特許第6061177号(P6061177)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061177
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】遊技機及び不正検出装置
(51)【国際特許分類】
   A63F 5/04 20060101AFI20170106BHJP
【FI】
   A63F5/04 512Z
   A63F5/04 512C
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-110410(P2012-110410)
(22)【出願日】2012年5月14日
(65)【公開番号】特開2013-236705(P2013-236705A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2015年3月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】591142507
【氏名又は名称】株式会社北電子
(74)【代理人】
【識別番号】100086759
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 喜平
(74)【代理人】
【識別番号】100109128
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 功
(74)【代理人】
【識別番号】100152803
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 哲也
(72)【発明者】
【氏名】岩田 旭
(72)【発明者】
【氏名】堀尾 恭佑
【審査官】 池谷 香次郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−289795(JP,A)
【文献】 特開平06−178850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63F 5/04
A63F 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の内容で遊技を実行する遊技機であって、
所定の導電材料を薄膜形成した薄膜部と、
前記薄膜部を付着させる被付着部材とを備え、
前記薄膜部は、所定の導電率を有する金属又は合金からなり、前記遊技機の近傍で発生した静電気により直接又は間接的に帯電する位置に配置されるとともに、帯電した静電気により破損可能に所定の厚みで形成された
ことを特徴とする遊技機。
【請求項2】
所定の融点を有する材料を用いて、前記薄膜部の近傍に形成され、又は、前記薄膜部の表面に積層されたコーティング層を有し、
前記コーティング層は、帯電した前記薄膜部の昇温によって溶解可能に形成された
ことを特徴とする請求項1記載の遊技機。
【請求項3】
所定の導電材料を用いて形成されるとともに、前記薄膜部に対して近接した位置に設けられた板金を有し、
前記板金は、帯電した前記薄膜部により帯電するとともに、前記薄膜部との間で放電することで、前記薄膜部における電流の流れを促進可能に形成された
ことを特徴とする請求項1又は2記載の遊技機。
【請求項4】
遊技機の近傍で静電気を発生させて不正に遊技媒体を払い出させる不正行為を検出するための不正検出装置であって、
所定の導電材料を薄膜形成した薄膜部と、
前記薄膜部を付着させる被付着部材と、
所定の融点を有する材料を用いて、前記薄膜部の近傍に形成され、又は、前記薄膜部の表面に積層されたコーティング層と、
所定の導電材料を用いて形成されるとともに、前記薄膜部に対して近接した位置に設けられた板金と、
前記遊技機における所定の箇所に前記不正検出装置を取り付け可能とするための取付部とを備え、
前記薄膜部は、所定の導電率を有する金属又は合金からなり、前記遊技機の近傍で発生した静電気により直接又は間接的に帯電する位置に配置されるとともに、帯電した静電気により破損可能に所定の厚みで形成され、
前記コーティング層は、帯電した前記薄膜部の昇温によって溶解可能に形成され、
前記板金は、帯電した前記薄膜部により帯電するとともに、前記薄膜部との間で放電することで、前記薄膜部における電流の流れを促進可能に形成された
ことを特徴とする不正検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の遊技を実行する遊技機と、遊技機に対して行われた不正行為を検出する不正検出装置に関する
【背景技術】
【0002】
遊技ホールに設置される遊技機としてスロットマシンやパチンコ機が知られている。
スロットマシンは、一般に、遊技者が遊技媒体となる遊技用のメダルをメダル投入口から投入してスタートレバーを押下することにより、外周面に所定の絵柄や数字,文字等の図柄を表示した複数のリール(通常3個のリール)が回転を開始し、定速回転後、任意のタイミングで停止ボタンが押下されることでリールが停止し、停止表示されたリール上の図柄の組合せに応じて所定数のメダルがメダル払出口より払い出される遊技機である。
【0003】
また、パチンコ機は、遊技者が発射ハンドルを操作して遊技球を盤面に発射させ、この発射した遊技球が所定の入賞口に入賞することで、所定数の入賞球が払い出されるという遊技機である。
【0004】
これらスロットマシンやパチンコ機に代表される遊技機においては、以下に説明するような内容の不正行為が行われることがあった。
例えば、簡易な操作で静電気を発生可能な小型の器具、具体的には電子ライターなどを、遊技機の前面に向けて操作し、静電気を発生させて高電圧を印加し、遊技機の内部に配置された操作基板に大きな放電電流を流し、さらに、この操作基板に接続されたハーネスを通じて主制御基板や副制御基板に放電電流を流して、それら主制御基板等の誤動作を誘発して、遊技媒体であるメダル等を不正に払い出させるという不正行為が行われることがあった。
【0005】
ここで、主制御基板等の誤動作には、例えば、現在の遊技状態が出玉率の変動する遊技状態ではないにもかかわらず通常よりも出玉率が高いものとして制御プログラムを動作させるものや、クレジットが満タンではないにもかかわらず満タンであるものと誤認識させるものなどがあり、いずれの場合もメダル等が不正に払い出されて遊技ホールの損失につながることから、遊技場業界における大きな問題となっていた。
また、不正に静電気を発生させることで高電圧が印加されると、操作基板のデバイス回路に大きな放電電流が流れるため、操作基板自体が損傷するおそれがあった。
【0006】
そこで、このような不正行為による被害を防止する手法として、例えば、制御基板を接地することが考えられる(特許文献1、2参照。)。
具体的には、接地用の被覆電線であるアース線の一端を制御基板に接続し、他端を遊技機の筐体やフレームなどに接続する。これにより、制御基板に帯電した静電気を除去できるので、その静電気によるデバイス回路への悪影響を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−166027号公報
【特許文献2】特開2002−292070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は静電気を発生させる不正行為を検出可能とする遊技機及び不正検出装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するため、本発明の遊技機は、所定の内容で遊技を実行する遊技機であって、所定の導電材料を薄膜形成した薄膜部と、薄膜部を付着させる被付着部材とを備え、薄膜部は、所定の導電率を有する金属又は合金からなり、遊技機の近傍で発生した静電気により直接又は間接的に帯電する位置に配置されるとともに、帯電した静電気により破損可能に所定の厚みで形成された構成としてある。
【0011】
また、本発明の不正検出装置は、遊技機の近傍で静電気を発生させて不正に遊技媒体を払い出させる不正行為を検出するための不正検出装置であって、所定の導電材料を薄膜形成した薄膜部と、薄膜部を付着させる被付着部材と、所定の融点を有する材料を用いて、薄膜部の近傍に形成され、又は、薄膜部の表面に積層されたコーティング層と、薄膜部に用いられる材料よりも導電率の高い材料を用いて形成されるとともに、薄膜部に接触又は近接する位置に設けられた板金と、遊技機における所定の箇所に不正検出装置を取り付け可能とするための取付部とを備え、薄膜部は、所定の導電率を有する金属又は合金からなり、遊技機の近傍で発生した静電気により直接又は間接的に帯電する位置に配置されるとともに、帯電した静電気により破損可能に所定の厚みで形成され、コーティング層は、帯電した薄膜部の昇温によって溶解可能に形成され、板金は、帯電した薄膜部により帯電するとともに、薄膜部との間で放電することで、薄膜部における電流の流れを促進可能に形成された構成としてある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係るスロットマシンの構成を示す正面図である。
図2】本発明の実施形態に係るスロットマシンの内部構成を示す斜視図である。
図3】本発明の実施形態に係るスロットマシンの制御系の構成を示すブロック図である。
図4】中パネル部の構成を示す外観斜視図である。
図5】中パネル部の構成を示す分解斜視図である。
図6】中パネルの構成を示す分解斜視図である。
図7】枠体に嵌合された挿通部材及び板金と薄膜部との位置関係を示す外観斜視図である。
図8】薄膜部が破損した状態を示すスロットマシンの正面図である。
図9】薄膜部が破損した状態及びコーティング層が溶解した状態を示す中パネルの背面斜視図である。
図10】一体化された不正検出装置の正面側の構成を示す外観斜視図である。
図11図10に示す不正検出装置の背面側の構成を示す外観斜視図である。
図12図10に示す不正検出装置の構成を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る遊技機及び不正検出装置の好ましい実施形態について、各図を参照して説明する。
なお、本発明の不正検出装置は、遊技機の近傍で不正に静電気を発生させて出玉を払い出させる不正行為を検出可能とするものであり、遊技機における任意の箇所に設けることが可能となっている。
本実施形態においては、この不正検出装置の基本的な構成及び不正行為を検出する原理の概略について先に説明し、その後に、この不正検出装置が設けられた遊技機の構成について説明する。
【0015】
[不正検出装置の基本構成及び原理]
不正検出装置は、少なくとも、所定の材料を薄膜形成した薄膜部と、この薄膜部を付着させる被付着部材とを備えている。
ここで、薄膜部を形成する材料には、導電率の高い導電材料が用いられる。
一方、被付着部材を形成する材料には、導電率の低い絶縁材料が用いられる。
このような構成を有する薄膜部及び被付着部材の近傍において、電荷量の多い静電気が発生すると、薄膜部が破損するという現象が生じる。このような現象が生じる理由として、次のような理由が推定される。
静電気を発生可能な物体、例えば、圧電素子など(ここでは、「帯電体」をいうものとする)を内蔵した不正手段を薄膜部及び被付着部材に近づけた状態で、その不正手段を操作して静電気を発生させて帯電体に電荷を帯電させると、導電材料で形成された薄膜部が静電誘導によって帯電し、かつ、絶縁材料で形成された被付着部材が誘電分極によって帯電する。ここで、帯電体に帯電した電荷の電荷量が非常に多いときは、薄膜部に帯電する電荷の電荷量も多くなり、また、被付着部材に帯電する電荷の電荷量も多くなる。そして、薄膜部に帯電した電荷と被付着部材に帯電した電荷とが同じ極性であるために、クーロン力の斥力によって薄膜部と被付着部材が互いに反発しあい、薄膜部のうち被付着部材への付着力の弱い部分がせん断し、欠落することによって破損する。特に、薄膜部は、薄膜形成されており、厚みが非常に薄いことから、せん断可能なせん断荷重が小さく、少しでも外力が加わると容易にせん断する。このため、不正に発生させた静電気の電圧が高く、帯電体,薄膜部,被付着部材のそれぞれに帯電する電荷の電荷量が多くなると、薄膜部と被付着部材との間に生じる斥力が容易にせん断荷重を超過するようになって、薄膜部のせん断が容易に引き起こされる。
こうした物理的現象を利用して、遊技機における任意の箇所、特に、遊技機の近傍で発生した静電気により帯電可能な位置に、薄膜部及び被付着部材を不正検出装置として配置しておく。これにより、遊技機の近傍で不正に発生した静電気に起因して薄膜部及び被付着部材が帯電し、これらの間で斥力が作用して薄膜部が破損するので、この破損した状態を不正行為の痕跡として残存させることができる。そして、この痕跡を遊技場の店員が確認することにより、不正行為の発生を事後的に発見することができる。
【0016】
また、薄膜部は、上記の現象をより確実に生起させるために、帯電した静電気により破損可能な形状に形成される。
例えば、薄膜部は、nm単位又はμm単位の厚さで薄膜形成することができ、特に、その厚さを0.05〜100μm程度とすることができる。このように薄膜部の厚さを薄くすることにより、薄膜部のせん断に要するせん断荷重を小さくすることができる。よって、帯電した電荷によるクーロン力がそのせん断荷重を容易に超過することができ、これにより薄膜部をより確実に破損させることができる。
また、薄膜部のせん断方向の断面積は、できる限り小さくする。例えば、薄膜部を帯状(細長の矩形状)に形成する場合、その幅(短手方向の長さ)を10mm以下とする。このように薄膜部の幅を狭くすることにより、薄膜部のせん断方向の断面積が小さくなり、せん断荷重が小さくなるので、薄膜部を確実に破損させることができる。
なお、薄膜部の幅は、薄膜部の破損箇所を視認容易とするために、例えば1mm以上とすることが望ましい。
また、薄膜部の長手方向の長さは、任意に決めることができる。これは、せん断荷重が薄膜部の断面積によって決まる定量値であって、薄膜部の長さには影響されないからである。
【0017】
また、薄膜部を形成する材料としては、導電率が比較的高い材料、例えば、導電率が2.0×10[S/m]以上の金属又は合金を用いることができる。具体的には、例えば、銀(導電率:61.4×10[S/m](20℃の場合))、銅(59.0×10[S/m])、金(45.5×10[S/m])、アルミニウム(37.4×10[S/m])、亜鉛(16.9×10[S/m])、錫(7.9×10[S/m])、鉛(4.8×10[S/m])などの金属や、銅合金、アルミニウム合金、鉛合金、亜鉛合金などの合金を、薄膜部の材料として用いることができる。これら導電率の高い材料を用いて薄膜部を形成することにより、静電誘導により帯電する電荷の電荷量をより多くすることができ、クーロン力を大きくして、当該薄膜部を容易に破損させることができる。
【0018】
このような構成を有する薄膜部は、導電率が低い絶縁材料で形成された被付着部材に付着される。被付着部材は、導電率が低い絶縁材料、例えば、導電率が10−10[S/m]以下の材料を用いて形成される。具体的には、例えば、アクリル樹脂(導電率:10−13[S/m]以下)、セルロイド(10−10[S/m]以下)、ポリエチレンテレフタレート(10−11[S/m]以下)、ポリカーボネート(10−16[S/m]以下)、ABS樹脂(10−12[S/m]以下)などの合成樹脂、ガラス(10−12[S/m]以下)、ゴム(10−16[S/m]以下)、磁器(10−14[S/m]以下)などを材料として用いて形成することができる。
また、被付着部材は、誘電分極により帯電する電荷の電荷量をより多くするために、誘電率の高い材料を用いることが望ましい。なお、上記の各材料の比誘電率は、次の通りである。アクリル樹脂(2.7〜4.5)、ABS樹脂(2.4〜4.1)、ガラス(5.4〜9.9)、ゴム(2.0〜3.5)、磁器(4.4〜7.0)
【0019】
なお、被付着部材を形成する材料は、本実施形態では絶縁材料とするが、絶縁材料に限るものではなく、導電材料を用いることもできる。この場合、帯電体で静電気が発生すると、被付着部材では静電誘導により電荷が帯電し、この被付着部材と薄膜部との間にクーロン力が作用するので、薄膜部を破損させることができる。
【0020】
また、上記の説明においては、静電気が発生した帯電体から直接影響を受けて薄膜部及び被付着部材が帯電することとしているが、直接影響を受けることに限るものではなく、間接的に影響を受けて帯電する構成とすることもできる。
例えば、薄膜部及び被付着部材と帯電体との間に介在物が介在している場合、帯電体に電荷が帯電すると、介在物が静電誘導又は誘電分極により帯電する。ここで、帯電体のうち介在物に近い箇所に帯電した電荷が負電荷の場合、介在物のうち帯電体に近い箇所には正電荷が帯電し、帯電体から遠い箇所には負電荷が帯電する。そして、介在物に帯電した負電荷により、薄膜部及び被付着部材が帯電する。
このように、薄膜部及び被付着部材と帯電体との間に介在物が介在している場合でも、帯電体が帯電することにより、薄膜部及び被付着部材が間接的に帯電する。そして、帯電体に帯電した電荷の電荷量が多いときは、帯電した薄膜部と被付着部材との間に生じる斥力が大きくなり、薄膜部が破損する。
【0021】
ここまで、不正検出装置を構成する薄膜部と被付着部材について説明したが、不正検出装置は、さらに、薄膜部の表面にコーティング層を積層した構成とすることができる。
コーティング層は、所定の融点を有する材料、特に、融点の比較的低い材料で形成されている。そして、コーティング層は、薄膜部で発生したジュール熱が伝導することによって溶解する。
すなわち、薄膜部が静電誘導により帯電する際、この帯電に伴って電子が移動して電流が流れるが、この電流により薄膜部でジュール熱が発生し、このジュール熱が伝導してコーティング層が昇温し溶解する。
この現象を利用して、遊技機における任意の箇所に、薄膜部と被付着部材とコーティング層を不正検出装置として設けておく。これにより、遊技機の近傍で不正に静電気が発生した場合に、薄膜部が帯電し電流が流れてジュール熱が発生し、このジュール熱が伝導してコーティング層が溶解する。これにより、その溶解した状態を不正行為の痕跡として残存させることができ、遊技場の店員がその痕跡を確認することにより、不正行為の発生を知得できる。
【0022】
なお、コーティング層は、比較的融点の低い材料、例えば、融点が250℃以下の材料で形成することが望ましい。具体的には、アクリル樹脂(融点:80〜105℃)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS樹脂)(70〜110℃)、ニトロセルロース(171℃)、塩化ビニル樹脂(180℃)、ポリスチレン樹脂(230℃)などの樹脂を、コーティング層の材料として用いることができる。
また、コーティング層は、薄膜部の表面に積層するのではなく、薄膜部で生じたジュール熱が伝導可能な薄膜部の近傍に設けることができる。
【0023】
さらに、コーティング層を溶融可能とするために、薄膜部は、比熱容量の小さい材料を用いて形成することが望ましい。
比熱容量の小さい材料の具体例としては、例えば、鉛(128[J/kg・K])、金(129[J/kg・K])、錫(228[J/kg・K])、銀(232[J/kg・K])、銅(385[J/kg・K])、亜鉛(389[J/kg・K])などを挙げることができる。
【0024】
なお、このように、薄膜部は、コーティング層の溶融を考慮して比熱容量の小さい材料で形成することが望ましく、かつ、前述したように、帯電する電荷の電荷量をより多くするために、導電率が高い材料で形成することが望ましい。しかも、薄膜部は、薄膜形成されることから、展性の高い材料又は蒸着可能な材料で形成することが望ましく、かつ、せん断容易とするために、断面積に対してせん断応力の小さい材料で形成することが望ましい。
薄膜部は、これらの条件を最大限充足するような材料を用いて形成される。また、薄膜部は、せん断可能なせん断荷重をできる限り小さくするために、断面積の小さい形状に形成される。これらにより、薄膜部は、帯電した静電気により破損可能となる。
【0025】
さらに、不正検出装置は、所定の導電材料で形成された板金を、薄膜部に対して近接した位置に設ける構成とすることができる。
板金は、薄膜部で生じた静電誘導による電子の移動を促進するための電流促進部材である。
板金の機能の詳細について、さらに説明する。板金が設けられていない場合でも、帯電体で電荷量の多い静電気が発生すると、薄膜部と被付着部材がそれぞれ帯電し、斥力が作用して、薄膜部が破損する。ここで、薄膜部は、導電率の高い材料で形成されるものの、破損容易とするために薄膜状に形成される。このため、電気抵抗が高くなっており、移動する電子がその分減少して、ジュール熱の発生量が減少し、これにより、コーティング層が溶解するまでの時間が遅くなる。そこで、導電率が高くかつ電気抵抗の小さい材料で形成された板金を、薄膜部に接触又は近接した位置に設けるようにする。これにより、薄膜部の帯電に伴って板金にて静電誘導が生じて帯電し、薄膜部と板金との間で放電が起こって、薄膜部の電子が板金に移動し、電子が減少した薄膜部の内部で電気的均衡を保持しようとしてさらに電子が移動して電流が増加するため、その分ジュール熱の発生量が増加して、コーティング層の昇温が加速する。これにより、コーティング層が早期に破損するので、不正行為の痕跡を確実に残存させることができる。
【0026】
なお、板金を形成する材料としては、導電率が比較的高い金属、例えば、導電率が2.0×10[S/m]以上の金属を用いることができる。具体例として、例えば、銅(導電率:59.0×10[S/m](20℃の場合))や鉄(9.9×10[S/m])などを挙げることができる。
【0027】
以上が、不正検出装置の基本的な構成と不正行為を検出する原理の概略である。このような構成を備えた不正検出装置は、遊技機における任意の箇所に設けることが可能であるが、具体例として、薄膜部が破損している状態を視認容易な箇所、例えば、遊技機であるスロットマシンの前面の中程に装着された中パネルに設けることができる。
以下、中パネルに不正検出装置が設けられた遊技機の構成について、説明する。
【0028】
[遊技機]
不正検出装置を装備可能な遊技機には、スロットマシン、パチンコ機、パロットなど様々な種類があるが、本実施形態では、スロットマシンの中パネルに不正検出装置を設けた場合について説明する。
【0029】
本実施形態のスロットマシン1は、複数のリールを回転させることによって遊技媒体であるメダルを獲得できる回胴式遊技機として構成されており、不正に発生させた静電気を検出するための薄膜部16が、スロットマシン1の正面に位置する前扉1aの中程に装着された中パネル11に形成された構成となっている。
以下、本実施形態に係るスロットマシン1について図1図3を参照しながら詳述する。
【0030】
これらの図に示すように、本実施形態のスロットマシン1は、回動可能に軸支された複数のリール41a,41b,41cが内蔵され、正面側が開口した筐体1bと、筐体1bの正面側を開閉可能に覆う前扉1aとで構成され、内部には、マイクロコンピュータ等で構成された主制御部9a、主制御部9aからの指令により、スピーカ8,LED等のランプ類を制御する副制御部9b、及び必要な機械,装置等が収納されている。
【0031】
前扉1aは、図2に示すように、スロットマシン1の筐体1bにヒンジ等を介して開閉可能に取り付けられる扉体で、この前扉1aに遊技操作に係る複数の操作手段が設けられて、スロットマシン1の正面部を構成している。
【0032】
操作手段としては、メダルが投入されるメダル投入口2と、装置内部にクレジットとして貯留されたメダルをゲームに投じるベットボタン2aと、各リール41a,41b,41cの回転を始動させるスタートレバー3と、回転している各リール41a,41b,41cを停止させる3つの停止ボタン5a,5b,5cなどが設けられている。
さらに、前扉1aには、各リール41a,41b,41cに表示された図柄を視認可能とする表示窓6が、各操作手段の上側に設けられている。また、前扉1aの上部や下部には、効果音、音声等が出力されるスピーカ8が設けられている。
【0033】
筐体1bの中央には、リール41a,41b,41cと、各リール41a,41b,41cを回転させる図示しないモータ及び回転位置を検出するセンサー等を備えるドラムユニット4が設けられる。
また、筐体1bの下部には、メダルの貯留・払出しを行うメダル払出装置7が設けられる。メダル払出装置7には、メダルを貯留するホッパー7aが設けられ、メダル投入口2より投入されたメダルは、メダルセレクタ2bにより検出されるとともに、ホッパー7aに誘導されるようになっている。
【0034】
主制御部9aは、メインCPU、メインROM、メインRAMなどが一体化された制御用チップの搭載された主基板、これを収容する基板ケース等から構成され、上記の各操作手段からの信号やメダルセレクタ2bからの信号に基づき、ドラムユニット4、メダル払出装置7などの各装置を制御することで、以下のようなスロットマシン遊技を進行させる。
【0035】
具体的には、遊技者によりメダル投入口2からメダルが投入されると、メダルがメダルセレクタ2bにより検出され、検出信号が主制御部9aに入力される。また、ベットボタン2aが操作された場合は、その操作信号が主制御部9aに入力される。主制御部9aは、これらの信号の入力の有無からゲーム可能なメダルの数を監視するとともに、スタートレバー3の操作を監視する。
ゲーム可能なメダルの数となったときに、スタートレバー3が操作されると、主制御部9aは、ドラムユニット4を駆動して、各リール41a,41b,41cを回転させる制御を行う。
【0036】
さらに、主制御部9aは、スタートレバー3が操作されたときに、ボーナス役、小役、再遊技役、ハズレの複数の抽選対象の中から今回ゲームの当選対象を抽選する内部抽選を行い、各停止ボタン5a,5b,5cが押下操作されたタイミングに基づき、抽選結果に応じた図柄の組合せで停止するよう、回転している各リール41a,41b,41cの停止制御を行う。
【0037】
また、主制御部9aは、各リール41a,41b,41cに停止表示される図柄の組合せを判定し、所定の図柄の組合せのときには、メダル払出装置7に対して所定数のメダルを払い出す制御を行い、メダルをメダル払出口7bから払い出す。
【0038】
このような内容で遊技が実行されるスロットマシン1においては、スロットマシン1の前方から前扉1aに向かって不正に静電気を発生させて、前扉1aの裏面に設けられた制御基板などに放電電流を流し、さらに、その制御基板に接続された主制御部9aの制御基板に放電電流を流して、主制御部9aの誤動作を誘発し、不正にメダルを払い出させる行為が発生することがある。
【0039】
そこで、そのような不正行為を検出可能とするために、スロットマシン1における所定の箇所に、所定の導電材料を用いて薄膜形成された薄膜部16を不正検出装置として設けることとした。これにより、不正に静電気が発生したときに、その薄膜部16が破損し、この破損した状態を不正発生の痕跡として残存させることができ、この痕跡を視認することで発生した不正行為を知得可能となっている。
ここで、薄膜部16は、スロットマシン1における任意の箇所に設けることが可能であるが、その具体例として、例えば、スロットマシン1における前扉1aの裏面の中程に装着される中パネル部10に薄膜部16を設けることができる。
この薄膜部16が付設された中パネル部10の構成について、図4図7を参照しつつ説明する。
【0040】
[中パネル部]
中パネル部10は、スロットマシン1の前扉1aにおいてメダル投入口2等からなる操作手段の上方に取り付けられる装着部品であって、図4図7に示すように、板状の中パネル11と、この中パネル11を支持する枠体12と、枠体12の前面側12aの下部に設けられる挿通部材13と、同じく枠体12の前面側12aの下部に設けられる板金14とにより構成されている。
【0041】
中パネル11は、矩形板状の部材であって、図6に示すように、透明の材料で形成された透明板15と、透明板15の背面側15bに付着させる薄膜部16と、透明板15の背面側15bに形成される絵柄層17と、薄膜部16及び絵柄層17を覆うようにして透明板15の背面側15bに形成されるコーティング層18とが積層された構造となっている。
【0042】
透明板15は、透明の材料で形成された矩形板状の部材である。この透明板15は、薄膜部16が付着されることから被付着部材として機能する。
透明板15を形成する材料には、被付着部材の材料として既述した材料、例えば、アクリル樹脂、セルロイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、セルロースアセテートブチレート、セルローストリブチレート、などの合成樹脂を用いることができる。また、強化ガラスを透明板15に用いることもできる。
【0043】
薄膜部16は、所定の導電材料を用いて薄膜形成された部材である。
薄膜部16は、導電率の高い金属又は合金材料、比熱容量の小さい材料、せん断応力の小さい材料、展性の高い材料又は蒸着可能な材料で形成することが望ましい。
【0044】
薄膜部16の形状は、任意に決めることができる。本実施形態においては、環状に形成された環状部16aと、直線状に形成された直線部16bとを組み合わせた形状となっている。
環状部16aは、透明板15に穿設された貫通孔15cの周縁に沿って配置される部分であり、貫通孔15cの直径とほぼ同じ内径で形成されている。環状部16aは、一つの薄膜部16において任意の数だけ形成することができる。図6においては、貫通孔15cと同数(二つ)形成してある。
直線部16bは、環状部16aから延伸した直線状の部位である。
【0045】
なお、本実施形態において、薄膜部16は、環状部16aと直線部16bとを組み合わせた形状となっているが、このような形状に限るものではなく、例えば、絵柄層17として印刷される絵柄の形状や模様等に合わせた形状、又は、その絵柄の一部を構成する形状に形成することができる。
また、図1図4図5図8においては、薄膜部16を実線で図示しているが、これは、透明板15の背面側15bに形成された薄膜部16が、その透明板15を通して視認可能となっていることを示すものである。
【0046】
薄膜部16は、スロットマシン1の外部から前扉1aに向かう方向に静電気を発生させた場合に、その静電気の影響を受けて破損する。
このように破損する理由としては、次の理由が推定される。スロットマシン1の近傍で、電子ライターなどの不正手段を操作して、内蔵された圧電素子に高電圧の静電気を発生させて、その圧電素子に電荷量の大きい電荷が帯電すると、導電材料で形成された薄膜部16が静電誘導によって帯電し、一方、絶縁材料で形成された透明板15が誘電分極によって帯電する。そして、薄膜部16に帯電した電荷と透明板15に帯電した電荷とが同じ極性であるために、それら薄膜部16と透明板15がクーロン力の斥力によって互いに反発しあい、薄膜部16が透明板15から離れようとする。ここで、薄膜部16が透明板15に対して接着剤(図示せず)により接着されているときは、薄膜部16の帯電に伴う電子の移動により発生したジュール熱の熱伝導により接着剤が溶解する。そして、接着剤が昇温して接着力が弱くなると、薄膜形成された薄膜部16のうちその接着力の弱くなった部分がせん断して破損する。
【0047】
このように薄膜部16が破損すると、この破損した状態が、不正に静電気が発生したことを裏付ける痕跡として残存するため、事後的に不正行為を発見することができる。
また、薄膜部16は、環状部16aと直線部16bとを組み合わせた形状となっており、透明板15の下部における広い範囲に形成されているため、スロットマシン1を正面側から見たときに、透明板15を通して薄膜部16の破損箇所を容易に視認できる(図8参照)。
【0048】
さらに、薄膜部16は、破損容易とするために、断面積が小さくなるような形状に形成されている。例えば、薄膜部16の厚さは、非常に薄くなっている。また、環状部16aにおける内径と外径との間の幅が狭くなっている。さらに、直線部16bの幅も狭くなっている。これらのような形状に形成することにより、薄膜部16は、断面積が小さくなるので、せん断荷重が小さくなり、せん断容易となる。
【0049】
なお、薄膜部16の厚みを調整することにより、破損に必要な静電気の電荷量や電圧値を変えることができる。例えば、薄膜部16の厚みを厚くすると、断面積が大きくなり、せん断荷重が大きくなることから、破損に必要な静電気の電荷量が多くなり、その電圧値が高くなる。一方、薄膜部16の厚みを薄くすると、断面積が小さくなり、せん断荷重が小さくなることから、破損に必要な静電気の電荷量が少なくなり、その電圧値が低くなる。よって、不正に発生した静電気の電荷量又はその静電気の電圧値に応じて厚みを選択し、選択した厚みで薄膜部16を形成することにより、その電圧値で静電気が発生した場合に薄膜部16が破損することから、その静電気の発生を確実に検出することができる。
また、薄膜部16の厚みだけでなく、例えば薄膜部16の材質を調整することによっても、破損に必要な静電気の電荷量や電圧値を変えることができる。その理由は、厚みの場合と同様であり、材質を変えることによりせん断荷重を変えることができるからである。
【0050】
また、透明板15に対して薄膜部16を付着させる方法には、例えば、ホットスタンピング(箔押し)による方法がある。
ホットスタンピングとは、加圧や加熱によって、薄膜部16となる金属箔を透明板15に転写する加工法である。
このホットスタンピングでは、金属箔の材質に適応した接着剤が選択され、この接着剤が金属箔の表面又は透明板15の表面に予め塗布され、金属箔の裏面から熱盤を押し当てることにより、透明板15に対して薄膜部16を転写することができる。
【0051】
絵柄層17は、着色インクを用いて印刷により形成される絵柄の層であり、この絵柄層17を形成することにより中パネル11に所定の絵柄が施される。
ここで、図5図6に示すように、透明板15を、枠体12の開口12cに対応する表示窓対応部15dと、表示窓対応部15d以外の部分である印刷部15eとに分けた場合、絵柄層17である所定の絵柄は、印刷部15eに印刷される。また、表示窓対応部15dには、表示窓6に表示された各リール41a,41b,41cの図柄が入賞役に対応する図柄の組合せとして表示されたか否かを判定するための入賞ライン(図示せず)が絵柄層17として印刷される。そして、印刷部15eにおいては、絵柄の間隙にできた透明な部分を白く塗り潰す、いわゆる「白打ち」と呼ばれる印刷が行われる。これにより、スロットマシン1を前方から見たときに枠体12が印刷部15eを介して視認できないようになっている。一方、表示窓対応部15dにおいては、入賞ラインなどが印刷される以外は、透明板15の透明な状態が維持される。これにより、スロットマシン1を前方から見たときに、リール41a,41b,41cの図柄が表示窓6を通して視認可能となっている。
【0052】
なお、絵柄層17の形成には、例えば、シルクスクリーン印刷やオフセット印刷などの印刷技術を用いることができる。
シルクスクリーン印刷とは、絹布などを版材として使用し、インクを擦り込むことで適量を押し出して、そのインクを印刷物に乗せる手法をいう。また、オフセット印刷とは、ゴムなどで形成されたブランケットを介してインクを印刷物に転写する手法をいう。
ただし、絵柄層17は、それらシルクスクリーン印刷などの方法で印刷することに限るものではなく、例えば、絵柄が描かれたフィルムを透明板15の背面側15b又は正面側15aに貼付することで絵柄層17を形成することもできる。
さらに、絵柄層17は、図6においては、透明板15の背面側15bに印刷するようになっているが、背面側15bに限るものではなく、透明板15の正面側15aに印刷するようにすることもできる。この場合、絵柄層17を保護するための保護層を絵柄層17の表面に形成するのが望ましい。
【0053】
コーティング層18は、透明板15の背面側15bに形成される層であって、薄膜部16や絵柄層17を保護するための保護層である。
コーティング層18は、融点が比較的低い材料を用いて形成されており、薄膜部16と同様、静電気を発生させて不正にメダルを払い出させる行為が発生したときに、その不正行為の発生の事実を痕跡として残存させることができる。
この現象について詳述する。
スロットマシン1の外部で静電気が発生して薄膜部16が帯電し、この帯電に伴い電子が移動して電流が流れると、この薄膜部16にてジュール熱が発生し、この薄膜部16に接触しているコーティング層18が、そのジュール熱の熱伝導により昇温して溶解する。
ここで、薄膜部16が金や銀などの金属あるいは合金で形成されている場合、その薄膜部16の全体においてジュール熱が発生する。このため、コーティング層18のうち、薄膜層16に接触している部分の全体が昇温して溶解する(図9参照)。
コーティング層18のうち溶解した部分は、その後も溶解した状態で残存する。このため、遊技場の店員がその溶解した状態を確認することにより、不正行為が発生したことを知得できる。
【0054】
なお、透明板15の背面15bに対してコーティング層18を積層する範囲は、透明板15の背面15bの全体であってもよく、あるいは、一部であってもよい。一部の場合は、少なくとも、薄膜部16が形成された部分及びその周囲に積層することが望ましい。
【0055】
また、静電気の発生に伴う破損や溶解などの現象は、薄膜部16とコーティング層18の両方で生起するので、例えば、コーティング層18を形成せず、薄膜部16のみを設けて不正行為の検出を行うことも可能である。ただし、破損等の痕跡を確認容易とするためには、薄膜部16だけでなくコーティング層18も形成しておくことが望ましい。その理由は、薄膜部16とコーティング層18とを比較したときに痕跡の規模に違いがあるためである。
例えば、薄膜部16において破損する箇所は、一箇所か二箇所程度であるため、破損の規模が小さい。これに対し、コーティング層18が溶解する範囲は、薄膜部16に接触している部分の殆どであるため、溶解の規模が大きい(図9参照)。このような状況において、仮に、薄膜部16の一箇所が破損し、遊技場の店員がこれに気付かない場合でも、コーティング層18に形成された規模の大きい溶解状態は、確実に視認できるので、不正行為が発生したことを確実に知得できる。よって、少なくとも薄膜部16の表面には、コーティング層18を積層しておくことが望ましい。
【0056】
なお、薄膜部16の表面にコーティング層18が積層されている場合、薄膜部16に斥力が加わってせん断しようとしても、そのせん断方向にコーティング層18が位置しているため、この状態ではせん断しない。コーティング層18が溶解を開始し、薄膜部16から離間する方向に当該コーティング層18が収縮・凝固して、薄膜部16のせん断方向にコーティング層18が位置しなくなったときに、当該薄膜部16のせん断が生起する。
また、コーティング層18においては、その厚みや材質を調整することにより、溶解が生じる静電気の電荷量や電圧値を変えることができる。例えば、コーティング層18の厚みを厚くすると、溶解に必要なジュール熱の熱量が多くなり、この熱量の発生に必要な電流の電流量が多くなり、その電流を流すのに必要な静電気の電荷量や電圧値が高くなる。一方、コーティング層18の厚みを薄くすると、溶解に必要なジュール熱の熱量が少なくなり、この熱量の発生に必要な電流の電流量が少なくなり、その電流を流すのに必要な静電気の電荷量や電圧値が低くなる。よって、不正に発生した静電気の電荷量又はその静電気の電圧値に応じて厚みや材質(材質の場合は融点)を選択し、これら選択した厚みや材質でコーティング層18を形成することにより、その電圧値で静電気が発生した場合にコーティング層18が溶解することから、その静電気の発生を確実に検出することができる。
【0057】
これら透明板15と薄膜部16と絵柄層17とコーティング層18が積層された中パネル11は、矩形枠状に形成された枠体12に嵌合されて、スロットマシン1の前扉1aの裏面に取り付けられる。
枠体12は、板状の中パネル11をその周囲から支持するための矩形状の枠部材であって、正面側12aに中パネル11が嵌合された状態で、前扉1aの裏面の中央部分に装着される。
【0058】
枠体12の中央部分には、横長矩形状の開口12cが形成されており、この開口12cがスロットマシン1の前扉1aの中央に位置する表示窓6として構成され、この表示窓6である開口12cを通してリール41a,41b,41cの図柄が視認可能となっている。
枠体12の正面側12aの下部には、挿通部材13を嵌合するための部材収納部12dと、板金14を嵌合するための板金収納部12eが形成されている。
【0059】
挿通部材13は、導電率の低い材料、例えば、アクリル樹脂等の合成樹脂などを材料として形成された板状の部材であって、枠体12の正面側12aの下部に形成された部材収納部12dに嵌合される。
板状である挿通部材13の中程には、上面13bを有する円筒形状又は円柱形状の突設部13aが形成されている。突設部13aは、透明板15に形成された貫通孔15cに挿入される。
【0060】
透明板15には、正面側15aから背面側15bに向かって貫通孔15cが穿設されている。その理由は、薄膜部16が環状部16aにおいて静電気の影響を受けやすくするためである。
この貫通孔15cの役割について、さらに説明する。透明板15に貫通孔15cが形成されていない場合、透明板15の背面側15bに付着された薄膜部16は、透明板15の正面側15aとは連通しない状態となる。ここで、スロットマシン1の外部で静電気が発生した場合、その静電気と薄膜部16との間に透明板15が介在するため、薄膜部16に対する静電気の影響が小さくなる。そうすると、薄膜部16が帯電しにくくなり、不正行為の検出が困難となる。
一方、透明板15に貫通孔15cを穿設し、この貫通孔15cの周縁に薄膜部16の環状部16aを配置した場合には、薄膜部16の環状部16aと透明板15の正面側15aとが貫通孔15cを介して連通した状態となるので、スロットマシン1の外部で静電気が発生したときに、その静電気の影響が貫通孔15cを通して薄膜部16の環状部16aに及ぶようになる。そうすると、薄膜部16が帯電して破損容易となり、不正行為の検出が可能となる。
【0061】
ただし、透明板15に貫通孔15cを穿設すると、スロットマシン1の前方から貫通孔15cを見たときに、この貫通孔15cを通して枠体12が見えてしまう。そこで、貫通孔15cを閉塞可能な位置に挿通部材13を設け、この挿通部材13の突設部13aを貫通孔15cに挿入するようにした。これにより、貫通孔15cが閉塞されるので、枠体12の視認を防止できる。
【0062】
なお、本実施形態においては、挿通部材13の突設部13aの形状を円筒形状又は円柱形状としているが、これらの形状に限るものではなく、絵柄層17として印刷される絵柄の内容に応じた形状に形成することができる。
また、挿通部材13は、図1等においては、二つ設けられているが、二つに限るものではなく、任意の数だけ設けることができる。
さらに、挿通部材13は、図4図5図7においては、枠体12の正面側12aの下部中程に設けられているが、この位置に設けることに限るものではなく、例えば、枠体12の正面側12aの下部における任意の箇所に設けることができ、あるいは、枠体12の下部に円形の貫通孔を穿設し、枠体12の背面側12bからその貫通孔に挿通部材13の突設部13aを挿通するようにすることもできる。
【0063】
板金14は、導電率の高い材料、例えば、銅や鉄などの金属材料で形成された板状の小片である。
板金14は、枠体12の正面側12aの下部に凹設された板金収納部12eに嵌合される。
この板金14が嵌合された枠体12に中パネル11が嵌合されると、コーティング層18を介して、薄膜部16の端部と板金14とが対向した位置に配置される(図7参照)。なお、図7は、枠体12の下部に嵌合される挿通部材13及び板金14と薄膜部16との位置関係を明示するための図面である。このため、薄膜部16以外の中パネル11の構成(例えば、コーティング層18など)は、省略してある。
【0064】
板金14を設ける理由は、薄膜部16で生じた静電誘導による電子の移動を促進するためである。
この理由について詳述する。
薄膜部16は、導電率の高い材料で形成されるものの、破損容易とするために薄膜形成されている。このため、電気抵抗が高くなっており、移動する電子がその分減少して、ジュール熱の発生量が減少し、これにより、コーティング層18が溶解するまでの時間が遅くなる。そこで、導電率が高くかつ電気抵抗の小さい材料で形成された板金14を、薄膜部16の近傍に設けるようにした。これにより、薄膜部16の帯電に伴って板金14にて静電誘導が生じて帯電し、薄膜部16と板金14との間で放電が起こって、薄膜部16の電子が板金14に移動し、電子が減少した薄膜部16の内部でさらに電子が移動して電流が増加するため、その分ジュール熱の発生量が増加して、コーティング層18の昇温が加速する。これにより、コーティング層18が早期に破損するので、不正行為の痕跡を確実に残存させることができる。
【0065】
以上が板金14を設けた理由であるが、板金14は、単に薄膜部16の近傍に設けるものではなく、薄膜部16の端部に対応する位置、特に薄膜部16において環状部16aから最も遠い直線部16bの端部に対応する位置に設けられる。その理由は、スロットマシン1の近傍で静電気が発生した場合に、環状部16aでは正電荷が帯電し、直線部16bの端部では負電荷が帯電するが、この帯電した負電荷である電子を板金14に逃がすことで、より多くの電流を薄膜部16に流すようにするためである。
【0066】
なお、本実施形態において、薄膜部16や板金14は、枠体12の下部に配置されているが、中パネル部10が前扉1aの裏面の中程に装着されると、枠体12の下部は、前扉1aの正面側に配置されたメダル投入口2や停止ボタン5a,5b,5cなどの操作手段の直上に位置するようになる(図1参照)。このため、それらメダル投入口2などを対象として静電気を発生させる不正行為を薄膜部16の破損により確実に検出することができる。
【0067】
また、薄膜部16と板金14は、コーティング層18を介して近接している。このため、それら薄膜部16と板金14との間で放電が生じると、これらの間に位置するコーティング層18が破損する。
【0068】
さらに、図5等において、板金14は、一枚のみ設けられているが、一枚に限るものではなく、複数枚設けることができる。
また、図7においては、板金14が枠体12の正面側12aの下部右側に設けられる構成となっているが、板金14を設ける箇所は、当該箇所に限るものではなく、例えば、枠体12の正面側12aの下部左側など、薄膜部16に接触又は近接可能な任意の箇所に設けることができる。
【0069】
以上の説明は、薄膜部16等を不正検出装置として中パネル部10に設ける構成を説明したものであるが、薄膜部16等は、中パネル部10に設けることに限るものではなく、遊技機における任意の箇所に設けることができる。
また、遊技機における任意の箇所に薄膜部16等を設ける場合には、薄膜部16や板金14などを一体化した不正検出装置20として形成し、これを遊技機内に設けるようにすることができる。この一体化した不正検出装置20の構成について、図10図12を参照して説明する。
【0070】
[不正検出装置]
これらの図に示すように、不正検出装置20は、導電材料を用いて薄膜形成された薄膜部21と、導電率の高い材料で形成された板状の小片である板金22と、薄膜部21を被覆するコーティング層23と、これら薄膜部21と板金22とコーティング層23とを一体化するために形成された土台となる部材である基台24とを有して構成されている。
【0071】
基台24は、薄膜部21が付着されるとともにコーティング層23が形成される板状部24aと、板金22を支持する板金支持部24bとを有して形成されている。
ここで、板状部24aは、薄膜部21を付着させる被付着部材として機能し、絶縁材料を用いて形成されている。なお、基台24においては、板状部24aのみを絶縁材料で形成してもよく、あるいは、基台24の全体を絶縁材料で形成してもよい。
また、板状部24aは、薄膜部21が例えばホットスタンピングなどの方法で転写されると、この薄膜部21が転写された板状部24aの面の全体にコーティング層23が形成される。このとき、薄膜部21の端部が、コーティング層23に覆われることなく露出した状態となるようにする。
板金支持部24bは、鉤状に形成された係止部24cの当該鉤状部分を板金22に係止することにより当該板金22を支持する。このとき、板金22とコーティング層23との間は、接触又は近接した状態とすることができる。
【0072】
このような構成を備えた不正検出装置20をスロットマシン1における任意の箇所に設けることにより、スロットマシン1の外部で発生した静電気を検出し、検出の結果を薄膜部21の破損やコーティング層23の溶解痕として残存させることができる。
すなわち、スロットマシン1の外部で不正に静電気が発生すると、薄膜部21が静電誘導によって帯電するとともに、基台24の板状部24aが誘電分極によって帯電し、これら薄膜部21と板状部24aとの間にクーロン力の斥力が作用して、薄膜部21が破損する。また、薄膜部21に電流が流れることによってジュール熱が発生すると、このジュール熱がコーティング層23に伝導し、当該コーティング層23が溶解する。これら薄膜部21の破損した状態やコーティング層23の溶解した状態が、不正行為の痕跡として残存するので、この痕跡を視認することで、不正行為が発生したことを知得できる。
さらに、板金22を設けたことにより、薄膜部21と板金22との間で放電が生じ、薄膜部21にて電流がさらに流れるため、ジュール熱の発生が促進されて、コーティング層23が早期に溶解する。
【0073】
なお、不正検出装置20の全体の大きさは、任意に決めることができる。ただし、不正検出装置20は、スロットマシン1の内部に設けるものであるため、前扉1aの裏面に取付可能、あるいは、筐体1bの内部に収納可能な大きさとすることが望ましい。
また、不正検出装置20は、スロットマシン1の内部に設けるものであるが、特に、不正に静電気を発生させる際の標的とされる部分、例えば、メダル投入口2、停止ボタン5a,5b,5c、スタートレバー3などの近傍に設けることが望ましい。
【0074】
さらに、不正検出装置20には、当該不正検出装置20をスロットマシン1の内部に取り付け可能とするための取付部(図示せず)を形成することができる。取付部の具体例としては、例えば、スロットマシン1の内部に対して不正検出装置20をネジなどを用いて螺着するためのネジ孔や、スロットマシン1の内部に形成された凹状又は凸状の部分に係止可能に形成された鉤状の係止部(ラッチ)などが挙げられる。これらの形状を有する取付部を、不正検出装置20の基台24などに形成することにより、当該不正検出装置20をスロットマシン1の所定の箇所に取り付けることができる。
【0075】
以上説明したように、本実施形態の遊技機及び不正検出装置によれば、遊技機に向かって不正に静電気が発生すると薄膜部が破損し、この破損した状態が不正行為の痕跡として残存するので、その不正行為を検出できる。
一方、従来の制御基板を接地するという手法は、制御基板に帯電した静電気を除去してデバイス回路の損傷を防止するという効果を奏するに留まるものであり、実行された不正行為を検出するという効果を得ることはできない。
すなわち、上述した手法は、制御基板に帯電した静電気を電流として地面に逃がすものであり、その電流がアース線の導線に流れるだけであって、アース線の外観上は何ら変化が生じないことから、遊技場の店員がそのアース線を見ただけでは電流が流れたことを知得できず、不正行為が行われたかどうかも判断できない。
そうすると、不正行為が行われた場合に、その不正行為を検出できずに看過する結果となり、その後も出玉が不正に払い出されて遊技ホールの損失が拡大するという事態が起こり得た。
【0076】
以上、本発明の遊技機及び不正検出装置の好ましい実施形態について説明したが、本発明に係る遊技機及び不正検出装置は上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、図1においては、薄膜部を中パネルに形成してあるが、薄膜部の形成箇所は、中パネルに限るものではなく、例えば、操作手段の下方に装着される下パネルなどに形成することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 スロットマシン(遊技機)
10 中パネル部
11 中パネル
14 板金
16 薄膜部
18 コーティング層
20 不正検出装置
21 薄膜部
22 板金
23 コーティング層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12