特許第6061285号(P6061285)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6061285セメントキルン燃焼排ガスの処理装置及び処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061285
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】セメントキルン燃焼排ガスの処理装置及び処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/18 20060101AFI20170106BHJP
   C04B 7/60 20060101ALI20170106BHJP
   B01D 53/50 20060101ALI20170106BHJP
   F27D 17/00 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   B01D53/18
   C04B7/60ZAB
   B01D53/50
   F27D17/00 104G
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-73076(P2012-73076)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-202476(P2013-202476A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106563
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 潤
(72)【発明者】
【氏名】小川 洋介
(72)【発明者】
【氏名】石田 泰之
【審査官】 岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−073976(JP,A)
【文献】 特開昭58−051924(JP,A)
【文献】 特開2007−130565(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/003423(WO,A1)
【文献】 特表2013−531558(JP,A)
【文献】 特開平11−005014(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/152548(WO,A1)
【文献】 特開2011−144058(JP,A)
【文献】 特開2012−056794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/18
B01D 53/50
C04B 7/60
F27D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントキルンの窯尻からプレヒータの最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼排ガスの一部を冷却しながら抽気するプローブと、
該プローブによる抽気ガスに水を噴霧し、該抽気ガス中の生石灰と水とで生成された消石灰と、該抽気ガス中のSO2とを反応させ、該抽気ガス中のSO2を除去する半乾式の脱硫装置としてのスプレー塔と、
該スプレー塔の排ガスに含まれるダストを回収する集塵機と、
該集塵機で回収されたダストを含むスラリーを、該ダストに含まれる生石灰から生成された消石灰スラリーと、石膏及び塩水とに分離するシックナーとを備え、
前記スプレー塔において、前記シックナーで分離された消石灰スラリーを前記プローブによる抽気ガスに噴霧することを特徴とするセメントキルン燃焼排ガスの処理装置。
【請求項2】
前記プローブで抽気した抽気ガスを、粗粉と、微粉を含む排ガスとに分離する分級機を備え、
該分級機から排出された微粉を含む排ガスを前記スプレー塔に供給することを特徴とする請求項1に記載のセメントキルン燃焼排ガスの処理装置。
【請求項3】
前記集塵機の排ガスを加熱する排ガス加熱手段と、
前記スプレー塔に導入される抽気ガスを用い、前記排ガス加熱手段から供給された熱媒体を加熱する熱媒体加熱手段と、
該熱媒体加熱手段で加熱された熱媒体を前記排ガス加熱手段に戻すルートとを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のセメントキルン燃焼排ガスの処理装置。
【請求項4】
前記集塵機は、湿式電気集塵機であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載のセメントキルン燃焼排ガスの処理装置。
【請求項5】
セメントキルンの窯尻からプレヒータの最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼排ガスの一部を抽気し、
該抽気ガスに水を噴霧し、該抽気ガス中の生石灰と水とで生成された消石灰と、該抽気ガス中のSO2とを反応させ、該抽気ガス中のSO2を除去し、
該SO2を除去した抽気ガスに含まれるダストを集塵し、
該集塵したダストを含むスラリーを、該ダストに含まれる生石灰から生成された消石灰スラリーと、石膏及び塩水とに分離し、
前記噴霧工程において、前記分離された消石灰スラリーを前記抽気ガスに噴霧することを特徴とするセメントキルン燃焼排ガスの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントキルン燃焼排ガスの処理装置及び処理方法に関し、特に、セメントキルンの窯尻からプレヒータの最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を抽気し、塩素分等を除去する塩素バイパスシステムの排ガスを処理する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セメント製造設備におけるプレヒータの閉塞等の問題を引き起こす原因となる塩素、硫黄、アルカリ等の中で、塩素が特に問題となることに着目し、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より、燃焼ガスの一部を抽気して塩素を除去する塩素バイパスシステムが用いられている。
【0003】
この塩素バイパスシステムでは、特許文献1に記載のように、抽気した燃焼ガスを冷却して生成したダストの微粉側に塩素が偏在しているため、ダストを分級機によって粗粉と微粉とに分離し、粗粉をセメントキルン系に戻すとともに、分離された塩化カリウム等を含む微粉(塩素バイパスダスト)を水洗して塩素を除去し、固液分離して得られた脱塩ケーキをセメント原料として利用していた。
【0004】
上記抽気した燃焼ガスには、一部の酸性ガス等が残留するため、抽気ガスをそのまま大気に排出することができず、セメントキルンに付設されているプレヒータやクリンカクーラ等に戻しても、硫黄等の微量成分は系外に排出されず、セメント製造工程内を循環しながら次第に濃縮し、工程トラブルを引き起こすことが知られている。
【0005】
そこで、上記抽気ガスを脱硫装置を通した後、セメントキルンの排気系へ送るか、特許文献2に記載のように、抽気ガスを湿式集塵装置で溶媒を用いて集塵し、ダストの回収と、抽気ガスの脱硫とを同時に行った後、脱硫後の清浄ガスを大気に放出していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−330148号公報
【特許文献2】特開2004−002143号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記脱硫を兼ねた湿式集塵では大量の水を使用するため、水が高価な地域等では、湿式集塵装置等を導入することが困難である。
【0008】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、大量の水を使用せずに塩素バイパスシステムの排ガスを処理することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、セメントキルン燃焼排ガスの処理装置であって、セメントキルンの窯尻からプレヒータの最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼排ガスの一部を冷却しながら抽気するプローブと、該プローブによる抽気ガスに水を噴霧し、該抽気ガス中の生石灰と水とで生成された消石灰と、該抽気ガス中のSO2とを反応させ、該抽気ガス中のSO2を除去する半乾式の脱硫装置としてのスプレー塔と、該スプレー塔の排ガスに含まれるダストを回収する集塵機と、該集塵機で回収されたダストを含むスラリーを、該ダストに含まれる生石灰から生成された消石灰スラリーと、石膏及び塩水とに分離するシックナーとを備え、前記スプレー塔において、前記シックナーで分離された消石灰スラリーを前記プローブによる抽気ガスに噴霧することを特徴とする。
【0010】
そして、本発明によれば、スプレー塔で抽気ガスに水を噴霧して生成した消石灰と、抽気ガス中のSO2とを反応させてSO2を除去するため、大量の水を使用せずに抽気ガスを脱硫することが可能となる。また、シックナーで分離された消石灰スラリーをプローブによる抽気ガスに噴霧して有効利用し、分離された石膏及び塩水も各々有効利用することができる。
【0013】
上記処理装置は、前記プローブで抽気した抽気ガスを、粗粉と、微粉を含む排ガスとに分離する分級機を備え、該分級機から排出された微粉を含む排ガスを前記スプレー塔に供給することができる。
【0014】
また、上記処理装置は、前記集塵機の排ガスを加熱する排ガス加熱手段と、前記スプレー塔に導入される抽気ガスを用い、前記排ガス加熱手段から供給された熱媒体を加熱する熱媒体加熱手段と、該熱媒体加熱手段で加熱された熱媒体を前記排ガス加熱手段に戻すルートとを備えることができる。これによって、熱損失を低く抑えながら効率よく集塵機の排ガスを加熱し、低い運転コストで排ガスを処理することができる。
【0015】
上記処理装置において、前記集塵機を湿式電気集塵機とすることができ、半乾式脱硫後のダストを効率よく回収することができる。また、洗浄液もそのままシックナーに導入することができて効率のよいシステムを構成することができる。
【0016】
さらに、本発明は、セメントキルン燃焼排ガスの処理方法であって、セメントキルンの窯尻からプレヒータの最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼排ガスの一部を抽気し、該抽気ガスに水を噴霧し、該抽気ガス中の生石灰と水とで生成された消石灰と、該抽気ガス中のSO2とを反応させ、該抽気ガス中のSO2を除去し、該SO2を除去した抽気ガスに含まれるダストを集塵し、該集塵したダストを含むスラリーを、該ダストに含まれる生石灰から生成された消石灰スラリーと、石膏及び塩水とに分離し、前記噴霧工程において、前記分離された消石灰スラリーを前記抽気ガスに噴霧することを特徴とする。本発明によれば、上記発明と同様に、大量の水を使用せずに抽気ガスを脱硫することができるとともに、分離した消石灰スラリー、石膏及び塩水を各々有効利用することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、大量の水を使用せずに、塩素バイパスシステムの排ガスを処理することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明にかかるセメントキルン燃焼排ガスの処理装置の一実施の形態を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明にかかるセメントキルン燃焼排ガスの処理装置の一実施の形態を示し、この装置1は、セメントキルン2の窯尻からプレヒータの最下段サイクロン(不図示)に至るまでのキルン排ガス流路より、燃焼排ガスの一部(図中符号G)を抽気するプローブ3と、プローブ3内に冷風Aを供給して抽気ガスG1を急冷する冷却ファン4と、抽気ガスG1に含まれるダストの粗粉D1を分離する分級機としてのサイクロン5と、排ガスG2の顕熱を回収する熱回収器6と、熱回収器6の排ガスG3に水等を噴霧するスプレー塔7と、スプレー塔7の排ガスG4から微粉(塩素バイパスダスト)D2を回収する湿式電気集塵機8と、湿式電気集塵機8から排出された微粉D2を含むスラリーを消石灰スラリーSと、石膏GYと塩水SWとに分離するシックナー9と、湿式電気集塵機8の排ガスG5を加熱する再加熱器10と、排気ファン11等で構成される。
【0021】
プローブ3、冷却ファン4、サイクロン5及び排気ファン11は、従来の塩素バイパスシステムに用いられている装置であって、詳細説明を省略する。
【0022】
熱回収器(熱媒体加熱手段)6は、サイクロン5の排ガスG2と再加熱器10からのガスG7との熱交換を行うものであり、サイクロン5の排ガスG2のガス温度を低下させると共に、排ガスG2から回収した熱を再加熱器10で利用するために設けられる。尚、サイクロン5の排ガスG2から熱を回収するにあたって、熱回収器6及び再加熱器10に代えてヒートパイプ、ユングストローム(登録商標)式熱交換器(アルストム株式会社製)、ガスガスヒータ等を用いることもできる。
【0023】
スプレー塔7は、半乾式の脱硫装置であって、熱回収器6の排ガスG3に水を噴霧し、排ガスG3中の微粉に含まれる生石灰(CaO)から消石灰(Ca(OH)2)を生成すると共に、排ガスG3に、シックナー9から排出された消石灰スラリーSを噴霧し、スプレー塔7内で生成した消石灰と、シックナー9からの消石灰スラリーSとを排ガスG3中のSO2と反応させ、排ガスG3からSO2を除去するために備えられる。
【0024】
湿式電気集塵機8は、排ガスG4から微粉D2を回収するために備えられ、集塵板等の洗浄に水Wが用いられる。特に、湿式荷電液滴(静電微粒化)電気集塵機等を用いると、より少ない水量で湿式集塵することができる。
【0025】
シックナー9は、湿式電気集塵機8から排出された微粉D2を含むスラリーを沈降分離するために備えられ、微粉D2に含まれる生石灰から生成される消石灰スラリーと、さらに反応が進んで、この消石灰が排ガスG3中のSO2と反応して生成される石膏GY及び塩水SWとに分離し、分離した消石灰スラリーSをスプレー塔7に戻すルートを備える。
【0026】
再加熱器(燃焼排ガス加熱手段)10は、湿式電気集塵機8から排出された排ガスG5を加熱するために備えられる。
【0027】
次に、上記構成を有する処理装置1の動作について、図1を参照しながら説明する。
【0028】
プローブ3で抽気された抽気ガスG1は、冷却ファン4からの冷風Aによって350〜550℃程度に冷却された後、サイクロン5に導入され、粗粉D1と、塩素分が偏在している微粉を含む排ガスG2とに分離される。ここで、粗粉D1は塩素含有量が少ないため、セメント原料系へ戻すことができる。
【0029】
サイクロン5から排出された微粉を含む排ガスG2は、熱回収器6において再加熱器10から導入されたガスと熱交換され、回収した熱を再加熱器10で利用する。
【0030】
次に、熱回収器6の排ガスG3は、スプレー塔7に導入され、微粉中の生石灰は、スプレー塔7内で噴霧された水と反応して消石灰となり、排ガスG2に含まれる硫黄分(SO2)は、この消石灰スラリーと下記のように反応して脱硫される。
CaO + H2O → Ca(OH)2
SO2 + Ca(OH)2 → CaSO3・1/2H2O + 1/2H2
CaSO3・1/2H2O + 1/2O2 + 3/2H2O → CaSO4・2H2
スプレー塔7の排ガスG4は、湿式電気集塵機8に導入され、微粉D2が回収される。湿式電気集塵機8から排出された微粉D2に含まれる生石灰は、シックナー9内で水と反応して消石灰スラリーSとなり、さらに反応が進むと消石灰スラリーSは、石膏GY及び塩水SWとなる。この際、比重の小さい消石灰スラリーSは上層に、比重の大きい石膏GY及び塩水SWは下層に分かれることで、沈降分離することができる。ここで生じた消石灰スラリーSをスプレー塔7での噴霧に使用することができる。さらに、石膏GYをセメントミル系へ添加したり、塩水SWから塩を回収後、排水処理して放流することができる。
【0031】
湿式電気集塵機8から排出された排ガスG5の温度は、熱回収器6での熱交換及びスプレー塔7での水の噴霧によって50〜150℃程度まで下がっているため、再加熱器10で100〜200℃程度まで昇温させる。再加熱器10の熱源には、上述のように、サイクロン5から排出された排ガスG2を用いる。
【0032】
再加熱器10で昇温された排ガスG6は、排気ファン11及び図示しない煙突を経て大気に放出するか、別工程で排ガスG6から熱回収した後大気へ放出する。
【0033】
尚、上記実施の形態においては、湿式電気集塵機8を用いてスプレー塔7の排ガスG4に含まれる微粉D2を回収したが、湿式電気集塵機8に代えて、湿式集塵機(スクラバ)を用いることもできる。
【符号の説明】
【0034】
1 セメントキルン燃焼排ガス処理装置
2 セメントキルン
3 プローブ
4 冷却ファン
5 サイクロン
6 熱回収器
7 スプレー塔
8 湿式電気集塵機
9 シックナー
10 再加熱器
11 排気ファン
D1 粗粉
D2 微粉
G 燃焼排ガスの一部
G1 抽気ガス
G2〜G6 排ガス
G7 ガス
GY 石膏
S 消石灰スラリー
SW 塩水
W 水
図1