特許第6061194号(P6061194)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6061194低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウム及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061194
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/24 20060101AFI20170106BHJP
   A61K 47/02 20060101ALN20170106BHJP
【FI】
   C01B33/24 101
   !A61K47/02
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-65144(P2013-65144)
(22)【出願日】2013年3月26日
(65)【公開番号】特開2013-227205(P2013-227205A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2016年3月15日
(31)【優先権主張番号】特願2012-83383(P2012-83383)
(32)【優先日】2012年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000237972
【氏名又は名称】富田製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】津村 勇多
(72)【発明者】
【氏名】小西 征則
【審査官】 浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−093698(JP,A)
【文献】 特開平08−277216(JP,A)
【文献】 特開2000−034118(JP,A)
【文献】 坂部隆夫,ジャイロライトの生成と加熱変化,愛知県工業技術センター報告,日本,1982年12月20日,No.18,PP.17-20,ISSN:0286-262X
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00−9/72
A61K 47/00−47/48
C01B 33/00−39/54
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状のケイ酸カルシウムであって、
(1)嵩比容積が8mL/g未満であり、
(2)吸油量が3mL/g以上であり、かつ、単位体積当たりの吸油量が0.55mL/mL以上であり、
(3)ジャイロライトの結晶化度が10〜25%である、
ことを特徴とする低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウム。
【請求項2】
X線回折分析におけるアモルファスの積分強度Aとジャイロライト結晶の積分強度Bとの比率[B/A]が0.15〜0.45である、請求項1に記載の低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウム。
【請求項3】
水銀圧入法による細孔径分布において、極大細孔直径が0.05〜0.18μmである、請求項1に記載の低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウム。
【請求項4】
平均粒径が1〜100μmである、請求項1に記載の低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウム。
【請求項5】
BET比表面積が60〜150m/gである、請求項1に記載の低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウム。
【請求項6】
花弁状の形状を構成してなる、請求項1に記載の低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウム。
【請求項7】
医薬品添加物として用いる、請求項1に記載の低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウムを製造する方法であって、
一般式2CaO・3SiO・nSiO・mHO(但し、n及びmは正の数であり、0.1≦n≦10、0≦m≦3を満たす。)で示され、ジャイロライトの結晶化度が30%以上である花弁状の形状を構成してなるケイ酸カルシウムを741〜774℃で焼成する工程を含む、低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウムの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウムを製造する方法であって、
(1)水性溶媒中でケイ酸質原料及びカルシウム質原料を反応させることにより反応生成物を含む水性スラリーを調製する工程、
(2)前記反応生成物を含む水性スラリーを水熱合成反応させることにより、一般式2CaO・3SiO・nSiO・mHO(但し、n及びmは正の数であり、0.1≦n≦10、0≦m≦3を満たす。)で示され、ジャイロライトの結晶化度が30%以上である花弁状の形状を構成してなるケイ酸カルシウムを得る工程、
(3)前記ケイ酸カルシウムを741〜774℃で焼成する工程
を含む、低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ酸カルシウムは古くから知られている化合物であって天然品又は合成品がある。また、ケイ酸カルシウムの結晶形としても、ジャイロライト型、ゾノトライト型、トバモライト型、無定形等のものがそれぞれ知られている。ケイ酸カルシウムは、例えば建材(保温材、耐火材、断熱材等)のほか、医薬品添加物、食品添加物、充填剤、増粘剤、艶消剤、担体等のさまざまな用途に利用されている。ケイ酸カルシウムの中でも、吸油量の高いケイ酸カルシウムは、医薬品添加物、例えば賦形剤、担体、崩壊剤等として製薬分野を中心に多用されている。
【0003】
このような高い吸油量を有するケイ酸カルシウムとしては、例えば約1:1以上約2.5:1以下のアスペクト比(平均長軸直径/平均短軸直径)を有し、約20ml/100g以上約220ml/100g以下の吸油量を有するメタケイ酸カルシウムが医薬品添加物として用いることが提案されている(特許文献1)。
【0004】
また例えば、一般式2CaO・3SiO・nSiO・mHO(但し、n、mは正の数で、nは0.1〜10)で示され、花弁状の形状を構成してなるケイ酸カルシウムが吸油量2.0cc/g以上であり、吸着担体、濾過助剤等として使用することが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005−526677
【特許文献2】特開昭54−93698
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これら従来の粉末状ケイ酸カルシウムでは、吸油量は比較的高い値を示すものの、嵩高いために単位体積当たりの吸油量は決して高いものとは言えない。特に、医薬品の小型化・コンパクト化の要請が高まる近年においては、これら従来のケイ酸カルシウムでは上記要請に応え切れなくなっているのが現状である。
【0007】
他方、医薬品の担体等として用いる場合は、単に吸油量が高い(薬剤の吸収性が良い)だけでは足りず、医薬品を体内に投与した後に特定の部位において主剤(医薬有効成分)が溶出(放出)する際に、ケイ酸カルシウムがその溶出を阻害しない、あるいは促進する性能も要求される。
【0008】
従って、本発明の主な目的は、良好な主剤の溶出性を維持しつつ、単位体積当たりの吸油量がより高いケイ酸カルシウム粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、これまでのケイ酸カルシウムとは異なる特定の構造を有するケイ酸カルシウムをつくりだすことにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記の低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウム及びその製造方法に係る。
1. 粉末状のケイ酸カルシウムであって、
(1)嵩比容積が8mL/g未満であり、
(2)吸油量が3mL/g以上であり、かつ、単位体積当たりの吸油量が0.55mL/mL以上であり、
(3)ジャイロライトの結晶化度が10〜25%である、
ことを特徴とする低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウム。
2. X線回折分析におけるアモルファスの積分強度Aとジャイロライト結晶の積分強度Bとの比率[B/A]が0.15〜0.45である、前記項1に記載の低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウム。
3. 水銀圧入法による細孔径分布において、極大細孔直径が0.05〜0.18μmである、前記項1に記載の低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウム。
4. 平均粒径が1〜100μmである、前記項1に記載の低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウム。
5. BET比表面積が60〜150m/gである、前記項1に記載の低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウム。
6. 花弁状の形状を構成してなる、前記項1に記載の低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウム。
7. 医薬品添加物として用いる、前記項1に記載の低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウム。
8. 前記項1〜7のいずれかに記載の低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウムを製造する方法であって、
一般式2CaO・3SiO・nSiO・mHO(但し、n及びmは正の数であり、0.1≦n≦10、0≦m≦3を満たす。)で示され、ジャイロライトの結晶化度が30%以上である花弁状の形状を構成してなるケイ酸カルシウムを741〜774℃で焼成する工程を含む、低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウムの製造方法。
9. 前記項1〜7のいずれかに記載の低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウムを製造する方法であって、
(1)水性溶媒中でケイ酸質原料及びカルシウム質原料を反応させることにより反応生成物を含む水性スラリーを調製する工程、
(2)前記反応生成物を含む水性スラリーを水熱合成反応させることにより、一般式2CaO・3SiO・nSiO・mHO(但し、n及びmは正の数であり、0.1≦n≦10、0≦m≦3を満たす。)で示され、ジャイロライトの結晶化度が30%以上である花弁状の形状を構成してなるケイ酸カルシウムを得る工程、
(3)前記ケイ酸カルシウムを741〜774℃で焼成する工程
を含む、低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウムの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のケイ酸カルシウムは、低結晶性のジャイロライト型構造を有するがゆえに、良好な吸油量を維持したまま嵩比容積の低減化を図ることができる結果、通常の高結晶性(ジャイロライトの結晶化度が30%以上のものをいう。以下同じ。)のジャイロライト型ケイ酸カルシウムに比して単位体積当たりの吸油量が高い値を得ることができる。
【0012】
また、本発明のケイ酸カルシウムを医薬品の賦形剤、担体等として用いる場合において、主剤の溶出を大きく阻害することもなく、実用的な溶出率を達成することができる。このため、本発明のケイ酸カルシウムは、例えば医薬品添加物として用いる場合は製剤の小型化・コンパクト化を期待することができる。
【0013】
このような特徴を有する本発明のケイ酸カルシウムは、例えば医薬品、化粧品、食品、農薬、肥料、触媒、化成品等のさまざまな分野において好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1〜2及び比較例1〜3の試料についてX線回折分析した結果を示す図である。
図2】実施例1及び比較例4の試料についてX線回折分析した結果を示す図である。
図3】実施例1〜2及び比較例1、5、6の試料についてX線回折分析した結果を示す図である。
図4】実施例1の試料の粒子表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
図5】試験例3の溶出率の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウム
本発明の低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウム(本発明ケイ酸カルシウム)は、粉末状のケイ酸カルシウムであって、
(1)嵩比容積が8mL/g未満であり、
(2)吸油量が3mL/g以上であり、かつ、単位体積当たりの吸油量が0.55mL/mL以上であり、
(3)ジャイロライトの結晶化度が10〜25%である、
ことを特徴とする。
【0016】
本発明ケイ酸カルシウムは、組成的には一般式2CaO・3SiO・nSiO・mHO(但し、n及びmは正の数であり、0.1≦n≦10、0≦m≦3(好ましくは0≦m≦2)を満たす。)で示されるものである。
【0017】
本発明ケイ酸カルシウムの結晶形(結晶構造)は、低結晶性ジャイロライト型である。これは、単なるジャイロライト型ケイ酸カルシウムと非晶質ケイ酸カルシウムの混合物ではなく、ケイ酸カルシウム構造中にジャイロライト型結晶部と非晶質部を一体的に含むものである。例えば、後記に示すように、結晶化度が30%以上のジャイロライト型ケイ酸カルシウム結晶を有し、花弁状の形状を構成してなるケイ酸カルシウムを741〜774℃の温度範囲で焼成することによって形成される構造を有するものである。従って、本発明ケイ酸カルシウムの性状として、その出発原料と同じく花弁状の形状を実質的に維持してなるものである。
【0018】
本発明ケイ酸カルシウムのジャイロライトの結晶化度は10〜25%であり、好ましくは14〜24%である。このようなジャイロライトの結晶化度の低いものとすることで吸油量を維持したままでより低い嵩比容積を得ることができる結果、単位体積当たりの吸油量を高めることが可能となる。
【0019】
上記吸油量に関し、本発明ケイ酸カルシウムの吸油量は3mL/g以上であり、好ましくは4mL/g以上である。従って、例えば4〜6mL/g程度、あるいは4〜5mL/gの範囲内に設定することもできる。また、本発明ケイ酸カルシウムにおける単位体積当たりの吸油量が0.55mL/mL以上であり、好ましくは0.60mL/mL以上である。すなわち、本発明ケイ酸カルシウムは、単位重量当たりの吸油量はもとより、単位体積当たりの吸油量も高い値を発揮することができる。これによって、本発明ケイ酸カルシウムを医薬品添加物として用いる場合には、より確実に医薬品の小型化・コンパクト化を図ることができる。
【0020】
本発明ケイ酸カルシウムは、粉末状として提供されるが、その嵩比容積は8mL/g未満であり、好ましくは7.8mL/g以下、より好ましくは7.5mL/g以下である。従って、例えば嵩比容積を7.0〜7.8mL/g、また例えば7.2〜7.6mL/gの範囲内に設定することもできる。このように嵩比容積を従来のケイ酸カルシウムよりも低い値を実現することによって、単位体積当たりの吸油量を高めることが可能となる。
【0021】
また、本発明ケイ酸カルシウムの平均粒径は、例えば本発明ケイ酸カルシウムの用途、使用方法等に応じて適宜設定することができるが、通常は1〜100μm程度とし、特に10〜40μmとすることが望ましい。
【0022】
本発明ケイ酸カルシウムは、基本的には多孔質構造を有し、所定の細孔特性を有するものである。窒素吸着等温線より求められる比表面積(BET)及び細孔容積については、次に示すとおりである。すなわち、前記比表面積は、通常60〜150m/g程度であり、特に70〜140m/gとすれば良い。また、前記細孔容積は、通常0.40〜0.85cc/gとし、好ましくは0.5〜0.85cc/gである。さらに、水銀圧入法により求められる平均細孔直径及び極大細孔直径は、次に示すとおりである。すなわち、前記平均細孔直径は、通常0.05〜0.10μmとし、好ましくは0.06〜0.08μmである。前記極大細孔直径は、通常0.05〜0.18μmの範囲にあり、好ましくは0.07〜0.15μmである。特に、前記の極大細孔直径は、本発明ケイ酸カルシウムに特異的な値である。かかる極大細孔直径を有することにより、単位体積当たりの吸油量をよりいっそう高めることができる。
【0023】
本発明ケイ酸カルシウムは、公知又は市販のケイ酸カルシウムの用途と同様の用途に用いることができるが、その特性からみて特に医薬添加物、食品添加物等として有効である。とりわけ、医薬品の賦形剤、崩壊剤又は担体として好適である。例えば、本発明ケイ酸カルシウム及び医薬有効成分を含む製剤として利用することができる。
【0024】
2.低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウムの製造方法
本発明の低結晶性ジャイロライト型ケイ酸カルシウムの製造方法は、
(1)水性溶媒中でケイ酸質原料及びカルシウム質原料を反応させることにより水性スラリーを調製する工程(スラリー調製工程)、
(2)前記水性スラリーを水熱合成反応させることにより、一般式2CaO・3SiO・nSiO・mHO(但し、n及びmは正の数であり、0.1≦n≦10、0≦m≦3(好ましくは2≦m≦3)を満たす。)で示され、ジャイロライトの結晶化度が30%以上である花弁状の形状を構成してなるケイ酸カルシウムを得る工程(水熱処理工程)、
(3)前記ケイ酸カルシウムを741〜774℃で焼成する工程(焼成工程)
を含むことを特徴とする。
【0025】
スラリー調製工程
スラリー調製工程では、水性溶媒中でケイ酸質原料及びカルシウム質原料を反応させることにより水性スラリーを調製する。
【0026】
ケイ酸質原料としては、純度を問わず、公知のケイ酸カルシウムの製造で使用されているものと同様のものを使用することができる。例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、二酸化ケイ素、シリカゾル等を挙げることができる。特に、水溶性のケイ酸質原料を好適に使用することができる。カルシウム質原料も、公知のケイ酸カルシウムの製造で使用されているものと同様のものを使用することができる。例えば、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、生石灰、消石灰、石膏等を挙げることができる。特に、石膏を好適に使用することができる。石膏は、水和物であっても良いし、無水物でも良いが、例えば二水石膏(CaSO・2HO)等の水和物を好適に用いることができる。
【0027】
ケイ酸質原料とカルシウム質原料との配合比は、所定のケイ酸カルシウムが生成するように設定する。すなわち、理論的にSiO/CaOモル比が1.55〜6.5の範囲とすれば良い。ただし、反応収率は、原料の種類、反応温度、反応時間、水比等によって多少異なるので、予め生成物中のSiO/CaOモル比と原料仕込みにおけるSiO/CaOモル比との関係を確認して用いるのが好ましい。一般には、前記一般式で示されるケイ酸カルシウム中のSiO/CaOモル比が大きくなると、生成条件によっては花弁状集合体の花弁間に無定形二酸化ケイ素が球状にまぶされた形状になる場合があるので、種々の条件に応じて予め好適なSiO/CaOモル比を定めておくことが好ましい。
【0028】
水性溶媒としては、水のほか、アルコール類等の水溶性有機溶媒を使用することができる。これらは1種又は2種以上の混合物として使用することができる。本発明では、特に水を用いることが好ましい。
【0029】
スラリー調製工程では、水性溶媒中でケイ酸質原料及びカルシウム質原料を反応させる。これにより反応生成物を含む水性スラリーを得ることができる。反応温度は特に限定的ではないが、通常は50℃以下、特に10〜35℃程度とすれば良い。また、反応雰囲気としては大気中(大気圧下)とすれば良い。
【0030】
得られた水性スラリーは、そのままで又は固形分濃度を調節した上で水熱処理工程に供しても良い。あるいは、いったん固液分離して固形分(反応生成物)を回収した後、さらには必要に応じて水洗等を実施した後に反応生成物に水性溶媒を新たに加えて水性スラリーを調製し、これを水熱処理工程に供しても良い。
【0031】
水熱処理工程
水熱処理工程では、前記反応生成物を含む水性スラリーを水熱合成反応させることにより、一般式2CaO・3SiO・nSiO・mHO(但し、n及びmは正の数であり、0.1≦n≦10、0≦m≦3(好ましくは2≦m≦3)を満たす。)で示され、ジャイロライトの結晶化度が30%以上である花弁状の形状を構成してなるケイ酸カルシウムを得る。
【0032】
水熱処理工程に供する水性スラリーの固形分含有量は適宜設定することができるが、本発明における花弁状ケイ酸カルシウムの生成には前記処理温度下における反応系の溶媒比、すなわち得られるケイ酸カルシウムに対する溶媒の量(一般に前記溶媒は水性媒体を用いるので、以下単に水比を代表例として説明する。)が5〜100重量倍とすることが好ましく、特に15〜70重量倍の範囲とすることがより好ましい。水比が小さすぎる場合は、ケイ酸カルシウムが十分に花弁状に成長しないことがある。水比が多すぎる場合は、得られるケイ酸カルシウムがジャイロライト型のみとなり、所望の花弁状ケイ酸カルシウムが得られることがある。
【0033】
花弁状の構成をもつケイ酸カルシウムを生成させるためには、水熱合成反応の温度は150〜250℃の範囲が好適である。上記温度が低すぎる場合は、花弁状ケイ酸カルシウムの生成に時間を要することになる。上記温度が高すぎる場合は、花弁状ケイ酸カルシウムの生成が不十分になることがある。また、反応時間は、反応温度等によって異なるが、通常は1〜50時間の範囲内とすれば良い。
【0034】
本発明の反応は、前記のような原料の添加混合を同一の反応装置を用いて連続的に実施しても良いし、あるいは予め原料成分を常圧下室温〜沸点の温度範囲で予備反応を実施した後に昇温して製造することもできる。
【0035】
また、水熱合成反応は、上記のように、水性スラリーを150℃以上の高温で処理することから、通常は密閉反応系中において加圧下で実施される。このため、一般的には公知又は市販の耐圧反応器(例えばオートクレーブ)を用いて水熱処理工程を実施することができる。
【0036】
生成した花弁状ケイ酸カルシウムは、例えば遠心分離、ろ過等の公知の固液分離方法を実施することにより回収する。この場合、回収された花弁状ケイ酸カルシウムは、必要に応じて乾燥、水洗、粉砕、分級等を適宜実施することができる。なお、乾燥する場合は、自然乾燥又は加熱乾燥のいずれでも良いが、加熱乾燥する場合は通常60〜120℃程度の温度範囲に設定すれば良い。
【0037】
焼成工程
焼成工程では、前記ケイ酸カルシウムを741〜774℃、好ましくは745〜765℃で焼成する。焼成温度が741℃未満である場合は、嵩比容積を十分に下げることができない。他方、焼成温度が774℃を超える場合は、吸油量(mL/g)が著しく低下する。すなわち、本発明ケイ酸カルシウムを得るためには上記の温度範囲内での焼成が必要不可欠である。
【0038】
一般に、結晶性材料の粉末を焼成した場合には、その細孔の一部が収縮する等の現象によって吸油量が低下する傾向にあるが、上記所定のケイ酸カルシウム結晶を所定の限られた温度範囲内で焼成した場合に限り、高い吸油量を維持したまま、嵩を下げることが可能となる。その結果、単位体積当たりの吸油量を高めることに成功したのが本発明である。すなわち、上記の焼成温度が本発明の大きな特徴の一つである。かかる焼成温度による焼成によって前記のような特徴が発現する理由は定かではないが、おそらく、上記温度範囲内での焼成により、いくつかの細孔が収縮していく中で吸油量の維持に寄与する特定の細孔が発現することによって、焼成前の吸油量を実質的に維持したまま嵩が下がり、単位体積当たりの吸油量の向上が図られたと考えられる。
【0039】
焼成時間は、前記ケイ酸カルシウムの性状、焼成温度等に応じて適宜設定すれば良いが、通常は0.5〜5時間程度とすれば良い。
【0040】
焼成雰囲気は、特に限定されず、大気中、酸化性雰囲気中、不活性ガス雰囲気中等のいずれも採用することができるが、通常は大気中とすれば良い。
【0041】
ここでケイ酸カルシウムとして、市販の花弁状の構成を有し、結晶化度30%以上のジャイロライト型ケイ酸カルシウムを用いることもできる。すなわち、高結晶性の花弁状ジャイロライト型ケイ酸カルシウムは市販品として入手可能であるため、それを焼成工程に供すれば本発明ケイ酸カルシウムが得られる。その結果、前記のスラリー調製工程及び水熱処理工程を省略することができる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0043】
実施例1
2水石膏0.5kgと水6.79kgを反応槽に入れて十分に攪拌してスラリーを調製した。次いで、前記スラリーを攪拌しながら、大気圧下10〜15℃で3号ケイ酸ナトリウム1.303kgを反応させた(スラリー調製工程)。このときの仕込みSiO/CaOモル比は2.5であった。次に、反応生成物をろ過した後、水を用いて反応生成物を洗浄した(洗浄工程)。得られたケーキ状物に水を加え、固形分5重量%のスラリーを調製した。このスラリーをオートクレーブに入れ、密閉状態下で200℃で4時間水熱処理を実施した(水熱処理工程)。水熱処理が終了した後、ろ過し、得られた固形分を105℃で24時間乾燥した(乾燥工程)。このようにして花弁状ケイ酸カルシウム粉末(結晶化度37.2%)を得た。得られた粉末状の花弁状ケイ酸カルシウムを大気中にて常温から3時間で750℃に昇温し、750℃で3時間保持することにより焼成した(焼成工程)。その後、自然冷却することにより、実施例1の試料を得た。
【0044】
実施例2
実施例1で調製された焼成前の花弁状ケイ酸カルシウム粉末を大気中にて常温から3時間で760℃に昇温し、760℃で3時間保持することにより焼成した後に自然冷却し、実施例2の試料を得た。
【0045】
比較例1
富田製薬社製フローライトR(Lot No:S1001E)を試料として用いた。
【0046】
比較例2
実施例1で調製された焼成前の花弁状ケイ酸カルシウム粉末を大気中にて常温から3時間で740℃に昇温し、740℃で3時間保持することにより焼成した後に自然冷却し、比較例2の試料を得た。
【0047】
比較例3
実施例1で調製された焼成前の花弁状ケイ酸カルシウム粉末を大気中にて常温から3時間で775℃に昇温し、775℃で3時間保持することにより焼成した後に自然冷却し、比較例3の試料を得た。
【0048】
比較例4
富田製薬社製フローライトR(比較例1)と、実施例1におけるケーキ状物を105℃で乾燥することにより得られた非晶質のケイ酸カルシウムとを混合し、ジャイロライト比率を0.27とした粉末状ケイ酸カルシウムを試料として用いた。
【0049】
比較例5
Huber社製RxCIPIENTS(商標登録) FM1000(Lot No:202121003)を試料として用いた。
【0050】
比較例6
Huber社製Hubersorb(商標登録) 600(Lot No:LOT102098)を試料として用いた。
【0051】
試験例1
前記の実施例及び比較例で得られた各試料について、嵩比容積、吸油量、単位体積当たり吸油量、結晶化度、ジャイロライト比率、pH及び平均粒径をそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。また、実施例及び比較例の各試料についての細孔分布を測定し、BET比表面積、細孔容積、平均細孔直径及び極大細孔直径をそれぞれ求めた。その結果を表2に示す。なお、各測定は、以下に記載する方法に従って実施した。
【0052】
(1)嵩比容積
試料2.5gを量りとり、50mLメスシリンダーに入れ、4cmの高さにて100回/250秒の速度でタッピングを行い、粉体の体積を測定し、次式により嵩比容積を算出した。
嵩比容積(mL/g)= 粉体体積(mL)/粉体重量(g)
【0053】
(2)吸油量
試料1.0gを量り、黒色のプラスチック板に乗せる。上からビュレットに入れた煮アマニ油を4〜5滴ずつ滴下し、その都度ヘラで粉体と十分練り合わせる。全体が硬いパテ状の塊となったら1滴ごとに練り合わせ、最後の1滴で急激に軟らかくなる直前に滴下を終了し、その時の煮アマニ油滴下量を読み取り、次式により吸油量を算出した。
吸油量(mL/g)= 滴下した煮アマニ油の容量(mL)/試料の質量(g)
【0054】
(3)単位体積当たり吸油量
前記(1)及び(2)で得られた値を用い、次式で算出した。
単位体積当たり吸油量(mL/mL)= 吸油量(mL/g)/嵩比容積(mL/g)
【0055】
(4)結晶化度
X線分析装置RINT2000(理学電気株式会社製)によって2θ=5〜70°の範囲で測定を行った。測定条件はターゲット:Cu、管電圧:40kV、管電流:20mA、走査範囲:5〜70°、スキャンスピード:4.000°/分、スキャンステップ:0.02°。走査モード:連続、カウンタモノクロメータ:全自動モノクロメータ、発散スリット:1°、散乱スリット:1°、受光スリット:0.15mmで測定を行った。実施例1〜2及び比較例1〜3についての測定結果を図1に示す。また、実施例1と比較例4についての測定結果を図2に示す。実施例1〜2及び比較例1、5、6についての測定結果を図3に示す。
結晶化度については、プロファイル・フィッティングの手法を用いて結晶性回析線と非晶ハローにピーク分離した。そこで得られたピーク積分強度より結晶化度Xcを次式で算出した。
Xc=Ic×100/(Ic+Ia)
Ic:結晶性散乱強度
Ia:非晶性散乱強度
結晶化度を求める際、15〜38°を切り出し、20.948°、23.104°、28.977°、30.563°、31.976°の5つのピークについて、ピーク位置を固定し、半価幅を0.8に固定し、解析を行った。非晶質のピークとして25.692°のピークを用いた。
【0056】
(5)ジャイロライト比率
前記(4)で得られたピーク積分強度を用い、次式からジャイロライト比率を算出した。
ジャイロライト比率=ジャイロライトピーク積分強度/アモルファスピーク積分強度
【0057】
(6)pH
試料2.5gを水50mL(25℃)に懸濁させた液のpHをpH計により測定した。
【0058】
(7)平均粒径
試料を3分間超音波撹拌(周波数240Hz)した後に水中に分散させてレーザー回折法により水溶媒中にて測定を行った。測定装置としてHoneywell社製MICROTRAC HRA No.9320−X100を用いた。
【0059】
(8)BET比表面積及び細孔容積
高速比表面積細孔分布測定装置(Quantachrome社製:NOVA−4000e)にて以下の操作条件で測定を行った。
前処理条件:試料0.02gを正確に量り、吸着管に封入し、105℃で1時間脱気した。
測定及び解析:液体窒素ガス温度下で窒素ガスの吸着等温線を求め、その吸着等温線を用いて多点BET法によりBET比表面積を算出した。細孔容積については相対圧0.995で得られた圧力を用いて算出した。
【0060】
(9)平均細孔直径及び極大細孔直径
Quantachrome社製水銀ポロシメーターporemaster60GTにて以下の条件で測定を行った。
前処理:試料0.05gを正確に量り、吸着管に封入し、105℃、24時間脱気した。
細孔の測定及び解析:試料と水銀の接触角を140°、水銀の表面張力を480dyn/cmとして、測定した圧力から平均細孔直径及び極大細孔直径を算出した。なお、解析範囲は、0.0036μm〜10μmの範囲で行った。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
試験例2
実施例1で得られた試料について走査型電子顕微鏡によってその粒子表面の性状を観察した。その結果を図4に示す。図4の結果からも明らかなように、粒子表面が花弁状の構成を有していることがわかる。
【0064】
試験例3
前記の実施例1及び比較例1で得られた試料を用い、医薬有効成分の溶出性を調べた。溶出試験は、表3に示す処方、表4に示す試験条件に従い行った。その結果を図5及び表5に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
【0067】
標準溶液調製
プラバスタチンナトリウム 0.120g を正確に量りとり、水/メタノール混液(11:9)を加えて正確に100mLとする。この液10mLを正確に量り、水/メタノール混液を加えて100mLとする(120ppm溶液)。この120ppm溶液10mLと5mLをそれぞれ正確に量り、水/メタノール混液を加えてそれぞれ100mLとした溶液を標準溶液1(12ppm)及び標準溶液2(6ppm)とする。
試料溶液調製
採取液を試料溶液とする。
測定
標準溶液1、標準溶液2及び試料溶液を0.2μmのメンブレンフィルターでろ過した後、液体クロマトグラフ法により標準溶液1及び2のプラバスタチンナトリウムのピーク面積とプラバスタチンナトリウム濃度(12ppm、6ppm)をプロットしたときに得られる検量線から直線の傾き(a)と切片(t)を求める。溶出率は試料溶液のプラバスタチンナトリウムのピーク面積(Qt)を求め、次式を用いて算出する。

溶出率(%)=[(Qt−t)×100]/[a×900×1000×(試料量×0.05×プラバスタチンナトリウム含量(mg))]
【0068】
【表5】
【0069】
図5及び表5の結果からも明らかなように、本発明ケイ酸カルシウムを含む製剤である試料3−1は、主剤が溶出する際にそれを促進する性能が確認された。
図1
図2
図3
図4
図5