特許第6061329号(P6061329)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6061329触媒層構成体及び同触媒層構成体の調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061329
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】触媒層構成体及び同触媒層構成体の調製方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20170106BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20170106BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20170106BHJP
【FI】
   H01M4/86 M
   H01M4/86 H
   H01M4/86 B
   H01M4/88 K
   !H01M8/10
【請求項の数】15
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2012-237468(P2012-237468)
(22)【出願日】2012年10月29日
(65)【公開番号】特開2013-179030(P2013-179030A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2015年10月16日
(31)【優先権主張番号】特願2012-21358(P2012-21358)
(32)【優先日】2012年2月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 直敏
(72)【発明者】
【氏名】藤ヶ谷 剛彦
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/017446(WO,A1)
【文献】 特開2002−246041(JP,A)
【文献】 特開2003−282067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 4/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンに触媒粒子を担持させた燃料電池の触媒層構成体であって、
前記触媒粒子を、前記カーボン上に、上下二層で構成される担持層を介して担持させると共に、
前記担持層の上層をプロトン伝導性を有する重合体により形成し、前記触媒粒子にて発生したプロトンや、前記触媒粒子に供給すべきプロトンを伝導させるプロトン伝導層とする一方、
前記担持層の下層を前記プロトン伝導層と前記カーボンとの両者に親和性を有する重合体であって、ベンゼン環と塩基性を呈する構造とが分子構造中に含まれる重合体により形成し、前記プロトン伝導層と前記カーボンとを接着する接着層としたことを特徴とする触媒層構成体。
【請求項2】
前記触媒粒子は、前記担持層の上層と下層との間に担持させたことを特徴とする請求項1に記載の触媒層構成体。
【請求項3】
前記接着層は、不対電子を有する原子が分子構造中に含まれる重合体により形成したことを特徴とする請求項に記載の触媒層構成体。
【請求項4】
前記プロトン伝導層は、酸性側鎖を有する重合体により形成したことを特徴とする請求項1〜いずれか1項に記載の触媒層構成体。
【請求項5】
前記プロトン伝導層は酸性側鎖を有する重合体により形成し、前記触媒粒子を前記プロトン伝導層の表面にて担持させたことを特徴とする請求項1に記載の触媒層構成体。
【請求項6】
前記カーボンは、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブから選ばれるいずれか1つ、又は2つ以上の混合物であることを特徴とする請求項1〜いずれか1項に記載の触媒層構成体。
【請求項7】
前記接着層は、ポリベンゾイミダゾールを主成分として形成したことを特徴とする請求項1〜いずれか1項に記載の触媒層構成体。
【請求項8】
前記プロトン伝導層は、ポリビニルホスホン酸を主成分として形成したことを特徴とする請求項1〜いずれか1項に記載の触媒層構成体。
【請求項9】
請求項1〜いずれか1項に記載の触媒層構成体を電極シートの表面に堆積させて触媒層を形成したことを特徴とする触媒付き電極。
【請求項10】
請求項に記載の触媒付き電極を少なくとも酸素極側電極として備えることを特徴とするセル。
【請求項11】
請求項1〜いずれか1項に記載の触媒層構成体を固体高分子膜の少なくとも酸素極側表面に堆積させて触媒層を形成したことを特徴とする触媒付き固体高分子膜。
【請求項12】
請求項11に記載の触媒付き固体高分子膜を備えることを特徴とするセル。
【請求項13】
請求項10又は請求項12に記載のセルを備えた燃料電池。
【請求項14】
カーボンに触媒粒子を担持させた燃料電池の触媒層構成体の調製方法において、
ベンゼン環と不対電子を有する原子とを分子構造中に備えた接着層形成用重合体を、同接着層形成用重合体に溶解性を示す第1の溶媒に溶解させて第1の分散媒を調製し、同第1の分散媒に前記カーボンを分散させ、その後濾過して濾過残渣を回収することにより、前記接着層形成用重合体が前記カーボンの表面に肉厚状に付着した接着層形成用重合体付着カーボンを得る工程と、
同接着層形成用重合体付着カーボンを前記第1の溶媒にて洗浄することにより、前記カーボンの表面に付着した余剰の接着層形成用重合体を除去して、前記カーボンの表面に薄膜状の接着層が形成された接着層形成カーボンを生成する工程と、
第2の分散媒に前記接着層形成カーボンを分散して調製した分散液に、触媒粒子又は触媒原料成分を添加して、前記接着層の表面に触媒粒子が付着した触媒付着カーボンを生成する工程と、
酸性側鎖を有するプロトン伝導層形成用重合体を、同プロトン伝導層形成用重合体に溶解性を示す第2の溶媒に溶解させて第3の分散媒を調製し、同第3の分散媒に前記触媒付着カーボンを分散させ、その後濾過して濾過残渣を回収することにより、前記プロトン伝導層形成用重合体が前記触媒付着カーボンの表面に肉厚状に付着したプロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを得る工程と、
同プロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを前記第2の溶媒にて洗浄することにより、前記触媒付着カーボンの表面に付着した余剰のプロトン伝導層形成用重合体を除去して、前記触媒付着カーボンの表面に薄膜状のプロトン伝導層が形成された触媒層構成体を得る工程と、
を有することを特徴とする触媒層構成体の調製方法。
【請求項15】
カーボンに触媒粒子を担持させた燃料電池の触媒層構成体の調製方法において、
ベンゼン環と塩基性を呈する構造とを分子構造中に備えた接着層形成用重合体を、同接着層形成用重合体に溶解性を示す第1の溶媒に溶解させて第1の分散媒を調製し、同第1の分散媒に前記カーボンを分散させ、その後濾過して濾過残渣を回収することにより、前記接着層形成用重合体が前記カーボンの表面に肉厚状に付着した接着層形成用重合体付着カーボンを得る工程と、
同接着層形成用重合体付着カーボンを前記第1の溶媒にて洗浄することにより、前記カーボンの表面に付着した余剰の接着層形成用重合体を除去して、前記カーボンの表面に薄膜状の接着層が形成された接着層形成カーボンを生成する工程と、
酸性側鎖を有するプロトン伝導層形成用重合体を、同プロトン伝導層形成用重合体に溶解性を示す第2の溶媒に溶解させて第2の分散媒を調製し、同第2の分散媒に前記接着層形成カーボンを分散させ、その後濾過して濾過残渣を回収することにより、前記プロトン伝導層形成用重合体が前記接着層形成カーボンの表面に肉厚状に付着したプロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを得る工程と、
同プロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを前記第2の溶媒にて洗浄することにより、前記接着層形成カーボンの表面に付着した余剰のプロトン伝導層形成用重合体を除去して、前記接着層形成カーボンの表面に薄膜状のプロトン伝導層が形成されたプロトン伝導層形成カーボンを得る工程と、
第3の分散媒に前記プロトン伝導層形成カーボンを分散して調製した分散液に、触媒粒子又は触媒原料成分を添加して、前記プロトン伝導層形成カーボンの表面に触媒粒子が付着した触媒層構成体を生成する工程と、
を有することを特徴とする触媒層構成体の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の触媒層構成体及び同触媒層構成体の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気化学反応によって電力の取出しを可能とした燃料電池への関心が高まっている。
【0003】
燃料電池は、例えば水素などの負極活物質と、例えば空気中の酸素などの正極活物質とを供給し反応させることによって、負極活物質の供給側に配設された電極(以下、水素極ともいう。)と、正極活物質側の供給側に配設された電極(以下、酸素極ともいう。)との間に電位差を生じさせて電力を取り出す電池であり、これら活物質を補充し続けることで、電気容量の制限なく電力の取出しを永続的に行うことができるという特徴がある。また、起電に伴う副産物は主に水である場合が多く、経済的な観点や環境負荷の観点から広く注目されている。
【0004】
このような燃料電池の一つに分類される固体高分子形燃料電池は、一般に、ナフィオン(登録商標)等のプロトン導電性重合体よりなる固体高分子膜の両面に触媒層を形成し、触媒層が形成された固体高分子膜をカーボンペーパーなどの電極で両側からサンドイッチ状に挟んでセルを形成し、このセルを単一で、又は、直列又は並列に複数連結(スタック)することで構成される。
【0005】
これら燃料電池の各構成の中でも触媒層は、負極活物質から電子やプロトンを生成したり、電子とプロトンを正極活物質と反応させる場であり、燃料電池の起電の仕組みにおいて重要な役割を担う部位である。
【0006】
触媒層の構成の一例としては、例えば、賦活処理を施したカーボンブラックに白金の微粒子を担持させた所謂プラチナカーボンブラックを触媒層構成体とし、プロトン導電性を有するナフィオン(登録商標;以下、単に「ナフィオン」と称する)と共に電極又は固体高分子膜の両面に付着させたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
このような触媒層の構成によれば、カーボンブラックの表面に担持されている白金を触媒として機能させて上述の反応を生起し、起電可能な燃料電池を構成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平09−092293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来のプラチナカーボンブラックを触媒層構成体とした燃料電池は、例えば酸素極側の触媒層において、起電により生成した水分により、ナフィオン等のプロトン伝導性重合体が流失し易いという問題があった。
【0010】
すなわち、水素極にて生じたプロトンは、高分子電解質膜を介して酸素極側に至り、酸素極側の触媒層のプロトン伝導性重合体を通じて白金表面にて分子状酸素や電子と反応するのであるが、プロトン伝導に必要なプロトン伝導性重合体の酸性官能基により、プロトン伝導性重合体自体の水和性が高く、燃料電池の稼働と共に酸素極側の触媒層のプロトン伝導性重合体が、反応により生成した水によって流失して触媒層が劣化し、起電力が低下するという問題がある。
【0011】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、燃料電池の稼働によって水分が発生した場合であっても、触媒層からのプロトン伝導性重合体の流失を防止することのできる触媒層構成体を提供する。また本発明では、同触媒層構成体の調製方法についても提供する。さらに、本発明では、このような触媒層構成体により構成した触媒層を備える触媒付き電極や、触媒付き固体高分子膜、これら触媒付き電極や触媒付き固体高分子膜を備えたセル、同セルを備えた燃料電池についても提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記従来の課題を解決するために、請求項1に係る本発明では、カーボンに触媒粒子を担持させた燃料電池の触媒層構成体であって、前記触媒粒子を、前記カーボン上に、上下二層で構成される担持層を介して担持させると共に、前記担持層の上層をプロトン伝導性を有する重合体により形成し、前記触媒粒子にて発生したプロトンや、前記触媒粒子に供給すべきプロトンを伝導させるプロトン伝導層とする一方、前記担持層の下層を前記プロトン伝導層と前記カーボンとの両者に親和性を有する重合体であって、ベンゼン環と塩基性を呈する構造とが分子構造中に含まれる重合体により形成し、前記プロトン伝導層と前記カーボンとを接着する接着層とした。
【0014】
また、請求項に係る本発明では、請求項1に記載の触媒層構成体において、前記触媒粒子は、前記担持層の上層と下層との間に担持させたことに特徴を有する。
【0015】
また、請求項に係る本発明では、請求項に記載の触媒層構成体において、前記接着層は、不対電子を有する原子が分子構造中に含まれる重合体により形成したことに特徴を有する。
【0016】
また、請求項に係る本発明では、請求項1〜いずれか1項に記載の触媒層構成体において、前記プロトン伝導層は、酸性側鎖を有する重合体により形成したことに特徴を有する。
【0017】
また、請求項に係る本発明では、請求項1に記載の触媒層構成体において、前記プロトン伝導層は酸性側鎖を有する重合体により形成し、前記触媒粒子を前記プロトン伝導層の表面にて担持させたことに特徴を有する。
【0018】
また、請求項に係る本発明では、請求項1〜いずれか1項に記載の触媒層構成体において、前記カーボンは、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブから選ばれるいずれか1つ、又は2つ以上の混合物であることに特徴を有する。
【0019】
また、請求項に係る本発明では、請求項1〜いずれか1項に記載の触媒層構成体において、前記接着層は、ポリベンゾイミダゾールを主成分として形成したことに特徴を有する。
【0020】
また、請求項に係る本発明では、請求項1〜いずれか1項に記載の触媒層構成体において、前記プロトン伝導層は、ポリビニルホスホン酸を主成分として形成したことに特徴を有する。
【0021】
また、請求項に係る本発明では、触媒付き電極において、請求項1〜いずれか1項に記載の触媒層構成体を電極シートの表面に堆積させて触媒層を形成した。
【0022】
また、請求項10に係る本発明では、セルにおいて、請求項に記載の触媒付き電極を少なくとも酸素極側電極として備えることとした。
【0023】
また、請求項11に係る本発明では、触媒付き固体高分子膜において、請求項1〜いずれか1項に記載の触媒層構成体を固体高分子膜の少なくとも酸素極側表面に堆積させて触媒層を形成した。
【0024】
また、請求項12に係る本発明では、セルにおいて、請求項11に記載の触媒付き固体高分子膜を備えることとした。
【0025】
また、請求項13に係る本発明では、燃料電池において、請求項10又は請求項12に記載のセルを備えることとした。
【0026】
また、請求項14に係る本発明では、カーボンに触媒粒子を担持させた燃料電池の触媒層構成体の調製方法において、ベンゼン環と不対電子を有する原子とを分子構造中に備えた接着層形成用重合体を、同接着層形成用重合体に溶解性を示す第1の溶媒に溶解させて第1の分散媒を調製し、同第1の分散媒に前記カーボンを分散させ、その後濾過して濾過残渣を回収することにより、前記接着層形成用重合体が前記カーボンの表面に肉厚状に付着した接着層形成用重合体付着カーボンを得る工程と、同接着層形成用重合体付着カーボンを前記第1の溶媒にて洗浄することにより、前記カーボンの表面に付着した余剰の接着層形成用重合体を除去して、前記カーボンの表面に薄膜状の接着層が形成された接着層形成カーボンを生成する工程と、第2の分散媒に前記接着層形成カーボンを分散して調製した分散液に、触媒粒子又は触媒原料成分を添加して、前記接着層の表面に触媒粒子が付着した触媒付着カーボンを生成する工程と、酸性側鎖を有するプロトン伝導層形成用重合体を、同プロトン伝導層形成用重合体に溶解性を示す第2の溶媒に溶解させて第3の分散媒を調製し、同第3の分散媒に前記触媒付着カーボンを分散させ、その後濾過して濾過残渣を回収することにより、前記プロトン伝導層形成用重合体が前記触媒付着カーボンの表面に肉厚状に付着したプロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを得る工程と、同プロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを前記第2の溶媒にて洗浄することにより、前記触媒付着カーボンの表面に付着した余剰のプロトン伝導層形成用重合体を除去して、前記触媒付着カーボンの表面に薄膜状のプロトン伝導層が形成された触媒層構成体を得る工程と、を有することとした。
【0027】
また、請求項15に係る本発明では、カーボンに触媒粒子を担持させた燃料電池の触媒層構成体の調製方法において、ベンゼン環と塩基性を呈する構造とを分子構造中に備えた接着層形成用重合体を、同接着層形成用重合体に溶解性を示す第1の溶媒に溶解させて第1の分散媒を調製し、同第1の分散媒に前記カーボンを分散させ、その後濾過して濾過残渣を回収することにより、前記接着層形成用重合体が前記カーボンの表面に肉厚状に付着した接着層形成用重合体付着カーボンを得る工程と、同接着層形成用重合体付着カーボンを前記第1の溶媒にて洗浄することにより、前記カーボンの表面に付着した余剰の接着層形成用重合体を除去して、前記カーボンの表面に薄膜状の接着層が形成された接着層形成カーボンを生成する工程と、酸性側鎖を有するプロトン伝導層形成用重合体を、同プロトン伝導層形成用重合体に溶解性を示す第2の溶媒に溶解させて第2の分散媒を調製し、同第2の分散媒に前記接着層形成カーボンを分散させ、その後濾過して濾過残渣を回収することにより、前記プロトン伝導層形成用重合体が前記接着層形成カーボンの表面に肉厚状に付着したプロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを得る工程と、同プロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを前記第2の溶媒にて洗浄することにより、前記接着層形成カーボンの表面に付着した余剰のプロトン伝導層形成用重合体を除去して、前記接着層形成カーボンの表面に薄膜状のプロトン伝導層が形成されたプロトン伝導層形成カーボンを得る工程と、第3の分散媒に前記プロトン伝導層形成カーボンを分散して調製した分散液に、触媒粒子又は触媒原料成分を添加して、前記プロトン伝導層形成カーボンの表面に触媒粒子が付着した触媒層構成体を生成する工程と、を有することとした。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、燃料電池の稼働によって水分が発生した場合であっても、触媒層からのプロトン伝導性重合体の流失を防止することのできる触媒層構成体を提供することができる。また、上述の効果を有する触媒層構成体の調製方法についても提供することができる。さらに、本発明では、上述の効果を有する触媒層構成体により構成した触媒層を備える触媒付き電極や、触媒付き固体高分子膜、これら触媒付き電極や触媒付き固体高分子膜を備えたセル、同セルを備えた燃料電池についても提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】燃料電池の概要を示した説明図である。
図2】本実施形態に係る触媒層構成体の構造の例を示した説明図である。
図3】本実施形態に係る触媒層構成体の調製方法の概要を示した説明図である。
図4】MWNT/PBI/Ptの検鏡像である。
図5】MWNT/PBI/Ptの検鏡像である。
図6】MWNT/PBI/Pt及びMWNT/PBI/Pt/PVPAの検鏡像である。
図7】MWNT/PBI/Ptの検鏡像である。
図8】本実施形態に係る触媒層構成体の調製方法の一部を示した説明図である。
図9】MWNT/PBI/Pt/PVPAの検鏡像である。
図10】MWNT/PBI/Pt/PVPAのX線光電子分光測定により得られたスペクトルである。
図11】ECSAの比較結果を示す説明図である。
図12】プロトン伝導層流失試験結果を示す説明図である。
図13】本実施形態に係る触媒付き電極及びセルの作成過程を示した説明図である。
図14】本実施形態に係るセルの特性試験結果を示す説明図である。
図15】本実施形態に係るセルの比較試験の概要を示す説明図である。
図16】本実施形態に係るセルの比較試験の結果を示す説明図である。
図17】本実施形態に係るセルの比較試験の結果を示す説明図である。
図18】本実施形態に係るセルの比較試験の結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、カーボンに触媒粒子を担持させた燃料電池の触媒層構成体であって、前記触媒粒子を、前記カーボン上に、上下二層で構成される担持層を介して担持させると共に、前記担持層の上層をプロトン伝導性を有する重合体により形成し、前記触媒粒子にて発生したプロトンや、前記触媒粒子に供給すべきプロトンを伝導させるプロトン伝導層とする一方、前記担持層の下層を前記プロトン伝導層と前記カーボンとの両者に親和性を有する重合体により形成し、前記プロトン伝導層と前記カーボンとを接着する接着層としたことを特徴とする触媒層構成体を提供するものである。
【0031】
ここでは、本実施形態に係る触媒層構成体の理解を容易とするために、まず従来の燃料電池の触媒層の構成について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、気体状の水素を負極活物質とし、気体状の酸素を正極活物質として説明するが、これらの活物質は燃料電池やセルにて採用される反応や仕様等に応じて適宜変更可能であるのは言うまでもない。
【0032】
図1は従来の一般的な固体高分子形燃料電池のセル構造を模式的に示した説明図である。図1に示すように、固体高分子形燃料電池のセル105は、プロトン(H+)を透過させる固体高分子膜100と、同固体高分子膜100の両側に配置された水素極側電極101a及び酸素極側電極101bとを備えており、固体高分子膜100と水素極側電極101aとの間、及び、固体高分子膜100と酸素極側電極101bとの間には、触媒層103が設けられている。
【0033】
また、具体的な図示は省略するが、水素極側には、水素極側に設けられた触媒層(以下、水素極側触媒層103aという。)に負極活物質(水素)を供給するための負極活物質供給手段が設けられており、酸素極側には、酸素極側に設けられた触媒層(以下、酸素極側触媒層103bという)に正極活物質(酸素)を供給するための正極活物質供給手段が設けられている。
【0034】
水素極側触媒層103aは、負極活物質として供給される水素を、プロトンと電子とに分解する反応を行う部位である。水素極側触媒層103aにて発生したプロトンは、固体高分子膜100を通じて酸素極側に至ることとなり、電子は、水素極側電極101aと酸素極側電極101bとを結ぶ導線106を介して酸素極側に至ることとなる。
【0035】
一方、酸素極側触媒層103bは、正極活物質として供給される酸素と、水素極側から固体高分子膜100を介して酸素極側に至ったプロトンと、水素極側から導線106を介して酸素極側に至った電子とで水を生成させる反応を行う部位である。
【0036】
そして、このような構成を備えるセル105によれば、導線106の中途に負荷104を介設しておくことで、セル105にて発生させた電力によって負荷104を稼働させることが可能となる。
【0037】
ここで触媒層103の構成について着目すると、例えば従来のセル105における酸素極側触媒層103bでは、図1に示す拡大図に示すように、触媒層構成体112と、同触媒層構成体112の表面の一部を覆うプロトン伝導層111とで構成されている。
【0038】
触媒層構成体112は、所謂プラチナカーボンブラックと称されるものであり、反応の場として主機能を果たす触媒粒子109が、賦活処理されたカーボンブラック110の表面に直接担持されている。具体的には、賦活処理によってカーボンブラック110の表面に生じたカルボン酸を介して触媒粒子109が担持されている。
【0039】
プロトン伝導層111は、プロトン伝導性を有する重合体によって形成された層であり、複数の触媒層構成体112を互いに連結させつつ、固体高分子膜100を介して酸素極側に至ったプロトンをそれぞれの触媒粒子109に供給する役割を担っている。
【0040】
このような構成により、例えば拡大図中の触媒粒子109aの粒子表面では、固体高分子膜100からプロトン伝導層111を通じて供給されるプロトンと、酸素極側電極101bから同酸素極側電極101bに接触しているカーボンブラック110を介して供給される電子と、薄膜状となったプロトン伝導層111の部分から透過してきた酸素と、が出会い、反応が生起されて水が生成されることとなる。
【0041】
ところが、上述のような従来の触媒層103では、プロトン伝導層111が触媒層構成体112に、何等顕著な相互作用を有することなく単にまとわりついているのみであり、触媒反応によって生じた水によりプロトン伝導層111が徐々に失われてしまうという問題があった。
【0042】
それゆえ、例えば図中に示す触媒粒子109bのように、プロトンの供給が困難な触媒粒子109が増加し、反応に寄与する触媒粒子109が減少することとなり、起電力が低下してしまうこととなっていた。また、プロトン伝導層111が失われることにより、カーボンブラック110からの触媒粒子の脱落が発生し、触媒粒子そのものが失われてしまう場合があった。
【0043】
特に、プロトン伝導層111を構成するプロトン伝導性重合体が、酸性基(酸性側鎖)によってプロトン伝導性を実現しているものにあっては、極めて水に溶け出しやすく、触媒層劣化の大きな原因となっていた。
【0044】
そこで、本実施形態に係る触媒層構成体では、触媒粒子を、カーボン上に、上下二層で構成される担持層を介して担持させると共に、担持層の上層をプロトン伝導性を有する重合体により形成し、触媒粒子にて発生したプロトンや、触媒粒子に供給すべきプロトンを伝導させるプロトン伝導層とする一方、担持層の下層をプロトン伝導層とカーボンとの両者に親和性を有する重合体により形成し、プロトン伝導層とカーボンとを接着する接着層としている。
【0045】
したがって、プロトン伝導層は、カーボンに対して接着層を介して配置されることとなり、水によりプロトン伝導層が失われることを可及的防止することができて、触媒層の劣化や、起電力の低下を抑制することができる。
【0046】
なお、本実施形態のプロトン伝導層を構成する重合体や、接着層を構成する重合体は、有機化合物、無機化合物の何れであっても良く、また、両者の複合体であっても良い。
【0047】
また、本実施形態に係る触媒層構成体に使用する触媒粒子は、例えば水素極側触媒層に用いられる触媒層構成体にあっては、負極活物質を分解して少なくともプロトンと電子とを生成する反応を触媒できるものであれば特に限定されるものではない。
【0048】
また、例えば、酸素極側触媒層に用いられる触媒層構成体に使用する触媒粒子は、プロトンと電子と陽極活物質との反応を触媒できるものであれば特に限定されるものではない。
【0049】
すなわち、このような触媒粒子としては、有機触媒粒子や無機触媒粒子のいずれであってもよく、これらの混合物であっても良い。また、無機触媒粒子としては、例えば金属触媒粒子を好適に用いることができる。より具体的には、白金、ルテニウム、コバルト等の白金系金属を好適に用いることができ、中でも白金がよりこのましい。ただし、ここに示す触媒粒子の例は一例であり、ここに例示していない既知の有機又は無機の触媒や、将来的に見出される未知の触媒の本実施形態に係る触媒層構成体への採用を妨げるものではない。
【0050】
また、本実施形態において接着層は、例えば、ベンゼン環と塩基性を呈する構造とが分子構造中に含まれる重合体により形成しても良い。なお、以下の説明において、接着層を形成する重合体を、単に接着層形成用重合体ともいう。
【0051】
接着層形成用重合体のベンゼン環は、炭素により構成されるカーボン表面のベンゼン環と相互作用してスタッキングすることにより、カーボン表面に接着層がしっかりと定着されることとなる。なお、以下の説明において、この相互作用を「カーボン−接着層間相互作用」とも言う。
【0052】
また、接着層を構成する重合体の塩基性を呈する構造は、プロトン伝導層を構成する重合体(以下、単にプロトン伝導層形成用重合体ともいう。)の酸性側鎖等の酸性基と相互作用することにより、プロトン伝導層が接着層にしっかりと定着されることとなる。なお、以下の説明において、この相互作用を「接着層−プロトン伝導層間相互作用」とも言う。
【0053】
すなわち、接着層がカーボンとプロトン伝導層との両者に対して引力となる相互作用を生起するため、触媒層構成体全体として、プロトン伝導層がより強固に定着することとなり、水分等による流失をさらに防止することができる。
【0054】
また、触媒粒子は、担持層の上層と下層との間、すなわち、接着層とプロトン伝導層との間に配置して担持させるようにしても良い。このような構成とすることにより、触媒粒子が触媒層構成体から脱落するのを防止することができる。
【0055】
また、接着層は、不対電子を有する原子が分子構造中に含まれる重合体により形成しても良い。不対電子を有する原子を分子構造中に備えた重合体を用いて接着層を構成することにより、触媒粒子を金属触媒とした場合には、不対電子を有する原子が、触媒粒子の金属原子と相互作用を生起することとなり、触媒粒子に対しても接着機能を有する接着層とすることができる。なお、以下の説明において、この相互作用を「接着層−触媒粒子間相互作用」とも言う。
【0056】
また、プロトン伝導層は、酸性側鎖を有する重合体により形成しても良い。酸性側鎖を有する重合体で形成することにより、触媒粒子が金属触媒である場合、触媒表面においてもプロトン伝導層との接着性を生起させることができ、触媒層構成体をより強固なものとすることができる。
【0057】
また、プロトン伝導層は酸性側鎖を有する重合体により形成し、触媒粒子をプロトン伝導層の表面にて担持させるようにしても良い。このような構成とした場合であっても、触媒粒子をしっかりと担持させることができる。
【0058】
また、プロトン伝導層の酸性基は、触媒粒子を金属とした場合、触媒粒子との間で接着力を生起させることができ、担持層にて触媒粒子を担持することとなる。なお、以下の説明において、この相互作用を「プロトン伝導層−触媒粒子間相互作用」とも言う。
【0059】
また、カーボンは、炭素を主成分として構成され、電子伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブから選ばれるいずれか1つ、又は2つ以上の混合物であっても良い。これらいずれであっても、表面に存在するベンゼン環を、接着層を構成する重合体のベンゼン環と相互作用させることができ、プロトン伝導層が水分等により流失してしまうことを更に防止することができる。
【0060】
中でも、カーボンとしてカーボンナノチューブ(CNT)を採用すれば、繊維状となった触媒層構成体が不織布状に堆積してなる触媒層を構成することができ、触媒層への活物質の浸透性や、反応生成物の排出能力を向上させることができる。なお、カーボンナノチューブは、多層のカーボンナノチューブ(MWNT)であっても良く、単層のカーボンナノチューブ(SWNT)であっても良い。
【0061】
また、接着層は、ポリベンゾイミダゾール(polybenzimidazole)を主成分として形成しても良い。ポリベンゾイミダゾール(以下、PBIともいう。)は、化1に示す構造式のように、その分子構造中に、カーボン−接着層間相互作用を生起するベンゼン環と、接着層−プロトン伝導層間相互作用を生起する塩基性を呈する部位と、接着層−触媒粒子間相互作用を生起可能な不対電子を有する原子(矢印で示す「N」)とを有する重合体であり、接着層を構成するのに適した重合体の一つであると言える。なお、化1中において、Xは、炭素原子又は窒素原子である。
【化1】
【0062】
また、プロトン伝導層は、ポリビニルホスホン酸(Poly(vinylphosphoric acid))を主成分として形成しても良い。ポリビニルホスホン酸(以下、PVPAともいう。)は、化2に示す構造式のように、その分子構造中に酸性基としてのホスホン酸を多く有しており、良好なプロトン伝導性を示すと共に、金属触媒粒子に対して接着性を示すことができる。
【化2】
【0063】
また、PVPAは、主鎖の炭素2個毎にホスホン酸が結合しており、極めて多くの酸性基を有している。従って、水分の供給が無くともホッピングによってプロトン伝導性を実現することができることとなる。それゆえ、従来の燃料電池においてプロトン伝導に必要であった液体状の水を存在させる必要がなく、燃料電池の冷却装置が不要となると共に、使用温度範囲が極めて広いセルや燃料電池を構成することが可能となる。
【0064】
また、PVPAが有する極めて多くの酸性基は、触媒粒子を金属とした場合、触媒粒子との間で接着力を生起させることができ、担持層にて触媒粒子をよりしっかりと担持することが可能となる。
【0065】
上述してきた触媒層構成体は、カーボンペーパーなどの導電性を有する電極シート上に堆積させることにより、電極と触媒層とを一体とした触媒付き電極を構成することができる。このような触媒付き電極によれば、水分が発生した場合であっても、触媒層からのプロトン伝導性重合体の流失を防止することのできる触媒付き電極を提供することができる。
【0066】
また、このような触媒付き電極を燃料電池やセルの形成部品として流通させることとすれば、予め触媒層が形成されているため、燃料電池やセルの形成工程において、触媒層の形成工程を省略することができ、燃料電池やセルの製造効率を向上させることができる。
【0067】
なお、上述の触媒付き電極は、酸素極、水素極、両極の何れの電極として使用しても良いが、例えば、少なくとも酸素極側の電極として使用することにより、反応により生成した水分によるプロトン伝導性重合体の流失を防止することができる。
【0068】
また、このような触媒付き電極によりセルを形成したり、このセルを利用して燃料電池を構成することも勿論可能である。
【0069】
また、前述の触媒層構成体は、固体高分子膜の少なくとも酸素極側表面に堆積させて触媒層を形成し、触媒付き固体高分子膜を構成しても良い。このような触媒付き固体高分子膜によれば、水分が発生した場合であっても、触媒層からのプロトン伝導性重合体の流失を防止することができる。
【0070】
なお、上述の固体高分子膜に形成される触媒層は、酸素極側面、水素極側面、両面の何れに形成しても良いが、例えば、少なくとも酸素極側面に形成することにより、反応により生成した水分によるプロトン伝導性重合体の流失を防止することができる。
【0071】
また、このような触媒付き固体高分子膜によりセルを形成したり、このセルを利用して燃料電池を構成することも勿論可能である。
【0072】
また、本実施形態に係る触媒層構成体は、カーボンに触媒粒子を担持させた燃料電池の触媒層構成体の調製方法において、ベンゼン環と不対電子を有する原子とを分子構造中に備えた接着層形成用重合体を、同接着層形成用重合体に溶解性を示す第1の溶媒に溶解させて第1の分散媒を調製し、同第1の分散媒に前記カーボンを分散させ、その後濾過して濾過残渣を回収することにより、前記接着層形成用重合体が前記カーボンの表面に肉厚状に付着した接着層形成用重合体付着カーボンを得る工程と、同接着層形成用重合体付着カーボンを前記第1の溶媒にて洗浄することにより、前記カーボンの表面に付着した余剰の接着層形成用重合体を除去して、前記カーボンの表面に薄膜状の接着層が形成された接着層形成カーボンを生成する工程と、第2の分散媒に前記接着層形成カーボンを分散して調製した分散液に、触媒粒子又は触媒原料成分を添加して、前記接着層の表面に触媒粒子が付着した触媒付着カーボンを生成する工程と、酸性側鎖を有するプロトン伝導層形成用重合体を、同プロトン伝導層形成用重合体に溶解性を示す第2の溶媒に溶解させて第3の分散媒を調製し、同第3の分散媒に前記触媒付着カーボンを分散させ、その後濾過して濾過残渣を回収することにより、前記プロトン伝導層形成用重合体が前記触媒付着カーボンの表面に肉厚状に付着したプロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを得る工程と、同プロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを前記第2の溶媒にて洗浄することにより、前記触媒付着カーボンの表面に付着した余剰のプロトン伝導層形成用重合体を除去して、前記触媒付着カーボンの表面に薄膜状のプロトン伝導層が形成された触媒層構成体を得る工程と、を経ることにより調製することができる。
【0073】
このような触媒層構成体の調製方法により得られる触媒層構成体は、カーボンの表面に接着層が形成され、同接着層の表面にプロトン伝導層が形成されており、触媒粒子は接着層とプロトン伝導層との間に配置されるものである。なお、以下の説明において、本触媒層構成体の調製方法を二層間触媒担持調製法ともいう。
【0074】
すなわち、二層間触媒担持調製法では、接着層形成用重合体付着カーボンを得る工程と、接着層形成カーボンを生成する工程と、触媒付着カーボンを生成する工程と、プロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを得る工程と、触媒層構成体を得る工程とを有している。
【0075】
二層間触媒担持調製法における接着層形成用重合体付着カーボンを得る工程において使用される第1の溶媒は、接着層形成用重合体に溶解性を示す溶媒であれば特に限定されるものではない。例えば、接着層形成用重合体をPBIとした場合には、第1の溶媒は、ジメチルアセトアミド(Dimethylacetamide:DMAc)を好適に用いることができる。
【0076】
また、接着層形成用重合体付着カーボンを得る工程にて使用される第1の分散媒は、カーボンを分散させるための分散媒であり、所定量の接着層形成用重合体を第1の溶媒に溶解することで調製することができる。
【0077】
接着層形成用重合体付着カーボンを得る工程において行われる濾過は、第1の分散媒から接着層形成用重合体が付着したカーボンを濾別して回収することのできる濾過方法であれば公知の方法で行うことができる。このような濾過方法の一例としては、例えば、接着層形成用重合体が付着したカーボンをトラップ可能な濾紙やメンブレン(以下、これらを総称してフィルター媒体という。)を用いた吸引濾過を挙げることができる。
【0078】
接着層形成用重合体付着カーボンは、濾過によりフィルター媒体上に濾別された濾過残渣(濾物)を回収することによって得ることができる。このようにして得られた接着層形成用重合体付着カーボンは、カーボンの表面に接着層形成用重合体が肉厚状に付着した状態となっており、接着層として機能させるのに必要な量以上の(余剰の)接着層形成用重合体を有している。付言すれば、カーボンの表面に肉厚状に付着した接着層形成用重合体は、接着層を構成するカーボン表面近傍の接着層形成用重合体と、その上層に付着した余剰の接着層形成用重合体とを含むと考えることができる。そこで次に、余剰の接着層形成用重合体を除去して接着層形成カーボンを生成する工程が行われる。
【0079】
接着層形成カーボンを生成する工程では、接着層形成用重合体付着カーボンを得る工程にて得られた濾過残渣を、第1の溶媒にて洗浄することにより余剰の接着層形成用重合体を除去する。
【0080】
ここで余剰の接着層形成用重合体は、カーボン表面に形成する接着層の厚みにより決まる。接着層の厚みは、カーボン−接着層間相互作用や、接着層−プロトン伝導層間相互作用、接着層−触媒粒子間相互作用を生起することができ、また、カーボンと触媒粒子との間で電子が移動可能な程度の厚みであれば良い。したがって、このような厚みよりも多く付着している接着層形成用重合体が、余剰の接着層形成用重合体であると言える。例えば、接着層形成用重合体をPBIとした場合には、接着層の厚みは1〜5nm、より好ましくは2〜3nmである。
【0081】
接着層形成カーボンを生成する工程にて行う洗浄は、接着層形成用重合体付着カーボンを得る工程にて濾別した接着層形成用重合体付着カーボンに、第1の溶媒を添加しながら濾過することで行うことができる。例えば、簡便には、吸引濾過により接着層形成用重合体付着カーボンをフィルター媒体上に得て、引き続き、フィルター媒体上に第1の溶媒を添加しながら接着層形成用重合体付着カーボンを第1の溶媒にてリンスしつつ濾過することにより実現することができる。このような操作により、フィルター媒体上において接着層形成カーボンを生成することができる。なお、余剰の接着層形成用重合体を除去できる方法であれば、本工程にて行う洗浄は上記方法に限定されるものではない。例えば、一旦第1の溶媒に接着層形成用重合体付着カーボンを分散させて、その後濾過するようにしても良いのは勿論である。
【0082】
次に、得られた接着層形成カーボンに触媒粒子を付着させて、触媒付着カーボンを生成する工程を行う。
【0083】
触媒付着カーボンを生成する工程にて使用される第2の分散媒は、接着層形成カーボンを分散させることができ、触媒粒子が接着層の表面に付着した状態とすることのできる分散媒であれば特に限定されるものではない。このような第2の分散媒としては、例えば、10〜100%のエチレングリコール水溶液、より好適には55〜65%のエチレングリコール水溶液を用いることができる。
【0084】
この触媒付着カーボンを生成する工程における「付着」は、第2の分散媒に接着層形成カーボンと共に触媒粒子を混在させて、接着層の表面に触媒粒子を接着させた状態を意味するのは勿論であるが、接着層形成カーボンと共に触媒原料成分を添加し、この触媒原料成分を接着層の表面にて成長させることにより、接着層の表面に接着された触媒粒子を形成した状態をも含む概念である。
【0085】
接着層の表面にて触媒粒子の成長を行うにあたっては、例えば、触媒粒子が金属である場合、その金属塩を第2の分散媒中で還元しながら成長する方法を挙げることができる。このような金属塩としては、例えば触媒粒子を白金にて形成する場合、塩化白金酸(H2PtCl6・6H2O)を好適に用いることができる。
【0086】
プロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを得る工程において使用される第2の溶媒は、プロトン伝導層形成用重合体を溶解可能な溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、プロトン伝導層形成用重合体をPVPAとした場合には、この第2の溶媒は水とすることができる。
【0087】
また、プロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを得る工程において使用される第3の分散媒は、触媒付着カーボンを分散させて同触媒付着カーボンの表面にプロトン伝導層形成用重合体を付着させるために用いられるものであり、第2の溶媒にプロトン伝導層形成用重合体を溶解させることにより調製することができる。
【0088】
プロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを得る工程において行われる濾過は、第3の分散媒からプロトン伝導層形成用重合体が付着したカーボンを濾別して回収することのできる濾過方法であれば公知の方法で行うことができ、例えば、前述の接着層形成用重合体付着カーボンを得る工程と同様、吸引濾過等を採用することができる。
【0089】
プロトン伝導層形成用重合体付着カーボンは、濾過によりフィルター媒体上に濾別された濾過残渣(濾物)を回収することによって得られる。このようにして得られたプロトン伝導層形成用重合体付着カーボンは、接着層や触媒粒子の表面にプロトン伝導層形成用重合体が肉厚状に付着した状態となっており、プロトン伝導層として機能させるのに必要な量以上の(余剰の)プロトン伝導層形成用重合体を有している。付言すれば、接着層や触媒粒子の表面に肉厚状に付着したプロトン伝導層形成用重合体は、プロトン伝導層を構成するのに必要な接着層や触媒粒子近傍のプロトン伝導層形成用重合体と、余剰のプロトン伝導層形成用重合体とを含むと考えることができる。そこで次に、余剰のプロトン伝導層形成用重合体を除去して、プロトン伝導層形成カーボン、すなわち、本実施形態に係る触媒層構成体を生成する工程が行われる。
【0090】
触媒層構成体を生成する工程では、プロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを得る工程にて得られた濾過残渣を、第2の溶媒にて洗浄することにより余剰のプロトン伝導層形成用重合体を除去する。
【0091】
ここで余剰のプロトン伝導層形成用重合体は、接着層や触媒粒子の表面に形成するプロトン伝導層の厚みにより決まる。プロトン伝導層の厚みは、接着層−プロトン伝導層間相互作用、プロトン伝導層−触媒粒子間相互作用を生起することができ、また、プロトン伝導層表面と触媒粒子との間で正極活物質(例えば、分子状酸素)や、負極活物質(例えば、分子状水素)が透過可能な程度の厚みであれば良い。したがって、このような厚みよりも多く付着しているプロトン伝導層形成用重合体が、余剰のプロトン伝導層形成用重合体であると言える。例えば、プロトン伝導層形成用重合体をPVPAとした場合には、プロトン伝導層の厚みは1〜5nm、より好ましくは2〜3nmである。
【0092】
触媒層構成体を生成する工程にて行う洗浄は、プロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを得る工程にて濾別したプロトン伝導層形成用重合体付着カーボンに、第2の溶媒を添加しながら濾過することで行うことができる。例えば、簡便には、吸引濾過によりプロトン伝導層形成用重合体付着カーボンをフィルター媒体上に得て、引き続き、フィルター媒体上に第2の溶媒を添加しながら濾過することにより実現することができる。このような操作により、フィルター媒体上において触媒層構成体を生成することができる。
【0093】
このように、上述の二層間触媒担持調製法によって調製された触媒層構成体Aは、図2(a)に示すように、カーボン10の表面(上層)に接着層12が形成され、同接着層12の表面(上層)にはプロトン伝導層14が形成されており、接着層12とプロトン伝導層14との間に触媒粒子16が担持された構成を有することとなる。また、接着層12とプロトン伝導層14とは、触媒粒子16を担持する担持層18としても機能することとなる。なお、図2(a)では、触媒層構成体Aの例としてカーボン10をカーボンナノチューブとして表現しているが、カーボン10がこれに限定されるものではないのは前述の通りである。
【0094】
また、本二層間触媒担持調製法において、接着層形成カーボンを生成する工程や、触媒層構成体を生成する工程にてそれぞれ洗浄の操作を行うこととしており、余剰の接着層形成用重合体やプロトン伝導層形成用重合体の除去を行っているため、担持層18の厚みを適度なものとすることができ、電極と電極に接している触媒層構成体との間で、電子のやり取りも行うことが可能となる。具体的には、電極と、触媒層構成体のカーボンとの間で、担持層18を介して電子の授受が可能となる。
【0095】
また、本実施形態では、更なる別の触媒層構成体の調製方法として、カーボンに触媒粒子を担持させた燃料電池の触媒層構成体の調製方法において、ベンゼン環と塩基性を呈する構造とを分子構造中に備えた接着層形成用重合体を、同接着層形成用重合体に溶解性を示す第1の溶媒に溶解させて第1の分散媒を調製し、同第1の分散媒に前記カーボンを分散させ、その後濾過して濾過残渣を回収することにより、前記接着層形成用重合体が前記カーボンの表面に肉厚状に付着した接着層形成用重合体付着カーボンを得る工程と、同接着層形成用重合体付着カーボンを前記第1の溶媒にて洗浄することにより、前記カーボンの表面に付着した余剰の接着層形成用重合体を除去して、前記カーボンの表面に薄膜状の接着層が形成された接着層形成カーボンを生成する工程と、酸性側鎖を有するプロトン伝導層形成用重合体を、同プロトン伝導層形成用重合体に溶解性を示す第2の溶媒に溶解させて第2の分散媒を調製し、同第2の分散媒に前記接着層形成カーボンを分散させ、その後濾過して濾過残渣を回収することにより、前記プロトン伝導層形成用重合体が前記接着層形成カーボンの表面に肉厚状に付着したプロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを得る工程と、同プロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを前記第2の溶媒にて洗浄することにより、前記接着層形成カーボンの表面に付着した余剰のプロトン伝導層形成用重合体を除去して、前記接着層形成カーボンの表面に薄膜状のプロトン伝導層が形成されたプロトン伝導層形成カーボンを得る工程と、第3の分散媒に前記プロトン伝導層形成カーボンを分散して調製した分散液に、触媒粒子又は触媒原料成分を添加して、前記プロトン伝導層形成カーボンの表面に触媒粒子が付着した触媒層構成体を生成する工程と、を有することを特徴とする触媒層構成体の調製方法についても提供する。
【0096】
このような触媒層構成体の調製方法により得られる触媒層構成体は、カーボンの表面に接着層が形成され、同接着層の表面にプロトン伝導層が形成されており、触媒粒子はプロトン伝導層の表面に配置されるものである。なお、以下の説明において、本触媒層構成体の調製方法をプロトン伝導層触媒担持調製法ともいう。また、前述の二層間触媒担持調製法と同様の工程については、説明を一部省略する場合もある。
【0097】
すなわち、プロトン伝導層触媒担持調製法では、接着層形成用重合体付着カーボンを得る工程と、接着層形成カーボンを生成する工程と、プロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを得る工程と、プロトン伝導層形成カーボンを生成する工程と、触媒層構成体を得る工程とを有している。
【0098】
プロトン伝導層触媒担持調製法における接着層形成用重合体付着カーボンを得る工程において使用される第1の溶媒及び第1の分散媒は、前述の二層間触媒担持調製法と同様である。例えば、接着層形成用重合体をPBIとした場合には、第1の溶媒は、DMAcを好適に用いることができ、また、第1の分散媒は、所定量の接着層形成用重合体を第1の溶媒に溶解することで調製することができる。また、濾過についても同様であり、接着層形成カーボンを生成する工程も同様に行われる。
【0099】
プロトン伝導層触媒担持調製法では、次に、接着層の表面にプロトン伝導層形成用重合体を付着させて、プロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを得る工程が行われる。
【0100】
プロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを得る工程において使用される第2の溶媒は、プロトン伝導層形成用重合体を溶解可能な溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、プロトン伝導層形成用重合体をPVPAとした場合には、この第2の溶媒は水とすることができる。
【0101】
また、プロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを得る工程において使用される第2の分散媒は、接着層形成カーボンを分散させて同接着層形成カーボンの表面にプロトン伝導層形成用重合体を付着させるために用いられるものであり、第2の溶媒にプロトン伝導層形成用重合体を溶解させることにより調製することができる。
【0102】
プロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを得る工程において行われる濾過は、第2の分散媒からプロトン伝導層形成用重合体が付着したカーボンを濾別して回収することのできる濾過方法であれば公知の方法で行うことができ、例えば、前述の二層間触媒担持調製法と同様、吸引濾過等を採用することができる。
【0103】
プロトン伝導層形成用重合体付着カーボンは、濾過により濾別された濾過残渣(濾物)を回収することによって得られる。このようにして得られたプロトン伝導層形成用重合体付着カーボンは、接着層の表面にプロトン伝導層形成用重合体が肉厚状に付着した状態となっており、プロトン伝導層として機能させるのに必要な量以上の(余剰の)プロトン伝導層形成用重合体を有している。そこで次に、余剰のプロトン伝導層形成用重合体を除去してプロトン伝導層形成カーボンを生成する工程が行われる。
【0104】
プロトン伝導層形成カーボンを生成する工程では、プロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを得る工程にて得られた濾過残渣を、第2の溶媒にて洗浄することにより余剰のプロトン伝導層形成用重合体を除去する。
【0105】
ここで余剰のプロトン伝導層形成用重合体は、接着層の表面に形成するプロトン伝導層の厚みにより決まる。プロトン伝導層の厚みは、接着層−プロトン伝導層間相互作用と、後の工程にてプロトン伝導層の表面(上面)に付着させる触媒粒子との間にて期待されるプロトン伝導層−触媒粒子間相互作用とを生起することができ、また、カーボンと触媒粒子との間、すなわち、接着層とプロトン伝導層とを介して(担持層を介して)電子が透過可能となる程度の厚みであれば良い。したがって、このような厚みよりも多く付着しているプロトン伝導層形成用重合体が、余剰のプロトン伝導層形成用重合体であると言える。例えば、プロトン伝導層形成用重合体をPVPAとした場合には、プロトン伝導層の厚みは1〜5nm、より好ましくは2〜3nmである。
【0106】
プロトン伝導層形成カーボンを生成する工程にて行う洗浄は、プロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを得る工程にて濾別したプロトン伝導層形成用重合体付着カーボンに、第2の溶媒を添加しながら濾過することで行うことができる。例えば、簡便には、吸引濾過によりプロトン伝導層形成用重合体付着カーボンをフィルター媒体上に得て、引き続き、フィルター媒体上に第2の溶媒を添加しながら濾過することにより実現することができる。このような操作により、フィルター媒体上においてプロトン伝導層形成カーボンを生成することができる。
【0107】
プロトン伝導層触媒担持調製法では、次に、プロトン伝導層形成カーボンに触媒粒子を付着させ、触媒付着カーボン、すなわち触媒層構成体を生成する工程を行う。
【0108】
触媒層構成体を生成する工程にて使用される第3の分散媒は、プロトン伝導層形成カーボンを分散させることができ、触媒粒子がプロトン伝導層の表面に付着した状態とすることのできる分散媒であれば特に限定されるものではない。このような第3の分散媒としては、例えば、10〜100%のエチレングリコール水溶液、より好適には55〜65%のエチレングリコール水溶液を用いることができる。
【0109】
この触媒層構成体を生成する工程における「付着」は、第3の分散媒にプロトン伝導層形成カーボンと共に触媒粒子を混在させてプロトン伝導層の表面に触媒粒子を接着させた状態を意味するのは勿論であるが、プロトン伝導層形成カーボンと共に触媒原料成分を添加し、この触媒原料成分をプロトン伝導層の表面にて成長させることにより、プロトン伝導層の表面に接着された触媒粒子を形成した状態をも含む概念である。
【0110】
プロトン伝導層の表面にて触媒粒子の成長を行うにあたっては、例えば、触媒粒子が金属である場合、その金属塩を第3の分散媒中で還元しながら成長する方法を挙げることができる。このような金属塩としては、例えば、塩化白金酸(H2PtCl6・6H2O)を好適に用いることができる。
【0111】
このように、上述のプロトン伝導層触媒担持調製法によって調製された触媒層構成体Bは、図2(b)に示すように、カーボン10の表面(上層)に接着層12が形成され、同接着層の表面(上層)にはプロトン伝導層14が形成されており、同プロトン伝導層14の表面に触媒粒子16が担持された構成を有することとなる。なお、接着層12とプロトン伝導層14とは、触媒粒子16を担持する担持層18としても機能することとなる。なお、図2(b)では、触媒層構成体Bの例としてカーボン10をカーボンナノチューブとして表現しているが、カーボン10がこれに限定されるものではないのは前述の通りである。
【0112】
また、二層間触媒担持調製法と同様、プロトン伝導層触媒担持調製法においても、接着層形成カーボンを生成する工程や、プロトン伝導層形成カーボンを生成する工程にてそれぞれ洗浄の操作を行うこととしており、余剰の接着層形成用重合体やプロトン伝導層形成用重合体の除去を行っているため、担持層18の厚みを適度なものとすることができ、電極と電極に接している触媒層構成体との間で、電子のやり取りも行うことが可能となる。具体的には、電極と、触媒層構成体のカーボンとの間で、担持層18を介して電子の授受が可能となる。
【0113】
次に、実施例について図面を参照しながら更に具体的に説明する。
【0114】
〔1.二層間触媒担持調製法による触媒層構成体の調製〕
本実施例における触媒層構成体の調製では、図3に示す手順に沿って二層間触媒担持調製法にて行うこととし、カーボンとして多層カーボンナノチューブ(MWNT)、接着層形成用重合体としてPBI、プロトン伝導層形成用重合体としてPVPAを用いることとした。また、触媒粒子は白金とし、触媒原料成分として塩化白金酸(H2PtCl6・6H2O)を用いて、接着層の表面にて触媒粒子を成長させることで形成することとした。
【0115】
(接着層形成カーボンの生成)
まず、PBIで被覆されたMWNT、すなわち接着層形成カーボンの形成を行った。なお、以下の説明では、PBIで被覆されたMWNTを「MWNT/PBI」のように表現する場合がある。また、プロトン伝導層形成カーボン等の中間生成体や、触媒層構成体についても同様の書式にて示す場合がある。
【0116】
接着層形成用重合体としてのポリベンズイミダゾール(PBI: 4mg)を、第1の溶媒としてのジメチルアセトアミド(DMAc: 20 ml、キシダ化学)に十分溶解させて第1の分散媒を調製した。
【0117】
次に、この第1の分散媒に、カーボンとしての多層カーボンナノチューブ(MWNT: 20 mg、日機装社製)を加え、バス型ソニケーター(5510, BRANSON社製)で2時間超音波処理を行った。
【0118】
そして、この溶液をガーゼで予備的に濾過し、濾過した溶液を吸引濾過(メンブレンフィルター0.2μm PTFE)に供することで、フィルター媒体としてのメンブレンフィルター上に接着層形成用重合体付着カーボンを得た(接着層形成用重合体付着カーボンを得る工程)。
【0119】
そして、メンブレンフィルター上の接着層形成用重合体付着カーボンに対し、PBIに対する良溶媒であるDMAc(第1の溶媒)で十分に洗浄を行った。洗浄後の黒色粉末を濾紙上に回収し、減圧下60℃で4〜6時間乾燥することで、接着層形成カーボンとしてのMWNT/PBIを13 mg得た(接着層形成カーボンを生成する工程)。
【0120】
(触媒付着カーボンの生成)
次に、MWNT/PBI/Pt、すなわち触媒付着カーボンの生成を行った。サンプル瓶中に、第2の分散媒としての60%エチレングリコール水溶液(30ml)と、MWNT/PBI(15mg)と収容し、超音波処理に供した。
【0121】
目視にて十分な分散が確認された後、触媒原料成分としての塩化白金酸(H2PtCl6・6H2O、36mg)を60%エチレングリコール水溶液(45ml)に溶解させてなる触媒原料溶液をサンプル瓶内に添加して十分混合させた。
【0122】
その後、サンプル瓶内の混合溶液を100mL三口フラスコに移し、140℃で6時間還流し、室温まで冷却ののち吸引濾過(メンブレンフィルター: 1μm PTFE使用)にて濾物を回収した。得られた粉末を減圧下60℃で4〜6時間乾燥(乾燥剤である五酸化二リンとともに)することで触媒付着カーボンとしてのMWNT/PBI/Ptを16 mg得た(触媒付着カーボンを生成する工程)。
【0123】
(触媒付着カーボンの生成確認)
ここで、得られたMWNT/PBI/Ptが備えるべき触媒付着カーボンとしての構成について確認を行った。具体的には、MWNT上にPBIよりなる接着層が形成され、この接着層上に触媒粒子が付着しているか否かについて、電子顕微鏡により観察を行った。
【0124】
図4図5、及び図6左にMWNT/PBI/Ptの検鏡像を示す。図4(a)及び図6の左図に示すSEM像からも分かるように、触媒付着カーボンは、多数の繊維が互いに折り重なるように集合した状態で観察された。また、図4(b)に示すSTEM像からは、MWNTに沿って無数の黒い点が付着しているのが観察された。
【0125】
図5に更に拡大した検鏡像を示す。図5(a)に示すSTEM像からも分かるように、MWNTの周囲には、白金からなる触媒粒子が無数に付着しているのが観察された。さらに図5(b)に示すSTEM像から、触媒粒子は、模式図に示すように接着層を介して付着している状態が観察された。
【0126】
これらの検鏡結果から、MWNT/PBI/Ptは、触媒付着カーボンとしての構成、すなわち、MWNT上にPBIよりなる接着層が形成され、この接着層上に触媒粒子が付着している構造を備えていることが示された。
【0127】
また、図7は、MWNT上のPBIによる接着層の形成部位と非形成部位との境目を示した検鏡像である。
【0128】
一般に、カーボンに金属触媒を担持させるにあたり、カーボンとしてカーボンナノチューブを採用した場合には、カーボンナノチューブの表面が炭素によって作られる六員環ネットワークで一様に形成されているため、実用的な量の金属触媒の担持が極めて困難である。このことは、図7に示す接着層の非形成部位に白金の触媒粒子が付着していないことからも分かる。
【0129】
一方、本実施例の如く、接着層を設けた場合には、図7に示す接着層の形成部位からも分かるように、極めて多数の触媒粒子が付着している。このように、カーボンに触媒粒子を担持させるにあたり、接着層は、極めて優れた効果を発揮することが示された。
【0130】
(触媒層構成体の生成)
次に、図8に示すように、MWNT/PBI/Pt/PVPA、すなわち触媒層構成体の生成を行った。50 mLのサンプル瓶に第2の溶媒としての水(30 mL)と、プロトン伝導層形成用重合体としてのPVPA30%水溶液(2mL: Polysciences社製)とを収容し撹拌して第3の分散媒を調製し、同第3の分散媒中にMWNT/PBI/Pt (10 mg)を添加して超音波処理を5分間行い十分に分散させた。
【0131】
この分散溶液を室温にて6時間撹拌した後、メンブレンフィルター (1.0μm:PTFE) で濾過することで、フィルター媒体としてのメンブレンフィルター上にプロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを得た(プロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを得る工程)。
【0132】
そして、メンブレンフィルター上のプロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを水(第2の溶媒)で充分に洗浄し、減圧下60℃で4〜6時間(乾燥剤である五酸化二リンとともに)乾燥させた。これにより触媒層構成体としてMWNT/PBI/Pt/PVPAを11.04 mg得た(触媒層構成体を生成する工程)。
【0133】
(触媒層構成体の生成確認)
ここで、得られたMWNT/PBI/Pt/PVPAが備えるべき触媒層構成体としての構成について確認を行った。具体的には、MWNTの表面(上層)に接着層が形成され、同接着層の表面(上層)にはPVPAによるプロトン伝導層が形成されており、接着層とプロトン伝導層との間に触媒粒子が担持された構成を有しているか否かについて確認を行った。
【0134】
図6の右上図はMWNT/PBI/Pt/PVPAのSEM像であり、図6の右下図及び図9にMWNT/PBI/Pt/PVPAのSTEM像を示す。図6右に示す像や図9に示すSTEM像から、MWNTの周囲には、触媒粒子がPVPAに覆われた状態で保持されているのが観察された。
【0135】
次に、MWNT/PBI/Ptと、MWNT/PBI/Pt/PVPAのX線光電子分光測定により得られたスペクトルを図10に示す。図10中において、濃い実線はMWNT/PBI/Pt/PVPAのスペクトルであり、薄い実線はMWNT/PBI/Ptのスペクトルである。
【0136】
図10の左側に示すスペクトルからも分かるように、窒素に特有のエネルギーを有する光電子ピークが観察されたことから、調製によって得られたMWNT/PBI/Pt及びMWNT/PBI/Pt/PVPAは、いずれもPBIからなる接着層を備えていることが示された。
【0137】
また、図10の中央に示すスペクトルにおいて、MWNT/PBI/Pt/PVPAにはリンに特有のエネルギーを有する光電子ピークが観察されたが、MWNT/PBI/Ptには観察されなかった。このことから、MWNT/PBI/Ptを調製した時点では形成されていなかったPVPAによるプロトン伝導層が、MWNT/PBI/Pt/PVPAにおいて存在していることが示された。
【0138】
また、図10の右側に示すスペクトルからも分かるように、白金に特有のエネルギーを有する光電子ピークが観察されたことから、調製によって得られたMWNT/PBI/Pt及びMWNT/PBI/Pt/PVPAは、いずれも白金からなる触媒粒子を備えていることが示された。
【0139】
これらの結果から、二層間触媒担持調製法により得られたMWNT/PBI/Pt/PVPAは、触媒層構成体としての構成、すなわち、MWNTの表面(上層)に接着層が形成され、同接着層の表面(上層)にはPVPAによるプロトン伝導層が形成されており、接着層とプロトン伝導層との間に触媒粒子が担持された構成を有していることが示された。
【0140】
(触媒粒子の活性の検証)
次に、二層間触媒担持調製法により得られた触媒層構成体の触媒粒子の活性について検証を行った。
【0141】
ここでは、外表面に触媒粒子が露出しているMWNT/PBI/Ptと、触媒粒子の表面がプロトン伝導層によって覆われているMWNT/PBI/Pt/PVPAとを比較対象とし、電気化学測定により電気化学的触媒活性表面積(ECSA)を評価することとした。
【0142】
その結果、図11に示すように、ECSAの値は、MWNT/PBI/PtとMWNT/PBI/Pt/PVPAとでは誤差程度の差異は見られたものの、ほぼ同程度であることが示された。すなわち、二層間触媒担持調製法により得られた触媒層構成体は、表面にプロトン伝導層を備えていても、触媒粒子への気体分子の到達が妨げられることなく、反応に寄与できることが示された。
【0143】
〔2.プロトン伝導層触媒担持調製法による触媒層構成体の調製〕
次に、プロトン伝導層触媒担持調製法にて触媒層構成体の調製を行った。なお、プロトン伝導層触媒担持調製法による触媒層構成体の調製は、前述の二層間触媒担持調製法による触媒層構成体の調製に比して、触媒付着カーボンの生成構成を行うタイミングが異なる点が主な相違点であるため、それぞれの各操作の詳細については説明を省略する。
【0144】
また、本プロトン伝導層触媒担持調製法による触媒層構成体の調製においても、カーボンとして多層カーボンナノチューブ(MWNT)、接着層形成用重合体としてPBI、プロトン伝導層形成用重合体としてPVPAを用いることとした。また、触媒粒子は白金とし、触媒原料成分として塩化白金酸(H2PtCl6・6H2O)を用いて、接着層の表面にて触媒粒子を成長させることで形成することとした。
【0145】
(接着層形成カーボンの生成)
二層間触媒担持調製法と同様の操作を行うことにより、PBIで被覆されたMWNT、すなわち接着層形成カーボンの形成を行った。すなわち、接着層形成用重合体付着カーボンを得る工程と、接着層形成カーボンを生成する工程とを経て、接着層形成カーボンとしてのMWNT/PBIを得た。
【0146】
(プロトン伝導層形成カーボンの生成)
次に、二層間触媒担持調製法のプロトン伝導層形成用重合体付着カーボンを得る工程、及び、触媒層構成体を生成する工程と同様の操作を行うことにより、MWNT/PBI/PVPA、すなわちプロトン伝導層形成カーボンを生成した。
【0147】
(触媒付着カーボンの生成)
次に、二層間触媒担持調製法の触媒付着カーボンを生成する工程と同様の操作を行うことにより、MWNT/PBI/PVPA/Pt、すなわち触媒層構成体を生成した。
【0148】
(触媒層構成体の生成確認)
ここで、得られたMWNT/PBI/PVPA/Ptが備えるべき触媒層構成体としての構成について確認を行った。具体的には、MWNTの表面(上層)に接着層が形成され、同接着層の表面(上層)にはPVPAによるプロトン伝導層が形成されており、接着層の表面に触媒粒子が担持された構成を有しているか否かについて確認を行った。前述の二層間触媒担持調製法により生成した触媒層構成体の生成確認試験と同様、電子顕微鏡像、及び、X線光電子分光測定の結果から、プロトン伝導層触媒担持調製法により得られたMWNT/PBI/PVPA/Ptは、上述の構成を有していることが示された。
【0149】
(触媒粒子の活性の検証)
次に、プロトン伝導層触媒担持調製法により得られた触媒層構成体は、触媒粒子が表面に露出した状態となっているため、電気化学的触媒活性表面積(ECSA)の評価は省略した。
【0150】
〔3.プロトン伝導層流失試験1〕
次に、調製した本実施形態に係る2種の触媒層構成体(MWNT/PBI/Pt/PVPA及びMWNT/PBI/PVPA/Pt)と、接着層を備えない触媒層構成体(MWNT/ナフィオン/Pt)を用いて、水分によるプロトン伝導層の流失について検討を行った。
【0151】
具体的には、所定量の水を収容したフラスコ内に各触媒層構成体を添加し、十分撹拌した後に濾過し、得られた濾物を電子顕微鏡にて観察した。
【0152】
その結果、本実施形態に係る2種の触媒層構成体は、いずれも、試験前の触媒層構成体と同様の構成を保ったままであったが、接着層を備えない触媒層構成体は、図12に示す検鏡像からも分かるように、プロトン伝導層(ナフィオン)が流失して、触媒粒子としての白金が凝集脱離している様子が観察された。
【0153】
このような試験は、燃料電池の水素極側にて行われる加湿や、酸素極側にて反応により発生する水分よりも過酷なものであり、本実施形態に係る触媒層構成体は、プロトン伝導層(PVPA)の流失を防止可能であることが示された。すなわち、燃料電池の稼働によって水分が発生した場合であっても、触媒層からのプロトン伝導性重合体の流失を防止することのできる触媒層構成体であることが示された。
【0154】
また、このような過酷な条件下においても、触媒粒子の脱離が発生せず、これに由来する起電力の低下等も抑制できることが示唆された。
【0155】
〔4.触媒付き電極の製作〕
次に、得られた触媒層構成体(MWNT/PBI/Pt/PVPA、及びMWNT/PBI/PVPA/Pt)を用いて、それぞれ別個に触媒付き電極の作成を行った。
【0156】
まず、分散媒としての2-プロパノール80%水溶液に12 mgの触媒層構成体を分散させて触媒層構成体分散液を調製した。次に、この触媒層構成体分散液を、図13に示すように、カーボンペーパー(SGL Carbon社製、厚さ246μm)をフィルター媒体とした吸引濾過装置に供し、カーボンペーパー上に触媒層構成体を堆積させて触媒層の形成を行った。なお、このカーボンペーパーは導電性を有するものであり、セルの一部を構成する電極シートとしての役割を果たすものである。
【0157】
カーボンペーパーの表面に触媒層構成体(MWNT/PBI/Pt/PVPA)が堆積した状態を図13の下方に示す。本実施例では、この触媒層構成体が堆積したカーボンペーパーを所定の大きさ(例えば1cm四方)に切断し、この切断物を触媒付き電極した。また、触媒付き電極に形成された触媒層は、図13の下方に示すSEM像からも分かるように、長繊維として観察される触媒層構成体が不織布状に堆積して構成されている。なお、MWNT/PBI/PVPA/Ptにて作成した触媒付き電極の検鏡結果でも同様の構成が観察された。
【0158】
〔5.セルの製作〕
次に、上述の〔4.触媒付き電極の製作〕にて得られた触媒付き電極を用いてセルの作成を行った。
【0159】
本実施例では、固体高分子膜としてPVPAとPBIとの混合フィルムを用い、図13に示すように、固体高分子膜の両面から触媒付き電極で挟み込み、図14の左側模式図に示すようなセルを作成した。なお、この模式図では、負極活物質を触媒層に供給するための負極活物質供給手段や、正極活物質触媒層に供給するための正極活物質供給手段については説明の便宜上省略しているが、実際に作成したセルには、これらの活物質供給手段や、その他セルの構成に必要な部材も備えているのは勿論である。
【0160】
また、PVPAとPBIとの混合フィルムの作成は、PBIとPVPAをDMAc(ジメチルアセトアミド)溶液に溶解し、ガラスプレートにキャストして乾燥することで行った。また、触媒付き電極による固体高分子膜の挟み込みは、触媒付き電極の触媒層側を固体高分子膜に対向させて行った。
【0161】
〔6.セルの特性〕
(MWNT/PBI/Pt/PVPAセルとMWNT/PBI/Ptセルとの比較)
次に、作成したセルの特性について検証を行った。具体的には、図14に示すように、セルの温度を120℃とし、負極活物質として水素、陽極活物質として空気を供給することとした。また、検証に供した触媒付き電極の1cm2あたりの白金量は0.45mgであった。
【0162】
さらに、本検証試験では、MWNT/PBI/Ptにより形成した触媒層を備えるセルを比較対象とした。その結果を図14の右側に示す。
【0163】
図14のグラフに示すように、本実施形態に係るセルは、比較対象セルに比して、電力密度が高いことが示された。
【0164】
また、プロトン伝導層がない場合(MWNT/PBI/Pt)は出力が極めて小さいが、プロトン伝導層が存在する(MWNT/PBI/Pt/PVPA)ことにより高出力密度が得られることが示された。このことから、二層間触媒担持調製法により得られた触媒層構成体中のプロトン伝導層がプロトン伝導に寄与しており、しかも、プロトン伝導が非常にスムースに起こっているといえる。
【0165】
これらの結果から、本実施形態に係るセルや燃料電池は、極めて優れた性能を発揮できることが示唆された。また、具体的なデータの図示は省略するが、MWNT/PBI/PVPA/Ptにて作成した触媒付き電極を用いたセルにおいても、MWNT/PBI/Pt/PVPAにて作成した触媒付き電極を用いたセルと同程度の性能が得られることが分かった。
【0166】
〔8.従来型セルとの比較試験(1)〕
次に、接着層を備える本実施形態に係る触媒層構成体と、従来の触媒層構成体とにおいて、水によるプロトン伝導層の流失に由来する起電特性の変化について検討を行った。
【0167】
具体的には、2種の本実施形態に係る触媒層構成体と、図1の拡大図にて示した従来の触媒層構成体(ナフィオン付着済み)のものを用いて試験を行った。
【0168】
試験は、水洗された触媒層構成体にて形成したセルが、水洗前の触媒層構成体にて形成したセルに比して、起電特性がどのように変化するかについて検討した。
【0169】
その結果、従来の触媒層構成体(水洗済み)にて形成したセルは、従来の触媒層構成体(水洗せず)にて形成したセルに比して、プロトン伝導層形成用重合体の流失に由来して大幅に起電特性が悪化したが、本実施形態に係る触媒層構成体(水洗済み)にて形成したセル(MWNT/PBI/Pt/PVPA、及び、MWNT/PBI/PVPA/Pt)は、本発明の触媒層構成体(水洗せず)にて形成したセルと比較しても、プロトン伝導層形成用重合体の流失に由来する起電特性の悪化は見られなかった。
【0170】
本試験からも、本実施形態に係る触媒層構成体は、プロトン伝導層(PVPA)の流失を防止可能であることが示された。すなわち、燃料電池の稼働によって水分が発生した場合であっても、触媒層からのプロトン伝導性重合体の流失を防止することのできる触媒層構成体であることが示された。
【0171】
〔9.従来型セルとの比較試験(2)〕
次に、本実施形態に係るセル(MWNT/PBI/Pt/PVPA)と、従来型のセルとの比較試験を行った(図15)。具体的には図1にて示した固体高分子膜にナフィオン(登録商標)が用いられているセルを比較対象用の従来型のセルとした。なお、この比較対象セルは、起電させるにあたり加湿が必要であることから、90%以上に加湿しつつ負極活物質である水素を供給することとした。一方、本実施形態に係るセルの場合は加湿不要であるため、加湿は行っていない。
【0172】
比較試験結果を図16に示す。図16において上に示すグラフは本実施形態に係るセルの温度特性を示したものであり、下に示す表は従来型のセルとの比較を示すものである。
【0173】
各グラフからも分かるように、本実施形態に係るセルは、従来型のセルと略同等の電力が得られることが示された。また、図示は省略するが、〔6.セルの特性〕にて得られた結果からも分かるように、本発明者らの試験により本実施形態に係るセル(MWNT/PBI/PVPA/Pt)についても同様の結果が得られた。
【0174】
また、従来型のセルは起電にあたって液体状の水が必要となるため、高くとも100℃未満の温度帯で稼働する必要があるが、本実施形態に係るセルはプロトン伝導層をPVPAにて形成した場合、液体状の水を必要とすることなくプロトン伝導を実現することが可能であり、100℃を越える広い温度帯で駆動させることが可能となる。
【0175】
また、このことは、本実施形態に係るセルを備えた燃料電池を稼働させるにあたり、水を液体状に保てる温度に冷却するための冷却機構をも必要としないため、燃料電池の構成を大幅に削減することができる。
【0176】
また、本実施形態に係るセルは、プロトン伝導層が接着層を介して設けられているため、起電により生じた水分によってプロトン伝導層を構成するプロトン伝導層形成用重合体が流失することがない。
【0177】
したがって、長時間の駆動においても、プロトン伝導層形成用重合体の流失に起因する起電力の低下などの劣化現象が生じることを可及的防止することができる。
【0178】
〔10.プロトン伝導層流失試験2〕
次に、MWNT/PBI/Pt/PVPAにて形成した触媒層を備えるセルと、触媒層構成体としてMWNT/PBI/Ptを用い、プロトン伝導物質としてPVPAの代わりにリン酸を含浸させた触媒層を備えるセルとを作成し、加速試験を行うことにより、プロトン伝導物質の流失による劣化について検証を行った。
【0179】
すなわち、重合体であり触媒層構成体の表面に薄層状に形成されているPVPAをプロトン伝導層として有するMWNT/PBI/Pt/PVPAを用いたセル(以下、「MWNT/PBI/Pt/PVPAセル」という。)と、重合していないリン酸をプロトン伝導物質としたセル(以下、「MWNT/PBI/Pt:H3PO4セル」という。)とに対し、劣化加速試験を施して、プロトン伝導物質(プロトン伝導層)の流失による劣化の違いを確認した。
【0180】
劣化加速試験は、FCCJ(燃料電池実用化推進協議会)が定める耐久性テストに準じたものであり、酸素極側に最低0V、最高1.0〜1.5Vの電圧を印加して行うものである。また、電圧の印加は、1サイクル2秒(0.5Hz)の三角波で行った。その結果を図17及び図18に示す。
【0181】
図17は、各サイクルにおける電圧と電流密度との関係を示したグラフである。図17(a)がMWNT/PBI/Pt:H3PO4セル、図17(b)がMWNT/PBI/Pt/PVPAセルである。図17(a)に示すグラフからも分かるように、MWNT/PBI/Pt:H3PO4セルでは、サイクル数が40000回を数えると、リン酸の流出に由来する性能の低下が見られ、80000サイクルでは顕著な劣化が確認された。
【0182】
一方、図17(b)に示すMWNT/PBI/Pt/PVPAセルでは、40000サイクルでもあまり顕著な劣化は見られず、80000サイクルであってもMWNT/PBI/Pt:H3PO4セル程の性能の低下は見られなかった。その後、MWNT/PBI/Pt/PVPAセルについて400000サイクルまで試験を行ったものの、MWNT/PBI/Pt:H3PO4セルの80000サイクル時よりも性能は高いことが確認された。
【0183】
図18は、電流密度が200mA/cm2の時の各サイクル数における電圧をプロットしたグラフであり、縦軸に電圧、横軸にサイクル数を示している。また、グラフ中においてMWNT/PBI/Pt/PVPAセルを白抜きの丸で示し、MWNT/PBI/Pt:H3PO4セルを黒丸で示している。この図18からも、MWNT/PBI/Pt/PVPAセルは、MWNT/PBI/Pt:H3PO4セルに比してプロトン伝導物質の流失が抑制されていることが分かる。
【0184】
これらの結果から、本実施形態に係るMWNT/PBI/Pt/PVPAを触媒層構成体として使用した場合、重合していない物質(例えば、リン酸)をプロトン伝導物質として使用したセルに比して、プロトン伝導物質の酸成分の流失が抑制されることが示された。また、耐久性が向上することが示された。
【0185】
上述してきたように、本発明に係る触媒層形成体では、カーボンに触媒粒子を担持させた燃料電池の触媒層構成体であって、前記触媒粒子を、前記カーボン上に、上下二層で構成される担持層を介して担持させると共に、前記担持層の上層をプロトン伝導性を有する重合体により形成し、前記触媒粒子にて発生したプロトンや、前記触媒粒子に供給すべきプロトンを伝導させるプロトン伝導層とする一方、前記担持層の下層を前記プロトン伝導層と前記カーボンとの両者に親和性を有する重合体により形成し、前記プロトン伝導層と前記カーボンとを接着する接着層としたため、燃料電池の稼働によって水分が発生した場合であっても、触媒層からのプロトン伝導性重合体の流失を防止することのできる触媒層構成体を提供することができる。
【0186】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0187】
10 カーボン
12 接着層
14 プロトン伝導層
16 触媒粒子
18 担持層
図1
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