(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
強化繊維シートを所定形状にて配置し、上型枠或いはフィルムで密閉し、真空にして前記強化繊維シートに樹脂を注入して硬化させ、繊維強化プラスチック構造物を成型するVaRTM工法に使用する前記強化繊維シートの製造方法であって、
多数本の強化繊維を一方向に引き揃えて収束された繊維ストランドを長手方向に沿ってカバーリング糸条により束ねて強化繊維束を形成し、
多数本の前記強化繊維束を長手方向に沿って並列に引き揃えて強化繊維束層を形成し、
前記強化繊維束層を加熱加圧することにより、前記カバーリング糸条が隣り合った前記繊維ストランドに融着して前記強化繊維束層が一体のシート状とされ、前記各強化繊維束の間には空隙がないことを特徴とするVaRTM用強化繊維シートの製造方法。
前記カバーリング糸条は、有機繊維を複数本収束して形成した糸条であり、前記カバーリング糸条は前記繊維ストランドの長手方向10cm当たり15〜40回の巻付け回数にて巻き付けられることを特徴とする請求項1又は2に記載のVaRTM用強化繊維シートの製造方法。
前記カバーリング糸条は、編組編み又は平巻きでS巻き及びZ巻きにて、又は、S巻き若しくはZ巻きのいずれかにて前記繊維ストランドに巻き付けられることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載のVaRTM用強化繊維シートの製造方法。
前記カバーリング糸条は、60〜150℃とされる低融点の樹脂繊維で形成した糸条であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかの項に記載のVaRTM用強化繊維シートの製造方法。
前記カバーリング糸条は、表面に60〜150℃とされる低融点の樹脂が被覆された糸条であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかの項に記載のVaRTM用強化繊維シートの製造方法。
強化繊維シートを所定形状にて配置し、上型枠或いはフィルムで密閉し、真空にして前記強化繊維シートに樹脂を注入して硬化させ、繊維強化プラスチック構造物を成型するVaRTM工法による繊維強化プラスチック構造物成型方法において、
前記強化繊維シートは、請求項1〜9のいずれかの項に記載の製造方法にて作製されたVaRTM用強化繊維シートであることを特徴とする繊維強化プラスチック構造物成型方法。
前記注入樹脂は、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又は、フェノール樹脂であることを特徴とする請求項11に記載の繊維強化プラスチック構造物成型方法。
【背景技術】
【0002】
VaRTM工法は、樹脂を含んでいないドライ(樹脂未含浸)の強化繊維シートを用いるのが特徴で、製品の形状に合わせて予め積層したり、縫製したり、融着などをして必要な方向に必要な強度が出るように形を作り(プリフォーム)、例えば型枠に入れ込むか、或いは、フィルムで密閉して、真空引きすることにより樹脂を注入して硬化し、脱型して製品とする工法である。
【0003】
現在、VaRTM工法により、例えば、風車用ブレード、車両、船舶等に使用する大型のFRP構造物(成型体)を作製することが行われているが、VaRTM工法により大型のFRP構造物を作製する場合には、次のことが必要とされる。つまり、
(1)成型されたFRPの曲げ強度が1000N/mm
2以上であること。
(2)最終成型物中の強化繊維断面積比率、即ち、強化繊維含有率(Vf)が50%以上であること。
(3)VaRTM成型時に注入樹脂の流れが良いこと。
が必要とされる。
【0004】
本件特許出願人は、特許文献1にて、本願添付の
図7に示すように、例えば炭素繊維fのような多数本の強化繊維を一方向に引き揃えて形成される繊維ストランド14を長手方向に沿って、束ね部材(カバーリング糸条)15により束ねて形成される強化繊維束11を多数本長手方向に沿って引き揃えて樹脂透過性支持体13にて保持した強化繊維シート10Aを提案した。
【0005】
特許文献1に記載される強化繊維シート10Aは、特に土木建築の構造物の補強用として、また、繊維強化プラスチック成型品の中間基材として有用である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
つまり、
図7に示す特許文献1に記載される強化繊維シート10Aは、長手方向に沿って引き揃えられた各繊維ストランド14は束ね部材15にて束ねられ、空隙率(Sr)を30〜90%とし、且つ、各強化繊維束11、11間には0.1〜5.0mmの空隙(g)が設けられている。また、各強化繊維束11は、樹脂透過性支持体13にて一体的に保持され、シート状とされている。
【0008】
なお、空隙率(Sr)とは、
図4を参照して、束ね部材15の内周部にて包囲された強化繊維束11の断面積をSb、束ね部材15にて包囲された繊維ストランド14を形成する強化繊維fの横断面積fsの和をSsとしたとき、空隙率Sr=(Sb−Ss)/Sbとされる。
【0009】
特許文献1に記載の強化繊維シート10Aは、上記構成とすることにより、例えば、強化繊維シート10Aを土木建築の構造物補強用として使用する場合の樹脂の流動性を向上させることができ、有用である。
【0010】
本発明者らは、上記特許文献1に記載される強化繊維シート10Aが、上記事項(1)〜(3)に記載する必要条件を満たして、VaRTM用強化繊維シートとして十分な性能を発揮し得るかについて研究実験を行った。
【0011】
本発明者らの研究実験の結果、成型法や成型樹脂が土木建築の構造物補強時などとは大きく異なる、例えば風車用ブレードのスパー部などの大型のFRP構造物を作製する場合には、次のような構成とすることが重要であることが分かった。つまり、各繊維ストランドを束ね部材により束ねる際のカバーリングの条件を最適化し、且つ、各繊維ストランド間に形成される空隙(g)を実質的に0(ゼロ)とすること、更には、カバーリング糸条を使用して各繊維ストランドを一体的に保持することにより、即ち、従来各繊維ストランドを保持するのに使用されていた樹脂透過性支持体を使用しないこと、により上記事項(1)〜(3)に記載する必要条件を満たしたVaRTM用強化繊維シートを作製し得ることを見出した。
【0012】
本発明の目的は、VaRTM工法によるFRP構造物の成型において、注入樹脂の流動性を損なうことなく、良好な樹脂含浸性を維持し、成型の生産性を向上させることのできるVaRTM用強化繊維シート
の製造方法及びFRP構造物成型方法を提供することである。
【0013】
本発明の他の目的は、強化繊維の繊維含有率Vf(単位断面積当たりの強化繊維の断面積比率)を高くすることができ、曲げ強度などの増大を図ることのできる良好なVaRTM用強化繊維シート
の製造方法及びFRP構造物成型方
法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的は本発明に係るVaRTM用強化繊維シート
の製造方法及びFRP構造物成型方
法にて達成される。要約すれば、第1の本発明によれば、強化繊維シートを所定形状にて配置し、上型枠或いはフィルムで密閉し、真空にして前記強化繊維シートに樹脂を注入して硬化させ、繊維強化プラスチック構造物を成型するVaRTM工法に使用する前記強化繊維シート
の製造方法であって、
多数本の強化繊維を一方向に引き揃えて収束された繊維ストランドを長手方向に沿ってカバーリング糸条により束ねて強化繊維束を形成し、
多数本の前記強化繊維束を長手方向に沿って並列
に引き揃えて強化繊維束層を形成し、
前記強化繊維束層を加熱加圧することにより、前記カバーリング糸条が隣り合った前記繊維ストランドに融着して前記強化繊維束層が一体のシート状とされ
、前記各強化繊維束の間には空隙がないことを特徴とするVaRTM用強化繊維シート
の製造方法が提供される。
【0015】
本発明の一実施態様によれば、前記繊維ストランドは、強化繊維を1000〜100000本収束して形成される。
【0016】
本発明の他の実施態様によれば、前記カバーリング糸条は、有機繊維を複数本収束して形成した糸条であり、前記カバーリング糸条は前記繊維ストランドの長手方向10cm当たり15〜40回の巻付け回数にて巻き付けられる。
【0017】
本発明の他の実施態様によれば、前記カバーリング糸条は、編組編み又は平巻きでS巻き及びZ巻きにて、又は、S巻き若しくはZ巻きのいずれかにて前記繊維ストランドに巻き付けられる。
【0018】
本発明の他の実施態様によれば、前記繊維ストランドに前記カバーリング糸条を巻き付けるに際して、
前記カバーリング糸条は、該糸条一本当たり50〜200gの張力が付与され、前記繊維ストランドには、前記繊維ストランド一本当たり100〜500gの張力が付与される。
【0019】
本発明の他の実施態様によれば、前記強化繊維束層の繊維目付は、300〜2000g/m
2である。
【0020】
本発明の他の実施態様によれば、前記カバーリング糸条は、60〜150℃とされる低融点の樹脂繊維で形成した糸条である。又は、前記カバーリング糸条は、表面に60〜150℃とされる低融点の樹脂が被覆された糸条である。
【0021】
本発明の他の実施態様によれば、前記強化繊維は、炭素繊維、ガラス繊維などの無機繊維、又は、アラミド繊維、PBO繊維、バサルト繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアリレート繊維などの有機繊維の一種又は複数種を混入して使用する。
【0022】
第2の本発明によれば、強化繊維シートを所定形状にて配置し、上型枠或いはフィルムで密閉し、真空にして前記強化繊維シートに樹脂を注入して硬化させ、繊維強化プラスチック構造物を成型するVaRTM工法による繊維強化プラスチック構造物成型方法において、
前記強化繊維シートは、上記いずれかに記載の
製造方法にて作製されたVaRTM用強化繊維シートであることを特徴とする繊維強化プラスチック構造物成型方法が提供される。
【0023】
本発明の一実施態様によれば、前記注入樹脂は、樹脂注入時の粘度が30〜300mPa・sである。
【0024】
本発明の他の実施態様によれば、前記注入樹脂は、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又は、フェノール樹脂である。
【0026】
本発明の
他の実施態様によれば、前記繊維強化プラスチック構造物の曲げ強度が1000N/mm
2以上である。
【0027】
本発明の他の実施態様によれば、前記繊維強化プラスチック構造物の強化繊維断面積比率(Vf)が50%以上である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、VaRTM工法によるFRP構造物の成型において、注入樹脂の流動性を増大させて樹脂含浸性を改善し、成型の生産性を向上させることができる。また、本発明によれば、従来のFRP構造物の成型に比べ強化繊維含有率Vf(単位断面積当たりの強化繊維の断面積比率)を高くすることができ、FRP構造物の引張り、曲げ、圧縮強度の増大を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係るVaRTM用強化繊維シート
の製造方法、FRP構造物成型方法、及びFRP構造物を図面に則して更に詳しく説明する。
【0031】
実施例1
先ず、本発明に係るVaRTM用強化繊維シート
の製造方法及びFRP構造物の成型方法について説明する。
【0032】
本発明の特徴は、VaRTM工法により、例えば風車用ブレード、車両、船舶等の大型のFRP(繊維強化プラスチック)構造物を作製する際に、強化繊維含有率Vfが高く、且つ、注入樹脂の流動性が良い強化繊維シートを使用することにある。
【0033】
本発明者らは、詳しくは後述するが、
図1、
図2に示すような本発明に従った強化繊維シート10は、VaRTM工法により大型のFRP構造物を作製する場合に必要とされる上記事項(1)〜(3)に記載される要件、つまり、
(1)成型されたFRPの曲げ強度が1000N/mm
2以上であること。
(2)最終成型物中の強化繊維断面積比率(Vf)が50%以上であること。
(3)VaRTM成型時に注入樹脂の流れが良いこと。
を満足するものであることが分かった。
【0034】
(VaRTM用強化繊維シート)
図1、
図2に、本発明に係る強化繊維シートの一実施例を示す。本実施例によると、強化繊維シート10は、多数本の強化繊維fを一方向に引き揃えて収束された繊維ストランド14を長手方向に沿ってカバーリング糸条15により束ねて形成された強化繊維束11を有している。強化繊維シート10にて、多数本の強化繊維束11は、長手方向に沿って並列に、且つ、互いに密接して引き揃えられて強化繊維束層12を形成している。本明細書、特許請求の範囲の記載にて「密接」してとは、必ずしも、隣り合った強化繊維束11が互いに完全に接触していることを意味するのではなく、後述するように、強化繊維束層12を加圧することにより各強化繊維束11が押し潰され、隣り合った強化繊維束11が接触状態となる極めて近接して配置された状態をも意味するものとする。
【0035】
上記強化繊維束層12は、その片面或いは両面から加熱加圧手段(図示せず)により加熱、加圧され、それにより、繊維ストランド14を束ねている束ね部材、即ち、カバーリング糸条15が隣り合った強化繊維束11、即ち、繊維ストランド14に融着し、更には、隣り合ったカバーリング糸条同士が融着し、各強化繊維束11が互いに結合されて一体的なシート状とされる。
【0036】
具体的には、
図2(a)、(b)に示すように、強化繊維束層12を、例えば加熱炉などの加熱手段にて加熱して強化繊維束11をカバーリング糸条15の融点以上にまで加熱する。その後、例えば冷却ローラ等の加圧手段にて強化繊維束層12を好ましくは両面から加圧することにより、各強化繊維束11は押し潰されて、隣り合った強化繊維束11、11は、互いに密着した状態となる。同時に、各強化繊維束11の、融点以上にまで加熱されたカバーリング糸条15は、隣り合った強化繊維束11(即ち、繊維ストランド14)に融着する。勿論、隣り合ったカバーリング糸条15同士も又融着することがある。冷却ローラは、カバーリング糸条15の融点以下の温度とされるので、カバーリング糸条15が融着することはない。
【0037】
尚、
図1、
図2(a)にて、強化繊維束11(即ち、繊維ストランド14)の横断面形状は、円形とされているが、上記説明にて理解されるように、強化繊維束層12を冷却ローラにて押圧することにより、
図2(b)に示すように、扁平形状に成形される。勿論、強化繊維束11は、所望に応じて、加熱加圧する前の工程において、扁平形状とされることもある。
【0038】
強化繊維シート10について更に詳しく説明する。
【0039】
図3、
図4をも参照するとより良く理解されるように、本発明によれば、強化繊維束11は、多数本の、例えば、1000本〜100000本、一般には、3000本〜60000本の強化繊維(モノフィラメント)fを一方向に引き揃えて、好ましくは繊維が重ならないように平行状態に配列して、或いは、必要に応じて緩く撚りを掛けて収束した繊維ストランド14と、繊維ストランド14の外周囲を束ねたカバーリング糸条15とにより構成される。
【0040】
強化繊維としては、炭素繊維が最も好適に使用し得るが、これに限定されるものではなく、炭素繊維、ガラス繊維などの無機繊維、又は、アラミド繊維、PBO繊維、バサルト繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアリレート繊維などの有機繊維の一種又は複数種を混入して使用することができる。
【0041】
また、束ね部材とされるカバーリング糸条15としては、種々の材料を使用し得るが、低融点タイプの樹脂繊維、例えば、ポリエステル繊維等の有機繊維を複数本収束して形成した糸条とすることができる。また、その他に、低融点樹脂を被覆した糸条でも良い。
【0042】
カバーリング糸条の融点は、即ち、低融点樹脂繊維、又は、糸条を被覆する低融点樹脂の融点は、60〜150℃程度が好ましく、80〜120℃が特に好ましい。
【0043】
本実施例では、カバーリング糸条15としては、例えば、20〜100デニールのポリエステル繊維から成る糸条、或いは、斯かるポリエステル繊維を複数本収束して作製した糸条などを使用し、好結果を得ることができた。この時、カバーリング糸条15のカバーリングピッチPは、繊維ストランド14の長手方向10cm当たり巻付け回数15〜40回が適当である。更に好ましくは、25〜33回(
図1にて、P=3〜4mm)である。
【0044】
なお、本実施例では、カバーリング糸条15を2本(糸条15a、15b)用い、各糸条15a、15bは2Pにて繊維ストランド14に巻き付けられている。糸条15a、15bは互いに交差するように巻付けるのが好ましい。特に、カバーリング糸条15a、15bは、編組編みでS巻き、Z巻きのカバーリング糸条15a、15bが上下する方式が好ましい。但し、編組編みに限定せず平巻きでも可能である。また、S巻き、Z巻きのいずれか一方の巻き態様を使用しても可能である。ただ、平巻きはカバーリング糸条15がずれやすいためにカバーリングした強化繊維束11の取り扱いに注意が必要となる。
【0045】
図1〜
図4に示す本実施例では、カバーリング糸条15として、2本の糸条15(15a、15b)を用い、オーバーワインドにより繊維ストランド14を束ねる態様を示しているが、これに限定されるものではなく、勿論、糸条の数は1本でも良く、3本以上の糸条を用いることもできる。
【0046】
また、本発明では、繊維ストランド14の外周囲はカバーリング糸条15(15a、15b)により固く絞付けされる必要がある。従って、カバーリング時にカバーリング糸条15(15a、15b)は、糸条15a、15b一本当たり50〜200gの張力が必要とされる。張力が50g/本未満、特に、20g/本以下では繊維ストランド14に対する糸条15の締め付けが弱く、逆に、200g/本を超えると、特に、300g/本以上では糸条15に曲がりが生じ易くなる。
【0047】
更に、カバーリング時に繊維ストランド自体が曲がり難くするために、繊維ストランド自体にも繊維ストランド一本当たり、即ち、例えば強化繊維数50K(50000本)の繊維ストランド14の1本に対して200g以上の張力を掛ける必要がある。100g/本未満では、カバーリング時の糸条15の張力により曲がり易くなる。一般に、強化繊維(f)の数1000〜100000の繊維ストランド14に対しては、通常、100〜500g/本(100g/本以上、500g/本以下)とされる。
【0048】
本発明によれば、上述のように、本発明に従った構成の強化繊維束11は、VaRTM成型による構造物(成型体)のVfを上げることが必要であり、そのために、カバーリング糸条15は、繊維ストランド14の外周囲を固く束ねている。又、従来使用されていた樹脂透過性支持体13(
図7参照)を用いることはない。
【0049】
本発明では樹脂透過性支持体を用いない強化繊維シートとされることにより、次のような特長がある。つまり、
(1)樹脂透過性支持体の厚さ分がなくなるため強化繊維の繊維含有量(Vf)を上げることができる。土木建築分野と異なり、VaRTM成型法ではFRPの性能上Vfを上げることが特に重要であり、樹脂透過性支持体の厚みでもVfが下がる要因となり、斯かる要因事項は、可能な限り排除する必要がある。
(2)上述より、強化繊維シートの物性が向上し、また、取り扱い性も向上する。
(3)樹脂透過性支持体を使用しない分、強化繊維シート自体のコストを低減し得る。また、強化繊維シート製造時に、従来必要とされた樹脂透過性支持体供給設備等を必要とせず、製造設備の簡易化が図れる。
等の特長を有している。
【0050】
本発明によれば、強化繊維束層12は、多数本の強化繊維束11を長手方向に沿って引き揃えて形成されるが、強化繊維束層12は、
図1、
図2に示すように、強化繊維束11を1層にて形成することもできるが、これに限定されるものではなく、強化繊維束11を複数層、例えば2〜3層、積層して形成することができる。
【0051】
上記構成により、強化繊維束層12は、繊維目付量が300g/m
2以上、2000g/m
2以下とすることができ、物性(曲げ強度等)を著しく向上させることができ、しかも、VaRTM成型法における良好な樹脂含浸性(即ち、樹脂流動性)を維持することができる。強化繊維束層12が2000g/m
2を超えるとVaRTM成型法においても流動性が悪くなる。
【0052】
上述のようにして作製した本発明に従った強化繊維シート10は、纏めれば、次のような特長を有している。つまり、
(1)多数本の強化繊維fが収束しているために毛細管現象で強化繊維束11内への樹脂含浸性(樹脂流動性)が向上する。
(2)強化繊維束が固く収束していることで樹脂含浸しても厚さが増えることがなく、強化繊維のVfが上がる。Vfは50%以上、通常、65%以下、即ち、50〜65%である。これに対して、従来、構造物補強の場合には、Vfは20〜40%程度である。
(3)強化繊維fをカバーリング糸条15にて固く収束することで強化繊維fのバラケがなく、毛羽の発生を少なくできることから、物性と取り扱い性が向上する。
(4)強化繊維fを固く収束することでVaRTM成型時に樹脂流動性が良く、生産性が向上する。
【0053】
次に、上記構成の強化繊維シート10を使用したVaRTM工法について説明する。
【0054】
(VaRTM工法)
上述した構成の強化繊維シート10は、VaRTM工法によるFRP構造物の成型に使用した場合において、注入樹脂の流動性を増大させて樹脂含浸性を改善し、成型の生産性を向上させることができる。また、FRP構造物(成型物)の物性を改善することができる。
【0055】
本発明に従った構成の強化繊維シート10を用いたFRP構造物は、上述したように、その強化繊維含有量Vfを従来の強化繊維シート10Aにて作製したFRP構造物に比べると増大させることができる。しかも、後述する本発明者らが行なった実験結果にて理解されるように、斯かる構成の強化繊維シート10は、樹脂流通性が従来の強化繊維シート10Aに比較しても良好な流通性を示すことが分かった。その理由は、特にVaRTM工法においては、使用する注入樹脂の粘度が低く(注入時の粘度が30〜300mPa)、そのために、注入樹脂は、各強化繊維束11内にへと入り込んで、強化繊維fによる毛細管現象にて各強化繊維f間へと流動するためであると思われる。
【0056】
図5にVaRTM工法に使用する成型装置100の一例の概略構成を示す。本例にて成型装置100は、型枠(成形型)101に強化繊維シート10を入れ込み、その上に樹脂流通媒体102及びバキュームバッグ(フィルム)103がセットされる。成形型101に隣接して配置された樹脂注入装置104から、樹脂流通媒体102と成形型101との間に樹脂Rが注入される。また、バキュームバッグ103が真空引きされ、これにより、強化繊維シート10に樹脂Rが含浸される。樹脂Rが含浸された強化繊維シート10は、成形型101と共に加熱装置、例えば、加熱板或いはオーブンにて加熱され、樹脂Rが硬化される。その後、樹脂含浸硬化された強化繊維シート10は、成形型101から脱型されて製品(繊維強化プラスチック構造物の成型体)とされる。勿論、常温硬化型の樹脂Rを使用した場合には、加熱装置等は不要とされる。
【0057】
また、
図6には、成型装置100の他の例の概略構成を示す。本例にて成型装置100は、
図5に示す成型装置100におけるフィルム103の代わりに上型枠101bが配置される点で異なる。つまり、本例の成型装置100では、成形型101は、下型枠101aと上型枠101bにて構成されるが、その他の構成及び機能は同じとされる。同じ構成及び機能を有するものには同じ参照番号を付し、
図5に関連した上記説明を援用し、詳しい説明は省略する。勿論、本例においても、常温硬化型の樹脂Rを使用した場合には、加熱装置等は不要とされる。
【0058】
このように、本発明によれば強化繊維シート10を所定形状にて配置し、上型枠101b或いはフィルム103で密閉し、真空にして強化繊維シート10に樹脂を注入して硬化させ、繊維強化プラスチック構造物を成型するVaRTM工法による繊維強化プラスチック構造物成型方法が提供される。
【0059】
ここで、強化繊維シート10は、上述したように、
(a)多数本の強化繊維fを一方向に引き揃えて収束された繊維ストランド14を長手方向に沿ってカバーリング糸条15により束ねて強化繊維束11を形成し、
(b)多数本の強化繊維束11を長手方向に沿って並列に、且つ、互いに密接して引き揃えて強化繊維束層12を形成し、
(c)強化繊維束層12を加熱加圧することにより、カバーリング糸条15が隣り合った繊維ストランド14に融着して強化繊維束層12が一体のシート状とされる、
構成とされる。
【0060】
また、注入樹脂は、樹脂注入時の粘度が30〜300mPa・sとされるVaRTM樹脂が使用される。
【0061】
なお、本実施例では、VaRTM用樹脂としては、エポキシ樹脂を使用したが、エポキシ樹脂の他、樹脂注入時(一例として温度25℃)の粘度が30〜300mPa・sとされる、ポリエステル樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂などを使用することができる。
【0062】
本発明の強化繊維シート10は、
図7に示す従来の強化繊維シート10Aに比べると、その強化繊維含有量Vfを増大させることができる。このように、本発明によれば、強化繊維シート10AによるFRP構造物の成型に比べ、強化繊維のVf(単位断面積当たりの強化繊維の断面積比率)を50%以上とし、また、上述したように、強化繊維束層12、即ち、強化繊維シート10の繊維目付量を300〜2000g/m
2程度とすることができ、成型されたFRP構造物の曲げ強度等の増大を図ることができる。
【0063】
しかも、上述したように、斯かる構成の強化繊維シート10は、VaRTM工法によるFRP構造物の成型に使用した場合において、注入樹脂の流動性を低下させることがなく、樹脂含浸性が良好で、成型の生産性を向上させることができる。
【0064】
本発明の強化繊維シート10は、上述のように、繊維ストランド14がカバーリング糸条15により固く収束されているので繊維が曲がり難いといった特長を有しており、生産性が良く性能の発現性が良い。
【0065】
実験例
本発明のFRP構造物の成型方法及びVaRTM用強化繊維シートの作用効果を立証するために、実験例1では、強化繊維として炭素繊維を使用した強化繊維シート、即ち、炭素繊維シートの含浸性を評価するための実験を行なった。また、実験例2では、高Vfを有する本発明の炭素繊維シートが他のシートと比較して物性面で差があるのか、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)の曲げ性能で確認した。以下に実験例1、2について説明する。
【0066】
実験例1
本実験例1で使用した本実施例の炭素繊維シート10(
図1)及び比較例の炭素繊維シート10A(
図7)は、次のようにして作製した。
【0067】
炭素繊維シート10、10Aにおける炭素繊維ストランド14としては、強化繊維fとして平均径7μm、収束本数50000本のPAN系炭素繊維ストランドを用いた。この炭素繊維ストランド14は、カバーリング糸条15として、50デニールポリエステル繊維から成る糸条を2本使用し、編組編みでS巻、Z巻にてカバーリング糸条15a、15bが上下する方式にて炭素繊維ストランド14の外周囲に巻き付けた。カバーリングピッチPは、炭素繊維ストランド14の長手方向10cm当り33回(P=3mm)とした。
【0068】
またこの時、カバーリング糸条15には、50〜80g/本の範囲の張力を与え、炭素繊維ストランド14に対して200g/本の張力を与えて、炭素繊維ストランド14のカバーリングを行った。このようにして、
図3に示すような形状とされる炭素繊維束11を得た。炭素繊維束11は、その長手方向に沿って曲がりは発生せず、非常に良い直線性を示した。
【0069】
本実施例の炭素繊維シート10は、上記のようにして作製した炭素繊維束11を並列に、且つ、密接して並べて、加熱炉で140℃に加熱し、次いで、冷却ローラにて炭素繊維束11の両面を加圧した。これにより、本実施例の炭素繊維シート10においては、
図2(b)に示すように、カバーリング糸条15が隣り合った炭素繊維束11に融着し、並列に並べられた各炭素繊維束11、11間には空隙はなく、間隙(g)は実質的に0(ゼロ)であった。炭素繊維束層12、即ち、炭素繊維シート10の繊維目付は1800g/m
2であった。
【0070】
また、比較例の炭素繊維シート10Aは、上述のようにして作製した炭素繊維束11を樹脂透過性(即ち、メッシュ状の)支持体シート13上に並列に並べて加熱加圧接着して作製したが、
図7に示すように、各炭素繊維束11、11間に2mmの間隙(g)を設けた。比較例の炭素繊維シート10Aの繊維目付は600g/m
2であった。
【0071】
メッシュ状支持体シート13は、縦糸16及び横糸17としてガラス繊維(番手300d、打ち込み本数1本/10mm)を用いた2軸メッシュ状支持体シートであった。2軸メッシュ状支持体シート13の縦糸16及び横糸17の間隔は、10mmとした。
【0072】
このようにして作製した炭素繊維シート10、10Aは、幅(W)が500mm、軸線方向の長さが100mであった。
【0073】
上記構成の本実施例の炭素繊維シート10、及び、比較例の炭素繊維シート10Aを使用してVaRTM工法により、それぞれ、CFRP板を作製した。
【0074】
本実験にて使用した成型装置100は、
図5を参照して説明したVaRTM工法を実施する装置とされ、型枠(成形型)101に炭素繊維シート10(10A)を入れ込み、その上に樹脂流通媒体102及びバキュームバッグ103がセットされた。成形型101に隣接して配置された樹脂注入装置104から、樹脂流通媒体102と成形型101との間に樹脂Rが注入され、かつ、バキュームバッグ103が真空引きされた。これにより、炭素繊維シート10(10A)に樹脂Rが含浸された。樹脂Rが含浸された炭素繊維シート10(10A)は、成形型101と共に加熱装置(オーブン)にて加熱され、樹脂Rが硬化された。その後、樹脂含浸硬化された炭素繊維シート10(10A)は、成形型101から脱型されて製品(炭素繊維強化プラスチック構造物の成型体)とされた。
【0075】
このようにして得られたCFRP板は、幅200mm×長さ2mとされ、厚みは2.0mmであった。本実施例、比較例で使用した樹脂Rは、低粘度のVaRTM用樹脂であり、ナガセケムテックス株式会社製の複合材料用エポキシ樹脂(汎用タイプ「XNR/H6815」(商品名))を使用した。該樹脂の粘度は、260mPa・s/25℃、80mPa・s/40℃、であった。また、型枠に注入時の粘度は、即ち、温度25℃における樹脂粘度は、260mPa・sであった。
【0076】
本実験にて、本実施例の炭素繊維シート10を使用し、トータル目付1800g/m
2とした場合には、樹脂含浸作業が約0.5時間(総成型作業時間2.5時間)で終了し、良好な製品を得ることができた。この樹脂含浸作業時間は、比較例の炭素繊維シート10Aを使用した場合と同程度であった。また、本実施例の炭素繊維シート10を使用した場合のVaRTM成形後のVfが58%であった。一方、比較例の炭素繊維シート10Aを使用した場合は、VaRTM成形後のVfが38%であった。
【0077】
実験例2
本実施例の炭素繊維シート10及びCFRP構造物の成型方法の作用効果を立証するために、実験例2では、本実施例の炭素繊維シート10を使用した場合のCFRP構造物の曲げ強度に対する評価を行なうための実験を行なった。
【0078】
(試験方法)
表1に示す実験例1にて使用したと同じ炭素繊維シート10、10A及び樹脂、並びに、実験装置100を使用して、本実施例、比較例のCFRP板を作製した。このCFRP板を幅12mm×長さ120mmに切断して曲げ試験試料を作製し、JISK7203法による3点曲げ試験を行った。試験結果を表1に示す。
【0079】
実験の結果、表1にて理解されるように、本実施例は、比較例に比較して空隙が少なく、Vf(炭素繊維含有量)が高くなるためCFRP板の曲げ応力が高い。一方、比較例は、炭素繊維束11、11間に隙間(g)があり、また、樹脂透過性支持体を使用しているために、実験例1にて説明したように、樹脂含浸性は良いが、Vfが他より低く、曲げ応力が低いことが分かる。
【0081】
本実施例の炭素繊維シート10は、その炭素繊維含有量Vfを比較例の炭素繊維シート10Aに比べると増大させることができる。これにより、本発明によれば、従来の炭素繊維シート10AによるCFRP構造物の成型に比べ炭素繊維のVf(単位断面積当たりの炭素繊維の断面積比率)を高くすることができ、成型されたCFRP構造物の曲げ強度の増大を図ることができる。
【0082】
しかも、斯かる構成の炭素繊維シート10は、VaRTM工法によるCFRP構造物の成型に使用した場合において、注入樹脂の流動性を低下させることがなく、樹脂含浸性が良好であって、成型の生産性を向上させることができる。また、本発明の炭素繊維シート10は、炭素繊維ストランド14がカバーリング糸条15により固く束ねられているので、繊維が曲がり難く、生産性が良く性能の発現性が良い。
【0083】
上記実験例では、強化繊維として炭素繊維を使用した場合について説明したが、炭素繊維以外の強化繊維を使用した場合においても同様の結果を得ることができた。