特許第6061331号(P6061331)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6061331蛍光体、その製造方法、発光装置および画像表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061331
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】蛍光体、その製造方法、発光装置および画像表示装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/64 20060101AFI20170106BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20170106BHJP
   C09K 11/00 20060101ALI20170106BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20170106BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20170106BHJP
【FI】
   C09K11/64CQD
   C09K11/08 E
   C09K11/08 F
   C09K11/08 B
   C09K11/08 J
   C09K11/00 Z
   C09K3/00 104Z
   H01L33/50
【請求項の数】60
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2012-248702(P2012-248702)
(22)【出願日】2012年11月12日
(65)【公開番号】特開2013-127054(P2013-127054A)
(43)【公開日】2013年6月27日
【審査請求日】2015年10月14日
(31)【優先権主張番号】特願2011-249221(P2011-249221)
(32)【優先日】2011年11月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】広崎 尚登
(72)【発明者】
【氏名】武田 隆史
(72)【発明者】
【氏名】舟橋 司朗
【審査官】 磯貝 香苗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−048105(JP,A)
【文献】 特開2006−089547(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/093298(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00−11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともA元素とD元素とE元素とX元素(ただし、Aは、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種または2種以上の元素であり、かつ、Ca、SrおよびBaからなる群から少なくとも1つ選択される元素を含み、はSiであり、はAlであり、Xは、N、または、NおよびOの組み合わせである)の元素を含み、BaSi11Al25で示される結晶からなる無機結晶、BaSi11Al25で示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶、または、これらの固溶体結晶に、M元素(ただしMは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ybから選ばれる1種または2種以上の元素)が固溶した無機化合物からなる蛍光体。
【請求項2】
前記BaSi11Al25で示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶は、A(D,E)1825で示される結晶、または、ASi11Al25で示される結晶である、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
前記BaSi11Al25で示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶が、(Sr,Ba)Si11Al25である、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項4】
前記BaSi11Al25で示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶が、
(Sr、Ba)Si11−xAl7+x25−x(ただし、0 ≦ x ≦ 6)の組成式で示される、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項5】
M元素はEuであり、X元素はOおよびNの組み合わせであり、前記無機化合物は、
Si11−xAl7+x25−x(ただし、0 ≦ x ≦ 6)
で示される結晶にEuが固溶している、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項6】
前記xは0である、請求項5に記載の蛍光体。
【請求項7】
前記A元素は、SrおよびBaの組み合わせである、請求項5に記載の蛍光体。
【請求項8】
前記M元素がEuである、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項9】
360nmから500nmの光を照射すると550nm以上650nm以下の黄色または橙色の蛍光を発する、請求項8に記載の蛍光体。
【請求項10】
前記無機結晶は、斜方晶系の結晶である、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項11】
前記無機結晶は、斜方晶系の結晶であり、空間群Pnnmの対称性を持ち、
格子定数a、b、cは、
a = 0.95928±0.05 nm
b = 2.13991±0.05 nm
c = 0.58889±0.05 nm
の範囲の値である、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項12】
前記無機化合物は、組成式M(ただし、式中d+e+f+g+h=1であり、Mは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ybから選ばれる1種または2種以上の元素、Aは、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種または2種以上の元素であり、かつ、Ca、SrおよびBaからなる群から少なくとも1つ選択される元素を含み、はSiであり、はAlであり、Xは、N、または、NおよびOの組み合わせである)で示され、パラメータd、e、f、g、hが、
0.00001 ≦ d ≦ 0.10
0.08 ≦ e ≦ 0.15
0.14 ≦ f ≦ 0.4
0.1 ≦ g ≦ 0.3
0.45 ≦ h ≦ 0.6
の条件を全て満たす範囲の組成で表される、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項13】
前記パラメータd、e、fおよびgは、
4/18 ≦ (d+e)/(f+g) ≦ 6/18
を満たす、請求項12に記載の蛍光体。
【請求項14】
前記パラメータd、e、f、g、hが、
0.07 ≦ d+e ≦ 5/48+0.05
(18/48)−0.05 ≦ f+g ≦ (18/48)+0.05
(25/48)−0.05 ≦ h ≦ (25/48)+0.05
の条件を全て満たす範囲の値である、請求項12に記載の蛍光体。
【請求項15】
前記パラメータf、gが、
1/18 ≦ f/(f+g) ≦ 11/18
の条件を満たす、請求項12に記載の蛍光体。
【請求項16】
前記X元素がNとOとの組み合わせであり、組成式Mh1h2(ただし、式中d+e+f+g+h1+h2=1、および、h1+h2=hである)で示され、
0/25 < h1/(h1+h2) ≦ 10/25
を満たす、請求項12に記載の蛍光体。
【請求項17】
前記M元素として少なくともEuを含む、請求項12に記載の蛍光体。
【請求項18】
前記E元素としてホウ素を0.001質量%以上1質量%以下含む、請求項12に記載の蛍光体。
【請求項19】
前記無機化合物が、平均粒径0.1μm以上20μm以下の単結晶粒子あるいは単結晶の集合体である、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項20】
前記無機化合物に含まれる、Fe、Co、Ni不純物元素の合計が500ppm以下である、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項21】
請求項1に記載の無機化合物からなる蛍光体と他の結晶相あるいはアモルファス相との混合物から構成され、前記請求項1に記載の無機化合物からなる蛍光体の含有量が20質量%以上である、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項22】
前記他の結晶相あるいはアモルファス相が導電性を持つ無機物質である、請求項21に記載の蛍光体。
【請求項23】
前記導電性を持つ無機物質がZn、Al、Ga、In、Snから選ばれる1種または2種以上の元素を含む酸化物、酸窒化物、または窒化物、あるいはこれらの混合物である、請求項22に記載の蛍光体。
【請求項24】
前記他の結晶相あるいはアモルファス相が前記蛍光体とは異なる無機蛍光体である、請求項21に記載の蛍光体。
【請求項25】
励起源を照射することにより550nmから730nmの範囲の波長にピークを持つ蛍光を発する、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項26】
前記励起源が100nm以上520nm以下の波長を持つ真空紫外線、紫外線または可視光、電子線またはX線である、請求項25に記載の蛍光体。
【請求項27】
励起源が照射されたときに発光する色がCIE1931色度座標上の(x,y)の値で、
0.3 ≦ x ≦ 0.7
0.3 ≦ y ≦ 0.7
の条件を満たす、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項28】
金属化合物の混合物であって焼成することにより、請求項1に記載の蛍光体を構成しうる原料混合物を、窒素を含有する不活性雰囲気中において1200℃以上2200℃以下の温度範囲で焼成する、請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項29】
前記金属化合物の混合物が、Mを含有する化合物と、Aを含有する化合物と、Dを含有する化合物と、Eを含有する化合物と、Xを含有する化合物(ただし、Mは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ybから選ばれる1種または2種以上の元素、Aは、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種または2種以上の元素、Aは、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種または2種以上の元素であり、かつ、Ca、SrおよびBaからなる群から少なくとも1つ選択される元素を含み、はSiであり、はAlであり、Xは、N、または、NおよびOの組み合わせである)とからなる、請求項28に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項30】
前記Mを含有する化合物が、Mを含有する金属、ケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物、または酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物であり、前記Aを含有する化合物が、Aを含有する金属、ケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物、または酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物であり、前記Dを含有する化合物が、金属、ケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物、または酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物である、請求項29に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項31】
前記金属化合物の混合物が、少なくとも、ユーロピウムの窒化物または酸化物と、バリウムの窒化物または酸化物または炭酸塩と、酸化ケイ素または窒化ケイ素と、酸化アルミニウムまたは窒化アルミニウムとを含有する、請求項28に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項32】
前記窒素を含有する不活性雰囲気が0.1MPa以上100MPa以下の圧力範囲の窒素ガス雰囲気である、請求項28に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項33】
焼成炉の発熱体、断熱体、または試料容器に黒鉛を使用する、請求項28に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項34】
粉体または凝集体形状の金属化合物を、嵩密度40%以下の充填率に保持した状態で容器に充填した後に焼成する、請求項28に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項35】
焼成に使う容器が窒化ホウ素製である、請求項28に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項36】
金属化合物の粉体粒子または凝集体の平均粒径が500μm以下である、請求項28に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項37】
スプレイドライヤ、ふるい分け、または風力分級により、金属化合物の凝集体の平均粒径を500μm以下に制御する、請求項28に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項38】
焼結手段がホットプレスによることなく、専ら常圧焼結法もしくはガス圧焼結法による手段である、請求項28に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項39】
粉砕、分級、酸処理から選ばれる1種ないし複数の手法により、焼成により合成した蛍光体粉末の平均粒径を50nm以上20μm以下に粒度調整する、請求項28に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項40】
焼成後の蛍光体粉末、あるいは粉砕処理後の蛍光体粉末、もしくは粒度調整後の蛍光体粉末を、1000℃以上で焼成温度以下の温度で熱処理する、請求項28に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項41】
前記金属化合物の混合物に、焼成温度以下の温度で液相を生成する無機化合物を添加して焼成する、請求項28に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項42】
前記焼成温度以下の温度で液相を生成する無機化合物が、Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種または2種以上の元素のフッ化物、塩化物、ヨウ化物、臭化物、あるいはリン酸塩の1種または2種以上の混合物である、請求項41に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項43】
焼成後に溶剤で洗浄することにより、焼成温度以下の温度で液相を生成する無機化合物の含有量を低減させる、請求項41に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項44】
少なくとも発光体と蛍光体とから構成される発光装置において、少なくとも請求項1に記載の蛍光体を用いる、発光装置。
【請求項45】
前記発光体が330〜500nmの波長の光を発する発光ダイオード(LED)、レーザダイオード(LD)、半導体レーザ、または有機EL発光体(OLED)である、請求項44に記載の発光装置。
【請求項46】
前記発光装置が、白色発光ダイオード、または白色発光ダイオードを複数含む照明器具、液晶パネル用バックライトである、請求項44に記載の発光装置。
【請求項47】
前記発光体がピーク波長300〜500nmの紫外または可視光を発し、請求項1に記載の蛍光体が発する黄色または橙色光と他の蛍光体が発する450nm以上の波長の光を混合することにより白色光または白色光以外の光を発する、請求項44に記載の発光装置。
【請求項48】
前記蛍光体は、前記発光体によりピーク波長420nm〜500nm以下の光を発する青色蛍光体をさらに含む、請求項44に記載の発光装置。
【請求項49】
前記青色蛍光体が、AlN:(Eu,Si)、BaMgAl1017:Eu、SrSiAl19ON31:Eu、LaSiAl1932:Eu、α−サイアロン:Ce、JEM:Ceから選ばれる、請求項48に記載の発光装置。
【請求項50】
前記蛍光体は、前記発光体によりピーク波長500nm以上550nm以下の光を発する緑色蛍光体をさらに含む、請求項44に記載の発光装置。
【請求項51】
前記緑色蛍光体が、β−サイアロン:Eu、(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO:Eu、(Ca,Sr,Ba)Si:Euから選ばれる、請求項50に記載の発光装置。
【請求項52】
前記蛍光体は、前記発光体によりピーク波長550nm以上600nm以下の光を発する黄色蛍光体をさらに含む、請求項44に記載の発光装置。
【請求項53】
前記黄色蛍光体が、YAG:Ce、α−sialon:Eu、CaAlSiN:Ce、LaSi11:Ceから選ばれる、請求項52に記載の発光装置。
【請求項54】
前記蛍光体は、前記発光体によりピーク波長600nm以上700nm以下の光を発する赤色蛍光体をさらに含む、請求項44に記載の発光装置。
【請求項55】
前記赤色蛍光体が、CaAlSiN:Eu、(Ca,Sr)AlSiN:Eu、CaSi:Eu、SrSi:Euから選ばれる、請求項54に記載の発光装置。
【請求項56】
前記発光体が320〜500nmの波長の光を発するLEDである、請求項44に記載の発光装置。
【請求項57】
励起源と蛍光体から構成される画像表示装置において、少なくとも請求項1に記載の蛍光体を用いる、画像表示装置。
【請求項58】
前記画像表示装置が、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、陰極線管(CRT)、液晶ディスプレイ(LCD)のいずれかである、請求項57に記載の画像表示装置。
【請求項59】
請求項1に記載の無機化合物からなる顔料。
【請求項60】
請求項1に記載の無機化合物からなる紫外線吸収剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、BaSi11Al25およびそれと同一の結晶構造を有する結晶(以下、BaSi11Al25系結晶という)を母体結晶とする蛍光体、その製造方法、およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体は、蛍光表示管(VFD(Vacuum−Fluorescent Display))、フィールドエミッションディスプレイ(FED(Field Emission Display)またはSED(Surface−Conduction Electron−Emitter Display))、プラズマディスプレイパネル(PDP(Plasma Display Panel))、陰極線管(CRT(Cathode−Ray Tube))、液晶ディスプレイバックライト(Liquid−Crystal Display Backlight)、白色発光ダイオード(LED(Light−Emitting Diode))などに用いられている。これらのいずれの用途においても、蛍光体を発光させるためには、蛍光体を励起するためのエネルギーを蛍光体に供給する必要があり、蛍光体は真空紫外線、紫外線、電子線、青色光などの高いエネルギーを有した励起源により励起されて、青色光、緑色光、黄色光、橙色光、赤色光等の可視光線を発する。しかしながら、蛍光体は前記のような励起源に曝される結果、蛍光体の輝度が低下し易く、輝度低下のない蛍光体が求められている。そのため、従来のケイ酸塩蛍光体、リン酸塩蛍光体、アルミン酸塩蛍光体、硫化物蛍光体などの蛍光体に代わり、高エネルギーの励起においても輝度低下の少ない蛍光体として、サイアロン蛍光体、酸窒化物蛍光体、窒化物蛍光体などの、結晶構造に窒素を含有する無機結晶を母体とする蛍光体が提案されている。
【0003】
このサイアロン蛍光体の一例は、概略以下に述べるような製造プロセスによって製造される。まず、窒化ケイ素(Si)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化ユーロピウム(Eu)を所定のモル比に混合し、1気圧(0.1MPa)の窒素中において1700℃の温度で1時間保持してホットプレス法により焼成して製造される(例えば、特許文献1参照)。このプロセスで得られるEu2+イオンを付活したαサイアロンは、450から500nmの青色光で励起されて550から600nmの黄色の光を発する蛍光体となることが報告されている。また、αサイアロンの結晶構造を保ったまま、SiとAlの割合や酸素と窒素の割合を変えることにより、発光波長が変化することが知られている(例えば、特許文献2および特許文献3参照)。
【0004】
サイアロン蛍光体の別の例として、β型サイアロンにEu2+を付活した緑色の蛍光体が知られている(特許文献4参照)。この蛍光体では、結晶構造を保ったまま酸素含有量を変化させることにより発光波長が短波長に変化することが知られている(例えば、特許文献5参照)。また、Ce3+を付活すると青色の蛍光体となることが知られている(例えば、特許文献6参照)。
【0005】
酸窒化物蛍光体の一例は、JEM相(LaAl(Si6−zAl)N10−z)を母体結晶としてCeを付活させた青色蛍光体(特許文献7参照)が知られている。この蛍光体では、結晶構造を保ったままLaの一部をCaで置換することにより、励起波長が長波長化するとともに発光波長が長波長化することが知られている。
【0006】
酸窒化物蛍光体の別の例として、La−N結晶LaSi11を母体結晶としてCeを付活させた青色蛍光体(特許文献8参照)が知られている。
【0007】
窒化物蛍光体の一例は、CaAlSiNを母体結晶としてEu2+を付活させた赤色蛍光体(特許文献9参照)が知られている。この蛍光体を用いることにより、白色LEDの演色性を向上させる効果がある。光学活性元素としてCeを添加した蛍光体は橙色の蛍光体と報告されている。
【0008】
このように、蛍光体は、母体となる結晶と、それに固溶させる金属イオン(付活イオン)の組み合わせで、発光色が決まる。さらに、母体結晶と付活イオンの組み合わせは、発光スペクトル、励起スペクトルなどの発光特性や、化学的安定性、熱的安定性を決めるため、母体結晶が異なる場合や付活イオンが異なる場合は、異なる蛍光体と見なされる。また、化学組成が同じであっても結晶構造が異なる材料は、母体結晶が異なることにより発光特性や安定性が異なるため、異なる蛍光体と見なされる。
【0009】
さらに、多くの蛍光体においては母体結晶の結晶構造を保ったまま、構成する元素の種類を置換することが可能であり、これにより発光色を変化させることが行われている。例えば、YAGにCeを添加した蛍光体は緑色発光をするが、YAG結晶中のYの一部をGdで、Alの一部をGaで置換した蛍光体は黄色発光を呈する。さらに、CaAlSiNにEuを添加した蛍光体においては、Caの一部をSrで置換することにより結晶構造を保ったまま組成が変化し、発光波長が短波長化することが知られている。このように、結晶構造を保ったまま元素置換を行った蛍光体は、同じグループの材料と見なされる。
【0010】
これらのことから、新規蛍光体の開発においては、新規の結晶構造を持つ母体結晶を見つけることが重要であり、このような母体結晶に発光を担う金属イオンを付活して蛍光特性を発現させることにより、新規の蛍光体を提案することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3668770号明細書
【特許文献2】特許第3837551号明細書
【特許文献3】特許第4524368号明細書
【特許文献4】特許第3921545号明細書
【特許文献5】国際公開第2007/066733号公報
【特許文献6】国際公開第2006/101096号公報
【特許文献7】国際公開第2005/019376号公報
【特許文献8】特開2005−112922号公報
【特許文献9】特許第3837588号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はこのような要望に応えようとするものであり、目的のひとつは、従来の蛍光体とは異なる発光特性(発光色や励起特性、発光スペクトル)を有し、かつ、470nm以下のLEDと組み合わせた場合でも発光強度が高く、化学的および熱的に安定な無機蛍光体を提供することにある。本発明のもうひとつの目的として、係る蛍光体を用いた耐久性に優れた発光装置および耐久性に優れる画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らにおいては、かかる状況の下で、窒素を含む新しい結晶およびこの結晶構造中の金属元素やNを他の元素で置換した結晶を母体とする蛍光体について詳細な研究を行い、BaSi11Al25系結晶の結晶構造を持つ結晶を母体とする無機材料が、高輝度の蛍光を発することを見いだした。また、組成を制御することにより、黄色から赤色、中でも、黄色または橙色の発光を示すことを見いだした。
【0014】
さらに、この蛍光体を用いることにより、高い発光効率を有し温度変動が小さい白色発光ダイオード(発光装置)や、それを用いた照明器具や、鮮やかな発色の画像表示装置が得られることを見いだした。
【0015】
本発明者は、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、以下に記載する構成を講ずることによって特定波長領域で高い輝度の発光現象を示す蛍光体を提供することに成功した。また、以下の方法を用いて優れた発光特性を持つ蛍光体を製造することに成功した。さらに、この蛍光体を使用し、以下に記載する構成を講ずることによって優れた特性を有する発光装置、照明器具、画像表示装置、顔料、紫外線吸収材を提供することにも成功したもので、その構成は、以下に記載のとおりである。
【0016】
本発明による蛍光体は、少なくともA元素とD元素とE元素とX元素(ただし、Aは、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種または2種以上の元素、Dは、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfから選ばれる1種または2種以上の元素、Eは、B、Al、Ga、In、Sc、Y、Laから選ばれる1種または2種以上の元素、Xは、O、N、Fから選ばれる1種または2種以上の元素)の元素を含み、BaSi11Al25で示される結晶からなる無機結晶、BaSi11Al25で示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶、または、これらの固溶体結晶に、M元素(ただしMは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ybから選ばれる1種または2種以上の元素)が固溶した無機化合物からなり、これにより上記課題を解決する。
前記BaSi11Al25で示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶は、A(D,E)1825で示される結晶、または、ASi11Al25で示される結晶であってもよい。
前記少なくともA元素にSrとBaのいずれかまたは両方を含み、D元素にSiを含み、E元素にAlを含み、X元素にNを含み、必要に応じてX元素にOを含んでもよい。
前記BaSi11Al25で示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶が、(Sr,Ba)Si11Al25であってもよい。
前記BaSi11Al25で示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶が、
(Sr、Ba)Si11−xAl7+x25−x(ただし、0 ≦ x ≦ 6)の組成式で示されてもよい。
M元素はEu、D元素はSi、E元素はAl、X元素はOおよびNであり、前記無機化合物は、
Si11−xAl7+x25−x(ただし、0 ≦ x ≦ 6)
で示される結晶にEuが固溶していてもよい。
前記xは0であってもよい。
前記A元素は、SrおよびBaの組み合わせであってもよい。
前記M元素がEuであってもよい。
360nmから500nmの光を照射すると550nm以上650nm以下の黄色または橙色の蛍光を発してもよい。
前記無機結晶は、斜方晶系の結晶であってもよい。
前記無機結晶は、斜方晶系の結晶であり、空間群Pnnmの対称性を持ち、
格子定数a、b、cは、
a = 0.95928±0.05 nm
b = 2.13991±0.05 nm
c = 0.58889±0.05 nm
の範囲の値であってもよい。
前記無機化合物は、組成式M(ただし、式中d+e+f+g+h=1であり、Mは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ybから選ばれる1種または2種以上の元素、Aは、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種または2種以上の元素、Dは、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfから選ばれる1種または2種以上の元素、Eは、B、Al、Ga、In、Sc、Y、Laから選ばれる1種または2種以上の元素、Xは、O、N、Fから選ばれる1種または2種以上の元素)で示され、パラメータd、e、f、g、hが、
0.00001 ≦ d ≦ 0.10
0.08 ≦ e ≦ 0.15
0.14 ≦ f ≦ 0.4
0.1 ≦ g ≦ 0.3
0.45 ≦ h ≦ 0.6
の条件を全て満たす範囲の組成で表されてもよい。
前記パラメータd、e、fおよびgは、
4/18 ≦ (d+e)/(f+g) ≦ 6/18
を満たしてもよい。
前記パラメータd、e、f、g、hが、
0.07 ≦ d+e ≦ 5/48+0.05
(18/48)−0.05 ≦ f+g ≦ (18/48)+0.05
(25/48)−0.05 ≦ h ≦ (25/48)+0.05
の条件を全て満たす範囲の値であってもよい。
前記パラメータf、gが、
1/18 ≦ f/(f+g) ≦ 11/18
の条件を満たしてもよい。
前記X元素がNとOとを含み、組成式Mh1h2(ただし、式中d+e+f+g+h1+h2=1、および、h1+h2=hである)で示され、
0/25 < h1/(h1+h2) ≦ 10/25
を満たしてもよい。
前記M元素として少なくともEuを含んでもよい。
前記A元素として少なくともSrおよび/またはBaを含み、前記D元素として少なくともSiを含み、前記E元素として少なくともAlを含み、前記X元素として少なくともNを含んでもよい。
前記E元素としてホウ素を0.001質量%以上1質量%以下含んでもよい。
前記無機化合物が、平均粒径0.1μm以上20μm以下の単結晶粒子あるいは単結晶の集合体であってもよい。
前記無機化合物に含まれる、Fe、Co、Ni不純物元素の合計が500ppm以下であってもよい。
上記無機化合物からなる蛍光体と他の結晶相あるいはアモルファス相との混合物から構成され、蛍光体の含有量が20質量%以上であってもよい。
前記他の結晶相あるいはアモルファス相が導電性を持つ無機物質であってもよい。
前記導電性を持つ無機物質がZn、Al、Ga、In、Snから選ばれる1種または2種以上の元素を含む酸化物、酸窒化物、または窒化物、あるいはこれらの混合物であってもよい。
前記他の結晶相あるいはアモルファス相が前記蛍光体とは異なる無機蛍光体であってもよい。
励起源を照射することにより550nmから730nmの範囲の波長にピークを持つ蛍光を発してもよい。
前記励起源が100nm以上520nm以下の波長を持つ真空紫外線、紫外線または可視光、電子線またはX線であってもよい。
励起源が照射されたときに発光する色がCIE1931色度座標上の(x,y)の値で、
0.3 ≦ x ≦ 0.7
0.3 ≦ y ≦ 0.7
の条件を満たしてもよい。
本発明による蛍光体の製造方法は、金属化合物の混合物であって焼成することにより、上記蛍光体を構成しうる原料混合物を、窒素を含有する不活性雰囲気中において1200℃以上2200℃以下の温度範囲で焼成し、これにより上記課題を解決する。
前記金属化合物の混合物が、Mを含有する化合物と、Aを含有する化合物と、Dを含有する化合物と、Eを含有する化合物と、Xを含有する化合物(ただし、Mは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ybから選ばれる1種または2種以上の元素、Aは、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種または2種以上の元素、Dは、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfから選ばれる1種または2種以上の元素、Eは、B、Al、Ga、In、Sc、Y、Laから選ばれる1種または2種以上の元素、Xは、O、N、Fから選ばれる1種または2種以上の元素)とからなってもよい。
前記Mを含有する化合物が、Mを含有する金属、ケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物、または酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物であり、前記Aを含有する化合物が、Aを含有する金属、ケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物、または酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物であり、前記Dを含有する化合物が、金属、ケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物、または酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物であってもよい。
前記金属化合物の混合物が、少なくとも、ユーロピウムの窒化物または酸化物と、バリウムの窒化物または酸化物または炭酸塩と、酸化ケイ素または窒化ケイ素と、酸化アルミニウムまたは窒化アルミニウムとを含有してもよい。
前記窒素を含有する不活性雰囲気が0.1MPa以上100MPa以下の圧力範囲の窒素ガス雰囲気であってもよい。
焼成炉の発熱体、断熱体、または試料容器に黒鉛を使用してもよい。
粉体または凝集体形状の金属化合物を、嵩密度40%以下の充填率に保持した状態で容器に充填した後に焼成してもよい。
焼成に使う容器が窒化ホウ素製であってもよい。
金属化合物の粉体粒子または凝集体の平均粒径が500μm以下であってもよい。
スプレイドライヤ、ふるい分け、または風力分級により、金属化合物の凝集体の平均粒径を500μm以下に制御してもよい。
焼結手段がホットプレスによることなく、専ら常圧焼結法もしくはガス圧焼結法による手段であってもよい。
粉砕、分級、酸処理から選ばれる1種ないし複数の手法により、焼成により合成した蛍光体粉末の平均粒径を50nm以上20μm以下に粒度調整してもよい。
焼成後の蛍光体粉末、あるいは粉砕処理後の蛍光体粉末、もしくは粒度調整後の蛍光体粉末を、1000℃以上で焼成温度以下の温度で熱処理してもよい。
前記金属化合物の混合物に、焼成温度以下の温度で液相を生成する無機化合物を添加して焼成してもよい。
前記焼成温度以下の温度で液相を生成する無機化合物が、Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種または2種以上の元素のフッ化物、塩化物、ヨウ化物、臭化物、あるいはリン酸塩の1種または2種以上の混合物であってもよい。
焼成後に溶剤で洗浄することにより、焼成温度以下の温度で液相を生成する無機化合物の含有量を低減させてもよい。
本発明による発光装置は、少なくとも発光体と蛍光体とから構成され、少なくとも上記蛍光体を用い、これにより上記課題を解決する。
前記発光体が330〜500nmの波長の光を発する発光ダイオード(LED)、レーザダイオード(LD)、半導体レーザ、または有機EL発光体(OLED)であってもよい。
前記発光装置が、白色発光ダイオード、または白色発光ダイオードを複数含む照明器具、液晶パネル用バックライトであってもよい。
前記発光体がピーク波長300〜500nmの紫外または可視光を発し、上記蛍光体が発する黄色または橙色光と他の蛍光体が発する450nm以上の波長の光を混合することにより白色光または白色光以外の光を発してもよい。
前記蛍光体は、前記発光体によりピーク波長420nm〜500nm以下の光を発する青色蛍光体をさらに含んでもよい。
前記青色蛍光体が、AlN:(Eu,Si)、BaMgAl1017:Eu、SrSiAl19ON31:Eu、LaSiAl1932:Eu、α−サイアロン:Ce、JEM:Ceから選ばれてもよい。
前記蛍光体は、前記発光体によりピーク波長500nm以上550nm以下の光を発する緑色蛍光体をさらに含んでもよい。
前記緑色蛍光体が、β−サイアロン:Eu、(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO:Eu、(Ca,Sr,Ba)Si:Euから選ばれてもよい。
前記蛍光体は、前記発光体によりピーク波長550nm以上600nm以下の光を発する黄色蛍光体をさらに含んでもよい。
前記黄色蛍光体が、YAG:Ce、α−sialon:Eu、CaAlSiN:Ce、LaSi11:Ceから選ばれてもよい。
前記蛍光体は、前記発光体によりピーク波長600nm以上700nm以下の光を発する赤色蛍光体をさらに含んでもよい。
前記赤色蛍光体が、CaAlSiN:Eu、(Ca,Sr)AlSiN:Eu、CaSi:Eu、SrSi:Euから選ばれてもよい。
前記発光体が320〜500nmの波長の光を発するLEDであってもよい。
本発明による画像表示装置は、励起源と蛍光体から構成され、少なくとも上記蛍光体を用い、これにより上記課題を解決する。
前記画像表示装置が、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、陰極線管(CRT)、液晶ディスプレイ(LCD)のいずれかであってもよい。
本発明による顔料は、上記無機化合物からなる。
本発明による紫外線吸収剤は、上記無機化合物からなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の蛍光体は、2価元素と3価元素と4価元素とを含む多元窒化物、または多元酸窒化物、なかでもBaSi11Al25で示される結晶からなる無機結晶、または、それと同一の結晶構造を持つ他の結晶を主成分として含有していることにより、従来の酸化物蛍光体や酸窒化物蛍光体より高輝度の発光を示し、組成を制御することにより、黄色から赤色、中でも、特定の組成では黄色または橙色の蛍光体として優れている。励起源に曝された場合でも、この蛍光体は、輝度が低下しないため、白色発光ダイオード等の発光装置、照明器具、液晶用バックライト光源、VFD、FED、PDP、CRTなどに好適に使用される有用な蛍光体を提供するものである。また、この蛍光体は、紫外線を吸収することから顔料および紫外線吸収剤に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】BaSi11Al25結晶の結晶構造を示す図。
図2】BaSi11Al25結晶の結晶構造から計算したCuKα線を用いた粉末X線回折を示す図。
図3】実施例6で合成した合成物の観察結果を示す図。
図4】実施例10で合成した蛍光体の励起スペクトルおよび発光スペクトルを示す図。
図5】実施例1で合成した蛍光体の励起スペクトルおよび発光スペクトルを示す図。
図6】本発明による照明器具(砲弾型LED照明器具)を示す概略図。
図7】本発明による照明器具(基板実装型LED照明器具)を示す概略図。
図8】本発明による画像表示装置(プラズマディスプレイパネル)を示す概略図。
図9】本発明による画像表示装置(フィールドエミッションディスプレイパネル)を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の蛍光体を、図面を参照して詳しく説明する。
本発明の蛍光体は、少なくともA元素と、D元素と、E元素と、X元素(ただし、Aは、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種または2種以上の元素、Dは、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfから選ばれる1種または2種以上の元素、Eは、B、Al、Ga、In、Sc、Y、Laから選ばれる1種または2種以上の元素、Xは、O、N、Fから選ばれる1種または2種以上の元素)の元素を含み、BaSi11Al25で示される結晶からなる無機結晶、あるいは、BaSi11Al25で示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶、あるいは、これらの結晶の固溶体結晶に、M元素(ただしMは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ybから選ばれる1種または2種以上の元素)が固溶した無機化合物からなる蛍光体は特に高い輝度を示す。
【0020】
BaSi11Al25で示される結晶は、本発明者が新たに合成し、結晶構造解析により新規結晶であると確認した、本発明より以前において報告されていない結晶である。
【0021】
図1は、BaSi11Al25結晶の結晶構造を示す図である。
【0022】
例示的なBaSi11Al25で示される結晶からなる無機結晶として、本発明者が合成したBaSi11Al25結晶について行った単結晶構造解析によれば、BaSi11Al25結晶は斜方晶系に属し、Pnnm空間群(International Tables for Crystallographyの58番の空間群)に属し、表1に示す結晶パラメータおよび原子座標位置を占める。
【0023】
表1において、格子定数a、b、cは単位格子の軸の長さを示し、α、β、γは単位格子の軸間の角度を示す。原子座標は単位格子中の各原子の位置を、単位格子を単位とした0から1の間の値で示す。この結晶中には、Ba、Si、Al、Nの各原子が存在し、Baは3種類の席(Ba(1),Ba(2),Ba(3))に存在する解析結果を得た。また、SiとAlは席を区別することなくSiAl(1)からSiAl(7)の7種類の席に存在する解析結果を得た。さらに、NはN(1)からN(10)の10種類の席に存在する解析結果を得た。
【0024】
【表1】
【0025】
表1のデータを使った解析の結果、BaSi11Al25結晶は図1に示す構造であり、SiまたはAlと、OまたはNとの結合で構成される4面体が連なった骨格中にBa元素が含有された構造を持つことが分かった。この結晶中にはEu等の付活イオンとなるM元素はBa元素の一部を置換する形で結晶中に取り込まれる。
【0026】
合成および構造解析したBaSi11Al25結晶と同一の結晶構造をとる結晶として、A(D,E)1825で示される結晶と、ASi11Al25で示される結晶とがある。代表的なA元素はBa、または、SrとBaの混合であり、D元素はSiであり、E元素はAlである。A(D,E)1825結晶においては、Baが入る席にAが、SiとAlが入る席には相互に区別することなくDとEが入り、Nが入る席にはXが入ることができる。これにより、結晶構造を保ったまま、A元素が5に対して、DとEが合計で18、Xが合計で25の原子数の比とすることができる。ただし、A、D、EのカチオンとXのアニオンの比は結晶中の電気的中性が保たれる条件を満たすことが望ましい。例えば、A(Si,Al)18(O,N)25結晶においては、SiとAlが入る席には相互に区別することなくSiとAlが入り、Nが入る席にはOとNが入ることができる。これにより、結晶構造を保ったまま、A元素が5に対して、SiとAlが合計で18、OとNが合計で25の原子数の比とすることができる。ただし、Si/Al比とO/N比は結晶中の電気的中性が保たれる条件を満たすことが望ましい。
【0027】
本発明のBaSi11Al25系結晶は、X線回折や中性子線回折により同定することができる。本発明で示すBaSi11Al25系結晶のX線回折結果と同一の回折を示す物質として、A(D,E)1825で示される結晶がある。さらに、BaSi11Al25結晶において構成元素が他の元素と置き換わることにより格子定数や原子位置が変化した結晶がある。ここで、構成元素が他の元素で置き換わるものとは、例えば、BaSi11Al25結晶中のBaの一部または全てが、Ba以外のA元素(ただし、Aは、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種または2種以上の元素)あるいはM元素(ただし、Mは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ybから選ばれる1種または2種以上の元素)で置換したものがある。さらに、結晶中のSiの一部または全てが、Si以外のD元素(ただし、Dは、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfから選ばれる1種または2種以上の元素)で置換したものがある。さらに、結晶中のAlの一部または全てが、Al以外のE元素(ただし、Eは、B、Al、Ga、In、Sc、Y、Laから選ばれる1種または2種以上の元素)で置換したものがある。さらに、結晶中のNの一部または全てが酸素またはフッ素で置換したものがある。これらの置換は結晶中の全体の電荷が中性となるように置換される。これらの、元素置換の結果、結晶構造が変わらないものは、BaSi11Al25系結晶である。元素の置換により、蛍光体の発光特性、化学的安定性、熱的安定性が変化するので、結晶構造が保たれる範囲に置いて、用途に応じて適時選択すると良い。
【0028】
BaSi11Al25系結晶は、その構成成分が他の元素で置き換わったり、Euなどの付活元素が固溶することによって格子定数は変化するが、結晶構造と原子が占めるサイトとその座標によって与えられる原子位置は骨格原子間の化学結合が切れるほどには大きく変わることはない。本発明では、X線回折や中性子線回折の結果をPnnmの空間群でリートベルト解析して求めた格子定数および原子座標から計算されたAl−NおよびSi−Nの化学結合の長さ(近接原子間距離)が、表1に示すBaSi11Al25結晶の格子定数と原子座標から計算された化学結合の長さと比べて±5%以内の場合は同一の結晶構造と定義してBaSi11Al25系結晶かどうかの判定を行う。この判定基準は、実験によればBaSi11Al25系結晶において化学結合の長さが±5%を越えて変化すると化学結合が切れて別の結晶となることが確認されたためである。
【0029】
さらに、固溶量が小さい場合は、BaSi11Al25系結晶の簡便な判定方法として次の方法がある。新たな物質について測定したX線回折結果から計算した格子定数と表1の結晶構造データを用いて計算した回折のピーク位置(2θ)が主要ピークについて一致したときに当該結晶構造が同じものと特定することができる。
【0030】
図2は、BaSi11Al25結晶の結晶構造から計算したCuKα線を用いた粉末X線回折を示す図である。
【0031】
図2と比較対象となる物質を比べることにより、BaSi11Al25系結晶かどうかの簡易的な判定ができる。BaSi11Al25系結晶の主要ピークとしては、回折強度の強い10本程度で判定すると良い。表1は、その意味でBaSi11Al25系結晶を特定する上において基準となるもので重要である。また、BaSi11Al25系結晶の結晶構造を斜方晶の他の晶系を用いても近似的な構造を定義することができ、その場合異なった空間群と格子定数および面指数を用いた表現となるが、X線回折結果(例えば図2)および結晶構造(例えば図1)に変わりはなく、それを用いた同定方法や同定結果も同一の物となる。このため、本発明では、斜方晶系としてX線回折の解析を行うものとする。この表1に基づく物質の同定方法については、後述実施例において具体的に述べることとし、ここでは概略的な説明に留める。
【0032】
BaSi11Al25系結晶に、M元素として、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybから選ばれる1種または2種以上の元素を付活すると蛍光体が得られる。BaSi11Al25系結晶の組成、付活元素の種類および量により、励起波長、発光波長、発光強度等の発光特性が変化するので、用途に応じて選択するとよい。
【0033】
BaSi11Al25結晶と同一の結晶構造を有する結晶であるA(D,E)1825で示される結晶において、少なくともA元素にSrとBaのいずれかまたは両方を含み、D元素にSiを含み、E元素にAlを含み、X元素にNを含み、必要に応じてX元素にOを含む組成は発光強度が高い。なかでも特に輝度が高いのは、AがSrとBaの混合であり、DがSi、EがAl、XがNまたはNとOの組み合わせであるBaSi11Al25系結晶を母体とする蛍光体である。
【0034】
BaSi11Al25で示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶が、(Sr,Ba)Si11Al25である蛍光体は結晶が安定であり、発光強度が高い。
【0035】
BaSi11Al25で示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶が、
(Sr,Ba)Si11−xAl7+x25−x
ただし、0 ≦ x ≦ 6、
の組成式で示される結晶をホストとする蛍光体は、発光強度が高く組成を変えることにより色調の変化が制御できる蛍光体である。中でもxが0である、
(Sr,Ba)Si11Al25
の組成式で示される結晶を含む蛍光体は、安定であり、発光強度が高い。
【0036】
すなわち、M元素がEuであり、D元素がSiであり、E元素がAlであり、X元素がOおよびNであり、無機化合物が、
Si11−xAl7+x25−x
ただし、0 ≦ x ≦ 6
で示される結晶にEuが固溶していてもよい。これにより高輝度発光する蛍光体を提供できる。より好ましくは、A元素はSrおよびBaの組み合わせであり、上述の結晶構造を有する結晶が安定し、発光特性を向上させることができる。さらに好ましくは、xが0であり、結晶構造を安定させるとともに、550nm以上650nm以下の黄色〜橙色の蛍光を発する。
【0037】
なお、このような無機化合物は、パラメータxおよびyを用いて、
EuBa5ーySi11−xAl7+x25−z
ただし、
0 ≦ x ≦ 6
0.0001 ≦ y ≦ 2
で示されてもよい。このような範囲では、安定な結晶構造を保ったままxとyのパラメータを変えることによる組成範囲でEu/Ba比、Si/Al比、N/O比を変化させることができる。これにより、励起波長や発光波長を連続的に変化させることができるため、材料設計がやりやすい蛍光体である。
【0038】
付活元素MとしてEuは特に発光強度が高い蛍光体が得られる。
【0039】
上述してきた無機結晶が斜方晶系である結晶は特に安定であり、これらをホスト結晶とする蛍光体は発光強度が高い。
【0040】
さらに、上述してきた無機結晶が、斜方晶系の結晶であり、空間群Pnnmの対称性を持ち、格子定数a、b、cが、
a = 0.95928±0.05 nm
b = 2.13991±0.05 nm
c = 0.58889±0.05 nmの範囲のものは結晶が特に安定であり、これらをホスト結晶とする蛍光体は発光強度が高い。この範囲を外れると結晶が不安定となり発光強度が低下することがある。
【0041】
組成式M(ただし、式中d+e+f+g+h=1であり、Mは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ybから選ばれる1種または2種以上の元素、Aは、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種または2種以上の元素、Dは、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfから選ばれる1種または2種以上の元素、Eは、B、Al、Ga、In、Sc、Y、Laから選ばれる1種または2種以上の元素、Xは、O、N、Fから選ばれる1種または2種以上の元素)で示され、パラメータd、e、f、g、hが、
0.00001 ≦ d ≦ 0.10
0.08 ≦ e ≦ 0.15
0.14 ≦ f ≦ 0.4
0.1 ≦ g ≦ 0.3
0.45 ≦ h ≦ 0.6
の条件を全て満たす蛍光体は特に発光強度が高い。
【0042】
パラメータdは、付活元素の添加量であり、0.00001より少ないと発光イオンの量が不十分で輝度が低下する。0.10より多いと発光イオン間の相互作用による濃度消光のため発光強度が低下する恐れがある。より好ましくは、パラメータdは、0.00001以上0.05以下(0.0001≦d≦0.05)である。これにより、高輝度発光し得る。以下パラメータeは、Ba等のアルカリ土類元素Aの組成を表すパラメータであり、0.08より少ないか0.15より高いと結晶構造が不安定になり発光強度が低下する。パラメータfは、Si等のD元素の組成を表すパラメータであり、0.14より少ないか0.4より高いと結晶構造が不安定になり発光強度が低下する。パラメータgは、Al等のE元素の組成を表すパラメータであり、0.1より少ないか0.3より高いと結晶構造が不安定になり発光強度が低下する。パラメータhは、O、N、F等のX元素の組成を表すパラメータであり、0.45より少ないか0.6より高いと結晶構造が不安定になり発光強度が低下する。X元素はアニオンであり、A、M、D、E元素のカチオンと中性の電荷が保たれるようにO、N、F比の組成が決まる。
【0043】
上記組成式において、パラメータd、e、fおよびgが、好ましくは、
4/18 ≦ (d+e)/(f+g) ≦ 6/18
を満たす。この範囲を満たす無機化合物を含む蛍光体は、蛍光特性に優れる。
【0044】
さらに、パラメータd、e、f、g、hは、好ましくは、
0.07 ≦ d+e ≦ 5/48+0.05
(18/48)−0.05 ≦ f+g ≦ (18/48)+0.05
(25/48)−0.05 ≦ h ≦ (25/48)+0.05
を満たす。この範囲を満たす無機化合物を含む蛍光体は、結晶構造が安定であり特に発光強度が高い。なかでも、
d+e=5/48
f+g=18/48
h=25/48
を満たす無機化合物を含む蛍光体は、上述の結晶構造(例えば、(M,A)(D,E)1825の組成を持つ結晶)が特に安定であるため、発光強度に優れる。
【0045】
さらに、パラメータf、gは、好ましくは、
1/18 ≦ f/(f+g) ≦ 11/18
満たす。これにより、発光強度が高くなる。
【0046】
さらに好ましくは、パラメータf、gは、
7/18 ≦ f/(f+g) ≦ 11/18
満たす。これにより、結晶構造が安定となり発光強度が高くなる。
【0047】
上述の組成式において、X元素がNとOとを含み、組成式Mh1h2(ただし、式中d+e+f+g+h1+h2=1、および、h1+h2=hである)で示され、
0/25 < h1/(h1+h2) ≦ 10/25
を満たす無機化合物を含む蛍光体は、蛍光特性に優れる。無機化合物中に含まれるNとOとの原子数の比がこのようになると、結晶構造が安定であり、発光強度が高い。
【0048】
さらに好ましくは、パラメータh1とh2とは、
0/25 < h1/(h1+h2) ≦ 4/25
を満たす。これにより、さらに発光強度が高くなる。
【0049】
付活元素であるM元素として少なくともEuを含む蛍光体は、本発明の中でも発光強度が高い蛍光体であり、励起源の照射により550nm〜730nmの黄色から赤色の蛍光を発する。さらに組成を制御すれば、特定の組成において550nm〜650nmの黄色または橙色の蛍光体が得られる。
【0050】
A元素として少なくともSrおよび/またはBaを含み、D元素として少なくともSiを含み、E元素として少なくともAlを含み、X元素として少なくともNを含む組成は、後述する結晶構造が安定であり、発光強度が高い。より好ましくは、M元素がEuであり、A元素がSrおよびBaの両方であり、D元素がSiであり、E元素がAlであり、X元素がNおよびOである組成は、後述の結晶構造が安定であり、組成を調製することにより、黄色または橙色の蛍光を発する。なお、E元素としてさらに0.001質量%〜1質量%のホウ素を含んでもよい。これにより結晶構造が安定となり、発光強度が増大する。。
【0051】
無機化合物が、平均粒径0.1μm以上20μm以下の単結晶粒子あるいは単結晶の集合体である蛍光体は発光効率が高く、LEDに実装する場合の操作性がよいため、この範囲の粒径に制御するのがよい。
【0052】
無機化合物に含まれる、Fe、Co、Ni不純物元素は発光強度低下の恐れがある。蛍光体中のこれらの元素の合計が500ppm以下とすることにより、発光強度低下の影響が少なくなる。
【0053】
本発明の実施形態の1つとして、BaSi11Al25系結晶を母体とする蛍光体と他の結晶相あるいはアモルファス相との混合物から構成され、BaSi11Al25系結晶の蛍光体の含有量が20質量%以上である蛍光体がある。BaSi11Al25系結晶の蛍光体単体では目的の特性が得られない場合や導電性等の機能を付加する場合に本実施形態を用いると良い。BaSi11Al25系結晶蛍光体の含有量は目的とする特性により調整するとよいが、20質量%未満では発光強度が低くなる恐れがある。
【0054】
電子線励起の用途など蛍光体に導電性が必要とされる場合は、他の結晶相あるいはアモルファス相として導電性を持つ無機物質を添加すると良い。
【0055】
導電性を持つ無機物質としては、Zn、Al、Ga、In、Snから選ばれる1種または2種以上の元素を含む酸化物、酸窒化物、または窒化物、あるいはこれらの混合物を挙げることができる例えば、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、窒化インジウム、酸化スズなどを挙げることができる。
【0056】
BaSi11Al25系結晶の蛍光体単体では目的とする発光スペクトルが得られない場合は、第2の他の蛍光体を添加するとよい。他の蛍光体としては、BAM蛍光体、β−サイアロン蛍光体、α−サイアロン蛍光体、(Sr,Ba)Si蛍光体、CaAlSiN蛍光体、(Ca,Sr)AlSiN蛍光体等を挙げることができる。あるいは、他の蛍光体として、上述の他の結晶相あるいはアモルファス相を用いてもよい。
【0057】
本発明の実施形態の1つとして、励起源を照射することにより550nmから700nmの範囲の波長にピークを持つ蛍光体がある。例えば、Euを付活したBaSi11Al25系結晶の蛍光体は組成の調整によりこの範囲に発光ピークを持つ。
【0058】
本発明の実施形態の1つとして、励起源が100nm以上520nm以下の波長を持つ真空紫外線、紫外線または可視光、電子線またはX線で発光する蛍光体がある。これらの励起源を用いることにより効率よく発光させることができる。
【0059】
本発明の実施形態の1つとして、上述の無機化合物は、A(D,E)1825で示される結晶、BaSi11Al25で示される結晶、あるいは、BaSi11Al25で示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶にEuが固溶した無機化合物を含んでもよい。組成を調整することにより、360nmから500nmの光を照射すると550nm以上650nm以下の黄色または橙色の蛍光を発するので、白色LED等の黄色または橙色発光の用途に用いると良い。
【0060】
本発明の実施形態の1つとして、励起源が照射されたときに発光する色がCIE1931色度座標上の(x,y)の値で、
0.3 ≦ x ≦ 0.7
0.3 ≦ y ≦ 0.7
範囲の蛍光体がある。例えば、
EuBa5ーySi11−xAl7+x25−x
ただし、
0 ≦ x ≦ 6
0.0001 ≦ y ≦ 2
で示される組成に調整することにより、この範囲の色度座標の色を発色する蛍光体が得られる。白色LED等の黄色または橙色発光の用途に用いると良い。
【0061】
このように本発明の蛍光体は、通常の酸化物蛍光体や既存のサイアロン蛍光体と比べて、電子線やX線、及び紫外線から可視光の幅広い励起範囲を持つこと、黄色または橙色の発光をすること、特に特定の組成では550nm〜700nmの黄色から赤色を呈し、かつ、発光波長や発光ピーク幅が調節可能であることが特徴である。しかして、このような発光特性により、本発明の蛍光体は、照明器具、画像表示装置、顔料、紫外線吸収剤に好適である。本発明の蛍光体はまた、高温にさらしても劣化しないことから耐熱性に優れており、酸化雰囲気及び水分環境下での長期間の安定性にも優れているという利点をも有し、耐久性に優れた製品を提供し得る。
【0062】
このような本発明の蛍光体の製造方法は特に規定されないが、例えば、金属化合物の混合物であって、焼成することにより、BaSi11Al25系結晶の蛍光体を構成しうる原料混合物を、窒素を含有する不活性雰囲気中において1200℃以上2200℃以下の温度範囲で焼成することにより得ることができる。本発明の主結晶は斜方晶系で空間群Pnnmに属するが、焼成温度等の合成条件により、これと異なる結晶系や空間群を持つ結晶が混入する場合がありうるが、この場合においても、発光特性の変化は僅かであるため高輝度蛍光体として使用することができる。
【0063】
出発原料としては、例えば、金属化合物の混合物が、Mを含有する化合物と、Aを含有する化合物と、Dを含有する化合物と、Eを含有する化合物と、Xを含有する化合物(ただし、Mは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ybから選ばれる1種または2種以上の元素、Aは、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種または2種以上の元素、Dは、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfから選ばれる1種または2種以上の元素、Eは、B、Al、Ga、In、Sc、Y、Laから選ばれる1種または2種以上の元素、Xは、O、N、Fから選ばれる1種または2種以上の元素)を用いると良い。
【0064】
出発原料として、Mを含有する化合物が、Mを含有する金属、ケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物、または酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物であり、Aを含有する化合物が、Aを含有する金属、ケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物、または酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物であり、Dを含有する化合物が、金属、ケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物、または酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物であるものは、原料が入手しやすく安定性に優れるため好ましい。Xを含有する化合物が、酸化物、窒化物、酸窒化物、フッ化物、酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物であるものは、原料が入手しやすく安定性に優れるため好ましい。
【0065】
Euを付活したBaSi11Al25結晶系の蛍光体を製造する場合は、少なくともユーロピウムの窒化物または酸化物と、バリウムの窒化物または酸化物または炭酸塩、および/または、ストロンチウムの窒化物または酸化物または炭酸塩と、酸化ケイ素または窒化ケイ素と、酸化アルミニウムまたは窒化アルミニウムとを含有する出発原料を用いるのが、焼成時に反応が進行しやすいため好ましい。
【0066】
焼成に用いる炉は、焼成温度が高温であり、また焼成雰囲気が窒素を含有する不活性雰囲気であることから、金属抵抗加熱方式又は黒鉛抵抗加熱方式で、炉の高温部の材料として炭素を用いた電気炉が好適である。窒素を含有する不活性雰囲気が0.1MPa以上100MPa以下の圧力範囲では、出発原料や生成物である窒化物や酸窒化物の熱分解が抑えられるため好ましい。焼成雰囲気中の酸素分圧は0.0001%以下が出発原料や生成物である窒化物や酸窒化物の酸化反応を抑制するために好ましい。焼成炉の発熱体、断熱体または試料容器に黒鉛を使用してもよい。
【0067】
なお、焼成時間は焼成温度によっても異なるが、通常1〜10時間程度である。
【0068】
蛍光体を粉体または凝集体形状で製造するには、原料を嵩密度40%以下の充填率に保持した状態で容器に充填した後に焼成する方法をとるとよい。嵩密度を40%以下の充填率にすることにより、粒子同士の強固な接着をさけることができる。ここで、相対嵩密度とは、容器に充填された粉体の質量を容器の容積で割った値(嵩密度)と粉体の物質の真密度との比である。
【0069】
原料混合物の焼成に当って、原料化合物を保持する容器としては種々の耐熱性材料が使用しうるが、本発明に使用する金属窒化物に対する材質劣化の悪影響が低いことから、学術雑誌Journal of the American Ceramic Society 2002年85巻5号1229ページないし1234ページに記載の、α−サイアロンの合成に使用された窒化ホウ素をコートしたグラファイトるつぼに示されるように窒化ホウ素をコートした容器や、あるいは窒化ホウ素焼結体が適している。このような条件で焼成を行うと、容器から製品にホウ素あるいは窒化ホウ素成分が混入するが、少量であれば発光特性は低下しないので影響は少ない。さらに少量の窒化ホウ素の添加により、製品の耐久性が向上することがあるので、場合によっては好ましい。
【0070】
蛍光体を粉体または凝集体形状で製造するには、原料の粉体粒子または凝集体の平均粒径は500μm以下とすると、反応性と操作性に優れるので好ましい。
【0071】
粒子または凝集体の粒径を500μm以下にする方法として、スプレイドライヤ、ふるい分け、または風力分級を用いると作業効率と操作性にすぐれるので好ましい。
【0072】
焼成の手法は、ホットプレスによることなく、常圧焼結法やガス圧焼結法などの外部から機械的な加圧を施さない焼結手法が、粉体または凝集体の製品を得る手法として好ましい。
【0073】
蛍光体粉末の平均粒径は、体積基準のメディアン径(d50)で50nm以上200μm以下のものが、発光強度が高いので好ましい。体積基準の平均粒径の測定は、例えば、マイクロトラックやレーザ散乱法によって測定できる。粉砕、分級、酸処理から選ばれる1種ないし複数の手法を用いることにより、焼成により合成した蛍光体粉末の平均粒径を50nm以上200μm以下に粒度調整するとよい。
【0074】
焼成後の蛍光体粉末、あるいは粉砕処理後の蛍光体粉末、もしくは粒度調整後の蛍光体粉末を、1000℃以上で焼成温度以下の温度で熱処理することにより、粉末に含まれる欠陥や粉砕による損傷が回復することがある。欠陥や損傷は発光強度の低下の要因となることがあり、この場合熱処理により発光強度が回復する。
【0075】
蛍光体の合成のための焼成時に、焼成温度以下の温度で液相を生成する無機化合物を添加して焼成することによりフラックスとして働き、反応や粒成長が促進されて安定な結晶が得られることがあり、これによって発光強度が向上することがある。
【0076】
焼成温度以下の温度で液相を生成する無機化合物として、Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種または2種以上の元素のフッ化物、塩化物、ヨウ化物、臭化物、あるいはリン酸塩の1種または2種以上の混合物を挙げることができる。これらの無機化合物はそれぞれ融点が異なるため、合成温度によって使い分けると良い。
【0077】
さらに、焼成後に溶剤で洗浄することにより、焼成温度以下の温度で液相を生成する無機化合物の含有量を低減させることにより、蛍光体の発光強度が高くなることがある。
【0078】
本発明の蛍光体を発光装置等の用途に使用する場合には、これを液体媒体中に分散させた形態で用いることが好ましい。また、本発明の蛍光体を含有する蛍光体混合物として用いることもできる。本発明の蛍光体を液体媒体中に分散させたものを、蛍光体含有組成物と呼ぶものとする。
【0079】
本発明の蛍光体含有組成物に使用可能な液体媒体としては、所望の使用条件下において液状の性質を示し、本発明の蛍光体を好適に分散させると共に、好ましくない反応等を生じないものであれば、任意のものを目的等に応じて選択することが可能である。液体媒体の例としては、硬化前の付加反応型シリコーン樹脂、縮合反応型シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。これらの液体媒体は一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0080】
液状媒体の使用量は、用途等に応じて適宜調整すればよいが、一般的には、本発明の蛍光体に対する液状媒体の重量比で、通常3重量%以上、好ましくは5重量%以上、また、通常30重量%以下、好ましくは15重量%以下の範囲である。
【0081】
また、本発明の蛍光体含有組成物は、本発明の蛍光体及び液状媒体に加え、その用途等に応じて、その他の任意の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、拡散剤、増粘剤、増量剤、干渉剤等が挙げられる。具体的には、アエロジル等のシリカ系微粉、アルミナ等が挙げられる。
【0082】
本発明の発光装置は、少なくとも発光体または発光光源と本発明の蛍光体とを用いて構成される。
【0083】
発光体または発光光源としては、LED発光器具、レーザダイオード発光器具、EL発光器具、蛍光ランプ、半導体レーザ、有機EL発光器具(OLED)などがある。LED発光装置では、本発明の蛍光体を用いて、特開平5−152609、特開平7−99345、特許公報第2927279号などに記載されているような公知の方法により製造することができる。この場合、発光体または発光光源は330〜500nmの波長の光を発するものが望ましく、中でも330〜420nmの紫外(または紫)LED発光素子または420〜500nmの青色LED発光素子が好ましい。これらのLED発光素子としては、GaNやInGaNなどの窒化物半導体からなるものがあり、組成を調整することにより、所定の波長の光を発する発光光源となり得る。
【0084】
本発明の発光装置としては、本発明の蛍光体を含む、白色発光ダイオード、または白色発光ダイオードを複数含む照明器具、液晶パネル用バックライト等がある。
【0085】
このような発光装置において、本発明の蛍光体に加えて、Euを付活したβサイアロン蛍光体、Euを付活したαサイアロン黄色蛍光体、Euを付活したSrSi橙色蛍光体、Euを付活した(Ca,Sr)AlSiN橙色蛍光体、および、Euを付活したCaAlSiN赤色蛍光体から選ばれる1種または2種以上の蛍光体をさらに含んでもよい。上記以外の黄色蛍光体としては、例えば、YAG:Ce、(Ca,Sr,Ba)Si:Euなどを用いてもよい。
【0086】
本発明の発光装置の一形態として、発光体または発光光源がピーク波長300〜500nmの紫外または可視光を発し、本発明の蛍光体が発する黄色から赤色光と、本発明の他の蛍光体が発する450nm以上の波長の光を混合することにより白色光または白色光以外の光を発する発光装置がある。
【0087】
本発明の発光装置の一形態として、本発明の蛍光体に加えて、さらに、発光体または発光光源によりピーク波長420nm〜500nm以下の光を発する青色蛍光体を含むことができる。このような、青色蛍光体としては、AlN:(Eu,Si)、BaMgAl1017:Eu、SrSiAl19ON31:Eu、LaSiAl1932:Eu、α−サイアロン:Ce、JEM:Ceなどがある。
【0088】
本発明の発光装置の一形態として、本発明の蛍光体に加えて、さらに、発光体または発光光源によりピーク波長500nm以上550nm以下の光を発する緑色蛍光体を含むことができる。このような、緑色蛍光体としては、例えば、β−サイアロン:Eu、(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO:Eu、(Ca,Sr,Ba)Si:Euなどがある。
【0089】
本発明の発光装置の一形態として、本発明の蛍光体に加えて、さらに、発光体または発光光源によりピーク波長550nm以上600nm以下の光を発する黄色蛍光体を含むことができる。このような黄色蛍光体としては、YAG:Ce、α−sialon:Eu、CaAlSiN:Ce、LaSi11:Ceなどがある。
【0090】
本発明の発光装置の一形態として、本発明の蛍光体に加えて、さらに、発光体または発光光源によりピーク波長600nm以上700nm以下の光を発する赤色蛍光体を含むことができる。このような赤色蛍光体としては、CaAlSiN:Eu、(Ca,Sr)AlSiN:Eu、CaSi:Eu、SrSi:Euなどがある。
【0091】
本発明の発光装置の一形態として、発光体または発光光源が320〜500nmの波長の光を発するLEDを用いると発光効率が高いため、高効率の発光装置を構成することができる。
【0092】
本発明の画像表示装置は少なくも励起源と本発明の蛍光体とから構成され、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、陰極線管(CRT)などがある。本発明の蛍光体は、100〜190nmの真空紫外線、190〜380nmの紫外線、電子線などの励起で発光することが確認されており、これらの励起源と本発明の蛍光体との組み合わせで、上記のような画像表示装置を構成することができる。
【0093】
特定の化学組成を有する無機化合物結晶相よりなる本発明の蛍光体は、黄色の物体色を持つことから顔料又は蛍光顔料として使用することができる。すなわち、本発明の蛍光体に太陽光や蛍光灯などの照明を照射すると黄色の物体色が観察されるが、その発色がよいこと、そして長期間に渡り劣化しないことから、本発明の蛍光体は無機顔料に好適である。このため、塗料、インキ、絵の具、釉薬、プラスチック製品に添加する着色剤などに用いると長期間に亘って良好な発色を高く維持することができる。
【0094】
本発明の窒化物蛍光体は、紫外線を吸収するため紫外線吸収剤としても好適である。このため、塗料として用いたり、プラスチック製品の表面に塗布したり内部に練り込んだりすると、紫外線の遮断効果が高く、製品を紫外線劣化から効果的に保護することができる。
【実施例】
【0095】
本発明を以下に示す実施例によってさらに詳しく説明するが、これはあくまでも本発明を容易に理解するための一助として開示したものであって、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0096】
[合成に使用した原料]
合成に使用した原料粉末は、比表面積11.2m/gの粒度の、酸素含有量1.29重量%、α型含有量95%の窒化ケイ素粉末(宇部興産(株)製のSN−E10グレード)と、二酸化ケイ素粉末(SiO;高純度化学研究所製)と、比表面積3.3m/gの粒度の、酸素含有量0.82重量%の窒化アルミニウム粉末((株)トクヤマ製のEグレード)と、比表面積13.2m/gの粒度の酸化アルミニウム粉末(大明化学工業製タイミクロン)と、窒化カルシウム(Ca;高純度化学研究所製)と、純度99.5%の窒化ストロンチウム(Sr;セラック製)と、純度99.7%の窒化バリウム(Ba;セラック製)と、酸化ユーロピウム(Eu;純度99.9%信越化学工業(株)製)と、窒化ユーロピウム(EuN;金属ユーロピウムをアンモニア気流中で800℃で10時間加熱することにより、金属を窒化して得たもの)と、希土類酸化物(純度99.9%信越化学工業製)であった。
【0097】
[結晶BaSi11Al25の合成と構造解析]
窒化ケイ素(Si)、窒化バリウム(Ba)、窒化アルミニウム(AlN)をモル比で11:5:21の割合で混合組成を設計した。これらの原料粉末を、上記混合組成となるように秤量し、窒化ケイ素焼結体製乳棒と乳鉢を用いて5分間混合を行なった。次いで、得られた混合粉末を、窒化ホウ素焼結体製のるつぼに投入した。混合粉末(粉体)の嵩密度は約30%であった。
【0098】
混合粉末が入ったるつぼを黒鉛抵抗加熱方式の電気炉にセットした。焼成の操作は、まず、拡散ポンプにより焼成雰囲気を1×10−1Pa以下圧力の真空とし、室温から800℃まで毎時500℃の速度で加熱し、800℃で純度が99.999体積%の窒素を導入して炉内の圧力を1MPaとし、毎時500℃で1900℃でまで昇温し、その温度で2間保持した。
【0099】
合成物を光学顕微鏡で観察し、合成物中から60μm×5μm×5μmの大きさの結晶粒子を採取した。この粒子をエネルギー分散型元素分析器(EDS;ブルカー・エイエックスエス社製QUANTAX)を備えた走査型電子顕微鏡(SEM;日立ハイテクノロジーズ社製のSU1510)を用いて、結晶粒子に含まれる元素の分析を行った。その結果、Ba、Si、Al、N元素の存在が確認され、Ba、Si、Alの含有原子数の比は、5:11:7であることが測定された。
【0100】
次にこの結晶をガラスファイバーの先端に有機系接着剤で固定した。これをMoKα線の回転対陰極付きの単結晶X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス社製のSMART APEXII Ultra)を用いて、X線源の出力が50kV50mAの条件でX線回折測定を行った。その結果、この結晶粒子が単結晶であることを確認した。
【0101】
次に、X線回折測定結果から単結晶構造解析ソフトウエア(ブルカー・エイエックスエス社製のAPEX2)を用いて結晶構造を求めた。得られた結晶構造データを表1に、結晶構造の図を図1に示す。表1には、結晶系、空間群、格子定数、原子の種類と原子位置が記述してあり、このデータを用いて、単位格子の形および大きさとその中の原子の並びを決めることができる。なお、SiとAlは同じ原子位置にある割合で入り、酸素と窒素は同じ原子位置にある割合で入り、全体として平均化したときにその結晶の組成割合となる。
【0102】
この結晶は、斜方晶系(orthorhombic)に属し、空間群Pnnm、(International Tables for Crystallographyの58番の空間群)に属し、格子定数a,b,cが、
a = 0.95928nm、b = 2.13991nm、c = 0.58889nm、角度α=90°、β=90°、γ=90°であった。また原子位置は表1に示す通りであった。なお、表中、SiとAlは同じ原子位置に組成によって決まるある割合で存在する。また、一般的にサイアロン系の結晶においてXが入る席には酸素と窒素が入ることができるが、Baは+2価、Alは+3価、Siは+4価であるので、原子位置とBaとAlとSiの比がわかれば、(O,N)位置を占めるOとNの比は結晶の電気的中性の条件から求められる。EDSの測定値のBa:Si:Al比と結晶構造データから求めたこの結晶の組成は、BaSi11Alであった。なお、出発原料組成と結晶組成が異なるのは、少量の第二相としてBaSi11Al以外の組成物が生成したことによるが、本測定は単結晶を用いているので解析結果は純粋なBaSi11Al構造を示している。
【0103】
類似組成の検討を行ったところ、BaSi11Al結晶は、結晶構造を保ったままBaの一部または全てをSrで置換できることがわかった。すなわち、ASi11Al(AはSr、Baから選ばれる1種または2種または混合)の結晶はBaSi11Al結晶と同一の結晶構造を持つ。さらにSiの一部をAlで置換、Alの一部をSiで置換、Nの一部を酸素で置換することができ、この結晶はBaSi11Alと同一の結晶構造を持つ結晶グループの1つの組成であることが確認された。また、電気的中性の条件から、
BaSi11−xAl7+x25−x(ただし、0 ≦ x ≦ 10)で示される組成としても記述できる。
【0104】
結晶構造データからこの結晶は今まで報告されていない新規の物質であることが確認された。結晶構造データから計算した粉末X線回折パターンを図2に示す。今後は、合成物の粉末X回折測定を行い、測定された粉末パターンが図2と同じであれば図1の結晶BaSi11Alが生成していると判定できる。さらに、BaSi11Al系結晶として結晶構造を保ったまま格子定数等が変化したものは、粉末X線回折測定により得られた格子定数の値と表1の結晶構造データから計算により粉末X線パターンを計算できるので、計算パターンと比較することによりBaSi11Al系結晶が生成していると判定できる。
【0105】
[蛍光体の実施例;実施例1から33]
表2に示す設計組成に従って、原料を表3の混合組成(モル比)となるように秤量した。ここで、設計組成の基準となるパラメータを用いた変換パラメータについても、表4にまとめる。使用する原料の種類によっては表2の設計組成と表3の混合組成で組成が異なる場合が生じるが、この場合は金属イオンの量が合致するように混合組成を決定した。秤量した原料粉末を窒化ケイ素焼結体製乳棒と乳鉢を用いて5分間混合を行なった。その後、混合粉末を窒化ホウ素焼結体製のるつぼに投入した。粉体の嵩密度は約20%から30%であった。
【0106】
混合粉末が入ったるつぼを黒鉛抵抗加熱方式の電気炉にセットした。焼成の操作は、まず、拡散ポンプにより焼成雰囲気を1×10−1Pa以下圧力の真空とし、室温から800℃まで毎時500℃の速度で加熱し、800℃で純度が99.999体積%の窒素を導入して炉内の圧力を1MPaとし、毎時500℃で表5に示す設定温度まで昇温し、その温度で2間保持した。
【0107】
【表2】
【0108】
【表3】
【0109】
【表4】
【0110】
【表5】
【0111】
次に、合成した化合物をメノウの乳鉢を用いて粉砕し、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定を行った。主な生成相を表6に示す。その結果、BaSi11Alの結晶と同じ結晶構造を持つ相が主な生成相であることが確認された。また、EDSの測定より、合成物は希土類元素、アルカリ土類金属、Si、Al、O、Nを含むことが確認された。即ち、合成物はBaSi11Al系結晶にEuやCe等の発光イオンMが固溶した蛍光体であることが確認された。
【0112】
【表6】
【0113】
焼成後、この得られた焼成体を粗粉砕の後、窒化ケイ素焼結体製のるつぼと乳鉢を用いて手で粉砕し、30μmの目のふるいを通した。粒度分布を測定したところ、平均粒径は3〜8μmであった。合成物を観察した。結果を図3に示す。
【0114】
図3は、実施例6で合成した合成物の観察結果を示す図である。
【0115】
図3によれば、実施例6で合成した合成物は、黄色の物体色を示した。図示しないが、他の実施例も同様の物体色を示した。本発明の合成物は、顔料又は蛍光顔料として使用することができることが分かった。
【0116】
これらの粉末に、波長365nmの光を発するランプで照射した結果、黄色から赤色に発光することを確認した。この粉末の発光スペクトルおよび励起スペクトルを、蛍光分光光度計を用いて測定した。励起発光スペクトルを図4および図5に示す。励起スペクトルのピーク波長と発光スペクトルのピーク波長を表7に示す。この蛍光体は、300nm〜380nmの紫外線、380nm〜500nmの紫色または青色光で励起することが可能であり、黄色から赤色発光する蛍光体であることが確認された。
【0117】
実施例1〜33によれば、M元素がEuである上記組成を満たす無機化合物は、紫外線または可視光の励起源の照射により、波長550nmから730nmの範囲の波長にピークを持つ蛍光を発することが確認された。中でも、例えば、実施例1〜10、15〜33によれば、組成を制御すれば、360nmから500nmの波長の光の照射により、波長550nm以上650nm以下の範囲の波長にピークを持つ、黄色または橙色の蛍光を発することが確認された。
【0118】
【表7】
【0119】
なお、混合原料組成と合成物の化学組成が異なっている部分は、不純物第二相として合成物中に微量混在していると考えられる。
【0120】
図4は、実施例10で合成した蛍光体の励起スペクトルおよび発光スペクトルを示す図である。
図5は、実施例1で合成した蛍光体の励起スペクトルおよび発光スペクトルを示す図である。
【0121】
合成した蛍光体の粉末X線回折結果は構造解析の結果(図2)と良い一致を示し、例えば、実施例1および10ではBaSi11Al25結晶とX線回折パターンが同じであり、BaSi11Al25結晶と同一の結晶構造を持つ結晶が主成分であることが確認された。さらに、実施例1および10では、EDSの測定より、合成物はEu、Ba、Si、Al、Nを含むことが確認された。また、Ba:Si:Alの比は、5:11:7であることが確認された。即ち、合成物はBaSi11Al25結晶にEuが固溶した蛍光体であることが確認された。実施例1では、440nmで最も効率よく励起できることがわかり、440nmで励起したときの発光スペクトルは590nmにピークを持つ発光を呈することがわかった。また、実施例1の蛍光体の発光色が、CIE1931色度座標において、0.3≦x≦0.7および0.3≦y≦0.7の範囲内であることを確認した。実施例10では、440nmで最も効率よく励起できることがわかり、440nmで励起したときの発光スペクトルは650nmにピークを持つ発光を呈し、赤色発光することがわかった。
【0122】
[発光装置および画像表示装置の実施例;実施例34から37]
次ぎに、本発明の蛍光体を用いた発光装置について説明する。
【0123】
[実施例34]
図6は、本発明による照明器具(砲弾型LED照明器具)を示す概略図である。
【0124】
図6に示すいわゆる砲弾型白色発光ダイオードランプ(1)を製作した。2本のリードワイヤ(2、3)があり、そのうち1本(2)には、凹部があり、365nmに発光ピークを持つ紫外発光ダイオード素子(4)が載置されている。紫外発光ダイオード素子(4)の下部電極と凹部の底面とが導電性ペーストによって電気的に接続されており、上部電極ともう1本のリードワイヤ(3)とが金細線(5)によって電気的に接続されている。蛍光体(7)が樹脂に分散され、発光ダイオード素子(4)近傍に実装されている。この蛍光体を分散した第一の樹脂(6)は、透明であり、紫外発光ダイオード素子(4)の全体を被覆している。凹部を含むリードワイヤの先端部、青色発光ダイオード素子、蛍光体を分散した第一の樹脂は、透明な第二の樹脂(8)によって封止されている。透明な第二の樹脂(8)は全体が略円柱形状であり、その先端部がレンズ形状の曲面となっていて、砲弾型と通称されている。
【0125】
本実施例では、実施例22で作製した黄色蛍光体とJEM:Ce青色蛍光体を質量比で7:3に混合した蛍光体粉末を35重量%の濃度でエポキシ樹脂に混ぜ、これをディスペンサを用いて適量滴下して、蛍光体を混合したもの(7)を分散した第一の樹脂(6)を形成した。得られた発光装置の発色は、x=0.33、y=0.33であり、白色であった。
【0126】
[実施例35]
図7は、本発明による照明器具(基板実装型LED照明器具)を示す概略図である。
【0127】
図7に示す基板実装用チップ型白色発光ダイオードランプ(11)を製作した。可視光線反射率の高い白色のアルミナセラミックス基板(19)に2本のリードワイヤ(12、13)が固定されており、それらワイヤの片端は基板のほぼ中央部に位置し、他端はそれぞれ外部に出ていて電気基板への実装時ははんだづけされる電極となっている。リードワイヤのうち1本(12)は、その片端に、基板中央部となるように発光ピーク波長450nmの青色発光ダイオード素子(14)が載置され固定されている。青色発光ダイオード素子(14)の下部電極と下方のリードワイヤとは導電性ペーストによって電気的に接続されており、上部電極ともう1本のリードワイヤ(13)とが金細線(15)によって電気的に接続されている。
【0128】
第一の樹脂(16)と実施例22で作製した蛍光体とCaAlSiN:Eu赤色蛍光体を質量比で9:1に混合した蛍光体(17)を混合したものが、発光ダイオード素子近傍に実装されている。この蛍光体を分散した第一の樹脂は、透明であり、青色発光ダイオード素子(14)の全体を被覆している。また、セラミック基板上には中央部に穴の開いた形状である壁面部材(20)が固定されている。壁面部材(20)は、その中央部が青色発光ダイオード素子(14)及び蛍光体(17)を分散させた樹脂(16)がおさまるための穴となっていて、中央に面した部分は斜面となっている。この斜面は光を前方に取り出すための反射面であって、その斜面の曲面形は光の反射方向を考慮して決定される。また、少なくとも反射面を構成する面は白色または金属光沢を持った可視光線反射率の高い面となっている。本実施例では、該壁面部材(20)を白色のシリコーン樹脂によって構成した。壁面部材の中央部の穴は、チップ型発光ダイオードランプの最終形状としては凹部を形成するが、ここには青色発光ダイオード素子(14)及び蛍光体(17)を分散させた第一の樹脂(16)のすべてを封止するようにして透明な第二の樹脂(18)を充填している。本実施例では、第一の樹脂(16)と第二の樹脂(18)とには同一のエポキシ樹脂を用いた。蛍光体の添加割合、達成された色度等は、実施例34と略同一である。
【0129】
次ぎに、本発明の蛍光体を用いた画像表示装置の設計例について説明する。
【0130】
[実施例36]
図8は、本発明による画像表示装置(プラズマディスプレイパネル)を示す概略図である。
【0131】
本発明の実施例12の赤色蛍光体(31)と緑色蛍光体(β−サイアロン:Eu2+)(32)および青色蛍光体(BAM:Eu2+)(33)が、ガラス基板(44)上に電極(37、38、39)および誘電体層(41)を介して配置されたそれぞれのセル(34、35、36)の内面に塗布されている。電極(37、38、39、40)に通電するとセル中でXe放電により真空紫外線が発生し、これにより蛍光体が励起されて、赤、緑、青の可視光を発し、この光が保護層(43)、誘電体層(42)、ガラス基板(45)を介して外側から観察され、画像表示装置として機能する。
【0132】
[実施例37]
図9は、本発明による画像表示装置(フィールドエミッションディスプレイパネル)を示す概略図である。
【0133】
本発明の実施例27の橙色蛍光体(56)が陽極(53)の内面に塗布されている。陰極(52)とゲート(54)の間に電圧をかけることにより、エミッタ(55)から電子(57)が放出される。電子は陽極(53)と陰極の電圧により加速されて、橙色蛍光体(56)に衝突して蛍光体が発光する。全体はガラス(51)で保護されている。図は、1つのエミッタと1つの蛍光体からなる1つの発光セルを示したが、実際には橙色の他に、青色、緑色のセルが多数配置されて多彩な色を発色するディスプレイが構成される。緑色や赤色のセルに用いられる蛍光体に関しては特に指定しないが、低速の電子線で高い輝度を発するものを用いると良い。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明の窒化物蛍光体は、従来の蛍光体とは異なる発光特性(発光色や励起特性、発光スペクトル)を有し、かつ、470nm以下のLEDと組み合わせた場合でも発光強度が高く、化学的および熱的に安定であり、さらに励起源に曝された場合の蛍光体の輝度の低下が少ないので、VFD、FED、PDP、CRT、白色LEDなどに好適に使用される窒化物蛍光体である。今後、各種表示装置における材料設計において、大いに活用され、産業の発展に寄与することが期待できる。
【符号の説明】
【0135】
1.砲弾型発光ダイオードランプ。
2、3.リードワイヤ。
4.発光ダイオード素子。
5.ボンディングワイヤ。
6、8.樹脂。
7.蛍光体。
11.基板実装用チップ型白色発光ダイオードランプ。
12、13.リードワイヤ。
14.発光ダイオード素子。
15.ボンディングワイヤ。
16、18.樹脂。
17.蛍光体。
19.アルミナセラミックス基板。
20.側面部材。
31.赤色蛍光体。
32.緑色蛍光体。
33.青色蛍光体。
34、35、36.紫外線発光セル。
37、38、39、40.電極。
41、42.誘電体層。
43.保護層。
44、45.ガラス基板。
51.ガラス。
52.陰極。
53.陽極。
54.ゲート。
55.エミッタ。
56.蛍光体。
57.電子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9