特許第6061231号(P6061231)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ベーレリト ゲーエムベーハー ウント コー. カーゲー.の特許一覧

特許6061231被覆された部材および部材を被覆する方法
<>
  • 特許6061231-被覆された部材および部材を被覆する方法 図000004
  • 特許6061231-被覆された部材および部材を被覆する方法 図000005
  • 特許6061231-被覆された部材および部材を被覆する方法 図000006
  • 特許6061231-被覆された部材および部材を被覆する方法 図000007
  • 特許6061231-被覆された部材および部材を被覆する方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061231
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】被覆された部材および部材を被覆する方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20170106BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   B23B27/14 A
   C23C14/06 A
【請求項の数】32
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-561224(P2014-561224)
(86)(22)【出願日】2012年12月28日
(65)【公表番号】特表2015-509858(P2015-509858A)
(43)【公表日】2015年4月2日
(86)【国際出願番号】AT2012050209
(87)【国際公開番号】WO2013134796
(87)【国際公開日】20130919
【審査請求日】2015年9月8日
(31)【優先権主張番号】A50080/2012
(32)【優先日】2012年3月14日
(33)【優先権主張国】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】507409427
【氏名又は名称】ベーレリト ゲーエムベーハー ウント コー. カーゲー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ピトナック、ラインハルト
(72)【発明者】
【氏名】ケップフ、アーノ
(72)【発明者】
【氏名】ワイセンバッチャー、ロナルド
【審査官】 永石 哲也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−190669(JP,A)
【文献】 特開2011−104737(JP,A)
【文献】 特開昭60−187678(JP,A)
【文献】 特開平08−127863(JP,A)
【文献】 特開2006−281361(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0135738(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0233511(US,A1)
【文献】 特開平08−127862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
C23C 14/06
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1または複数のコーティング層から形成されたコーティングを、少なくとも部分的に備える部材であって、
少なくとも1つの前記コーティング層は、アルミニウムとチタンと窒素とを有し、またはこれらの複数の元素から形成され、
アルミニウムとチタンと窒素とを有する前記コーティング層は、少なくとも部分的に、100nm未満のラメラ厚さを有する複数のラメラを含み
前記複数のラメラの各々は、複数の異なる相が交互に設けられた部分を備える微結晶を形成することを特徴とする、部材
【請求項2】
前記部材は、切削部材であることを特徴とする請求項1に記載の部材。
【請求項3】
前記ラメラ厚さは、50nm未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の部材
【請求項4】
前記ラメラ厚さは、35nm未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の部材。
【請求項5】
前記ラメラ厚さは、25nm未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の部材。
【請求項6】
前記ラメラの前記微結晶の幅は少なくとも部分的に一断面において、50nm超であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の部材
【請求項7】
前記ラメラの前記微結晶の幅は、少なくとも部分的に一断面において、50から200nmであることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の部材。
【請求項8】
前記ラメラは、主にまたは排他的に立方晶相から構成された複数の第1部分と、主にまたは排他的に六方晶相から構成された複数の第2部分とが交互になったもので形成されることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の部材
【請求項9】
前記複数の第1部分は、立方晶TiNと立方晶AlTi1−xNとのうちの少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項に記載の部材
【請求項10】
前記複数の第2部分は、六方晶AlNを含むことを特徴とする請求項またはに記載の部材
【請求項11】
前記複数の第1部分が、前記複数の第2部分の断面よりも薄い断面を有して形成されることを特徴とする請求項から10のいずれか一項に記載の部材
【請求項12】
アルミニウムとチタンと窒素とを有する前記コーティング層に、立方晶TiN相と、六方晶AlN相と、立方晶AlTi1−xN相とが存在し、前記立方晶TiN相においてアルミニウムはチタンより低いモル比で存在し得、前記六方晶AlN相においてチタンはアルミニウムより低いモル比で存在し得ることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の部材
【請求項13】
前記六方晶AlN相の割合は、少なくとも5%であることを特徴とする請求項12に記載の部材
【請求項14】
前記六方晶AlN相の割合は、5%から50%であることを特徴とする請求項12に記載の部材。
【請求項15】
前記六方晶AlN相の割合は、10%から35%であることを特徴とする請求項12に記載の部材。
【請求項16】
アルミニウムとチタンと窒素とを有する少なくとも1つの前記コーティング層は、CVD法を用いて堆積されることを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載の部材
【請求項17】
アルミニウムとチタンと窒素とを有する少なくとも1つの前記コーティング層は、追加のコーティング層に堆積され、該追加のコーティング層は、概して該追加のコーティング層の表面に対して略垂直に延在する、複数のTiCNの細長い結晶を含むことを特徴とする請求項1から16のいずれか一項に記載の部材
【請求項18】
複数の前記コーティング層は、硬質金属から作製された基体上に堆積されることを特徴とする請求項16または17に記載の部材
【請求項19】
少なくとも1つの前記コーティング層は、ラメラの配列の方向が異なる複数の前記微結晶を含むことを特徴とする、請求項1から18のいずれか一項に記載の部材。
【請求項20】
部材を被覆する方法であって、1または複数のコーティング層から形成されコーティングが少なくとも局所的に適用され、少なくとも1つの前記コーティング層は、アルミニウムとチタンと窒素とから形成されたものであり、
アルミニウムとチタンと窒素とを含む前記コーティング層は、複数の異なる相が交互に重なった部分を成して堆積され、複数のラメラの各々が形成する微結晶のラメラ厚さが100nm未満であるラメラ組織を少なくとも部分的に有することを特徴とする方法。
【請求項21】
前記部材は、切削部材であることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
アルミニウムとチタンと窒素とを有する少なくとも1つの前記コーティング層は、CVD法を用いて堆積されることを特徴とする請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
アルミニウムとチタンと窒素とを有する少なくとも1つの前記コーティング層は、複数の部材に同時に堆積されることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記被覆は、前記複数の部材が同時に導入されるシステム内で実行されることを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項25】
アルミニウムとチタンと窒素とを有する少なくとも1つの前記コーティング層は、20mbar超の圧力堆積されることを特徴とする請求項20から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
アルミニウムとチタンと窒素とを有する少なくとも1つの前記コーティング層は、20から80mbarの圧力で堆積されることを特徴とする請求項20から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記被覆の際の前記圧力を、プロセスガスを供給することによって調整することを特徴とする請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
アルミニウムとチタンと窒素とを有する少なくとも1つの前記コーティング層は、800℃から830℃の温度で堆積されることを特徴とする請求項20から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
アルミニウムとチタンと窒素とを有する少なくとも1つの前記コーティング層は、気相から堆積され、このときチタンに対するアルミニウムのモル比が5.0未満であることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項30】
アルミニウムとチタンと窒素とを有する少なくとも1つの前記コーティング層は、気相から堆積され、このときチタンに対するアルミニウムのモル比が4.5未満であることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項31】
アルミニウムとチタンと窒素とを有する少なくとも1つの前記コーティング層は、気相から堆積され、このときチタンに対するアルミニウムのモル比が2.5から4.2であることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項32】
少なくとも1つの前記コーティング層は、ラメラの配列の方向が異なる複数の前記微結晶を含むことを特徴とする、請求項20から31のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1または複数のコーティング層から形成されたコーティングを少なくとも部分的に備える本体、特に切削部材に関し、このとき少なくとも1つのコーティング層は、アルミニウムとチタンと窒素とを含み、すなわちこれらの元素から形成される。
【0002】
本発明はさらに、本体、特に切削部材を被覆する方法に関し、これによれば、1または複数のコーティング層で形成されたコーティングが少なくとも局所的に適用され、少なくとも1つのコーティング層は、アルミニウムとチタンと窒素とから形成される。
【背景技術】
【0003】
切削工具すなわち切削部材を、チタンとアルミニウムと窒素とから構成されたコーティング層で被覆して、切削部材の耐用年数を延長させることは従来技術から公知である。一般にこれに関連してTiAlNコーティング層が頻繁に言及され、これによるとコーティング層に存在している相が1つか、または複数であるかに拘らず、平均化学組成はTi1−xAlNで与えられる。チタンよりもアルミニウムを多く含有するコーティング層では、AlTiN、またはより正確にはAlTi1−xNといった命名が慣例になっている。
【0004】
立方晶構造を有するAlTiN系での単相コーティング層の生成は、国際公開第03/085152(A2)号パンフレットにより公知であり、これによると窒化アルミニウム(AlN)の相対的割合が最大67モルパーセント(mol%)までの立方晶構造のAlTiNが得られる。AlN含有量がより高い最大75mol%まででは、立方晶AlTiNおよび六方晶AlNの混合物が得られ、またAlN含有量が75mol%超になると、排他的に六方晶AlNおよび立方晶窒化チタン(TiN)が得られる。この指定した文献によれば、記載のAlTiNコーティング層は物理蒸着(PVD)を用いて堆積される。PVD法では、AlNの最大相対量はこのように実際には67mol%までに制限される。これは、これを超えると六方晶AlNの形でのみアルミニウムを含有する相に完全に変換される可能性があるためである。しかしながら専門家の意見によると、可能な限り耐摩耗性を最大にするには、立方晶相のAlNの相対的割合がより高いことが望ましい。
【0005】
従来技術から、PVD法の代わりに化学蒸着(CVD)法を使用し得ることも公知であり、このときCVD法は、700℃から900℃の温度範囲の比較的低温で実行される。これは立方晶AlTiNコーティング層が、その準安定構造に起因して、例えば1000℃超の温度では生成することができないためである。
【0006】
必要であれば、米国特許第6,238,739(B1)号明細書に従って温度をさらに低下させ、すなわち550℃から650℃の温度範囲にすることも可能であるが、これによるとコーティング層の塩素含有量が高いことを許容しなければならず、これはある用途では不利であることが判明している。従って、立方晶構造のアルミニウムをコーティング層に高い割合で含む、このようなAlTiNコーティング層を生成することができるよう、CVDプロセスを最適化しようとする試みが行われた(I. Endler他、Proceedings Euro PM 2006, Ghent, Belgium, October 23−25, 2006, Vol 1 219)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このようなコーティング層は高い微小硬度を呈し、すなわち原理上は使用時の高耐摩耗性に有利な性質を呈するが、それでもこのようなコーティング層は、その接着強度が過度に低くなる可能性があることが判明した。従ってこれに関連して、独国特許発明第102007000512(B3)号明細書では、相勾配層として形成された1μm厚のコーティング層を、3μm厚でありかつ六方晶AlN、TiNと立方晶AlTiNとの混合相から構成された、立方晶AlTiNコーティング層の下に提供することが提案された。これにより、立方晶AlTiN部分は表面に存在し、および/または、表面に向かって(排他的に)立方晶AlTiNコーティング層の割合が増加した状態で存在する。これに対応して被覆された切削板を、鋼のフライス加工に使用して、PVD法を用いて生成されたコーティング層と比較したが、耐摩耗性の向上はほとんど得られなかった。
【0008】
耐摩耗性が極僅かしか向上しないことに加えて、独国特許発明第102007000512(B3)号明細書に係る接合層には、実験室規模の実験においてでさえ接合層および/または相勾配層の成長が極めて急速であるという、さらに不利な点がある(I.Endler他、Proceedings Euro PM 2006, Ghent, Belgium, October 23−25, 2006, Vol. 1, 219)。さらに、産業規模の切削板被覆用に設計された、より大型の反応装置で生成する場合には、これが、意図された被覆プロセスにおいて接合層および/または相勾配層が極めて厚くなることに繋がる。これは、これまで意図されていた立方晶AlTiNを形成するための温度が下げられ、それに対応して時間が必要になるためである。
【0009】
しかしながら、産業規模の反応装置では急速冷却が不可能であるため、このようにプロセス温度を低下させている間に、接合層および/または相勾配層の厚さは急速に成長する。被覆プロセスを、より長時間の間および/または冷却のために、中断することもできると考えられるが、これは経済的ではない。
【0010】
CVD法を用いたAlTiNコーティング層の製造では、耐摩耗性および耐酸化性を有するコーティング層、すなわち最適なコーティング層は、コーティング層内のアルミニウム含有量が可能な限り高い場合に、またコーティング層が完全に立方晶構造を有することが可能である場合に、得られ得ることがこれまで想定されていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の関連で、AlTiNコーティング層の特定の実施形態は、並外れて高いアルミニウム含有量および/または実質的に立方晶構造を必要とすることなく、極めて耐摩耗性および耐酸化性のあるコーティング層に繋がり得ることが見出された。
【0012】
従って、本発明の1つの目的は、使用時に優れた耐摩耗性と同様の耐酸化性とを有するコーティング層を備えた、上述したタイプの本体を提供することである。
【0013】
さらなる目的は、非常に耐摩耗性および耐酸化性があるコーティング層を備えた本体を生成し得る、上述したタイプの方法を提供することである。
【0014】
第1の目的は、上述したタイプの本体によって本発明により実現され、この本体では、アルミニウムとチタンと窒素とを有するコーティング層が、ラメラ厚さが100nm未満のラメラ(薄層)を少なくとも部分的に有し、このラメラは、異なる相を持つ連続した部分を含む。
【0015】
異なる相を持ち、かつラメラ厚さが100nm未満である、ラメラ組織を少なくとも部分的に含む本発明に係る本体の利点は、極めて高い剛性であり、従って結果として耐摩耗性も提供される。このようにラメラは、コーティング層の粒子内で繰り返される連続した2つの相を呈する。
【0016】
本発明の関連で得られる認識は、PVDプロセスによる経験と相互に関連があるように思われる。PVDプロセスで生成されるコーティング層は、ナノメートルスケールの薄層で事実上堆積を繰り返すプロセスに基づいて、被覆本体にコーティング層が形成される場合、高い剛性を有することが多い。従って、本発明によれば、ラメラ厚さは50nm未満、好適には35nm未満、特に25nm未満であることが望ましい。
【0017】
本発明に係る本体の、アルミニウムとチタンと窒素とのコーティング層では、概して多数のラメラ、すなわち複数の微結晶すなわち粒子が形成される。従って、個々の微結晶の幅は、少なくとも部分的に一断面において、50nm超、好適には50から200nmである。微結晶のサイズがより小さい場合には、異なる相を有するラメラ組織の効果が十分には現れない可能性がある。
【0018】
ラメラが、主にまたは排他的に立方晶相から構成された第1部分と、主にまたは排他的に六方晶相から構成された第2部分とが交互になったものから形成される場合、特に有利である。このように硬質の立方晶相と、より軟質の六方晶相とが連続することで、所望の剛性と、最終的には耐摩耗性にも好都合に働くように思われる。第1部分が、立方晶TiNおよび/または立方晶AlTi1−xNを含む場合、または、実質的にこれらの相から構成される場合、特に有利である。第2部分は、六方晶AlNを含むものでもよく、またはこれから構成されるものでもよい。第1部分が第2部分よりも薄い断面を有して形成される場合、特に有利である。連続した硬質の立方晶相とより軟質の六方晶相との間の相互作用が、ナノメートルスケールのその構造、すなわち、より軟質の六方晶の割合が勝るべきであるというその特別な設計に起因して、剛性に好都合に働くのは明らかである。
【0019】
アルミニウムとチタンと窒素とを有するコーティング層に、立方晶TiN相と、六方晶AlN相と、立方晶AlTi1−xN相とが存在し得、このとき立方晶TiN相においてアルミニウムはチタンより低いモル比で存在し、また六方晶AlN相においてチタンはアルミニウムより低いモル比で存在する。ここで、コーティング層における六方晶AlN相の割合は合わせて、少なくとも5%、好適には5%から50%、特に10%から35%(mol%で)である。対応するコーティング層において立方晶の割合が可能な限り高いことが望ましいとされた従来技術の予想とは対照的に、六方晶AlN相が特定の最小限の含有量で存在していると明らかに有利である。
【0020】
アルミニウムとチタンと窒素とを有する少なくとも1つのコーティング層は、CVD法を用いて堆積されることが好ましい。
【0021】
アルミニウムとチタンと窒素とを有する少なくとも1つのコーティング層が追加のコーティング層に堆積され、この追加のコーティング層が、概してこの追加のコーティング層の表面に対して略垂直に延在する、TiCNの細長い結晶を含む場合、有利であることがさらに判明した。このような中間層上で、ナノメートルスケールのラメラ組織を備えている本発明に係るコーティング層は特に良好に形成され得、および/または、所望の構造を高い割合で含んで堆積され得る。従って、これらのコーティング層は概して、硬質金属から作製された基体上に堆積され、例えば切削部材を利用可能にする、
【0022】
方法の観点で本発明の目的は、言及したタイプの方法において、アルミニウムとチタンと窒素とを含む、少なくとも部分的にラメラ組織を有するコーティング層であって、このラメラ組織は、ラメラ厚さが100nm未満でありかつ異なる相を持つ連続した部分を含む、ラメラを含むものである、コーティング層を、堆積させる場合に達成される。
【0023】
本発明に係る方法で実現される利点は、耐摩耗性および耐酸化性を有するコーティング層を備えて形成される本体を提供できることである。これは、ナノメートルスケールのラメラ組織を有し、また異なる相を持つ連続した部分を有する、アルミニウムとチタンと窒素とを含むコーティング層の特別な設計によるものである。
【0024】
アルミニウムとチタンと窒素とを有する少なくとも1つのコーティング層は、CVD法を用いて堆積されることが好ましい。この事例では、アルミニウムとチタンと窒素とを有する少なくとも1つのコーティング層を、複数の本体に同時に堆積することができ、これにより、例えば、切削板の作製が可能な切削部材を、非常に高い費用効率で生成することができる。ここで被覆は、複数の本体が同時に導入されるシステム内で実行されることが望ましい。そのとき追加のコーティング層を、同様にCVD法を用いて堆積してもよい。
【0025】
アルミニウムとチタンと窒素との少なくとも1つのコーティング層が、20mbar超の圧力で、好適には20から80mbarの圧力で堆積されると、ラメラ組織の微調整を特に容易に実現することができる。被覆中の圧力を、プロセスガスを供給することによって調整してもよい。
【0026】
アルミニウムとチタンと窒素とを有する少なくとも1つのコーティング層は、800℃から830℃の温度で堆積されることが好ましい。アルミニウムとチタンと窒素とを有する少なくとも1つのコーティング層が気相から堆積され、このときチタンに対するアルミニウムのモル比が5.0未満、好適には4.5未満、特に2.5から4.2であると特に有利である。温度を適切に選び、さらにチタンに対するアルミニウムのモル比を適切に選択することによって、所望のラメラ組織と、およそ80から200nmのサイズの微結晶との特に広範囲に亘る形成が実現できる。
【0027】
本発明を、実施形態を参照して以下でさらに説明する。ここで参照する図面について以下に示す。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】被覆された本体の概略図である。
図2図1に係る本体のコーティング層を透過型電子顕微鏡で撮影した写真である。
図3図2に表したものを拡大した詳細である。
図4図3に表したものを拡大した詳細である。
図5】透過型電子顕微鏡法を用いた化学分析を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、本発明に係る本体1を示している。本体1は、タングステン、チタン、ニオブ、または他の金属の、炭化物および/または炭窒化物から選択される硬質金属と、コバルト、ニッケル、および/または鉄の群から選択されるバインダ金属とから通常構成される、基体2を備えている。原則として、バインダ金属の含有量は、最大で10重量%である。典型的には本体1は、最大10重量%のコバルトおよび/または他のバインダ金属と残り部分とから構成され、この残り部分は、タングステンカーバイドと、最大5重量%の、他の金属の他の炭化物および/または炭窒化物である。接合層としての機能を果たすTiNのコーティング層3を、基体2に堆積させる。コーティング層3の厚さは、典型的には2μm未満であり、好適には0.4から1.2μmである。中間層としての機能を果たすTiCNのコーティング層4を、コーティング層3に堆積させる。このコーティング層4は、中温度域のTiCN(MT−TiCN)コーティング層である。こういったコーティング層4は典型的には、本体1に垂直な表面に実質的に平行に配列された柱状結晶を含む、柱状構造を有する。最後に、最外コーティング層5をコーティング層4に堆積させる。コーティング層5は、アルミニウムとチタンと窒素とから形成され、他のコーティング層3および4と同様にCVD法を用いて堆積される。手順および使用するガス次第で、コーティング層5に存在する塩素および酸素の割合をより小さくすることもできる。
【0030】
図1に示したようなコーティングを、切削部材、特に切削板に堆積させてもよく、このとき本体1は、第1段階でTiNの接合層および/またはコーティング層3を、880℃から900℃のプロセス温度で窒素と水素と四塩化チタンとを含むガスから堆積させることにより作製される。次いで温度を下げ、830から870℃の温度で、厚さ2〜5μmのMT−TiCNから形成されたコーティング層4を堆積させる。この堆積は従って、窒素と水素とアセトニトリルと四塩化チタンとから構成されたガスにより実行される。この対応するプロセス温度と、炭素源および/または窒素源としてアセトニトリルを使用することとによって、TiCNの柱状成長および/または柱状結晶を含む、中間層の形成が確実になる。
【0031】
従ってTiCNコーティング層は、断面に縦に延在する結晶を含み、この結晶は主に、本体1に垂直な表面に対して±30°の角度で延在することが好ましい。対応するTiCNコーティング層は、続いて堆積される平均のAlTi1−xNを含むコーティング層5に、優れた接合を生じさせる。これに関連して、TiCNコーティング層は平均組成のTiC1−aを、aを0.3から0.8、特に0.4から0.6の範囲として含むと有利である。
【0032】
硬度を高めるために、アルミニウムとチタンと窒素とを含むコーティング層5を最後に中間層のTiCNに適用してもよく、このときチタンは最大40mol%までアルミニウムで置換することができ、これにより温度は約800℃〜830℃まで下げられる。コーティング層5は、必ずしもそうである必要はないが最外コーティング層であり、三塩化アルミニウム、窒素、水素、四塩化チタン、さらに別に供給されるアンモニアと窒素との混合物を含む、ガスから生成される。従って、中間層を生成する第2段階と、コーティング層5を生成する第3段階では、夫々そのプロセス温度をより低下したものとすることができ、これは非常に経済的であり、また切削部材のコーティングを迅速に作製することができる。
【0033】
被覆された本体1の製造において、複数の本体1夫々は、上述した手法で被覆が同時に行われるシステム内に導入される。CVD被覆段階での処理圧力は、従ってプロセスガスを供給することによって調整される。アルミニウムとチタンと窒素とを含むコーティング層5を生成する際、チタンに対するアルミニウムのモル比は5.0未満になるように調整される。以下の表は、コーティングの生成に関する典型的なプロセスパラメータと、個々のコーティング層の性質を示したものである。
【表1】
【表2】
【0034】
図2から4は、最外コーティング層5の透過型電子顕微鏡写真を異なる解像度で示したものである。図2で見られるように、コーティング層5には、断面で部分的に視認できるラメラ組織が存在している。これらは観察方向に対して配列が異なる個々の微結晶であると想定され、そのため個々の適切に位置付けられた微結晶のみでラメラ組織が十分に視認される。この断面によれば、微結晶のサイズは、およそ50から200nmである。
【0035】
図3は、図2に係る領域を拡大した詳細を示している。図に見られるように、個々のラメラが形成されている。ラメラは夫々、図3でより暗く現れている第1部分と、より明るく現れている、より厚い第2部分とを含む。微結晶中の複数のこのようなラメラは、あるラメラ厚さで、すなわち第1部分と第2部分とを合わせて25nm未満の厚さで、順に続いている。第1部分は、アルミニウムの割合をより低くし得る立方晶TiNから構成され、これによるアルミニウムのモル分率は最大でチタン含有量の10%であることが好ましい。より厚い第2部分は、金属に関して主にアルミニウムを含む、六方晶相から形成される。さらに、アルミニウム含有量がチタン含有量をはるかに上回る、AlTi1−xN相が依然このコーティング層内に存在する。従って、合わせて3つの相が存在し、それによる2つの相が図4に拡大して示したラメラ組織を形成する。
【0036】
より薄いラメラの第1部分は、金属としては主にチタンで形成され(図5のより暗い領域)、一方より厚い第2部分では、アルミニウムが主な金属である(図5のより明るい領域)ことが、透過型電子顕微鏡法を用いた化学分析により確認される。
【0037】
前述したようなコーティング層5を含む切削部材は、PVD法を用いて立方晶AlTi1−xNコーティング層で被覆された切削板に比べて、個々の事例で耐用年数が最大220%まで延長されることが示されたことにより、特に鋳造材料の機械加工で、ただし他の金属材料でも同様に、使用時に極めて耐摩耗性および耐酸化性があることが判明した。
図1
図2
図3
図4
図5