(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、送電回路部と、送電回路部より電力を供給される送電コイルと、送電回路部、または前記送電コイルへの供給電流を測定する測定回路部と、供給電流の複数の履歴値より近似関数を算出し供給電流の予測値を求める予測手段を備え、新たに測定した前記供給電流と前記予測値との差分の絶対値が閾値を超えた場合に送電を停止する非接触送電装置の実施形態を取り得る。
【0016】
受電コイルのインピーダンスの時間変化を想定した近似関数を選択した上で、正常な送電であれば測定されるであろう供給電流値を予測し、予測値と実測値とのずれが大きければ送電コイルと受電コイル間に金属等の異物が挟まれている等の異常が発生しているものとして送電を停止することで非接触送電装置及び周辺機器の安全性を高めることができる。
【0017】
なお、供給電流の測定は直流電流の方が測定容易であることから、送電コイルへの高周波の供給電流を直接測定するよりも、送電回路部への直流の供給電流を測定する方が簡単に測定できる。
【0018】
さらに、近似関数が前記履歴値より最小二乗法を用いて求めた一次関数、もしくは二次関数であってもよい。
【0019】
受電コイルのインピーダンスの時間変化が3次以上の高次の関数の形態を取ることはほとんどなく、供給電流の異常値を見過ごす可能性もあることから、近似関数は一次関数、もしくは二次関数であることが望ましい。
【0020】
ここで最小二乗法とは、近似関数と履歴値との差分の自乗値の総和について、近似関数のパラメーターで編微分することにより求めた式が全て零となる条件を満たすよう近似関数のパラメーターを設定することにより、履歴値に近似関数を近似させる手法のことである。
【0021】
例えば近似関数として一次関数である以下の関数を採用した場合の最小二乗法の適用について説明する。ここでIは供給電流の履歴値であり、tはその時刻、a、bは近似関数のパラメーターとなる。
(数1)
【0022】
時刻t
1、t
2、t
3における供給電流の履歴値をそれぞれI
1、I
2、I
3とすると、近似関数と履歴値との差分の自乗値の総和Jは、以下の式で表される。
(数2)
【0023】
総和Jをパラメーターa、bで偏微分したものを0とした連立方程式を解くと、パラメーターa、bは以下の式により求まる。
(数3)
(数4)
【0024】
さらに、近似関数が履歴値の平均値であってもよい。
【0025】
特に受電装置が二次電池の充電を行う場合、充電初期は定電流での充電が行われる場合が多い。また、受電装置の負荷が一定である場合にも受電コイルのインピーダンスは時間変化せず、供給電流も時間変化しないため、この場合近似関数は履歴値の平均値でよい。 供給電流の測定値にノイズが含まれていても、近似関数として平均値を取ることでノイズの影響を抑制することができる。
【0026】
さらに、非接触送電装置、並びに送電コイルから非接触電力伝送を受ける受電コイル、及び受電コイルに接続された整流回路、及び整流回路に接続された充電制御回路、及び充電制御回路に接続された二次電池を有する非接触受電装置を備えた非接触充電システムであってもよい。
【0027】
この場合、送電コイルから供給される電力は、送電を行う送電区間と、送電以外の処理を行う非送電区間を周期的に繰り返し、測定回路部は、送電区間が開始してから所定時間経過後より、送電区間が終了する所定時間経過前までの区間に供給電流を測定してもよい。
【0028】
電力伝送と通信を交互に行う場合等には間欠送電を行うが、送電時の立ち上がり、立下り時には波形になまりを生じることが多く、供給電流の測定誤差となる。従って、送電区間の立ち上がり、立下り時には所定時間を空けて供給電流の測定を行うことで供給電流の測定誤差を改善することができる。
【0029】
さらに、履歴値の平均値が所定値を超えた場合には近似関数として履歴値の平均値を採用し、履歴値の平均値が所定値以下の場合には近似関数として履歴値より最小二乗法を用いて求めた一次関数を採用してもよい。
【0030】
受電装置が二次電池の充電を行う場合、既に述べたように充電初期の近似関数は履歴値の平均値でよい。さらに、充電初期を過ぎると定電圧での充電が行われる場合が多いため、充電曲線はある程度の傾きを持つ直線に近似される。従って、充電初期を過ぎた場合は近似関数として履歴値より最小二乗法を用いて求めた一次関数を採用するとよい。
【0031】
なお、充電が進むにつれ受電コイルのインピーダンスは上昇するため、供給電流は低下してゆく。従って、充電初期の定電流充電から定電圧充電への切替は供給電流の測定値と所定値を比較することで判断できる。
【0032】
本発明の実施形態について、図と共により詳細に説明する。
【0033】
(第1実施形態)
図1は本発明における第1実施形態を示す回路ブロック図である。
【0034】
図1の回路ブロック全体により非接触で電力伝送を行う非接触充電システムを構成しており、送電装置1と受電装置2に分かれている。
【0035】
送電装置1は、電源部10、測定回路部11、送電回路部12、送電コイル100を有している。 送電装置1における電源部10から測定回路部11における電流測定部111を介して送電回路部12へ電力が供給される。
【0036】
供給された電力により送電回路部12における発振回路121から交流電力信号を発生させ、増幅回路122で電力増幅を行い、整合回路123でインピーダンスマッチングを行い送電コイル100より送電することができる。
【0037】
受電装置2では、送電コイル100からの電力を受電コイル200で受電し、整合回路201でインピーダンスマッチングを行い、整流回路202で直流電力信号に変換した後、充電制御部203を介して二次電池204を充電する。
【0038】
ここで、送電装置1における電流測定部111は送電回路部12へ供給される定電圧の電力を電流値として測定するが、測定された電流値の情報は一定時間毎に履歴記憶部112へ格納される。
【0039】
さらに、異物検出判定部113は、履歴記憶部112に記憶された電流値データを基に近似関数を求め、近似関数より求めた外挿値と電流測定部111からの実測値との差分の絶対値が所定の値を超えた場合には送電コイル100と受電コイル200の間に異物3が挿入されたものと判断して送電回路部12へ停止信号を送り、送電コイル100からの送電を停止する。
【0040】
図2は、本発明における第1実施形態の電流測定部111で測定される電流値の時間変化を示す図である。
【0041】
受電装置2における二次電池204の初期充電段階では充電制御部203により定電流の制御がなされ、電流測定部111で測定される電流値は時間変化に対して変化せず一定値となる。
【0042】
二次電池204の初期充電段階を過ぎると充電制御部203により定電圧の制御がなされ電流測定部111で測定される電流値は時間変化に対して減少する曲線となる。
【0043】
従って、二次電池204の初期充電段階の時刻t
1、t
2、t
3における電流値からの近似関数は傾き零の直線で、切片が時刻t
1、t
2、t
3における電流値の平均値であることが望ましい。
【0044】
さらに、二次電池204の初期充電段階を過ぎた時刻t
4、t
5、t
6における電流値からの近似関数は、最小二乗法で近似した一次もしくは二次曲線であることが望ましい。さらに、減少曲線の傾きについて製品ばらつきや環境による変動範囲を考慮して一定の範囲を規定し、最小二乗法で近似する一次もしくは二次曲線の傾きを制限することがより望ましい。
【0045】
なお、二次電池204が初期充電段階にある場合と、初期充電段階を過ぎた場合は電流測定部111で測定される電流値の大きさにより判別することが可能である。すなわち、電流値の所定値Ioとの大小関係により初期充電段階を過ぎたか否か判別することが可能である。
【0046】
図3は、本発明における第1実施形態の電流測定部111で測定される電流値の時間変化を示す図であり、時刻t’、t’’で異物が挿入された場合を示している。
【0047】
ここで、時刻t’で挿入される異物のインピーダンスは初期充電段階における受電コイル200のインピーダンスよりも高く、時刻t’’で挿入される異物のインピーダンスは初期充電段階を過ぎた受電コイル200のインピーダンスよりも低いことに対応し、
図2における曲線よりも時刻t’では電流値が小さく、時刻t’では電流値が大きくなる。
【0048】
図3の実線が電流値の実測値を示しているが、時刻t’では時刻t
1、t
2、t
3における電流値からの近似関数による外挿値と実測値が相違しており、差分の絶対値は所定の差分閾値を超えている。また、時刻t’’でも時刻t
4、t
5、t
6における電流値からの近似関数による外挿値と実測値が相違しており、差分の絶対値は所定の差分閾値を超えている。
【0049】
従って、近似関数による外挿値と実測値の差分の絶対値を基準とすることにより、受電コイル200よりインピーダンスの高い異物もインピーダンスの低い異物も検出することができる。
【0050】
図4は、本発明における第1実施形態の電流測定部111で測定される電流値の時間変化を示す図であり、送電前より異物が挿入された場合、及び異物が挿入されない場合を示している。
【0051】
曲線C1は、送電前より異物が挿入されない場合の電流値の時間変化を示している。
【0052】
曲線C2は、送電前に予め受電コイル200よりインピーダンスの低い異物が挿入された場合の電流値の時間変化を示している。
【0053】
曲線C3は、送電前に予め受電コイル200よりインピーダンスの高い異物が挿入された場合の電流値の時間変化を示している。
【0054】
初期充電段階における時刻t
1、t
2、t
3において、C1は二次電池204の定電流充電に伴う供給電流が上限値Imで流れているが、C2では上限値Imを超えた電流値が測定されるため、異物検出を行うことができる。
【0055】
また、C3では、電流値の所定値Ioよりも小さい電流値であるにもかかわらず時刻t
1、t
2、t
3における電流値の時間変化が無く一定となる異常が検出されるため、異物検出を行うことができる。なお、送電コイルと受電コイルが離れているときもC3のような曲線となるため、非接触前の認証時に送電コイルと受電コイルが充分近接していることを確認する手段を設けるのが望ましい。
【0056】
すなわち、電流値が所定値Ioより大きい初期充電段階で上限値Imを超える電流値が測定された場合には異物挿入と判断し、電流値が所定値Io以下の初期充電を過ぎた段階で電流値の時間変化が無い場合には異物挿入、もしくは充電完了と判断することができ、いずれも送電装置1からの送電を停止することで異物の発熱や過充電等の不具合を解消することができる。
【0057】
(第2実施形態)
図5は本発明における第2実施形態を示す回路ブロック図である。
【0058】
第2実施形態における回路ブロックは、第1実施形態における
図1に通信回路部13、21を追加した構成となっている。
【0059】
すなわち、送電装置1における送電コイル100に通信回路部13が、受電装置2における受電コイル200に通信回路部21が接続されているため、送電装置1と受電装置2の相互で通信することができる構成となっている。
【0060】
また、送電時に通信回路部13、21に過電圧が発生することを防ぐため、保護回路部14、22、同期制御部15を設けている。
【0061】
すなわち、通信回路部13と送電コイル100の間に保護回路部14、通信回路部21と受電コイル200の間に保護回路部22を設けている。
【0062】
保護回路部14、22は送電時の過電圧が通信回路部13、21に加わるのを防止する機能を有していれば良い。例えば、保護回路部14、22が過電圧を検出した場合に送電コイル100もしくは受電コイル200側の入力部を半導体スイッチにより短絡してもよく、入力部で並列共振回路を構成し、過電圧を検出した場合に共振回路の共振点を外すことで過電圧を遮断してもよく、短絡と共振点を外す機能を併用しても良い。
【0063】
なお、送電装置内部で送電信号と通信信号が干渉することを防ぐため、同期制御部15により送電回路部12と通信回路部13を交互に駆動する。
【0064】
ここで、送電回路部12を駆動しているときは測定回路部11の電流値測定機能と、保護回路部14の過電圧遮断機能を働かせる。
【0065】
また、通信回路部13を駆動しているときは測定回路部11の電流値測定機能と、保護回路部14の過電圧遮断機能を停止させる。
【0066】
上記手順を繰り返すことにより同期制御部15による駆動と測定回路部11の電流値測定機能及び保護回路部14の過電圧遮断機能を同期させ、通信回路部13の過電圧からの保護をより確実に行い、送電に同期した電流値測定を行うことができる。
【0067】
図6は、
図5における回路ブロックのうち、送電装置に関するタイムチャート図、及び電流測定部で測定される電流値の時間変化を示す図である。
【0068】
既に述べたように、同期制御部により送電回路部と通信回路部を交互に駆動することで、送電と通信を周期的に切り替える。
【0069】
送電回路部へ通電される電流値の測定を行う際、送電への切替時、電流値には立上り、もしくは立下りが生じるため、切替前後に所定時間Δtを設けて立上り、立下りによる電流値の測定誤差を排除する。
【0070】
一方、通信回路部の保護回路部における過電圧遮断機能は、送電への切替時には常に働かせる必要がある。
【0071】
なお、通信時には電流値の測定が行えないため、等間隔の時間で電流値測定を行うことができない。
【0072】
図6では、時刻t
1、t
2の間の時間と時刻t
2、t
3の間の時間が異なっている。
【0073】
この場合でも、時間と電流値の二次元データを基に近似関数を求めることができる。
【0074】
従って、第1実施形態と同様に、時刻t’で異物が挿入された場合には、近似関数による外挿値と実測された電流値の差分の絶対値により検出することができる。