特許第6061202号(P6061202)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061202
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】非金属被覆およびその生産方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/04 20060101AFI20170106BHJP
   C25D 11/06 20060101ALI20170106BHJP
   C25D 11/30 20060101ALI20170106BHJP
   C25D 11/26 20060101ALI20170106BHJP
   C25D 11/32 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   C25D11/04 101B
   C25D11/04 101H
   C25D11/06 A
   C25D11/06 Z
   C25D11/30
   C25D11/26 302
   C25D11/26 A
   C25D11/26 301
   C25D11/26 Z
   C25D11/32
   C25D11/04 302
【請求項の数】22
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2013-552277(P2013-552277)
(86)(22)【出願日】2012年2月7日
(65)【公表番号】特表2014-505174(P2014-505174A)
(43)【公表日】2014年2月27日
(86)【国際出願番号】GB2012050268
(87)【国際公開番号】WO2012107754
(87)【国際公開日】20120816
【審査請求日】2015年2月6日
(31)【優先権主張番号】1102174.8
(32)【優先日】2011年2月8日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】1117002.4
(32)【優先日】2011年10月3日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】513193978
【氏名又は名称】ケンブリッジ ナノリティック リミティド
(73)【特許権者】
【識別番号】513195503
【氏名又は名称】ケンブリッジ ナノサーム リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100191444
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 尚久
(72)【発明者】
【氏名】パベル シャシュコフ
(72)【発明者】
【氏名】ゲナディー ホムトフ
(72)【発明者】
【氏名】アレクセイ エロヒン
(72)【発明者】
【氏名】セルゲイ ウーソフ
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/073916(WO,A1)
【文献】 特開昭55−065396(JP,A)
【文献】 特開2004−142177(JP,A)
【文献】 特開2008−179901(JP,A)
【文献】 特開2000−173975(JP,A)
【文献】 特開2007−154302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00−21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非金属被覆を金属または半金属基板の表面上に形成する方法であって、
前記基板をアルカリ性の水性電解液および電極を含有する電解チャンバ内に配置するステップであって、少なくとも前記基板の前記表面および前記電極の一部を、前記水性電解液と接触させて配置するステップと、
所定の時間、一連の交流極性の電圧パルスを印加することにより、前記基板を前記電極に対して電気的に偏らせるステップであって、電圧パルスは前記基板を前記電極に対して陽極に偏らせ、負電圧パルスは前記基板を前記電極に対して陰極に偏らせるステップとを含み、
前記電圧パルスは0.1〜20KHzのパルス繰り返し周波数を有し、前記正電圧パルスの振幅を定電圧制御し、前記負電圧パルスの振幅を定電流制御
前記正電圧パルスおよび負電圧パルスの両方は台形の形状であり、
前記正電圧パルスのそれぞれの振幅は200ボルト〜2000ボルトで前記所定の時間に亘って一定であり、
各正電圧パルスは、前記電圧が増加する間隔(Tai)、および電圧が低減する間隔(Tad)を含み、かつ各負電圧パルスは、前記電圧が増加する間隔(Tci)、および電圧が低減する間隔(Tcd)を含み、
電圧が増加されるか、または低減する前記間隔のそれぞれは、合計パルス持続期間の3%〜30%を含む、方法。
【請求項2】
前記正電圧パルスのそれぞれの振幅は、50ボルト〜900ボルトある、請求項に記載の方法。
【請求項3】
連続する負電圧パルスの振幅は、前記所定の時間に亘って増加する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
連続する負電圧パルスの振幅は、前記所定の時間に亘ってボルト〜最高1000ボルトで増加する、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記電圧パルスは1.5〜15KHz、または2〜10KHzパルス繰り返し周波数を有する、請求項1乃至のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
圧が増加されるか、または低減する前記間隔のそれぞれは、計パルス持続期間の5%〜10%を含む、請求項1乃至のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
各正電圧パルスは、電圧が実質的に一定であるように維持する間隔(Tac)をさらに含み、かつ/または各負電圧パルスは、電圧が一定であるように維持する間隔(Tcc)をさらに含、請求項に記載の方法。
【請求項8】
電圧が増加するか、もしくは低減する前記またはそれぞれの間隔が、10マイクロ秒以上である、請求項またはに記載の方法。
【請求項9】
電圧が一定であるように維持する前記またはそれぞれの間隔が、持続期間にして10〜9000マイクロ秒の範囲内である、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記電解液は9以上のpHを有る、請求項1乃至のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記電解液は、アルカリ性金属水酸化物を含、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記電解液はコロイド状であり、水相内に分散した固体粒子を含、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記固体粒子は特有の等電点を有し、この等電点のpHは前記電解液のpHと1.5以上異なる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記固体粒子は、セラミック粒子ある、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記固体粒子は、金属酸化物または水酸化物ある、請求項12または13に記載の方法。
【請求項16】
固体粒子を、前記電解液から前記非金属被覆内に取り込むステップを含む、請求項12乃至15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
局所的なプラズママイクロ放電が、前記非金属被覆の形成中に発生しない、請求項1乃至16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記所定の時間は、1分〜2時間ある、請求項1乃至17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記電解液を摂氏10〜40度温度に維持するさらなるステップを含む、請求項1乃至18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記電解液を循環させるステップをさらに含む、請求項1乃至19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記基板は、アルミニウム、マグネシウム、チタニウム、ジルコニウム、タンタル、ベリリウム、またはあらゆるこれらの金属の合金または金属間化合物からなる群から選択された金属を含む、請求項1乃至20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記基板は半導体又は半金属である、請求項1乃至20のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非金属被覆および非金属被覆を金属基板の表面上に形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部品の表面上に付着された酸化物セラミック層の形をした非金属被覆は、通常構成部品が高い耐摩耗性または耐食性を有する必要がある際に、現代の工学用途に広く使用される。また非金属被覆は、先端技術応用に著しい可能性も示す。
【0003】
一例として、アルミニウムまたはアルミニウム合金部品上に形成されたアルミナ基のセラミック表層は、構成部品の機能性を保護し、高める。これは、高硬度、高電気抵抗率および化学安定性などの、アルミナの優秀な物理的および科学的特性に起因する。このような表層は、(特に、高い接触荷重および歪を経験する部品を動かすために)機械部品内の耐摩耗および耐食被覆、電気および電子工学における絶縁被覆、構造内の化粧塗装、および化学工学用途における化学的不活性被覆として広く使用される。
【0004】
酸化物セラミック被覆は、多くの異なる方法により金属基板上に形成されることが可能である。たとえば、被覆は、前駆体酸化物からの堆積により、ブラッシング、噴射、または気相もしくは液相からの凝縮によって形成されてもよい。また被覆は、金属基板の表面の一部を酸化物に熱または電気化学的変換によって形成されてもよい。
【0005】
堆積被覆技法により、広範囲の酸化材料の使用が可能になるが、必ずしも良好な被覆接着、均一性および表面仕上げを提供するとは限らない。
【0006】
変換技法は、より良好な接着を提供するが、被覆として利用可能な酸化材料の範囲は、母材金属の組成物によって制限される。
【0007】
変換の熱活性方法は、硬化された低融点の金属基板の処理には不適切であり、硬化された低融点の金属基板は、電気化学的技法によって優先的に被覆される。関連した電気化学的変換方法は、水溶電解液内の金属表面の陽極酸化に基づき、従来の低電圧陽極酸化およびプラズマ電界酸化(PEO)などの高電圧プラズマ支援工程に分類される。またPEOは、マイクロアークもしくはマイクロプラズマ酸化またはスパーク陽極酸化として公知である。これらの電気化学的方法は、弁金属(たとえば、Mg、Al、Ti、Zr、NbおよびTa)ならびに半金属および半導体(たとえば、Si、GeおよびGaAs)を含む、広範囲の材料の処理に使用されることが可能である。
【0008】
陽極酸化は、最も一般的で多用途の電気化学的変換技法であり、100m2までの表面領域を同時に処理できるように、容易に拡大し自動化することができる。構成部品を陽極酸化させるために使用される方法は、概して(i)電解溶液を含み、対電極を装備したタンク内に構成部品を浸漬するステップ、(ii)電解液を横切る電流を発生するために、構成部品と対電極との電位差を適用するステップ、および(iii)望ましい厚さの酸化層を得るために、一定期間に亘り電位差を維持するステップを含む。
【0009】
酸性およびアルカリ性の電解液(電解液)の両方とも陽極酸化に使用されるが、純正酸化物は前者においてのみ形成可能である。アルカリ性液内では、陽極酸化は、(米国特許第7,780,838号に記載されているように)多孔質またはゲル様の水酸化物の堆積の形成をもたらし、保護特性および機能特性が乏しい。一部の酸性ベースの工程(たとえば、クロム酸陽極酸化)の使用は、含まれる構成部品の性質を害するために、法律によって現在は制限されている。
【0010】
陽極酸化中、酸化層は以下の陽極酸化の電気化学的工程の結果として形成される。
酸化電解液界面において:
【数1】
金属酸化物界面において:
【数2】
終局の反応:
【数3】
【0011】
電気化学的工程への酸素アニオンの寄与はごくわずかであり、それらが陽極膜構造に取り込まれるのは、主に吸収に起因して起こる。それ故、酸素アニオンの内容を変化させることにより膜の化学組成物を制御する範囲が制限され、あらゆる性能の向上は、追加の陽極酸化の後処理のみを介して達成できる。このような処理には、耐食およびトライボロジー性能のための封止および含浸、視覚および審美的外観のための着色および染色、ならびに触媒性能およびナノワイヤの製造のための金属による負荷が含まれる。
【0012】
重要なことには、反応(1)により放出されるプロトンは、局所の電解液の酸性化を陽極付近に引き起こし、これは酸化物溶解の危険性を増加させる。この危険性は、金属基板が異成分からなる場合、または表面が汚染されている場合に飛躍的に上昇する。したがって、陽極酸化前に金属部品の入念な準備および洗浄が必須である。
【0013】
4未満のpHを有する電解液に曝された際は、Al23は清潔で均質な表面上であっても化学的に不安定になる。このことは、最大許容電流密度を3〜5A/dm2に抑制し、次いで膜の成長率を制限し、電解液組成物および温度制御に厳しい要求を課す。この問題は、電解液冷却の導入、電解液の厳密な循環、およびたとえばパルスの適用または交流電流モードにより陽極分極における中断によって対処されることがある。したがって、0〜5℃への冷却は、通常30〜50μmまでの厚さ、500〜600HVの硬さを有する陽極アルミナ膜を生成するために使用される。
【0014】
米国特許第7,776,198号は、可変量の電流パルスを使用して対象を電解液流れにおいて陽極酸化するための方法を説明しているのに対して、I.De Graeveらは(Electrochim.Acta、52(2006年)1127〜1134)、硫酸溶液およびリン酸溶液内でのアルミニウムの交流陽極酸化の研究について報告している。これらの技法の一般的な不利益は、直流モードに比べて被覆の成長率および陽極酸化効果が低減することであり、これは中断も陰分極も酸化膜の形成に寄与しないことに起因する。
【0015】
陽極膜は非晶質の物理的構造を有する。1μmより厚い膜は、異成分からなり、薄い(0.1〜0.3μm)内部障壁層および整然としたハニカムセルを備える厚い多孔質の外層を特徴とする。これらの構造は、自立したセラミック膜の生産およびナノ加工に有益であり得る一方で、陽極酸化処理された表面の面内の機械特性に支障を来たし、これはそれらのトライボロジー性能ならびに構成部品の体積強度に影響を及ぼす。
【0016】
したがって、拡大可能であり多用途であるが、陽極酸化は、金属部品が複雑な後処理および仕上げ手順を受けない限り、入念な表面の準備を必要とし、限定された保護を金属部品に供給する環境に悪い技術である。また陽極膜の機能特性は、それらの化学成分および位相成分を制御できないことにより制限される。
【0017】
陽極酸化に関連した主要問題に取り組む試みは、いくつかのプラズマ支援の電気化学的酸化工程の開発をもたらし、これらはPEOの総称により本明細書に統一されている。陽極酸化とは異なり、PEOは、金属電解液界面における工程がプロトンを生じない、アルカリ性電解液内で実施される。
【数4】
【0018】
局所のpHは7より下がり得ないので、酸化化学溶解の危険がなく、それ故、労力を要する表面の準備および洗浄の必要がない。しかし、酸化物成長は、アルミニウム水酸化物の形成によって妨害される。
【数5】
【0019】
PEOに対する全体の技術的手順は、陽極酸化の技術的手順と類似している。主な違いの1つは、印加された電圧の大きさがはるかに高い(200〜800V)ことである。この高い印加された電圧は、成長する酸素膜の電気絶縁破壊を引き起こす。結果として、多数の局所化されたマイクロ放電事象が表面上に発生し、光の局所化されたフラッシュ(「マイクロスパーク」または「マイクロアーク」と呼ばれることもある)に明示される。それぞれの個別のマイクロ放電事象中、薄い導電チャネルは、迅速に発達し際立ち、充電および膜を横切る物質移動のための短い回路経路を提供する。このチャネルの中心部における温度は、わずかマイクロ秒で5〜20x103Kまで上昇することが見積られる。これは、プラズマ支援の化学反応が金属基板の構成部品と電解液との間で行われる場合に、局所化されたプラズマバルブの発達を促進する。放電表面領域に隣接して、反応(5)により事前に形成された多孔質またはゲル様の水酸化物堆積が脱水され、焼結され、再結晶される。高温で混合された金属および電解液種の両方を含む酸化物(例えばスピネル)位相は、この方法で巨視的に高密度セラミック表面層の一部として200〜300μmの厚さまで生成されることが可能である。
【0020】
マイクロ放電事象によって合成された成分は、高い硬度および絶縁強度(たとえば、PEOによって生産されたα−Al23被覆は18〜25GPaの硬度および20〜40kV/mmの絶縁強度を有する)、良好な化学的不活性(たとえば、アルミナ、シリカ)、ならびに低い熱伝導率(たとえば、PEOアルミナ被覆は、0.8〜1.7W/mKの熱伝導率を有すると報告されている(JA CurranおよびTW Clyne、The thermal conductivity of plasma electrolytic oxide coatings on aluminium and magnesium、Surf. Coat. Technol.、199(2005年)177〜183))を示すことができる。したがって、PEO被覆は、多くの保護適用に対して魅力的である。
【0021】
PEO被覆の使用には難点がある。放電事象に関連した高温度勾配は、セラミック層内に亀裂をもたらす可能性がある内部応力の生成を必然的に引き起こす。これらの亀裂は、摩耗および腐食の耐性の両方に悪影響を及ぼすので、回避されるべきである。また、プラズマ化学反応生成物は、放電チャネルから排出され、電解液によって抑制されて、高い表面粗さを有する粗多孔質構造(平均細孔径は数十ミクロンの高さであることが可能である)を形成する傾向がある。粗外層は、合計被覆厚さの60%まで作成することができ、構成部品が他の表面と機械的接触を働くよう意図された場合に除去されなければならない。高密度の内層は、被覆厚さがある閾値(通常20〜30μm)を超える際のみに形成を開始し、より薄い被覆はむしろ不均一であり限定された保護を供給する。
【0022】
PEO技術は、過度に強いエネルギーであるが、労力を要する高額な後処理仕上げは依然として必要とされる。界面化学および位相組成物は、比較的広範囲内で制御されることが可能であるが、被覆は通例低い率(0.5〜2μm/分)で生成され、亀裂およびそれらの性能を損なう他の欠陥を有する不均一なコース構造を発展させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
陽極酸化およびPEO技法の両方に限界はある。本発明の目的は、非金属被覆を金属または半金属基板上に形成する改良された方法を提供することである。さらなる目的は、陽極酸化された、またはPEOが生成した被覆に比べて改良された特性を有する非金属被覆を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、その様々な態様において、それに対してここで参照がなされるべきである添付の独立請求項に定義されたような、非金属被覆を金属または半金属基板の表面上に形成する方法、非金属被覆を金属または半金属基板の表面上に形成するための装置、および非金属被覆を提供する。本発明の好ましいまたは有利な特徴は、様々な従属請求項に説明される。
【0025】
したがって第1の態様では、本発明は、基板を水性電解液および電極を含有する電解チャンバ内に配置するステップを含む、非金属被覆を金属または半金属基板の表面上に形成する方法を提供してもよい。その上に被覆を形成することが望まれる基板の少なくとも表面、および電極の一部は、水性電解液と接触される。方法は、交流極性の一連の電圧パルスを所定の時間印加することにより、基板を電極に対して電気的に偏らせるさらなるステップを含む。正電圧パルスは基板を電極に対して陽極に偏らせ、負電圧パルスは基板を電極に対して陰極に偏らせる。正電圧パルスの振幅は定電圧制御される、すなわち電圧に対して制御され、負電圧パルスの振幅は定電流制御される、すなわち電流を参照することによって制御される。
【0026】
用語金属および半金属が本明細書で使用される場合、材料の大別を説明することが意図される。したがって、これらの用語は、純アルミニウムまたはチタニウムなどの元素金属、およびシリコンなどの元素半金属、ならびに1つまたは複数の元素の合金、および金属間化合物を説明する。実際には、本発明の方法において使用される基板は、市販の金属または半金属化合物である可能性が高い。
【0027】
多くの金属は、その上に非金属被覆が形成される基板としての使用に適切であり得る。適切な材料は、弁金属に分類されたそれらの金属を含んでもよい。方法は、非金属被覆をアルミニウム、マグネシウム、チタニウム、ジルコニウム、タンタル、ベリリウム、またはあらゆるこれらの金属の合金もしくは金属間化合物からなる基板上に形成するために特に適切であってもよい。方法は、さらにシリコン、ゲルマニウムまたはヒ化ガリウムから作られた基板の表面上の非金属被覆を形成するのに適用されてもよい。
【0028】
正電圧パルスは定電圧制御され、負電圧パルスは定電流制御される交流極性の一連の電圧パルスを印加することにより、相当なレベルのマイクロ放電を含むことなく、高電圧のパルスを基板に印加することが可能である。非金属被覆の形成中に、マイクロ放電事象を最小にするまたは回避することにより、表面粗さおよび被覆多孔率の大きさなどの被覆パラメータを制御することが可能であることがある。次いでこれらのパラメータは、その摩耗耐性および絶縁強度などの被覆の重要な特性を制御する。
【0029】
正および負の電圧パルスは、各電圧パルス中に電流スパイクの拡がりを回避するために成形されることが有利である場合がある。電流スパイクは、被覆の破壊およびマイクロ放電に関連する。電流スパイクを回避するために電圧パルスを成形することにより、マイクロ放電は、著しく低減されるか、または取り除かれてもよい。マイクロ放電は、先行技術のPEO被覆技法に関して上に論じられたように、多くの被覆特性に悪影響を及ぼす。
【0030】
正および負の電圧パルスの両方とも、その間に電圧が低電圧から高電圧に上昇される間隔、およびその間に電圧が高電圧から低電圧に低減される間隔を含むことが特に好ましい。各電圧パルスは、その間に電圧が実質的に一定であるように維持される間隔をさらに含むことが望ましい。
【0031】
正および負の電圧パルスの一方または両方の形状が、実質的に台形の形状である場合は、特に有利であることがある。したがって、方法に使用されるための好ましい正電圧パルスは、その間に電圧が増加される間隔(Tai)、その間に電圧が実質的に一定であるように維持される間隔(Tac)、およびその間に電圧が低減される間隔(Tad)を含む。電圧が実質的に一定であるように維持されている期間(Tac)中、電圧はわずかに増加するか、または低減してもよいが、好ましくは最高またはピーク電圧の10%内に維持される。特に好ましいパルスに対して、間隔Tacは一定の電圧に維持される。
【0032】
好ましくは、各負電圧パルスは、その間に電圧が増加される間隔(Tci)、その間に電圧が実質的に一定であるように維持される間隔(Tcc)、およびその間に電圧が低減される間隔(Tcd)を含む。
【0033】
各連続する正電圧パルスに対して、振幅またはピーク電圧は、好ましくは同じ値で維持される。したがって、台形のパルス形状に対して、間隔Tacを跨ぐ電圧は、好ましくは所定の時間に亘って連続する正電圧パルスのそれぞれと同じ電圧である。
【0034】
非金属被覆を形成するために基板における材料の変換は、基板が電極に対して陽極に偏らせる正電圧パルス中に起きる。被覆は、基板材料自体と反応する水性電解液内の種を含む酸素として形成される。連続する正電圧パルスを跨いで、非金属被覆は厚さを増加する。被覆が厚さを増加するにつれて、被覆の電気抵抗は増加し、印加された電圧に対して電流フローは少なくなる。したがって、各正電圧パルスのピーク電圧は所定の時間に亘って一定であることが好ましい一方で、各連続する電圧パルスを有する電流フローは、所定の時間に亘って低減してもよい。
【0035】
負電圧パルスは定電流制御される。これは、各連続する負電圧パルスのピーク電圧が、電圧パルスに関連した電流を参照に決定されることを意味する。
【0036】
電流は、各連続する負電圧パルスに対して所定の時間に亘って一定であるように維持されることが好ましい。被覆が厚さを増すにつれて、したがって抵抗を増すにつれて、電流を駆動するためにより高い電圧が必要とされる。したがって、各連続する負電圧パルスの振幅またはピーク電圧は、所定の時間に亘って増加してもよい。
【0037】
好ましくは、各正電圧パルスの振幅は、一定値であるように維持され、その一定値は好ましくは200ボルト〜2000ボルトである。各正電圧パルスの振幅は、250ボルト〜900ボルトのレベル、たとえば、約600ボルトまたは約650ボルトまたは約700ボルトに維持されることが特に好ましい場合がある。
【0038】
連続する負電圧パルスの振幅は、所定の時間の開始時に約1ボルト以下の振幅から、所定の時間の終了時に最高1000ボルトまで増加することも好ましい。特に好ましくは、連続する負電圧パルスの振幅は、約1ボルト以下から最高400ボルトまで、または約1ボルト以下から最高350ボルトまで増加する。
【0039】
負電圧パルスの間に、電気化学的反応により、水酸化イオンの局所発生を基板の近接に引き起こす。
【数6】
【0040】
連続する正電圧パルスの間に、生成された水酸化イオンは、反応(4)および(5)のそれぞれに従って、陽極酸素の生成および金属水酸化物の形成の工程に関与する。これは金属酸を促進し、被覆多孔率を低減することがある。負電圧パルスを介する定電流制御は、OH-アニオンが、電解液の大部分のその濃度に関わらず、十分な量の酸化反応において酸化電解液界面に電解液が必ず存在することを確実にすることがある。したがって、効率的な金属酸化は、比較的低い伝導率で希釈されたアルカリ性溶液内にさえも提供されることがある。酸化電解液界面におけるOH-イオンの量が不十分である場合は、マイクロ放電が促進されることがあり、被覆の特性が悪影響を及ぼされる恐れがある。
【0041】
被覆が厚さを増すにつれて、被覆の抵抗が増加し、したがって各連続する負電圧パルス中に被覆を通過する電流は、被覆の抵抗加熱をもたらす。負電圧パルス中のこの抵抗加熱は、被覆内の拡散レベルを増加するのに寄与することがあり、したがって結晶化の工程、および拡がる被覆内に粒子の形成を支援することがある。非金属被覆の形成を、好ましくはマイクロ放電が実質的に回避されるこの手法で制御することにより、高密度被覆は極めて微細な規模の結晶または粒子サイズを有して形成される場合がある。好ましくは、形成された被覆の粒子サイズは、200ナノメートル未満、特に好ましくは100ナノメートル未満、たとえば50ナノメートル未満である。
【0042】
用語粒子サイズは、被覆内の粒子または結晶の平均寸法を横切る距離を指す。
【0043】
電圧パルスのパルス繰り返し周波数は、0.1〜20KHz、好ましくは1.5〜15KHz、または2〜10KHzであってもよい。たとえば、有利なパルス繰り返し周波数は、2.5KHzまたは3KHzまたは4KHzであってもよい。低いパルス繰り返し周波数では、被覆は長期間の成長に続き、長期間のオーム加熱を受ける。したがって、得られる被覆は、より高いパルス繰り返し周波数が使用された場合より、多いコース構造または表面形状を有することがある。より高いパルス繰り返し周波数は、より微細な構造およびより平滑な被覆表面を生成し得るが、被覆率および工程の効率は下がることがある。
【0044】
マイクロ放電が最小である範囲は、その間に電圧が増加される間隔およびその間に電圧が低減される間隔によって取り込まれる各パルスの割合によって決定されてもよい。便宜上、これらの間隔は、電圧ランプ間隔と呼ばれることがある。したがって、これらの間隔のそれぞれは、合計パルス持続時間の3%〜30%、特に好ましくは合計パルス持続時間の5%〜10%を含む。電圧ランプ間隔が合計パルス持続時間の低い百分率を取り込む場合は、ゼロ電圧からピーク電圧までのランプを生じるのが急過ぎる場合がある。ピーク電圧が高レベル、たとえば1000ボルトである場合は、電圧ランプ間隔が時間内にそれほど長くなければ、マイクロ放電を回避することは困難である恐れがある。電圧ランプ間隔が合計パルス持続時間の60%の百分率より多く取り込む場合は、工程の効率は低減する場合がある。
【0045】
その間に電圧が増加されるか、または低減される間隔は、好ましくは10マイクロ秒を下回らない。
【0046】
特にパルスが台形形状である場合は、各電圧パルスは、その間に電圧が実質的に一定レベルに維持される間隔を含み、この間隔は合計パルス持続時間の40%〜94%を含むことが好ましい。
【0047】
好ましくは、その間に電圧が実質的に一定であるように維持されるそれぞれの間隔は、持続時間が10〜9000マイクロ秒の範囲内である。
【0048】
方法は、アルカリ性水溶液である電解液、好ましくはpH9以上を有する電解液内で実行される場合に有利である場合がある。好ましくは、電解液は、1mScm-1を超える電気伝導率を有する。
【0049】
適切な電解液は、特に水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムを含む、アルカリ性金属水酸化物を含む。
【0050】
電解液がコロイド状であり、水相内に分散された固体粒子を含む場合は、特に有利であることがある。特に好ましくは、電解液は、100ナノメートル未満の粒子サイズを有する固体粒子の割合を含む。
【0051】
粒子サイズは、粒子の最大寸法の長さを指す。
【0052】
印加された電圧パルスの間に生成された電界は、その上で非金属被覆が成長する基板の表面に向かって運ばれるために、水相内に分散された固体粒子を帯電させる。固体粒子が成長する非金属被覆と接触するにつれて、固体粒子は被覆と反応して、被覆に取り込まれる。
【0053】
基板上に形成する被覆は、正陽極電圧パルス中に生成される。被覆を成長させるために、基板材料と電解液との間に連結が維持される必要がある。成長する被覆は完全に高密度ではないが、ある程度の多孔性を有する。基板材料と電解液との間の連結は、この多孔性を介して維持される。電解液がコロイド状であり、固体粒子を含む場合、非金属被覆の形成に固有の多孔率は実質的に修正されてもよい。水相内に分散された非金属固体粒子は、電界下で成長する酸化層の孔の中に移動してもよい。孔内で1回、固体粒子は、たとえば焼結工程によって両方の被覆と、および孔の中に移動した他の固体粒子と反応することがある。この方法で孔の寸法は実質的に低減され、被覆の多孔率はナノ細孔性としての拡がりに変更される。たとえば、被覆内の孔の最大寸法は、直径1マイクロメートル以上から直径400ナノメートル未満または直径300ナノメートル未満に低減されてもよい。
【0054】
多孔率を低減することにより、被覆の密度が増加される。さらに、被覆を通る多孔の寸法における低減は、被覆の絶縁強度および熱伝導率を実質的に増加することがある。
【0055】
電解液は、工程の開始時から存在する固体粒子を含んでもよい、すなわち粒子は、電解溶液内に最初に存在してもよい。別法として、固体粒子は、被覆工程中に水溶電解液に追加されてもよい。この方法で、成長する被覆の組成物および/または構造は、被覆が成長している間に制御されてもよい。
【0056】
電解液内に存在する固体粒子は、安定したコロイド溶液を形成することが好ましい、すなわち粒子は、凝固しない、凝集しない、または堆積しないことが好ましい。コロイド電解液の安定性および粒子の電気泳動移動度は、粒子の帯電によって決定される。デリャーギン・ランダウ・フェルウェー・オーバービーク(DVLO)による理論に従って、コロイド懸濁液の安定性は、増加する粒子荷電に伴って増加する。理論は、反発静電気二重層の重複力および引力分散(ファンデルワース)力の重畳として粒子相互作用を処理する。水溶電解液については、コロイド粒子に対する表面静電気荷電の値は、液相のpHに依存する。静電気荷電の値は、溶液のpHの変化に伴って変化する。溶液のpHのある種の値では、粒子の静電気荷電は0に等しい。これは、固体粒子の等電点として公知である。この等電点に対応するpH値は、粒子の等電点(pI)のpHとして公知である。粒子のpIが溶液のpHに近い場合は、粒子は凝固および堆積する傾向がある。また粒子は、静電気荷電の欠如に起因して、より低い電気泳動移動度を有する。
【0057】
コロイド電解液内の固体粒子が特有の等電点を有し、この等電点に対応するpHが電解液の水相のpHと1.5以上異なることが有利であることがある。
【0058】
本発明の方法がアルカリ性電解液内で実施される場合、pHは9を超えることが好ましく、pHが10〜12の範囲である場合は特に好ましい。したがって、コロイド電解液を形成するための適切な固体粒子は、pIが電解液のpHより1.5を超えて低く、たとえばアルミナ(これは7〜9のplを有する)、シリカ(pI約3.5)、チタニア(およそ3.9〜7の範囲のpI)およびイオン性酸化物(pI約6)の粒子を含んでもよい。また適切な粒子は、電解液のpHより1.5を超えて大きいpIの粒子を含んでもよい。たとえば、マグネシア(pI約12〜13)および希土類酸化物。
【0059】
固体粒子は、セラミック粒子、たとえば結晶性セラミック粒子またはガラス粒子であり、粒子の割合は最大寸法が100ナノメートル未満であることが好ましい。固体粒子は、シリコン、アルミニウム、チタニウム、鉄、マグネシウム、タンタル、および希土類金属を含む群から選択された元素の、1つまたは複数の金属酸化物または水酸化物であることが特に好ましい。
【0060】
コロイド電解液が、非金属被覆を基板上に形成する方法に使用される場合、基板の表面の陽極酸化は、コロイド粒子を電解液から電気泳動移動する工程によって賞賛される。多数のコロイド粒子は、被覆内に形成された孔の寸法より小さいサイズであり、その結果電解液からの粒子は、被覆の成長中に孔内に堆積されることが可能であることが好ましい。強電界は被覆内の孔に関連し、したがってコロイド電解液からの粒子は、電界と強く反応し、孔に移動し孔内に堆積すると考えられる。
【0061】
上述されたように、コロイド電解液の使用の有益な効果の1つは、電解液からの固体粒子が、成長する非金属被覆内に移動され、取り込まれ、そこで固体粒子は、成長する被覆の特有の孔寸法を修正し得ることである。この有益な効果は、コロイド電解液がPEO被覆工程とともに使用される場合に、起きる見込みがないことに留意されたい。PEO工程の特徴であるマイクロ放電事象により、電解液内からの固体粒子がPEO被覆構造に溶解し取り込まれることが可能になるはずであるが、PEO被覆内の多孔の寸法および分散は、影響を及ぼされ難い。マイクロ放電に起因して、孔は開いたままであり、大きい寸法である傾向がある。
【0062】
最低限の利点であり得るコロイド電解液の使用は、標準低電圧陽極酸化手順を使用して形成される被覆であったことにさらに留意されたい。
【0063】
金属の標準陽極酸化に使用される電圧は、PEO被覆に使用される電圧よりはるかに低く、また本発明による被覆方法に通常使用される電圧よりはるかに低い。被覆中に生成される電界はより弱いはずであり、したがってコロイド電解液からの粒子の移動は、急速に起きるはずはない。さらに陽極酸化工程における電解液の温度は、低温であるように維持される。したがって、成長する被覆に接触する電解液からのあらゆる固体粒子は、被覆と相互作用し被覆に取り込まれる見込みがほとんどない。
【0064】
第2の態様では、本発明は、基板を水相内に分散された固体粒子を含むコロイド電解液を含有する電解チャンバ内に配置するステップを含む、非金属被覆を金属または半金属基板の表面上に形成する方法を提供してもよい。またチャンバは電極も含む。少なくとも基板の表面および電極の一部は、電解液に接触するように配置される。方法は、非金属層を基板の表面上に生成するために、基板を電極に対して所定の時間電気的に偏らせるステップを含む。基板の極性が電極に対して陽極である状態から、電極に対して陰極である状態に循環するように、一連の双極電気パルスが印加される。非金属層は、その間に基板が電極に対して陽極である循環の期間中に形成される。コロイド電解液からの固体粒子は特有の等電点を有し、この等電点に対応するpHは、電解液の水相のpHと1.5以上異なる。双極電気パルスの印加中、固体粒子は、印加された電界の影響下で基板の表面に向かって移動し、非金属被覆を形成するために非金属層に取り込まれる。
【0065】
本発明の第1の態様の好ましい特徴に関して上述したように、コロイド電解液はアルカリ性電解液であることが好ましく、特に好ましくは9を超えるpHを有する。また電解液は、100ナノメートル未満の粒子寸法を有する固体粒子の割合を含むことも好ましい。これらの固体粒子は、好ましくはセラミック粒子であり、たとえば結晶性セラミック粒子またはガラス粒子である。シリコン、アルミニウム、チタニウム、鉄、マグネシウム、タンタル、および希土類金属を含む群から選択された元素の金属酸化物または水酸化物であることが、特に有利である。
【0066】
上述の本発明の第1の態様の方法または本発明の第2の態様の方法のいずれかに関して、その間に工程が実施される所定の時間は、意図された目的に対して適切な厚さの被覆を提供することがいつでも必要とされてよい。通常所定の時間は、1分〜2時間であってよい。被覆の拡がりの割合は、基板を電極に対して偏らせるために使用される波形、および方法がコロイド電解液を利用する場合に、コロイド電解液内の粒子の密度およびサイズを含む多くの要因に依存してもよい。所定の時間は2分〜30分、たとえば3分〜15分であることが特に好ましい。
【0067】
電解液の温度は制御されてもよい。電解液の温度は、約10℃〜40℃、たとえば20℃〜30°の作業範囲内に維持されることが想定される。適切な温度を維持するために、冷却要素を電解チャンバ内で作動することが望ましい場合がある。
【0068】
電解液は循環されることが有利である場合がある。これは、電解液がコロイド電解液である場合に特に有利である場合があり、この場合、循環により電解液内に分散された粒子が基板の表面と処理中に接触可能になり得る。
【0069】
上に開示されたあらゆる方法に対して、基板は、その上に非金属被覆が望まれる金属または半金属を含む表面の一部を有する、あらゆる形状の製品またはあらゆる構成部品の形であってもよい。非金属被覆は、基板の耐食性を向上する、または基板の耐摩耗性を改善する、または具体的な電気特性もしくは低摩擦特性を提供するために、基板に付着されてもよい。有利には、構成部品に付着される非金属被覆は、あらゆるさらなる仕上げ作業を必要としない場合がある。
【0070】
広範囲の異なる基板組成物は、特に材料が適切な電解液内で陽極に偏らせる際に、非金属表層が優先的に拡げられることが可能であるあらゆる材料に、本発明とともに使用するために適していると想定される。有利には、基板は、アルミニウム、マグネシウム、チタニウム、ジルコニウム、タンタル、およびベリリウムからなる群から選択された金属を含んでもよい。また基板は、これらの金属のあらゆる合金、またはこれらの金属を含むあらゆる金属間化合物を含んでもよい。さらに基板は、半導体材料を含んでもよい。たとえば、基板は選択された半金属およびゲルマニウムまたは金属間化合ヒ化ガリウムを含んでもよい。
【0071】
第3の態様では、本発明は、非金属被覆を金属または半金属基板の表面上に形成するための装置を提供してもよい。装置は、水性電解液を含む電解チャンバ、電解チャンバ内に配置できる電極、および基板と電極との間に交流極性の一連の電圧パルスを印加できる電源を含む。電源は、基板を電極に対して陽極に偏らせるために、一連の定電圧制御された正電圧パルスを発生するための、第1のパルス発生器を備える。電源は、基板を電極に対して陰極に偏らせるために、一連の定電流制御された負電圧パルスを発生するための、第2のパルス発生器をさらに備える。
【0072】
装置は、基板を電極に対して陽極偏らせるために、一連の定電圧制御された正電圧パルスを発生するための第1のパルス発生器、基板を電極に対して陰極に偏らせるために、一連の定電流制御された負電圧パルスを発生するための第2のパルス発生器、および所望の出力波形を生成するために、第1のパルス発生器と第2のパルス発生器の出力を同期するための制御装置を備えてもよい。制御装置は、ハードウェアもしくはソフトウェア、またはハードウェアとソフトウェアの組合せにおいて実施されてもよい。
【0073】
装置は、水相内に分散された固体粒子を含むコロイド電解液をさらに含むことが特に有利である場合がある。上述のように、このような電解液内に分散された固体粒子は、装置を使用して生成された非金属被覆に取り込まれることになってもよい。コロイド電解液は、本発明による方法に対して、上述のようにあらゆる電解液であってよい。
【0074】
上に開示された方法を使用して、または上に開示された装置を使用して拡げられた非金属被覆は、以前から公知の非金属被覆、たとえば標準陽極酸化工程によって、もしくはPEO技法によって生成された被覆と比較して、独自の特性を有する被覆を生成する。したがって第4の態様では、本発明は上述のあらゆる方法によって、または上述の装置を使用して形成された非金属被覆を含む製品をさらに提供してもよい。
【0075】
第5の態様では、本発明は、金属または半金属基板上に形成された、500ナノメートル〜500マイクロメートルの厚さの非金属被覆を提供してもよい。被覆は、基板の金属または半金属の酸化物を含む。被覆は多孔性を有し、非金属被覆の表面に画定された孔は、500ナノメートル未満の平均サイズまたは平均直径を有する。
【0076】
標準PEO技法によって生成された被覆は、500ナノメートルより著しく大きいサイズの孔を有する。被覆の多孔性のナノスケールは、様々な有利な機構および電気的特性に寄与することがある。好ましくは、非金属被覆の孔は、400ナノメートル未満、特に好ましくは300ナノメートル未満の平均サイズを有する。
【0077】
ある種の適用では、被覆の絶縁強度は特に重要であることがある。本発明のこの態様の非金属被覆は、有利には50〜120kVmm-1の絶縁強度を有する。好ましくは、被覆は、60〜100kVmm-1の範囲の絶縁強度を有する。
【0078】
ある種の適用は、被覆の熱伝導が高いことを必要とすることがある。たとえば、非金属被覆が作業電子部品またはデバイスと基板との間に電気絶縁を提供し、同時にこの部品から基板の中に熱を伝導することが求められる場合に、適用が存在する。したがって、被覆は4〜15W/mKの熱伝導を有することが有利である場合がある。特に好ましくは、熱伝導は5〜14W/mKである。
【0079】
被覆の多くの物理特性は、ある程度被覆の結晶サイズまたは粒子サイズに依存する。標準陽極酸化された被覆は、非晶質である、すなわち標準陽極酸化された被覆は、結晶構造を含まないか、または所有しない。PEOで発生された被覆において、マイクロ放電事象およびプラズマ形成に関連した高温により、結晶化および粒子の成長を生じ、被覆がコースおよび不均一な表面および大部分のマイクロ領域の結晶サイズまたは粒子サイズを伴って離れる。
【0080】
有利には、本発明の第5の態様による被覆は、200ナノメートル未満、特に好ましくは100ナノメートル未満、たとえば約50ナノメートルもしくは40ナノメートルの平均直径を有する粒子または結晶を含んでもよい。したがって被覆は、ナノメートルスケール上のサイズまたは寸法を有する物理的特徴を有する被覆が、ナノ構造の被覆またはナノセラックの被覆であると説明されてもよい。微小の粒子サイズは、構造的均一性および、硬度、耐摩耗性、熱伝導性および電気絶縁破壊電圧などの特性を向上させることがある。
【0081】
次に本発明の好ましい実施形態を、図を参照に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0082】
図1】本発明の1つまたは複数の実施形態による、非金属被覆を基板の表面上に形成する方法と共に使用するのに適した電解装置の第1の実施形態の概略図である。
図2】本発明の1つまたは複数の実施形態による、非金属被覆を基板の表面上に形成する方法と共に使用するのに適した電解装置の第2の実施形態の概略図である。
図3図1または図2と共に使用するのに適した電源の概略構成図である。
図4】本発明の1つまたは複数の実施形態による、非金属被覆を基板上に形成する方法に使用するために好ましい電圧波形を示す図である。
図5図4に示された電圧波形に対応する電流波形の概略図である。
図6図4の波形からの1つの正電圧パルスおよび1つの負電圧パルスの詳細を示す図である。
図7】例1に記載された本発明の特定の実施形態による、アルミニウム合金上に形成された非金属被覆の通常の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
図8】例1に記載された本発明の特定の実施形態による、アルミニウム合金上に形成された非金属被覆の通常の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
図9】プラズマ電界酸化(PEO)工程に関連した著しい孔サイズを示す、このような工程によりアルミニウム合金上に形成された非金属被覆の通常の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
図10】プラズマ電界酸化(PEO)工程に関連した著しい孔サイズを示す、このような工程によりアルミニウム合金上に形成された非金属被覆の通常の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
図11】例1に記載された本発明の特定の実施形態による、アルミニウム合金上に形成された非金属被覆のX線回析(XRD)パターンを示す図である。
図12】例2に記載された本発明の特定の実施形態による、アルミニウム合金上に形成された非金属被覆のXRDパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0083】
図1は、本発明の1つまたは複数の実施形態または態様による、非金属被覆を基板上に形成する方法と共に使用するのに適した典型的な電解装置を示す。装置は、化学的不活性タンク2、たとえば電界溶液3を含有するステンレス製合金から形成されたタンクを備える。電界溶液3は、水性アルカリ電解溶液、たとえば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムの水溶液であり、5mScm-1を超える電気伝導度を有する。電解液は、固体粒子を含むコロイド電解液であってもよく、固体粒子の割合は100ナノメートル未満の粒子サイズを有する。
【0084】
その上に非金属被覆を形成することが望まれる基板1は、パルス電源4の第1の出力部50に電気接続される。電極5は、パルス電源4の第2の出力部55に接続され、電極5および基板1の両方は、タンク2内に含まれる電解溶液3内に浸漬される。パルス電源4は、基板1を電極5に対して電気的に偏らせるために、交流極性の電気パルスを供給することができる。
【0085】
図2は、本発明の1つまたは複数の態様または実施形態による、基板を被覆する方法と共に使用するのに適した代替電解装置を示す。図1に対して上述の装置と同様に、図2の装置は、電解溶液3を含むために化学的不活性タンク2を備える。基板1は、パルス電源4の第1の出力部50に結合される。電源4の第2の出力部55は、第1の電極5’および第2の電極5’’に電気接続され、基板1ならびに電極5’および5’’は電解液3内に浸漬される。2つの電極5’、5’’は、基板の表面を覆うより均一な電解を生成し、より均一な被覆を基板の両側部上に生成するために、基板1のいずれかの側部上に配置される。
【0086】
これが望ましい場合は、3つ以上の電極がパルス電源4の出力部に結合されてもよいことに留意されたい。同様に2つ以上の基板がいかなるときでも被覆されてもよいように、2つ以上の基板が、パルス電源4の出力部に同時に結合されてもよい。
【0087】
図2の装置は、それを通して電極3が循環される熱変換器6をさらに備える。熱変換器6により、タンク2内で電極3の循環が可能になり、さらに電解液の温度制御も可能になる。
【0088】
本発明の1つまたは複数の実施形態と共に使用するための好ましいパルス電源は、基板と電極との間に分離した正電圧パルスおよび負電圧パルスを供給することができる。好ましいパルス発生器の概略構成図は、図3に示されている。
【0089】
図3のパルス電源は、発生器に基づく2つの分離した絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)を備え、図1または2の装置に対して好ましいパルス電源である。第1の発生器、すなわち陽極発生器30は、陽極パルス、すなわち1つまたは複数の基板を1つまたは複数の電極に対して陽極に偏らせるパルスの発生器の作用をする。第2の発生器、すなわち陰極発生器35は、陰極パルス、すなわち1つまたは複数の基板を1つまたは複数の電極に対して陰極に偏らせるパルスの発生器として作用をする。
【0090】
陽極パルス発生器30および陰極パルス発生器35は、制御装置40によって単独に制御され同期される。陽極パルス発生器30は、固定した電圧振幅を有する台形形状のパルスを発生する、すなわち陽極パルス発生器30によって発生されたパルスの電圧振幅は、定電圧制御される。
【0091】
陰極パルス発生器35は、平均陰極電流が連続するパルスに亘って固定値で維持される台形形状のパルスを提供する、すなわち陰極パルス発生器35は定電流制御されるパルスを発生する。
【0092】
Hブリッジ電子回路を備える出力スイッチ45は、陽極パルス発生器30および陰極パルス発生器35を第1の出力部50および第2の出力部55に結合させる。使用中、第1の出力部50は基板に電気的に結合され、第2の出力部55は1つまたは複数の電極に電気的に結合される。制御装置40は、陽極パルス発生器30および陰極パルス発生器35の出力部を同期し、出力スイッチ45が、図4に示されたように、一連の正および負の台形形状の電圧パルスを含む出力波形を生成できる。
【0093】
正(陽極)パルスに対する低電圧制御および負(陰極)パルスに対する定電流制御の併用は、陰極パルスと陽極パルスとの率を工程の期間に亘って徐々に増加させることができ、これは、マイクロ放電の生成なしに高エネルギー処理を可能にする状態を生み出す。
【0094】
本発明の1つまたは複数の実施形態による、非金属被覆を基板上に生成する方法に使用するために特に好ましい波形が、図4、5および6によって示されている。
【0095】
図4は、一定期間に亘って発生された一連の交流の正および負の電圧パルスからなる波形を示す。正電圧パルスは、実質的に台形の形状であり、図4に示されたように正パルス間隔(Ta)を有する。基板と電極との間に印加されると、正電圧パルスにより基板が電極に対して陽極に偏る。連続する正電圧パルスは、実質的に同じ電圧振幅(Va)を有するように制御される。
【0096】
負電圧パルスは、実質的に台形の形状であり、負パルス間隔Tcを有する。基板と電極との間に印加されると、負電圧パルスにより基板が電極に対して陰極に偏る。連続する負電圧パルスは、実質的に同じ電流振幅(図5においてIc)を有するように制御される。
【0097】
それぞれの連続する負電圧パルスの振幅は、そこで一定レベルの電流が電極を横切って流れる電圧であるように制御される。本発明の一実施形態による方法に使用される際、波形の適用により、基板の表面上に形成される非金属被覆がもたらされる。被覆の厚みが増すにつれて、その電気抵抗は増加し、同量の電流を通過するために必要とされる電圧が増加する。したがって、連続する陰極電圧パルス(Vc)の振幅は、一定期間に亘って増加する。
【0098】
図5は、図4に示された電圧波形に対応する電流波形を示す構成図である。正電圧パルスが印加されると正電流が流れると考えられ、負電圧が印加されると負電流が流れると考えられる。正電圧パルスは、各連続するパルスの振幅が実質的に同じであるように定電圧制御される。一定期間に亘って基板の表面上の被覆の厚さが増加し、この電圧によって駆動された電流が減少する。したがって、正電圧パルスに関連した正電流パルス振幅(Ia)は、一定期間に亘って減少する傾向がある。
【0099】
図4に関して上述のように、負電圧パルスは、定電流制御され、したがってこれらのパルスは、一定の電流振幅(Ic)を有するように制御される。
【0100】
図6は、1つの正電圧パルスおよび1つの負電圧パルスを示す、図4の波形の一部を示す。各正電圧パルスは実質的に台形の形状であり、その間に電圧がゼロから正すなわち陽極電圧振幅(Va)に上昇する間隔(Tai)を有する。各正電圧パルスは、その間に一定電圧が印加される間隔(Tac)を有する。この一定電圧は、パルスの電圧振幅(Va)に印加される。各正電圧パルスは、その間に電圧が電圧振幅(Va)からゼロに減少する間隔(Tad)をさらに含む。間隔(Tai)および(Tad)は、電圧パルスに関連した電流フローを制御するために変化されてもよい。電流スパイクは、電流スパイクが成長する被覆の絶縁破壊を促進し、マイクロ放電またはプラズマ生成をもたらすので、電圧パルス中に生成されることが極めて望ましくない。マイクロ放電事象は、生成された被覆の品質に悪影響を及ぼす。
【0101】
各負電圧パルスは実質的に台形の形状であり、正電圧パルスに関して記載された3つの間隔に類似した3つの間隔を含む。各陰極電圧パルスは、その間に電圧がゼロからそのパルスの陰極電圧振幅(Vc)に増加される間隔(Tci)、その間に陰極電圧が陰極電圧振幅(Vc)に留まる間隔、およびその間に電圧が電圧振幅(Vc)からゼロに減少する間隔(Tcd)を有する。電圧振幅(Vc)は電圧における電流フローに対して決定される。したがって、電圧振幅(Vc)は図4に示されたように一定期間に亘って増加する傾向がある。
【0102】
図4、5および6に示された波形は、形成された被覆の物理的および電気的特性に影響を与えるように制御され得る多くの変数を有する。正および負の電圧パルス(TaおよびTc)の両方の持続期間は、単独に制御されてもよい。正および負の電圧パルスに関連した間隔(Tai、Tac、Tad、Tci、TccおよびTcd)は、電流パルススパークおよびマイクロ放電を実質的に取り除くために、制御されることが可能である。正電圧パルスの振幅(Va)は、負電圧パルス(Ic)のそれぞれのピーク電圧で電流が流れ得るように、制御されてもよい。さらに、パルスの周波数は、100HZ〜20KHZの範囲内で変化してもよい。
【0103】
図1〜6および添付テキストは、非金属被覆を金属または半金属基板の表面上に生成するのに適した装置および好ましい波形を説明する。図1または2に示されたような装置を使用する本発明の具体的な実施形態は、図3に示されたパルス発生器を含み、図4〜6に示されたような具体的な波形を使用して、以下の例に説明される。すべての例において、コロイド溶液は、100ナノメートル未満の粒子サイズを有する、一部の固体粒子を含む。
【実施例】
【0104】
例1
50mmx50mmx1mmの寸法を有するAl6082合金の板の形の基板を、上述および図1に示されたような装置内で処理した。電解液を含有するタンクを備えた装置、ならびに基板および電極を、上述および図3に示されたようにパルス電源に結合した。基板および電極を電解液と接触するように配置した。
【0105】
電解液は、1.8g/lのKOHおよび1.0g/lのアルミナ粒子を含有する水溶液であり、安定化コロイド溶液を形成した。
【0106】
パルス発生器は交流極性の一連の台形形状の電圧パルスを基板と電極との間に印加した。正電圧パルスは700Vの固定した正電圧振幅(Va)を有して印加され、負電圧パルスは、0〜350Vに連続して増加した負電圧振幅(Vc)を有した。パルス繰り返し周波数は2.5KHzであった。
【0107】
パルスは8分間印加され、非金属被覆が基板の表面上に形成された。
【0108】
非金属被覆が特徴付けられ、以下の特徴を有した。すなわち、被覆は平滑な表面外形を有した。図7は、倍率60,000倍における被覆の一部を示すSEM顕微鏡写真を示す。表面は、この倍率では実質的に平滑であることがわかる。図8は、倍率55,000倍における被覆の一部を示すさらなるSEM顕微鏡写真を示す。50〜150ナノメートルのサイズを有する被覆内の孔が見られる。この寸法の孔は、ナノ細孔と呼ばれてもよい。
【0109】
比較のために、図9および10は、プラズマ電気化学的酸化(PEO)工程によってアルミニウム合金の表面上に形成された、被覆のSEM顕微鏡写真を示す。これらの顕微鏡写真は、倍率50,000倍におけるものである。PEO被覆の表面は、この倍率において極めて粗いことがわかる。プラズマバルブによって形成された孔は、500ナノメートルより大きいサイズを有することがわかり、図7および8に示された被覆と非常に対照をなす。
【0110】
被覆厚さは、20マイクロメートルであり、その硬度は1550Hvであると測定された。被覆のXRD分析(図11により、被覆の組成物が酸化アルミニウムであることが明らかになり、被覆は40nmの平均結晶粒子サイズを有した。平均結晶サイズを、シェラー式に従ってXRDデータをベースに計算した(B.D. Cullity & S.R. Stock、Elements of X−Ray Diffraction、第3版、Prentice−Hall Inc.、2001年、167〜171ページ)。
【0111】
被覆の絶縁破壊電圧は、1800V DCであると計測され、絶縁強度は90KV/mmであると計測された。
【0112】
例2
25mmx25mmx2mmの寸法を有するAl5251合金の板の形の基板を、例1に対して使用されたものと同じ装置を使用して処理した。
【0113】
電解液は、1.5g/lのKOHおよび2g/lのチタニアを安定したコロイド溶液内に含有した。
【0114】
パルス電源は交流極性の一連の台形形状の電圧パルスを基板と電極との間に印加した。正電圧パルスは600Vの固定した正電圧振幅(Va)を有して印加され、負電圧パルスは、0〜300Vに連続して増加した負電圧振幅(Vc)を有した。パルス繰り返し周波数は4KHzであった。
【0115】
パルスは3分間印加され、非金属被覆が基板の表面上に形成された。被覆厚さは10ミクロンであった。
【0116】
図12は、生成された被覆のXRDパターンを示す。このパターンは、被覆がアルミナおよびチタニア(TiO2)ナノ粒子の特性ピークの両方を有することを示す。
【0117】
被覆内に組み込まれたTiO2ナノ粒子は、UV放射を効率的に吸収し得る材料を形成する。またTiO2ナノ粒子により、多くの酸化還元工程における触媒活性が明らかになる。TiO2ナノ粒子は、塗料内のUV活性顔料として使用され、生物活性および殺菌被覆を含む保護および自浄作用する被覆である。
【0118】
例3
Al7075合金で作成されるAlディスクから形成され、直径30mmおよび厚さ2mmを有する基板を、図2に示されたような装置内で処理した。
【0119】
電解液は、2g/lのKOHおよび3.5g/lのケイ酸ナトリウムNa2SiO3を含有した。電解液の温度は、熱交換機の使用により20℃に維持された。
【0120】
パルス発生器は交流極性の一連の台形形状の電圧パルスを基板と電極との間に印加した。正電圧パルスは600Vの固定した正電圧振幅(Va)を有して印加され、負電圧パルスは、0〜450Vに連続して増加した負電圧振幅(Vc)を有した。パルス繰り返し周波数は3KHzであった。
【0121】
パルスは18分間印加され、得られる被覆は45マイクロメートルの厚さおよび1750Hvの硬度を有した。このような被覆は、硬い保護被覆が必要とされる場合の適用に特に使用されてもよい。
【0122】
例4
AZ91合金から作成されたMg板試料の形をし、50mmx50mmx1mmの寸法を有する基板を、図2に示されたような装置内で処理した。
【0123】
電解液は、2.5g/lのKOH、5g/lのNa427、3g/lのNaFおよび5g/lのアルミニウムを安定したコロイド溶液中に含有した。
【0124】
電解液の温度は、熱交換機の使用により20℃に維持された。
【0125】
パルス発生器は交流極性の一連の台形形状の電圧パルスを基板と電極との間に印加した。正電圧パルスは550Vの固定した正電圧振幅(Va)を有して印加され、負電圧パルスは、0〜300Vに連続して増加した負電圧振幅(Vc)を有した。パルス繰り返し周波数は1.25KHzであった。
【0126】
パルスは4分間印加され、得られる被覆は15マイクロメートルの厚さを有した。このような被覆は、保護被覆が必要とされる場合の適用に特に使用されてもよい。
【0127】
例5
Ti6Al4V合金から作成されたTiねじ山付きロッド試料からなり、5mmの直径および40mmの長さを有する基板を、図2に示されたような装置内で処理した。
【0128】
電解液は、4.5g/lのNa427、5,5g/lのNa247、5.0g/lのNaFおよび2g/lのチタニアを安定したコロイド溶液中に含有した。電解液の温度は、熱交換機の使用により20℃に維持された。
【0129】
パルス発生器は交流極性の一連の台形形状の電圧パルスを基板と電極との間に印加した。正電圧パルスは500Vの固定した正電圧振幅(Va)を有して印加され、負電圧パルスは、0〜250Vに連続して増加した負電圧振幅(Vc)を有した。パルス繰り返し周波数は1KHzであった。
【0130】
パルスは3分間印加され、得られる被覆は10マイクロメートルの厚さを有した。このような被覆は、耐摩耗適用に特に使用されてもよい。
本発明の実施態様を下記の項目1〜38に列記する。
[項目1]
非金属被覆を金属または半金属基板の表面上に形成する方法であって、
前記基板を水性電解液および電極を含有する電解チャンバ内に配置するステップであって、少なくとも前記基板の前記表面および前記電極の一部を、前記水性電解液と接触させて配置するステップと、
所定の時間、一連の交流極性の電圧パルスを印加することにより、前記基板を前記電極に対して電気的に偏らせるステップであって、正電圧パルスは前記基板を前記電極に対して陽極に偏らせ、負電圧パルスは前記基板を前記電極に対して陰極に偏らせるステップとを含み、
前記正電圧パルスの振幅を定電圧制御し、前記負電圧パルスの振幅を定電流制御する、方法。
[項目2]
前記正電圧パルスおよび負電圧パルスの両方は、実質的に台形の形状である、項目1に記載の方法。
[項目3]
前記正電圧パルスのそれぞれの振幅は、前記所定の時間に亘って一定である、項目1または2に記載の方法。
[項目4]
前記正電圧パルスのそれぞれの振幅は、200ボルト〜2000ボルト、好ましくは250ボルト〜900ボルト、たとえば、600ボルトまたは650ボルトまたは700ボルトである、項目3に記載の方法。
[項目5]
連続する負電圧パルスの振幅は、前記所定の時間に亘って増加する、項目1乃至4のいずれか一つに記載の方法。
[項目6]
連続する負電圧パルスの振幅は、前記所定の時間に亘って約1ボルト〜最高1000ボルトまで、好ましくは、約1ボルト〜最高400ボルトまで、または約1ボルト〜最高350ボルトまで増加する、項目5に記載の方法。
[項目7]
前記電圧パルスは、0.1〜20KHz、好ましくは1.5〜15、または2〜10KHz、たとえば、2.5KHzもしくは3KHzもしくは4KHzのパルス繰り返し周波数を有する、項目1乃至6のいずれか一つに記載の方法。
[項目8]
各正電圧パルスは、前記電圧が増加する間隔(Tai)、および電圧が低減する間隔(Tad)を含み、かつ/または各負電圧パルスは、前記電圧が増加する間隔(Tci)、および電圧が低減する間隔(Tcd)を含み、好ましくは、電圧が増加されるか、または低減する前記間隔のそれぞれは、合計パルス持続期間の3%〜30%、特に好ましくは合計パルス持続期間の5%〜10%を含む、項目1乃至7のいずれか一つに記載の方法。
[項目9]
各正電圧パルスは、電圧が実質的に一定であるように維持する間隔(Tac)をさらに含み、かつ/または各負電圧パルスは、電圧が一定であるように維持する間隔(Tcc)をさらに含み、好ましくは、電圧が一定であるように維持する前記またはそれぞれの間隔は、合計パルス持続期間の40%〜94%を含む、項目8に記載の方法。
[項目10]
電圧が増加するか、もしくは低減する前記またはそれぞれの間隔が、10マイクロ秒以上である、項目8または9に記載の方法。
[項目11]
電圧が一定であるように維持する前記またはそれぞれの間隔が、持続期間にして10〜9000マイクロ秒の範囲内である、項目9に記載の方法。
[項目12]
前記電解液は、アルカリ性溶液であり、好ましくは9以上のpHを有し、好ましくは1mScm-1を超える電気伝導率を有する、項目1乃至11のいずれか一つに記載の方法。
[項目13]
前記電解液は、アルカリ性金属水酸化物を含み、好ましくは、前記電解液は、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムを含む、項目1乃至12のいずれか一つに記載の方法。
[項目14]
前記電解液はコロイド状であり、水相内に分散した固体粒子を含み、好ましくは、前記電解液は、100ナノメートル未満の粒子寸法を有する固体粒子の割合を含む、項目1乃至13のいずれか一つに記載の方法。
[項目15]
前記固体粒子は特有の等電点を有し、この等電点のpHは前記電解液のpHと1.5以上異なる、項目14に記載の方法。
[項目16]
前記固体粒子は、セラミック粒子、たとえば結晶性セラミック粒子またはガラス粒子である、項目14または15に記載の方法。
[項目17]
前記固体粒子は、金属酸化物または水酸化物、好ましくは、シリコン、アルミニウム、チタニウム、鉄、マグネシウム、タンタル、および希土類金属を含む群から選択された元素の酸化物または水酸化物である、項目14または15に記載の方法。
[項目18]
固体粒子を、前記電解液から前記非金属被覆内に取り込むステップを含む、項目14乃至17のいずれか一つに記載の方法。
[項目19]
局所的なプラズママイクロ放電が、前記非金属被覆の形成中に発生しない、項目1乃至18のいずれか一つに記載の方法。
[項目20]
非金属被覆を金属または半金属基板の表面上に形成する方法であって、
前記基板を水相内に分散した固体粒子を含むコロイド電解液を含有する電解チャンバ内に配置するステップであって、前記チャンバは電極も含み、少なくとも前記基板の前記表面および前記電極の一部を、電解液に接触させて配置するステップと、
前記基板の前記極性が、前記電極に対して陽極である状態から、前記電極に対して陰極である状態に循環するように、一連の双極電気パルスを印加することにより、非金属層を前記基板の前記表面上に生成するために、前記基板を前記電極に対して所定の時間電気的に偏らせるステップであって、前記非金属層が、前記基板が前記電極に対して陽極である前記循環の期間中に形成するステップとを含み、
前記固体粒子は特有の等電点を有し、この等電点に関連するpHは、前記電解液の前記水相のpHと1.5以上異なり、前記固体粒子は、印加した電界の影響下で前記基板の前記表面に向かって移動し、前記非金属層に取り込まれて前記非金属被覆を形成する、方法。
[項目21]
前記コロイド電解液の前記水相はアルカリ性であり、好ましくは9を超えるpHを有する、項目20に記載の方法。
[項目22]
前記電解液は、100ナノメートル未満の粒子寸法を有する固体粒子を含む、項目20または21のいずれか一つに記載の方法。
[項目23]
前記固体粒子は特有の等電点を有し、この等電点に関連するpHは、前記電解液の前記水相のpHと1.5以上異なる、項目20乃至22のいずれか一つに記載の方法。
[項目24]
前記固体粒子は、セラミック粒子、たとえば結晶性セラミックまたはガラス粒子であり、たとえば前記固体粒子は、金属酸化物または水酸化物、好ましくは、シリコン、アルミニウム、チタニウム、鉄、マグネシウム、タンタル、および希土類金属を含む群から選択された元素の酸化物または水酸化物である、項目20乃至23のいずれか一つに記載の方法。
[項目25]
前記所定の時間は、1分〜2時間、好ましくは2分〜30分、または3分〜15分である、項目1乃至24のいずれか一つに記載の方法。
[項目26]
前記電解液を摂氏10〜40度、たとえば摂氏20〜30度の温度に維持するさらなるステップを含む、項目1乃至25のいずれか一つに記載の方法。
[項目27]
前記電解液を循環させるステップをさらに含む、項目1乃至26のいずれか一つに記載の方法。
[項目28]
前記基板は、アルミニウム、マグネシウム、チタニウム、ジルコニウム、タンタル、ベリリウム、またはあらゆるこれらの金属の合金または金属間化合物からなる群から選択された金属を含む、項目1乃至27のいずれか一つに記載の方法。
[項目29]
前記基板は半導体、たとえばシリコン、ゲルマニウムまたはヒ化ガリウムである、項目1乃至27のいずれか一つに記載の方法。
[項目30]
水性電解液を含む電解チャンバ、前記電解チャンバ内に配置できる電極、および前記基板と前記電極との間に交流極性の一連の電圧パルスを印加できる電源を含む、非金属被覆を金属または半金属基板の表面上に形成するための装置であって、前記電源は、前記基板を前記電極に対して陽極に偏らせるために、定電圧制御した一連の正電圧パルスを発生するための第1のパルス発生器、および前記基板を前記電極に対して陰極に偏らせるために、一連の定電流制御した負電圧パルスを発生するための第2のパルス発生器を含む、装置。
[項目31]
水相内に分散した固体粒子を含むコロイド電解液をさらに含む、項目30に記載の装置。
[項目32]
項目1乃至29のいずれか一つに記載の方法によって形成された非金属被覆を備える、製品。
[項目33]
金属または半金属基板上に形成された、500ナノメートル〜500マイクロメートルの厚さの非金属被覆であって、前記被覆は、前記基板の金属または半金属の酸化物を含み、前記非金属被覆の表面に画定された孔は、500ナノメートル未満の平均直径を有する、非金属被覆。
[項目34]
前記孔は、400ナノメートル未満、好ましくは300ナノメートル未満の平均直径を有する、項目33に記載の被覆。
[項目35]
前記被覆は、50〜120KVmm-1の絶縁強度、および5〜14W/mKの熱伝導率を有する、項目33または34に記載の被覆。
[項目36]
前記被覆は、100ナノメートル未満の平均サイズを有する粒子または結晶を含む、項目33乃至35のいずれか一つに記載の被覆。
[項目37]
図を参照して実質的にここに記載されたような、非金属被覆を基板の表面上に形成する、方法。
[項目38]
図を参照して実質的にここに記載されたような、非金属被覆。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12