【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない
。
【0060】
(実施例1)
先ず、オルトリン酸ナトリウム(Alfa Aesar社製)0.61gをイオン交換水(200g)に溶解させてリン酸塩水溶液を調製した。続いて、硝酸銀(和光純薬工業製)1.57gをイオン交換水(100g)に溶解させて硝酸銀水溶液を調製した。
【0061】
次に、前記得られたリン酸塩水溶液を、担体としてのアルミナ粉末(日揮ユニバーサル株式会社製、γ−Al
2O
3粉末、TN4、比表面積150m
2/g)8.7gに含浸させ、更に、これを撹拌しながら前記得られた硝酸銀水溶液を添加して沈殿を形成せしめた。次いで、得られた沈殿(沈殿物)をろ過し、110℃で一晩乾燥させた後、500℃で3時間焼成して、前記アルミナ担体にリン酸銀(Ag
3PO
4)を担持して触媒粉末を得た。次いで、この粉末を乳鉢にて混合し、定法(冷間等方圧プレス法(CIP))によって粒子径0.3〜0.5mmのペレット形状に成形して、ペレット形状の触媒(Ag
3PO
4/Al
2O
3)とした。なお、触媒中の銀(Ag)に対するリン(P)の原子比率(P/Ag)は、仕込み量から0.33であった。また、銀含有物質の担持量は、触媒総量に対して金属銀(Ag)換算で10質量%であった。
【0062】
(実施例2)
リン酸塩源としてオルトリン酸ナトリウムの代わりにピロリン酸ナトリウム(Alfa Aesar社製)0.63gを用い、アルミナ粉末の添加量を8.6gとした以外は、実施例1と同様にしてペレット形状の触媒(Ag
4P
2O
7/Al
2O
3)を得た。なお、触媒中の銀(Ag)に対するリン(P)の原子比率(P/Ag)は仕込み量から0.5であった。また、銀含有物質の担持量は、触媒総量に対して金属銀(Ag)換算で10質量%であった。
【0063】
(実施例3)
リン酸塩源としてオルトリン酸ナトリウムの代わりにメタリン酸ナトリウム(和光純薬工業製)1.11gを用い、アルミナ粉末の添加量を8.3gとした以外は、実施例1と同様にしてペレット形状の触媒(AgPO
3/Al
2O
3)を得た。なお、触媒中の銀(Ag)に対するリン(P)の原子比率(P/Ag)は仕込み量から1.0であった。また、銀含有物質の担持量は、触媒総量に対して金属銀(Ag)換算で10質量%であった。
【0064】
(実施例4)
先ず、硝酸銀(和光純薬工業製)6.28gをイオン交換水(250g)に溶解させて硝酸銀水溶液を調製した。
【0065】
次に、得られた硝酸銀水溶液を、担体としてのアルミナ粉末(日揮ユニバーサル株式会社製、γ−Al
2O
3粉末、TN4、比表面積150m
2/g)36.0gに含浸させて蒸発乾固し、110℃で一晩乾燥させた後、500℃で3時間焼成し、前記アルミナ担体に銀を担持した粉末を得た。
【0066】
次いで、85%リン酸(Alfa Aesar社製)1.07gをイオン交換水(200g)に溶解させてリン酸水溶液を調製し、これを前記得られた粉末10.0gに含浸させて蒸発乾固し、110℃で一晩乾燥させた後、500℃で3時間焼成し、前記アルミナ担体に銀及びリン酸を担持して触媒粉末を得た。次いで、この粉末を乳鉢にて混合し、定法(冷間等方圧プレス法(CIP))によって粒子径0.3〜0.5mmのペレット形状に成形して、ペレット形状の触媒(Ag+H
3PO
4/Al
2O
3)とした。なお、触媒中の銀(Ag)に対するリン(P)の原子比率(P/Ag)は仕込み量から1.0であった。また、銀含有物質の担持量は、触媒総量に対して金属銀(Ag)換算で9.4質量%であった。
【0067】
(実施例5)
触媒中の銀(Ag)に対するリン(P)の原子比率(P/Ag)が2.0となるようにリン酸の添加量を変更した以外は、実施例4と同様にしてペレット形状の触媒(Ag+H
3PO
4/Al
2O
3)を得た。なお、触媒中の銀(Ag)に対するリン(P)の原子比率(P/Ag)は仕込み量から2.0であった。また、銀含有物質の担持量は、触媒総量に対して金属銀(Ag)換算で8.8質量%であった。
【0068】
(実施例6)
先ず、85%リン酸(Alfa Aesar社製)5.36gをイオン交換水(200g)に溶解させてリン酸水溶液を調製した。
【0069】
次に、得られたリン酸水溶液を、担体としてのアルミナ粉末(日揮ユニバーサル株式会社製、γ−Al
2O
3粉末、TN4、比表面積150m
2/g)9.04gに含浸させて蒸発乾固し、110℃で一晩乾燥させた後、500℃で3時間焼成し、前記アルミナ担体にリン酸を担持した粉末を得た。
【0070】
次いで、硝酸銀(和光純薬工業製)1.48gをイオン交換水(250g)に溶解させて硝酸銀水溶液を調製し、これを前記得られた粉末11.56gに含浸させて蒸発乾固し、110℃で一晩乾燥させた後、500℃で3時間焼成し、前記アルミナ担体に銀及びリン酸を担持して触媒粉末を得た。次いで、この粉末を乳鉢にて混合し、定法(冷間等方圧プレス法(CIP))によって粒子径0.3〜0.5mmのペレット形状に成形して、ペレット形状の触媒(Ag/(H
3PO
4+Al
2O
3)、又は、Ag/H
3PO
4/Al
2O
3)とした。なお、触媒中の銀(Ag)に対するリン(P)の原子比率(P/Ag)は仕込み量から5.0であった。また、銀含有物質の担持量は、触媒総量に対して金属銀(Ag)換算で7.5質量%であった。
【0071】
(比較例1)
硝酸銀(和光純薬工業製)6.28gをイオン交換水(250g)に溶解させて硝酸銀水溶液を調製した。次に、得られた硝酸銀水溶液を、アルミナ粉末(日揮ユニバーサル製、γ−Al
2O
3粉末、TN4、比表面積150m
2/g)36.00gに含浸させて蒸発乾固し、110℃で一晩乾燥させた後、500℃で3時間焼成して、前記アルミナ粉末に銀(Ag)を担持して比較用触媒粉末を得た。次いで、この粉末を乳鉢にて混合し、定法(冷間等方圧プレス法(CIP))によって粒子径0.3〜0.5mmのペレット形状に成形して、ペレット形状の比較用触媒(Ag/Al
2O
3)とした。なお、触媒中の銀(Ag)に対するリン(P)の原子比率(P/Ag)は仕込み量から0.0であった。また、銀含有物質の担持量は、触媒総量に対して金属銀(Ag)換算で10.0質量%であった。
【0072】
(比較例2)
担体としてのアルミナ粉末(γ−Al
2O
3粉末)の代わりにリン酸カルシウム(Ca
3(PO
4)
2)粉末(和光純薬工業製、比表面積10m
2/g)8.7gを用いた以外は、実施例1と同様にしてペレット形状の比較用触媒(Ag
3PO
4/Ca
3(PO
4)
2)を得た。なお、触媒中の銀(Ag)に対するリン(P)の原子比率(P/Ag)は仕込み量から6.5であった。また、銀含有物質の担持量は、触媒総量に対して金属銀(Ag)換算で10.0質量%であった。
【0073】
(比較例3)
硝酸銀(和光純薬工業製)1.57gをイオン交換水(250g)に溶解させて硝酸銀水溶液を調製した。次に、得られた硝酸銀水溶液を、リン酸アルミニウム粉末(Alfa Aesar社製、AlPO
4粉末、比表面積2.3m
2/g)9.00gに含浸させて蒸発乾固し、110℃で一晩乾燥させた後、500℃で3時間焼成して、前記リン酸
アルミニウム粉末に銀(Ag)を担持して比較用触媒粉末を得た。次いで、この粉末を乳鉢にて混合し、定法(冷間等方圧プレス法(CIP))によって粒子径0.3〜0.5mmのペレット形状に成形して、ペレット形状の比較用触媒(Ag/
AlPO4)とした。なお、触媒中の銀(Ag)に対するリン(P)の原子比率(P/Ag)は仕込み量から8.0であった。また、銀含有物質の担持量は、触媒総量に対して金属銀(Ag)換算で10.0質量%であった。
【0074】
[実施例1〜6及び比較例1〜3で得られた触媒の特性の評価]
<ICP発光分析>
前記実施例1〜6及び比較例1〜3で得られた触媒中の銀(Ag)に対するリン(P)の原子比率(P/Ag)及び触媒中のアルミニウム(Al)に対するリン(P)の原子比率(P/
Al)の測定を、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析により行った。
【0075】
すなわち、先ず、得られた前記各触媒粉末に対して、誘導結合プラズマ(ICP)発光装置(リガク社製、CIROS 120EOP)を用いてICP発光分析を実施し、触媒粉末上に存在する銀原子(Ag)及びリン原子(P)の含有質量を定量し、銀(Ag)に対するリン(P)の原子比率(P/Ag)を算出することにより求めた。また、触媒粉末上に存在するアルミニウム原子(Al)及びリン原子(P)の含有質量を定量し、アルミニウム(Al)に対するリン(P)の原子比率(P/Al)を算出することにより求めた。得られた結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1に示した実施例1〜6及び比較例1〜3の結果から明らかなように、いずれの触媒でも概ね仕込みどおりのP/Ag原子比率の触媒が作製されていることが確認された。
【0078】
<PM酸化活性評価試験>
上記初期状態の実施例1〜6及び比較例1〜3で得られた触媒をそれぞれ用いて、以下のようにしてPM酸化活性を測定した。なお、ここにいう「初期状態」とは触媒の製造後において後述する耐熱試験や硫黄被毒試験等のいずれも施していない状態をいう。
【0079】
(硫黄被毒処理)
すなわち、先ず、固定床流通式反応装置を用い、内径15mmの石英反応管に実施例1〜6及び比較例1〜3で得られた初期状態のペレット状の触媒試料1.1gを充填し、更に供給するSO
2を十分に酸化するために前記触媒試料の前段に十分にS被毒されたPt/Al
2O
3(0.5g)を配置した。次いで、O
2(10%)+CO
2(10%)+H
2O(10%)/N
2(残部)からなる混合ガスを流通させ、400℃まで昇温した。次に、前記装置内に、SO
2(66ppm)、O
2(10%)、CO
2(10%)、H
2O(10%)及びN
2(残部)からなる混合ガス(入りガス)を、400℃(入りガス温度)、55.5分、ガス流量7L/分の条件で供給した(硫黄被毒処理)。なお、このような硫黄被毒処理において供給された硫黄成分の全供給量は1.0g/30g−catである。
【0080】
(PM混合処理I)
次に、試験研究用回転架台を用い、内径20mmの円筒形のサンプル管に硫黄被毒処理後の触媒試料及び模擬パティキュレート(模擬PM)としてカーボン粉末(東海カーボン(株)製、品名「シースト9(SAF)」、平均粒径19nm)を充填し、試験研究用回転架台で1時間回転することにより混合し、触媒試料を
作製した。なお、このようなPM混合処理による前記触媒への模擬PMの混合量は、触媒と模擬PMの重量比で49:1となる量であった。
【0081】
(硫黄被毒再生処理)
次いで、硫黄被毒処理−PM混合処理I後の前記触媒試料に対して、O
2(10%)+H
2O(10%)/N
2(残部)からなる混合ガス(入りガス)を、触媒への入りガス温度を20℃/分の昇温速度で120℃から720℃まで昇温しながら、ガス流量10L/分の条件で供給し、硫黄被毒再生処理を行った。
【0082】
(PM混合処理II)
次に、硫黄被毒再生処理後の触媒試料とカーボン粉末(模擬PM)とを、前記PM混合処理Iと同様にして混合し、評価用試料を
作製した。なお、このようなPM混合処理による前記触媒への模擬PMの混合量は、触媒と模擬PMの重量比で49:1となる量であった。
【0083】
(硫黄被毒再生処理後の触媒のPM酸化活性の測定:PM浄化処理)
次いで、実施例1〜3及び比較例1〜2のPM混合処理II後の前記評価用試料に対してO
2(10%)+H
2O(10%)/N
2(残部)からなる混合ガス(入りガス)を、触媒への入りガス温度を20℃/分の昇温速度で120℃から720℃まで昇温しながら、ガス流量10L/分の条件で供給した。そして、前記混合ガスの供給開始から供給終了までの間に、前記装置から排出される出ガス中に含まれるCO
2の濃度を測定した。そして、このような出ガス中のCO
2の濃度と、入りガスの温度とに基づいて、各評価用試料に付着したカーボンの50%が酸化されるのに必要な混合ガスの温度(PM50%酸化温度)を算出し、硫黄被毒再生処理後の触媒のPM酸化活性の指標とした。
【0084】
得られた結果を表2に示す。なお、PM50%酸化温度が低いほど、硫黄被毒再生処理後の触媒のPM酸化活性が高いと言える。また、硫黄被毒再生処理後の触媒のPM酸化活性として、実施例1〜3及び比較例1〜2で得られた硫黄被毒再生処理後における排ガス浄化用触媒の50%PM酸化温度を示すグラフを
図1に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
更に、実施例4〜6及び比較例3で得られた触媒の硫黄被毒再生処理後におけるPM浄化処理(PM酸化活性)評価のために、硫黄被毒処理において実施例4〜6及び比較例3の触媒試料の銀量が実施例1の触媒試料の銀量と同じになるように調製した触媒試料を用い、PM浄化処理におけるガス流量を7L/分とした以外は前記実施例1と同様にして、硫黄被毒処理、PM混合処理I、硫黄被毒再生処理、PM混合処理II及びPM浄化処理を行い、前記と同様にして硫黄被毒再生処理後における排ガス浄化用触媒のCO
2の濃度を測定し、PM50%酸化温度を算出し、PM酸化活性の指標とした。なお、実施例4〜6との比較のために、比較例1の評価用試料について、PM浄化処理におけるガス流量を7L/分とした以外は前記と同様にしてCO
2の濃度を測定し、PM50%酸化温度を算出し、PM酸化活性の指標とした。
【0087】
得られた結果を表3に示す。また、硫黄被毒再生処理後の触媒のPM酸化活性として、実施例4〜6、比較例1及び3で得られた硫黄被毒再生処理後における排ガス浄化用触媒の50%PM酸化温度を示すグラフを
図2に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
<評価結果>
表2及び表3、
図1及び2に記載した結果からも明らかなように、本発明の実施例1〜6の排ガス浄化用触媒は、硫黄を含むガスに曝されても十分に高いPM酸化活性を発揮することが可能な排ガス浄化用触媒であることが確認された。
【0090】
なお、
図1に記載した結果からも明らかなように、本発明の実施例1〜3のリン酸銀化合物をアルミナに担持した排ガス浄化用触媒は、銀をアルミナに担持した比較例1に比較してPM酸化活性が高く、硫黄被毒に対する耐性が高いことが確認された。また、
図2に記載した結果からも明らかなように、本発明の実施例4〜6の銀及びリン酸を添加し共存させてアルミナに担持した排ガス浄化用触媒においても、比較例1に比較してPM酸化活性が高く、リン酸銀化合物を担持した場合と同様に硫黄被毒に対する耐性が高いことが確認された。なお、実施例6の排ガス浄化用触媒は、実施例4〜5よりも更にPM酸化活性が高く、硫黄被毒に対する耐性が更に高いことが確認された。これは、実施例6ではリン酸アルミニウムの結晶が見られたことから実施例6の排ガス浄化用触媒のリン酸含有物質がリン酸アルミニウムの結晶相を含有しており、担体に吸着する硫黄成分を抑制し、被毒緩和したためと考えられる。これに対して、比較例3のリン酸アルミニウム担体に銀を担持した比較用触媒は、PM酸化活性がかなり低いことが確認された。比較例3の比較用触媒は、担体であるリン酸アルミニウム上での銀の分散性が低いため活性が低かったものと考えらえれる。
【0091】
<X線回折(XRD)測定>
実施例1、5、6及び比較例1で得られた各触媒を測定試料として、粉末X線回折装置(リガク社製、商品名「試料水平型X線回折装置UltimaIV」)を用いて、X線源:CuKα線(λ=0.15406nm)、スキャンステップ:0.02°、保持時間:0.12秒、加速電圧:40kV、加速電流:40mAの条件で粉末X線回折(XRD)測定を行なった。
図3に、実施例1、5、6及び比較例1で得られた排ガス浄化用触媒のXRDスペクトルを示す。
【0092】
図3に記載した結果(XRDスペクトル)から明らかなように、実施例6の排ガス浄化用触媒では、リン酸銀(Ag
3PO
4)のピークに加えてリン酸アルミニウム(AlPO
4)のピークが観察され、添加されたリン酸が担体のアルミナとも反応していることが確認された。また、実施例1及び5の排ガス浄化用触媒では、Ag
3PO
4のピークが見られ、銀(Ag)由来のシグナルは観測されなかった。これより、実施例1及び5では、担持された銀(Ag)は、添加したリン酸及びリン酸塩によってAg
3PO
4になったものと考えられる。
【0093】
以上の結果より、アルミナを主成分とする担体に銀含有物質及びリン酸含有物質を担持させた排ガス浄化用触媒とすることにより、硫黄を含むガスに曝されても十分に高いPM酸化活性を発揮することが確認された。また、本発明の触媒は硫黄被毒を受けた後も低温から高い酸化活性を保持することができ、PMを酸化する触媒として有用であることが確認された。