特許第6061598号(P6061598)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061598
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】磁気共鳴装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20170106BHJP
【FI】
   A61B5/05 382
   A61B5/05 311
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-216711(P2012-216711)
(22)【出願日】2012年9月28日
(65)【公開番号】特開2014-68786(P2014-68786A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】300019238
【氏名又は名称】ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(72)【発明者】
【氏名】池崎 吉和
【審査官】 右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−173315(JP,A)
【文献】 特表2005−525205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の所定の領域のデータを取得するための複数のシーケンスを実行するスキャン手段と、前記複数のシーケンスにより得られたデータに基づいて、前記所定の領域の見かけの拡散係数のマップを作成するマップ作成手段とを有する磁気共鳴装置であって、
前記複数のシーケンスのうちの第1のシーケンスは、
第1の方向に印加され、前記所定の領域内を移動するスピンの信号強度を低減するための第1の一対の勾配磁場を備えており、
前記複数のシーケンスのうちの第2のシーケンスは、
前記第1の方向に印加され、前記第1の一対の勾配磁場と同じb値を有する第2の一対の勾配磁場と、第2の方向に印加され、前記所定の領域内のスピンの動きを検出するための第の一対の勾配磁場を備えている、磁気共鳴装置。
【請求項2】
前記複数のシーケンスのうちの第3のシーケンスは、
前記第1の方向に印加され、前記第1の一対の勾配磁場と同じb値を有する第4の一対の勾配磁場と、第3の方向に印加され、前記所定の領域におけるスピンの動きを検出するための第5の一対の勾配磁場とを備えている、請求項1に記載の磁気共鳴装置。
【請求項3】
前記複数のシーケンスのうちの第4のシーケンスは、
前記第1の方向に印加され、前記所定の領域におけるスピンの動きを検出するための第6の一対の勾配磁場であって、前記第1の一対の勾配磁場のb値よりも大きいb値を有する第6の一対の勾配磁場を備えている、請求項1又は2に記載の磁気共鳴装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の所定の領域のデータを取得する磁気共鳴装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、見かけの拡散係数(以下、「ADC」と呼ぶ。ADC:apparent diffusion coefficient)のマップを作成する技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−099455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ADCマップを作成する方法の一つとして、T2強調画像データを収集するためのT2スキャンと、スピンの動きを検出するためのMPG(motion probing gradient)を用いた拡散強調スキャンとを実行する方法がある。この方法では、T2スキャンにより収集されたエコー信号と拡散強調スキャンにより収集されたエコー信号に基づいて、ADCマップを作成している。しかし、この方法では、T2スキャンのエコー信号が高信号の場合、T2強調画像に、高信号に起因したアーチファクトが現れることがある。この場合、ADCマップにもアーチファクトが現れるという問題がある。
したがって、ADCマップに現れるアーチファクトを低減することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の観点は、被検体の所定の領域のデータを取得するための複数のシーケンスを実行するスキャン手段と、前記複数のシーケンスにより得られたデータに基づいて、前記所定の領域の見かけの拡散係数のマップを作成するマップ作成手段とを有する磁気共鳴装置であって、
前記複数のシーケンスのうちの第1のシーケンスは、
前記所定の領域内を移動するスピンの信号強度を低減するための第1の一対の勾配磁場を備えており、
前記複数のシーケンスのうちの第2のシーケンスは、
前記所定の領域内のスピンの動きを検出するための第2の一対の勾配磁場を備えている、磁気共鳴装置である。
【0006】
本発明の第2の観点は、前記スキャン手段が、第1の方向、第2の方向、および第3の方向に勾配磁場を印加することができるように構成されており、
前記第1の一対の勾配磁場は前記第1の方向に印加され、前記第2の一対の勾配磁場は前記第2の方向に印加される、第1の観点に記載の磁気共鳴装置である。
【0007】
本発明の第3の観点は、前記第2のシーケンスが、前記第1の方向に印加される第3の一対の勾配磁場を備えている、第2の観点ぶ記載の磁気共鳴装置である。
【0008】
本発明の第4の観点は、前記第3の一対の勾配磁場は、前記第1の一対の勾配磁場と同じb値を有する、第3の観点に記載の磁気共鳴装置である。
【0009】
本発明の第5の観点は、前記複数のシーケンスのうちの第3のシーケンスが、前記所定の領域におけるスピンの動きを検出するための第4の一対の勾配磁場を備えている、第2〜第4の観点のうちのいずれか一観点に記載の磁気共鳴装置である。
【0010】
本発明の第6の観点は、前記第4の一対の勾配磁場は前記第1の方向に印加される、第5の観点に記載の磁気共鳴装置である。
【0011】
本発明の第7の観点は、前記第4の一対の勾配磁場が、前記第1の一対の勾配磁場のb値よりも大きいb値を有する、第6の観点に記載の磁気共鳴装置である。
【0012】
本発明の第8の観点は、前記複数のシーケンスのうちの第4のシーケンスが、前記所定の領域におけるスピンの動きを検出するための第5の一対の勾配磁場を備えている、第5〜第7のうちのいずれか一観点に記載の磁気共鳴装置である。
【0013】
本発明の第9の観点は、前記第5の一対の勾配磁場は前記第3の方向に印加される、観点8に記載の磁気共鳴装置である。
【0014】
本発明の第10の観点は、前記第4のシーケンスが、前記第1の方向に印加される第6の一対の勾配磁場を備えている、第9の観点に記載の磁気共鳴装置である。
【0015】
本発明の第11の観点は、前記第6の一対の勾配磁場が、前記第1の一対の勾配磁場と同じb値を有する、第10の観点に記載の磁気共鳴装置である。
【0016】
本発明の第12の観点は、前記スキャン手段が、第1の方向、第2の方向、および第3の方向に勾配磁場を印加することができるように構成されており、
前記第1の一対の勾配磁場は前記第1の方向に印加され、前記第2の一対の勾配磁場も前記第1の方向に印加され、
前記第2の一対の勾配磁場は、前記第1の一対の勾配磁場のb値よりも大きいb値を有する、第1の観点に記載の磁気共鳴装置である。
【発明の効果】
【0017】
第1のシーケンスが、所定の領域内を移動するスピンの信号強度を低減するための第1の一対の勾配磁場を備えることにより、見かけの拡散係数のマップに生じるアーチファクトを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の形態の磁気共鳴装置の概略図である。
図2】ADCマップを作成するために一般的に実行される通常のスキャンの一例を示す図である。
図3】本形態のスキャンSC0で実行されるシーケンスB0の一例を示す図である。
図4】本形態のスキャンSC1〜SC3で実行されるシーケンスB1〜B3の一例を示す図である。
図5】シーケンスB0〜B3を実行することによりADCマップを取得するときの説明図である。
図6】y軸方向の位置が変化するスピンの信号強度を低減するときのシーケンスの一例を示す図である。
図7】スピンの信号強度を低減するための一対の勾配磁場を2軸に印加するシーケンスの一例を示す図である。
図8】ファントム溶液のADCマップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、以下の形態に限定されることはない。
【0020】
(1)第1の形態
図1は、本発明の第1の形態の磁気共鳴装置の概略図である。
磁気共鳴装置(以下、「MR装置」と呼ぶ。MR:Magnetic Resonance)100は、マグネット2、テーブル3、受信コイル4などを有している。
【0021】
マグネット2は、被検体11が収容されるボア21と、超伝導コイル22と、勾配コイル23と、RFコイル24とを有している。超伝導コイル22は静磁場を印加し、勾配コイル23は勾配磁場を印加し、RFコイル24はRFパルスを送信する。尚、超伝導コイル22の代わりに、永久磁石を用いてもよい。
【0022】
テーブル3は、被検体11を支持するクレードル3aを有している。クレードル3aは、ボア21内に移動できるように構成されている。クレードル3aによって、被検体11はボア21に搬送される。
【0023】
受信コイル4は、被検体11の頭部に取り付けられている。受信コイル4は、被検体11からの磁気共鳴信号を受信する。
【0024】
MR装置100は、更に、送信器5、勾配磁場電源6、受信器7、制御部8、操作部9、および表示部10などを有している。
【0025】
送信器5はRFコイル24に電流を供給し、勾配磁場電源6は勾配コイル23に電流を供給する。
【0026】
受信器7は、受信コイル4から受け取った信号に対して、検波などの信号処理を実行する。
【0027】
尚、マグネット2、受信コイル4、送信器5、勾配磁場電源6、受信器7を合わせたものが、スキャン手段に相当する。
【0028】
制御部8は、ADCマップ作成手段81などを有している。ADCマップ作成手段81は、後述するスキャンSC0〜SC3(図4参照)により取得されたデータに基づいて、ADCマップを作成する。また、制御部8は、表示部10に必要な情報を伝送したり、受信器7から受け取ったデータに基づいて画像を再構成するなど、MR装置100の各種の動作を実現するように、MR装置100の各部の動作を制御する。
【0029】
操作部9は、オペレータにより操作され、種々の情報を制御部8に入力する。表示部10は種々の情報を表示する。
MR装置100は、上記のように構成されている。
【0030】
本形態では、被検体をスキャンし、スキャンにより収集されたデータに基づいてADCマップを作成する。以下に、ADCマップを作成するために本形態で実行されるスキャンについて説明する。尚、本形態で実行されるスキャンの説明に当たっては、説明の便宜上、ADCマップを作成するために一般的に実行される通常のスキャンを先に説明し、通常のスキャンを説明した後で、本形態で実行されるスキャンについて説明する。
【0031】
図2は、ADCマップを作成するために一般的に実行される通常のスキャンの一例を示す図である。
図2には、スキャンSC0〜SC3が示されている。スキャンSC0では、T2強調画像データを取得するためのEPI(Echo Planar Imaging)シーケンスA0が実行される。スキャンSC1〜SC3では、拡散強調画像データを取得するためのEPI−DWI(Diffusion Weight Imaging)シーケンスA1〜A3が実行される。
【0032】
シーケンスA0には、スピンの動きを検出するための一対の勾配磁場は印加されていないが、シーケンスA1、A2、およびA3には、それぞれ、スピンの動きを検出するための一対の勾配磁場MPGx、MPGy、およびMPGzが印加されている。
【0033】
次に、シーケンスA0〜A3の一対の勾配磁場の振幅について説明する。シーケンスA0の一対の勾配磁場の振幅を「G0」とし、シーケンスA1、A2、およびA3の一対の勾配磁場の振幅をそれぞれ「G1」、「G2」、および「G3」とすると、G0、G1、G2、およびG3は、以下の式で定義することができる。
Gn=(Gx,Gy,Gz) ・・・(1)
ここで、n=0,1,2,3
Gx:x軸方向に印加された一対の勾配磁場の振幅
Gy:y軸方向に印加された一対の勾配磁場の振幅
Gz:z軸方向に印加された一対の勾配磁場の振幅
【0034】
以下に、式(1)を用いて、シーケンスA0、A1、A2、およびA3の一対の勾配磁場の振幅について説明する。
【0035】
(1)シーケンスA0の一対の勾配磁場の振幅G0について
シーケンスA0は、x軸方向、y軸方向、およびz軸方向のどの軸方向にも一対の勾配磁場は印加されていないので、シーケンスA0の一対の勾配磁場の振幅G0は、以下の式で表すことができる。
G0=(Gx,Gy,Gz)
=(0,0,0) ・・・(2)
【0036】
(2)シーケンスA1の一対の勾配磁場G1について
シーケンスA1は、y軸方向およびz軸方向には一対の勾配磁場は印加されていないが、x軸方向に一対の勾配磁場MPGxが印加されている。したがって、シーケンスA1の一対の勾配磁場MPGxの振幅G1は、以下の式で表すことができる。
G1=(Gx,Gy,Gz)
=(Gx,0,0) ・・・(3)
【0037】
ここで、一対の勾配磁場MPGxのb値をb=b0とし、b=b0のときの勾配の振幅を「1」とすると、式(3)は、以下の式で表すことができる。
G1=(Gx,0,0)
=(1,0,0) ・・・(4)
【0038】
(3)シーケンスA2の一対の勾配磁場G2について
シーケンスA2は、x軸方向およびz軸方向には一対の勾配磁場は印加されていないが、y軸方向に一対の勾配磁場MPGyが印加されている。したがって、シーケンスA2の一対の勾配磁場MPGyの振幅G2は、以下の式で表すことができる。
G2=(Gx,Gy,Gz)
=(0,Gy,0) ・・・(5)
【0039】
ここで、一対の勾配磁場MPGyのb値は、シーケンスA1の一対の勾配磁場MPGxと同じb値(b=b0)であるとし、b=b0のときの勾配の振幅を「1」とすると、式(5)は、以下の式で表すことができる。
G2=(0,Gy,0)
=(0,1,0) ・・・(6)
【0040】
(4)シーケンスA3の一対の勾配磁場G3について
シーケンスA3は、x軸方向およびy軸方向には一対の勾配磁場は印加されていないが、z軸方向に一対の勾配磁場MPGzが印加されている。したがって、シーケンスA3の一対の勾配磁場MPGzの振幅G3は、以下の式で表すことができる。
G3=(Gx,Gy,Gz)
=(0,0,Gz) ・・・(7)
【0041】
ここで、一対の勾配磁場MPGzのb値は、シーケンスA1の一対の勾配磁場MPGxと同じb値(b=b0)であるとし、b=b0のときの勾配の振幅を「1」とすると、式(7)は、以下の式で表すことができる。
G3=(0,0,Gz)
=(0,0,1) ・・・(8)
【0042】
尚、式(2)〜(8)では、拡散は等方的(isotropic)であると仮定している。
シーケンスA0を実行することにより、T2強調画像データD0が得られ、シーケンスA1〜A3を実行することにより、拡散強調画像データD1〜D3が得られる。
【0043】
このようにして得られたT2強調画像データD0と拡散強調画像データD1〜D3とを用いて、ADCマップMAが作成される。
【0044】
しかし、図2では、シーケンスA0により収集されたエコー信号が高信号の場合、T2強調画像データD0のアーチファクトpが強調されることがある。このように、T2強調画像データD0のアーチファクトpが強調されてしまうと、ADCマップMAにも目立ったアーチファクトqが現れる。したがって、T2強調画像データD0のアーチファクトpはできるだけ低減することが望ましい。そこで、本形態では、以下のようなスキャンを実行する。
【0045】
図3および図4は、本形態で実行されるスキャンの説明図である。
先ず、図3について説明する。
図3は、本形態のスキャンSC0で実行されるシーケンスB0の一例を示す図である。
シーケンスB0は、シーケンスA0のz軸方向に一対の勾配磁場MPGz0を追加することによって構成されている。一対の勾配磁場MPGz0のb値は、b=Δbである。一対の勾配磁場MPGz0を印加すると、撮影領域内を移動するスピンのうちz軸方向の位置が変化するスピンの信号強度を低減することができる。したがって、シーケンスA0とシーケンスB0とを比較すると、シーケンスB0の方が、シーケンスA0よりも、エコー信号の信号強度を低減することができる。このため、エコー信号が高信号であることにより画像に生じ得るアーチファクトp(図2参照)を低減することができる。
【0046】
尚、本形態では、スキャンSC0において、一対の勾配磁場MPGz0を印加することによって、撮影領域内を移動するスピンのうちz軸方向の位置が変化するスピンの信号強度を低減している。したがって、スキャンSC1〜SC3でも、z軸方向の位置が変化するスピンの信号強度を低減しないと、ADCマップの信頼性が低くなる恐れがある。そこで、本形態では、スキャンSC1〜SC3において、図4に示すようなシーケンスを実行する。
【0047】
図4は、本形態のスキャンSC1〜SC3で実行されるシーケンスB1〜B3の一例を示す図である。
シーケンスB1は、シーケンスA1のz軸方向に一対の勾配磁場MPGz1を追加することによって構成されている。シーケンスB1の一対の勾配磁場MPGz1は、シーケンスB0の一対の勾配磁場MPGz0と同じb値(b=Δb)を有している。
【0048】
シーケンスB2は、シーケンスA2のz軸方向に一対の勾配磁場MPGz2を追加することによって構成されている。シーケンスB2の一対の勾配磁場MPGz2は、シーケンスB0の一対の勾配磁場MPGz0と同じb値(b=Δb)を有している。
【0049】
シーケンスB3は、シーケンスA3のz軸方向に印加されている一対の勾配磁場MPGの代わりに、一対の勾配磁場MPGz3を印加することによって構成されている。シーケンスB3の一対の勾配磁場MPGz3のb値は、以下の式(x)を満たすように設定されている。
b=b0+Δb ・・・(x)
ここで、b0:シーケンスA3の一対の勾配磁場MPGのb値
Δb:シーケンスB0の一対の勾配磁場MPGz0のb値
【0050】
次に、シーケンスB0〜B3の一対の勾配磁場の振幅について説明する。シーケンスB0の一対の勾配磁場の振幅を「G0」とし、シーケンスB1、B2、およびB3の一対の勾配磁場の振幅をそれぞれ「G1」、「G2」、および「G3」とすると、G0、G1、G2、およびG3は、先に示した式(1)で定義することができる。以下に、式(1)を用いて、シーケンスB0、B1、B2、およびB3の一対の勾配磁場の振幅について説明する。尚、拡散は等方的(isotropic)であると仮定する。
【0051】
(1)シーケンスB0の一対の勾配磁場の振幅G0について
シーケンスB0は、x軸方向およびy軸方向には一対の勾配磁場は印加されていないが、z軸方向に一対の勾配磁場MPGz0が印加されている。したがって、シーケンスB0の一対の勾配磁場の振幅G0は、以下の式で表すことができる。
G0=(Gx,Gy,Gz)
=(0,0,Gz) ・・・(9)
【0052】
ここで、b=b0のときの勾配の振幅を「1」とすると、式(9)は、一対の勾配磁場MPGz0のb値(b=Δb)を用いて、以下の式で表すことができる。
G1=(0,0,Gz)
=(0,0,(Δb/b0)0.5) ・・・(10)
【0053】
(2)シーケンスB1の一対の勾配磁場の振幅G1について
シーケンスB1は、y軸方向には一対の勾配磁場は印加されていないが、x軸方向に一対の勾配磁場MPGが印加されており、z軸方向に一対の勾配磁場MPGz1が印加されている。したがって、シーケンスB1の一対の勾配磁場の振幅G1は、以下の式で表すことができる。
G1=(Gx,Gy,Gz)
=(Gx,0,Gz) ・・・(11)
【0054】
ここで、b=b0のときの勾配の振幅を「1」とすると、式(11)は、一対の勾配磁場MPGz1のb値(b=Δb)を用いて、以下の式で表すことができる。
G1=(Gx,0,Gz)
=(1,0,(Δb/b0)0.5) ・・・(12)
【0055】
(3)シーケンスB2の一対の勾配磁場の振幅G2について
シーケンスB2は、x軸方向には一対の勾配磁場は印加されていないが、y軸方向に一対の勾配磁場MPGが印加されており、z軸方向に一対の勾配磁場MPGz2が印加されている。したがって、シーケンスB2の一対の勾配磁場の振幅G2は、以下の式で表すことができる。
G2=(Gx,Gy,Gz)
=(0,Gy,Gz) ・・・(13)
【0056】
ここで、b=b0のときの勾配の振幅を「1」とすると、式(13)は、一対の勾配磁場MPGz2のb値(b=Δb)を用いて、以下の式で表すことができる。
G2=(0,Gy,Gz)
=(0,1,(Δb/b0)0.5) ・・・(14)
【0057】
(4)シーケンスB3の一対の勾配磁場の振幅G3について
シーケンスB3は、x軸方向およびy軸方向には一対の勾配磁場は印加されていないが、z軸方向に一対の勾配磁場MPGz3が印加されている。したがって、シーケンスB3の一対の勾配磁場の振幅G3は、以下の式で表すことができる。
G3=(Gx,Gy,Gz)
=(0,0,Gz) ・・・(15)
【0058】
ここで、b=b0のときの勾配の振幅を「1」とすると、式(15)は、一対の勾配磁場MPGz3のb値(b=b0+Δb)を用いて、以下の式で表すことができる。
G3=(0,0,Gz)
=(0,0,{(b0+Δb)/b0}0.5) ・・・(16)
【0059】
シーケンスB0、B1、B2、およびB3の一対の勾配磁場の振幅は、上記のように説明することができる。
【0060】
図5は、シーケンスB0〜B3を実行することによりADCマップを取得するときの説明図である。
シーケンスB0を実行することにより画像データD10が得られ、シーケンスB1〜B3を実行することにより画像データD11〜D13が得られる。ADCマップ作成手段81(図1参照)は、画像データD10と、画像データD11〜D13とに基づいて、ADCマップMAを作成する。
【0061】
シーケンスB0は、一対の勾配磁場MPGz0によって、撮影領域内を移動するスピンのうちz軸方向の位置が変化するスピンの信号強度を低減することができる。したがって、エコー信号が高信号であることにより画像データD10に生じ得るアーチファクトを低減することができる。
【0062】
また、シーケンスB1およびB2は、それぞれ一対の勾配磁場MPGz1およびMPGz2を有しているので、シーケンスB0と同様に、z軸方向の位置が変化するスピンの信号強度を低減することができる。また、シーケンスB3では、一対の勾配磁場MPGz3のb値は、シーケンスB0の一対の勾配磁場MPGz0のb値(b=Δb)を考慮して、b=b0+Δbに設定されている。したがって、シーケンスB3でも、シーケンスB0と同様に、z軸方向の位置が変化するスピンの信号強度を低減することができる。このように、シーケンスB1〜B3は、シーケンスB0と同様に、撮影領域内を移動するスピンのうちz軸方向の位置が変化するスピンの信号強度を低減することができるので、ADCマップの信頼性を高めることができる。
【0063】
また、本形態では、通常のスキャンと同様に、4回のスキャンでADCマップを作成することができる。したがって、スキャンの回数を増やさずに、高品質のADCマップを作成することができる。
【0064】
次に、通常のシーケンスA0〜A3により得られるADCマップの等方性の評価と、本形態のシーケンスB0〜B3により得られるADCマップの等方性の評価を行った。以下に、これらの等方性の評価結果について説明する。
【0065】
(1)通常のシーケンスA0〜A3により得られるADCマップの等方性の評価結果について
先ず、拡散テンソルDを以下のような3×3の行列で定義する。
【数1】

通常のシーケンスA0〜A3により収集されるエコー信号の信号強度と、拡散テンソルDとの間には、以下の関係が成り立つ。
【数2】

ここで、St2:シーケンスA0により収集されるエコー信号の信号強度
bx:シーケンスA1により収集されるエコー信号の信号強度
by:シーケンスA2により収集されるエコー信号の信号強度
bz:シーケンスA3により収集されるエコー信号の信号強度
:シーケンスA1〜A3で使用されている一対の勾配磁場のb値
【0066】
式(18)の右辺には、拡散テンソルDの対角線上の項Dxx、Dyy、およびDzzのみが含まれている。したがって、通常のシーケンスA0〜A3により得られるADCマップは等方性であることが分かる。
【0067】
(2)本形態のシーケンスB0〜B3により得られるADCマップの等方性の評価結果について
本形態のシーケンスB0〜B3により収集されるエコー信号の信号強度と、拡散テンソルDとの間には、以下の関係が成り立つ。
【数3】

ここで、St2′:シーケンスB0により収集されるエコー信号の信号強度
bx:シーケンスB1により収集されるエコー信号の信号強度
by:シーケンスB2により収集されるエコー信号の信号強度
bz:シーケンスB3により収集されるエコー信号の信号強度
,Δb:シーケンスB1〜B3で使用されている一対の勾配磁場のb値
【0068】
式(19)の右辺には、クロス項DzxおよびDyzが含まれているので、厳密には等方性ではない。しかし、Δb≪b0の場合は、クロス項DzxおよびDyzを無視することができるので、近似的には等方性と見なすことができる。
【0069】
本形態では、シーケンスB1およびB2の一対の勾配磁場MPGz1およびMPGz2は、シーケンスB0の一対の勾配磁場MPGz0と同じb値(b=Δb)を有している。しかし、ADCマップのアーチファクトを低減することができるのであれば、一対の勾配磁場MPGz0、MPGz1、およびMPGz2のb値は、異なっていてもよい。
【0070】
本形態では、シーケンスB3の一対の勾配磁場MPGz3は、b=b0+Δbに設定されている。しかし、ADCマップのアーチファクトを低減することができるのであれば、一対の勾配磁場MPGz3を、b=b0+Δbとは異なるb値に設定してもよい。
【0071】
本形態では、スキャンSC0〜SC3を実行し、ADCマップを作成している。しかし、スキャンSC0とスキャンSC1のみを実行し、ADCマップを作成してもよいし、スキャンSC0とスキャンSC2のみを実行し、ADCマップを作成してもよい。また、スキャンSC0とスキャンSC3のみを実行し、ADCマップを作成してもよい。
【0072】
尚、本形態では、撮影領域内を移動するスピンのうちz軸方向の位置が変化するスピンの信号強度を低減している。しかし、撮影領域内を移動するスピンのうちx軸方向又はy軸方向の位置が変化するスピンの信号強度を低減してもよい(図6参照)。
【0073】
図6は、y軸方向の位置が変化するスピンの信号強度を低減するときのシーケンスの一例を示す図である。
【0074】
図6では、シーケンスB0〜B3には、以下のような一対の勾配磁場が印加されている。
【0075】
(1)シーケンスB0
x軸方向:なし
y軸方向:一対の勾配磁場MPGy0(b=Δb)
z軸方向:なし
【0076】
(2)シーケンスB1
x軸方向:一対の勾配磁場MPG(b=b0)
y軸方向:一対の勾配磁場MPGy1(b=Δb)
z軸方向:なし
【0077】
(3)シーケンスB2
x軸方向:なし
y軸方向:一対の勾配磁場MPGy2(b=b0+Δb)
z軸方向:なし
【0078】
(4)シーケンスB3
x軸方向:なし
y軸方向:一対の勾配磁場MPGy3(b=Δb)
z軸方向:一対の勾配磁場MPG(b=b0)
【0079】
図6に示すシーケンスでは、y軸方向に一対の勾配磁場を印加している。したがって、撮影領域内を移動するスピンのうちy軸方向の位置が変化するスピンの信号強度を低減することができるので、ADCマップのアーチファクトを低減することができる。尚、図示しないが、x軸方向に一対の勾配磁場が印加されるシーケンスを用いて、ADCマップのアーチファクトを低減してもよい。
【0080】
また、上記の例では、スピンの信号強度を低減するための一対の勾配磁場は、3軸方向(x軸方向、y軸方向、z軸方向)のうちのいずれか一軸の方向にのみ印加されている。しかし、スピンの信号強度を低減するための一対の勾配磁場を、2軸の方向又は3軸の方向に印加してもよい(図7参照)。
【0081】
図7は、スピンの信号強度を低減するための一対の勾配磁場を2軸に印加するシーケンスの一例を示す図である。
【0082】
図7では、シーケンスB0〜B3には、以下のような一対の勾配磁場が印加されている。
【0083】
(1)シーケンスB0
x軸方向:なし
y軸方向:一対の勾配磁場MPGy0(b=Δb
z軸方向:一対の勾配磁場MPGz0(b=Δb
【0084】
(2)シーケンスB1
x軸方向:一対の勾配磁場MPG(b=b0)
y軸方向:一対の勾配磁場MPGy1(b=Δb
z軸方向:一対の勾配磁場MPGz1(b=Δb
【0085】
(3)シーケンスB2
x軸方向:なし
y軸方向:一対の勾配磁場MPGy2(b=b0+Δb
z軸方向:一対の勾配磁場MPGz2(b=Δb
【0086】
(4)シーケンスB3
x軸方向:なし
y軸方向:一対の勾配磁場MPGy3(b=Δb
z軸方向:一対の勾配磁場MPGz3(b=b0+Δb
【0087】
図7に示すシーケンスでは、y軸方向の位置が変化するスピンの信号強度だけでなく、z軸方向の位置が変化するスピンの信号強度も低減することができるので、ADCマップのアーチファクトを更に低減することが可能となる。
【0088】
また、本形態のシーケンスを実行することによりADCマップのアーチファクトが軽減できることを検証するために、等方的な拡散を示すファントム溶液をスキャンし、ファントム溶液のADCマップを作成した。図8に、ファントム溶液のADCマップを示す。
【0089】
図8(a)は、通常のシーケンスにより得られたADCマップを示す図であり、図8(b)は本形態のシーケンスにより得られたADCマップを示す図である。
図8(a)のADCマップでは、矢印の位置にアーチファクトが見られる。一方、図8(b)のADCマップではアーチファクトが軽減していることが分かる。
【符号の説明】
【0090】
2 マグネット
3 テーブル
3a クレードル
4 受信コイル
5 送信器
6 勾配磁場電源
7 受信器
8 制御部
9 操作部
10 表示部
11 被検体
21 ボア
22 超伝導コイル
23 勾配コイル
24 RFコイル
81 ADCマップ作成手段
100 MR装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8