【実施例】
【0056】
実施例により本発明をさらに具体的に説明する。しかし、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0057】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物、ならびに該樹脂組成物からなるフィルムの物性の測定を、以下の(1)〜(8)の方法によりおこなった。なお、(5)〜(7)の測定は、温度20℃、湿度65%の環境下でおこなった。
【0058】
(1)半芳香族ポリアミド樹脂の極限粘度
濃度が96質量%である濃硫酸中に、30℃にて、半芳香族ポリアミド樹脂を、それぞれ、0.05g/dL、0.1g/dL、0.2g/dL、0.4g/dLの濃度となるように溶解させて、半芳香族ポリアミド樹脂の還元粘度を求めた。そして、各々の還元粘度の値を用い、濃度を0.0g/dLに外挿した値を極限粘度とした。
【0059】
(2)半芳香族ポリアミド樹脂のTm
半芳香族ポリアミド樹脂10mgを、示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製、「DSC−7」)を用い、窒素雰囲気下で20℃から350℃まで10℃/分で昇温し(1st Scan)、350℃にて5分間保持した。その後、100℃/分で20℃まで降温し、20℃にて5分間保持後、350℃まで20℃/分でさらに昇温した(2nd Scan)。そして、2nd Scanで観測される結晶融解ピークのピークトップ温度をTmとした。
【0060】
(3)熱安定剤の熱分解温度
示差熱熱重量同時測定装置(SIIナノテクノロジー社製、「TG/DTA 7200」)を用いて、200mL/分の窒素雰囲気下で、30℃から500℃まで20℃/分で昇温した。昇温前の質量に対して5質量%減少する温度を熱分解温度とした。
【0061】
(4)フィルターの昇圧時間
半芳香族ポリアミド樹脂組成物を、シリンダー温度を320℃に加熱した単軸押出機に投入して溶融し、背面にブレーカープレートを有する平板フィルターで濾過し、その後、320℃に加熱したTダイから押し出した。押出の際、フィルターの単位面積当たりの流量が1kg/cm
2/時間となるように、押出量を設定した。そして、フィルター上流の圧力を経時的に記録した。押出開始からのフィルターの上流圧力変化が10MPaに達するまでの時間を測定した。
【0062】
(5)フィルムの厚み
厚み計(HEIDENHAIN社製、「MT12B」)を用い、フィルムの厚みを測定した。
【0063】
(6)フィルムにおけるフィッシュアイ数
計測機としてオフラインフィッシュアイカウンター(フロンティアシステム社製)を用い、フィルムにおけるフィッシュアイの数を測定した。より具体的には、ロール状としたフィルム(厚さ:25μm)における任意の10点の位置から、サイズが20cm×20cmであるフィルムを10枚切り出し、該フィルム表面における大きさが0.01mm
2以上であるフィッシュアイの数を計測して平均値を求め、1000cm
2当たりに換算した。計測機の検出感度は、日本国立印刷局製造の「きょう雑物測定図表」にしたがって、0.01mm
2以上の大きさのゲルまたはフィッシュアイの数を検出することが可能である条件に調整した。
【0064】
(7)フィルムの引張強度
250℃の熱風乾燥機中に5分間静置した前後のフィルムのMDおよびTDについて、JIS K7127に従って測定した。サンプルの大きさは10mm×150mm、チャック間の初期距離は100mm、引張速度は500mm/分とした。
【0065】
(8)フィルターの絶対濾過径と公称濾過径
JIS B8356に準拠して、フィルターメディア(濾過材)を通過した最大のグラスビーズ粒径のサイズを絶対濾過径とし、フィルターメディアによる捕集効率が95%であるコンタミナントの粒径(異物の粒径)のサイズを公称濾過径とした。
【0066】
以下、本発明の樹脂組成物の製造に使用される芳香族ポリアミド樹脂の製法を記載する。
【0067】
本発明の樹脂組成物の製造に使用される半芳香族ポリアミド樹脂の製造に用いた原料を以下に示す。
<原料モノマー>
DMDA:1,10−デカンジアミン
TPA:テレフタル酸、粉末状
IPA:イソフタル酸
<重合触媒>
SHP:次亜リン酸ナトリウム
<末端封止剤>
BA:安息香酸
【0068】
本発明の実施例および比較例の樹脂組成物に使用される半芳香族ポリアミド樹脂D〜G
<半芳香族ポリアミド樹脂D>
脂肪族ジアミンとして507質量部のDMDA、芳香族ジカルボン酸として489質量部のTPA、末端封止剤として2.8質量部のBA、重合触媒として1質量部のSHP、および1000質量部の水を反応装置に入れ(DMDA:TPA:SHP:BA=100:100:0.32:0.78、モル比)、窒素置換した。さらに、80℃で0.5時間、毎分28回転で撹拌した後、230℃に昇温した。その後、230℃で3時間加熱した。その後冷却し、反応物を取り出した。該反応物を粉砕した後、乾燥機中において、窒素気流下、220℃で5時間加熱し、固相重合してポリマーを得た。そして、シリンダー温度320℃の条件下で溶融混練してストランド状に押し出した。その後、冷却、切断して、ペレット状の半芳香族ポリアミド樹脂Dを調製した。
【0069】
<半芳香族ポリアミド樹脂E>
脂肪族ジアミンとして507質量部のDMDA、芳香族ジカルボン酸として489質量部のTPA、末端封止剤として2.8質量部のBAおよび重合触媒として1質量部のSHP(一水和物)からなる混合物(DMDA:TPA:SHP:BA=100:100:0.32:0.78、モル比)を、プロペラ型撹拌翼を備えたオートクレーブで、窒素雰囲気下、100℃、1時間、毎分20回転で撹拌した。撹拌速度は毎分20回転のまま昇温し、230℃の温度を3時間保ち、塩および低重合体を生成させた。生成した塩および低重合体を破砕しながら攪拌し、その破砕混合物を得た。その後、反応により生じた水蒸気を放圧し、オートクレーブの圧力を常圧に戻した。攪拌速度および反応温度は変更せずに、窒素気流下、230℃の温度を5時間保ち、粉末状の半芳香族ポリアミド樹脂Eを調製した。
【0070】
<半芳香族ポリアミド樹脂F>
芳香族ジカルボン酸として489質量部のTPA(平均体積粒径:80μm)、末端封止剤として2.8質量部のBAおよび重合触媒として1質量部のSHP(一水和物)からなる混合物を、リボンブレンダー式の反応装置に供給し、窒素密閉下、ダブルヘリカル型の攪拌翼を用いて回転数30rpmで撹拌しながら170℃に加熱した。その後、温度を170℃に保ち、かつ回転数を30rpmに保ったまま、液注装置を用いて、100℃に加温した脂肪族ジアミンとしての507質量部(100質量%)のDMDAを、2.8質量部/分の速度で、3時間かけて連続的(連続液注方式)にTPA粉末を含む混合物に添加し反応物を得た。原料のモノマーのモル比は、DMDA:TPA:SHP:BA=100:100:0.32:0.78とした。得られた反応物を、引き続き、同じリボンブレンダー式の反応装置内で、窒素気流下、230℃に昇温し、230℃で5時間加熱して重合し半芳香族ポリアミド樹脂Fを調製した。
【0071】
<半芳香族ポリアミド樹脂G>
脂肪族ジアミンとして507質量部のDMDA、芳香族ジカルボン酸として245質量部のTPA、245質量部のIPA、末端封止剤として2.8質量部のBA、重合触媒として1質量部のSHP、および1000質量部の水を反応装置に入れ(DMDA:TPA:IPA:SHP:BA=100:50:50:0.32:0.78、モル比)、窒素置換した。さらに、80℃で0.5時間、毎分28回転で撹拌した後、230℃に昇温した。その後、230℃で3時間加熱した。その後冷却し、反応物を取り出した。該反応物を粉砕した後、乾燥機中において、窒素気流下、220℃で5時間加熱し、固相重合してポリマーを得た。そして、シリンダー温度320℃の条件下で溶融混練してストランド状に押し出した。その後、冷却、切断して、ペレット状の半芳香族ポリアミド樹脂Gを調製した。
【0072】
表5に、本発明の実施例および比較例の樹脂組成物に使用される半芳香族ポリアミド樹脂D〜Gの組成および特性値を示す。
【0073】
<半芳香族ポリアミド樹脂H>
三井化学社製ナイロン6T、アーレンE、融点320℃
【0074】
【表5】
【0075】
<熱安定剤>
(1)本発明の実施例および比較例の樹脂組成物に使用されるヒンダードフェノール系熱安定剤
・GA
3,9−ビス[2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、住友化学社製「スミライザーGA−80」、熱分解温度:382℃、下記の化学式(III)にて示される熱安定剤である。
【化14】
【0076】
・1098
N,N’−(ヘキサン−1,6−ジイル)ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、BASFジャパン社製「イルガノックス1098」、熱分解温度:344℃、下記の化学式(IV)にて示される熱安定剤である。
【化15】
【0077】
・1010
ペンタエリスチル・テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、BASFジャパン社製「イルガノックス1010」、熱分解温度:355℃、下記の化学式(V)にて示される熱安定剤である。
【化16】
【0078】
(2)本発明の実施例および比較例の樹脂組成物に使用されるリン系熱安定剤
・GSY
テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、堺化学工業社製「GSY−P101」、下記の化学式(VI)にて示される熱安定剤である。
【化17】
【0079】
・EPQ
テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、クラリアント社製「Hostanox P−EPQ」、下記の化学式(VII)にて示される熱安定剤である。
【化18】
【0080】
・168
トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、BASFジャパン社製「イルガフォス168」、下記の化学式(VIII)にて示される熱安定剤である。
【化19】
【0081】
(3)本発明の実施例および比較例の樹脂組成物に使用される二官能型熱安定剤
・GS
2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニルアクリレート、住友化学社製「スミライザーGS」、下記の化学式(IX)にて示される熱安定剤である。
【化20】
【0082】
<本発明の実施例および比較例の樹脂組成物の製造に使用されるフィルター>
・NF−10
金属繊維焼結フィルター、日本精線社製「NF−10」、公称濾過径:30μm、絶対濾過径:30μm
・NF−13
金属繊維焼結フィルター、日本精線社製「NF−13」、公称濾過径:60μm、絶対濾過径:60μm
・NPM−50
金属粉末焼結フィルター、日本精線社製「NPM−50」、公称濾過径:50μm、絶対濾過径:50μm
【0083】
本発明に係る実施例14〜27、および同比較例17〜31
実施例14
100質量部の半芳香族ポリアミド樹脂Dを水分率が200ppm以下になるまで加熱減圧乾燥し、ヒンダードフェノール系熱安定剤として0.2質量部のGA、およびリン系安定剤として0.1質量部のGSYを混合した後、シリンダー温度を330℃に加熱した2軸押出機に投入して溶融混合した。ノズルよりストランド状に押出し、水冷した後、切断し、ペレット状の本発明に係る実施例14の半芳香族ポリアミド樹脂組成物を得た。
【0084】
該樹脂組成物を水分率が100ppm以下になるまで加熱減圧乾燥し、単軸押出機にて335℃で溶融した。なお、単軸押出機のスクリュー径は50mmであった。これを、金属繊維焼結フィルターNF−10を用いて濾過した後、335℃に設定したTダイよりフィルム状に押し出し、フィルム状の溶融物とした。50℃に設定した冷却ロール上に、該溶融物を静電印加法により密着させて冷却し、実質的に無配向の未延伸フィルム(厚さ:250μm)を得た。
【0085】
なお、静電印加のための電極には、直径0.2mmのタングステン線を用いた。静電印加の際には、300W(15kV×20mA)の直流高圧発生装置を用い、6.5kVの電圧を印加した。また、溶融ポリマーの押出量は、フィルター単位面積あたりの流量が、1kg/cm
2/時間となるように設定した。未延伸フィルムを6時間連続で製膜してもフィルターの昇圧は見られず、半芳香族ポリアミドフィルムを長時間連続して生産することが可能であった。
【0086】
次に、この未延伸フィルムの両端をクリップで把持しながら、テンター方式同時二軸延伸機(入口幅:193mm、出口幅:605mm)に導いて、同時二軸延伸をおこなった。延伸条件は、予熱部の温度が120℃、延伸部の温度が130℃、MDの延伸歪み速度が2400%/分、TDの延伸歪み速度が2760%/分、MD方向の延伸倍率が3.0倍、TDの延伸倍率が3.3倍であった。
【0087】
そして、同テンター内で、290℃で熱固定を行い、フィルムの幅方向に7%の弛緩処理を施し、厚さ25μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの外観は良好であった。実施例14の評価結果を表6に示す。
【0088】
【表6】
【0089】
実施例15〜23および25〜27、比較例17〜31
表6〜8に示すように、半芳香族ポリアミド樹脂の種類と含有割合、熱安定剤の種類と含有割合、用いるフィルターの種類を変更した以外は実施例14と同様にして、本発明に係る実施例15〜27の半芳香族ポリアミド樹脂組成物、および比較例17〜31の樹脂組成物を得た。実施例15〜27にて得られたフィルムの外観は良好であった。
【0090】
【表7】
【0091】
【表8】
【0092】
実施例24
表6に示すように、半芳香族ポリアミド樹脂Dに代えて、半芳香族ポリアミド樹脂Hを用いた以外は実施例14と同様にして、本発明に係る実施例24の半芳香族ポリアミド樹脂組成物を得た。実施例24で得られたフィルムの外観は良好であった。
【0093】
なお、比較例23においては、用いた半芳香族ポリアミド樹脂Gの融点が255℃と低かったため、フィルムの延伸に際し、テンター内の熱固定温度を230℃とした。
【0094】
実施例14〜27の半芳香族ポリアミド樹脂組成物、および比較例17〜31の樹脂組成物の組成、該樹脂組成物からフィルムを製膜する際の製造条件、ならびに得られたフィルムの評価を、表6〜8に示す。
【0095】
実施例14〜27にて得られた本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、溶融ポリマーを、絶対濾過径が60μm以下の金属繊維焼結フィルター、または、金属粉末焼結フィルターで濾過および製膜しても、6時間以上フィルターが閉塞することがなかった。さらに、得られたフィルムについても、フィッシュアイ数が20個/1000cm
2以下と少なく、外観に優れ、熱処理前後における引張強度や引張伸度の低下も小さかった。
【0096】
特に、実施例15の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は二官能型熱安定剤が含有されていたため、実施例14の半芳香族ポリアミド樹脂組成物と比較して、熱処理前後における引張強度の低下が低かった。
【0097】
特に、実施例22および23の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、実施例16の半芳香族ポリアミド樹脂組成物と比較して、半芳香族ポリアミド樹脂を製造するに際して、塩および低重合物の破砕混合物や塩の生成時に、大量の水を用いていなかったため、フィッシュアイ数が極めて少なかった。
【0098】
比較例17〜19、26および31の樹脂組成物は、本発明にて規定されたリン系熱安定剤を含有していなかったため、該樹脂組成物を用いて6時間以上連続して製膜することができなかった。
【0099】
比較例20〜22および26〜31の樹脂組成物は、本発明にて規定されたヒンダードフェノール系熱安定剤を含有していなかったため、該樹脂組成物から得られたフィルムは、熱処理後のフィルムの引張強度が低下していた。
【0100】
比較例23の樹脂組成物は、融点が300℃未満である半芳香族ポリアミド樹脂を用いて製膜したため、得られたフィルムを熱処理するとフィルムが変形してしまった。
【0101】
比較例24の樹脂組成物は、本発明にて規定されたヒンダードフェノール系熱安定剤の含有量が過多であったため、フィルム状の溶融物を冷却した際に、該ヒンダードフェノール系熱安定剤が表面にブリードアウトしてしまった。そのため、冷却ロールと冷却後のフィルムとがブロッキングしてしまい、各種評価に付することができなかった。
【0102】
比較例25の樹脂組成物は、本発明にて規定されたリン系熱安定剤の含有量が過多であったため、樹脂組成物が発泡し増粘してしまい製膜することができず、各種評価に付することができなかった。