(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記音圧マップ作成手段は、前記集音手段で集音した音圧信号にビームフォーミング処理を行って、前記撮像手段から所定の距離だけ離れた複数の仮想平面に於ける各音圧マップを計算し、
前記音圧マップ表示手段は、いずれかの音圧マップを前記画像に重ねて表示する、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項5のうちいずれか1項に記載の異常診断装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を、各図を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1は、第1の実施形態に於ける異常診断装置1の構成を示す図である。
診断対象物7は、動作時に所定量の音を発生する機器であり、例えば、モータ、コンプレッサ、発電機などである。
カメラ2は、診断対象物7を撮像して、カメラ画像を動画として出力するものである。カメラ2は、異常診断装置1に接続されている。なお、カメラ2は、診断対象物7が外観上の可動部分を有していないならば、これを1フレームだけ撮像して、カメラ画像を静止画像として出力するものであってもよい。
マイクロホンアレイ3は、複数のマイクで構成され、診断対象物7の音圧信号を測定するものである。このマイクロホンアレイ3は、異常診断装置1に接続されて、集音した音圧信号を出力する。
【0016】
異常診断装置1は、A/D変換器11と、音響信号処理部12と、記憶部13と、モニタ14と、ネットワーク処理部15と、ネットワークインタフェース16と、アラーム処理部17と、スピーカ18と、を備える。異常診断装置1には、カメラ2とマイクロホンアレイ3とが接続され、必要に応じて診断対象物7が接続されている。
異常診断装置1は、マイクロホンアレイ3が集音した音圧信号に基づいて、診断対象物7の異常性を診断し、カメラ2が撮像したカメラ画像と重畳してモニタ14に表示するものである。異常診断装置1は、診断対象物7が複数の動作モードを有しているとき、いずれの動作モードに於いて動作しているかを判断することにより、この動作モードに於ける異常を特定する。異常診断装置1は更に、診断対象物7の動作モードを指令することにより、所定の動作モードで動作させて異常を特定することができる。
【0017】
A/D変換器11は、アナログ信号をデジタル信号に変換するものである。A/D変換器11は、マイクロホンアレイ3の複数のマイクに接続されていると共に、音響信号処理部12に接続されている。A/D変換器11は、マイクロホンアレイ3の各マイクが集音したアナログの音圧信号を、デジタルの音圧信号に変換して出力する。
音響信号処理部12は、音圧マップ作成部121(音圧マップ作成手段)と、異常領域判定部122(異常領域判定手段)と、異常項目診断部123(異常項目診断手段)と、音圧マップ表示部124(音圧マップ表示手段)と、を有する。音響信号処理部12は、A/D変換器11が出力した音圧信号を処理して異常を判定し、カメラ画像と重畳して表示するものである。音響信号処理部12は、図示しないCPU(Central Processing Unit)がファームウェアプログラムを実行することによって具現化される。
【0018】
音圧マップ作成部121は、音圧信号を信号処理して、カメラ画像に対応する音圧マップを計算するものである。音圧マップは、カメラ画像に対応する2次元の各計算点に於ける音圧レベルの情報、または、パワースペクトルの情報を含み、これらの情報をカメラ画像内の位置情報と対応させたものである。音圧レベルは、音圧信号の強さである。パワースペクトルは、周波数ごとに分割した音圧信号のレベルである。パワースペクトルは、例えば、FFT(Fast Fourier Transform)によって算出することができる。
異常領域判定部122は、音圧マップに基づいて、各計算点に於ける異常の有無を判定するものである。
【0019】
異常項目診断部123は、音圧マップに基づいて、各計算点に於ける異常項目(異常原因項目)を診断するものである。異常項目(異常原因項目)とは、異常性を有する評価項目であり、例えば、カメラ画像内の所定の位置情報と対応する音圧レベルの情報、所定周波数に於ける音圧信号のレベルの情報(パワースペクトル)、または、カメラ画像内の所定の位置情報と対応する音圧信号の所定周波数に於ける音圧レベルの情報(パワースペクトル)などである。なお、所定の位置情報または所定の周波数は、それぞれ単数であっても複数であってもよい。
音圧マップ表示部124は、音圧マップなどをカメラ画像に重ねた診断結果の画面を、モニタ14に表示すると共に、ネットワーク処理部15などにより、端末8に送信するものである。
【0020】
記憶部13は、正常性学習DB(データベース:DataBase)131と、測定結果DB132とを格納する。記憶部13は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)などで構成される。
正常性学習DB131は、正常品に係る単位空間を形成する逆行列データを格納している。正常性学習DB131は、音響信号処理部12が、異常の有無を判定するために参照する。
測定結果DB132は、音圧マップを格納している。測定結果DB132は、音響信号処理部12が測定した音圧マップを保存するために用いられる。
モニタ14は、文字、図形、画像などを表示するものである。
ネットワーク処理部15は、ネットワーク9を介して通信を行うものである。ネットワーク処理部15は、音圧マップ表示部124が出力した診断結果の画面を、ネットワーク9を介して端末8に送信するものである。
ネットワークインタフェース16は、ネットワーク9に接続され、ネットワーク9を介してパケットを送受信するハードウェアである。
アラーム処理部17は、アラーム(警告音)を生成して、スピーカ18に出力するものである。スピーカ18は、信号が入力されたとき、この信号に対応する音を出力するものである。
ネットワーク9は、例えば、インターネット通信網であり、複数の装置間に於いてパケットを送受信可能とするものである。
端末8は、例えば、コンピュータであり、ネットワーク9を介して異常診断装置1の診断結果の画面を受信して表示するものである。
【0021】
図2は、第1の実施形態に於ける正常データ学習処理のフローチャートである。
異常診断装置1が起動され、正常データ学習指示が入力されたならば、音響信号処理部12は、正常データ学習処理を開始する。この正常データ学習処理は、参考文献1(田村希志臣、「よくわかるMTシステム−品質工学によるパターン認識の新技術」、日本規格協会、2009年8月)の42〜45頁に於いて、詳細に記載されている。
ステップS10〜S16に於いて、音圧マップ作成部121は、既定数の音圧マップを記録する処理を繰り返す。ここで既定数は、この正常データ学習処理を行う上で予め定められた回数である。しかし、これに限られずに、既定の時間だけ正常データ学習処理を繰り返してもよい。
【0022】
ステップS11に於いて、音圧マップ作成部121は、マイクロホンアレイ3によって診断対象物7からの音圧信号を測定し、測定した音圧信号をA/D変換器11によってデジタル信号に変換する。診断対象物7は、例えば、回転機器であるモータなどである。
ステップS12に於いて、音圧マップ作成部121は、測定した音圧信号を信号処理して、カメラ画像に対応する音圧レベルとパワースペクトルとを算出する。算出した音圧レベルとパワースペクトルとは、それぞれ音圧マップを構成する。
ステップS13に於いて、音圧マップ表示部124は、カメラ画像に音圧マップを付加する。
ステップS14に於いて、音圧マップ表示部124は、音圧マップが付加されたカメラ画像を、モニタ14に表示する。
ステップS15に於いて、音圧マップ作成部121は、音圧マップを測定結果DB132に記録する。
【0023】
ステップS16に於いて、音圧マップ作成部121は、既定数の音圧マップを記録する処理を繰り返したか否かを判断する。音圧マップ作成部121は、当該判断条件が成立しなかったならば、ステップS10の処理に戻って次の測定を行い、当該判断条件が成立したならば、カメラ2とマイクロホンアレイ3の位置を変更すること無しに、ステップS17の処理を行う。
ステップS17に於いて、音圧マップ作成部121は、ステップS10〜S16で測定して測定結果DB132に格納された音圧マップに基づき、正常データを学習する。より具体的には、音圧マップ作成部121は、取得した音圧マップを用いて、正常品に係わるデータの特徴量を抽出して、単位空間を形成する(
図3参照)。なお、正常品とは、診断対象物7のうち、予め定められた仕様を満たすものである。
ステップS18に於いて、音圧マップ作成部121は、正常品の特徴量を正常性学習DB131に記憶する(
図3参照)。
ステップS18の処理が終了すると、音響信号処理部12は、
図2に示す正常データ学習処理を終了する。
【0024】
図3は、第1の実施形態に於ける正常品の特徴量を抽出して単位空間を形成する処理のフローチャートである。なお、
図3に示す処理は、
図2に示すステップS17およびステップS18の処理に相当する。
音圧マップ作成部121が、
図2の正常データ学習処理に於いて、ステップS17の処理を開始したならば、正常品の特徴量を抽出して単位空間を形成する処理を開始する。この
図3の処理は、参考文献1の42〜45頁に詳細に記載されている。
ステップS20に於いて、音圧マップ作成部121は、測定結果DB132の音圧マップから、j番目の評価項目に対する、i番目のサンプルデータx
ijを取得する。
ステップS21に於いて、音圧マップ作成部121は、j番目の評価項目の平均値m
jおよび標準偏差σ
jを求める。音圧マップ作成部121は、次の(1)式を計算して、サンプルデータx
ijをサンプルデータX
ijに規準化する。
【0026】
ステップS22に於いて、音圧マップ作成部121は、規準化されたサンプルデータX
ijを用いて、評価項目間の相関係数を算出し、相関行列Rを計算する。
ステップS23に於いて、音圧マップ作成部121は、計算した相関行列Rの逆行列R
−1を計算する。
ステップS24に於いて、音圧マップ作成部121は、計算した逆行列R
−1を、正常性学習DB131に記憶する。ステップS24の処理は、
図2のステップS18の処理に対応する。
ステップS24の処理が終了すると、音圧マップ作成部121は、
図3の処理を終了する。
【0027】
図4は、第1の実施形態に於ける異常診断処理のフローチャートである。
異常診断装置1が起動されて異常診断の指示が入力されたならば、異常診断装置1は、異常診断処理を開始する。このとき、診断対象物7は、正常品と同一の位置に設置されている。これにより、マイクロホンアレイ3は、正常品に係る音圧マップと診断対象物7に係る音圧マップとを比較することができる。
ステップS30〜S32の処理は、音圧マップ作成部121によって行われる。
ステップS30に於いて、音圧マップ作成部121は、マイクロホンアレイ3によって、診断対象物7の音を測定し、測定したアナログの音圧信号をA/D変換器11によりデジタルの音圧信号に変換する。
【0028】
ステップS31に於いて、音圧マップ作成部121は、カメラ画像に対応した複数の計算点を設定し、測定した音圧信号を用いて、各計算点に於ける音圧レベルを算出する。
ステップS32に於いて、音圧マップ作成部121は、測定した音圧信号を用いて、各計算点に於けるパワースペクトルを算出する。ステップS32の処理が終了すると、音圧マップ作成部121は、ステップS30の処理に戻り、以降、ステップS30〜S32の処理を繰り返す。
【0029】
ステップS40〜S43の処理は、異常領域判定部122によって行われる。ステップS44の処理は、異常項目診断部123によって行われる。
ステップS40に於いて、異常領域判定部122は、音圧マップ作成部121が算出した音圧レベルおよびパワースペクトルに基づいて、音圧信号の単位空間に於ける距離を計算する音の異常性解析を行う。なお、単位空間に於ける距離とは、マハラノビスの距離MD(Mahalanobis Distance)であり、例えば、
図2に示す正常データ学習処理で取得された正常データに於ける項目間の相関行列Rの逆行列R
−1と、音圧レベルおよびパワースペクトルから計算される。具体的には、異常領域判定部122は、算出された音圧レベルおよびパワースペクトルから、次の(2)式で示される行ベクトルYを取得する。行ベクトルYは、(1)式で規準化された評価項目データを表している。
【0031】
異常領域判定部122は更に、次の(3)式を用いて、行ベクトルYの単位空間に於けるマハラノビスの距離MDを算出する。
【0033】
ステップS41に於いて、異常領域判定部122は、計算した距離が閾値より大きいか否かを判断する。異常領域判定部122は、当該判断条件が成立したならば(Yes)、ステップS42の処理を行い、当該判断条件が成立しなかったならば(No)、ステップS43の処理を行う。ここで閾値は、予め定められた値である。
【0034】
ステップS42に於いて、異常領域判定部122は、音圧マップ作成部121が取得した音圧信号に基づき、
図3に示す正常品の特徴を抽出した単位空間を形成する処理を行って、単位空間を更新し、ステップS44の処理を行う。
ステップS43に於いて、異常領域判定部122は、アラーム処理部17によって、診断対象物7が異常性を有する旨のアラーム(警告音)をスピーカ18に出力し、ステップS44の処理を行う。
【0035】
ステップS44に於いて、異常項目診断部123は、異常領域判定部122が異常であると判断した音圧信号に対して、異常項目診断処理(
図5参照)を行い、異常性の度合いおよび異常原因項目を取得する。
ステップS50に於いて、音圧マップ表示部124は、音圧マップ作成部121から音圧マップを取得し、異常項目診断部123から異常性の度合い、および、異常原因項目を取得する。音圧マップ表示部124は、音圧マップ、異常性の度合い、および、異常原因項目をカメラ画像に付加し、付加カメラ画像を生成する。
ステップS51に於いて、音圧マップ表示部124は、モニタ14に付加カメラ画像を表示する。なお、音圧マップ表示部124は、モニタ14に音圧マップをそのまま表示してもよい。
ステップS52に於いて、音圧マップ表示部124は、ネットワーク処理部15とネットワークインタフェース16とを介して、付加カメラ画像をネットワーク9に配信する。端末8は、ネットワーク9を介して付加カメラ画像を受信して、図示しない表示部に表示する。
【0036】
図5は、第1の実施形態に於ける異常項目診断処理を示すフローチャートである。
異常項目診断部123は、
図4の異常診断処理のステップS44の処理により、
図5に示す異常項目診断処理を開始する。異常項目診断処理は、参考文献1の61〜65頁に、その詳細が記載されている。
ステップS60に於いて、異常項目診断部123は、異常領域判定部122により異常と判断された評価対象の音圧データを取得する。
ステップS61に於いて、異常項目診断部123は、評価項目の2水準直交表の割り付けを行う。2水準直交表の割り付けは、評価項目を単位空間の項目として使用する第1水準の項目と、単位空間の項目として使用しない第2水準の項目に分割することである。なお、2水準直交表の割り付けの組み合わせは、予め定められており、その数は単数であってもよいし、複数であってもよい。
【0037】
ステップS62〜S65に於いて、異常項目診断部123は、2水準直交表の全ての項目の組み合わせに関して処理を繰り返す。
ステップS63に於いて、異常項目診断部123は、当該組み合わせの第1水準および第2水準のそれぞれに関して、サンプルデータの平均と分散とを求めて、サンプルデータの規準化を行い、規準化されたサンプルデータの相関行列を求めることにより、単位空間の計算を行う。
ステップS64に於いて、異常項目診断部123は、異常データの第1水準の各項目および第2水準の各項目に関して、当該単位空間に於ける距離を計算する。
ステップS65に於いて、異常項目診断部123は、2水準直交表の全ての項目組み合わせを繰り返したか否かを判断する。異常項目診断部123は、当該判断条件が成立しなかったならば、ステップS62の処理に戻って次の項目組み合わせの処理を行い、当該判断条件が成立したならば、ステップS66の処理を行う。
【0038】
ステップS66に於いて、異常項目診断部123は、各評価項目の異常への影響度を算出する。すなわち、異常項目診断部123は、i番目の評価項目に対して、当該評価項目を第1水準の項目として含んでいる当該単位空間に於ける異常データの距離を計算する。異常項目診断部123は、i番目の評価項目を第1水準の項目として含んでいる全ての項目組み合わせに関して、当該異常データの距離の平均値D
1,iを求める。異常項目診断部123は、i番目の評価項目に対して、当該評価項目を第2水準の項目として含む、当該単位空間に於ける異常データの距離を計算する。異常項目診断部123は、i番目の評価項目を第2水準の項目として含む全ての項目組み合わせに関して、当該異常データの距離の平均値D
2,iを求める。そして、異常項目診断部123は、D
2,iのD
1,iに対する比を、i番目の評価項目の異常への影響度として算出する。
ステップS67に於いて、異常項目診断部123は、影響度が最も大きい評価項目を異常原因項目として決定し、
図5の処理を終了する。
【0039】
図6(a)〜(c)は、第1の実施形態に於ける異常部位特定処理を説明するための図である。
図6(a)は、カメラ画像内の診断対象物7と、カメラ画像内の複数の格子1〜Nを示す図である。カメラ画像は、N個の格子1〜Nを表示し、更に円柱状の診断対象物7を重畳して表示している。格子1〜Nは、このカメラ画像をN個の矩形領域に分割しており、診断対象物7の異常部位を特定するための各計算点に対応している。
【0040】
図6(b)は、カメラ画像内の格子1〜N上の音圧レベルのパワースペクトル(周波数情報)を示す図である。音圧マップ作成部121は、A/D変換器11からデジタル信号に変換された音圧信号および格子1〜Nの位置情報(方向情報)に基づいて、各格子1〜N上の音圧レベルを算出する。音圧マップ作成部121は、算出した各格子1〜N上の音圧レベルを、例えばFFTによって周波数ごとに分割することにより、各格子1〜N上の音圧レベルのパワースペクトルを算出する。
【0041】
図6(c)は、例えば、評価項目数が2の場合に、異常診断装置1が、
図3に示す正常品の特徴量を抽出して、単位空間を形成する処理を行った場合に、規格化されたサンプルデータX
ijを、二次元平面上に座標(X
i1,X
i2)として表示した図である。破線の楕円は、単位空間に於けるマハラノビスの距離が閾値に等しい点全体である等距離線を示す。破線の楕円内には、正常品に係る各データが存在している。矩形点Aが示す音圧信号は、破線の楕円領域に含まれた正常データである。矩形点Bが示す音圧信号は、破線の楕円領域に含まれない異常データである。
【0042】
図7は、第1の実施形態に於けるカメラ画像表示画面20を示す図である。
カメラ画像表示画面20は、
図4のステップS51に於いて、音圧マップ表示部124によってモニタ14上に表示されたものである。なお、本実施形態の評価項目は、全ての格子のパワースペクトルが含んでいる、全ての周波数帯に於ける音圧レベルの情報である。
カメラ画像表示画面20は、左側に付加カメラ画像20aを表示し、右側に周波数成分表示グラフ27を表示し、付加カメラ画像20aの近傍に拡大ボタン25と縮小ボタン26とをそれぞれ表示している。
付加カメラ画像20aは、診断対象物7の画像と、複数の格子とを重畳して表示している。付加カメラ画像20aの格子のひとつは、詳細表示領域22である。付加カメラ画像20aは更に、下端にスクロールバー23を表示し、右端にスクロールバー24を表示している。
詳細表示領域22は、ユーザがマウス(不図示)のクリックで指定した格子である。ユーザがいずれかの格子をマウスでクリックして指定すると、音圧マップ表示部124は、指定された格子を詳細表示領域22とし、格子の境界線を強調表示すると共に、周波数成分表示グラフ27をカメラ画像表示画面20の右側に表示する。更に、
図4の異常診断処理によって、詳細表示領域22に於けるパワースペクトルのいずれかの周波数成分が異常原因項目として診断された場合、音圧マップ表示部124は、詳細表示領域22の明度や彩度を変化させてハイライト表示する。これによりユーザは、異常原因項目を容易に視認することができる。
【0043】
拡大ボタン25は、例えば、ユーザがマウスでクリックすることにより、付加カメラ画像20aを拡大して表示するものである。
縮小ボタン26は、例えば、ユーザがマウスでクリックすることにより、付加カメラ画像20aを縮小して表示するものである。
スクロールバー23は、付加カメラ画像20aを拡大した際、ユーザがマウスでドラッグすることにより、この付加カメラ画像20aを横方向にスクロールするものである。同様にスクロールバー24は、付加カメラ画像20aを拡大した際、ユーザがマウスでドラッグすることにより、付加カメラ画像20aを縦方向にスクロールするものである。
【0044】
周波数成分表示グラフ27は、ユーザがいずれかの格子を指定した際に表示されるものである。
周波数成分表示グラフ27の横軸は、1/3オクターブバンド中心周波数を示している。横軸の単位は、周波数[Hz]である。
周波数成分表示グラフ27の縦軸は、パワースペクトルの大きさを示している。縦軸の単位は、デシベル[dB]である。
正常データの折れ線は、
図3に示す正常品の特徴量を抽出して単位空間を形成する処理に於けるステップS21に於いて、当該格子の各周波数成分が評価項目iである場合に、算出されたサンプルデータx
ijの平均値を示している。
診断データの折れ線は、
図4に示す異常診断処理において、音圧マップ作成部121が、ステップS32において計算したパワースペクトルを示している。
異常寄与率の棒グラフは、正常データに対する正常データと異常データとの差の割合を示している。これにより、ユーザは、どの周波数領域に異常が発生しているかを容易に把握することができる。
【0045】
(第1の実施形態の効果)
以上、説明した第1の実施形態では、次の(A)〜(G)のような効果がある。
【0046】
(A) 異常診断装置1は、診断対象物7の異常の有無を判定し、判定した異常を、カメラ画像が示す診断対象物7の位置、および、当該位置に於ける音圧と対応させて、モニタ14などに表示している。これにより、異常診断装置1は、任意の形状の診断対象物7に於いて、異常部位を音によって特定して表示することができる。
【0047】
(B) 異常診断装置1は、音圧マップを、カメラ画像に対応した各計算点に於ける音圧レベルの情報、または、パワースペクトルの情報を含んで表示している。これにより、異常診断装置1は、診断対象物7の破損などのように、音のパワースペクトルに影響を与える異常を検出することができる。
【0048】
(C) 異常診断装置1は、正常品群の音圧マップの特徴を表した単位空間を格納した正常性学習DB131を備えている。異常領域判定部122は、正常性学習DB131の単位空間に於ける診断対象物7の音圧マップの原点からの距離が閾値を超えているか否かを判断することによって、診断対象物7の異常の有無を判定している。これにより、ユーザが煩雑な設定を行うことなく、容易に異常の有無を判定することができる。
【0049】
(D) 診断対象物7の単位空間に於ける距離は、正常品群の音圧マップの項目間の相関行列の逆行列によって算出される。異常領域判定部122は、診断対象物7のいずれの計算点での異常も判定しなかったならば、この診断対象物7を新たに正常品群に加えて、測定した音圧マップから相関行列の逆行列を再計算して、単位空間を更新している。これにより、異常診断装置1は、診断対象物7を診断するたびに、正常性学習DB131の単位空間の精度を高めることができ、診断対象物7の異常の判定精度を高めることができる。
【0050】
(E) 異常診断装置1は、診断対象物7の音圧マップに基づいて、各計算点での異常原因項目を診断する異常項目診断部123を備えている。これにより、異常診断装置1は、診断対象物7の異常性に深く係わる位置情報や周波数情報などの異常性の要因を特定し、これをモニタ14などに表示することができる。
【0051】
(F) 異常診断装置1のマイクロホンアレイ3は、複数のマイクで構成されている。これにより、異常診断装置1は、音圧信号に係わる位置情報を取得することができる。
【0052】
(G) 異常診断装置1は、診断対象物7の動作モードを判断して、この動作モードに於ける単位空間の距離を算出する。これにより、異常診断装置1は、診断対象物7の動作モードごとの異常を、それぞれ判断することができる。
【0053】
(第2の実施形態)
図8は、第2の実施形態に於ける異常診断装置1Aの構成を示す図である。
図1に示す第1の実施形態の異常診断装置1と同一の要素には、同一の符号を付与している。
異常診断装置1Aは、第1の実施形態の異常診断装置1の音響信号処理部12(
図1参照)とは異なる音響信号処理部12Aを有し、第1の実施形態のマイクロホンアレイ3(
図1参照)とは異なるマイクロホンアレイ3Aが接続されている。
音響信号処理部12Aは、第1の実施形態の音響信号処理部12と同様の構成に加えて、音圧マップ作成部121とは異なる音圧マップ作成部121A(音圧マップ作成手段)と、音圧マップ表示部124とは異なる音圧マップ表示部124A(音圧マップ表示手段)と、仮想平面設定部125とを有している。
【0054】
音圧マップ作成部121Aは、マイクロホンアレイ3Aで集音した各マイク31(
図9参照)の各音圧信号をビームフォーミング処理して、カメラ2から所定の距離だけ離れた複数の仮想平面に於ける各音圧マップを計算するものである。
仮想平面設定部125は、例えば、カメラ2と診断対象物7の表面から順番に奥行方向に向けて、複数の仮想平面を設定し、音圧マップ作成部121Aに出力するものである。仮想平面設定部125は、カメラ2から診断対象物7の表面までの距離を取得し、この距離を最初の仮想平面として設定し、以降は所定距離ごとに、カメラ2から離れる方向に複数の仮想平面を設定し、これら複数の仮想平面を音圧マップ作成部121Aに出力する。
音圧マップ表示部124Aは、各仮想平面の音圧マップを、カメラ画像に重ねて表示するものである。
【0055】
図9(a),(b)は、第2の実施形態に於けるカメラ2およびマイクロホンアレイ3Aの構成を示す図である。
【0056】
図9(a)は、カメラ2およびマイクロホンアレイ3Aの正面図である。
マイクロホンアレイ3Aは、円板状に構成されており、その中心部にはカメラ2とカメラ光学系21が設置されている。マイクロホンアレイ3Aは、カメラ2を中心とした複数の円周上に、複数のマイク31を等間隔で配置して構成されている。カメラ2の撮影方向と、複数のマイク31の集音方向とは一致している。各マイク31は、音の指向性を有し、特定方向の音を鋭敏に集音することができる。
【0057】
図9(b)は、カメラ2およびマイクロホンアレイ3Aの側面図である。
カメラ2は、レンズなどで構成されたカメラ光学系21を有している。カメラ2は、カメラ光学系21の光軸が、円板状のマイクロホンアレイ3に対して鉛直方向になるように設置されている。これにより、異常診断装置1は、診断対象物7の画像を撮像することができると共に、診断対象物7の音を3次元情報と共に集音することができる。
【0058】
図10は、第2の実施形態に於ける異常診断処理のフローチャートである。
図4に示す第1の実施形態の異常診断処理と同一の要素には同一の符号を付与している。
異常診断装置1Aが起動されて異常診断の指示が入力されたならば、異常診断装置1は、異常診断処理を開始する。
ステップS30およびステップS31A〜S32Aの処理は、音圧マップ作成部121Aによって行われる。ステップS30Aの処理は、仮想平面設定部125によって行われる。
ステップS30の処理は、
図4に示すステップS30の処理と同様である。
ステップS30Aに於いて、仮想平面設定部125は、診断対象物7の表面から等間隔に奥行方向に向けて、複数の仮想平面を設定する。
ステップS31Aに於いて、音圧マップ作成部121Aは、複数の仮想平面に対応した各計算点を設定し、取得した音圧信号を用いて、各仮想平面の各計算点に於ける音圧レベルを算出する。
ステップS32Aに於いて、音圧マップ作成部121Aは、測定した音圧信号を用いて、各仮想平面に対応した各計算点に於けるパワースペクトルを算出する。ステップS32Aの処理が終了すると、音圧マップ作成部121Aは、ステップS30の処理に戻り、以降、ステップS30〜S32Aの処理を繰り返す。
【0059】
ステップS40〜S43の処理は、異常領域判定部122によって行われ、
図4のステップS40〜S43の処理と同様である。
ステップS44の処理は、異常項目診断部123によって行われ、
図4のステップS44の処理と同様である。
ステップS50Aに於いて、音圧マップ表示部124Aは、音圧マップ作成部121Aから各仮想平面に対する音圧マップを取得し、異常項目診断部123から異常性の度合いおよび異常原因項目を取得する。音圧マップ表示部124Aは、各仮想平面の音圧マップ、異常性の度合い、および、異常原因項目をカメラ画像に付加し、付加カメラ画像を生成する。
ステップS51,S52の処理は、各仮想平面ごとの付加カメラ画像を表示することを除き、
図4に示すステップS51,S52の処理と同様である。
【0060】
図11は、第2の実施形態に於けるカメラ画像表示画面20Aを示す図である。
カメラ画像表示画面20Aは、
図10のステップS51に於いて、音圧マップ表示部124Aによってモニタ14上に表示されたものである。
カメラ画像表示画面20Aは、左上に付加カメラ画像20a−1を表示し、右上に付加カメラ画像20a−2を表示し、左下に付加カメラ画像20a−3を表示し、右下に付加カメラ画像20a−4を表示している。各付加カメラ画像20a−1〜20a−4の横には、マイクロホンアレイ3Aからの距離が表示されている。
【0061】
付加カメラ画像20a−1は、マイクロホンアレイ3Aからの距離が0.4mの仮想平面に於ける音圧マップを、カメラ画像に付加したものである。付加カメラ画像20a−1は、診断対象物7の表面に対応する仮想平面を示すものである。このとき、マイクロホンアレイ3Aから診断対象物7の表面までの距離は、0.4mである。
付加カメラ画像20a−2は、マイクロホンアレイ3Aからの距離が0.5mの仮想平面に於ける音圧マップを、カメラ画像に付加したものである。
付加カメラ画像20a−3は、マイクロホンアレイ3Aからの距離が0.6mの仮想平面に於ける音圧マップを、カメラ画像に付加したものである。
付加カメラ画像20a−4は、マイクロホンアレイ3Aからの距離が0.7mの仮想平面に於ける音圧マップを、カメラ画像に付加したものである。
【0062】
各付加カメラ画像20a−1〜20a−4には、診断対象物7のカメラ画像の輪郭が線として表示され、各音圧マップは音圧レベルの等高線で色分け表示されている。各付加カメラ画像20a−1〜20a−4は、音圧レベルがグレイスケールで表示され、音圧レベルが高い領域は濃く表示され、音圧レベルが低い領域は薄く表示されている。
付加カメラ画像20a−2に示されているように、マイクロホンアレイ3Aからの距離が0.5mの仮想平面には、音圧レベルが高い領域が存在する。付加カメラ画像20a−2は、音圧レベルが高い領域の格子の境界線を強調表示すると共に、この格子の音圧レベルが「レベル大」であることを当該格子下側のダイアログで表示している。
【0063】
(第2の実施形態の効果)
以上、説明した第2の実施形態では、第1の実施形態の効果に加えて、次の(H),(I)のような効果がある。
【0064】
(H) マイクロホンアレイ3Aは、カメラ2を中心とした円周上に、複数のマイク31を等間隔で配置して構成されている。これにより、異常診断装置1は、診断対象物7の音圧信号の信号対雑音比を向上させると共に、音圧信号の3次元的な位置情報を取得することが可能となる。
【0065】
(I) 音圧マップ作成部121Aは、マイクロホンアレイ3Aで集音した各マイク31の各音圧信号にビームフォーミング処理を行い、カメラ2から所定の距離だけ離れた複数の仮想平面に於ける各音圧マップを計算している。これにより、異常診断装置1は、診断対象物7の異常位置を、3次元で特定可能に表示することができる。
【0066】
(変形例)
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更実施が可能であり、例えば、次の(a)〜(g)のようなものがある。
【0067】
(a) 異常項目診断部123は、サンプルデータx
ijを規準化したサンプルデータX
ijを用い、サンプルデータX
ijの相関行列を用いている。しかし、これに限られず、異常項目診断部123は、規準化したサンプルデータX
ijを用いずに、x
ijの分散共分散行列を用いてもよい。
【0068】
(b) ネットワーク9は、携帯電話網であってもよい。
【0069】
(c) 第1の実施形態の正常データ学習処理(
図2参照)に於ける既定数は、ユーザが自由に設定できるようにしてもよい。
【0070】
(d) 第1の実施形態の異常診断処理(
図4参照)に於ける閾値は、ユーザが任意に設定できるようにしてもよい。
【0071】
(e) 異常項目診断部123は、
図4に示す異常項目診断処理では、1つの評価項目を異常原因項目としていたが、1または複数の項目を異常原因項目としてもよい。例えば、異常項目診断部123は、異常データの第1水準および第2水準のそれぞれに関する当該単位空間に於ける距離を計算し、第2水準に関する当該単位空間に於ける距離の第1水準に関する当該単位空間に於ける距離の比を算出し、当該距離の比が最も大きい項目組み合わせに於ける第2水準の1または複数の項目を異常原因項目としてもよい。これにより、異常の原因が、複数の項目の複合的な影響である場合には、異常の原因をより的確に示すことができる。
【0072】
(f) 第1の実施形態の異常項目診断処理(
図5参照)に於ける2水準直交表の組み合わせは、ユーザが任意に設定できるようにしてもよい。
【0073】
(g) 第2の実施形態の付加カメラ画像20aは、診断対象物7の輪郭が線として表示され、音圧レベルが等高線で色分け表示されている。しかし、これに限られず、付加カメラ画像20aは、診断対象物7が赤のグレイスケールで表示され、かつ、音圧レベルが青色の等高線で青のグレイスケールで色分け表示されていてもよい。