特許第6061477号(P6061477)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061477
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】光学部材および光学部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/14 20150101AFI20170106BHJP
   G02C 7/00 20060101ALI20170106BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20170106BHJP
   B32B 5/18 20060101ALN20170106BHJP
【FI】
   G02B1/14
   G02C7/00
   G02B3/00 Z
   !B32B5/18 101
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-52326(P2012-52326)
(22)【出願日】2012年3月8日
(65)【公開番号】特開2013-186348(P2013-186348A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2015年2月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】313001099
【氏名又は名称】イーエイチエス レンズ フィリピン インク
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】星野 悠太
(72)【発明者】
【氏名】今井 悠行
【審査官】 藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−033021(JP,A)
【文献】 特開2000−085025(JP,A)
【文献】 特開2009−132091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/14
G02C 7/00
B32B 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学部材であって、
湾曲面を有するレンズ基材と、
前記光学部材の光軸方向から見た平面視において、該レンズ基材の縁部を覆うように形成された多孔質の中間層と、
前記平面視において、前記レンズ基材および前記中間層を覆うように形成されたハードコート層と、を有し、
前記平面視において、前記中間層は、幅が0.1mm以上、15mm以下であり、
前記ハードコート層は、前記平面視において、前記ハードコート層の縁部に形成され、かつ、前記ハードコート層の中央部よりも膜厚が厚い厚膜部を備えており、
前記中間層の膜厚の最大値をA[μm]とし、前記厚膜部における膜厚の最大値をB[μm]としたとき、A/Bが3%以上、20%以下となる関係を満足する、
ことを特徴とする光学部材。
【請求項2】
前記中間層は、前記レンズ基材の縁部の全体を覆うように形成されている請求項1に記載の光学部材
【請求項3】
前記中間層の膜厚の最大値が0.1μm以上、10.0μm以下である請求項1または2に記載の光学部材。
【請求項4】
前記ハードコート層の中央部における膜厚が1.5μm以上50.0μm以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学部材。
【請求項5】
前記中間層は、樹脂材料で構成される粒状体を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学部材。
【請求項6】
前記レンズ基材は、湾曲凸面と湾曲凹面とを有し、前記湾曲凸面に、前記中間層と、前記ハードコート層とが設けられている請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学部材。
【請求項7】
光学部材の製造方法であって、
湾曲面を有するレンズ基材の、前記光学部材の光軸方向から見た平面視において、前記レンズ基材の縁部を覆うように、多孔質の中間層を形成することと、
前記平面視において、前記レンズ基材および前記中間層を覆うように、前記平面視において、縁部に形成され、かつ、中央部よりも膜厚が厚い厚膜部を備えるハードコート層を形成することとを含み、
前記平面視において、前記中間層は、幅が0.1mm以上、15mm以下であり、
前記ハードコート層を形成することは、前記中間層の膜厚の最大値をA[μm]とし、前記厚膜部における膜厚の最大値をB[μm]としたとき、A/Bが3%以上、20%以下となる関係を満足するように、前記ハードコート層を形成することを特徴とする光学部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部材および光学部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、眼鏡等に用いるプラスチックレンズとして、近年、薄型化を実現するために高屈折率の材料が活発に研究・開発されている。
プラスチックレンズは、従来のガラスレンズと比較して、軽量、かつ加工性に優れ、さらに、比較的衝撃に対しても優れた強度を発揮するという長所を有する。一方、硬度が低いことに起因してガラスレンズよりも耐摩擦性および耐候性に劣る。
【0003】
そのため、特に、プラスチックレンズをメガネレンズに適用する際には、プラスチックレンズ上にハードコート層と呼ばれる硬化膜を形成することが一般に行われている。
さらに、プラスチックレンズをメガネレンズに適用する場合、ハードコート層上に反射防止層が形成されることが一般的であるが、反射防止層とハードコート層との屈折率差が大き過ぎると干渉縞が発生するため、ハードコート層の構成材料としても高屈折率のものが求められている。
【0004】
このような高屈折率を実現するハードコート層としては、例えば、有機ケイ素化合物(シランカップリング剤)と金属酸化物とを含有するハードコート材料を用いて形成したものが知られている。
より具体的には、有機ケイ素化合物またはその加水分解物と、金属酸化物(複合酸化物ゾル)とを含有するハードコート材料を用意し、このハードコート材料をプラスチックレンズ上に供給した後、加熱することでゲル化させてハードコート層を得るゾル・ゲル法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
しかしながら、このようなゾル・ゲル法を用いてメガネレンズにハードコート層を形成した場合、通常、メガネレンズが湾曲面で構成されていることに起因して、メガネレンズの端部において、ハードコート層が厚膜化し、その結果、この端部において、ハードコート層にクラックが生じるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−33021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、目的とする膜厚のハードコート層がクラックを生じることなく形成されている光学部材、およびかかる光学部材を製造することができる光学部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の光学部材は、
湾曲面を有するレンズ基材と、
前記光学部材の光軸方向から見た平面視において、該レンズ基材の縁部を覆うように形成された多孔質の中間層と、
前記平面視において、前記レンズ基材および前記中間層を覆うように形成されたハードコート層と、を有し、
前記ハードコート層は、前記平面視において、前記ハードコート層の縁部に形成され、かつ、前記ハードコート層の中央部よりも膜厚が厚い厚膜部を備えており、
前記中間層の膜厚の最大値をA[μm]とし、前記厚膜部における膜厚の最大値をB[μm]としたとき、A/Bが3%以上、20%以下となる関係を満足することを特徴とする。
【0008】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、厚膜部が形成されるレンズ基材の縁部に、多孔質の中間層を設けることで、クラック(亀裂)の発生を低減させることができることを見出した。そして、本発明者は、さらなる検討を重ねた結果、中間層の膜厚の最大値とハードコート層の厚膜部における膜厚の最大値との関係を規定することにより、前記問題点を解消し得ることを見出した。すなわち、中間層の膜厚の最大値をA[μm]とし、ハードコート層の厚膜部における膜厚の最大値をB[μm]としたとき、A/Bが3[%]以上20%以下となる関係を満足することにより、ハードコート層の厚膜部におけるクラックの発生を的確に抑制または防止し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。これにより、目的とする膜厚のハードコート層がクラックを生じることなく形成されている光学部材を提供することができる。
【0009】
本発明の光学部材では、前記中間層は、前記レンズ基材の縁部の全体を覆うように形成されていることが好ましい。
これにより、ハードコート層を、クラックを生じることなく形成することができる。
本発明の光学部材では、前記平面視において、前記中間層は、幅が0.1mm以上、15mm以下であることが好ましい。
これにより、例えば光学部材をメガネレンズに使用した場合に、玉型加工される範囲(フィニッシュトレンズ)の外側に中間層を形成でき、かつ、中間層としての機能を発揮させることができる。これにより、ハードコート層に、クラックを生じることなく、形成できる。
【0010】
本発明の光学部材では、前記中間層の膜厚の最大値が0.1μm以上、10.0μm以下であることが好ましい。
これにより、前記A/B×100の関係を前記範囲内に設定されたものとすることができる。
本発明の光学部材では、前記ハードコート層の中央部における膜厚が1.5μm以上50.0μm以下であることが好ましい。
これにより、レンズ基材およびハードコート層と中間層との密着性を向上させることができる。
【0011】
本発明の光学部材では、前記中間層は、樹脂材料で構成される粒状体を含むことが好ましい。
これにより、目的とする膜厚のハードコート層がクラックを生じることなく形成されている光学部材とすることができる。
本発明の光学部材では、前記レンズ基材は、湾曲凸面と湾曲凹面とを有し、前記湾曲凸面に、前記中間層と、前記ハードコート層とが設けられていることが好ましい。
これにより、ハードコート層は、優れた強度を有するものとなる。
【0012】
本発明の光学部材の製造方法は、
湾曲面を有するレンズ基材の、前記光学部材の光軸方向から見た平面視において、前記レンズ基材の縁部を覆うように、多孔質の中間層を形成することと、
前記平面視において、前記レンズ基材および前記中間層を覆うように、前記平面視において、縁部に形成され、かつ、中央部よりも膜厚が厚い厚膜部を備えるハードコート層を形成することを含み、
前記ハードコート層を形成することは、前記中間層の膜厚の最大値をA[μm]とし、前記厚膜部における膜厚の最大値をB[μm]としたとき、A/Bが3%以上、20%以下となる関係を満足するように、前記ハードコート層を形成することを特徴とする。
これにより、目的とする膜厚のハードコート層がクラックを生じることなく形成されている光学部材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の光学部材をメガネレンズに適用した第1実施形態を示す図である。
図2】膜強度および引張応力と膜厚との関係を模式的に示すグラフである。
図3】本発明の光学部材をメガネレンズに適用した第2実施形態を示す図である。
図4】本発明の光学部材をメガネレンズに適用した第3実施形態を示す図である。
図5】実施例の中間層の電子顕微鏡写真である。
図6】比較例6の塗膜の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の光学部材および光学部材の製造方法を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
なお、以下では、本発明の光学部材を、メガネに装着されるメガネレンズに適用した場合を一例に説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の光学部材をメガネレンズに適用した第1実施形態を示す図((a)平面図、(b)図1(a)中に示すA−A線断面図)、図2は、膜強度および引張応力と膜厚との関係を示すグラフである。なお、以下では、図1(b)中の、メガネレンズの物体側(メガネレンズの装用時において、相対的に視認する物体に近い側)を「上」と言い、メガネレンズの眼球側(メガネレンズの装用時において、相対的に眼球に近い側)を「下」と言う。また、図1中では、説明の便宜上、メガネレンズを構成する部材の大きさおよび厚さ等を誇張して模式的に図示しており、各部材の大きさおよび厚さ等は実際とは大きく異なる。
【0015】
図1に示すように、メガネレンズ1は、メガネに装着されるプラスチックレンズであり、湾曲面を有するレンズ基材6と、メガネレンズ1の光軸方向から見た平面視(以下、単に平面視ともいう)において、レンズ基材6の縁部を覆うように形成された中間層5と、レンズ基材6および中間層5を覆うように形成されたハードコート層4とを有している。
レンズ基材6は、本実施形態では、プラスチックで構成される母材2と、平面視において母材2を覆うように形成されたプライマー層3とを有している。
【0016】
母材2は、プラスチックで構成され、メガネレンズ1の母材(基材)となるものである。
この母材2は、図1に示すように、平面視で、真円状をなしており、その上面21が湾曲凸面で構成され、下面22が湾曲凹面で構成されており、これら上面21および下面22により光が透過する透過面を構成する。なお、母材2は真円状でなくてもよい。
【0017】
母材2の構成材料としては、例えば、メチルメタクリレート単独重合体、メチルメタクリレートと1種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート単独重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと1種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体、イオウ含有共重合体、ハロゲン含有共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリチオウレタン、スルフィド結合を有するモノマーの単独重合体、スルフィドと1種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体、ポリスルフィドと1種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体、ポリジスルフィドと1種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体等が挙げられる。
【0018】
なお、母材2の構成材料として、屈折率が1.6以上程度の比較的高屈折率なものを用いた際に、本実施形態のように、メガネレンズ1をプライマー層3およびハードコート層4の屈折率を適切に調節することで、反射防止層と母材2との屈折率差を補間し、メガネレンズ1における干渉縞の発生が的確に抑制または防止することができる。
プライマー層3は、母材2とハードコート層4との間に積層され、母材2とハードコート層4との密着性を確保し、かつ、母材2の耐衝撃性を向上させる機能を有する。
【0019】
プライマー層3の構成材料としては、例えば、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、アミノ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、スチレン系樹脂、シリコーン系樹脂およびこれらの混合物もしくは共重合体等の樹脂材料が挙げられる。これらの中でも、ウレタン系樹脂およびポリエステル系樹脂が好ましい。これにより、母材2およびハードコート層4とプライマー層3との密着性を向上させることができる。
【0020】
また、プライマー層3は、前記樹脂材料の他に、さらに金属酸化物を含んでいてもよい。これにより、プライマー層3の屈折率をより高くすることができ、その含有量等を調整することにより、プライマー層3を所望の屈折率とすることができる。
金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、Si、Al、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、In、Tiの酸化物が挙げられ、かかる酸化物のうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、金属酸化物は、金属酸化物の微粒子からなるゾルであってもよい。
【0021】
また、プライマー層3の平均厚さは、特に限定されないが、100〜2000nmが好ましく、500〜1000nmがより好ましい。
なお、このプライマー層3は、母材2とハードコート層4との組み合わせによっては省略することができる。すなわち、レンズ基材6を、母材2により単独で構成してもよい。
ハードコート層4は、平面視においてレンズ基材6(プライマー層3)と中間層5とを覆うように設けられ、母材2の耐摩擦性および耐候性を向上させる機能を有する。
【0022】
本実施形態のハードコート層4は、有機ケイ素化合物(シランカップリング剤)と金属酸化物とを含有する組成物(ハードコート材料)を用いて形成される。
有機ケイ素化合物としては、特に限定されないが、例えば、一般式(1):(RSi(X4−n(一般式(1)中、Rは重合可能な官能基を有する炭素数が2以上の有機基、Xは加水分解基を表わし、nは1または2の整数を表す。)で表わされるものが用いられる。これにより、有機ケイ素化合物同士が官能基Rを介して架橋(連結)するので、ハードコート層4は、優れた耐摩擦性および耐候性を発揮できる。
【0023】
なお、前記一般式(1)で表わされる有機ケイ素化合物の詳細については、後述するメガネレンズの製造方法において説明する。
また、ハードコート層4に含まれる金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、Al、Ti、Sb、Zr、Si、Ce、Fe、In、Sn等の金属の酸化物が挙げられ、かかる酸化物のうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、特に、TiO、ZrO、CeO、ZnO、SnOおよびITO(インジウム−スズ複合酸化物)が好ましい。これらの金属酸化物がハードコート層4に含まれることにより、ハードコート層4の屈折率をより高く設定することができるようになるため、高屈折率の母材2を用いた際にも、干渉縞の発生が抑制されたメガネレンズを実現することが可能となる。
【0024】
また、平面視において、ハードコート層4の中央部における膜厚は、好ましくは1.5μm〜50.0μm、より好ましくは5.0μm〜20.0μmに設定される。これにより、ハードコート層4は、優れた強度を有するものとなる。なお、ハードコート層4の中央部における膜厚は、1点で測定した値であっても、所定範囲における厚さの平均であってもよい。
【0025】
さらに、ハードコート層4を、後述するようなゾル・ゲル法を用いて形成し、平面視において、ハードコート層4の中央部における膜厚を1.5μm〜50.0μmに設定した場合、平面視において、ハードコート層4の縁部における膜厚は、3.3μm〜100.0μmとなり、中央部における膜厚を5.0μm〜20.0μmに設定した場合、ハードコート層4の縁部における膜厚は、6.0μm〜50.0μmとなる。すなわち、ハードコート層4を、後述するようなゾル・ゲル法を用いて形成すると、その縁部における膜厚は、中央部における膜厚よりも厚くなる。換言すれば、縁部において、その中央部よりも膜厚が厚い厚膜部が形成される。
かかる構成のハードコート層4を備えるメガネレンズ1において、レンズ基材6(プライマー層3)の縁部に中間層(ダム層)5を設けることで、ハードコート層4の縁部におけるクラックの発生を的確に抑制または防止することができる。かかる効果が発現される理由については後に詳述する。
【0026】
中間層5は、平面視におけるレンズ基材6(プライマー層3)の縁部に、メガネレンズ1の光軸方向と平行で、かつ、レンズ基材6の中心を通る切断面で切断した場合の断面視(以下、単に断面視ともいう)において、レンズ基材6とハードコート層4との間に位置するように設けられ、ハードコート層4の端部においてクラックが発生することを抑制または防止する機能を有する。
【0027】
この中間層5は、本実施形態では、図1(a)に示すように、平面視で、プライマー層3の縁部に、その全体に亘って、円環状に形成されている。言い換えると、本実施形態の中間層5はプライマー層3の縁部に連続して形成されている。また、図1(a)のA−A線断面図のように、メガネレンズ1の光軸方向と平行で、かつ、レンズ基材6の中心を通る切断面で切断した断面形状は、凸状をなしている。
中間層5は、本実施形態においては粒状体を含有する。
粒状体は、樹脂材料または金属酸化物材料で構成されるものの何れであってもよいが、樹脂材料で構成されることが好ましい。これにより、ハードコート層4の端部においてクラックが発生することをより的確に抑制または防止することができるようになる。
【0028】
粒状体を構成する樹脂材料としては、例えば、ウレタン系樹脂、エステル樹脂、エポキシ系樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリアクリル酸およびポリ酢酸ビニル等が挙げられ、中でも、ウレタン系樹脂またはポリエステル系樹脂であるのが好ましい。これにより、レンズ基材6およびハードコート層4と中間層5との密着性を向上させることができる。
【0029】
また、粒状体を構成する金属酸化物材料としては、例えば、SiO、中空SiO、TiO、ZrO、Al、CeOおよびSnO等が挙げられる。
かかる構成の中間層5において、中間層5の頂部の高さとハードコート層4の縁部(厚膜部)における頂部の高さとの関係、さらには中間層5に含まれる粒状体の平均粒径を規定することで、ハードコート層4にクラックが発生するのを的確に抑制または防止することができるが、この点に関しては、後述するメガネレンズ1の製造方法において詳述する。
また、ハードコート層4上には、さらに図示しない反射防止層が形成されていてもよい。
【0030】
反射防止層としては、例えば、SiO、SiO、ZrO、TiO、TiO、Ti、Ti、Al、TaO、Ta、NbO、Nb、NbO、Nb、CeO、MgO、Y、SnO、MgF、WOのような無機物で構成されるものが挙げられる。
なお、このような反射防止層は、例えば、真空蒸着法、イオンプレーティング法およびスパッタリング法等を用いて形成することができる。
【0031】
反射防止層の平均厚さは、特に限定されないが、50〜150nmであるのが好ましく、70〜120nmであるのがより好ましい。
さらに、反射防止層上には図示しない撥水性の防汚層を形成してもよい。
このような防汚層は、例えば、反射防止層上に、フッ素を含有する有機ケイ素化合物で構成される単分子膜を形成することにより得ることができる。
【0032】
フッ素を含有する有機ケイ素化合物としては、一般式(2):RSiX(一般式(2)中、Rはフッ素を含有する炭素数が1以上の有機基、Xは、加水分解基を表わす。)で表わされるものが挙げられる。
また、防汚層は、例えば、フッ素を含有する有機ケイ素化合物を溶媒に溶解した防汚層形成用材料を調製し、その後、この防汚層形成用材料を反射防止層上に塗布法を用いて塗布した後、乾燥することにより得ることができる。塗布法としては、例えば、インクジェット法、ディッピング法、スピンコート法等が挙げられる。
防汚層の平均厚さは、特に限定されないが、0.001〜0.5μmであるのが好ましく、0.001〜0.03μmであるのがより好ましい。
以上のようなメガネレンズ1は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0033】
[A]まず、母材2を用意し、この母材2の上面(湾曲凸面)21に、プライマー層3を形成することで、レンズ基材6を得る。
このプライマー層3の形成は、例えば、プライマー層3の構成材料を溶媒に、溶解させたプライマー層形成材料を調製し、その後、このプライマー層形成材料を母材2上に塗布法を用いて塗布した後、乾燥することにより行うことができる。
なお、プライマー層3の構成材料が溶媒に溶解しない場合は、前記構成材料を分散させたプライマー層形成材料とすることができる。
【0034】
溶媒としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテルまたはプロピレングリコールジエチルエーテル等のグリコール類等が挙げられ、これらの単独溶媒または混合溶媒として用いることができる。
【0035】
なお、プライマー層形成材料には、その他、レベリング剤として、ポリオキシアルキレンとポリジメチルシロキサンの共重合体またはポリオキシアルキレンとフルオロカーボンとの共重合体等が含まれていてもよい。
また、プライマー層3の形成に用いられる塗布法をとしては、インクジェット法、ディッピング法、スピンコート法およびスプレー法等が挙げられる。
【0036】
[B]次に、レンズ基材6(プライマー層3)の縁部に対して中間層5を形成する(中間層形成工程)。
この中間層5の形成は、例えば、前述した樹脂材料で構成される粒状体を分散媒に分散させた中間層形成材料を調製し、その後、この中間層形成材料をプライマー層3の縁部に対して選択的に塗布法を用いて塗布(供給)した後、乾燥することにより行うことができる。
粒状体を分散させる分散媒としては、前記工程[A]で説明した溶媒と同様のものを用いることができる。
なお、中間層5の形成に用いられる塗布法をとしては、例えば、インクジェット法、ディッピング法およびスプレー法等が挙げられる。
【0037】
[C]次に、レンズ基材6(プライマー層3)および中間層5を覆うようにしてハードコート層4を形成する(ハードコート層形成工程)。
このハードコート層4の形成は、例えば、一般式(1):(RSi(X4−n(一般式(1)中、Rは重合可能な官能基を有する炭素数が2以上の有機基、Xは、加水分解基を表わし、nは1または2の整数を表す。)で表わされる有機ケイ素化合物を溶媒に溶解させたハードコート層形成材料(ゾル)を用いて、例えば、次のようにして行うことができる。
【0038】
すなわち、ハードコート層形成材料を調製した後に、ハードコート層形成材料をプライマー層3および中間層5を覆うように塗布(供給)し、その後、加熱することで、前記一般式(1)で表わされる有機ケイ素化合物が有する加水分解基Xを、加水分解・重縮合反応させてシロキサンオリゴマーを生成させることによりゲル化するゾル・ゲル法を用いて行うことができる。
前記一般式(1)で表わされる有機ケイ素化合物としては、例えば、重合可能な官能基としてアミノ基を有するものが挙げられ、具体的には、下記一般式(1A)で表わされるものが挙げられる。
【0039】
(RSi(X4−n・・・(1A)
(一般式(1A)中、Rはアミノ基を有する1価の炭素数2以上の炭化水素基、Xは加水分解基を表わし、nは1または2の整数を表す。)
【0040】
一般式(1A)において、Rはアミノ基を有する1価の炭素数2以上の炭化水素基であり、例えば、γ−アミノプロピル基、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピル基、N−フェニル−γ−アミノプロピル基などが挙げられる。
なお、前記一般式(1A)において、nは1または2の整数を示し、Rが複数ある場合(n=2)には複数のRは互いに同一でも異なっていてもよく、複数のXは互いに同一でも異なっていてもよい。
【0041】
一般式(1A)で表わされる有機ケイ素化合物の具体例としては、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ―アミノプロピルジエトキシメチルシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルジエトキシメチルシランなどのアミノ系のシランカップリング剤が挙げられる。
さらに、前記一般式(1)で表わされる有機ケイ素化合物としては、例えば、重合可能な官能基としてイソシアネート基を有するものが挙げられ、具体的には、下記一般式(1B)で表わされるものが挙げられる。
【0042】
(RSi(X4−n・・・(1B)
(一般式(1B)中、Rはイソシアネート基を有する1価の炭素数2以上の炭化水素基、Xは加水分解基を表わし、nは1または2の整数を表す。)
【0043】
一般式(1B)において、Rはイソシアネート基を有する1価の炭素数2以上の炭化水素基であり、例えば、イソシアネートメチル基、α−イソシアネートエチル基、β−イソシアネートエチル基、α−イソシアネートプロピル基、β−イソシアネートプロピル基、γ−イソシアネートプロピル基などが挙げられる。
また、一般式(1B)において、nは1または2の整数を示し、Rが複数ある場合(n=2)には複数のRはたがいに同一でも異なっていてもよく、複数のXは互いに同一でも異なっていてもよい。
【0044】
一般式(1B)で表わされる化合物の具体例としては、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルジメトキシメチルシラン、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルジエトキシメチルシランなどのイソシアネート系シランカップリング剤が挙げられる。
さらに、前記一般式(1)で表わされる有機ケイ素化合物としては、例えば、重合可能な官能基としてエポキシ基を有するものが挙げられ、具体的には、下記一般式(1C)で表わされるものが挙げられる。
【0045】
(RSi(X4−n・・・(1C)
(一般式(1C)中、Rはエポキシ基を有する1価の炭素数2以上の炭化水素基、Xは加水分解基を表わし、nは1または2の整数を表す。)
【0046】
一般式(1C)において、Rはエポキシ基を有する1価の炭素数2以上の炭化水素基である。
なお、前記一般式(1C)において、nは1または2の整数を示し、Rが複数ある場合(n=2)には複数のRは互いに同一でも異なっていてもよく、複数のXは互いに同一でも異なっていてもよい。
【0047】
一般式(1C)で表わされる化合物の具体例としては、例えば、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルビニルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルフェニルジエトキシシラン、δ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0048】
さらに、ハードコート層形成材料は、加水分解・重縮合反応を促進するための硬化触媒や、レンズ基材への塗布時の濡れ性を向上させ、平滑性を向上させる目的で各種の溶媒および界面活性剤等を含有していてもよい。さらに、ハードコート層形成材料には、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等もハードコート層の物性に影響を与えない限り添加することができる。
硬化触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸、シュウ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、乳酸等の有機酸が挙げられる。
【0049】
有機ケイ素化合物を溶解させる溶媒としては、例えば、水、有機溶媒またはこれらの混合溶媒が挙げられる。具体的には、純水、超純水、イオン交換水などの水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルイソカルビノールなどのアルコール類、アセトン、2−ブタノン、エチルアミルケトン、ジアセトンアルコール、イソホロン、シクロヘキサノンなどのケトン類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、3,4−ジヒドロ−2H−ピランなどのエーテル類、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、エチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールエーテル類、2−メトキシエチルアセテート、2−エトキシエチルアセテート、2−ブトキシエチルアセテートなどのグリコールエーテルアセテート類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、乳酸エチル、エチレンカーボネートなどのエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン、iso−オクタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、塩化メチレン、1,2−ジクロルエタン、ジクロロプロパン、クロルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、N−メチル−2−ピロリドン、N−オクチル−2−ピロリドンなどのピロリドン類などが挙げられる。
【0050】
また、ハードコート層4の形成に用いられる塗布法としては、例えば、インクジェット法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、スリットコーター法、転写法、超音波スプレーコート法等が挙げられる。
さらに、ハードコート層形成材料の加熱は、第1の加熱温度で加熱した後、第2の加熱温度で加熱するのが好ましい。
【0051】
第1の加熱温度は、好ましくは90〜110℃程度に設定され、より好ましくは100±5℃程度に設定される。
第1の加熱温度による加熱時間は、1〜10分程度に設定され、より好ましくは5〜10分程度に設定される。
また、第2の加熱温度は、好ましくは110〜130℃程度に設定され、より好ましくは120±5℃程度に設定される。
【0052】
第2の加熱温度による加熱時間は、1〜2時間程度に設定され、より好ましくは1.5±0.2時間程度に設定される。
さらに、加熱する際の雰囲気は、特に限定されないが、酸素含有雰囲気下または窒素ガスのような不活性ガス雰囲気下とされる。
上記のような条件で加熱することにより、加水分解・重縮合反応をより適切に進行させることができるため、優れた膜強度を有するハードコート層4を形成することができる。
【0053】
さて、上述したように、前記一般式(1)で表わされる有機ケイ素化合物を含有するハードコート層形成材料を用いてゾル・ゲル法によりレンズ基材6上にハードコート層4を形成すると、図2(a)に示すように、有機ケイ素化合物の加水分解・重縮合反応が進行するため、隣り合う有機ケイ素化合物同士間の距離(ここでは隣り合うケイ素原子間の距離)が1/3〜2/3程度短くなる。加水分解・重縮合反応によって有機ケイ素化合物同士が連結することに起因して膜強度が向上する。一方、有機ケイ素化合物同士間の距離が短くなることに起因して、形成されるハードコート層4中に引張応力が生じる。
【0054】
このような膜強度と引張応力との関係は、本発明者の検討により、以下のようになっていることが判っている。
すなわち、図2(b)に示すように、膜厚が厚いほど、ハードコート層4に含まれる縮合可能な分子が多いので、縮合量(膜全体として収縮する量)が多くなる。そのため、膜強度および引張応力の双方共に、層中における縮合量が多くなること、すなわち膜厚が厚くなるに伴って、その値が大きくなるが、ある膜厚の範囲以下(図2(b)における引張応力の曲線と膜強度の曲線との交点における縮合量以下の領域)では、膜強度の方が引張応力と比較して大きくなっている。しかしながら、ある膜厚の範囲を超える(図2(b)における引張応力の曲線と膜強度の曲線との交点よりも縮合量が大きい領域)と、この関係が逆転し、引張応力の方が膜強度よりも大きくなる。そのため、形成するハードコート層4の膜厚が一定の範囲を超えて大きくなると、ハードコート層4にクラックが生じることが判っている。
【0055】
特に、本発明のように、湾曲面(本実施形態では湾曲凸面)を有するレンズ基材6に対して、ゾル・ゲル法を用いてハードコート層4を形成すると、重力の作用によってレンズ基材6の端部に厚膜部が形成されるため、ハードコート層4の厚膜部にクラックが発生するという問題が生じる。上述のように、ハードコート層4の膜厚が厚いほど引張り応力が強くなるので、特に膜厚の厚いハードコート層4においてクラックが問題となりやすい。
【0056】
本発明者は、かかる問題点に鑑み鋭意検討を重ねた結果、この厚膜部が形成されるレンズ基材6の端部に、多孔質膜である中間層5を設けることで、クラック(亀裂)の発生を低減させることができることを見出した。
そして、本発明者は、さらなる検討を重ねた結果、中間層5の膜厚の最大値とハードコート層4の縁部(厚膜部)における膜厚の最大値との関係を規定することにより、前記問題点を解消し得ることを見出した。
【0057】
すなわち、中間層5の膜厚の最大値をA[μm]とし、ハードコート層4の厚膜部における膜厚の最大値をB[μm]としたとき、A/Bが3[%]以上となる関係を満足することにより、ハードコート層4の厚膜部におけるクラックの発生を的確に抑制または防止し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
このように本発明では、レンズ基材6とハードコート層4との間に中間層5を形成し、中間層5の厚さを規定することによって、ハードコート層4の厚膜部におけるクラックの発生が防止される。
【0058】
なお、中間層5の膜厚の最大値A[μm]と、ハードコート層4の厚膜部における膜厚の最大値B[μm]との関係である、A/Bは、3[%]以上とされるが、5[%]以上、20[%]以下であるのが好ましく、7[%]以上、15[%]以下であるのがより好ましい。これにより、メガネレンズ1の縁部における厚膜化を防止しつつ、ハードコート層4でのクラックの発生を的確に防止または抑制することができる。
【0059】
また、中間層5は多孔質膜としたが、具体的には中間層5には粒状体を含有することが好ましく、中間層5に含まれる粒状体の平均粒径は、80nm以上とするのが好ましい。さらに好ましくは、中間層5に含まれる粒状体の平均粒径は、80nm以上、2000nm以下であるのが好ましく、100nm以上、500nm以下であるのがより好ましい。これにより、ハードコート層4でのクラックの発生を的確に防止または抑制することができる。
【0060】
さらに、中間層5は、レンズ基材6の端部すなわちハードコート層4の厚膜部に対応するように設けられていればよいが、本実施形態のように、その平面視形状が円環状をなしている場合、その円環の幅(平面視において、中間層5の、レンズ基材6の外周側の端部とレンズ基材6の中央側の端部との距離、以下、単に幅ともいう)Cは、0.1mm以上、15mm以下であるのが好ましく、4mm以上、10mm以下であるのがより好ましい。これにより、中間層5を形成することにより得られる効果を確実に発揮させることができる。
【0061】
また、中間層5の膜厚Aは、好ましくは0.1μm以上、10.0μm以下となっている。これにより、A/Bの関係を前記範囲内に設定することができる。
中間層5は、レンズ基材6の端部すなわちハードコート層4の厚膜部に対応するように設けられていればよいが、本実施形態のように、その平面視形状が円環状をなしている場合、幅Cは、0.1mm以上、15mm以下であるのが好ましく、4mm以上、18mm以下であるのがより好ましい。これにより、中間層5を形成することにより得られる効果を確実に発揮させることができる。
【0062】
なお、かかる構成の中間層5を設けることにより、ハードコート層4におけるクラックの発生が防止されるのは、以下に示すような理由によると推察される。
すなわち、まず、レンズ基材6の熱膨張率と、ハードコート層4の熱膨張率との差は、一般的に大きいため、これらの間に、中間層5を設けることにより、前記熱膨張率の差を小さくできることによると推察される。
【0063】
さらに、中間層5は多孔質であるため、ハードコート層4で起こる内部応力が中間層5に伝わると、中間層5の空隙により分散されることとなる。そのため、メガネレンズ1全体としての内部応力が抑制され、その結果、ハードコート層4におけるクラックの発生が抑制されると推察される。
なお、本実施形態では、レンズ基材6の縁部における端部にまで中間層5が形成されている場合について説明したが、かかる構成に限定されず、前記端部では中間層5が形成されず、ハードコート層4が形成されていてもよい。なお、中間層5が形成されていない領域の幅は、例えば、1.0〜2.0mm程度に設定されることが好ましい。
【0064】
<第2実施形態>
次に、本発明の光学部材をメガネレンズに適用した第2実施形態について説明する。
図3は、本発明の光学部材をメガネレンズに適用した第2実施形態を示す図((a)平面図、(b)図3(a)中に示すA−A線断面図)である。
以下、第2実施形態のメガネレンズ1について、前記第1実施形態のメガネレンズ1との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0065】
図3に示すメガネレンズ1は、中間層5の構成が異なる以外は、図1に示すメガネレンズ1と同様である。
すなわち、第2実施形態のメガネレンズ1において、図3に示すように、中間層5の形成が省略された間欠部51を有している。
なお、中間層5としての機能を発揮し得るように、平面視での中間層5における間欠部51の占有率は、好ましくは1%〜20%、より好ましくは1〜10%に設定される。これにより、中間層5としての機能を発揮させて、ハードコート層4におけるクラックの発生を的確に抑制または防止することができる。
このような第2実施形態のメガネレンズ1においても、前記第1実施形態と同様の効果が得られる。
なお、各部の寸法は、前記第1実施形態のメガネレンズ1と同様である。
【0066】
<第3実施形態>
次に、本発明の光学部材をメガネレンズに適用した第3実施形態について説明する。
図4は、本発明の光学部材をメガネレンズに適用した第3実施形態を示す図((a)平面図、(b)図4(a)中に示すA−A線断面図)である。
以下、第3実施形態のメガネレンズ1について、前記第1実施形態のメガネレンズ1との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0067】
図4に示すメガネレンズ1は、中間層5およびハードコート層4が形成されている面が異なる以外は、図1に示すメガネレンズ1と同様である。
すなわち、第3実施形態のメガネレンズ1では、レンズ基材6の湾曲凸面(物体側の面)ではなく、湾曲凹面(眼球側の面)に、中間層5とハードコート層4とが形成されている。
【0068】
このような第3実施形態のメガネレンズ1においては、湾曲凹面において前記第1実施形態と同様の効果が得られる。
なお、このような第3実施形態のメガネレンズ1は、その製造方法において、中間層5を形成後、ハードコート層4を次のように形成する場合に、厚膜部のクラックを抑制する点で有効である。
【0069】
すなわち、まず、湾曲凹面を上側(重力の作用する方向と反対側)にした状態で、湾曲凹面にハードコート層形成材料を塗布する。その後、湾曲凹面が下側(重力の作用する方向側)になるようにレンズ基材6を裏返し、重力の作用によって湾曲凹面の端部にハードコート層形成材料が厚く形成されるようにする。この状態で、ハードコート層形成材料を加熱することにより、その端部に厚膜部を備えるハードコート層4を有するメガネレンズ1が製造される。メガネレンズ1の縁部に厚膜部を形成する理由は、メガネレンズ1の中央部の光学性能を確保するためである。すなわち、重力の作用によってハードコート層形成材料が眼鏡レンズの中央部に集まり、メガネレンズ1の中央部の膜厚が不均一な領域が形成されることで中央部(メガネに使用される領域)における光学性能が低下することを抑制するためである。
【0070】
なお、各部の寸法は、前記第1実施形態のメガネレンズ1と同様である。
なお、光学部材は、前記各実施形態で説明したメガネレンズに限定されず、光を透過させる各種レンズに適用することができ、例えば、テレビ、プロジェクター、コンピュータディスプレイ等が有するレンズに適用することができる。
以上、本発明の光学部材および光学部材の製造方法について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0071】
例えば、本発明の光学部材において、各構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成のものを付加することができる。
例えば、本発明では、前記第1〜第3実施形態で示した任意の2以上の構成を組み合わせるようにしてもよい。例えば、湾曲凹面と湾曲凸面の両方に中間層5を形成してもよい。
また、本発明の光学部材の製造方法では、前記実施形態の構成に限定されず、工程の順序が前後してもよい。また、任意の目的の工程が1または2以上追加されていてもよく、不要な工程を削除してもよい。
【実施例】
【0072】
1.各層形成材料の調製
1−1.プライマー層形成材料の調製
ステンレス製容器内に、水130重量部、エチレングリコール22重量部、イソプロパノール10重量部を投入し、十分に攪拌したのち、ポリウレタン樹脂(第一工業製薬製、「SF410」、平均粒径200nm)14重量部を加え撹拌混合した。
【0073】
さらに、アセチレン系非イオン界面活性剤(エアープロダクツ社製、「サーフィノール104E」 および 「サーフィノール465」)を各1重量部ずつ、ポリエーテル変性シロキサン界面活性剤(ビックケミー・ジャパン社製、「BYK−348」)を0.5重量部加えて、1時間撹拌を続けた後、2μmのフィルターでろ過を行い、プライマー層形成材料を得た。
【0074】
1−2.中間層形成材料の調製
前記1−1.で調製したプライマー層形成材料を、中間層形成材料として併用することとした。
1−3.ハードコート層形成材料の調製
ステンレス製容器内に、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、「TSL8350」)46重量部、0.05N−HCl42重量部を投入し、十分に撹拌した後、SiOゾル(日揮触媒化成製 固形分20%)86重量部、シリコーン系界面活性剤(東レダウコーニング製 「L7604」)を300ppm、Fe系触媒0.2重量部、Al系触媒0.8重量部を加え十分に撹拌した後、固形分が25%となるようにMeOHを混合・撹拌し、ハードコート層形成材料を得た。
【0075】
2.積層体(メガネレンズ)の製造
(実施例1)
[1] まず、母材として、屈折率1.67の眼鏡用のプラスチックレンズ基材(セイコーエプソン社製、「セイコースーパーソブリン(SSV)」)を用意し、濡れ性向上のために低圧水銀ランプ(UV)を30秒間照射した。
【0076】
[2] 次に、前記1.で調製したプライマー層形成材料および中間層形成材料をインクとしてそれぞれカートリッジに充填した後、インクジェットプリンタ(マスターマインド社製、「MMP813H」)を用いて母材の湾曲凸面および湾曲凹面の全面にプライマー層形成材料を0.5μm、中間層形成材料を母材の縁部(外周部)の幅4mmの領域に1.5μm塗膜形成した。これを80℃で1時間乾燥させた。
【0077】
[3] 次に、超音波スプレーコート法により前記1.で調整したハードコート層形成材料を中心部膜厚が18μmとなるように塗膜形成した。そして、湾曲凸面が上側(重力の作用する方向と反対側)となるように配置した状態で、得られた塗膜を125℃で5時間焼成することにより、母材とプライマー層とを有するレンズ基材上にハードコート層が形成された実施例1の積層体(メガネレンズ)を得た。
【0078】
(比較例1〜4)
中間層の形成を省略し、形成するプライマー層の膜厚を表1に示すようにしたこと以外は、前記実施例1と同様にして、比較例1〜4の積層体(メガネレンズ)を得た。
(比較例5〜7)
中間層の形成を省略し、プライマー層形成材料に含まれるポリウレタン樹脂の種類を表1に示すように変更し、さらに、形成するプライマー層の膜厚を表1に示すようにしたこと以外は、前記実施例1と同様にして、比較例5〜7の積層体(メガネレンズ)を得た。
表1における平均粒径は、プライマー層形成材料における樹脂の平均粒径である。
【0079】
3.評価
3.1 積層体のクラックの有無に関する評価
実施例および各比較例で得られた積層体について、目視によりクラックの有無を観察し、それぞれ、以下の基準にしたがって評価した。
<クラックの有無の評価基準>
○:目視観察においてクラックが認められない
×:目視観察においてクラックが認められる
【0080】
3.2 積層体の防傷性に関する評価
実施例および各比較例で得られた積層体について、それぞれ防傷性の評価を行った。ボンスター#0000スチールウール(日本スチールウール(株)製)で9.8N(1kgf)の荷重をかけた状態で10往復表面を摩擦し、1cm×3cmの範囲内に傷ついた程度を目視で次の5段階に分けて評価した。
【0081】
<積層体の防傷性の評価基準>
a:傷が発生していない。
b:1〜5本の傷が発生している。
c:6〜20本の傷が発生している
d:21本以上の傷が発生している。
e:レンズ表面全体に傷が発生している。
これらの結果を、表1に示す。表1において、A/Bは、実施例においては中間層の膜厚Aを用いて計算した。各比較例については中間層の膜厚Aに代えてプライマー層の膜厚A’を用いて計算した。
【0082】
【表1】
【0083】
表1から明らかなように、実施例1の積層体では、A/Bが3[%]以上となる関係を満足し、かつ、中間層を多孔質膜、より具体的には中間層に含まれる粒状体の平均粒径を80nm以上(図5参照。)とすることで、ハードコート層におけるクラックの発生を防止することができ、かつ、積層体を優れた強度を有するものとすることができた。
これに対して、各比較例では、中間層の形成を省略して、母材の全面に形成されたプライマー層に中間層としての機能を担わせた。
【0084】
このような各比較例では、A/Bが3[%]以上となる関係を満足しないことにより、ハードコート層にクラックが発生する結果となった(比較例1、2、5参照。)。また、プライマー層(中間層)がその中央部にまで形成されていることに起因して、防傷性に劣る結果となった(比較例3、4参照。)。さらに、中間層が多孔質膜ではない、より具体的には中間層に含まれる粒状体の平均粒径が80nm未満(図6参照、粒径が小さいため明瞭な粒子が撮像されていない。)であることに起因して、ハードコート層にクラックが発生し、さらには、防傷性にも劣る結果となった(比較例6、7参照。)。
【符号の説明】
【0085】
1…メガネレンズ 2…母材 21…上面 22…下面 3…プライマー層 4…ハードコート層 5…中間層 51…間欠部 6…メガネレンズ A…中間層の膜厚の最大値 B…厚膜部における膜厚の最大値 C…中間層の幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6