(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る基板処理装置1の構成を模式的に示す断面図である。
この基板処理装置1は、基板の一例としての円形の半導体ウエハW(以下、単に「ウエハW」という)におけるデバイス形成領域側の表面に対して、シリコン酸化膜(酸化膜)およびシリコン窒化膜(窒化膜)のエッチング処理を施すための枚葉型の装置である。このエッチング処理は、ウエハWの表面から、窒化膜を選択的にエッチングするための処理であり、エッチング液としてリン酸水溶液が用いられる。
【0021】
図1に示すように、基板処理装置1は、隔壁(図示しない)により区画された処理室2内に、リン酸水溶液を貯留するための貯留槽(加熱手段)4と、貯留槽4内にリン酸水溶液に浸漬させた状態で、ウエハWを水平に保持して回転させるスピンチャック3とを備えている。貯留槽4はヒータ28が埋設されており、貯留槽4の底面29がウエハWを加熱するための発熱部として機能する。また、基板処理装置1は、スピンチャック3に保持されているウエハWの表面(上面)にリン酸水溶液を吐出するためのリン酸水溶液ノズル5と、スピンチャック3に保持されているウエハWの表面に水の液滴を滴下させるためのバーノズル(多孔ノズル)50と、スピンチャック3に保持されているウエハWの表面に水を吐出するための水ノズル30と、スピンチャック3を収容するカップ8とを備えている。
【0022】
スピンチャック3として、たとえば挟持式のものが採用されている。スピンチャック3は、鉛直に延びる筒状の回転軸11と、回転軸11の上端に水平姿勢に取り付けられた円板状のスピンベース12と、スピンベース12にたとえば等間隔で配置された複数個(少なくとも3個。たとえば6個)の挟持部材(基板支持部)13と、回転軸11に連結されたスピンモータ(基板回転手段)14とを備えている。
【0023】
各挟持部材13は、側面視L形の支持アーム42の先端に、ウエハWの周縁部を挟持するための挟持ピン34を下向きに配設して構成されている。
複数の挟持ピン34には、挟持ピン駆動機構43が結合されている。挟持ピン駆動機構43は、複数の挟持ピン34を、ウエハWの端面と当接してウエハWを挟持することができる挟持位置と、この挟持位置よりもウエハWの径方向外方の開放位置とに導くことができるようになっている。スピンチャック3は、各挟持ピン34をウエハWの周端面に接触させて挟持することにより、ウエハWがスピンチャック3に強固に保持される。ウエハWが複数個の挟持部材13に保持された状態で、スピンモータ14の回転駆動力が回転軸11に入力されることにより、ウエハWの中心を通る鉛直な回転軸線A1まわりにウエハWが回転する。スピンチャック3はウエハWを、最大2500rpmの回転速度で回転させることができる。
【0024】
リン酸水溶液ノズル5は、たとえば、連続流の状態でリン酸水溶液を下方に向けて吐出するストレートノズルである。リン酸水溶液ノズル5には、リン酸水溶液供給源からの沸点(たとえば約140℃)近くのリン酸水溶液が供給されるリン酸供給管16が接続されている。リン酸供給管16には、リン酸供給管16を開閉するためのリン酸バルブ17が介装されている。リン酸バルブ17が開かれると、リン酸供給管16からリン酸水溶液ノズル5にリン酸水溶液が供給され、また、リン酸バルブ17が閉じられると、リン酸供給管16からリン酸水溶液ノズル5へのリン酸水溶液の供給が停止される。
【0025】
バーノズル50は直線状に延びるノズルであって、スピンチャック3の上方で水平姿勢に保持されている。バーノズル50は、スピンチャック3に保持されたウエハWの半径方向に沿って延び、かつ当該ウエハWの回転軸線A1上を通っている。バーノズル50は、先端が閉塞された円筒状のノズル配管51を有している。バーノズル50の先端は、閉塞されている。
【0026】
ノズル配管51の周面の下端縁には、水の液滴を滴下するための多数の吐出口52が、一列または複数列に並んで形成されている。各吐出口52はノズル配管51の管壁に開口する小孔からなり、各吐出口52はノズル配管51の内部空間と連通している。これら複数の吐出口52はほぼ同じ大きさを有し、ほぼ等密度で配置されている。
ノズル配管51の基端には、水供給源からの水が供給される第1水供給管53が接続されている。ノズル配管51の内部が第1水供給管53の内部と連通している。第1水供給管53には、第1水供給管53を開閉するための第1水バルブ54が介装されている。第1水バルブ54が開かれると、第1水供給管53からバーノズル50に水が供給され、各吐出口52から水が下方に向けて吐出される。各吐出口が小孔より形成されているので、各吐出口52は液滴となって滴下する。このとき、各吐出口52からの水の吐出流量は均一である。各吐出口52から滴下された水は、スピンチャック3の貯留槽4に降り注がれる。
【0027】
水ノズル30は、たとえば、連続流の状態でリンス用のDIWを吐出するストレートノズルであり、スピンチャック3の上方で、その供給口をウエハWの回転中心付近に向けて固定的に配置されている。水ノズル30には、水供給源からの水が供給される第2水供給管31が接続されている。第2水供給管31の途中部には、水ノズル30からの水の供給/供給停止を切り換えるための第2水バルブ32が介装されている。
【0028】
カップ8は、ウエハWの処理に用いられた後のリン酸水溶液や水を処理するためのものであり、有底円筒容器状に形成されている。
貯留槽4は、たとえば略円筒の有底容器状をなし、セラミックや炭化ケイ素(SiC)を用いて形成されている。貯留槽4は、スピンベース12の上面と、スピンチャック3に保持されるウエハWの下面との間に水平姿勢で配置されている。貯留槽4は、水平平坦な円形の底面(発熱部)29と、底面29の周縁部から鉛直上方に立ち上がる外周壁38とを備えている。貯留槽4の底面29と外周壁38の内周面とによって、底面29の上方に液を溜めるための浅溝の貯留溝41が区画されており、底面29の上方に液を溜めることができるようになっており、外周壁38の高さは、貯留溝41に溜められる液の厚みが2mm〜11mmの範囲内で、たとえば約7mmになるように設定されている。貯留槽4の底面29の内部には、抵抗式のヒータ28が埋設されている。
【0029】
次に述べる貫通穴24等を挿通する給電線(図示しない)を介してヒータ28に対する給電が行われている。貯留槽4は回転可能な構成ではなく、したがって、ヒータ28への給電のために回転電気接点が不要である。そのため、貯留槽4を回転させる場合と比較して、貯留槽4への給電量が制限されない。これにより、ウエハWを所望の高温まで加熱することが可能である。
【0030】
ヒータ28のオン状態では、ヒータ28への給電により当該ヒータ28が発熱し、貯留槽4全体が発熱状態になり、底面29全域が発熱する。底面29の全域において、ヒータ28のオン状態における底面29の単位面積当たりの発熱量は均一に設定されている。
支持ロッド25は、スピンベース12および回転軸11を上下方向に貫通する貫通穴24を回転軸線A1に沿って鉛直方向(スピンベース12の厚み方向)に挿通し、その上端が、貯留槽4に固定されている。支持ロッド25は貫通穴24においてスピンベース12または回転軸11と接触していない。支持ロッド25の下端(他端)は、スピンチャック3の下方の周辺部材に固定され、これにより、支持ロッド25が姿勢保持されている。このように、貯留槽4がスピンチャック3に支持されていないので、ウエハWの回転中であっても、貯留槽4は回転せずに静止(非回転状態)している。
【0031】
支持ロッド25は中空軸であり、その内部には、DIW(脱イオン水)等の水が流通するための水供給路61が形成されている。水供給路61は、貯留槽4の底面29で開口する下吐出口62に連通している。下吐出口62は、スピンチャック3に保持されるウエハWの下面中心に対向している。
水供給路61には、水供給源から水が供給される水下供給管63が接続されている。水下供給管63には、この水下供給管63を開閉するための水下バルブ64が介装されている。水下バルブ64が開かれると、水下供給管63から水供給路61を介して下吐出口62に水が供給される。これにより、下吐出口62から水が吐出される。
【0032】
支持ロッド25には、貯留槽4を昇降させるための昇降機構27が結合されている。貯留槽4は、昇降機構27により水平姿勢を維持したまま昇降される。昇降機構27は、たとえばボールねじやモータによって構成されている。昇降機構27の駆動により、貯留槽4は、その下面がスピンベース12の上面に近接する下位置(離反位置。
図4A等参照)と、貯留槽4の上面が、ウエハWの下面に微小間隔W1を隔てて対向配置される上位置(近接位置。
図4D等参照)との間で昇降させられる。これにより、貯留槽4とウエハWとの間隔を変更させることが可能である。
【0033】
貯留槽4の底面29の周縁部には、貯留槽4が次に述べる上位置にあるときに、挟持部材13の挟持ピン34を収容するための環状溝37が形成されている。環状溝37は、スピンチャック3(スピンベース12)の回転中に挟持部材13の挟持ピン34を収容できるように、回転軸線A1を中心とする円環状をなしている。環状溝37の溝深さは、貯留槽4が次に述べる上位置にあるときに、挟持ピン34と環状溝37の底壁とが干渉しない程度の深さに設定されている。また、環状溝37の溝幅は、挟持ピン34の外径よりも広く設定されている。また、
図1では、環状溝37と外周壁38とが内外に隣接して設けられている。すなわち、環状溝37の外周面と外周壁38の内周面とが連続し、鉛直面をなしている。
【0034】
貯留槽4が上位置にある状態で、かつ貯留溝41に液が満たされた状態では、貯留溝41に溜められている液によって、表面を上向きの状態で挟持部材13に挟持されたウエハWが浸漬される。つまり、貯留溝41に溜められている液の液面がウエハWの表面よりも上方に位置し、その結果、貯留溝41に溜められている液によってウエハWの表面の全域が覆われる。
【0035】
図2は、基板処理装置1の電気的構成を示すブロック図である。
基板処理装置1は、マイクロコンピュータを含む構成の制御部(温度制御手段)40を備えている。制御部40は、ヒータ28への通電/切断の切換えにより、ヒータ28のオン/オフを制御する。また、制御部40は、スピンモータ14、挟持ピン駆動機構43、昇降機構27等の動作を制御する。また、制御部40は、リン酸バルブ17、第1水バルブ54、第2水バルブ32等の開閉動作を制御する。
【0036】
図3は、基板処理装置1によって実行されるリン酸エッチング処理の処理例について説明するための工程図である。
図4A〜
図4Fは、この処理例について説明するための模式的な図である。
以下では、
図1〜
図4Fを参照して、リン酸エッチング処理の処理例について説明する。
【0037】
図4Aに示すように、ウエハWの搬入に先立って、制御部40はヒータ28をオン(駆動状態)にしておく。また、制御部40は、リン酸バルブ17を開いて、リン酸水溶液ノズル5から沸点に近い高温のリン酸水溶液を吐出し、吐出されるリン酸水溶液を、下位置にある貯留槽4の貯留溝41に溜める。リン酸水溶液が満たされると、制御部40はリン酸バルブ17を閉じる。ヒータ28のオン状態では底面29が発熱状態にあり、この底面29によってリン酸水溶液が加熱される。底面29からの加熱により、リン酸水溶液は沸点(たとえば約140℃)まで昇温させられ、その後沸騰状態に維持される。加熱状態の維持により、リン酸水溶液に含まれる水が蒸発して、リン酸水溶液のリン酸濃度が徐々に濃くなる。
【0038】
次いで、
図4Bに示すように、制御部40は、第1水バルブ54を開いて、バーノズル50の各吐出口52から水の液滴を滴下する。各吐出口52から滴下される液滴は、貯留槽4内のリン酸水溶液に供給される。多数の吐出口52のそれぞれから水の液滴が吐出されるので、貯留槽4に貯留されているリン酸水溶液に、ほぼ均一に水が供給される。沸騰状態にあるリン酸水溶液に水を供給することにより、貯留槽4内のリン酸水溶液のリン酸濃度の上昇が抑制される。リン酸水溶液への水の供給は、ウエハWの搬入に先立って行われる。
【0039】
制御部40は第1水バルブ54を開閉して、バーノズル50からの供給/供給停止を切り換えることにより、リン酸水溶液に供給する水の量を調節する。リン酸水溶液のリン酸濃度の調整のための水供給であるので、バーノズル50から供給されるリン酸水溶液の流量は小流量で足りる。このような水の供給により、貯留槽4内のリン酸水溶液のリン酸濃度および温度が、それぞれ予め定めるリン酸濃度(一例として81%)および温度(一例として約140℃)に一定に制御される。
【0040】
貯留槽4内のリン酸水溶液の温度およびリン酸濃度がそれぞれ所期の温度および濃度に制御された状態で、搬送ロボット(図示しない)が制御されて、処理室2内に未処理のウエハWが搬入される。未処理のウエハWの表面にはシリコン窒化膜およびシリコン酸化膜が形成されている。搬入されたウエハWは、貯留槽4の底面29に対向する所定の受渡位置に配置され、制御部40は挟持ピン駆動機構43を駆動して、複数の挟持ピン34を開放位置から挟持位置に導く。これにより、
図4Cに示すように、搬入されたウエハWは、その表面を上方に向けた状態でスピンチャック3に保持される。なお、ウエハWが受渡位置にある状態で、ウエハWの下面と底面29との間隔がたとえば50mm程度とされている。
【0041】
スピンチャック3にウエハWが保持されると、
図4Dに示すように、制御部40は昇降機構27を制御して、貯留槽4を上位置まで上昇させる。貯留槽4が上位置にある状態では、貯留槽4のリン酸水溶液中にウエハWが浸漬される。このとき、貯留槽4のリン酸水溶液の液面がウエハWの表面よりも上方に位置し、その結果、リン酸水溶液によってウエハWの表面の全域が覆われる。リン酸水溶液へのウエハWの浸漬によって、ウエハWの表面にリン酸エッチング処理が施される(ステップS1)。リン酸エッチング処理は、予め定めるエッチング時間が経過するまで実行される。
【0042】
貯留槽4が上位置にある状態で、ウエハWの下面と貯留槽4の底面29との間隔W1は、たとえば3mm程度に設定されている。この状態で、ウエハWの約3mm上方に、リン酸水溶液の液面が位置している。なお、ウエハWの厚みは、たとえば0.775mmである。なお、間隔W1は0.3〜3mmの範囲内で適宜設定できる。
ウエハWの下面と貯留槽4の底面29とが接近しているので、スピンチャック3に保持されているウエハWは、貯留槽4の底面29から熱輻射により加熱される。貯留槽4が上位置にある状態で、底面29とウエハWの下面とが平行をなしているので、ウエハWに貯留槽4から与えられる単位面積当たりの熱量は、ウエハWの全域においてほぼ均一である。
【0043】
また、
図4Eに示すように、リン酸エッチング工程中には、適宜、貯留槽4のリン酸水溶液に水が供給される。制御部40は、第1水バルブ54を開いて、バーノズル50の各吐出口52から水の液滴を滴下する。多数の吐出口52のそれぞれから水の液滴が吐出されるので、貯留槽4に貯留されているリン酸水溶液に、ほぼ均一に水が供給される。
これにより、貯留槽4内のリン酸水溶液のリン酸濃度および温度が、それぞれ予め定めるリン酸濃度(一例として81%)および温度(一例として約140℃)に一定に制御される。
【0044】
さらに、リン酸エッチング工程では、制御部40はスピンモータ14を制御して、ウエハWを予め定める低速度(たとえば10〜300rpmの範囲)で回転させる。ウエハWの回転により、貯留溝41に溜められたリン酸水溶液が撹拌される。これにより、リン酸水溶液のリン酸濃度および温度が均一に分布するようになる。
図5は、貯留槽4の底面29によるウエハWの加熱状態を示す図である。
【0045】
前述のように、貯留槽4の底面29とウエハWの下面のほぼ全面に対向している。また、貯留槽4の底面29と、ウエハWの下面との間隔W1は、たとえば0.3〜3mmの範囲でたとえば3mm程度に設定されている。したがって、ウエハWは、貯留槽4の底面29からの熱が熱伝導によって与えられるとともに、熱輻射によって熱が与えられる。これにより、ウエハWが160℃程度まで昇温していると考えられる。
【0046】
図6は、リン酸水溶液におけるリン酸濃度(H
3PO
4 concentration)と、リン酸水溶液の沸点(沸騰点;Boiling Point)との関係を示すグラフである。
図6中の曲線は飽和濃度曲線を示し、当該曲線よりも下方の領域は、リン酸水溶液が存在可能な領域(H
3PO
4 existence region)である。
図6に示すように、リン酸水溶液におけるリン酸濃度が高くなるにつれて、リン酸水溶液の沸点が高くなっている。たとえば81%の濃度を有するリン酸水溶液では、その沸点が約140℃である。通常、81%の濃度のリン酸水溶液は、液相において、140℃以上に昇温しない。
【0047】
一方、160℃の温度を有するリン酸水溶液の最大濃度は約86%である。したがって、160℃の温度を有するリン酸水溶液において、その濃度が約86%未満になることは通常の状態では発生しない。
図7は、リン酸水溶液におけるリン酸濃度およびリン酸水溶液の温度とシリコン窒化膜のエッチングレートとの関係を示すグラフである。
図7では、150℃、160℃および170℃の温度を有するリン酸水溶液を用いてシリコン窒化膜をエッチングしたときのエッチングレートを実線で示している。また、
図7では、リン酸水溶液の沸点を破線で示している。
【0048】
図7に示すように、リン酸濃度が一定であれば、リン酸水溶液の温度が170℃のときのエッチングレートが最も高く、リン酸水溶液の温度が160℃のときのエッチングレートが二番目に高い。したがって、リン酸濃度が一定であれば、リン酸水溶液の温度が高いほどエッチングレートが高い。
一方、リン酸水溶液の温度が150℃のとき、エッチングレートは、リン酸濃度の増加に伴って減少する。リン酸水溶液の温度が160℃および170℃のときについても同様である。したがって、リン酸水溶液の温度が一定であれば、リン酸濃度が低いほどエッチングレートが高い。また、図示はしていないが、リン酸水溶液の温度が140℃のときについても同様である。
【0049】
図5〜
図7を併せて参照して、リン酸エッチング工程における貯留槽4内のリン酸水溶液の状態について説明する。貯留槽4には、81%に濃度調節されたリン酸水溶液が貯留されている。このリン酸水溶液の沸点は約140℃である。貯留槽4に貯留されたリン酸水溶液は、貯留槽4の底面29によって加熱され、沸点である約140℃の状態を維持している。
【0050】
貯留槽4の底面29による加熱により、ウエハWは約160℃に昇温される。この状態で、ウエハW表面との境界部分のリン酸水溶液に、ウエハWの表面に近づくほど高くなる温度勾配が形成される。その結果、ウエハW表面とリン酸水溶液とが接する境界では、たとえば約160℃の高温状態が実現される。
換言すると、ウエハW表面とリン酸水溶液とが接する境界では、局所的には極めて高温で、かつリン酸濃度が低く維持された状態を実現することができる。具体的には、当該境界において、温度が約160℃で濃度が約81%という、通常では存在しない高温低濃度の状態を実現することができる(この状態におけるシリコン窒化膜のエッチングレートおよびシリコン窒化膜の選択比の一例を「実施例」として
図7中に示す)。この状態のリン酸水溶液が、ウエハWの表面のシリコン窒化膜に作用するから、シリコン窒化膜のエッチングレートを非常に高めることができ、同時にシリコン窒化膜の選択比を高く維持することができる。
【0051】
ところで、ウエハWのリン酸水溶液に対する浸漬開始から、予め定めるエッチング時間が経過すると、
図4Fに示すように、制御部40は、制御部40は昇降機構27を制御して、貯留槽4を下位置まで下降させる。これにより、貯留槽4の底面29からの熱輻射によるウエハWの加熱は終了する。
次いで、制御部40は、スピンモータ14を制御して、ウエハWの回転速度を所定のリンス処理速度(300〜1500rpmの範囲で、たとえば1000rpm)に上げるとともに、第2水バルブ32を開いて、水ノズル30の吐出口からウエハWの回転中心付近に向けてDIWを供給する(ステップS2:リンス工程)。ウエハWの表面に供給されたDIWは、ウエハWの回転による遠心力を受けて、ウエハWの表面上をウエハWの周縁に向けて流れる。これにより、ウエハWの表面に付着しているリン酸水溶液がDIWによって洗い流される。
【0052】
また、このリンス工程と並行して、貯留槽4の内壁面(底面29、環状溝37の壁面および外周壁38の内周面)を水で洗浄する貯留槽洗浄が実行される。この貯留槽洗浄では、制御部40は、水下バルブ64を開いて、下吐出口62から水を吐出する。下吐出口62から吐出される水は、貯留槽4の貯留溝41に溜められる。下吐出口62からの水の吐出は、貯留溝41が溢れた後も続行される。これにより、貯留槽4の内壁面に付着していたリン酸水溶液が水で洗い流される。
【0053】
DIWの供給が所定のリンス時間にわたって続けられると、第2水バルブ32が閉じられて、ウエハWの表面へのDIWの供給が停止される。また、DIWの供給停止に併せて、水下バルブ64が閉じられて、貯留槽41への水の供給が停止される。
その後、制御部40は、スピンモータ14を駆動して、ウエハWの回転速度を所定の高回転速度(たとえば1500〜2500rpm)に上げて、ウエハWに付着しているDIWを振り切って乾燥されるスピンドライが行われる(ステップS3)。ステップS3のスピンドライによって、ウエハWに付着しているDIWが除去される。
【0054】
スピンドライが予め定めるスピンドライ時間にわたって行われると、制御部40は、スピンモータ14を駆動して、スピンチャック3の回転を停止させる。これにより、1枚のウエハWに対するレジスト除去処理が終了する。その後、制御部40は挟持ピン駆動機構43を駆動して、複数の挟持ピン34を挟持位置から開放位置に導き、処理済みのウエハWが搬送ロボットに受け渡される。搬送ロボットによってウエハWが処理室2から搬出される。
【0055】
以上によりこの実施形態によれば、貯留槽4の底面29によるウエハWへの加熱により、ウエハWが約160℃に昇温される。この状態で、ウエハW表面との境界部分のリン酸水溶液に、ウエハWの表面に近づくほど高くなる温度勾配が形成される。その結果、ウエハWの表面との境界部分におけるリン酸水溶液において、極めて高温で、かつリン酸濃度が低く維持された状態(温度が約160℃で濃度が約81%という、高温で、かつリン酸濃度が低く維持された状態)を実現することができる。この状態のリン酸水溶液が、ウエハWの表面のシリコン窒化膜に作用するから、シリコン窒化膜のエッチングレートを非常に高めることができ、同時にシリコン窒化膜の選択比を高く維持することができる。
【0056】
図8は、本発明の第2実施形態に係る基板処理装置101の構成を模式的に示す図である。
図8において、第1実施形態に示された各部に対応する部分には、
図1〜
図7の場合と同一の参照符号を付して示し、説明を省略する。
基板処理装置101が、第1実施形態に係る基板処理装置1と相違する点は、水を供給するための水供給手段として、バーノズル50に代えて、水の液滴をスプレー状に吐出(噴霧)するスプレーノズル102を採用した点である。スプレーノズル102には、水供給源からの水が供給される第3水供給管103が接続されている。第3水供給管103には、第3水供給管103を開閉するための第3水バルブ104が介装されている。第3水バルブ104が開かれると、第3水供給管103からスプレーノズル102に水が供給され、スプレーノズル102から下方に向けて水の液滴がスプレー状に吐出(噴霧)される。スプレーノズル102から吐出される水の液滴は、前述の第1実施形態のバーノズルから吐出される水の液滴よりも細かい(小さい)。
【0057】
第2実施形態によれば、スプレーノズル102からスプレー状に水の液滴が吐出されるので、貯留槽4に貯留されているリン酸水溶液に、ほぼ均一に水を供給することができ、その結果、リン酸水溶液のリン酸濃度を均一に保つことができる。
また、スプレーノズル102からリン酸水溶液に対し、より細かい水の液滴が供給される。水とリン酸水溶液とは、それらの比重や粘度等の相違のために、比較的混ざりにくい傾向にある。しかしながら、液滴の大きさが細かければ細かいほど混ざり易いので、細かい液滴の状態の水をリン酸水溶液に供給することにより、水とリン酸水溶液とをスムーズに混合させることができる。
【0058】
なお、
図8では、スプレーノズル102を1つだけ設ける場合を示しているが、左右方向に関しそれぞれ異なる位置にある複数のスプレーノズルから、水をスプレー状に吐出することもできる。
図9は、本発明の第3実施形態に係る基板処理装置201の構成を模式的に示す図である。
図9において、第1実施形態に示された各部に対応する部分には、
図1〜
図7の場合と同一の参照符号を付して示し、説明を省略する。
【0059】
基板処理装置201が、第1実施形態に係る基板処理装置1と相違する点は、貯留槽として、非加熱型の貯留槽204を採用した点である。また、スピンチャック3の上方に、ウエハWの表面を加熱するためのヒータヘッド203を設けた点も、基板処理装置1と相違している。
貯留槽204は、たとえば、セラミックやSiC、耐熱樹脂を用いて形成されている。貯留槽204の構成は、ヒータ28(
図1参照)が埋設されておらず加熱手段として機能しない点を除いて、
図1に示す貯留槽4と共通の構成である。つまり、貯留槽204は水平姿勢で配置され、その水平姿勢を維持したまま昇降される。昇降機構(
図1参照)27の駆動により、貯留槽204は、その下面がスピンベース12の上面に近接する下位置と、貯留槽204の底面29が、ウエハWの下面に微小間隔W1を隔てて対向配置される上位置との間で昇降させられる。これにより、貯留槽204とウエハWとの間隔を変更することが可能である。
【0060】
貯留槽204の底面29と外周壁38の内周面とによって、底面29の上方に液を溜めるための貯留溝41が区画されている。貯留槽204が上位置にある状態で、かつ貯留溝41に液が満たされた状態では、貯留溝41に溜められている液によって、表面上向きのウエハWが浸漬される。つまり、貯留溝41に溜められている液によってウエハWの表面の全域が覆われる。また、ウエハWの回転中であっても、貯留溝41は回転せずに静止(非回転状態)している。
【0061】
ヒータヘッド203は、ウエハWと同等の径を有する円板状をなし、たとえばセラミック等を用いて形成されている。ヒータヘッド203は、ホルダ205によって上方から、水平姿勢で保持されている。ヒータヘッド203の内部には、抵抗式のヒータ208が埋設されている。ヒータヘッド203は、水平平坦面からなる下面(発熱部)209を有している。ヒータヘッド203の下面209は、スピンチャック3に保持されているウエハWの表面の全域に対向配置されている。ヒータ208のオン状態では、ヒータ208への給電により当該ヒータ208が発熱し、下面209全域が発熱する。下面209の全域において、ヒータ28のオン状態における下面209の単位面積当たりの発熱量は均一に設定されている。
【0062】
ホルダ205には、ヒータヘッド203を昇降させるためのヒータ昇降機構206が結合されている。ヒータ昇降機構206は制御部40(
図2参照)に電気的に接続されている。
このような基板処理装置201で実行されるリン酸エッチング処理では、第1実施形態と同様に(
図4A参照)、貯留槽204の貯留溝41にリン酸水溶液が溜められる。その後、処理室2内に未処理のウエハWが搬入され、スピンチャック3(の挟持部材13)にウエハWが、その表面を上方に向けた状態に保持される。
【0063】
スピンチャック3にウエハWが保持されると、制御部40は昇降機構27(
図1参照)を制御して、貯留槽204を上位置まで上昇させる。貯留槽204が上位置にある状態では、貯留槽204のリン酸水溶液中にウエハWが浸漬される。このとき、貯留槽204のリン酸水溶液の液面がウエハWの表面よりも上方に位置し、その結果、リン酸水溶液によってウエハWの表面の全域が覆われる。リン酸水溶液へのウエハWの浸漬によって、ウエハWの表面にリン酸エッチング処理が施される(
図3のステップS1に相当)。
【0064】
また、制御部40はヒータ昇降機構206を制御して、ヒータヘッド203を、ヒータヘッド203の下面209がウエハWの表面(上面)に近接する近接位置まで下降させる。ヒータヘッド203が近接位置にある状態で、ウエハWの表面(上面)とヒータヘッド203の下面209との間隔は、たとえば約2mm程度に設定されている。ヒータヘッド203がリン酸水溶液に対する耐薬性を有する材質を用いて形成されている場合には、ヒータヘッド203の下部を、貯留槽204のリン酸水溶液に漬けることができ、この状態でウエハWを加熱することができる。
【0065】
ウエハWの表面(上面)とヒータヘッド203の下面209との間隔が2mm程度であるので、スピンチャック3に保持されているウエハWは、ヒータヘッド203の下面209から熱輻射により加熱される。ヒータヘッド203の下面209とウエハWの表面とが平行をなしているので、ヒータヘッド203からウエハWに与えられる単位面積当たりの熱量は、ウエハWの全域においてほぼ均一である。ヒータヘッド203による加熱により、ウエハWの温度は、リン酸水溶液の液温よりもやや高温(約160℃であると予想される)まで昇温されて、その温度のまま維持される。この状態で、ウエハW表面との境界部分のリン酸水溶液に、ウエハWの表面に近づくほど高くなる温度勾配が形成される。その後、予め定めるエッチング時間が経過すると、ヒータ昇降機構206が制御されてヒータヘッド203が近接位置から上方に大きく退避させられ、これにより、ヒータヘッド203によるウエハWの加熱は停止される。
【0066】
その後、第1実施形態の場合と同様、リンス処理(
図3のステップS2に相当)およびスピンドライ(
図3のステップS3に相当)が実行される。
第3実施形態によれば、貯留槽204のリン酸水溶液に浸漬されているウエハWを、その上方に近接配置されたヒータヘッド203を用いて加熱する。そのため、貯留槽204にヒータを内蔵する等の複雑な構成を採用することなく、ウエハWを良好に加熱することができる。
【0067】
図10は、本発明の第4実施形態に係る基板処理装置301の構成を模式的に示す図である。
図10において、第1実施形態に示された各部に対応する部分には、
図1〜
図7の場合と同一の参照符号を付して示し、説明を省略する。
基板処理装置301が、第1実施形態に係る基板処理装置1と相違する点は、基板処理装置301が、第3実施形態に係る基板処理装置201と相違する点は、ウエハWの表面を加熱するためのヒータとして、ヒータヘッド203に代えて赤外線ヒータ(加熱手段)303を設けた点にある。
【0068】
赤外線ヒータ303は、ウエハWよりも小径(たとえば、ウエハWの径の1/5〜1/10程度)を有する平面視円形状をなし、スピンチャック3に保持されたウエハWの表面に対し、上方に対向配置されている。赤外線ヒータ303は、赤外線照射面(発熱部)304Aを下面に有する赤外線ランプ304を内蔵している。赤外線照射面304Aは、ウエハWの表面に略全域に対向している赤外線照射面304Aは、ウエハWの表面に対向している。赤外線ランプ38は、フィラメントを石英配管内に収容して構成されている。赤外線ランプ38として、ハロゲンランプやカーボンヒータに代表される短・中・長波長の赤外線ヒータを採用することができる。
【0069】
ホルダ205には、赤外線ヒータ303を、ウエハWの面外に設けられた所定の鉛直の揺動軸線まわりに揺動させるためのヒータ揺動機構306が結合されている。ヒータ揺動機構306が制御されることにより、赤外線ヒータ303が、ウエハWの表面の回転中心(回転軸線A1上)と周縁部との間を、ウエハWの回転方向と交差する円弧状の軌跡を描くように移動可能に設けられている。
【0070】
リン酸エッチング処理(
図3のステップS1に相当)では、ヒータ昇降機構206が制御されて、赤外線ヒータ303が、その赤外線照射面304AがウエハWの表面(上面)に近接する近接位置まで下降させられる。赤外線ヒータ303が近接位置にある状態で、ウエハWの表面(上面)と赤外線ヒータ303の赤外線照射面304Aとの間隔は、たとえば10mm程度に設定されている。この実施形態では、近接位置にある赤外線ヒータ303の赤外線照射面304Aが、貯留槽204のリン酸水溶液に接液することはない。
【0071】
ウエハWの表面と赤外線照射面304Aとが近接されるので、スピンチャック3に保持されているウエハWは、赤外線ヒータ303の赤外線照射面304Aから熱輻射により加熱される。赤外線ヒータ303による加熱により、ウエハWの温度は、リン酸水溶液の液温よりもやや高温(約160℃であると予想される)まで昇温されて、この温度のまま維持される。この状態で、ウエハW表面との境界部分のリン酸水溶液に、ウエハWの表面に近づくほど高くなる温度勾配が形成される。その後、予めエッチング時間が経過すると、ヒータ昇降機構206が制御されて赤外線ヒータ303が近接位置から上方に大きく退避させられ、これにより、赤外線ヒータ303によるウエハWの加熱は停止される。
【0072】
なお、赤外線ヒータ303による赤外線照射時には、赤外線ヒータ303を、ウエハWの回転中心の上方とウエハWの周縁部の上方との間でスキャンさせるか、あるいは、赤外線ヒータ303を、ウエハWの回転中心を除く位置の上方に静止配置させる。ウエハWが回転軸線A1まわりに回転するので、赤外線ヒータ303からの赤外線の照射によりウエハWの略全域を加熱することができる。
【0073】
第4実施形態によれば、貯留槽204のリン酸水溶液に浸漬されているウエハWを、その上方に近接配置された赤外線ヒータ303を用いて加熱する。そのため、貯留槽204にヒータを内蔵する等の複雑な構成を採用することなく、ウエハWを良好に加熱することができる。
また、大きな熱量を与えることが可能な赤外線ヒータ303を加熱手段として設けるので、加熱手段として簡便な構成を採用しつつ、ウエハWを加熱することができる。
【0074】
なお、第4実施形態において、赤外線ヒータ303の径を、ウエハWと同等の径に形成することもできる。この場合、赤外線ヒータ303の下面が、ウエハWの表面の全域に対向するように、赤外線ヒータ303が設けられている。
図11は、本発明の第5実施形態に係る基板処理装置401の構成を模式的に示す図である。
図11において、第1実施形態に示された各部に対応する部分には、
図1〜
図7の場合と同一の参照符号を付して示し、説明を省略する。
【0075】
基板処理装置401は、ウエハWを保持するための基板保持手段として、基板保持台402を備えている。基板保持台402は、第1実施形態のスピンチャック3に代えて用いられる。
基板保持台402は、リン酸水溶液を溜めるための貯留槽404(加熱手段)を備えている。貯留槽404は、たとえば略円筒の有底容器状をなし、セラミックや炭化ケイ素(SiC)を用いて形成されている。貯留槽404は、水平平坦な円形の底面409を有する底面部409Aと、底面409の周縁部から鉛直上方に立ち上がる外周壁408とを備えている。貯留槽404の底面409と外周壁408の内周面とによって、底面29の上方に液を溜めるための貯留溝405が区画されており、底面409の上方に液を溜めることができるようになっており、外周壁408の高さは、貯留溝405に溜められる液の厚みが所定の厚み(2mm〜11mmの範囲内で、たとえば約7mm)になるように設定されている。貯留槽404の底面部409Aには、抵抗式のヒータ406が埋設されている。
【0076】
ヒータ406のオン状態では、ヒータ406への給電により当該ヒータ406が発熱し、貯留槽404全体が発熱状態になる。これにより、底面409全域が発熱する。底面409の全域において、ヒータ406のオン状態における底面409の単位面積当たりの発熱量は均一に設定されている。
このような基板処理装置401では、貯留槽404に関連して、貯留槽404に対してウエハWを昇降させる複数本(たとえば、3本)のリフトピン403が設けられている。複数本のリフトピン403は、貯留槽404の底面部409Aを上下に貫通して形成された貫通孔412に挿通されて、その貯留槽404の底面409に対して昇降可能に設けられている。また、各リフトピン403は共通の支持部材410に支持されている。支持部材410には、シリンダを含むリフトピン昇降機構411が結合されている。リフトピン昇降機構411は、複数本のリフトピン403の先端が基板保持台402の上方に突出する位置と、複数本のリフトピン403の先端が基板保持台402の下方に退避する位置との間で、複数本のリフトピン403を一体的に昇降させる。
【0077】
このような基板処理装置401で実行されるリン酸エッチング処理では、まず、リフトピン昇降機構411が制御されて、複数本のリフトピン403の先端が基板保持台402の上方に突出する。そして、未処理のウエハWが搬入され、このウエハWが複数本のリフトピン403の先端上に載置される。このとき、リフトピン昇降機構411が制御されて、複数本のリフトピン403が降下し、ウエハWが複数本のリフトピン403から基板保持台402に引き渡される。これにより、貯留槽404の底面409上に、ウエハWが、その表面を上方に向けた状態で載置される。この状態で、ウエハWの下面は、貯留槽404の底面409に接している。また、この状態で、各貫通孔412がウエハWによって塞がれる。
【0078】
次いで、貯留槽404の貯留溝405にリン酸水溶液が溜められる。貫通孔412がウエハWによって塞がれているので、貯留溝405からリン酸水溶液は漏出しない。そして、貯留槽404のリン酸水溶液中にウエハWが浸漬される。このとき、貯留槽404のリン酸水溶液の液面がウエハWの表面よりも上方に位置し、その結果、リン酸水溶液によってウエハWの表面の全域が覆われる。リン酸水溶液へのウエハWの浸漬によって、ウエハWの表面にリン酸エッチング処理が施される(
図3のステップS1に相当)。
【0079】
したがって、基板保持台402に保持されているウエハWは、貯留槽404からの熱伝導により加熱される。貯留槽404による加熱により、ウエハWの温度は約200℃まで昇温され、維持される。この状態で、ウエハW表面との境界部分のリン酸水溶液に、ウエハWの表面に近づくほど高くなる温度勾配が形成される。
第5実施形態によれば、貯留槽404の底面409の熱伝導によるウエハWへの加熱により、ウエハWが約200℃に昇温される。この状態で、ウエハW表面との境界部分のリン酸水溶液に、ウエハWの表面に近づくほど高くなる温度勾配が形成される。その結果、ウエハWの表面との境界部分におけるリン酸水溶液において、極めて高温で、かつリン酸濃度が低く維持された状態を実現することができる。この状態のリン酸水溶液が、ウエハWの表面のシリコン窒化膜に作用するから、シリコン窒化膜のエッチングレートを非常に高めることができ、同時にシリコン窒化膜の選択比を高く維持することができる。
【0080】
なお、第5実施形態において、
図11に破線で示すように各リフトピン403に代えて、貫通孔412をシールするためのシール部420を有するリフトピン403Aを採用してもよい。シール部420は、リフトピン403Aの先端部(上端部)に設けられ、上方に向かう程拡径する円錐台状をなしている。この場合、貫通孔412の開口端部には、上方に向かう程拡径する円錐面からなるテーパ面421を有している。
【0081】
リフトピン403AがウエハWの下方に退避する退避位置にある状態で、リフトピン403Aのシール部420は貫通孔412の開口端部に収容される。この状態で、シール部420の外周面がテーパ面421と接触し、シール部420が貫通孔412をシールする(塞ぐ)。リフトピン403Aのシール部420によって貫通孔412がシールされているので、貯留溝405からリン酸水溶液の漏出をより確実に防止することができる。
【0082】
以上、本発明の5つの実施形態について説明したが、本発明は他の形態で実施することもできる。
たとえば、第2実施形態と第5実施形態とを組み合わせることができる。すなわち、第2実施形態において、バーノズル50(
図1参照)に代えて、水の液滴をスプレー状に吐出(噴霧)するスプレーノズル102を採用してもよい。
【0083】
なお、第2実施形態において、
図8では、スプレーノズル102を1つだけ設ける場合を示しているが、左右方向に関し異なる位置にある複数のスプレーノズルから、水をスプレー状に吐出することもできる。
また、第1、第2および第5実施形態において、バーノズル50またはスプレーノズル102を用いて、貯留槽4,404のリン酸水溶液に水を供給するものを例に挙げて説明したが、リンス用の水ノズル30を用いて貯留槽4,404内のリン酸水溶液に水(DIW)を供給するようにしてもよい。
【0084】
また、第1、第2および第5実施形態において、貯留槽4,404内のリン酸水溶液に供給する水としてDIWを例に挙げて説明したが、リン酸水溶液に供給する水として、炭酸水、電解イオン水、オゾン水、還元水(水素水)、磁気水などを採用してもよい。
また、第1、第2および第5実施形態において、貯留槽4,404にヒータの機能を持たせる場合について説明したが、貯留槽4,404とヒータとを分離した構成であってもよい。この場合、たとえば、貯留槽4,404の下方からヒータにより加熱する構成であってもよい。
【0085】
また、第3および第4実施形態において、ヒータヘッド203および赤外線ヒータ303をウエハWの径よりも十分に小径に形成し、オン状態のヒータヘッド203および赤外線ヒータ303をウエハWの表面に対向配置しつつ、当該ヒータヘッド203および赤外線ヒータ303をウエハWの表面に沿って移動させるようにしてもよい。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。