(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6061359
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】ボルトの首振り機構
(51)【国際特許分類】
F16B 39/24 20060101AFI20170106BHJP
F16B 43/00 20060101ALI20170106BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
F16B39/24 A
F16B43/00 A
E04H9/02 351
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-252527(P2015-252527)
(22)【出願日】2015年12月24日
【審査請求日】2016年6月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515359097
【氏名又は名称】SMRC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119275
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 信明
(72)【発明者】
【氏名】半澤 薫和
(72)【発明者】
【氏名】半澤 和夫
【審査官】
鎌田 哲生
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−042523(JP,A)
【文献】
実開昭53−023863(JP,U)
【文献】
特開2014−234590(JP,A)
【文献】
特開2015−224488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 39/24
F16B 43/00
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナットと平座金の間に挿入される一体成形の薄鋼板製で外観が円錐台形を呈し上面にはその中心部に締結用のアンカーボルトが貫通する貫通孔が貫設される円錐台形ばね座金が該ナットと該アンカーボルトを固定して突設している基礎の間に介挿されるとともに建物の土台が該基礎と該円錐台形ばね座金の間に該アンカーボルトに挿通されて介挿され、
前記土台と前記基礎の間には板材を主要素とする複数枚の滑り平板からなる摩擦減震装置が前記アンカーボルトに挿通されて介挿され、
前記土台および前記円錐台形ばね座金の間には前記平座金が前記アンカーボルトに挿通されて介挿され、
前記円錐台形ばね座金は前記ナットの非締め付け時には円錐台形の斜面が内側に中折れして前記平座金側から順に勾配の異なる第1の斜面および第2の斜面が形成され、前記アンカーボルトに所定軸力を与える該ナットの締め付け時には該第1の斜面が弾性変形して前記平座金に略密着して前記土台が前記基礎に固定され、該所定軸力を超えるときは前記第2の斜面が弾性変形して該平座金に接近し、
前記アンカーボルトの突設方向に対する横荷重を受けて前記基礎に対して前記土台に横荷重方向の滑りが生じたときに前記円錐台形ばね座金の該横荷重方向の反対側の第2の斜面が弾性変形して該土台に接近するとともに該横荷重方向側の第1の斜面が回復して、該アンカーボルト頭部が傾いて該アンカーボルト頭部の首振りによる該アンカーボルトの曲がりを許容する、ことを特徴とするボルトの首振り機構。
【請求項2】
前記薄鋼板の板厚は略3.2mm以下であり、
前記ナットの非締め付け時における前記第1の斜面の勾配は略5.0°ないし10.0°であり前記第2の斜面の勾配は該第1の斜面の勾配の略2倍であり、
前記貫通孔の直径は前記アンカーボルト径に0.15mmないし0.3mmを加えた数値であって円錐台形上面の直径に略一致する、ことを特徴とする請求項1に記載のボルトの首振り機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、被固定物を固定するボルトの緩みを防止するとともにボルト締め付け後にも弾性変形可能なばね座金およびこのばね座金を使用したボルト頭部の首振り機構に関する。
【背景技術】
【0002】
被固定物を固定するボルトの緩みを防止するため弾性変形を利用したばね座金として、例えば特許文献1ないし特許文献3に開示のものがある。
【0003】
特許文献1に開示の「バネ鋼ワッシャー」は「建築木材に振動が加わったり、乾燥により縮んだ時の緊締具の緩みを防止する。」ことを課題として、その解決手段を「木材等の被緊締部材とナット間に平板状のバネ鋼を略円錐台状に形成したワッシャーを設け、このワッシャーの軸方向の伸縮により緊締具の緩みを吸収する。」としている。また、特許文献2に開示の「スプリングワッシャ」は「ナットおよびボルトの締め付けを確実にし、かつ弛み防止を可能にしたスプリングワッシャを提供する。」ことを課題として、その解決手段を「ハガネ鋼板を素材としたスプリングワッシャに、更に上反り部、下反り部を設けて、ハガネの持つ弾力性を十分に利用できるようにした成形をする。」としている。そして、特許文献3に開示の「スプリングワッシャー及び同ワッシャーを用いたトグルクランプ」は「枢着される部材に対して適正な圧接力が及ぶようにしたスプリングワッシャー、及び当該ワッシャーを用いたトグルクランプを提供する。」ことを課題としていて、その解決手段を「レバーの操作に基づき所要のトグル機構を介して作動するクランプシャフトを具えたトグルクランプに於いて、当該トグル機構の所要レバーの枢着軸に、中央部に挿通孔を穿設しかつその全体が笠状を呈する弾性材料で製したワッシャー主体を、所要の枢軸を介して弾力性蓄積状態で安定化させることによって、当該枢軸を介して枢着状態にある所要レバーに対して圧接させるように構成したスプリングワッシャーを介在させるように構成したトグルクランプ。」としている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−9126号公報
【特許文献2】特開2007−24299号公報
【特許文献3】特開2015−10618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、木造建物に代表される比較的軽量な小規模の建物に適用される免震技術として、平板間の摩擦力を利用した減震装置が提案されていて、例えば、本願出願人の「摩擦減震装置」が特開2015−224488号公報に開示されている。このような建物の基礎と土台との間に重ね合わされて介挿される複数枚の滑り平板からなる摩擦減震装置においては、アンカーボルトは基礎側で固定されるので、締め付けナット側でアンカーボルト頭部の傾きを拘束するよりも傾きをフリーとしたほうが摩擦減震装置の滑り平板間の摩擦抵抗力が十分に発揮されることとなる。
【0006】
しかしながら、特許文献1ないし特許文献3に開示のばね座金はいずれもナットおよびボルトの締め付けを確実にし、弛み防止することはできても、ボルト頭部の傾きをフリーとすることは考慮されていない。
【0007】
そこで、本願発明は、ボルトの緩みを防止するとともにボルト頭部の傾きをフリーとすることができるばね座金を提供し、併せてボルト頭部の首振り機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係る
ボルトの首振り機構は、ナットと平座金の間に挿入される一体成形の薄鋼板製で外観が円錐台形を呈し上面にはその中心部に締結用の
アンカーボルトが貫通する貫通孔が貫設される
円錐台形ばね座金が該ナットと該アンカーボルトを固定して突設している基礎の間に介挿されるとともに建物の土台が該基礎と該円錐台形ばね座金の間に該アンカーボルトに挿通されて介挿され、前記土台と前記基礎の間には板材を主要素とする複数枚の滑り平板からなる摩擦減震装置が前記アンカーボルトに挿通されて介挿され、前記土台および前記円錐台形ばね座金の間には前記平座金が前記アンカーボルトに挿通されて介挿され、前記円錐台形ばね座金は前記ナットの非締め付け時には円錐台形の斜面が内側に中折れして前記平座金側から順に勾配の異なる第1の斜面および第2の斜面が形成され、前記アンカーボルトに所定軸力を与える該ナットの締め付け時には該第1の斜面が弾性変形して前記平座金に略密着して
前記土台が前記基礎に固定され、該所定軸力を超えるときは前記第2の斜面が弾性変形して該平座金に接近し、
前記アンカーボルトの突設方向に対する横荷重を受けて前記基礎に対して前記土台に横荷重方向の滑りが生じたときに前記円錐台形ばね座金の該横荷重方向の反対側の第2の斜面が弾性変形して該土台に接近するとともに該横荷重方向側の第1の斜面が回復して、該アンカーボルト頭部が傾いて該アンカーボルト頭部の首振りによる該アンカーボルトの曲がりを許容する、ことを特徴としている。
また、本願請求項2に係る
ボルトの首振り機構は、請求項1に記載の
ボルトの首振り機構であって、前記薄鋼板の板厚は略3.2mm以下であり、前記ナットの非締め付け時における前記第1の斜面の勾配は略5.0°ないし10.0°であり前記第2の斜面の勾配は該第1の斜面の勾配の略2倍であり、前記貫通孔の直径は前記ボルト径に0.15mmないし0.3mmを加えた数値であって円錐台形上面の直径に略一致する、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本願発明は以下の効果を奏する。
(1)ボルトに所定軸力を与えるナットの締め付け時には第1の斜面が弾性変形して被固定物または平座金に略密着するため、所定軸力を付与したか否かは目視で確認できる。また、第1の斜面が弾性変形するためその復元力が働いてボルトの緩みを防止することができる。そして、さらにナットを締め付けると第2の斜面が弾性変形して被固定物または平座金に接近するものの復元力は保存され、締め付け力が減少すると第2の斜面さらには第1の斜面の勾配が回復する。
(2)薄鋼板の板厚を3.2mm以下としナットの非締め付け時における第1の斜面の勾配は略5.0°ないし10.0°とし、第2の斜面の勾配を第1の斜面の勾配の略2倍とすることにより、汎用プレス機で容易にプレス加工が可能となり経済性に優れた円錐台形ばね座金を得ることができる。また、貫通孔の直径をボルト径に0.15mmないし0.3mmを加えた数値とすることにより、円錐台形ばね座金はボルトやナットに対して偏心することがなくなる。そして、貫通孔の直径を円錐台形上面の直径に略一致させることにより、円錐台形ばね座金自体を小さくすることができる。
(3)被固定物に横荷重が作用したときにボルト頭部の傾きによりボルトの曲がりが許容されて、被固定物とボルト固定体との間のスムーズな滑りが生ずる。また、ボルト頭部の傾きは円錐台形ばね座金の横荷重方向の反対側の第2の斜面が弾性変形して被固定物に接近するとともに横荷重方向側の第1の斜面が回復することによるナットの傾きによるものであるが、このような場合でもボルトの緩みを防止することができる。
(4)ボルトをアンカーボルトとし、被固定物を建物の土台とし、ボルト固定体を基礎として、土台と基礎の間に板材を主要素とする複数枚の滑り平板からなる摩擦減震装置を介挿させることにより、地震等の横荷重が建物に作用したときには、円錐台形ばね座金によるアンカーボルトの首振り機構が作用して、地震等の横荷重はスムーズに伝達されて摩擦減震装置が有効に働く。なお、土台および円錐台形ばね座金の間に平座金を介挿させることにより、木造の土台への円錐台形ばね座金の食い込みを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は実施例1に係る円錐台形ばね座金の全体図であって、
図1(a)は平面図、
図1(b)は
図1(a)におけるI−I矢視断面図である。
【
図2】
図2は実施例2に係るナットを締め付けた状態を示すボルトの首振り機構の断面図である。
【
図3】
図3は実施例2に係る地震による横荷重を受けた状態を示すボルトの首振り機構の断面図である。なお、
図2および
図3における円錐台形ばね座金に関しては断面表示としている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施するための形態に係る実施例について、
図1ないし
図3を参照して説明する。なお、
図1ないし
図3において、符号1は実施例2に係る首振り機構、符号10は実施例1に係る円錐台形ばね座金、符号11は第1の斜面、符号12は第2の斜面、符号13は貫通孔、符号21はナット、符号23はアンカーボルト(ボルト)、符号25は平座金、符号27は土台(被固定物)、符号29は基礎(ボルト固定体)、符号31は摩擦減震装置、である。
【実施例1】
【0012】
まず、実施例1に係る円錐台形ばね座金10について、主に
図1を基に、そして
図2を参考にして説明する。
【0013】
薄鋼板を打ち抜き成形した円錐台形ばね座金10は、側面が円錐台形を呈しその上面には貫通孔13が貫設されている。そして、円錐台形ばね座金10の斜面は略中央部が内側に中折れして、下側から順に第1の斜面11および第2の斜面12が形成され、第1の斜面11の勾配は第2の斜面12の勾配の略1/2となっている。
【0014】
実施例では、円錐台形ばね座金10の板厚を1.4mmとしていて、アンカーボルト23の径を12mmφとしていることから、貫通孔13の直径を12.2mmφとし、第1の斜面11の勾配を7.5°、第2の斜面12の勾配を15.0°としている。また、円錐台形ばね座金10の上面は貫通孔13の直径に一致して12.2mmφであり、下面は30.5mmφであり、高さは3.2mmである。
【0015】
ナット(
図2ではナット21)を締め付けてボルト(
図2ではアンカーボルト23)に軸力を与えることにより円錐台形ばね座金10に上下方向の圧縮力を作用させると、第1の斜面11の勾配が小さくなって、所定軸力で第1の斜面11の勾配は0°となる(
図2参照)。さらに、力が加わると第2の斜面12の勾配が弾性変形して小さくなる。実施例では、第1の斜面11の勾配が0°となる所定軸力を1kNないし5kNとなるように設計している。
【実施例2】
【0016】
次ぎに、実施例2に係る首振り機構1について、主に
図2および
図3を基に説明する。
【0017】
実施例の首振り機構1は、木造建物の基礎29と土台27との間に介挿される薄型の摩擦減震装置31に付帯して使用されることを想定している。すなわち、首振り機構1は、アンカーボルト23と、アンカーボルト23に順に挿通される摩擦減震装置31と、土台27の上部に載置される平座金25と、平座金25の上部に位置する円錐台形ばね座金10と、平座金25および円錐台形ばね座金10を固定するナット21と、から構成されていて、首振り機構1をセットした状態では、基礎29側からアンカーボルト23に挿通される順に摩擦減震装置31、土台27、平座金25、円錐台形ばね座金10およびナット21となっている。
【0018】
摩擦減震装置31は重ね合わせた滑り平板間の摩擦力を利用して、建物に作用する地震力を減震する装置であって、実施例では2枚の金属板を重ね合わせものを使用している。すなわち、上部に位置する滑り平板は厚さが3mm程度で直径が90mmφの円盤状を呈していて、中心部には23mmφの挿通孔が貫設され、下部に位置する滑り平板も円盤状を呈していて、その厚さは2mm程度であり中心部には13mmφの挿通孔21が貫設されている。そして、重ね合わされた2枚の滑り平板はアンカーボルト23に挿通されてセットされている。なお、前述したように、アンカーボルト23は12mmφのものを使用している。
【0019】
首振り機構1をセットした状態でナット21を所定軸力で締め付けると、
図2に示すように円錐台形ばね座金10が弾性変形して第1の斜面11の勾配が0°となって、平座金25に密着して摩擦減震装置31のセットが完了となる。このため、ナット21を所定の軸力で締め付けたか否かの判断が目視で確認できる。
【0020】
図3は首振り機構1のセットが完了した状態で、建物すなわち土台27に地震による横荷重の力(右矢印の方向)が作用した状態を示している。
図3に示すように、土台27に横からの力が作用すると、以下の2つの事象が発生し同時に進行する。
(1)土台27は基礎29に対して左方向にずれるが、このとき摩擦減震装置31は上部に位置する滑り平板が土台27とともに下部に位置する滑り平板に対する滑りが発生して左方向にずれる。
(2)土台27が基礎29に対して左方向にずれるに伴い、アンカーボルト23にも曲げの力が働いてその頭部も左方向にずれるが、このときナット21が左側に傾こうとして、円錐台形ばね座金10の横荷重方向の反対側(右矢印の反対側)の第2の斜面12が弾性変形して平座金25に接近する(
図3では第2の斜面12の勾配が0°の状態を示している。)とともに横荷重方向側(右矢印側)の第1の斜面が回復して、ナット21が左側に傾く首振り効果が生ずる。その結果、アンカーボルト23の固定部近辺が曲がるものの、その上部については、ナット21が見掛け上左回転してアンカーボルト23の曲がりはなく直線状となる。
【0021】
アンカーボルト23頭部の首振り効果により、アンカーボルト23に作用する剪断力が小さくなって、その分、アンカーボルト23の軸力は大きくなる。したがって、上記(1)により、摩擦減震装置31は上部に位置する滑り平板と下部に位置する滑り平板との間で滑りが発生するとともに、滑りによる平板間の摩擦力により地震力を減震することができるばかりでなく、上記(2)により、アンカーボルト23の軸力が増大して平板間の摩擦力も増大し、減震効果も増大する。
【符号の説明】
【0022】
1 実施例2に係る首振り機構
10 実施例1に係る円錐台形ばね座金
11 第1の斜面
12 第2の斜面
13 貫通孔
21 ナット
23 アンカーボルト(ボルト)
25 平座金
27 土台(被固定物)
29 基礎(ボルト固定体)
31 摩擦減震装置
【要約】
【課題】ボルトの緩みを防止するとともにボルト頭部の傾きをフリーとすることができるばね座金を提供し、併せてボルト頭部の首振り機構を提供する。
【解決手段】一体成形の薄鋼板製ばね座金であって、外観が円錐台形を呈し上面にはその中心部に締結用のボルトが貫通する貫通孔が貫設され前記ナットの非締め付け時には円錐台形の斜面は内側に中折れして前記被固定物または前記平座金側から順に勾配の異なる第1の斜面および第2の斜面が形成され、前記ボルトに所定軸力を与える前記ナットの締め付け時には前記第1の斜面が弾性変形して前記被固定物または前記平座金に略密着し、該所定軸力を超えるときは前記第2の斜面が弾性変形して該被固定物または該平座金に接近する、構成とし、この円錐台形ばね座金を基礎と土台を締め付けるアンカーボルト頭部に挿入した。
【選択図】
図1