【実施例】
【0033】
以下、実施例を用いて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
下記実施例1〜3において用いられた、試薬の一覧、器具の一覧およびCOSARTE−2Gの成分組成を、表1〜3に示す。なお、下記試薬およびその試薬を用いて調製された液における「%」は、特に断りが無い限り、質量%を示す。
【表A】
【0034】
[実施例1]
以下に示す実施例にて、グルコピラノシルグリセロールの光変性の抑制作用を評価した。
【0035】
試験試料の調製
「10%COSARTE−2G溶液」
メスフラスコ(容量:20ml)に、COSARTE−2G 2gを入れ、イオン交換水を徐々に加え、イオン交換水とCOSARTE−2Gとを混合しながら、COSARTE−2Gをイオン交換水に溶解させ、次いで、イオン交換水をメスフラスコ内の溶液が、容量が20mlであることを示す標線に至るまで、加えて、「10%COSARTE−2G溶液」を調製した。
【0036】
「10%グリセリン溶液」
メスフラスコ(容量:20ml)に、グリセリン 2gを入れ、イオン交換水を徐々に加えながら、イオン交換水とグリセリンとを混合しながら、グリセリンをイオン交換水に溶解させ、次いで、イオン交換水をメスフラスコ内の溶液が、容量が20mlであることを示す標線に至るまで、加えて、「10%グリセリン溶液」を調製した。
【0037】
「蛋白質試料液」
「GELATIN TYPE A」1.2gをビーカー(容量:100mL)に入れ、イオン交換水約80mLを加えて穏やかに加温しながら、「GELATIN TYPE A」をイオン交換水に溶解させて、ゼラチン溶液を調製した。調製されたゼラチン溶液を、メスシリンダーに入れ、イオン交換水に溶解させ、次いで、イオン交換水をメスシリンダー内の溶液が、容量が100mlであることを示す標線に至るまで、加えて、蛋白質試料液を調製した。
【0038】
「リボフラビン飽和液」
ポリプロピレン製チューブ(容量:15ml)にリボフラビン0.06gを入れ、イオン交換水12mLを加え、蓋をして、撹拌し、さらに超音波発生装置を用いて、リボフラビンをイオン交換水に溶解させて、カートリッジフィルター(最小保留粒子径:0.45μm、PTFE製)に通して、「リボフラビン飽和溶液」を調製した。
【0039】
調製された「リボフラビン飽和溶液」に、3倍量の体積のイオン交換水を加えて希釈液を調製し、分光光度計(測定波長:450nm)を用いて、吸光度を測定した。測定された吸光度と、既知濃度の標準試料から作製された検料線とを用いて、リボフラビンの濃度を算出したところ、希釈液のリボフラビン濃度は42.08ppmであることから、リボフラビン飽和溶液中のリボフラビン濃度は168.32ppmと推定された。なお、本実施例では、「リボフラビン飽和溶液」は、UV照射による蛋白質の光変性を促進するために使用された。
【0040】
[蛋白質の変性の抑制作用の評価]
ポリスチレン製の試験管に、「蛋白質試料液」5mLと「リボフラビン飽和液」1.1mLとを入れて混合し、次いで、「10%COSARTE−2G溶液」0.1mLを加え、試験管に蓋をした後、十分に混合して、試料液1Aを調製した。また、「10%COSARTE−2G溶液」0.1mLの代わりに「10%グリセリン溶液」0.1mLを用いたこと以外は、試料液1Aと同様にして、試料液2Aを調製した。また、「10%COSARTE−2G溶液」および「10%グリセリン溶液」を用いず、これらの代わりにイオン交換水0.1mLを用いたこと以外は、試料液1と同様にして、試料液3Aを調製した。
【0041】
得られた各試料液を含む試験管を、蓋が上向きになるように、試験管立てを用いて固定した。
次いで、恒温恒湿槽の槽内に、紫外線照射装置を設置し、槽内の温度を、25℃になるように設定した(湿度については未設定)。
【0042】
恒温恒湿槽の槽内に、紫外線照射装置から約14cm離れた位置に、試験管立てで固定された試験管を置き、紫外線照射装置を用いて、365nmの波長の紫外線を、前記試験管に20時間照射した。照射後、試験管立てから各試験管を取り出し、試験管の蓋部分を下向きにして、各試料液の硬化状態を目視で観察した。
【0043】
図1の「試料液2A」および「試料液3A」に示されるように、試料液2A〜3Aは、部分的に試験管の下部に移動するに留まり、大部分は、試験官の壁面に付着していた。この結果は、紫外線照射によって、蛋白質の光変性が進行し、試料液の粘度が増大したことに起因する。
【0044】
一方、
図1の「試料液1A」に示されるように、試料液1Aは、ほぼ全量、試験管の下部に移動していた。この結果は、紫外線照射による蛋白質の光変性が効果的に抑制され、試料液の粘度の増大が抑制されたことに起因する。
【0045】
したがって、グルコピラノシルグリセロールは、紫外線による蛋白質の光変性を抑制する効果を有効に発揮することが実証され、ラジカルによる蛋白質の変性および/または分解を抑制するための変性・分解抑制剤の有効成分として好適であることが理解される。
【0046】
[実施例2]
以下に示すように、グルコピラノシルグリセロールの光変性の抑制作用およびヒドロキシラジカルによる分解の抑制作用を評価した。
【0047】
試験試料の調製
「31%COSARTE−2G溶液」
メスフラスコ(容量:50ml)に、COSARTE−2G 15.5gを入れ、イオン交換水を徐々に加え、イオン交換水とCOSARTE−2Gとを混合しながら、COSARTE−2Gをイオン交換水に溶解させ、次いで、イオン交換水をメスフラスコ内の溶液が、容量が50mlであることを示す標線に至るまで、加えて、「31%COSARTE−2G溶液」を調製した。
【0048】
「31%グリセリン溶液」
メスフラスコ(容量:50ml)に、グリセリン 15.5gを入れ、イオン交換水を徐々に加えながら、イオン交換水とグリセリンとを混合しながら、グリセリンをイオン交換水に溶解させ、次いで、イオン交換水をメスフラスコ内の溶液が、容量が50mlであることを示す標線に至るまで、加えて、「31%グリセリン溶液」を調製した。
【0049】
「蛋白質試料液」
「1.0%ゼラチン水溶液」
A型ゼラチン 0.50gをビーカー(容量:50mL)に入れ、イオン交換水約40mLを加えて、湯煎(約60度)で穏やかに加温しながら、「GELATIN TYPE A」をイオン交換水に溶解させて、ゼラチン溶液を調製した。調製された溶液を、メスシリンダーに入れ、イオン交換水に溶解させ、次いで、イオン交換水をメスシリンダー内の溶液が、容量が50mlであることを示す標線に至るまで、加えて、「1.0%ゼラチン水溶液」を調製した。
「1.2%エラスチン水溶液」
エラスチン 0.60gをビーカー(容量:50mL)に入れ、イオン交換水約40mLを加えて、エラスチンをイオン交換水に溶解させて、エラスチン溶液を調製した。調製された溶液を、メスシリンダーに入れ、イオン交換水に溶解させ、次いで、イオン交換水をメスシリンダー内の溶液が、容量が50mlであることを示す標線に至るまで、加えて、「1.2%エラスチン水溶液」を調製した。
「5.0%血清アルブミン水溶液」
血清アルブミン 2.50gをビーカー(容量:50mL)に入れ、イオン交換水約40mLを加えて、血清アルブミンをイオン交換水に溶解させて、血清アルブミン溶液を調製した。調製された溶液を、メスシリンダーに入れ、イオン交換水に溶解させ、次いで、イオン交換水をメスシリンダー内の溶液が、容量が50mlであることを示す標線に至るまで、加えて、「5.0%血清アルブミン水溶液」を調製した。
【0050】
「リボフラビン飽和液」
ポリプロピレン製チューブ(容量:15ml)にリボフラビン約0.5gを入れ、イオン交換水約10mlを加え、蓋をして、撹拌し、さらに超音波発生装置を用いて、リボフラビンをイオン交換水に溶解させて、カートリッジフィルター(最少保留粒子径:0.45μm、PTFE製)に通して、「リボフラビン飽和溶液」を調製した。なお、本実施例では、該「リボフラビン飽和溶液」は、UV照射による蛋白質の光変性を促進するために使用された。
【0051】
「APPH水溶液」
メスフラスコ(容量:100ml)に、APPH 0.02gを入れ、イオン交換水を徐々に加えながら、イオン交換水とAPPHとを混合しながら、APPHをイオン交換水に溶解させ、次いで、イオン交換水をメスフラスコ内の溶液が、容量が100mlであることを示す標線に至るまで、加えて、「APPH水溶液」を調製した。
【0052】
[紫外線照射のよる蛋白質変性・分解の抑制作用の評価]
ポリスチレン製の試験管に、表4に示されるような添加量で各成分を混合して、試料液1B〜4Bを調製し、UV照射装置を用いて、各試験試料を含む試験管に、室温下で、紫外線(波長365nm)を50分間照射するか、あるいは紫外線を照射する処理の代わりに、室温下で、暗所にて50分間放置した。次いで、下記「相対粘度(%)」に準拠して、各試料の相対粘度(%)を算出した。
【0053】
同様にして、表4に示されるような添加量で各成分を混合して、試料液5B〜8Bを調製し、各試料液の相対粘度(%)を算出した。得られた試料液1B〜8Bの結果を表1および
図2A〜2Bに示す。
[相対粘度(%)]
キャピラリーを、試料液を含む試験管に略鉛直方向に挿して、試料液を、容量が50μLであることを示す標線まで吸い上げた後、キャピラリーを試験管から抜き出した。次いで、キャピラリーを180度転倒させて、転倒してから5秒後おいて、標線からの各試料の移動距離(X)を測定した。
【0054】
測定された試料液1B〜4Bの移動距離(x)および下記式(1)に基づいて、試料液1B〜4Bの移動比率(相対粘度(%))を算出した。同様にして、試料液1B〜4Bの移動比率(相対粘度(%))を算出した。
【0055】
【数1】
【0056】
試料液中の蛋白質が、紫外線の照射または活性酸素の曝露によって変性や分解すると、蛋白質の立体構造が変化したことに起因して、蛋白質の相対粘度が変化する。そのため、試料中の相対粘度(%)の値が、同一蛋白質を含み、かつ紫外線照射処理または活性酸素曝露処理に供された試料の相対粘度(%)の値に近いほど、試料中で生じている蛋白質の変性の程度が大きいことを示す。一方で、試料液中の相対粘度(%)の値が、同一蛋白質を含み、かつ紫外線照射処理または活性酸素曝露処理の何れにも供されていない試料液の相対粘度(%)の値に近いほど、試料中で生じている蛋白質の変性の程度が小さいことを示す。
【0057】
なお、紫外線照射による変性では、蛋白質の高次構造(立体構造)が崩れて、蛋白質の粘度が上昇するのに対して、活性酸素の曝露による変性では、蛋白質の立体構造の崩壊(変性)のみならず、蛋白質の断片化(分解)が生じるために、粘性が低下する傾向にある。
【表B】
【0058】
[活性酸素の曝露による対象蛋白質変性・分解の抑制作用の評価]
ポリスチレン製の試験管に、表5に示されるような添加量で各成分を混合して、試験試料液を調製し、各試験試料液を含む試験管を、40℃の温度条件下で、暗所にて20時間放置した。なお、試料液がAPPH水溶液を含む場合、該試料液中の蛋白質は活性酸素に曝露されている。
【0059】
次いで、上記[相対粘度(%)]に準拠して、各試料の相対粘度(%)を算出した。得られた結果を表5および
図3A〜Cに示す。
【表C】
【0060】
図2A〜2Bに示されるように、試料液3Bおよび試料液7Bの相対粘度の値は、それぞれ、試料液4Bおよび試料液8Bの相対粘度の値と比べて、試料液1Bおよび試料液5Bの相対粘度(%)の値に近い。すなわち、グルコピラノシルグリセロールと蛋白質(ゼラチンおよびエラスチン)とを共存させると、紫外線照射に起因する蛋白質の変性の程度が小さいことが示された。
【0061】
この結果によると、実施例1と同様に、グルコピラノシルグリセロールは、紫外線照射によって生じたラジカルによる蛋白質の光変性を抑制する効果を有効に発揮すること、および紫外線照射によって生じたラジカルによる蛋白質の変性および/または分解を抑制するための変性・分解抑制剤の有効成分として好適であることが理解される。
【0062】
また、
図3Aに示されるように、試料液3Cの相対粘度の値は、試料液4Cの相対粘度の値と比べて、試料液1Cの相対粘度(%)の値に近い。すなわち、グルコピラノシルグリセロールと蛋白質とを共存させると、APPHに由来するヒドロペルオキシラジカル等の活性酸素の曝露によって生じるラジカルによる、ゼラチンの分解の程度が小さいことが示された。また、
図3A〜3Cに示されるように、蛋白質をゼラチンからエラスチンまたは血清アルブミンに変更しても、同様に、グルコピラノシルグリセロールと蛋白質とを共存させると、APPHに由来するヒドロペルオキシラジカル等の活性酸素の曝露によって生じる、蛋白質の分解の程度が小さいことが示された。
【0063】
この結果によると、グルコピラノシルグリセロールは、活性酸素の曝露による蛋白質の分解を抑制する効果を有効に発揮すること、およびラジカルによる蛋白質の変性および/または分解を抑制するための変性・分解抑制剤の有効成分として好適であることが理解される。