特許第6061735号(P6061735)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6061735電池用セパレータ及び電池用セパレータの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061735
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】電池用セパレータ及び電池用セパレータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20170106BHJP
【FI】
   H01M2/16 P
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-42613(P2013-42613)
(22)【出願日】2013年3月5日
(65)【公開番号】特開2014-170693(P2014-170693A)
(43)【公開日】2014年9月18日
【審査請求日】2015年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高岡 和千代
(72)【発明者】
【氏名】中島 敏充
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−134024(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/143005(WO,A1)
【文献】 特開2008−192483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
延伸ポリエステル繊維と未延伸ポリエステル繊維とを含有してなる繊維マトリクスと、微細物とを含有してなる電池用セパレータにおいて、繊維マトリクスの繊維表面がポリオレフィン膜層で被覆されていることを特徴する電池用セパレータ。
【請求項2】
微細物の形状が繊維形状又は粒子形状である請求項1記載の電池用セパレータ。
【請求項3】
延伸ポリエステル繊維と未延伸ポリエステル繊維とを含有してなる繊維マトリクスを形成する工程、ポリオレフィン系微粒子を付与することによって、該繊維マトリクスの繊維表面をポリオレフィン膜層で被覆する工程、繊維マトリクスに微細物を付与する工程を含む電池用セパレータの製造方法。
【請求項4】
延伸ポリエステル繊維と未延伸ポリエステル繊維と微細物とを含有してなる繊維マトリクスを形成する工程、ポリオレフィン系微粒子を付与することによって、該繊維マトリクスの繊維表面をポリオレフィン膜層で被覆する工程を含む電池用セパレータの製造方法。
【請求項5】
微細物の形状が繊維形状又は粒子形状である請求項3又は4記載の電池用セパレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用セパレータ及び電池用セパレータの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用などの車両用電池や電力貯蔵用の電源など、電池が大型高出力化するに従い、リチウム二次電池の構成要素たる電池用セパレータにも耐熱性の付与の要望が高まっている。リチウム二次電池に使用される電池用セパレータとしては、ポリオレフィン多孔膜が主流である。しかし、特に充放電電流値が大きくなるような車両用電池などでは、内部温度がポリオレフィン多孔膜に使用されているポリプロピレンの耐熱温度130℃を超える領域でも安定に電池が動作できることが要望されており、従来のポリオレフィン多孔質膜では耐熱性が不足するという事態に陥っている。このような状況は、リチウム二次電池だけではなく、マグネシウム空気電池、リチウム空気電池でも見られ、さらにこれらを一次電池として利用した場合などでも同様な傾向にある。
【0003】
リチウム二次電池では、耐熱性付与のために、ポリオレフィン多孔膜に無機充填剤を充填して耐熱性を付与する方法(特許文献1)、ポリプロピレン多孔膜に無機多孔質膜を積層する方法(特許文献2)などが検討されている。しかし、ポリオレフィン系材料をセパレータに用いている限り、130℃を超える耐熱性を付与することができない。また、耐熱性の高いポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔膜(特許文献3)、ポリアミド多孔膜やポリイミド多孔膜(特許文献4)なども提案されている。PTFE多孔膜はPTFEフィルムを延伸させて製造できるが、フィルム強度が弱く、薄い多孔膜には向かない。ポリサルフォン多孔膜は、ポリサルフォンを有機溶剤に溶解させて、この溶剤を水などに置換させて、スピノーダル分解によって多孔質化させるために、製造プロセスが複雑である。ポリアミド多孔膜、ポリイミド多孔膜に至っては、芳香族ポリアミドや芳香族ポリイミドの合成プロセスと多孔膜の形成が同時に進行するので、コントロールが難しく、汎用化されるべき電池への利用には制約が多い。
【0004】
これらとは別に、芳香族ポリエステル材料を用いたセパレータ(特許文献5)も提案されている。これは、芳香族ポリエステルとしてポリエチレンテレフタレート(PET)繊維を用いた支持体に多孔質セラミック膜層を組み合わせて、耐熱性と多孔性の双方を満足させようとするものであるが、芳香族ポリエステル繊維は電解液中で発生する酸やアルカリで加水分解する可能性があり、過酷な条件でリチウム二次電池が使用された場合、信頼性に問題があった。特に製造方法が容易で、均一性の高い湿式抄造法によって、PET短繊維を用いた支持体を製造する際には、結晶化度の高い延伸PET繊維のほかに未延伸PET繊維をバインダー繊維として併用しているが(特許文献6)、この未延伸PET繊維の耐加水分解性は延伸PET繊維よりも低く、問題を残していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−259680号公報
【特許文献2】特開2005−38854号公報
【特許文献3】特開2004−127545号公報
【特許文献4】特開昭53−74572号公報
【特許文献5】特表2006−507635号公報
【特許文献6】特開2009−230975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、耐加水分解性の向上した電池用セパレータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために鋭意検討をした結果、下記に示す本発明により上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
(1)延伸ポリエステル繊維と未延伸ポリエステル繊維とを含有してなる繊維マトリクスと、微細物とを含有してなる電池用セパレータにおいて、繊維マトリクスの繊維表面がポリオレフィン膜層で被覆されていることを特徴する電池用セパレータ。
(2)微細物の形状が繊維形状又は粒子形状である上記(1)記載の電池用セパレータ。
(3)延伸ポリエステル繊維と未延伸ポリエステル繊維とを含有してなる繊維マトリクスを形成する工程、ポリオレフィン系微粒子を付与することによって、該繊維マトリクスの繊維表面をポリオレフィン膜層で被覆する工程、繊維マトリクスに微細物を付与する工程を含む電池用セパレータの製造方法。
(4)延伸ポリエステル繊維と未延伸ポリエステル繊維と微細物とを含有してなる繊維マトリクスを形成する工程、ポリオレフィン系微粒子を付与することによって、該繊維マトリクスの繊維表面をポリオレフィン膜層で被覆する工程を含む電池用セパレータの製造方法。
(5)微細物の形状が繊維形状又は粒子形状である上記(3)又は(4)記載の電池用セパレータの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、耐熱性を有し、かつ、耐加水分解性の向上した電池用セパレータを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の電池用セパレータ(以下、「セパレータ」と略記する場合がある)は、延伸ポリエステル繊維と未延伸ポリエステル繊維とを含有してなる繊維マトリクスと、微細物とを含有してなる電池用セパレータにおいて、繊維マトリクスがポリオレフィン膜層で被覆されていることを特徴する電池用セパレータである。
【0011】
ポリエステル繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレートなどが挙げられる。これらは、単独で使用しても良いし、2種類以上を併用しても良い。これらの中でも、リチウム二次電池の電池用セパレータに使用する場合には、耐熱性に優れているポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。
【0012】
延伸ポリエステル繊維とは、繊維を紡糸する際に、熱及び引っ張り強度をかけて、繊維を延伸させて、ポリエステルを配向させた繊維である。強度が強く、融点又は軟化点が200℃を超える耐熱性を有する繊維である。一方、未延伸ポリエステル繊維とは、バインダーとしても使用される繊維であり、延伸工程を含まずに形成される。また、末端に配向を阻害するスルフォン酸基等の官能基を導入した高分子を繊維に含有させている場合もある。未延伸ポリエステル繊維の熱融着温度は80℃から130℃であり、未延伸ポリエステル繊維間や延伸ポリエステル繊維と未延伸ポリエステル繊維間の熱融着が可能である。
【0013】
本発明では、延伸ポリエステル繊維と未延伸ポリエステル繊維とを含有してなる繊維マトリクスが使用される。この繊維マトリクスは、乾式法や湿式法によって製造される。乾式法とは、繊維長30mmから120mmの短繊維を空気中で解繊させてウェッブとし、ニードルや水流によって交絡させた後、未延伸ポリエステル繊維の熱融着温度以上で結合させ、繊維マトリクスに強度を与える方法である。湿式法とは、繊維長1.5mmから20mmの短繊維を水中で解繊させて、円網、短網、長網によって水中から漉き上げる方法で、繊維を乾燥する工程で、未延伸ポリエステル繊維が熱融着され、強度を与える方法である。乾式法よりも湿式法の方が、繊維マトリクスの均一性は向上する。短繊維の長さの差などから、繊維マトリクスの強度は、湿式法よりも乾式法が優れている。
【0014】
繊維マトリクスは熱カレンダー、カレンダー等の処理によって、厚みを薄くすることや均等にすることができる。繊維マトリクスは、目付量が6〜25g/mであることが好ましく、厚みが10〜50μmであることが好ましく、空隙率が30%〜80%であることが好ましい。さらに好ましくは、目付量が8〜15g/mであり、厚みが12〜25μmであり、空隙率が40%〜70%である。繊維マトリクス中には、ポリエステル繊維のほかに、レーヨン、セルロースアセテート、リヨセル、パルプ、アクリル、アラミド、ポリオレフィンなどを併用することが可能である。
【0015】
延伸ポリエステル繊維は、全繊維に対して、60〜98質量%であることが好ましく、70〜90質量%であることがより好ましい。また、未延伸ポリエステル繊維は、全繊維に対して、2〜40質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることがより好ましい。
【0016】
繊維マトリクスは、ポリオレフィン膜層で被覆されている。耐加水分解性を付与するために用いることのできるポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。また、変性率が5%以下のポリオレフィンであって、成膜温度が80℃以上であるポリオレフィンが好ましい。変性率と成膜温度は重要で、これよりも変性率が高く、成膜温度の低いポリオレフィンでは、耐加水分解性が低下してしまう。ポリオレフィンの添着量は、繊維マトリクスの1から10質量%であることが好ましく、さらに好ましくは2から8質量%である。添着量が低いと、繊維マトリクスを被覆できずに、耐加水分解性が低下する場合がある。添着量が高すぎると、電池用セパレータとして必要な多孔性を阻害する場合がある。添着方法は、ポリオレフィンの微粒子(ラテックス)を使用した浸漬法による塗工が好ましい。塗工後乾燥させて、成膜温度以上で加熱して、ポリオレフィン膜層を形成させる。
【0017】
繊維マトリクスは細孔調整を行って、電池用セパレータとなる。細孔調整とは、電池用セパレータの細孔分布を調整することである。細孔分布を適正化することによって、電解液の保持、電極活物質やアセチレンブラック等の導電剤の電極からの遊離・剥離の防止、二次電池の場合におけるデンドライトの成長抑制等の効果が得られる。細孔分布の調整には、微細物を電池用セパレータに含有させるが、概ね三つの方法がある。
【0018】
第一に、繊維形状の微細物を使用し、微細物を含有する新たな多孔層を繊維マトリクス上に形成する方法である。繊維形状の微細物としては超微細繊維が挙げられ、フィブリル化アラミド繊維やフィブリル化セルロース繊維、バクテリアセルロース繊維などが使用できる。フィブリル化繊維とは、水中で結晶性繊維を高分子の配向方向で分割して微細化された繊維である。しかし、これらの繊維は単独で水中から取り出すと、成膜化して、多孔性を失うので注意が必要である。これらの超微細繊維を含む分散液を、繊維マトリクスに塗工又は含浸させて、多孔層を形成することができる。
【0019】
また、高分子を有機溶剤中に溶解させておき、電解中に吹き出して、繊維径が50nmから200nmの連続な超微細繊維を含有してなる多孔層を製造する方法(エレクトロスピニング法)、高分子を有機溶剤中に溶解させておき、貧溶媒中に吹き出して繊維径300nm以下の超微細繊維を含有してなる多孔層を製造する方法がある。超微細繊維を含有する多孔層の量としては、1〜10g/mが好ましく、さらに好ましくは2〜8g/mである。
【0020】
第二の方法として、粒子形状の微細物を使用し、微細物を含有する新たな多孔層を繊維マトリクス中に形成する方法である。粒子形状の微細物としては無機粒子が挙げられる。無機粒子としては、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニアなどの金属酸化物や、硫酸バリウム、リン酸アルミニウムなどの難溶解性塩の微粒子が挙げられる。α−アルミナを含有する多孔質層は、耐熱性及び耐加水分解性に優れており、好ましい材料である。無機粒子の粒子径としては、0.1μmから2.0μmが好ましく、さらに好ましくは0.3から1.5μmである。粒子径は、無機粒子を水で充分に希釈し、これをレーザー散乱タイプの粒度測定機(マイクロトラック社製、商品名:3300EX2)によって測定し、得られた中心粒子径(D50、体積平均)である。
【0021】
無機粒子を含有する多孔層に柔軟性を付与するために、柔軟性を有する有機物とハイブリッド化することが好ましい。有機物としては、特に高分子が好ましい。このような高分子としては、アクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂、スチレンブタジエンゴム(SBR)樹脂、変性ポリオレフィン樹脂などが利用可能である。特に耐加水分解性の観点から、変性ポリオレフィン樹脂が優れている。高分子がラテックス化されていると、水系での塗工が可能である。また、水系で塗工して多孔層を形成するには、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロースなどの水溶性セルロースを併用すると、塗工性が向上する。
【0022】
塗工方法としては、流延法、浸漬法、ドクターブレード法、ナイフコート法、バーコート法、グラビアコート法、スクリーンコート法、スプレー法、ロールコート法などが挙げられる。無機粒子を含有する多孔層の量としては、1〜100g/mが好ましく、さらに好ましくは2〜50g/mである。また、塗工速度としては、0.2〜50m/分が好ましい。塗工後乾燥工程を経て、多孔質セラミック膜層は形成される。乾燥温度は70℃から160℃が好ましいが、ポリオレフィン系ラテックスを用いた場合には、成膜温度以上に加熱する必要がある。
【0023】
第三の方法として、超微細繊維や無機粒子を、繊維マトリクスを形成する段階で導入する方法である。特に、湿式法で繊維マトリクスを製造する場合には、水中で、延伸ポリエステル繊維、未延伸ポリエステル繊維、微細物を含有する分散液を調製して、一度に漉き上げることができる。この方法では、製造方法が簡素化できる利点があるが、その分、繊維マトリクスに導入できる微細物の量がばらつくことや、微細物が製造時に沈降するといった問題が発生することがあり、所望の細孔分布を出すことは、上記の第一及び第二の方法と比較すると、難しい。
【0024】
三つの方法は、単独で使用しても良いし、各々を組み合わせて使用しても良い。電池用セパレータとしては、厚みは、好ましくは10〜60μmであり、より好ましくは12〜35μm、また必要な細孔分布は好ましくは0.1μmから10μmであり、さらに好ましくは0.2μmから4μm、内部空隙率は好ましくは30%から90%、さらに好ましくは40%から80%である。
【0025】
電池用セパレータは、リチウム二次電池やリチウム空気電池、マグネシウム空気電池などに利用される。リチウム二次電池用セパレータは、裁断されて、リチウム二次電池用の電極材料間に挟み込まれて、電解液を注入して、電池を封止して、リチウム二次電池となる。正極を構成する材料は、主に、活物質とカーボンブラック等の導電剤、ポリフッ化ビニリデンやSBR等のバインダーであって、活物質としては、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケルマンガンコバルト酸リチウム(NMC)やアルミニウムマンガン酸リチウム(AMO)などのリチウムマンガン複合酸化物、鉄リン酸リチウムなどが用いられる。これらは、混合されて集電体であるアルミニウム箔上に塗工されて、正極となる。
【0026】
負極を構成する材料は主に、活物質と導電剤、バインダーであって、活物質としては、黒鉛、非晶質炭素材料、珪素、リチウム、リチウム合金などが用いられる。これらは混合されて、集電体である銅箔上に塗布されて負極となる。リチウム二次電池は、正極、負極間にセパレータを挟み込み、ここに電解液を含浸させて、イオン伝導性を持たせて、導通させる。リチウム二次電池では非水系電解液が用いられるが、一般的に、これは溶媒と支持電解質で構成させる。溶媒として用いられるのは、例えばエチレンカーボネイト(EC)、プロピレンカーボネイト(PC)、ジエチルカーボネイト(DEC)、ジメチルカーボネイト(DMC)、エチルメチルカーボネイト(EMC)及び添加剤的な働きを有するビニレンカーボネイト、ビニルエチレンカーボネイトなどのカーボネイト系である。ジメトキシエタン(DME)を用いることもできる。支持電解質としては、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウムのほかに、LiN(SOCFなどの有機リチウム塩なども用いられる。イオン液体も利用できる。
【0027】
外装体としては、アルミニウムやステンレススチール等の金属円筒缶や角形缶、アルミニウム箔をポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等でラミ加工したラミネートフィルムを用いたシート型の外装体が利用できる。また、積層化してスタッキングして用いることや、円柱状に回旋して用いることもできる。
【0028】
リチウム空気電池としては、金属リチウムと正極触媒層に挟み込まれて、電解液を注入し、撥水膜などを併用してリチウム空気電池となる。正極触媒層は多孔質カーボン体に、白金、パラジウム、鉄やカーボンナノチューブ等の触媒が担持されており、酸素を還元する。電解液としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ水が用いられる。
【実施例】
【0029】
次に、本発明を実施例によって、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
[繊維マトリクス1の作製]
以下の短繊維の構成で、湿式法により目付量12g/mの繊維マトリクスを作製した。この時の乾燥温度は130℃であった。
【0031】
延伸PET繊維(0.06dtex、3mm) 40質量部
延伸PET繊維(0.1dtex、3mm) 35質量部
未延伸PET繊維(0.2dtex、3mm) 25質量部
【0032】
次に、200℃で熱カレンダー処理を施し、厚み17μmの繊維マトリクス1を作製した。次に、繊維マトリクス1にポリオレフィンラテックス(ユニチカ製、アローベース(登録商標)SE−1205J2)を、固形分で1.0g/m塗工して、105℃で熱処理を施し、繊維マトリクス1をポリオレフィン膜層で被覆した。
【0033】
以下の構成の塗液1を作製した。
【0034】
α−アルミナ微粒子(住友化学製、商品名:AA07) 100質量部
ピロリン酸ナトリウム 0.1質量部
ポリアクリル酸ナトリウム(花王製、商品名:ポアズ520) 0.2質量部
カルボキシメチルセルロースナトリウム(日本製紙ケミカル製、商品名:MAC500LC) 0.9質量部
ポリオレフィンラテックス(ユニチカ製、商品名:アローベース(登録商標)SD−1205J2) 15質量部
水 180質量部
【0035】
塗液1をポリオレフィン膜層で被覆した繊維マトリクス1に含浸させて、80℃で乾燥後、105℃で熱処理を施し、厚み25μmの電池用セパレータ1を作製した。
【0036】
次に、電池用セパレータ1を60℃に加熱した0.2Nの水酸化カリウム水溶液中に72時間浸漬させ、水洗した後、乾燥し、これを電池用セパレータ2とした。
【0037】
(比較例1)
実施例1で得られた繊維マトリクス1に塗液1を含浸させて、厚み25μmの比較電池用セパレータ1を作製した。得られた比較電池用セパレータ1を60℃に加熱した0.2Nの水酸化カリウム水溶液中に72時間浸漬させて、水洗した後、乾燥し、これを比較電池用セパレータ2とした。
【0038】
(実施例2)
以下の構成で微粒子の含有した繊維マトリクスを得た。この時の乾燥温度は130℃であった。
【0039】
延伸PET繊維(0.06dtex、3mm) 40質量部
延伸PET繊維(0.1dtex、3mm) 35質量部
未延伸PET繊維(0.2dtex、3mm) 25質量部
ベーマイト微粒子(大明化学製、商品名:C20) 50質量部
カルボキシメチルセルロースナトリウム(第一工業製薬、商品名:セロゲン(登録商標)BSH−12) 0.2質量部
カチオン化セルロース(花王製、ポイズC−150L) 0.1質量部
【0040】
次に、200℃で熱カレンダー処理を施し、厚み27μmの繊維マトリクス2を作製した。次に、繊維マトリクス2にポリオレフィンラテックス(ユニチカ製、アローベース(登録商標)SE−1205J2)を、固形分で2.5g/m塗工して、105℃で熱処理を施し、ポリオレフィン膜層で被覆して、厚み27μmの電池用セパレータ3を作製しした。次に、電池用セパレータ3を60℃に加熱した0.2Nの水酸化カリウム水溶液中に72時間浸漬させ、水洗した後、乾燥し、これを電池用セパレータ4とした。
【0041】
(実施例3)
以下の構成で、ホモジナイザー(PRIMI社製、商品名:T.K.HOMODISPER model 2.5)を使用して、3000rpmで2時間撹拌し、微細セルロース分散液を作製した。
【0042】
濃度10質量%微細セルロース繊維(ダイセルファインケム製、セリッシュ(登録商標)KY−100G) 100質量部
カルボキシメチルセルロースナトリウム(日本製紙ケミカル製、商品名:MAC800LC) 2.0質量部
水 400質量部
【0043】
この分散液を実施例1で作製した繊維マトリクス1上に流延して、目付量1.2g/m相当の微細セルロース繊維を含有してなる繊維マトリクスを付与した。次に、200℃で熱カレンダー処理を施し、厚み18μmの繊維マトリクス3を作製した。この繊維マトリクス3にポリオレフィンラテックス(ユニチカ製、アローベース(登録商標)SE−1205J2)を、固形分で2.5g/m塗工して、105℃で熱処理を施し、厚み18μmの電池用セパレータ5を作製した。次に、電池用セパレータ5を60℃に加熱した0.2Nの水酸化カリウム水溶液中に72時間浸漬させ、水洗した後、乾燥し、これを電池用セパレータ6とした。
【0044】
[セパレータの強度物性]
各セパレータを横5cm×縦20cmに裁断して、JIS P 8113に規定された方法で、引っ張り強度を卓上型材料試験機(ORIENTEC製、商品名:STA−1150)を用いて測定した(試料ツカミ間隔は10cm、速度100mm/min)。最大荷重を計測し、これを引っ張り強度とし、結果を表1に与えた。
【0045】
[セパレータの平均細孔径の測定]
セパレータの平均細孔径をポロメーター(PMI社製、商品名:Cappilary Flow Porometer CEP−1500−A)を用いて測定し、結果を表1に与えた。
【0046】
[セパレータの透気度の測定]
各セパレータのガーレー透気度を、ガーレー形通気性試験機(東洋精機製作所製、デンソメーター)で測定し、結果を表1に与えた。
【0047】
[電池特性の評価]
アルミニウム箔上に、マンガン酸リチウム、アセチレンブラック、ポリフッ化ビニリデンを100/5/3の質量比で、200g/mを塗工し、溶剤を乾燥してさらにプレスをかけて正極を作製した。一方、銅箔上に球状人造黒鉛、アセチレンブラック、ポリフッ化ビニリデンを85/15/5の質量比で、100g/mを塗工し、乾燥後プレスをかけて負極を作製した。
【0048】
得られた両電極間に各セパレータを挟み込み、宇部興産製のリチウム二次電池用電解液(溶媒:EC/DEC/DME=1/1/1(体積比)、支持電解質:六フッ化リン酸リチウム、1mol/l)を滴下し、減圧下でアルミニウム箔ラミネートフィルム中に封止して、リチウム二次電池を作製した。次に作製したリチウム二次電池を4.2Vで充放電を行い、充電容量と放電容量の比率(%)を一回目(初期)と500回目で求めた。結果を表1に与える。
【0049】
【表1】
【0050】
表1より、繊維マトリクスがポリオレフィン膜層で被覆されている電池用セパレータ1、3及び5では、アルカリ処理後(電池用セパレータ2、4及び6)においても、強度物性、平均細孔径、ガーレー透気度、充放電容量比率の評価において大差はなかった。しかしながら、繊維マトリクスがポリオレフィン膜層で被覆されていない比較電池用セパレータ1では、500回後の充放電容量比率の低下率が大きいだけでなく、アルカリ処理後(比較電池用セパレータ2)では、各評価における特性も崩れてしまった。アルカリ処理で特性が崩れる比較電池用セパレータ1及び2では、過酷な条件で使用されるリチウム二次電池で使用するのが難しいだけでなく、リチウム空気電池などのアルカリ水溶液を電解液に用いる電池での使用にも適さない。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の電池用セパレータは、リチウム二次電池やリチウム空気電池などの電池用セパレータとして利用できる。