特許第6061315号(P6061315)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6061315塩素化エチレン類の脱塩素方法及び脱塩素装置
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  • 特許6061315-塩素化エチレン類の脱塩素方法及び脱塩素装置 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061315
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】塩素化エチレン類の脱塩素方法及び脱塩素装置
(51)【国際特許分類】
   A62D 3/115 20070101AFI20170106BHJP
   C02F 1/461 20060101ALI20170106BHJP
   A62D 101/22 20070101ALN20170106BHJP
【FI】
   A62D3/115
   C02F1/46 101C
   A62D101:22
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-198099(P2015-198099)
(22)【出願日】2015年10月6日
(62)【分割の表示】特願2011-178837(P2011-178837)の分割
【原出願日】2011年8月18日
(65)【公開番号】特開2016-40036(P2016-40036A)
(43)【公開日】2016年3月24日
【審査請求日】2015年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(73)【特許権者】
【識別番号】591172663
【氏名又は名称】荏原工業洗浄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 有司
(72)【発明者】
【氏名】高城 久承
(72)【発明者】
【氏名】竹田 正幸
(72)【発明者】
【氏名】下村 達夫
(72)【発明者】
【氏名】関根 智一
【審査官】 中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−204082(JP,A)
【文献】 特開2005−118682(JP,A)
【文献】 特開平11−179195(JP,A)
【文献】 特開2007−211315(JP,A)
【文献】 特表2009−537482(JP,A)
【文献】 特開2001−062288(JP,A)
【文献】 特開2010−203930(JP,A)
【文献】 特開平09−047257(JP,A)
【文献】 特開平09−308823(JP,A)
【文献】 特開2013−039270(JP,A)
【文献】 特開昭61−028493(JP,A)
【文献】 特開昭63−166491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62D 3/115
C02F 1/461
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素化エチレン類を含む被処理物が、陰極(但し、炭素電極を除く)及び陽極を備える電解槽中で当該陰極とのみ接触させられ、当該被処理物のpHが7〜12で電気化学的脱塩素処理が実施され
当該陽極は当該陰極と隔膜で離隔され、当該電気化学的脱塩素処理の際、当該陽極と隔膜の間に形成される陽極区画に満たされるアノード液は、冷却され循環される、塩素化エチレン類の脱塩素方法。
【請求項2】
上記陰極の材質が銅又は銅合金である、請求項1に記載された塩素化エチレン類の脱塩素方法。
【請求項3】
上記陰極の材質がモネル合金である、請求項1に記載された塩素化エチレン類の脱塩素方法。
【請求項4】
上記電気化学的脱塩素処理に付されている被処理物が上記電解槽の下部に形成される傾斜部下端から吸引されると共に電解槽上部に戻されて循環される、請求項1〜のいずれか1項に記載された塩素化エチレン類の脱塩素方法。
【請求項5】
上記電気化学的脱塩素処理により得られた被処理物、純水及び鉄複合粒子が混合され、脱塩素処理が実施される、請求項1〜のいずれか1項に記載された塩素化エチレン類の脱塩素方法。
【請求項6】
陰極(但し、炭素電極を除く)と陽極が隔膜で離隔されて設置されている電解槽、
塩素化エチレン類を含み、pHが7〜12に調製された被処理物を上記陰極を含む陰極区画の下部に形成される傾斜部下端から吸引すると共に陰極区画上部に戻す被処理物循環手段
当該陽極と当該隔膜の間に形成される陽極区画に満たされるアノード液、
アノード液を冷却する熱交換器、
当該熱交換器で冷却されたアノード液が送液されるアノード液槽、
アノード液槽から当該陽極区画にアノード液を循環する手段を備える、塩素化エチレン類の脱塩素装置。
【請求項7】
上記被処理物循環手段が渦巻きポンプである、請求項7に記載された塩素化エチレン類の脱塩素装置。
【請求項8】
上記隔膜が陽イオン交換膜である、請求項7又は8に記載された塩素化エチレン類の脱塩素装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力施設内で発生するテトラクロロエチレン廃液、工場排水等の塩素化エチレン類を含む被処理物の脱塩素方法と脱塩素装置に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラクロロエチレンが原子力施設内のアスファルト固化装置点検時の洗浄剤として使用されている。発生するテトラクロロエチレン廃液は、アスファルト及びアスファルト中に取り込まれている放射性物質を含む不溶性固形物、水分、低沸点溶剤等の不純物を含有しているので、当該テトラクロロエチレン廃液は通常の産業廃棄物処理に付されない。そこで、放射性物質を含有するテトラクロロエチレン廃液が蒸留されて得られるテトラクロロエチレンと純水及び鉄複合粒子が混合され、テトラクロロエチレンが分解されるテトラクロロエチレン廃液の処理方法が検討された(例えば、特許文献1参照)。しかしながら特許文献1に記載の方法では、鉄複合粒子の酸化とテトラクロロエチレンの還元とが当量反応として生じることから、大量のテトラクロロエチレンを本方法単独で処理しようとすると、大量の鉄複合粒子を必要とし、また廃棄物である酸化鉄が大量に発生する問題があった。
【0003】
一方、有機化合物含有水の電解処理が、導電性ダイヤモンドを用いた陰極を備える陰極室と導電性ダイヤモンドを用いた陽極を備える陽極室とがイオン交換体によって区画された電解装置によって行われると共に、前記陰極室と陽極室との間で前記有機化合物含有水を循環処理する有機化合物含有水の処理方法(例えば、特許文献2参照)、カーボンクロス陰極区画と陽極区画に分けられた電解槽で塩素化有機化合物の脱塩素方法(例えば、非特許文献1参照)が検討された。
しかしながら特許文献2に記載の方法では、大量の有機塩素化合物を分解させようとすると、系内に脱塩素された塩素イオンが蓄積するに伴い、陽極で次亜塩素酸イオンの発生、陰極で次亜塩素酸イオンの塩素イオンへの還元反応が優勢となり、有機塩素化合物の分解が停滞する問題があった。
また、非特許文献1に記載の方法では、カーボンクロスで脱塩素を生じさせるために非常に高い容積当たり電流密度(5.6〜58mA/mL、本願の実施例と同様の500mL容の反応容器を想定すると2800〜29000mA)が必要となり、実用的でないという問題があった。
【0004】
更に、(i)電解質を含む水の電気分解によって生成する機能水とハロゲン化脂肪族炭化水素化合物または芳香族化合物とを光照射下で接触させる工程、および(ii)該工程(i)によって得られる液体を中和する工程、とを有するハロゲン化脂肪族炭化水素化合物または芳香族化合物の分解方法が検討された(例えば、特許文献3参照)。
しかし、特許文献3に記載の方法では、ハロゲン化脂肪族炭化水素化合物または芳香族化合物は陽極で発生する機能水とのみ光照射下で接触するように構成されており、還元脱塩素化反応ではなく酸化反応が生じる。そのためジクロロ酢酸などの有害な分解生成物が生じる問題があり、後処理として微生物処理を組み込む必要があるなどという問題があった。すなわち、高濃度の塩素化脂肪族炭化水素化合物を含む多量の被処理物を、低い電流量で、短時間で脱塩素する有効な方法が望まれていた
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−203930号公報
【特許文献2】特開2004−202283号公報
【特許文献3】特開2000−225336号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S. M. Kulikov 外4名、Electrochimica Acta, Volume 41, Issue 4, March 1996, Pages 527-531
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、高濃度の塩素化エチレン類を含む多量の被処理物を短時間で脱塩素する方法が望まれていたが、このような脱塩素方法は提供されていなかった。
本発明が解決しようとする課題は、高濃度の塩素化エチレン類を含む多量の被処理物を短時間で脱塩素する方法及び当該方法の実施のための装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、高濃度の塩素化エチレン類を含む被処理物が、陰極(但し、炭素電極を除く)及び陽極を備える電解槽中で当該陰極とのみ接触させられ、電気化学的脱塩素処理に付されると塩素化エチレン類が脱塩素されることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明の塩素化エチレン類の脱塩素方法は、塩素化エチレン類を含む被処理物が、陰極(但し、炭素電極を除く)及び陽極を備える電解槽中で当該陰極とのみ接触させられ、当該被処理物のpHが7〜12で電気化学的脱塩素処理が実施され、当該陽極は当該陰極と隔膜で離隔され、当該電気化学的脱塩素処理の際、当該陽極と隔膜の間に形成される陽極区画に満たされるアノード液は、冷却され循環される。上記陰極の好ましい材質は銅又は銅合金である。上記陰極の更に好ましい材質はモネル合金である。
【0010】
上記電気化学的脱塩素処理に付されている被処理物は、好ましくは上記電解槽の下部に形成される傾斜部下端から吸引されると共に電解槽上部に戻されて循環される。
上記電気化学的脱塩素処理により得られた被処理物は、好ましくは、純水及び鉄複合粒子と混合され、脱塩素処理が実施される。
【0011】
本発明の塩素化エチレン類の脱塩素装置は、陰極(但し、炭素電極を除く)と陽極が隔膜で離隔されて設置されている電解槽、塩素化エチレン類を含み、pHが7〜12に調製された被処理物を上記陰極を含む陰極区画の下部に形成される傾斜部下端から吸引すると共に陰極区画上部に戻す被処理物循環手段を備える。
好ましい上記被処理物循環手段は渦巻きポンプであり、好ましい上記隔膜は陽イオン交換膜である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の塩素化エチレン類の脱塩素方法及び本発明の塩素化エチレン類の脱塩素装置は、高濃度の塩素化エチレン類を含む多量の被処理物を短時間で脱塩素できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】塩素化エチレン類の脱塩素装置の概略を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施態様を表す図面を示し、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の塩素化エチレン類の脱塩素装置の概略を示す図である。電解槽1は陰極2及び陽極3を備えている。陰極2及び陽極3は電源4に接続されている。陽極3は隔膜で被覆されており、電解槽1に注入された被処理物は陰極2と接触するが、陽極3と接触しない。陽極3と隔膜の間に形成される陽極区画を満たすアノード液は、電気分解の際、熱交換器5で冷却されてアノード液槽6に送液され、更にアノード液槽6から陽極3と分離膜の間に形成される空隙への循環される。
【0015】
陰極2は、銅、銅合金、モネル合金(ニッケルと銅の合金)、ニッケル、ステンレス、鉄等の材料から構成される。ただし、陰極2の材料は炭素ではない。陰極2の好ましい構成材料は銅、銅合金であり、特にモネル合金が好ましく用いられる。
陽極3は、アルミニウム、チタン、白金族金属、白金族コート金属等の材料から構成される。陽極3として、例えば、酸化イリジウムコートチタン電極を用いることができる。
【0016】
上記隔膜の原料の具体例は、陽イオン交換膜;官能基を有しないMF(マイクロフィルタ)膜、UF(ウルトラフィルタ)膜、セラミックなどの多孔質濾材;ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン製の織布;マニラ麻;ガラス繊維;多孔性プラスチックフィルム等である。これらの官能基を有しない隔膜として、孔径が5μm以下で、非加圧条件でガスを透過しないものが好ましい。上記隔膜の市販品の具体例は、Schweiz Seidengazefabrik製PE-10膜、Flon Industry製NY1-HD膜などである。上記隔膜の好ましい原料は陽イオン交換膜である。
必要に応じて濾過、蒸留等の前処理に付された塩素化エチレン類を含む廃液は、無水硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム等の電解質が溶解されている、水、エタノール、メタノール、アセトニトリル、DMSO等の極性溶媒に分散または溶解され、塩素化エチレン類を含む被処理物が得られる。当該廃液の極性溶媒への分散または溶解は、電解槽1への注入前に実施されていてもよく、電解槽1中で実施されてもよい。
【0017】
塩素化エチレン類を含む被処理物が電解槽1の陰極区画に注入され、アノード液が陽極区画に注入された後、塩素化エチレン類の電気化学的脱塩素処理が実施される。アノード液は、陰極区画に注入される塩素化エチレン類を含む被処理物の調製時に使用された電解液と同一組成のもの又は別組成の電解液である。
【0018】
電気分解の際、当該被処理物のpHは7〜12である。当該pHが低すぎると、被処理物中の水素イオン濃度が上昇して陰極2表面の水素イオンの還元反応(水素ガスの発生)が容易になり、陰極電位が上昇して塩素化エチレンの還元脱塩素化反応が起こりにくくなる結果、塩素化エチレン類の分解速度が低下するか、塩素化エチレン類の分解が起きなくなる。隔膜が陽イオン交換膜である場合、当該pHが高すぎると、陽イオン交換膜の通電時電圧が上昇し、イオン交換能が低下して電気抵抗が増加する。
【0019】
電気分解の際、電解槽1中の被処理物は攪拌され得る。被処理物の攪拌手段は特定のものに限定されない。被処理物は電解槽1下部に形成される傾斜部下端から被処理物循環手段であるポンプ7により吸引されると共に電解槽1上部に戻されて循環され、攪拌され得る。ポンプ7の具体例は、ダイヤフラムポンプ、渦巻きポンプである。好ましいポンプ7は渦巻きポンプである。
【0020】
本発明の塩素化エチレン類の脱塩素方法及び脱塩素装置で脱塩素される塩素化エチレン類の具体例は、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、ジクロロエチレン、塩化ビニルである。
【0021】
上記電気化学的脱塩素処理後、被処理物、純水及び鉄複合粒子が混合され、塩素化エチレン類の脱塩素処理が実施され得る。当該脱塩素処理は、例えば、特許文献1に記載されている図1の分解槽ユニット16で示される装置で実施される。
上記一連の操作は、回分式でも連続式でもよい。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。各種測定方法は次のとおりである。
【0023】
(1)エチレンの1〜4塩素置換体濃度の測定方法
陰極区画から採取された5mLの試料液がバイアル瓶に入れられ、直ちにテフロン(登録商標)ライナー付きブチルゴム栓とアルミシールで密栓され、30分以上振とうされ、気液の塩素化エチレン濃度を平衡化させた。次いで、200μLの気相がガスタイトシリンジで採取されサンプルガスとされた。PIDガスクロマトグラフ装置(hnu社製GC−311)が使用され、注入口及び検出器温度110℃、カラム温度70℃でカラム(hnu社製NBW−311)にサンプルガスが注入され、エチレンの1〜4塩素置換体濃度が測定された。
【0024】
(2)塩素イオン濃度の測定方法
10mLの1N硝酸及び5g/Lの硝酸銀溶液1mLが、100mL共栓付きメスシリンダーに採取された適量の試料(塩素イオンとして0.1mg以下)に加えられ、更に純水が加えられて100mLの溶液が調製され、十分に振り混ぜられて10分間放置された。調製された溶液の一部が50mm吸収セルに移され、塩素イオン濃度が420nmの波長で分光光度計((株)日立製作所製U−1800)により検量線法で測定された。
【0025】
(3)陰極電位の測定方法
比較電極(TOA/DKK社製HC−151A)が電解槽の陰極区画に浸漬され、陰極と比較電極の間の電位差が北斗電工(株)製ポテンショスタットHA−151Aにより測定された。測定値は以下の式により水素標準電極電位に換算された。
水素標準電極電位(VvsSHE)=比較電極測定値(VvsAg/AgCl)+0.199
【0026】
実施例1及び2
水酸化ナトリム溶液が500mL容セパラブルフラスコ中の40g/Lの無水硫酸ナトリウム溶液に添加され、pHが12に調製された。なお、塩素イオン濃度の測定感度を向上させるため、無水硫酸ナトリム溶液が電解液として使用されたが、10g/L塩化ナトリウム溶液が電解液として使用され得る。
袋状に成形された陽イオン交換膜(デュポン(株)製N424)に入れられた陽極(ペルメレック電極(株)製DSE電極)と陰極としての30メッシュステンレス金網((有)福沢金網製作所製)が上記セパラブルフラスコに配置され、テトラクロロエチレン又はトリクロロエチレンが陰極区画に初期濃度7100mg/Lとなるように添加され、0.15Aの低電流が直流電源装置((株)高砂製作所製LX018−2A)で通電され、上記セパラブルフラスコ内の電解液の回転線速度が内周の3/4の地点で230mm/秒となるようにマグネチックスターラーの回転速度が設定され、電気分解が行われた。被処理物中の塩素イオン濃度が経時的に測定された。塩素イオンはテトラクロロエチレン又はトリクロロエチレンが還元脱塩素化されて生じるから、塩素イオン濃度の増加速度からテトラクロロエチレン又はトリクロロエチレンの分解速度が計算された。結果が表1に示されている。
【0027】
【表1】
【0028】
この結果より、本処理方法はテトラクロロエチレン、トリクロロエチレンの分解に有効であることが示された。
また、PIDガスクロマトグラフィーを用いた測定により、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレンの中間分解産物として1,1−ジクロロエチレン、t−1,2−ジクロロエチレン、塩化ビニルモノマーが微量発生し、それらが経時的にエチレンにまで分解されて減少、消滅していく現象が観察されたことから、本処理方法は広く塩素化エチレン類全般に適用性があることが認められた。
【0029】
PIDガスクロマトグラフィーの分析結果から、微量の1,1−ジクロロエチレン、t−1,2−ジクロロエチレン及び塩化ビニルが、テトラクロロエチレン又はトリクロロエチレンの電気化学的分解反応の中間分解産物として発生し、それらがエチレンに変化していくことが観察された。従って、この脱塩素方法が塩素化エチレン類全般に適用し得ると認められた。
【0030】
実施例3、4及び参考例1、2
実施例1及び2で使用された装置が用いられ、テトラクロロエチレンが初期濃度7100mg/Lとなるように無水硫酸ナトリウム溶液に添加されて電気化学的脱塩素処理が実施された。被処理物のpHが12、7、5、4のときの被処理物中の塩素イオン濃度が測定され、塩素化エチレンの分解速度が計算された。結果が表2に示されている。
【0031】
【表2】
【0032】
表2より、pH12〜7の範囲内では陰極電位、分解速度ともに大きな変化が見られないが、pHが5まで低下すると陰極電位が上昇して分解速度が低下し、さらにpHが4まで低下すると全く分解が生じなくなってしまうとの知見が得られた。
これは、pHが低下して電解液中の水素イオン濃度が上昇することにより、陰極表面での水素イオンの還元(水素ガスの発生)反応が容易となり、電極電位が上昇することによって塩素化エチレンの還元脱塩素化反応が起こりにくくなるためと考えられた。
このことから、本発明の電解処理においてはpHは7以上に制御される。
また、pHが12.5を超える電解液に長期間浸漬すると、陽イオン交換膜の内外での通電時電圧が上昇する、すなわちイオン交換能が低下して電気抵抗が増すという知見が得られたことから、pHは12以下に制御される。
【0033】
実施例5〜8
陰極金網の材質が変更される以外、実施例1及び2で使用された装置と同一の装置が用いられ、テトラクロロエチレンが初期濃度7100mg/Lとなるように無水硫酸ナトリウム溶液に添加されて電気化学的脱塩素処理が実施された。被処理物のpHが10〜12である時の被処理物中の塩素イオン濃度が測定され、塩素化エチレンの分解速度が計算された。結果が表3に示されている。
【0034】
【表3】
【0035】
表3より、ステンレス、ニッケル電極と比較して、銅、および銅合金であるモネル合金電極は有意に高い分解速度を示した。モネル合金は銅とニッケルの合金であり、この2成分のうち銅は高い分解活性を示し、ニッケルは低い分解活性を示したことから、銅が電解還元処理反応に有効な成分であると考えられる。
一方、銅電極は繰り返し使用することにより次第に緑青(さび)の発生が認められ、金網の線径が細くなっていく傾向が認められたのに対し、モネル合金は表面がやや黒色に変化したものの、腐食が進行しなかった。これは、銅が塩素イオンによる腐食に弱いのに対し、モネル合金は塩素イオンに対する耐食性があることによると考えられた。
これらの知見から、陰極の材質としては銅および銅合金を用いることが望ましく、さらに望ましくはモネル合金を用いることが望ましいといえる。
【0036】
実施例9〜12
500mL容セパラブルフラスコに代えて2L容セパラブルフラスコが使用され、攪拌手段が下記のとおり変更される以外、実施例1及び2で使用された装置と同一の装置が用いられ、テトラクロロエチレンが初期濃度7100mg/Lとなるように無水硫酸ナトリウム溶液に添加されて電気化学的脱塩素処理が実施された。被処理物のpHが10〜12である時の被処理物中の塩素イオン濃度が測定され、塩素化エチレンの分解速度が計算された。結果が表4に示されている。
(1)上記2L容セパラブルフラスコ内の電解液の回転線速度が内周の3/4の地点で140mm/秒となるようにマグネチックスターラーの回転速度が設定された(実施例9)。
(2)被処理物が上記2L容セパラブルフラスコ底部からダイヤフラムポンプにより吸引されると共に上記2L容セパラブルフラスコ上部に戻されて循環された(実施例10)。
(3)上記2L容セパラブルフラスコが傾斜されて、その底部に20度の勾配が作られ、被処理物が上記2L容セパラブルフラスコ最下部からダイヤフラムポンプにより吸引されると共に上記2L容セパラブルフラスコ上部に戻されて循環された(実施例11)。
(4)上記2L容セパラブルフラスコが傾斜されて、その底部に20度の勾配が作られ、被処理物が記2L容セパラブルフラスコ底部から渦巻きポンプにより吸引されると共に上記2L容セパラブルフラスコ上部に戻されて循環された(実施例12)。
【0037】
【表4】
【0038】
表4より、装置的に実施例9の機械攪拌よりも製作が容易である循環混合を採用した実施例10ないし12の系において、実施例10の底面に傾斜がない系ではテトラクロロエチレンの油滴がリアクタの底部に滞留する現象が認められ、混合が効率的に行われなかった結果、分解速度は実施例9の機械攪拌系の1/4未満となった。
これに対してリアクタの底部に傾斜を設け、その最下部から電解液を引き抜いた実施例11及び12の系では、テトラクロロエチレンの油滴が傾斜面を滑り落ちてポンプに吸引され、リアクタの上部に吐出される循環混合が行われ、分解速度が向上した。特に渦巻きポンプを用いた実施例12の系では、ポンプ内での旋回流によってテトラクロロエチレンの油滴がせん断され、水中に分散される現象が起こり、水中にほぼ均一にテトラクロロエチレンが分散された。その結果、実施例12の系の分解速度は実施例10の系の1.5倍以上に増加した。
これらの知見より、本発明の攪拌方法としては陰極区画の下部から液を吸引し、再び陰極区画に戻して液循環を行なうことが望ましく、さらに望ましくは陰極区画の底面に傾斜があってその最下部から液を吸引することがのぞましく、さらに望ましくは使用するポンプが旋回流を生じる渦巻きポンプであることが望ましい。
【0039】
実施例13
実施例12で使用された装置と同一の装置が用いられ、テトラクロロエチレンが初期濃度7100mg/lとなるように無水硫酸ナトリウム溶液に添加されて電気化学的脱塩素処理が実施され、被処理物中のテトラクロロエチレン濃度が経時的に測定された。結果が表5に示されている。
【0040】
【表5】
【0041】
テトラクロロエチレン濃度は48時間で3000mg/L、98時間で22mg/Lまで低下したが、その後分解速度が低下し、194時間後(8日後)でも10mg/Lが残留していた。この知見より、本発明の電解還元処理単独では、低濃度のテトラクロロエチレン処理効率は低いことが示された。
【0042】
実施例13の脱塩素開始から194時間経過後に、670mLの被処理物が2L容セパラブルフラスコから採取され、1質量%の鉄複合粒子(戸田工業(株)製RNIP)水分散液と混合され、全量が2Lとされた後、攪拌機(柴田科学製)で緩速攪拌(48rpm)され、被処理物中のテトラクロロエチレン濃度が経時的に測定された。結果が表6に示されている。
【0043】
【表6】
【0044】
トリクロロエチレン、ジクロロエチレン及び塩化ビニルは、鉄複合粒子による処理開始から168時間経過後の被処理物中に検出されなかった。この段階での被処理物中のテトラクロロエチレン濃度は排水基準値(0.1mg/L)以下であった。
また、電解処理と鉄複合粒子処理はいずれも還元処理であることから、前段の処理で形成された還元的雰囲気が後段の処理に悪影響を与えることがなく、組合せとして好都合である。
これらの結果から、電解処理を行なった処理液をさらに鉄複合粒子と混合することにより、テトラクロロエチレンの排水基準値を満たすことができる望ましい効果が得られることが知見された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の塩素化エチレン類の脱塩素方法及び塩素化エチレン類の脱塩素装置は、高濃度の塩素化エチレン類を含む被処理物の短時間で安価な脱塩素に好適にある。
【符号の説明】
【0046】
1…電解槽、2…陰極、3…陽極、4…電源、5…熱交換器、6…アノード液槽、7…ポンプ
図1