(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記六方晶系窒化ホウ素粉末100質量部に対する前記フッ素含有オリゴマーの比率が、10〜400質量部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性付与剤。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、一般的に窒化物の粉末フィラーは樹脂への均一な分散が困難であり、上記特許文献1及び特許文献2記載の技術によっても、依然として有機高分子材料において分散性は不足しており、充分な難燃性を付与するには至っていない。また、例えばSi−Oで構成される網目構造を有さないため、有機低分子化合物を網目構造内に包摂することができず、当該有機低分子化合物の難燃性を向上することができない。また、特許文献1記載の技術では、有機高分子材料に添加した場合に、例えばフッ素由来の化合物によって得られるような表面特性(潤滑性など)を付与することができない。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、高い難燃性を有機高分子材料に付与する難燃性付与剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点に係る難燃性付与剤は、下一般式(1)で表されるフッ素含有オリゴマーを構成単位とするゲル化物と、六方晶系窒化ホウ素とからなることを特徴とする。
【化1】
(上式(1)中、Rfはフルオロアルキル基を含有する基を
表す。nは自然数である。)
【0010】
本発明の第2の観点に係る難燃性付与剤は、下一般式(1)で表されるフッ素含有オリゴマーを構成単位とするゲル化物によって六方晶系窒化ホウ素粉末が覆われてなり、平均粒子径が10〜5000nmである。
【化2】
(上式(1)中、Rfはフルオロアルキル基を含有する基を
表す。nは自然数である。)
【0011】
前記六方晶系窒化ホウ素粉末100質量部に対する前記フッ素含有オリゴマーの比率が、10〜400質量部であることが好ましい。
【0012】
前記六方晶系窒化ホウ素が、窒化ホウ素の微粒子表面に−OH基、−NH
2基の官能基を有し、窒化ホウ素結晶の端面上のホウ素原子に共有結合で結びついているものであることが好ましい。
【0013】
本発明の第3の観点に係る難燃性物品は、第1及び第2の観点に係る難燃性付与剤が有機材料に分散されてなることを特徴とする。
前記有機材料は、樹脂、ゴムであることが好ましい。
【0014】
本発明の第4の観点に係る難燃性付与剤の製造方法は、下一般式(2)で表されるフッ素含有オリゴマーと六方晶系窒化ホウ素粉末とを含んでなるゾル化状態の溶液を得ることと、
〔Rf−(VM)n−Rf〕 ・・・式(2)
(上式(2)中、Rfはフルオロアルキル基を含有する基を表し、VMは
CH2−CH−Si(OCH3)3を表す。nは自然数である。)
前記ゾル化状態の溶液をアルカリ性とすることでゲル化状態の溶液を得ることと、
前記ゲル化状態の溶液から溶媒を除去することと、
を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の第5の観点に係る難燃性物品の製造方法は、第1及び第2の観点に係る難燃性付与剤を有機材料に分散することを特徴とする。
前記有機材料は、樹脂、ゴムであることが好ましい。
【0016】
本発明の第6の観点に係る難燃性物品は、第1及び第2の観点に係る難燃性付与剤に有機化合物が包摂されてなることを特徴とする。
【0017】
本発明の第7の観点に係る難燃性物品の製造方法は、第1及び第2の観点に係る難燃性付与剤に有機化合物を包摂させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の難燃性付与剤によれば、有機材料における窒化物の分散性が高められ、樹脂、ゴムなどの有機材料に高い難燃性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、表面に官能基を持つものの、官能基の数が少ないため、単体としては依然として有機溶媒や樹脂との親和性が低い窒化ホウ素粉末と、特定の置換基を有するフッ素含有オリゴマーとからなる複合材料を用いることで、上述したような問題を解消し、難燃性に優れる化合物を開発するに至った。
【0021】
なお、以下の記載において「難燃性物品」とは、例えば常温常圧の大気中で該物品に裸火を近づけても引火しない物品、又は一度引火しても焼失する前に自己消火する物品、として定義できる。このような物品は例えば酸素指数によって定義することもできる。また、以下の記載において「難燃性付与」とはこのような難燃性物品を得ることに限定されない。例えば酸素指数をある一定値以上にする場合のみならず、単に酸素指数を難燃性付与前よりも高くすることも含まれる。
【0022】
また、以下の記載において、「窒化ホウ素粉末」とは、窒化ホウ素の粉末といい、粉末を構成する粒子の直径は、10〜5000nm程度である。また、「粒子径」は、SEM写真を画像解析することにより得られる微粒子の直径であり、「平均粒子径」は、粒子径の相加平均値(n=40)である。
【0023】
以下、本発明の実施形態に係る難燃性付与剤、難燃性物品及びそれらの製造方法について説明する。
【0024】
(難燃性付与剤)
本発明の実施形態に係る難燃性付与剤は、下一般式(1)で表されるフッ素含有オリゴマーを構成単位とするゲル化物と、下記する六方晶系窒化ホウ素(以下、「h-BN」と略記する場合あり。)とからなる複合材料である。
〔フッ素含有オリゴマー〕
【化3】
【0025】
上一般式(1)において、Rfは、分子両末端における基であり、フルオロアルキル基を含有する基、具体的には、−CF(CF
3 )OC
3 F
7 で表される基であることが好ましい。
【0026】
上一般式(1)で示される化合物は、一般式(2)のフッ素含有オリゴマーを酸性又はアルカリ性条件下でゾル−ゲル反応させることで得られる。換言すると、上一般式(1)で表されるフッ素含有オリゴマーを構成単位とするゲル化物は、中間鎖にSiOから構成される網目構造(マトリックス)が存在していることを表す。
【0027】
上一般式(1)で表されるフッ素含有オリゴマーを構成単位とするゲル化物は、ゲル化される以前のオリゴマーの状態(後述する一般式(2)参照)では、その構成単位の分子量が500〜1000程度であるものが使用できる。また、nは例えば2〜3の自然数である。
【0028】
フッ素含有オリゴマーは、複合材料の状態では、ゲル化され、網目構造を有する。このフッ素含有オリゴマーは、1分子中に占めるフッ素原子(表面特性の向上に寄与する原子)の割合が大きいために、最終的に得られる樹脂成型品やゴム成形品の表面に高い効率でフッ素原子を存在させることができる。これにより、有機高分子成形品、即ち、樹脂成型品やゴム成形品の表面特性(潤滑性など)が向上する。
【0029】
〔六方晶系窒化ホウ素粉末〕
六方晶系窒化ホウ素粉末は、窒化ホウ素からなる微粒子の表面に−OH基、−NH
2基等の官能基を有し、窒化ホウ素結晶の端面上のホウ素原子に共有結合で化学結合しているものを使用することが好ましい。ここで、窒化ホウ素結晶の端面とは、ホウ素原子と窒素原子が交互に結合した六角網面構造を持つ積層面と直交する側面をいう。
【0030】
〔複合材料(ナノコンポジット)〕
本発明の実施形態に係る複合材料は、粒子状であり、個々の粒子は、球形または球形に近い形状である(
図7参照)。詳しくは、複合材料は、上一般式(1)で表されるフッ素含有オリゴマーを構成単位とするゲル化物によって六方晶系窒化ホウ素粉末が覆われてなる粒子状の化合物である。その平均粒子径は、10〜5000nm、好ましくは、20〜1000nm、より好ましくは20〜500nmである。10nm未満であると、一次粒子が凝集してしまい、取り扱いが困難となるためである。一方、5000nmを超えると、得られる有機高分子成形品の機械的特性の低下を招くことがあるためである。このように、個々の粒子のサイズは、ナノスケールであるため、本複合材料は、「ナノコンポジット」とも呼ばれる。
【0031】
[複合材料の製造方法]
本発明の実施形態に係る複合材料は、下一般式(2)で表されるフッ素含有オリゴマーと、下記する六方晶系窒化ホウ素粉末とを所定の方法によって反応させることで製造できる。
【0032】
例えば、下記一般式(2)で表されるフッ素含有オリゴマーと、上記した六方晶系窒化ホウ素粉末と含んでなるゾル化状態の溶液を得ることと、このゾル化状態の溶液をアルカリ性とすることでゲル化状態の溶液を得ることと、このゲル化状態の溶液から溶媒を除去することと、を有する方法によって得られる。
【0033】
〔フッ素含有オリゴマー〕
〔Rf−(VM)n−Rf〕 ・・・式(2)
(上式(2)中、Rfは分子両末端における置換基であり、フルオロアルキル基を含有する基、具体的には、−CF(CF
3 )OC
3 F
7 で表される基を表し、VMはビニルトリメトキシシラン(化学式:CH
2=CH−Si(OCH
3 )
3 で表される。)
由来の単量体単位(化学式:CH2−CH−Si(OCH3)3で表される。)を表す。nは2〜3の自然数である。)
【0034】
六方晶系窒化ホウ素粉末100質量部に対するフッ素含有オリゴマーの比率としては、例えば10〜400質量部とすることが好ましい。400質量部を超えると、六方晶系窒化ホウ素粉末の有機高分子材料中の分散性が飽和し、材料費用によって製造コストが上昇することがあり、10重量部未満であると、六方晶系窒化ホウ素粉末の分散性が低下したり、有機高分子材料に十分な表面特性(潤滑性など)が得られないことがあるためである。
【0035】
上記フッ素含有オリゴマーと六方晶系窒化ホウ素とから上記複合材料を得る反応式を、以下の式(3)で示す。
【化4】
・・・式(3)
【0036】
<第1実施形態>
本第1実施形態では、上記難燃性付与剤(複合材料)を、下記するような有機高分子化合物(基材)に添加する場合について説明する。これにより、当該有機高分子化合物の熱伝導性を向上させ、その結果、得られる難燃性物品に高い難燃性を付与することができる。
【0037】
(有機高分子化合物)
難燃性を付与する有機高分子材料としては、例えば樹脂、ゴムが使用できる。
【0038】
樹脂としては、例えばポリイミド樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ナイロン6(Tm=215℃)、ナイロン66(Tm=255℃)、ポリイミド、ポリフェニレンオキシド、ノリル、ポリスルホン、TPX(三井化学株式会社の登録商標;ポリメチルペンテンの一種)、ポリアセタール、ポリカーボネートなどの難燃性を有する熱可塑性樹脂を挙げることができるが、これらには限定されない。中でもポリイミド樹脂は、難燃性だけでなく、耐寒性、機械特性、電気特性に優れることから好ましく使用できる。
【0039】
ゴムとしては、例えば、クロロプレンゴム(CR)、フッ素ゴム(FKM,FEPM)、クロロスルフォン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン、エピクロロヒドリンゴム等の難燃性ゴム(エラストマー)の他、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPM、EPDM)、シリコーン等、通常は難燃性ではないゴム(エラストマー)も挙げることができる。
【0040】
その他、難燃性を付与できる有機高分子材料としては、紙、木材、布帛などが挙げられるが、これらの物質の場合では、後述するように、その表面に塗布される等して使用される。
【0041】
[難燃性物品の製造方法]
これらの有機高分子材料は、一般に加熱溶融され、難燃性付与剤と混合された後、金型で所定形状に成形された状態とすることで難燃性物品とされる。
【0042】
有機高分子材料に対する複合材料の含有量としては、有機高分子材料100質量部に対して、0.01〜1000質量部、好ましくは0.5〜100質量部、より好ましくは1〜100質量部とすることがよい。0.01質量部未満であると、得られる成形品の熱伝導性、難燃性、潤滑性、化学安定性、耐食性、表面特性を十分に向上させることができず、1000質量部を超えると、得られる樹脂成形品の柔軟性、弾性などの機械的特性の低下を招くことがあるためである。
【0043】
例えば、有機高分子材料がポリイミド樹脂の場合には、ポリイミド樹脂100質量部に対して、複合材料は、0.01〜1000質量部、好ましくは0.5〜100質量部、より好ましくは1〜100質量部とすることがよい。
【0044】
また、有機高分子材料がクロロプレンゴムの場合には、クロロプレンゴム100質量部に対して、複合材料は、0.01〜1000質量部、好ましくは0.5〜100質量部、より好ましくは1〜100質量部とすることがよい。
【0045】
本実施形態において、有機高分子材料に複合材料を添加することで難燃性が発現するメカニズムは、以下のように推定できる。
即ち、
図7に示すように、上記フッ素含有オリゴマーを用いた場合には、アルカリ条件下でゾル−ゲル反応が起き、コア−シェル(BN−VM−表面にRf基を有する)構造を形成する。このため、有機高分子材料を有する複合材料を800℃で焼成すると、RF基とVMの炭化水素部は燃焼してしまう。しかしながら、Si−OマトリックスとBNは有機高分子材料中に残存しており、特にBNの熱伝導性によって、高分子材料の難燃性が高められることが考えられる。
【0046】
また、本実施形態によれば、フッ素含有オリゴマーが、Rf基、即ち、フッ素を含むので、フッ素由来の化合物によって得られるような表面特性(潤滑性など)を付与することができる。
【0047】
<第2実施形態>
本発明の実施形態に係る複合材料は、上述した第1実施形態のように、有機高分子化合物に添加して難燃性を高めること以外に、本第2実施形態のように、複合材料中に有機低分子化合物を包摂させ、得られる難燃性物品の難燃性を高めることもできる。
【0048】
(有機低分子化合物)
難燃性を高める有機低分子化合物としては、ビスフェノールAF(BPAF)(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン)、ビスフェノールA(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン)、ビスフェノールF(ビス(4―ヒドロキシフェニル)メタン)、バイノールA((2R,7Z)−3−メチレン−7,11,11―トリメチルビシクロ[8.1.0]ウンデカ−7−エン−2β,6α―ジオール)などの有機化合物を挙げることができる。
【0049】
[難燃性物品の製造方法]
本実施形態では、複合材料中に有機低分子化合物を包摂させることで難燃性物品を得る。
【0050】
この場合、複合材料100質量部に対する有機低分子化合物の添加量は、50質量部以下であることが好ましい。50質量部を超えると、有機低分子化合物を網目構造中に包摂(カプセル化)することが困難になる場合があるためである。
【0051】
(カプセル化の反応式)
本実施形態では、例えば、以下の式(4)で示される反応式によって、フッ素含有オリゴマー/六方晶系窒化ホウ素(h-BN)複合材料と、有機低分子化合物であるBPAFとからフッ素含有オリゴマー/六方晶系窒化ホウ素/BPAF複合材料を得ることができる。
【0053】
本実施形態において、フッ素含有オリゴマー/六方晶系窒化ホウ素複合材料に有機低分子化合物であるBPAFを包摂させることで、難燃性が高められる理由は、BPAFが、フッ素含有オリゴマーのゲル化物の網目構造(Si−O結合のもの)中にカプセル化された状態で存在しているためと考えられる。
【0054】
本実施形態によれば、有機低分子化合物が本来もっている特性、例えば蛍光特性などを、高温あるいは有炎環境下でも使用できるようになる。
【0055】
[実施例]
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。しかし、本発明に係る難燃性付与剤(上記複合材料)及びその製造方法は以下の実施例に限定されるものではない。なお、単位%は、特に指定のない場合は質量%を表す。
【0056】
<実施例1〜6>
実施例1〜6は、上記第1実施形態に対応するものであり、有機高分子材料に複合材料を添加し、有機高分子材料の難燃性や表面特性を向上させる場合についての実施例である。
【0057】
まず、下記表1に示す配合処方に従い、室温(25℃)下で、メタノール12mlを入れた50mlのサンプル瓶に、それぞれ下表1に示す添加量で、フッ素含有オリゴマー、六方晶系窒化ホウ素フィラー(平均粒子径:約70nm)、株式会社MARUKA製)を加え、数分〜数時間攪拌を行った。さらに、室温(25℃)下で、25%アンモニア水5mlを加えて5時間反応させた。ここで反応の終了は白濁や、沈殿物の沈降によって確認することができる。
【0058】
反応終了後、エバポレーター(80〜100℃)を用いて溶液から溶媒を除去し、1日真空乾燥(50℃)することで、溶媒を完全に除去した。
【0059】
その後、溶媒除去後の反応物を再度メタノール中に数時間攪拌し分散させ、さらに遠心分離器を用い、フッ素含有オリゴマー/六方晶系窒化ホウ素のナノコンポジット(以下、「複合材料」という。)を沈殿物として得た。以上の結果を下表1に纏めて示す。
【0060】
【表1】
注)収率(%)は、原料のフッ素含有オリゴマー/六方晶系窒化ホウ素を基準とする。
測定は、動的光散乱法(DLS:Dynamic Light Scattering Measurement)(大塚電子株式会社製、型番:DLS−7000HL)で行った。
Rf:−CF(CF
3 )OC
3 F
7 で表される分子鎖末端基
VM:CH
2−CH−Si(OCH
3 )
3で表される分子鎖中間基
h-BN:六方晶系窒化ホウ素粉末
また、焼成は、空気雰囲気中、昇温速度10℃/分、室温から800℃まで昇温の条件で行った(以下の説明において同様である)。
【0061】
[複合材料の熱安定性]
実施例1〜6において得られたフッ素含有オリゴマー/六方晶系窒化ホウ素複合材料の熱安定性について、高温型示差走査熱量計(TGA)を用い、空気雰囲気中、昇温速度10℃/分で、室温から800℃まで測定した。高温型示差走査熱量計は、ブルカー・エイエックスエス株式会社製、型番:TG−DTA2000SAを使用した。得られた結果を
図1に示す。
【0062】
図1に示すTGAの結果より、六方晶系窒化ホウ素に対するフッ素含有オリゴマーの割合が増加するに従って、300℃を超えたときの重量の減少度合いが大きくなっていることが確認できる。室温時に対する、800℃における質量の減少率%は、六方晶系窒化ホウ素(h-BN)単体:1%、実施例1:7%、実施例2:10%、実施例3:20%、実施例4:30%、実施例5:43%、実施例6:54%、
上記一般式(1)で表されるフッ素含有オリゴマ
ー単体が62%であった。この変化は、六方晶系窒化ホウ素の加熱による重量の減少が殆どなく(1〜2%程度)、かつ、フッ素含有オリゴマーの500℃以上での加熱による重量減少率が高い(60%程度)ことから、フッ素含有オリゴマーに由来するものであるといえる。
【0063】
実施例1〜6において得られた複合材料について、以下の(1)、(2)に示す方法で、有機高分子材料に添加(混合)し、さらに以下に示す方法で、複合材料添加後の有機高分子材料の分散性、表面特性、難燃性を評価した。なお、(3)のように有機高分子材料に添加することもできるが、この内容については実験内容を示していない。
【0064】
(1)溶融状態の有機高分子材料に複合材料を添加し、攪拌して、複合材料を分散させ、その後、金型キャビティ内に射出ないし注型、冷却して、成型する。
【0065】
(2)有機高分子材料を溶剤に溶解させた溶液に、複合材料を添加、分散させ、さらに溶剤を除去することにより成形する。詳しくは、複合材料を添加し、分散させてなる高分子溶液を、シャーレ中に注入し、その後、溶剤を除去し、高分子フィルムを調製する。
【0066】
(3)基材(金属、ガラス、ゴム、樹脂、布帛、木材、紙等)に、複合材料の分散溶液をスプレー、ディップ等で塗布し、基材表面に皮膜を形成する。ここでは、基材の表面を改質する程度であってもよい。
【0067】
[分散性]
実施例1〜6において得られた複合材料の分散性を、以下のようにして評価した。
【0068】
即ち、六方晶系窒化ホウ素フィラーをメタノールに分散させて調整した溶液(比較例)と、フッ素含有オリゴマー/六方晶系窒化ホウ素複合材料(ここでは実施例4)をメタノールに分散させて調整した溶液の2種について、FE−SEM(電界放出型(Field Emission)走査電子顕微鏡)(日本電子株式会社製、型番:JSM−7000F)を使用して評価した。
【0069】
図2(比較例)に示すように、六方晶系窒化ホウ素フィラー単体では粒子同士が凝集してしまう。これに対して、六方晶系窒化ホウ素とフッ素含有オリゴマーとを上述した方法によって複合材料とすることによって、
図3(実施例4)に示すように、複合材料を粒子ごとに分離させ、メタノール中に分散させることができた(
図3の左側写真参照)。ところで、FE−SEM写真は示していないが、六方晶系窒化ホウ素は−OH基を有することで単独(単体)で水に良く分散する。これに対して、六方晶系窒化ホウ素とフッ素含有オリゴマーとを上述した方法によって複合材料とすることによって、水に分散しなくなる。つまり、撥水性が高まる。なお、また、焼成後に複合材料の粒子形態に変化はなかった(
図3の右側写真参照)。
【0070】
[表面特性]
実施例1〜6において得られた複合材料から、上記(2)の方法によって作成した、複合材料が混合、分散された有機高分子材料の表面特性を、以下のようにして評価した。
【0071】
即ち、まず、実施例1〜6において作成した、フッ素含有オリゴマー/六方晶系窒化ホウ素複合材料を分散、混合し、改質したポリメチルメタクリレート(PMMA)フィルムの上に、ドデカン(以下、油という)及び水を滴下し、フィルムと油滴及び水滴の接触部位で形成される角度(単位:°(度))を、接触角測定器(協和界面科学株式会社製、型番:DropMaster−301(DM−301))により測定した。この接触角の値が高いほど、油や水を弾きやすい、即ち、高い防汚性や撥水性を有することになる。
【0072】
下表2に示すように、実施例1〜6に対応する被検体(PMMAフィルム)の接触角から、そのPMMAフィルムの表(おもて)面(surface side)において高い撥油性及び撥水性を示した。さらに、VM添加量が50〜400mgの場合には、当該PMMAフィルムの裏面(reverse side、シャーレとの接触面)においては、油接触角は0(ゼロ)となった。
【0074】
上表2の結果から、フッ素含有オリゴマーの添加量が多い場合(例えば、50〜400mg;実施例3〜6)では、油の場合に、裏面の接触角が0°となって撥油性が発現せず、フッ素化アルキレン基(Rf)がPMMAフィルムの表(おもて)面に配向していることが推定できる。換言すると、実施例3〜6では、溶液状態では複合材料は溶媒中に均一に分散している(
図3参照)が、上記した方法で改質されたPMMAフィルムを作成する際、複合材料を分散した溶液をシャーレ内で溶剤を除去する過程で、複合材料がフィルム表面近傍に移動するものと推定できる。
【0075】
一方、フッ素含有オリゴマーの添加量が少ない場合(例えば、10〜20mg;実施例1、2)には、フッ素の表面配向性が低くなるため、フィルムの裏面(reverse side)にも撥油性が発現するようになる。換言すると、フッ素含有オリゴマーの添加量が少ない実施例1、2では、フィルム状態において、複合材料は、フィルムの平面方向に加え、フィルムの厚さ方向にも均一に分散しているものと推定できる。以上のように、六方晶系窒化ホウ素とフッ素含有オリゴマーとを上述した方法によって複合材料とすることで、フッ素含有オリゴマーの配合量に応じ、フッ素化アルキレン基(Rf)の作用により、撥水・撥油性を発現できる。
【0076】
(六方晶系窒化ホウ素の分散性)
図4(a)〜
図4(f)に、それぞれ、実施例1〜6の複合材料の添加によって改質されたPMMAフィルムの写真を示す。このように、上記(2)の方法において、各実施例1〜6の複合材料によって、六方晶系窒化ホウ素は凝集せず、均一かつ透明性の高いPMMAフィルムを作成することができた。このように、各実施例1〜6におけるフッ素含有オリゴマー/六方晶系窒化ホウ素複合材料において、六方晶系窒化ホウ素は高い分散性を示すことが確認できた。
【0077】
<実施例7、8>
実施例7、8は、上記第2実施形態に対応するものであり、複合材料中に低分子有機化合物を包摂させ、難燃性物品を得る場合についての実験例である。実施例7、8において、難燃性物品は、以下のように作成し、その難燃性を評価した。
【0078】
まず、下表3に示す配合処方に従って、メタノール12mlを入れた50mlのサンプル瓶に、フッ素含有オリゴマー、六方晶系窒化ホウ素フィラー(平均粒子径:約70nm、株式会社MARUKA製)、ビスフェノールAF(BPAF)を加え、室温(25℃)下、数分〜数時間、攪拌を行った。
【0079】
続いて、室温(25℃)下、25%アンモニア水5mlを加え、5時間反応させた。反応終了後、エバポレーター(80〜100℃)により溶媒を除去し、1日真空乾燥(50℃)を行い、溶媒を完全に除去した。
【0080】
その後、溶媒除去後の反応物を再度メタノール中に数時間攪拌し分散させ、遠心分離器を用い、目的とするフッ素含有オリゴマー/六方晶系窒化ホウ素/BPAFのナノコンポジット(以下、「複合材料」という。)を沈殿物として得た。以上の結果を下表3に纏めて示す。
【0081】
【表3】
注)収率(%)は、原料のフッ素含有オリゴマー/六方晶系窒化ホウ素を基準とする。
測定は、動的光散乱法(DLS:Dynamic Light Scattering Measurement)で行った。
【0082】
実施例7で得られた生成物について、UV−vis装置(株式会社島津製作所製、型番UV−1800)によって、UV−visスペクトルを測定した。得られたスペクトルの結果を
図5に示す。
【0083】
図5に示すUV−visスペクトルの結果より、フッ素含有オリゴマー/六方晶系窒化ホウ素複合材料内にBPAFが包摂されていることが分かる。
【0084】
〔熱安定性〕
実施例4、7、8において得られたフッ素含有オリゴマー/六方晶系窒化ホウ素/BPAF複合材料の熱安定性(難燃性)について、高温型示差走査熱量計(TGA)を用い、空気雰囲気中、昇温速度10℃/分で、室温から800℃まで測定した。得られたTGAの結果を
図6に示す。ここで、室温時に対する、800℃における質量の減少率%は、六方晶系窒化ホウ素(h-BN)単体:1%、実施例4:30%、実施例7:31%、実施例8:31%、
上記一般式(1)で表されるフッ素含有オリゴマ
ー単体が62%であった。
【0085】
図6より、フッ素含有オリゴマー/六方晶系窒化ホウ素/BPAF複合材料は、BPAFが複合材料内に含まれているにもかかわらず、フッ素含有オリゴマー/六方晶系窒化ホウ素の複合材料と同様な熱重量減少カーブを描いている。この結果より、カプセル化されたBPAFは800℃において燃焼していないことが推定できる。したがって、低分子有機化合物の不燃化が実現されているといえる。