(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061685
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】ラックの製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/32 20060101AFI20170106BHJP
C21D 1/10 20060101ALI20170106BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20170106BHJP
F16H 55/26 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
C21D9/32 A
C21D1/10 P
C21D1/10 F
C21D1/18 D
C21D1/18 C
F16H55/26
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-2654(P2013-2654)
(22)【出願日】2013年1月10日
(65)【公開番号】特開2014-133924(P2014-133924A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2016年1月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】390026088
【氏名又は名称】富士電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 哲正
(72)【発明者】
【氏名】中井 靖文
(72)【発明者】
【氏名】花木 昭宏
【審査官】
佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−076067(JP,A)
【文献】
特開平10−158742(JP,A)
【文献】
特開昭63−297524(JP,A)
【文献】
特開昭54−107812(JP,A)
【文献】
特公昭59−013569(JP,B2)
【文献】
特公昭59−031572(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00− 9/44, 9/50
C21D 1/02− 1/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製であって断面の径に比べて全長が長く、軸線に対して歯先の線が傾斜した斜歯又は曲がり歯を一つの面に形成したワークを成形する成形工程と、
成形工程を経たワークに誘導コイルを近接させて当該ワークを高周波焼入する焼入工程とを行うラックの製造方法において、
ワークに回転方向のブレーキ力を掛けつつ前記ワークを歯のピッチが広がる方向に回転させ、ワークに対して歯のピッチが広がる方向のトルクを掛けた状態で焼入工程を行うことを特徴とするラックの製造方法。
【請求項2】
焼入工程の際にかけるトルクは、ワークに掛かる捩じり応力が100MPa以下となるトルクであることを特徴とする請求項1に記載のラックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラックの製造方法に関するものであり、特に歯が斜歯又は曲がり歯のラックを製造する方法であって高周波焼入工程を含むラックの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のステアリングには、ラックアンドピニオン機構が使用されている。旧来のステアリングで採用されていたラックは、直歯のラックであった。即ちラックの歯先の線は、軸線に対して直交するものであった。
ステアリング用のラックは、長尺状のワークの一面に、機械加工(切削及び鍛造を含む)で歯切りを行い、その後に当該ワークを焼入して作られる。
【0003】
また特許文献1には、900MPa以上のねじり応力を鋼材に付加した状態で、前記鋼材を高周波焼入することを特徴とするトーションバーの製造方法が開示されている。
特許文献1に開示された方法は、トーションバーの使用方向にねじり応力を付加した状態で高周波焼入を行い、トーションバーに圧縮残留応力を付与し、使用時に掛かる引っ張り応力を相殺するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−185478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで近年の切削加工技術の発達に伴い、ステアリング用のラックに斜歯ラックや曲がり歯ラックが採用される傾向にある。以下、代表して斜歯ラックを例に説明する。
斜歯ラックを焼入する手段として、高周波焼入を採用したいという要望がある。そこで本発明者らが斜歯ラックの歯を高周波焼入したところ、旧来の直歯ラックを高周波焼入する場合には無かった新たな問題に直面した。
【0006】
即ち斜歯ラックを焼入したところ、僅かではあるが、ラックが捩れ方向に変形してしまった。
この現象は、直歯ラックを高周波焼入する場合には発生しなかった現象である。また直歯ラックでは多少のねじれがあったとしても、大きな欠点とはならないが、斜歯ラックが捩れると、ラックからの伝達効率が大きく損なわれるという問題があった。
即ち直歯ラックに多少のねじれが生じても、歯は一定のピッチが保たれる。これに対して斜歯ラックが捩れると、歯のピッチが歯先の線方向の位置で相違することとなり、ピニオンとのかみ合わせが悪くなる。また斜歯ラックは、かみ合い率が高いので、複数の歯が同時にピニオンとかみ合っている状態が長い。そのためピッチが歯先の線方向の位置で相違してラック又はピニオンが軸方向等に逃げようとしても、他の歯と押し合う関係となり、逃げ場がない。そのため伝達効率を著しく損なうこととなる。
【0007】
そこで本発明は、斜歯ラック等を高周波焼入によって製造する方法を提案するものであり、高周波焼入の際に捩れることが少ないラックの製造方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記した課題を解決するために多数の斜歯ラックを成形し、焼入した。そして斜歯ラックの変形方向を検討したところ、いずれのラックも、歯のピッチが狭くなる方向に変形していることが判った。
【0009】
この知見に基づいて開発された請求項1に記載の発明は、鋼製であって断面の径に比べて全長が長く、軸線に対して歯先の線が傾斜した斜歯又は曲がり歯を一つの面に形成したワークを成形する成形工程と、成形工程を経たワークに誘導コイルを近接させて当該ワークを高周波焼入する焼入工程とを行うラックの製造方法において、ワークに回転方向のブレーキ力を掛けつつ前記ワークを歯のピッチが広がる方向に回転させ、ワークに対して歯のピッチが広がる方向のトルクを掛けた状態で焼入工程を行うことを特徴とするラックの製造方法である。
【0010】
本発明のラックの製造方法では、焼入工程の際にワークの回転に抗するブレーキ力を掛けると共にワークを歯のピッチが広がる方向に回転させ、ワークに対して歯のピッチが広がる方向のトルクを掛けた状態で高周波焼入を行う。その結果、焼入処理後の変形が解消された。
なお斜歯ラックを高周波焼入した場合に、ラックが捩れ方向に変形する理由として次のものが考えられる。
考えられる一つの理由は、高周波焼入れ時の熱応力及び変態応力によるもので、これは斜歯ラックの形状により決まる。
次に考えられる理由は、ワークを機械加工(切削及び鍛造を含む)したときに、ワークに残留応力が残り、高周波焼入で加熱した際に残留応力が開放されて変形するものである。
他の理由は、高周波焼入の際に歯の部分で熱分布がばらつき、一定の方向に変形してしまうというものである。
ここで、焼入工程とは、ワークに高周波誘導電流を励起させて誘導加熱する工程と、焼入れ温度まで昇温したワークを、冷却液で冷却する工程とを含む。
ブレーキ力をかける位置および回転力をかける位置は任意である。例えばワークの一端側にブレーキ力をかけ、他端側を回転させることによってワークに対して歯のピッチが広がる方向のトルクを掛ける。あるいは、ワークの中間部にブレーキ力をかけ、ブレーキ力をかけた位置から離れた位置に回転力をかけることによってワークに対して歯のピッチが広がる方向のトルクを掛ける。またはワークの端部にブレーキ力をかけ、ワークの中間部に回転力をかけることによってワークに対して歯のピッチが広がる方向のトルクを掛ける。
【0011】
請求項2に記載の発明は、焼入工程の際にかけるトルクは、ワークに掛かる捩じり応力が100MPa以下となるトルクであることを特徴とする請求項1に記載のラックの製造方法である。
【0012】
本発明のラックの製造方法は、特許文献1の様な強力な残留応力を生じさせるものではなく、むしろ残留応力を緩和するものであると言える。そのため、回転時にかけるトルクは小さいものであることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によって製造されたラックは、変形が少なく、伝達効率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ワーク及びワークの回転方向を説明する斜視図であり、(a)はトルクを掛けていない状態を示し、(b)は歯のピッチが広がる方向に回転させた状態を示し、(c)は歯のピッチが狭まる方向に回転させた状態を示す。
【
図2】ワーク及びワークの回転方向を説明する平面図であり、(a)はトルクを掛けていない状態を示し、(b)は歯のピッチが広がる方向に回転させた状態を示し、(c)は歯のピッチが狭まる方向に回転させた状態を示す。
【
図3】本発明の実施形態のラックの製造法における焼入工程を示す斜視図である。
【
図4】本発明の他の実施形態のラックの製造法における焼入工程を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、斜歯ラックや曲がり歯ラックを製造する方法であり、成形工程(切削加工や鍛造工程等)と焼入工程によって構成されている。成形工程は、ワークを切削加工又は鍛造してその一面のみに、ラック歯を設ける工程である。
図1(a)は、加工工程を終えた中間製品たるワーク1を示している。
ワーク1は、全体形状が棒状であって断面の径に比べて全長が著しく長い。ワークに形成されたラック歯2は、斜歯であって、歯先の線3は一定の傾斜角をもっている。即ちラック歯2の歯先の線3は、ワークの軸線X−Xに対して垂直に交差する仮想線Y−Yを想定したとき、仮想線Y−Yに対して一定の角度Aの傾斜角度をもっている。
仮に各図の左端を回転元とし、
図1、
図2の(b)の様に歯先の線3が回転元から離れる回転方向たる矢印B方向に回転させると、ラック歯2のピッチPは開く方向となる。逆に、
図1、
図2の(c)の様に歯先の線3が回転元に近づく回転方向たる矢印C方向に回転させると、ラック歯2のピッチPは狭くなる方向となる。
【0016】
本実施形態のラック製造方法では、機械加工(切削又は鍛造)を終えたワーク1を回転させつつ、高周波誘導加熱を行う。
本実施形態の焼入工程で使用する高周波焼入装置10は、
図3の通りである。即ち高周波焼入装置10は、回転軸11と、センター12と、ブレーキ用ローラ13と、誘導加熱コイル15と、図示しない高周波電源、冷却装置、ワーク移動装置によって構成されている。
回転軸11は、モータ20及び図示しない減速機から動力を受けて回転するものであり、ワーク1を保持するチャック21を備えている。
センター12は、チャック21と対向する位置に設けられている。
ブレーキ用ローラ13は、複数の小ローラ22によって構成され、小ローラ22間の間隔を縮める機能を備えている。
誘導加熱コイル15は、公知の半開放鞍形コイルである。
【0017】
本実施形態のラック製造方法では、機械加工工程を経たワーク1の両端を、チャック21とセンター12とで支持する。すなわち、ワーク1の一端側をセンター12で支持すると共に、ワーク1の他端側をチャック21で掴む。
そしてワーク1のセンター12側にブレーキ用ローラ13を近接させ、ブレーキ用ローラ13の小ローラ22でセンター12側を挟む。
即ちワーク1を回転軸11側に固定すると共にセンター12で支持し、回転軸11側と対向する側をブレーキ用ローラ13の小ローラ22で挟む。
【0018】
なおブレーキ用ローラ13でワーク1を掴むことによって、ワーク1が落下したり撓むことなく支持することができる場合は、センター12を外す。すなわちこの場合においては、ワーク1は、チャック21とブレーキ用ローラ13とで支持されることとなる。もちろん、チャック21でワーク1を片持ち支持することによってワーク1の水平姿勢を保つことができる場合においてもセンター12は不用である。
【0019】
そしてワーク1の一端近傍にブレーキ用ローラ13によるブレーキ力を掛けると共にワーク1の他端側をチャック21で保持してワーク1をラック歯2のピッチPが広がる方向に回転させる。その結果ワーク1に対してラック歯2のピッチPが広がる方向のトルクが掛かることとなる。
【0020】
なおトルクの大きさは、ワークに掛かる捩じり応力が100MPa以下であり、より望ましくは50MPa以下である。実際には8乃至20MPaのトルクが掛けられる。
またトルクの下限は、ワークに掛かる捩じり応力が3MPaのトルクである。
【0021】
そしてこの状態で、誘導加熱コイル15をワーク1に近接し、誘導加熱コイル15に高周波電流を通電して、ワーク1を誘導加熱する。
なお実際の作業においては、ワーク1を静止した状態で支持し、この状態で、誘導加熱コイル15をワーク1に近接し、ワーク1が静止した状態で誘導加熱コイル15に高周波電流を通電する。
そして誘導加熱コイル15に高周波電流を通電した状態でワーク1の回転を開始することとなる。
【0022】
ワーク1が赤熱したら誘導加熱コイル15への通電を停止して、図示しない冷却装置でワーク1を急冷し、焼入れ工程を完了する。こうして製造されたラック30は、ねじれが少なく、後加工の必要性が少ない。
【0023】
上記した実施形態では、ワーク1の一端近傍にブレーキ用ローラ13を当接してブレーキ力を掛けたが、ブレーキ用ローラ13を当接する位置は任意であり、例えば
図4の様にワーク1の中間部分にブレーキを掛けてもよい。
【0024】
次に本発明の効果を確認するために実施した実験について説明する。
ワーク1として、全長690mm、断面積530平方ミリメートル、モジュール1.87の斜歯ラックを成形した。
ワーク1の材質は、S45C相当の炭素鋼である。
このワーク1に対して高周波焼入装置10で焼入を行った。ワーク1に掛けたトルクは、ワークに掛かる捩じり応力が9.1MPaとなる程度のものである。
【0025】
比較例として、ブレーキ用ローラ13を外し、他は同一の条件で、ワーク1を焼入れした。
その結果、本実施形態の方法で焼入されたラック30は、ねじれの無いものであった。これに対して比較例のラックは、約0.25度のねじれ変形が認められた。
【符号の説明】
【0026】
1 ワーク
10 高周波焼入装置
11 回転軸
12 センター
13 ブレーキ用ローラ
21 チャック
22 小ローラ