(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061294
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】パワーステアリングシステムの操作のための方法
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20170106BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-537341(P2012-537341)
(86)(22)【出願日】2010年10月25日
(65)【公表番号】特表2013-510034(P2013-510034A)
(43)【公表日】2013年3月21日
(86)【国際出願番号】EP2010066053
(87)【国際公開番号】WO2011054692
(87)【国際公開日】20110512
【審査請求日】2013年10月4日
【審判番号】不服2015-16064(P2015-16064/J1)
【審判請求日】2015年8月31日
(31)【優先権主張番号】102009046379.8
(32)【優先日】2009年11月4日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】102010002803.7
(32)【優先日】2010年3月12日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500396654
【氏名又は名称】ローベルト ボッシュ オートモーティブ ステアリング ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Robert Bosch Automotive Steering GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 和也
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100107537
【弁理士】
【氏名又は名称】磯貝 克臣
(72)【発明者】
【氏名】アルヌルフ、ハイリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】クラウディオ、レッテンマイヤー
【合議体】
【審判長】
阿部 利英
【審判官】
内田 博之
【審判官】
中川 隆司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−88663(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/116555(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00 , B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のパワーステアリングシステム(10)の操作のための方法であって、
所与のマニュアルトルク(24)が、重畳ユニット(14)内で、モータ(16)によって提供されるモータトルク(26)に重ね合わされ、
パワーステアリングシステム(10)の凍結を含む障害が、前記モータ(16)のスピードパターンの検知に基づいて明らかとされ、
前記スピードパターンの検知は、凍結の前兆として発生するスティックスリップ効果を形成する回転数経過の曲線(84)の急増の分析によって明らかとされ、
前記分析の際に、下方回転数しきい値(88)、上方回転数しきい値(86)、下方回転数しきい値が到達された後で上方回転数しきい値が到達されるまでの時間領域(92)、及び、上方回転数しきい値が到達された後で再び下方回転数しきい値が到達されるまでの時間領域(94)が考慮される
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記分析の際に、マニュアルトルク(24)の作用方向とモータトルク(26)の作用方向とが同じ方向であるか否かが、考慮される
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
障害が検知された際に、パワーステアリングシステム(10)に振動作用を付与する対策が取られる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
コンピュータプログラムであって、
当該コンピュータプログラムが、コンピュータのマイクロプロセッサ上で、パワーステアリングシステム(10)の制御装置(22)内で、実装された場合に、請求項1乃至3のいずれかによる方法を実施するためのプログラムコードを有するコンピュータプログラム。
【請求項5】
コンピュータプログラムが、コンピュータのマイクロプロセッサ上で、パワーステアリングシステム(10)の制御装置(22)内で、実装された場合に、請求項1乃至3のいずれかによる方法を実施するために、コンピュータ読取可能なデータキャリア上に記憶されたプログラムコードを有するコンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーステアリングシステムの操作のための方法と、そのようなパワーステアリングシステムと、に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーステアリングシステムは、運転者によって与えられるマニュアルトルクにモータを介してモータトルクが重ね合わされることが、知られ考慮されている。パワーステアリングシステムは、通常、外に設置されているので、外部の影響、特には環境の及ぼす影響及び温度の及ぼす影響にさらされる。これにより、ステアリングの機能性は、損なわれ得る。ここで、特に侵入する水のせいで生じるパワーステアリングシステムの凍結が、特別な問題である。
【0003】
ステアリングハウジング内に、特には軸平行配置に、排水弁を配置することが知られている。当該排水弁は、水の侵入時に開かれて、ステアリングギヤ内に侵入する水を再び排水し、それによってステアリングシステムが最低温度の際に凍結することがない。
【0004】
公報WO2008/116555A1から、電気機械式システムと、電気機械式システム並びに電気機械式システムを有する自動車の凍結開始を検知するための方法と、が知られている。当該電気機械式システムは、電動モータと、当該電動モータによって作動される少なくとも一つの機械的要素と、制御装置と、を有している。当該制御装置には、少なくとも一つの入力パラメータが供給され、当該制御装置は、当該入力パラメータから電動モータのための目標値(Sollgroesse)を算出する。一方、機械的要素の設定値(Stellgroesse)が検知され、制御装置に引き渡される。ここで、電動モータのための目標値と機械的要素の設定値との比較から、スティックスリップ作用が検知される。更には、肥厚の危険、あるいは、作動液の凍結、あるいは、電気機械式システム内へ侵入する液体、を検知するための好適な手段として、温度センサ、湿度センサ、及び、いわゆるスティックスリップ検知装置、が記載されている。スティックスリップ検知装置は、例えば、騒音ないしは機械的振動を受容(検知)するための手段であり得る。
【0005】
本発明の課題は、パワーステアリングシステムの障害が簡潔な方法で検知され得るようなパワーステアリングシステムの操作のための方法を提案することである。この場合、特に、障害が可能な限り早く検知される、ないしは、障害のほとんど開始時に検知される、ということが追求される。
【0006】
パワーステアリングシステムの操作のために開示される方法は、運転者により与えられたマニュアルトルクが、重畳ユニット内で、モータによって提供されるモータトルクに重ね合わされる、ということを提供する。この場合、パワーステアリングシステムの障害が、モータのスピードパターンを評価することを介して検知される。
【0007】
本発明による方法は、ステアリングシステム内ないしはステアリングリンケージ内でのパワーステアリングシステムの凍結を検知するのに、特に好適である。
【0008】
検知された摩擦係数が考慮されれば、合目的的である。
【0009】
ロータ回転数、マニュアルトルク、名目上のモータトルク、ステアリング角、自動車速度、出力部温度(ECU)、外気温、及び/または、ギヤ符号のインジケータ、のような更なる境界条件が、追加して援用され得る。
【0010】
ある実施の形態では、マニュアルトルクの作用方向とモータトルクの作用方向とが、考慮される。この場合、有効トルクを生み出すマニュアルトルクとモータトルクとが、同じ方向に作用するかどうかが留意される。このことは、当該方法のロバスト性を支援する。なぜなら、検知されたスピードパターンが、運転者の操作に起因するかどうか、及び、外部の障害により引き起こされていないかどうか、が検査され得るからである。
【0011】
障害が検知された際に対策が取られる、ということが生じる。これに関する例は、振動モータトルクの作用である。更には、(光学的な及び/または音響的な)警告信号が、発せられ得る。
【0012】
開示されるパワーステアリングシステムは、マニュアルトルクの設定のための操舵操作具(Lenkhandhabe)と、モータと、通常は電動モータと、重畳ユニットと、を有している。当該重畳ユニットでは、運転者により与えられたマニュアルトルクが、モータのモータトルクに重ね合わされる。当該パワーステアリングシステムは、パワーステアリングシステムの障害が、モータのスピードパターンを評価することを介して検知される、ということによって傑出している。
【0013】
ある実施の形態では、モータのスピードパターンを検知して評価する制御装置が考慮される。
【0014】
従って、ある実施の形態では、スピードパターン及び検知された摩擦に基づいて、ステアリングシステムの凍結が検知される、という方法が記述される。危険な状態を回避するために、振動モータトルクが作用され得て、凍結しているステアリングシステムが、更に良く制御可能で、完全には凍結しない、という結果をもたらす。
【0015】
この場合、作動液あるいはパワーステアリングシステム内に侵入した液体の濃縮あるいは凍結の危険が、検知され得る。
【0016】
前述の方法は、制御装置のマイクロプロセッサ内ないしは演算装置内で実現し得る。この場合、当該方法は、自動化され技術的なパラメータを検知して処理する、ソフトウェアにおいて、ないしは、コンピュータに実装されたアルゴリズムにおいて、実現する。
【0017】
アルゴリズムの入力パラメータは、ロータ回転数、対地(絶対)ロータ回転数、マニュアルトルク、名目上のモータトルク、ステアリングの絶対角、一般的にはフィルタリングされる自動車の速度、ECUの出力部温度、ギヤ符号、検知された摩擦係数、であり得る。
【0018】
走行中にステアリングシステムが凍結し始める場合、特有のスピードパターンが発生する。そのスピードパターンが、組み入れられたソフトウェアによって制御装置内で検知され得る。ステアリングシステムが凍結しない場合、運転者の操舵操作は、ほとんど連続的なロータ回転数の推移を実現させる。
【0019】
典型的なシナリオに従ってステアリングシステムが凍結を開始して、約100msあたりの回転数が非常に小さい場合(<5rpm)、当該ステアリングシステムは、運転者を介して再び「自由に制御され」、結果として一時的な回転数の急増をもたらす。当該ステアリングシステムは、引き続き再びわずかに凍結し、再び短時間で非常に小さい回転数になる。このスピードパターンが順序よく何度も、例えば10回、発生し、例えば温度は5℃未満、システム摩擦は0.2Nmより大きい、等々といった他の境界条件を満たす場合、ステアリングシステムの凍結が検知される。
【0020】
当該検知後、振動モータトルクが作用され得る。そのことが、更なる凍結を回避し、及び、それによって自動車の制御性を明確に改善する。なぜなら、スティックスリップ作用は、凍結時には、もはや発生しないからである。当該振動トルクは、同時に、触覚的なフィードバックとして、運転者に対して及び運転者のために警告するために役立つ。
【0021】
この態様では、凍結しているステアリングシステムは、運転者を介して更に良く制御可能で、完全には凍結しない、ということが可能である。
【0022】
凍結検知後、例えばエラーランプ及び/または聴覚的な信号が、起動される。
【0023】
ある具体的な実施の形態では、コンピュータ実行される方法の入力パラメータとして、ロータ回転数及び/またはマニュアルトルク及び/または名目上のモータトルク及び/またはステアリング角及び/または自動車の速度及び/または出力部温度(ECU)及び/または外気温及び/または回路基盤温度及び/またはギヤ符号のインジケータ及び/または算出された摩擦係数、が予定される、ということが考慮される。
【0024】
本発明によるコンピュータプログラムは、当該コンピュータプログラムがコンピュータ上にあるいは対応する計算機上に実装される場合、前述のような方法の全てのステップを実行するプログラムコードを有している。
【0025】
当該コンピュータプログラム製品は、コンピュータ読取可能なデータキャリア上に記憶されるプログラムコードを有している。
【0026】
このコンピュータプログラムは、コンピュータ読取可能なデータキャリア、例えばディスク、CD、DVD、ハードディスク、USBメモリスティックあるいはそれに類するもの、あるいはインターネットサーバ上に、コンピュータプログラム製品として記憶され得る。そこから、当該コンピュータプログラムは、制御装置の記憶要素内に伝送され得る。
【0027】
本発明の更なる利点及び実施の形態は、明細書及び添付の図面から明らかにされる。
【0028】
前述された特徴及び以下に更に説明される特徴は、その都度示された組み合わせだけでなく、他の組み合わせあるいは単独の状況においても、本発明の枠組みを逸脱することなく、利用可能である、ということが理解される。
【0029】
本発明は、概略的に描かれた図面における実施の形態に基づいて記述され、以下に当該図面に関連して詳細に記述される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明によるパワーステアリングシステムの一実施の形態の概略図を示している。
【0031】
図1には、全体として符号10で示されたパワーステアリングシステムが図示されている。
【0032】
当該図は、ステアリングホイールとして形成されたステアリング操舵操作部12、モータ16にトルク重畳するために割り当てられた重畳ユニット14、ギヤラック18、操舵対象の2つの車輪20、モータ16に割り当てられた制御装置22、を示している。
【0033】
ステアリング操舵操作部12によって、マニュアルトルク24が予め設定される。このマニュアルトルク24は、重畳ユニット14内で、モータ16から調達されるモータトルク26に重ね合わされる。ここから、有効トルク28が発生する。当該有効トルク28は、ギヤラック18に加えられ、当該ギヤラック18によって両車輪20が操舵される。
【0034】
制御装置22は、モータ16の制御のほかに、スピードパターン、すなわち、当該モータ16の特有の回転数の経過、を検知するように構成されている。このスピードパターンが評価されて、パワーステアリングシステム10に例えば凍結のような障害があるか否かが検知される。障害が検知されると、例えばモータ16を介したパワーステアリングシステム10の振動作用(振動付与)のような対応策が導入される。追加的に、運転者は警告される。
【0035】
評価の際に、例えば摩擦係数のような様々な更なる境界値ないしは境界条件が、考慮され得る。特には、マニュアルトルク24とモータトルク26とが同一の方向に作用するかどうか、もまた検査される。そうでなければ、検知された特有のスピードパターンは、運転者の操作ではなく、例えば走行路の凸凹のような他の影響に起因するであろう。
【0036】
いずれにせよ、当該特有のスピードパターンが複数回次々と所定の期間に検知された時にのみ、対応策を導入することが提案される。このために、例えばカウンターが設置され得る。当該カウンターは、例えばタイマーないしは時計によって与えられる所定の期間後に、再びリセットされる。
【0037】
図2では、急増を伴う回転数経過が、時間によって示されている。横軸50によって時間がms単位で示され、第1縦軸52によってカウンター値が示され、第2縦軸54によって毎分あたりの回転数が示されている。
【0038】
当該図面は、回転数経過を描写する曲線56を示しており、一方で、当該曲線56は、いくつかのスピードパターン58、60、62から構成されている。この場合、曲線56における特徴的な急増は、スピードパターン58、60、62として検知される(判別される)。当該スピードパターンは、スティックスリップ効果にとって典型的である。このような特徴的なスピードパターン58、60、62が検知されるとすぐに、更なる曲線64が明確にするように、カウンターがインクリメントされる。その結果、所定のスピードパターンの数ないしは特徴的な急増の数が、曲線56において、すなわち回転数の経過において、把握される。カウンターが所定の規定された状況に到達すると、凍結が検知され、好適な対応策が導入される。所定のタイムスパンの経過後、当該カウンターは、ロバスト性のある運転を保証するためにリセットされる。
【0039】
図3では、回転数経過における急増が示されている。横軸80によって時間がms単位で書き入れられている。縦軸82によって、毎分あたりの回転数の回転数経過が示されている。
【0040】
曲線84は、回転数経過の急増を示している。境界線86は、回転数の上方しきい値を示しており、更なる境界線88は、回転数の下方しきい値を示している。第1期間90は、下方回転数の最小時間を示し、期間92は、上方回転数の到達までの最大時間を示し、期間94は、下方回転数への再度の到達までの最大期間を示し、期間96は、下方回転数の最小時間を示す。このようにして、曲線84が分析され、この中の急増が分析される。このようにして、特徴的なスピードパターンが判別される。