【課題を解決するための手段】
【0014】
本課題は、請求項1に記載の方法と二つの副請求項に記載の装置及び装置の使用方法によって解決される。それらに関する有利な実施形態は、それぞれ従属請求項から明らかとなる。
【0015】
本発明による検体を検出する装置の製造方法は、次の工程を有する。
a)絶縁性の基板上に、電極の機能を有する第一の導体路を配置する。この導体路は、正しくは直線形状で基板上に配置される。この導体路は、有利には、金、プラチナ及びそれらと同等の物などの材料から構成される。当然のことながら、多くの第一の導体路を同時に配置することができる。本発明の有利な実施形態では、この第一の導体路と、場合によっては、その下及びその上に配置された、第一の導体路を基板及び不活性化部に固定するための固着層とは、後で配置する犠牲層を除去した場合に取り除かれない材料から構成される。この犠牲層をエッチングによって除去する場合、第一の導体路は、犠牲層と比べてエッチングできない材料から構成される。
b)この導体路の上に、薄い第一の不活性化層を配置する、即ち、この導体路を不活性化する。その結果、この導体路は、最早自由にアクセスできる表面を持たず、不活性化部によって完全に覆われる。有利には、それと同時に、基板も一緒に不活性化する。センサーを構成した場合、不活性化部の位置において、有利には、垂直又は水平方向の電荷輸送が起こらない。有利には、不活性化部によって、導体路を筐体で包むことができる。導体路は、導電性の材料から構成され、更に、その場所に析出される電極と共にセンサーを構成するので、この工程によって、基板上に多くのセンサーを形成した場合に、一つの導体路とそれに隣接する導体路に沿った個々のセンサーが互いに接触しないことが保証される。各導体路には、多くのセンサーが形成されるので、有利には、単一の導体路に沿って、そこに形成されたセンサー又は空洞が決して互いに接触しないとの作用も得られる。第一の不活性化部は、特に有利には、後で配置される犠牲層を除去した場合に取り除かれない材料から構成される。この犠牲層をエッチングによって除去する場合、この不活性化部は、犠牲層と比べてエッチングできない材料から構成される。
c)次に、不活性化層は、例えば、エッチングによって、相応に構成されたマスクを用いて局所的に画定された形で、例えば、点状に開口され、その結果、導体路が、局所的に画定された形で、例えば、点状に露出される。そのために、リソグラフィ方法を使用することができる。
d)次に、その開口部内において、導体路上に犠牲層を配置する。この犠牲層は、後で電極の間にナノレベルの空洞を構成するために必要である。この犠牲層は、有利には、エッチングすることが可能であり、例えば、クロム又はそれ以外のエッチング可能な材料から構成される。
e)開口部を閉鎖するために、この犠牲層の上に、例えば、同じく金から成る電極を配置する。この電極の役割は、犠牲層の上の第一の導体路の対向する部分と共にセンサーを構成することである。第一の導体路が、金、プラチナなどから成る材料を選択されているために、常に電極の機能を有するので、電極と第一の導体路の間でセンサーを構成できることが保証される。工程c)〜e)は、特に有利には、単一のリソグラフィ工程で実行され、そのため、第一の導体路上での犠牲層と電極の位置が完璧に揃った形態がセンサーの位置に実現される。それに代わって、本方法の工程e)とf)も、同じマスクを用いて、単一のリソグラフィ工程で実行することができる。
f)次に、電極上において、第二の導体路を第一の導体路に対して直交して配置し、有利には、この第二の導体路は、電極の周縁部とのみ接触する。この導体路は、有利には、リソグラフィ手法で析出されて、電極の位置に開口部を有する。電極と導体路は、工程e)とf)を分離した形で互いに別個に析出される。それによって、有利には、電極と犠牲層を同じマスクを用いて、単一のリソグラフィ工程で析出できるとの作用が得られる。本発明の有利な実施形態では、第二の導体路と、場合によっては、その下及び上に配置された、第二の導体路を第一の不活性化層及びその後に配置される第二の不活性化部と固定するための固着層とは、犠牲層を除去した場合に取り除かれない材料から構成される。犠牲層をエッチングによって除去する場合、第二の導体路は、犠牲層と比べてエッチングできない材料から構成される。
g)次に、第二の不活性化層が、電極と第二の導体路の上に配置され、有利には、第一の不活性化層の上にも配置される。第二の不活性化の意義と目的は、第一の不活性化と同じである。この不活性化は、特に、基板と層構造全体の上に全面に渡って行なわれる。
h)第二の不活性化層と電極は、少なくとも一つの位置を開口され、そのため、電極の下に配置された犠牲層が露出する。それによって、センサーのための少なくとも一つの孔が出来上がり、そこを通して、検体がセンサー電極に到達することができる。
i)次に、犠牲層を除去する。それによって、ナノレベルの空洞が出来上がる。
【0016】
当然のことながら、工程a)〜i)は、複数回順番又は同時に実行できる。例えば、多数の第一の導体路をそれぞれ基板上に互いに並行して同時に配置するとともに、多数の電極を同時に配置することができる。同じことが、例えば、第二の導体路の配置などの本方法のそれ以外の工程にも言える。そのようにして、第一と第二の導体路の各交差点に、二つの電極がナノレベルの空洞を形成するセンサーから成る格子模様のセンサー領域が構成される。
【0017】
特に有利には、第一の導体路上の第一の不活性化層は、犠牲層を除去している間に取り除かれない。それによって、専ら第一の導体路と第二の導体路の間の交差点の領域に空洞が形成される。
【0018】
本発明によるセンサーの製作に関して、新しい形式の製造プロセスが採用されている。非特許文献1と2は、クロムから成る固着層を用いて、固着させる層に導体路を固定する製造プロセスを記載している。それは、クロムの犠牲層と共に固着層を除去するとともに、固着層で覆われていない、所望の材料から成る電極を維持するために必要である。
【0019】
本発明の範囲内において、そのような犠牲層のエッチング工程は不正確にしか制御できないことが分かった。非特許文献1と2の場合、製造中に、ナノレベルの空洞からそれと隣接する空洞に繋がるナノレベルの通路が導体路の上又は下に生じることが欠点である。チェス盤構造では、個々の隣り合うセンサーの間に、そのような直接的な接続部が生じると、その結果、高い空間分解能の測定が不可能となる。そのため、本発明では、工程b)を請求項1に追加した。この不活性化によって、ナノレベルの空洞を互いに分離することが可能である。
【0020】
その作用は、有利には、非特許文献1と2による従来技術などのクロム製の固着層をも不要とし、そのため、例えば、チタン製の固着層を用いて、全ての導体路を基板と不活性化部に固定できることである。後で犠牲層を除去する場合に、導体路が、不活性化部と同様に浸食されない状態で残る。
【0021】
即ち、交差点に析出させた(上部)電極とその交差点における第一の導体路の部分の間には、検体の酸化還元反応のために使用される電極の対(センサー)が構成されることとなる。この隙間Sを有するナノレベルの空洞は、孔を通してしか外からアクセスできないので、検体は、そこに上方から入り込んで(図面を参照)、電極に拡散することによって、二つの電極の何れに正又は負の電圧を印加するのかに応じて、順番に還元及び酸化させることができる。
【0022】
本方法は、有利には、エッチング可能な犠牲層を選択することを特徴とする。湿式化学方式でも乾式化学方式でもエッチングすることができる。
【0023】
特に有利には、工程c)〜e)は、一つのマスクだけを用いて、単一のリソグラフィ工程で実行される。それは、第一の導体路の上の犠牲層と電極の位置を正確に合わせることを保証する。それによって、電極とそれに対向する第一の導体路の部分の上下方向の位置を正確に整合させて、それにより検体を検出するためのセンサーを構成することを保証している。
【0024】
それに代わって、同じマスクを用いて単一のリソグラフィ工程で工程e)とf)を実行することもできる。
【0025】
特に有利には、第二の不活性化層と電極の開口作業が、六角形に配置した孔によって行なわれる。そのために、当業者は、一方における(孔を形成する場合に上部電極の材料が取り除かれるので)センサー面の維持と、他方における検体用のナノレベルの空洞へのアクセス可能性とを慎重に検討する。直径がナノメートルレベル(例えば、250nmまで)の複数の小さい孔は、検出すべき検体が孔を通って電極の間の隙間Sに良好に拡散できることと、それらと比べて非常に大きい(例えば、直径が100μmまでの)電極面を維持すると同時に、検体を順番に酸化還元反応させることによる検出が確実に実施されることとが保証される。特に有利には、複数の孔は、センサーの応答時間を短縮する。
【0026】
更に、有利には、複数の孔は、例えば、神経刺激伝達物質を拡散させた場合に、それによって局所的に分布したニューロンにより如何なることが期待できるかなどの、測定用交差点の近くの検体濃度の速い変化に関するセンサーの応答動作を改善する。この場合には、検体によるセンサーの極端に短い暴露しか起こらず、電極の間のナノレベルの空洞内に実際に存在する検体分子しか検出できないので、この場合のセンサー応答レベルは、特に、ナノレベルの空洞に対する開口部の隙間の長さによって決まる。即ち、多くの小さい開口部により隙間の開口部を著しく局所的に長くすることは、基本的に短い正の濃度変化を検出するのに有利である。
【0027】
検体を検出する装置は、互いに直交して延びる少なくとも二つの導体路の間の交差点に、導体路の間に検体を収容するための閉じたナノレベルの空洞を配置しており、このナノレベルの空洞を形成する隙間Sの上と下における第一と第二の導体路の二つの対向する領域が、一つのセンサー用の電極を構成し、このセンサーが、これらの電極で検体を順番に酸化及び還元させることによって、検体の検出を可能とすることを特徴とする。これらの電極は、第二の導体路と同じ材料から構成されるとともに、その導体路と同じ面内に配置される。このナノレベルの空洞は、工程h)で形成された開口部の方から見て、別の出入口を持たないので、閉じている。これらのナノレベルの空洞は、特に、別のナノレベルの空洞との横方向の接続部を持たない。ナノレベルの空洞の間の接続は、センサーの入口(孔)を介してのみ行なうことができる。これらの導体路は、有利には、交差点を除いて不活性化される。
【0028】
本発明の実施形態では、本装置には、多数の互いに直交して配置された導体路の多数の交差点が配置されている。各交差点には、二つの直交する導体路の間で一つのナノレベルの空洞が形成される。隣り合うナノレベルの空洞の間には、センサーの入口(孔)自体以外を介した接続部、特に、検体を拡散させるための接続部は存在しない。そのことは、有利には、各ナノレベルの空洞とそれを取り囲む導体路の部分が閉じた検出用センサーシステムを構成するので、センサー領域の高い空間分解能が得られる。また、個々の各センサーの感度は、酸化還元サイクルによって保証される。
【0029】
このようにして、特に有利には、100μm
2の基板面に約6個のセンサーを配置することができる。リン氏などによる従来技術と比較すると、従来技術では、各センサーが約60,000μm
2の面を占めることを指摘したい。
【0030】
導体路の交差点において、それぞれ測定が行なわれ、その際、酸化還元サイクルの作用を活用している。測定プロセスの間、個々の交差点での信号は、任意選択により順番に、或いは列単位で読み取ることができる。
【0031】
順番にデータを収集する場合、それぞれ二つの互いに直交する導体路が酸化及び還元用電圧を印加される一方、それ以外の全ての電極は、理想的にはスイッチオンされないか、或いは電極の間に酸化還元サイクルを起こさない電圧が印加される。即ち、酸化還元サイクルは、正確に一つの交差点において起こり、それに対応する二つの動作電極の中の一方における酸化還元サイクルの電流を読み取ることができる。測定の間、酸化還元サイクルの電流の外に、ナノレベルの空洞では、動作電極に沿ってファラデー電流も発生する。しかし、酸化還元サイクルの効果によって電気化学的な信号が大きく増幅されるために、その電流は、酸化還元サイクルの信号と比べて無視できる。
【0032】
列単位で並行してデータを収集する場合、複数の平行な電極Aが、それぞれ酸化又は還元用電圧を印加される一方、それに対して直交する電極Bは、それと逆の還元又は酸化用電圧を印加される。その際、それ以外の全ての電極は、スイッチオンされないか、或いは酸化還元サイクルを起こさない電圧が印加される。即ち、電極AとBの全ての交差点において、酸化還元サイクルが同時に起こる。そして、電極Aにおける酸化還元サイクルの電流を並行して測定することができ、それに対して、電極Bには、電極Aの酸化還元電流の合計が流れる。
【0033】
本装置の有利な使用方法は、検体として神経刺激伝達物質を検出することである。
【0034】
本装置は、前述した通り不活性化されるので、生体適合性をも有する。本装置の表面にタンパク質を塗布することによって、本装置の上で直接神経細胞を培養することができる。そこに分布する神経刺激伝達物質は、リアルタイムに検出される。
【0035】
更に、実施例に基づき本発明を詳しく説明するが、それによって、本発明は制約されない。