(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061223
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】光学活性チオクロマン誘導体とその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 335/06 20060101AFI20170106BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20170106BHJP
【FI】
C07D335/06CSP
!C07B61/00 300
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-44110(P2013-44110)
(22)【出願日】2013年3月6日
(65)【公開番号】特開2014-172821(P2014-172821A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人 千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121658
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 昌義
(72)【発明者】
【氏名】荒井 孝義
(72)【発明者】
【氏名】山本 悠史
【審査官】
早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−046441(JP,A)
【文献】
Dodda, R. et al.,Synthesis of 2,3,4-Trisubstituted Thiochromanes using an Organocatalytic Enantioselective Tandem Michael-Henry Reaction,Advanced Synthesis & Catalysis,2008年,350(4),pp. 537-541
【文献】
O'Connor, C. J. et al.,Facile Synthesis of 3-Nitro-2-substituted Thiophenes,Journal of Organic Chemistry,2010年,75(8),pp. 2534-2538
【文献】
Liansuo Zu et al.,Cascade Michael-Aldol Reactions Promoted by Hydrogen Bonding Mediated Catalysis,J. Am. Chem. Soc,2007年,129(5),pp. 1036-1037
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 335/06
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(3)で示されるチオサリチルアルデヒドと、下記式(4)で示されるニトロアルケンを、下記式(1)で示される
化合物をニッケルに配位させた触媒を用いて
反応させて下記式(2)で示されるチオクロマン誘導体を合成する方法。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
(ここでR
1およびR
2は、おのおの独立して、H、Me、Et、tBu、ハロゲン、アルコキシ、又はニトロ基である。R
1およびR
2は、いずれ位置に複数結合していてもよい。)
【請求項2】
下記式(2)で示されるチオクロマン誘導体。
【化5】
(ここでR
1およびR
2は、おのおの独立して、H、Me、Et、tBu、ハロゲン、アルコキシ、又はニトロ基である。R
1およびR
2は、いずれ位置に複数結合していてもよい。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性チオクロマン誘導体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性なアミノ酸や糖を基本構成単位とする生体高分子は、高度な不斉空間を構築しており、この生体高分子を受容体とする医薬品も光学活性を有している必要がある。このような光学活性な物質を合成する方法は不斉合成法と呼ばれており、不斉合成法の中でも少量の不斉源から理論上無限の光学活性体を合成することが可能な触媒的不斉合成法は極めて有用、重要なものとなっている。
【0003】
現在、光学活性チオクロマン誘導体は有機触媒を用いることにより触媒的不斉合成が達成されており、例えば、従来の技術として、有機触媒を用いたチオサリチルアルデヒドの反応において、α,β−不飽和オキサゾリジノンを用いる例が下記文献1に、ベンジリデンマロネートを用いる例が下記文献2に、ニトロアルケンを用いる例が下記文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Zu,L.S.;Wang,J.;Li,H.;Xie,H.X.;Jiang,W.;Wang,W.J.Am.Chem.Soc.2007,129,1036.
【非特許文献2】Dodda,R.;Mandel,T.;Zhao,C.−G.Tetrahedron Lett.2008,49,1899.
【非特許文献3】Dodda,R.;Goldman,J.J.;Mandel,T.;Zhao,C.−G.;Broker,G.A.;Tiekink,E.R.T.Adv.Synth.Catal.2008,350,537.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記文献に記載のいずれにおいても、金属触媒を用いた例は無く、新規ジアステレオマーを合成する反応系の開発が望まれる。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を鑑み、下記式で示される反応のように、金属触媒による、チオサリチルアルデヒドとニトロアルケンのタンデムMichael/Henry反応により得られるチオクロマン誘導体合成を提供することを目的とする。
【化1】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を行なっていたところ、下記式で示される反応のように、金属にイミダゾリン‐アミノフェノール配位子を配位させた触媒の存在下で、チオサリチルアルデヒドとニトロアルケンを反応させることで、Michael/Henry反応を行わせ、式(2)で示されるチオクロマン誘導体を得ることができる点を発見し、本発明を完成させるに至った。
【化2】
【0008】
即ち、本発明の一手段に係るチオクロマン誘導体を製造する方法は、下記式(1)で示される触媒の存在下で、チオサリチルアルデヒドとニトロアルケンを反応させることである。
【化3】
【0009】
なおこの結果、下記式(2)で示されるチオクロマン誘導体を得ることができる。
【化4】
(ここでR
1およびR
2は、おのおの独立して、H、Me、Et、tBu、ハロゲン、アルコキシ、又はニトロ基である。R
1およびR
2は、いずれ位置に複数結合していてよい。)
【発明の効果】
【0010】
以上、本発明により、金属触媒による、チオサリチルアルデヒドとニトロアルケンのMichael/Henry反応およびそれにより得られるチオクロマン誘導体を提供することが可能となる。また、本発明によると下記式(2)で示されるチオクロマンを高化学収率、高ジアステレオ選択的、高エナンチオ選択的に得ることができる。
【化5】
(ここでR
1およびR
2は、おのおの独立して、H、Me、Et、tBu、ハロゲン、アルコキシ、又はニトロ基である。R
1およびR
2は、いずれ位置に複数結合していてもよい。)
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0012】
(実施形態1)
本実施形態に係るインドール誘導体の製造方法は、下記式(1)で示される触媒の存在下で、チオサリチルアルデヒドとニトロアルケンを反応させる。
【化6】
【0013】
本実施形態において用いられる触媒における配位子は、その構成中に窒素で架橋されたイミダゾリン骨格とフェニル骨格とを有しているため、反応場が広い。またフェノール環にニトロ基を有するため活性が高い。
【0014】
また、配位子を配位させる金属としては、配位させることができる限りにおいてこれに限定されるわけではないが、例えばニッケル、コバルト、または銅を例示することができる。また配位子を金属に配位させる方法としては、周知の方法を採用することができ、限定されるわけではないが、金属塩と配位子を混合することで配位させることができる。金属塩としては、限定されるわけではないが、金属がニッケルである場合、Ni(OAc)
2、Ni(acac)
2、Ni(OTf)
2等を用いることができる。
【0015】
本実施形態に係る触媒は、チオサリチルアルデヒドとニトロアルケンを用いたMichael/Henry反応を行うために用いることができる。具体的には、本実施形態に係る触媒の存在下で、下記式で示される反応のように、チオサリチルアルデヒドとニトロアルケンを反応させてチオクロマン誘導体を合成することができる。
【化7】
【0016】
ここでR
1およびR
2は、おのおの独立して、H、Me、Et、tBu、ハロゲン、アルコキシ、又はニトロ基である。R
1およびR
2は、いずれ位置に複数結合していてもよい。
【0017】
上記反応は、トルエン中において行なうことが好ましい。
【0018】
上記反応において、反応基質として用いられるチオサリチルアルデヒドは下記式(3)で示される。ここにおいてR
1は限定されるわけではないが、例えばH、Me、tBu、ハロゲン、アルコキシ基を用いることができる。なお、上記反応において、用いるチオサリチルアルデヒドの量は、ニトロアルケンを1モルとした場合、1モル以上2モル以下の範囲にあることが好ましく、より好ましくは1.2モル以上1.5モル以下の範囲内である。また、チオサリチルアルデヒドはスローアディションすることが望ましい。
【化8】
【0019】
上記反応において、反応基質として用いられるニトロアルケンは下記式(4)で示される。ここにおいてR
2は限定されるわけではないが、例えばH、Me、tBu、ハロゲン、アルコキシ、ニトロ基を用いることができる。
【化9】
【0020】
この結果、本実施形態に係る方法によると、下記式(2)で示すチオクロマン誘導体を得ることができる。
【化10】
【0021】
ここでR
1およびR
2は、おのおの独立して、H、Me、Et、tBu、ハロゲン、アルコキシ、又はニトロ基である。R
1およびR
2は、いずれ位置に複数結合していてもよい。)
【0022】
なおここで本実施形態に関わる触媒を用いた反応の機構について説明しておく。
イミダゾリン−アミノフェノール−ニッケル触媒の作用により、ニトロアルケンが活性化され、チオサリチルアルデヒドがMichael反応を起こす。この反応により生成したニッケルニトロナートがアルデヒドとHenry反応を起こし、生成物に至るとともに、触媒が再生する。
【化11】
【0023】
(配位子の合成)
また本実施形態に係る配位子及び触媒は、合成できる限りにおいて限定されるわけではないが、例えば特開2011−6363号公報に記載の技術を用いて合成することができる。
【0024】
そしてこの配位子を12.8mg用い、これを酢酸ニッケル(II)に配位させることで触媒として不斉Michael/Henry反応を行なった。
【0025】
(実施例1)
本実施例は、上記触媒の存在下、無水トルエン1mLに溶解した(E)−(2−ニトロビニル)ベンゼン22.5mgを−40℃に保ち、2−メルカプトベンズアルデヒドのトルエン溶液(0.045M)5mL(1.5当量)を15時間かけてスローアディションすることで行った。この結果、下記に示す化合物(2−1)を47mg得ることができた。また、(2−1)の化学収率は>99%、ジアステレオ比は>99/1、エナンチオ過剰率は95%eeであった。
【化12】
【0026】
1H NMR (500MHz,Acetone−d
6)δ 7.59−7.61(m,2H),7.48−7.50(m,1H),7.39−7.42(m,2H),7.33−7.37(m,1H),7.30(dt,1H,J=7.8,1.5 Hz),7.20(dt,1H,J=7.5,1.2 Hz),7.15(dd,1H,J=8.1,0.9Hz),5.70(dd,1H,J=11.5,2.9Hz),5.40−5.46(m,2H),5.31(d,1H,J=11.8Hz);
13C NMR(100MHz,Acetone−d
6)δ 137.7,134.6,133.5,132.0,129.9,129.7,129.3,129.2,125.7,125.4,90.2,70.6,41.4;
Enantiomeric excess was determined by HPLC with a Chiralkap AD−H column (85:15 Hexane:2−Propanol,0.7mL/min,254nm); minor enantiomer t
r=14.6min, major enantiomer t
r=21.8min;95%ee
【0027】
(実施例2)
本実施例は、上記触媒の存在下、無水トルエン1mLに溶解した(E)−1−メトキシ−4−(2-ニトロビニル)ベンゼン26.8mgを−40℃に保ち、2−メルカプトベンズアルデヒドのトルエン溶液(0.045M)5mL(1.5当量)を15時間かけてスローアディションすることで行った。この結果、下記に示す化合物(2−2)を48mg得ることができた。また、(2−2)の化学収率は>99%、ジアステレオ比は96/4、エナンチオ過剰率は84%eeであった。
【化13】
【0028】
1H NMR (Acetone−d
6,500MHz)δ 7.50−7.53(m,2H),7.47(dd,1H,J=7.8,1.5Hz),7.29(dt,1H,J=7.5,1.4 Hz),7.19(dt,1H,J=7.5,1.2 Hz),7.14 (dd,1H,J=8.0,1.2 Hz),6.93−6.96(m,2H),5.62(dd,1H,J=11.5,2.9 Hz),5.37−5.44(m,2H),5.25(d,1H,J=11.8Hz),3.79(s,3H);
13C NMR(Acetone−d
6,500MHz)δ 160.7,134.5,133.9,132.1,130.5,129.9,129.2,125.6,125.4,115.0,90.4,70.8,55.5,40.9;
Enantiomeric excess was determined by HPLC with a Chiralpak AD−H column (85:15 Hexane:2−Propanol,0.7 mL/min,254nm); minor enantiomer t
r=22.5min,major enantiomer t
r=35.4min;84% ee
【0029】
(実施例3)
本実施例は、上記触媒の存在下、無水トルエン1mLに溶解した(E)−1−ニトロ−4−(2−ニトロビニル)ベンゼン29.1mgを−40℃に保ち、2−メルカプトベンズアルデヒドのトルエン溶液(0.045M)5mL(1.5当量)を15時間かけてスローアディションすることで行った。この結果、下記に示す化合物(2−3)を49mg得ることができた。また、(2−2)の化学収率は98%、ジアステレオ比は>99/1、エナンチオ過剰率は91%eeであった。
【化14】
【0030】
1H NMR(Acetone−d
6,500 MHz)δ 8.27−8.30(m,2H),7.93−7.95(m,2H),7.50−7.52(m,1H),7.32(dt,1H,J=7.5,1.4Hz),7.23(dt,1H,J=7.5,1.2Hz),7.17−7.18(m,1H),5.80−5.83(m,1H),5.60(d,1H,J=5.2Hz),5.45−5.49(m,2H);
13C NMR(Acetone−d
6,125MHz)δ 148.8,145.5,134.4,132.7,132.3,130.7,130.2,126.0,125.3,124.8,89.5,70.6,40.6;
Enantiomeric excess was determined by HPLC with a Chiralcel OD−H column(80:20 Hexane:2−Propanol,0.7mL/min,254nm); major enantiomer t
r=37.3min,minor enantiomer t
r=49.3min;91%ee
【0031】
以上の通り、本実施例によると、イミダゾリン−アミノフェノール−ニッケル触媒の存在下、チオサリチルアルデヒドとニトロアルケンを用いたジアステレオおよびエナンチオ選択的Michael/Henry反応を実現できた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、チオクロマン誘導体を非常に高い光学純度で供給できることから、医薬・農薬の開発と生産に有用であり、産業上の利用可能性がある。