(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
樹脂層は、湿式凝固によって形成された湿式凝固層と、当該湿式凝固層に重ねられる表皮層とを有し、前記防汚層が表皮層に重ねられるように設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のシート材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の合成皮革は、耐久性に関してはあまり考慮されていない。また特許文献2に記載の合成皮革は、防汚性能と耐久性の両方を兼ね備えているが、耐久性、特に屈曲性の面でさらに改良の余地がある。すなわち、基材が伸びたり屈曲したりした場合、基材の伸びや屈曲に防汚層が追随することができず、防汚層に亀裂や破損を生じるおそれがある。
【0007】
上記現状に鑑み、本発明は、高い防汚性能を維持しつつ、高い耐磨耗性及び屈曲性を備えたシート材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、アルキルシリコーン含フッ素樹脂に特有の防汚性能を維持しつつ、耐磨耗性と屈曲性に優れた防汚層を開発するために、鋭意検討した。その1つの方策として、架橋剤として、脂環式ジイソシアネートから得られるポリイソシアネートと、脂肪族ジイソシアネートから得られるポリイソシアネートを併用することによって、上記課題を解決できることを見出し、先に特許出願した(特願2011−64598号)。そして、さらに検討を重ねた結果、脂肪族(鎖式)ジイソシアネートと脂環式ジイソシアネートとを共重合させて得られる「脂肪族・脂環族ポリイソシアネート共重合体」を架橋剤として用いることにより、防汚性、耐磨耗性、及び屈曲性により優れた防汚層を備えたシート材を開発することに成功し、本発明を完成した。上記課題を解決するために提供される本発明は、以下のとおりである。
【0009】
本発明の1つの様相は、基材と樹脂層とを有する本体材の表面に防汚層が形成されたシート材であって、前記防汚層は、アルキルシリコーン含フッ素樹脂とポリイソシアネートとを反応させて生成する二液硬化型含フッ素樹脂からなり、前記アルキルシリコーン含フッ素樹脂は、フルオロオレフィン、アクリレート単量体、アルキルシリコーン、水酸基含有単量体、及び不飽和カルボン酸によって構成されたものであり、前記ポリイソシアネートは、脂肪族ジイソシアネートと脂環式ジイソシアネートとを共重合させて得られる脂肪族・脂環族ポリイソシアネート共重合体を含むものであ
り、前記脂肪族ジイソシアネートはヘキサメチレンジイソシアネートであり、前記脂環式ジイソシアネートはイソホロンジイソシアネートであり、前記脂肪族・脂環族ポリイソシアネート共重合体は、イソシアヌレート構造を有するものであり、前記防汚層の厚みが4〜10μmであることを特徴とするシート材である。
【0010】
本発明のシート材は、基材と樹脂層とを有する本体材の表面に防汚層が形成されたシート材に係るものである。本発明のシート材は、アルキルシリコーン含フッ素樹脂とポリイソシアネートとを反応させて生成する、二液硬化型含フッ素樹脂からなる防汚層を有する。そして、本発明では前記ポリイソシアネートが、脂肪族(鎖式)ジイソシアネートと脂環式ジイソシアネートとを共重合させて得られる「脂肪族・脂環族ポリイソシアネート共重合体」を含むものである。本発明のシート材においては、防汚層が、アルキルシリコーン含フッ素樹脂に特有の防汚性能を維持しつつ、耐磨耗性と屈曲性に優れている。
【0011】
本発明のシート材では、脂肪族ジイソシアネートはヘキサメチレンジイソシアネートであり、脂環式ジイソシアネートはイソホロンジイソシアネートであ
る。
【0012】
本発明のシート材では、脂肪族・脂環族ポリイソシアネート共重合体は、イソシアヌレート構造を有するものであ
る。
【0013】
本発明のシート材では、防汚層の厚みは、4〜10μmであ
る。
【0014】
基材は、天然繊維又は合成繊維からなることが好ましい。
【0015】
樹脂層は、湿式凝固によって形成された湿式凝固層と、当該湿式凝固層に重ねられる表皮層とを有し、前記防汚層が表皮層に重ねられるように設けられていることが好ましい。
【0016】
本発明の他の様相は、上記のシート材を有することを特徴とする物品である。
【0017】
本発明の物品は、本発明のシート材を有するものである。シート材は、物品の主たる素材として用いてもよいし、物品の表面を被覆して用いてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のシート材は、防汚性、耐磨耗性、及び屈曲性に優れている。そのため、表面が汚れ難く、さらに表面に傷が付き難く、かつ割れ難い。
【0019】
本発明の物品についても同様であり、表面が汚れ難く、さらに表面に傷が付き難く、かつ割れ難い。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、発明の理解を容易にするために、各図面において、各部材の厚みについては一部誇張して描かれており、実際の大きさや比率等とは必ずしも一致しない。
【0022】
本発明の第一実施形態に係るシート材1は合成皮革であり、
図1に示すように、本体材2の表面に防汚層3が形成されたものである。ここで本体材2は、基材5に樹脂層6が積層されてなるものである。すなわち防汚層3は、より詳細には、本体材2の樹脂層6上に形成されている。
【0023】
図2に示すように、樹脂層6は、湿式凝固層7、接着層8、及び表皮層10が、この順番に積層されてなるものである。そして、湿式凝固層7は基材5側に、表皮層2は防汚層3側に、それぞれ位置している。すなわち防汚層3は、より詳細には、表皮層10の上に形成されている。
【0024】
基材5としては、例えば、通常の合成皮革の基材として用いられる繊維製の布を用いることができる。具体例としては、ナイロン、ポリエステル等の合成繊維や、綿、麻等の天然繊維を用いた織編物を採用することができる。
また、各種混糸からなる平織、綾織、長繊維からなる平織、綾織、朱子織等の織物や、化合繊マイクロファイバーからなる絡口不織布等から、目的等に合ったものを適宜採用することができる。
また熱可塑性ポリウレタンや熱可塑性エラストマー等のビニル系樹脂からなるシートを基材5として採用してもよい。
基材5の厚みは約0.6mmであるが、これに限定されるものではない。
【0025】
湿式凝固層7は、湿式凝固法によって形成された樹脂の層である。具体的には、樹脂を溶媒に溶解又は分散させた溶液を基材5上に塗工し、前記溶液の溶媒と相溶性を有する溶媒に浸漬し、その後、乾燥させて形成したものである。
前記溶液を基材5上に塗工する方法としては、通常用いられている方法を採用することができる。例えば、コンマコーティング法、ドクターナイフコーティング法、リバースロールコーティング法、バーコーティング法、等の様々な方法を採用することができる。
なお、湿式凝固層7は湿式凝固法により形成されるので、多孔質となっている。
湿式凝固層7の厚みは約0.5mm(基材5と湿式凝固層7とが一体化した総厚が約1.1mm)であるが、これに限定されるものではない。
【0026】
なお、基材5と湿式凝固層7との組み合わせに代えて、繊維布に伸縮性や屈曲性を有する合成樹脂を含浸させたものや、繊維布の表面(片面または両面)に伸縮性や屈曲性を有する合成樹脂膜を設けたものを、基材として採用することができる。これにより、基材に伸縮性を付与することができる。この際に用いられる合成樹脂や合成樹脂膜の素材としては、ウレタン樹脂やアクリル樹脂が挙げられる。特に、伸縮性や耐久性の観点からは、ポリカーボネート系ウレタン樹脂が好ましい。また、合成樹脂や合成樹脂膜は、無孔質でもよいし、多孔質でもよい。
繊維布の表面に合成樹脂膜を設けたものを基材として採用すると、合成樹脂膜を有さない繊維布と比較して、伸びや屈曲に対する耐久性が向上するとともに、強度が向上する。
【0027】
接着層8は、厚み約30μmのポリカーボネート系2液ポリウレタンからなるが、これに限定されるものではない。
【0028】
表皮層10は、厚み約50μmのポリカーボネート系1液ポリウレタンからなるが、これに限定されるものではない。必要に応じて、表皮層10にはエンボス加工等による凹凸が施される。
【0029】
防汚層3は、アルキルシリコーン含フッ素樹脂とポリイソシアネート(架橋剤)とを反応させて生成される二液硬化型含フッ素樹脂からなる。
【0030】
上記アルキルシリコーン含フッ素樹脂は、フルオロオレフィン、アクリレート単量体、アルキルシリコーン、水酸基含有単量体、及び不飽和カルボン酸によって構成されている。より詳細には、上記アルキルシリコーン含フッ素樹脂は、樹脂主鎖にフルオロオレフィンとアルキル基含有アクリレート単量体を有し、アルキルシリコーンをグラフト重合させたポリマーを基本とするものである。さらに、ポリイソシアネートと水酸基含有単量体だけでは硬化に多くの時間を要するため、フッ素樹脂内に不飽和カルボン酸を入れることで触媒の役割をさせ、硬化反応の促進が図られている。
なお、アルキルシリコーンをグラフト重合させずに単にブレンドした場合には、JIS L1919の防汚性(対油脂分の汚れ)が十分でなかったり、製塗後の溶液が均一に混ざらないことにより、塗工適性や耐久性をはじめ、耐磨耗性、防汚性、屈曲性のいずれの特性も生かしきれない。
上記アルキルシリコーン含フッ素樹脂の具体例としては、関東電化工業(株)製の「エフクリア」、等が挙げられる。
【0031】
一方、上記ポリイソシアネート(架橋剤)は、脂肪族ジイソシアネートと脂環式ジイソシアネートとを共重合させて得られる「脂肪族・脂環族ポリイソシアネート共重合体」を含むものである。本実施形態では、脂肪族ジイソシアネートとしてヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、脂環式ジイソシアネートとしてイソホロンジイソシアネート(IPDI)を採用し、これらを共重合させて得られる共重合体を上記ポリイソシアネート(架橋剤)として用いている。
【0032】
なお一般に、防汚層3における最表面の塗膜硬度、並びに防汚層3の架橋性は、用いるポリイソシアネートの構造と−NCO量による影響を大きく受ける。
例えば、IPDIを構成成分とするポリイソシアネートは、HDIを構成成分とするポリイソシアネートよりガラス転移点(Tg)が高く、表面の見かけ硬化乾燥速度が大きい。そのため、防汚層3において高い防汚性を実現することができる。しかし、表面の塗膜硬度も高くなるので、シート材1全体としては屈曲等への追随性は不十分となる。
一方、HDIを構成成分とするポリイソシアネートは、IPDIを構成成分とするポリイソシアネートに比べてTgが低く、表面の見かけ硬化乾燥速度が小さい。そのため、防汚性については低くなる。しかし、表面の塗膜硬度が小さいので、シート材1全体としては屈曲等への追随性は良好となる。
【0033】
そこで本実施形態では、防汚層3における表面の見かけ効果乾燥速度と架橋性を向上させるために、多官能タイプのHDIとIPDIとを共重合させて得られる共重合体を採用している。そして、当該共重合体をアルキルシリコーン含フッ素樹脂に含まれる水酸基の活性水素と縮合反応させることにより、ウレタン結合が形成され、硬化する。これにより、HDIの単独使用やIPDIの単独使用の場合、さらに、HDIとIPDIの混合使用(特願2011−64598号明細書に記載)の場合と比較して、防汚層3の高い防汚性、耐磨耗性、及び屈曲性を実現している。
【0034】
本実施形態では「脂肪族・脂環族ポリイソシアネート共重合体」の構成モノマーである脂肪族ジイソシアネートとしてヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を採用しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の脂肪族ジイソシアネートを採用してもよい。他の脂肪族ジイソシアネートとしては、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、等が挙げられる。
【0035】
同様に、本実施形態では「脂肪族・脂環族ポリイソシアネート共重合体」の構成モノマーである脂環式ジイソシアネートとしてイソホロンジイソシアネート(IPDI)を採用しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の脂環式ジイソシアネートを採用してもよい。他の脂環式ジイソシアネートとしては、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、1,4−ジイソシアネートシクロヘキサン、等が挙げられる。
【0036】
本発明において、脂肪族・脂環族ポリイソシアネート共重合体は、イソシアヌレート構造を有するものが好ましい。特に好ましい例として、イソシアヌレート構造を有する3量体として、IPDI、HDIを共環化したヘテロ3量体が好ましく、さらに5量体を含む脂肪族・脂環族ポリイソシアネート共重合体がより好ましい。当該脂肪族・脂環族ポリイソシアネート共重合体の具体例としては、「デュラネートMHG−80G」(旭化成ケミカルズ株式会社製)が挙げられる。
【0037】
本発明においては、イソシアヌレート構造を有する脂肪族・脂環族ポリイソシアネート共重合体の他、ビウレット型あるいはアダクト型の脂肪族・脂環族ポリイソシアネート共重合体も使用可能である。
【0038】
防汚層3の厚みは特に限定されるものではないが、好ましくは2〜10μm、より好ましくは6〜8μm、さらに好ましくは4〜6μmの範囲である。また防汚層3の伸び率は特に限定されるものではないが、好ましくは2〜10%、より好ましくは4〜6%の範囲である。
【0039】
防汚層3には、必要に応じて他の成分を含有させてもよい。例えば、シリカ、ケイソウ土、リン酸カルシウム等の無機粉体を含有させることで、タック感やテカリが抑えられ、艶調整が可能となる。
【0040】
防汚層3は、例えば、以下のようにして製造することができる。まず、防汚層3を構成する二液硬化型含フッ素樹脂溶液を調製する。当該溶液は、アルキルシリコーン含フッ素樹脂を、酢酸ブチル、メチルエチルケトン(MEK)等の有機溶剤に均一に混合させて溶液状態にしたものに、脂肪族・脂環族ポリイソシアネート共重合体(例えば、HDIとIPDIとを共重合させて得られる共重合体)を加えることにより調製する。
この溶液を、防汚層3を設けるべき面(本実施形態では樹脂層6の表面層10)に塗布する。塗布の方法としては、ナイフオーバーロールコーター、グラビアコーター等を用いたコーティング方式や、スプレー方式等の公知の方法を採用することができる。
溶液を塗布した後、乾燥する。乾燥温度は、60〜130℃で行うことが好ましいが、これに限定されるものではない。その後、必要に応じてエージング(熟成)を行う。エージングは60℃で24〜72時間程度行うことが好ましいが、これに限定されるものではない。
以上のようにして、防汚層3を製造することができる。
【0041】
次に、本発明の第二実施形態について説明する。以下の説明において、第一実施形態と機能が共通する部材等には同一の符号を付して、説明を簡略化する。
第二実施形態のシート材21は、
図1のシート材1と同様に、本体材2の表面に防汚層3が形成されたものである。そして本体材2は、基材5に樹脂層6が積層されてなるものであり、防汚層3は、より詳細には樹脂層6の上に形成されている。
図3に示すように、第二実施形態に係るシート材21は、第一実施形態に係るシート材1とは異なり、湿式凝固層7を有さない。さらに、樹脂層6が発泡材料からなる発泡層12を含んでいる。詳細には、樹脂層6は、発泡層12、非発泡層15、及び表面層10がこの順番に積層された構造を有する。そして防汚層3は、樹脂層6の表面層10の上に形成されている。
【0042】
発泡層12や非発泡層15を構成する樹脂としては、ポリウレタン、塩化ビニル等の公知の樹脂を用いることができる。発泡層12を形成する際の発泡方法としては特に限定はないが、発泡剤による化学発泡によることが好ましい。例えば、アゾカルボンアミド等の熱分解型発泡剤を樹脂原料に加えておき、加熱処理することにより、発泡させることができる。
防汚層3、基材5、表面層10については、第一実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0043】
上記した実施形態では、基材5として繊維製の布を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、塩化ビニルや発泡ポリウレタン等のシートを基材5として用いてもよい。さらに、ポリウレタンエラストマーや、ポリオレフィンエラストマーからなる熱可塑性樹脂シートを、基材5として用いてもよい。
また、樹脂層6と防汚層3の間に、密着性を上げるプライマー層を設けてもよい。
【0044】
本発明のシート材における防汚層は、金属などの腐食防止に応用することもできる。すなわち、金属表面に本発明のシート材と同様の防汚層を設けることにより、撥水性、撥油性、耐磨耗性を付与することができる。
【0045】
本発明のシート材は、様々な用途に使用することができる。例えば、家具、椅子、靴、鞄などの素材または被覆材として使用することができる。特に、本発明のシート材は屈曲性に優れているので、凹凸を有する物品であっても容易に被覆することができる。
【0046】
本発明の物品は、上記した本発明のシート材を有するものである。例えば、本発明のシート材を主たる素材として用いた物品(例えば、椅子、靴、鞄など)が挙げられる。さらに、本発明のシート材が表面に被覆された物品(例えば、家具など)が挙げられる。
【0047】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0048】
〔実施例1〕
図2に示す積層構造を有するシート材1(合成皮革)を作製し、その性能を評価した。
基材5として不織布を用い、不織布に湿式凝固層7を重ねたものをベースとした(湿式凝固不織布ベース)。
表皮層10として、一液型ポリカーボネート系ウレタン樹脂を用いた。表皮層10形成用の配合物として、表1に示す組成の配合物1を調製した。配合物1の粘度は、4000±500mPa・s(22℃)であった。
接着層8として、二液型カーボネート系ウレタン樹脂を用いた。接着層8形成用の配合物として、表1に示す組成の配合物2を調製した。
防汚層3として、二液硬化型含シリコーン・フッ素樹脂を用いた。防汚層3形成用の配合物として、表2に示す組成の配合物3を調製した。すなわち、樹脂固形分30%溶液を用い、架橋剤として、HDI−IPDI共重合タイプ(商品名:デュラネートMHG−80G、旭化成ケミカルズ株式会社製)を使用した。配合物3の粘度は200±100mPa・s(22℃)であった。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
離型紙の上に、配合物1(表1)を1平方メートルあたり95g塗布し、60〜130℃の温度下で乾燥させた。この上に、さらに配合物1(表1)を1平方メートルあたり95g塗布し、60〜130℃の温度下で乾燥させた。これにより、表皮層10が形成された。
次に、表皮層10の上に配合物2(表1)を1平方メートルあたり82g塗布した。これを乾燥させずに湿式凝固不織布ベース(基材5+湿式凝固層7)と常温圧着した。80〜110℃で乾燥させ、60℃で36時間熟成し、反応を完了させた。これにより、基材5、湿式凝固層7、接着層8、及び表皮層10がこの順番で積層された本体材2が得られた。
【0052】
上記反応完了後、離型紙を剥離し、本体材2の表皮層10を露出させた。150メッシュのグラビアロールを使用し、ロールコーター加工により、配合物3(表2)を表皮層10の上に1平方メートルあたり26g塗布した。130℃で乾燥し、さらに60℃で72時間熟成した。これにより、本体材2の表皮層10上に防汚層3が形成されたシート材1が得られた。なお、防汚層3の厚みは7μmであった。
【0053】
また、剥離紙に配合物3を塗布乾燥・架橋し、厚み40μmの塗膜(防汚層に相当)を別途調製した。この塗膜について、伸び率を測定した。
【0054】
〔比較例〕
防汚層3を構成する配合物3を、表3に示す組成の配合物4,5,又は6に置換する以外は実施例1と同様にして、比較例のシート材を3種作製した。
配合物4は、架橋剤としてIPDIを構成成分とするポリイソシアネート(イソシアヌレート型)のみを用いている。この比較例を比較例1とした。
配合物5は、架橋剤としてHDIを構成成分とするポリイソシアネート(イソシアヌレート型)のみを用いている。この比較例を比較例2とした。
【0055】
〔参考例〕
配合物6は、架橋剤として、IPDIを構成成分とするポリイソシアネート(イソシアヌレート型)と、HDIを構成成分とするポリイソシアネート(イソシアヌレート型)とを混合して用いている。これを参考例1とした。
配合物4,5,6の粘度は、いずれも200±100mPa・s(22℃)であった。
【0056】
また、表3に示す組成の配合物4,5,又は6に置換する以外は実施例1と同様にして、厚み40μmの塗膜を別途作製し、伸び率を測定した。
【0057】
【表3】
【0058】
〔評価方法〕
(1)防汚性試験
寺西化学社製の黒色油性マジックインキ(登録商標)にてインキを塗布し、5分後、布で乾拭きした際のインキの残留状態(残らない、少し残る、多く残る、残る)で評価した。試験は初期(初期防汚性)と磨耗後(磨耗後防汚性)の2点で行い、評価は下記の基準(1級〜5級)によった。なお、当該マジックインキの黒インキの成分に含まれる赤い染料は、防汚層の最表面にあるアルキルシリコーンに化学吸着する。そのため、赤い染料は有機溶剤(トルエン、ベンゼン)以外では拭き取れず、乾拭きでは残る。
磨耗後防汚性は、学振形摩擦試験機を使用し、摩耗子(200g)に8号帆布を付け、5000回の磨耗試験を行い、下記評価基準により評価した。
【0059】
(防汚性試験の評価基準)
5級:残らない
4級:黒は残らないが、赤は少し残る
3級:赤は多く残り、黒は少し残る
2級:赤は残らない、黒は多く残る
1級:黒が残る(取れない)
【0060】
(2)耐寒屈曲試験
JIS K6545の方法(フレキソ法)に準じて行い、−20℃の温度条件で繰り返し屈曲させ、表面の割れの有無をもって評価した。
【0061】
(3)伸び率
JIS B 7721の試験機で伸張し、塗膜の破断時の伸び率(破断伸度)を測定した。
【0062】
〔評価結果〕
結果を表4に示す。
実施例1(脂肪族・脂環族ポリイソシアネート共重合体を使用)のシート材は、いずれも初期防汚性と磨耗後防汚性が高く、かつ屈曲性に優れていた。厚み40μmの塗膜を用いた実験でも、実施例1の塗膜は破断伸度(伸び率)が高い値を示し、屈曲性に優れていた。
【0063】
比較例1(IPDI単独使用)のシート材は、磨耗後防汚性が低下しており、かつ屈曲性も劣っていた。厚み40μmの塗膜を用いた実験でも、比較例1の塗膜は破断伸度(伸び率)が低かった。これらの結果は、見かけ硬化乾燥速度が大きいIPDIのみを用いたためと考えられる。
比較例2(HDI単独使用)のシート材は、屈曲性には優れていたが、初期防汚性と磨耗後防汚性がいずれも低下していた。厚み40μmの塗膜を用いた実験でも、比較例2の塗膜は破断伸度(伸び率)が比較的高かった。これらの結果は、見かけ硬化乾燥速度が小さいHDIのみを用いたためと考えられる。
【0064】
参考例1(IPDIとHDIの混合使用)のシート材は実施例1に近い防汚性と屈曲性を有していたが、実施例1の方が防汚性により優れていた。厚み40μmの塗膜を用いた実験でも、参考例1の塗膜は破断伸度(伸び率)が比較的高かった。これらの結果は、IPDIとHDIを併用することで、防汚性と屈曲性のバランスがうまく取れたものと考えられる。
【0065】
実施例1では参考例1とは異なり、イソシアヌレート型ポリイソシアネート3量体の骨格にIPDIを組み込み、かつ5量体HDIを含んだポリイソシアネートを使用した。そのため、防汚性がさらに良くなったと考えられる。
【0066】
以上より、防汚層を構成する樹脂として二液硬化型シリコーンフッ素樹脂を使用し、架橋剤として脂肪族・脂環族ポリイソシアネート共重合体を使用することで、高い防汚性及び屈曲性を有する防汚層を形成することができた。
【0067】
【表4】
【0068】
〔実施例2〕
本実施例では、
図3に示すような、湿式凝固層7を設けないシート材21を作製した。基材5として、レーヨン製両面メリヤス編物の生地を使用した。
【0069】
表5に示す組成の配合物7をバンバリーミキサーにより5分間混練し、続いて2本ロールのウォームアップロールにより6分間混練した。逆L字型4本ロールカレンダにより、基材5(レーヨン製両面メリヤス編物の生地)にプライマー層を設けたものに、前記混練物を0.3mmの厚みになるように貼着して成形、積層した。これにより、基材5上に発泡層12が形成された。
【0070】
さらに、表5に示す組成の配合物8をバンバリーミキサーにより5分間混練した。この混練物を、逆L字型4本ロールカレンダにより、発泡層12の上に0.2mmの厚みになるように貼着して成形、積層した。これにより、発泡層12の上に配合物8からなる非発泡層15が積層された。
【0071】
ポリアミド系塗料100重量部と有機溶剤(メチルエチルケトン(MEK)/トルエン(TOL)=1/1の混合液)20重量部との混合物を調製し、配合物9とした。前記積層体の非発泡層15上に、配合物9を塗布し、表面層10とした。塗布量は、乾燥後の質量で1平方メートルあたり2.5gとした。この積層体を210℃の発泡炉に2分間通して発泡層12を発泡させながら、表面層10にエンボス加工を施した。これにより、合計厚み1.7mmのシート様のシボを形成した発泡シート(本体材2に相当)が得られた。
【0072】
この発泡シートの表面層10側(エンボス加工側)に、配合物3(表2)を塗布し、乾燥させ、防汚層3を形成させた。塗布量は、1平方メートルあたり26gとした。これにより、発泡シートからなる本体材2の表面に防汚層3が形成されたシート材21が得られた。なお、防汚層3の厚みは7μmであった。
【0073】
得られたシート材の初期防汚性は5級、磨耗後防汚性は5級であり、高い防汚性を示した。
【0074】
【表5】