【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 発行者名 : 社団法人日本セラミックス協会 会長 新原 晧一 刊行物名 : 2010年年会 Annual Meeting of The Ceramic Society of Japan,2010 講演予稿集 発行年月日 : 2010年3月22日
【文献】
製品安全データシート,ソーダ灰(炭酸ナトリウム),平成27年1月30日取得,<http://www.naitoh.co.jp/msds/msds−041007.html>
【文献】
製品安全データシート,炭酸カルシウム,平成27年1月30日取得,<http://jp.images−monotaro.com/etc/pdf/msds/monotaro/GC269020.pdf?>
【文献】
製品安全データシート,酸化マグネシウム,平成27年1月30日取得,<http://www.siyaku.com/uh/Shi.do?now=1422595425527>
【文献】
製品安全データシート,硝酸ナトリウム,平成27年1月30日取得,<http://www.siyaku.com/uh/Shi.do?now=1422595500375>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
酸化カルシウムとリン酸水素二アンモニウムと硝酸ナトリウムと硫酸アンモニウムとを乾式混合し、得られた混合物を焼成して合成される請求項2に記載のβ型リン酸三カルシウムからなる生体材料セラミックスの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本件発明の実施の形態について、添付図面を用いて説明する。なお、本件発明は、これら実施形態に何ら限定されるべきものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得る。
<<実施形態1>>
<実施形態1:概要>
【0022】
二価陰イオン及び電荷補償のための陽イオンを固溶したβ-TCPからなる生体材料セラミックス、及びその焼結体について説明する。
<実施形態1:構成>
【0023】
本発明の生体材料セラミックスとは、事故や病気などにより欠損、喪失した歯や骨などの生体硬組織の置換材料として用いられるものであって、硫酸イオン等の二価の陰イオンが後述する形態でPO
43−と置換固溶したβ-TCPからなる生体材料セラミックスであればその形状は特に限定しない。粉体、顆粒体、膜状のものや、多孔体、緻密体などの焼結体が該当する。また、固溶とは、2種類以上の元素が互いに溶け合い、全体が均一の固相になることをいい、焼結体とは融点より低い温度で加熱して固化したものをいう。
【0025】
本発明に係るβ-TCPは、結晶中のリン酸イオン(PO
43-)を硫酸イオン等の二価の陰イオンで置換固溶したものである。β-TCPの機械的強度は、その結晶構造、結晶性(粒子サイズなど)に影響を受けるため、結晶中の所定量のリン酸イオン(PO
43-)を二価の陰イオンで置換固溶することにより、当該β-TCPからなる生体材料セラミックスの機械的強度を制御する。
【0026】
(リン酸三カルシウムの性質)
リン酸三カルシウム〔Ca
3(PO
4)
2:TCP〕には、低温からβ、α、α'の三つの相が存在する。α'-TCPは1450℃付近から高温で安定であり常温では得られない。α-TCPは1120-1180℃以下でβ-TCPに相転移するが、転移の速度が遅いため常温で準安定相として存在する。天然にはWhitlockite〔(Ca
18(Mg,Fe)
2H
2(PO
4)
14、β相と類似)として存在する。α-TCPおよびβ-TCPはともに生体活性材料であり、バイオセラミックスとして利用されている。これらの生体内における挙動はHApと似ているが、溶解度はHApより大きく、β-TCPの溶解度はHApの約2倍、α-TCPはHApの約10倍である。
【0027】
β-TCPは HApよりCa/Pモル比が低い(Ca/Pモル比=1.50)ため、β-TCPは他のリン酸カルシウム系セラミックスと比較して生体中での溶解および吸収速度が大きく、新生骨の生成とともに自家骨と置換するため人工歯根や骨充填材として臨床応用されている。また、β-TCPはα-TCPへの転移温度である1150℃以下の温度で焼結体が作製でき、このような焼成プロセスにより分解などを起こさず、吸水性もある。材料の吸収速度が周囲に形成する骨生成速度と適合し、新たに形成した骨が十分な強度をもつことが理想的なバイオセラミックスと考えられるため、β-TCPはこの条件を満たす可能性を有する数少ない材料である。
【0028】
一方、α-TCPは水和してHApとなり、その時に硬化する性質があるため生体用セメントとして応用されている。しかし、水のみによる硬化では硬化時間が生体用セメントの使用条件にくらべて長すぎるため、硬化促進のためクエン酸、ポリアクリル酸などの酸を硬化剤として添加する方法も用いられている。しかし、生体用セメントとして酸を用いた場合、充填部位周辺に炎症性の反応が生じるため、酸を用いないかまたは酸を積極的に中和させるタイプのセメントが開発されている。
【0029】
(β型リン酸三カルシウムの結晶構造)
β-TCPの空間群はR3cで菱面体晶系に属する。格子定数は六方格子設定でa=1.04352(2)nm、c=3.74029(5)nmである。
図1、
図2にβ-TCPの結晶構造を示す。β-TCPは結晶構造(単位格子)中にCaとPO
4四面体からなる結晶学的に独立なA、B 2本のカラムが存在し、これら2本のカラムがc軸に平行に存在している。カラムAはc軸(3回軸)上に存在し、P(1)-Ca(4)-Ca(5)-P(1)-空孔-Ca(5)の繰り返しである。天然鉱物であるWhitlockiteではCa(4)およびCa(5)サイトにはMgやFeといった他の金属イオンが置換する。また、Ca(4)サイトは席占有率が約0.5であるため、カラムAに空孔が存在する特異な結晶構造をもっている。カラムBはP(2)-Ca(3)-Ca(1)-Ca(2)-P(3)の繰り返しであるが、三つのCaは一直線上にのらずに1/3ずつずれるため折れ線を形成する。下記の表1と表2に空孔を考慮したβ-TCP単位格子中の各Ca
2+イオンサイトおよびPO
43-イオンサイトの割合を示した。
[表1]
[表2]
【0030】
(金属イオン固溶β型リン酸三カルシウム)
【0031】
図3、
図4に一価と二価金属イオンの固溶形態を示す。一価金属イオンはCa(4)サイトおよび空孔に2M
I=Ca
2+イオン+□(□:空孔)の形態で固溶し、その固溶限界は9.09mol%であり、二価金属イオンはまずCa(5)サイトに9.09mol%まで固溶して、Ca(5)サイトが二価金属イオンで埋まるとCa(4)サイトに13.64mol%まで固溶する(M
II=Ca
2+イオン)ことが分かっている。
【0032】
一方、β-TCPへの金属イオンの固溶がβ-α相転移温度や焼結性、機械的強度、溶解性に影響を与えることも分かっている。ここでは金属イオンの固溶がβ-TCPの溶解性に及ぼす影響について述べる。β-TCPの溶解度はHApの約2倍であるが、Ba
2+イオンを固溶したβ-TCP焼結体の溶解度はHApの約1.7倍に減少することが報告されている。Mg
2+イオン固溶β-TCPと比較すると、溶解度はβ-TCP>Mg
2+イオン固溶β-TCP>Ba
2+イオン固溶β-TCP>HApとなる。また、薬理作用があるZn
2+イオンを固溶させた骨形成促進作用を有する亜鉛徐放型β-TCPも作製されており、これについても溶解性が減少することが報告されている。
【0033】
また、一価金属イオンを固溶すると、Ca
2+イオン溶出率は、β-TCP>K
+イオン固溶β-TCP>Na
+イオン固溶β-TCP>Li
+イオン固溶β-TCPの順となり、とくにLi
+イオンを固溶すると溶出率がいちじるしく低下すること、また、Mg
2+イオンを固溶してもCa
2+イオンの溶出率は低下するが、Na
+イオンと同時に固溶することで、それぞれ単独で固溶するよりも溶出率がさらに低下することが明らかになっている。
【0034】
本発明では、PO
43-イオンと価数が異なるため単独固溶できない二価陰イオンをPO
4サイトに固溶させることを実現した。具体的には、Ca(4)サイトの席占有率を低下させ、空孔の席占有率を増大させることによりに電荷補正し、二価陰イオンを固溶させることを行った。すなわち、一価金属イオンはCa(4)サイトに固溶することが明らかになっていることからNa
+イオンを用いてCa(4)サイトに固溶させ、この固溶するNa
+イオンの添加量を固溶限界9.09mol%から減らして空孔をつくることにより電荷補正し、二価陰イオンを固溶させることを行った。これにより、一価および二価金属イオンとしてこれまでに固溶形態が明らかになっているNa
+イオンとMg
2+イオン、二価陰イオンとしてSO
42-イオンを同時固溶したβ-TCPを作製することが可能になった。
【0035】
(3)二価陰イオン固溶β-TCPの合成
【0036】
本発明に係る二価陰イオン固溶β-TCPの合成は既存の方法に従い、固相反応による乾式法と、水溶液反応による湿式法のどちらでもよいが、不純物相の生成を抑制できる点で、乾式法が好ましい。例えば、既存の方法に従い、リン酸源及びカルシウム源としてリン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)と、酸化カルシウム(CaO)を出発原料として用い、一価金属イオン源として硝酸ナトリウム(NaNO
3)、二価金属イオン源として酸化マグネシウム(MgO)、二価陰イオン源として硫酸アンモニウム((NH
4)
2SO
4)を用いた。各出発原料を乾式混合し、得られた混合物を焼成して生成される。一例を
図5に示す。各出発原料を1時間乾式混合(S0501)する。これを昇温速度3℃/min、焼成温度750℃、保持時間12時間、大気雰囲気中の条件下で焼成する(S0502)。続いて再度1時間の乾式混合を行う(S0503)。そして再度、昇温速度3℃/min、焼成温度800℃、保持時間5時間、大気雰囲気中の条件下で焼成し(S0504)、得られた焼成体が本発明に係る二価陰イオン固溶β-TCPとなる。
【0037】
なお、後述する実施例1において評価される二価陰イオン固溶β-TCPは、
図5に示す方法で合成されたものである。
【0038】
(4)二価陰イオン固溶β-TCPの焼結
【0039】
本発明に係る二価陰イオン固溶β-TCPの焼結は既存の方法に従い行えばよい。一例を
図6に示す。リン酸源及びカルシウム源としてリン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)と、酸化カルシウム(CaO)を出発原料として用い、一価金属イオン源として硝酸ナトリウム(NaNO
3)、二価金属イオン源として酸化マグネシウム(MgO)、二価陰イオン源として硫酸アンモニウム((NH
4)
2SO
4)を用いた。上記出発原料をボールミルで48時間湿式混合する(S0601)。溶媒としてエタノールなどの有機溶媒を用いる。その後、エバポレータなどを用いて溶媒を除去する(S0602)(混合工程)。溶媒除去後の混合体を再度溶媒に入れて粉砕し(S0603)、その後再度溶媒を除去する(S0604)(粉砕工程)。ここで得られた粉体を一軸加圧成型して成型体を作成し(成型工程)(S0605)、当該成型体を焼成し(焼成工程)(S0606)、焼結体を得る。ここで、一軸加圧成型(S0605)は、32MPaで1分間加圧する。使用する金型は45mm×20mmである。また、焼成(S0606)は、昇温速度3℃/min、焼成温度900℃、保持時間10時間、大気雰囲気中の条件下で行う。
【0040】
なお、
図7に示すように、ボールミルで湿式混合し(S0701)、溶媒を除去(S0702)した後、仮焼工程(S0703)を行ってもよい。また、一軸加圧成型(S0706)後にCIP成型工程(S0707)を行ってもよい。当該仮焼工程(S0703)は、昇温速度3℃/min、焼成温度800℃〜1000℃、保持時間5時間、大気雰囲気中の条件下行う。また、CIP成型工程(S0707)は200MPaで1分間加圧成型する。なお、仮焼工程における仮焼温度の違いにより、焼結性及び焼結体の機械的強度に明らかな差異が見られるため、仮焼工程を行うことによりこれらを調整することが可能である。また、CIP成型工程により、より均一な焼結体の製造が可能である。
【0042】
β-TCPの三価の陰イオンであるリン酸イオンと価数の異なる二価イオンがβ-TCPに固溶することを明らかにした本発明は、β-TCPに固溶させる(金属)イオンの選択範囲を増加させるだけでなく、固溶した陰イオンに起因する材料の溶解性制御,骨生成促進作用なども有する新規な硬組織代替用生体材料として応用範囲の拡大につながる。
【0043】
本発明では、一般的なリン酸三カルシウムの製造方法である固相法を用いて、高温相のα-TCPではなく低温相のβ-TCPに二価の陰イオンを固溶させるため、厳密な製造条件の制御、熟練した製造方法および高温処理(焼成)を必要とせず、現在のリン酸三カルシウムの製造ラインで製造できるため、少ない設備投資やコストで固溶させた陰イオンに起因する骨生成促進効果などを有したβ-TCPの製造が可能となる。
【実施例1】
【0044】
金属イオンおよび硫酸イオン(SO
42-)を添加したβ-TCPの評価
【0045】
図5に示す方法により作成した金属イオンおよび硫酸イオン(SO
42-)を添加したβ-TCP(以下、単に「試料」とする)について、X線回折、FT−IR、格子定数変化の試験を行った。なお、本実施例の金属イオンおよび硫酸イオン(SO
42-)添加β-TCPの乾式混合時の原料のモル配合比を下記表3に示し、重量配合例を下記表4に示す。
[表3]
[表4]
【0046】
(1)X線回折
【0047】
リガク製RAD-2C型X線回折装置を用いて、試料の結晶相の同定を行った。測定条件は、ターゲット:CuKαモノクロメーター、走査範囲(2θ):10-60°、スキャンステップ:0.020°、 スキャンスピード:8°/min、使用管電圧:40kV、使用管電流:30mA、である。
【0048】
図8に、SO
42-イオンおよびNa
+イオン添加量を変化させて作製した試料のX線回折図に示す。また、X線回折図より求められた代表的な回折線のd値を
図9に示す。すべての試料でβ-TCPの回折ピーク(ICDD:09-169)のみが確認され、得られた試料はβ-TCP単相であることがわかった。また、SO
42-イオン添加量の増加にともない回折ピークが低角度側にシフトしていることが確認され,固溶と格子定数の増大が認められた。
【0049】
(2)FT−IR
【0050】
日本分光製FT/IR-230型フーリエ変換型赤外分光光度計を用いて定性分析を行った。測定範囲は、400-4000cm
−1、積算回数は68回である。試料の測定はKBrを用いた拡散反射法により行い、試料とKBrの混合重量比は試料1に対し、KBrが約20の比率である。
【0051】
SO
42-イオンおよびNa
+イオン添加量を変化させて作製した試料のFT-IRスペクトルを
図10に示す。 945cm
-1(ν
1)、432cm
-1(ν
2)、1010 cm
-1(ν
3)、550cm
-1(ν
4)付近にPO
4基に帰属する吸収が見られた。また,SO
42-イオンの添加によってSO
4基に帰属される1130〜1080cm
-1、680〜610cm
-1付近に吸収が見られることからβ-TCP中にSO
42-イオンとして固溶していることが明らかとなった。
これより、SO
42-イオンがβ-TCPに14.20mol%まで固溶することを確認され、添加したSO
42-イオンはβ-TCP構造中のPサイトに固溶していることが示唆された。
【0052】
(3)格子定数
【0053】
格子定数の測定には、リガク製回転対陰極型X線回折装置RINT-1500を使用し、内部標準試料としてSi(99.99%、三津和化学薬品株式会社)を用い、β-TCPの回折線 (2 0 10)、(2 1 8)、(2 2 0)、(3 2 8)、(2 0 20)の5本とSiの回折線(1 1 1)、(2 2 0)、(3 1 1)、(2 0 20)の4本について最適な条件下で予備測定した。測定は、使用管電圧:40kV、使用管電流:200mA、にて行った。また、測定したX線回折図についてピークトップ法を用いた内部標準法で角度補正を行い、次式を用いて最小二乗法で格子定数の精密化を行った。
[数1]
【0054】
SO
42-イオン添加量を変化させて作製した試料の格子定数を下記表5に、その変化を
図11にそれぞれ示す。格子定数変化については、SO
42-イオン添加量13.99mol%までa軸はほぼ一定であり、c軸は直線的に増加した。
図8で示したX線回折図と比較すると、SO
42-イオン添加量13.99mol%までの試料についてはβ-TCP単相であり、格子定数変化も直線的に変化した。よって、SO
42-イオンは13.99mol%までの添加試料について、β-TCP構造に固溶したことを確認した。
[表5]
【0055】
(4)まとめ
【0056】
一価金属イオンとしてNa
+イオン、二価金属イオンとしてMg
2+イオン、二価陰イオンとしてSO
42-イオンを添加したβ-TCPを作製し、以下のことを明らかにした。得られた試料はすべてβ-TCP単相となり、Ca(4)サイトが空孔になり、その電荷を補償するようにSO
42-イオンがPサイトに固溶し、その固溶限界は14.28mol%であることが示唆された。
【実施例2】
【0057】
SO
42-イオン固溶β-TCPにおけるMg
2+イオンの与える影響の評価
【0058】
Ca(4)サイトと空孔にSO
42-イオンが満たされるように、SO
42-イオン添加量を固溶限界に近い13.99mol%、一価金属イオンとしてNa
+イオン添加量を0.19mol%と一定にしたうえで、Ca(5)サイトに固溶する二価金属イオンであるCa
2+イオンの代わりにMg
2+イオン添加量を変化させてβ-TCPを作製し評価した。
【0059】
(実験方法)
実施例1と同様に、出発原料にCaO、(NH
4)
2HPO
4、NaNO
3、MgO、(NH
4)
2SO
4を用いて、SO
42-イオン添加量を9.09mol%と一定にしたうえで、Ca
2+イオンの代わりにMg
2+イオン添加量を0-9.09mol%と変化させた。表6と表7に配合比および配合量を示す。また、実施例1と同様に作製した試料を評価した。
[表6]
[表7]
【0060】
(1)X線回折
【0061】
Mg
2+イオン添加量を変化させて作製した試料のX線回折図およびd値を
図12と
図13に示す。すべての試料でβ-TCPの回折ピーク(ICDD:09-169)のみが確認され、得られた試料はβ-TCP単相であることがわかった。また、Mg
2+イオン添加量の増加にともない回折ピークが高角度側にシフトしていることが確認された。
【0062】
(2)FT−IR
【0063】
Mg
2+イオン添加量を変化させて作製した試料のFT-IRスペクトルを
図14に示す。945cm
-1(ν
1)、432cm
-1(ν
2)、1010 cm
-1(ν
3)、550cm
-1(ν
4)付近にPO
4基に帰属する吸収が見られた。またSO
4基に帰属される1130〜1080cm
-1、680〜610cm
-1付近に吸収が見られることからβ-TCP中にSO
42-イオンとして固溶していることが明らかとなった。
【0064】
(3)格子定数
【0065】
SO
42-イオンとNa
+イオンを13.99mol%と0.19mol%にそれぞれ固定して、Ca
2+イオンとMg
2+イオンを置換させて作製した試料の格子定数を表8に、その変化を
図15にそれぞれ示す。格子定数変化については、Mg
2+イオン添加量9.09mol%まで直線的にa軸及びc軸は減少した。
図12で示したX線回折図と比較すると、Mg
2+イオン添加量9.09mol%までの試料についてはβ-TCP単相であり、格子定数変化も直線的に変化した。よって、Ca
2+イオンの代わりにMg
2+イオンは9.09mol%までの添加試料について、β-TCP構造に固溶したことを確認した。
[表8]
【0066】
(4)まとめ
【0067】
これより、Ca(5)サイトに固溶するMg
2+イオン添加量に関わらず、 SO
42-イオンはβ-TCP構造中のPサイトに固溶することが明らかとなった。
<<実施形態2>>
<実施形態2:概要>
【0068】
四価陰イオン及び電荷補償のための陽イオンを固溶したβ-TCPからなる生体材料セラミックス、及びその焼結体について説明する。
<実施形態2:構成>
【0069】
本発明の生体材料セラミックスとは、事故や病気などにより欠損、喪失した歯や骨などの生体硬組織の置換材料として用いられるものであって、ケイ酸イオン等の四価の陰イオンが後述する形態でPO
43−と置換固溶したβ-TCPからなる生体材料セラミックスであればその形状は特に限定しない。粉体、顆粒体、膜状のものや、多孔体、緻密体などの焼結体が該当する。また、固溶とは、2種類以上の元素が互いに溶け合い、全体が均一の固相になることをいい、焼結体とは融点より低い温度で加熱して固化したものをいう。
【0070】
(1)固溶形態
【0071】
本発明に係るβ-TCPは、結晶中のリン酸イオン(PO
43-)をケイ酸イオン等の四価の陰イオンで置換固溶したものである。β-TCPの機械的強度は、その結晶構造、結晶性(粒子サイズなど)に影響を受けるため、結晶中の所定量のリン酸イオン(PO
43-)を四価の陰イオンで置換固溶することにより、当該β-TCPからなる生体材料セラミックスの機械的強度を制御する。
【0072】
(3)四価陰イオン固溶β-TCPの合成
【0073】
本発明に係る四価陰イオン固溶β-TCPの合成は既存の方法に従い、固相反応による乾式法と、水溶液反応による湿式法のどちらでもよいが、不純物相の生成を抑制できる点で、乾式法が好ましい。例えば、既存の方法に従い、リン酸源及びカルシウム源としてリン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)と、炭酸カルシウム(CaCO
3)を出発原料として用い、二価金属イオン源として酸化マグネシウム(MgO)、四価陰イオン源として二酸化ケイ素(SiO
2)を用いた。ここでβ-TCP中の空孔にもMg
2+イオンが固溶するように過剰量のMgOを添加し、電荷の偏りを補正するようにSiO
2を添加した。各出発原料を乾式混合し、得られた混合物を焼成して生成される。一例を
図16に示す。各出発原料を1時間乾式混合(S1601)する。これを昇温速度3℃/min、焼成温度1200℃、保持時間12時間、大気雰囲気中の条件下で焼成する(S1602)。続いて再度1時間の乾式混合を行う(S1603)。そして再度、昇温速度3℃/min、焼成温度1200℃、保持時間12時間、大気雰囲気中の条件下で焼成し(S1604)、得られた焼成体が本発明に係る四価陰イオン固溶β-TCPとなる。
【0074】
なお、後述する実施例3において評価される四価陰イオン固溶β-TCPは、
図16に示す方法で合成されたものである。
【0075】
(4)四価陰イオン固溶β-TCPの焼結
【0076】
本発明に係る四価陰イオン固溶β-TCPの焼結は既存の方法に従い行えばよい。一例を
図17に示す。リン酸源及びカルシウム源としてリン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)と、炭酸カルシウム(CaCO
3)を出発原料として用い、二価金属イオン源として酸化マグネシウム(MgO)、四価陰イオン源として二酸化ケイ素(SiO
2)を用いた。上記出発原料をボールミルで48時間湿式混合する(S1701)。溶媒としてエタノールなどの有機溶媒を用いる。その後、エバポレータなどを用いて溶媒を除去する(S1702)(混合工程)。溶媒除去後の混合体を再度溶媒に入れて粉砕し(S1703)、その後再度溶媒を除去する(S1704)(粉砕工程)。ここで得られた粉体を一軸加圧成型して成型体を作成し(成型工程)(S1705)、当該成型体を焼成し(焼成工程)(S1706)、焼結体を得る。ここで、一軸加圧成型(S1705)は、32MPaで1分間加圧する。使用する金型は45mm×20mmである。また、焼成(S1706)は、昇温速度3℃/min、焼成温度1200℃、保持時間24時間、大気雰囲気中の条件下で行う。
【0077】
なお、
図18に示すように、ボールミルで湿式混合し(S1801)、溶媒を除去(S1802)した後、仮焼工程(S1803)を行ってもよい。また、一軸加圧成型(S1806)後にCIP成型工程(S1807)を行ってもよい。当該仮焼工程(S1803)は、昇温速度3℃/min、焼成温度1200℃、保持時間24時間、大気雰囲気中の条件下行う。また、CIP成型工程(S1807)は200MPaで1分間加圧成型する。なお、仮焼工程における仮焼温度の違いにより、焼結性及び焼結体の機械的強度に明らかな差異が見られるため、仮焼工程を行うことによりこれらを調整することが可能である。また、CIP成型工程により、より均一な焼結体の製造が可能である。
【0078】
なお、後述する実施例4において評価される四価陰イオン固溶β-TCP焼結体は、
図18に示す方法で合成されたものである。
【0079】
<実施形態2:効果>
【0080】
β-TCPの三価の陰イオンであるリン酸イオンと価数の異なる四価陰イオンがβ-TCPに固溶することを明らかにした本発明は、β-TCPに固溶させる(金属)イオンの選択範囲を増加させるだけでなく、固溶した陰イオンに起因する材料の溶解性制御,骨生成促進作用なども有する新規な硬組織代替用生体材料として応用範囲の拡大につながる。
【0081】
本発明では、一般的なリン酸三カルシウムの製造方法である固相法を用いて、高温相のα-TCPではなく低温相のβ-TCPに四価の陰イオンを固溶させるため、厳密な製造条件の制御、熟練した製造方法および高温処理(焼成)を必要とせず、現在のリン酸三カルシウムの製造ラインで製造できるため、少ない設備投資やコストで固溶させた陰イオンに起因する骨生成促進効果などを有したβ-TCPの製造が可能となる。
【実施例3】
【0082】
金属イオンおよびケイ酸イオン(SiO
44−)を添加したβ-TCPの評価
【0083】
図17に示す方法により作成した金属イオンおよびケイ酸イオン(SiO
44−)を添加したβ-TCP(以下、単に「試料」とする)について、X線回折、FT−IR、格子定数変化の試験を行った。なお、本実施例の金属イオンおよびケイ酸イオン(SiO
44−)添加β-TCPの乾式混合時の原料のモル配合比を下記表9に示し、重量配合例を下記表10に示す。
[表9]
[表10]
【0084】
(1)X線回折
【0085】
リガク製RAD-2C型X線回折装置を用いて、試料の結晶相の同定を行った。測定条件は、ターゲット:Cu(Cu−Kα)、走査範囲(2θ):10-60°、スキャンステップ:0.020°、 スキャンスピード:8°/min、使用管電圧:40kV、使用管電流:30mA、である。
【0086】
図19に、ケイ酸イオン(SiO
44−)およびマグネシウムイオン(Mg
2+)添加量を変化させて作製した試料のX線回折図に示す。X線回折図から、Mg
2+イオン添加量18.18mol%およびSiO
44-イオン添加量14.28mol%までの試料については、えられたX線回折ピークとβ-TCPの回折ピークと一致し、副生成物も生成しなかったため、β-TCP単相であることを確認した。また、さらに過剰のMg
2+イオンおよびSiO
44-イオンを添加すると、β-TCPのX線回折ピークのほかに、水酸アパタイト(HAp)の回折ピークを確認した。
【0087】
(2)FT−IR
【0088】
日本分光製FT/IR-230型フーリエ変換型赤外分光光度計を用いて定性分析を行った。測定範囲は、400-4000cm
−1、積算回数は68回である。試料の測定はKBrを用いた拡散反射法により行い、試料とKBrの混合重量比は試料1に対し、KBrが約20の比率である。
【0089】
Mg
2+イオンおよびSiO
44-イオンを同時添加した試料のFT-IRスペクトルを
図20に示す。β-TCPのスペクトルには945cm
-1(ν
1)、432cm
-1(ν
2)、1010cm
-1(ν
3)、550cm
-1(ν
4)付近にPO
4基に帰属する四つの基準振動を認めた。なおν
1とν
3は伸縮振動、ν
2とν
4は変角振動である。また、β-TCP作製時に副生成物として生成するピロリン酸カルシウム(Ca
2P
2O
7)と水酸アパタイト(HAp)のFT-IRスペクトルにおいては、Ca
2P
2O
7の場合はその分子中のP
2O
7基に起因する吸収が710cm
-1付近に、HApの場合は3570cm
-1にO-H伸縮振動、633 cm
-1にO-H面外変角振動に帰属する吸収が現れる。しかし
図20からは710cm
-1付近にCa
2P
2O
7分子中のP
2O
7基に帰属する吸収およびHApのOH基に帰属する3570cm
-1と633 cm
-1の吸収について確認できなかった。また、SiO
44-イオンを添加した試料のスペクトルにおいて、890cm
-1付近にSiO
44-イオンに起因する骨格振動を確認した。したがって、β-TCP中にSiO
44-イオンとして固溶していることが明らかになった。
【0090】
(3)格子定数
【0091】
格子定数の測定には、リガク製回転対陰極型X線回折装置RINT-1500を使用し、内部標準試料としてSi(99.99%、三津和化学薬品株式会社)を用い、β-TCPの回折線 (2 0 10)、(2 1 8)、(2 2 0)、(3 2 8)、(2 0 20)の5本とSiの回折線(1 1 1)、(2 2 0)、(3 1 1)、(2 0 20)の4本について最適な条件下で予備測定した。測定は、使用管電圧:40kV、使用管電流:200mA、にて行った。また、測定したX線回折図についてピークトップ法を用いた内部標準法で角度補正を行い、次式を用いて最小二乗法で格子定数の精密化を行った。
[数2]
【0092】
Mg
2+イオンおよびSiO
44-イオン添加量を変化させて作製した試料の格子定数を下記表11に、その変化を
図21にそれぞれ示す。格子定数変化については、Mg
2+イオン添加量18.18mol%およびSiO
44-イオン添加量14.28mol%まで直線的にa軸は増加し、c軸は減少した。その後は、a軸は一定、c軸は増加する傾向を確認した。
図19で示したX線回折図と比較すると、Mg
2+イオン添加量18.18mol%およびSiO
44-イオン添加量14.28mol%までの試料についてはβ-TCP単相であり、格子定数変化も直線的に変化した。よって、Mg
2+イオンは18.18mol%、SiO
44-イオンは14.28mol%までの添加試料について、β-TCP構造に固溶したことを確認した。
[表11]
【0093】
(4)まとめ
以上の結果より、固溶限界はMg
2+イオンが18.18mol%、SiO
44-イオンが14.28mol%であった。その固溶形態を
図22に示す。通常,二価金属イオンであるMg
2+イオンはCa(4)サイト(席占有率0.5)とCa(5)サイトのCa
2+イオンと置換固溶し、その固溶限界は13.64mol%とされているが、固溶するSiO
44-イオンとPO
43-イオンの電荷の違いを補正するために、固溶限界以上の過剰なMg
2+イオンがCa(4)サイトの空孔(席占有率0.5)にも固溶し、2PO
43- = 2SiO
44- + Mg
2+のような形態でSiO
44-イオンとともに固溶したと考えた。すなわち、SiO
44-イオンとPO
43-イオンの電荷補正にともない空孔にMg
2+イオンが固溶したということについては、表11に示したように、合計18.18mol%が固溶したことでも、この値は実験結果を裏づけた。一方、SiO
44-イオンに関しては、過剰のMg
2+イオンの固溶にともなう電荷の偏りがAカラムで生じることから、添加したSiO
44-イオンはAカラム中のP(1)サイトに固溶すると考えた。そしてPサイトのβ-TCP中の全PO
4サイトに対する割合は14.28mol%であることから、固溶限界においてPサイトの全てにSiO
44-イオンが固溶したことがわかった。
よってその固溶形態については、β-TCP中のCa(4)サイト、Ca(5)サイトおよび空孔とに18.18mol%まで二価金属イオンは固溶し、二価金属イオン添加量13.64mol%以上に過剰に添加した分だけ、その電荷を補正するようにSiO
44-イオンがPサイトに14.28mol%固溶したことを確認した。
【実施例4】
【0094】
金属イオンおよびケイ酸イオン(SiO
44−)を添加したβ-TCP焼結体の評価
【0095】
図18に示す方法により作成した金属イオンおよびケイ酸イオン(SiO
44−)を添加したβ-TCPの焼結体(以下、単に「焼結体試料」とする)について、X線回折、FT−IR、格子定数変化、機械的性質の試験を行った。なお、本実施例の金属イオンおよびケイ酸イオン(SiO
44−)添加β-TCPの焼結体作成における原料のモル配合比を下記表12に示し、重量配合例を下記表13に示す。
[表12]
[表13]
【0096】
(1)X線回折
【0097】
図23に、ケイ酸イオン(SiO
44−)およびマグネシウムイオン(Mg
2+)添加量を変化させて作製した焼結体試料のX線回折図に示す。X線回折図から、Mg
2+イオン添加量18.18mol%およびSiO
44-イオン添加量14.28mol%までの焼結体はβ-TCP単相であり、それ以上の各種イオン添加量の焼結体試料からは副生成物としてHApの生成を確認した。
【0098】
(2)FT−IR
【0099】
Mg
2+イオンおよびSiO
44-イオンを同時添加した焼結体試料のFT-IRスペクトルを
図24に示す。β-TCPのスペクトルには945cm
-1(ν
1)、432cm
-1(ν
2)、1010cm
-1(ν
3)、550cm
-1(ν
4)付近にPO
4基に帰属する四つの基準振動を認めた。なおν
1とν
3は伸縮振動、ν
2とν
4は変角振動である。また、SiO
44-イオンを添加した焼結体試料のスペクトルにおいて、890cm
-1付近にSiO
4基に起因する骨格振動を確認した。したがって、β-TCP中にSiO
44-イオンとして固溶していることが明らかになった。
【0100】
(3)格子定数
【0101】
Mg
2+イオンおよびSiO
44-イオン添加量を変化させて作製した焼結体試料の格子定数を下記表14に、その変化を
図25にそれぞれ示す。Mg
2+イオン添加量18.18mol%およびSiO
44-イオン添加量14.28mol%までの焼結体の格子定数変化は、直線的にa軸は増加し、c軸は減少した。これらの結果は、実施例3で作製した粉末試料の結果と同様であり、Mg
2+イオンは18.18mol%およびSiO
44-イオンは14.28mol%までβ-TCP焼結体に固溶したことを再確認した。
[表14]
【0102】
(4)機械的性質
【0103】
a) 体積収縮率変化
【0104】
作製した焼結体の焼成前後における試料体積から算出した各種イオン添加量に対する体積収縮率変化を
図26に示す。体積収縮率についてはMg
2+イオンおよびSiO
44-イオン添加量の増加にしたがい増加し、固溶限界であったMg
2+イオン添加量18.18mol%およびSiO
44-イオン添加量14.28mol%の試料のそれが最大で、焼成前後でもっとも収縮したことを確認した。
【0105】
この結果により、Mg
2+イオンおよびSiO
44-イオンをβ-TCPに同時固溶させたことで、焼結体はち密になったことを認めた。また固溶限界をすぎると収縮率は減少した。これは副生成物の生成した影響であると考えた。
【0106】
b) 焼結体の曲げ強度測定
【0107】
曲げ強度はJIS R 1601に基づき、オートグラフ(AG-1、島津製作所製)を使用し、以下の条件で三点曲げ試験を行い測定した。
【0108】
支点間距離:30mm
クロスヘッド速度:0.5 mm・min
-1
試料片本数:5本
試料片サイズ:3.0×4.0×36mm
試験温度:室温
試験雰囲気:大気中
試料の加工:焼結切断には低速切断機(ISOMETtm、BUEHLER製)を、表面研磨には研磨機(ダイアラップML-150、マルトー製)を使用し、耐水研磨紙♯200、♯400で研磨と面取りを行った。
【0109】
測定した焼結体の最大荷重から曲げ強度をJIS-R-1601に基づき、次式より求めた。
[数3]
ここで、σは三点曲げ強さ(MPa)、Pは試験片が破壊したときの最大荷重(N)、Lは支点間距離(mm)、wは試験片の幅(mm)、tは試験片の厚さ(mm)である。
【0110】
作製した焼結体の曲げ強度変化を
図27に示す。Mg
2+イオン添加量18.18mol%およびSiO
44-イオン添加量14.28mol%の固溶限界試料の曲げ強度は31.1MPaであった。また、Mg
2+イオンおよびSiO
44-イオン添加量の増加にともない曲げ強度は上昇したことを認めた。よってβ-TCPにMg
2+イオンとSiO
44-イオンを同時固溶することで、曲げ強度を向上させたことを認めた。
【0111】
c) アルキメデス法による開気孔率およびかさ密度の測定
【0112】
開気孔率およびかさ密度は、アルキメデス法(JIS R 1634)で溶媒には純水を用いて行った。開気孔率およびかさ密度は下記の式より求めた。
[数4]
ここで、W
1は試料の乾燥重量(g)、W
2は飽水試料の水中重量(g)、W
3は飽水試料の空中質量(g)、Sは純水の密度(1.0g・cm
-3)である。
【0113】
Mg
2+イオンおよびSiO
44-イオン添加量を変化させて作製した焼結体の開気孔率変化を
図28に、かさ密度変化を
図29にそれぞれ示す。Mg
2+イオンおよびSiO
44-イオン添加量の増加にともない開気孔率は減少、かさ密度は増加した。また、固溶限界であったMg
2+イオン添加量18.18mol%およびSiO
44-イオン添加量14.28 mol%の試料で開気孔率は最小、かさ密度は最大であった。よってMg
2+イオンおよびSiO
44-イオンをβ-TCPに同時固溶することで、焼結率の高い成形体をえることを認めた。
【0114】
d) 焼結体の微構造の観察
【0115】
焼結体の微構造観察には走査型電子顕微鏡(SEM)、(VE-7800、KEYENCE製)を使用した。試料の加工として、研磨機(ダイアラップML-150、マルトー製)を使用し、耐水研磨紙♯200、 ♯400、♯800、♯1500、ラッピングダイヤ液MM-130、ポリシングダイヤMM-140を用いて鏡面研磨を行った試料を昇温速度5℃・min
-1、保持時間5時間、大気雰囲気、1200℃でサーマルエッチングを行った。イオンスパッタ装置 (FINE CORT FC-1100、日本電子製)を使用し、金を蒸着させ(0.75kV、75mA)、それを検鏡試料とした。以下に測定条件を示す。
【0116】
フィラメント:W(タングステン)
加速電圧:1~3kV
【0117】
作製した焼結体の微構造を
図30〜32に示す。微構造観察結果より、Mg
2+イオン単独固溶β-TCPと比較し、SiO
44-イオンを添加した試料は気孔も少なく、焼結体の気孔は各種イオン添加量の増加にともない減少していることを認めた。この結果は開気孔率およびかさ密度を測定した結果とも一致している。したがって、Mg
2+イオンおよびSiO
44-イオンを固溶させたことで焼結体がち密化することが明らかになった。
【0118】
e) 焼結体の平均粒子径測定
【0119】
微構造のSEM写真をもとにインターセプト法で焼結体の平均粒子径を求めた。インターセプト法による平均粒子径の測定方法の概略を以下に示す。焼結体は結晶粒子の集合体であり、その微構造をSEMを用いて観察すると、
図33に示すように切断した面によって結晶粒子の大きさは異なって見えるため、これを補正する必要がある。まず、SEM写真上に等間隔で直線を引き、これらの直線と結晶粒界との交点から
図34のような見掛けの結晶粒子径(d
1、d
2、d
3、・・・)を求め、この大きさに統計的な補正値(π/2)をかけて実際の粒子径(G
true)を算出した。その計算式は[G
true = dn×C]であり、dnは見掛けの結晶粒子径、Cは定数(=π/2)である。一試料当たり200個以上の結晶粒子を測定した。
【0120】
また、撮影した微構造のSEM像をもとにインターセプト法で求めた焼結体の平均粒子径を
図35にそれぞれ示す。平均粒子径も各種イオン添加量の増加にともない、固溶限界まで粒子径は小さくなったことから、Mg
2+イオンおよびSiO
44-イオンをβ-TCPに同時固溶することで粒成長を抑制することが明らかとなり、高密度の焼結体を作製することができた。
【0121】
(5)まとめ
【0122】
これまでMg
2+イオンおよびSiO
44-イオンを同時添加したβ-TCP焼結体の機械的性質を評価した。以上の結果より、Mg
2+イオンおよびSiO
44-イオン固溶量の増加にともない焼結率の高い成形体がえられ、固溶限界であるMg
2+イオン添加量18.18mol%およびSiO
44-イオン添加量14.28mol%の焼結体がもっとも高い焼結率であり、よりち密な焼結体であることを確認した。またMg
2+イオン単独固溶β-TCP焼結体と比較すると、粒子径も小さく、ち密で曲げ強度も高かった。したがって、Mg
2+イオンおよびSiO
44-イオンをβ-TCPに固溶させたことで粒成長を抑制し、ぜい性破壊が生じにくい,ち密な焼結体をえることができた。