(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
モータの回転を歯車を介して伝達する際、従動側に過大な負荷が加わると、歯車が損傷する等の問題が発生する。そこで、2つの回転部材の間に摩擦により動力を伝達するフリクション機構を設けておき、過大な負荷が加わった際、2つの回転部材が空回りをする構成が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
例えば、
図9(a)に示す参考例に係るフリクションドライブ装置1xは、軸線方向Lの途中部分に止められた環状部材3xによって軸線方向Lの一方側L1に向く支持面31xが設けられた回転軸2xと、支持面31xより一方側L1で回転軸2xに回転可能に嵌められて支持面31xに接する筒状回転部材4xと、回転軸2xにおいて筒状回転部材4xより一方側L1に位置する連結軸部23xに嵌められた環状の板状付勢部材5xとを備えている。筒状回転部材4xにおいて、外周面には歯車45xが形成され、一方側L1の面には板状付勢部材5xに接する一方側凸部47xが形成され、他方側L2の面には環状部材3xに接する他方側凸部49xが形成されている。連結軸部23xの外周面は、周方向の一部に平坦面23yが形成されており、
図9(c)、(d)に示すように、連結軸部23xの外周形状、および板状付勢部材5xにおいて連結軸部23xが嵌る穴50xはいずれもD字形状を有している。このため、板状付勢部材5xは、回転軸2xに対して回り止めされており、回転軸2xと一体に回転する。また、板状付勢部材5xを回転軸2xに対して固定するには、
図9(b)に示すように、回転軸2xに環状部材3x、筒状回転部材4xおよび板状付勢部材5xを嵌めた後、プレスによる加締めを行って、連結軸部23xにおいて板状付勢部材5xより一方側L1に位置する部分を他方側L2に向けて塑性変形させる。その結果、
図9(a)に示すように、板状付勢部材5xは、連結軸部23xの変形部分23zにより内周部分が他方側L2に押圧される結果、径方向外側に位置する部分が筒状回転部材4xの一方側凸部47xに弾性をもって接することになる。従って、回転軸2xが回転した際、かかる回転は、板状付勢部材5xと筒状回転部材4xとの間の摩擦力、および環状部材3xと筒状回転部材4xとの間の摩擦力によって、筒状回転部材4xに伝達されるので、筒状回転部材4xが回転する。これに対して、筒状回転部材4xの側に過大な負荷が加わった際には、板状付勢部材5xと筒状回転部材4xとの間、および環状部材3xと筒状回転部材4xとの間に空回りが発生するので、動力の伝達が遮断される。このため、筒状回転部材4xの側に過大な負荷が加わったときでも、歯車の損傷を防止することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、連結軸部23xの外周形状、および板状付勢部材5xの穴50xをD字形状として、連結軸部23xにおいて板状付勢部材5xより一方側L1に位置する部分をプレスして塑性変形させる加締めでは、フリクショントルクのばらつきが大きいといった問題点、異音が発生しやすいといった問題点、歯車が損傷しやすいといった問題点がある。本願発明者による上記の問題点の検討の結果、連結軸部23xでは、平坦面23yが形成されている側にプレスの力が加わらないため、回転軸2xが、平坦面23yが形成されている側とは反対側に曲がってしまい、回転軸2xや筒状回転部材4xにブレや摺動圧のばらつきが発生してしまうという新たな知見を得た。また、かかるブレは、異音の発生や歯車の損傷の原因となるので、好ましくないことが判明した。なお、
図9に示す構成は、本発明に対する参考例であり、従来例ではない。
【0006】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、回転軸の連結軸部に嵌めた板状付勢部材を、連結軸部を塑性変形させることにより固定した場合でも、回転軸に曲がりが発生しにくいフリクションドライブ装置、および当該フリクションドライブ装置を備えたギヤードモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るフリクションドライブ装置は、軸線方向の途中部分で当該軸線方向の一方側に向く支持面が設けられた回転軸と、前記支持面より前記一方側で前記回転軸に回転可能に嵌められて前記支持面に接する筒状回転部材と、前記回転軸において前記筒状回転部材より前記一方側に位置する連結軸部に嵌められた環状の板状付勢部材と、を有し、前記連結軸部は、外側面が
円形の丸棒状であり、前記板状付勢部材において前記連結軸部が嵌る穴の内周縁は、前記軸線に対して回転対称であり、当該穴の内周縁には、
前記連結軸部の外周面からみて径方向外側に向けて凹んだ回り止め用の係合凹部が形成されており、
前記筒状回転部材の前記一方側の面には、前記穴より径方向外側に前記板状付勢部材に接する一方側凸部が形成されており、前記連結軸部において前記板状付勢部材より前記一方側に位置する
丸棒部分の外周面の全周を
前記軸線方向の他方側に向けて塑性変形させた変形部分により、
前記板状付勢部材の内周部分が前記他方側に押圧されて当該内周部分より径方向外側に位置する部分が前記筒状回転部材
の前記一方側凸部に弾性をもって接しているとともに、前記変形部分
のうち、前記係合凹部の内側に入り込んだ部分は、前記板状付勢部材の前記回転軸に対する回り止めとして機能していることを特徴とする。
【0008】
本発明では、回転軸および筒状回転部材のうちの一方(駆動側部材)が回転した際、かかる回転は、板状付勢部材と筒状回転部材との間の摩擦力、および
支持面と筒状回転部材との間の摩擦力によって、他方(従動側部材)に伝達されるので、他方が回転する。これに対して、従動側部材の側に過大な負荷が加わった際には、板状付勢部材と筒状回転部材との間、および
支持面と筒状回転部材との間に空回りが発生するので、動力の伝達が遮断される。このため、従動側部材の側に過大な負荷が加わったときでも、駆動側部材や駆動側部材より駆動側に設けられた歯車等の損傷を防止することができる。また、板状付勢部材は、連結軸部において板状付勢部材より一方側に位置する部分の全周を他方側に向けて塑性変形させた変形部分により内周部分が他方側に押圧され、その結果、径方向外側に位置する部分が筒状回転部材に弾性をもって接している。かかる構造を実現するにあたって、連結軸部は、外側面が軸線に対して回転対称であるため、塑性変形させる際の力が周方向で偏って印加されることを防止することができる。従って、塑性変形させる際の力によって回転軸に曲がることを防止することができるので、回転軸や筒状回転部材にブレが発生しにくい。また、板状付勢部材において連結軸部が嵌る穴の内周縁は、回り止め用の係合部が形成されているが、穴の内周縁は軸線に回転対称の形状を有している。このため、連結軸部の塑性変形による変形部分によって板状付勢部材の内周縁を押圧した際、周方向で均等な力が確実に加わるので、板状付勢部材が傾きにくい。また、
筒状回転部材の一方側の面には、穴より径方向外側に板状付勢部材に接する一方側凸部が形成されているため、筒状回転部材と板状付勢部材との接触面積や接触状態を安定した状態に設定することができる。従って、板状付勢部材と筒状回転部材との間の摩擦力を適正なレベルに安定させることができる。
【0010】
この場合、前記板状付勢部材の前記穴は、丸穴であって、内周縁に前記係合凹部が形成されていることが好ましい。かかる構成によれば、連結軸部の塑性変形による変形部分によって板状付勢部材の内周縁を押圧した際、周方向で均等な力が加わるので、板状付勢部材が傾きにくい。それ故、板状付勢部材と筒状回転部材との間の摩擦力を適正なレベルに安定させることができる。
この場合、前記係合凹部は、周方向の複数個所に等角度間隔に形成されている構成を採用することができる。
【0011】
本発明において、前記係合凹部は、半円形状をもって前記穴の内周縁から径方向外側に凹んでいる態様を採用することができる。
この場合、前記係合凹部は、全体として、前記穴の内周縁の1/3に相当する角度範囲を占めるように複数形成されている態様を採用してもよい。
本発明において、前記係合凹部は、三角形状をもって前記穴の内周縁から径方向外側に凹んでいる態様を採用してもよい。
本発明において、前記穴および前記係合凹部は、多角形の穴を構成し、前記多角形の角によって前記係合凹部が形成されている態様を採用してもよい。この場合、前記多角形は正多角形であることが好ま
しい。
【0013】
本発明において、前記筒状回転部材には、前記他方側に向けて突出して前記支持面に接する他方側凸部が前記回転軸の周りに形成されていることが好ましい。かかる構成によれば、筒状回転部材と環状部材との接触面積や接触状態を安定した状態に設定することができるので、筒状回転部材と環状部材との間の摩擦力を適正なレベルに安定させることができる。
【0014】
本発明において、前記支持面は、前記回転軸に嵌められた環状部材の前記一方側に向く面からなることが好ましい。かかる構成によれば、環状部材の表面を適正な状態にすれば、回転軸の表面粗さ等にかかわらず、筒状回転部材と環状部材との間の摩擦力を適正なレベルに安定させることができる。
【0015】
本発明に係るフリクションドライブ装置は、モータ部、および歯車列を備えたギヤードモータに用いられ、この場合、前記回転軸は、前記モータ部のモータ軸、または前記歯車列において前記モータ軸の回転が伝達される歯車と一体に回転する回転軸のうちの何れかである。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、回転軸および筒状回転部材のうちの一方(駆動側部材)が回転した際、かかる回転は、板状付勢部材と筒状回転部材との間の摩擦力、および
支持面と筒状回転部材との間の摩擦力によって、他方(従動側部材)に伝達されるので、他方が回転する。これに対して、従動側部材の側に過大な負荷が加わった際には、板状付勢部材と筒状回転部材との間、および
支持面と筒状回転部材との間に空回りが発生するので、動力の伝達が遮断される。このため、従動側部材の側に過大な負荷が加わったときでも、駆動側部材や駆動側部材より駆動側に設けられた歯車等の損傷を防止することができる。また、板状付勢部材は、連結軸部において板状付勢部材より一方側に位置する部分の全周を他方側に向けて塑性変形させた変形部分により内周部分が他方側に押圧され、その結果、径方向外側に位置する部分が筒状回転部材に弾性をもって接している。かかる構造を実現するにあたって、連結軸部は、外側面が軸線に対して回転対称であるため、塑性変形させる際の力が周方向で偏って印加されることを防止することができる。従って、塑性変形させる際の力によって回転軸に曲がることを防止することができるので、回転軸や筒状回転部材にブレが発生しにくい。また、板状付勢部材において連結軸部が嵌る穴の内周縁は、回り止め用の係合部が形成されているが、穴の内周縁は軸線に回転対称の形状を有している。このため、連結軸部の塑性変形による変形部分によって板状付勢部材の内周縁を押圧した際、周方向で均等な力が確実に加わるので、板状付勢部材が傾きにくい。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面を参照して、本発明を適用したフリクションドライブ装置を説明する。本発明を適用したフリクションドライブ装置では、回転軸と筒状回転部材との間で動力の伝達を行なう際、回転軸および筒状回転部材のうちの一方が駆動側部材とされ、他方が従動側部材となる。従って、以下の説明では、回転軸が駆動側部材とされ、筒状回転部材が従動側部材として構成されている例を説明するが、回転軸が従動側部材とされ、筒状回転部材が駆動側部材として構成されている場合に本発明を適用してもよい。
【0019】
(フリクションドライブ装置の構成)
図1は、本発明を適用したフリクションドライブ装置の説明図であり、
図1(a)、(b)は各々、フリクションドライブ装置の部分断面図、および回転軸に板状付勢部材を固定する様子を示す説明図である。なお、
図1では、フリクションドライブ装置のうち、環状部材、筒状回転部材および板状付勢部材については断面で表してある。
図2は、本発明を適用したフリクションドライブ装置に用いた各部材の説明図であり、
図2(a)、(b)、(c)、(d)、(e)は各々、回転軸の側面図、回転軸を軸線方向の一方側(先端側)からみた平面図、環状部材の平面図、筒状回転部材の断面図、および板状付勢部材の平面図である。
図3は、本発明を適用したフリクションドライブ装置に用いられる各種板状付勢部材の平面図であり、
図3(a)、(b)、(c)、(d)は各々、第1例に係る板状付勢部材の平面図、第2例に係る板状付勢部材の平面図、第3例に係る板状付勢部材の平面図、および第4例に係る板状付勢部材の平面図である。
【0020】
図1(a)に示すフリクションドライブ装置1は、概ね、回転軸2、環状部材3、筒状回転部材4および板状付勢部材5により構成されている。
図1(a)、(b)および
図2(a)、(b)に示すように、回転軸2では、軸線方向Lに沿って大径部21と、大径部21に対して軸線方向Lの一方側L1で大径部21より小さな径を有する中径部22と、中径部22に対して軸線方向Lの一方側L1で中径部22より小さな径を有する連結軸部23と、連結軸部23に対して軸線方向Lの一方側L1で連結軸部23より小さな径を有する小径部24と、小径部24に対して軸線方向Lの一方側L1で小径部24より小さな径を有する軸端部25とがこの順に設けられた構造を有している。大径部21において、他方側L2の端部では周方向の一部が平坦面211になっており、かかる端部を利用して駆動源側(動力伝達経路の上流側)に連結される。また、中径部22の外周面は、周方向の一部が平坦面221になっている。これに対して、連結軸部23、小径部24、および軸端部25は丸棒状になっており、外周面は軸線を中心に回転対称になっている。
【0021】
本形態では、中径部22に環状部材3が嵌められており、かかる環状部材3の一方側L1の面によって支持面31が形成されている。本形態において、環状部材3の軸線方向Lの他方側L2への移動は、中径部22と大径部21との間に位置する段面に環状部材3の他方側L2の面32が当接することによって規制されている。本形態において、中径部22の外周面は、周方向の一部が平坦面になっており、環状部材3において中径部22が嵌る穴30は、中径部22の断面形状と同一の形状を有している。より具体的には、中径部22は、丸棒部分の外周面のうち、互いに反対側に位置する2個所に平坦面221が形成され、その他の部分は円弧状になっている。このため、環状部材3は、外周形状は円形であるが、穴30の内縁は、互いに平行に延在する2つの直線部分30aの両端が円弧部分30bの端部に繋がった形状になっている。このため、環状部材3は、中径部22に嵌めるだけで空回りしないようになっている。
【0022】
筒状回転部材4は、中径部22のうち、環状部材3から軸線方向Lの一方側L1に突き出た部分が嵌る穴40が中央に形成された円盤部41と、円盤部41の外周縁から軸線方向Lの両側に突き出た円筒部42とを有しており、円筒部42の外周面には、外歯45が形成されている。円盤部41の両面のうち、軸線方向Lの一方側L1に向く一方面46には、穴の周りで一方側L1に断面半円形状に突出した一方側凸部47が形成されている。本形態において、一方側凸部47は、円筒部42と同心状に環状に形成されている。また、円盤部41において、軸線方向Lの他方側に向く他方面48には、穴40の周りで他方側L2に断面半円形状に突出した他方側凸部49が形成されている。本形態において、他方側凸部49は、一方側凸部47と同様、円筒部42と同心状に環状に形成されており、他方側凸部49と一方側凸部47とは、円盤部41の両面で互いに重なるように形成されている。本形態では、筒状回転部材4の穴40は、環状部材3の穴30と違って、軸線方向Lからみたとき、円形である。このため、筒状回転部材4は、中径部22に嵌めた状態で周方向に回転可能である。円盤部41は、一方側凸部47および他方側凸部49より内側に位置する部分は、外側に位置する部分よりわずかに薄くなっている。すなわち、円盤部41において、一方側凸部47および他方側凸部49の内側は、以下に説明する板状付勢部材5が押し込まれてくるため、その分の余裕を取る目的で薄くしてあるのに対して、一方側凸部47および他方側凸部49より外側は、強度確保のため厚くしてある。
【0023】
本形態では、連結軸部23に、ワッシャ状の板状付勢部材5が嵌められており、かかる板状付勢部材5の他方側L2の面によって摺動面52が形成されている。また、板状付勢部材5において連結軸部23が嵌る穴50の内周縁には、回り止め用の係合部として、連結軸部23の外周面からみて径方向外側に向けて凹んだ係合凹部50aが形成されている。より具体的には、板状付勢部材5は、外周形状は円形であるが、穴50の内縁は、連結軸部23の外周形状に対応する円形になっているとともに、周方向の一部に径方向外側に凹む係合凹部50aが形成されている。本形態において、穴50は、周方向に複数個所に係合凹部50aが等角度間隔に形成された形状になっており、穴50は軸線を中心に回転対称の形状を有している。より具体的には、穴50は、周方向に3個所に係合凹部50aが等角度間隔に形成された形状になっている。ここで、板状付勢部材5は、連結軸部23に嵌めるだけでは、空回りする状態にある。また、板状付勢部材5は、連結軸部23に嵌めるだけでは、軸線方向Lの一方側L1に移動可能であり、摺動面52と筒状回転部材4の一方側凸部47との間には十分な摩擦力が発生しない。また、板状付勢部材5を連結軸部23に嵌めるだけでは、筒状回転部材4の他方側凸部49と環状部材3の支持面31との間に十分な摩擦力が発生しない。
【0024】
そこで、本形態では、連結軸部23において板状付勢部材5より一方側L1に位置する部分の全周をプレス加工により他方側L2に向けて塑性変形させ、かかる塑性変形によって生じた変形部分23aによって、板状付勢部材5の内周部分56を他方側L2に押圧した状態にしてある。このため、板状付勢部材5では、内周部分56が外周側に位置する部分より軸線方向Lの他方側L2に変位している。従って、板状付勢部材5は、内周部分56より径方向外側に位置する部分57が筒状回転部材4の一方側凸部47に弾性をもって接するように変形している。また、筒状回転部材4は、軸線方向Lの他方側L2に押圧されるので、筒状回転部材4の他方側凸部49は、弾性をもって環状部材3の支持面31に接している状態となる。従って、摺動面52と筒状回転部材4の一方側凸部47との間には十分な摩擦力が発生し、筒状回転部材4の他方側凸部49と環状部材3の支持面31との間に十分な摩擦力が発生する。
【0025】
また、本形態では、板状付勢部材5の穴50の内周縁には、径方向外側に凹む係合凹部50aが形成されており、連結軸部23において塑性変形によって生じた変形部分23aは、係合凹部50aの内側に入り込んで板状付勢部材5の回り止め機能を発揮している。
【0026】
本形態では、
図2(e)および
図3(b)に示すように、係合凹部50aが略半円形状をもって径方向外側に凹んでいるが、
図3(a)に示すように、
図3(b)に示す係合凹部50aより大の曲率半径をもつ円の約1/3に相当する円弧を有するように径方向外側に凹んだ係合凹部50a
を採用してもよい。すなわち、径方向外側に凹んだ複数の係合凹部50aが全体として、丸穴からなる穴50の内周縁の1/3に相当する角度範囲を占めるように形成してもよい。また、図3(c)に示すように、略三角形をもって径方向外側に凹んだ係合凹部50aを採用してもよい。
【0027】
また、板状付勢部材5において連結軸部23が嵌る穴50の内周縁に、連結軸部23の外周面からみて径方向外側に向けて凹んだ係合凹部50aを形成するという観点からすれば、
図3(d)に示すように、穴50を多角形としてもよい。かかる形状の穴50によれば、角50cを、連結軸部23の外周面からみて径方向外側に向けて凹んだ係合凹部50aとして機能させることができる。また、穴50が正多角形であれば、複数の係合凹部50aを等角度間隔に設けることもできる。
【0028】
(作用および本形態の主な効果)
このように構成したフリクションドライブ装置1において、回転軸2が軸線周りに回転した際、かかる回転は、板状付勢部材5と筒状回転部材4の一方側凸部47との間の摩擦力、および筒状回転部材4の他方側凸部49と環状部材3の支持面31との間の摩擦力によって、筒状回転部材4に伝達されるので、筒状回転部材4が軸線周りに回転する。これに対して、筒状回転部材4の側に過大な負荷が加わった際には、板状付勢部材5と筒状回転部材4との間、および環状部材3と筒状回転部材4との間に空回りが発生するので、動力の伝達が遮断される。このため、筒状回転部材4の側に過大な負荷が加わったときでも、回転軸2や回転軸2より駆動側に設けられた歯車等の損傷を防止することができる。
【0029】
ここで、板状付勢部材5は、連結軸部23において板状付勢部材5より一方側L1に位置する部分の全周を他方側L2に向けて塑性変形させた変形部分23aにより内周部分56が他方側L2に押圧されている。ここで、連結軸部23は、外周面が円形の丸棒状であるため、軸線を中心とする回転対称になっている。このため、塑性変形させる際の力が周方向で偏って印加されることを防止することができる。従って、塑性変形させる際の力によって回転軸2に曲がることを防止することができるので、評価結果を後述するように、回転軸2や筒状回転部材4にブレが発生しにくい。また、板状付勢部材5において連結軸部23が嵌る穴50の内周縁には、連結軸部23の外周面からみて径方向外側に向けて凹んだ係合凹部50aが形成されており、塑性変形による変形部分23aは、係合凹部50aの内側に入り込んでいる。このため、連結軸部23が丸棒状であっても、回転軸2に対する板状付勢部材5の空回りを防止することができる。
【0030】
また、板状付勢部材5の穴50は、丸穴の内周縁に係合凹部50aが形成された形状になっているが、穴50は軸線を中心とする回転対称の形状を有している。このため、連結軸部23の塑性変形による変形部分23aによって板状付勢部材5の内周縁を押圧した際、周方向で均等な力が加わるので、板状付勢部材5が傾きにくい。それ故、板状付勢部材5と筒状回転部材4との間の摩擦力を適正なレベルに安定させることができる。また、係合凹部50aは、周方向の複数箇所に等角度間隔に形成されているため、回転軸2に対する板状付勢部材5の空回りを確実に防止することができるとともに、連結軸部23の塑性変形による変形部分23aによって板状付勢部材5の内周縁を押圧した際、周方向で均等な力が確実に加わるので、板状付勢部材5が傾きにくい。また、筒状回転部材4は、一方側凸部47および他方側凸部49を介して板状付勢部材5の摺動面52および環状部材3の支持面31に接している。このため、筒状回転部材4と板状付勢部材5との接触面積や接触状態を安定した状態に設定することができるので、板状付勢部材5と筒状回転部材4との間の摩擦力を適正なレベルに安定させることができる。さらに、支持面31は、回転軸2に嵌められた環状部材3の一方側L1に向く面からなる。このため、環状部材3の表面を適正な状態にすれば、回転軸2の表面粗さ等にかかわらず、筒状回転部材4と環状部材3との間の摩擦力を適正なレベルに安定させることができる。
【0031】
(評価結果1)
図4は、本発明を適用したフリクションドライブ装置1における板状付勢部材5の反り量P(バネ反り量)と回転軸2の先端の振れ量との関係を評価した結果のグラフであり、
図4(a)、(b)、(c)、(d)は各々、
図9に示す参考例のフリクションドライブ装置1の評価結果を示すグラフ、本発明を適用したフリクションドライブ装置1において
図3(a)に示す板状付勢部材5を用いた場合の評価結果を示すグラフ、本発明を適用したフリクションドライブ装置1において
図3(b)に示す板状付勢部材5を用いた場合の評価結果を示すグラフ、および本発明を適用したフリクションドライブ装置1において
図3(c)に示す板状付勢部材5を用いた場合の評価結果を示すグラフである。
図5は、本発明を適用したフリクションドライブ装置1における板状付勢部材5の反り量と静フリクショントルクとを評価した結果のグラフであり、
図5(a)、(b)、(c)、(d)は各々、
図9に示す参考例のフリクションドライブ装置1の評価結果を示すグラフ、本発明を適用したフリクションドライブ装置1において
図3(a)に示す板状付勢部材5を用いた場合の評価結果を示すグラフ、本発明を適用したフリクションドライブ装置1において
図3(b)に示す板状付勢部材5を用いた場合の評価結果を示すグラフ、および本発明を適用したフリクションドライブ装置1において
図3(c)に示す板状付勢部材5を用いた場合の評価結果を示すグラフである。
図6は、本発明を適用したフリクションドライブ装置1における板状付勢部材5の反り量と動フリクショントルクとを評価した結果のグラフであり、
図6(a)、(b)、(c)、(d)は各々、
図9に示す参考例のフリクションドライブ装置1の評価結果を示すグラフ、本発明を適用したフリクションドライブ装置1において
図3(a)に示す板状付勢部材5を用いた場合の評価結果を示すグラフ、本発明を適用したフリクションドライブ装置1において
図3(b)に示す板状付勢部材5を用いた場合の評価結果を示すグラフ、および本発明を適用したフリクションドライブ装置1において
図3(c)に示す板状付勢部材5を用いた場合の評価結果を示すグラフである。なお、
図4、
図5、および
図6に示す評価結果において、板状付勢部材5の反り量は、
図1(a)に示すように、板状付勢部材5の内周側と外周側とにおける軸線方向Lのずれ量である。
【0032】
図7は、本発明を適用したフリクションドライブ装置1の信頼性を評価した結果のグラフであり、
図7(a)、(b)は各々、回転軸2を時計周りの回転、停止、反時計周りの回転、および停止を1サイクルとし、かかるサイクル数と静フリクショントルクとの関係を示すグラフ、および上記のサイクル数と動フリクショントルクとの関係を示すグラフである。なお、
図7において、長い破線L10で示すデータは、本発明を適用したフリクションドライブ装置1において
図3(a)に示す板状付勢部材5を用いた場合の評価結果であり、実線L20で示すデータは、本発明を適用したフリクションドライブ装置1において
図3(b)に示す板状付勢部材5を用いた場合の評価結果であり、短い破線L30で示すデータは、本発明を適用したフリクションドライブ装置1において
図3(c)に示す板状付勢部材5を用いた場合の評価結果であり、一点鎖線L40で示すデータは、
図9に示す参考例のフリクションドライブ装置1xの評価結果である。
【0033】
図4(b)〜(d)から分かるように、本発明を適用したフリクションドライブ装置1では、
板状付勢部材5の構成を図3(a)〜(c)に示す構造に変更した場合、図9および図10を参照して説明した参考例のフリクションドライブ装置1xに比して、回転軸2の先端の振れ量が小さいとともに、板状付勢部材5の反り量が変化しても、回転軸2の先端の振れ量が大きく変化せず、安定している。
【0034】
図5(b)〜(d)から分かるように、板状付勢部材5の構成を
図3(a)〜(c)に示す構造に変更しても、静フリクショントルクの上限値(例えば、2500gf−cm)を超えないことが確認できた。また、本発明を適用したフリクションドライブ装置1のうち、
図3(a)に示す板状付勢部材5を用いた場合には、
図3(b)、(c)に示す構成例に比して、板状付勢部材5の反り量が変化したときの静フリクショントルクの変化が小さく、安定していることが確認できた。
また、図3(a)〜(c)に示す板状付勢部材5を用いた場合には、板状付勢部材5の反り量が小さい場合でも、1600gf−cm以上の静フリクショントルクを得ることができた。さらに、図3(b)、(c)に示す板状付勢部材5を用いた場合、図3(a)に示す板状付勢部材5に比して、板状付勢部材5の反り量が大きくなるにつれて静フリクショントルクが大きくなることが確認できた。
【0035】
図6(b)〜(d)から分かるように、板状付勢部材5の構成を
図3(a)〜(c)に示す構造に変更すれば、動フリクショントルクが下限値(例えば、1300gf−cm)を下回らないことが確認できた。また、本発明を適用したフリクションドライブ装置1のうち、
図3(a)に示す板状付勢部材5を用いた場合には、
図3(b)、(c)に示す構成例に比して、板状付勢部材5の反り量が変化したときの動フリクショントルクの変化が小さく、安定していることが確認できた。
また、図3(a)〜(c)に示す板状付勢部材5を用いた場合、板状付勢部材5の反り量が小さい場合でも、1600gf−cm以上の動フリクショントルクを確保することができた。特に、図3(b)、(c)に示す板状付勢部材5を用いた場合には、図3(a)に示す板状付勢部材5に比して、板状付勢部材5の反り量が大きくなるにつれて動フリクショントルクが大きくなることが確認できた。
【0036】
図7(a)、(b)から分かるように、板状付勢部材5の構成を
図3(a)〜(c)に示す構造に変更しても、静フリクショントルクおよび動フリクショントルクの安定性(耐久性能)は、
図9に示す参考例のフリクションドライブ装置1xと同等以上であることが確認できた。また、
図3(a)〜(c)に示す構造を比較すると、係合凹部50aが小さい程、静フリクショントルクおよび動フリクショントルクの安定性(耐久性能)に優れている傾向にある。
すなわち、図3(b)に示す係合凹部50aは、図3(a)に示す係合凹部50aより小さく、図3(b)に示す板状付勢部材5を用いた場合(実線L20で示す特性)は、図3(a)に示す板状付勢部材5を用いた場合(長い破線L10で示す特性)より、静フリクショントルクおよび動フリクショントルクの変化が小さく、静フリクショントルクおよび動フリクショントルクの安定性(耐久性能)に優れている傾向にある。また、図3(c)に示す係合凹部50aは、図3(a)、(b)に示す係合凹部50aより小さく、図3(c)に示す板状付勢部材5を用いた場合(長い短い破線L30で示す特性)は、図3(a)、(b)に示す板状付勢部材5を用いた場合(長い破線L10で示す特性および実線20で示す特性)より、静フリクショントルクおよび動フリクショントルクの変化が小さく、静フリクショントルクおよび動フリクショントルクの安定性(耐久性能)に優れている傾向にある。
【0037】
(他の実施の形態)
連結軸部23の外周面および板状付勢部材5の穴50を回転対称の形状とし、かつ、板状付勢部材5に回り止め用の係合部を形成した構造としては、
図3に示す構成の他、連結軸部23の外周面に凸部を等角度間隔に形成する一方、板状付勢部材5の穴50に凸部が嵌る凹部(回り止め用の係合部)を等角度間隔に形成した構造や、連結軸部23の外周面に凹部を等角度間隔に形成する一方、板状付勢部材5の穴50に凹部に嵌る凸部(回り止め用の係合部)を等角度間隔に形成した構造を採用してもよい。また、連結軸部23の外周面、および板状付勢部材5の穴50を正六角形や正八角形とした構造を採用してもよい。その際、板状付勢部材5の穴50において、複数の辺を1つ置きに径方向外側に凹ませて隙間を形成した構造を採用してもよい。
【0038】
(ギヤードモータへの搭載例)
図8は、本発明を適用したフリクションドライブ装置1が搭載されるギヤードモータの説明図である。
【0039】
図8に示すギヤードモータ100は、ステータ部102、ロータ部103、減速輪列となる歯車伝達機構104、出力軸105、および端子部106を備えたステッピングモータであり、ステータ部102と歯車伝達機構104とは隣接して配置されている。ステータ部102は、2つのステータの先端部が交互に入り組むことによって円形状に配置される極歯107と、これらの極歯107と並んで配置される極歯108と、極歯107の外周に巻回されるコイル109と、極歯108の外周に巻回されるコイル110と、ステータを兼ねる円筒状ケース111と、ステータを兼ねる上ケース112とから構成されている。なお、コイル109は、コイルボビン109aを介して、極歯107に巻回され、コイル110は、コイルボビン110aを介して極歯108に巻回されている。ロータ部103は、ロータ軸113と、このロータ軸113に回転可能に支持されマグネット114aを有するロータ114とから構成される。
【0040】
歯車伝達機構104は、ロータ軸113に形成されるピニオン114bと、このピニオン114bに噛み合う1番車115と、この1番車115と噛み合う2番車116と、この2番車116と噛み合う3番車117と、この3番車117と噛み合う4番車118と、この4番車118と噛み合うように出力軸105に設けられた歯車105aとからなる。出力軸105は、SUS等の金属より軽いPOM等の樹脂製で、歯車105aが一体成型で形成されており、出力軸105の一端105bは、上ケース112に隣接して配設される中地板119のしぼり加工による円筒部119aに回転可能に支持されている。また、出力軸105の中央は、平板状ケース120のしぼり加工により形成された支持円筒部120aに回転可能に支持されている。出力軸105の他端105cは、エアコンのルーバー駆動機構等に係合している。
【0041】
ここで、外部から出力軸105に強い力が加わった場合、例えばエアコンのルーバーを人が強い力で動作させるような場合、出力軸105の回転は、ロータ114側へ伝えられていく。しかし、ステータ部102とマグネット114aとの間のリラクタンストルクによりロータ114には、その位置を保持しようとする力が働き、ロータ114は余程大きな力でないと回転を開始しない。このため、歯車伝達機構104は、そのいずれかの歯車部分で、歯の折れ等が生じ動作不良となってしまう。
【0042】
そこで、本形態では、例えば、歯車伝達機構104の回転軸と筒状回転部材との間に、本発明を適用したフリクションドライブ装置1を設けてある。例えば、ロータ軸113とピニオン114bとの間、1番車115の回転軸と歯部との間、2番車116の回転軸と歯部との間、3番車117の回転軸と歯部との間、噛み合う4番車118の回転軸と歯部との間、あるいは出力軸105と歯車105aとの間に本発明を適用したフリクションドライブ装置1を設けてある。
【0043】
かかる構成によれば、外部から出力軸105に強い力が加わった場合でも、歯車伝達機構104の歯車部分が損傷する等の不具合を防止することができる。また、出力軸105とエアコンのルーバー駆動機構側の歯車等の筒状回転部材との間に本発明を適用したフリクションドライブ装置1を設けてもよい。