特許第6061078号(P6061078)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061078
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】内燃機関の排気浄化装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/08 20060101AFI20170106BHJP
   F01N 3/20 20060101ALI20170106BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20170106BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20170106BHJP
   F02D 17/04 20060101ALI20170106BHJP
   F02D 21/08 20060101ALI20170106BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   F01N3/08 G
   F01N3/20 C
   F01N3/24 S
   F01N3/24 T
   F02D29/02 L
   F02D17/04 M
   F02D21/08 311B
   B01D53/94 222
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-276989(P2012-276989)
(22)【出願日】2012年12月19日
(65)【公開番号】特開2014-118946(P2014-118946A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174366
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 史郎
(72)【発明者】
【氏名】恒川 希代香
【審査官】 今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4937617(JP,B2)
【文献】 特開2009−008074(JP,A)
【文献】 特開2005−147118(JP,A)
【文献】 特開2006−226171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00−3/38、9/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される内燃機関の排ガスに含まれる窒素酸化物を尿素水供給手段により供給される尿素水にて還元浄化する選択還元型触媒と、
前記尿素水供給手段に供給する前記尿素水を貯留する尿素水貯留手段と、
前記尿素水貯留手段に貯留される前記尿素水の残量を検出する尿素水残量検出手段と、
前記車両の運転者に警告或いは注意喚起する警報手段と、
前記内燃機関の排ガスを該内燃機関の吸気通路に導入する排気再循環手段と、
前記尿素水の残量が第1閾値以下となると、前記警報手段にて警告を開始する警報制御手段と、
前記尿素水残量検出手段の検出結果に基づき、前記排気再循環手段と前記尿素水供給手段の作動と前記内燃機関の運転を制御する運転制御手段と、を備え、
前記運転制御手段は、前記内燃機関を中速低負荷以下で運転し、前記選択還元型触媒に依らず前記排気再循環手段の作動により前記窒素酸化物の排出量を規定値以下とする第1運転制限状態と、
前記内燃機関を中速中負荷以下で運転し、前記排気再循環手段の作動に加え、前記選択還元型触媒での還元浄化にて前記窒素酸化物の排出量を前記規定値以下とする第2運転制限状態と、を有し、
前記警報制御手段は、前記尿素水の残量が前記第1閾値より大きい第2閾値以下となると、前記警報手段より注意喚起を開始し、
前記運転制御手段は、前記尿素水の残量が前記第2閾値以下となると、前記内燃機関の運転を前記第2運転制限状態とし、前記尿素水の残量が前記第1閾値に向って減少するのに応じて、前記内燃機関の運転を前記第2運転制限状態の実行から前記第1運転制限状態の実行へと切り換え、さらに前記尿素水の残量が前記第1閾値より小なる所定値以下となると前記内燃機関の運転停止処理を実行することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記警報手段は、ディスプレイを有するナビゲーションシステムであって、
前記警報制御手段は、前記尿素水の残量が前記第2閾値以下となると、前記注意喚起として前記ディスプレイに前記尿素水の残量が不足していることを表示するとともに、近隣の尿素水補給設備まで案内を行うことを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記内燃機関は、前記吸気通路に吸入空気を過給する過給手段を備え、
前記排気再循環手段は、前記吸気通路の前記過給手の上流に前記排ガスを導入することを特徴とする、請求項1又は2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化装置に係り、詳しくは、選択還元型触媒を用いた装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンや希薄燃焼ガソリンエンジンは、燃料と空気との混合気中に酸素が多く含まれることから排ガス中への窒素酸化物(NOx)の排出量が多くなる。
そこで、従来より、ディーゼルエンジンや希薄燃焼ガソリンエンジンでは、選択還元型触媒や、NOxトラップ触媒等を排気流路に設けている。特にディーゼルエンジンでは、高回転速度・高負荷運転時にNOxの排出量が多くなることから、尿素水を排気流路中の排ガスに添加して、尿素水が加水分解して発生したアンモニア(NH3)にてNOxを還元浄化する選択還元型触媒装置が用いられている。
【0003】
このような、選択還元型触媒装置では、選択還元型触媒に供給する尿素水が無くなると、選択還元型触媒にてNOxを還元浄化することができなくなる。
このようなことから、特許文献1では、尿素水の残量が少なくなり、尿素水を補充する尿素ステーション(尿素水補給設備)までの距離が遠い場合には、尿素水の残量に応じてエンジンの出力の制限及び排気還流弁の開度を調整しNOxの排出量を抑制して、尿素水の使用量を減らして選択還元型触媒にてNOxを還元浄化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4937617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の車両用内燃機関の排気浄化システムでは、尿素水の残量が少なくなり、尿素水を補充する尿素水補給設備までの距離が遠い場合には、尿素水の残量に応じてエンジンの出力の制限及び排気還流弁の開度を調整しNOxの排出量を抑制して、尿素水の使用量を減らして選択還元型触媒にてNOxを還元浄化している。
しかしながら、上記特許文献1の車両用内燃機関の排気浄化システムでは、尿素水補給設備が近隣になく、尿素水を補給が困難であり尿素水の残量が無くなった場合には、選択還元型触媒にてNOxを浄化することができず、NOxが浄化されずに排出されることからエンジンの運転が困難となり、車両を走行させることができなくなる。
【0006】
本発明は、この様な問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、尿素水が減少すると運転者に尿素水の補給を促し、尿素水が減少しても車両が走行することのできる内燃機関の排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1の内燃機関の排気浄化装置では、車両に搭載される内燃機関の排ガスに含まれる窒素酸化物を尿素水供給手段により供給される尿素水にて還元浄化する選択還元型触媒と、前記尿素水供給手段に供給する前記尿素水を貯留する尿素水貯留手段と、前記尿素水貯留手段に貯留される前記尿素水の残量を検出する尿素水残量検出手段と、前記車両の運転者に警告或いは注意喚起する警報手段と、前記内燃機関の排ガスを該内燃機関の吸気通路に導入する排気再循環手段と、前記尿素水の残量が第1閾値以下となると、前記警報手段にて警告を開始する警報制御手段と、前記尿素水残量検出手段の検出結果に基づき、前記排気再循環手段と前記尿素水供給手段の作動と前記内燃機関の運転を制御する運転制御手段と、を備え、前記運転制御手段は、前記内燃機関を中速低負荷以下で運転し、前記選択還元型触媒に依らず前記排気再循環手段の作動により前記窒素酸化物の排出量を規定値以下とする第1運転制限状態と、前記内燃機関を中速中負荷以下で運転し、前記排気再循環手段の作動に加え、前記選択還元型触媒での還元浄化にて前記窒素酸化物の排出量を前記規定値以下とする第2運転制限状態と、を有し、前記警報制御手段は、前記尿素水の残量が前記第1閾値より大きい第2閾値以下となると、前記警報手段より注意喚起を開始し、前記運転制御手段は、前記尿素水の残量が前記第2閾値以下となると、前記内燃機関の運転を前記第2運転制限状態とし、前記尿素水の残量が前記第1閾値に向って減少するのに応じて、前記内燃機関の運転を前記第2運転制限状態の実行から前記第1運転制限状態の実行へと切り換え、さらに前記尿素水の残量が前記第1閾値より小なる所定値以下となると前記内燃機関の運転停止処理を実行することを特徴とする。
【0009】
また、請求項の内燃機関の排気浄化装置では、請求項1において、前記警報手段は、ディスプレイを有するナビゲーションシステムであって、前記警報制御手段は、前記尿素水の残量が前記第2閾値以下となると、前記注意喚起として前記ディスプレイに前記尿素水の残量が不足していることを表示するとともに、近隣の尿素水補給設備まで案内を行うことを特徴とする。
【0010】
また、請求項の内燃機関の排気浄化装置では、請求項1又は2において、前記内燃機関は、前記吸気通路に吸入空気を過給する過給手段を備え、前記排気再循環手段は、前記吸気通路の前記過給手段の上流に前記排ガスを導入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
求項の発明によれば、尿素水の残量が第2閾値以下となると運転者に注意喚起を開始し、更に、内燃機関を中速中負荷以下で運転し、排気再循環手段の作動に加え、選択還元型触媒での還元浄化にて窒素酸化物の排出量を規定値以下とする第2運転制限状態とし、そして、尿素水の残量が第1閾値に向かって減少すると、内燃機関を中速低負荷以下で運転し、選択還元型触媒に依らず排気再循環手段の作動により窒素酸化物の排出量を規定値以下とする第1運転制限状態に切り換え、さらに尿素水の残量が第1閾値より小なる所定値以下となると内燃機関の運転停止処理を実行している。
【0014】
したがって、尿素水の残量が少なくなると、内燃機関の運転を排気再循環手段の作動により窒素酸化物の排出量を規定値以下とすることのできる第1運転制限状態に制限しており、窒素酸化物の排出量の制限を選択還元型触媒による還元浄化に依存していないので、例え尿素水が無くなったとしても、内燃機関を運転させ車両を走行させることができる。即ち、尿素水を補充することのできる尿素水補給設備まで車両を走行させることができる。
【0015】
また、例えば、排気再循環手段の作動に加え、選択還元型触媒での還元浄化にて窒素酸化物の排出量を規定値以下とする第2運転制限状態では、窒素酸化物の排出量を規定値以下に制限するために内燃機関を中速中負荷以下で運転する必要がある。また、選択還元型触媒に依らず排気再循環手段の作動により窒素酸化物の排出量を規定値以下とする第1運転制限状態では、窒素酸化物の排出量を規定値以下に制限するために第2運転制限状態よりも負荷が低い中速低負荷以下で運転する必要がある。
【0016】
このように尿素水の残量の減少にともなって、高速・高負荷領域及び中速・中負荷領域での内燃機関の運転をできなくなるように制限することで、車両の運転に対する違和感を運転者に与えることができる。
したがって、警報手段による運転者への注意喚起に加え、車両の運転に対する違和感を運転者に与えることで、早期に尿素水の補充を促すことができる。
【0017】
また、請求項の発明によれば、尿素水の残量が第2閾値以下となると、注意喚起としてディスプレイに尿素水の残量が不足していることを表示するとともに、近隣の尿素水補給設備まで案内を行うようにしているので、注意喚起の段階で近隣の尿素水補給設備を案内することにより、早期の尿素水補充を促すことができる。
また、請求項の発明によれば、吸気通路の過給手段の上流に排ガスを導入するようにしている。
【0018】
したがって、吸気負圧の大きい過給手段の上流に排ガスを導入することで、排気圧力が低い内燃機関の低速低負荷運転時に、多量の排ガスを吸気通路に導入することができる。
よって、内燃機関の運転を排気再循環手段の作動のみで窒素酸化物の排出量を規定値以下とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る内燃機関の排気浄化装置が適用されたエンジンの概略構成図である。
図2】本発明に係る内燃機関の排気浄化装置のエンジンコントロールユニットが実行する尿素水残量運転制御の制御フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1は、内燃機関の排気浄化装置が適用されたエンジン1の概略構成図である。なお、図中の破線は、尿素水タンク45より尿素水インジェクタ36に尿素水を供給する尿素水配管46を示している。
図1に示すように、図示しない車両に搭載されるエンジン(内燃機関)1は、多気筒の筒内直接噴射式内燃機関(例えばコモンレール式ディーゼルエンジン)であり、詳しくは、コモンレールに蓄圧された高圧燃料を各気筒の燃料噴射ノズル2に供給し、任意の噴射時期及び噴射量で当該燃料噴射ノズル2から各気筒の燃焼室3内に噴射可能な構成を成している。
【0021】
エンジン1の各気筒には、上下摺動可能なピストン4が設けられている。そして、当該ピストン4は、コンロッド5を介してクランクシャフト6に連結されている。また、クランクシャフト6の一端部にはフライホイールが設けられている。
燃焼室3には、インテークポート7とエキゾーストポート8とが連通されている。
インテークポート7には、燃焼室3と当該インテークポート7との連通と遮断を行うインテークバルブ9が設けられている。また、エキゾーストポート8には、燃焼室3と当該エキゾーストポート8との連通と遮断とを行うエキゾーストバルブ10が設けられている。
【0022】
インテークポート7の上流には、吸入した空気を各気筒に分配するインテークマニフォールド11が連通するように設けられている。そして、エキゾーストポート8の下流には、各気筒から排出される排ガスをまとめるエキゾーストマニフォールド12が連通するように設けられている。
インテークマニフォールド11の各気筒に吸入空気を分配するための分岐の上流のインテークマニフォールド11には、酸素濃度を検出する酸素濃度センサ13がセンサ部をインテークマニフォールド11内に突出するように設けられている。また、空燃比センサ13の下流には、燃焼室3に吸入される吸入空気の温度を検出する吸気温度センサ14がインテークマニフォールド11内に突出するように設けられている。
【0023】
インテークマニフォールド11とエキゾーストマニフォールド12には、それぞれが連通するように高温・高圧の排ガスの一部を吸気へ戻す、即ち高温・高圧の排気還流ガスを吸気に導入する高圧排気還流通路(排気再循環手段)15が設けられている。また、高圧排気還流通路15は、酸素濃度センサ13の上流のインテークマニフォールド11に、高温・高圧の排ガスが吸気に戻る量、即ち排気還流ガスの流量を調整する排気還流バルブ(排気再循環手段)16を介して接続されている。また、高圧排気還流通路15には、インテークマニフォールド11に導入する排ガスを冷却する排気還流クーラ(排気再循環手段)17が設けられている。
【0024】
インテークマニフォールド11の上流には、最上流から吸入された新気中のゴミを取り除くエアークリーナ18と、圧縮され高温となった新気を冷却するインタークーラ20と、新気の流量を調整しつつ、後述する低圧排気還流通路41より導入される低圧の排気還流ガスの流量を調整するための電子制御スロットルバルブ(排気再循環手段)39と、排気のエネルギを利用し吸入された新気を圧縮するターボチャージャ(過給手段)19の図示しないコンプレッサハウジングとが吸気管(吸気通路)21を介してインテークマニフォールド11に接続されている。また、高圧排気還流通路15より導入される排気還流ガスの流量を調整するための電子制御スロットルバルブ(排気再循環手段)22は、インテークマニフォールド11と吸気管21との間に配設されている。電子制御スロットルバルブ22,39には、スロットルバルブの開き度合を検出するスロットルポジションセンサ23,40が備えられている。
【0025】
吸気管21のエアークリーナ18とターボチャージャ19のコンプレッサハウジングとの間の吸気管21には、吸入される空気の温度を検出する吸気温度センサ38が吸気管21内に突出するように設けられている。
エキゾーストマニフォールド12の下流には、ターボチャージャ19に排ガスを導入する図示しないタービンハウジングと、排気管24とが連通するように設けられている。
【0026】
排気管24には、上流から順番に排ガス中の被酸化成分を酸化する酸化触媒25と、排ガス中の黒鉛を主成分とする微粒子状物資を捕集し燃焼させるディーゼルパティキュレートフィルタ26と、排ガス中の窒素酸化物(以下、NOx)をアンモニアを用いて還元浄化する選択還元型触媒28とが連通するように設けられている。なお、酸化触媒25とディーゼルパティキュレートフィルタ26は、ケーシング29内に配設されている。また、選択還元型触媒28は、ケーシング30内に配設されている。
【0027】
選択還元型触媒28は、尿素水インジェクタ36より噴射された尿素水が加水分解を起こして発生したアンモニアが供給され排ガス中のNOxを還元浄化するものである。
排気管24のターボチャージャ19とケーシング29との間には、排ガス中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサ31が排気管24内に突出するように設けられている。
ケーシング29の酸化触媒25の上流には、酸化触媒25に流入する排ガスの温度を検出する排気温度センサ32がケーシング29内に突出するように設けられている。また、ケーシング29の酸化触媒25とディーゼルパティキュレートフィルタ26との間には、酸化触媒25から流出する排ガスの温度を検出する排気温度センサ33がケーシング29内に突出するように設けられている。そして、ケーシング29のディーゼルパティキュレートフィルタ26の下流には、ディーゼルパティキュレートフィルタ26から流出する排ガスの温度を検出する排気温度センサ34がケーシング29内に突出するように設けられている。
【0028】
排気管24のディーゼルパティキュレートフィルタ26と選択還元型触媒28との間、即ち排気管24のケーシング29とケーシング30との間には、排ガス内のNOxの濃度を検出するNOxセンサ35が排気管24内に突出するように設けられている。そして、排気管24のNOxセンサ35とケーシング30との間には、尿素水インジェクタ(尿素水供給手段)36が排気管24内に突出するように設けられている。なお、NOxセンサ35の検出値は、センサの特性上、アンモニアに影響されるものである。即ち、NOxセンサ35の検出値は、排ガス中のNOxの濃度が一定であっても、アンモニアの濃度が濃くなると、高い検出値(NOx濃度)を出力する。
【0029】
尿素水インジェクタ36は、選択還元型触媒28にアンモニアを供給するための尿素水を排気管24内に噴射するものである。なお、尿素水は、尿素水配管46を介して尿素水タンク(尿素水貯留手段)45より供給される。そして、尿素水インジェクタ36から選択還元型触媒28までの距離は、尿素水インジェクタ36から噴射された尿素水が加水分解されアンモニアを発生するまでに必要な距離以上に設定されている。したがって、尿素水インジェクタ36より噴射された尿素水は、選択還元型触媒28に到達するまでに加水分解を起こしアンモニアを発生する。
【0030】
尿素水タンク45は、尿素水を貯留するものである。そして、尿素水タンク45には、尿素水の残量を検出する尿素水残量センサ(尿素水残量検出手段)47が配設されている。
排気管24の選択還元型触媒28の下流、即ちケーシング30の下流には、選択還元型触媒28から流出する排ガス内のNOxの濃度を検出するNOxセンサ37が排気管24内に突出するように設けられている。なお、NOxセンサ37は、NOxセンサ35と同様に、センサの特性上、アンモニアに影響されるものである。即ち、NOxセンサ37の検出値は、排ガス中にNOxの濃度が一定であっても、アンモニアの濃度が濃くなると、高い検出値(NOx濃度)を出力する。
【0031】
電子制御スロットルバルブ39とターボチャージャ19との間の吸気管21と、ディーゼルパティキュレートフィルタ29の下流の排気管24には、それぞれが連通するように低温・低圧の排ガスの一部を吸気へ戻す、即ち低温・低圧の排気還流ガスを吸気に導入する低圧排気還流通路(排気再循環手段)41が設けられている。また、低圧排気還流通路41には、排気が吸気に戻る量、即ち排気還流ガスの流量を調整する排気還流バルブ(排気再循環手段)42と、吸気へ戻す排気を冷やす排気還流クーラ43と、吸気に戻す排ガスから異物を取り除く排気還流フィルタ(排気再循環手段)44とが設けられている。
【0032】
また、ナビゲーションシステム(警報手段)50は、車室内に配設されている。そして、ナビゲーションシステム50は、図示しないディスプレイやスピーカを備え、ディスプレイに地図を表示し、音声案内によって運転者を目的地まで案内するものである。また、ナビゲーションシステム50は、車両の異常やエンジン1の異常等のディスプレイへの表示や、スピーカによる音声の発話によって、運転者に注意喚起及び警告を促す機能を有している。
【0033】
そして、燃料噴射ノズル2、酸素濃度センサ13,31、吸気温度センサ14,38、排気還流バルブ16,42、電子制御スロットルバルブ22,39、スロットルポジションセンサ23,40、排気温度センサ32,33,34、NOxセンサ35,37、尿素水インジェクタ36、尿素水残量センサ47、ナビゲーションシステム50及びエンジン1の運転状態を検出する各種センサやエンジン1が搭載される車両の運転者が操作するアクセルペダルの操作度合いを検出するアクセルポジションセンサ等の各種装置は、エンジン1の総合的な制御を行うための制御装置であって入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、タイマ及び中央演算処理装置(CPU)等を含んで構成されるエンジンコントロールユニット(警報制御手段、運転制御手段)60と電気的に接続されている。当該エンジンコントロールユニット60は、各種センサ類からの各情報に基づき各種装置の作動を制御して、エンジン1の運転を制御するものである。
【0034】
エンジンコントロールユニット60の入力側には、酸素濃度センサ13,31、吸気温度センサ14,38、スロットルポジションセンサ23,40、排気温度センサ32,33,34、NOxセンサ35,37、尿素水残量センサ47及びアクセルポジションセンサ等のセンサ類が電気的に接続されており、これら各種装置及び各種センサ類からの検出情報が入力される。
【0035】
一方、エンジンコントロールユニット60の出力側には、燃料噴射ノズル2、排気還流バルブ16,42、電子制御スロットルバルブ22,39、尿素水インジェクタ36及びナビゲーションシステム50が電気的に接続されている。
そして、エンジンコントロールユニット60は、各センサの検出値に基づき、燃料噴射ノズル2からのプレ噴射、メイン噴射及びアフタ噴射の燃料噴射量、噴射時期と、排気還流バルブ16,42や電子制御スロットルバルブ22,39の開度と尿素水インジェクタ36からの尿素水の噴射量等を最適に制御し、エンジン1を高精度に制御する。
【0036】
また、エンジンコントロールユニット60は、図示しない圧力センサにて検出されるディーゼルパティキュレートフィルタ26の上流と下流の排ガスの圧力より、圧力差を算出し所定圧力差となった場合や、運転者の操作によって図示しない強制再生ボタン等が操作された場合に、燃料噴射ノズル2からの燃料の噴射量や噴射時期を制御して、ディーゼルパティキュレートフィルタ26内に堆積した微粒子状物質を燃焼させるディーゼルパティキュレートフィルタ再生処理を実施する。
【0037】
更にエンジンコントロールユニット60は、尿素水残量センサ47にて検出される尿素水タンク45内の尿素水残量に基づいて、尿素水タンク45内の尿素水残量が少なくなるとエンジン1の運転領域と、吸気管21への排ガスの導入量と、尿素水インジェクタ36からの尿素水の供給量とを制御し、更にナビゲーションシステム50による尿素水の残量が不足している旨を注意喚起或いは警告する尿素水残量運転制御を実施する。
【0038】
次に本発明に係る内燃機関の排気浄化装置のエンジンコントロールユニット60での尿素水残量運転制御について説明する。
図2は、本発明に係る内燃機関の排気浄化装置のエンジンコントロールユニット60での尿素水残量運転制御の制御フローチャートである。なお、本制御は、エンジン1の運転時に常に実施されるものである。
【0039】
図2に示すように、ステップS10では、尿素水残量を検出する。詳しくは、尿素水残量センサ47にて尿素水タンク45に貯留されている尿素水の残量を検出する。そして、ステップS12に進む。
ステップS12では、尿素水残量が第1所定値(本発明の第2閾値に相当)以下か、否かを判別する。判別結果が真(Yes)で尿素水残量が第1所定値以下であれば、ステップS14に進む。また、判別結果が否(No)で尿素水残量が第1所定値以下でなければ、尿素水残量が十分にあるとして、本ルーチンをリターンする。なお、第1所定値は、後述する第4所定値よりも大きく、運転者に尿素水の残量が少なくなったことについて注意喚起を開始する残量(例えば、本実施例では3000km走行可能な残量)に設定される。
【0040】
ステップS14では、注意喚起を開始する。詳しくは、ナビゲーションシステム50のディスプレイに尿素水の残量が不足している旨と、近隣の尿素水補給設備までの経路を表示する。また、当該近隣の尿素水補給設備までの経路の案内を開始する。そして、ステップS16に進む。
ステップS16では、尿素水残量が第2所定値以下か、否かを判別する。判別結果が真(Yes)で尿素水残量が第2所定値以下であれば、ステップS18に進む。また、判別結果が否(No)で尿素水残量が第2所定値以下でなければ、本ルーチンをリターンする。なお、第2所定値は、第4所定値より大きく第1所定値以下で、且つエンジン1の運転を後述する第2運転制限状態とする残量に設定される。
【0041】
ステップS18では、尿素水残量が第3所定値以下か、否かを判別する。判別結果が真(Yes)で尿素水残量が第3所定値以下であれば、ステップS20に進む。また、判別結果が否(No)で尿素水残量が第3所定値以下でなければ、ステップS22に進む。なお、第3所定値は、第4所定値より大きく第2所定値未満で、且つエンジン1の運転を後述する第1運転制限状態とする残量に設定される。
【0042】
ステップS20では、尿素水残量が第4所定値(本発明の第1閾値に相当)以下か、否かを判別する。判別結果が真(Yes)で尿素水残量が第4所定値以下であれば、ステップS24に進む。また、判別結果が否(No)で尿素水残量が第4所定値以下でなければ、ステップS26に進む。なお、第4所定値は、運転者へ尿素水の残量が少なくなったことについて警告を開始する残量(例えば、本実施例では2400km走行可能な残量)に設定される。
【0043】
また、ステップS22では、エンジン1の運転を第2運転制限状態とする。そして、本ルーチンをリターンする。なお、第2運転制限状態とは、排気還流バルブ16,42及び電子制御スロットルバルブ22,3の作動、即ち吸気への排気還流ガスの導入のみでNOxの排出量を規定値以下とする第1運転制限状態を含み、更に排気還流バルブ16及び排気還流バルブ42の作動に加え、選択還元型触媒28での還元浄化にてNOxの排出量を規定値以下とするエンジン1の運転状態(例えば、中速中負荷以下)である。
【0044】
ステップS24では、警告を開始する。詳しくは、ナビゲーションシステム50のディスプレイに尿素水の残量が不足している旨の警告を表示する。そして、ステップS28に進む。
また、ステップS26では、エンジン1の運転を第1運転制限状態とする。そして、本ルーチンをリターンする。なお、第1運転制限状態とは、排気還流バルブ16,42及び電子制御スロットルバルブ22,3の作動、即ち吸気への排気還流ガスの導入のみでNOxの排出量を規定値以下とするエンジン1運転状態(例えば、中速低負荷以下)である。
【0045】
ステップS28では、尿素水残量が第5所定値(所定値)以下か、否かを判別する。判別結果が真(Yes)で尿素水残量が第5所定値以下であれば、ステップS30に進む。また、判別結果が否(No)で尿素水残量が第5所定値以下でなければ、本ルーチンをリターンする。なお、第5所定値は、第4所定値未満であって、エンジン1の運転停止処理を開始する残量(例えば、本実施例では2350km走行可能な残量)に設定される。
【0046】
ステップS30では、エンジン1の運転停止処理を実施する。詳しくは、車両を停止させるために、エンジン1の運転の制限を徐々に増して、エンジン1を停止させる。そして、本ルーチンをリターンする。
このように本発明の内燃機関の排気浄化装置では、尿素水残量センサ47にて尿素水タンク45内に貯留されている尿素水の残量を検出し、尿素水残量が第1所定値以下であれば注意喚起を開始する。また、尿素水残量が第2所定値以下であって第3所定値より多ければ、エンジン1の運転を排気還流バルブ16,42及び電子制御スロットルバルブ22,3の作動、即ち吸気への排気還流ガスの導入のみでNOxの排出量を規定値以下とする第1運転制限状態を含み、更に排気還流バルブ16及び排気還流バルブ42の作動に加え、選択還元型触媒28での還元浄化にてNOxの排出量を規定値以下とするエンジン1の運転状態である第2運転制限状態とする。また、尿素水残量が第3所定値以下であって第4所定値より多ければ、エンジン1の運転を排気還流バルブ16,42及び電子制御スロットルバルブ22,3の作動、即ち吸気への排気還流ガスの導入のみでNOxの排出量を規定値以下とするエンジン1運転状態である第1運転制限状態とする。また、運転者に尿素水残量が第4所定値以下であると警告を開始する。そして、尿素水残量が第5所定値以下であるとエンジン1の運転停止処理を実施している。
【0047】
このように、尿素水の残量が減少するにつれ、エンジン1の運転を吸気への排気還流ガスの導入のみでNOxの排出量を規定値以下とする第1運転制限状態を含み、更に吸気への排気還流ガスの導入に加え、選択還元型触媒28での還元浄化にてNOxの排出量を規定値以下とすることのできる第2運転制限状態と、排気還流バルブ16,42及び電子制御スロットルバルブ22,3の作動、即ち吸気への排気還流ガスの導入のみでNOxの排出量を規定値以下とする第1運転制限状態と、運転停止と、を段階的に切り換えている。
【0048】
したがって、尿素水の残量が少なくなると、エンジン1の運転を吸気への排気還流ガスの導入のみでNOxの排出量を規定値以下とする第1運転制限状態に制限しており、NOxの排出量の制限を選択還元型触媒28による還元浄化に依存していないので、例え尿素水が無くなったとしても、エンジン1を運転させ車両を走行させることができる。即ち、尿素水を補充することのできる尿素水補給設備まで車両を走行させることができる。
【0049】
また、例えば、エンジン1の運転を吸気への排気還流ガスの導入のみでNOxの排出量を規定値以下とする第1運転制限状態を含み、更に吸気への排気還流ガスの導入に加え、選択還元型触媒28での還元浄化にてNOxの排出量を規定値以下とする第2運転制限状態では、NOxの排出量を既定値以下に制限するためにエンジン1を中速中負荷以下で運転する必要がある。また、エンジン1の運転を吸気への排気還流ガスの導入のみでNOxの排出量を規定値以下とする第1運転制限状態では、NOxの排出量を規定値以下に制限するために第2運転制限状態よりも回転速度及び負荷が低い中速低負荷以下で運転する必要がある。
【0050】
このように尿素水の残量の減少にともなって、高速高負荷領域及び中速中負荷領域でのエンジン1の運転をできなくなるように制限することで、車両の運転に対する違和感を運転者に与えることができる。
したがって、運転者への注意喚起に加え、車両の運転に対する違和感を運転者に与えることで、早期に尿素水の補充を促すことができる。
【0051】
また、尿素水の残量が第1所定値以下となると、ナビゲーションシステム50のディスプレイに尿素水の残量が不足している旨と、近隣の尿素水補給設備までの経路を表示して案内を行うようにしているので、注意喚起の段階で近隣の尿素水補給設備を案内することにより、早期の尿素水補充を促すことができる。
また、ディーゼルパティキュレートフィルタ26から流出された排ガスを吸気管21の過給機19の上流に導入するようにしている。
【0052】
したがって、吸気負圧の大きい過給機の上流に排ガスを導入することで、排気圧力が低いエンジン1の低速低負荷運転時に、多量の排ガスを吸気管21に導入することができる。
よって、エンジン1の運転を吸気への排気還流ガスの導入のみでNOxの排出量を規定値以下とすることができる。
【0053】
以上で発明の実施形態の説明を終えるが、本発明の形態は上記実施形態に限定されるものではない。
上記実施形態では、尿素水残量が第2所定値以下となってからエンジン1の運転を第2運転制限状態となるようしているが、これに限定されるものではなく、第1所定値と第2所定値とを同一値とし、尿素水残量が第1所定値以下となって注意喚起を開始すると共に、エンジン1の運転を第2運転制限状態とするようにしてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 エンジン(内燃機関)
15 高圧排気還流通路(排気再循環手段)
16 排気還流バルブ(排気再循環手段)
17 排気還流クーラ(排気再循環手段)
19 ターボチャージャ(過給手段)
21 吸気管(吸気通路)
22 電子制御スロットルバルブ(排気再循環手段)
28 選択還元型触媒
36 尿素水インジェクタ(尿素水供給手段)
39 電子制御スロットルバルブ(排気再循環手段)
41 低圧排気還流通路(排気再循環手段)
42 排気還流バルブ(排気再循環手段)
43 排気還流クーラ(排気再循環手段)
44 排気還流フィルタ(排気再循環手段)
45 尿素水タンク(尿素水貯留手段)
47 尿素水残量センサ(尿素水残量検出手段)
50 ナビゲーションシステム(警報手段)
60 エンジンコントロールユニット(警報手段、運転制御手段)
図1
図2