【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。各種測定方法は次のとおりである。
【0023】
(1)エチレンの1〜4塩素置換体濃度の測定方法
陰極区画から採取された5mLの試料液がバイアル瓶に入れられ、直ちにテフロン(登録商標)ライナー付きブチルゴム栓とアルミシールで密栓され、30分以上振とうされ、気液の塩素化エチレン濃度を平衡化させた。次いで、200μLの気相がガスタイトシリンジで採取されサンプルガスとされた。PIDガスクロマトグラフ装置(hnu社製GC−311)が使用され、注入口及び検出器温度110℃、カラム温度70℃でカラム(hnu社製NBW−311)にサンプルガスが注入され、エチレンの1〜4塩素置換体濃度が測定された。
【0024】
(2)塩素イオン濃度の測定方法
10mLの1N硝酸及び5g/Lの硝酸銀溶液1mLが、100mL共栓付きメスシリンダーに採取された適量の試料(塩素イオンとして0.1mg以下)に加えられ、更に純水が加えられて100mLの溶液が調製され、十分に振り混ぜられて10分間放置された。調製された溶液の一部が50mm吸収セルに移され、塩素イオン濃度が420nmの波長で分光光度計((株)日立製作所製U−1800)により検量線法で測定された。
【0025】
(3)陰極電位の測定方法
比較電極(TOA/DKK社製HC−151A)が電解槽の陰極区画に浸漬され、陰極と比較電極の間の電位差が北斗電工(株)製ポテンショスタットHA−151Aにより測定された。測定値は以下の式により水素標準電極電位に換算された。
水素標準電極電位(VvsSHE)=比較電極測定値(VvsAg/AgCl)+0.199
【0026】
実施例1及び2
水酸化ナトリム溶液が500mL容セパラブルフラスコ中の40g/Lの無水硫酸ナトリウム溶液に添加され、pHが12に調製された。なお、塩素イオン濃度の測定感度を向上させるため、無水硫酸ナトリム溶液が電解液として使用されたが、10g/L塩化ナトリウム溶液が電解液として使用され得る。
袋状に成形された陽イオン交換膜(デュポン(株)製N424)に入れられた陽極(ペルメレック電極(株)製DSE電極)と陰極としての30メッシュステンレス金網((有)福沢金網製作所製)が上記セパラブルフラスコに配置され、テトラクロロエチレン又はトリクロロエチレンが陰極区画に初期濃度7100mg/Lとなるように添加され、0.15Aの低電流が直流電源装置((株)高砂製作所製LX018−2A)で通電され、上記セパラブルフラスコ内の電解液の回転線速度が内周の3/4の地点で230mm/秒となるようにマグネチックスターラーの回転速度が設定され、電気分解が行われた。被処理物中の塩素イオン濃度が経時的に測定された。塩素イオンはテトラクロロエチレン又はトリクロロエチレンが還元脱塩素化されて生じるから、塩素イオン濃度の増加速度からテトラクロロエチレン又はトリクロロエチレンの分解速度が計算された。結果が表1に示されている。
【0027】
【表1】
【0028】
この結果より、本処理方法はテトラクロロエチレン、トリクロロエチレンの分解に有効であることが示された。
また、PIDガスクロマトグラフィーを用いた測定により、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレンの中間分解産物として1,1−ジクロロエチレン、t−1,2−ジクロロエチレン、塩化ビニルモノマーが微量発生し、それらが経時的にエチレンにまで分解されて減少、消滅していく現象が観察されたことから、本処理方法は広く塩素化エチレン類全般に適用性があることが認められた。
【0029】
PIDガスクロマトグラフィーの分析結果から、微量の1,1−ジクロロエチレン、t−1,2−ジクロロエチレン及び塩化ビニルが、テトラクロロエチレン又はトリクロロエチレンの電気化学的分解反応の中間分解産物として発生し、それらがエチレンに変化していくことが観察された。従って、この脱塩素方法が塩素化エチレン類全般に適用し得ると認められた。
【0030】
実施例3、4及び参考例1、2
実施例1及び2で使用された装置が用いられ、テトラクロロエチレンが初期濃度7100mg/Lとなるように無水硫酸ナトリウム溶液に添加されて電気化学的脱塩素処理が実施された。被処理物のpHが12、7、5、4のときの被処理物中の塩素イオン濃度が測定され、塩素化エチレンの分解速度が計算された。結果が表2に示されている。
【0031】
【表2】
【0032】
表2より、pH12〜7の範囲内では陰極電位、分解速度ともに大きな変化が見られないが、pHが5まで低下すると陰極電位が上昇して分解速度が低下し、さらにpHが4まで低下すると全く分解が生じなくなってしまうとの知見が得られた。
これは、pHが低下して電解液中の水素イオン濃度が上昇することにより、陰極表面での水素イオンの還元(水素ガスの発生)反応が容易となり、電極電位が上昇することによって塩素化エチレンの還元脱塩素化反応が起こりにくくなるためと考えられた。
このことから、本発明の電解処理においてはpHは7以上に制御される。
また、pHが12.5を超える電解液に長期間浸漬すると、陽イオン交換膜の内外での通電時電圧が上昇する、すなわちイオン交換能が低下して電気抵抗が増すという知見が得られたことから、pHは12以下に制御される。
【0033】
実施例5〜8
陰極金網の材質が変更される以外、実施例1及び2で使用された装置と同一の装置が用いられ、テトラクロロエチレンが初期濃度7100mg/Lとなるように無水硫酸ナトリウム溶液に添加されて電気化学的脱塩素処理が実施された。被処理物のpHが10〜12である時の被処理物中の塩素イオン濃度が測定され、塩素化エチレンの分解速度が計算された。結果が表3に示されている。
【0034】
【表3】
【0035】
表3より、ステンレス、ニッケル電極と比較して、銅、および銅合金であるモネル合金電極は有意に高い分解速度を示した。モネル合金は銅とニッケルの合金であり、この2成分のうち銅は高い分解活性を示し、ニッケルは低い分解活性を示したことから、銅が電解還元処理反応に有効な成分であると考えられる。
一方、銅電極は繰り返し使用することにより次第に緑青(さび)の発生が認められ、金網の線径が細くなっていく傾向が認められたのに対し、モネル合金は表面がやや黒色に変化したものの、腐食が進行しなかった。これは、銅が塩素イオンによる腐食に弱いのに対し、モネル合金は塩素イオンに対する耐食性があることによると考えられた。
これらの知見から、陰極の材質としては銅および銅合金を用いることが望ましく、さらに望ましくはモネル合金を用いることが望ましいといえる。
【0036】
実施例9〜12
500mL容セパラブルフラスコに代えて2L容セパラブルフラスコが使用され、攪拌手段が下記のとおり変更される以外、実施例1及び2で使用された装置と同一の装置が用いられ、テトラクロロエチレンが初期濃度7100mg/Lとなるように無水硫酸ナトリウム溶液に添加されて電気化学的脱塩素処理が実施された。被処理物のpHが10〜12である時の被処理物中の塩素イオン濃度が測定され、塩素化エチレンの分解速度が計算された。結果が表4に示されている。
(1)上記2L容セパラブルフラスコ内の電解液の回転線速度が内周の3/4の地点で140mm/秒となるようにマグネチックスターラーの回転速度が設定された(実施例9)。
(2)被処理物が上記2L容セパラブルフラスコ底部からダイヤフラムポンプにより吸引されると共に上記2L容セパラブルフラスコ上部に戻されて循環された(実施例10)。
(3)上記2L容セパラブルフラスコが傾斜されて、その底部に20度の勾配が作られ、被処理物が上記2L容セパラブルフラスコ最下部からダイヤフラムポンプにより吸引されると共に上記2L容セパラブルフラスコ上部に戻されて循環された(実施例11)。
(4)上記2L容セパラブルフラスコが傾斜されて、その底部に20度の勾配が作られ、被処理物が記2L容セパラブルフラスコ底部から渦巻きポンプにより吸引されると共に上記2L容セパラブルフラスコ上部に戻されて循環された(実施例12)。
【0037】
【表4】
【0038】
表4より、装置的に実施例9の機械攪拌よりも製作が容易である循環混合を採用した実施例10ないし12の系において、実施例10の底面に傾斜がない系ではテトラクロロエチレンの油滴がリアクタの底部に滞留する現象が認められ、混合が効率的に行われなかった結果、分解速度は実施例9の機械攪拌系の1/4未満となった。
これに対してリアクタの底部に傾斜を設け、その最下部から電解液を引き抜いた実施例11及び12の系では、テトラクロロエチレンの油滴が傾斜面を滑り落ちてポンプに吸引され、リアクタの上部に吐出される循環混合が行われ、分解速度が向上した。特に渦巻きポンプを用いた実施例12の系では、ポンプ内での旋回流によってテトラクロロエチレンの油滴がせん断され、水中に分散される現象が起こり、水中にほぼ均一にテトラクロロエチレンが分散された。その結果、実施例12の系の分解速度は実施例10の系の1.5倍以上に増加した。
これらの知見より、本発明の攪拌方法としては陰極区画の下部から液を吸引し、再び陰極区画に戻して液循環を行なうことが望ましく、さらに望ましくは陰極区画の底面に傾斜があってその最下部から液を吸引することがのぞましく、さらに望ましくは使用するポンプが旋回流を生じる渦巻きポンプであることが望ましい。
【0039】
実施例13
実施例12で使用された装置と同一の装置が用いられ、テトラクロロエチレンが初期濃度7100mg/lとなるように無水硫酸ナトリウム溶液に添加されて電気化学的脱塩素処理が実施され、被処理物中のテトラクロロエチレン濃度が経時的に測定された。結果が表5に示されている。
【0040】
【表5】
【0041】
テトラクロロエチレン濃度は48時間で3000mg/L、98時間で22mg/Lまで低下したが、その後分解速度が低下し、194時間後(8日後)でも10mg/Lが残留していた。この知見より、本発明の電解還元処理単独では、低濃度のテトラクロロエチレン処理効率は低いことが示された。
【0042】
実施例13の脱塩素開始から194時間経過後に、670mLの被処理物が2L容セパラブルフラスコから採取され、1質量%の鉄複合粒子(戸田工業(株)製RNIP)水分散液と混合され、全量が2Lとされた後、攪拌機(柴田科学製)で緩速攪拌(48rpm)され、被処理物中のテトラクロロエチレン濃度が経時的に測定された。結果が表6に示されている。
【0043】
【表6】
【0044】
トリクロロエチレン、ジクロロエチレン及び塩化ビニルは、鉄複合粒子による処理開始から168時間経過後の被処理物中に検出されなかった。この段階での被処理物中のテトラクロロエチレン濃度は排水基準値(0.1mg/L)以下であった。
また、電解処理と鉄複合粒子処理はいずれも還元処理であることから、前段の処理で形成された還元的雰囲気が後段の処理に悪影響を与えることがなく、組合せとして好都合である。
これらの結果から、電解処理を行なった処理液をさらに鉄複合粒子と混合することにより、テトラクロロエチレンの排水基準値を満たすことができる望ましい効果が得られることが知見された。