特許第6061272号(P6061272)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6061272希土類アルミノボライド熱電半導体、その製造方法及びそれを用いた熱電発電素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061272
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】希土類アルミノボライド熱電半導体、その製造方法及びそれを用いた熱電発電素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/22 20060101AFI20170106BHJP
   C01B 35/04 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   H01L35/22
   C01B35/04 D
【請求項の数】9
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-36757(P2013-36757)
(22)【出願日】2013年2月27日
(65)【公開番号】特開2013-219330(P2013-219330A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2016年1月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-41937(P2012-41937)
(32)【優先日】2012年2月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-53938(P2012-53938)
(32)【優先日】2012年3月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】森 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】丸山 恵史
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 譲
(72)【発明者】
【氏名】梶谷 剛
(72)【発明者】
【氏名】林 慶
【審査官】 今井 聖和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−029351(JP,A)
【文献】 特開2011−029309(JP,A)
【文献】 特開平06−092793(JP,A)
【文献】 M.M.Korsukova et al.,The crystal structure of defective YAlB14 and ErAlB14,Journal of Alloys and Compounds,NL,Elsevier,1992年 8月27日,Vol.187(1),39-48
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/00
C01B 35/04
Scopus
JSTPlus(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の組成を有する希土類アルミノボライド熱電半導体。
Al14(ここで、0.49<a<0.63、0.30<x<0.70)
【請求項2】
x>0.53であり、n型熱電特性を有する請求項1に記載の希土類アルミノボライド熱電半導体。
【請求項3】
x<0.53であり、p型熱電特性を有する請求項1に記載の希土類アルミノボライド熱電半導体。
【請求項4】
n型熱電半導体として請求項2に記載の希土類アルミノボライド熱電半導体を、p型熱電半導体として請求項3に記載の希土類アルミノボライド熱電半導体を使用した、熱電発電素子。
【請求項5】
以下のステップを有する請求項1から3の何れかに記載の希土類アルミノボライド熱電半導体の製造方法。
(a)YAl14なる原料組成となるようにY,Al及びBを含む原料を混合する。
(b)この混合物を真空または不活性雰囲気中にて1200℃〜1500℃の温度範囲で焼成する。
【請求項6】
前記原料はY、Al及びBからなる群から選ばれた少なくとも一つの元素の単体を含む、請求項5に記載の希土類アルミノボライド熱電半導体の製造方法。
【請求項7】
前記原料は希土類ホウ化物とアルミニウムホウ化物の少なくとも一方を含む、請求項5または6に記載の希土類アルミノボライド熱電半導体の製造方法。
【請求項8】
前記aは約0.56であり、前記zは1.7以上である、請求項5から7の何れかに記載の希土類アルミノボライド熱電半導体の製造方法。
【請求項9】
前記焼成は4時間以上行う、請求項5から8の何れかに記載の希土類アルミノボライド熱電半導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類アルミノボライドからなる熱電半導体に関し、とりわけその組成を制御することによってp型にもn型にもすることができる熱電半導体に関する。本発明は更にそのような希土類アルミノボライド熱電半導体の製造方法及びそれを用いた熱電発電素子にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱電半導体については、現代社会で効率的にエネルギーを使用するために盛んな材料研究が行われており、信頼性の高い静かな冷却装置や発電機に使用するための大きな需要が築かれた。
【0003】
また、廃熱回収の分野においては、世界での省エネルギーが進んだ我が国でも、一次供給エネルギーの約3/4が熱エネルギーとして廃棄されているのが現状である。そのような社会情勢で、熱電発電素子は熱エネルギーを回収して有用な電気エネルギーに直接変換できる唯一の固体素子として注目される。しかし、このような発電に用いるには類似の材料のp型材料とn型材料で素子を形成することが望ましい場合が多い。
【0004】
多ホウ化物は、特許文献1に示されるように、高融点を有し、高温においても極めて安定であり、また酸性雰囲気にも耐えるという劣悪環境下での魅力的な特性を有するとともに、低熱伝導率があり、高温でもその熱電性能が鋭く上昇するものであった。しかしながら、熱電半導体の応用に当たっては同系統材料のp型とn型の対が望ましい場合が多いが、それぞれ、例えば特許文献1のようなp型や特許文献2に示されるようなn型では、それと同じ構成元素からなる同系統材料で良い対になる多ホウ化物材料はなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述の従来の問題点を解消し、希土類アルミノボライドからなる化合物に対しアルミニウム(Al)の組成を制御することによりp型およびn型の熱電半導体を提供すること、更にはそのような希土類アルミノボライド熱電半導体を利用した熱電発電素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によれば、以下の組成を有する希土類アルミノボライド熱電半導体が与えられる。
Al14(ここで、0.49<a<0.63、0.30<x<0.70)
ここで、希土類アルミノボライド熱電半導体はx>0.53であり、n型熱電特性を有してよい。
また、x<0.53であり、p型熱電特性を有してよい。
本発明の他の側面によれば、n型熱電半導体として前記n型の希土類アルミノボライド熱電半導体を、p型熱電半導体として前記p型の希土類アルミノボライド熱電半導体を使用した熱電発電素子が与えられる。
本発明の更に他の側面によれば、以下のステップを有する上記何れかの希土類アルミノボライド熱電半導体の製造方法が与えられる。
(a)YAl14なる原料組成となるようにY,Al及びBを含む原料を混合する。
(b)この混合物を真空または不活性雰囲気中にて1200℃〜1500℃の温度範囲で焼成する。
ここで、前記原料はY、Al及びBからなる群から選ばれた少なくとも一つの元素の単体を含んでよい。
また、前記原料は希土類ホウ化物とアルミニウムホウ化物の少なくとも一方を含んでよい。
また、前記aは約0.56であり、前記zは1.7以上であってよい。
また、前記焼成は4時間以上行なってよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、同一の成分でそれに含まれるAlの量を変化させることにより、高温で動作するn型とp型の両方の型の熱電半導体が与えられる。これによって、基本的に同じ製造プロセスによって両方の型の熱電半導体を製造することが出来るという製造上の利点とともに、熱膨張率などの熱的特性が揃った一対の熱電半導体が得られるので、熱サイクルを繰り返したときの熱膨張率の違いなどの熱的特性の違いによる熱電素子の劣化や損傷を防止・低減することができる。
【0008】
また、本発明の熱電半導体の製造方法は、非特許文献1、2にあるようなセルフフラックス法を用いるのではなく、溶融したAlを用いているものの、より固相反応法に近い手法を用いているため、大量の粉末試料を合成することができる。また、本製造方法では、焼成条件を制御することにより化合物中のAlの量を広い範囲で制御して、そのAl量によってp型およびn型の何れの熱電半導体でも製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例の希土類アルミノボライド熱電半導体のX線回折パターンを示す図。
図2】実施例の希土類アルミノボライド熱電半導体のゼーベック係数を示す図。
図3】YAl14試料の実物の写真。
図4】本発明の熱電発電素子の構造を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明によれば、Alが添加された希土類ホウ化物からなり、ゼーベック係数の絶対値が300μV/K以上のp型熱電半導体及び200μV/K以上であるn型熱電半導体が与えられる。この熱電半導体は下式に示す組成を有する斜方晶系である。
Al14
(ここで、0.49<a<0.63、0.30<x<0.70)
上式において、イットリウム(Y)の組成比aの範囲0.49<x<0.63については、この範囲で組成を変更しても当該化合物がp型かn型かは左右されない。しかしAlの組成比xを変化させると、x=0.53を境にp型もしくはn型に変化することがわかった。
【0011】
従来、この化合物に類似したものとしては、非特許文献1と非特許文献2にあるように、Alによるセルフフラックス法によって微小なY0.62l0.7114などの単結晶を合成したことが報告されていた。このような従来の化合物では、Alの組成はy=0.71〜0.74の範囲内であったが、以下の手法を用いることで大量の粉末試料ならびにこれまでにない組成を変化させた試料の合成が可能となった。すなわち、従来使用されていたセルフフラックス法ではAl量がどうしても飽和した状態の合成方法であるためAlの比率yを0.7以下という小さな値にすることができなかったのである。また、従来は希土類アルミノボライドが熱電特性を有すること自体、知られていなかった。
【0012】
本発明の希土類アルミノボライド熱電半導体の製造に当たっては、先ず、YAl14なる組成(原料組成)となるように原料を混合する。原料は、ホウ素(B)とYとAlのそれぞれ単体から出発しても、YB、YB、YB、YB25などの希土類ホウ化物やAlB12などのアルミホウ化物から出発しても良い。aは約0.56で、1.7≦zとすることが好ましい。zが1.7未満になった場合、雰囲気を問わず第二相であるYB、YB、YB12が現れ、収率が悪くなる。またY:Bの原料組成比が1:25となっているが、これよりもBのYに対する組成を減らすとYB、YB、YB12等の第二相が現れ、粉末試料の収率が悪くなる。
【0013】
この混合物を真空またはアルゴンなどの不活性雰囲気中にて焼成する。焼成温度は1200℃〜1500℃であり、4時間以上焼成することが好ましい。真空中で焼成することによって合成を行った場合、Alの脱離が起こる。また、原料組成中の全てのAlが反応して目的の化合物YAl14中に取り込まれるわけではない。従って、焼成条件を制御することにより、YAl14中のAl量を変化させることができる。また、るつぼ等との反応を防ぐため、Ta等で試料を包むことが好ましい。
【0014】
本発明では下式の組成を有する希土類ホウ化物からなるp型およびn型を有する熱電半導体を合成し、またこの半導体を使用した熱電発電素子を提供する。
Al14
(ここで、0.49<a<0.63、0.30<x<0.70)
【0015】
上述した本発明のp型とn型の熱電半導体を使用することにより、従来は不可能とされていた廃棄熱からのエネルギー回収が可能になる。具体的には、これら両熱電半導体を使用して、これに限定する意図はないが、例えば図4に示す構造の熱電発電素子を構成することができる(特許文献3の熱電発電素子も参照されたい)。
【0016】
熱電発電素子31は、低温となる側の電極35に、例えば半田等によって熱電材料チップであるn型半導体32が接合され、n型半導体32の反対側の端部と高温となる側の電極34とが同じく半田等によって接合されている。さらに同じ電極34と熱電材料チップであるp型半導体33とが接合され、p型半導体33の反対側の端部は別のn型半導体32が接合された別の電極35に接合されている。このような構成にすることによって電気的に直列した接続が完成する。
【0017】
電極34が高温、電極35がそれに較べて低温となるような環境に熱電発電素子31を設置して端部の電極を電気回路等に接続すると、ゼーベック効果によって電圧が発生し、矢印で示すように、電極35→n型半導体32→電極34→p型半導体33と電流が流れる。つまり、n型半導体32内の電子が高温の電極34から熱エネルギーを得て低温の電極35へ移動してそこで熱エネルギーを放出し、それに対してp型半導体の正孔が高温の電極34から熱エネルギーを得て低温の電極35へ移動してそこで熱エネルギーを放出するという原理によって電流が流れる。
【0018】
このような構造を有する熱電発電素子中のn型半導体32として、実施例で得られたようなp型の熱電半導体をp型半導体33として用いることで、従来以上に良好な熱回収が可能となる。
【実施例】
【0019】
以下には、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、この実施例はあくまで本発明の理解を助けるためにここに挙げたものであり、本発明をこれに限定するものでないことを理解しなければならない。
【0020】
下式の組成から出発して希土類アルミノボライド熱電半導体を合成し、その特性を評価した。
0.56Al14
(ここで、2.8≦z≦5.6)
【0021】
製造に当たっては、混合した試料をプレス成型(CIP)し、アルゴン雰囲気中または真空中にて焼成した。真空中にて焼成した試料はTaフォイルに包んで焼成を行った。焼成条件は、アルゴン雰囲気中では1400℃で12時間、真空下では1400℃〜1500℃にて8時間焼成した。上記zの範囲内の各種の原料組成で、かつ上記温度範囲内の各種の温度、雰囲気の各種の処理条件の組合せの下で合成を行い、その結果、図1図2に示されたような、YAl14(x=0.62、0.63、0.53、0.38、0.62)の試料が得られた。なお、x=0.62の試料が2回現れているが、これは原料組成、処理条件の異なる組合せの結果、合成された希土類アルミノボライド熱電半導体の組成中のxがたまたま同じ値となったものである。ここで図1中の上側のx=0.62に対応する図2側のゼーベック係数の測定値を●印、図1中の下側のx=0.62に対応する図2側の測定値を◆印で示す。
【0022】
放電プラズマ焼結(SPS)を用いて成型した試料を用いて、X線回折パターン、熱電特性等の測定を行った。図1に、実施例の希土類アルミノボライド熱電半導体のX線回折パターンを示す。なお、図中には小さな不純物相も明示したが、こうした小さい不純物相がゼーベック係数の値に影響を与えるものではないことは広く知られている。このX線回折パターンに基づき、Rietveldt解析によって、実際のアルミなどの占有率を求めた。また、図2には実施例の希土類アルミノボライド熱電半導体のゼーベック係数を示す。
【0023】
Ar雰囲気中及び真空中にて1400℃で焼成し、その後1500℃及び1550℃にてSPS焼結した試料は、X線回折パターンを用いたRietveld解析によってY0.51〜0.52Al0.62〜0.6314と見積もられた。またこの試料におけるゼーベック係数は負の値を示し(つまり、n型)1000Kにおいて絶対値が200μV/Kを示した。また、1600℃でSPS焼結した試料は焼結中に大きなドロップレットが生成し、1600℃手前で焼結を中止した。しかし取出された試料は僅かにYB及びYBが含まれるものの、Y0.54l0.5314と見積もられた。そしてこの試料のゼーベック係数の絶対値はほぼ10μV/K以内であった。真空中にて1500℃で焼成しSPS焼結した試料は、Y0.63Al0.3814と見積もられた。この試料のゼーベック係数は正の値を示しp型であることが判明し、その絶対値は300μV/Kを超えた。この結果から、Alの組成比が0.53を境界として、それよりもAlの組成比が大きい場合にはn型の希土類アルミノボライド熱電半導体が得られ、逆にAlの組成比が0.53よりも小さい場合にはp型となることがわかった。なお、SPS焼結を行った目的は、試料を緻密にし、また成型することである。このような成型を行った結果の写真を図3に示す。これにより電気抵抗が下がり、熱電性能が向上する。従って、本発明においてはSPS焼結は必須のものではないことに注意されたい。
【産業上の利用可能性】
【0024】
以上、詳細に説明したように、本発明は、廃熱回収など、産業上大いに利用されることが期待される。
【符号の説明】
【0025】
31:熱電発電素子
32:n型半導体
33:p型半導体
34:電極
35:電極
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】特許第4081547号
【特許文献2】特開2007−53259
【特許文献3】特開2008−177356
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】M. M. Korsukova, T. Lundstrom, L.-E. Tergenius, V. N. Gurin,"The crystal structure of defective YA1B14 and ErA1B14", Journal of AUoys and Compounds, 187 (1992) 39-48.
【非特許文献2】M. M. KORSUKOV, V. N. GURIN, Yu. B. KUZMA, N . F. CHABAN, S. I. CHYKHRII, V. V. MOSHCHALKOV, N . B. BRANDT, A. A. GIPPIUS, and KHO KHYU NYA, "Crystal Structure, Electrical, and Magnetic Properties of the New Ternary Compounds LnAIB14",Phys. Stat. Sol. (a) 114, 265 (1989).
図1
図2
図3
図4