(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記プローブの先端側には、前記脱離・イオン化用レーザからの出射光を前記試料に向けて集光すると共に前記蒸気を通す貫通孔が形成された集光レンズが配置されていることを特徴とする請求項1記載の試料分析装置。
前記プローブは、中空のガラス管の内面に金属層と透明誘電体層とを形成してなる中空光ファイバによって構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の試料分析装置。
前記プローブは、中空のガラス管の内面に金属層と透明誘電体層とを形成してなる中空光ファイバによって構成された基端部分と、中空の金属管に金属層を形成してなる中空光ファイバによって構成された先端部分とを備えていることを特徴とする請求項1又は2記載の試料分析装置。
前記真空セル内又は前記ポンプ内に、前記ポストイオン化用レーザからの出射光を前記蒸気の流れに略直交する向きで繰り返し反射させる共振器が配置されていることを特徴とする請求項7記載の試料分析装置。
前記プローブから前記質量分析器に至る前記蒸気の流路の少なくとも一部を加熱する加熱手段を更に備えたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項記載の試料分析装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気メス或いはレーザメスによって幹部の組織を蒸発させた場合、組織のイオン化効率は低く、殆どは中性分子である。そこで、上述した従来の試料分析装置では、チューブで吸引した組織の蒸気をベンチュリ・ジェットポンプの出口で更にイオン化(ポストイオン化)を行っている。ポストイオン化の方法には、例えばエレクトロンスプレーイオン化法や、化学イオン化法などが挙げられるが、これらの手法を用いた場合でもイオン化されにくい分子の同定は困難な場合がある。また、エレクトロンスプレーイオン化法では、多価イオンの発生が問題となることもある。
【0005】
ポストイオン化には、光イオン化法もある。光イオン化法は、例えば二次イオン質量分析などに用いられており、中性分子のプルームに対して近赤外のフェムト秒パルスレーザを高い光強度で入射させることで中性分子を多光子イオン化させる。しかしながら、光イオン化法においても、高い光強度を得るためにレーザ光をレンズで集光してプルームに入射させるため、レーザ光と中性分子のプルームとの相互作用領域及び相互作用時間の確保が難しく、結果的にイオン化効率の向上が難しいという課題があった。
【0006】
また、上述した従来の試料分析装置では、電気メスやレーザメスを用いているので、外科手術のように患部の上方に十分なスペースが存在する場合には問題がないが、耳の奥などの狭い患部を対象とする場合には分析を行うことが困難である。
【0007】
さらに、上述した従来の試料分析装置では、メモリー効果も問題となる。メモリー効果とは、質量分析器に接続されるチューブやベンチュリ・ジェットポンプの内部に試料の分子が吸着し、次の分析を行う際の質量スペクトルに干渉が生じてしまう現象である。メモリー効果は、分析対象のイオンが多数存在する場合には問題が生じにくいが、極微量でイオン化されにくい分子を分析対象とする場合には、その影響を極力排除する必要がある。
【0008】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、試料のイオン化効率を向上できると共にメモリー効果を低減でき、かつ狭い空間での分析を可能とする試料分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題の解決のため、本発明に係る試料分析装置は、試料を脱離・イオン化する脱離・イオン化用レーザと、吸引手段に接続され、脱離・イオン化用レーザによって試料から生じた蒸気を吸引するプローブと、プローブによって吸引された蒸気に含まれる分子をポストイオン化するポストイオン化用レーザと、ポストイオン化用レーザによってポストイオン化された蒸気の質量スペクトルに基づいて試料を分析する質量分析器と、を備え、プローブは、中空光ファイバによって構成され、脱離・イオン化用レーザからの出射光と、ポストイオン化用レーザからの出射光とが中空光ファイバに導光されることを特徴としている。
【0010】
この試料分析装置では、プローブが中空光ファイバによって構成され、脱離・イオン化用レーザからの出射光と、ポストイオン化用レーザからの出射光とが中空光ファイバに導光されるようになっている。これにより、中空光ファイバ内を吸引されていく試料の蒸気とポストイオン化用レーザの出射光との相互作用領域及び相互作用時間を十分に確保できるので、試料のイオン化効率を向上できる。また、比較的高い光強度を有する脱離・イオン化用レーザからの出射光及びポストイオン化用レーザからの出射光のそれぞれが中空光ファイバに導光するので、中空光ファイバに吸着した分子の脱離が促進され、メモリー効果の低減が図られる。さらに、プローブとして中空光ファイバを用いることで、電気メスやレーザメスといったハンドピースが不要となると共にプローブの可撓性も確保され、狭い空間での分析が可能となる。
【0011】
プローブの先端側には、脱離・イオン化用レーザからの出射光を試料に向けて集光すると共に蒸気を通す貫通孔が形成された集光レンズが配置されていることが好ましい。これにより、試料の細部の分析を好適に実施できる。また、集光レンズに貫通孔を形成することで、試料から生じる蒸気の吸引が阻害されることも回避できる。
【0012】
また、プローブは、中空のガラス管の内面に金属層と透明誘電体層とを形成してなる中空光ファイバによって構成されていることが好ましい。この場合、プローブの可撓性を十分に確保できる。
【0013】
また、プローブは、中空の金属管に金属層を形成してなる中空光ファイバによって構成されていることが好ましい。この場合、プローブの耐熱性を十分に確保でき、加熱による吸着分子の脱離によってメモリー効果の低減を図ることが可能となる。
【0014】
また、プローブは、中空のガラス管の内面に金属層と透明誘電体層とを形成してなる中空光ファイバによって構成された基端部分と、中空の金属管に金属層を形成してなる中空光ファイバによって構成された先端部分とを備えていることが好ましい。この場合、プローブの耐熱性及び可撓性の双方を確保できる。プローブの先端部分は、基端部分に比べて分子の吸着が生じ易い。したがって、プローブの先端部分に中空の金属管に金属層を形成してなる中空光ファイバを適用することで、メモリー効果の低減を十分に実現できる。
【0015】
また、プローブの先端の向きを示すガイド用レーザを更に備え、ガイド用レーザからの出射光が中空光ファイバに導光されることが好ましい。これにより、試料に対する脱離・イオン化用レーザの照射位置を視認することが可能となり、分析の作業性を向上できる。
【0016】
また、吸引手段は、プローブの基端に接続される真空セルと、真空セルに接続され、蒸気を前記質量分析器に送るポンプと、を備え、ポストイオン化用レーザからの出射光が、真空セルからポンプまでの蒸気の流路にも導光されることが好ましい。この場合、試料の蒸気とポストイオン化用レーザの出射光との相互作用領域及び相互作用時間を更に増大させることができ、試料のイオン化効率を一層向上できる。
【0017】
また、真空セル内又はポンプ内に、ポストイオン化用レーザからの出射光を蒸気の流れに略直交する向きで繰り返し反射させる共振器が配置されていることが好ましい。この場合、試料の蒸気とポストイオン化用レーザの出射光との相互作用領域及び相互作用時間を更に増大させることができ、試料のイオン化効率を一層向上できる。
【0018】
また、プローブから質量分析器に至る蒸気の流路の少なくとも一部を加熱する加熱手段を更に備えたことが好ましい。これにより、加熱による吸着分子の脱離によってメモリー効果を一層低減できる。
【0019】
また、プローブの先端側から基端側に向かって電位勾配が形成されていることが好ましい。これにより、プローブ内を流れるイオンの収集効率を高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る試料分析装置によれば、試料のイオン化効率を向上できると共にメモリー効果を低減でき、かつ狭い空間での分析が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る試料分析装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
[第1実施形態]
【0023】
図1は、本発明の第1実施形態に係る試料分析装置を示す概略図である。
同図に示す試料分析装置1は、例えば細胞などを含む生体組織といった試料Sの同定を質量スペクトルに基づいて実施する装置として構成されている。例えば本装置によって患者の痰を分析し、痰に含まれる細菌を同定することで、適切な抗生剤の選定を迅速に行うことが可能となる。また、本装置を内視鏡等と組み合わせることで、患部の視覚的なモニタリングに加え、患部の組織を構成する分子情報を診断に生かすことも想定される。
【0024】
かかる試料分析装置1は、
図1に示すように、プローブ2と、脱離・イオン化用レーザ3と、ガイド用レーザ4と、ポストイオン化用レーザ5と、真空セル6と、ベンチュリ・ジェットポンプ7と、質量分析器8とを備えて構成されている。
【0025】
プローブ2は、例えば中空光ファイバからなる。プローブ2の先端側は、試料Sに向けて遊端となっている。一方、プローブ2の基端側は、真空セル6を介してベンチュリ・ジェットポンプ7に接続されており、プローブ2内は真空排気された状態となっている。また、
図2に示すように、プローブ2の基端部分2aは、石英ガラス製の中空光ファイバ11によって形成され、プローブ2の先端部分2bは、金属製の中空光ファイバ12によって形成されている。中空光ファイバ11の先端側と中空光ファイバ12の基端側とは、コネクタ13によって着脱自在に接続されている。
【0026】
中空光ファイバ11は、
図3に示すように、中空の石英ガラス管14を有している。石英ガラス管14の内面には、金属層15と透明誘電体層16とが形成されている。金属層15は、例えば銀によって形成され、透明誘電体層16は、例えば環状オレフィンポリマー等によって形成されている。これらの金属層15及び透明誘電体層16により、例えば波長が2μm以上の赤外レーザに対し、中空光ファイバ11の内面での反射率が最大となるように設計がなされている。また、石英ガラス管14の直径は、例えば200μm〜10mmとなっており、内径は、例えば100μm〜8mmとなっている。これらの径は、プローブ2の可撓性を考慮して適宜選択される。
【0027】
一方、中空光ファイバ12は、
図4に示すように、中空の金属管17を有している。金属管17の内面には、鏡面研磨が施されており、金属層18が形成されている。金属管17の材料としては、例えばステンレス、アルミ、鉄などが用いられる。金属層18は、例えば銀やアルミによって形成されている。このような中空光ファイバ12は、中空光ファイバ11に比べて可撓性が乏しい反面、耐熱性に優れている。具体的には、中空光ファイバ11では、透明誘電体層16の加熱限界である150℃程度までの加熱が可能であり、中空光ファイバ12では、金属の融点未満となる500℃程度までの加熱が可能である。これらの中空光ファイバ11,12では、プローブ2内に分子が吸着した場合であっても、加熱によって分子を脱離させることができ、メモリー効果の低減が図られる(加熱手段については後述する)。
【0028】
なお、プローブ2は、中空光ファイバ11のみで構成してもよく、中空光ファイバ12のみで構成してもよい。中空光ファイバ11のみで構成する場合、プローブ2の可撓性をより高めることができる。一方、中空光ファイバ12のみで構成する場合、プローブ2の耐熱性を更に向上できる。また、赤外レーザのみでなく、紫外エキシマレーザなどの短波長レーザの導光が可能となる。紫外レーザを用いる場合、金属層18上に酸化チタンからなる金属層を更に形成することも好適である。この場合、紫外光の照射によって酸化チタンが活性化し、分子の脱離を促進できる。
【0029】
脱離・イオン化用レーザ3は、試料を脱離・イオン化するレーザである。脱離・イオン化用レーザ3としては、例えば試料Sの組織内の水分での吸収率を考慮して、波長2μm以上の赤外レーザが用いられる。このような赤外レーザとしては、例えばHo−YAGレーザ(波長2.1nm)、Er−YAGレーザ(波長2.94μm)、COレーザ(波長5.2μm)、CO
2レーザ(波長10.6μm)、赤外波長可変OPOレーザなどが挙げられる。
【0030】
また、試料Sの種類によっては、パルス幅が100fs程度と狭く、かつピーク強度の高いチタンサファイアレーザ(波長800nm)を用いることが好適である。また、ArFレーザ(波長193nm)、KrFレーザ(波長248nm)、XeClレーザ(波長308nm)といった紫外エキシマレーザや、YAGレーザの3倍高調波(波長355nm)、窒素レーザ(波長337nm)などを用いることもできる。レーザは、主としてパルスレーザであるが、CWレーザを用いてもよい。
【0031】
脱離・イオン化用レーザ3からの出射光3aは、
図1に示すように、集光レンズ21によって集光され、窓22から真空セル6内に入射してプローブ2の基端側に導光される。プローブ2に導光された出射光3aは、中空光ファイバ11,12内を全反射しながら伝搬し、プローブ2の先端から試料Sに向けて出射する。
【0032】
出射光3aが試料Sに照射されると、試料Sの組織内の水分にレーザ光が吸収され、熱が発生すると共に組織表面がアブレーションされる。これにより、組織を構成する分子(中性分子)と僅かのイオンとが蒸気となって組織の表面から放射状に脱離する。試料Sで発生した蒸気は、ベンチュリ・ジェットポンプ7の作用によってプローブ2で吸引され、プローブ2から真空セル6を通って質量分析器8に搬送される。脱離・イオン化用レーザ3による脱離時のイオン化効率は、試料Sの組成や脱離・イオン化用レーザ3のレーザ波長といった条件に依存する。
【0033】
なお、
図5に示すように、プローブ2の先端側には、集光レンズ23が配置されている。集光レンズ23により、プローブ2の先端から出射した出射光3aは、試料Sの表面にて例えば直径100μm程度に集光される。これにより、試料Sの局所的な脱離を行うことが可能となり、分析の空間分解能の向上が図られる。また、集光レンズ23の略中央部分には、例えば断面円形の貫通孔23aが形成されている。したがって、試料Sで発生した蒸気は、貫通孔23aを通ってプローブ2で吸引される。
【0034】
ガイド用レーザ4は、プローブ2の先端の向きを示すレーザである。ガイド用レーザ4には、例えばHe−Neレーザ(波長633nm)などの可視光レーザが用いられる。ガイド用レーザ4からの出射光4aは、ダイクロイックミラー24によって真空セル6の窓22に向けて反射されると共に、集光レンズ21によって集光され、脱離・イオン化用レーザ3の出射光3aと略同光路で真空セル6内を通ってプローブ2の基端側に導光される。プローブ2に導光された出射光4aは、中空光ファイバ11,12内を全反射しながら伝搬し、プローブ2の先端から試料Sに向けて出射する。これにより、出射光4aが出射光3aと略同位置で試料Sに照射され、分析位置を目視にて容易に確認できる。
【0035】
ポストイオン化用レーザ5は、脱離によって生じた蒸気に含まれる中性分子をポストイオン化するレーザである。ポストイオン化用レーザ5としては、多光子イオン化を行う場合には、チタンサファイアレーザ(波長800nm)や、YAGレーザ(波長1064nm)といったレーザをナノ秒からフェムト秒のパルス幅で用いることが好ましい。一方、一光子イオン化を行う場合には、F
2エキシマレーザ(波長157nm)や、YAGレーザの3倍高調波(波長355nm)をXeガスが入ったガスチャンバ内に集光して発生させる高次高調波(波長118nm)をナノ秒からフェムト秒のパルス幅で用いることが好ましい。また、ポストイオン化用レーザ5の繰り返し周波数は、脱離・イオン化用レーザ3の繰り返し周波数に一致させることが好ましい。脱離・イオン化用レーザ3及びポストイオン化用レーザ5の繰り返し周波数は、測定時間を短縮する観点から数kHz〜数百kHzが理想的であるが、質量分析器8の信号処理系の能力に応じて適宜決定される。
【0036】
ポストイオン化用レーザ5からの出射光5aは、集光レンズ25によって集光されると共に、ダイクロイックミラー26によって真空セル6の窓22に向けて反射され、窓22から真空セル6内に入射してプローブ2の基端側に導光される。出射光5aは、プローブ2内の蒸気、或いはプローブ2の基端側の出口近傍の蒸気と相互作用し、蒸気内の中性分子のイオン化を促進する。プローブ2の長さを1mとした場合、出射光5aが中空光ファイバ11,12内を伝搬する時間は約3.3nsとなり、出射光5aと脱離によって生じた蒸気との相互作用時間を十分に確保できる。
【0037】
脱離・イオン化用レーザ3とポストイオン化用レーザ5との同期について、
図6及び
図7を用いて説明する。
図6(a)に示すように、時刻t
0において、脱離・イオン化用レーザ3の出射光3aが試料Sの表面に照射されると、
図6(b)に示すように、試料Sの表面にて、時間幅t
1(例えば数十μs)にわたって蒸気が発生する。
【0038】
この蒸気がプローブ2で吸引されると、プローブ2の基端側の出口では、
図7(a)に示すように、時間幅t
1よりも長い時間幅t
2(例えば数十μs〜数百μs)にわたって蒸気が存在する。したがって、
図7(b)に示すように、プローブ2の基端側の出口で蒸気内の中性分子の密度が最大となる時刻t
3に合わせてポストイオン化用レーザ5の照射を行うことで、ポストイオン化を効率良く実施できる。
【0039】
なお、ポストイオン化用レーザ5としては、上述したパルスレーザ以外にも、重水素ランプ、Arエキシマランプ(波長126nm)、Krエキシマランプ(波長147nm)、といったVUV光のCW光源を用いることもできる。この場合、脱離・イオン化用レーザ3との同期を取らなくても、出射光5aと蒸気との相互作用を生じさせることができる(
図7(c)参照)。
【0040】
真空セル6は、例えば中空の直方体状をなしており、脱離・イオン化用レーザ3の出射光3a、ガイド用レーザ4の出射光4a、及びポストイオン化用レーザ5の出射光5aを入射させる窓22を有している。また、窓22の対面には、プローブ2の基端側が接続され、窓22が設けられた面と直交する面には、ベンチュリ・ジェットポンプ7に通じる流路27が設けられている。
【0041】
ベンチュリ・ジェットポンプ7は、真空排気を行うポンプであり、窒素又は空気をノズル28から5気圧程度で流すことで、真空セル6内及び中空光ファイバ11,12内を真空排気している。これにより、プローブ2に吸引された蒸気は、中空光ファイバ11,12を通って真空セル6内に至り、質量分析器8に送られる。質量分析器8は、送られた蒸気の質量スペクトルに基づいて組織の同定をリアルタイムで実施する。
【0042】
以上説明したように、試料分析装置1では、プローブ2が中空光ファイバ11,12によって構成され、脱離・イオン化用レーザ3からの出射光3aと、ポストイオン化用レーザ5からの出射光5aとが中空光ファイバ11,12に導光されるようになっている。これにより、中空光ファイバ11,12内を吸引されていく試料Sの蒸気とポストイオン化用レーザ5の出射光5aとの相互作用領域及び相互作用時間を十分に確保できるので、試料Sのイオン化効率を向上できる。
【0043】
また、比較的高い光強度を有する脱離・イオン化用レーザ3からの出射光3a及びポストイオン化用レーザ5からの出射光5aのそれぞれが中空光ファイバ11,12に導光するので、中空光ファイバ11,12に吸着した分子の脱離が促進され、メモリー効果の低減が図られる。さらに、プローブ2として中空光ファイバ11,12を用いることで、電気メスやレーザメスといったハンドピースが不要となると共にプローブ2の可撓性も確保され、狭い空間での分析が可能となる。
【0044】
また、試料分析装置1では、プローブ2の基端部分2aが、中空の石英ガラス管14の内面に金属層15と透明誘電体層16とを形成してなる中空光ファイバ11によって構成され、プローブ2の先端部分2bが、中空の金属管17に金属層18を形成してなる中空光ファイバ12によって構成されている。このような構成により、プローブ2の耐熱性及び可撓性の双方を確保できる。
【0045】
プローブ2の先端部分2bは、基端部分2aに比べて分子の吸着が生じ易い。したがって、プローブ2の先端部分2bに耐熱性の高い中空光ファイバ12を適用することで、メモリー効果の低減を十分に実現できる。また、先端部分2bがコネクタ13によって着脱自在となっており、分子の吸着が進行した先端部分2bを容易に交換できる。なお、プローブ2に分子の吸着が生じた場合には、ベンチュリ・ジェットポンプ7において、質量分析器8側の出口を閉鎖し、プローブ2内に空気又は窒素を流通させることも好適である。
【0046】
加熱によるメモリー効果の低減を行う場合には、例えば
図8に示すように、プローブ2、真空セル6、流路27、及びベンチュリ・ジェットポンプ7の外面に熱線(加熱手段)31を巻き付けることが好ましい。ガラス製の中空光ファイバ11については耐熱性の観点から150℃程度までの加熱となるが、金属製の中空光ファイバ12、真空セル6、流路27、及びベンチュリ・ジェットポンプ7については300℃以上に加熱することが可能である。したがって、内面に吸着した分子の脱離を促進でき、メモリー効果をより確実に低減できる。なお、熱線31は、必ずしもプローブ2、真空セル6、流路27、及びベンチュリ・ジェットポンプ7の全てに設ける必要はなく、これらの少なくとも一つに設けることで、メモリー効果の低減が期待できる。
【0047】
また、試料分析装置1において、プローブ2の先端側から基端側に向かって電位勾配を形成することが好ましい。この場合、例えば
図9に示すように、プローブ2を複数区間に分割し、これらの区間を絶縁部32によって電気的に絶縁する。そして、金属層15,18等に電位を印加し、絶縁部32に電位勾配を与えることで、試料Sで発生したイオン及びプローブ2内のイオンに対して、質量分析器8側に向かう静電引力を与えることができる。これにより、イオンの収集効率を高めることが可能となる。
【0048】
プローブ2の電気的な絶縁にあたっては、例えば
図10に示すように、プローブ2の分割部分33,33同士を絶縁リング34で接続する構成を採ることができる。また、真空セル6とベンチュリ・ジェットポンプ7との間、及びベンチュリ・ジェットポンプ7と質量分析器8との間についても同様に電気的に絶縁を行ってもよい。この場合、メモリー効果の更なる低減が図られる。
[第2実施形態]
【0049】
本発明の第2実施形態について説明する。
図11は、本発明の第2実施形態に係る試料分析装置を示す概略図である。同図に示すように、第2実施形態に係る試料分析装置41は、ポストイオン化用レーザ5からの出射光5aが、真空セル6内及び真空セル6からベンチュリ・ジェットポンプ7までの蒸気の流路27にも導光されている点で上記実施形態と異なっている。
【0050】
より具体的には、試料分析装置41では、ポストイオン化用レーザ5の光学系にハーフミラー42及び全反射ミラー43が更に配置され、ハーフミラー42で分岐した出射光5aが、集光レンズ44で集光されつつ流路27と対面する窓45から真空セル6に入射する。真空セル6内に入射した出射光5aは、プローブ2の基端側の出口近傍を通り、流路27内に導光される。
【0051】
このような構成により、試料Sの蒸気とポストイオン化用レーザ5の出射光5aとをプローブ2の基端側の出口から流路27に至る経路にわたって相互作用させることが可能となり、相互作用領域及び相互作用時間を更に増大させることができる。したがって、試料Sのイオン化効率を一層向上できる。
[第3実施形態]
【0052】
本発明の第3実施形態について説明する。
図12は、本発明の第3実施形態に係る試料分析装置を示す概略図である。同図に示すように、第3実施形態に係る試料分析装置51は、真空セル6内に、ポストイオン化用レーザ5からの出射光5aを繰り返し反射させる共振器52が配置されている点で、上記実施形態と異なっている。
【0053】
より具体的には、試料分析装置51では、第2実施形態と同様に、ポストイオン化用レーザ5の光学系にハーフミラー42及び全反射ミラー43が更に配置され、ハーフミラー42で分岐した出射光5aが、集光レンズ44で集光されつつ流路27と対面する窓45から真空セル6に入射する。また、真空セル6内には、例えばポストイオン化用レーザ5の波長における反射率が99.99%以上の一組のミラーからなる共振器52が窓45の位置に対応して配置され、この共振器52によって出射光5aが蒸気の流れに略直交する向きで繰り返し反射するようになっている。この試料分析装置51では、例えば
図13に示すように、プローブ12の基端側の出口で蒸気内に中性分子が放出され始める時刻t
4に合わせてポストイオン化用レーザ5の照射を行う。
【0054】
このような構成により、中性分子が真空セル6内に存在している時間t
2の全体にわたって共振器52内にポストイオン化用レーザ5からの出射光5aを存在させることができる。したがって、試料Sの蒸気とポストイオン化用レーザ5の出射光5aとを真空セル6内でより確実に相互作用させることが可能となり、相互作用領域及び相互作用時間を更に増大させることができるので、試料Sのイオン化効率を一層向上できる。
【0055】
なお、共振器52は、真空セル6内に配置する場合に限られず、例えば
図14に示す試料分析装置61のように、ベンチュリ・ジェットポンプ7内に配置してもよい。
図14の例では、ベンチュリ・ジェットポンプ7において質量分析器8の手前に真空セル62が配置され、ハーフミラー42で分岐した出射光5aが、集光レンズ44で集光されつつ窓63から真空セル62に入射する。そして、真空セル62内には、窓63の位置に対応して共振器52が配置され、この共振器52によって出射光5aが蒸気の流れに略直交する向きで繰り返し反射するようになっている。
【0056】
このような構成においても、試料Sの蒸気とポストイオン化用レーザ5の出射光5aとを真空セル6内でより確実に相互作用させることが可能となり、相互作用領域及び相互作用時間を更に増大させることができる。したがって、試料Sのイオン化効率を一層向上できる。
【0057】
本発明は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上記実施形態では、ベンチュリ・ジェットポンプ7を介して真空セル6と質量分析器8とを接続しているが、質量分析器8が排気ポンプを備える場合には、ベンチュリ・ジェットポンプ7を省略し、真空セル6と質量分析器8とを直接接続してもよい。この場合、装置の更なる小型化が図られる。