(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061263
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】ゲル状食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 29/20 20160101AFI20170106BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20170106BHJP
【FI】
A23L29/20
A23L33/10
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-152548(P2012-152548)
(22)【出願日】2012年7月6日
(65)【公開番号】特開2014-14292(P2014-14292A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2014年7月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000111487
【氏名又は名称】ハウス食品グループ本社株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100147588
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 浩司
(72)【発明者】
【氏名】富田 康裕
(72)【発明者】
【氏名】井上 直明
(72)【発明者】
【氏名】田中 郁恵
(72)【発明者】
【氏名】田口 祐子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 章一
【審査官】
坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−155433(JP,A)
【文献】
特開2008−073023(JP,A)
【文献】
特開平08−140612(JP,A)
【文献】
特表2012−517809(JP,A)
【文献】
特開2001−231518(JP,A)
【文献】
特開2000−333620(JP,A)
【文献】
特開2002−165570(JP,A)
【文献】
特開2009−240257(JP,A)
【文献】
特開2010−022259(JP,A)
【文献】
特開平09−084532(JP,A)
【文献】
特開2012−095645(JP,A)
【文献】
特開2004−008165(JP,A)
【文献】
特開平06−062771(JP,A)
【文献】
特開昭50−135254(JP,A)
【文献】
”主な植物油脂の脂肪酸組成−油脂毎の脂肪酸組成表”,[online],2016年 6月22日,ナタネ油の欄及び注釈(ナタネ油は(財)日本油脂検査協会の資料(1991)による),URL,http://pci.kaneda.co.jp/contents/introduce/composition/list01.html.
【文献】
日本食品標準成分表2010,2010年12月 3日,p.400-403
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/20
A23L 33/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/FSTA/FROSTI(STN)
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化油脂、ゲル化剤、及び水を含む、エネルギー補給用のゲル状食品であって、
前記乳化油脂が、10℃における固体脂含有量(SFC)が0%以上35%以下である油脂(中鎖脂肪を除く)を含む乳化油脂であり、
タンパク質含有量が0.5質量%以下である、ゲル状食品。
【請求項2】
常温保存用食品である、請求項1に記載のゲル状食品。
【請求項3】
油脂含有量が、ゲル状食品の全質量を基準として10質量%以上である請求項1又は2に記載のゲル状食品。
【請求項4】
前記乳化油脂が、10℃における固体脂含有量(SFC)が0%以上35%以下である油脂(中鎖脂肪を除く)を30質量%以上含む、請求項1から3のいずれかに記載のゲル状食品。
【請求項5】
さらにブリックス糖度で35以上60以下となる量の糖質を含む、請求項1から4のいずれかに記載のゲル状食品。
【請求項6】
油脂が乳化された状態で含まれる、請求項1から5のいずれかに記載のゲル状食品。
【請求項7】
寒天によりゲル化されている、請求項1から6のいずれかに記載のゲル状食品。
【請求項8】
さらに、HMペクチン、ネイティブジェランガム、セルロース、発酵セルロース、カルボキシメチルセルロース、及びシトラス繊維からなる群より選ばれた1以上の原料を含む請求項1から7のいずれかに記載のゲル状食品。
【請求項9】
糖質を含まない状態でゲル化剤を加温水和してゲル状溶液を調製する工程、及び
ゲル状溶液に乳化油脂と、糖質と、必要に応じて他の原料とを加えて、冷却固化ゼリーを調製する工程、を含む請求項1から8のいずれかに記載のゲル状食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル状食品、当該ゲル状食品の製造方法、及びこれに用いられる油脂に関する。また、本発明は、エネルギー補給用のゲル状食品、特に低タンパク質、低ナトリウムで高カロリーのゲル状食品であって、プリンタイプやチーズケーキタイプ等のエネルギー補給用のゲル状食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼリー、プリン、ムース等のゲル状食品には、乳風味等を与えるために、クリーム等の油脂を含む原料が加えられる場合がある。また、これらのゲル状食品を容器入りの食品とし、適宜加熱殺菌処理を施して、常温又は冷蔵下で長期間保存できる形態のものとすることも知られている。
ところで、昨今、病気を治療するための食事療法が医療界で注目されており、各種の医療食が開発されている。これらの医療食は、必要な栄養成分を補強すると共に、患者が食べやすい食事として提供されることが重要である。一般に、腎臓病食においては、タンパク質や食塩の使用量が制限される一方で、エネルギーを確保するために糖質や脂質を十分に補強する必要がある。このような要請から、腎臓病食として、低タンパク質、低ナトリウム、低カリウムで高カロリーの食品が種々開発されており、特に、食べやすいデザートとしてカロリー(糖質)を補強できる生菓子タイプの高カロリーゼリーが開発されている(特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−84532号公報
【特許文献2】特開2008−73023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1及び2のゼリーは、pH3.0から4.6程度の酸性ゲル状食品を対象としている。すなわち、腎臓病患者はタンパク質の摂取を制限されているため、プリンやチーズケーキ等、本来牛乳やチーズを含む食品以外の酸性ゲル状食品が提案されている。一方で、プリンやチーズケーキ等に近い風味や組織を有する、低タンパク質で高カロリーのゲル状食品を腎臓病患者に提供することができれば、腎臓病食のメニュー数が増えるため有益である。しかし、プリンやチーズケーキ等の乳風味を形成する上で重要である牛乳やチーズを含まず、且つ高カロリーであるゲル状食品においては、通常のプリンやチーズケーキに近い乳風味や組織をつくることが極めて困難であった。
ここで、ゲル状食品の乳風味や組織をつくるために、クリーム等の油脂を含む原料を加えることが考えられる。しかし、油脂を含む原料を配合し、長期間の保存が可能な容器入りのゲル状食品においては、保存中にゲル状食品が硬くなり、口どけ等の食感が悪化し、離水したり粘りが増したりする等の質感の変化が生じることが判明した。つまり、油脂を含むゲル状食品では、保存の間に日内温度変化に曝された場合に、製造直後の食感、物性等の品質を維持できないという問題が生じていた。このような問題は、特に油脂を多く含むゲル状食品において顕著であった。
したがって、本発明は、保存中に食感や物性等が劣化しにくく、品質の安定したゲル状食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、油脂、ゲル化剤、及び水を含むゲル状食品において、上記油脂の10℃における固体脂含有量(SFC)を所定の値に調整することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、本発明は以下のものを提供する。
本発明の第一の態様は、油脂、ゲル化剤、及び水を含むゲル状食品であって、前記油脂の10℃における固体脂含有量(SFC)が0%以上35%以下であるゲル状食品である。
本発明の第二の態様は、糖質を含まない状態でゲル化剤を加温水和してゲル状溶液を調製する工程、及びゲル状溶液に油脂と、糖質と、必要に応じて他の原料とを加えて、冷却固化ゼリーを調製する工程、を含む本発明のゲル状食品の製造方法である。
本発明の第三の態様は、ゲル状食品に用いられる油脂であって、10℃における固体脂含有量(SFC)が0%以上35%以下である、乳化油脂である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のゲル状食品は、油脂として10℃における固体脂含有量(SFC)が0%以上35%以下の油脂を含んでいるので、保存中、特に日内温度変化に曝された場合にも口どけ等の食感に優れると共に、ゲル状食品の組織が維持され、油脂の風味が活かされたゲル状食品が得られる。
このため、本発明によれば、保存中に食感、物性等が劣化しにくく、品質が安定に維持されたゲル状食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施例1から3、及び比較例1のゲル状食品の付着性を示す図面である。
【
図2】実施例1から3、及び比較例1のゲル状食品のかたさを示す図面である。
【
図3】比較例1のゲル状食品の付着性を示す図面である。
【
図4】比較例1のゲル状食品のかたさを示す図面である。
【
図5】実施例4から6、及び比較例2のゲル状食品の付着性を示す図面である。
【
図6】実施例4から6、及び比較例2のゲル状食品のかたさを示す図面である。
【
図7】比較例2のゲル状食品の付着性を示す図面である。
【
図8】比較例2のゲル状食品のかたさを示す図面である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
<ゲル状食品>
本発明のゲル状食品は、油脂、ゲル化剤、及び水を含み、上記油脂の10℃における固体脂含有量(SFC)が0%以上35%以下のものである。なお、本発明のゲル状食品は、常温保存可能な容器入りの食品であることが好ましく、エネルギー補給用の食品、特に実質的にタンパク質を含有しないエネルギー補給用の食品であることが好ましい。
[油脂]
(油脂の固体脂含有量)
本発明のゲル状食品に含まれる油脂は、10℃における固体脂含有量(SFC)が0%以上35%以下、好ましくは0%以上30%以下、更に好ましくは0%以上25%以下のものである。当該油脂は、好ましくは20℃におけるSFCが0%以上25%以下、より好ましくは0%以上20%以下、更に好ましくは0%以上15%以下のものである。ゲル状食品に含まれる油脂のSFCを、上記の範囲内のものとすることにより、保存中におけるゲル状食品の食感、物性等の劣化が低減され、ゲル状食品の品質を安定に保つことができる。
油脂としては、SFCが上記範囲内のものであれば特に限定されるものではなく、SFCが上記範囲内の任意の油脂を使用することができる。
具体的には、各種動物油脂、植物油脂、及び魚油脂等を用いることができ、菜種油、菜種白絞油、米油、オリーブ油、ナッツ油、大豆油、ひまわり油、コーン油、サラダ油、パーム油等の植物油脂を好ましく用いることができる。これらの油脂は、単独のもの又は混合油として、或いはそれらに硬化、分別、エステル交換等の処理を施したものとして用いることができる。これらの油脂は、種類の異なる油脂を組合せたり、油脂を含む原料を2つ以上組合せたりして、ゲル状食品に使用してもよい。菜種油又は菜種白絞油を各々単独で用いることが最も好ましい。
本発明においては、ゲル状食品に含まれる油脂の10℃における固体脂含有量(SFC)が0%以上35%以下であるが、ゲル状食品に、種類の異なる油脂を組合せたり、油脂を含む原料を2つ以上組合せて含ませたりする場合には、ゲル状食品に含まれる全ての油脂を混合した状態でSFCが上記の範囲内のものとなればよい。このため、本発明のゲル状食品は、SFCが上記の範囲の油脂のみを配合して得られるゲル状食品に限定されるものではない。なお、ゲル状食品に含まれる油脂は、不飽和脂肪酸を多く含むもの、例えば50%以上、好ましくは70%以上95%以下の不飽和脂肪酸を含むものであることが好ましい。
本発明のゲル状食品は、油脂を分散された状態で含むことが好ましく、油脂を乳化された状態で含むことが更に好ましい。このような状態にある油脂を使用することによって、ゲル状食品に、油脂による風味や物性を均質に付与することができる。
特に、本発明のゲル状食品をエネルギー補給用のゲル状食品とする場合、当該ゲル状食品は乳化した状態で油脂を含むことが好ましい。エネルギー補給用のゲル状食品が乳化した状態で油脂を含み、且つ油脂の含有量を下記の範囲内のものとすることにより、ゲル状食品にクリーミーな乳感と、乳製品に近い組織が得られる。
なお、エネルギー補給用のゲル状食品は、乳化油脂を均一に含むことが好ましい。乳化油脂に占める油脂の割合は、特に制限はないが、例えば10質量%以上、より好ましくは30質量%以上とすればよい。エネルギー補給用のゲル状食品を提供する目的にも適用することができる。
【0009】
なお、油脂が乳化された状態とは、いわゆる「乳化状態」、即ち、水系の分散媒中に油が微細粒子として分散している状態、或いは、油系の分散媒中に水が微細粒子として分散している状態を指し、ゲル状食品中において、油脂が上記の状態になっていればよい。乳化油脂又はゲル状食品は、ゲル状食品の原料としての油脂、水、及び必要により乳化剤を含み、これらを均質化する等、一般的な方法で乳化して得ることができる。
なお、本発明においては、ゲル状食品に乳化油脂を配合することによって、ゲル状食品が乳化した状態の油脂を含むものとしてもよい。乳化油脂として、具体的には、植物油脂クリーム(コーヒーホワイトナーのような形態のもの)
、マーガリンや、これらの油脂であってタンパク質を含まないものを挙げることができる。乳化油脂は、油脂、水、及び必要により乳化剤を、均質化する等の一般的な方法で乳化することにより製造することができる。ここで、乳化油脂の固体脂含有量についても、上記の固体脂含有量と同等になることが好ましい。
なお、本発明には、本発明の上記ゲル状食品に用いるための乳化油脂が含まれ、当該乳化油脂は、10℃における固体脂含有量(SFC)が0%以上35%以下である。当該乳化油脂は、10℃における固体脂含有量(SFC)が0%以上30%以下であることが好ましく、更に好ましくは0%以上25%以下のものである。乳化油脂は、20℃におけるSFCが0%以上25%以下のものであることが好ましく、0%以上20%以下のものであることがより好ましく、0%以上15%以下のものであることが更に好ましい。
(油脂の含有量)
本発明のゲル状食品は、上記の油脂を、任意の量含むことができ、ゲル状食品の全質量を基準として好ましくは0.5質量%以上30質量%以下、より好ましくは1質量%以上20質量%以下、更に好ましくは2質量%以上15質量%以下含む。ゲル状食品の全質量を基準として10質量%以上含むことが好ましい。油脂の含有量を上記範囲内のものとすることにより、ゲル状食品に、油脂による好ましい風味や物性を付与することができる。また、カロリーが高くなる傾向にある油脂を10質量%以上含むことで、高カロリーのエネルギー補給用のゲル状食品等を設計することができる。
【0010】
[ゲル化剤]
ゲル化剤は、食品をゲル化させるためのものであり、具体的には、ゼラチン、大豆タンパク質、卵白、乳タンパク等のタンパク質成分や、ペクチン、カラギーナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、寒天、ジェランガム、マンナン等の多糖類を挙げることができる。
ゲル化剤の含有量は、ゲル状食品の全質量を基準として、0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上2質量%以下であることが更に好ましい。
【0011】
なお、本発明のゲル状食品をエネルギー補給用のゲル状食品とする場合、非タンパク質性のゲル化剤によりゲル化されたものであることが好ましく、寒天によってゲル化されたものであることがより好ましい。ゲル化剤として寒天を用いる場合、寒天の含有量は、ゲル状食品の全質量を基準とし、寒天の乾燥質量に換算して、0.01質量%以上0.5質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上0.3質量%以下であることが更に好ましい。ゲル化剤として寒天を使用することにより、糖度が高く、油分の多い原料を使用した場合においても、安定なゲルを形成することができ、当該ゲルによりクリーミーな乳感と、乳製品に近い組織が得られる。
また、本発明のゲル状食品をエネルギー補給用のゲル状食品として、ゲル化剤として寒天を使用する場合、当該ゲル状食品は、ローカストビーンガム、ペクチン、キサンタンガム、カラヤガム、グァーガム、タマリンドガム及びκカラギーナンからなる群より選ばれる1以上のゲル化剤を含んでいることが好ましく、ローカストビーンガム、キサンタンガムより選ばれる1以上のゲル化剤を含んでいることが更に好ましい。これらの原料を配合することにより、エネルギー補給用のゲル状食品に、更に、プリン様のプルンプルンとした弾力を付与することができる。これらのゲル化剤の含有量は、前記ゲル状食品の全質量を基準とし、ゲル化剤の乾燥質量に換算して、0.01質量%以上0.5質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上0.35質量%以下であることが更に好ましい。
また、本発明のゲル状食品をエネルギー補給用のゲル状食品として、ゲル化剤として寒天を使用する場合、当該ゲル状食品は、HMペクチン、ネイティブジェランガム、セルロース、発酵セルロース、カルボキシメチルセルロース、及びシトラス繊維からなる群より選ばれた1以上の原料を更に含んでいることが好ましく、セルロース及び発酵セルロースからなる群より選ばれた1以上の原料を更に含んでいることがより好ましい。エネルギー補給用のゲル状食品にこれらの原料を配合することにより、本発明のゲル状食品の製造工程中や保存中における油脂の乳化状態の安定性を高めることができる。本発明のエネルギー補給用のゲル状食品におけるこれらの原料の含有量は、前記ゲル状食品の全質量を基準とし、上記原料の乾燥質量に換算して、0.01質量%以上2質量%以下であり、0.05質量%以上1質量%以下であることがより好ましい。これらの原料のうち、HMペクチン、ネイティブジェランガムは、本明細書におけるゲル化剤に該当する。
【0012】
[糖質]
本発明のゲル状食品をエネルギー補給用のゲル状食品とする場合、ゲル状食品が、ブリックス糖度で35以上60以下となる量の糖質を含むことが好ましく、35以上45以下となる量の糖質を含むことがより好ましい。エネルギー補給用のゲル状食品が、ブリックス糖度が35以上となる量の糖質を含むことによって、少量のゲル状食品を摂取した場合においても、効果的にカロリーを補給することができるため、腎臓病患者に提供する腎臓病食等として有用である。一方、エネルギー補給用のゲル状食品のブリックス糖度は、味覚の観点からは60以下であることが好ましい。ここで、本明細書において、ブリックス糖度とは、20℃におけるゲル状溶液又は基材の屈折率を測定し、純蔗糖溶液(純サッカロース溶液)の質量/質量パーセントに換算(国際砂糖分析法標準化委員会の換算表を使用)した値をいう。
エネルギー補給用のゲル状食品に使用される糖質は特に限定されるものではないが、エネルギー補給用のゲル状食品には大量の糖質が添加されるため、特に還元糖等の低甘味性の糖質が好ましい。これらの糖質としては、砂糖と比べた場合の甘味が1/2以下程度、例えば1/4以下程度の糖質が好ましく、マルトース、直鎖オリゴ糖、還元分岐オリゴ糖、マルトオリゴ糖(デキストリン)、マルトデキストリン、グラニュー糖、酵素糖化水あめ等を単独或いは適宜組み合せて使用することが好ましい。低甘味性の糖質を用いることによって、エネルギー補給用のゲル状食品の甘味がやわらかに感じられると共に、当該ゲル状食品が高カロリーのものとなるため、エネルギー補給用のゲル状食品の効能が最大限発揮される。エネルギー補給用のゲル状食品における糖質の使用量は求められるゲル状食品のブリックス糖度に応じて当業者が適宜設定することが可能である。この際、他の原料に糖質が含まれる場合は、当該原料に含まれる糖質の量も勘案して糖質の使用量を設定することができる。例えば、砂糖と比べた場合の甘味が1/2以下程度の糖質を用いる場合、乾燥質量に換算して25質量%から60質量%程度の使用量とすることで、概ね本発明のエネルギー補給用のゲル状食品に好ましいブリックス糖度が得られる。
【0013】
[水]
本発明のゲル状食品は、更に水を含む。水の含有量は特に限定されるものではなく、任意の含有量とすればよいが、前記ゲル状食品の全質量を基準として40質量%以上99質量%以下であることが好ましく、45質量%以上90質量%以下とすることがより好ましく、50質量%以上80質量%以下とすることが更に好ましい。
【0014】
[ゲル状食品のタンパク質含量等]
本発明のゲル状食品をエネルギー補給用のゲル状食品とする場合、例えばそのタンパク質含量は、ゲル状食品の全質量を基準として、3質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、タンパク質が実質的に含まれていないことが最も好ましい。また、エネルギー補給用のゲル状食品におけるカリウム含量は、前記ゲル状食品の全質量を基準として、20mg/100g以下であることが好ましく、10mg/100g以下であることがより好ましく、カリウムが実質的に含まれていないことが最も好ましい。このように、タンパク質含量及びカリウム含量を低く抑えることにより、腎臓病患者に適した製品とすることが可能となる。なお、タンパク質含量は窒素定量換算法によって、カリウム含量は誘導結合プラズマ発光分析法によって各々測定することができる。
【0015】
<ゲル状食品の製造方法>
本発明のゲル状食品は、油脂、ゲル化剤、及び水を含み、固形状から半固形状にゲル化されたものである。本発明のゲル状食品をゲル化する方法は特に限定されるものではなく、上記油脂及び水を含む原料にゲル化剤を加えて混合するだけでもよいし、当該原料にゲル化剤を加えて混合し、必要により加熱処理及び/又は冷却処理を施してゲル化させてもよい。
なお、本発明のゲル状食品は、以下の説明に従って、pHを調整したり、加熱殺菌処理を施したりして、常温保存用食品としてもよい。この場合、本発明のゲル状食品は、製造から保存までの間に日内温度変化を受けた場合においても、製造直後の食感や物性等の品質が劣化しにくいものとなる。したがって、本発明のゲル状食品は、常温保存用食品として好適に提供されるものである。
【0016】
[エネルギー補給用のゲル状食品の製造方法]
本発明のゲル状食品をエネルギー補給用のゲル状食品とする場合、当該ゲル状食品は、(1)糖質を含まない状態でゲル化剤を加温水和してゲル状溶液を調製し、(2)ゲル状溶液に油脂と、糖質と、必要に応じて他の原料とを加えて、冷却固化ゼリー基材を調製することにより製造することが好ましい。
【0017】
[工程(1)]
工程(1)における「糖質を含まない状態」とは、本発明に使用される上記糖質が原料として加えられていない状態、或いは、ゲル化剤及び糖質を一緒に加温水和してゲル状溶液を調製して固化する場合に、品質不良のゲル状食品が形成される不具合が生じない程度(例えば、ブリックス糖度15以下)にまで糖質を減らして添加される状態を意味する。一般に、ゲル化剤及び多量の糖質を一緒に加温水和してゲル状溶液を調製し、これを固化すると、食感、味覚等の面で不良なゲル状食品となるが、上記のように糖質を含まない状態でゲル化剤を加温水和し、後に糖質を加えるという手順を採用することにより、舌触り、口どけが滑らかであり、甘味がやわらかに感じられ、組織が滑らかで外観も優れた高カロリーのゲル状食品を得ることができる。
なお、このような条件を採用することよって上記のような食感等が得られるメカニズムは定かではないが、ゲル化剤及び糖質を一括して加温水和する場合は、水和性の高い糖質の水和が優先し、ゲル化剤の水和がこれに遅れて二次的に行われる結果、これを固化して得られるゲル状食品の物性が損なわれるのに対して、予めゲル化剤を水和させ、これに糖質を加えた場合には、両者の水和が極限にまで達成されるためではないかと考えられる。
【0018】
ゲル化剤を加温水和させるための条件は、上記水和が達成される限りにおいて制限はない。例えば、加温水和の際の温度は、使用するゲル化剤の溶解温度以上であれば特に限定されないが、本発明においては、例えば約70℃から100℃、好ましくは約75℃から90℃、例えば80℃であり、加温水和の際の加熱時間は、0秒(達温)から20分間程度、好ましくは5分から15分間、例えば10分間とするのが、ゲル化剤の溶解性を高め、ゲル状食品のゲル化を好適に達成する上で好ましい。水和の際に使用する水の量は特に制限されない。また、加温水和は適宜、撹拌条件下で行うことができる。ゲル化剤は乾燥粉末(各種製剤を含む)、或いは一旦液化したもの等、いずれの態様で用いてもよい。なお、本発明のエネルギー補給用のゲル状食品の製造方法においては、工程(2)でゲル状溶液に糖質を加える前にゲル化剤が完全に溶解していることが好ましい。
本発明において、ゲル化剤として使用される寒天としては当該技術分野において知られている任意の寒天が使用できるが、100℃未満、好ましくは75℃以上90℃以下の温度に加熱することにより十分に水和させることを考慮すると即溶性寒天であることが好ましい。
【0019】
[工程(2)]
本発明のエネルギー補給用のゲル状食品の製造方法における工程(2)では、工程(1)で調製されたゲル状溶液に、油脂と、糖質と、必要に応じて他の原料とを加えて、冷却固化ゼリー基材が調製される。
ここで、他の原料とは、ゲル状食品に使用することが当業者に知られているあらゆる原料を意味し、例えば乳製品、ビタミン等の他の栄養成分、食物繊維、酸味料、香料等が挙げられる。これらの原料は、必要に応じて任意の量で使用することができる。ただし、腎臓病患者に適したエネルギー補給用のゲル状食品とする場合には、他の原料としてはタンパク質原料を含まないことが好ましく、カリウム含量を抑える観点から果実及び果汁も使用しないことが好ましい。
ゲル状溶液に添加する糖質及び他の原料は、乾燥粉末或いは液化したものいずれを用いてもよいが、糖質については、溶解が容易であること、また味覚の優れたゲル状食品を得ることを考慮して、液化した糖質(シロップ)を用いることが望ましい。また、予め糖質及び他の原料を加温水和したものをゲル状溶液に加えることもでき、この場合、糖質は約50℃から約80℃の温度に加温水和することが好ましい。このような方法を採用することにより、十分水和した糖質をゲル状溶液に加えて均質な基材を得ることができ、更に食感及び味覚に優れたゲル状食品を製造することができる。
粉末状の糖質等を用いる場合は、ゲル化剤を加温水和してゲル状溶液を得た後、これに上記の原料を加えて更に加熱を続けて水和させればよい。これらの各処理は適宜撹拌条件下で行うことができる。なお、各原料の溶解混合を効率的に行うために、ゲル状溶液の調製から糖質等の添加までの工程を連続的に加熱しながら行うことができる。
【0020】
このように調製したゼリー基材には必要により酸原料を加え、pHを調整することができる。このゼリー基材は適当な容器に充填し、冷却固化を行う。なお、この段階で必要に応じてシール、密封して、加熱殺菌処理を行ってもよい。加熱殺菌処理は、容器に充填したゼリー基材を温水層に入れて、ゼリー基材の温度を75℃から95℃にしてから10分から30分間保持することにより、或いはレトルト処理により行われる。このように、必要により加熱殺菌処理を施すことにより、最終製品の常温流通が可能となる。
ゼリー基材の冷却固化温度は、使用するゲル化剤の種類、含有量、比率に応じて当業者が任意に設定できるが、本発明においては例えばゲル状食品の温度が20℃から50℃、好ましくは20℃から40℃になるまで冷却することにより固化させればよい。
以上に説明したエネルギー補給用のゲル状食品の製造方法により、タンパク質及びカリウム含量が抑制され、かつプリンタイプやチーズケーキタイプ等のエネルギー補給用のゲル状食品を提供することが可能となる。他のタイプのゲル状食品や、エネルギー補給用以外のゲル状食品についても、技術水準にしたがって、適宜ゲル化、殺菌処理等を行い、常温流通等が可能な形態のもの等として提供することができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明について実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0022】
<チーズケーキ様食品>
[実施例1]
表1に示した配合(数値は原料の質量部を示す)に従い、寒天、ローカストビーンガム及びセルロースを水に加え、85℃に加熱溶解してゲル化剤を水和させ、ゲル状溶液を得た。ゲル状溶液のブリックス糖度は11であった。
このようにして得られたゲル状溶液にグラニュー糖、マルトオリゴ糖、乳化油脂A(表2に示した配合(数値は原料の質量部を示す)に従い、植物油脂、乳原料、乳化剤、安定剤、及び水を均質乳化して得た乳化油脂)、クエン酸、並びに香料を加えて基材を調製した。基材のブリックス糖度は37.0であった。また、基材のpHは3.80であった。なお、乳化油脂に用いた植物油脂の10℃におけるSFCを表1に示す。また、乳化油脂A、B及びDの脂肪酸組成を表3に示す。
上記基材を容量60ccの容器に充填し、シール・密封し、温水で80℃に維持して20分間殺菌を行った。その後35℃にまで冷却してゼリー状のチーズケーキ様食品を得た。
得られたチーズケーキ様食品は、10℃におけるSFCが8%の油脂を含み、通常のレアチーズケーキに近い、クリーミーでチーズのコク味のある乳感を有し、組織と食感・口どけも通常のチーズケーキに近い良好なものであった。また、以下に示すゆらぎ保存試験を経た後も(
図1及び2)、30℃30日間の保存試験を経た後においても、チーズケーキ様食品の製造直後の食感と組織が維持されていた。
【0023】
[実施例2、3、及び比較例1]
表2に示した配合(数値は原料の質量部を示す)に従い、植物油脂、乳原料、乳化剤、安定剤及び水を均質乳化して得た乳化油脂B、C及びDを、乳化油脂Aに代えて用いた点以外は実施例1と同様にしてチーズケーキ様食品を製造した。
実施例2で得られたチーズケーキ様食品は、10℃におけるSFCが4%の油脂を含み、実施例1のものと同様に、通常のレアチーズケーキに近い乳感、食感・口どけと組織が維持されていた(
図1及び2)。
実施例3で得られたチーズケーキ様食品は、10℃におけるSFCが17%の油脂を含み、実施例1のものと同様に、通常のレアチーズケーキに近い乳感、食感・口どけと組織が維持されていた(
図1及び2)。
比較例1で得られたチーズケーキ様食品は、10℃におけるSFCが70%の油脂を含み、以下に示す30℃で30日間の保存試験を経た後は食感、組織が維持されていたが、ゆらぎ保存試験を実施した後、製造直後に比べて食感が硬くなり、組織の付着性が増して、口どけがわるいものであった(
図1から4)。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
【表3】
【0027】
<プリン様食品>
[実施例4]
表4に示した配合に従い、寒天、ローカストビーンガム、キサンタンガム、及び発酵セルロースを水に加え、85℃に加熱溶解してゲル化剤を水和させ、ゲル状溶液を得た。ゲル状溶液のブリックス糖度は11であった。
このようにして得られたゲル状溶液にグラニュー糖、マルトオリゴ糖及び乳化油脂A(実施例1で用いたものと同じもの)、及び香料を加えて基材を調製した。基材のブリックス糖度は36であった。また、基材のpHは中性(6.5程度)であった。
前記基材を容量60ccの容器に充填し、シール・密封し、レトルト釜で120℃の温度にして20分間殺菌を行った。その後35℃にまで冷却してゼリー状のプリン様食品を得た。
得られたプリン様食品は、10℃におけるSFCが8%の油脂を含み、通常のプリンに近いクリーミーで甘味のある乳感を有し、組織と食感・口どけもそれに近い良好なものであった。プリン様食品は、下記のゆらぎ保存試験を実施した後も(
図5及び6)、30℃で30日間の保存試験を経た後も、同様の品質を維持していた。
【0028】
[実施例5、6、及び比較例2]
表4に示した配合(数値は原料の質量部を示す)に従い、植物油脂、乳原料、乳化剤、安定剤及び水を均質乳化して得た乳化油脂B、C及びD(各々前記のものと同じもの)を、乳化油脂Aに変えて用いた点以外は実施例4と同様にしてプリン様食品を製造した。
実施例5で得られたプリン様食品は、10℃におけるSFCが4%の油脂を含み、実施例4のものと同様に、通常のプリンに近い乳感、食感・口どけと組織が維持されていた(
図5及び6)。
実施例6で得られたプリン様食品は、10℃におけるSFCが17%の油脂を含み、実施例4のものと同様に、通常のプリンに近い乳感、食感・口どけと組織が維持されていた(
図5及び6)。
比較例2で得られたプリン様食品は、10℃におけるSFCが70%の油脂を含み、30℃で30日間の保存試験を経た後は食感、組織が維持されていたが、ゆらぎ保存試験を実施した後、製造直後に比べて食感が硬くなり、組織の付着性が増して、口どけがわるいものであった(
図5から8)。
【表4】
【0029】
<評価方法>
なお、以上の実施例1から6、並びに比較例1及び2において行った評価方法を以下に示す。なお、
図1、2、5、及び6には、以下に示すゆらぎ保存試験の結果のみを示し、
図3、4、7、及び8には、ゆらぎ保存試験の結果(図中、「ゆらぎあり」と表示)と、30℃保存試験の結果(図中、「ゆらぎなし」と表示)を示した。
[ゆらぎ保存試験]
製造後、ゲル状食品の品温を5℃から20℃まで6時間かけて昇温し、その後20℃から5℃まで6時間かけて低下させる、12時間の処理を1サイクルとする保存試験を実施した。ゲル状食品を製造後、前記の保存試験を60サイクルまで実施し、下記の手法により製品のかたさと付着性を調べた。
[30℃保存試験]
ゲル状食品を製造後、30℃で30日間まで保存した後、下記の手法に基づいて製品のかたさと付着性を調べた。
[かたさ・付着性の試験方法]
製造したゲル状食品を金属製シャーレに詰めて、直径20mm、高さ8mmの樹脂製プランジャーを用いて、テクスチャー解析(硬さ、付着性)を行う。測定条件は、圧縮速度10mm/sec、クリアランス5mm、室温(20±2℃)とし、消費者庁「えん下困難者用食品」の試験方法に準じて測定した。