特許第6061563号(P6061563)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061563
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】二次電池用水系電極バインダー
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20170106BHJP
   H01M 4/139 20100101ALN20170106BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   !H01M4/139
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-189296(P2012-189296)
(22)【出願日】2012年8月29日
(65)【公開番号】特開2014-49209(P2014-49209A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年4月21日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 理香
(72)【発明者】
【氏名】表 和志
(72)【発明者】
【氏名】平田 和久
(72)【発明者】
【氏名】原田 弘子
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−537841(JP,A)
【文献】 特開2012−142311(JP,A)
【文献】 特開2008−077837(JP,A)
【文献】 特開2012−059534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性高分子を含む二次電池用水系電極バインダーであって、
該水溶性高分子は、水溶性高分子が有する構造単位の全量100質量%に対して、エチレン性不飽和カルボン酸塩単量体由来の構造単位を30〜95質量%、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体由来の構造単位を5〜70質量%含み、界面活性能を有する重量平均分子量10万以下の化合物由来の成分の含有量が0.5質量%以下であり、かつ、重量平均分子量が50万以上であって、JIS K 7117−1で測定した、25℃、pH7、不揮発分2質量%水溶液での粘度が100mPa・s以上であり、不揮発分2質量%水溶液での全光線透過率が90%以上であることを特徴とする二次電池用水系電極バインダー。
【請求項2】
水溶性高分子を含む二次電池用水系電極バインダーの製造方法であって、
該製造方法は、界面活性能を有する化合物の含有量が全単量体成分100質量%に対して0.5質量%以下である条件下で、水溶液中で全単量体成分100質量%に対して30〜95質量%のエチレン性不飽和カルボン酸塩単量体を含む単量体成分を重合することにより樹脂粒子分散体を得る工程と、
該樹脂粒子分散体を、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩からなる群より選ばれる少なくとも1種で中和して水溶性高分子を得る工程とを含むことを特徴とする二次電池用水系電極バインダーの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の二次電池用水系電極バインダー、導電助剤、及び、水を必須成分として含むことを特徴とする導電性付与剤。
【請求項4】
請求項1に記載の二次電池用水系電極バインダー、正極活物質、及び、水を必須成分として含むことを特徴とする二次電池用正極水系組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の二次電池用水系電極バインダー、及び、正極活物質を含有することを特徴とする二次電池用正極。
【請求項6】
請求項に記載の導電性付与剤、又は、請求項に記載の二次電池用正極水系組成物を用いて形成されることを特徴とする二次電池用正極。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の二次電池用正極を用いて構成されることを特徴とする二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用水系電極バインダーに関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、繰り返し充放電を行うことができる電池である。近年の環境問題への関心の高まりを背景に、携帯電話やノートパソコン等の電子機器だけでなく、自動車や航空機等の分野においても使用が進んでいる。このような二次電池への需要の高まりを受けて、研究も活発に行われている。特に、二次電池の中でも軽量、小型かつ高エネルギー密度のリチウムイオン電池は、各産業界から注目されており、開発が盛んに行われている。
リチウムイオン電池は、主に正極、電解質、負極、及び、セパレータから構成される。この中で電極は、電極組成物を集電体の上に塗布したものが用いられている。
【0003】
電極組成物のうち、正極の形成に用いられる正極組成物は、主に正極活物質、導電助剤、バインダー及び溶媒からなっている。そのバインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)が一般に用いられている。
これは、PVDFが化学的、電気的に安定であり、NMPがPVDFを溶解する経時安定性のある溶媒であること、及び、正極活物質として一般に用いられているコバルト酸リチウムが水中では加水分解をおこすと言われており、有機溶媒を使用する必要があること、が理由である。
しかしながら、PVDFの低分子量品は密着性が不十分であり、高分子量化すると溶解濃度が高くなく、高分子量のPVDFを用いると固形分濃度を上げ難い。また、NMPは、沸点が高いため、NMPを溶媒として用いると電極を形成する際に溶媒の揮発に多くのエネルギーを必要とするといった問題がある。それに加え、近年は環境問題への関心の高まりを背景に、電極組成物にも有機溶媒を使用しない水系のものが求められてきている。
【0004】
一方、電極組成物のうち、負極の形成に用いられる負極組成物は、主に負極活物質、バインダー及び溶媒からなっている。そのバインダーとしては、溶媒系ではポリフッ化ビニリデン(PVDF)(溶媒はN−メチル−2−ピロリドン(NMP))を用い、水系ではカルボキシメチルセルロース(CMC)とスチレンブタジエンゴム(SBR)とを併用することが一般的である。
負極組成物についても、上述のような背景から、溶媒系のものから水系のものが検討されるようになっている。通常水系では、バインダーとしては、CMCに代表される分散性と粘度調整機能を担う水溶性高分子と、SBRに代表される電極の柔軟性や活物質粒子同士を結着させる結着剤としてエマルション(ポリマー粒子の水分散体)を併用する。
二次電池の負極用バインダーとしての水溶性高分子としては、セルロース類、ポリカルボン酸系化合物等が主に検討され、例示されている。
【0005】
このような状況下、電極組成物や、電極組成物に用いることができるバインダーについて、様々な研究、開発がなされている。
二次電池用バインダーとして、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体由来の構造単位と、エチレン性不飽和カルボン酸塩単量体由来の構造単位を特定量含み、特定の重量平均分子量を有する水溶性高分子を含有するものが開示されている(特許文献1参照)。
また、二次電池負極用組成物として、(メタ)アクリル酸ポリオキシアルキレンエーテル化合物及びエチレン性不飽和カルボン酸を共重合して得られる共重合体からなるリチウムイオン二次電池負極用増粘剤が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2012/008539号
【特許文献2】特開2002−203561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の二次電池用バインダーは、吸湿特性が充分ではないことに起因する、保水のし易さによる極板の工程管理の煩雑さや、密着性が充分ではないことに起因する、電極を曲げた際の剥がれが問題となっている。
また、上記各特許文献に記載の発明においても、吸湿特性及び密着性を充分にするための工夫の余地があった。
【0008】
本発明は、上記状況を鑑みてなされたものであり、優れた吸湿特性及び密着性を有し、かつ、二次電池用電極を形成する組成物に含有させる水溶性バインダーとして好適に用いることができる、二次電池用水系電極バインダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、水系電極組成物の吸湿特性及び密着性を向上させることができる水系電極バインダーについて種々検討を行った。そして、エチレン性不飽和カルボン酸塩単量体由来の構造単位を特定割合で含み、界面活性能を有する化合物由来の成分の含有量が特定量以下であり、かつ、重量平均分子量が50万以上である水溶性高分子を含有する水系電極バインダーを用いると、水系電極組成物の吸湿特性及び密着性を向上させることができることを見出した。また、このような水溶性高分子は、界面活性能を有する低分子量の化合物由来の成分の含有量が特定量以下であるので、当該水溶性高分子の密着性が向上し、更に、界面活性能を有する化合物由来のアルキレンオキサイド鎖が存在しないため、当該水溶性高分子の吸湿特性が向上することを見出し、本発明に到達したものである。
なお、電極バインダーとしては吸湿性が低い(水を吸いにくい)方が工程管理がし易くなるので、本明細書において、吸湿特性が向上するとは吸湿性が低くなることを意味し、吸湿特性に優れるとは吸湿性が低いことを意味する。
【0010】
すなわち、本発明は、水溶性高分子を含む二次電池用水系電極バインダーであって、該水溶性高分子は、水溶性高分子が有する構造単位の全量100質量%に対して、エチレン性不飽和カルボン酸塩単量体由来の構造単位を5〜95質量%含み、界面活性能を有する重量平均分子量10万以下の化合物由来の成分の含有量が0.5質量%以下であり、かつ、重量平均分子量が50万以上であることを特徴とする二次電池用水系電極バインダーである。
【0011】
以下、本発明を詳述する。
なお、以下において記載される本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせた形態もまた、本発明の好ましい形態である。
【0012】
本発明の二次電池用水系電極バインダー(以下、「水系電極バインダー」とも言う)は、水溶性高分子が有する構造単位の全量100質量%に対して、エチレン性不飽和カルボン酸塩単量体由来の構造単位を5〜95質量%含み、界面活性能を有する重量平均分子量10万以下の化合物由来の成分の含有量が0.5質量%以下であり、かつ、重量平均分子量が50万以上である水溶性高分子(以下、「本発明における水溶性高分子」又は単に「水溶性高分子」とも言う)を含有するものである。
【0013】
本発明の水系電極バインダーは、このような水溶性高分子を含む限り、その他の成分や、その他の水溶性高分子を含んでいてもよい。
なお、本発明の水系電極バインダーは、密着性の点から、当該水系電極バインダー全量100質量%に対して、本発明における水溶性高分子を10〜100質量%含むことが好ましく、より好ましくは50〜100質量%である。
また、本発明の水系電極バインダーは、本発明における水溶性高分子を1種含むものであってもよいし、2種以上含むものであってもよい。
【0014】
本発明における水溶性高分子が必須として含む、エチレン性不飽和カルボン酸塩単量体由来の構造単位(以下、「構造単位(a)」とも言う)とは、エチレン性不飽和カルボン酸塩単量体の炭素−炭素二重結合が単結合になった構造を表すものである。
エチレン性不飽和カルボン酸塩単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等の炭素数3〜10のエチレン性不飽和モノカルボン酸塩単量体;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等の炭素数4〜10のエチレン性不飽和ジカルボン酸塩単量体等が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸等の炭素数3〜6のエチレン性不飽和モノカルボン酸の塩が好ましい。
上記アルカリ金属塩を形成するアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。
上記アンモニウム塩を形成する化合物としては、アンモニア等が挙げられる。
有機アミン塩を形成する化合物としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、ヒドロキシルアミン等が挙げられる。上記塩類のうち、好ましくはリチウム塩である。
このように、エチレン性不飽和カルボン酸塩単量体を用いることで、特にはエチレン性不飽和カルボン酸のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩にすることにより、本発明における水溶性高分子が電解液に対して膨潤するのを抑制することができる。これらエチレン性不飽和カルボン酸塩単量体としては、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0015】
上記エチレン性不飽和カルボン酸塩単量体の有するカルボン酸塩は、後述する重合方法により水溶性高分子を合成することができる限り、その一部がカルボン酸(−COOH)の形態であってもよい。エチレン性不飽和カルボン酸塩単量体の有するカルボン酸塩の一部がカルボン酸となっている形態の場合には、エチレン性不飽和カルボン酸塩単量体の有するカルボン酸塩のうち、水への溶解性の点から、カルボン酸の形態となっているものが50モル%以下であることが好ましい。より好ましくは40モル%以下であり、更に好ましくは30モル%以下である。
【0016】
本発明における水溶性高分子は、上記構造単位(a)以外に、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体由来の構造単位を含むことが好ましい。
上記エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体由来の構造単位(以下、「構造単位(b)」とも言う)とは、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体の炭素−炭素二重結合が単結合になった構造を表すものである。
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、クロトン酸エステル等が挙げられる。好ましくは、例えば、一般式(1);
CH=CR−C(=O)−OR’ (1)
(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。R’は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基又は炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基を表す。)
で表される化合物である。
【0017】
上記一般式(1)におけるR’としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基等の炭素数1〜10のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3〜10のシクロアルキル基;ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基等の炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基等が挙げられる。
これらの中でも、後述するソープフリー乳化重合時の安定性等の面からは、疎水性の高いものが好ましく、すなわち、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基が好ましい。より好ましくは、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基であり、更に好ましくは、炭素数1〜6のアルキル基である。上記一般式(1)におけるR’がアルキル基であると、得られる水溶性高分子のガラス転移温度(Tg)が低くなるため好ましい。R’として特に好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基であり、最も好ましくは、炭素数1〜2のアルキル基である。炭素数が1〜4のアルキル基であると、エチレン性不飽和カルボン酸塩単量体との共重合物の水への溶解がし易くなる。
これらエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としては、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0018】
本発明における水溶性高分子は、上記構造単位(a)及び構造単位(b)以外に、その他の重合可能な単量体由来の構造単位を含んでいてもよい。
上記その他の重合可能な単量体由来の構造単位(以下、「構造単位(c)」とも言う)とは、その他の重合可能な単量体の炭素−炭素二重結合が単結合になった構造を表すものである。
その他の重合可能な単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、エチルビニルベンゼン等のスチレン系単量体;(メタ)アクリル酸アミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系単量体;酢酸ビニル、フタル酸ジアリル等の多官能アリル系単量体;1,6−ヘキサンジオールジアクリレート等の多官能アクリレート;末端がハロゲン化していてもよい炭素数5〜30のアルキル基等の疎水基を有する、ポリアルキレンオキサイド基を有する(メタ)アクリルエステルやビニル化合物等が挙げられる。
その他の重合可能な単量体としては、これらの中でも、スチレン系単量体、(メタ)アクリルアミド系単量体、多官能アリル系単量体、多官能アクリレートであることが好ましい。
これらのその他の重合可能な単量体としては、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0019】
本発明における水溶性高分子での構造単位(a)の含有割合は、水溶性高分子が有する構造単位の全量100質量%に対して、5〜95質量%である。構造単位(a)がこの範囲内にあることにより、本発明における水溶性高分子をソープフリー乳化重合により容易に製造することが可能となると共に、製造される高分子の水への溶解性(水溶性)を発現することが可能となる。一方、構造単位(a)が5質量%未満の場合、水への溶解度が不足して均一溶液とならないおそれがあり、また、95質量%を超える場合、ソープフリー乳化重合による製造が困難になるおそれがある。本発明における水溶性高分子での構造単位(a)の含有割合としては、好ましくは20〜80質量%であり、より好ましくは30 〜60質量%である。
【0020】
本発明における水溶性高分子での構造単位(b)の含有割合は、水溶性高分子が有する構造単位の全量100質量%に対して、5〜95質量%であることが好ましい。構造単位(b)がこの範囲内にあると、本発明における水溶性高分子をソープフリー乳化重合により容易に製造することができる。一方、構造単位(b)が95質量%を超える場合、水への溶解度が不足して均一溶液とならないおそれがあり、また、5質量%未満の場合、ソープフリー乳化重合による製造が困難になるおそれがある。本発明における水溶性高分子での構造単位(b)の含有割合としては、好ましくは20〜80質量%であり、より好ましくは40〜70質量%である。
なお、構造単位(b)が、特に一般式(1)で表されるエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体に由来する構造単位である場合、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体は、エステル構造部分、すなわち一般式(1)において−C(=O)−OR’で表される構造部分、を有する単量体であり、疎水性単量体であるが極性基を含有している。このため、ソープフリー乳化重合時には、乳化滴の核になり易い一方で、高分子化後にアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等を用いて中和する際には、水中に均一に溶解しやすくなると考えられる。そのため、水溶性高分子は、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体由来の構造単位(構造単位(b))を5〜95質量%含むことが好ましい。
【0021】
本発明における水溶性高分子が構造単位(c)を含む場合、その含有割合としては、水溶性高分子が有する構造単位の全量100質量%に対して、20質量%以下であることが好ましい。より好ましくは10質量%以下であり、更に好ましくは5質量%以下である。
【0022】
すなわち、本発明における水溶性高分子での各構造単位の比率としては、水溶性高分子が有する構造単位の全量を100質量%とした時に、((a)エチレン性不飽和カルボン酸塩単量体由来の構造単位)/((b)エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体由来の構造単位)/((c)その他の重合可能な単量体由来の構造単位)=5〜95質量%/5〜95質量%/0〜20質量%となることが好ましい。
【0023】
本発明における水溶性高分子は、上記のように、疎水性部と極性部とがバランスよく含有されているため、正極活物質や導電助剤等の分散安定性に優れており、正極活物質や導電助剤等を分散した二次電池用正極水系組成物を作成するためのバインダーとして好適に用いることができる。
【0024】
上記水溶性高分子の重量平均分子量は、50万以上であることが必要である。重量平均分子量が50万未満の場合、水溶性高分子に求められる分散性や粘度調整能は発現できるが、粒子間の結着性を向上させる上では充分でないおそれがある。エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体の使用による可とう性の向上と、重量平均分子量50万以上とする高分子量化による強度の向上とにより、分散性及び粘度調整機能に加え、更に結着性をも向上させることができる。好ましくは70万〜200万であり、より好ましくは90万〜180万である。
重量平均分子量は、後述する実施例に記載のゲルパーミエーションクロマトグラフィ法(GPC法)により測定することができる。
【0025】
上記水溶性高分子は、JIS K 7117−1で測定した、25℃、pH7、不揮発分2質量%水溶液での粘度が100mPa・s以上であることが、粘度調整能の点から好ましい。より好ましくは500〜20,000mPa・s、更に好ましくは1000〜10,000mPa・sである。
【0026】
上記水溶性高分子は、不揮発分2質量%水溶液での全光線透過率が90%以上であることが、均一性及び透明性の点から好ましい。より好ましくは95〜100%、更に好ましくは97〜100%である。
上記全光線透過率は、ヘイズメーター(製品名「NDH5000」、日本電色工業社製)等を用いて、測定することができる。
【0027】
また、上記水溶性高分子は、不揮発分2質量%に調整した水溶液のヘイズが3%以下であることが好ましく、より好ましくは1%以下である。
上記ヘイズは、ヘイズメーター(製品名「NDH5000」、日本電色工業社製)等を用いて、測定することができる。
【0028】
上記水溶性高分子においては、界面活性能を有する重量平均分子量10万以下の化合物由来の成分の含有量が、水溶性高分子が有する構造単位の全量100質量%に対して、0.5質量%以下である。密着性及び吸湿特性の点から、好ましくは0.3質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以下であり、特に好ましくは0質量%である。
なお、「界面活性能を有する重量平均分子量10万以下の化合物」とは、親水部と疎水部を併せ持つ化合物であって、かつ、重量平均分子量10万以下である化合物を意味し、後述の界面活性能を有する化合物のうち、重量平均分子量10万以下である化合物が挙げられる。
なお、重量平均分子量は、上述したのと同じ方法により測定することができる。
【0029】
上記界面活性能を有する化合物としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。
上記アニオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンカルボン酸エステル硫酸エステル塩、アルキルアリルポリエーテル硫酸塩等の硫酸エステル塩、スルホン酸塩及びリン酸エステル塩等が挙げられる。
上記ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセロールのモノラウレート等の脂肪酸モノグリセライド類、ポリオキシエチレンオキシプロピレン共重合体、エチレンオキサイドと脂肪酸アミン、アミド又は酸との縮合生成物等が挙げられる。
上記カチオン性界面活性剤としては、アルキルピリジニルクロライド、アルキルアンモニクムクロライド等が挙げられる。
上記両性界面活性剤としては、ラウリルペタイン、ステアリルペタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0030】
また、「界面活性能を有する化合物由来の成分」として、水溶性高分子を作製する過程で使用した、上記界面活性剤の構造中にラジカル重合性の不飽和基を有する反応性界面活性剤も含まれる。反応性界面活性剤は、その重合性不飽和基により界面活性剤をポリマーの構造中に組み込むことができ、水溶液にした場合に水溶液中に遊離して存在する界面活性剤成分を減少させることができるが、反応性の高くはない反応性界面活性剤の遊離成分を完全に無くすことは困難であり、また一般的な反応性界面活性剤に含有されるアルキレンオキサイド鎖により吸湿特性が低下するおそれがある。
上記反応性界面活性剤としては、例えば、ラテムルPD(花王社製)、アデカリアソープSR(アデカ社製)、アクアロンHS(第一工業製薬社製)、アクアロンKH(第一工業製薬社製)、エレミノールRS(三洋化成社製)等が挙げられる。
0.5質量%以下の範囲でこれら界面活性能を有する化合物を使用する場合は、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0031】
「界面活性能を有する化合物由来の成分」は、界面活性能を有する化合物が非反応性界面活性剤の場合は、水溶性高分子自体に組み込まれるのではなく、水溶性高分子中に存在するため、密着性に悪影響を及ぼすおそれがある。また、界面活性能を有する化合物が反応性界面活性剤の場合も遊離する成分を完全に無くすことは容易ではなく、遊離した成分により密着性に悪影響を及ぼすおそれがあり、また水溶性高分子に組み込んだ場合も、含有するアルキレンオキサイド鎖により吸湿特性が低下するおそれがある。
【0032】
本発明における水溶性高分子は、連鎖移動剤の含有量が、水溶性高分子が有する構造単位の全量100質量%に対して、0.1質量%未満であることが好ましい。連鎖移動剤の含有量が0.1質量%以上であると、低分子量化合物が多量に生成し、密着性が不足するおそれがある。より好ましくは0.01質量%以下であり、特に好ましくは0質量%である。
上記連鎖移動剤としては、通常用いる連鎖移動剤であれば特に限定されないが、例えば、ハロゲン化置換アルカン、アルキルメルカプタン、チオエステル類、アルコール類等が挙げられる。これら連鎖移動剤を用いる場合は、1種でも、2種以上でも用いることができる。
【0033】
本発明における水溶性高分子は、上述した構造単位の由来となる各単量体成分を重合することにより製造することができる。
単量体成分の重合方法としては、特に限定されず、例えば、ソープフリー乳化重合、逆相懸濁重合、懸濁重合、溶液重合、水溶液重合、塊状重合等の方法を挙げることができる。これらの重合方法の中でも、ソープフリー乳化重合法が好ましい。
【0034】
上記ソープフリー乳化重合法においては、単量体及び重合開始剤を溶媒(水等)中に添加し、これらが接触することにより、ラジカルと重合開始剤末端が有するイオン性基とを有するオリゴマーラジカルが生成して粒子核を形成し、その粒子核中に単量体が入り込んで重合反応が進行し、粒子が成長して樹脂粒子(重合体粒子)となると考えられている。そのため、上記ソープフリー乳化重合法は、高分子量の共重合体を高濃度で容易に重合することが可能で、重合溶液の粘度も低い方法である。また、疎水性の単量体を用いると、オリゴマーラジカルが水に不溶化しやすくなるため粒子核がよりできやすく、好ましい。更に、重量平均分子量50万以上の水溶性高分子は、ソープフリー乳化重合法により樹脂粒子分散体として作製し、後述のようにアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等で中和し、可溶化(均一化)する工程をとることにより、製造を簡便に行うことができ、生産コストの点でメリットがある。
【0035】
また、このようなソープフリー乳化重合においては、生成した樹脂粒子は、重合開始剤末端が有するイオン性基により、分散安定化する。そのため、上記ソープフリー乳化重合では、界面活性能を有する化合物を用いない、又は、界面活性能を有する化合物を極微量用いるだけで行うことができる。上述したように、本発明における水溶性高分子では、界面活性能を有する重量平均分子量10万以下の化合物由来の成分の含有量を0.5質量%以下とすることが必要であるので、ソープフリー乳化重合は、界面活性能を有する化合物を用いないで行うことが好ましい。
このように、ソープフリー乳化重合における界面活性能を有する化合物の使用量は、重合反応に供する単量体成分の総量100質量%に対して、好ましくは0〜0.3質量%、より好ましくは0〜0.1質量%、特に好ましくは0質量%である。
【0036】
また、シード粒子を利用してソープフリー乳化重合を行うこともできる。この場合、シード粒子が、重合反応に供した単量体を吸収し、樹脂粒子が成長する。そのため、水溶液中で単量体が反応することが殆どないので、低分子量物ができにくく、密着性の点から好ましい。
上記シード粒子としては、公知の樹脂粒子を用いることができる。上記シード粒子の組成(成分)としては、上述したように、シード粒子が単量体を吸収して樹脂粒子が成長するため、作製しようとする水溶性高分子と類似組成を有するものが好ましい。
【0037】
上記各単量体成分の重合には、重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、通常用いられているものを使用することができ、特に制限されず、熱によってラジカル分子を発生させるものであればよい。重合方法としてソープフリー乳化重合を行う場合は、水溶性の開始剤が好ましく使用される。
重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩類;2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)等の水溶性アゾ化合物;過酸化水素等の熱分解系開始剤;過酸化水素とアスコルビン酸、t−ブチルヒドロパーオキサイドとロンガリット、過硫酸カリウムと金属塩、過硫酸アンモニウムと亜硫酸水素ナトリウム等のレドックス系開始剤等を挙げることができる。これら重合開始剤は、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
上記重合開始剤の使用量としては、密着性の点から、重合反応に供する単量体成分の総量100質量部に対して、0.05〜2質量部であることが好ましい。より好ましくは0.1〜1質量部である。
【0038】
上記ソープフリー乳化重合時においては、分子量を調整するために連鎖移動剤を用いてもよい。ただし、重量平均分子量が50万以上になるように使用する必要がある。
連鎖移動剤の種類としては上述のとおりである。
上記連鎖移動剤の使用量としては、密着性の点から、重合反応に供する単量体成分の総量100質量%に対して、0〜1質量%であることが好ましい。より好ましくは0〜0.5質量%である。
【0039】
また、ソープフリー乳化重合する際に、得られる共重合体に悪影響を及ぼさない範囲で、親水性溶媒や添加剤等を加えることができる。
上記親水性溶媒としては、例えば、アルコール類、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、アセトン等が挙げられる。
上記添加剤としては、例えば有機塩、無機塩、pH緩衝剤等が挙げられる。
【0040】
上記ソープフリー乳化重合における重合温度については、特に限定されないが、好ましくは20〜100℃、より好ましくは50〜90℃である。
ソープフリー乳化重合における重合時間についても、特に限定されないが、生産性を考慮すると、好ましくは1〜10時間、より好ましくは1.5〜8時間である。
【0041】
各単量体成分をソープフリー乳化重合の反応系に添加する方法としては、特に限定はなく、一括重合法、単量体成分滴下法、パワーフィード法、シード法、多段添加法等を用いることができる。
【0042】
上記ソープフリー乳化重合反応後に得られる樹脂粒子分散体の不揮発分は、5〜60%であることが好ましい。不揮発分が上記範囲内であると、得られる樹脂粒子分散体の流動性や分散安定性を保つことが容易になり、また、目的とする重合体の生産効率の点からも好ましい。一方、不揮発分が60%を超えると、樹脂粒子分散体の粘度が高すぎるため、分散安定性を保てず、凝集が生じるおそれがある。不揮発分が5%未満の場合、重合系の濃度が低く、反応に時間を要する可能性があり、また、目的とする重合体の生産量の点から生産効率が悪くなるおそれがある。
なお、本明細書においては、樹脂粒子分散体を形成する重合体のことを、樹脂粒子ともいう。
【0043】
上記樹脂粒子は、JIS K 7117−1で測定した、25℃、不揮発分2質量%水溶液とした場合の粘度が0.01〜100mPa・sであることが、作業性の点から好ましい。より好ましくは0.01〜50mPa・s、更に好ましくは0.01〜10mPa・sである。
【0044】
上記樹脂粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、好ましくは10nm〜1μmであり、より好ましくは30〜500nmである。樹脂粒子の粒子径が上記範囲内であると、粘度が高くなりすぎたり、分散安定性が保てず凝集する可能性を下げることができる。一方、樹脂粒子の粒子径が10nm未満の場合、樹脂粒子分散体の粘度が高くなりすぎたり、分散安定性を保てず凝集するおそれがあり、また、1μmを超えると、樹脂粒子の分散安定性を保つことが難しくなるおそれがある。
上記樹脂粒子の平均粒子径は、動的光散乱式の粒子径測定装置により測定することができる。
【0045】
本発明における水溶性高分子は、上記のような方法で得られた樹脂粒子を、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等で中和して得ることが好ましい。
アルカリ金属塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等の塩が挙げられる。これらの金属塩で中和する為には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸リチウム等の水溶液を用いることができ、好ましくは、水酸化リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸リチウムである。
アンモニウム塩で中和する為には、アンモニア等の水溶液を用いることができる。
有機アミン塩で中和する為には、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、ヒドロキシルアミン等の水溶液を用いることができ、好ましくは、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンである。
上記塩類のうち特に好ましくは、アルカリ金属塩、その中でも更に好ましくは水酸化リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸リチウムである。
これらの金属塩で中和することにより、均一な水溶液となり、透明溶液となる。
【0046】
中和は、理論カルボン酸量の50%以上であることが好ましく、より好ましくは65%以上である。中和後のpHは、6以上が好ましく、より好ましくは6.2以上である。また、pHが9以下が好ましい。
上記pHは、ガラス電極式水素イオン度計F−21(製品名、堀場製作所社製)を用いて、25℃での値として測定することができる。
【0047】
上述したソープフリー乳化重合では、上述した界面活性能を有する化合物を使用しないか、使用する場合でも使用量が通常の乳化重合に比べて微量であるため、ソープフリー乳化重合で得られた樹脂粒子をアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等で中和して得られる水溶性高分子は、フリーの乳化剤(重合体の構造内に組み込まれていない乳化剤)のような低分子量成分の含有量が極めて少ないものとなる。
このように、水溶性高分子が、ソープフリー乳化重合によって合成した樹脂粒子を、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等で中和することにより得られるものであることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
具体的には、前記水溶性高分子は、界面活性能を有する化合物の含有量が全単量体成分100質量%に対して0.5質量%以下である条件下で、水溶液中でエチレン性不飽和カルボン酸系単量体を重合することにより得られる樹脂粒子分散体を、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩からなる群より選ばれる少なくとも1種で中和することにより得られるものであることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
ここで、「エチレン性不飽和カルボン酸系単量体」とは、上述のエチレン性不飽和カルボン酸塩単量体及びエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体の両方を含むものを意味する。
【0048】
次に、本発明の導電性付与剤について説明する。
本発明の導電性付与剤は、上述した水溶性高分子を含有する本発明の二次電池用水系電極バインダー、導電助剤、及び、水を必須成分として含むことを特徴とする。本発明の導電性付与剤は、これらの必須成分をそれぞれ1種含むものであってもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0049】
上記導電助剤は、リチウムイオン電池を高出力化するために用いられ、主に導電性カーボンが用いられる。
導電性カーボンとしては、カーボンブラック、ファイバー状カーボン、黒鉛等が挙げられる。これらの中でも、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラックが好ましい。ケッチェンブラックは、中空シェル構造を持ち、導電性ネットワークを形成しやすい。そのため、従来のカーボンブラックに比べると、半分程度の添加量で同等性能を発現するため好ましい。また、アセチレンブラックは、高純度のアセチレンガスを用いることで、生成されるカーボンブラックの不純物が非常に少なく、表面の結晶子が発達しているため好ましい。
【0050】
上記導電助剤は、平均粒子径が1μm以下のものであることが好ましい。平均粒子径が1μm以下の導電助剤を用いることにより、本発明の導電性付与剤を用いて作製される正極水系組成物から正極を形成し、形成された正極を電池の正極として用いた場合に、出力特性等の電気特性を優れた正極とすることが可能となる。平均粒子径は、より好ましくは0.01〜0.8μmであり、更に好ましくは0.03〜0.5μmである。
導電助剤の平均粒子径は、動的光散乱の粒度分布計(導電助剤屈折率を2.0とする)により測定することができる。
【0051】
本発明の導電性付与剤には、更に必要に応じて分散剤を用いることができる。分散剤を用いることにより、粘度を低減することが可能となり、正極活物質等と混合した正極水系組成物とした場合の固形分を高く設定することができる。
分散剤としては、特に制限されず、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤;スチレンとマレイン酸との共重合体(ハーフエステルコポリマー−アンモニウム塩を含む)等の高分子分散剤;等の種々の分散剤を用いることができる。
【0052】
本発明における水溶性高分子に更に分散剤を併用して、導電助剤の均一分散安定性を向上させることにより、正極活物質等と混合した正極水系組成物とした場合に、正極活物質粒子間の接触抵抗を低減でき、良好な正極膜の電導度を達成することができる。
【0053】
本発明は、更に、上述した水溶性高分子を含有する本発明の二次電池用水系電極バインダー、正極活物質、及び、水を必須成分として含む二次電池用正極水系組成物である。これらの必須成分は、それぞれ1種含むものであってもよく、2種以上含んでいてもよい。さらに、本発明の二次電池用正極水系組成物は、導電助剤を含んでいてもよい。
【0054】
本発明の二次電池用正極水系組成物において、水溶性高分子及び導電助剤は、上述したものを用いることができる。
本発明の二次電池用電極水系組成物において用いる正極活物質は、リチウムイオンを吸蔵、放出できる正極活物質であることが好ましい。このような正極活物質を用いることにより、リチウムイオン電池の正極として好適に用いることができるものとなる。
リチウムイオンを吸蔵、放出できる化合物としては、リチウム含有の金属酸化物が挙げられ、当該金属酸化物としては、コバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、オリビン構造を有する化合物、LiNi1−x−yCoMnやLiNi1−x−yCoAl(0≦x≦1、0≦y≦1)で表される三元系酸化物等の遷移金属酸化物、遷移金属を複数取り入れた固溶材料(電気化学的に不活性な層状のLiMnOと、電気化学的に活性な層状のLiMO(M=Co、Ni等の遷移金属)との固溶体)等が挙げられる。
これら正極活物質としては、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0055】
本発明の二次電池用電極水系組成物に用いる正極活物質は、オリビン構造を有する化合物を含むものであることが好ましい。すなわち、正極活物質が、オリビン構造を有する化合物を含む正極活物質であることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0056】
オリビン構造を有する化合物とは、下記式;
LixAyDzPO
(但し、Aは、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群より選ばれる1種以上を表す。Dは、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sc、Y及び希土類元素からなる群より選ばれる1種以上を表す。x、y及びzは、0<x<2、0<y<1.5、0≦z<1.5を満たす数を表す。)
で表される構造を有する化合物である。
この化合物は、構造内の酸素原子がリンと結合することで(PO3−ポリアニオンを形成しており、酸素が結晶構造中に固定化されるために、原理的に燃焼反応が起こらない。このため、この化合物を含む電極活物質は、安全性に優れたものとなることから、特に中大型電源への用途に好適に用いることができるものとなる。
上記A成分としては、好ましくはFe、Mn、Niであり、特に好ましくはFeである。上記D成分としては、好ましくはMg、Ca、Ti、Alである。
上記オリビン構造を有する化合物としては、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウムが好ましい。より好ましくはリン酸鉄リチウムである。
【0057】
また、正極活物質としては、導電性を補うためにカーボンで一部又は全てを表面被覆しているものを用いることが好ましい。カーボンの表面被覆により、水系での劣化を抑制することが可能となる。
正極活物質を被覆するカーボンの含有量は、正極活物質100質量部に対して、20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。
【0058】
本発明の正極水系組成物においては、正極活物質全体100質量部に対して、オリビン構造を有する化合物の含有量が70質量部以上であることが好ましい。より好ましくは90質量部以上であり、最も好ましくは、正極活物質がオリビン構造を有する化合物のみからなることである。
【0059】
上記正極活物質は、リン酸鉄リチウムを主成分として含む正極活物質であることが好ましい。上記オリビン構造を有する化合物の中でも、リン酸鉄リチウムがより好ましく、正極活物質の主成分であることが好ましい。リン酸鉄リチウムは、過充電に対する安定性が高く、又、鉄、リン酸等の豊富な資源を用いるものであることから、安価であり、製造コストの面でも好ましい。また、リン酸鉄リチウムは高電圧系でなく、バインダーへの負荷が少ない。
リン酸鉄リチウムを主成分として含むとは、正極活物質全体100質量%に対するリン酸鉄リチウムの含有量が、50質量%以上であることを意味するが、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。最も好ましくは、正極活物質がリン酸鉄リチウムからなることである。
【0060】
本発明の二次電池用正極水系組成物において、正極活物質や導電助剤等の結着剤として、エマルションを用いてもよい。
上記エマルションとしては、特に限定されないが、(メタ)アクリル系ポリマー、ニトリル系ポリマー、ジエン系ポリマー等の非フッ素系ポリマー;PVDF、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、(メタ)アクリル変性フッ素系ポリマー等のフッ素系ポリマー(フッ素含有重合体);等が挙げられる。水溶性高分子と異なり、エマルションは、粒子間の結着性と柔軟性(膜の可とう性)に優れるものが好ましい。このことから、(メタ)アクリル系ポリマー、ニトリル系ポリマー、(メタ)アクリル変性フッ素系ポリマーが好ましい。
【0061】
特に正極においては、フッ素含有重合体を(メタ)アクリル変性した構造を有する重合体のエマルションは、フッ素含有重合体が持つ化学的・電気的に安定な性質を有しつつ、フッ素含有重合体の欠点である低い結着性や得られる塗膜の密着性の低さ、塗膜の硬脆さを、アクリルで変性することにより改善することができるので、好ましい。また、PVDF等のフッ化ビニリデン系ポリマーやPTFE等のフッ素含有重合体は、結晶性を有するポリマーであるが、フッ素含有重合体に(メタ)アクリル系ポリマーが入り込んだIPN構造を有するような粒子にすることにより、結晶性が低下し、エマルションの造膜温度を下げる効果もある。
上記エマルションは、(メタ)アクリル変性したフッ素含有重合体を、エマルションの全量100質量%に対して、60〜100質量%含むことが好ましい。より好ましくは80〜100質量%であり、更に好ましくは90〜100質量%である。最も好ましくは100質量%、すなわち、エマルションが(メタ)アクリル変性したフッ素含有重合体からなることである。
【0062】
上記(メタ)アクリル変性したフッ素含有重合体のエマルションにおける、フッ素含有重合体部分と(メタ)アクリル系ポリマー部分との割合としては、フッ素含有重合体/(メタ)アクリル系ポリマー(質量比)が、50/50〜95/5であることが好ましい。より好ましくは60/40〜90/10である。
【0063】
上記フッ素含有重合体は、フッ化ビニリデン系重合体であることが好ましい。フッ化ビニリデン系重合体は、結晶性を有する重合体であるが、これを(メタ)アクリル変性することにより結晶性を低下させることができ、樹脂の結着性や可とう性の向上、及び、造膜温度の低下の点で大きな効果を得ることができる。したがって、フッ化ビニリデン系重合体を(メタ)アクリル変性したものを用いることにより、二次電池用結着剤としてフッ素含有重合体が有する化学的・電気的な安定性と、(メタ)アクリル変性したことにより得られる優れた結着性や可とう性、造膜温度を低下させる効果を、より充分に発揮することができる。フッ化ビニリデン系重合体は、フッ化ビニリデンのみを原料として製造されたものであってもよく、フッ化ビニリデンと他の単量体との共重合によって得られたものであってもよいが、フッ化ビニリデンと他の単量体との共重合によって得られたものであることが好ましい。他の単量体と共重合することにより、フッ化ビニリデン系重合体の結晶性を低下させ、アクリル変性を行い易くすることができる。
【0064】
上記フッ化ビニリデン(VDF)と共重合させる他の単量体としては、特に限定されないが、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE);ヘキサフルオロプロピレン(HFP);パーフルオロプロピルビニルエーテル等のパーフルオロビニルエーテル類;クロロトリフルオロエチレン(CTFE);等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロアルキルビニルエーテル類が好ましい。
【0065】
上記(メタ)アクリル変性したフッ素含有重合体のエマルションは、例えば、フッ素含有重合体の水分散粒子存在下に、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステル、並びに、必要に応じてカルボン酸、スルホン酸等の官能基を有する不飽和単量体を含む単量体成分を、溶液重合、懸濁重合、塊状重合、乳化重合等の一般的な重合方法により得ることができる。
【0066】
本発明の二次電池用正極水系組成物において、正極水系組成物の固形分における水溶性高分子の含有割合(質量%)は、正極水系組成物の固形分100%に対して、0.2〜5.0%であることが好ましい。より好ましくは0.3〜3.0%である。このような含有割合であると、正極水系組成物から形成される電極を電池の正極として用いた場合の、出力特性や電気特性を優れたものとすることが可能となる。
本発明の二次電池用正極水系組成物において、正極水系組成物の固形分における正極活物質の含有割合(質量%)は、正極水系組成物の固形分100%に対して、70〜98.8%であることが好ましい。より好ましくは80〜98.7%である。このような含有割合であると、正極水系組成物から形成される電極を電池の正極として用いた場合の、出力特性や電気特性を優れたものとすることが可能となる。
本発明の二次電池用正極水系組成物において、正極水系組成物の固形分における導電助剤の含有割合(質量%)は、正極水系組成物の固形分100%に対して、1〜20%であることが好ましい。より好ましくは2〜10%である。このような含有割合であると、正極水系組成物から形成される電極を電池の正極として用いた場合の、出力特性や電気特性を優れたものとすることが可能となる。
本発明の二次電池用正極水系組成物において、正極水系組成物の固形分におけるエマルションの含有割合(質量%)は、正極水系組成物の固形分100%に対して、0〜10%であることが好ましい。より好ましくは0〜6.0%である。このような含有割合であると、正極水系組成物から形成される電極を電池の正極として用いた場合の、出力特性や電気特性を優れたものとすることが可能となる。
本発明の二次電池用正極水系組成物は、その他の成分を含んでいてもよい。ここでいうその他の成分は、上述の水溶性高分子、正極活物質、導電助剤、エマルション以外の成分を指し、分散剤等が含まれる。
【0067】
本発明の二次電池用正極水系組成物は、粘度が1〜20Pa・sであることが好ましい。二次電池用正極組成物の粘度がこのような範囲にあると、塗工する際の適当な流動性を確保でき、作業性の面で好ましい。より好ましくは2〜12Pa・sであり、更に好ましくは、3〜10Pa・sであり、特に好ましくは4〜7Pa・sである。
二次電池用電極水系組成物の粘度は、B型粘度計(東機産業社製)、30rpmにより測定することができる。
【0068】
また、本発明の二次電池用正極水系組成物は、チクソ値が2.5〜8であることが好ましい。2.5未満の場合は塗工液が流れてハジキ易くなり、8を超える場合は塗工液の流動性が無く塗工し難い。より好ましくは3〜7.5、特に好ましくは3.5〜7である。
当該チクソ値は、B型粘度計(東機産業社製)により、25±1℃、6rpmと60rpmの粘度を測定し、6rpmの粘度を60rpmの粘度で除した値として得ることができる。
【0069】
本発明の二次電池用正極水系組成物は、25℃でのpHが6〜11であることが好ましい。pHがこのような範囲にあると、集電体(例えばアルミ等)の腐食を起こしにくくなり、材料の持つ電池性能を充分に発現することができる。
pH測定は、ガラス電極式水素イオン温度計F−21(堀場製作所社製)を用いて、25℃の値を測定することができる。
【0070】
本発明の二次電池用正極水系組成物が、上述の水溶性高分子、正極活物質、導電助剤、エマルションと水とを含むものである場合、正極水系組成物の作製方法としては、正極活物質と導電助剤とが均一に分散される限り特に制限されない。例えば、溶媒である水に溶解した水溶性高分子に、場合により分散剤を添加し、更に導電助剤を混合して、ビーズ、ボールミル、攪拌型混合機等を用いて分散させて、導電性付与剤を調整し、その溶液に正極活物質を加えて同様の分散処理を行い、更にエマルションを混合して二次電池用正極組成物を得ることが好ましい。このような手順で組成物を調製すると、正極活物質と導電助剤とを十分に均一に分散させやすく好ましい。
【0071】
本発明の二次電池用正極水系組成物は、水溶性高分子が有する構造単位の全量100質量%に対して、エチレン性不飽和カルボン酸塩単量体由来の構造単位を5〜95質量%含み、界面活性能を有する重量平均分子量10万以下の化合物由来の成分の含有量が0.5質量%以下であり、かつ、重量平均分子量が50万以上である水溶性高分子を用いたものであって、更には正極活物質、導電助剤を含有するものであることが好ましい。
これにより、正極活物質や導電助剤等のフィラー成分の分散安定性を確保し、更に、塗膜の形成能、基材との密着性や可とう性に優れたものとなる。そして、このような正極水系組成物から形成される正極は、二次電池用の正極として充分な性能を発揮することができるものである。
【0072】
このような本発明の二次電池用正極水系組成物を用いて形成される二次電池用正極もまた、本発明の1つである。更に、このような二次電池用正極を用いて構成される二次電池もまた、本発明に含まれる。
また、上述した水溶性高分子を含有する本発明の二次電池用水系電極バインダー、及び、正極活物質を含む二次電池用正極、並びに、本発明の導電性付与剤を用いて形成される二次電池用正極もまた、本発明の1つである。そして、それら二次電池用正極を用いて構成される二次電池もまた、本発明に含まれる。
【0073】
本発明は、更に、上述した水溶性高分子を含有する本発明の二次電池用水系電極バインダー、負極活物質、及び、水を必須成分として含む二次電池用負極水系組成物である。本発明の二次電池用負極水系組成物は、これらの必須成分をそれぞれ1種含むものであってもよく、2種以上含んでいてもよい。更に、上述した水溶性高分子を含有する本発明の二次電池用水系電極バインダー、及び、負極活物質を含む二次電池用負極、並びに、このような二次電池用負極を用いて構成される二次電池も本発明に含まれる。
【0074】
本発明の二次電池用負極水系組成物において、水溶性高分子は上述したものを用いることができる。本発明の二次電池用負極水系組成物において用いる負極活物質としては、グラファイト、天然黒鉛、人造黒鉛等の炭素材料;ポリアセン系導電性高分子;チタン酸リチウム等の複合金属酸化物;リチウム合金等が例示される。好ましくは炭素材料である。
なお、「負極活物質が、炭素系負極材料を主成分として含む」とは、負極活物質の全量100質量%に対して、炭素系負極材料を50質量%以上含むことを表している。負極活物質中の炭素系負極材料の含有割合としては、好ましくは70〜100質量%であり、より好ましくは80〜100質量%である。特に好ましくは、負極活物質が炭素系負極材料からなる形態である。
【0075】
本発明の二次電池用負極水系組成物において、必要に応じて、エマルション、導電助剤、分散剤、増粘剤等を含むことができる。中でも、更なるバインダー成分として柔軟性を付与できるエマルションを用いることが好ましい。使用するエマルションは、特に限定されないが、上述した本発明の二次電池用正極水系組成物に含まれるエマルションと同様のものや、ジエン系ポリマー等を用いることができる。
【0076】
負極活物質としての炭素系負極材料、上述の水溶性高分子を含有する本発明の二次電池用水系電極バインダー、及び、水を含む負極組成物が、本発明の最も好適な実施形態である。
【0077】
本発明の二次電池用負極水系組成物を、負極を形成する材料として用いる場合、組成物の固形分における水溶性高分子の含有比率(質量%)は、組成物中の固形分100%に対して0.3〜2%であることが好ましい。このような含有割合であると、負極水系組成物から形成される電極を電池の負極として用いた場合の出力特性や電気特性を優れたものとすることが可能となる。より好ましくは0.5〜1.5%である。
本発明の二次電池用負極水系組成物を、負極を形成する材料として用いる場合、組成物の固形分100%における負極活物質の含有比率(質量%)は、85〜99.7%であることが好ましい。このような含有割合であると、負極水系組成物から形成される電極を電池の負極として用いた場合の出力特性や電気特性を優れたものとすることが可能となる。より好ましくは90〜99.5%である。
また、二次電池用負極水系組成物中の組成物の固形分100%における導電助剤の含有比率(質量%)は、0〜10%であることが好ましい。より好ましくは0〜5%である。
二次電池用負極水系組成物中の組成物の固形分100%におけるエマルションの含有比率(質量%)は、0〜9%であることが好ましい。より好ましくは0〜3%である。
本発明の二次電池用負極水系組成物には、その他の成分を含んでいても良い。ここでいう「その他の成分」は、負極活物質、導電助剤、水溶性高分子、エマルションのようなバインダー以外の成分を意味し、分散剤や増粘剤等が含まれる。
【0078】
本発明の二次電池用負極水系組成物の粘度、チクソ値、pHとしてはそれぞれ、上述した本発明の二次電池用正極水系組成物における粘度、チクソ値、pHと同様であることが好ましい。
【0079】
本発明の二次電池用負極水系組成物は、上述の水溶性高分子を含有する本発明の二次電池用水系電極バインダー、負極活物質、エマルション、及び、水を含むものである場合、負極水系組成物の作製方法としては、負極活物質が均一に分散されることになる限り特に制限されないが、溶媒である水に溶解した水溶性樹脂と、場合により分散剤を添加して均一な水溶液とし、更に必要に応じて導電助剤を混合して、ビーズ、ボールミル、攪拌型混合機等を用いて分散させ、そこにエマルションを混合して、二次電池用負極組成物を得ることが好ましい。このような手順で組成物を調製すると、負極活物質が均一に分散させやすく好ましい。
【0080】
本発明の二次電池用負極水系組成物は、上述した水溶性高分子が有する構造単位の全量100質量%に対して、エチレン性不飽和カルボン酸塩単量体由来の構造単位を5〜95質量%含み、界面活性能を有する重量平均分子量10万以下の化合物由来の成分の含有量が0.5質量%以下であり、かつ、重量平均分子量が50万以上である水溶性高分子を用いたものであって、更に負極活物質を含有するものである。
これにより、負極活物質の分散安定性を確保し、更に、形成された塗膜の形成能、基材との密着性や可とう性に優れたものとなる。そして、このような負極水系組成物から形成される負極は、二次電池用の負極として充分な性能を発揮することができるものである。
【0081】
このような本発明の二次電池用負極水系組成物から得られる二次電池用負極もまた、本発明の1つである。更に、このような二次電池用負極を用いて構成される二次電池もまた、本発明の1つである。
【0082】
本発明の二次電池用正極を用いて構成される二次電池は、正極活物質がLiFePOの場合、電池性能の点から、初期放電容量が120mAh/g以上であることが好ましい。より好ましくは130mAh/g以上である。正極活物質がニッケルコバルトマンガン酸リチウムの三元系である場合、初期放電容量が130mAh/g以上であることが好ましい。より好ましくは140mAh/g以上である。
なお、上記初期放電容量は、例えば、後述の実施例に記載の方法等により測定することができる。
【0083】
本発明の二次電池用正極を用いて構成される二次電池は、充放電を100回繰り返した100サイクル後の電気容量維持率(単に、「100サイクル維持率」とも言う。)が85%以上であることが好ましい。より好ましくは90%以上である。100サイクルの維持率を確認することで、結着剤として問題ないことが確認できる。二次電池の電気容量は充放電評価装置により測定できる。
【発明の効果】
【0084】
本発明の二次電池用水系電極バインダーは、上述の構成よりなる水溶性高分子を含有するので、優れた吸湿特性及び密着性を有する。このような二次電池用水系電極バインダーを用いた二次電池用正極水系組成物及び二次電池用負極水系組成物は、均一な電極形成を可能にするので、二次電池用正極及び二次電池用負極を形成する組成物として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0085】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0086】
以下の実施例、比較例において、樹脂粒子分散体、水溶性高分子又はその水溶液及び電極バインダーの物性評価は、下記の測定方法により行った。
<不揮発分測定>
樹脂粒子分散体をアルミ皿に約1g秤量し、150℃の熱風乾燥機中で20分間乾燥し、乾燥前後の質量から下記式により求めた。
不揮発分(%)=(乾燥後の質量)/(乾燥前の質量)×100
また、樹脂粒子分散体の代わりに水溶性高分子の水溶液を用いた以外は上記と同様にして、その不揮発分を求めた。
【0087】
<粘度測定>
樹脂粒子分散体の粘度は、樹脂粒子分散体を不揮発分2%に調整後、TVB−10(東機産業社製)を用い、JIS K 7117−1に準拠して25℃で測定した。
また、水溶性高分子水溶液の粘度はpH7、不揮発分2%の水溶性高分子水溶液を、TVB−10(東機産業社製)を用い、JIS K 7117−1に準拠して25℃で測定した。
<重量平均分子量測定>
水溶性高分子を、測定対象物の不揮発分が0.2質量%となるように、溶離液に溶解し、フィルターにてろ過したものを以下の条件で測定した。
測定機器:東ソー社製GPC(型番:HLC−8120)
分子量カラム:TSKgel GMHXL(東ソー社製)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
検量線用標準物質:ポリスチレン
【0088】
<全光線透過率測定>
日本電色社製のヘイズメーター(型番;NDH5000)を用いて、奥行10mmの石英セル中に、不揮発分2質量%の水溶性高分子水溶液を入れ、全光線透過率を測定した。
<吸湿率測定>
水溶性高分子をアルミ皿に約50g秤量し、100℃の熱風乾燥機で2時間乾燥させた後、粉砕機で微粉化させた。その後、減圧乾燥器により80℃で一晩乾燥させた後、ドライ条件下でアルミ皿に粉体を約1g秤量し、初期重量とした。その後、23℃、65%RH条件下で4時間放置した後、秤量し、下記式により吸湿率を求めた。
吸湿率(%)=((4時間後の質量)−(初期質量))/(初期質量)
【0089】
<密着性評価>
アルミ箔にdry膜厚50μmで正極水系組成物を塗工したサンプルを、幅25mm、長さ100mmに切り出し、電極面を両面テープでアルミ板に張り付け、23℃、65%RHの条件下で、引張試験機(テスター産業社製)により剥離方向180°、剥離速度5mm/分における剥離強度を測定した。
<初期容量評価>
充放電測定装置ACD−001(アスカ電子社製)を用いて、コインセル(CR2032)を作製して電池評価を行った。その他の測定条件は下記の通りである。
正極:下記実施例及び比較例で得られた正極水系組成物
負極:Li箔
電解液:1mol/L LiPF EC/EMC=3/7(キシダ化学社製)
充電条件:0.2C CC−CV Cut−off 4.3V
放電条件:0.2C CC Cut−off 2.7V
【0090】
(実施例1)
攪拌機、温度計、冷却器、窒素導入管、滴下ロートを備えた四ツロセパラブルフラスコに、イオン交換水871.75質量部を投入した。内温90℃で攪拌しながら、緩やかに窒素を流し、反応容器内を完全に窒素置換した。次に、過硫酸カリウム0.55部を、イオン交換水10.45質量部に混合した開始剤水溶液を投入し、5分攪拌後、メタクリル酸77質量部、アクリル酸エチル98.3質量部、アクリル酸メチル44質量部、1,6−ヘキサンジアクリレート0.66質量部の混合溶液を2時間にわたって均一に滴下した。滴下終了後、内温を85℃に保ち、1時間攪拌を続けた。次いで、冷却して反応を終了させ、不揮発分19.5%、不揮発分2%での粘度10mPa・s以下の樹脂粒子分散体aを得た。得られた樹脂粒子分散体a(15.4部/不揮発分3部)に、5%水酸化リチウム・一水和物水溶液(10.2部)とイオン交換水(127.8部)を加えて攪拌し、pH7、不揮発分2%の水溶性高分子(1)水溶液を得た。得られた水溶性高分子(1)は、重量平均分子量100万、粘度2600mPa・s、全光線透過率96%、吸湿率12.8%であった。
次に、イオン交換水28.68部と水溶性高分子(1)水溶液12.5部を混合して均一溶液とし、アセチレンブラックHS−100(デンカ社製)1.5部を加えて混合分散した。さらに、セルシードNMC(日本化学工業社製)23.0部を加えて混合分散し、更にフッ化ビニリデン系ポリマーのアクリル変性エマルション(VDF系−アクリル変性エマルション)(アルケマ社製)0.52部を加えて混合分散し、正極水系組成物(1)を得た。この正極水系組成物(1)をアプリケーターを用いてアルミ泊に塗工し、100℃×10分、150℃×60分乾燥を行った。得られた正極は、密着性20N/m、初期容量144mAh/gであった。
【0091】
(実施例2)
重合性単量体として、メタクリル酸77質量部、アクリル酸エチル98.3質量部、アクリル酸メチル44質量部、1,6−ヘキサンジアクリレート0.66質量部の代わりに、メタクリル酸99質量部、アクリル酸エチル120.3質量部、1,6−ヘキサンジアクリレート0.66質量部を用いた以外は、実施例1と同様の手法で重合し、不揮発分19.5%、不揮発分2%での粘度10mPa・s以下の樹脂粒子分散体bを得た。得られた樹脂粒子分散体b(15.4部/不揮発分3部)に、5%水酸化リチウム・一水和物水溶液(10.2部)とイオン交換水(127.8部)を加えて攪拌し、pH7、不揮発分2%の水溶性高分子(2)水溶液を得た。得られた水溶性高分子(2)は、重量平均分子量90万、粘度2400mPa・s、全光線透過率98%、吸湿性13.6%であった。
次に、イオン交換水28.68部と水溶性高分子(2)水溶液12.5部を混合して均一溶液とし、アセチレンブラックHS−100(デンカ社製)1.5部を加えて混合分散した。さらに、セルシードNMC(日本化学工業社製)23.0部を加えて混合分散し、更にフッ化ビニリデン系ポリマーのアクリル変性エマルション(VDF系−アクリル変性エマルション)(アルケマ社製)0.52部を加えて混合分散し、正極水系組成物(2)を得た。この正極水系組成物(2)をアプリケーターを用いてアルミ泊に塗工し、100℃×10分、150℃×60分乾燥を行った。得られた正極は、密着性15N/m、初期容量141mAh/gであった。
【0092】
(実施例3)
攪拌機、温度計、冷却器、窒素導入管、滴下ロートを備えた四ツロセパラブルフラスコに、シード粒子として実施例1で作製した樹脂粒子分散体aを33.1質量部と、イオン交換水868.15質量部を投入した。それ以降は実施例2と同様の手法で重合し、不揮発分19.5%、不揮発分2%での粘度10mPa・s以下の樹脂粒子分散体cを得た。得られた樹脂粒子分散体c(15.4部/不揮発分3部)に、5%水酸化リチウム・一水和物水溶液(10.2部)とイオン交換水(127.8部)を加えて攪拌し、pH7、不揮発分2%の水溶性高分子(3)水溶液を得た。得られた水溶性高分子(3)は、重量平均分子量110万、粘度2700mPa・s、全光線透過率98%、吸湿性13.3%であった。
次に、イオン交換水28.68部と水溶性高分子(3)水溶液12.5部を混合して均一溶液とし、アセチレンブラックHS−100(デンカ社製)1.5部を加えて混合分散した。さらに、セルシードNMC(日本化学工業社製)23.0部を加えて混合分散し、更にフッ化ビニリデン系ポリマーのアクリル変性エマルション(VDF系−アクリル変性エマルション)(アルケマ社製)0.52部を加えて混合分散し、正極水系組成物(3)を得た。この正極水系組成物(3)をアプリケーターを用いてアルミ泊に塗工し、100℃×10分、150℃×60分乾燥を行った。得られた正極は、密着性23N/m、初期容量151mAh/gであった。
【0093】
(実施例4)
攪拌機、温度計、冷却器、窒素導入管、滴下ロートを備えた四つ口セパラブルフレスコに、イオン交換水115質量部、ポリオキシエチレンドデシルエーテルのスルホン酸アンモニウム塩1.5質量部を投入した。内温68℃で攪拌しながら、緩やかに窒素を流し、反応容器内を完全に窒素置換した。次に、ポリオキシエチレンドデシルエーテルのスルホン酸塩1.5質量部をイオン交換水92質量部に溶解した。ここに、重合体の単量体成分として、メタクリル酸50質量部、アクリル酸エチル30質量部、アクリル酸メチル20質量部の混合物を投入し、プレエマルションを作製した。別途、過硫酸アンモニウム0.23質量部をイオン交換水23質量部に溶解し、重合開始剤水溶液を作製した。反応容器内の温度を72℃に保ち、プレエマルション及び開始剤水溶液を2時間にわたって均一に滴下した。滴下終了後、イオン交換水8質量部で滴下槽を洗浄後、反応容器に投入した。内温を72℃に保ち、更に1時間攪拌を続けた後、冷却して反応を完了し、不揮発分30%のアルカリ可溶性樹脂粒子S−1を作製した。次いで、別途攪拌機、温度計、冷却器、窒素導入管、滴下ロートを備えた四ツロセパラブルフラスコに、シード粒子としてS−1を21.5質量部と、イオン交換水879.75質量部を投入した。それ以降は実施例2と同様の手法で重合し、不揮発分19.5%、不揮発分2%での粘度10mPa・s以下の樹脂粒子分散体dを得た。得られた樹脂粒子分散体d(15.4部/不揮発分3部)に、5%水酸化リチウム・一水和物水溶液(10.2部)とイオン交換水(127.8部)を加えて攪拌し、pH7、不揮発分2%の水溶性高分子(4)水溶液を得た。得られた水溶性高分子(4)は、重量平均分子量110万、粘度2600mPa・s、全光線透過率98%、吸湿性13.6%であった。
次に、イオン交換水28.68部と水溶性高分子(4)水溶液12.5部を混合して均一溶液とし、アセチレンブラックHS−100(デンカ社製)1.5部を加えて混合分散した。さらに、セルシードNMC(日本化学工業社製)23.0部を加えて混合分散し、更にフッ化ビニリデン系ポリマーのアクリル変性エマルション(VDF系−アクリル変性エマルション)(アルケマ社製)0.52部を加えて混合分散し、正極水系組成物(4)を得た。この正極水系組成物(4)をアプリケーターを用いてアルミ泊に塗工し、100℃×10分、150℃×60分乾燥を行った。得られた正極は、密着性18N/m、初期容量143mAh/gであった。
【0094】
(比較例1)
攪拌機、温度計、冷却器、窒素導入管、滴下ロートを備えた四つ口セパラブルフレスコに、イオン交換水115質量部、ポリオキシエチレンドデシルエーテルのスルホン酸アンモニウム塩1.5質量部を投入した。内温68℃で攪拌しながら、緩やかに窒素を流し、反応容器内を完全に窒素置換した。次に、ポリオキシエチレンドデシルエーテルのスルホン酸塩1.5質量部をイオン交換水92質量部に溶解した。ここに、重合体の単量体成分として、メタクリル酸35質量部、アクリル酸エチル65質量部、t−ドデシルメルカプタン0.3質量部の混合物を投入し、プレエマルションを作製した。別途、過硫酸アンモニウム0.23質量部をイオン交換水23質量部に溶解し、重合開始剤水溶液を作製した。反応容器内の温度を72℃に保ち、プレエマルション及び開始剤水溶液を2時間にわたって均一に滴下した。滴下終了後、イオン交換水8質量部で滴下槽を洗浄後、反応容器に投入した。内温を72℃に保ち、更に1時間攪拌を続けた後、冷却して反応を完了し、不揮発分30%、不揮発分2%での粘度10mPa・s以下の樹脂粒子分散体eを得た。
得られた樹脂粒子分散体e(10部/不揮発分3部)に、5%水酸化リチウム・一水和物水溶液(10.2部)とイオン交換水(133.2部)を加えて攪拌し、pH7、不揮発分2%の水溶性高分子(5)水溶液を得た。得られた水溶性高分子(5)は、重量平均分子量30万、粘度80mPa・s、全光線透過率99%、吸湿性16.8%であった。
次に、イオン交換水28.68部と水溶性高分子(5)水溶液12.5部を混合して均一溶液とし、アセチレンブラックHS−100(デンカ社製)1.5部を加えて混合分散した。さらに、セルシードNMC(日本化学工業社製)23.0部を加えて混合分散し、更にフッ化ビニリデン系ポリマーのアクリル変性エマルション(VDF系−アクリル変性エマルション)(アルケマ社製)0.52部を加えて混合分散し、正極水系組成物(5)を得た。この正極水系組成物(5)をアプリケーターを用いてアルミ泊に塗工し、100℃×10分、150℃×60分乾燥を行った。得られた正極は、密着性5N/m、初期容量138mAh/gであった。
【0095】
上記実施例の結果から、本発明における水溶性高分子を含む二次電池用水系電極バインダーは吸湿特性に優れ、また、当該バインダーを用いた二次電池用正極水系組成物及び二次電池用正極は密着性にも優れ、更に当該正極を用いた二次電池は初期容量も大きいことがわかる。また、本発明における水溶性高分子を含む二次電池用水系電極バインダーを、二次電池用負極水系組成物及び二次電池用負極に用いた場合にも、上記二次電池用正極水系組成物及び二次電池用正極に用いた場合と、同様の結果が得られるものである。
上記実施例において、上記水溶性高分子を含む二次電池用水系電極バインダーを用いることによって、上述した吸湿特性及び密着性に優れるという効果が発現する作用機序はすべて同様であるものと考えられる。
したがって、上記実施例の結果から、本発明の技術的範囲全般において、また、本明細書において開示した種々の形態において本発明が適用でき、有利な作用効果を発揮することができるといえる。