特許第6061814号(P6061814)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061814
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】半芳香族ポリアミド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20170106BHJP
   C08K 5/5393 20060101ALI20170106BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20170106BHJP
   C08K 5/134 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   C08L77/00
   C08K5/5393
   C08K5/13
   C08K5/134
【請求項の数】4
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-169323(P2013-169323)
(22)【出願日】2013年8月19日
(62)【分割の表示】特願2012-252942(P2012-252942)の分割
【原出願日】2012年11月19日
(65)【公開番号】特開2013-256671(P2013-256671A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2015年10月8日
(31)【優先権主張番号】特願2011-251167(P2011-251167)
(32)【優先日】2011年11月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】穴田 有弘
(72)【発明者】
【氏名】三宅 宗博
(72)【発明者】
【氏名】宗澤 裕二
(72)【発明者】
【氏名】田村 興造
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−523763(JP,A)
【文献】 特開2003−195020(JP,A)
【文献】 特開2002−121380(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/129394(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/129396(WO,A1)
【文献】 特開2010−043175(JP,A)
【文献】 特開2002−241604(JP,A)
【文献】 特開平06−016928(JP,A)
【文献】 特開2000−186205(JP,A)
【文献】 特開平07−228768(JP,A)
【文献】 特開2002−069260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77/00
C08K 5/13
C08K 5/134
C08K 5/5393
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半芳香族ポリアミド樹脂組成物から形成されるフィルムであって、
半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、融点が300℃以上である半芳香族ポリアミド樹脂(テレフタル酸を60モル%以上含有するジカルボン酸成分と、炭素数9の脂肪族ジアミンを60モル%以上含有する脂肪族ジアミン成分とからなる半芳香族ポリアミド樹脂を除く。)100質量部に対して、下記の一般式(I)で示されるリン系熱安定剤0.01〜0.5質量部、および、下記の一般式(II)で示される構造を有し、かつ窒素雰囲気下20℃/分で昇温した際の5%重量減少時の熱分解温度が350℃以上であるヒンダードフェノール系熱安定剤0.01〜0.5質量部を含有する
ことを特徴とするフィルム
【化1】
(式中、R1〜R4は、独立して、水素、2,4−ジ−tert−ブチル−5−メチルフェニル基、または、2,4−ジ−tert−ブチルフェニル基を示す。)
【化2】
(式中、R5およびR6は、独立して、メチル基、エチル基または水素を示す。)
【請求項2】
リン系熱安定剤が、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンホスホナイト、および/または、テトラキス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンホスホナイトであることを特徴とする請求項1記載のフィルム
【請求項3】
ヒンダードフェノール系熱安定剤が、3,9−ビス[2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンであることを特徴とする請求項1または2記載のフィルム
【請求項4】
半芳香族ポリアミド樹脂組成物が、さらに、ヒドロキシ基とアクリロイルオキシ基とを有する二官能型熱安定剤を含有することを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載のフィルム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半芳香族ポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ナイロン6Tや9Tに代表される半芳香族ポリアミド樹脂は、耐熱性、耐薬品性、成形性などの性能に優れているため、様々な分野において汎用されている。なかでも、半芳香族ポリアミド樹脂は、耐熱性が要求される分野での使用が拡大している。また、フィルム用途に適した半芳香族ポリアミド樹脂の開発も盛んに進められており、例えば、フレキシブルプリント基板などへの用途展開が図られている。
【0003】
フレキシブルプリント基板の用途においては、回路形成の際に、250℃以上という高温でのリフローハンダ工程が適用されることが多いため、融点が300℃を超えるような高い耐熱性を有する半芳香族ポリアミド樹脂が好適に使用されている。
【0004】
例えば、特許文献1および2には、炭素数9の脂肪族ジアミンである1,9−ノナンジアミンと、芳香族カルボン酸としてのテレフタル酸とからなる半芳香族ポリアミド樹脂(ナイロン9T)を用いるフィルムが記載されている。しかしながら、一般に、半芳香族ポリアミド樹脂、特に、融点が300℃を超えるような高い耐熱性を有する半芳香族ポリアミド樹脂は、融点と熱分解温度がきわめて近いため、溶融加工の際の分解反応に起因して架橋や劣化(熱劣化)が起こりやすい。そして、このような熱劣化によって、ポリマー中に不溶あるいは不融のゲル状体が生成されるため、成形されたフィルム中においては、該ゲル状体によりフィッシュアイなどの異物欠点が多量に発生するという問題があった。
【0005】
上記のような溶融加工時の熱劣化を抑制する方法として、半芳香族ポリアミド樹脂に対して、酸化防止剤を配合する技術が広く知られている。例えば、特許文献3には、半芳香族ポリアミド樹脂の熱劣化を抑制することを目的として、ナイロン9T、ガラス繊維、有機ハロゲン化合物および窒素中での10%加熱重量減少温度が330℃以上である酸化防止剤を含有するポリアミド樹脂組成物が記載されている。しかしながら、特許文献3に記載された技術は、難燃性を向上させること、および溶融滞留時における粘度の低下を抑制することを目的とするものに過ぎない。つまり、特許文献3に記載されたような酸化防止剤を用いたとしても、半芳香族ポリアミド樹脂の粘度低下を抑制することはできるが、溶融加工時におけるゲル状物の生成を抑制することができないという問題があった。
【0006】
また、一般に、押出工程において、溶融された半芳香族ポリアミド樹脂に対してフィルター濾過を行うことにより、該ポリアミド樹脂中に発生したゲル状異物を物理的に捕捉、除去し、フィッシュアイを低減する方法が知られている。しかしながら、特許文献3の樹脂組成物にこのような方法を適用した場合、ゲル状異物が、該フィルターを閉塞しやすく、急速なフィルター昇圧が発現し、長時間の連続押出が困難となるという問題があった。
【0007】
特許文献4には、比較的融点の低いポリアミド樹脂の押出工程におけるフィルターの閉塞を抑制することを目的として、ポリアミド樹脂と、特定のヒンダードフェノール系酸化防止剤およびリン系加工安定剤を特定の割合で含有するポリアミド樹脂組成物が記載されている。しかしながら、樹脂組成物として、融点と熱分解温度が近い半芳香族ポリアミド樹脂を用いた場合、該樹脂組成物から得られたフィルムにおいてフィッシュアイが発現したり、フィルムの機械的強度が低下したりしてしまうという問題があった。
【0008】
すなわち、高融点の半芳香族ポリアミド樹脂を溶融押出する際に、熱劣化を発現させることなくフィルムを得ることができる樹脂組成物は、いまだ見出されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−186141号公報
【特許文献2】特開2011−005856号公報
【特許文献3】特開2000−186205号公報
【特許文献4】国際公開第2009/131232号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、熱劣化に伴って形成されるゲル状体に由来するフィッシュアイなどの異物欠点が低減され、かつ優れた機械的強度を有するフィルムを得るのに適した半芳香族ポリアミド樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、融点が300℃以上である半芳香族ポリアミド樹脂(テレフタル酸を60モル%以上含有するジカルボン酸成分と、炭素数9の脂肪族ジアミンを60モル%以上含有する脂肪族ジアミン成分とからなる半芳香族ポリアミド樹脂を除く。)と、特定のヒンダードフェノール系熱安定剤およびリン系熱安定剤とを、特定の割合で含有した半芳香族ポリアミド樹脂組成物を用いれば、ゲル状体に起因するフィッシュアイなどの異物欠点が少ないフィルムを安定して得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、以下の内容を要旨とするものである。
【0013】
(1)半芳香族ポリアミド樹脂組成物から形成されるフィルムであって、半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、融点が300℃以上である半芳香族ポリアミド樹脂(テレフタル酸を60モル%以上含有するジカルボン酸成分と、炭素数9の脂肪族ジアミンを60モル%以上含有する脂肪族ジアミン成分とからなる半芳香族ポリアミド樹脂を除く。)100質量部に対して、下記の一般式(I)で示されるリン系熱安定剤0.01〜0.5質量部、および、下記の一般式(II)で示される構造を有し、かつ窒素雰囲気下20℃/分で昇温した際の5%重量減少時の熱分解温度が350℃以上であるヒンダードフェノール系熱安定剤0.01〜0.5質量部を含有することを特徴とするフィルム
【化1】
(式中、R1〜R4は、独立して、水素、2,4−ジ−tert−ブチル−5−メチルフ
ェニル基、または、2,4−ジ−tert−ブチルフェニル基を示す。)
【化2】
(式中、R5およびR6は、独立して、メチル基、エチル基または水素を示す。)
【0014】
(2)リン系熱安定剤が、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンホスホナイト、および/または、テトラキス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンホスホナイトであることを特徴とする(1)のフィルム
(3)ヒンダードフェノール系熱安定剤が、3,9−ビス[2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンであることを特徴とする(1)または(2)のフィルム
(4)半芳香族ポリアミド樹脂組成物が、さらに、ヒドロキシ基とアクリロイルオキシ基とを有する二官能型熱安定剤を含有することを特徴とする(1)〜(3)いずれかのフィルム
【発明の効果】
【0015】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物によれば、300℃以上の温度でフィルム押出および製膜加工を行ってもフィルター昇圧が起こりにくく、長時間連続してフィルムを生産することができる。また、本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、融点が300℃以上のものを使用しているため、非常に耐熱性に優れている。また、本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は熱安定性にも優れているため、ゲル状体に起因する異物欠点が少なく、色調に優れるフィルムを得ることができる。さらに該フィルムは、熱処理が施された場合であっても引張強度や引張伸度の低下が小さいものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、融点が300℃以上の特定の半芳香族ポリアミド樹脂(テレフタル酸を60モル%以上含有するジカルボン酸成分と、炭素数9の脂肪族ジアミンを60モル%以上含有する脂肪族ジアミン成分とからなる半芳香族ポリアミド樹脂を除く。)と、特定のリン系熱安定剤およびヒンダードフェノール系熱安定剤とを、特定の割合で含有するものである。
【0018】
本発明において使用される半芳香族ポリアミド樹脂は、芳香族ジカルボン酸成分と脂肪族ジアミン成分とから構成される。芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸を60モル%以上含有することが好ましく、70モル%以上含有することがより好ましく、85モル%以上含有することがさらに好ましい。
【0019】
本発明において、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸(1,2−体、1,3−体、1,4−体、1,5−体、1,6−体、1,7−体、1,8−体、2,3−体、2,6−体、2,7−体)が挙げられる。
【0020】
本発明において、芳香族ジカルボン酸成分には、本発明の効果を損なわない範囲で、他のジカルボン酸が含まれていてもよい。他のジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
【0021】
本発明において、脂肪族ジアミン成分としては、炭素数6〜12の脂肪族ジアミンを主成分として含むことが好ましく、炭素数10〜12の脂肪族ジアミンを主成分として含むことが好ましく、炭素数10の脂肪族ジアミンを主成分として含むことがより好ましい。脂肪族ジアミン成分中における炭素数6〜12の脂肪族ジアミンは、60モル%以上含有することが好ましく、75モル%以上含有することがより好ましく、90モル%以上含有することがさらに好ましい。炭素数6〜12の脂肪族ジアミンの含有量を60モル%以上とすることで、耐熱性と生産性を両立させることができる。炭素数6〜12の脂肪族ジアミンは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、2種以上を併用する場合、含有量はそれらの合計とする。
【0022】
炭素数が6〜12の脂肪族ジアミンとしては、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミンの直鎖状脂肪族ジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、4−メチル−1,8−オクタンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2−メチル−1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,7−ヘプタンジアミンなどの分岐鎖状脂肪族ジアミンが挙げられる。
【0023】
炭素数が6〜12の脂肪族ジアミン以外の脂肪族ジアミンとしては、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミンなどの直鎖状脂肪族ジアミンが挙げられる。
【0024】
本発明において、脂肪族ジアミン成分には、本発明の効果を損なわない範囲で、他のジアミンを含んでいてもよい。他のジアミンとしては、例えば、イソホロンジアミン、ノルボルナンジメチルアミン、トリシクロデカンジメチルアミンなどの脂環式ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミンなどの芳香族ジアミンが挙げられる。
【0025】
本発明において使用される半芳香族ポリアミド樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、ε−カプロラクタム、ζ−エナントラクタム、η−カプリルラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム類が共重合されていてもよい。
【0026】
本発明において使用される半芳香族ポリアミド樹脂の具体例としては、ナイロン4T、ナイロン6T、ナイロン10T、ナイロン11T、ナイロン12T、ナイロン6I、ナイロン6/6T(ナイロン6とナイロン6Tのコポリマーを示す。以下、コポリマーにおいては同様に記載する。)、ナイロン6/6I、ナイロン6/6T/6Iなどが挙げられる。ここで、Tはテレフタル酸を示し、Iはイソフタル酸を示す。
【0027】
本発明において使用される半芳香族ポリアミド樹脂の中でも、芳香族ジカルボン酸成分がテレフタル酸のみからなり、脂肪族ジアミン成分が、1,10−デカンジアミンからなる芳香族ポリアミド樹脂が、耐熱性が高く、吸水性が低いことから、好ましい。
【0028】
上記のナイロン10Tとしては、市販品を好適に使用することができ、例えば、ユニチカ社製のXECOT(商品名)が挙げられる。
【0029】
本発明において使用される半芳香族ポリアミド樹脂には、重合触媒や末端封止剤が含まれていてもよい。末端封止剤としては、例えば、酢酸、ラウリン酸、安息香酸、オクチルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリンが挙げられる。また、重合触媒としては、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、またはそれらの塩等が挙げられる。
【0030】
本発明において使用される半芳香族ポリアミド樹脂は、結晶性ポリアミド樹脂を製造する方法として知られている任意の方法を用いて製造することができる。例えば、酸クロライドとジアミン成分とを原料とする溶液重合法または界面重合法(A法)、あるいはジカルボン酸成分とジアミン成分とを原料として低重合物を作製し、該低重合物を溶融重合または固相重合により高分子量化する方法(B法)、ジカルボン酸成分とジアミン成分とを原料として塩および低重合物の破砕混合物を生成しこれを固相重合する方法(C法)、ジカルボン酸成分とジアミン成分とを原料として塩を生成しこれを固相重合する方法(D法)などが挙げられる。中でも、C法およびD法が好ましく、D法がより好ましい。C法およびD法は、B法に比べて、塩および低重合物の破砕混合物や塩を低温で生成することができ、また、塩および低重合物の破砕混合物や、塩の生成時に多量の水を必要としない。そのため、ゲル状体の発生を低減でき、フィッシュアイを低減することができる。
【0031】
B法としては、例えば、ジアミン成分、ジカルボン酸成分および重合触媒を一括で混合することで調製されたナイロン塩を、200〜250℃の温度で加熱重合することで得ることができる。低重合物の極限粘度は、0.1〜0.6dL/gであることが好ましい。低重合物の極限粘度をこの範囲とすることで、続く固相重合や溶融重合において、ジカルボン酸成分におけるカルボキシル基とジアミン成分におけるアミノ基のモルバランスの崩れを生じさせず、重合速度を速くすることができるという利点がある。低重合物の極限粘度が0.1dL/g未満であると、重合時間が長くなり、生産性に劣る場合がある。一方、0.6dL/gを超えると、得られる半芳香族ポリアミド樹脂が着色してしまう場合がある。低重合物の固相重合は、好ましくは、減圧下または不活性ガス流通下でおこなわれる。また、固相重合の温度は200〜280℃であることが好ましい。固相重合の温度をこの範囲とすることで、得られる半芳香族ポリアミド樹脂の着色やゲル化を抑制することができる。固相重合の温度が200℃未満であると、重合時間が長くなるため生産性に劣る場合がある。一方、280℃を超えると、得られる半芳香族ポリアミド樹脂において、着色やゲル化が発現する場合がある。低重合物の溶融重合は、好ましくは、350℃以下の温度で行われる。重合温度が350℃を超えると、半芳香族ポリアミド樹脂の分解や熱劣化が促進される場合がある。そのため、このような半芳香族ポリアミド樹脂から得られたフィルムは、強度や外観に劣ることがある。なお、上記の溶融重合には、溶融押出機を用いた溶融重合も含まれる。
【0032】
C法としては、例えば、以下の通りである。溶融状態の脂肪族ジアミンと固体の芳香族ジカルボン酸とモノカルボン酸とからなる懸濁液を攪拌混合し、混合液を得る。そして、この混合液において、最終的に生成する半芳香族ポリアミド樹脂の融点未満の温度で、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンとモノカルボン酸の反応による塩の生成反応と、生成した塩の重合による低重合物の生成反応とをおこない、塩および低重合物の混合物を得る。この場合、反応をさせながら破砕をおこなってもよいし、反応後に一旦取り出してから破砕をおこなってもよい。そして、得られた反応物を、最終的に生成する半芳香族ポリアミド樹脂の融点未満の温度で固相重合し、所定の分子量まで高分子量化させ、半芳香族ポリアミド樹脂を得る。固相重合は、重合温度180〜270℃、反応時間0.5〜10時間で、窒素等の不活性ガス気流中でおこなうことが好ましい。
【0033】
D法としては、例えば、以下の通りである。まず、芳香族ジカルボン酸粉末とモノカルボン酸とを混合し、予め脂肪族ジアミンの融点以上、かつ芳香族ジカルボン酸の融点以下の温度に加熱し、この温度の芳香族ジカルボン酸粉末とモノカルボン酸とに、芳香族ジカルボン酸の粉末の状態を保つように、実質的に水を含有させずに、脂肪族ジアミンを添加して塩を作製する。そして、得られた塩を最終的に生成する半芳香族ポリアミド樹脂の融点未満の温度で固相重合し、所定の分子量まで高分子量化させ、半芳香族ポリアミド樹脂を得る。固相重合は、重合温度180〜270℃、反応時間0.5〜10時間で、窒素等の不活性ガス気流中でおこなうことが好ましい。
【0034】
本発明に使用される半芳香族ポリアミド樹脂の原料および組成の選択の目安としては、得られる半芳香族ポリアミド樹脂の融点(以下、「Tm」と称する。)が300℃以上となるように選択することが必要であり、およそ310〜350℃の範囲となるように選択することが好ましい。半芳香族ポリアミド樹脂のTmをこの範囲とすることで、得られる樹脂組成物に対して、溶融加工時の熱分解(熱劣化)を抑制し、かつ該樹脂組成物から得られたフィルムをプリント基板に用いた際にハンダリフロー加工工程を容易にすることができる。
【0035】
本発明に使用される半芳香族ポリアミド樹脂の極限粘度は、0.8〜2.0dL/gであることが好ましく、0.9〜1.8dL/gであることがより好ましい。半芳香族ポリアミド樹脂の極限粘度をこの範囲とすることで、機械的強度に優れたフィルムに最適な樹脂組成物を作製することができる。極限粘度が0.8dL/g未満であると、本発明の樹脂組成物から得られるフィルムの機械的強度が不十分となる場合がある。一方、2.0dL/gを超えると、本発明の樹脂組成物からフィルムを生産することが困難となる場合がある。
【0036】
本発明である半芳香族ポリアミド樹脂組成物には、上記の融点が300℃以上である半芳香族ポリアミド樹脂100質量部に対して、下記式(I)に示されるリン系熱安定剤(以下、「特定リン系熱安定剤」と称する場合がある。)を含有させることが必要である。特定リン系熱安定剤を含有させることにより、例えば300℃以上という高い温度でフィルム化を行ってもフィルター昇圧が起こりにくく、長時間連続してフィルムを製造しうる樹脂組成物とすることができる。
【化5】
(式中、R〜Rは、独立して、水素、2,4−ジ−tert−ブチル−5−メチルフェニル基、または、2,4−ジ−tert−ブチルフェニル基を示す。)
【0037】
本発明の樹脂組成物において、特定リン系熱安定剤の含有量は、半芳香族ポリアミド樹脂100質量部に対して0.01〜0.5質量部とすることが必要であり、0.05〜0.5質量部とすることが好ましく、0.1〜0.3質量部とすることがより好ましい。特定リン系熱安定剤の含有量が0.01質量部未満であると、フィルター昇圧を抑制できず、長時間連続して製膜することができないので好ましくない。一方、含有量が0.5質量部を超えると、経済性に劣り、また、特定リン系熱安定剤自体の分解によって気泡が発生するため、本発明の樹脂組成物中の異物がかえって増加するので好ましくない。
【0038】
本発明において、特定リン系熱安定剤としては、Hostanox P−EPQ[クラリアント社製、化学式名:テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4′−ビフェニレンジホスホナイト]、またはGSY−P101[堺化学工業社製、登録商標、化学式名:テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−4,4′−ビフェニレンジホスホナイト]が好ましい。
【0039】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物には、上記の融点が300℃以上である半芳香族ポリアミド樹脂100質量部に対して、下記の一般式(II)で示される構造を有し、かつ20℃/分で昇温した際の窒素中での5%重量減少率が350℃以上であるヒンダードフェノール系熱安定剤(以下、「特定ヒンダードフェノール系熱安定剤」と称する場合がある。)を含有させる必要がある。特定ヒンダードフェノール系熱安定剤を含有させることにより、熱処理前後におけるフィルムの引張強度や引張伸度の低下を防止しうる本発明の樹脂組成物とすることができる。
【化6】
(式中、RおよびRは、独立して、メチル基、エチル基または水素を示す。)
【0040】
本発明の樹脂組成物において、特定ヒンダードフェノール系熱安定剤の含有量は、半芳香族ポリアミド樹脂100質量部に対して0.01〜0.5質量部とすることが必要であり、0.05〜0.4質量部とすることが好ましく、0.1〜0.3質量部とすることがより好ましい。特定ヒンダードフェノール系熱安定剤の含有量が0.01質量部未満であると、溶融時やハンダリフロー時の熱劣化が大きくなるので好ましくない。一方、0.5質量部を超えると、経済性に劣り、加えて、本発明の樹脂組成物がフィルム化された場合に、該ヒンダードフェノール系熱安定剤がフィルム表面にブリードアウトが発現するので好ましくない。
【0041】
本発明において、特定ヒンダードフェノール系熱安定剤としては、スミライザーGA−80(SumilizerGA−80、住友化学社製、登録商標、化学式名:3,9−ビス[2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン)が好ましい。
【0042】
本発明においては、上記の特定リン系熱安定剤および特定ヒンダードフェノール系熱安定剤に加えて、さらに、二官能型熱安定剤を併用することが好ましい。二官能型熱安定剤を併用することにより、本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物から得られるフィルムの引張強度や引張伸度の低下をさらに抑制することができる。
【0043】
本発明において、二官能型熱安定剤を用いる場合、二官能型熱安定剤の含有量は、上記の半芳香族ポリアミド樹脂100質量部に対して、0.01〜0.5質量部とすることが好ましく、0.1〜0.3質量部とすることがより好ましい。
【0044】
本発明において、二官能型熱安定剤としては、例えば、スミライザーGS(SumilizerGS、住友化学社製、登録商標、化学式名:2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニルアクリレート)などが挙げられる。
【0045】
また、本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて、特定リン系熱安定剤や特定ヒンダードフェノール系熱安定剤以外の公知の熱安定剤、紫外線吸収剤を含む耐候剤、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどの金属石鹸、メチレンビスアミド、エチレンビスアミドなどのビスアミド化合物、ポリ(オキシエチレン)アルキルアミン、アルキルスルホネート、第4級アンモニウムサルフェートなどの帯電防止剤、シリカ、タルク、モンモリロナイトなどの各種フィラー、ブロッキング防止剤、染料、顔料の各種添加剤が配合されていてもよい。
【0046】
本発明の樹脂組成物は、半芳香族ポリアミド樹脂、特定リン系熱安定剤、および特定ヒンダードフェノール系熱安定剤、さらに必要に応じて、各種の添加剤を配合し、公知の方法で混合することによって製造される。
【0047】
例えば、タンブラーやミキサーなどの公知の混合装置を使用し、半芳香族ポリアミド樹脂および上記の熱安定剤や各種の添加剤をドライブレンドして製造する方法や、半芳香族ポリアミド樹脂、および上記の熱安定剤や各種の添加剤を公知の一軸または二軸の押出機を用いて溶融混練して製造する方法などがあり、特に限定されない。なお、半芳香族ポリアミド樹脂および上記の熱安定剤や各種の添加剤は、同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。
【0048】
一般に、ポリアミド樹脂の熱分解温度は、アミド結合が分解する温度である約350℃であり、ポリアミド樹脂が半芳香族ポリアミド樹脂であっても、脂肪族ポリアミド樹脂であっても、それらの熱分解温度はほぼ同じである。それに対して、ポリアミド樹脂の融点は、ポリアミド樹脂を構成するモノマーの種類によって異なる。具体的には、ポリアミド6の融点は約225℃、ポリアミド66の融点は約265℃であるのに対し、半芳香族ポリアミド樹脂の融点は300℃以上である。そのため、半芳香族ポリアミド樹脂を製膜する場合、ポリアミド6やポリアミド66などの脂肪族ポリアミド樹脂を製膜する場合と比べて、熱分解温度により近い温度で溶融する必要があり、それに由来して発現する熱分解により、得られるフィルムの色調が低下したり、ゲル状体が発生したりしやすいという問題がある。しかしながら、本発明においては、このように高温に加熱した場合であっても、本発明で規定するような特定ヒンダードフェノール系熱安定剤および特定リン系熱安定剤を特定量用いることにより、ゲル状体の発生を抑制することができ、また、色調の低下を抑制することができる。
【0049】
なお、本発明において、フィルムの製造方法は、特に限定されず、公知のポリアミド樹脂をフィルム化する方法を適用することができる。例えば、半芳香族ポリアミド樹脂および上記の熱安定剤、さらに必要に応じて各種の添加剤を押出機で溶融混練し、溶融ポリマーを得る。そして該溶融ポリマーとしての本発明の樹脂組成物をフィルターで濾過し、濾過された溶融ポリマーをTダイなどのフラットダイを用い、フィルム状に押出す。その後、フィルム状とされた溶融物を冷却ロールやスチールベルトなどの移動冷却体の冷却面に接触させて冷却する方法などが挙げられる。
【0050】
本発明において、上記の押出温度は、半芳香族ポリアミド樹脂の融点以上350℃以下であることが好ましい。押出温度が350℃を超えると、半芳香族ポリアミド樹脂の分解や熱劣化が促進される場合がある。
【0051】
本発明において、製造されたフィルムは未延伸の状態で使用できるが、通常、延伸フィルムとして使用されることが多い。延伸フィルムとしては、一軸延伸フィルム、同時二軸延伸フィルム、逐次二軸延伸フィルムなどが挙げられる。これらは、ロール式一軸延伸法、テンター式逐次二軸延伸法、テンター式同時二軸延伸法、チューブラー延伸法など公知の延伸方法によって製造される。
【0052】
また、延伸工程はフィルムの製造に引続き、連続して実施してもよいし、または得られたフィルムを一旦巻き取り、別工程として延伸を実施してもよい。
【0053】
延伸倍率はフィルムの使用用途によって異なるが、一軸延伸フィルムである場合、通常1.5〜5倍であることが好ましく、1.8〜3.5倍であることがより好ましい。また、テンター式二軸延伸フィルムの場合は、通常、フィルム製造の巻取方向(MD)の延伸倍率は1.5〜10倍、巻取方向と直角の方向(TD)の延伸倍率は1.5〜5倍である。チューブラー法で延伸する場合、縦方向1.5〜4倍、横方向1.5〜4倍である。延伸温度は、Tg以上であることが好ましく、Tgを超え(Tg+50℃)以下であることが好ましい。熱固定処理温度は、200〜(Tm−5℃)であることが好ましく、240〜(Tm−10℃)であることがより好ましい。なお、ここで、Tgはガラス転移温度を示す。
【0054】
その後、冷却し、巻き取りロールに巻き取ることでフィルムロールが得られる。
【0055】
本発明の樹脂組成物から得られたフィルムは、フィッシュアイなどの欠点が低減され、かつ熱安定性および機械特性(強度および伸度)に優れている。このため、このようなフィルムは、以下のような用途に好適に使用される。つまり、医薬品包装材料、レトルト食品などの食品包装材料、半導体パッケージ用などの電子部品包装材料、モーター、トランス、ケーブルなどのための電気絶縁材料、コンデンサ用途などの誘電体材料、カセットテープ、デジタルデータストレージ向けデータ保存用磁気テープ、ビデオテープなどの磁気テープ用材料、太陽電池基板、液晶板、導電性フィルム、表示機器などの保護板、LED実装基板、フレキシブルプリント配線板、フレキシブルフラットケーブルなどの電子基板材料、フレキシブルプリント配線用カバーレイフィルム、耐熱マスキング用テープ、工業用工程テープなどの耐熱粘着テープ、耐熱バーコードラベル、耐熱リフレクター、各種離型フィルム耐熱粘着ベースフィルム、写真フィルム、成形用材料、農業用材料、医療用材料、土木、建築用材料、濾過膜用途、家庭用途、産業資材用のフィルムなどとして、好適に使用することができる。
【実施例】
【0056】
実施例により本発明をさらに具体的に説明する。しかし、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0057】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物、ならびに該樹脂組成物からなるフィルムの物性の測定を、以下の(1)〜(8)の方法によりおこなった。なお、(5)〜(7)の測定は、温度20℃、湿度65%の環境下でおこなった。
【0058】
(1)半芳香族ポリアミド樹脂の極限粘度
濃度が96質量%である濃硫酸中に、30℃にて、半芳香族ポリアミド樹脂を、それぞれ、0.05g/dL、0.1g/dL、0.2g/dL、0.4g/dLの濃度となるように溶解させて、半芳香族ポリアミド樹脂の還元粘度を求めた。そして、各々の還元粘度の値を用い、濃度を0.0g/dLに外挿した値を極限粘度とした。
【0059】
(2)半芳香族ポリアミド樹脂のTm
半芳香族ポリアミド樹脂10mgを、示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製、「DSC−7」)を用い、窒素雰囲気下で20℃から350℃まで10℃/分で昇温し(1st Scan)、350℃にて5分間保持した。その後、100℃/分で20℃まで降温し、20℃にて5分間保持後、350℃まで20℃/分でさらに昇温した(2nd Scan)。そして、2nd Scanで観測される結晶融解ピークのピークトップ温度をTmとした。
【0060】
(3)熱安定剤の熱分解温度
示差熱熱重量同時測定装置(SIIナノテクノロジー社製、「TG/DTA 7200」)を用いて、200mL/分の窒素雰囲気下で、30℃から500℃まで20℃/分で昇温した。昇温前の質量に対して5質量%減少する温度を熱分解温度とした。
【0061】
(4)フィルターの昇圧時間
半芳香族ポリアミド樹脂組成物を、シリンダー温度を320℃に加熱した単軸押出機に投入して溶融し、背面にブレーカープレートを有する平板フィルターで濾過し、その後、320℃に加熱したTダイから押し出した。押出の際、フィルターの単位面積当たりの流量が1kg/cm/時間となるように、押出量を設定した。そして、フィルター上流の圧力を経時的に記録した。押出開始からのフィルターの上流圧力変化が10MPaに達するまでの時間を測定した。
【0062】
(5)フィルムの厚み
厚み計(HEIDENHAIN社製、「MT12B」)を用い、フィルムの厚みを測定した。
【0063】
(6)フィルムにおけるフィッシュアイ数
計測機としてオフラインフィッシュアイカウンター(フロンティアシステム社製)を用い、フィルムにおけるフィッシュアイの数を測定した。より具体的には、ロール状としたフィルム(厚さ:25μm)における任意の10点の位置から、サイズが20cm×20cmであるフィルムを10枚切り出し、該フィルム表面における大きさが0.01mm以上であるフィッシュアイの数を計測して平均値を求め、1000cm当たりに換算した。計測機の検出感度は、日本国立印刷局製造の「きょう雑物測定図表」にしたがって、0.01mm以上の大きさのゲルまたはフィッシュアイの数を検出することが可能である条件に調整した。
【0064】
(7)フィルムの引張強度
250℃の熱風乾燥機中に5分間静置した前後のフィルムのMDおよびTDについて、JIS K7127に従って測定した。サンプルの大きさは10mm×150mm、チャック間の初期距離は100mm、引張速度は500mm/分とした。
【0065】
(8)フィルターの絶対濾過径と公称濾過径
JIS B8356に準拠して、フィルターメディア(濾過材)を通過した最大のグラスビーズ粒径のサイズを絶対濾過径とし、フィルターメディアによる捕集効率が95%であるコンタミナントの粒径(異物の粒径)のサイズを公称濾過径とした。
【0066】
以下、本発明の樹脂組成物の製造に使用される芳香族ポリアミド樹脂の製法を記載する。
【0067】
本発明の樹脂組成物の製造に使用される半芳香族ポリアミド樹脂の製造に用いた原料を以下に示す。
<原料モノマー>
DMDA:1,10−デカンジアミン
TPA:テレフタル酸、粉末状
IPA:イソフタル酸
<重合触媒>
SHP:次亜リン酸ナトリウム
<末端封止剤>
BA:安息香酸
【0068】
本発明の実施例および比較例の樹脂組成物に使用される半芳香族ポリアミド樹脂D〜G
<半芳香族ポリアミド樹脂D>
脂肪族ジアミンとして507質量部のDMDA、芳香族ジカルボン酸として489質量部のTPA、末端封止剤として2.8質量部のBA、重合触媒として1質量部のSHP、および1000質量部の水を反応装置に入れ(DMDA:TPA:SHP:BA=100:100:0.32:0.78、モル比)、窒素置換した。さらに、80℃で0.5時間、毎分28回転で撹拌した後、230℃に昇温した。その後、230℃で3時間加熱した。その後冷却し、反応物を取り出した。該反応物を粉砕した後、乾燥機中において、窒素気流下、220℃で5時間加熱し、固相重合してポリマーを得た。そして、シリンダー温度320℃の条件下で溶融混練してストランド状に押し出した。その後、冷却、切断して、ペレット状の半芳香族ポリアミド樹脂Dを調製した。
【0069】
<半芳香族ポリアミド樹脂E>
脂肪族ジアミンとして507質量部のDMDA、芳香族ジカルボン酸として489質量部のTPA、末端封止剤として2.8質量部のBAおよび重合触媒として1質量部のSHP(一水和物)からなる混合物(DMDA:TPA:SHP:BA=100:100:0.32:0.78、モル比)を、プロペラ型撹拌翼を備えたオートクレーブで、窒素雰囲気下、100℃、1時間、毎分20回転で撹拌した。撹拌速度は毎分20回転のまま昇温し、230℃の温度を3時間保ち、塩および低重合体を生成させた。生成した塩および低重合体を破砕しながら攪拌し、その破砕混合物を得た。その後、反応により生じた水蒸気を放圧し、オートクレーブの圧力を常圧に戻した。攪拌速度および反応温度は変更せずに、窒素気流下、230℃の温度を5時間保ち、粉末状の半芳香族ポリアミド樹脂Eを調製した。
【0070】
<半芳香族ポリアミド樹脂F>
芳香族ジカルボン酸として489質量部のTPA(平均体積粒径:80μm)、末端封止剤として2.8質量部のBAおよび重合触媒として1質量部のSHP(一水和物)からなる混合物を、リボンブレンダー式の反応装置に供給し、窒素密閉下、ダブルヘリカル型の攪拌翼を用いて回転数30rpmで撹拌しながら170℃に加熱した。その後、温度を170℃に保ち、かつ回転数を30rpmに保ったまま、液注装置を用いて、100℃に加温した脂肪族ジアミンとしての507質量部(100質量%)のDMDAを、2.8質量部/分の速度で、3時間かけて連続的(連続液注方式)にTPA粉末を含む混合物に添加し反応物を得た。原料のモノマーのモル比は、DMDA:TPA:SHP:BA=100:100:0.32:0.78とした。得られた反応物を、引き続き、同じリボンブレンダー式の反応装置内で、窒素気流下、230℃に昇温し、230℃で5時間加熱して重合し半芳香族ポリアミド樹脂Fを調製した。
【0071】
<半芳香族ポリアミド樹脂G>
脂肪族ジアミンとして507質量部のDMDA、芳香族ジカルボン酸として245質量部のTPA、245質量部のIPA、末端封止剤として2.8質量部のBA、重合触媒として1質量部のSHP、および1000質量部の水を反応装置に入れ(DMDA:TPA:IPA:SHP:BA=100:50:50:0.32:0.78、モル比)、窒素置換した。さらに、80℃で0.5時間、毎分28回転で撹拌した後、230℃に昇温した。その後、230℃で3時間加熱した。その後冷却し、反応物を取り出した。該反応物を粉砕した後、乾燥機中において、窒素気流下、220℃で5時間加熱し、固相重合してポリマーを得た。そして、シリンダー温度320℃の条件下で溶融混練してストランド状に押し出した。その後、冷却、切断して、ペレット状の半芳香族ポリアミド樹脂Gを調製した。
【0072】
表5に、本発明の実施例および比較例の樹脂組成物に使用される半芳香族ポリアミド樹脂D〜Gの組成および特性値を示す。
【0073】
<半芳香族ポリアミド樹脂H>
三井化学社製ナイロン6T、アーレンE、融点320℃
【0074】
【表5】
【0075】
<熱安定剤>
(1)本発明の実施例および比較例の樹脂組成物に使用されるヒンダードフェノール系熱安定剤
・GA
3,9−ビス[2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、住友化学社製「スミライザーGA−80」、熱分解温度:382℃、下記の化学式(III)にて示される熱安定剤である。
【化14】
【0076】
・1098
N,N’−(ヘキサン−1,6−ジイル)ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、BASFジャパン社製「イルガノックス1098」、熱分解温度:344℃、下記の化学式(IV)にて示される熱安定剤である。
【化15】
【0077】
・1010
ペンタエリスチル・テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、BASFジャパン社製「イルガノックス1010」、熱分解温度:355℃、下記の化学式(V)にて示される熱安定剤である。
【化16】
【0078】
(2)本発明の実施例および比較例の樹脂組成物に使用されるリン系熱安定剤
・GSY
テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、堺化学工業社製「GSY−P101」、下記の化学式(VI)にて示される熱安定剤である。
【化17】
【0079】
・EPQ
テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、クラリアント社製「Hostanox P−EPQ」、下記の化学式(VII)にて示される熱安定剤である。
【化18】
【0080】
・168
トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、BASFジャパン社製「イルガフォス168」、下記の化学式(VIII)にて示される熱安定剤である。
【化19】
【0081】
(3)本発明の実施例および比較例の樹脂組成物に使用される二官能型熱安定剤
・GS
2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニルアクリレート、住友化学社製「スミライザーGS」、下記の化学式(IX)にて示される熱安定剤である。
【化20】
【0082】
<本発明の実施例および比較例の樹脂組成物の製造に使用されるフィルター>
・NF−10
金属繊維焼結フィルター、日本精線社製「NF−10」、公称濾過径:30μm、絶対濾過径:30μm
・NF−13
金属繊維焼結フィルター、日本精線社製「NF−13」、公称濾過径:60μm、絶対濾過径:60μm
・NPM−50
金属粉末焼結フィルター、日本精線社製「NPM−50」、公称濾過径:50μm、絶対濾過径:50μm
【0083】
本発明に係る実施例14〜27、および同比較例17〜31
実施例14
100質量部の半芳香族ポリアミド樹脂Dを水分率が200ppm以下になるまで加熱減圧乾燥し、ヒンダードフェノール系熱安定剤として0.2質量部のGA、およびリン系安定剤として0.1質量部のGSYを混合した後、シリンダー温度を330℃に加熱した2軸押出機に投入して溶融混合した。ノズルよりストランド状に押出し、水冷した後、切断し、ペレット状の本発明に係る実施例14の半芳香族ポリアミド樹脂組成物を得た。
【0084】
該樹脂組成物を水分率が100ppm以下になるまで加熱減圧乾燥し、単軸押出機にて335℃で溶融した。なお、単軸押出機のスクリュー径は50mmであった。これを、金属繊維焼結フィルターNF−10を用いて濾過した後、335℃に設定したTダイよりフィルム状に押し出し、フィルム状の溶融物とした。50℃に設定した冷却ロール上に、該溶融物を静電印加法により密着させて冷却し、実質的に無配向の未延伸フィルム(厚さ:250μm)を得た。
【0085】
なお、静電印加のための電極には、直径0.2mmのタングステン線を用いた。静電印加の際には、300W(15kV×20mA)の直流高圧発生装置を用い、6.5kVの電圧を印加した。また、溶融ポリマーの押出量は、フィルター単位面積あたりの流量が、1kg/cm/時間となるように設定した。未延伸フィルムを6時間連続で製膜してもフィルターの昇圧は見られず、半芳香族ポリアミドフィルムを長時間連続して生産することが可能であった。
【0086】
次に、この未延伸フィルムの両端をクリップで把持しながら、テンター方式同時二軸延伸機(入口幅:193mm、出口幅:605mm)に導いて、同時二軸延伸をおこなった。延伸条件は、予熱部の温度が120℃、延伸部の温度が130℃、MDの延伸歪み速度が2400%/分、TDの延伸歪み速度が2760%/分、MD方向の延伸倍率が3.0倍、TDの延伸倍率が3.3倍であった。
【0087】
そして、同テンター内で、290℃で熱固定を行い、フィルムの幅方向に7%の弛緩処理を施し、厚さ25μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの外観は良好であった。実施例14の評価結果を表6に示す。
【0088】
【表6】
【0089】
実施例15〜23および25〜27、比較例17〜31
表6〜8に示すように、半芳香族ポリアミド樹脂の種類と含有割合、熱安定剤の種類と含有割合、用いるフィルターの種類を変更した以外は実施例14と同様にして、本発明に係る実施例15〜27の半芳香族ポリアミド樹脂組成物、および比較例17〜31の樹脂組成物を得た。実施例15〜27にて得られたフィルムの外観は良好であった。
【0090】
【表7】
【0091】
【表8】
【0092】
実施例24
表6に示すように、半芳香族ポリアミド樹脂Dに代えて、半芳香族ポリアミド樹脂Hを用いた以外は実施例14と同様にして、本発明に係る実施例24の半芳香族ポリアミド樹脂組成物を得た。実施例24で得られたフィルムの外観は良好であった。
【0093】
なお、比較例23においては、用いた半芳香族ポリアミド樹脂Gの融点が255℃と低かったため、フィルムの延伸に際し、テンター内の熱固定温度を230℃とした。
【0094】
実施例14〜27の半芳香族ポリアミド樹脂組成物、および比較例17〜31の樹脂組成物の組成、該樹脂組成物からフィルムを製膜する際の製造条件、ならびに得られたフィルムの評価を、表6〜8に示す。
【0095】
実施例14〜27にて得られた本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、溶融ポリマーを、絶対濾過径が60μm以下の金属繊維焼結フィルター、または、金属粉末焼結フィルターで濾過および製膜しても、6時間以上フィルターが閉塞することがなかった。さらに、得られたフィルムについても、フィッシュアイ数が20個/1000cm以下と少なく、外観に優れ、熱処理前後における引張強度や引張伸度の低下も小さかった。
【0096】
特に、実施例15の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は二官能型熱安定剤が含有されていたため、実施例14の半芳香族ポリアミド樹脂組成物と比較して、熱処理前後における引張強度の低下が低かった。
【0097】
特に、実施例22および23の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、実施例16の半芳香族ポリアミド樹脂組成物と比較して、半芳香族ポリアミド樹脂を製造するに際して、塩および低重合物の破砕混合物や塩の生成時に、大量の水を用いていなかったため、フィッシュアイ数が極めて少なかった。
【0098】
比較例17〜19、26および31の樹脂組成物は、本発明にて規定されたリン系熱安定剤を含有していなかったため、該樹脂組成物を用いて6時間以上連続して製膜することができなかった。
【0099】
比較例20〜22および26〜31の樹脂組成物は、本発明にて規定されたヒンダードフェノール系熱安定剤を含有していなかったため、該樹脂組成物から得られたフィルムは、熱処理後のフィルムの引張強度が低下していた。
【0100】
比較例23の樹脂組成物は、融点が300℃未満である半芳香族ポリアミド樹脂を用いて製膜したため、得られたフィルムを熱処理するとフィルムが変形してしまった。
【0101】
比較例24の樹脂組成物は、本発明にて規定されたヒンダードフェノール系熱安定剤の含有量が過多であったため、フィルム状の溶融物を冷却した際に、該ヒンダードフェノール系熱安定剤が表面にブリードアウトしてしまった。そのため、冷却ロールと冷却後のフィルムとがブロッキングしてしまい、各種評価に付することができなかった。
【0102】
比較例25の樹脂組成物は、本発明にて規定されたリン系熱安定剤の含有量が過多であったため、樹脂組成物が発泡し増粘してしまい製膜することができず、各種評価に付することができなかった。