(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061302
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】試料分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20060101AFI20170106BHJP
H01J 49/10 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
G01N27/62 F
G01N27/62 G
H01J49/10
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-134162(P2013-134162)
(22)【出願日】2013年6月26日
(65)【公開番号】特開2015-10842(P2015-10842A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2016年4月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124291
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】佐々部 順
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏典
(72)【発明者】
【氏名】山下 豊
(72)【発明者】
【氏名】林 雅宏
(72)【発明者】
【氏名】瀬藤 光利
【審査官】
伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−301749(JP,A)
【文献】
特開2004−264043(JP,A)
【文献】
特開平03−123544(JP,A)
【文献】
特開平01−268323(JP,A)
【文献】
特開2009−039732(JP,A)
【文献】
特開2006−198493(JP,A)
【文献】
特開2012−128018(JP,A)
【文献】
特開2009−054441(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/005061(WO,A1)
【文献】
特表2009−539093(JP,A)
【文献】
特開2007−010653(JP,A)
【文献】
特開2004−257973(JP,A)
【文献】
特表2005−519669(JP,A)
【文献】
実開昭55−095710(JP,U)
【文献】
国際公開第2013/085572(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
H01J 49/04
H01J 49/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を脱離・イオン化する脱離・イオン化用レーザと、
吸引手段に接続され、前記脱離・イオン化用レーザによって前記試料から生じた蒸気を吸引するプローブと、
前記脱離・イオン化用レーザによってイオン化された前記蒸気の質量スペクトルに基づいて前記試料を分析する質量分析器と、を備え、
前記プローブは、中空光ファイバによって構成され、
前記脱離・イオン化用レーザからの出射光が前記中空光ファイバに導光されることを特徴とする試料分析装置。
【請求項2】
前記プローブの先端側には、前記脱離・イオン化用レーザからの出射光を前記試料に向けて集光すると共に前記蒸気を通す貫通孔が形成された集光レンズが配置されていることを特徴とする請求項1記載の試料分析装置。
【請求項3】
前記プローブは、中空のガラス管の内面に金属層と透明誘電体層とを形成してなる中空光ファイバによって構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の試料分析装置。
【請求項4】
前記プローブは、中空の金属管に金属層を形成してなる中空光ファイバによって構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の試料分析装置。
【請求項5】
前記プローブは、中空のガラス管の内面に金属層と透明誘電体層とを形成してなる中空光ファイバによって構成された基端部分と、中空の金属管に金属層を形成してなる中空光ファイバによって構成された先端部分とを備えていることを特徴とする請求項1又は2記載の試料分析装置。
【請求項6】
前記プローブの先端の向きを示すガイド用レーザを更に備え、
前記ガイド用レーザからの出射光が前記中空光ファイバに導光されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の試料分析装置。
【請求項7】
前記吸引手段は、
前記プローブの基端に接続される真空セルと、
前記真空セルに接続され、前記蒸気を前記質量分析器に送るポンプと、を備え、
前記真空セル内又は前記ポンプ内に、前記脱離・イオン化用レーザからの出射光を前記蒸気の流れに略直交する向きで繰り返し反射させる共振器が配置されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載の試料分析装置。
【請求項8】
前記プローブから前記質量分析器に至る前記蒸気の流路の少なくとも一部を加熱する加熱手段を更に備えたことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項記載の試料分析装置。
【請求項9】
前記プローブの先端側から基端側に向かって電位勾配が形成されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項記載の試料分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の分野の技術として、例えば特許文献1に記載の試料分析装置がある。この従来の試料分析装置は、例えば手術中の病理学的組織の同定を目的とする装置である。この装置は、例えば電気メスやレーザメスで患部を切開したときに生じるイオンを含む組織の蒸気を、流体ポンプに接続されたポリエチレンテフロンチューブで吸引し、質量分析装置のキャピラリ入口まで搬送する。質量分析装置は、組織の蒸気についての質量スペクトルに基づいて組織の同定をリアルタイムで行っており、例えば外科手術中にリン脂質の質量スペクトルのデータからガン細胞と正常な細胞との同定を1秒程度で実施することにより、切除すべき部位の判断の指標が迅速に提供される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2010/136887号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の試料分析装置では、チューブで吸引した組織の蒸気をベンチュリ・ジェットポンプの出口で更にイオン化(ポストイオン化)を行っている。しかしながら、ポストイオン化を実施するには、ポストイオン化用レーザを脱離・イオン化手段とは別に設ける必要がある。したがって、脱離・イオン化用レーザで十分にイオン化を実現できる場合には、構成が複雑化するという問題があった。
【0005】
また、上述した従来の試料分析装置では、電気メスやレーザメスを用いているので、外科手術のように患部の上方に十分なスペースが存在する場合には問題がないが、耳の奥などの狭い患部を対象とする場合には分析を行うことが困難であった。
【0006】
さらに、上述した従来の試料分析装置では、メモリー効果も問題となる。メモリー効果とは、質量分析器に接続されるチューブやベンチュリ・ジェットポンプの内部に試料の分子が吸着し、次の分析を行う際の質量スペクトルに干渉が生じてしまう現象である。メモリー効果は、試料分析装置の精度を低下させるおそれがあるため、その影響を極力排除する必要がある。
【0007】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、簡単な構成で試料のイオン化効率を確保できると共にメモリー効果を低減でき、かつ狭い空間での分析を可能とする試料分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題の解決のため、本発明に係る試料分析装置は、試料を脱離・イオン化する脱離・イオン化用レーザと、吸引手段に接続され、脱離・イオン化用レーザによって試料から生じた蒸気を吸引するプローブと、脱離・イオン化用レーザによってイオン化された蒸気の質量スペクトルに基づいて試料を分析する質量分析器と、を備え、プローブは、中空光ファイバによって構成され、脱離・イオン化用レーザからの出射光が中空光ファイバに導光されることを特徴としている。
【0009】
この試料分析装置では、プローブが中空光ファイバによって構成され、脱離・イオン化用レーザからの出射光が中空光ファイバに導光されるようになっている。これにより、脱離・イオン化用レーザによって試料のイオン化を十分に実現できる場合には、ポストイオン化用レーザを省略した簡単な構成で試料のイオン化効率を確保できる。また、比較的高い光強度を有する脱離・イオン化用レーザからの出射光が中空光ファイバに導光するので、中空光ファイバに吸着した分子の脱離が促進され、メモリー効果の低減が図られる。さらに、プローブとして中空光ファイバを用いることで、電気メスやレーザメスといったハンドピースが不要となると共にプローブの可撓性も確保され、狭い空間での分析が可能となる。
【0010】
また、プローブの先端側には、脱離・イオン化用レーザからの出射光を試料に向けて集光すると共に蒸気を通す貫通孔が形成された集光レンズが配置されていることが好ましい。これにより、試料の細部の分析を好適に実施できる。また、集光レンズに貫通孔を形成することで、試料から生じる蒸気の吸引が阻害されることも回避できる。
【0011】
また、プローブは、中空のガラス管の内面に金属層と透明誘電体層とを形成してなる中空光ファイバによって構成されていることが好ましい。この場合、プローブの可撓性を十分に確保できる。
【0012】
また、プローブは、中空の金属管に金属層を形成してなる中空光ファイバによって構成されていることが好ましい。この場合、プローブの耐熱性を十分に確保でき、加熱による吸着分子の脱離によってメモリー効果の低減を図ることが可能となる。
【0013】
また、プローブは、中空のガラス管の内面に金属層と透明誘電体層とを形成してなる中空光ファイバによって構成された基端部分と、中空の金属管に金属層を形成してなる中空光ファイバによって構成された先端部分とを備えていることが好ましい。この場合、プローブの耐熱性及び可撓性の双方を確保できる。プローブの先端部分は、基端部分に比べて分子の吸着が生じ易い。したがって、プローブの先端部分に中空の金属管に金属層を形成してなる中空光ファイバを適用することで、メモリー効果の低減を十分に実現できる。
【0014】
また、プローブの先端の向きを示すガイド用レーザを更に備え、ガイド用レーザからの出射光が中空光ファイバに導光されることが好ましい。これにより、試料に対する脱離・イオン化用レーザの照射位置を視認することが可能となり、分析の作業性を向上できる。
【0015】
また、吸引手段は、プローブの基端に接続される真空セルと、真空セルに接続され、蒸気を質量分析器に送るポンプと、を備え、真空セル内又はポンプ内に、脱離・イオン化用レーザからの出射光を蒸気の流れに略直交する向きで繰り返し反射させる共振器が配置されていることが好ましい。この場合、試料の蒸気と脱離・イオン化用レーザの出射光との相互作用領域及び相互作用時間を更に増大させることができ、試料のイオン化効率を一層向上できる。
【0016】
また、プローブから質量分析器に至る蒸気の流路の少なくとも一部を加熱する加熱手段を更に備えたことが好ましい。これにより、加熱による吸着分子の脱離によってメモリー効果を一層低減できる。
【0017】
また、プローブの先端側から基端側に向かって電位勾配が形成されていることが好ましい。これにより、プローブ内を流れるイオンの収集効率を高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る試料分析装置によれば、試料のイオン化効率を向上できると共にメモリー効果を低減でき、かつ狭い空間での分析が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る試料分析装置を示す概略図である。
【
図2】
図1に示した試料分析装置に用いられるプローブを示す斜視図である。
【
図6】(a)は脱離・イオン化用レーザの照射のタイミングを示し、(b)は試料近傍の中性分子密度を示し、(c)はプローブの基端側における中性分子密度を示す。
【
図7】試料分析装置への加熱手段の取付形態を示す概略図である。
【
図8】試料分析装置への電位勾配の形成形態を示す概略図である。
【
図9】
図8に示した試料分析装置に用いられるプローブの断面図である。
【
図10】本発明の第2実施形態に係る試料分析装置を示す概略図である。
【
図11】(a)は脱離・イオン化用レーザの照射のタイミングを示し、(b)は、プローブの基端側における中性分子密度を示し、(c)は共振器内のレーザ光強度を示す。
【
図12】
図10に示した試料分析装置の変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る試料分析装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
[第1実施形態]
【0021】
図1は、本発明の第1実施形態に係る試料分析装置を示す概略図である。
同図に示す試料分析装置1は、例えば細胞などを含む生体組織といった試料Sの同定を質量スペクトルに基づいて実施する装置として構成されている。例えば本装置によって患者の痰を分析し、痰に含まれる細菌を同定することで、適切な抗生剤の選定を迅速に行うことが可能となる。また、本装置を内視鏡等と組み合わせることで、患部の視覚的なモニタリングに加え、患部の組織を構成する分子情報を診断に生かすことも想定される。
【0022】
かかる試料分析装置1は、
図1に示すように、プローブ2と、脱離・イオン化用レーザ3と、ガイド用レーザ4と、真空セル6と、ベンチュリ・ジェットポンプ7と、質量分析器8とを備えて構成されている。
【0023】
プローブ2は、例えば中空光ファイバからなる。プローブ2の先端側は、試料Sに向けて遊端となっている。一方、プローブ2の基端側は、真空セル6を介してベンチュリ・ジェットポンプ7に接続されており、プローブ2内は真空排気された状態となっている。また、
図2に示すように、プローブ2の基端部分2aは、石英ガラス製の中空光ファイバ11によって形成され、プローブ2の先端部分2bは、金属製の中空光ファイバ12によって形成されている。中空光ファイバ11の先端側と中空光ファイバ12の基端側とは、コネクタ13によって着脱自在に接続されている。
【0024】
中空光ファイバ11は、
図3に示すように、中空の石英ガラス管14を有している。石英ガラス管14の内面には、金属層15と透明誘電体層16とが形成されている。金属層15は、例えば銀によって形成され、透明誘電体層16は、例えば環状オレフィンポリマー等によって形成されている。これらの金属層15及び透明誘電体層16により、例えば波長が2μm以上の赤外レーザに対し、中空光ファイバ11の内面での反射率が最大となるように設計がなされている。また、石英ガラス管14の直径は、例えば200μm〜10mmとなっており、内径は、例えば100μm〜8mmとなっている。これらの径は、プローブ2の可撓性を考慮して適宜選択される。
【0025】
一方、中空光ファイバ12は、
図4に示すように、中空の金属管17を有している。金属管17の内面には、鏡面研磨が施されており、金属層18が形成されている。金属管17の材料としては、例えばステンレス、アルミ、鉄などが用いられる。金属層18は、例えば銀やアルミによって形成されている。このような中空光ファイバ12は、中空光ファイバ11に比べて可撓性が乏しい反面、耐熱性に優れている。具体的には、中空光ファイバ11では、透明誘電体層16の加熱限界である150℃程度までの加熱が可能であり、中空光ファイバ12では、金属の融点未満となる500℃程度までの加熱が可能である。これらの中空光ファイバ11,12では、プローブ2内に分子が吸着した場合であっても、加熱によって分子を脱離させることができ、メモリー効果の低減が図られる(加熱手段については後述する)。
【0026】
なお、プローブ2は、中空光ファイバ11のみで構成してもよく、中空光ファイバ12のみで構成してもよい。中空光ファイバ11のみで構成する場合、プローブ2の可撓性をより高めることができる。一方、中空光ファイバ12のみで構成する場合、プローブ2の耐熱性を更に向上できる。また、赤外レーザのみでなく、紫外エキシマレーザなどの短波長レーザの導光が可能となる。紫外レーザを用いる場合、金属層18上に酸化チタンからなる金属層を更に形成することも好適である。この場合、紫外光の照射によって酸化チタンが活性化し、分子の脱離を促進できる。
【0027】
脱離・イオン化用レーザ3は、試料を脱離・イオン化するレーザである。脱離・イオン化用レーザ3としては、例えば試料Sの組織内の水分での吸収率を考慮して、波長2μm以上の赤外レーザが用いられる。このような赤外レーザとしては、例えばHo−YAGレーザ(波長2.1nm)、Er−YAGレーザ(波長2.94μm)、COレーザ(波長5.2μm)、CO
2レーザ(波長10.6μm)、赤外波長可変OPOレーザなどが挙げられる。
【0028】
また、試料Sの種類によっては、パルス幅が100fs程度と狭く、かつピーク強度の高いチタンサファイアレーザ(波長800nm)を用いることが好適である。また、ArFレーザ(波長193nm)、KrFレーザ(波長248nm)、XeClレーザ(波長308nm)といった紫外エキシマレーザや、YAGレーザの3倍高調波(波長355nm)、窒素レーザ(波長337nm)などを用いることもできる。脱離・イオン化用レーザ3の繰り返し周波数は、測定時間を短縮する観点から数kHz〜数百kHzが理想的であるが、質量分析器8の信号処理系の能力に応じて適宜決定される。レーザは、主としてパルスレーザであるが、CWレーザを用いてもよい。
【0029】
脱離・イオン化用レーザ3からの出射光3aは、
図1に示すように、集光レンズ21によって集光され、窓22から真空セル6内に入射してプローブ2の基端側に導光される。プローブ2に導光された出射光3aは、中空光ファイバ11,12内を全反射しながら伝搬し、プローブ2の先端から試料Sに向けて出射する。
【0030】
出射光3aが試料Sに照射されると、試料Sの組織内の水分にレーザ光が吸収され、熱が発生すると共に組織表面がアブレーションされる。これにより、組織を構成する分子(中性分子)と僅かのイオンとが蒸気となって組織の表面から放射状に脱離する。試料Sで発生した蒸気は、ベンチュリ・ジェットポンプ7の作用によってプローブ2で吸引され、プローブ2から真空セル6を通って質量分析器8に搬送される。脱離・イオン化用レーザ3による脱離時のイオン化効率は、試料Sの組成や脱離・イオン化用レーザ3のレーザ波長といった条件に依存する。
【0031】
また、出射光3aは、プローブ2内の蒸気、或いはプローブ2の基端側の出口近傍の蒸気と相互作用し、蒸気内の中性分子のイオン化を促進する。プローブ2の長さを1mとした場合、出射光3aが中空光ファイバ11,12内を伝搬する時間は約3.3nsとなり、出射光3aと脱離によって生じた蒸気との相互作用時間を十分に確保できる。
【0032】
なお、
図5に示すように、プローブ2の先端側には、集光レンズ23が配置されている。集光レンズ23により、プローブ2の先端から出射した出射光3aは、試料Sの表面にて例えば直径100μm程度に集光される。これにより、試料Sの局所的な脱離を行うことが可能となり、分析の空間分解能の向上が図られる。また、集光レンズ23の略中央部分には、例えば断面円形の貫通孔23aが形成されている。したがって、試料Sで発生した蒸気は、貫通孔23aを通ってプローブ2で吸引される。
【0033】
ガイド用レーザ4は、プローブ2の先端の向きを示すレーザである。ガイド用レーザ4には、例えばHe−Neレーザ(波長633nm)などの可視光レーザが用いられる。ガイド用レーザ4からの出射光4aは、ダイクロイックミラー24によって真空セル6の窓22に向けて反射されると共に、集光レンズ21によって集光され、脱離・イオン化用レーザ3の出射光3aと略同光路で真空セル6内を通ってプローブ2の基端側に導光される。プローブ2に導光された出射光4aは、中空光ファイバ11,12内を全反射しながら伝搬し、プローブ2の先端から試料Sに向けて出射する。これにより、出射光4aが出射光3aと略同位置で試料Sに照射され、分析位置を目視にて容易に確認できる。
【0034】
図6(a)に示すように、時刻t
0において、脱離・イオン化用レーザ3の出射光3aが試料Sの表面に照射されると、
図6(b)に示すように、試料Sの表面にて、時間幅t
1(例えば数十μs)にわたって蒸気が発生する。この蒸気がプローブ2で吸引されると、プローブ2の基端側の出口では、
図6(c)に示すように、時間幅t1よりも長い時間幅t2(例えば数十μs〜数百μs)にわたって蒸気が存在する。
【0035】
真空セル6は、例えば中空の直方体状をなしており、脱離・イオン化用レーザ3の出射光3a及びガイド用レーザ4の出射光4aを入射させる窓22を有している。また、窓22の対面には、プローブ2の基端側が接続され、窓22が設けられた面と直交する面には、ベンチュリ・ジェットポンプ7に通じる流路27が設けられている。
【0036】
ベンチュリ・ジェットポンプ7は、真空排気を行うポンプであり、窒素又は空気をノズル28から5気圧程度で流すことで、真空セル6内及び中空光ファイバ11,12内を真空排気している。これにより、プローブ2に吸引された蒸気は、中空光ファイバ11,12を通って真空セル6内に至り、質量分析器8に送られる。質量分析器8は、送られた蒸気の質量スペクトルに基づいて組織の同定をリアルタイムで実施する。
【0037】
以上説明したように、試料分析装置1では、プローブ2が中空光ファイバ11,12によって構成され、脱離・イオン化用レーザ3からの出射光3aが中空光ファイバ11,12に導光されるようになっている。これにより、脱離・イオン化用レーザ3によって試料Sのイオン化を十分に実現できる場合には、ポストイオン化用レーザを省略した簡単な構成で試料Sのイオン化効率を確保できる。
【0038】
また、試料分析装置1では、比較的高い光強度を有する脱離・イオン化用レーザ3からの出射光3aが中空光ファイバ11,12に導光するので、中空光ファイバ11,12に吸着した分子の脱離が促進され、メモリー効果の低減が図られる。さらに、プローブ2として中空光ファイバ11,12を用いることで、電気メスやレーザメスといったハンドピースが不要となると共にプローブ2の可撓性も確保され、狭い空間での分析が可能となる。
【0039】
また、試料分析装置1では、プローブ2の基端部分2aが、中空の石英ガラス管14の内面に金属層15と透明誘電体層16とを形成してなる中空光ファイバ11によって構成され、プローブ2の先端部分2bが、中空の金属管17に金属層18を形成してなる中空光ファイバ12によって構成されている。このような構成により、プローブ2の耐熱性及び可撓性の双方を確保できる。
【0040】
プローブ2の先端部分2bは、基端部分2aに比べて分子の吸着が生じ易い。したがって、プローブ2の先端部分2bに耐熱性の高い中空光ファイバ12を適用することで、メモリー効果の低減を十分に実現できる。また、先端部分2bがコネクタ13によって着脱自在となっており、分子の吸着が進行した先端部分2bを容易に交換できる。なお、プローブ2に分子の吸着が生じた場合には、ベンチュリ・ジェットポンプ7において、質量分析器8側の出口を閉鎖し、プローブ2内に空気又は窒素を流通させることも好適である。
【0041】
加熱によるメモリー効果の低減を行う場合には、例えば
図7に示すように、プローブ2、真空セル6、流路27、及びベンチュリ・ジェットポンプ7の外面に熱線(加熱手段)31を巻き付けることが好ましい。ガラス製の中空光ファイバ11については耐熱性の観点から150℃程度までの加熱となるが、金属製の中空光ファイバ12、真空セル6、流路27、及びベンチュリ・ジェットポンプ7については300℃以上に加熱することが可能である。したがって、内面に吸着した分子の脱離を促進でき、メモリー効果をより確実に低減できる。なお、熱線31は、必ずしもプローブ2、真空セル6、流路27、及びベンチュリ・ジェットポンプ7の全てに設ける必要はなく、これらの少なくとも一つに設けることで、メモリー効果の低減が期待できる。
【0042】
また、試料分析装置1において、プローブ2の先端側から基端側に向かって電位勾配を形成することが好ましい。この場合、例えば
図8に示すように、プローブ2を複数区間に分割し、これらの区間を絶縁部32によって電気的に絶縁する。そして、金属層15,18等に電位を印加し、絶縁部32に電位勾配を与えることで、試料Sで発生したイオン及びプローブ2内のイオンに対して、質量分析器8側に向かう静電引力を与えることができる。これにより、イオンの収集効率を高めることが可能となる。
【0043】
プローブ2の電気的な絶縁にあたっては、例えば
図9に示すように、プローブ2の分割部分33,33同士を絶縁リング34で接続する構成を採ることができる。また、真空セル6とベンチュリ・ジェットポンプ7との間、及びベンチュリ・ジェットポンプ7と質量分析器8との間についても同様に電気的に絶縁を行ってもよい。この場合、メモリー効果の更なる低減が図られる。
[第2実施形態]
【0044】
本発明の第2実施形態について説明する。
図10は、本発明の第2実施形態に係る試料分析装置を示す概略図である。同図に示すように、第2実施形態に係る試料分析装置51は、真空セル6内に、脱離・イオン化用レーザ3からの出射光3aを繰り返し反射させる共振器52が配置されている点で、上記実施形態と異なっている。
【0045】
より具体的には、試料分析装置51では、脱離・イオン化用レーザ3の光学系にハーフミラー41及び全反射ミラー42,43が更に配置され、ハーフミラー41で分岐した出射光3aが、流路27の対面側に位置する窓45から真空セル6に入射する。また、真空セル6内には、例えば脱離・イオン化用レーザ3の波長における反射率が99.99%以上の一組のミラーからなる共振器52が窓45の位置に対応して配置され、この共振器52によって出射光3aが蒸気の流れに略直交する向きで繰り返し反射するようになっている。
【0046】
この試料分析装置51では、
図11(a)に示すように、時刻t
0において脱離・イオン化用レーザ3の出射光3aが試料Sの表面に照射されると、試料Sで発生した蒸気がプローブ2で吸引され、
図11(b)に示すように、プローブ2の基端側の出口において時間幅t
2にわたって蒸気が存在する。また、
図11(c)に示すように、プローブ2の基端側の出口で蒸気内に中性分子が放出され始める時刻t
3において、共振器52内に脱離・イオン化用レーザ3の出射光3aが存在し、中性分子が存在している時間幅t
2にわたって中性分子のイオン化が促進される。したがって、試料Sのイオン化効率を一層向上できる。
【0047】
なお、共振器52は、真空セル6内に配置する場合に限られず、例えば
図12に示す試料分析装置61のように、ベンチュリ・ジェットポンプ7内に配置してもよい。
図12の例では、ベンチュリ・ジェットポンプ7において質量分析器8の手前に真空セル62が配置され、ハーフミラー41で分岐した出射光3aが、窓63から真空セル62に入射する。そして、真空セル62内には、窓63の位置に対応して共振器52が配置され、この共振器52によって出射光5aが蒸気の流れに略直交する向きで繰り返し反射するようになっている。このような構成においても、試料Sの蒸気と脱離・イオン化用レーザ3の出射光3aとを真空セル62内で相互作用させることが可能となり、試料Sのイオン化効率を一層向上できる。
【0048】
本発明は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上記実施形態では、ベンチュリ・ジェットポンプ7を介して真空セル6と質量分析器8とを接続しているが、質量分析器8が排気ポンプを備える場合には、ベンチュリ・ジェットポンプ7を省略し、真空セル6と質量分析器8とを直接接続してもよい。この場合、装置の更なる小型化が図られる。
【符号の説明】
【0049】
1,51,61…試料分析装置、2…プローブ、2a…基端部分、2b…先端部分、3…脱離・イオン化用レーザ、3a…出射光、4…ガイド用レーザ、4a…出射光、6…真空セル、7…ベンチュリ・ジェットポンプ(吸引手段)、8…質量分析器、11,12…中空光ファイバ、14…石英ガラス管、15…金属層、16…透明誘電体層、17…金属管、18…金属層、23…集光レンズ、23a…貫通孔、27…流路、31…熱線(加熱手段)、52…共振器、S…試料。