特許第6061406号(P6061406)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6061406PM酸化触媒、それを用いた排ガス浄化フィルタ及び排ガス浄化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061406
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】PM酸化触媒、それを用いた排ガス浄化フィルタ及び排ガス浄化方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/18 20060101AFI20170106BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20170106BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20170106BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20170106BHJP
   F01N 3/035 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   B01J27/18 AZAB
   B01D53/94 241
   F01N3/10 A
   F01N3/28 301P
   F01N3/035 A
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-28462(P2015-28462)
(22)【出願日】2015年2月17日
(65)【公開番号】特開2015-199061(P2015-199061A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2016年2月24日
(31)【優先権主張番号】特願2014-77105(P2014-77105)
(32)【優先日】2014年4月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊川 将嗣
(72)【発明者】
【氏名】山崎 清
(72)【発明者】
【氏名】新名 祐介
(72)【発明者】
【氏名】祖父江 優一
(72)【発明者】
【氏名】大河原 誠治
(72)【発明者】
【氏名】仙田 幸二
【審査官】 佐藤 哲
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−257367(JP,A)
【文献】 特開平10−337443(JP,A)
【文献】 特開平10−202064(JP,A)
【文献】 特開平08−309194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
B01D 53/94
F01N 3/035
F01N 3/10
F01N 3/28
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナを主成分とする担体と、該担体に担持されている銀含有物質及びリン酸含有物質と、を備えることを特徴とするPM酸化触媒
【請求項2】
前記銀含有物質と前記リン酸含有物質とを兼ねるものとしてリン酸銀が前記担体に担持されていることを特徴とする請求項1に記載のPM酸化触媒
【請求項3】
前記PM酸化触媒中の銀(Ag)に対するリン(P)の原子比率(P/Ag)が0.2〜6であることを特徴とする請求項1又は2に記載のPM酸化触媒
【請求項4】
前記銀含有物質の担持量が、前記担体と前記銀含有物質及び前記リン酸含有物質との総量に対して金属銀換算で3〜50質量%であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のPM酸化触媒
【請求項5】
前記PM酸化触媒中のアルミニウム(Al)に対するリン(P)の原子比率(P/Al)が0.15〜0.5であり、かつ、前記リン酸含有物質がリン酸アルミニウムの結晶相を含有していることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のPM酸化触媒
【請求項6】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のPM酸化触媒を通気性基材に担持せしめてなることを特徴とする排ガス浄化フィルタ。
【請求項7】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のPM酸化触媒に内燃機関からの排ガスを接触せしめて粒子状物質(PM)を酸化除去することを特徴とする排ガス浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒、それを用いた排ガス浄化フィルタ及び排ガス浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関から排出されるガスには、燃焼により生じた粒子状物質(PM:Particulate Matter)やオイル中の添加剤等からなるアッシュ(Ash)等の有害物質が含まれている。このような有害物質の中でも粒子状物質は動植物に悪影響を及ぼす大気汚染物質として知られている。そのため、内燃機関より排出される排ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するために、浄化フィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter)が用いられている。DPFで捕集されたPMは圧損上昇の原因となるため、定期的に高温に上げPMを燃焼することにより、DPFの再生を行う。このとき、燃費改善や材料の耐久性向上のため、より低温で再生することが望ましく、DPFにはPM酸化触媒が担持される。
【0003】
このようなPM酸化触媒としては、特開2009−45584号公報(特許文献1)には、内燃機関から排出される排ガス中の粒子状物質を浄化するための排ガス浄化触媒であって、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、第12族元素、及び第13族元素よりなる群から選ばれる少なくとも2以上の元素を含む酸素放出能を有する複合酸化物(LaMnO、CeZrO、CoTa等)と、この複合酸化物に共担持されたAg及び貴金属(Ru、Pd、及びPt等)とを有する排ガス浄化触媒及びこれを用いた排ガス浄化装置が開示されている。しかしながら、特許文献1に開示されている排ガス浄化触媒は、Ag触媒は燃料中やオイル中に含まれる硫黄成分によって被毒され、活性が著しく低下してしまうという問題がある。特に、セリア等の塩基性の高い担体を用いた触媒では初期では非常に高い活性を示すが硫黄成分による活性の低下が顕著である等、硫黄を含むガスに曝された場合のPM酸化活性が十分なものではなかった。
【0004】
また、特開2011−218295号公報(特許文献2)には、内燃機関の排ガス通路に配設され、上記内燃機関から排出される排ガス中のパティキュレートを捕集して排ガスの浄化を行う排ガス浄化フィルタにおいて、外周壁と、該外周壁内に多角形格子状に配設された多孔質のセル壁と、該セル壁内に区画されてなる複数のセルとを有し、該セルのうち、排ガスを流入させる流入側通路となる入りガス側セルの下流端と、上記セル壁を通過した排ガスを排出させる排出側通路となる出ガス側セルの上流端とを栓部によって閉塞してなるハニカム構造体を備え、上記セル壁には、Agを含有する層状アルミナにAgを分散してなる触媒材料からなるPM燃焼触媒と、上記排ガス中の少なくともCOを酸化させる酸化触媒とが担持されており、上記入りガス側セルの壁面には、上記酸化触媒を担持することなく上記PM燃焼触媒が担持され、上記出ガス側セルの壁面には少なくとも上記酸化触媒が担持されていることを特徴とする排ガス浄化フィルタが開示されている。しかしながら、特許文献2に開示されている排ガス浄化フィルタにおいても、アルミナ上に担持されたAg触媒は分散性が低く、Ag粒子が粗大となるため、PMとの接触性が低くなる。このため、硫黄被毒によって硫酸銀に変化すると活性が低下してしまう等、硫黄を含むガスに曝された場合のPM酸化活性が十分なものではなかった。
【0005】
更に、特開平06−55075号公報(特許文献3)には、白金、パラジウム、ロジウム、金、銀、ルテニウム、イリジウム、ニッケル、セリウム、コバルト、銅、及びストロンチウムからえらばれた少くとも1つの金属、その塩又は酸化物を、リン酸塩に担持させた排気ガス浄化用触媒が開示されている。しかしながら、特許文献3に開示されている排気ガス浄化用触媒においても、リン酸アルミニウム等のリン酸塩の担体上に担持された銀等の触媒活性を有する金属は分散性が低く、銀粒子等の活性金属粒子が粗大となるため、PMとの接触性が低くなる。このため、硫黄を含むガスに曝された場合のPM酸化活性が十分なものではなかった。
【0006】
また、特開2012−219715号公報(特許文献4)には、Caの硫酸塩及びリン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種の金属塩からなる担体と、該担体に担持された銀、酸化銀、炭酸銀、硫酸銀及びリン酸銀からなる群より選択される少なくとも1種である銀含有物質とを備える酸化触媒を備える排ガス浄化装置が開示されている。同公報の記載によれば、アッシュの堆積による粒子状物質の酸化性能の低下が十分に抑制され、アッシュの堆積後においても優れた粒子状物質の酸化性能を発揮することが可能な排ガス浄化装置を提供することが可能となっている。しかしながら、近年は、排ガス浄化用触媒に対する要求特性が益々高まっており、硫黄を含むガスに曝されてもより十分に高いPM酸化活性を発揮することが可能な排ガス浄化用触媒が求められるようになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−45584号公報
【特許文献2】特開2011−218295号公報
【特許文献3】特開平06−55075号公報
【特許文献4】特開2012−219715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、硫黄を含むガスに曝されても十分に高いPM酸化活性を発揮することが可能な排ガス浄化用触媒、それを用いた排ガス浄化フィルタ及び排ガス浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、アルミナを主成分とする担体に銀含有物質及びリン酸含有物質を担持させることにより、驚くべきことに得られる排ガス浄化用触媒が硫黄を含むガスに曝されても高いPM酸化活性を発揮することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のPM酸化触媒は、アルミナを主成分とする担体と、該担体に担持されている銀含有物質及びリン酸含有物質と、を備えることを特徴とするものである。
【0011】
本発明のPM酸化触媒においては、前記銀含有物質と前記リン酸含有物質とを兼ねるものとしてリン酸銀が前記担体に担持されていることが好ましい。
【0012】
また、本発明のPM酸化触媒においては、前記PM酸化触媒中の銀(Ag)に対するリン(P)の原子比率(P/Ag)が0.2〜4であることが好ましい。
【0013】
更に、本発明のPM酸化触媒においては、前記銀含有物質の担持量が、前記担体と前記銀含有物質及び前記リン酸含有物質との総量に対して金属銀換算で3〜50質量%であることが好ましい。
【0014】
また、本発明のPM酸化触媒においては、前記PM酸化触媒中のアルミニウム(Al)に対するリン(P)の原子比率(P/Al)が0.15〜0.5であり、かつ、前記リン酸含有物質がリン酸アルミニウムの結晶相を含有していることが好ましい。
【0015】
本発明の排ガス浄化フィルタは、上記本発明のPM酸化触媒を通気性基材に担持せしめてなることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の排ガス浄化方法は、上記本発明のPM酸化触媒に内燃機関からの排ガスを接触せしめて粒子状物質(PM)を酸化除去することを特徴とする方法である。
【0017】
なお、本発明の排ガス浄化用触媒、それを用いた排ガス浄化フィルタ及び排ガス浄化方法によって、硫黄を含むガスに曝されても十分に高いPM酸化活性を発揮することが可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。
【0018】
すなわち、本発明において、アルミナを主成分とする担体に担持して用いるリン酸含有物質は、硫黄の吸着を抑制し硫黄被毒を緩和するため硫黄被毒を受けにくい。また、活性種として用いる銀含有物質とリン酸含有物質とが共存すると、高いPM酸化活性を奏することができ、十分に高いPM酸化活性が発揮される。このように、担体としてアルミナを主成分とする担体に、活性種として銀含有物質及びリン酸含有物質を備えた触媒とすることにより、硫黄を含むガスに曝されても高いPM酸化活性を保持することが可能となる。これにより、硫黄を含むガスに曝されても十分に高いPM酸化活性を達成できるものと本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、硫黄を含むガスに曝されても十分に高いPM酸化活性を発揮することが可能な排ガス浄化用触媒、それを用いた排ガス浄化フィルタ及び排ガス浄化方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1〜3及び比較例1〜2で得られた硫黄被毒再生処理後における排ガス浄化用触媒の50%PM酸化温度を示すグラフである。
図2】実施例4〜6、比較例1及び3で得られた硫黄被毒再生処理後における排ガス浄化用触媒の50%PM酸化温度を示すグラフである。
図3】実施例1、5、6及び比較例1で得られた排ガス浄化用触媒のXRDスペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0022】
先ず、本発明の排ガス浄化用触媒について説明する。本発明の排ガス浄化用触媒は、アルミナを主成分とする担体と、該担体に担持されている銀含有物質及びリン酸含有物質と、を備えるものである。このようなアルミナを主成分とする担体に活性種として銀含有物質及びリン酸含有物質を担持されているものとすることによって、本発明の排ガス浄化用触媒は、硫黄を含むガスに曝されても十分に高いPM酸化活性を発揮することが可能なものとなる。したがって、本発明の排ガス浄化用触媒は、例えば、ディーゼルエンジン等の内燃機関からの排ガス中の粒子状物質(PM)を酸化除去し排ガスを浄化するPM酸化触媒として好適に採用することができる。より好ましくは、本発明の排ガス浄化用触媒は、ディーゼル用PM酸化触媒として採用することができる。
【0023】
(担体)
本発明にかかる担体は、アルミナ(Al)を主成分とする担体であることが必要である。このようなアルミナを主成分とする担体は、アルミナを主成分とすること以外は特に制限されない。ここで、「アルミナを主成分とする」とは、前記担体がアルミナのみから構成されるもの、或いは、主としてアルミナからなり他の成分を含み構成されるものであることを意味する。他の成分としては、この種の用途の排ガス浄化用触媒の担体として用いられる他の化合物を用いることができる。後者の場合、担体におけるアルミナの含有量は、担体の全質量100質量%に対して90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、98質量%以上であることが特に好ましい。このような担体におけるアルミナの含有量が前記下限未満では、添加成分とリン酸銀が反応し、活性が低下する傾向にある。
【0024】
なお、このような担体におけるアルミナは、ベーマイト型、擬ベーマイト型、χ型、κ型、ρ型、η型、γ型、擬γ型、δ型、θ型及びα型からなる群から選択される少なくとも一種のアルミナとすることができるが、耐熱性の観点から、α−アルミナ、γ−アルミナを用いることが好ましく、活性の高いγ−アルミナを用いることが特に好ましい。
【0025】
また、このようなアルミナを主成分とする担体に含有するアルミナ以外の他の成分としては、担体の熱安定性や触媒活性の観点から、例えば、イットリウム(Y)、ランタン(La)、プラセオジウム(Pr)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、スカンジウム(Sc)、バナジウム(V)等の希土類、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属等の金属の酸化物を用いることができる。
【0026】
また、このようなアルミナを主成分とする担体としては、耐熱性の観点からは、担体の全質量100質量%に対して90質量%以上のアルミナと、イットリウム(Y)、ランタン(La)、プラセオジウム(Pr)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、スカンジウム(Sc)及びバナジウム(V)からなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物とからなる担体がより好ましい。
【0027】
更に、このようなアルミナを主成分とする担体の比表面積としては、特に制限されないが、好ましくは5〜300m/gであり、より好ましくは10〜200m/gである。前記比表面積が前記上限を超えると、担体自体の耐熱性が低下するため、触媒の耐熱性が低下する傾向にあり、他方、前記下限未満では、活性種(銀含有物質及びリン酸含有物質)の分散性が低下する傾向にある。このような比表面積は、吸着等温線からBET等温吸着式を用いてBET比表面積として算出することができる。
【0028】
また、このようなアルミナを主成分とする担体の形状としては、特に制限されないが、リング状、球状、円柱状、ペレット状等、従来公知の形状のものを用いることができる。なお、活性種(銀含有物質及びリン酸含有物質)を分散性の高い状態で多く含有することができるという観点から、粒子状のものを用いることが好ましい。担体が粒子状のものである場合には、前記担体の粒子の平均一次粒子径が1〜1000nmの粒子であることが好ましく、5〜500nmの粒子であることがより好ましい。なお、このような担体の平均一次粒子径は、X線回折装置を用いて粉末X線回折ピークの線幅からシェラーの式(Scherrer’s equation)を用いて算出することにより測定することができる。また、このようなアルミナを主成分とする担体の平均粒子径は定法(例えば乳鉢で粉砕する方法や冷間等方圧プレス法(CIP)等)により適宜変更できる。また、排ガス浄化用触媒を製造後に、その触媒の平均粒子径を定法により変更することにより、触媒中における前記アルミナを主成分とする担体の粉末の平均粒子径を変更してもよい。
【0029】
更に、このような担体の製造方法としては、特に制限されないが、前記アルミナを主成分とする担体を製造することが可能な公知の方法を適宜利用することができる。また、このような担体としては市販のアルミナ又はアルミナを主成分とする複合酸化物等を利用してもよく、ボールミル等によりミリングして、そのサイズを適宜調整してもよい。
【0030】
(銀含有物質)
本発明にかかる銀含有物質は、アルミナを主成分とする担体に担持されている活性種であって、銀及び/又は銀化合物を含有する物質であることが必要である。このような銀含有物質は、銀及び/又は銀を含む化合物を含有する物質であること以外は特に制限されない。このような銀含有物質としては、具体的には、銀(金属単体、Ag、メタル銀)、銀の酸化物、ハロゲン化銀、炭酸銀、硫酸銀、リン酸銀、硝酸銀、クロム酸銀、シュウ酸銀、銀フェライト、等が挙げられる。中でも、リン酸との反応性の観点から、銀、銀の酸化物、ハロゲン化銀、硫酸銀及びリン酸銀からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、銀粒子の分散性の観点から銀、硫酸銀、リン酸銀及び硝酸銀からなる群から選択される少なくとも一種であることがより好ましい。
【0031】
なお、前記銀含有物質と前記リン酸含有物質とを兼ねるものとしてリン酸銀が前記担体に担持されていることが好ましい。このようなリン酸銀としては、具体的には、オルトリン酸銀(AgPO)、ピロリン酸銀(Ag)、トリリン酸銀(Ag10)、メタリン酸銀(AgPO)等が挙げられる。
【0032】
このような本発明において用いる銀含有物質の担持量としては、特に制限されないが、前記担体と前記銀含有物質及び前記リン酸含有物質との総量に対して金属銀(Ag)換算で3〜50質量%であることが好ましく、5〜30質量%であることがより好ましく、7〜15質量%であることが特に好ましい。このような銀含有物質の担持量が前記下限未満では粒子状物質の酸化性能を十分に高度なものとすることができなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると酸化性能が飽和してしまうためコストが高くなる傾向にある。
【0033】
また、このような銀含有物質の平均結晶子径(平均一次粒子径)としては、特に制限されないが、0.1〜300nmであることが好ましく、1〜200nmであることがより好ましい。このような銀含有物質の平均結晶子径が前記下限未満では担体と強く結合し、活性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると反応に寄与する粒子数が減り、活性が低下する傾向にある。なお、このような銀含有物質の平均結晶子径(平均一次粒子径)は、例えば、X線回折装置を用いて粉末X線回折ピークの線幅からシェラーの式(Scherrer’s equation)を用いて算出することにより測定することができる。
【0034】
(リン酸含有物質)
本発明にかかるリン酸含有物質は、アルミナを主成分とする担体に担持されている活性種であって、リン酸及び/又はリン酸塩を含有する物質であることが必要である。このようなリン酸含有物質は、リン酸及び/又はリン酸塩を含有する物質であること以外は特に制限されない。このようなリン酸含有物質としては、具体的には、リン酸として、オルトリン酸(HPO)、ピロリン酸(H)、トリリン酸(H10)、メタリン酸(HPO)等が挙げられる。また、リン酸塩として、オルトリン酸塩、ピロリン酸塩、トリリン酸塩、ポリリン酸塩、メタリン酸塩、ウルトラリン酸塩等が、更にこれらのアルカリ金属塩、他の金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。その中でも、活性種の分散性の観点からオルトリン酸塩、ピロリン酸塩、トリリン酸塩及びこれらのアルカリ金属塩からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、オルトリン酸塩、ピロリン酸塩及びこれらのアルカリ金属塩からなる群から選択される少なくとも一種であることがより好ましい。
【0035】
このような本発明において用いるリン酸含有物質の担持量としては、特に制限されないが、前記排ガス浄化用触媒中の銀(Ag)に対するリン(P)の原子比率(P/Ag)が0.2〜6となる担持量であることが好ましく、0.3〜5.5となる担持量であることがより好ましく、0.4〜3となる担持量であることが特に好ましい。このようなリン酸含有物質の担持量が、前記原子比率(P/Ag)として前記下限未満では粒子状物質の酸化性能を十分に高度なものとすることができなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると酸化性能が飽和してしまうためコストが高くなる傾向にある。
【0036】
また、このような本発明において用いるリン酸含有物質の担持量としては、特に制限されないが、前記排ガス浄化用触媒中のアルミニウム(Al)に対するリン(P)の原子比率(P/Al)が0.15〜0.5となる担持量であることが好ましく、0.2〜0.45となる担持量であることがより好ましく、0.3〜0.4となる担持量であることが特に好ましい。このようなリン酸含有物質の担持量が、前記原子比率(P/Al)として前記下限未満では、粒子状物質の酸化性能を十分に高度なものとすることができなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると比表面積が低下し、活性が低下してしまう傾向にある。
【0037】
更に、本発明にかかるアルミナを主成分とする担体に担持されている活性種としてのリン酸含有物質としては、リン酸アルミニウム(AlPO)の結晶相を含有していることが好ましい。このようなリン酸アルミニウム(AlPO)の結晶相を含有することにより、硫黄を含むガスに曝されても担体に吸着する硫黄成分を抑制して触媒の硫黄被毒を緩和することが可能となる。
【0038】
また、本発明の排ガス浄化用触媒においては、前記排ガス浄化用触媒中のアルミニウム(Al)に対するリン(P)の原子比率(P/Al)が0.15〜0.5であり、かつ、前記リン酸含有物質がリン酸アルミニウムの結晶相を含有していることがより好ましい。このようなリン酸含有物質を担持する排ガス浄化用触媒とすることにより、硫黄を含むガスに曝されてもより十分に高いPM酸化活性を発揮することが可能となる。
【0039】
更に、このようなリン酸含有物質は、多くは水溶性であるが、溶けないものの場合の平均結晶子径(平均一次粒子径)としては、特に制限されないが、0.1〜300nmであることが好ましく、1〜200nmであることがより好ましい。このようなリン酸含有物質の平均結晶子径が前記上限を超えると分散性が低くなる傾向にある。なお、このようなリン酸含有物質の平均結晶子径(平均一次粒子径)は、例えば、X線回折装置を用いて粉末X線回折ピークの線幅からシェラーの式(Scherrer’s equation)を用いて算出することにより測定することができる。
【0040】
本発明においては、活性種としてこのような銀含有物質及びリン酸含有物質を用いることによって、アルミナを主成分とする担体に担持して用いるリン酸含有物質は硫黄の吸着を抑制し硫黄被毒を緩和するため硫黄被毒を受けにくい。また、活性種として用いる銀含有物質及びリン酸含有物質が共存することにより、高いPM酸化活性を奏することができ、十分に高いPM酸化活性を発揮することが可能となる。このように、担体としてアルミナを主成分とする担体に、活性種として銀含有物質及びリン酸含有物質を備えた触媒とすることにより、硫黄を含むガスに曝されても高いPM酸化活性を保持することができ、十分に高いPM酸化活性を発揮させることが可能となる。
【0041】
なお、前記担体の種類やその担体に担持されている銀含有物質及びリン酸含有物質等は、X線回折測定をしてX線回折パターンを求めて、ピークの位置から存在する結晶の種類を求めることにより確認できる。
【0042】
また、このような銀含有物質及びリン酸含有物質をアルミナを主成分とする担体に担持する方法としては、特に制限されないが、公知の方法を適宜利用することができ、例えば、銀含有物質或いはそれらの前駆体の分散液やゾル、及びリン酸含有物質或いはそれらの前駆体の分散液やゾルをそれぞれ用いて、アルミナを主成分とする担体に順次又は同時に被覆(その後必要に応じて焼成)する方法や、蒸着法(例えば、化学蒸着法、物理蒸着法、スパッタ蒸着法)等を用いることによりアルミナを主成分とする担体に担持する方法等を適宜採用することができる。
【0043】
(排ガス浄化用触媒)
本発明における排ガス浄化用触媒は、前記アルミナを主成分とする担体と、該担体に担持されている銀含有物質及びリン酸含有物質とを備えていればよく、その形態としては、特に制限されないが、ペレット形状のペレット触媒の形態等としてもよく、フィルタに担持した形態としてもよい。
【0044】
(排ガス浄化用触媒の製造方法)
本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜利用することができ、例えば、前記アルミナを主成分とする担体に銀含有物質及びリン酸含有物質のイオン等を含む水溶液を含浸させる工程、加熱し焼成を行う工程により作製される。なお、前記含浸においては、銀含有物質及びリン酸含有物質のイオン等を含む水溶液を含浸させてもよく、又は、銀含有物質のイオン等を含む水溶液及びリン酸含有物質のイオン等を含む水溶液をそれぞれ用意し、個別に順番に又は同時に含浸させてもよい。具体的には、銀含有物質及びリン酸含有物質を所定の濃度で含有する溶液を、前記アルミナを主成分とする担体に接触させることにより、所定量の銀含有物質及びリン酸含有物質を含む溶液を前記担体に含浸(担持)させた後、これを加熱し焼成する方法を採用することができる。更に、このような排ガス浄化用触媒の製造方法としては、先ず、リン酸含有物質のイオン等を含む水溶液を担体としてのアルミナを主成分とする担体に含浸せしめた後に焼成してリン酸含有物質が担持した担体を得、次いで、得られたリン酸含有物質担持担体を銀含有物質のイオン等を含む水溶液に含浸せしめた後に焼成してアルミナを主成分とする担体に銀含有物質及びリン酸含有物質を担持する方法を採用することができる。
【0045】
また、このような銀含有物質及びリン酸含有物質を含浸させた後における加熱焼成(焼成工程)は大気中で実施してもよい。また、このような焼成工程における焼成温度としては200〜700℃が好ましい。このような焼成温度が前記下限未満になると、前記銀含有物質及びリン酸含有物質を担体に担持することが困難となり、排ガス浄化用触媒の十分なPM酸化活性が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、アルミナを主成分とする担体の比表面積の低下が起こり易くなり、これにより酸化活性が低下してしまう傾向にある。また、焼成時間としては0.1〜100時間が好ましい。このような焼成時間が前記下限未満になると銀含有物質及びリン酸含有物質を担持することが困難となり、得られる排ガス浄化用触媒(PM酸化触媒)の酸化活性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えてもそれ以上の効果は得られず、触媒を調製するためのコストの増大に繋がる傾向にある。
【0046】
(排ガス浄化用装置)
前記本発明の排ガス浄化用触媒は、内燃機関から排出されるガス(排ガス)に含まれる粒子状物質に対して高いPM酸化活性を発揮しPMを酸化して除去することができるため、前記排ガス浄化用触媒に前記排ガスが接触することが可能なように前記排ガス浄化用触媒を配置して排ガス浄化用装置を構成することができる。
【0047】
このような排ガス浄化用装置は、排ガス中に含有される粒子状物質(PM)を酸化して浄化するための排ガス浄化装置であって、前記本発明の排ガス浄化用触媒を備えるものであればよい。このような排ガス浄化装置においては、内燃機関から排出されるガス(排ガス)に含まれる粒子状物質を酸化して浄化(除去)するため、排ガス浄化用装置に前記排ガスが接触することが可能なように前記排ガス浄化用装置を配置すればよく、例えば、内燃機関からの排ガスが流通する排ガス管内のガス流路に前記排ガス浄化用装置を配置した形態としてもよい。なお、このような内燃機関としては特に制限されず、公知の内燃機関を適宜用いることができ、例えば、自動車のエンジン(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等)であってもよい。
【0048】
[排ガス浄化フィルタ]
次に、本発明の排ガス浄化フィルタについて説明する。本発明の排ガス浄化フィルタは、前記本発明の排ガス浄化用触媒を通気性基材(フィルタ)に担持せしめてなることを特徴とする。
【0049】
このような本発明の排ガス浄化フィルタとしては、前記本発明の排ガス浄化用触媒を通気性基材に担持せしめてなること以外は特に制限されない。このような排ガス浄化フィルタの通気性基材としては、公知の通気性基材(フィルタ)を適宜利用することができ、例えば、パティキュレートフィルタ、モノリス状のフィルタ、ハニカム状のフィルタ、ペレット状のフィルタ、プレート状のフィルタ、発泡状セラミック製のフィルタ等が挙げられる。なお、前記本発明の排ガス浄化用触媒を通気性基材(フィルタ)に担持した形態のものとする場合においては、より高度な粒子状物質(PM)の酸化性能が得られることから、前記本発明の排ガス浄化用触媒をパティキュレートフィルタに担持した形態のものとすることがより好ましい。
【0050】
また、このような排ガス浄化フィルタの通気性基材の材質としては、特に制限されないが、公知の材料を適宜利用することができ、例えば、コージエライト、炭化ケイ素、ムライト、チタン酸アルミニウム等のセラミックス、クロム及びアルミニウムを含むステンレススチール等の金属等が挙げられる。
【0051】
更に、このような排ガス浄化フィルタとしては、平均細孔径が1〜300μmの細孔を有するものを用いることが好ましい。このような平均細孔径を有する基材を用いることで、より効率よく粒子状物質を酸化して浄化することが可能となる。
【0052】
また、このような排ガス浄化フィルタとしては、前記本発明の排ガス浄化用触媒によるコート層が形成されていることが好ましく、そのコート層の厚みは0.025〜25μmであることが好ましく、0.035〜10μmであることがより好ましい。前記コート層の厚みが前記下限未満では前記アルミナを主成分とする担体と該担体に担持されている銀含有物質及びリン酸含有物質とを備える触媒によりフィルタの表面を十分に被覆できず、粒子状物質との接触点が減少して十分に高度な酸化性能を付与することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、前記アルミナを主成分とする担体と該担体に担持されている銀含有物質及びリン酸含有物質とを備える触媒によりフィルタの細孔が閉塞され、排ガスの圧力損失が増大してエンジン効率が低下する傾向にある。
【0053】
更に、このような排ガス浄化フィルタとしては、前記通気性基材に担持する前記触媒の量は、特に制限されないが、内燃機関等に応じてその量を適宜調整することができ、前記通気性基材の体積1リットルに対して1〜300gであることが好ましく、10〜100gであることがより好ましい。このような担持量が前記下限未満では、十分に高度な触媒性能を発揮することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると前記担体と前記銀含有物質とを備える触媒により前記通気性基材の細孔が閉塞され、排ガスの圧力損失が増大してエンジン効率が低下する傾向にある。
【0054】
また、このような排ガス浄化フィルタとしては、気孔率が30〜70%(より好ましくは40〜65%)であるものが好ましい。ここにいう「気孔率」とは、前記通気性基材内部の空洞部分の体積率をいう。また、このような気孔率が前記下限未満では、排ガス中の粒子状物質により細孔が閉塞し易くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、排ガス中の粒子状物質を捕集しにくくなるとともにフィルタの強度が低下する傾向にある。
【0055】
更に、このような排ガス浄化フィルタにおいては、前記通気性基材に前記本発明の排ガス浄化用触媒を担持する方法は特に制限されず、例えば、予め前記アルミナを主成分とする担体と該担体に担持されている銀含有物質及びリン酸含有物質とを備える触媒を調製しておき、それを通気性基材に担持する方法や、通気性基材に対して担体を担持する工程と前記通気性基材に担持された前記担体に対し銀含有物質及びリン酸含有物質を担持せしめる工程とを実施することにより前記アルミナを主成分とする担体と該担体に担持されている銀含有物質及びリン酸含有物質とを備える触媒をフィルタに担持する方法等を適宜採用することができる。また、触媒や担体、銀含有物質及びリン酸含有物質を通気性基材に担持する方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用でき、例えば、触媒又は担体等のスラリーを調製し、そのスラリーを通気性基材に被覆(その後必要に応じて焼成)する方法等を適宜利用することができる。なお、このような排ガス浄化用触媒としては本発明の効果を損なわない範囲において粒子状物質を酸化するための触媒に用いることが可能な公知の他の成分を適宜用いてもよい。
【0056】
[排ガス浄化方法]
次に、本発明の排ガス浄化方法について説明する。本発明の排ガス浄化方法は、前記本発明の排ガス浄化用触媒に内燃機関からの排ガスを接触せしめて粒子状物質(PM)を酸化除去することを特徴とする方法である。
【0057】
このよう本発明の排ガス浄化方法において、前記排ガス浄化用触媒に排ガスを接触させる方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、内燃機関から排出されるガスが流通する排ガス管内に上記本発明にかかる排ガス浄化用触媒を配置することにより、排ガス浄化用触媒に対して内燃機関からの排ガスを接触させる方法を採用してもよい。
【0058】
なお、本発明の排ガス浄化方法において用いる前記本発明の排ガス浄化用触媒は、硫黄を含むガスに曝されても高いPM酸化活性を保持することができるものであるため、硫黄を含むガスに曝されても十分に高いPM酸化活性を発揮することが可能であり、このような前記本発明の排ガス浄化用触媒に、例えば、ディーゼルエンジン等の内燃機関からの排ガスを接触させることで、十分に排ガス中の粒子状物質(PM)を酸化除去し排ガスを浄化することが可能となり、更に、硫黄を含むガスに曝されても十分に排ガス中の粒子状物質(PM)を酸化除去し排ガスを浄化することが可能となる。このような観点から、本発明の排ガス浄化方法は、例えば、ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出されるような排ガス中の粒子状物質(PM)を浄化するための方法等として好適に採用することができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない
【0060】
(実施例1)
先ず、オルトリン酸ナトリウム(Alfa Aesar社製)0.61gをイオン交換水(200g)に溶解させてリン酸塩水溶液を調製した。続いて、硝酸銀(和光純薬工業製)1.57gをイオン交換水(100g)に溶解させて硝酸銀水溶液を調製した。
【0061】
次に、前記得られたリン酸塩水溶液を、担体としてのアルミナ粉末(日揮ユニバーサル株式会社製、γ−Al粉末、TN4、比表面積150m/g)8.7gに含浸させ、更に、これを撹拌しながら前記得られた硝酸銀水溶液を添加して沈殿を形成せしめた。次いで、得られた沈殿(沈殿物)をろ過し、110℃で一晩乾燥させた後、500℃で3時間焼成して、前記アルミナ担体にリン酸銀(AgPO)を担持して触媒粉末を得た。次いで、この粉末を乳鉢にて混合し、定法(冷間等方圧プレス法(CIP))によって粒子径0.3〜0.5mmのペレット形状に成形して、ペレット形状の触媒(AgPO/Al)とした。なお、触媒中の銀(Ag)に対するリン(P)の原子比率(P/Ag)は、仕込み量から0.33であった。また、銀含有物質の担持量は、触媒総量に対して金属銀(Ag)換算で10質量%であった。
【0062】
(実施例2)
リン酸塩源としてオルトリン酸ナトリウムの代わりにピロリン酸ナトリウム(Alfa Aesar社製)0.63gを用い、アルミナ粉末の添加量を8.6gとした以外は、実施例1と同様にしてペレット形状の触媒(Ag/Al)を得た。なお、触媒中の銀(Ag)に対するリン(P)の原子比率(P/Ag)は仕込み量から0.5であった。また、銀含有物質の担持量は、触媒総量に対して金属銀(Ag)換算で10質量%であった。
【0063】
(実施例3)
リン酸塩源としてオルトリン酸ナトリウムの代わりにメタリン酸ナトリウム(和光純薬工業製)1.11gを用い、アルミナ粉末の添加量を8.3gとした以外は、実施例1と同様にしてペレット形状の触媒(AgPO/Al)を得た。なお、触媒中の銀(Ag)に対するリン(P)の原子比率(P/Ag)は仕込み量から1.0であった。また、銀含有物質の担持量は、触媒総量に対して金属銀(Ag)換算で10質量%であった。
【0064】
(実施例4)
先ず、硝酸銀(和光純薬工業製)6.28gをイオン交換水(250g)に溶解させて硝酸銀水溶液を調製した。
【0065】
次に、得られた硝酸銀水溶液を、担体としてのアルミナ粉末(日揮ユニバーサル株式会社製、γ−Al粉末、TN4、比表面積150m/g)36.0gに含浸させて蒸発乾固し、110℃で一晩乾燥させた後、500℃で3時間焼成し、前記アルミナ担体に銀を担持した粉末を得た。
【0066】
次いで、85%リン酸(Alfa Aesar社製)1.07gをイオン交換水(200g)に溶解させてリン酸水溶液を調製し、これを前記得られた粉末10.0gに含浸させて蒸発乾固し、110℃で一晩乾燥させた後、500℃で3時間焼成し、前記アルミナ担体に銀及びリン酸を担持して触媒粉末を得た。次いで、この粉末を乳鉢にて混合し、定法(冷間等方圧プレス法(CIP))によって粒子径0.3〜0.5mmのペレット形状に成形して、ペレット形状の触媒(Ag+HPO/Al)とした。なお、触媒中の銀(Ag)に対するリン(P)の原子比率(P/Ag)は仕込み量から1.0であった。また、銀含有物質の担持量は、触媒総量に対して金属銀(Ag)換算で9.4質量%であった。
【0067】
(実施例5)
触媒中の銀(Ag)に対するリン(P)の原子比率(P/Ag)が2.0となるようにリン酸の添加量を変更した以外は、実施例4と同様にしてペレット形状の触媒(Ag+HPO/Al)を得た。なお、触媒中の銀(Ag)に対するリン(P)の原子比率(P/Ag)は仕込み量から2.0であった。また、銀含有物質の担持量は、触媒総量に対して金属銀(Ag)換算で8.8質量%であった。
【0068】
(実施例6)
先ず、85%リン酸(Alfa Aesar社製)5.36gをイオン交換水(200g)に溶解させてリン酸水溶液を調製した。
【0069】
次に、得られたリン酸水溶液を、担体としてのアルミナ粉末(日揮ユニバーサル株式会社製、γ−Al粉末、TN4、比表面積150m/g)9.04gに含浸させて蒸発乾固し、110℃で一晩乾燥させた後、500℃で3時間焼成し、前記アルミナ担体にリン酸を担持した粉末を得た。
【0070】
次いで、硝酸銀(和光純薬工業製)1.48gをイオン交換水(250g)に溶解させて硝酸銀水溶液を調製し、これを前記得られた粉末11.56gに含浸させて蒸発乾固し、110℃で一晩乾燥させた後、500℃で3時間焼成し、前記アルミナ担体に銀及びリン酸を担持して触媒粉末を得た。次いで、この粉末を乳鉢にて混合し、定法(冷間等方圧プレス法(CIP))によって粒子径0.3〜0.5mmのペレット形状に成形して、ペレット形状の触媒(Ag/(HPO+Al)、又は、Ag/HPO/Al)とした。なお、触媒中の銀(Ag)に対するリン(P)の原子比率(P/Ag)は仕込み量から5.0であった。また、銀含有物質の担持量は、触媒総量に対して金属銀(Ag)換算で7.5質量%であった。
【0071】
(比較例1)
硝酸銀(和光純薬工業製)6.28gをイオン交換水(250g)に溶解させて硝酸銀水溶液を調製した。次に、得られた硝酸銀水溶液を、アルミナ粉末(日揮ユニバーサル製、γ−Al粉末、TN4、比表面積150m/g)36.00gに含浸させて蒸発乾固し、110℃で一晩乾燥させた後、500℃で3時間焼成して、前記アルミナ粉末に銀(Ag)を担持して比較用触媒粉末を得た。次いで、この粉末を乳鉢にて混合し、定法(冷間等方圧プレス法(CIP))によって粒子径0.3〜0.5mmのペレット形状に成形して、ペレット形状の比較用触媒(Ag/Al)とした。なお、触媒中の銀(Ag)に対するリン(P)の原子比率(P/Ag)は仕込み量から0.0であった。また、銀含有物質の担持量は、触媒総量に対して金属銀(Ag)換算で10.0質量%であった。
【0072】
(比較例2)
担体としてのアルミナ粉末(γ−Al粉末)の代わりにリン酸カルシウム(Ca(PO)粉末(和光純薬工業製、比表面積10m/g)8.7gを用いた以外は、実施例1と同様にしてペレット形状の比較用触媒(AgPO/Ca(PO)を得た。なお、触媒中の銀(Ag)に対するリン(P)の原子比率(P/Ag)は仕込み量から6.5であった。また、銀含有物質の担持量は、触媒総量に対して金属銀(Ag)換算で10.0質量%であった。
【0073】
(比較例3)
硝酸銀(和光純薬工業製)1.57gをイオン交換水(250g)に溶解させて硝酸銀水溶液を調製した。次に、得られた硝酸銀水溶液を、リン酸アルミニウム粉末(Alfa Aesar社製、AlPO粉末、比表面積2.3m/g)9.00gに含浸させて蒸発乾固し、110℃で一晩乾燥させた後、500℃で3時間焼成して、前記リン酸アルミニウム粉末に銀(Ag)を担持して比較用触媒粉末を得た。次いで、この粉末を乳鉢にて混合し、定法(冷間等方圧プレス法(CIP))によって粒子径0.3〜0.5mmのペレット形状に成形して、ペレット形状の比較用触媒(Ag/AlPO)とした。なお、触媒中の銀(Ag)に対するリン(P)の原子比率(P/Ag)は仕込み量から8.0であった。また、銀含有物質の担持量は、触媒総量に対して金属銀(Ag)換算で10.0質量%であった。
【0074】
[実施例1〜6及び比較例1〜3で得られた触媒の特性の評価]
<ICP発光分析>
前記実施例1〜6及び比較例1〜3で得られた触媒中の銀(Ag)に対するリン(P)の原子比率(P/Ag)及び触媒中のアルミニウム(Al)に対するリン(P)の原子比率(P/Al)の測定を、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析により行った。
【0075】
すなわち、先ず、得られた前記各触媒粉末に対して、誘導結合プラズマ(ICP)発光装置(リガク社製、CIROS 120EOP)を用いてICP発光分析を実施し、触媒粉末上に存在する銀原子(Ag)及びリン原子(P)の含有質量を定量し、銀(Ag)に対するリン(P)の原子比率(P/Ag)を算出することにより求めた。また、触媒粉末上に存在するアルミニウム原子(Al)及びリン原子(P)の含有質量を定量し、アルミニウム(Al)に対するリン(P)の原子比率(P/Al)を算出することにより求めた。得られた結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1に示した実施例1〜6及び比較例1〜3の結果から明らかなように、いずれの触媒でも概ね仕込みどおりのP/Ag原子比率の触媒が作製されていることが確認された。
【0078】
<PM酸化活性評価試験>
上記初期状態の実施例1〜6及び比較例1〜3で得られた触媒をそれぞれ用いて、以下のようにしてPM酸化活性を測定した。なお、ここにいう「初期状態」とは触媒の製造後において後述する耐熱試験や硫黄被毒試験等のいずれも施していない状態をいう。
【0079】
(硫黄被毒処理)
すなわち、先ず、固定床流通式反応装置を用い、内径15mmの石英反応管に実施例1〜6及び比較例1〜3で得られた初期状態のペレット状の触媒試料1.1gを充填し、更に供給するSOを十分に酸化するために前記触媒試料の前段に十分にS被毒されたPt/Al(0.5g)を配置した。次いで、O(10%)+CO(10%)+HO(10%)/N(残部)からなる混合ガスを流通させ、400℃まで昇温した。次に、前記装置内に、SO(66ppm)、O(10%)、CO(10%)、HO(10%)及びN(残部)からなる混合ガス(入りガス)を、400℃(入りガス温度)、55.5分、ガス流量7L/分の条件で供給した(硫黄被毒処理)。なお、このような硫黄被毒処理において供給された硫黄成分の全供給量は1.0g/30g−catである。
【0080】
(PM混合処理I)
次に、試験研究用回転架台を用い、内径20mmの円筒形のサンプル管に硫黄被毒処理後の触媒試料及び模擬パティキュレート(模擬PM)としてカーボン粉末(東海カーボン(株)製、品名「シースト9(SAF)」、平均粒径19nm)を充填し、試験研究用回転架台で1時間回転することにより混合し、触媒試料を作製した。なお、このようなPM混合処理による前記触媒への模擬PMの混合量は、触媒と模擬PMの重量比で49:1となる量であった。
【0081】
(硫黄被毒再生処理)
次いで、硫黄被毒処理−PM混合処理I後の前記触媒試料に対して、O(10%)+HO(10%)/N(残部)からなる混合ガス(入りガス)を、触媒への入りガス温度を20℃/分の昇温速度で120℃から720℃まで昇温しながら、ガス流量10L/分の条件で供給し、硫黄被毒再生処理を行った。
【0082】
(PM混合処理II)
次に、硫黄被毒再生処理後の触媒試料とカーボン粉末(模擬PM)とを、前記PM混合処理Iと同様にして混合し、評価用試料を作製した。なお、このようなPM混合処理による前記触媒への模擬PMの混合量は、触媒と模擬PMの重量比で49:1となる量であった。
【0083】
(硫黄被毒再生処理後の触媒のPM酸化活性の測定:PM浄化処理)
次いで、実施例1〜3及び比較例1〜2のPM混合処理II後の前記評価用試料に対してO(10%)+HO(10%)/N(残部)からなる混合ガス(入りガス)を、触媒への入りガス温度を20℃/分の昇温速度で120℃から720℃まで昇温しながら、ガス流量10L/分の条件で供給した。そして、前記混合ガスの供給開始から供給終了までの間に、前記装置から排出される出ガス中に含まれるCOの濃度を測定した。そして、このような出ガス中のCOの濃度と、入りガスの温度とに基づいて、各評価用試料に付着したカーボンの50%が酸化されるのに必要な混合ガスの温度(PM50%酸化温度)を算出し、硫黄被毒再生処理後の触媒のPM酸化活性の指標とした。
【0084】
得られた結果を表2に示す。なお、PM50%酸化温度が低いほど、硫黄被毒再生処理後の触媒のPM酸化活性が高いと言える。また、硫黄被毒再生処理後の触媒のPM酸化活性として、実施例1〜3及び比較例1〜2で得られた硫黄被毒再生処理後における排ガス浄化用触媒の50%PM酸化温度を示すグラフを図1に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
更に、実施例4〜6及び比較例3で得られた触媒の硫黄被毒再生処理後におけるPM浄化処理(PM酸化活性)評価のために、硫黄被毒処理において実施例4〜6及び比較例3の触媒試料の銀量が実施例1の触媒試料の銀量と同じになるように調製した触媒試料を用い、PM浄化処理におけるガス流量を7L/分とした以外は前記実施例1と同様にして、硫黄被毒処理、PM混合処理I、硫黄被毒再生処理、PM混合処理II及びPM浄化処理を行い、前記と同様にして硫黄被毒再生処理後における排ガス浄化用触媒のCOの濃度を測定し、PM50%酸化温度を算出し、PM酸化活性の指標とした。なお、実施例4〜6との比較のために、比較例1の評価用試料について、PM浄化処理におけるガス流量を7L/分とした以外は前記と同様にしてCOの濃度を測定し、PM50%酸化温度を算出し、PM酸化活性の指標とした。
【0087】
得られた結果を表3に示す。また、硫黄被毒再生処理後の触媒のPM酸化活性として、実施例4〜6、比較例1及び3で得られた硫黄被毒再生処理後における排ガス浄化用触媒の50%PM酸化温度を示すグラフを図2に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
<評価結果>
表2及び表3、図1及び2に記載した結果からも明らかなように、本発明の実施例1〜6の排ガス浄化用触媒は、硫黄を含むガスに曝されても十分に高いPM酸化活性を発揮することが可能な排ガス浄化用触媒であることが確認された。
【0090】
なお、図1に記載した結果からも明らかなように、本発明の実施例1〜3のリン酸銀化合物をアルミナに担持した排ガス浄化用触媒は、銀をアルミナに担持した比較例1に比較してPM酸化活性が高く、硫黄被毒に対する耐性が高いことが確認された。また、図2に記載した結果からも明らかなように、本発明の実施例4〜6の銀及びリン酸を添加し共存させてアルミナに担持した排ガス浄化用触媒においても、比較例1に比較してPM酸化活性が高く、リン酸銀化合物を担持した場合と同様に硫黄被毒に対する耐性が高いことが確認された。なお、実施例6の排ガス浄化用触媒は、実施例4〜5よりも更にPM酸化活性が高く、硫黄被毒に対する耐性が更に高いことが確認された。これは、実施例6ではリン酸アルミニウムの結晶が見られたことから実施例6の排ガス浄化用触媒のリン酸含有物質がリン酸アルミニウムの結晶相を含有しており、担体に吸着する硫黄成分を抑制し、被毒緩和したためと考えられる。これに対して、比較例3のリン酸アルミニウム担体に銀を担持した比較用触媒は、PM酸化活性がかなり低いことが確認された。比較例3の比較用触媒は、担体であるリン酸アルミニウム上での銀の分散性が低いため活性が低かったものと考えらえれる。
【0091】
<X線回折(XRD)測定>
実施例1、5、6及び比較例1で得られた各触媒を測定試料として、粉末X線回折装置(リガク社製、商品名「試料水平型X線回折装置UltimaIV」)を用いて、X線源:CuKα線(λ=0.15406nm)、スキャンステップ:0.02°、保持時間:0.12秒、加速電圧:40kV、加速電流:40mAの条件で粉末X線回折(XRD)測定を行なった。図3に、実施例1、5、6及び比較例1で得られた排ガス浄化用触媒のXRDスペクトルを示す。
【0092】
図3に記載した結果(XRDスペクトル)から明らかなように、実施例6の排ガス浄化用触媒では、リン酸銀(AgPO)のピークに加えてリン酸アルミニウム(AlPO)のピークが観察され、添加されたリン酸が担体のアルミナとも反応していることが確認された。また、実施例1及び5の排ガス浄化用触媒では、AgPOのピークが見られ、銀(Ag)由来のシグナルは観測されなかった。これより、実施例1及び5では、担持された銀(Ag)は、添加したリン酸及びリン酸塩によってAgPOになったものと考えられる。
【0093】
以上の結果より、アルミナを主成分とする担体に銀含有物質及びリン酸含有物質を担持させた排ガス浄化用触媒とすることにより、硫黄を含むガスに曝されても十分に高いPM酸化活性を発揮することが確認された。また、本発明の触媒は硫黄被毒を受けた後も低温から高い酸化活性を保持することができ、PMを酸化する触媒として有用であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0094】
以上説明したように、本発明によれば、硫黄を含むガスに曝されても十分に高いPM酸化活性を発揮することが可能な排ガス浄化用触媒、それを用いた排ガス浄化フィルタ並びに排ガス浄化方法を提供することが可能となる。
したがって、本発明の排ガス浄化用触媒、それを用いた排ガス浄化フィルタ及び排ガス浄化方法は、ディーゼルエンジン等の内燃機関からの排ガス中に含まれる粒子状物質を浄化するためのPM酸化触媒、それを用いた排ガス浄化フィルタ又は排ガス浄化方法等として特に有用である。
図1
図2
図3