(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
通電状態がON/OFF制御される一次コイルと、一次コイルの電磁結合する二次コイルと、一次コイル及び二次コイルに鎖交する磁束の閉磁路を形成する中心鉄心とを有し、グランド端子を含む複数の接続端子を設けて構成され、
前記中心鉄心は、第一コアと第二コアに分割され、下側の第一コアと上側の第二コアは、点火コイルの一部が挿入されるプラグホールの軸方向の上下位置に積層された状態で、互いの接続面が直接的又は間接的に当接されるよう構成され、
前記第一コアには、永久磁石を介在する前記第二コアとの接続面に連続して、下方に突出する肉厚の近接部が形成され、前記近接部の下方底面に配線溝を形成することで、前記配線溝と前記グランド端子とを接続する配線ケーブルと、前記第一コアとの接触面積を確保していることを特徴とする点火コイル。
二次コイルの二次巻線が巻着された二次ボビンの中に、一次コイルの一次巻線が巻着された前記一次ボビンが挿入されると共に、前記一次ボビンの中に、前記第一コアが挿入されて構成されている請求項2又は4に記載の点火コイル。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、閉磁路タイプについて、形状の小型化を図りつつ、点火エネルギーを更に高めたいという要請は強い。但し、一次コイルや二次コイルを大型化することで点火エネルギーを高めたのでは、点火コイルの小型化の要請に反して意味がない。
【0007】
また、点火コイルの全体形状や機器構成が複雑化したのでは、全体として小型化されても製造コストなどが上昇して市場の要請に応えることができない。
【0008】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであって、形状の小型化できるだけでなく、点火エネルギーを高めることができる点火コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明は、通電状態がON/OFF制御される一次コイルと、一次コイルの電磁結合する二次コイルと、一次コイル及び二次コイルに鎖交する磁束の閉磁路を形成する中心鉄心とを有し、
グランド端子を含む複数の接続端子を設けて構成され、前記中心鉄心は、
第一コアと第二コアに分割され、下側の第一コアと上側の第二コアは、点火コイルの一部が挿入されるプラグホールの軸方向の上下位置に積層された状態で、互いの接続面が直接的又は間接的に当接されるよう構成され、
前記第一コアには、永久磁石を介在する前記第二コアとの接続面に連続して、下方に突出する肉厚の近接部が形成され、前記近接部の下方底面に配線溝を形成することで、前記配線溝と前記グランド端子とを接続する配線ケーブルと、前記第一コアとの接触面積を確保している。
【0010】
前記接続面は、閉磁路を循環する理論上の磁束方向に対して、20°以下の傾斜角を有して構成されているのが好適である。
【0011】
本発明の中心鉄心は、典型的には、略直方体の第一コアと、略門型の第二コアと、薄板状の永久磁石MGとで構成されて、全体として断面角形状の閉磁路を形成している。
【0012】
また、二次コイルの二次巻線が巻着された二次ボビンの中に、一次コイルの一次巻線が巻着された一次ボビンが挿入されると共に、一次ボビンの中に、第一コアが挿入されて構成されるのが好ましい。また、中心鉄心は、電磁鋼板を積層して構成されるのが好適である。
【発明の効果】
【0013】
上記した本発明によれば、形状を小型化できるだけでなく、点火エネルギーを高めることができる点火コイルを実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
図1は、実施例に係る点火コイルCLの全体形状や、各部の形状を示す図面であり、
図1(a)は、箱型のコイルケース1に、コイル組立体3を収容した組付け状態を示している。
【0016】
図示の通り、コイルケース1の一端部には、接続端子T1〜T3を収容するターミナルケース2が固定され、コイルケース1の他端部には、取付ボルトが挿入される取付部1bが形成されている。そして、コイルケース1に熱硬化性樹脂を充填することで点火コイルCLが完成する。
【0017】
図2は、点火コイルCLの内部回路構成と、特徴的な構成要素である中心鉄心COを説明する図面である。
図2(a)に示す通り、点火コイルCLは、一次コイルL1と、二次コイルL2と、一次コイルL1及び二次コイルL2を鎖交する磁束の閉磁路を形成する中心鉄心COと、一次コイルL1をON/OFF制御するトランジスタTrと、点火方向を一方向に制御する高圧ダイオードDと、を内蔵して構成されている。
【0018】
また、この点火コイルCLは、直流電圧を受けるバッテリ端子T1と、ECU(Engine Control Unit) から点火信号を受ける制御端子T2と、グランド端子T3とを有して構成され、これら3本の入力端子が、
図1(a)に示すコイルケース1の一端(右端)に固定されたターミナルケース2に配置されている。
【0019】
そして、二次コイルL2の出力電圧は、コイルケース1の底面に配置された高圧出力端子T4(
図1(f)参照)から出力され、この高圧出力が、点火プラグPGに供給されることで、必要な点火放電動作が実現される。
【0020】
一次コイルL1、二次コイルL2、及び中心鉄心COは、全体として一体化されてコイル組立体3となり、コイルケース1の中央に配置される(
図1(a)参照)。そして、このコイル組立体3と、ターミナルケース2との間には、高圧ダイオードD(
図1(b))とトランジスタTr(不図示)とが配置される。
【0021】
図1(f)や
図2(c)に示す通り、中心鉄心COは、略直方体の第一コアCO1と、略門型の第二コアCO2と、薄板状の永久磁石MGとで構成されて、全体として断面角形状の閉磁路を形成している。ここで、第一コアCO1及び第二コアCO2は、
図2(c)に示す形状の電磁鋼板を積層して構成されている。電磁鋼板として、典型的には、ケイ素鋼板が使用される。
【0022】
なお、永久磁石MGは、一次コイルL1による磁界とは逆向きの磁界を形成することで、磁気ヒステリシス曲線(HB曲線)の使用可能領域(直線性部分)を広く確保している。
【0023】
一次コイルL1は、第一コアCO1を収容可能な
図1(g)に示す一次ボビンB1に、一次巻線W1を巻着して構成される(
図2(d)参照)。一方、二次コイルL2は、一次コイルL1を収容可能な二次ボビンB2(
図1(f)参照)に、二次巻線W2を巻着して構成される。なお、完成された二次コイルL2は、
図2(d)の左側から挿入されて、一次コイルL1の外側に配置される。
【0024】
本実施例の第一コアCO1は、これを一次ボビンB1に収容した状態で、一次コイルL1及び二次コイルL2の長さ方向の両端に、第一コアCO1の先端部と基端部とが露出する寸法に設定されている(
図2(d)参照)。そのため、露出状態の第一コアCO1の先端部(図示右側)に永久磁石MGを配置した状態で、第一コアCO1の先端面SLと基端面FA,F1,F2に、第二コアCO2の対応面を当接させることで中心鉄心COが完成状態となる。なお、正確に表現すると、第一コアCO1の先端面SLは、永久磁石MGを介在して、第二コアCO2の対応面に当接される。
【0025】
図2(b)は、通常構成の中心鉄心(比較例)であり、
図2(c)の中心鉄心CO(実施例)との対比のために図示している。実施例の中心鉄心COは、第一コアCO1と第二コアCO2と永久磁石MGとで構成される点では、比較例の中心鉄心と共通するが、第一コアCO1の形状が比較例とは顕著に相違する。
【0026】
すなわち、
図2(b)に示す比較例の第一コアの底面は、左右方向(一次コイルL1の磁束方向)に延びて、平坦に形成されているのに対して、実施例の第一コアCO1の底面は、その先端部(図示右側)に、磁束方向に直交して、下方に突出する突出部PRが形成されて非平坦な形状になっている。
【0027】
このような構成を採るのは、閉磁路の非連続箇所において、磁束方向に傾斜して(典型的には直交して)磁性体を肉厚にすると、漏れ磁束を抑制することができ、エネルギー損を有効に抑制できるためである。この効果は、本発明者の研究によって始めて明らかとなったものであり、
図3は、この効果を示すデータのごく一部であって、有限要素法(Finite Element Method : FEM) によるシミュレーション実験の結果を示している。
【0028】
図3(a)と
図3(b)に示す通り、実施例と比較例の中心鉄心COを比較すると、磁束方向に直交して磁性体を肉厚に形成した実施例では、先端の磁束集中が解消し、漏れ磁束が減少していることが確認される(
図3(a)参照)。なお、この実施例の第一コアCO1は、
図2(c)に示す通り、その左右中央部において、
図2(b)に示す比較例の第一コアより肉薄に形成されており(W1−δ2)、その分だけ磁路断面積Aが減少するので、磁気抵抗Rm(Rm∝1/A)が増加すると考えられる。しかし、本発明者による後述する性能実験によれば、このような磁気抵抗の変化に拘らず、比較例以上の電気的性能を発揮することが確認されている。
【0029】
また、実施例の場合、第一コアCO1と、第二コアCO2との当接面であって、その間に永久磁石MGが配置される傾斜面SLについて、その傾斜角度θを急峻に形成している(
図2(d)参照)。この傾斜角度θは、第一コアCO1の厚さ方向(閉磁路を循環する理論上の磁束方向であって、図示の上下方向)に対して、20°以下に設定するのが好ましく、より好ましくは、12〜18°程度に設定される。なお、比較例の傾斜角度は、21〜22°程度である。
【0030】
このように、本実施例では、永久磁石MGが配置される傾斜面SLを、20°以下の急峻な傾斜角度に設定しているので、第一コアCO1の左右中央部BYを肉薄に形成しても、永久磁石MGの当接面積を十分に確保することができ、所望の磁気ヒステリシス曲線を実現することができる。
【0031】
また、第一コアCO1の基端部は、
図2(d)に示す通り、上側平坦面FAに連続する第一傾斜面Fと、左右中央部BYに向かう第二傾斜面F2とで、V字状の切込み溝を形成しており、第二コアCO2の当接面との十分な接触面積を確保している。また、
図2(d)に示す第一コアCO1は、突出部PRの底面に、配線溝LNを形成することで、配線溝LNとグランド端子T3とを接続する配線ケーブルとの十分な接触面積を確保している。
【0032】
ところで、シミュレーション実験に供した実施例の場合、第二コアCO2の左右中央部及び基端部の肉厚は、比較例の場合と同じであり、磁路断面積は同一である。一方、第二コアCO2の基端部は、その上下方向の長さ(L+δ3)が、比較例よりやや長く形成しており(+δ3)、一次ボビンB1や一次巻線W1のための十分な空間を確保している(
図2(b)及び
図2(c)参照)。
【0033】
また、実施例では、第一コアCO1の左右中央部BYを、比較例より肉薄(−δ2)に形成したことに対応して、中心鉄心CO全体で評価した場合、その上下方向の高さ(H−δ1)は、比較例より所定値δ1だけ低くなり、コイル組立体3の小型化や磁性体材料の使用量の抑制に寄与している。
【0034】
上記した第一コアCO1の構成に対応して、一次ボビンB1は、
図1(g)に示す通り、一次巻線W1が巻着される筒状の本体部10と、第一コアCO1の先端面SLが露出する先端部11と、第一コアCO1の基端面FA,F1,F2が露出する基端部12とを有して構成されている。先端部11及び基端部12は、何れも正面視でコ字状の輪郭を有して、第一コアCO1の底面及び側面を支持するよう構成されている。また、先端部11には、一次巻線W1の巻始め線と巻終わり線とを固定する係止片TGが形成されている。
【0035】
図2(d)に示す通り、先端部11の底面は、第一コアCO1の突出部PRの底面に対応して、本体部10の底面より低く設定されている。一方、基端部12の底面は、本体部10の底面に連続して、同一平面を形成している。なお、先端部11の底面は、その一部が開口されることで、配線溝LNとグランド端子T3との電気接続を可能にしている。
【0036】
以下、点火コイルの組付け方法を確認的に説明する。
図1(g)に示す一次ボビンB1に一次巻線W1を巻着して一次コイルL1を完成させた後、その外側に二次コイルL2を配置する。なお、二次コイルL2は、二次ボビンB2に二次巻線W2を巻着して構成されており、一次ボビンB1の基端側から二次ボビンB2を挿入することで、一次コイルL1の外側に二次コイルL2を配置する。
【0037】
次に、このような状態で、一次ボビンB1の中に、中心鉄心COの第一コアCO1を挿入する。なお、挿入完了状態では、第一コアCO1の先端面SLの背面側や、突出部PRの底面が、一次ボビンB1の先端部11の内面に接触している(
図2(d))。
【0038】
この収容状態では、第一コアCO1の先端部と基端部とが一次ボビンB1や二次ボビンB2から露出するので、永久磁石MGを配置した状態で、第一コアCO1の露出面に、第二コアCO2の対応面を当接させることで、中心鉄心COが完成状態となる。
【0039】
しかる後、第二コアCO2の上側に保護カバー20を配置すると、コイル組立体3となる。そして、このコイル組立体3を、コイルケース1に収容すると
図1(a)の組付け状態となる。
【0040】
なお、コイル組立体3の二次コイルL2からは、その出力電圧を導出するリード線LDが出力されており、これが、
図1(a)の組付け状態では、高圧端子T4に接触することで、電気的接続が完了する。
【0041】
このように構成された点火コイルCLは、その下端が絶縁性のエラストマ材30で覆われた状態で、プラグホールHOに挿入され、ボルトBTなどを利用してエンジンブロックに固定される(
図5参照)。なお、エラストマ材30の内部には、導電性のスプリング(不図示)が配置されており、高圧端子T4と点火プラグPGとの電気接続が実現される。
【0042】
最後に、本発明の技術的意義を確認した性能実験について、
図6に基づいて説明する。
図6(a)は、二次コイルL2の両端を20pFのコンデンサで終端した実験回路において、通電を遮断する通電遮断時の一次電流の値を横軸にして、この通電遮断時の二次電圧を縦軸に示している。通常の動作条件では、遮断タイミングの一次電流は4〜6A程度であるので、機器構成を小型化した本実施例が、従来構成の比較例と同等の性能を発揮することが確認される。
【0043】
図6(b)〜
図6(d)は、二次コイルL2の両端を5kΩで終端した実験回路において、通電遮断時の一次電流の値を横軸にして、二次電流が消滅するまでの放電時間T2(
図6(b))、一次電流遮断時の二次電流値I2(
図6(c))、二次電流が消滅するまでの放電エネルギーE2(
図6(d)を、各々、縦軸に示したものである。
【0044】
何れの性能でも、通常の動作条件では、比較例と変らないか、比較例より優れていることが実証されており、本発明の優れた効果が確認される。
【0045】
以上、本発明の実施例について具体的に説明したが、具体的な記載内容は特に本発明を限定する趣旨ではなく、適宜に変更可能である。