特許第6061474号(P6061474)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6061474ラジカルによる蛋白質の変性および/または分解の抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061474
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】ラジカルによる蛋白質の変性および/または分解の抑制方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 15/06 20060101AFI20170106BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20170106BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20170106BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20170106BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   C09K15/06
   A61K8/60
   A61K8/64
   A61K47/26
   A61Q19/08
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-32732(P2012-32732)
(22)【出願日】2012年2月17日
(65)【公開番号】特開2013-170172(P2013-170172A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2014年12月12日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591061068
【氏名又は名称】東洋精糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】貴戸 武利
(72)【発明者】
【氏名】大角 仁美
(72)【発明者】
【氏名】相澤 恭
(72)【発明者】
【氏名】飯田 純久
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−099472(JP,A)
【文献】 特表2012−500781(JP,A)
【文献】 特開平09−124457(JP,A)
【文献】 特開2004−229668(JP,A)
【文献】 特開2004−331578(JP,A)
【文献】 特開2004−331581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00− 5/20
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−99/00
A23L 1/27− 1/308
A23L 3/00− 3/3598
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカルによる蛋白質の変性および/または分解を抑制するための対象蛋白質を含む、化粧料または医薬品としての蛋白質溶液または蛋白質分散液に対し、グルコピラノシルグリセロール(A1)および/またはその誘導体(A2)を加えて、前記対象蛋白質と共存させる工程を含むことを特徴とする、ラジカルによる蛋白質の変性および/または分解の抑制方法。
【請求項2】
前記対象蛋白質100重量部に対し、グルコピラノシルグリセロール(A1)を1〜40重量部加えて、前記対象蛋白質と共存させる工程を含むことを特徴とする、請求項に記載のラジカルによる蛋白質の変性および/または分解の抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカルによる(たとえば、紫外線照射等の光照射や活性酸素の曝露などにより発生したラジカルによる)、蛋白質の変性や分解を抑制するための変性・分解抑制剤に関する。また、本発明は、該変性・分解抑制剤を含む変性・分解抑制剤含有組成物および、該変性・分解抑制剤を用いた、ラジカルによる蛋白質の変性および/または分解の抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グルコピラノシルグリセロール(GG、α−D−グルコピラノシルグリセロール)は、バクテリアやラン藻類から同定された化合物であり、日本酒に中に微量に存在することも報告されている。特許文献1では、アスペルギルス・ニガー由来のα−グルコシダーゼを用いてグルコピラノシルグリセロールを製造する方法(酵素法)も開示されている。
【0003】
グルコピラノシルグリセロールは、ラン藻類の生体内では、浸透圧調節物質として機能することや(非特許文献1参照)、清酒(日本酒)では、「幅のある味」や「押し味」を付与する(特許文献1参照)ことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3569432号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】和田元、村上紀夫「ラン藻における膜系の構築と低温耐性の機構」、蛋白質 核酸 酵素 vol.36 9 1991 1604−1610
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ラジカルによる(たとえば、紫外線照射等の光照射や活性酸素の曝露により発生したラジカルに起因する)蛋白質の変性や分解を抑制することができる変性・分解抑制剤および該変性・分解抑制剤を含む変性・分解抑制剤含有組成物を提供することを目的としている。また、本発明は、ラジカルによる(たとえば、紫外線照射等の光照射や活性酸素の曝露により発生したラジカルに起因する)蛋白質の変性や分解を抑制することができる、蛋白質の変性および/または分解の抑制方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、グルコピラノシルグリセロールおよびその誘導体の性質について、鋭意検討した結果、グルコピラノシルグリセロールおよび/またはその誘導体と蛋白質とを共存させると、紫外線照射などの光照射や活性酸素の曝露等により発生したラジカルに起因する蛋白質の変性や分解など、ラジカルによる蛋白質の変性および/または分解が効果的に抑制されることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1]グルコピラノシルグリセロール(A1)および/またはその誘導体(A2)を有効成分として含むことを特徴とする、ラジカルによる蛋白質の変性および/または分解を抑制するための、変性・分解抑制剤。
[2][1]に記載の変性・分解抑制剤を含むことを特徴とする、変性・分解抑制剤含有組成物。
[3][1]に記載の変性・分解抑制剤を含むことを特徴とする、飲食品、化粧料、雑貨、医薬品、または医療機器。
[4][1]に記載の蛋白質の変性および/または分解の抑制剤と蛋白質とを、共存させる工程を含むことを特徴とする、ラジカルによる蛋白質の変性および/または分解の抑制方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る蛋白質の変性・分解抑制剤は、ラジカルによる(たとえば、紫外線照射等の光照射またはヒドロキシラジカル等の活性酸素の曝露により発生するラジカルによる)、蛋白質の変性や分解を効果的に抑制することができる。
【0010】
また、本発明に係る変性・分解抑制剤含有組成物は、変性・分解抑制剤を含むために、対象蛋白質を含む場合、または対象蛋白質の存在下で使用された場合、該蛋白質の、光変性やヒドロキシラジカル等の活性酸素の曝露による分解など、ラジカルによる蛋白質の変性および/または分解を効果的に防ぐことができる。たとえば、該変性・分解抑制剤を含む化粧料が、皮膚に適用されるものである場合、日光や活性酸素による、皮膚組織を構成する蛋白質(ケラチン、コラーゲン等)の変性を抑制できたり、有効成分として蛋白質成分(たとえば、酵素など)を含む場合、上記の変性による酵素の失活など蛋白質成分の機能低下を防いだりできる。また、該変性・分解抑制剤を含む飲食品は、日光や活性酸素による、ラジカルによる蛋白質成分の変性および/または分解を抑制でき、延いては、食品に含まれる蛋白質に起因する特性・機能の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例1の、紫外線照射による蛋白質の変性の抑制作用の評価結果を示す図である。
図2図2は、実施例2の、紫外線照射のよる蛋白質変性・分解の抑制作用の評価結果を示す図である。
図3図3は、実施例2の、活性酸素の曝露による対象蛋白質変性・分解の抑制作用の評価の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の蛋白質の変性・分解抑制剤、変性・分解抑制剤含有組成物、および変性・分解抑制剤を用いた蛋白質の蛋白質の変性および/または分解の抑制方法について詳細に説明する。
【0013】
1.変性・分解抑制剤
本発明に係る蛋白質の変性・分解抑制剤は、ラジカルによる蛋白質の変性および/または分解を抑制するために用いられる剤である。ここで、ラジカルによる蛋白質の変性や分解とは、具体的には、光(紫外線など)の照射や活性酸素(スーパーオキシドアニオンラジカル、ヒドロキシルラジカル、過酸化水素、一重項酸素、ヒドロペルオキシラジカルなど)の曝露などにより発生するラジカルに起因する、対象蛋白質の変性や分解が挙げられる。中でも、本発明に係る蛋白質の変性・分解抑制剤は、UVA、UVBの照射による光変性やヒドロキシルラジカルの曝露に起因する、蛋白質の分解を効果的に抑制することができる。
【0014】
なお、対象蛋白質の変性または分解の抑制効果は、たとえば、後述する実施例1〜2で示されるような、対象蛋白質の粘度変化を評価方法で評価することができる。ラジカルによる蛋白質の変性または分解が、紫外線等の光照射によるものである場合では、蛋白質自体の分解の程度は小さいものの、蛋白質の高次構造(立体構造)が崩れて、蛋白質の粘度が上昇する傾向がある。一方、活性酸素の曝露によるものである場合では、蛋白質の立体構造の崩壊(蛋白質の変性)のみならず、蛋白質の一次構造の断片化(分解)が生じるために、粘性が低下する傾向にある。
【0015】
また、本発明に係る変性・分解抑制剤は、有効成分として、グルコピラノシルグリセロール(A1)および/またはその誘導体(A2)を含むことを特徴としている。なお、「グルコピラノシルグリセロール(A1)」と「その誘導体(A2)」とを「(A)成分」と総称することもある。
【0016】
グルコピラノシルグリセロール(A1)とは、グリセリンと付加糖との脱水縮合物であって、付加糖は、1分子のグルコースであってもよいし、2分子以上のグルコース(たとえば、マルトース)であってもよく、「グルコシルグリセロール」とも称される。
【0017】
グルコピラノシルグリセロール(A1)としては、たとえば、(2R)−1−O−α−D−グルコピラノシルグリセロール(下記化学式(1))、(2S)−1−O−α−D−グルコピラノシルグリセロール(下記化学式(2))、2−O−α−D−グルコピラノシルグリセロール(下記化学式(3))などのα−D−グルコピラノシルグリセロール、(2R)−1−O−β−D−グルコピラノシルグリセロール(下記化学式(4))、(2S)−1−O−β−D−グルコピラノシルグリセロール(下記化学式(5))、2−O−β−D−グルコピラノシルグリセロール(下記化学式(6))などのβ−D−グルコピラノシルグリセロールである。付加糖が2分子のグルコースである場合、グルコース間の結合様式はα−1,4結合、β−1,4結合、α−1,6結合、β−1,6結合さらには、α−1,2結合、β−1,2結合の何れであってもよい。なお、これらのグルコピラノシルグリセロール(A1)は、1種単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
【化1】
【0019】
グルコピラノシルグリセロール(A1)を得る方法としては、カビ類のα−グルコシダーゼまたはシクロマルトデキストリングルコシルトランスフェラーゼをグリセロール溶液中で糖類の基質に作用させる方法、清酒,味噌,みりん等の醸造物から抽出・精製する方法、イソマルトース,マルチトールなどを四酢酸鉛や過ヨウ素酸塩でグリコール開裂したものを還元する方法、Koenigs−Knorr反応により合成したβ−グルコシドをアノメリゼーションした後、β−グルコシダーゼでβ−グルコシドを加水分解する方法、さらにグリセロール溶液中にグルコースと触媒を加えて加熱し、化学的にグリセロールに糖を付加する方法などが挙げられる。この中でも、低コストで効率良く得られるという観点から、グリセロール溶液中にグルコースと触媒を加えて加熱し、化学的にグリセロールに糖を付加する方法が特に好ましい。
【0020】
また、グルコピラノシルグリセロールの誘導体(A2)は、上記にて例示されたようなグルコピラノシルグリセロール(A1)を誘導体化したものであり、たとえば、アシル化グルコピラノシルグリセロール、カチオン化グルコピラノシルグリセロール、アニオン化グルコピラノシルグリセロールなどが挙げられる。なお、これらのグルコピラノシルグリセロールの誘導体(A2)は、1種単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
本発明の蛋白質の変性・分解抑制剤において、ラジカルによる(たとえば、光照射による光変性やヒドロキシラジカル等の活性酸素の曝露により発生したラジカルよる)蛋白質の変性および/または分解を抑制するための対象となる蛋白質(対象蛋白質)は、特に限定されない。たとえば、該対象蛋白質としては、(A)成分による光変性抑制作用が良好であるという観点から、光変性による影響が大きい皮膚細胞を形成する蛋白質(たとえば、コラーゲン、エラスチンなど)などが好適に挙げられる。
【0022】
また、本発明の変性・分解抑制剤は、対象蛋白質と、ラジカルによる該蛋白質の変性および/または分解(たとえば、該蛋白質の光変性やヒドロキシラジカル等の活性酸素の曝露などによる分解)を抑制するのに有効な(A)成分の量になるように、(A)成分を含む。たとえば、(A)成分を、前記対象蛋白質100重量部に対して、通常1〜40重量部、好ましくは5〜30重量部、より好ましくは10重量部〜20重量部の量で対象蛋白質と共存可能なように、本発明の変性・分解抑制剤には、(A)成分が含まれることが望ましい。このような含有量で(A)成分が含まれると、対象蛋白質の変性や分解の抑制作用を一層向上することができる。
【0023】
本発明の変性・分解抑制剤は、対象蛋白質の変性や分解の抑制作用を一層向上できるという観点からは、(A)成分の他に、溶剤(溶媒、分散媒)を含むこと、あるいは対象蛋白質が溶媒に溶解されてなる蛋白質溶液または分散媒に分散されてなる蛋白質分散液に、使用されることが好ましい。
【0024】
また、溶剤としては、水、燐酸緩衝液等の各種緩衝液などの水性溶剤が挙げられる。また、該水性溶剤には、適宜、エタノール、イソプロピルアルコール、グリセリンなどのアルコール類が含まれていてもよい。
【0025】
本発明の変性・分解抑制剤は、グルコピラノシルグリセロール(A1)および/またはその誘導体(A2)とともに、その他の成分((B)成分)を含んでいてもよい。
(B)成分としては、体質顔料(シリカ、マイカ、タルク、酸化亜鉛等)、賦形剤(乳糖、デキストリン、コーンスターチ、結晶セルロースなど)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルなど)、崩壊剤(カルボキシメチルセルロースカルシウム、無水リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウムなど)、結合剤(デンプン糊液、ヒドロキシプロピルセルロース液、アラビアガム液など)、溶解補助剤(アラビアガム、ポリソルベート80など)、甘味料(砂糖、果糖、ブドウ糖液糖、ハチミツ、アスパルテームなど)、着色料(β−カロテン、食用タール色素、リボフラビンなど)、保存料(ソルビン酸、パラオキシ安息香酸メチル、亜硫酸ナトリウムなど)、増粘剤(アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウムなど)、酸化防止剤(BHT、BHA、アスコルビン酸、トコフェロールなど)、香料(ハッカ、ストロベリー香料など)、酸味料(クエン酸、乳糖、DL−リンゴ酸など)、調味料(DL−アラニン、5´−イノシン酸ナトリウム、L−グルタミン酸ナトリウムなど)、乳化剤(グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなど)、pH調整剤(クエン酸、クエン酸三ナトリウムなど)、ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸類)、保湿剤(ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルグルコシドエーテル、加水分解コラーゲンなど)、界面活性剤(両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤)、殺菌剤(トリクロサン、トリクロロカルバニリドなど)が挙げられ、本発明の変性・分解抑制剤を使用する目的に応じて適宜選択される。なお、後述する変性・分解抑制剤含有組成物を調製するに先だって、上記(B)成分が予め、変性・分解抑制剤に含まれていてもよい。
【0026】
2.変性・分解抑制剤を含む、組成物、飲食品、化粧料、雑貨、医薬品、および医療機器
本発明の変性・分解抑制剤含有組成物は、上記変性・分解抑制剤を含む組成物であり、具体的には、飲食品、飼料、医薬品および化粧料などが挙げられる。
【0027】
また、変性・分解抑制剤は、雑貨または医療機器などにも含まれていてもよい。
なお、変性・分解抑制剤を含む、組成物、飲食品、化粧料、雑貨、医薬品、および医療機器等は、具体的種類や所望の形状や目的等に応じて、上述の(B)成分を含むことができる。
【0028】
また、このような組成物、飲食品、化粧料、雑貨、医薬品、および医療機器の形状は、特に限定されるものではないが、具体的種類に応じて、適宜選択される。
たとえば、上記飲食品および飼料は、固形状、クリーム状またはジャム様、ゲル状、液状の何れの形状を有するものであってもよく、対象蛋白質(たとえば、乳タンパク質、動物性タンパク質、植物性タンパク質、卵タンパク質などの飲食品または飼料を構成する蛋白質や、飲食品または飼料に含まれる機能性蛋白質等を含むものであってもよい。
【0029】
上記医薬品は、錠剤、丸剤、軟・硬カプセル剤、細粒剤、散剤、顆粒剤等の経口投与剤の剤形であってもよいし、パップ剤、ローション剤、軟膏剤、チンキ剤、クリーム剤などの非経口投与剤の剤形であってもよく、対象蛋白質(たとえば、アルブチン、サイトカイン、ホルモンなどの分泌タンパク質などの薬理効果を有する蛋白質など)を含むものであってもよい。
【0030】
また、化粧料としては、たとえば、乳液、石鹸、洗顔料、入浴剤、クリーム、化粧水、オーデコロン、ひげ剃り用クリーム、ひげ剃り用ローション、化粧油、日焼け・日焼け止めローション、おしろいパウダー、ファンデーション、香水、パック、爪クリーム、エナメル、エナメル除去液、眉墨、ほお紅、アイクリーム、アイシャドー、マスカラ、アイライナー、口紅、リップクリーム、シャンプー、リンス、染毛料、分散液、洗浄料等が挙げられる。化粧料は、上記変性・分解抑制剤の他に、対象蛋白質(たとえば、プロテアーゼ、リパーゼ等の酵素など)を含んでいてもよいし、あるいは、皮膚組織を構成する蛋白質(ケラチン、コラーゲン、エラスチンなど)の光変性を抑制するために用いられるものであってもよい。なお、上述の、組成物、飲食品、化粧料、雑貨、医薬品、および医療機器は公知の調製手段によって適宜調製される。
3.蛋白質の変性および/または分解の抑制方法
本発明に係る、ラジカルによる蛋白質の変性および/または分解の抑制方法は、上述の蛋白質の変性・分解抑制剤と、蛋白質(対象蛋白質)とを、通常溶剤中で、好ましくは水性溶剤中で、共存させる工程(共存工程)を含むことを特徴としている。
【0031】
上記共存工程においては、各成分の添加順番は問われない。すなわち、対象蛋白質が含まれる系(たとえば、蛋白質水溶液、蛋白質分散液等)に、上記変性・分解抑制剤を添加してもよいし、上記変性・分解抑制剤を含む系(たとえば、変性・分解抑制剤を含む水溶液または分散液)に対象蛋白質を添加してもよい。また、対象蛋白質と上記対象蛋白質とを同時に溶剤または溶剤を含む組成物に添加してこれらを共存させてもよい。
【0032】
また、上記共存工程においては、対象蛋白質の種類にもよるが、ラジカルによる該蛋白質の変性および/または分解(たとえば、該蛋白質の光変性やヒドロキシラジカル等の活性酸素の曝露などによる分解)を抑制できる程度の(A)成分の量で、変性・分解抑制剤と対象蛋白質とが共存する限り、(A)成分の使用量は、特に限定されない。たとえば、対象蛋白質100重量部に対して、(A)成分を、通常1〜40重量部、好ましくは、5〜30重量部、より好ましくは10重量部〜20重量部の量で対象蛋白質と共存させることが望ましい。このような範囲内であれば、対象蛋白質の変性や分解を効果的に抑制できる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を用いて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
下記実施例1〜3において用いられた、試薬の一覧、器具の一覧およびCOSARTE−2Gの成分組成を、表1〜3に示す。なお、下記試薬およびその試薬を用いて調製された液における「%」は、特に断りが無い限り、質量%を示す。
【表A】
【0034】
[実施例1]
以下に示す実施例にて、グルコピラノシルグリセロールの光変性の抑制作用を評価した。
【0035】
試験試料の調製
「10%COSARTE−2G溶液」
メスフラスコ(容量:20ml)に、COSARTE−2G 2gを入れ、イオン交換水を徐々に加え、イオン交換水とCOSARTE−2Gとを混合しながら、COSARTE−2Gをイオン交換水に溶解させ、次いで、イオン交換水をメスフラスコ内の溶液が、容量が20mlであることを示す標線に至るまで、加えて、「10%COSARTE−2G溶液」を調製した。
【0036】
「10%グリセリン溶液」
メスフラスコ(容量:20ml)に、グリセリン 2gを入れ、イオン交換水を徐々に加えながら、イオン交換水とグリセリンとを混合しながら、グリセリンをイオン交換水に溶解させ、次いで、イオン交換水をメスフラスコ内の溶液が、容量が20mlであることを示す標線に至るまで、加えて、「10%グリセリン溶液」を調製した。
【0037】
「蛋白質試料液」
「GELATIN TYPE A」1.2gをビーカー(容量:100mL)に入れ、イオン交換水約80mLを加えて穏やかに加温しながら、「GELATIN TYPE A」をイオン交換水に溶解させて、ゼラチン溶液を調製した。調製されたゼラチン溶液を、メスシリンダーに入れ、イオン交換水に溶解させ、次いで、イオン交換水をメスシリンダー内の溶液が、容量が100mlであることを示す標線に至るまで、加えて、蛋白質試料液を調製した。
【0038】
「リボフラビン飽和液」
ポリプロピレン製チューブ(容量:15ml)にリボフラビン0.06gを入れ、イオン交換水12mLを加え、蓋をして、撹拌し、さらに超音波発生装置を用いて、リボフラビンをイオン交換水に溶解させて、カートリッジフィルター(最小保留粒子径:0.45μm、PTFE製)に通して、「リボフラビン飽和溶液」を調製した。
【0039】
調製された「リボフラビン飽和溶液」に、3倍量の体積のイオン交換水を加えて希釈液を調製し、分光光度計(測定波長:450nm)を用いて、吸光度を測定した。測定された吸光度と、既知濃度の標準試料から作製された検料線とを用いて、リボフラビンの濃度を算出したところ、希釈液のリボフラビン濃度は42.08ppmであることから、リボフラビン飽和溶液中のリボフラビン濃度は168.32ppmと推定された。なお、本実施例では、「リボフラビン飽和溶液」は、UV照射による蛋白質の光変性を促進するために使用された。
【0040】
[蛋白質の変性の抑制作用の評価]
ポリスチレン製の試験管に、「蛋白質試料液」5mLと「リボフラビン飽和液」1.1mLとを入れて混合し、次いで、「10%COSARTE−2G溶液」0.1mLを加え、試験管に蓋をした後、十分に混合して、試料液1Aを調製した。また、「10%COSARTE−2G溶液」0.1mLの代わりに「10%グリセリン溶液」0.1mLを用いたこと以外は、試料液1Aと同様にして、試料液2Aを調製した。また、「10%COSARTE−2G溶液」および「10%グリセリン溶液」を用いず、これらの代わりにイオン交換水0.1mLを用いたこと以外は、試料液1と同様にして、試料液3Aを調製した。
【0041】
得られた各試料液を含む試験管を、蓋が上向きになるように、試験管立てを用いて固定した。
次いで、恒温恒湿槽の槽内に、紫外線照射装置を設置し、槽内の温度を、25℃になるように設定した(湿度については未設定)。
【0042】
恒温恒湿槽の槽内に、紫外線照射装置から約14cm離れた位置に、試験管立てで固定された試験管を置き、紫外線照射装置を用いて、365nmの波長の紫外線を、前記試験管に20時間照射した。照射後、試験管立てから各試験管を取り出し、試験管の蓋部分を下向きにして、各試料液の硬化状態を目視で観察した。
【0043】
図1の「試料液2A」および「試料液3A」に示されるように、試料液2A〜3Aは、部分的に試験管の下部に移動するに留まり、大部分は、試験官の壁面に付着していた。この結果は、紫外線照射によって、蛋白質の光変性が進行し、試料液の粘度が増大したことに起因する。
【0044】
一方、図1の「試料液1A」に示されるように、試料液1Aは、ほぼ全量、試験管の下部に移動していた。この結果は、紫外線照射による蛋白質の光変性が効果的に抑制され、試料液の粘度の増大が抑制されたことに起因する。
【0045】
したがって、グルコピラノシルグリセロールは、紫外線による蛋白質の光変性を抑制する効果を有効に発揮することが実証され、ラジカルによる蛋白質の変性および/または分解を抑制するための変性・分解抑制剤の有効成分として好適であることが理解される。
【0046】
[実施例2]
以下に示すように、グルコピラノシルグリセロールの光変性の抑制作用およびヒドロキシラジカルによる分解の抑制作用を評価した。
【0047】
試験試料の調製
「31%COSARTE−2G溶液」
メスフラスコ(容量:50ml)に、COSARTE−2G 15.5gを入れ、イオン交換水を徐々に加え、イオン交換水とCOSARTE−2Gとを混合しながら、COSARTE−2Gをイオン交換水に溶解させ、次いで、イオン交換水をメスフラスコ内の溶液が、容量が50mlであることを示す標線に至るまで、加えて、「31%COSARTE−2G溶液」を調製した。
【0048】
「31%グリセリン溶液」
メスフラスコ(容量:50ml)に、グリセリン 15.5gを入れ、イオン交換水を徐々に加えながら、イオン交換水とグリセリンとを混合しながら、グリセリンをイオン交換水に溶解させ、次いで、イオン交換水をメスフラスコ内の溶液が、容量が50mlであることを示す標線に至るまで、加えて、「31%グリセリン溶液」を調製した。
【0049】
「蛋白質試料液」
「1.0%ゼラチン水溶液」
A型ゼラチン 0.50gをビーカー(容量:50mL)に入れ、イオン交換水約40mLを加えて、湯煎(約60度)で穏やかに加温しながら、「GELATIN TYPE A」をイオン交換水に溶解させて、ゼラチン溶液を調製した。調製された溶液を、メスシリンダーに入れ、イオン交換水に溶解させ、次いで、イオン交換水をメスシリンダー内の溶液が、容量が50mlであることを示す標線に至るまで、加えて、「1.0%ゼラチン水溶液」を調製した。
「1.2%エラスチン水溶液」
エラスチン 0.60gをビーカー(容量:50mL)に入れ、イオン交換水約40mLを加えて、エラスチンをイオン交換水に溶解させて、エラスチン溶液を調製した。調製された溶液を、メスシリンダーに入れ、イオン交換水に溶解させ、次いで、イオン交換水をメスシリンダー内の溶液が、容量が50mlであることを示す標線に至るまで、加えて、「1.2%エラスチン水溶液」を調製した。
「5.0%血清アルブミン水溶液」
血清アルブミン 2.50gをビーカー(容量:50mL)に入れ、イオン交換水約40mLを加えて、血清アルブミンをイオン交換水に溶解させて、血清アルブミン溶液を調製した。調製された溶液を、メスシリンダーに入れ、イオン交換水に溶解させ、次いで、イオン交換水をメスシリンダー内の溶液が、容量が50mlであることを示す標線に至るまで、加えて、「5.0%血清アルブミン水溶液」を調製した。
【0050】
「リボフラビン飽和液」
ポリプロピレン製チューブ(容量:15ml)にリボフラビン約0.5gを入れ、イオン交換水約10mlを加え、蓋をして、撹拌し、さらに超音波発生装置を用いて、リボフラビンをイオン交換水に溶解させて、カートリッジフィルター(最少保留粒子径:0.45μm、PTFE製)に通して、「リボフラビン飽和溶液」を調製した。なお、本実施例では、該「リボフラビン飽和溶液」は、UV照射による蛋白質の光変性を促進するために使用された。
【0051】
「APPH水溶液」
メスフラスコ(容量:100ml)に、APPH 0.02gを入れ、イオン交換水を徐々に加えながら、イオン交換水とAPPHとを混合しながら、APPHをイオン交換水に溶解させ、次いで、イオン交換水をメスフラスコ内の溶液が、容量が100mlであることを示す標線に至るまで、加えて、「APPH水溶液」を調製した。
【0052】
[紫外線照射のよる蛋白質変性・分解の抑制作用の評価]
ポリスチレン製の試験管に、表4に示されるような添加量で各成分を混合して、試料液1B〜4Bを調製し、UV照射装置を用いて、各試験試料を含む試験管に、室温下で、紫外線(波長365nm)を50分間照射するか、あるいは紫外線を照射する処理の代わりに、室温下で、暗所にて50分間放置した。次いで、下記「相対粘度(%)」に準拠して、各試料の相対粘度(%)を算出した。
【0053】
同様にして、表4に示されるような添加量で各成分を混合して、試料液5B〜8Bを調製し、各試料液の相対粘度(%)を算出した。得られた試料液1B〜8Bの結果を表1および図2A〜2Bに示す。
[相対粘度(%)]
キャピラリーを、試料液を含む試験管に略鉛直方向に挿して、試料液を、容量が50μLであることを示す標線まで吸い上げた後、キャピラリーを試験管から抜き出した。次いで、キャピラリーを180度転倒させて、転倒してから5秒後おいて、標線からの各試料の移動距離(X)を測定した。
【0054】
測定された試料液1B〜4Bの移動距離(x)および下記式(1)に基づいて、試料液1B〜4Bの移動比率(相対粘度(%))を算出した。同様にして、試料液1B〜4Bの移動比率(相対粘度(%))を算出した。
【0055】
【数1】
【0056】
試料液中の蛋白質が、紫外線の照射または活性酸素の曝露によって変性や分解すると、蛋白質の立体構造が変化したことに起因して、蛋白質の相対粘度が変化する。そのため、試料中の相対粘度(%)の値が、同一蛋白質を含み、かつ紫外線照射処理または活性酸素曝露処理に供された試料の相対粘度(%)の値に近いほど、試料中で生じている蛋白質の変性の程度が大きいことを示す。一方で、試料液中の相対粘度(%)の値が、同一蛋白質を含み、かつ紫外線照射処理または活性酸素曝露処理の何れにも供されていない試料液の相対粘度(%)の値に近いほど、試料中で生じている蛋白質の変性の程度が小さいことを示す。
【0057】
なお、紫外線照射による変性では、蛋白質の高次構造(立体構造)が崩れて、蛋白質の粘度が上昇するのに対して、活性酸素の曝露による変性では、蛋白質の立体構造の崩壊(変性)のみならず、蛋白質の断片化(分解)が生じるために、粘性が低下する傾向にある。
【表B】
【0058】
[活性酸素の曝露による対象蛋白質変性・分解の抑制作用の評価]
ポリスチレン製の試験管に、表5に示されるような添加量で各成分を混合して、試験試料液を調製し、各試験試料液を含む試験管を、40℃の温度条件下で、暗所にて20時間放置した。なお、試料液がAPPH水溶液を含む場合、該試料液中の蛋白質は活性酸素に曝露されている。
【0059】
次いで、上記[相対粘度(%)]に準拠して、各試料の相対粘度(%)を算出した。得られた結果を表5および図3A〜Cに示す。
【表C】
【0060】
図2A〜2Bに示されるように、試料液3Bおよび試料液7Bの相対粘度の値は、それぞれ、試料液4Bおよび試料液8Bの相対粘度の値と比べて、試料液1Bおよび試料液5Bの相対粘度(%)の値に近い。すなわち、グルコピラノシルグリセロールと蛋白質(ゼラチンおよびエラスチン)とを共存させると、紫外線照射に起因する蛋白質の変性の程度が小さいことが示された。
【0061】
この結果によると、実施例1と同様に、グルコピラノシルグリセロールは、紫外線照射によって生じたラジカルによる蛋白質の光変性を抑制する効果を有効に発揮すること、および紫外線照射によって生じたラジカルによる蛋白質の変性および/または分解を抑制するための変性・分解抑制剤の有効成分として好適であることが理解される。
【0062】
また、図3Aに示されるように、試料液3Cの相対粘度の値は、試料液4Cの相対粘度の値と比べて、試料液1Cの相対粘度(%)の値に近い。すなわち、グルコピラノシルグリセロールと蛋白質とを共存させると、APPHに由来するヒドロペルオキシラジカル等の活性酸素の曝露によって生じるラジカルによる、ゼラチンの分解の程度が小さいことが示された。また、図3A〜3Cに示されるように、蛋白質をゼラチンからエラスチンまたは血清アルブミンに変更しても、同様に、グルコピラノシルグリセロールと蛋白質とを共存させると、APPHに由来するヒドロペルオキシラジカル等の活性酸素の曝露によって生じる、蛋白質の分解の程度が小さいことが示された。
【0063】
この結果によると、グルコピラノシルグリセロールは、活性酸素の曝露による蛋白質の分解を抑制する効果を有効に発揮すること、およびラジカルによる蛋白質の変性および/または分解を抑制するための変性・分解抑制剤の有効成分として好適であることが理解される。
図2
図3
図1