【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するべく本発明者は種々の検討を行った。独立懸架形式のサスペンションは、左右の車輪がそれぞれ独立して動けることから車輪の接地性に優れ、車体を安定化させることに寄与するものであり、尚かつ軽量化に有利なものでもある。ところが、その構造上、コーナリング時に内側車輪が持ち上がる一方で、コーナリング外側の車輪が沈み込むというように、そもそも、左右が独立して独自の動きをすることができるようにしたものである。本発明者は、このような独立懸架方式サスペンションのそもそもの特徴に着目しつつ鋭意検討を重ね、かかる課題の解決に結び付く知見を得るに至った。
【0010】
本発明はかかる知見に基づくもので、前輪が一輪、後輪が二輪の自動三輪車であって、
当該自動三輪車のフレームに対して上下動可能に構成された左後輪用のサスペンションメンバーと、
フレームに対して上下動可能に構成された右後輪用のサスペンションメンバーと、
これら左右のサスペンションメンバーの動作を連係させる連係部材と、
を備えており、
連係部材は、
左後輪用のサスペンションメンバーの動きを伝達する左コネクティングロッドと、
右後輪用のサスペンションメンバーの動きを伝達する右コネクティングロッドと、
左後輪と右後輪との間に配置され、フレームに設けられた軸受に支持されて軸周りに回転運動をするコネクティングシャフトと、
該コネクティングシャフトと左コネクティングロッドの間に配置され、コネクティングシャフトの回転運動を左コネクティングロッドの往復動へ、あるいはこれとは逆へと動きを変換する左クランク部材と、
コネクティングシャフトと右コネクティングロッドの間に配置され、コネクティングシャフトの回転運動を右コネクティングロッドの往復動へ、あるいはこれとは逆へと動きを変換する右クランク部材と、
を備えていることを特徴としている。
【0011】
本発明に係る自動三輪車においては、コーナリング時のロールが以下のようにして抑えられる。すなわち、自動三輪車がコーナリングするとき、遠心力の影響によりコーナリング内側の後輪を持ち上げようとする力が作用し、サスペンションメンバーが上方に動こうとするところ、このときのサスペンションメンバーの動きはコネクティングロッドによってクランク部材へと伝達され、回転運動へと変換されてコネクティングシャフトを回転させる。この一連の動きはコネクティングロッドを介してコーナリング外側へと伝達され、コーナリング外側のクランク部材、コネクティングロッド、サスペンションメンバーをコーナリング内側と対称的に動作させる。この結果、コーナリング外側の後輪に対しても持ち上げる方向への力が作用する。したがって、この自動三輪車によれば、左右独立の懸架形式でありながら、自動車のコーナリング時のロールができるだけ生じないように抑えることができる。
【0012】
しかも、本発明に係る自動三輪車においては、左右の懸架装置間の動きを、軸周りに回転運動するコネクティングシャフトを媒介として直接的に伝達する構造としたことから、動きを伝達するための機構としてロス(伝達時の損失)が少ない。このため、例えばショックアブソーバーを介して左右の懸架装置間の動きを伝達するような構造などと比較して、より簡素な構造でもってコーナリング時のロールを抑えることが可能となっている。
【0013】
ところで、車体コーナリング時におけるロール現象を抑えるパーツとしては「スタビライザー」がある。スタビライザーは、四輪自動車において広く利用されているもので、左右のサスペンションアームをコの字型をしたバネ鋼で連結し、車体がロールしたとき(旋回時に作用する遠心力で傾いたとき)に発生するバネ鋼のねじれの反発を利用してロールを抑えるパーツであり、単純にサスペンションのバネを硬くした場合に比べ、乗り心地やストロークが犠牲になるのを抑えつつ過大なロールを抑えることを可能とする。このようなスタビライザーの機能を、左右のタイヤの伸縮という観点からみてみると、コーナリング外側のタイヤが荷重増により縮んだ状態となり、内側のタイヤは荷重減により伸びた状態となるところ、スタビライザーはこのような伸びを少なくして車体の姿勢を安定させるように機能するということができる。
【0014】
これに対し、本発明は、ロール時の自動三輪車において左右をいわば「矯正」するという点でスタビライザーとは異なる。すなわち、コーナリング時、内側の後輪の持ち上がりを抑止し難く、尚かつコーナリング外側の後輪が沈み込みやすいという自動三輪車の構造上の特性に対し、本発明は、左右の動きをリンクさせて同期をとり、ロールを抑えるべく左右の動きを矯正しているということができる。
【0015】
このような自動三輪車においては、連係部材に、左右のサスペンションメンバーの動作を連係させる際の動きを部分的に吸収する弾性部材が組み込まれていることが好ましい。このような弾性部材は、左右のサスペンションメンバー間で動作が連係される際、動きの一部を吸収することにより、連係部材や左右のサスペンションメンバーなどに作用しうる大きな力を緩衝し、これらの部材が破損することを回避する。
【0016】
このような自動三輪車においては、クランク部材の一部が撓み量可変の可撓性部材で構成されていてもよい。このような可撓性部材によれば、左右の懸架装置間の動きを伝達する機構に適度な遊びを生じさせ、実際の動きを適宜吸収することにより、当該伝達機構やその他の部材に多大な負荷が作用して破損に至るのを抑止することが可能となる。
【0017】
この場合、可撓性部材は、断面が非円形であって該断面の傾きが可変であり、その傾きに応じて撓み量を変化させる部材であってもよい。このような可撓性部材を備えた自動三輪車においては、当該可撓性部材を回転させて断面の傾きを変えることで撓み量を変化させることができる。
【0018】
さらに、この場合の可撓性部材はその一部が板状に扁平した扁平部を備えており、その扁平部の傾きを変えることによって撓み量を変化させるものであってもよい。
【0019】
また、自動三輪車は、運転席からの操作に応じて可撓性部材の撓み量を変化させる操作手段をさらに備えているものであってもよい。この自動三輪車によれば、ユーザー(ライダー)は、運転席に着座した姿勢で可撓性部材の撓み量を変化さすることが可能である。
【0020】
また、自動三輪車は、左後輪用および右後輪用のサスペンションメンバーの上下動を減衰させるショックアブソーバーをさらに備えており、コネクティングシャフトには、該コネクティングシャフトの回転運動をショックアブソーバーに伝達する伝達アームが設けられているものであることも好ましい。
【0021】
また、本発明に係る減衰装置は、前輪が一輪、後輪が二輪の自動三輪車のロールを減衰させるための装置であって、
自動三輪車のフレームに対して上下動可能に構成される左後輪用のサスペンションメンバーと、
フレームに対して上下動可能に構成される右後輪用のサスペンションメンバーと、
これら左右のサスペンションメンバーの動作を連係させる連係部材と、
を備えており、
連係部材は、
左後輪用のサスペンションメンバーの動きを伝達する左コネクティングロッドと、
右後輪用のサスペンションメンバーの動きを伝達する右コネクティングロッドと、
左後輪と右後輪との間に配置され、フレームに設けられた軸受に支持されて軸周りに回転運動をするコネクティングシャフトと、
該コネクティングシャフトと左コネクティングロッドの間に配置され、コネクティングシャフトの回転運動を左コネクティングロッドの往復動へ、あるいはこれとは逆へと動きを変換する左クランク部材と、
コネクティングシャフトと右コネクティングロッドの間に配置され、コネクティングシャフトの回転運動を右コネクティングロッドの往復動へ、あるいはこれとは逆へと動きを変換する右クランク部材と、
を備えていることを特徴とするものである。