(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061343
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】小胞体の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/16 20060101AFI20170106BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20170106BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20170106BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20170106BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20170106BHJP
【FI】
A61K37/14
A61K9/127
A61K47/24
A61K47/28
A61K47/44
【請求項の数】15
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-508906(P2013-508906)
(86)(22)【出願日】2012年4月4日
(86)【国際出願番号】JP2012059233
(87)【国際公開番号】WO2012137834
(87)【国際公開日】20121011
【審査請求日】2015年3月11日
(31)【優先権主張番号】61/471,490
(32)【優先日】2011年4月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(74)【代理人】
【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(74)【代理人】
【識別番号】100146031
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 明夫
(74)【代理人】
【識別番号】100125081
【弁理士】
【氏名又は名称】小合 宗一
(72)【発明者】
【氏名】酒井 宏水
【審査官】
鈴木 理文
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2008/0193511(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0057988(US,A1)
【文献】
特開昭58−029715(JP,A)
【文献】
J. Control. Release,2010年,Vol.142,pp.319-325
【文献】
Colloids. Surf. B Biointerfaces,2008年,Vol.65,pp.239-246
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/16
A61K 9/127
A61K 47/24
A61K 47/28
A61K 47/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘモグロビンを含有する小胞体の製造方法であって、
(a)前記ヘモグロビン、脂質および水を筒状容器内に収容する工程と、
(b)前記筒状容器をその中心軸周りに自転させると共に所定の公転軸周りに公転させて前記筒状容器内の収容物を混錬することにより、前記脂質を主成分とする脂質小胞体の中に前記ヘモグロビンを含有した前記小胞体を製造する工程と
を有し、
前記工程(a)で前記筒状容器内に収容される前記収容物は、前記ヘモグロビンを30〜50g/dL溶解したヘモグロビン水溶液に、前記脂質としての複合脂質粉末を前記ヘモグロビン水溶液1dLあたり15g以上加えることにより調製される
ことを特徴とする小胞体の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の小胞体の製造方法において、
前記(a)の工程で前記筒状容器内に収容される前記収容物は、前記ヘモグロビンを含有する水溶液に前記脂質を加えることにより調製される
ことを特徴とする小胞体の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の小胞体の製造方法において、
前記(a)の工程で前記筒状容器内に収容される前記収容物は、前記ヘモグロビンを含有する前記脂質を乾燥させて成る脂質粉末を水中に分散させることにより調製される
ことを特徴とする小胞体の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載の小胞体の製造方法において、
前記工程(b)では、前記筒状容器の公転速度が200〜3000rpmとなり、前記筒状容器の自転速度が100〜3000rpmとなるように、前記筒状容器を自転および公転させて前記水溶液を混錬する
ことを特徴とする小胞体の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項記載の小胞体の製造方法において、
(c)前記工程(b)の後に、前記筒状容器中の液体又はペーストに水又は生理食塩水を加える工程と、
(d)前記工程(c)の後に、前記筒状容器をさらに前記中心軸周りに自転させると共に前記所定の公転軸周りに公転させて前記筒状容器内の液体又はペーストの粘度を低下させる工程と
をさらに有する
ことを特徴とする小胞体の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の小胞体の製造方法において、
(e)前記工程(d)の後に、前記筒状容器中の液体又はペーストに限外濾過膜又は超遠心分離法を適用することにより、前記液体又はペーストから前記脂質に内包されなかった前記ヘモグロビンを除去する工程
をさらに有する
ことを特徴とする小胞体の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項記載の小胞体の製造方法において、
前記工程(b)では、前記筒状容器を前記中心軸周りに自転させると共に前記所定の公転軸周りに公転させて前記水溶液を混錬する混錬処理を複数回行い、且つ、前記各混錬処理の間に、前記筒状容器の自転および公転の少なくとも一方を停止させ又は前記筒状容器の自転および公転の少なくとも一方の回転速度を低減することにより前記液体又はペーストを冷却する冷却処理を行う
ことを特徴とする小胞体の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項記載の小胞体の製造方法において、
前記筒状容器は、その側壁の内周面に複数の凹曲面を有すると共に、隣接する前記各凹曲面は互いに曲率中心の位置が異なるものであり、これにより、隣接する各凹曲面の間に前記筒状容器の内側に向かって凸形状の突部が形成されているものである
ことを特徴とする小胞体の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項記載の小胞体の製造方法において、
前記ヘモグロビンはヘムが鉄二価の状態であるカルボニルヘモグロビン又はヘムが鉄二価の状態であるデオキシヘモグロビンである
ことを特徴とする小胞体の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項記載の小胞体の製造方法において、
前記ヘモグロビン水溶液に前記脂質を加える前に、前記ヘモグロビン水溶液を50℃以上で5時間以上の加熱処理を行い、夾雑する不安定な蛋白質を変性させて限外濾過膜または遠心分離により除去しておく除去工程をさらに有し、
前記除去工程は、前記工程(b)における前記混錬において、変性蛋白質の不溶化物の発生を低減するための工程である
ことを特徴とする小胞体の製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項]記載の小胞体の製造方法において、
前記脂質は、ホスファチジルコリン型リン脂質、コレステロール、負電荷脂質、およびポリエチレングリコールを結合した脂質を含有している
ことを特徴とする小胞体の製造方法。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項記載の小胞体の製造方法において、
前記脂質は、ホスファチジルコリン型リン脂質である1,2−dipalmitoyl−sn−glycero−3−phosphatidylcholine、コレステロール、負電荷脂質である1,5−O−dihexadecyl−N−succinyl−glutamate、および、ポリエチレングリコールを結合した脂質である1,2−distearoyl−sn−glycero−3−phosphatidylethanolamine−N−Poly(oxyethylene)5000(ポリエチレングリコール鎖の分子量5000)を含有している
ことを特徴とする小胞体の製造方法。
【請求項13】
請求項11記載の小胞体の製造方法において、
前記ホスファチジルコリン型リン脂質のゲル−液晶相転移温度は30℃以下である
ことを特徴とする小胞体の製造方法。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれか1項記載の小胞体の製造方法において、
この方法は、前記脂質として脂質ラメラゲル乾燥脂質粉末を製作する脂質粉末製作工程
を有し、
前記脂質粉末製作工程は、
実質的に溶質を含まない純水に脂質粉末を15g/dL濃度以上で加えた脂質水溶液を作製する工程と、
前記脂質水溶液を筒状の容器に収容し、当該容器をその中心軸周りに自転させると共に所定の公転軸周りに公転させることにより前記脂質水溶液を混錬する工程と、
前記混錬を行った前記脂質水溶液を凍結乾燥して前記脂質ラメラゲル乾燥脂質粉末を得る工程と
を有する
ことを特徴とする小胞体の製造方法。
【請求項15】
請求項6記載の小胞体の製造方法において、
前記工程(e)の後に、前記脂質に内包されなかった前記ヘモグロビンを除去することによって得られる生成物にβ−プロピオラクトンを添加する工程をさらに有する
ことを特徴とする小胞体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン脂質小胞体(リポソーム)製剤の製造法に関する。特に、医療分野において輸血の代替として用いる人工酸素運搬体(ヘモグロビン小胞体)の濃厚分散液を従来よりも効率高く製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現行の献血-輸血システムは、医療に不可欠の技術として確立している。しかし諸問題(感染、保存期限、献血者数の減少など)も抱え、輸血に代わる輸液の探索が緊急課題になっている。特に酸素運搬機能を司る赤血球の代替物の実現が求められている。赤血球に濃度高く含まれるヘモグロビン(Hb)が酸素結合蛋白質であることから、このヘモグロビンを利用した人工赤血球の開発が進められている。赤血球からの厳密な精製を経ることにより、ヘモグロビンから病原体や血液型物質を完全に除去することが可能である。ヘモグロビンを利用する人工酸素運搬体としては、ヘモグロビンに化学的修飾を加えた形式(水溶性高分子結合型、分子内架橋型、重合型)のほか、リン脂質小胞体や高分子カプセルの内水相に高純度ヘモグロビンを内包したヘモグロビン小胞体などが知られている。世界的に見て修飾ヘモグロビン溶液の開発が先行し、臨床試験の最終段階に到達したものがあるが、予期せぬ副作用のために開発を中断するケースが相次ぎ、淘汰が進んでいる。これは、赤血球の生理学的意義に基づいた構造の欠如に拠る。赤血球は直径約8μmの中窪み円盤状粒子であり、本来毒性のあるヘモグロビン(分子量64,500)の高濃度溶液(約35%)を赤血球膜に内包した構造を持っている。ヘモグロビンに化学的修飾をしただけでは、ヘモグロビンの毒性を完全に排除することは出来ない(非特許文献1;酒井宏水、土田英俊. ファルマシア 2009; 45: 23-28)。
【0003】
歴史的には、両親媒性分子であるリン脂質が水中で自己集合して二分子膜を形成しこれが小胞構造(リン脂質小胞体、リポソーム)に成ることが1960年代後半に報告され、1970年代後半からこのリン脂質小胞体にヘモグロビンを内包する試みが成されてきたが、粒径制御など調製の困難さ、血漿蛋白質との相互作用に起因する凝集阻止に充分な手段を得なかったため具体化しなかった(非特許文献2;Djordjevich L & Miller IF. Fed Proc. 1977;36:567)。しかしその後、「押出し法, Extrusion method」によるリン脂質二分子膜で高濃度ヘモグロビン溶液を被覆する技術と、特に毛細血管を容易に通過できる粒径の制御、また血中分散安定度の向上が達成され、ヘモグロビン小胞体が報告された(非特許文献3;Sakai H, Hamada K, Takeoka S, Nishide H, Tsuchida E. Biotechnol Prog. 1996; 12(1):119-125)。ポリエチレングリコールを粒子表面に配置して小胞体粒子間の凝集抑制と分散安定度向上の効果が得られ、溶液から酸素を実質的に完全に除去することにより、溶液のまま室温にて長期間の保存が可能である(特許文献1;特許第3466516号公報)。既に動物投与試験が進展し、輸血代替としての安全性や酸素運搬機能の詳細が明らかになっている(非特許文献4;Sakai H, Sou K, Horinouchi H, Kobayashi K, Tsuchida E. J Intern Med. 2008;263(1):4-15)。これまでに、出血性ショック時の蘇生液としての利用、術中の頻回出血における補充的投与(血液希釈)、体外循環回路(人工心肺)の補充液としての利用法、などが検討され、十分な酸素運搬効力が実証されて来た。また、輸血では対応の出来ない疾患として、心筋梗塞や脳梗塞モデルへの投与によって梗塞巣の拡大を防止することや、有茎皮弁の虚血性領域への酸素供給、腫瘍組織の酸素化による放射線治療効果の改善、移植用臓器や培養細胞における酸素供給源としての利用法などが検討されて来た(非特許文献5;Tsuchida E, Sou K, Nakagawa A, Sakai H, Komatsu T, Kobayashi K. Bioconjug Chem. 2009;20(8):1419-40)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リン脂質小胞体の製造方法としては、超音波照射法、有機溶媒を用いる逆相法、界面活性剤を用いて分散させた後これを透析で除去する方法などが知られている(非特許文献6;「リポソーム」野島庄七、砂本順三、井上圭三 編、南江堂、1988)。しかし、ヘモグロビンのような機能蛋白質を扱い、且つ、血管内投与を前提とした製剤の製造においては、工程中の蛋白質の変性や、残存物質の懸念があり、これらの方法は向いていない。また、一般的なリポソーム製剤と比較して大量投与を前提とする人工赤血球製剤の製造法としては、効率が極めて低い。人工赤血球の粒子ひとつの性能を表すパラメータとして、単位脂質重量に対するヘモグロビン重量の比が使われる。この値が高いほど、ヘモグロビンに結合した酸素を効率よく運搬できることになる。そのためには、粒子の内水相のヘモグロビン濃度を出来るだけ高くすることが必要であり、要するに高濃度(例えば35-45 g/dL)のヘモグロビン溶液中に複合脂質を分散させて、小胞体が形成される時にヘモグロビンを濃度が高い状態で内包させることが要件となる。高濃度ヘモグロビン溶液は粘度が高く、そこに脂質粉末を分散させると更に粘度が高くなる。
【0005】
これをいわゆる押出し法(Extrusion Method)によって孔径の異なるフィルタを段階的に(例えば、Millipore社製MFフィルタ, 孔径 3.0 μm, 0.8μm, 0.6 μm, 0.45 μm, 0.3 μm, 0.22 μmの順で)透過させて粒子径を調節する場合は、フィルタの交換が煩雑である上に、フィルタの目詰まりが起こり易い。それを回避するために、脂質を予め水溶液中で小胞体を形成させて凍結乾燥して得られた粉末を使用する方法が知られている(非特許文献7;Sou K, Naito Y, Endo T, Takeoka S, Tsuchida E. Biotechnol Prog. 2003; 19(5): 1547-1552、特許文献2;特願2000‐344459号公報)。しかし、水を凍結乾燥で除去する操作は極めて長時間を要し、またコストもかかり、産業化を考えた場合には効率が悪いことが課題となった。また、粒子径の小さい乾燥小胞体が混在し、これはヘモグロビン溶液に分散させた後、ヘモグロビンを十分に内包せずに最後まで残ってしまう場合があった。粘稠な濃厚ヘモグロビン溶液に添加できる乾燥脂質の重量も撹拌効率や押出し法の効率の面で制約を受け、せいぜい6 g/dLが上限であった(6 gの脂質を1 dLの濃厚ヘモグロビン溶液に分散させること)。撹拌後に大量に発生する泡を消去するのに時間が要すること、また泡が蛋白質の変性を助長すること、脂質粉末が完全に分散せずに塊になって残存することも課題であった。
【0006】
また、乾燥した複合脂質粉末を粘稠な濃厚ヘモグロビン溶液に分散させる方法として、プロペラ式撹拌器を用いる方法は、脂質塊が形成されることがあり結果として長時間を要すること、また脂質粉末が水和するときに発生する気泡は粘稠溶液中ではなかなか消えず、これが押出し法におけるフィルタの通過性を低下させることや、分散しきれなかった脂質塊がフィルタ上に残り損失となることも問題であった。ヘモグロビンの回収率はせいぜい20%となり、内包されなかったヘモグロビンは、再度回収して再濃縮して再利用するか、あるいは廃棄せざるを得ず、極めて効率の悪いものであった。
【0007】
また、粘稠なヘモグロビン溶液-複合脂質分散液を、マイクロフルイダイザー法によって、高圧高速で対面に噴出させて衝突させて剪断応力を発生させ、それにより粒子径を小さくする方法が知られている(非特許文献8;Beissinger RL, Farmer MC, Gossage JL. ASAIO Trans. 1986; 32: 58-63)。しかしこの方法では、剪断応力の調節が難しいこと、また、ヘモグロビン-脂質分散液を回路に通すためにある程度の流動性が必要であり、従って脂質の濃度を6 g/dL程度にまで低下させることが必要であり、結果としてヘモグロビンの回収率は20%程度と低いものであった。
【0008】
また、脂質粉末を予め少量の水で乳化、水和膨潤させてペーストを形成し、これをヘモグロビン溶液と高速に混合・乳化することでヘモグロビンを内包させる方法も知られている(特許文献3;特開2009−035517号公報)。しかし、乾燥脂質を少量の水で水和させた際に既に小胞体が形成され、それがヘモグロビン混合後もヘモグロビンを内包することなくそのまま残る可能性があり、結果としてヘモグロビンを効率よく内包できず、ヘモグロビンの内包効率が低下することが予想される。
【0009】
本発明は前記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、リン脂質小胞体(リポソーム)製剤の新しい製造方法を提供することにある。
【0010】
また、本発明の目的は、特に医療分野において、輸血の代替として用いる人工酸素運搬体(ヘモグロビン小胞体)の濃厚分散液を従来よりも効率高く製造する方法を提供することにある。
【0011】
また、本発明の目的は、ヘモグロビンの回収率を従来よりも格段と高め、工程を簡略化し、操作時間を短縮でき、また、生体適合性を高めることもできるリン脂質小胞体(リポソーム)製剤の製造方法を提供することにある。
【0012】
また、粒子ひとつひとつの酸素運搬機能を上げるには、やはり乾燥した複合脂質粉末を濃厚ヘモグロビン溶液と直接的に混合することが重要である。従って、如何に効率よく「多量の嵩高い乾燥状態の複合脂質粉末」と「粘稠な濃厚ヘモグロビン溶液」を混合し、濃厚ヘモグロビン溶液を小胞体に内包し、且つ粒子径を調節し、且つヘモグロビンの回収率を高めることも目的とした。
また、リン脂質小胞体は、血管内投与後に最初に血液成分と接触する。リン脂質小胞体の脂質組成によっては、重篤な補体活性を引き起こし、血行動態に影響することが知られている(非特許文献9;Szebeni J. Toxicology 2005;216:106-121)。ヘモグロビンをリン脂質小胞体に効率よく内包させるため、負電荷脂質を少量添加することが有効とされてきたが、負電荷脂質の種類によっては、補体活性を生起することが報告されているので、負電荷脂質の選択が重要になる。また、主要脂質成分であるホスファチルコリン型リン脂質として、1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphoatidylcholine (DPPC)や、大豆由来の水素添加レシチン(HSPC)が多用されてきたが、ゲル-液晶相転移温度がそれぞれ41℃、50-56℃と高い。したがって、本発明を見出す過程において、相転移温度の高い脂質を含有する複合脂質粉末を濃厚ヘモグロビン溶液中へ分散させて粒子径を制御するには、強いエネルギー(剪断応力, 撹拌速度)を必要とすることが明らかになり、相転移温度のより低い脂質(30℃以下)の選択が求められていた。また、一言にリン脂質小胞体といっても、その脂質膜成分は多成分複合体なので、各成分の選択とその複合比率の決定も目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは上述の背景と課題を熟慮し、鋭意研究を重ねた結果、人工赤血球の調製法として、乾燥脂質粉末を濃度高く濃厚ヘモグロビン溶液に均一に分散させ、且つ粒子径を小さくして調節し、且つヘモグロビンの回収率を高め、且つ操作中のヘモグロビンの変性を抑制することのできる、混錬操作の原理を採用する方法を考案した。例えば撹拌脱泡装置は、混錬材料(少量の液体と大量の粉末を混ぜたペースト状の材料)を作製するものとして使われているが(特許文献4;特許第3860770号公報、特許文献5;特許第2711964号公報)、本願の発明者は、この攪拌脱泡装置は単に混ぜるという機能以外の機能を有することを発見し、また、この装置は操作を効率よく行なうことができる装置であるという点に着眼した。この装置は基本的に、混錬させたい試料を封入した円柱型容器を自転方向と公転方向に同時に回転させて遊星運動させることによって、容器内を均一に撹拌させ、また公転による遠心力で脱泡を行なうことができるものであるが、完全な閉鎖容器内での混錬により、無菌的雰囲気の維持が可能になる。本発明の一実施形態では、この装置を製造工程の一部に用い、ヘモグロビン溶液に対して従来よりも大量の脂質粉末を添加・分散でき、ヘモグロビン小胞体分散液の調製を効率よく行なうことができる。また、単に脂質を分散させるだけでなく、脂質分子が自発的に集合形成する小胞体の粒子径を調節することができる。また、強い剪断応力が発生するので、予めヘモグロビンを鉄二価の状態で安定にさせるため、一酸化炭素を結合させたり、デオキシヘモグロビンとしておくことが重要である。従来、一酸化炭素を結合させることにより、ヘモグロビン精製工程における加熱処理(低温殺菌法)によるウイルス不活化を可能にする技術(特許文献6;特許3331433号公報)、一酸化炭素を結合したままヘモグロビン小胞体を投与することにより、細胞保護効果を得ることのできる輸液製剤(特許文献7;特開2007−269665号公報)また最終的にデオキシヘモグロビンとすることで、長期間保存を可能とする技術(特許文献8;特許3466516号公報)は知られているが、混錬操作中における変性の防止法として利用するのは本発明が初めてである。
【0014】
従来、この混錬装置(撹拌脱泡装置)の応用例としては、金/銀/カーボンペースト等の導電/抵抗材用途、ガラス/セラミックペースト等の封止/絶縁材用途、エポキシ樹脂等のシール材/接着剤用途、LED蛍光剤・シリコン樹脂等の成型材用途、インキ/塗料/顔料等、各種色材の混合用途、歯科材料/医薬品軟膏材料/化粧品基材等の製造用途、精密部品等の研磨用途等、食品分野ではマヨネーズなど本来混ざり合わない油と水の乳化などへの利用が知られていたが、本発明のような脂質分子を分散させて分子集合体を形成させることや、静注用リポソーム製剤の調製に使用する例は無かった。従来のいわゆるリポソーム製剤においては、そこまでの高濃度溶液の内包、高いカプセル化効率、大量投与を必要としなかったことが、その理由と考えられる。ヘモグロビンをリン脂質小胞体(リポソーム)に内包させることは1977年に初めて報告され(非特許文献2;Djordjevich L & Miller IF. Fed Proc. 1977;36:567)以来34年も経過している。また容器の遊星運動に基づく混錬装置の開発は1992年以前に遡り(特許文献5;特許第2711964号公報)19年も経過している。この間に、ヘモグロビン小胞体の製造に混錬法が用いられている例は無かったことから、本発明が同業者によって容易に想像出来るものではないことは明白である。
【0015】
また、混錬操作を行なう装置は、上記の撹拌脱泡装置(例えばシンキー社製、クラボウ社製など)以外にも、例えば、2本のよじれ枠型ブレードの自転公転運動(遊星運動)による、ニーディング効果(攪拌、混錬、分散)と、タービンブレードによる衝撃と剪断作用を起こさせる装置などが知られているので(井上製作所製 PDミキサー, プラネタリミキサーなど)、脱泡を行なうための圧力調節の工夫、或は泡の発生を抑制する工夫、また十分な剪断応力を発生させる工夫があれば同様に利用できる可能性はある。
【0016】
主成分であるホスファジジルコリン型リン脂質については、相転移温度ができるだけ低いものを使用する事により、複合脂質粉末の分散と小胞体化の促進、粒子径の制御が容易となる。また、内包効率の向上には、従来より負電荷脂質が必要とされているが、1,5-O-dihexadecyl-N-succinyl-L-glutamateを用い、生体適合性の向上が可能である(非特許文献10;Sou K, Tsuchida E. Biochim Biophys Acta 2008;1778:1035-1041)。このように、多成分複合体としてのリン脂質小胞体の構成成分とその組成の選択が極めて重要である。
【0017】
ヘモグロビン小胞体の粒子径が200-300 nm程度の場合は、孔径0.22μmの滅菌フィルタの透過には圧力を要し、無菌性を保証出来ない場合がある。そこで、β-プロピオラクトンを工程の最終段階で添加する(非特許文献11;LoGrippo GA, Wolfran BR, Rupe CE. JAMA 1964;187:722-766)。本薬剤は、殺菌の原理上、蛋白質変性を誘起する場合があるので、ヘモグロビンは上述の方法で予め安定化させることが重要である。また、β-プロピオラクトンはその性質上、発がん性を呈するので、添加後の残存物が加水分解して完全に失活していることを確認する必要がある。
【0018】
前記目的を達成するために、本発明の他の主要な観点によれば、機能物質を含有する小胞体の製造方法であって、(a)前記機能物質、脂質および水を筒状容器内に収容する工程と、(b)前記筒状容器をその中心軸周りに自転させると共に所定の公転軸周りに公転させて前記筒状容器内の収容物を混錬することにより、前記脂質を主成分とする脂質小胞体の中に前記機能物質を含有した前記小胞体を製造する工程とを有することを特徴とする小胞体の製造方法が提供される。
【0019】
また、本発明の実施形態によれば、前記方法において、前記(a)の工程で前記筒状容器内に収容される前記収容物は、前記機能物質を含有する水溶液に前記脂質を加えることにより調製されることを特徴とする小胞体の製造方法が提供される。また、前記方法において、前記(a)の工程で前記筒状容器内に収容される前記収容物は、前記機能物質を含有する前記脂質を乾燥させて成る脂質粉末を水中に分散させることにより調製されることを特徴とする小胞体の製造方法が提供される。また、前記方法において、前記機能物質はヘモグロビンであり、前記工程(a)の前記水溶液は、前記ヘモグロビンを30〜50g/dL溶解したヘモグロビン水溶液に、前記脂質としての複合脂質粉末を前記ヘモグロビン水溶液1dLあたり15g以上加えることにより調製されることを特徴とする小胞体の製造方法が提供される。また、前記方法において、前記工程(b)では、前記筒状容器の公転速度が200〜3000rpmとなり、前記筒状容器の自転速度が100〜3000rpmとなるように、前記筒状容器を自転および公転させて前記水溶液を混錬することを特徴とする小胞体の製造方法が提供される。また、前記方法において、(c)前記工程(b)の後に、前記筒状容器中の液体又はペーストに水又は生理食塩水を加える工程と、(d)前記工程(c)の後に、前記筒状容器をさらに前記中心軸周りに自転させると共に前記所定の公転軸周りに公転させて前記筒状容器内の液体又はペーストの粘度を低下させる工程とをさらに有することを特徴とする小胞体の製造方法が提供される。また、前記方法において、(e)前記工程(d)の後に、前記筒状容器中の液体又はペーストに限外濾過膜又は超遠心分離法を適用することにより、前記液体又はペーストから前記脂質に内包されなかった前記機能物質を除去する工程をさらに有することを特徴とする小胞体の製造方法が提供される。
【0020】
また、本発明の実施形態によれば、前記方法において、前記工程(b)では、前記筒状容器を前記中心軸周りに自転させると共に前記所定の公転軸周りに公転させて前記水溶液を混錬する混錬処理を複数回行い、且つ、前記各混錬処理の間に、前記筒状容器の自転および公転の少なくとも一方を停止させ又は前記筒状容器の自転および公転の少なくとも一方の回転速度を低減することにより前記液体又はペーストを冷却する冷却処理を行うことを特徴とする小胞体の製造方法が提供される。また、前記方法において、前記筒状容器は、その側壁の内周面に複数の凹曲面を有すると共に、隣接する前記各凹曲面は互いに曲率中心の位置が異なるものであり、これにより、隣接する各凹曲面の間に前記筒状容器の内側に向かって凸形状の突部が形成されているものであることを特徴とする小胞体の製造方法が提供される。
【0021】
前記目的を達成するために、本発明の他の主要な観点によれば、機能物質を脂質で内包した小胞体を製造する小胞体の製造方法であって、(a)前記機能物質を水に溶解した機能物質水溶液に脂質を添加する工程であって、前記機能性水溶液の粘度は剪断速度1000s
-1の条件で23℃における粘度が4cP以上である 、前記工程と、(b)前記調製された混合物を混錬することにより前記機能物質を前記脂質で内包する工程であって、その混錬物の粘度は剪断速度1000s
-1の条件で23℃における粘度が1000cP以上である、前記工程とを有することを特徴とする小胞体の製造方法が提供される。
【0022】
また、本発明の実施形態によれば、前記方法において、前記ヘモグロビンはヘムが鉄二価の状態であるカルボニルヘモグロビン又はヘムが鉄二価の状態であるデオキシヘモグロビンであることを特徴とする小胞体の製造方法が提供される。また、前記方法において、前記ヘモグロビン水溶液に前記脂質を加える前に、前記ヘモグロビン水溶液を50℃以上で5時間以上の加熱処理を行い、夾雑する不安定な蛋白質を変性させて限外濾過膜または遠心分離により除去しておく除去工程をさらに有し、前記除去工程は、前記工程(b)における前記混錬において、変性蛋白質の不溶化物の発生を低減するための工程であることを特徴とする小胞体の製造方法が提供される。また、前記方法において、前記脂質は、ホスファチジルコリン型リン脂質、コレステロール、負電荷脂質、およびポリエチレングリコールを結合した脂質を含有していることを特徴とする小胞体の製造方法が提供される。また、前記方法において、前記脂質は、ホスファチジルコリン型リン脂質である1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphatidylcholine、コレステロール、負電荷脂質である1,5-O-dihexadecyl-N-succinyl-glutamate、および、ポリエチレングリコールを結合した脂質である1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphatidylethanolamine-N-Poly(oxyethylene)5000(ポリエチレングリコール鎖の分子量5000)を含有していることを特徴とする小胞体の製造方法が提供される。また、前記方法において、前記ホスファチジルコリン型リン脂質 のゲル-液晶相転移温度は30℃以下であることを特徴とする小胞体の製造方法が提供される。また、前記方法において、この方法は、前記脂質として脂質ラメラゲル乾燥脂質粉末を製作する脂質粉末製作工程を有し、前記脂質粉末製作工程は、実質的に溶質を含まない純水に脂質粉末を15g/dL濃度以上で加えた脂質水溶液を作製する工程と、前記脂質水溶液を筒状の容器に収容し、当該容器をその中心軸周りに自転させると共に所定の公転軸周りに公転させることにより前記脂質水溶液を混錬する工程と、前記混錬を行った前記脂質水溶液を凍結乾燥して前記脂質ラメラゲル乾燥脂質粉末を得る工程とを有することを特徴とする小胞体の製造方法が提供される。
前記目的を達成するために、本発明の他の主要な観点によれば、小胞体に内包させようとする機能物質を含む水溶液に対し、乾燥した複合脂質粉末を15g/dL以上の濃度で混錬することにより、脂質分子を水溶液中に分散させ、脂質分子が自発的に集合形成する小胞体を構成させると同時に機能物質を内包させ、かつ混錬により生じる剪断応力によって、粒子径を制御した小胞体を製造する方法が提供される。
【0023】
また、本発明の他の主要な観点によれば、ヘモグロビン小胞体の製造法であって、濃厚ヘモグロビン水溶液(30-50g/dL)に対し、乾燥した複合脂質粉末(15g/dL以上)を混錬して、脂質分子をヘモグロビン溶液中に分散させ、脂質分子が自発的に集合形成する小胞体を構成させ、ヘモグロビンを小胞体に内包させることにより、ヘモグロビン内包効率が60%以上となり、ヘモグロビン小胞体を構成するヘモグロビンと複合脂質の乾燥重量比が1.2を超え、且つ混錬により生じる剪断応力によって、小胞体の平均粒子径を400 nm以下に調節することを特徴とする方法が提供される。
【0024】
また、本発明の実施形態によれば、前記方法において、試料を密封した円柱型容器を公転方向と自転方向に同時に回転させる遊星運動を用い、乾燥した複合脂質粉末が水和する際に発生する気泡を遠心力によって排除しながら均一に混錬することを特徴とする小胞体またはヘモグロビン小胞体の製造方法が提供される。
【0025】
また、本発明の実施形態によれば、前記方法において、公転の回転数が200-3000回転/分、自転の回転数が100-3000回転/分であり、また混錬操作によって得られる粘稠な小胞体ペーストの処理法として、水あるいは生理食塩水を添加して、再度公転方向と自転方向に同時に回転させることによりペーストを分散させて流動性のある液体とし、限外濾過膜あるいは超遠心分離法を用いて内包されなかった機能物質またはヘモグロビンを除去する操作を含む、小胞体およびヘモグロビン小胞体の製造方法が提供される。
【0026】
また、本発明の実施形態によれば、前記方法において、濃厚ヘモグロビン溶液に含まれるヘモグロビンのヘムが鉄二価の状態であり、ガス分子として一酸化炭素を結合したカルボニルヘモグロビン、あるいはガス分子を結合していないデオキシヘモグロビンとすることにより、混錬操作により生起する剪断応力および熱によるヘモグロビンの変性を抑制した状態で操作することを特徴とする、ヘモグロビン小胞体の製造方法が提供される。
【0027】
また、本発明の実施形態によれば、前記方法において、用いる濃厚ヘモグロビン溶液を予め60℃にて10時間以上の加熱処理を行ない、夾雑する不安定な蛋白質を変性させて限外濾過膜または遠心分離により除去しておくことにより、その後の複合脂質粉末との混錬操作中における剪断応力下において変性蛋白質の不溶化物の発生を低減することを特徴とする、ヘモグロビン小胞体の製造方法が提供される。
【0028】
また、本発明の実施形態によれば、前記方法において、複合脂質乾燥粉末の脂質組成が、ホスファチジルコリン型リン脂質、コレステロール、負電荷脂質、ポリエチレングリコールを結合した脂質から構成されることを特徴とする、小胞体およびヘモグロビン小胞体の製造方法が提供される。
【0029】
また、本発明の実施形態によれば、前記方法において、複合脂質の組成が、ホスファチジルコリン型リン脂質である1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphatidylcholine、コレステロール、負電荷脂質である1,5-O-dihexadecyl-N-succinyl-glutamate、および、ポリエチレングリコールを結合した脂質である1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphatidylethanolamine-N-Poly(oxyethylene)5000 (ポリエチレングリコール鎖の分子量5000)から構成される複合脂質粉末を用いることを特徴とする、小胞体およびヘモグロビン小胞体の製造方法が提供される。
【0030】
また、本発明の実施形態によれば、前記方法において、乾燥複合脂質の主要成分であるホスファチジルコリン型リン脂質について、ゲル-液晶相転移温度が30℃以下のホスファチジルコリン型リン脂質に置換することにより、小胞体およびヘモグロビン小胞体製造における複合脂質の分散と粒子径の制御を容易とする方法が提供される。
【0031】
また、本発明の他の主要な観点によれば、実質的に溶質を含まない純水に乾燥複合脂質粉末を15g/dL濃度以上で加え、容器を自転方向と公転方向に同時に回転させることによって、気泡を排除しながら均一に混錬し、脂質ラメラゲルを作製する方法、およびこれを凍結乾燥して脂質ラメラゲル乾燥脂質粉末を作製する方法が提供される。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、ヘモグロビン小胞体の製造が、従来よりも短時間でしかも収率高く調製することができる。単に脂質粉末と濃厚ヘモグロビン溶液を均一に混錬するだけのものはではなく、この操作によって脂質分子がヘモグロビン溶液中に分散され、自発的に再構成する脂質二分子膜の高次構造(リポソームカプセル)の内水相にヘモグロビンが内包され、ヘモグロビン小胞体の粒子径を最適値に調節ができることが明らかになり、全体として予想以上の操作工程の簡略化が可能となる。またヘモグロビン以外の機能性蛋白質、低分子化合物の内包、小胞体の作製法、脂質ゲルの作製法としても、製造効率の向上が可能となる。
【0033】
なお、上記した以外の本発明の特徴及び顕著な作用・効果は、この発明の原理を例示する以下の実施形態の説明及び図面を参照することで、当業者にとってより明確となる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
【0036】
本実施形態の対象となるヘモグロビン小胞体としては、リン脂質を主成分とする脂質二分子膜から構成されるリン脂質小胞体(リポソーム)の中にヘモグロビンが内包されている形式(ヘモグロビン小胞体)がある。また、親水性高分子と疎水性高分子が共重合した界面活性剤が形成するカプセル(polymersome)の中にヘモグロビンを内包した形式も含まれる。ヘモグロビン溶液は、ヒト献血液由来、家畜由来、あるいは遺伝子組換えヘモグロビンでも良い。基本的に球状蛋白質であるヘモグロビンは蛋白質の中でも安定な方であるが、オキシヘモグロビンは経時的に自動酸化によってメトヘモグロビンに変化するし、また本実施形態の混錬装置(撹拌脱泡装置:自転と公転を同時に行なう装置)では、混錬時の剪断応力によって発熱する場合があるので、ヘムの中心鉄が二価の状態においてヘモグロビンに耐熱性を帯びさせるために予め一酸化炭素を通気してカルボニルヘモグロビン(HbCO)とするか、あるいは酸素を完全に除去してデオキシヘモグロビン(deoxyHb)としておくことが良い。ヘモグロビン濃度は、35-45g/dLと高くすることによって、結果的に小胞体の内包ヘモグロビン濃度も高くすることができる。原料となる濃厚ヘモグロビン溶液は限外濾過膜で透析を繰り返した後に濃縮するが、この効率を高めるには限外濾過膜の目詰まりを防止することが必要である。また、混錬中に変性し易い夾雑蛋白質(赤血球中からの精製の過程で残存した解糖系酵素、metHb還元系酵素、脱炭酸酵素など)が変性不溶化し、小胞体との分離が困難になる可能性がある。そこで、予めヘモグロビンを加熱処理(60℃, 10-12時間)して夾雑蛋白質を変性除去したものが好ましい。酸素親和度をヒト血液の値と同等に調節するために、アロステリック因子として所定量のピリドキサル 5’-リン酸や塩素イオンを添加しても良い。また、虚血性領域への酸素ターゲッティングのために、アロステリック因子を一切添加せずにヘモグロビンをリポソームに内包させてもよい。
【0037】
ヘモグロビン小胞体の酸素運搬効率を表すパラメータとして、ヘモグロビンと脂質の重量比がある。仮にこの比が約2.0で、且つヘモグロビンの回収率が100%になることを目指すと、例えば40g/dLのヘモグロビン溶液1dLには40gのヘモグロビンが溶解しているので、脂質粉末20gを添加することがひとつの目安となる。これまでの検討では、35-45g/dLの濃厚ヘモグロビン溶液1dLに対し、乾燥脂質粉末を15g以上(好ましくは20-25g)添加し混錬することにより、良い結果を得ている。
【0038】
混錬方法としては、遊星運動に基づく公転自転式混錬装置を用いるのが良い。例えば、滅菌済みのステンレス製、ポリエチレン製、テフロン(登録商標)製などの筒状容器に封入し、シンキー社製の混錬装置(撹拌脱泡装置,ARE-310)にて3−6分間の混錬(公転回転数500-1500回転、自転回転数200-600回転)を30回繰り返す。
図1および2の模式図に示すように、混錬装置は筒状容器10を有し、筒状容器10が中心軸20(自転軸)周りに自転しながら所定の公転軸30周りを公転する構造を有する。自転軸20と公転軸30は平行ではなく所定の角度θをなしている方が好ましく、θは30°以上60°以下が好ましい。以下詳述する各実施例では、自転軸20と公転軸30とが前記角度範囲の中央値である略45°をなし、これにより後述のように良好な結果が得られている。また、以下の各実施例において自転軸20と公転軸30とを上記角度範囲にした場合でも、後述と同様な結果が得られる。このように、後述の各実施例における筒状容器の形状や混錬条件では、前記θが前記角度範囲内であることが好ましいが、前記θは前記角度範囲に限定されるものではない。例えば樽状に膨出した側面を有する筒状容器を用いることにより、θを0°近傍の角度や60°を超える角度にすることも可能である。このように、筒状容器の形状やその他の条件によってはθの値を前記角度範囲外で設定することは可能であり、本願発明はこれを排除するものではない。また、筒状の容器の内壁は滑らかな円筒ではなく、内側壁や底面などに流動の障壁を設けることで、混錬の促進ができる。例えば
図3に示すように、容器の内側壁に凹凸を設けたもの(容器の上方から見たときにクローバー状に削られた容器)を用いると効率が良い。
図3は
図1におけるY−Y断面図である。なお、
図3に示す筒状容器10は、その側壁の内周面11に複数の凹曲面12を有すると共に、隣接する凹曲面は互いに曲率中心12aの位置が異なるものであり、これにより、隣接する各凹曲面12の間に筒状容器10の内側に向かって凸形状の突部13が形成されているものである。また、
図3および
図4に示すように、突部13は周上1つでも良く、2つ以上であっても良い。筒状容器10にも同様の突部を設けることが可能である。昇温に注意し、必要に応じて容器ごと冷却し、冷却後に混錬を再開してもよい。この操作によって、ヘモグロビン溶液と複合脂質が混錬された練り磨き粉のようなペーストが得られる。通常、脂質粉末を水溶液に分散させると、泡が消えるのに時間を要するが、本実施形態の方法を用いると、公転による遠心力によって泡が消失するため得られたペーストには泡は殆ど認められない。得られるペーストの処理には、同一の装置を用いる。ペーストに純水あるいは生理食塩水を添加し、密封して更に1分間程度前記装置を使って同様の条件で混錬すると、ペーストは分散して流動性のあるヘモグロビン小胞体分散液になり、後続の操作が簡便になる。混錬により分散しきれなかった脂質や変性不溶化した蛋白がある場合には、この段階で弱い遠心分離操作(2000-5000g程度)やフィルタ濾過によりこれを除去する。未内包ヘモグロビンを除去するには、得られたヘモグロビン小胞体分散液を限外濾過膜処理(限外分子量1000kDa)する、あるいは超遠心分離(50000g程度)によって沈降させ上澄みを除去し、沈殿物を生理食塩水に再分散すればよい。得られたヘモグロビン小胞体について、ヘモグロビンの回収率、平均粒子径、成分濃度測定を行なう。混錬条件にもよるが、ヘモグロビンの回収率は50-70%、平均粒子径は200-400nm、ヘモグロビンの複合脂質に対する重量比として1.2以上が得られる。
【0039】
遊星運動に基づく公転自転式混錬装置は、現時点で各社から様々な機種が販売さており、公転回転数と自転回転数およびその比率が異なる。また、処理量によって(10mL程度から10L)装置の規模も変わり、大型機種になるに従い回転半径が長くなるので、同じ回転数でも混錬の効果が高くなる。従って、それぞれの機種によって最適混錬の回転数は異なるが、概して公転回転数が200-3000回転/分、自転回転数が100-3000回転/分の範囲のものが市販され、この条件で小胞体の調製に適した混錬が可能である。しかし、発熱による成分の変性を考慮しつつ、またできるだけ短時間で済ませるため、公転回転数は2000回転以下の条件とすることが好ましい。また、ヘモグロビン溶液は濃度が高くなるほど粘性が顕著に増大する(35,40,45g/dLのときそれぞれ、6,11,29cP)。剪断応力が高いことが粒子径の制御に重要であり、高粘性のヘモグロビン溶液を使うことは粒子径の制御の点では有利である。しかし逆に強い剪断応力によって発熱や変性蛋白が多く生成する傾向がある。またヘモグロビン濃度が低すぎると得られる粒子に含まれるヘモグロビン含量が低下する。これらを勘案すると、ヘモグロビン濃度は35-45g/dLが好ましい。ヘモグロビン溶液の粘度は23℃、剪断速度1000s
-1の条件で5cP以上となることが望ましい。得られたヘモグロビン小胞体分散液は、濃度調節をしたあと、CO結合体のまま製剤としてガスを透過しない容器(硝子容器)に封入、あるいは、CO光解離・酸素除去操作を経て、濃度調節を行い、窒素バブルあるいは人工肺などのガス交換ユニットを用いてデオキシ体として封入し、保存する。粒子径が十分に小さければ、孔径0.22μmの滅菌フィルタを透過させることが可能であるが、困難な場合には、製造工程全体を滅菌雰囲気とするか、最終段階で所定量のβ-プロピオラクトンを添加してもよい。この薬剤は、DNAに直接結合して変性させることが滅菌の機序であるが、蛋白質にも結合して変性を生起する場合があるので、ヘモグロビンを保護するためヘモグロビン小胞体中に溶解する酸素を完全に排除した状態(カルボニルヘモグロビン、あるいはデオキシヘモグロビンの状態)でβ-プロピオラクトンを添加すれば、ヘモグロビンの変性(メト化)をある程度抑制することができる。
【0040】
リン脂質小胞体の複合脂質組成としては、ホスファチジルコリン型リン脂質、コレステロール、負電荷脂質、およびPEG-結合脂質の4成分が主成分として適応であるが、これらに限定されず、無限の組み合わせおよび複合比がある。ホスファチジルコリン型リン脂質としては、過酸化脂質の生成を抑制するため、グリセロール骨格の1,2位水酸基にエステル結合している脂肪酸が飽和型であることが好ましく、1,2-dimyristoyl-sn-glycero-3-phosphatidylcholine (DMPC)のほか、1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphatidylcholine (DPPC)、1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphatidylcholine (DSPC)、1-palmitoyl-2-myristoyl-sn-glycero-3-phosphatidylcholine (PMPC)、1-stearoyl-2-myristoyl-sn-glycero-3-phosphatidylcholine (SMPC)、また大豆由来の水素添加レシチン(HSPC)、また、不飽和型リン脂質でも、比較的安定な脂肪酸であるオレイン酸が結合したリン脂質として、1-stearoyl-2-oleoyl-sn-glycero-3-phosphatidylcholine (SOPC),1-palmitoyl-2-oleoyl-sn-glycero-3-phosphatidylcholine (POPC)などが好ましい。これらリン脂質の中でも、得られる小胞体の安定性と、マクロファージに捕捉された後の蓄積性の回避を考慮すると、DPPCが好ましいとされてきた。しかし、製造の簡便さの観点からは、DPPCの相転移温度(Tc =41℃)よりも低いホスファチジルコリン型リン脂質が分散性や粒子径の制御の点で好ましく、例えば、SMPC (Tc= 30℃), PMPC (28℃), DMPC (23℃), SOPC (6℃), POPC (-3℃)などが挙げられる。また、負電荷脂質としては、1,5-O-dihexadecyl-N-succinyl-L-glutamateを利用することが好ましい。従来、相転移温度の低いホスファチジルコリン型脂質では、得られる小胞体の構造が不安定とみなされてきたが、実際の使用目的の観点から安定性が十分かどうか判断する必要がある。
【0041】
濃厚ヘモグロビンと混錬する乾燥複合脂質粉末の調製法の実施形態として、次の5つが考えられる。(1)各成分を一旦所定の有機溶媒に溶解させ、クラックス法により急速に有機溶媒を除去して得られる乾燥粉末、(2)各成分をt-ブタノールやベンゼンに一旦溶解させ、凍結乾燥により得られる乾燥粉末、(3)t-ブタノールやエーテルなどの有機溶媒に溶解させてから水に接触させ、有機溶媒を除去させることにより水中に小胞体を形成させ、これを凍結乾燥することにより得られる小胞体粉末。(4)(1)あるいは(2)で得られる複合脂質粉末を水中に分散させて小胞体とし、これを凍結乾燥して得る小胞体粉末、(5)(1)あるいは(2)で得られる複合脂質粉末を、上述の混錬装置にて水和させることにより得られる脂質ゲルの凍結乾燥粉末、などである。しかし、水溶液からの凍結乾燥は長時間を必要とし装置運転のために莫大な労力と電力コストがかかる。効率の面では(1)、(2)の操作で得られる複合脂質粉末をそのまま用いるのが好ましい。また、本発明の実施形態においては、(1)、(2)により得られる乾燥複合脂質粉末を直接的に濃厚ヘモグロビン溶液と混錬する事で、十分なヘモグロビン内包効率、平均粒子径の制御を達成している。
【0042】
[実施例1]
複合脂質として、1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphatidylcholine (DPPC)、cholesterol,1,5-O-dihexadecyl-N-succinyl-glutamate (DHSG)、ならびに1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphatidylethanolamine-N-Poly(oxyethylene)5000 (DSPE-PEG5000,PEG鎖の分子量5000)を、モル比で5/4/0.9/0.03となるように、合計10gをt-ブタノール1dLに溶解させ、0.5L茄子型フラスコに入れた。そしてドライアイス/メタノール混合冷媒で凍結し、凍結乾燥装置(東京理化製FD-1000)を24時間かけて行い、複合脂質粉末を得た。この粉末について、10gをテフロン製のシンキー社製の円柱状容器(外径:76mm、高さ約93mm、内壁を凹凸を加え容器上から見た時にクローバー形になっているもの)に入れ、高純度ヒトヘモグロビン溶液(一酸化炭素結合-HbCO体、45 g/dL、0.4dL、pH7.4)を添加した。このときのヘモグロビン(18g):脂質(10g)の重量比は、1.8:1となる。そして、内蓋をして封入し、混錬装置(自転公転撹拌器、シンキー社製、ARE-310)にて公転1500回転、自転600回転にて3分間混錬処理し、冷却に3分待ったあと、容器内の気相を完全に一酸化炭素ガスで置換して封入した。そして、再度、公転1500回転、自転600回転にて3分混錬・3分冷却する操作を繰り返し、合計30回(合計90分)の混錬処理を行なった。このとき、ペーストの温度は、混錬の際の剪断応力と装置からの伝熱のため40℃程度にまで上昇しており、ヘモグロビンの変性を抑制するためにCO化が重要と判断された。暗赤色の粘稠で均一なペーストが得られた。脂質の塊や泡は一切認められなかった。次いで、冷却した生理食塩水0.50dLを添加し、15秒間回転させ、ペーストの粘度を低下させ、分散液とした。溶液を更に生理食塩水で二倍に希釈したあと、遠心分離(3000rpm、30分、Hitachi社製CF12RX)したところ、分散しきれていない粒子径の大きい分画の沈殿と、一部変性したヘモグロビンの沈殿が見られた。上澄みの相について、超遠心分離用の遠心チューブ(230mL容器)に入れ、更に生理食塩水を満たし、50,000gにて30分間超遠心分離した(Hitachi社製CP90WX)。回転させる前の分散液および分離後の上澄みのヘモグロビン濃度と体積を計測し、ヘモグロビンの内包効率を計算したところ、約65%が得られた。粒子径をHORIBA製Nanoparticle analyzerを用いて計測したところ、約270nmとなった。メト化率をSoret帯のスペクトルをもとに計算し、3%以下であることを確認した。超遠心分離して得られた沈殿は、再度生理食塩水に再分散させ、ヘモグロビン濃度を2.5g/dLに調節し、2dLずつ2L茄子型フラスコに入れてロータリーエバポレータにて回転させ、内部に空気を通気しながら、外部からハロゲンランプを45分間照射し、COガスを光解離させ、酸素が結合したヘモグロビンに変換した。得られた溶液を再度超遠心分離にかけ、沈殿を生理食塩水に分散させ、ヘモグロビン濃度を10g/dLに調節した。分散液の脂質濃度は、6.8g/dLであり、ヘモグロビンの脂質に対する重量比は1.5であった。バイアル瓶に分注し、ブチルゴム製の蓋で封入し、窒素バブルをして酸素を排除しヘモグロビンをデオキシ体とした。その後、β-プロピオラクトンを0.5%以下の濃度で添加し、滅菌した。
【0043】
[比較例1]
実施例1に記載のように、脂質4成分をt-ブタノールに溶解させて均一溶液とし、凍結乾燥を行い、複合脂質粉末10gを得た。これを45g/dL濃度のヘモグロビン溶液0.4dLに添加し、撹拌子(2cm長)を入れ、撹拌器(スターラー)を用いて24時間撹拌を行なった。しかし、未分散の脂質塊が大量に存在し、また粘稠であるため、従来法である押出し法による粒径制御は不可能であった。
【0044】
[比較例2]
実施例1に記載のように、脂質4成分をt-ブタノールに溶解させて均一溶液とし、凍結乾燥を行い、複合脂質粉末を得た。その5gを45g/dL濃度のヘモグロビン溶液1dLに添加し、撹拌子(2cm長)を入れ、撹拌器(スターラー)を用いて12時間撹拌を行なった。若干の脂質塊が散見されたが、これを段階的に押出し法(Extruder, Lipex Biomembrane社製)により処理し、フィルタ孔径3.0 - 1.0 - 0.8 - 0.65 - 0.45 - 0.22μmの順で透過させて粒径を制御した。この段階でレオメータ(MCR-300, Anton Paar社製)にて25℃における粘度を計測したところ、62cP(剪断速度1000s
-1)、70cP(剪断速度100s
-1)、98cP(剪断速度10s
-1)となった。回収量は0.8dLであり、0.2dLを操作工程で損失した。内包効率は、20%に留まった。ヘモグロビン濃度を10g/dLに調節し、ヘモグロビン小胞体分散液70mLを得た。
【0045】
[比較例3]
実施例1に記載の方法において、ヘモグロビン溶液として酸素を結合したオキシヘモグロビンを用いて同様の方法により複合脂質粉末と混錬を行った。ペーストを希釈して、遠心分離操作(2000rpm、60分)を行なったところ、褐色の不溶物の沈殿が大量に見られた。また上澄みのヘモグロビンのメト化率は10%程度に上昇していた。従って、一酸化炭素化やデオキシ化によるヘモグロビンの安定化が不可欠と判断された。
【0046】
[実施例2]
実施例1と同じ脂質種を用い、DPPC/cholesterol/DHSG/DSPE-PEG5000を、モル比で5/4/0.9/0.03、脂質総重量10gとなるように、t-ブタノール1dLに溶解させ、茄子型フラスコに入れた。そして、液体窒素で凍結し、凍結乾燥を行い、複合脂質粉末を得た。次いで、この複合脂質を、実施例1で用いたものと同じテフロン製の筒状容器に入れ、0.5dLの超純水を添加した。負電荷脂質DHSGの重量は1.13gであり、1.48mモルに相当するので、同量のNaOHで中和するため、1N-NaOH溶液を0.074mL添加した。そして、内蓋をして封入し、混錬装置(自転公転撹拌器、シンキー社製、ARE-310)にて5分混錬処理し(公転2000回転、自転800回転)、冷却に5分待ったあと、再度5分混錬し、合計10分の処理を行なった。得られた脂質ラメラゲルについて、液体窒素で凍結し凍結乾燥を行い、脂質ゲルの凍結乾燥粉末を得た。この複合脂質10gについて、実施例1に記載の方法と同様にHbCO溶液を0.4dL添加し、容器をCOで封入し、混錬装置(自転公転撹拌器, 公転1500回転, 自転600回転)にて混錬し、ヘモグロビン溶液と凍結乾燥脂質粉末の混錬ペーストを得た。このペーストを同一の方法により生理食塩水を添加・希釈、分散させ、遠心分離によって凝集塊等を分離除去した。得られた上層液をさらに超遠心分離し、未内包ヘモグロビンの濃度と体積を計測し、ヘモグロビンの内包効率を計算したところ、約60%が得られた。沈降したヘモグロビン小胞体を生理食塩水に再分散させ、ヘモグロビン濃度を10g/dLに調節し、0.50dLずつを1dLバイアル瓶に封入した。一酸化炭素ガスで通気をして溶存酸素を追い出し、ヘモグロビンを完全に一酸化炭素化した。その後、β-プロピオラクトンを0.5%以下の濃度で添加し、滅菌した。
【0047】
[実施例3]
DPPC/cholesterol/DHSG/DSPE-PEG5000を、モル比で5/4/0.9/0.03となるように有機溶媒中に溶解し、これをクラックス法にて有機溶媒を急速に蒸発させて得られる複合脂質粉末を日本精化(株)で作製した。この複合脂質粉末10gについて、実施例1の方法と同様に濃厚ヘモグロビン溶液0.4dLを添加し、混錬装置(自転公転撹拌器、シンキー社製、ARE-310、公転速度1000回転、自転速度400回転)にて6分混錬して3分冷却する操作を30回繰り返した。ペーストの温度上昇は30℃程度に留まった。全部で180分間混錬を行なった。この段階で、得られたペーストについて、レオメータ(MCR-300、Anton Paar社製)にて25℃における粘度を計測したところ、約2200cP(剪断速度1000s
-1、23℃), 約10000cP(剪断速度100s
-1、23℃), 約52000cP(剪断速度10s
-1、23℃)となった。その後、実施例1記載の方法と同様の方法によりヘモグロビン小胞体を回収したところ、ヘモグロビンの内包効率は約74%であり、粒子径は、約280nmであった。公転および自転速度を遅くしたことで混錬時間が長くなったものの、ペーストの温度上昇は抑えられ、蛋白質の変性を低減するのに適した混錬条件であると考えられた。
【0048】
[比較例4]
実施例1の複合脂質の成分のうち、DHSGを含まない複合脂質を調製した。DPPC/cholesterol/DSPE-PEG5000を、モル比で5/4/0.03となるよう、合計10gを、t-ブタノール1dLに溶解させ、0.5L茄子型フラスコに入れた。そしてドライアイス/メタノール混合冷媒で凍結し、凍結乾燥装置(東京理化製FD-1000)を24時間かけて行い、複合脂質粉末を得た。この粉末について、10gをテフロン製の円柱状容器に入れ、実施例3に記載の方法と同様に、高純度ヒトヘモグロビン溶液(一酸化炭素結合-HbCO体、45g/dL、0.4dL、pH 7.4)を添加した。そして実施例3に記載の方法と同様に、混錬処理した。ヘモグロビンの内包効率は僅か26%であり、ヘモグロビンと脂質の重量比は0.94と、著しく低い値であった。従って、今回行ったヘモグロビンを内包する実験においては、Hbの収率を上げるには、DHSGが不可欠であることが判明した。なお、DHSGがヘモグロビンの収率に与える影響は上記のように明らかになったが、内包する機能物質や混錬条件により、収率に対するDHSGの影響が変化する可能性はあり、本願発明はDHSGが含まれない脂質の使用を排除するものではない。
【0049】
[実施例4]
ピリドキサル5’-リン酸を、一酸化炭素を結合したヘモグロビン溶液に対して2.5倍モル添加した。ヘモグロビン溶液0.4dL(45g/dL、pH7.4)に対して、実施例3に記載のクラックス法にて得られた複合脂質粉末10gを加え、実施例3と同様の方法により、混錬装置(自転公転撹拌器、シンキー社製、ARE-310、公転速度1000回転、自転速度400回転)にて、6分混錬して3分冷却する操作を30回繰り返した。全部で180分間混錬を行なった。得られたヘモグロビン小胞体のヘモグロビンの内包効率は約65%であり、粒子径は、約250nmであった。実施例1に記載の方法により、脱一酸化炭素を実施し、脱酸素操作を経て、0.50dLずつを1dL バイアル瓶に分注した。その後、β-プロピオラクトンを0.5%以下の濃度で添加し、滅菌を完了した。
【0050】
[実施例5]
実施例1に記載の方法と同様に、混合脂質組成DPPC/cholesterol/DHSG/DSPE-PEG5000を、モル比で5/4/0.9/0.03となるように有機溶媒中に溶解し、これをクラックス法にて有機溶媒を急速に蒸発させて得られる複合脂質粉末を日本精化(株)で作製した。ここでは、混合する一酸化炭素結合ヘモグロビン溶液の濃度を40g/dLに薄めた。複合脂質粉末10gと、ヘモグロビン溶液0.4dLを添加し、混錬装置(自転公転撹拌器、シンキー社製、ARE-500、公転速度800回転、自転速度784回転)にて30分混錬する操作を3回繰り返し、合計90分の混錬を行なった。その後、実施例1記載の方法と同様の方法により生理食塩水に希釈して遠心分離(3000rpm、30min)を行い沈殿を除去した。上澄みについて超遠心分離しヘモグロビン小胞体を回収し、これを再分散してヘモグロビン小胞体の分散液を得た。ヘモグロビンの内包効率は約80%であり、粒子径は、約280nmであった。
【0051】
[比較例5]
実施例5に記載の脂質の量とヘモグロビンの量を二倍にして検討した。複合脂質粉末20gと、一酸化炭素結合ヘモグロビン溶液(40g/dL)0.8dLを実施例1に記載の容器に収容し、実施例5に記載の方法で合計90分の混錬を行なった。その後、実施例1記載の方法と同様の方法により生理食塩水に希釈して遠心分離(3000rpm、30min)を行い沈殿を除去した。上澄みについて超遠心分離しヘモグロビン小胞体を回収し、これを再分散してヘモグロビン小胞体の分散液を得た。ヘモグロビンの内包効率は約50%に減少したことから、容器に収容する原料の量によって、収率が変化することが明らかになった。
【0052】
[実施例6]
比較例5に記載の脂質の量とヘモグロビンの量はそのままとし、収容する容器を大きなものに換えて検討した。複合脂質粉末20gと、一酸化炭素結合ヘモグロビン溶液(40g/dL)0.8dLを、実施例1に記載の容器よりも大きいもの(外径:90mm、高さ約108mm)に収容し、混錬装置(自転公転撹拌器、シンキー社製、ARE-500、公転速度800回転、自転速度784回転)にて30分混錬する操作を3回繰り返し、合計90分の混錬を行なった。その後、実施例1記載の方法と同様の方法により生理食塩水に希釈して遠心分離(3000rpm、30min)を行い沈殿を除去した。上澄みについて限外濾過膜処理(限外分子量1000kDa, Millipore社製Biomax V screen, 膜面積:0.1 m
2)により内包されなかったヘモグロビンを除去し、ヘモグロビン小胞体の分散液を得た。ヘモグロビンの内包効率は約75%であった。回転する容器の内壁とペーストの接触面で最も強い剪断応力が発生するので、接触面積が大きいことがカプセル化効率の向上に有効と考えられた。
【0053】
[実施例7]
ホスファチジルコリン型リン脂質としてDPPCよりも相転移温度が低いPMPCを用い、PMPC/cholesterol/DHSG/DSPE-PEG5000を、モル比で5/4/0.9/0.03となるようにt-ブタノールに溶解させ、凍結乾燥を行い、乾燥脂質粉末4gを得た。これに濃厚ヘモグロビン溶液(40g/dL、0.2dL)を添加し、実施例1と同等の方法でヘモグロビン小胞体の製造を試みた。混錬装置(自転公転撹拌器、シンキー社製、ARE-310、公転速度1500回転、600回転)にて3分30回混錬した後、溶液を生理食塩水で4倍に希釈して、遠心分離(2000rpm、60分)したところ、分散しきれていない粒子径の大きい分画の沈殿の量は、実施例1に比較して格段に低下していた。また粒子径も200-230nmと、小さめに調節されていた。従って、相転移温度の低いホスファチジルコリン型リン脂質を用いた方が、製造が容易であると判断された。
【0054】
[実施例8]
実施例1で作製したDPPCを主成分とする複合脂質から調製されたヘモグロビン小胞体と、実施例7で調製したPMPCを主成分とする複合脂質から調製されたヘモグロビン小胞体について、安定性の評価を行なった。比較としてラットの洗浄赤血球を用いた。それぞれ3g/dLのヘモグロビン濃度に調節し、これらについて、(1)液体窒素による凍結のあと融解、(2)蒸留水で5倍に希釈、(3) ホスホリパーゼA2によるリン脂質の加水分解、(4) 剪断速度1000s
-1の流動を二時間かけたときの溶血率の測定を行なった。超遠心分離によりヘモグロビン小胞体または赤血球を沈降させ、上澄みのヘモグロビン濃度と容積から溶血率を計算した。N=3とし、平均±標準偏差を計算した。(1)については、赤血球が75.9±9.2%の溶血を示したのに対し、DPPC系は33.7±4.7%、PMPC系は33.3±4.2%、(2)については、赤血球が89.0±6.6%の高い溶血を示したのに対し、DPPC系は0.9±0.4%、PMPC系は0.6±0.4%と低い値であった。また、(3)については、赤血球が6.9±1.3%であるのに対し、DPPC系は0.9±0.7%、PMPC系は0.5±0.1%であった。(4)については、赤血球が4.8±0.3%であったのに対し、DPPC系、PMPC系ともに1%以下であった。従って、DPPC系、PMPC系ヘモグロビン小胞体ともに赤血球よりも構造的に極めて安定であり、またDPPCとPMPCでは相転移温度が異なるが、ヘモグロビン小胞体としたときの安定性に特に違いは無いことが明らかになった。
【0055】
[実施例9]
低分子性の機能物質のモデルとして、蛍光物質である5(6)-カルボキシフルオレセイン(CF)が10mM濃度で溶解したリン酸緩衝溶液(pH7.4)を調製した。DPPC/cholesterol/DHSG/DSPE-PEG5000を、モル比で5/4/0.9/0.03の比で有機溶媒中に溶解し、これをクラックス法にて有機溶媒を急速に蒸発させて得られる複合脂質粉末を日本精化(株)で作製した。この複合脂質粉末10gについて、実施例1に記載の円柱状容器に入れてCF溶液40mLを添加し、混錬装置(自転公転撹拌器、シンキー社製、ARE-310、公転速度1000回転、自転速度400回転)にて、6分混錬して3分冷却する操作を30回繰り返した。この段階で、ハンドクリームのようなペーストが得られたので、レオメータ(MCR-300、Anton Paar社製)にて25℃における粘度を計測したところ、1020cP(剪断速度1000s
-1、23℃)、4600cP(剪断速度100s
-1、23℃), 36800cP(剪断速度10s
-1、23℃)となった。得られたペースト約1gに生理食塩水を約10mLを加え、震盪して小胞体分散液を得た。超遠心分離(100000g、1時間)をして小胞体を沈降させ、得られる上澄みのCF濃度と体積、また超遠心分離前の分散液のCF濃度と全体の体積から、CFの内包効率を計算した所、85%が得られた。小胞体の平均粒子径は800nmになっていた。粒子径が十分に小さくないのは、CF溶液の粘度(0.9cP程度)がヘモグロビン溶液に比較して低く、剪断応力が十分に得られなかったものと考えられた。粒子径をより小さくするには、混錬する時間を更に延長する必要がある。
【0056】
尚、上記では、ヘモグロビンを内包した小胞体とモデル分子としての蛍光物質CFを内包した小胞体を製造する方法について示したが、内包するものはヘモグロビンやCFに限定されず、各種機能物質を内包する小胞体を製造することが可能である。例えば、特表第2008−542360号公報に記載があるように、疾患の治療、予防、診断等に適用する薬物や治療剤を機能物質として内包した小胞体を製造することが可能である。この場合の機能物質は例えば抗ウイルス剤、抗微生物剤、抗細菌剤、抗真菌剤、抗新生物剤、抗炎症剤、放射標識剤、放射線不透過化合物、蛍光化合物、色素化合物、核酸配列、抗癌剤、細胞増殖因子、造血因子(エリスロポエチン、G-CSF)、生理活性物質等から選択される薬物となる。また、これらを内包する脂質としては前記上記のものを使用することも可能であり、各薬物や治療剤に適した他の脂質を用いることも可能である。また、水溶性に乏しい機能性物質、或は分子量が小さい機能性物質の場合、例えば、水溶性高分子(アルブミン、ゼラチン等)に吸着、あるいは化学的結合により固定させたあと、この水溶性高分子-機能性分子の複合体が溶解した水溶液を小胞体に安定に内包させることも可能である。以下の機能物質の例についても同様であるが、水溶性が乏しい又は分子量が小さい機能物質の場合は、当該機能物質を水に分散させるために水溶性高分子等の補助物質を用いることにより、その機能物質を小胞体に安定して内包させることが可能になる。また、上述の方法による水中への溶解が困難な脂溶性の機能性物質について、小胞体を構成する脂質粉末に予め混合させ、その混合物を水中に分散させ、混錬法により効率よく小胞体を構成させることも原理的には可能である。
【0057】
[実施例10]
アルブミンは様々な脂溶性機能物質を物理的に吸着し、その担体になりうる。そこで、ここでは濃厚アルブミン溶液を内包した小胞体の調製を行なった。実施例1に記載の混合脂質10g (DPPC/cholesterol/DHSG/PEG-DSPE, モル比で5/4/0.9/0.03に混合)を、実施例1に記載の円柱状容器に収容した。次いで、ヒト血清由来アルブミン(Baxter社製, 25 g/dL)を40mL添加し、混錬装置(自転公転撹拌器、シンキー社製、ARE-310、公転速度1000回転、自転速度400回転)にて、6分混錬して3分冷却する操作を30回繰り返した。得られたペーストに冷却した生理食塩水120 mLを加え、再度1分間混錬し、粘性を低下させた。これを超遠心分離(50,000g、1時間)をして小胞体を沈降させ、内包されなかったアルブミンを除去した。沈殿を再分散させ、アルブミンを内包した小胞体を得た。
【0058】
[実施例11]
脂溶性の機能物質としてクルクミンを担持した小胞体の調製を行なった。t-ブチルアルコールに、DMPC/cholesterol/DHSG/ PEG-SDPE/クルクミンをモル比で、5/1/1/0.03/1の割合で加熱して溶解させ、これを凍結乾燥し、クルクミンと脂質が混合した粉末を得た。この混合粉末20gについて、実施例1に記載の円柱状容器に収容し、更にリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)0.8dLを添加し、混錬装置(自転公転撹拌器、シンキー社製、ARE-500、公転速度800回転、自転速度784回転)にて窒素雰囲気において合計150分間の混錬を行い、クルクミンを担持した小胞体分散液を得た。
【0059】
抗ウイルス薬剤の具体例には、オセルタミビルホスフェートおよびインジナビルスルフェートが含まれる。抗微生物剤には、シプロフロキサシン、デフォテタン(defotetan)およびアジスロマイシンのような抗細菌剤、アムホテリシンB、ナイスタチンおよびケトコナゾールのような抗真菌剤、並びにイソニアジド、ストレプトマイシンおよびリファンピンのようなアニチュバーキュラー(anitubercular)剤が含まれる。ビタミンD、カルシウム、PTH拮抗剤またはビスホスホネートのような、骨の成長を刺激し、または骨の消失から保護するための剤も企図されている。
【0060】
抗新生物剤も、本発明の送達物質による送達のための薬物として企図されている。本発明に従い、広範な化学療法剤を用いることができる。用語「化学療法」は、癌を治療するための薬剤の使用をいう。「化学療法剤」は、癌の治療において投与される化合物または組成物を意味するのに用いられる。これらの剤または薬物は、細胞内でのそれらの活性の様式、例えば、それらが細胞サイクルに影響を及ぼすかどうか、およびどの段階でかかる影響を及ぼすかにより分類される。あるいは、剤は、DNAを直接結合する、DNA中に挿入される、または核酸合成に影響を及ぼすことにより染色体および有糸分裂異常を誘起する能力に基づいて特徴付けられる。ほとんどの化学療法剤は、次のカテゴリー:アルキル化薬、代謝拮抗物質、抗腫瘍抗生物質、有糸分裂阻害剤、およびニトロソ尿素に分類される。
【0061】
化学療法剤の例には、チオテパおよびシクロスホスファミドのようなアルキル化薬;ブスルファン、インプロスルファンおよびピポスルファンのようなアルキルスルホネート;ベンゾドーパ、カルボコン、メツレドーパおよびウレドーパのようなアジリジン;アルトレタミン、トリエチレンアミン、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスホルアミドおよびトリメチロールアミン等のエチレンイミンおよびメチルアメラミン;アセトゲニン(特に、ブラタシンおよびブラタシノン);カンプトテシン(合成類似体トポテカンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC−1065(そのアドゼレシン、カルゼレシンおよびビゼレシン合成類似体を含む);クリプトフィシン(特に、クリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン;ドゥオカルマイシン(duocarumycin)(合成類似体、KW2189およびCB1−TM1を含む);エロイスロビン(eleutherobin);パンクラチスタチン;サルコジクチイン;スポンジスタチン;ナイトジェンマスタード、例えば、クロラムブシル(chlorambucil)、クロルナファジン、クロフォスフェミド、エストラムスチン;イホスファミド、メクロルエタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノベンビシン;フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード;ニトロスウレア、例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、およびラニンヌスチン(ranimnustine);抗生物質、例えば、エネジイン系抗生物質(例えば、カリケアミシン、特に、カリケアミシン・ガンマ1I、カリケアミシン・オメガI1;ダイネミシンAを含むダイネミシン;ビスホスホネート、例えば、クロドロネート;エスペラマイシン;並びにネオカルジノスタチンクロモフォアおよび関連するクロモプロテイン・エンジイン・アンチバイオティック・クロモフォア、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、オースラルナイシン(authrarnycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン、カルミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシニス(chromomycinis)、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ドキソルビシン(モルホリン−ドキソルビシン、シアノモルホリノ−ドキソルビシン、2−ピロリノ−ドキソルビシンおよびデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、ミトマイシン、例えば、ミトマイシンC、マイクフェノリックアシッド、ノガラルナイシン(nogalarnycin)、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン、プロマイシン(puromycin)、クエラマイシン、ロドルビシン、ストレプトニグリンストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベンメックス、ジノスタチン、ゾルビシン;代謝拮抗剤、例えば、メソトレキセートおよび5−フルオロウラシル(5−FU);葉酸類似体、例えば、デノプテリン、メソトレキセート、プテロプテリン、トリメトレキサート;プリン類似体、例えば、フルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン;ピリミジン類似体、例えば、アンシナビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフル、シナラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロキシウリジン;アンドロゲン、例えば、カルステロン(calusterone)、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン;抗副腎、例えば、アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン;葉酸補給剤、例えば、葉酸;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルラシン;アムサクリン;ベストラブシル(bestrabucil);ビサントレン;エダトラキサート;デフォファミン;デメコルシン;ジアジクオン;エルフォルミチン(elformithine);酢酸エリプチニウム;エポチロン;エトグルシド;ガリウムニトレート;ヒドロキシウレア;レンチナン;ロニダイニン;メイタンシノイズ、例えば、メイタンシンおよびアンサミトシン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダンモール(mopidanmol);ニトラエリン;ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ロソキサントロン;ポドフィルリニックアシデド(podophyllinic acid);2−エチルヒドラジン;プロカルバジン;PSK(ポリサッカライドコンプレックス);ラゾキサン;リゾキシン;ジゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾニックアシッド(tenuazonic acid);トリアジクオン;2,2’−2"−トリクロロトリエチルアミン;トリコテシン(特に、T−2トキシン、ヴェルラクリンA、ロリジンAおよびアングイジン);ウレタン;ヴィンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン;アラビノシド(「Ara−C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド、例えば、パクリタキセルおよびドキセタキセル;クロラムブシル;ゲムシタビン;6−チオグアニン;メルカプトプリン;メソトレキセート;白金錯体、例えば、シスプラチン、オキサルプラチンおよびカルボプラチン;ヴィンブラスチン;白金;エトポシド(VP−16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ノバントロン;テニポシド;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;キセローダ;イバンドロネート;イリノテカン(例えば、CPT−11);トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイド、例えば、レチオニックアシッド;カペシタビン;および上記何れかの薬学的に許容される塩、酸または誘導体が含まれる。特別の態様において、化学療法剤は、以下からなる群から選択される;ドキソルビシン、トポイソメラーゼI阻害剤、例えば、トポテカンおよびイリノテカン、および分裂阻害剤、例えば、パクリタキセルおよびエトポシド、および代謝拮抗剤、例えば、メソトレキセート、およびモノクローナル抗体、例えば、リツキシマブ。
【0062】
赤血球生産の刺激因子もまた、送達のために企図されており、鉄、エポエチンアルファおよびフィルグラチンを含む。骨髄を、放射線および化学療法誘起損傷から保護するための剤も、企図され、アミフォスチン、天然抗酸化剤例えばビタミンeおよびクルクミンのようなフェノール含有天然生成物、並びにロイコボリンのようなメソトレキセートレスキュー剤を含む。
【0063】
薬物は、ペンテト酸カルシウム三ナトリウムのような、骨髄から重金属を除去するために用いられる剤であり得る。プレドニゾン、ヒドロコルチゾン、アスピリン、インドメタシン、セレコキシブおよびイブプロフェンのような抗炎症剤も、
99mTc、
111In、
186Reおよび
188Reのような放射標識剤と同様に、送達のために企図されている。ヨウ素含有CT造影剤のような放射線不透過化合物も、ガドペンテト酸ジメグルミンのようなMRI診断剤と同様に、送達のために企図されている。
【0064】
また、前記機能物質として、骨形成促進剤、骨疾患予防または治療剤、骨折予防または治療剤、軟骨形成促進剤および軟骨疾患予防または治療剤、あるいは変形性関節症または慢性関節リウマチ等の軟骨疾患の予防または治療薬、骨折、脱臼および骨破損等の外傷、骨膜炎、結核性骨関節炎、梅毒性骨炎、ハンセン病による骨変化、放線菌症、ブラストマイコーシスおよびブルセローシス等の炎症性疾患、良性骨腫、骨軟骨腫、類骨骨腫、多発性軟骨性外骨腫、孤立性骨嚢腫、骨巨細胞腫、繊維性骨異常形成、骨組織球症X、傍肩性骨肉腫、骨肉腫、軟骨肉腫、骨繊維肉腫、ユーイング肉腫、多発性骨髄腫および癌の骨転移等の腫瘍、くる病、骨軟化症、壊血病、副甲状機能亢進症、ページェット病、脳下垂体機能異常、鉄欠乏性貧血、線維性骨炎、腎性骨異栄養症、骨粗鬆症、骨欠損および硬直性脊髄炎等の代謝性・内分泌疾患、または軟骨無形成症、鎖骨・頭蓋骨無形成症、変形性骨異形成、骨形成不全症、大理石骨病、頭蓋骨縫合早期閉鎖、歯突起形成不全、クリペル−フェーユ症候群、脊椎披裂、半椎、骨変形・変形脊椎症、側弯症およびペルテス病等の先天性骨系統疾患・奇形症候群の治療剤あるいは診断剤を用いることができる。
【0065】
また、前記機能物質として、骨髄炎症、骨髄性白血病、多発性骨髄腫、造血障害、鉄欠乏性貧血、悪性貧血、巨赤芽球、溶血性貧血、遺伝性球状赤血球症、鎌状赤血球性貧血および再生不良性貧血等の骨髄疾患の治療剤または診断剤の高効率送達のために、あるいは腎臓病に伴う貧血の改善薬として遺伝子組換えにより産生されるエリスロポエチン、制癌療法で使用される顆粒球減少症の治療薬物、並びに骨髄移植および後天性免疫不全症候群(AIDS)に適用されるコロニー刺激因子(CSF)を送達するために好適に用いることができる。骨髄性腫瘍の治療剤の例には、シタラビン、ダウノルビシン、イダルビシン、アクラルビシン、ミトキサントロン、エノシタビン、6−メルカプトプリン、チオグアニン、アザシチジン、アムサクリン、ステロイド、亜砒酸、ヒドロキシカルバミド、ハイドレア、サイトシンアラビノシド、アントラサイクリン系薬物、レチノイン酸、ビンカアルカロイド系薬物、プレドニン、L−アスパラギナーゼ、インターフェロン、メルファラン、ビンクリスチン、アドリアマイシン、エンドキサン、メソトレキセート、サリドマイド、エトポシド、シクロホスファミド、カルムスチン、デキサメタゾン、サイトカイン、インターフェロン製剤、ブスルファン、ヒドロキシウレア、メシル酸イマチニブ、プレドニゾロンおよびボルテゾミブを用いることができる。
【0066】
また、前記機能物質は、ガンマ線放射またはポジトロン放射性同位元素を担持させた場合、骨または骨髄疾患の診断薬として使用されてもよい。前記機能物質はまた、骨または骨髄疾患を放射性核種治療のための治療学的放射性核種(オージェ電子、ベータ放射性またはアルファ粒子放射性)を担持させてもよい。更に、前記機能物質は、放射性不透過剤を担持させた場合には、X線およびX線コンピュータ断層撮影のための診断薬として使用されてもよい。前記機能物質は、超常磁性または常磁性薬剤を嘆じさせた場合には、磁気共鳴映像法のための診断薬として使用されてもよい。加えて、前記機能物質は、骨髄に効率高く遺伝子を輸送および導入することが可能であるため、当該送達物質は、例えば、薬物耐性遺伝子を骨髄に輸送し、抗がん剤を使用する治療のための補助療法において骨髄を保護することを可能にするものである。
【0067】
上記の実施形態は、この発明の原理の適用を例示する多数の可能な実施形態のうちのいくつかを例示したものである。その他の数々のかつ様々な変形は、この発明の要旨を変更しない範囲で、この分野の当業者によって容易に構成することができる。
【符号の説明】
【0068】
10 筒状容器
11 内周面
12 凹曲面
13 突部
20 中心軸(自転軸)