(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061622
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】ハトムギエキス含有液状組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20170106BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20170106BHJP
A61K 8/97 20170101ALI20170106BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20170106BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20170106BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20170106BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
A23L33/10
A61K8/02
A61K8/97
A61K9/08
A61K47/38
A61K47/36
A61P3/02
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-241293(P2012-241293)
(22)【出願日】2012年10月31日
(65)【公開番号】特開2014-90675(P2014-90675A)
(43)【公開日】2014年5月19日
【審査請求日】2015年10月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】草刈 剛
(72)【発明者】
【氏名】繁田 泰民
(72)【発明者】
【氏名】森本 友規
【審査官】
松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−043069(JP,A)
【文献】
特開平09−121787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FROSTI/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハトムギエキス、
醗酵セルロース、及び
0.05〜0.5質量%のキサンタンガム
を含有する液状組成物
【請求項2】
pHが5未満である、請求項1に記載の液状組成物。
【請求項3】
10mLを、10mLガラス遠沈管にいれ、2610×g、25℃で10分間遠心しても沈殿を生じない、請求項1又は2に記載の液状組成物。
【請求項4】
医薬組成物、化粧品組成物、食品添加剤組成物又は食品組成物である、請求項1〜3のいずれかに記載の液状組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハトムギエキスを含有する液状組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ハトムギは、通常、脱穀した子実を食用とするが、脱穀時に得られるハトムギの殻、薄皮、渋皮等についても有効利用の検討がなされており、例えば、特許文献1には、ハトムギの殻、薄皮、渋皮等を酵素処理等して得られるエキスが腫瘍等の治療に有効であることが記載されている。また、特許文献1に記載のハトムギエキスの一態様は、ハトムギCRDエキスとして株式会社アグリリンクテクノロジーから市販されている。
【0003】
しかし、当該ハトムギエキスは、特に食品として用いるため液体中に含ませると経時的に不溶性固形分が沈殿してしまうことから、液状の食品(特に飲料)として商品化することは安定性の点から困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3590042号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】FFI JOURNAL, Vol.212, No.9, 2007,786-791
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ハトムギエキスを安定に含有する液状組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ハトムギエキス、醗酵セルロース、及び特定量のキサンタンガムを含有する液状組成物が、ハトムギエキスを安定に含有し得ることを見出し、さらに改良を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
ハトムギエキス、醗酵セルロース、及び0.05〜0.5質量%のキサンタンガムを含有する液状組成物。
項2.
pHが5未満である、項1に記載の液状組成物。
項3.
10mLを、10mLガラス遠沈管にいれ、2610×g、25℃で10分間遠心しても沈殿を生じない、項1又は2に記載の液状組成物。
項4.
医薬組成物、化粧品組成物、食品添加剤組成物又は食品組成物である、項1〜3のいずれかに記載の液状組成物。
【発明の効果】
【0009】
本願発明の液状組成物は、ハトムギエキスを安定に含有することができる。すなわち、長時間静置や遠心処理を行ったとしても沈殿を生じにくい。このため、特に液状の食品として市場に出てからも沈殿を生じることなく、安定に流通させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の液状組成物の沈殿抑制効果の検討結果の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0012】
本発明に用いるハトムギエキスは、特許文献1(特許第3590042号公報)に記載されるハトムギエキスであり、より詳細には、少なくともハトムギの殻・薄皮・渋皮の酵素処理物を遠心濾過し、得られた上清画分を濃縮し(目的に応じて更に乾燥して)得られるハトムギエキスである。よって、当該ハトムギエキスはハトムギ酵素処理エキスといえる。当該酵素処理に用いる酵素は、該特許文献1に記載の通りであり、ジアスターゼ、タカジアスターゼ、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ等、ペクチナーゼ、β−ダルコシダーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、キシラナーゼ等の各種の酵素が挙げられる。つまり、当該酵素処理に用いる酵素は、多糖類(例えばデンプン、セルロース、ペクチンなど)を構成する各糖分子間のα−1,4結合又はα−1,6結合を切断する酵素である。酵素処理時には、例えば水などの適当な溶媒を用いることができる。
【0013】
なお、本発明に用いるハトムギエキスは、ハトムギの殻、薄皮及び渋皮から選択される少なくとも1種から得られるハトムギ酵素処理エキスが含まれていればよい。よって、その他のハトムギエキスが含まれていてもよく、例えば、ハトムギの殻・薄皮・渋皮以外の部分(例えば子実、茎など)を同様に処理して得られるハトムギ酵素処理エキスが更に含まれていても、あるいはハトムギの熱水抽出エキスが含まれていてもよい。好ましくは、本発明のハトムギエキスは、ハトムギの殻、薄皮及び渋皮から選択される少なくとも1種から得られるハトムギ酵素処理エキスを主に含むものである。
【0014】
上述した本発明に用いるハトムギエキスとしては、市販品を用いることもでき、例えばハトムギCRDエキス(株式会社アグリリンクテクノロジー製)を特に好適に用いることができる。
【0015】
本発明に用いる醗酵セルロースは、酢酸菌(アセトバクター・キシリナム;Acetobacter xylinum)がグルコースなどの糖類を醗酵して産生するセルロースである。なお、当該セルロースは、植物性由来のセルロースと比較して非常に細いことが知られている。
【0016】
このような醗酵セルロースは公知であり、容易に入手又は製造することができる。また、市販品を購入して用いることもできる。市販品としては、例えばサンアーティスト(登録商標)PX又はPG(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)を用いることができる。
【0017】
本発明の液状組成物には、キサンタンガムが0.05〜0.5質量%含まれる。キサンタンガムの含有割合は、当該範囲であればよく、例えば0.06質量%以上、0.07質量%以上、0.08質量%以上、0.09%以上、0.1%以上でありえる。また、例えば、0.4質量%以下、0.3質量%以下、0.2質量%以下でありえる。より好ましくは0.05〜0.3質量%、さらに好ましくは0.05〜0.2質量%である。
【0018】
特に食品分野においては、製品にとろみを付与したり、不溶性成分を安定に溶液中に分散させる等のため、増粘多糖類を用いることがあるが、ハトムギエキスの沈殿を強力に抑制するためには、キサンタンガムという特定の成分を特定量、醗酵セルロースと組み合わせて用いることが重要であることを見出した点に本願発明の最大の特徴の一つがある。
【0019】
本発明の液状組成物は、長時間安定で極めて沈殿を生じにくい。具体的には、10mLを、10mLガラス遠沈管にいれ、2610×g、25℃で10分間遠心しても沈殿を生じない。
【0020】
また、本発明の液状組成物は、長時間高温(例えば40〜60℃程度)で保存しても、沈殿が極めて生じにくい。
【0021】
このため、例えば飲料などの製品として市場に流通させる場合に有利である。なお、本発明の液状組成物は、好ましくは、長時間高温で保存した後であっても、上記の通り遠心しても沈殿を生じない。
【0022】
またさらに、本発明に用いるハトムギエキスは酸性溶液中では特に沈殿しやすいところ、本願発明の液状組成物はpHが酸性(25℃においてpHメーターで測定したpH値が5未満、好ましくは2.5以上5未満、より好ましくは3以上5未満)であっても沈殿生成が抑制される。特に、本発明の液状組成物を飲料として用いる場合、保存剤や香味剤等として酸性物質(例えばクエン酸やアスコルビン酸など)を含ませる場合が多く、よってpHが酸性となる場合が多いが、このような場合でも沈殿が抑制されるので有利である。
【0023】
本発明の液状組成物は、ハトムギエキス、醗酵セルロース、及び特定量のキサンタンガム(並びに、必要に応じてその他の成分)を溶媒に均一に分散させて調製することができる。溶媒としては、水が好ましい。また、均一に分散させるためには、ホモジナイザー(例えばホモミキサーなど)を用いることが好ましい。
【0024】
また、本発明の液状組成物は、本発明の効果を損なわない限り、他の成分を含ませてもよい。他の成分としては、例えば、通常医薬、化粧品、食品添加剤又は食品に用いられる基剤、担体、添加物等が挙げられる。上述のように、酸性物質を含ませてもよい。
【0025】
本発明の液状組成物は、例えば医薬組成物、化粧品組成物、食品添加剤組成物又は食品組成物として好適に用いることができる。特に限定されるわけではないが、特許文献1に記載のように、ハトムギエキスは腫瘍等の治療に有効であることが知られており、この目的のために用いることもできる。
【0026】
本発明の液状組成物を医薬組成物として用いる場合、他の成分としては、薬学的に許容される基剤、担体、及び/又は添加剤(例えば溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等)等が例示できる。投与形態は経皮投与又は経口投与が好ましく、経口投与がより好ましい。当該医薬組成物は常法により調製することができる。
【0027】
本発明の液状組成物を化粧品組成物として用いる場合、他の成分としては、化粧品に添加することが許容される基剤、担体、及び/又は添加剤(例えば溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等)等が例示できる。また、当該液状組成物の形態も特に制限されず、例えばローション、化粧水、乳液、クリーム、パック剤、美容液、洗顔料、メーキャップ剤、ヘアケア用品、ボディーソープ、入浴剤等が例示できる。これらは常法により調製することができる。
【0028】
本発明の液状組成物を食品添加剤組成物として用いる場合、他の成分としては、食品衛生学上許容される基剤、担体、添加剤や、その他食品添加剤として利用され得る成分・材料が例示できる。また、当該液状組成物の形態も特に制限されず、具体的には調味料、例えば醤油、ソース、ケチャップ、ドレッシング等が例示できる。これらは常法により調製することができる。
【0029】
本発明の液状組成物を食品組成物として用いる場合、他の成分としては、食品衛生学上許容される基剤、担体、添加剤や、その他食品として利用され得る成分・材料が例示できる。例えば、フレーバーや、保存剤、香味剤、甘味剤等が挙げられ、より具体的には、例えばクエン酸やアスコルビン酸、エリスリトール、キシリトール、ブドウ糖、ショ糖などが挙げられる。また、当該液状組成物の形態も特に制限されず、例えば飲料として用いることができ、より具体的には例えば加工食品、健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等)、サプリメント、病者用食品(病院食、病人食又は介護食等)等として用いることができる。これらは常法により調製することができる。特に、健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等)、又はサプリメントとして調製する場合は、継続的な摂取が行いやすいように、例えばドリンク剤等の形態で調製することが好ましいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0030】
なお、いずれの場合も、各他の成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0032】
表1に記載の組成に従い、ビーカーに醗酵セルロース製剤(サンアーティストPG又はPX)、各種増粘多糖類(キサンタンガム、グアーガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na))、クエン酸、エリスリトール、及び水を投入し、ホモミキサーにより混合して均一に分散させた。そして、さらにハトムギCRDエキス及びフレーバーを投入し、再びホモミキサーにより混合して均一に分散させ、液状組成物(実施例1〜4、比較例1〜11)を調製した。いずれの液状組成物も、25℃においてpHメーターで測定したpH値は3.5程度であった。
【0033】
なお、表1の配合量値の単位はg(グラム)である。また、サンアーティストPGには、醗酵セルロースが20質量%、グアーガムが6.7質量%、CMC−Naが6.7質量%含まれる。また、サンアーティストPXには、醗酵セルロースが20質量%、キサンタンガムが10質量%、CMC−Naが3.3質量%含まれる。また、キサンタンガムとしてはエコーガムT(DSP五協フード&ケミカル株式会社製)を、グアーガムとしてはビストップD−2029(三栄源エフ・エフ・アイ社製)を用いた。また、用いたCMCの商品名及びその粘度は次の通りである。セロゲンF−880Bは第一工業製薬製、CMCダイセルはダイセルファインケム株式会社製である。
【0034】
商品名(CMC−Na) 粘度(mPa・s)
セロゲンF−880B 7700 (2%水溶液の粘度)
CMCダイセル1350 1624 (2%水溶液の粘度)
CMCダイセル1220 16 (1%水溶液の粘度)
このようにして得た液状組成物を、約95℃に加熱した後ガラス瓶に充填し、密栓し、室温まで冷却した後に、さらに約75℃まで加熱して20分維持した後、室温となるまで静置した(殺菌処理)。これを、沈殿抑制効果(すなわち安定性)の検討に用いた。
【0035】
沈殿抑制効果は、次のようにして測定、評価した。すなわち、(i)液状組成物を調製した直後、及び上記殺菌処理直後の外観を目視で評価した。(ii)また、上記殺菌処理後、55℃恒温室で1週間静置保管して、各液状組成物における沈澱の発生及び沈澱量の程度を目視評価し、(iii)さらにその後、液状組成物(沈殿が生じているものについては上澄)をガラス遠沈管(容量10mL)に約10mL採取し、2610×g、25℃で10分間遠心処理した際の沈澱の厚みを測定し、評価した。
【0036】
以上の検討結果を、表1に併せて示す。また、上記(ii)及び(iii)の検討結果の写真を
図1に示す。
【0037】
【表1】