構築することは、技術的に困難である。本明細書は、相転移材料を含むチャネル部を備える電子装置において、信頼性を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書で開示される電子装置の一実施形態は、基板、チャネル部、第1電極、第2電極及び形状変化生成部を備える。チャネル部は、基板上に設けられており、形状変化により金属相と絶縁体相の間を相転移する相転移材料を含む。第1電極は、チャネル部上に設けられており、チャネル部の上面の一部に電気的に接続する。第2電極は、チャネル部上に設けられており、チャネル部の上面の他の一部に電気的に接続する。形状変化生成部は、チャネル部に形状変化を起こさせるように構成されている。
【0005】
上記実施形態の電子装置では、形状変化生成部がチャネル部に形状変化を起こさせることにより、チャネル部の相転移材料に相転移を生じさせることができる。上記実施形態の電子装置では、イオン液体を用いることなく、チャネル部に相転移を生じさせることができる。このため、上記実施形態の電子装置は、高い信頼性を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1実施例の電子装置の要部断面図を模式的に示す。
図2】第1実施例の電子装置を製造する方法の一工程を示す。
図3】第1実施例の電子装置を製造する方法の一工程を示す。
図4】第1実施例の電子装置を製造する方法の一工程を示す。
図5】第2実施例の電子装置の要部断面図を模式的に示す。
図6】第2実施例の電子装置を製造する方法の一工程を示す。
図7】第2実施例の電子装置を製造する方法の一工程を示す。
図8】第2実施例の電子装置の変形例の要部断面図を模式的に示す。
図9】第2実施例の電子装置の変形例の要部断面図を模式的に示す。
図10】第2実施例の電子装置の変形例の要部断面図を模式的に示す。
図11】第3実施例の電子装置の要部断面図を模式的に示す。
図12】第3実施例の電子装置を製造する方法の一工程を示す。
図13】第3実施例の電子装置を製造する方法の一工程を示す。
図14】第3実施例の電子装置を製造する方法の一工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本明細書で開示される技術の特徴を整理する。なお、以下に記す事項は、各々単独で技術的な有用性を有している。
【0008】
本明細書で開示される電子装置の一実施形態は、基板、チャネル部、第1電極、第2電極及び形状変化生成部を備えていてもよい。基板は、チャネル部を支持するものであればよく、その材料は特に制限されるものではない。ただし、基板は、チャネル部を流れる電流の漏洩を抑えるために、絶縁体の材料で構成されているのが望ましい。チャネル部は、基板上に設けられており、形状変化により金属相と絶縁体相の間を相転移する相転移材料を含む。チャネル部は、基板の上面に接触するように設けられていてもよく、他の部材を介して基板上に設けられていてもよい。第1電極は、チャネル部上に設けられており、チャネル部の上面の一部に電気的に接続する。第2電極は、チャネル部上に設けられており、チャネル部の上面の他の一部に電気的に接続する。即ち、第1電極と第2電極の各々は、チャネル部の上面の異なる位置に接触している。形状変化生成部は、チャネル部に形状変化を起こさせるように構成されている。上記実施形態の電子装置は、形状変化生成部によってチャネル部を流れる電流を制御することにより、スイッチング機能を発揮するトランジスタとして動作することができる。また、上記実施形態の電子装置は、絶縁ゲート構造を必要としないので、高耐圧な特性を有することができる。
【0009】
チャネル部に含まれる相転移材料は、形状変化により金属相と絶縁体相の間を相転移するものであればよく、その種類を特に限定するものではない。例えば、相転移材料は、ペロブスカイト構造を有するモット絶縁体であるのが望ましい。このような相転移材料は、形状変化により金属相と絶縁体相の間を効果的に相転移することができる。さらに、相転移材料は、d−ブロック遷移元素(Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Y,Zr,Nb,Mo,Tc,Ru,Rh,Pd,Ag,Hf,Ta,W,Re,Os,Ir,Pt,Au)を含む酸化物であるのが望ましい。このような相転移材料は、形状変化により金属相と絶縁体相の間をさらに効果的に相転移することができる。
【0010】
形状変化生成部は、チャネル部に形状変化を起こさせるように構成されていればよく、その構成を特に限定するものではない。形状変化生成部は、電気的、化学的又は機械的な様々な手法を利用してチャネル部に形状変化を起こさせるように構成されていればよい。
【0011】
例えば、形状変化生成部は、圧電素子を有していてもよい。この場合、形状変化生成部は、チャネル部の形状を圧電素子の形状変化に追随させることで、チャネル部の形状を変化させることができる。圧電素子の圧電体の材料は、特に限定されるものではない。例えば、圧電素子の圧電体の材料には、PZT系、BaTiO系、BNT系、Bi層状系、タンステンブロンズ系又はNb酸系を用いることができる。また、圧電素子は、基板下に固定されていてもよい。圧電素子は、基板の下面に接触して固定されていてもよく、他の部材を介して基板下に固定されていてもよい。圧電素子が基板下に固定されている実施形態の電子装置は、基板の厚みを調整することで、高耐圧な特性を有することができる。あるいは、圧電素子は、チャネル部上に固定されていてもよい。圧電素子は、チャネル部の上面に接触して固定されていてもよく、他の部材を介してチャネル部上に固定されていてもよい。圧電素子がチャネル部上に固定されている実施形態の電子装置では、圧電素子とチャネル部が近接して配置されるので、チャネル部は、圧電素子の形状変化に高速に追随して形状を変化することができる。このため、この実施形態の電子装置は、高速な応答性を有することができる。また、圧電素子がチャネル部上に固定されている実施形態の電子装置は、チャネル部と圧電素子の間に設けられている絶縁膜をさらに備えるのが望ましい。この実施形態の電子装置は、絶縁膜の厚みを調整することで、高耐圧な特性を有することができる。
【0012】
例えば、形状変化生成部は、気圧差を利用してチャネル部に形状変化を起こさせるように構成されている気圧調整手段を有していてもよい。この場合、気圧調整手段は、チャネル部の上面側の気圧と基板の下面側の気圧の間に気圧差を生じさせるように構成されていてもよい。この場合、電子装置は、チャネル部をダイアフラムとして利用することができる。気圧調整手段は、チャネル部の上面側の気圧よりも基板の下面側の気圧を低くするように構成されていてもよく、チャネル部の上面側の気圧よりも基板の下面側の気圧を高くするように構成されていてもよい。気圧調整手段は、ポンプ駆動による負圧を利用してチャネル部に形状変化を起こさせるように構成されていてもよく、コンデンサの極板間引力を利用してチャネル部に形状変化を起こさせるように構成されていてもよい。
【0013】
圧電素子がチャネル部上に固定されている実施形態又はチャネル部がダイアフラムとして利用される実施形態の電子装置では、基板の下面に溝が形成されているのが望ましい。溝は、基板の上面から観測したときに、第1電極と第2電極の間に配置されているのが望ましい。この実施形態によると、チャネル部と基板の積層部の剛性が小さくなるので、チャネル部は、圧電素子の形状変化又は気圧差に高速に応答して変形することができる。このため、これらの実施形態の電子装置は、高速な応答性を有することができる。
【実施例1】
【0014】
以下、図面を参照して各実施例の電子装置を説明する。なお、実質的に共通する構成要素については共通の符号を付し、繰返しの説明を省略することがある。
【0015】
図1に示されるように、電子装置1は、基板20、チャネル部30、ドレイン電極42及びソース電極44を備える。
【0016】
基板20は、絶縁体の材料で構成されている。後述するように、基板20は、チャネル部30を成膜するときの下地として用いられる。このため、基板20は、チャネル部30を成膜可能な材料であるのが望ましく、チャネル部30の結晶構造の格子定数に近い格子定数を有する材料であるのが望ましい。例えば、基板20の材料は、ペロブスカイト構造を有する材料であるのが望ましい。この例では、基板20の材料には、SrTiO(チタン酸ストロンチウム)が用いられている。
【0017】
チャネル部30は、基板20上に設けられており、基板20の上面に接する。チャネル部30は、形状変化により金属相と絶縁体相を相転移する相転移材料で構成されている。この例では、チャネル部30の材料には、ペロブスカイト構造を有する酸化物のモット絶縁体が用いられている。具体的には、チャネル部30の材料には、(La,Sr)MnO3が用いられている。ペロブスカイト構造を有する酸化物のモット絶縁体は、結晶構造に歪が生じていないときに絶縁体相であり、c軸方向に圧縮されて(B−O−B角が小さくなって)結晶構造に歪が生じたときに金属相となる。
【0018】
ドレイン電極42は、チャネル部30上に設けられており、チャネル部30の上面の一部にオーミック接触する。この例では、ドレイン電極42の材料にはチタン又はクロムが用いられる。なお、ドレイン電極42の表面には、酸化防止用に金が被膜していてもよい。
【0019】
ソース電極44は、チャネル部30上に設けられており、ドレイン電極42から離れて配置されており、チャネル部30の上面の一部にオーミック接触する。この例では、ソース電極44の材料にはチタン又はクロムが用いられる。なお、ソース電極44の表面には、酸化防止用に金が被膜していてもよい。
【0020】
電子装置1はさらに、圧電素子10を有する。圧電素子10は、基板20下に固定されており、基板20の下面に接する。圧電素子10は、アノード電極12、圧電体層14及びカソード電極16を含む。
【0021】
アノード電極12は、圧電体層14の一方の主面、即ち、基板20に対して遠い側の主面に接する。アノード電極12は、導電性の材料で構成されている。この例では、アノード電極12の材料にはAu又はAgが用いられている。
【0022】
圧電体層14は、アノード電極12とカソード電極16の間に介在する。圧電体層14は、圧電効果を有する材料で構成されている。この例では、圧電体層14の材料にはチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が用いられている。
【0023】
カソード電極16は、圧電体層14の他方の主面、即ち、基板20に対して近い側の主面に接する。カソード電極16は、導電性の材料で構成されている。この例では、カソード電極16の材料にはAu又はAgが用いられている。
【0024】
次に、電子装置1の動作を説明する。電子装置1は、ドレイン電極42に高い正電圧(例えば、600V)が印加され、ソース電極44に接地電圧が印加されて用いられる。圧電素子10のアノード電極12に正電圧が印加され、カソード電極16に接地電圧が印加されると、アノード電極12とカソード電極16の間に電界が生じ、圧電効果によって圧電体層14が反るように変形する。圧電素子10と基板20は強固に固定されているので、圧電体層14の変形に追随して、基板20及びチャネル部30も変形する。上記したように、チャネル部30は、結晶構造に歪が生じたときに、金属相の性質を有する。このため、圧電素子10が変形しているとき、チャネル部30は金属相の状態であり、ドレイン電極42とソース電極44の間に電流が流れる。このように、圧電素子10のアノード電極12とカソード電極16の間に電圧が印加されていると、電子装置1はオン状態である。
【0025】
次に、圧電素子10のアノード電極12及びカソード電極16に接地電圧が印加されると、アノード電極12とカソード電極16の間に電界が生じないので、圧電効果が消失し圧電体層14が初期状態(非変形状態)に戻る。このため、チャネル部30も初期状態(非変形状態)に戻る。したがって、圧電素子10が変形していないとき、チャネル部30は絶縁体相の状態であり、ドレイン電極42とソース電極44の間に電流が流れない。このように、圧電素子10のアノード電極12及びカソード電極16の間に電圧が印加されていないとき、電子装置1はオフ状態である。
【0026】
上記したように、電子装置1では、圧電素子10に印加する電圧に基づいてチャネル部30の歪が制御され、これにより、チャネル部30では、金属相と絶縁体相の間の相転移が制御される。この結果、電子装置1は、圧電素子10に印加する電圧に基づいてオンとオフが切り換わるトランジスタとして動作することができる。
【0027】
以下、電子装置1の特徴を整理する。
(1)電子装置1は、圧電素子10のアノード電極12とカソード電極16の間に電圧が印加されていないときにオフ状態である。このため、電子装置1は、ノーマリオフとして動作することができる。
(2)チャネル部30は、硬度が高いので、変形状態から非変形状態に瞬時に切換ることができる。このため、電子装置1は、高速ターンオフの特性を有することができる。
(3)チャネル部30の耐圧は、チャネル部30の厚みと距離(ドレイン電極42とソース電極44間の距離)に依存する。チャネル部30の耐圧は、従来の半導体装置のチャネル部のように、不純物濃度に依存しない。このため、電子装置1は、高耐圧で低オン抵抗な特性を有することができる。
(4)また、従来の半導体装置は、チャネル部に対して電界効果を及ぼすために、膜厚の薄いゲート絶縁膜を有する絶縁ゲート構造を必要とする。このため、従来の半導体装置では、オフ時において、絶縁ゲート構造のゲート絶縁膜のうちのドレイン側端部に電界が集中し、絶縁破壊が生じるという問題がある。一方、電子装置1は、チャネル部30に対して電界効果を及ぼす必要がないので、そのような絶縁ゲート構造を必要としない。電子装置1では、チャネル部30の相転移を制御するためにチャネル部30に対して歪を生じさせればよい。このため、電子装置1では、チャネル部30と圧電素子10の間に介挿される基板20の厚みが比較的に厚くても、チャネル部30に対して十分に歪を生じさせることができる。このように、電子装置1は、絶縁ゲート構造を必要としないことから、高耐圧な特性を有することができる。
(5)チャネル部30は、形状変化によって金属相と絶縁体相の間を相転移する。即ち、電子装置1は、電界効果を利用するものではないので、外部からの電圧ノイズに対して耐性がある。電子装置1は、外部ノイズに対して高い信頼性を有することができる。
【0028】
次に、電子装置1の製造方法を説明する。まず、図2に示されるように、基板20を準備する。基板20には、SrTiO(チタン酸ストロンチウム)の単結晶基板が用いられる。
【0029】
次に、図3に示されるように、基板20の上面にチャネル部30を成膜する。成膜方法は、PLD法、スパッタ法、CVD法、ALD法、MBE法又はスピンコート法を利用することができる。
【0030】
次に、図4に示されるように、チャネル部30の上面の一部にドレイン電極42及びソース電極44を形成する。形成方法は、EB蒸着法又はスパッタ法でチャネル部30の上面に金属膜を被膜した後に、リフトオフ法又はドライエッチング法によってパターニングすることができる。
【0031】
最後に、予め準備していた圧電素子10を、溶接又は金属ペーストを用いた接合法を利用して、基板20の下面に接合する。これにより、電子装置1が完成する。
【実施例2】
【0032】
図5に示されるように、電子装置2は、圧電素子10がチャネル部30上に固定されているとともにドレイン電極42とソース電極44の間に配置されていることを特徴とする。電子装置2はさらに、チャネル部30と圧電素子10の間に介在する絶縁膜50を備える。絶縁膜50は、チャネル部30を流れる電流が圧電素子10のアノード電極12に漏洩するのを防止する。なお、チャネル部30の電気抵抗が十分に小さいときは、必要に応じて、絶縁膜50が設けられていなくてもよい。
【0033】
圧電素子10がチャネル部30の上面に固定されていると、圧電素子10とチャネル部30が近接して配置される。このため、チャネル部30は、圧電素子10の変形に高速に追随して変形することができる。したがって、電子装置2は、高速な応答性を有することができる。
【0034】
また、電子装置2は、チャネル部30に対して電界効果を及ぼす必要がないので、絶縁ゲート構造を必要としない。電子装置2では、チャネル部30の相転移を制御するためにチャネル部30に対して歪を生じさせればよい。このため、電子装置2では、チャネル部30と圧電素子10の間に介挿される絶縁膜50の厚みが比較的に厚くても、チャネル部30に対して十分に歪を生じさせることができる。このように、電子装置2は、絶縁ゲート構造を必要としないことから、高耐圧な特性を有することができる。
【0035】
次に、電子装置2の製造方法を説明する。基板20の上面にチャネル部30を成膜するまでの工程は、電子装置1の製造方法と同様である(図2及び図3参照)。
【0036】
次に、図6に示されるように、チャネル部30の上面に絶縁膜50を成膜する。成膜方法は、CVD法又はPVD法を利用することができる。次に、絶縁膜50の上面に、アノード電極12、圧電体層14及びカソード電極16を順に成膜する。成膜方法は、PLD法、AD法又はスピンコート法を利用することができる。
【0037】
次に、図7に示されるように、絶縁膜50、アノード電極12、圧電体層14及びカソード電極16の積層体の一部を除去し、チャネル部30の上面の一部を露出させる。最後に、露出するチャネル部30の上面の一部にドレイン電極42及びソース電極44を形成する。形成方法は、EB蒸着法又はスパッタ法でチャネル部30の上面に金属膜を被膜した後に、リフトオフ法又はドライエッチング法によってパターニングすることができる。これにより、電子装置2が完成する。
【0038】
図8に、変形例の電子装置3を示す。この例では、基板20の下面に溝20aが形成されていることを特徴とする。溝20aは、基板20の上面から観測したときに、ドレイン電極42とソース電極44の間であって、且つ、圧電素子10と重複する範囲を含むように配置されている。このような溝20aが形成されていると、ドレイン電極42とソース電極44の間において、圧電素子10下のチャネル部30と基板20の積層部の剛性が小さくなる。このため、チャネル部30は、圧電素子10の変形に高速に追随して変形することができる。電子装置3は、高速な応答性を有することができる。
【0039】
図9に、変形例の電子装置4を示す。この例では、圧電素子100のアノード電極112及びカソード電極116が、圧電体層114に対して横方向に並んで配置されていることを特徴とする。圧電体層114の材料によっては、圧電体層114を効果的に変形させるための電圧印加方向に特異性があることがある。そのような場合、圧電体層114の材料に応じて、アノード電極112及びカソード電極116を適宜に配置することができる。
【0040】
図10に、変形例の電子装置5を示す。この例は、上記した電子装置4の変形であり、圧電体層114の一端がソース電極44に接することを特徴とする。換言すると、圧電素子100のカソード電極116が除去されており、ソース電極44がカソード電極116を兼用することを特徴とする。これにより、電子装置5の構造が簡単化される。この電子装置5でも、アノード電極112に正電圧を印加したときに圧電体層114が変形してチャネル部30が金属相となり、アノード電極112に接地電圧を印加したときに圧電体層114が初期状態(非変形状態)に戻ってチャネル部30が絶縁体相となる。電子装置5も、圧電素子100に印加する電圧に基づいてオンとオフが切り換わるトランジスタとして動作することができる。
【実施例3】
【0041】
図11に示されるように、電子装置6は、基板20の下面に設けられているとともに貫通孔60aが形成されている絶縁層60、及び、絶縁層60の貫通孔60aに連通するポンプ70を備えることを特徴とする。電子装置6では、基板20の下面に溝20aが形成されている。基板20と絶縁層60が、負圧室22を画定する。ポンプ70は、絶縁層60の貫通孔60aを介して負圧室22に連通するように構成されている。電子装置6では、チャネル部30の上面が大気圧に曝されている。
【0042】
次に、電子装置6の動作を説明する。ポンプ70が停止していると、負圧室22の気圧は、チャネル部30の上面側の気圧(大気圧)と同程度に維持される。このため、チャネル部30の上面側の気圧と基板20の下面側の間に圧力差が生じないので、チャネル部30は変形しない。このとき、チャネル部30は、絶縁体相の状態であり、ドレイン電極42とソース電極44の間に電流が流れない。このように、ポンプ70が停止しているとき、電子装置6はオフ状態である。
【0043】
次に、ポンプ70が駆動すると、負圧室22の気圧が減圧され、チャネル部30の上面側の気圧(大気圧)と基板20の下面側の気圧の間に圧力差が生じ、チャネル部30が反るように変形する。このため、チャネル部30は、金属相の状態であり、ドレイン電極42とソース電極44の間に電流が流れる。このように、ポンプ70が駆動しているとき、電子装置5はオン状態である。
【0044】
上記したように、電子装置6では、ポンプ70の駆動に基づいてチャネル部30の歪が制御され、これにより、チャネル部30では、金属相と絶縁体相の間の相転移が制御される。この結果、電子装置6は、ポンプ70の駆動に基づいてオンとオフが切り換わるトランジスタとして動作することができる。
【0045】
また、電子装置6は、チャネル部30に対して電界効果を及ぼす必要がないので、絶縁ゲート構造を必要としない。このように、電子装置6は、絶縁ゲート構造を必要としないことから、高耐圧な特性を有することができる。
【0046】
次に、電子装置6の製造方法を説明する。まず、図12に示されるように、下面に溝20aが形成されている基板20を準備する。基板20の溝20aは、エッチング技術を利用して形成することができる。
【0047】
次に、図13に示されるように、基板20の上面にチャネル部30を成膜する。成膜方法は、PLD法、スパッタ法、CVD法、ALD法、MBE法又はスピンコート法を利用することができる。
【0048】
次に、図14に示されるように、チャネル部30の上面の一部にドレイン電極42及びソース電極44を形成する。形成方法は、EB蒸着法又はスパッタ法でチャネル部30の上面に金属膜を被膜した後に、リフトオフ法又はドライエッチング法によってパターニングすることができる。
【0049】
次に、予め準備していた絶縁層60を基板20の下面に接合する。最後に、絶縁層60の貫通孔60aに連通するように、ポンプ70を取り付ける。これにより、電子装置6が完成する。
【0050】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14