(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061684
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】内視鏡用推進装置
(51)【国際特許分類】
A61B 1/00 20060101AFI20170106BHJP
【FI】
A61B1/00 320B
A61B1/00 332
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-1939(P2013-1939)
(22)【出願日】2013年1月9日
(65)【公開番号】特開2014-132967(P2014-132967A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2016年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】504294053
【氏名又は名称】早川 敏文
(74)【代理人】
【識別番号】100082234
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】早川 敏文
【審査官】
森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】
特開平7−313443(JP,A)
【文献】
特開平4−144533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00−1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空の支持管と、該支持管の先端側に設けられ、後方に向けて高圧空気を噴射する複数の噴射ノズルを形成した前進用ノズル形成体と、前記支持管の後端側に設けられ、腸内の空気を吸引する吸引ノズルを形成した吸引用ノズル形成体と、該吸引用ノズル形成体から前記支持管を経て前記前進用ノズル形成体に形成されて前記噴射ノズルに連通し、空気圧縮機が生成する高圧空気を該噴射ノズルに送る空気供給路と、前記吸引ノズルに連通して前記吸引用ノズル形成体に形成され、吸引ポンプにより腸内空気を吸引するための空気吸引路とから構成し、内視鏡のチューブ先端側に前記支持管を挿着してなる内視鏡用推進装置。
【請求項2】
前記前進用ノズル形成体は、前進方向の前側面を半球状に形成してあることを特徴とする請求項1記載の内視鏡用推進装置。
【請求項3】
前記噴射ノズルは、ノズル孔を後斜め上方に向けて形成してあることを特徴とする請求項1記載の内視鏡用推進装置。
【請求項4】
前記複数の噴射ノズルは、前記支持管を囲繞するように周方向に離間して配列してあることを特徴とする請求項1記載の内視鏡用推進装置。
【請求項5】
前記吸引用ノズル形成体は、後側面を半球状に形成してあることを特徴とする請求項1記載の内視鏡用推進装置。
【請求項6】
前記吸引用ノズル形成体は、前記前側面を傾斜面に形成し、該傾斜面に縦長に膨出する固形物吸引阻止部を形成し、該固形物吸引阻止部の側方に位置して縦長のノズル形成溝を形成し、該ノズル形成溝内に前記吸引ノズルを開口させてあることを特徴とする請求項1記載の内視鏡用推進装置。
【請求項7】
前記吸引ノズルは、前記吸引用ノズル形成体の前側傾斜面に略水平方向に向けて形成してあることを特徴とする請求項1記載の内視鏡用推進装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈曲する腸内で内視鏡チューブを円滑に自己前進させることができる内視鏡用推進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡を用いて行う手術は、従来の開腹手術に比べて患者の身体的負担が小さい、手術時間が短い、回復期間を短くできるといった多くの利点があることから、近年その施術が拡大している。他面、内視鏡を操作するには、可撓管であるチューブを屈曲した腸内で円滑に前進させるために熟練した技術が求められるし、前進操作、屈曲操作、患部観察操作といった多様な操作を行わなければならないことから、これら操作を習熟するために多大の労力が求められるという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−539936公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、内視鏡を機械的構成により前進させる技術が提案されるようになっている。例えば、少なくとも1つの脚部が、前進するときに畳まれ、後進するときに臓器の壁に接触するように広がることを特徴とする内視鏡における推進装置が提案されている(特許文献1)。
【0005】
しかし、脚部を臓器の壁に接触させる推進装置は、臓器の湾曲した壁を脚部が確実に捉えることが出来ない場合もあって速やかに前進出来ないという問題、脚部の先端が壁に接触することで患者にある種の違和感を与えるという問題、屈曲した腸内での方向転換が困難であるという問題、更には微細な加工技術で装置を製作するためにコストが嵩むという問題がある。
【0006】
本発明は上述した従来技術の種々の問題点に鑑みなされたもので、腸内壁に接触する脚部を用いないので患者に不快感を与えることがなく、高圧空気で前進するので前進速度が速いことから施術時間を短縮することができ、しかも機構が簡単であるから製作コストも低減できる内視鏡用推進装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために構成した本発明の手段は、中空の支持管と、該支持管の先端側に設けられ、後方に向けて高圧空気を噴射する複数の噴射ノズルを形成した前進用ノズル形成体と、前記支持管の後端側に設けられ、腸内の空気を吸引する吸引ノズルを形成した吸引用ノズル形成体と、該吸引用ノズル形成体から前記支持管を経て前記前進用ノズル形成体に形成されることで前記噴射ノズルに連通し、空気圧縮機が生成する高圧空気を該噴射ノズルに送る空気供給路と、前記吸引ノズルに連通して前記吸引用ノズル形成体に形成され、吸引ポンプにより腸内空気を吸引するための空気吸引路とから構成し、内視鏡のチューブ先端側に前記支持管を挿着するものからなる。
【0008】
そして、前記前進用ノズル形成体は、前進方向の前側面を半球状に形成するとよい。
【0009】
また、前記噴射ノズルは、ノズル孔を後斜め上方に向けて形成するとよい。
【0010】
また、前記複数の噴射ノズルは、前記支持管を囲繞するように周方向に離間して配列するとよい。
【0011】
また、前記吸引用ノズル形成体は、後側面を半球状に形成するとよい。
【0012】
更に、前記吸引用ノズル形成体は、前記前側面を傾斜面に形成し、該傾斜面に縦長に膨出する固形物吸引阻止部を形成し、該固形物吸引阻止部の側方に位置して縦長のノズル形成溝を形成し、該ノズル形成溝内に前記吸引ノズルを開口させるとよい。
【0013】
また、前記吸引ノズルは、前記吸引用ノズル形成体の前側傾斜面に略水平方向に向けて形成するとよい。
【発明の効果】
【0014】
(1)高圧空気を噴射ノズルから噴出して推進力にすることにより、内視鏡チューブを速やかに前進させることができる。また、腸内壁には空気が当たるだけで前進用の硬質の脚類は無いから、患者に違和感を与えることがない。しかも機構が簡単で、機械的可動部分がないから小型化できるし故障を皆無にでき、手術中の作動不良といった危険も無い。
(2)腸内に空気が増加しないように吸引ノズルによって吸引除去するようにしたから、患部に悪影響を与えることが無いし、患者に身体的負担や不快感を与えることがない。
(3)前進用ノズル形成体は前側面を半球状に形成したから、前進時に腸内壁を刺激したり、傷付けたりすることが無い。
(4)噴射ノズルはノズル孔を後斜め上方に向けて形成することにより、内視鏡推進装置を腸内の中心に向けて付勢するようにしたから、腸内壁に強く接触する事態を可及的に少なくすることができる。
(5)複数の噴射ノズルは支持管を囲繞するように周方向に離間して配列したから、内視鏡推進装置は腸内の略中心を安定した姿勢で前進することができる。
(6)吸引用ノズル形成体の後側面を半球状に形成したから、腸内から引き抜く際に腸壁を刺激したり、傷付けることが無い。
(7)吸引用ノズル形成体の前側傾斜面に縦長に膨出する固形物吸引阻止部を形成し、その側方に縦長のノズル形成溝を形成し、ノズル形成溝内に吸引ノズルを開口させたから、腸内の固形物がノズル孔を塞ぐ事態を可及的に防止できる。
(8)吸引ノズルは吸引用ノズル形成体の前側傾斜面に略水平方向に向けて形成したから、噴射ノズルが噴出する高圧空気によって飛散する固形物を吸引する事態を可及的に避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態に係る内視鏡推進装置の一部を破断にした外観図である。
【
図5】吸引用ノズル形成体の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳述する。図において、1は内視鏡用推進装置(以下、推進装置1と称する。)、2は該推進装置1を構成する支持管で、該支持管2は後述するチューブ21の先端側21Aに外嵌するチューブ挿通穴2Aを形成した合成樹脂製の中空管からなる。
【0017】
3は該支持管2の先端側に設けた前進用ノズル形成体を示す。4は該前進用ノズル形成体3を構成し、支持管2と一体に成形した合成樹脂製の基体で、該基体4は半球状の前側面4Aと、前側面4Aの外周縁から支持管2にかけて後斜め上向きに傾斜したノズル形成面4Bを有する形態からなる。5は該基体4の内部に環状に形成した空気分配路、6、6、・・は該空気分配路5に連通して基体4に形成され、ノズル形成面4Bに開口する複数の噴射ノズルで、該各噴射ノズル6は周方向に離間し、かつノズル孔を40〜45度の傾斜した角度で後斜め上方に向けてある。
【0018】
7は支持管2の後端側に設けた吸引用ノズル形成体を示す。8は該吸引用ノズル形成体7を構成する基体で、該基体8は斜め上向きに傾斜したノズル形成面8Aと、該ノズル形成面8Aに十字方向に離間して縦長に隆起する4個の膨出部からなる固形物吸引阻止部8B、8B、・・と、ノズル形成面8Aの外周縁から後側に形成した略半球状の後側面8Cを有する形態からなり、各固形物吸引阻止部8Bの両側には一対のノズル形成溝9、9が傾斜方向の縦方向に形成してある。また、基体8の内部には吸引集合路10が環状に形成してある。
ここで、前記固形物吸引阻止部8Bは平面視で楕円状、側面視で隆起状をなして斜め前方に突出する頂部8B
1と、該頂部8B
1から両側に広がる傾斜面8B
2とからなり、前記ノズル形成溝9は頂部8B
1を挟むようにして該傾斜面8B
2に形成してある。
【0019】
11、11、・・は吸引用ノズル形成体7内に十字方向に離間して形成した4本の吸引ノズルで、該各吸引ノズル11は基端が前記吸引集合路10に連通し、途中からY字状の分岐路11A、11Aになり、その先端のノズル孔11B、11Bは前記ノズル形成溝9内で溝方向に離間して開口している。
【0020】
12は前進用ノズル形成体3から支持管2、吸引用ノズル形成体7にかけて形成した空気供給路を示す。該空気供給路12は先端12Aが前記空気分配路5に連通し、後端12Bは吸引用ノズル形成体7の後側面8Cに開口しており、供給ホース13を介して図示しないエアコンプレッサーと接続してある。
【0021】
14は吸引用ノズル形成体7に形成した空気吸引路を示す。該空気吸引路14は先端が前記吸引集合路9に連通し、後端が後側面8Cに開口して吸引ホース15が接続してあり、該吸引ホース15を介して図示しない吸引ポンプと接続してある。そして、前記供給ホース13には圧縮空気の供給と停止を行う開閉弁からなる前進操作部を設け、吸引ホース15には腸内空気の吸引を制御する開閉弁からなる吸引操作部を設けてあり、これら前進操作部と吸引操作部は内視鏡本体に設けてある。
【0022】
本実施の形態の推進装置1は上述の構成からなり、長さは約35〜45mm、直径は約12mm、重量は4〜7gであるが、直径、長さ及び重量は適宜設計により決定することができる。次に、その作用について説明する。内視鏡のチューブ21の先端側21Aに支持管2を挿嵌固着することで推進装置1が設けてある。施術時は、例えば肛門から挿入したチューブ21を手で送り出しながら腸内の患部近傍まで挿入し、或いは腸が屈曲する部位まで挿入したら、前進操作部を開弁操作して推進装置1に高圧空気を送って噴射ノズル6から噴出することにより、その反力でチューブ21を前進させる。次に、高圧空気の噴射を停止し、吸引操作部を開弁操作して腸内の空気を吸引し、腸が空気で膨張して患者に圧迫感を与えることがないようにする。このように、高圧空気の噴射と腸内空気の吸引を交互に行うことで、チューブ21を速やかに前進させることができ、しかも患部や腸に悪影響を与えることがなく安全性に優れている。
【0023】
また、複数の噴射ノズル6は、支持管2を囲繞するように周方向に配列することにより、高圧空気を円環状に略均等に噴出するようにしたから、推進装置1は腸内の中心寄りの位置で安定した姿勢で前進することができる。また、推進装置1が前進するのに必要な推力は100〜500g/f程度と考えているが、推進装置1の重量とチューブ21の先端側の重量から必要な速度を勘案して決めればよい。なお、チューブ21を前進させる場合先端側は弛ませた状態にするから、チューブ21全体の重量を推力の計算対象にする必要はない。
【0024】
また、ノズル孔11B、11Bは基体8に形成した固形物吸引阻止部8Bの両側のノズル溝9内に配置し、腸内の固形物は先ず固形物吸引阻止部8Bの頂部8B
1近傍に付着させ、更に傾斜面8B
2に付着させることで固形物がノズル孔11Bを閉塞する事態を防止することで確実な作動を確保している。また、ノズル孔11Bはノズル溝9内に2個離間して配設することで、固形物によってノズル孔11Bが全て閉塞されてしまう事態を可及的に防止してある。
【0025】
このようにして、チューブ21は高圧空気の推進力により前進するが、前進用ノズル形成体3は前側面4Aを半球状に形成してあるから腸内壁に接触しても円滑に前進できるし、腸内壁を痛めることがない。また、吸引用ノズル形成体7は基体8の後側面8Cを半球状に形成してあるから、チューブ21を引き抜く際に腸内壁を痛めることがないし、腸内壁に対して円滑に摺動できる。
【符号の説明】
【0026】
1 内視鏡推進装置
2 支持管
3 推進用ノズル形成体
4A 前側面
5 空気分配路
6 噴射ノズル
6A ノズル孔
7 吸引用ノズル形成体
8B 固形物吸引阻止部
9 ノズル形成溝
10 吸引集合路
11 吸引ノズル
11B ノズル孔
12 空気供給路
14 空気吸引路