【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0028】
1.塩化剤と水酸化物の併用効果の実証
1−1.実験方法
まず、鉛ガラス(ブラウン管ファンネルガラス)を粉砕し、目開き45μmの篩を通過させて、粒径が45μm未満のガラス粉を得た。
次に、鉛ガラス0.4gと、塩化剤(PVC)、Ca(OH)
2を所定の重量を計量し、メノウ乳鉢で混合した後、アルミナるつぼに移し入れた。
所定の温度に加熱した電気炉に入れ、炉内に0.4L/minで空気を流しながら、1100℃で2時間加熱して、鉛を塩化揮発させた。
室温に取り出し冷却した後、るつぼを100mLのポリ製容器に入れた。フッ化水素酸10mL、硝酸10mLを純水で100mLにまで希釈した混酸を加え、容器を密閉し、2時間、超音波洗浄器により、超音波を照射して、ガラスを分解した。分解液を500mLメスフラスコに移し入れ、るつぼ及び分解容器を硝酸15mLで洗い込んだのち、純水で希釈して500mLにした。
ICP−MSでPbの含有量を分析し、次式によりPb揮発率を算出した。
Pb揮発率(%)= (B−A)/B×100
A : 残留ガラス中の残留量(mg)
B : 鉛ガラス中のPb含有量(mg)
【0029】
1−2.実験結果
得られた実験結果を
図1(a)〜(d)に示す。
図1(a)は、塩化剤としてPVCを用い、水酸化物を添加しない条件で、(Cl/Pb)モル比を変化させたときのPb揮発率と残留Pb濃度を示すグラフである。このグラフに示すように、この条件では、(Cl/Pb)モル比を大きくしてもPb揮発率は上昇せず、PVCのみではPbの塩化揮発が効果的に行われないことが分かった。
図1(b)は、(OH/Cl)モル比が1となるように、水酸化物として消石灰(Ca(OH)
2)を添加した以外は、
図1(a)と同様の条件で実験を行って得られたグラフである。このグラフに示すように、水酸化物を添加した場合、(Cl/Pb)モル比を大きくした場合にPb揮発率が上昇し、その結果、(Cl/Pb)モル比が10の場合の残留Pb濃度が0.021%(210mg/kg)という低い値になった。
図1(c)は、(OH/Cl)モル比を1.5に変更した以外は、
図1(b)と同様の条件で実験を行って得られたグラフである。このグラフに示すように、(OH/Cl)モル比を1.5に変更することによって、(Cl/Pb)モル比が10の場合の残留Pb濃度が0.009%(90mg/kg)という極めて低い値になった。
図1(d)は、(OH/Cl)モル比を2に変更した以外は、
図1(c)と同様の条件で実験を行って得られたグラフである。このグラフに示すように、(OH/Cl)モル比を2に変更した場合、(Cl/Pb)モル比が10の場合の残留Pb濃度が0.018%(180mg/kg)であり、
図1(c)の場合よりも却って大きな値になった。
【0030】
以上の結果から、以下のことが言える。
・塩化剤としてPVCのみを用いた場合にはPb揮発率が非常に低かったが、水酸化物を添加することによって、Pb揮発率が大幅に上昇した。
・PVCと水酸化物を併用した場合、PVCと水酸化物の添加量を調整することによって、残留Pb濃度が0.009%(90mg/kg)という極めて低い値になった。土壌汚染対策法の含有量基準が150mg/kg以下であるので、この基準をクリアした。
【0031】
2.焼成温度がPb揮発率に与える影響
次に、(Cl/Pb)モル比を8に固定し(OH/Cl)モル比を1.5に固定して、焼成温度を変化させた以外は、「1−1.実験方法」と同様の実験を行なって、焼成温度がPb揮発率に与える影響を調べた。その結果を
図2に示す。
図2に示すように、焼成温度が高くなるほど、Pb揮発率が高くなり、900℃で90%を超え、1100℃では99.93%に達した。
【0032】
3.焼成時間がPb揮発率に与える影響
次に、(Cl/Pb)モル比を8に固定し(OH/Cl)モル比を1.5に固定し、焼成時間を変化させた以外は、「1−1.実験方法」と同様の実験を行なって、焼成時間がPb揮発率に与える影響を調べた。その結果を
図3に示す。
図3に示すように、焼成時間がわずか10分でPb揮発率は99.0%に達し、30分で99.86%になり、120分で99.93%になった。
【0033】
4.ガラス粉の粒径がPb揮発率に与える影響
次に、(Cl/Pb)モル比を8に固定し(OH/Cl)モル比を1.5に固定し、ガラス粉の粒径を変化させた以外は、「1−1.実験方法」と同様の実験を行なって、ガラス粉の粒径がPb揮発率に与える影響を調べた。その結果を
図4に示す。
図4に示すように、粒径が500μm未満の場合はPb揮発率が80%であり、粒径が125μm未満の場合はPb揮発率が99.3%であり、粒径が45μm未満の場合はPb揮発率が99.93%であった。
【0034】
5.塩化剤がCaCl
2である場合の塩化剤と水酸化物の併用効果
次に、塩化剤としてCaCl
2を使用した以外は、「1−1.実験方法」と同様の実験を行なって、塩化剤がCaCl
2である場合の塩化剤と水酸化物の併用効果を調べた。水酸化物は、Ca(OH)
2を(OH/Cl)モル比が0.5になるように添加した。
【0035】
その結果を
図5(a)〜(c)に示す。
図5(a)は、(Cl/Pb)モル比を変化させた場合のPb揮発率の変化を示すグラフであり、
図5(b)は、
図5(a)の縦軸の95〜100%の部分を拡大したグラフである。
図5(c)は、(Cl/Pb)モル比を変化させた場合の残留Pb濃度の変化を示すグラフである。
図5(a)〜(c)において、○は水酸化物を使用しなかった場合、●は水酸化物を使用した場合の結果を示す。従って、○→●への変化が塩化剤と水酸化物の併用効果を示している。
【0036】
図5(a)を参照すると、(Cl/Pb)モル比が4の場合、水酸化物を使用しなかった場合はPb揮発率が70.8%であったのに対し、水酸化物を使用した場合はPb揮発率は97.6%に大幅に増大した。この結果は、水酸化物を用いれば、塩化剤の使用量を減らすことができることを示している。
次に、
図5(b)〜(c)を参照すると、(Cl/Pb)モル比に関わらず、水酸化物を使用することによって、Pb揮発率が上昇し、残留Pb濃度が低減されていることが分かる。例えば、(Cl/Pb)モル比=10の場合、水酸化物を使用しなければ残留Pb濃度は0.059%(590mg/kg)であるのに対し、水酸化物を使用すれば残留Pb濃度が0.0093%(93mg/kg)にまで低減された。土壌汚染対策法の含有量基準が150mg/kg以下であることを考慮すると、590mg/kgから93mg/kgへの低減は、技術的に極めて重要な意義を有する。
【0037】
6.塩化剤がCaCl
2である場合に水酸化物の添加量がPb揮発率に与える影響
次に、塩化剤としてCaCl
2を使用し、(Cl/Pb)モル比を4又は8に固定し、(OH/Cl)モル比を変化させた以外は、「1−1.実験方法」と同様の実験を行なって、塩化剤がCaCl
2である場合に水酸化物の添加量がPb揮発率に与える影響を調べた。
【0038】
その結果を
図6(a)〜(c)に示す。
図6(a)は、(OH/Cl)モル比を変化させた場合のPb揮発率の変化を示すグラフであり、
図6(b)は、
図6(a)の縦軸の90〜100%の部分を拡大したグラフである。
図6(c)は、(OH/Cl)モル比を変化させた場合の残留Pb濃度の変化を示すグラフである。
図6(a)〜(c)において、○は(Cl/Pb)モル比が4の場合、●は(Cl/Pb)モル比が8の場合の結果を示す。
図6(a)〜(c)を参照すると、(Cl/Pb)モル比が4の場合は水酸化物を添加しない場合はPb揮発率が極めて低い(約70%)が、水酸化物をわずかでも添加するとPb揮発率が劇的に上昇することが分かる。一方、(Cl/Pb)モル比が8の場合は水酸化物を添加しないでもPb揮発率は99.5%という非常に高い値ではあるが、水酸化物を少量((OH/Cl)モル比=0.15〜0.65程度)添加するとPb揮発率がさらに高くなり、残留Pb濃度がさらに低下した。
また、水酸化物を過剰に入れると、Pb揮発率が低下し、残留Pb濃度が上昇することも分かった。
【0039】
7.水酸化物の種類がPb揮発率に与える影響
次に、塩化剤としてCaCl
2を使用し、(Cl/Pb)モル比を10に固定し、(OH/Cl)モル比を0.5に固定し、水酸化物の種類を変化させた以外は、「1−1.実験方法」と同様の実験を行なって、水酸化物の種類がPb揮発率に与える影響を調べた。
その結果を表1に示す。表1に示すように、3種類の水酸化物の何れを使用した場合でも、水酸化物がない場合に比べてPb揮発率が上昇し、残留Pb濃度が低下した。また、アルカリ土類金属の水酸化物(水酸化カルシウム又は水酸化マグネシウム)を用いた場合には、Pb揮発率の上昇及び残留Pb濃度の低下が特に大きかった。さらに、水酸化カルシウムを用いた場合は、Pb揮発率の上昇及び残留Pb濃度の低下が最も大きかった。
【表1】
【0040】
8.Pb以外の重金属についての塩化剤と水酸化物の併用効果の実証
次に、Pb以外の種々の重金属を塩化揮発によって分離する場合に、水酸化物の併用による揮発率の上昇が見られるかどうかを調べた。
まず、Bi
2O
3、Ta
2O
5、Nb
2O
5、Co
3O
4、NiO、CuO、MnO
2、ZnO、TiO
2、In
2O
3をソーダ石灰ガラスに、それぞれ1wt%添加混合して溶融して、模擬ガラスを作成した。
次に、模擬ガラスを粉砕し、目開き45μmの篩を通過させて、粒径が45μm未満のガラス粉を得た。
次に、模擬ガラス0.4gに、塩化剤(PVC)を0.341g、Ca(OH)
2を0.300gを添加してメノウ乳鉢で混合した後、アルミナるつぼに移し入れた。
所定の温度に加熱した電気炉に入れ、炉内に0.4L/minで空気を流しながら、1100℃で2時間加熱して、重金属を塩化揮発させて分離した。
次に、「1−1.実験方法」と同様の方法で、各種重金属の揮発率を算出した。
その結果を
図7に示す。ここでは、Co、Cu、Mn、Ni、Zn、Inについて分析を行った。各元素について、左側のグラフは水酸化物の添加がない場合、右側のグラフは水酸化物の添加がある場合の結果を示す。このグラフから明らかなように、水酸化物を添加していない場合、各種重金属の揮発率は非常に低かったが、水酸化物の添加によって揮発率が劇的に上昇した。
以上より、塩化剤と水酸化物の併用効果は、鉛以外の種々の重金属にも有効であることが実証された。