(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、水晶デバイスには水晶片に金属膜を設けて構成された水晶振動素子が用いられている。
この水晶片は、ATカットの水晶ウェハをエッチングすることで形成することができる。
ATカットの水晶ウェハは、人工水晶を切断して設けられる板材であって、水晶の結晶軸であるX軸、Y軸、Z軸のうち、Y軸側を向く面をX軸まわりにθ°回転させて新たに設定されるX軸、Y´軸、Z´軸、のうちY軸を向いていた面がY´軸を向いた状態で切断されて得られる。
切断された水晶ウェハは、表面が研磨されて所定の厚さTで仕上げられている。
このような水晶ウェハは、両主面にマスクが設けられ、水晶片とする位置と外周枠の部分と水晶片同士又は外周枠を繋ぐ接続部以外が開口した状態となっている。
なお、水晶ウェハの一方の主面側の開口の位置と他方の主面側の開口の位置とは、Z´方向に距離L=T/tanθmだけずらして配置されている(例えば、特許文献1参照)。
この状態で、水晶ウェハをウェットエッチングすると、角度θm°で水晶ウェハの厚み方向に貫通した貫通部が形成される。この状態で、水晶ウェハから複数の水晶片となるように個片化する。
これにより、水晶ウェハから複数の水晶片を製造することができる(例えば、特許文献1参照)。
このような水晶振動素子は、水晶片の側面が2つの結晶面が形成される場合や、1種類の結晶面が形成される場合がある。中でも、水晶片の側面に1種類の結晶面が形成される場合では、水晶片の平面部分に対して直角又はほぼ直角となる場合がある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための最良の形態(以下、「実施形態」という。)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各構成要素について、状態をわかりやすくするために、誇張して図示している。
【0011】
図1及び
図2に示すように、本発明の実施形態に係る水晶振動素子10は、水晶片1とこの水晶片1に設けられる励振電極2とから主に構成される。
水晶片1は、例えば、ATカットの水晶ウェハから形成され、また、四角形の平板状に形成されており、一方の主面と他方の主面とに凸部1Aが設けられ、両主面F1の縁部分に凹部1Bと斜面1Cとが設けられている。なお、主面とは、凸部1Aを除いた平面積が他の面F1より大きい面とこの面と平行な面とする。水晶片1の長辺側の側面には、結晶面であるm面F3とR面と直交する面F2を有している。
【0012】
一方の主面F1に設けられる凸部1Aと他方の主面F1に設けられる凸部1Aとは、楕円形状となっている。
一方の主面F1に設けられる凸部1Aは、他方の主面F1の凸部1Aより大きな楕円形状となっている。
これら凸部1Aの平面中心は、水晶片1を平面視で見たときの投影面積の平面中心に一致させて設けられており、楕円形状の長径を水晶片1の長辺と平行にさせ、楕円形状の短径を水晶片1の短辺と平行にさせて設けられている。
【0013】
ここで、一方の主面に設けられる凸部1Aの平面から他方の主面の凸部1Aの平面までの厚さをT0、凸部1Aから離れた水晶片の一方の主面F1から他方の主面F1までの厚さ(以下、「水晶片の厚み」という)をT1としたとき、2つの凸部1Aの深さdをd=T0−T1とする。
このとき、2つの凸部1Aの深さと水晶片1の厚みとの比率aは、a=d/T0=(T0−T1)/T0であらわされ、これら2つの凸部1Aの深さと凸部1Aでの水晶片1の厚みとの比率aが、0.008<a<0.058となるように凸部1Aが設けられている。
【0014】
ここで、2つの凸部1Aの深さと凸部1Aでの水晶片1の厚みとの比率aが0.008以下となる場合は、振動エネルギーを十分に閉じ込めることができなくなりCI値が高くなる恐れがある。
また、2つの凸部1Aの深さと凸部1Aでの水晶片の厚みとの比率aが0.058以上となる場合は、他の振動モードと結合しやすくなり、CI値が低くならない場合がある。
【0015】
また、水晶片の両主面F1の縁部分には、凹部1Bと斜面1Cとが設けられている。
ここで、凹部1Bは、水晶片1の主面F1において平行する2つの短辺に沿って形成されつつ、平行する2つの長辺のうち、m面F3に接する長辺に沿って設けられる。
この凹部1Bは、水晶片1の一方の主面F1を基準としたとき、この基準とした主面よりも水晶片の厚み方向側に平面部分を形成して構成される。
また、斜面1Cは、前記主面F1において平行する2つの長辺のうちR面と直交する面F2と接する長辺に沿って設けられている。
また、凹部1Bと斜面1Cとは、前記凸部1A及び後述する励振電極2から離れており、水晶片1の主面の面積よりも小さく形成されている。
なお、凹部1Bと斜面1Cとは、水晶片の一方の主面F1側のみに設けても良い。
【0016】
励振電極2は、
図1及び
図2に示すように、前記凸部1Aを覆いつつ、水晶片1の一方の主面F1と他方の主面F1とに対向させて設けられる。この励振電極2は、平面中心が凸部1Aの平面中心と一致するように設けられている。つまり、励振電極2は、水晶片1を平面視で見たときの投影面積の平面中心に一致させて設けられている。
それぞれの励振電極2は、水晶片1の一方の短辺側に設けられた2つ一対の引き回しパターンとそれぞれ接続している。
また、励振電極2は、楕円の短径側の曲線部分を切断した形状となっている。つまり、励振電極2は、楕円形状を基にして、長径側の曲線を残しつつ、短径側の曲線を除いて輪郭が長径と平行となる直線状に形成され、長径に対して線対称となる形状となっている。
【0017】
このように、本発明の実施形態に係る水晶振動素子10を構成したので、水晶片1の平面部分の縁部分に凹部1Bと斜面1Cとを設けたので、励振電極2から伝わる振動エネルギーが、凸部1Aで閉じ込められつつ、さらにこの凹部1Bと斜面1Cとで閉じ込められ、水晶片1の側面でさらに閉じ込められる構造となるので、従来よりもCI値を低くすることができる。
【0018】
このような本発明の水晶振動素子は、例えば、従来周知のフォトリソグラフィ技術とエッチング技術とを用いて製造することができる。
図示しないが、例えば、まず、水晶ウェハに耐食膜を設け、その後、フォトレジストを設ける。ここでは、水晶ウェハをATカットの水晶ウェハとして説明する。
【0019】
次にフォトレジストが設けられた水晶ウェハに水晶片の形状となるようにパターンが形成されたマスクを重ね、露光を行ってフォトレジストを感光させる。マスクを外して感光したフォトレジストを現像して耐食膜を露出させる。この状態で耐食膜に対するウェットエッチングを行い、その後、水晶に対してウェットエッチングを行い水晶片の外形形状を形成する。ある程度、水晶のエッチングが進行したところで凸部となる部分のフォトレジストを残して再度、ウェットエッチングを行い、凸部を形成しながら水晶片の外形形状を形成する。水晶片の外形形状が形成された後に、水晶ウェハの主面にフォトレジストを設け、ウェットエッチングを行う。これにより、水晶片の外形形状の輪郭部分からフォトレジストの表面に沿ってサイドエッチングが生じて凹部1Bと斜面1Cとが形成される。
【0020】
その後、フォトレジストを剥がして再度フォトレジストを設け、励振電極のパターンが設けられたマスクを重ねて露光してフォトレジストを感光させる。感光したフォトレジストを現像し、耐食膜を露出させた後に、励振電極となる金属膜を設ける。その後、フォトレジストを剥がすことで、水晶ウェハに複数の水晶振動素子が形成される。この水晶ウェハから各水晶振動素子に個片化することで、単体の水晶振動素子が設けられる。
【実施例】
【0021】
次に、本発明の実施形態に係る水晶振動素子の実施例について説明する。
図3に示すように、CI値が100Ωより低くなる凸部1Aの範囲は、2つの凸部1Aの深さと凸部1Aでの水晶片の厚みとの比率aが、0.008<a<0.058となるときであることが確認できる。
図3中の2次曲線は、y=8.9933x2−59.247x+141 (1)となっている。
ここで、yはCI値を示し、xは2つの凸部1Aの深さと凸部1Aでの水晶片の厚みとの比率aを示す。
この(1)式よりCI値が求められる。
【0022】
ここで、この計算式が正しいかを確認する。実施例1は、水晶片に凹部1Bと斜面1Cとを設けた状態で前記水晶振動素子10の構成と同一となっており凸部深さ比率aが0.050となっている。また、比較例1は、凸部がなく凹部1Bと斜面1Cとを有する水晶振動素子の構成となっている。
【0023】
図4に示すように、CI値と凸部深さ比率aとの関係を確認すると、凸部が形成されていない場合(比較例1)は、CI値が100Ωを超えた値となったが、実施例1の場合、CI値が100Ωを下回る値となった。
また、
図5に示すように、周波数(MHz)と水晶片のW寸法(
図1参照)との関係を確認すると、実施例1は、水晶片のW寸法が588μm〜603μmの範囲で、ほぼ横並びの周波数分布となり、安定した周波数が得られることが確認できた。
また、
図6に示すように、CI値と水晶片のW寸法(
図1参照)との関係を確認すると、実施例1は、大多数のサンプルにおいて、W寸法が580μm〜620μmの範囲でCI値が100Ωより低くなることが確認された。
【0024】
次に、比較例2は、凹部と斜面とが主面になく凸部がない水晶振動素子の構成となっている。比較例3は、凹部と斜面とが主面になく凸部深さ比率aが0.050となる水晶振動素子の構成となっている。比較例4は、凹部と斜面とが主面になく凸部深さ比率aが0.075となる水晶振動素子の構成となっている。
【0025】
これら比較例2〜比較例4に対して、CI値と凸部深さ比率aとの関係を確認すると、
図7に示すように、比較例2と比較例4は、CI値が100Ωを超えた値となった。また、比較例3は、CI値が100Ωを下回る値となった。
【0026】
ここで、比較例3について、
図8に示すように、周波数(MHz)と水晶片のW寸法(
図1参照)との関係を確認すると、水晶片のW寸法が597μm〜607μmの範囲で、ほぼ横並びの周波数分布となり、安定した周波数が得られることが確認できた。しかし、実施例1と比較すると、周波数が安定している水晶片のW寸法の範囲が実施例1より狭くなっているのが確認できる。
また、
図9に示すように、CI値と水晶片のW寸法(
図1参照)との関係を確認すると、実施例1は、大多数のサンプルにおいて、W寸法が599μm〜607μmの範囲でCI値が100Ωより低くなることが確認された。しかし、実施例1と比較すると、CIが100Ωより低くなる水晶片のW寸法の範囲が実施例1より狭くなっているのが確認できる。
【0027】
つまり、実施例1の構成では、水晶片のW寸歩のとりうる範囲が588μm〜603μmの範囲となり比較例3よりも広くなっていることから、使用可能な水晶片の大きさを種々選択できるため、設計の自由度を向上させることができる。
また、このように本発明の実施形態に係る水晶振動素子を構成したことにより、周波数が安定した水晶片のW寸法の範囲を広げつつ低いCI値となる水晶片のW寸法の範囲を広げることができる。
したがって、実施例1の水晶振動素子は、従来よりもCI値を低くすることができることが確認できた。