(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061312
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】塑性加工方法及びそれに用いるスピニングマシン
(51)【国際特許分類】
B21H 1/18 20060101AFI20170106BHJP
B21D 22/16 20060101ALI20170106BHJP
B21D 41/04 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
B21H1/18 A
B21D22/16 H
B21D22/16 C
B21D41/04 B
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-545597(P2014-545597)
(86)(22)【出願日】2013年8月29日
(86)【国際出願番号】JP2013073172
(87)【国際公開番号】WO2014073258
(87)【国際公開日】20140515
【審査請求日】2015年11月17日
(31)【優先権主張番号】特願2012-248654(P2012-248654)
(32)【優先日】2012年11月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229047
【氏名又は名称】日本スピンドル製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】高田 佳昭
(72)【発明者】
【氏名】岸野 純治
(72)【発明者】
【氏名】白井 大志
【審査官】
矢澤 周一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−090373(JP,A)
【文献】
特開2003−305527(JP,A)
【文献】
特開昭53−095156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/16
B21D 41/04
B21H 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状の素材を主軸に保持した状態で、主軸を回転駆動することによって、素材をその主軸の軸芯回りに回転させながら、押圧ローラを主軸の回転中心に近づける方向に押し進めることにより、素材の開口側端部の内径が素材の胴部の内径よりも小径となるように、該開口側端部に円周状の溝部の成形を行うスピニングマシンによる塑性加工方法であって、素材の開口側端部における外周面と端面とに同時に接触可能な、押圧ローラと重複して外周面に接触可能な第1のローラ面と、端面に接触可能な、第1のローラ面より大径の第2のローラ面とを有する仕上ローラにより、素材の開口側端部の外周面及び端面の仕上げ成形を行うことにより、素材の開口側端部の内周側が自由に変形可能なように非拘束状態で成形を行うことを特徴とするスピニングマシンによる塑性加工方法。
【請求項2】
前記押圧ローラによる成形と、仕上ローラによる成形とを同時に行うようにすることを特徴とする請求項1に記載のスピニングマシンによる塑性加工方法。
【請求項3】
有底筒状の素材の外周面を挟持するチャック及び素材の外側底面に突き当てられる規制部材を配設した主軸と、素材の開口側端部から内部に差し込まれ、先端が素材の内側底面に突き当てられて、素材の底部を規制部材とで挟持するマンドレルと、素材の開口側端部を押圧する押圧ローラとを備え、主軸の回転駆動にて素材をその主軸の軸芯回りに回転させながら押圧ローラをマンドレルに近づける方向に押し進めることにより、素材の開口側端部の内径が素材の胴部の内径よりも小径となるように、該開口側端部に円周状の溝部の成形を行うスピニングマシンであって、素材の開口側端部における外周面と端面とに同時に接触して素材の開口側端部の外周面及び端面の仕上げ成形を行う、押圧ローラと重複して外周面に接触可能な第1のローラ面と、端面に接触可能な、第1のローラ面より大径の第2のローラ面とを有する仕上ローラが設けられ、マンドレルにおける少なくとも素材の内部に挿入される部分を、該部分と素材の開口側端部の塑性変形後における内周面との間に隙間が設けられるように形成したことを特徴とするスピニングマシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有底筒状の素材の開口側端部に塑性加工を施す塑性加工方法及びそれに用いるスピニングマシンに関し、特に素材胴部の内径よりも開口側端部の内径を小さくした製品の加工をすることができる塑性加工方法及びそれに用いるスピニングマシンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スピニングマシンとして、有底筒状の素材の開口側端部における外周面に溝部を形成するとともに、素材胴部の内径よりも開口側端部の内径が小さくなる製品(例えば、ディスクブレーキ用のブレーキピストン)を塑性加工にて得ることができるものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4602060号公報
【0004】
図3(a)に示されるように、上記の特許文献1に係るスピニングマシン100は、図示省略される主軸に配設されて有底筒状の素材Wの外周面を挟持するチャック101を備えている。
チャック101によって挟持された素材Wの内部には、主軸と同軸芯上に配されるマンドレル102がその開口側端部から差し込まれている。
製品の溝部に対応する突起を有する押圧ローラ103が、主軸の軸芯に対して直角方向(
図3(a)中記号Y
10矢印方向)に移動自在に配設されるとともに、素材Wの開口側端面に接触して転動する規制ローラ104が、主軸の軸芯方向(
図3中記号X
20矢印方向)と主軸の軸芯に対して直角方向(
図3中記号Y
20矢印方向)に移動自在に配設されている。
【0005】
このスピニングマシン100においては、主軸の回転駆動にて素材Wがその主軸の軸芯回りに回転された状態で、
図3(a)〜(b)に示されるように、素材Wの開口側端部が押圧ローラ103によってマンドレル102に押し当てられるように押圧される。この際、押圧ローラ103による素材Wの開口側端部の軸方向の伸びが規制ローラ104によって規制される。
こうして、素材Wの開口側端部における外周面に溝部が形成されるとともに、素材Wの開口側端部の内径が素材の胴部の内径よりも小径となる塑性加工が実施される。
【0006】
ところで、上記のスピニングマシン100によって塑性加工が施される有底筒状の素材Wは、例えば、鍛造等の加工法により得られるものであって、要求される長さ寸法や板厚寸法に対し、実際の長さ寸法や板厚寸法のバラツキが比較的大きい。
また、上記のスピニングマシン100による塑性加工時においては、
図3(b)に示されるように、素材Wの開口側端部の外周面が押圧ローラ103によって押し付けられ、内周面がマンドレル102によって押し付けられ、端面が規制ローラ104によって押し付けられている。
【0007】
このため、上記のスピニングマシン100による塑性加工では、素材Wの実際の長さ寸法が要求寸法よりも長かったり、素材Wの実際の板厚寸法が要求寸法よりも厚かったりしたとき、素材Wの余分な肉が素材Wの内周面側に流れようとしてもマンドレル102によって遮られ、また、素材Wの端面側に流れようとしても規制ローラ104によって遮られるため、余分な肉の逃げ場をなくすと重要な溝部の成形精度を確保できない。
一方、余分な肉の逃げ場を、例えば、押圧ローラ103の形状を工夫することで対処しようとすると、比較的密着状態が緩いとされる素材Wの開口側端縁と押圧ローラ103との間から径方向外側に流れ出てしまうことになり、外周側の形状寸法に高い精度が要求される製品においてその開口側端縁が設計寸法の許容値を超えて
図3(c)中記号P矢印で示されるように径方向外側に張り出してしまうおそれがあるという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来のスピニングマシンの有する問題点に鑑み、有底筒状の素材の長さ寸法や板厚寸法にバラツキがあったとしても、外周面側の形状寸法に高い精度が要求される製品の精度を確保することができる塑性加工方法及びそれに用いるスピニングマシンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の塑性加工方法は、有底筒状の素材を主軸に保持した状態で、主軸を回転駆動することによって、素材をその主軸の軸芯回りに回転させながら、押圧ローラを主軸の回転中心に近づける方向に押し進めることにより、素材の開口側端部の内径が素材の胴部の内径よりも小径となるように、該開口側端部に円周状の溝部の成形を行うスピニングマシンによる塑性加工方法であって、
素材の開口側端部における外周面と端面とに同時に接触可能な、押圧ローラと重複して外周面に接触可能な第1のローラ面と、端面に接触可能な、第1のローラ面より大径の第2のローラ面とを有する仕上ローラにより、素材の開口側端部の外周面及び端面の仕上げ成形を行うことにより、素材の開口側端部の内周側が自由に変形可能なように非拘束状態で成形を行うことを特徴とする。
【0010】
この場合において、
前記押圧ローラによる成形と、仕上ローラによる成形とを同時に行うようにすることができる。
【0011】
また、上記塑性加工方法に用いる本発明のスピニングマシンは、有底筒状の素材の外周面を挟持するチャック及び素材の外側底面に突き当てられる規制部材を配設した主軸と、素材の開口側端部から内部に差し込まれ、先端が素材の内側底面に突き当てられて、素材の底部を規制部材とで挟持するマンドレルと、素材の開口側端部を押圧する押圧ローラとを備え、主軸の回転駆動にて素材をその主軸の軸芯回りに回転させながら押圧ローラをマンドレルに近づける方向に押し進めることにより、素材の開口側端部の内径が素材の胴部の内径よりも小径となるように、該開口側端部に円周状の溝部の成形を行うスピニングマシンであって、素材の開口側端部における外周面と端面とに同時に接触して素材の開口側端部の外周面及び端面の仕上げ成形を行う、押圧ローラと重複して外周面に接触可能な第1のローラ面と、端面に接触可能な、第1のローラ面より大径の第2のローラ面とを有する仕上ローラが設け
られ、マンドレルにおける少なくとも素材の内部に挿入される部分を、該部分と素材の開口側端部の塑性変形後における内周面との間に隙間が設けられるように形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の塑性加工方法によれば、素材の開口側端部の内径が素材の胴部の内径よりも小径となるように成形するに当たり、素材の開口側端部の内周側が自由に変形可能なように非拘束状態で成形を行う。
また、本発明のスピニングマシンにおいては、塑性変形後における素材の開口側端部の内周面とマンドレルとの間に隙間が設けられる。
これにより、素材の実際の長さ寸法が要求寸法よりも長かったり、素材の実際の板厚寸法が要求寸法よりも厚かったりしたとしても、素材の余分な肉がその隙間側に流れ込み、外周面側の形状寸法に高い精度が要求される製品において高い精度が要求されない径方向内側に素材の余分な肉を逃がすことができる。
【0013】
したがって、有底筒状の素材の長さ寸法や板厚寸法にバラツキがあったとしても、外周面側の形状寸法に高い精度が要求される製品の精度を確保することができる。
【0014】
そして、特に、マンドレルの先端が素材の内側底面に突き当てられて、素材の底部を規制部材とで挟持することにより、塑性加工時における素材の振れがマンドレルによって確実に抑えられるので、素材の振れやそれに伴う素材へのトルク伝達不足に起因してチャックや押圧ローラ、さらには、仕上ローラから素材に加えられる傷の発生を未然に防ぐことができ、製品の品質を安定的に保つことができる。
【0015】
さらに、素材の開口側端部における外周面と端面とに同時に接触可能なローラ面を有する仕上ローラを設け、素材の開口側端部の外周面及び端面の
仕上げ成形を行うことにより、製品の開口側端部をより高精度に仕上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係るスピニングマシンの一部切欠き断面の正面図である。
【
図2】本実施形態のスピニングマシンによる塑性加工動作説明図で、(a)は素材を取り付けた状態図、(b)は加工を完了した状態図、(c)は(b)のA部拡大図である。
【
図3】従来のスピニングマシンによる塑性加工動作説明図で、(a)は素材を取り付けた状態図、(b)は加工を完了した状態図、(c)は(b)のB部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の塑性加工方法及びそれに用いるスピニングマシンの実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0018】
<スピニングマシンの概略説明>
図1に示されるスピニングマシン1は、回転機構2に連結される主軸3の先端部に配設されて有底筒状の素材Wの外周面を挟持するチャック4を備えている。
チャック4によって挟持された素材Wの内部には、チャック4と対向する位置で、主軸3と同軸芯上に配されるマンドレル5がその開口側端部から差し込まれている。
また、マンドレル5の近傍には、押圧ローラ6及び仕上ローラ7がそれぞれ配され、これらローラ6、7はそれぞれホルダ8、9に回転自在に取り付けられている。
【0019】
<チャックの説明>
チャック4は、円筒形状に形成され、その内部には、素材Wの外径に応じた挟持部材10が配設されるとともに、取り付ける素材Wの長さに応じた規制部材11が配設され、
図1に示される位置に素材Wを固定することができるように構成されている。
また、チャック4は、主軸3から挟持部材10及び規制部材11と共に取り外し、製品形状(素材W)に応じたチャック4と取り換え可能に構成される。
【0020】
<マンドレルの説明>
マンドレル5は、丸棒状部材で構成され、
図2(a)に示されるように、素材Wの内側底面に突き当てられて、素材Wの底部を規制部材11とで挟持する先端面5aを有し、その全長に亘って、素材Wの開口側端部の塑性変形後の内径よりも小径とされている。こうして、
図2(b)に示されるように、素材Wの開口側端部の塑性変形後における内周面とマンドレル5との間に、所定の隙間Sが設けられる。
このため、マンドレル5の直径Dは、隙間Sが確実に維持されるように、すなわち、素材Wの開口側端部の塑性変形後における素材Wの開口側端部の最も突出量が大きい位置(通常、素材Wの開口側端縁)の突出寸法に合わせて、それより小さく設定するようにする。
なお、マンドレル5の直径D、隙間Sが確実に維持されるように極端に小さく設定すると、素材Wの底部やマンドレル5が変形したり、後述の素材Wをマンドレル5と規制部材11とによって挟持する作用効果が得にくくなるため、素材Wの内径d
2の少なくとも40%以上、好ましくは、50%以上、より好ましくは、70%以上に設定するようにする。
図1に示されるように、マンドレル5は、素材Wの開口側端面から内側底面までの距離や、塑性加工後の素材Wの開口側端部の内径等に応じて最適なものと交換可能とするために、主軸3の軸芯方向に移動可能な従動機構12の先端部に配設した取付部材13に着脱可能に取り付けられる。
なお、マンドレル5は、その先端が素材Wの内側底面に突き当て可能(面接触であるのが好ましい)であるとともに、素材Wの開口側端部の塑性変形後における内周面との間に所定の隙間S(
図2(b)参照)を設けることができれば、特にその形状等が限定されるものではなく、外周面に軸芯方向に沿ってテーパを付したり、中空状のものを採用したり、横断面が多角形状等の任意の形状のものを採用することができる。
【0021】
<押圧ローラの説明>
図2(b)に示されるように、押圧ローラ6は、素材Wの開口側端部の外周面に所望の凹凸形状(素材Wの開口側端部に円周状の溝部G)の塑性加工を施すための凹凸状のローラ面6aを有している。
この押圧ローラ6を回転自在に支持するホルダ8(
図1参照)は、制御機器(図示省略)からの制御信号に応じて、主軸3の軸芯に対して直角方向(
図2(b)中記号Y
1矢印方向)に移動するようにされている。
【0022】
<仕上ローラの説明>
図2(b)に示されるように、仕上ローラ7は、素材Wの開口側端部における外周面と端面とに同時に接触可能なローラ面7aを有している。
この仕上ローラ7を回転自在に支持するホルダ9(
図1参照)は、制御機器(図示省略)からの制御信号に応じて、主軸3の軸芯方向(
図2(b)中記号X
2矢印方向)と主軸3の軸芯に対して直角方向(
図2(b)中記号Y
2矢印方向)に移動するようにされている。
【0023】
<塑性加工動作の説明>
以上に述べたように構成されるスピニングマシン1による素材Wへの塑性加工は以下のとおりである。
まず、
図2(a)に示されるように、チャック4によって挟持された素材Wに対して、その開口端部から内部に向けてマンドレル5を挿入し、マンドレル5の先端面5aが素材Wの内側底面に突き当たるまで進入させる。これにより、素材Wは、マンドレル5と規制部材11とによる挟持及び挟持部材10による挟持により、塑性加工時に振れない(微振動しない)ように安定的に保持される。
【0024】
次いで、回転機構2(
図1参照)による主軸3の回転駆動にて素材Wを主軸3の軸芯回りに回転させながら、
図2(a)〜(b)に示されるように、素材Wの開口側端部に対し、押圧ローラ6を図中記号Y
1矢印方向に押し当てる。これにより、素材Wの開口側端部の内径d
1が素材Wの胴部の内径d
2よりも小径(d
1<d
2)となるような塑性加工が施されるとともに、素材Wの開口側端部の外周面に押圧ローラ6のローラ面6aに倣った凹凸形状が塑性加工される。この際、
図2(c)に示すように、溝部Gやその近傍の肉厚Nは、素材Wの開口側端部の内径d
1を素材Wの胴部の内径d
2よりも小さくしたことにより、十分な肉厚を確保することができる。
【0025】
この押圧ローラ6による塑性加工と同時に、素材Wの開口側端部における外周面と端面との交わりの角部に対し、仕上ローラ7を
図2(b)中記号X
2矢印方向及び記号Y
2矢印方向に押し当てる。これにより、得られる製品の開口側端部の角部の形状がより高精度に整えられる。
この場合、素材Wの開口側端部における外周面は、押圧ローラ6によってではなく、仕上ローラ7によって仕上げ成形することができるように、押圧ローラ6及び仕上ローラ7の形状を設定することが好ましい。
なお、本実施例においては、押圧ローラ6の記号Y
1矢印方向への移動と、仕上ローラ7の記号X
2及び記号Y
2矢印方向への移動とを同時に行うようにしたが、押圧ローラ6及び仕上ローラ7の移動は、任意の順序で行うことができる。
【0026】
<作用効果の説明>
本実施形態のスピニングマシン1においては、
図2(c)に示されるように、塑性変形後における素材Wの開口側端部の内周面とマンドレル5との間に隙間Sが設けられるので、素材Wの開口側端部の内径d
1が素材Wの胴部の内径d
2よりも小径(d
1<d
2)となるように成形する間、素材Wの開口側端部の内周側が自由に変形可能なように非拘束状態で成形が行われる。
これにより、素材Wの実際の長さ寸法が要求寸法よりも長かったり、素材Wの実際の板厚寸法が要求寸法よりも厚かったりしたとしても、素材Wの余分な肉がその隙間S側に流れ込み、外周面側の形状寸法に高い精度が要求される製品において、
図2(c)中記号Q矢印で示されるように、高い精度が要求されない径方向内側に素材の余分な肉を逃がすことができる。したがって、有底筒状の素材の長さ寸法や板厚寸法にバラツキがあったとしても、外周面側の形状寸法に高い精度が要求される製品の精度を確保することができるという効果がある。
さらに、素材Wの開口側端部における端面が仕上ローラ7によって拘束されることと相俟って、押圧ローラ6の成形に伴う素材Wの薄肉化、特に、素材Wの最肉厚部tの薄肉化を防止し、製品の強度を保つことができる。
【0027】
また、素材Wの内側底面に突き当てられるマンドレル5によって塑性加工時における素材Wの振れが確実に抑えられるので、素材Wの振れやそれに伴う素材Wへのトルク伝達不足に起因してチャック4の挟持部材10や押圧ローラ6、さらには、仕上ローラ7から素材Wに加えられる傷の発生を未然に防ぐことができ、製品の品質を安定的に保つことができる。
さらに、素材Wの開口側端部における外周面及び端面の形状(例えば、直角度。)及び面肌が仕上ローラ7によって整えられるので、製品の開口側端部をより高精度に仕上げることができる。
【0028】
以上、本発明のスピニングマシンについて、一実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の塑性加工方法及びそれに用いるスピニングマシンは、有底筒状の素材の長さ寸法や板厚寸法にバラツキがあったとしても、素材の余分な肉を内周面側に逃がすことができるという特性を有していることから、外周面側の形状寸法に高い精度が要求される製品の加工に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 スピニングマシン
3 主軸
4 チャック
5 マンドレル
6 押圧ローラ
7 仕上ローラ
11 規制部材
S 隙間
W 素材
G 溝部