特許第6061420号(P6061420)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061420
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】静電荷像現像用トナー
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/087 20060101AFI20170106BHJP
【FI】
   G03G9/08 331
   G03G9/08 381
【請求項の数】8
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2012-237847(P2012-237847)
(22)【出願日】2012年10月29日
(65)【公開番号】特開2013-127607(P2013-127607A)
(43)【公開日】2013年6月27日
【審査請求日】2015年9月9日
(31)【優先権主張番号】特願2011-252949(P2011-252949)
(32)【優先日】2011年11月18日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】日高 安啓
【審査官】 福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−091379(JP,A)
【文献】 特開2006−084843(JP,A)
【文献】 特開2010−079277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/087
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも結着樹脂を含有してなる原料の溶融混練物の粉砕トナーである静電荷像現像用トナーであって、前記結着樹脂が結晶性樹脂と非晶質樹脂とからなり、該結晶性樹脂が炭素数2〜10の脂肪族ジオールを含有するアルコール成分と芳香族ジカルボン酸化合物及び3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物を含有するカルボン酸成分と縮重合物である結晶性ポリエステルを含有し、該結晶性ポリエステルの重量平均分子量が20,000〜150,000であり、該結晶性ポリエステルの融点が102℃以上150℃以下であり、該非晶質樹脂がアルコール成分とカルボン酸成分との縮重合物である非晶質ポリエステルを含有し、結晶性樹脂と非晶質樹脂の重量比(結晶性樹脂/非晶質樹脂)が55/45〜95/5である静電荷像現像用トナー。
【請求項2】
結晶性樹脂中の結晶性ポリエステルの含有量が80重量%以上である、請求項1記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項3】
結晶性ポリエステルのアルコール成分中の炭素数2〜10の脂肪族ジオールの含有量が90モル%以上である請求項1又は2記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項4】
結晶性ポリエステルのカルボン酸成分中の芳香族ジカルボン酸化合物及び3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物の総含有量が90モル%以上である請求項1〜3いずれか記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項5】
結晶性ポリエステルのカルボン酸成分中の3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物の含有量が2〜20モル%である請求項1〜4いずれか記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項6】
芳香族ジカルボン酸化合物と3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物のモル比(芳香族ジカルボン酸化合物/3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物)が98/2〜70/30である請求項1〜5いずれか記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項7】
結晶性ポリエステルの重量平均分子量が35,000〜130,000である請求項1〜6いずれか記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項8】
結晶性樹脂と非晶質樹脂の重量比(結晶性樹脂/非晶質樹脂)が55/45〜65/35である請求項1〜7いずれか記載の静電荷像現像用トナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像に用いられる静電荷像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高速化、小型化等の要求に対し、より低温定着可能なトナーが求められている。この要求に応えるために、結着樹脂に結晶性樹脂と非晶質樹脂を用いるトナーが提案されている。
【0003】
例えば、炭素数2〜6のジオールを80モル%以上含有したアルコール成分とフマル酸を80モル%以上含有したカルボン酸成分とを縮重合させて得られる軟化点が85〜150℃の結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルを含有し、結晶性ポリエステル/非晶質ポリエステルの重量比が1/99〜50/50であるトナー(特許文献1参照)、結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルとを含有した結着樹脂を含有し、結晶性ポリエステルの含有量が結着樹脂中1〜40重量%であり、結晶性ポリエステルの分散ドメインの90%以上が直径0.1〜2μmであるトナー(特許文献2参照)、炭素数2〜8の脂肪族ジオールを70モル%以上含有したアルコール成分と芳香族ジカルボン酸化合物を70モル%以上含有したカルボン酸成分とを縮重合させて得られる軟化点が80〜130℃の結晶性ポリエステルと、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を70モル%以上含有したアルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させて得られる非晶質ポリエステルを含有し、結晶性ポリエステル/非晶質ポリエステルの重量比が5/95〜50/50であるトナー(特許文献3参照)が提案されている。
【0004】
また、融点が50〜120℃、150℃での溶融粘度が5〜1000センチポイズ、水酸基価が5以下、酸価が20以下である結晶性ポリエステル0.5〜50重量%とガラス転移点が50〜100℃の結着樹脂50〜99.5重量%とからなるトナーバインダー(特許文献4参照)や、結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルと飽和磁化50emu/g以下の黒色金属材料を含有するトナー(特許文献5参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−222138号公報
【特許文献2】特開2002−287426号公報
【特許文献3】特開2005−300867号公報
【特許文献4】特開平11−249339号公報
【特許文献5】特開2004−245887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような結晶性樹脂と非晶質樹脂を用いたトナーは、低温定着性は向上するが、樹脂強度が低下する傾向がある。その結果、高速化、小型化に伴い、機械的又は熱的なストレスをより多く受けると、耐高温オフセット性(最高定着温度)や保存安定性が低下する課題や、現像ブレードへの固着や現像ローラー上のスジムラが発生する等の耐久性の低下に関わる課題が発生しやすくなっている。現像ブレードとの摩擦によりトナーを帯電させる非磁性一成分現像装置に用いる場合や、トナーに離型剤を多く含有させる必要があるオイルレス非磁性一成分現像装置に用いる場合は、特に、これらの問題が大きな課題となっている。
【0007】
さらに、近年の高速化、小型化等の要求により、トナーにさらなる低温定着性の向上が求められている。
【0008】
低温定着性は、結晶性ポリエステルの含有量を増やせば向上するが、耐高温オフセット性や保存安定性等が低下するという問題がある(例えば、特許文献1の比較例1、特許文献2の比較例4、特許文献3の比較例6、特許文献4の比較例3)。
【0009】
本発明の課題は、低温定着性及び耐高温オフセット性に優れ、定着可能幅が広く、保存安定性、現像ローラー上のスジムラの抑制に優れた静電荷像現像用トナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、少なくとも結着樹脂を含有してなる静電荷像現像用トナーであって、前記結着樹脂が結晶性樹脂と非晶質樹脂とからなり、該結晶性樹脂が炭素数2〜10の脂肪族ジオールを含有するアルコール成分と芳香族ジカルボン酸化合物及び3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物を含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られる結晶性ポリエステルを含有し、該結晶性ポリエステルの重量平均分子量が20,000〜150,000であり、結晶性樹脂と非晶質樹脂の重量比(結晶性樹脂/非晶質樹脂)が55/45〜95/5である静電荷像現像用トナーに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の静電荷像現像用トナーは、低温定着性及び耐高温オフセット性に優れ、定着可能幅が広く、保存安定性、現像ローラー上のスジムラの抑制に優れた効果を奏するものである。さらに、本発明の静電荷像現像用トナーは、非磁性一成分現像装置用フルカラートナー、特にトナーに離型剤を多く含有させる必要があるオイルレス非磁性一成分現像装置用フルカラートナーとして用いても、優れた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のトナーは、結着樹脂を含有する静電荷像現像用トナーであって、結着樹脂が結晶性樹脂と非晶質樹脂からなり、該結晶性樹脂が炭素数2〜10の脂肪族ジオールを含有するアルコール成分と芳香族ジカルボン酸化合物及び3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物を含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られる結晶性ポリエステルを含有し、該結晶性ポリエステルの重量平均分子量が20,000〜150,000であり、結晶性樹脂と非晶質樹脂の重量比(結晶性樹脂/非晶質樹脂)が55/45〜95/5である点に特徴を有しており、低温定着性及び耐高温オフセット性に優れ、定着可能幅が広く、保存安定性、現像ローラー上のスジムラの抑制に優れた効果を奏するものである。
【0013】
このような効果を奏する理由は定かではないが、以下のように考えられる。
結着樹脂中に結晶性ポリエステルを多く含有させることにより、低温定着性を向上させることができる。しかし、従来の結晶性樹脂においては、結晶性樹脂と非晶質樹脂の相溶化により、結晶性樹脂の一部が非晶質化し、耐高温オフセット性や保存安定性が著しく悪くなるという課題がある。
【0014】
しかし、本発明においては、結晶性ポリエステルのカルボン酸成分に芳香族ジカルボン酸化合物及び3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物を用い、かつ従来の結晶性ポリエステルよりも重量平均分子量が大きくかつ特定範囲にある結晶性ポリエステルを用いること、及び結晶性樹脂の含有量を多く、すなわち非晶質樹脂の含有量を少なくすることにより、結晶性樹脂と非晶質樹脂が相溶化することによって起こる結晶性樹脂の一部の非晶質化を抑制することができ、低温定着性の著しい向上と、耐高温オフセット性や保存安定性、耐久性の向上の両立が可能になったと考えられる。
【0015】
[結着樹脂]
本発明において、結着樹脂は、トナーの低温定着性、耐高温オフセット性及び保存安定性を向上させ、現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、結晶性樹脂と非晶質樹脂からなる。結晶性樹脂としては、炭素数2〜10の脂肪族ジオールを含有したアルコール成分と、芳香族ジカルボン酸化合物及び3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物を含有したカルボン酸成分とを縮重合させて得られる結晶性ポリエステルを含有する。
【0016】
結着樹脂は、トナーの低温定着性、耐高温オフセット性及び保存安定性を向上させ、現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、結晶性ポリエステルを主成分とすることが好ましい。
【0017】
ここで、樹脂の結晶性は、軟化点と示差走査熱量計による吸熱の最高ピーク温度との比、即ち[軟化点/吸熱の最高ピーク温度]の値で定義される結晶性指数によって表わされる。結晶性樹脂は、結晶性指数が0.6〜1.4、好ましくは0.7〜1.2、より好ましくは0.9〜1.2であり、非晶質樹脂は1.4を超えるか、0.6未満の樹脂である。樹脂の結晶性は、原料モノマーの種類とその比率、及び製造条件(例えば、反応温度、反応時間、冷却速度)等により調整することができる。なお、吸熱の最高ピーク温度とは、観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を指す。最高ピーク温度は、軟化点との差が20℃以内であれば融点とし、軟化点との差が20℃を超える場合はガラス転移に起因するピークとする。
【0018】
本発明において、結晶性ポリエステルのアルコール成分は、ポリエステルの結晶性を高め、低温定着性を向上させる観点から、炭素数2〜10、好ましくは炭素数4〜8、より好ましくは炭素数4〜6の脂肪族ジオールを含有する。
【0019】
炭素数2〜10の脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール等のα,ω−直鎖アルカンジオール、1,2-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、及び1,4-ブテンジオール等が挙げられ、ポリエステルの結晶性を高め、低温定着性を向上させる観点から、α,ω−直鎖アルカンジオールが好ましく、1,4-ブタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールがより好ましい。
【0020】
炭素数2〜10の脂肪族ジオールの含有量は、ポリエステルの結晶性を高め、低温定着性を向上させる観点から、アルコール成分中、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上であり、実質的に100モル%がよりさらに好ましい。アルコール成分に占める炭素数2〜10の脂肪族ジオールのなかの1種の割合が、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60〜80モル%である。
【0021】
アルコール成分には、炭素数2〜10の脂肪族ジオール以外の多価アルコール成分が含有されていてもよく、式(I):
【0022】
【化1】
【0023】
(式中、RO及びORはオキシアルキレン基であり、Rはエチレン及び/又はプロピレン基であり、x及びyはアルキレンオキサイドの付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の平均値は1〜16が好ましく、1〜8がより好ましく、1.5〜4がさらに好ましい)
で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族ジオール;グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、1,4−ソルビタン等の3価以上のアルコールが挙げられる。
【0024】
本発明において、結晶性ポリエステルのカルボン酸成分は、トナーの低温定着性、耐高温オフセット性及び保存安定性を向上させ、現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、芳香族ジカルボン酸化合物及び3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物を含有する。
【0025】
芳香族ジカルボン酸化合物としては、炭素数8〜12のものが好ましく、フタル酸化合物、イソフタル酸化合物及びテレフタル酸化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種がより好ましく、フタル酸、イソフタル酸及びテレフタル酸からなる群より選ばれた少なくとも1種がさらに好ましい。なお、ジカルボン酸化合物とは、ジカルボン酸、その無水物及びそのアルキル(炭素数1〜4)エステルを指すが、これらの中では、ジカルボン酸が好ましい。また、好ましい炭素数とは、ジカルボン酸化合物のジカルボン酸部分の炭素数を意味する。
【0026】
3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物としては、炭素数9〜15のものが好ましく、トリメリット酸化合物、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸化合物及びピロメリット酸化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種がより好ましく、トリメリット酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸及びピロメリット酸からなる群より選ばれた少なくとも1種がさらに好ましい。なお、芳香族多価カルボン酸化合物とは、多価カルボン酸、その無水物及びそのアルキル(炭素数1〜4)エステルを指すが、これらの中では、多価カルボン酸が好ましい。また、好ましい炭素数とは、芳香族多価カルボン酸化合物の多価カルボン酸部分の炭素数を意味する。
【0027】
3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物の中では、トナーの低温定着性、耐高温オフセット性及び保存安定性を向上させ、現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、トリメリット酸化合物が好ましく、無水トリメリット酸がより好ましい。
【0028】
芳香族ジカルボン酸化合物及び3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物の総含有量は、トナーの低温定着性、耐高温オフセット性及び保存安定性を向上させ、現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、カルボン酸成分中、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上であり、さらに好ましくは90モル%以上であり、実質的に100モル%がよりさらに好ましい。
【0029】
芳香族ジカルボン酸化合物の含有量は、トナーの耐高温オフセット性及び保存安定性を向上させ、現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、カルボン酸成分中、好ましくは60〜98モル%、より好ましくは80〜96モル%であり、85〜96モル%がさらに好ましく、90〜96モル%がよりさらに好ましく、92〜95モル%がよりさらに好ましく、92〜94モル%がよりさらに好ましい。
【0030】
3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物の含有量は、トナーの低温定着性、耐高温オフセット性及び保存安定性を向上させ、現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、カルボン酸成分中、好ましくは2〜20モル%、より好ましくは4〜18モル%であり、4〜15モル%がさらに好ましく、4〜10モル%がよりさらに好ましく、5〜8モル%がよりさらに好ましく、6〜8モル%がよりさらに好ましい。
【0031】
芳香族ジカルボン酸化合物と3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物のモル比[芳香族ジカルボン酸化合物/3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物]は、トナーの低温定着性、耐高温オフセット性及び保存安定性を向上させ、現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、98/2〜70/30が好ましく、96/4〜80/20がより好ましく、96/4〜85/15がさらに好ましく、96/4〜90/10がよりさらに好ましく、95/5〜92/8がよりさらに好ましく、94/6〜92/8がよりさらに好ましい。
【0032】
カルボン酸成分には、芳香族ジカルボン酸化合物及び3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物以外の多価カルボン酸化合物が含有されていてもよく、該多価カルボン酸化合物としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、炭素数が1〜30のアルキル基又は炭素数2〜30のアルケニル基で置換されたコハク酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、及びこれらの酸無水物、アルキル(炭素数1〜4)エステル等が挙げられる。
【0033】
また、アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸化合物が、分子量調整等の観点から、適宜含有されてもよい。
【0034】
結晶性ポリエステルの原料モノマーであるカルボン酸成分とアルコール成分との合計モル数中、炭素数2〜10の脂肪族ジオールと芳香族ジカルボン酸化合物及び3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物との合計モル数は、ポリエステルの結晶性を高め、トナーの低温定着性、耐高温オフセット性及び保存安定性を向上させる観点、現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、好ましくは75〜100モル%、より好ましくは85〜100モル%、さらに好ましくは90〜100モル%であり、実質的に100モル%がよりさらに好ましい。
【0035】
結晶性ポリエステルにおけるカルボン酸成分とアルコール成分とのモル比(カルボン酸成分/アルコール成分)において、結晶性ポリエステルの高分子量化を図る際には、カルボン酸成分よりもアルコール成分が多い方が好ましく、0.70〜1.0が好ましく、0.75〜0.98がより好ましく、0.80〜0.95がさらに好ましい。
【0036】
結晶性ポリエステルは、不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じて、エステル化触媒、エステル化助触媒、重合禁止剤等の存在下、180〜250℃程度の温度で縮重合させて製造することができる。エステル化触媒としては、酸化ジブチル錫、2-エチルヘキサン酸錫(II)等の錫化合物、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等のチタン化合物等が挙げられ、エステル化助触媒としては、没食子酸等が挙げられる。エステル化触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100重量部に対して、0.01〜1.5重量部が好ましく、0.1〜1.0重量部がより好ましい。エステル化助触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100重量部に対して、0.001〜0.5重量部が好ましく、0.01〜0.1重量部がより好ましい。
【0037】
結晶性ポリエステルの軟化点は、トナーの耐高温オフセット性及び保存安定性を向上させ、現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、80℃以上が好ましく、95℃以上がより好ましく、105℃以上がさらに好ましく、110℃以上がよりさらに好ましい。また、トナーの低温定着性を向上させる観点から、150℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましく、125℃以下がさらに好ましく、120℃以下がよりさらに好ましい。これらの観点を総合すると、結晶性ポリエステルの軟化点は、80〜150℃が好ましく、95〜130℃がより好ましく、105〜125℃がさらに好ましく、110〜120℃がよりさらに好ましい。
【0038】
また、結晶性ポリエステルの吸熱の最高ピーク温度(融点)は、トナーの耐高温オフセット性及び保存安定性を向上させ、現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、80℃以上が好ましく、95℃以上がより好ましく、100℃以上がさらに好ましく、105℃以上がよりさらに好ましい。また、トナーの低温定着性を向上させる観点から、150℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましく、120℃以下がさらに好ましく、115℃以下がよりさらに好ましい。これらの観点を総合すると、結晶性ポリエステルの吸熱の最高ピーク温度(融点)は、80〜150℃が好ましく、95〜130℃がより好ましく、100〜120℃がさらに好ましく、105〜115℃がよりさらに好ましい。
【0039】
結晶性ポリエステルの軟化点及び融点は、原料モノマー組成、重合開始剤、分子量、触媒量等の調整又は反応条件の選択により調整することができる。
【0040】
また、結晶性ポリエステルの重量平均分子量は、トナーの耐高温オフセット性及び保存安定性を向上させ、現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、20,000以上であり、30,000以上が好ましく、35,000以上がより好ましく、60,000以上がさらに好ましい。また、トナーの低温定着性を向上させる観点から、150,000以下であり、130,000以下が好ましく、110,000以下がより好ましく、90,000以下がさらに好ましい。これらの観点を総合すると、結晶性ポリエステルの重量平均分子量は、20,000〜150,000であり、30,000〜130,000が好ましく、35,000〜130,000がより好ましく、35,000〜110,000がさらに好ましく、60,000〜90,000がよりさらに好ましい。
【0041】
また、結晶性ポリエステルの数平均分子量は、同様の観点から、1,500以上が好ましく、2,000以上がより好ましく、3,000以上がさらに好ましく、3,500以上がよりさらに好ましい。また、同様の観点から、6,000以下が好ましく、5,500以下がより好ましく、5,000以下がさらに好ましく、4,500以下がよりさらに好ましい。これらの観点を総合すると、結晶性ポリエステルの数平均分子量は、1,500〜6,000が好ましく、2,000〜5,500がより好ましく、3,000〜5,000がさらに好ましく、3,500〜4,500がよりさらに好ましい。
【0042】
結晶性ポリエステルの重量平均分子量及び数平均分子量は、原料モノマー組成、重合開始剤、触媒量等の調整又は反応条件の選択により調整することができる。
【0043】
本発明において、結晶性樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲において、前記結晶性ポリエステル以外の結晶性樹脂を含有していてもよいが、トナーの低温定着性及び耐高温オフセット性及び保存安定性を向上させ、現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、前記結晶性ポリエステルの含有量は、結晶性樹脂中、80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、95重量%以上がさらに好ましく、実質的に100重量%がよりさらに好ましい。
【0044】
前記結晶性ポリエステル以外の結晶性樹脂としては、前記結晶性ポリエステル以外の結晶性ポリエステル、ポリエステル・ポリアミド等が挙げられる。
【0045】
結着樹脂中の前記結晶性ポリエステルの含有量は、トナーの低温定着性及び保存安定性を向上させる観点から、55重量%以上が好ましく、トナーの低温定着性を向上させる観点及び現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、95重量%以下が好ましい。これらの観点を総合すると、55〜95重量%が好ましい。さらに、トナーの低温定着性を向上させる観点及び現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、55〜75重量%が好ましく、55〜70重量%がより好ましく、55〜65重量%がさらに好ましく、55〜60重量%がよりさらに好ましい。また、トナーの保存安定性を向上させる観点から、75〜95重量%が好ましく、85〜95重量%がより好ましい。
【0046】
本発明における非晶質樹脂は、ポリエステル、ビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等が用いられる。トナーの低温定着性、耐高温オフセット性及び保存安定性を向上させ、現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、アルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステルが好ましい。
【0047】
非晶質ポリエステルの含有量は、トナーの低温定着性及び耐高温オフセット性及び保存安定性を向上させ、現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、非晶質樹脂中、80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、95重量%以上がさらに好ましく、実質的に100重量%がよりさらに好ましい。
【0048】
本発明に用いられる非晶質ポリエステルは、樹脂の非晶質化を促進する観点から、前記式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を含有したアルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステルであることが好ましく、前記式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を70モル%以上含有したアルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステルであることがより好ましい。
【0049】
前記ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、非晶質樹脂の非晶質化を促進する観点から、アルコール成分中、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80〜100モル%、さらに好ましくは90〜100モル%であり、実質的に100モル%がよりさらに好ましい。
【0050】
ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物以外のアルコール成分としては、前記結晶性ポリエステルに用いられるのと同様の多価アルコールを例示することができる。
【0051】
非晶質ポリエステルのカルボン酸成分として、芳香族ジカルボン酸化合物、脂肪族ジカルボン酸化合物のいずれも用いることができ、具体的なジカルボン酸化合物としては、前記結晶性ポリエステルに用いられるのと同様のジカルボン酸化合物が挙げられる。
【0052】
トナーの保存安定性を向上させ、現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、カルボン酸成分は、芳香族ジカルボン酸化合物を含有することが好ましく、より好ましくはテレフタル酸化合物、イソフタル酸化合物及びフタル酸化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種を含有し、さらに好ましくはテレフタル酸、イソフタル酸及びフタル酸からなる群より選ばれた少なくとも1種を含有し、よりさらに好ましくはテレフタル酸を含有する。芳香族ジカルボン酸化合物の含有量は、カルボン酸成分中、30〜100モル%が好ましく、40〜90モル%がより好ましく、50〜85モル%がさらに好ましく、60〜80モル%がよりさらに好ましい。
【0053】
また、トナーの保存安定性を向上させ、現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、非晶質ポリエステルのカルボン酸成分として、ジカルボン酸化合物以外に3価以上の多価カルボン酸化合物を用いることが好ましく、具体的な多価カルボン酸化合物として、結晶性ポリエステルに用いられるのと同様の多価カルボン酸化合物が挙げられる。
【0054】
3価以上の多価カルボン酸化合物の中では、トナーの保存安定性を向上させ、現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物が好ましく、トリメリット酸化合物がより好ましく、無水トリメリット酸がさらに好ましい。
【0055】
3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物の含有量は、カルボン酸成分中、5〜40モル%が好ましく、10〜35モル%がより好ましく、15〜30モル%がさらに好ましい。
【0056】
非晶質ポリエステルは、例えば、アルコール成分とカルボン酸成分とを不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じて、エステル化触媒、エステル化助触媒、重合禁止剤等の存在下、180〜250℃程度の温度で縮重合させて製造することができる。エステル化触媒としては、酸化ジブチル錫、2-エチルヘキサン酸錫(II)等の錫化合物、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等のチタン化合物等が挙げられる。エステル化助触媒としては、没食子酸等が挙げられる。エステル化触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100重量部に対して、0.01〜1重量部が好ましく、0.1〜0.6重量部がより好ましい。エステル化助触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100重量部に対して、0.001〜0.5重量部が好ましく、0.01〜0.1重量部がより好ましい。
【0057】
本発明において、アルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させて得られる非晶質ポリエステルには、ポリエステルのみならず、その変性樹脂も含まれる。
【0058】
ポリエステルの変性樹脂としては、例えば、ポリエステルがウレタン結合で変性されたウレタン変性ポリエステル、ポリエステルがエポキシ結合で変性されたエポキシ変性ポリエステル、ポリエステル成分とそれ以外の樹脂成分が複合したハイブリッド樹脂等が挙げられる。
【0059】
非晶質ポリエステルの軟化点は、トナーの耐高温オフセット性及び保存安定性を向上させ、現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、70℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましく、110℃以上がさらに好ましい。また、トナーの低温定着性を向上させる観点から、170℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、130℃以下がさらに好ましい。これらの観点を総合すると、非晶質ポリエステルの軟化点は、好ましくは70〜170℃、より好ましくは90〜150℃、さらに好ましくは110〜130℃である。
【0060】
非晶質ポリエステルのガラス転移点は、トナーの耐高温オフセット性及び保存安定性を向上させ、現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、45℃以上が好ましく、55℃以上がより好ましい。また、トナーの低温定着性を向上させる観点から、80℃以下が好ましく、75℃以下がさらに好ましい。これらの観点を総合すると、非晶質ポリエステルのガラス転移点は、好ましくは45〜80℃、より好ましくは55〜75℃である。なお、ガラス転移点は非晶質相に特有の物性であり、吸熱の最高ピーク温度とは区別される。
【0061】
非晶質ポリエステルの酸価は、トナーの現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、30mgKOH/g以下が好ましく、25mgKOH/g以下がより好ましく、22mgKOH/g以下がさらに好ましい。
【0062】
結着樹脂中の前記非晶質ポリエステルの含有量は、トナーの低温定着性及び保存安定性を向上させる観点から、45重量%以下が好ましく、トナーの低温定着性を向上させる観点及び現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、5重量%以上が好ましい。これらの観点を総合すると、5〜45重量%が好ましい。さらに、トナーの低温定着性を向上させる観点及び現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、25〜45重量%が好ましく、30〜45重量%がより好ましく、35〜45重量%がさらに好ましく、40〜45重量%がよりさらに好ましい。また、トナーの保存安定性を向上させる観点から、5〜25重量%が好ましく、5〜15重量%がより好ましい。
【0063】
結晶性樹脂と非晶質樹脂の結着樹脂中の重量比(結晶性樹脂/非晶質樹脂)は、トナーの低温定着性及び保存安定性を向上させる観点、現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、55/45〜95/5である。さらに、トナーの低温定着性を向上させる観点及び現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、55/45〜75/25が好ましく、55/45〜70/30がより好ましく、55/45〜65/35がさらに好ましく、55/45〜60/40がよりさらに好ましい。また、トナーの保存安定性を向上させる観点から、75/25〜95/5が好ましく、85/15〜95/5がより好ましい。
【0064】
トナーは、結着樹脂以外に、着色剤、離型剤、荷電制御剤等を含有していてもよい。
【0065】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等のすべてを使用することができ、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン−Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、イソインドリン、ジスアゾエロー等を用いることができる。着色剤の含有量は、画像濃度を向上させる観点から、結着樹脂100重量部に対して、1〜40重量部が好ましく、2〜10重量部がより好ましい。本発明のトナーは、黒トナー、カラートナーのいずれであってもよい。
【0066】
離型剤としては、低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレンポリエチレン共重合体、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス及びそれらの酸化物、カルナウバワックス、モンタンワックス、サゾールワックス及びそれらの脱酸ワックス、脂肪酸エステルワックス等のエステル系ワックス、脂肪酸アミド類、脂肪酸類、高級アルコール類、脂肪酸金属塩等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を混合して用いられていてもよい。
【0067】
離型剤の融点は、トナーの低温定着性と耐高温オフセット性を向上させる観点から、60〜160℃が好ましく、60〜150℃がより好ましい。
【0068】
離型剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、トナーの保存安定性を向上させ、現像ローラー上のスジムラを抑制する観点から、10重量部以下が好ましく、8重量部以下がより好ましく、7重量部以下がさらに好ましい。また、トナーの耐高温オフセット性を向上させる観点から、0.5重量部以上が好ましく、1.0重量部以上がより好ましく、1.5重量部以上がさらに好ましい。したがって、これらの観点を総合すると、離型剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、0.5〜10重量部が好ましく、1.0〜8重量部より好ましく、1.5〜7重量部がさらに好ましい。また、離型剤の含有量は、トナーをオイルレス定着させる観点から、2.0重量部以上が好ましく、2.5重量部以上がより好ましく、3.0重量部以上がさらに好ましい。したがって、これらの観点を総合すると、離型剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、2.0〜10重量部が好ましく、2.5〜8重量部より好ましく、3.0〜7重量部がさらに好ましい。
【0069】
荷電制御剤としては、特に限定されないが、負帯電性荷電制御剤としては、含金属アゾ染料、例えば「ボントロンS-28」(オリエント化学工業社製)、「T-77」(保土谷化学工業社製)、「ボントロンS-34」(オリエント化学工業社製)、「アイゼンスピロンブラックTRH」(保土谷化学工業社製)等;銅フタロシアニン染料、サリチル酸のアルキル誘導体の金属錯体、例えば「ボントロンE-81」、「ボントロンE-84」、「ボントロンE-304」(以上、オリエント化学工業社製)等;ニトロイミダゾール誘導体;ベンジル酸ホウ素錯体、例えば、「LR-147」(日本カーリット社製)等;無金属系荷電調整剤、例えば「ボントロンF-21」、「ボントロンE-89」(以上、オリエント化学工業社製)、「T-8」(保土ヶ谷化学工業社製)、「FCA-2521NJ」、「FCA-2508N」(以上、藤倉化成社製)等が挙げられる。
【0070】
正帯電性荷電制御剤としては、ニグロシン染料、例えば「ボントロンN-01」、「ボントロンN-04」、「ボントロンN-07」(以上、オリエント化学工業社製)、「CHUO CCA-3」(中央合成社製)等;3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料;4級アンモニウム塩化合物、例えば「ボントロンP-51」(オリエント化学工業社製)、「TP-415」(保土谷化学工業社製)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、「COPYCHARGE PXVP435」(クラリアント社製)等が挙げられる。
【0071】
荷電制御剤の含有量は、トナーの帯電安定性を向上させる観点から、結着樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上が好ましく、より好ましくは0.2重量部以上である。また、トナーの帯電量を適性にして現像性を向上させる観点から、結着樹脂100重量部に対して、5重量部以下が好ましく、より好ましくは3重量部以下である。すなわち、これらの観点を総合すると、荷電制御剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、0.1〜5重量部が好ましく、0.2〜3重量部がより好ましい。
【0072】
本発明のトナーには、さらに、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、体質顔料、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が適宜含有されていてもよい。
【0073】
本発明のトナーは、溶融混練法、乳化凝集法、重合法等の従来より公知のいずれの方法によって得られたトナーであってもよいが、生産性や着色剤の分散性の観点から、溶融混練法による粉砕トナーが好ましい。具体的には、結着樹脂、着色剤、荷電制御剤、離型剤等の原料をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、溶融混練し、冷却後、粉砕、分級を行ってトナー粒子を製造することができる。一方、トナーの小粒径化の観点からは、重合法や乳化凝集法等によるトナーが好ましい。
【0074】
原料の溶融混練は、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、連続式オープンロール型混練機等の公知の混練機を用いて行うことができるが、混練の繰り返しや分散助剤の使用をしなくても、結着樹脂に添加剤を効率よく高分散させることができることから、ロールの軸方向に沿って設けられた供給口と混練物排出口を備えた連続式オープンロール型混練機を用いることが好ましい。
【0075】
トナー原料は、予めヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等を用いて均一に混合した後、オープンロール型混練機に供することが好ましく、1箇所の供給口から混練機に供給してもよく、複数の供給口から分割して混練機に供給してもよいが、操作の簡便性及び装置の簡略化の観点からは、1箇所の供給口から混練機に供給することが好ましい。
【0076】
連続式オープンロール型混練機とは、混練部が密閉されておらず開放されているものをいい、混練の際に発生する混練熱を容易に放熱することができる。また、連続式オープンロール型混練機は、少なくとも2本のロールを備えた混練機であることが望ましく、本発明のトナーの製造に好適に用いられる連続式オープンロール型混練機は、周速度の異なる2本のロール、即ち、周速度の高い高回転側ロールと周速度の低い低回転側ロールとの2本のロールを備えた混練機である。本発明においては、着色剤や離型剤等のトナー原料の結着樹脂への分散性を向上させる観点から、高回転側ロールは加熱ロール、低回転側ロールは冷却ロールであることが望ましい。
【0077】
ロールの温度は、例えば、ロール内部に通す熱媒体の温度により調整することができ、各ロールには、ロール内部を2以上に分割して温度の異なる熱媒体を通じてもよい。
【0078】
高回転側ロールの原料投入側端部温度は100〜160℃が好ましく、低回転側ロールの原料投入側端部温度は35〜100℃が好ましい。
【0079】
高回転側ロールは、原料投入側端部と混練物排出側端部の設定温度の差が、混練物のロールからの脱離防止の観点から、20〜60℃であることが好ましく、20〜50℃であることがより好ましく、30〜50℃であることがさらに好ましい。低回転側ロールは、原料投入側端部と混練物排出側端部の設定温度の差が、着色剤や離型剤等のトナー原料の結着樹脂への分散性を向上させる観点から、0〜50℃であることが好ましく、0〜40℃であることがより好ましく、0〜20℃であることがさらに好ましい。
【0080】
高回転側ロールの周速度は、2〜100m/minであることが好ましく、5〜75m/minがより好ましい。低回転側ロールの周速度は1〜90m/minが好ましく、2〜60m/minがより好ましく、4〜50m/minがさらに好ましい。また、2本のロールの周速度の比(低回転側ロール/高回転側ロール)は、1/10〜9/10が好ましく、3/10〜8/10がより好ましい。
【0081】
ロールの構造、大きさ、材料等は特に限定されず、ロール表面も、平滑、波型、凸凹型等のいずれであってもよいが、混練シェアを高めるために、各ロールの表面には複数の螺旋状の溝が刻んであることが好ましい。
【0082】
粉砕工程は、多段階に分けて行ってもよい。例えば、溶融混練物を、1〜5mm程度に粗粉砕した後、さらに所望の粒径に微粉砕してもよい。
【0083】
粉砕工程に用いられる粉砕機は特に限定されないが、例えば、粗粉砕に好適に用いられる粉砕機としては、アトマイザー、ロートプレックス等が、微粉砕に好適に用いられる粉砕機としては、ジェットミル、衝突板式ミル、回転型機械ミル等が挙げられる。
【0084】
分級工程に用いられる分級機としては、風力分級機、慣性式分級機、篩式分級機等が挙げられる。分級工程の際、粉砕が不十分で除去された粉砕物は再度粉砕工程に供してもよい。
【0085】
トナーの体積中位粒径(D50)は、トナーの画像品質を向上させる観点から、3〜15μmが好ましく、4〜12μmがより好ましい。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。
【0086】
トナー粒子(トナー母粒子)に外添剤を付着させる外添処理を行い、トナー粒子に外添剤を外添してもよい。
【0087】
外添剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛等の無機微粒子や、メラミン系樹脂微粒子、ポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子等の樹脂微粒子等の有機微粒子が挙げられる。なかでも、シリカを併用することが好ましく、平均粒子径が20nm未満のシリカと20nm以上のシリカを、90/10〜10/90の重量比で併用することがさらに好ましい。
【0088】
本発明のトナーは、装置の高速化、小型化に適しており、フルカラープリンタやフルカラー複写機等の画像形成装置に用いても、低温定着が可能であり、良好な耐高温オフセット性とグロスを維持することができる。従って、本発明のトナーは、カラー現像装置を用いた画像形成方法に好適に用いることができる。さらに、本発明のトナーは、オイルレス非磁性一成分現像装置にも好適に用いることができる。なお、オイルレス定着とは、オイル供給装置を備えていないヒートロール定着装置を有する定着機を用いる方法である。オイル供給装置とは、オイルタンクを有し、定量的にオイルをヒートロール表面に塗布する機構を有する装置の他、オイルを予め含浸させたロールをヒートロールに接触させるような機構を有する装置等を含む。
【0089】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の静電荷像現像用トナーを開示する。
【0090】
<1> 少なくとも結着樹脂を含有してなる静電荷像現像用トナーであって、前記結着樹脂が結晶性樹脂と非晶質樹脂とからなり、該結晶性樹脂が炭素数2〜10の脂肪族ジオールを含有するアルコール成分と芳香族ジカルボン酸化合物及び3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物を含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られる結晶性ポリエステルを含有し、該結晶性ポリエステルの重量平均分子量が20,000〜150,000であり、結晶性樹脂と非晶質樹脂の重量比(結晶性樹脂/非晶質樹脂)が55/45〜95/5である静電荷像現像用トナー。
【0091】
<2> 結晶性樹脂中の結晶性ポリエステルの含有量が80重量%以上であり、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、さらに好ましく実質的に100重量%である、前記<1>記載の静電荷像現像用トナー。
【0092】
<3> 結晶性ポリエステルのアルコール成分中の炭素数2〜10の脂肪族ジオールの含有量が70モル%以上であり、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは実質的に100モル%である、前記<1>又は<2>記載の静電荷像現像用トナー。
【0093】
<4> 結晶性ポリエステルのカルボン酸成分中の芳香族ジカルボン酸化合物及び3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物の総含有量が70モル%以上であり、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは実質的に100モル%である、前記<1>〜<3>いずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【0094】
<5> 結晶性ポリエステルのカルボン酸成分中の3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物の含有量が2〜20モル%であり、好ましくは4〜18モル%であり、より好ましくは4〜15モル%、さらに好ましは4〜10モル%、よりさらに好ましくは5〜8モル%であり、よりさらに好ましくは6〜8モル%である、前記<1>〜<4>いずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【0095】
<6> 結晶性ポリエステルのカルボン酸成分中の芳香族ジカルボン酸化合物の含有量が60〜98モル%であり、好ましくは80〜96モル%、より好ましくは85〜96モル%、さらに好ましくは90〜96モル%、よりさらに好ましくは92〜95モル%であり、よりさらに好ましくは92〜94モル%である、前記<1>〜<5>いずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【0096】
<7> 結晶性ポリエステルの重量平均分子量が20,000以上であって、好ましくは30,000以上、より好ましくは35,000以上、さらに好ましくは60,000以上であり、150,000以下であって、好ましくは130,000以下、より好ましくは110,000以下、さらに好ましくは90,000以下である、前記<1>〜<6>いずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【0097】
<8> 結晶性ポリエステルの数平均分子量が1,500以上であって、好ましくは2,000以上、より好ましくは3,000以上、さらに好ましくは3,500以上であり、6,000以下であって、好ましくは5,500以下、より好ましくは5,000以下、さらに好ましくは4,500以下である、前記<1>〜<7>いずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【0098】
<9> 結晶性樹脂と非晶質樹脂の重量比(結晶性樹脂/非晶質樹脂)が55/45〜75/25であり、好ましく55/45〜70/30、より好ましくは55/45〜65/35、さらに好ましくは55/45〜60/40である、前記<1>〜<8>いずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【0099】
<10> 結晶性樹脂と非晶質樹脂の重量比(結晶性樹脂/非晶質樹脂)が75/25〜95/5であり、好ましくは85/15〜95/5である、前記<1>〜<8>いずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【0100】
<11> 芳香族ジカルボン酸化合物と3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物のモル比(芳香族ジカルボン酸化合物/3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物)が98/2〜70/30であり、好ましくは96/4〜80/20、より好ましくは96/4〜85/15、さらに好ましくは96/4〜90/10、よりさらに好ましくは95/5〜92/8、よりさらに好ましくは、94/6〜92/8である、前記<1>〜<10>いずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【0101】
<12> 結晶性ポリエステルのアルコール成分中の炭素数2〜10の脂肪族ジオールが、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール及び1,10-デカンジオールからなるα,ω−直鎖アルカンジオール、1,2-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、並びに1,4-ブテンジオールからなる群より選ばれた少なくとも1種であり、好ましくは、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール及び1,10-デカンジオールからなる群より選ばれた少なくとも1種のα,ω−直鎖アルカンジオールであり、より好ましくは1,4-ブタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールから選ばれる1種以上である、前記<1>〜<11>いずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【0102】
<13> 結晶性ポリエステルのアルコール成分中の炭素数2〜10の脂肪族ジオールの炭素数が4〜8であり、好ましくは4〜6である、前記<1>〜<11>いずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【0103】
<14> 結晶性ポリエステルのカルボン酸成分中の芳香族ジカルボン酸化合物が、炭素数8〜12のものであって、好ましくはフタル酸化合物、イソフタル酸化合物及びテレフタル酸化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種、より好ましくはフタル酸、イソフタル酸及びテレフタル酸からなる群より選ばれた少なくとも1種である、前記<1>〜<13>いずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【0104】
<15> 結晶性ポリエステルのカルボン酸成分中の3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物が、炭素数9〜15のものであって、好ましくはトリメリット酸化合物、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸化合物及びピロメリット酸化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種、より好ましくはトリメリット酸化合物、さらに好ましくは無水トリメリット酸である、前記<1>〜<14>いずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【0105】
<16> 結晶性ポリエステルの原料モノマーであるカルボン酸成分とアルコール成分との合計モル数中、炭素数2〜10の脂肪族ジオールと芳香族ジカルボン酸化合物及び3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物との合計モル数が75〜100モル%であり、より好ましくは85〜100モル%、さらに好ましくは90〜100モル%、よりさらに好ましくは実質的に100モル%である、前記<1>〜<15>いずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【0106】
<17> 結晶性ポリエステルの軟化点が80℃以上であって、好ましくは95℃以上、より好ましくは105℃以上、さらに好ましくは110℃以上であり、150℃以下であって、好ましくは130℃以下、より好ましくは125℃以下、さらに好ましくは120℃以下である、前記<1>〜<16>いずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【0107】
<18> 結晶性ポリエステルの吸熱の最高ピーク温度(融点)が80℃以上であって、好ましくは95℃以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは105℃以上であり、150℃以下であって、好ましくは130℃以下、より好ましくは120℃以下、さらに好ましくは115℃以下である、前記<1>〜<17>いずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【0108】
<19> 結着樹脂中の結晶性ポリエステルの含有量が55〜95重量%であり、好ましくは55〜75重量%、より好ましくは55〜70重量%、さらに好ましくは55〜65重量%、よりさらに好ましくは55〜60重量%である、前記<1>〜<18>いずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【0109】
<20> 結着樹脂中の結晶性ポリエステルの含有量が55〜95重量%であり、好ましくは75〜95重量%、より好ましくは85〜95重量%である、前記<1>〜<18>いずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【0110】
<21> 非晶質樹脂が非晶質ポリエステルである、前記<1>〜<20>いずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【0111】
<22> 非晶質ポリエステルが式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を含有したアルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステルである、前記<21>記載の静電荷像現像用トナー。
【0112】
<23> 非晶質樹脂中の非晶質ポリエステルの含有量が80重量%以上であり、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは実質的に100重量%である、前記<21>又は<22>記載の静電荷像現像用トナー。
【0113】
<24> 非晶質ポリエステルのアルコール成分中の式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量が70モル%以上であり、好ましくは80〜100モル%、より好ましくは90〜100モル%であり、さらに好ましくは実質的に100モル%である、前記<21>〜<23>いずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【0114】
<25> 非晶質ポリエステルのカルボン酸成分が芳香族ジカルボン酸化合物を含有し、好ましくはテレフタル酸化合物、イソフタル酸化合物及びフタル酸化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種を含有し、より好ましくはテレフタル酸、イソフタル酸及びフタル酸からなる群より選ばれた少なくとも1種を含有し、さらに好ましくはテレフタル酸を含有する、前記<21>〜<24>いずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【0115】
<26> 非晶質ポリエステルのカルボン酸成分中の芳香族ジカルボン酸化合物の含有量が30〜100モル%であり、好ましくは40〜90モル%、より好ましくは50〜85モル%、さらに好ましくは60〜80モル%である、前記<21>〜<25>いずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【0116】
<27> 非晶質ポリエステルのカルボン酸成分が3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物を含有し、好ましくはトリメリット酸化合物、より好ましくは無水トリメリット酸を含有する、前記<21>〜<26>いずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【0117】
<28> 非晶質ポリエステルのカルボン酸成分中の3価以上の芳香族多価カルボン酸化合物の含有量が5〜40モル%であり、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは15〜30モル%である、前記<21>〜<27>いずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【0118】
<29> 非晶質ポリエステルの軟化点が70℃以上であって、好ましくは90℃以上、より好ましくは110℃以上であり、170℃以下であって、好ましくは150℃以下、より好ましくは130℃以下である、前記<21>〜<28>いずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【0119】
<30> 非晶質ポリエステルのガラス転移点が45℃以上であって、好ましくは55℃以上であり、80℃以下であって、好ましくは75℃以下である、前記<21>〜<29>いずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【0120】
<31> 結着樹脂中の非晶質ポリエステルの含有量が5〜45重量%であり、好ましくは25〜45重量%、より好ましくは30〜45重量%、さらに好ましくは35〜45重量%、よりさらに好ましくは40〜45重量%である、前記<21>〜<30>いずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【0121】
<32> 結着樹脂中の非晶質ポリエステルの含有量が5〜45重量%であり、好ましくは5〜25重量%、より好ましくは5〜15重量%である、前記<21>〜<30>いずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【実施例】
【0122】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター(島津製作所、CFT-500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出す。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0123】
〔樹脂の吸熱の最高ピーク温度及び融点〕
示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、Q-100)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、室温から降温速度10℃/分で0℃まで冷却しそのまま1分間静止させた。その後、昇温速度50℃/分で測定した。観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を吸熱の最高ピーク温度とする。最高ピーク温度が軟化点と20℃以内の差であれば融点とする。
【0124】
〔非晶質樹脂のガラス転移点〕
示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、Q-100)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した。次に試料を昇温速度10℃/分で測定した。吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移点とした。
【0125】
〔樹脂の重量平均分子量及び数平均分子量〕
以下の方法により、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により分子量分布を測定し、重量平均分子量及び数平均分子量を求める。
(1) 試料溶液の調製
濃度が0.5g/100mlになるように、試料をクロロホルムに、25℃で溶解させる。次いで、この溶液をポアサイズ0.2μmのフッ素樹脂フィルター(ADVANTEC社製、DISMIC-25JP)を用いて濾過して不溶解成分を除き、試料溶液とする。
(2) 分子量測定
下記の測定装置と分析カラムを用い、溶離液としてクロロホルムを、毎分1mlの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させる。そこに試料溶液100μlを注入して測定を行う。試料の分子量は、あらかじめ作成した検量線に基づき算出する。このときの検量線には、数種類の単分散ポリスチレン(東ソー社製のA-500(5.0×102)、A-1000(1.01×103)、A-2500(2.63×103)、A-5000(5.97×103)、F-1(1.02×104)、F-2(1.81×104)、F-4(3.97×104)、F-10(9.64×104)、F-20(1.90×105)、F-40(4.27×105)、F-80(7.06×105)、F-128(1.09×106))を標準試料として作成したものを用いる。
測定装置:LC-9130NEXT(日本分析工業社製)
分析カラム:TSKGel HXL-H + GMHXL + G3000HXL(東ソー社製)
【0126】
〔樹脂の酸価〕
JIS K0070の方法により測定する。但し、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更する。
【0127】
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、融解熱の最大ピーク温度を融点とする。
【0128】
〔外添剤の平均粒子径〕
走査型電子顕微鏡(SEM)写真から500個の粒子の粒径(長径と短径の平均値)を測定し、それらの平均値を平均粒子径とする。
【0129】
〔トナーの体積中位粒径(D50)〕
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマンコールター社製)
アパチャー径:50μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマンコールター社製)
電解液:アイソトンII(ベックマンコールター社製)
分散液:エマルゲン109P(花王社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB:13.6)を5重量%の濃度となるよう前記電解液に溶解させる。
分散条件:前記分散液5mlに測定試料10mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、前記電解液25mlを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させて、試料分散液を調製する。
測定条件:前記電解液100mlに、3万個の粒子の粒径を20秒間で測定できる濃度となるように、前記試料分散液を加え、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求める。
【0130】
[樹脂Aの製造例]
表1に示す使用量の無水トリメリット酸以外の原料モノマー及びエステル化触媒を窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、200℃で反応率が90%に達するまで反応させた後、8kPaにて1時間反応を行った。その後、205℃に昇温し、常圧に戻し、無水トリメリット酸を投入し、205℃にて常圧で1時間反応させた後、205℃で10.7kPaにて1時間反応を行った。得られた樹脂Aの物性を表1に示す。なお、反応率とは、生成反応水量/理論生成水量×100の値をいう。
【0131】
[樹脂Bの製造例]
表1に示す使用量の無水トリメリット酸以外の原料モノマー及びエステル化触媒を窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、200℃で反応率が90%に達するまで反応させた後、8kPaにて1時間反応を行った。その後、常圧に戻し、無水トリメリット酸を投入し、200℃にて常圧で2時間反応を行った。得られた樹脂Bの物性を表1に示す。
【0132】
[樹脂Cの製造例]
表1に示す使用量の無水トリメリット酸以外の原料モノマー及びエステル化触媒を窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、200℃で反応率が90%に達するまで反応させた後、8kPaにて1時間反応を行った。その後、常圧に戻し、無水トリメリット酸を投入し、200℃にて常圧で1時間反応させた後、200℃で10.7kPaにて1時間反応を行った。得られた樹脂Cの物性を表1に示す。
【0133】
[樹脂Dの製造例]
表1に示す使用量の無水トリメリット酸以外の原料モノマー及びエステル化触媒を窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、200℃で反応率が90%に達するまで反応させた後、8kPaにて1時間反応を行った。その後、210℃に昇温し、常圧に戻し、無水トリメリット酸を投入し、210℃にて常圧で1時間反応させた後、210℃で10.7kPaにて1時間反応を行った。得られた樹脂Dの物性を表1に示す。
【0134】
[樹脂Eの製造例]
表1に示す使用量のフマル酸、無水トリメリット酸、重合禁止剤以外の原料モノマー及びエステル化触媒を窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、200℃で反応率が90%に達するまで反応させた後、8kPaにて1時間反応を行った。その後、180℃に冷却し、常圧に戻し、フマル酸、無水トリメリット酸及び重合禁止剤を仕込み、200℃まで2時間かけて昇温したのち、200℃で10.7kPaにて2時間反応を行った。得られた樹脂Eの物性を表1に示す。
【0135】
[樹脂Fの製造例]
表1に示す使用量の無水トリメリット酸以外の原料モノマー及びエステル化触媒を窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、200℃で反応率が90%に達するまで反応させた後、8kPaにて1時間反応を行った。その後、常圧に戻し、無水トリメリット酸を投入し、200℃にて常圧で1時間反応させた後、200℃で10.7kPaにて1時間反応を行った。得られた樹脂Fの物性を表1に示す。
【0136】
[樹脂Gの製造例]
表1に示す使用量の無水トリメリット酸以外の原料モノマー及びエステル化触媒を窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、200℃で反応率が90%に達するまで反応させた後、8kPaにて1時間反応を行った。その後、常圧に戻し、無水トリメリット酸を投入し、200℃にて常圧で1時間反応させた後、200℃で10.7kPaにて1時間反応を行った。得られた樹脂Gの物性を表1に示す。
【0137】
[樹脂H、Jの製造例]
表1に示す使用量の原料モノマー、エステル化触媒及び重合禁止剤を窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、130℃から200℃まで10時間かけて昇温を行い、200℃で8kPaにて1時間反応を行った。得られた樹脂H、Jの物性を表1に示す。
【0138】
[樹脂Iの製造例]
表1に示す使用量の原料モノマー及びエステル化触媒を窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、210℃で反応率が90%に達するまで反応させた後、8kPaにて2時間反応を行った。得られた樹脂Iの物性を表1に示す。
【0139】
【表1】
【0140】
[非晶質樹脂aの製造例]
ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン3486g、ポリオキシエチレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン3240g、テレフタル酸1881g、テトラプロペニル無水コハク酸269g、2-エチルヘキサン酸錫(II)30g及び没食子酸2gを、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、230℃で反応率が90%に達するまで反応させた後、8.3kPaにて1時間反応させた。次に、220℃に冷却し、常圧に戻し、無水トリメリット酸789gを投入し、220℃にて軟化点が122℃に達するまで反応を行い、非晶質ポリエステル(樹脂a)を得た。樹脂aの軟化点は122℃、ガラス転移点は64℃、吸熱の最高ピーク温度は65℃、[軟化点/吸熱の最高ピーク温度]の値は1.9、酸価は18.9mgKOH/gであった。
【0141】
[非晶質樹脂bの製造例]
ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン3486g、ポリオキシエチレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン3240g、フマル酸1432g、ジターシャリーブチルカテコール5g、2-エチルヘキサン酸錫(II)30g、及び没食子酸2gを、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、180℃から210℃まで5時間かけて昇温して反応させた後、8.3kPaにて1時間反応を行った。その後、常圧に戻し、無水トリメリット酸789gを投入し、1時間常圧で反応させた後、8.3kPaにて軟化点が121℃に達するまで反応を行い、非晶質ポリエステル(樹脂b)を得た。樹脂bの軟化点は121℃、ガラス転移点は58℃、吸熱の最高ピーク温度は63℃、[軟化点/吸熱の最高ピーク温度]の値は1.9、酸価は20.2mgKOH/gであった。
【0142】
[実施例1〜12及び比較例1〜9]
表2に示す所定量の樹脂、着色剤「ECB-301」(大日精化社製、フタロシアニンブルー(P.B.15:3))5.0重量部、負帯電性荷電制御剤「ボントロン E-304」(オリエント化学社製)0.2重量部、離型剤「カルナウバワックスC1」(加藤洋行社製、融点:88℃)3重量部を、ヘンシェルミキサーを用いて1分間混合した後、以下に示す条件で溶融混練した。
【0143】
連続式二本オープンロール型混練機「ニーデックス」(三井鉱山社製、ロール外径:14cm、有効ロール長:80cm)を使用した。連続式二本オープンロール型混練機の運転条件は、高回転側ロール(フロントロール)周速度75r/min(32.97m/min)、低回転側ロール(バックロール)周速度50r/min(21.98m/min)、混練物供給口側端部のロール間隙0.1mmであった。ロール内の加熱媒体温度及び冷却媒体温度は、高回転側ロールの原料投入側が135℃及び混練物排出側が90℃であり、低回転側ロールの原料投入側が35℃及び混練物排出側が35℃であった。また、原料混合物の供給速度は10kg/時間、平均滞留時間は約6分間であった。
【0144】
得られた溶融混練物を冷却ロールで圧延しながら20℃以下に冷却し、冷却された溶融混練物をロートプレックス(東亜機械社製)で3mmに粗粉砕し、その後、流動槽式ジェットミル「AFG-400」(ホソカワアルピネ社製)で粉砕し、ローター式分級機「TTSP」(ホソカワアルピネ社製)で分級して、体積中位粒径(D50)が8.0μmのトナー母粒子を得た。そのトナー母粒子100重量部に疎水性シリカ「RY50」(日本アエロジル社製、平均粒子径40nm)1.0重量部、疎水性シリカ「R972」(日本アエロジル社製、平均粒子径16nm)0.5重量部をヘンシェルミキサー(三井鉱山社製)にて3000r/min(32m/sec)で1分間混合し、トナーを得た。
なお、樹脂Jを用いた場合は、トナー化することができなかった。
【0145】
試験例1[低温定着性]
非磁性一成分現像装置「OKI MICROLINE 5400」(沖データ社製)にトナーを実装し、トナー付着量を0.50mg/cm2に調整して、20mm×30mmのベタ画像を富士ゼロックス社製のXerox L紙に印字した。定着機を通過する前にベタ画像を取りだして未定着画像を得た。得られた未定着画像を有する用紙を非磁性一成分現像装置「OKI MICROLINE 3010」(沖データ社製)の定着機を改造した外部定着機にて、定着ロール温度を100℃に設定し、100mm/secの定着速度で定着させた。その後、定着ロール温度を105℃に設定し、同等の操作を行った。これを200℃まで5℃ずつ上昇させながら行った。
【0146】
底面が50mmφである1000gの重りに白紙(Xerox L紙)を巻き付け、このおもりを各温度で定着させたベタ画像の部分に置き、画像部分の幅にて5往復させた。その後、べた画像の擦られた部分と擦られていない部分の画像濃度を画像濃度測定器「GREGSPM50」(Gretag社製)を用いて測定し、画像濃度の低下率[擦られた部分の画像濃度/擦られていない部分の画像濃度×100]を求めた。画像濃度の低下率が最初に90%を超える定着ロールの温度を最低定着温度とし、低温定着性を評価した。結果を表2に示す。
【0147】
試験例2[耐高温オフセット性]
試験例1で得られた100℃〜200℃の定着画像を目視で確認し、ホットオフセットの発生が見られない定着ロールの最高温度を最高定着温度とした。結果を表2に示す。200℃の定着画像において、ホットオフセットの発生が見られない場合は、「200<」と記載した。
【0148】
試験例3[定着可能温度幅]
試験例1及び2で得られた最高定着温度と最低定着温度の差(最高定着温度−最低定着温度)を定着可能温度幅とした。結果を表2に示す。
【0149】
試験例4[耐久性]
非磁性一成分現像装置「OKI MICROLINE 5400」(沖データ社製)のIDカートリッジにトナーを実装し、温度30℃、相対湿度65%の条件下で、70r/min(36枚/分相当)で空回し運転を行い、現像ロール表面のスジムラ発生を目視にて観察し、スジムラが発生するまでの時間を測定し、耐久性の指標とした。数値が大きいほど、耐久性に優れる。結果を表2に示す。
なお、スジムラとは現像ロール上に付着しているトナー量にばらつきが発生している状態のことをいい、スジムラの発生により、印字の際に画像濃度に濃淡が発生する。
【0150】
試験例5[保存安定性]
20mlのポリビンに、4gのトナーを入れた。トナーの入ったポリビンを、50℃、相対湿度80%の恒温恒湿槽に入れ、ポリビンの蓋をあけた状態で、48時間保存した。放置前後で凝集度を測定し、保存後の凝集度と保存前の凝集度との比[保存後の凝集度/保存前の凝集度]により保存安定性を評価した。この数値が小さいほど、保存安定性に優れる。結果を表2に示す。
【0151】
〔凝集度〕
凝集度は、パウダーテスタ(ホソカワミクロン社製)を用いて測定する。
150μm、75μm、45μmの目開きの篩を重ね、一番上にトナーを4g載せ、1mmの振動幅で10秒間振動させる。振動後、篩い上に残ったトナー量から、下記の計算式を用いて凝集度の計算を行う。
【0152】
【数1】
【0153】
【表2】
【0154】
以上の結果より、実施例1〜12のトナーは、比較例1〜9のトナーと比べて、低温定着性、耐高温オフセット性、定着可能温度幅、耐久性及び保存安定性のいずれにも優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明の静電荷像現像用トナーは、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像等に好適に用いられる。