(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ケーシングの反負荷側の対向面および負荷側の対向面うち、ロータとの距離が小さい側の面に前記凹部が設けられることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のモータ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係るモータ10の一部を、中心軸を含む鉛直面で切断したときの断面図である。
【0012】
モータ10は、IPM(Interior Permanent Magnet)モータ12、湿式多板ブレーキ機構14およびパーキングブレーキ装置20が一体化された装置である。
【0013】
IPMモータ12は、共に積層鋼板で構成されたステータ64およびロータ66を備える。ロータ66の積層鋼板には軸方向に延びる空隙66Aが複数形成されており、この空隙内に永久磁石76A、76Bが埋め込まれている。永久磁石がロータ内に埋め込まれているIPMモータは、永久磁石がロータの表面に貼り付けられているSPMモータに比べて効率が高い。ロータ66を構成している積層鋼板は、図示しないボルトによって一体化され、キー92によってロータ軸70と一体化されている。なお、ボルトではなく、カシメや接着により一体化されてもよい。ロータ軸70の後部側(
図1の左側)は、軸受82を介して、後部ケーシング60から内側に延出する延出部60Aに回転自在に支持されている。
【0014】
ロータ軸70の先端側(
図1の右側)は、任意の構成の減速機の入力軸と連結されるか、または車輪などの負荷に直接連結される。
【0015】
ステータ64は、前部ケーシング59に固定されている。ステータ64の複数のスロットにはそれぞれ絶縁紙が挿入され、また、磁場を形成するためのコイルがスロットを跨いで所定回数巻回されている。コイルの巻回のための折り返しの部分が、コイルエンド68A、68Bとして、ステータ64の両端から軸方向に突出している。
【0016】
図示していないが、ロータ66と対面するステータ64の内周面には、電圧波形の改善やコギングトルクの低減を目的とした、スロットの開口部からなるスキューが形成されている。なお、ステータ64ではなく、ステータ64と対面するロータ66の外周面にスキューが形成されていてもよいし、ステータ64の内周面とロータ66の外周面の両方にスキューが形成されていてもよい。後者の場合、ステータとロータのスキューの捻り方向は同一である。
【0017】
ロータ66の軸方向両端面には、ロータ内に埋め込まれた永久磁石76A、76Bが回転中に飛びなさないようにするための端板72、74がそれぞれ取り付けられている。端板は例えばステンレスまたはアルミ製である。なお、端板はアルミに限らず非磁性体であればよく、例えば樹脂製でもよい。
【0018】
ロータ軸70の内部には、軸方向に延びる中空部90が形成されている。中空部90の反負荷側(左側)端部は、開口部96でケーシング59、60内の空間80Lと連通しており、中空部90の負荷側(右側)端部には、例えば図示しない減速機の入力軸が挿入される。
【0019】
図示しないが、ロータ軸70の内周面には、ステータ内周面またはロータ外周面のスキューの捻り方向とは逆向きの螺旋溝が形成されている。詳細は後述するが、この螺旋溝は開口部96を通って中空部90内に侵入した冷却液を反負荷側の空間80Lから負荷側の空間80Rに誘導する手段として機能する。ロータ軸70の内周面に螺旋溝を形成せずに平滑面としてもよい。
【0020】
ブレーキ機構14は、IPMモータ12のロータ軸70の回転を制動する。ブレーキ機構14は、ステータ64に巻回されているコイルのコイルエンド68Aの半径方向内側に収められており、複数の摩擦板を有する多板式制動部78を備える。多板式制動部78の摩擦板は、複数(図示の例では5枚)の固定摩擦板78Aと、複数(図示の例では4枚)の回転摩擦板78Bとで構成されている。
【0021】
固定摩擦板78Aは、IPMモータ12の後部ケーシング60の後端を塞ぐように配置されたブレーキピストン84と、後部ケーシング60の延出部60Aとの間で、図示しない貫通ピンによって円周方向に固定されるとともに、貫通ピンに沿って軸方向に移動可能とされている。
【0022】
一方、回転摩擦板78Bは、ロータ66と一体的に回転するロータ軸70側に組み込まれ、ロータ軸70と一体的に回転可能である。ロータ軸70の外周には、軸方向に沿ってスプライン70Bが形成されており、回転摩擦板78Bの内周端がスプライン70Bと係合している。これにより、回転摩擦板78Bは、ロータ軸70とスプライン70Bを介して円周方向に一体化されると共に、ロータ軸70の軸方向に沿って移動可能となっている。回転摩擦板78Bの表面には、摩擦シートが接着されている。
【0023】
第1ブレーキピストン40は、後部ケーシング60の後端に取り付けられるシリンダブロック58内に形成されたシリンダ48内を摺動するように配置されている。シリンダ48は、油路86を介して油圧機構と連通しており、制動操作に応じて油圧機構から油路を介してシリンダ48内に圧油が供給されるようになっている。第1ブレーキピストン40とシリンダ48の間は、三つのシール42、44、46によって、モータ内部の空間80Lおよびパーキングブレーキ装置20側に対して封止されている。
【0024】
第2ブレーキピストン84は、第1ブレーキピストン40の移動時に第1ブレーキピストンの右端面と当接して連動して移動するように、シリンダブロック58の右端面58Aと多板式制動部78との間に配置される。第2ブレーキピストン84の右端には、制動操作に応じて最左端に位置する固定摩擦板78Aと当接する当接面84Aが形成されている。
【0025】
第2ブレーキピストン84と、後部ケーシング60の内周に形成される肩部との間には、第2ブレーキピストン84を左方に向けて付勢する戻しばね85が介装されている。
【0026】
IPMモータ12およびブレーキ機構14は、共に湿式で構成される。IPMモータ12およびブレーキ機構14の内部空間は密閉された一続きの空間となっており、この空間内に冷却液が封入され、冷却液が空間内を流通可能となっている。この冷却液は、IPMモータのロータ66およびステータ64の冷却のみならず、モータ内の軸受および摺動部の潤滑油の役割も同時に果たしている。なお、冷却液は潤滑油に限定されず、純粋に冷却目的のものであってもよい。本実施形態では、中心軸が水平になった状態で、IPMモータ12の軸受82の一部が浸かる程度の量の冷却液がケーシング59、60内に封入されている。
【0027】
続いて、ブレーキ機構14による制動作用を説明する。
【0028】
所定の制動制御に基づいて、油圧機構から油路86を介してシリンダ48内に圧油が供給され、第1ブレーキピストン40がシリンダ48内を負荷側(図中の右方向)に移動する。これに応じて第2ブレーキピストン84も右方向に移動し、当接面84Aが最左端に位置する固定摩擦板78Aを軸方向に押圧する。この結果、複数の固定摩擦板78Aと回転摩擦板78Bが次々に強い力で接触する。上述したように、固定摩擦板78Aは貫通ピンを介して円周方向に固定されており、回転摩擦板78Bは、ロータ軸70に組み込まれているスプライン70Bを介してロータ軸70と円周方向に一体化されている。そのため、固定摩擦板78Aと回転摩擦板78Bが、回転摩擦板78Bに接着された摩擦シートを介して強く接触することによって、ロータ軸70の制動作用が発生する。
【0029】
制動制御が終了すると、シリンダ48内の圧油の供給が停止されるため、第2ブレーキピストン50と後部ケーシング60の肩部との間に介装された戻しばね85の復元力により、第2ブレーキピストン84および第1ブレーキピストン40が反負荷側(図中の左方向)に戻り、各固定摩擦板78Aが元の軸方向位置に復帰する。これに伴って回転摩擦板78Bも元の軸方向位置に復帰し、固定摩擦板78Aと回転摩擦板78Bの接触が解かれて制動作用が消滅する。
【0030】
シリンダブロック58の後端には、パーキングブレーキ装置20が組み付けられている。パーキングブレーキ装置20は、ブレーキ機構14の多板式制動部78を利用して、車両の駐車時に制動力を発揮するように構成される。パーキングブレーキ装置20の構成についての詳細な説明は省略する。
【0031】
本実施形態では、モータ10の軸方向のコンパクト化のために、従来のモータ構造よりもケーシングとロータの端面との間の隙間を小さくしている。すなわち、後部ケーシング60の延出部60Aのロータと対向する対向面60Bと、ロータ66の端面すなわち端板74の表面との間の隙間G1が、従来のモータ構造よりもかなり小さくなっている。
【0032】
ステータとロータ間の電磁気的作用によってロータ66が回転すると、ケーシング59、60内に封入されている冷却液はその粘性のためにロータ表面に引きずられ、ロータの回転方向と同じ方向に流れ出す。一般に、相対運動する物体間に存在する流体の粘性抵抗は、物体の表面間の距離が小さくなるほど増加する。隙間G1が非常に小さいと、ケーシング59とロータ66は相対回転するため、この箇所での冷却液の粘性抵抗が大きくなり、モータ効率が低下してしまう。
【0033】
そこで、本実施形態では、後部ケーシング60の対向面60Bに凹部62が設けられている。この凹部62によって、後部ケーシングの対向面60Bとロータの端面との間の距離が、凹部62のある箇所では増加するので、ロータ回転時の粘性抵抗を凹部が無い場合よりも小さくすることができる。
【0034】
なお、ケーシングの対向面とロータ端面との間の隙間G1が5mm以下であるとき、凹部62を設けることによる粘性抵抗の低減効果が大きくなり、隙間G1が3mm以下になると、凹部62は特に有効に作用する。
【0035】
図2は、後部ケーシング60の概略斜視図である。凹部62は対向面60B上に一つだけ設けられてもよいし、複数の凹部62が設けられてもよい。凹部62同士の間隔は、一定であっても不規則であってもよい。複数の凹部62は、全てが同一の形状であってもよいし、異なる形状であってもよいが、一つの凹部62の周方向長さLpは、径方向長さLrよりも大きいことが好ましい。これにより、ロータ端面との間の距離が長くなる箇所の面積を広くとることができる。
【0036】
凹部62が形成されている後部ケーシング60の延出部60Aは、その径方向内側に、ロータ軸70を支持する軸受82(
図1参照)が配置される部分でもある。換言すれば、凹部62と軸受82は径方向から見て重なっている。粘性抵抗を小さくするには、後部ケーシング60の対向面60B上で凹部62が占める面積を大きくすることが好ましいが、同時に、延出部60Aが軸受を支持するための剛性を確保する必要がある。そこで、
図2に示すように、対向面60Bの周方向に、複数の凹部62を間欠的に設けるようにすると、凹部62の占有面積の増大と延出部60Aの剛性確保とを両立することができる。なお、延出部60Aの剛性が確保できれば、対向面60B上に複数の凹部を間欠的に設ける代わりに、一続きの環状の凹部を設けてもよい。
【0037】
図3は、
図2中のB−B線に沿った、一つの凹部62の長手方向断面図である。図示するように、凹部62の周方向端面62aは、モータ軸の軸方向に対して傾斜していることが好ましい。ロータの回転時は、後部ケーシング60の対向面60Bの近傍で周方向に沿った流れが生じるので、周方向端面62aを傾斜させることで、凹部62内に進入した冷却液が凹部62から外に出やすくなる。よって、粘性抵抗をさらに低減する効果が生じる。
【0038】
図4は、
図1中のA部の拡大図である。図示するように、本実施形態では、ロータ軸70を支持する軸受82の外輪82aとロータ端面との間の軸方向の隙間G2が、ケーシング60の対向面60Bとロータ端面との間の軸方向の隙間G1よりも、小さくされている。一般に、粘性抵抗は流速に比例して大きくなるので、ロータの内周側である隙間G2では外周側の隙間G1よりもロータ回転時に発生する粘性抵抗が小さく、凹部を設けなくてもモータ効率に与える影響はほとんど無いと考えられる。
【0039】
上記では、後部ケーシング60の対向面60B、すなわち反負荷側の対向面とロータ端面との間の隙間が小さいため、この対向面に凹部62を設けることを述べた。しかしながら、モータの構造によっては、ケーシングの負荷側の対向面とロータ端面の間の隙間の方が、反負荷側の対向面とロータ端面の間の隙間よりも小さい場合も起こり得る。このような場合は、ロータ端面との間の隙間が小さい側の対向面に凹部を設けるようにすると、粘性抵抗の低減効果がより大きくなる。また、負荷側、反負荷側両方の対向面に凹部を設けてもよい。
【0040】
上記では、モータにおいて、ロータ軸を回転支持するケーシングのロータ対向面に凹部を設けることを述べた。しかしながら、本発明は、回転軸を制動するように構成される湿式ブレーキにも適用することができる。
【0041】
図5は、湿式ブレーキ100の概略部分拡大図である。湿式ブレーキ100は、回転軸170の回転を制動するように構成される。回転軸170はケーシング160に回転自在に支持されている。ケーシング160内には冷却液が封入されている。
【0042】
湿式ブレーキ100は、複数の摩擦板からなる多板式制動部178を備える。多板式制動部178の摩擦板は、複数(図示の例では3枚)の固定摩擦板178Aと、複数(図示の例では4枚)の回転摩擦板178Bとで構成されている。
【0043】
固定摩擦板178Aは、ブレーキピストン184と、ケーシング160の延出部160Aの端面160Bとの間で、図示しない貫通ピンによって円周方向に固定されるとともに、貫通ピンに沿って軸方向に移動可能とされている。固定摩擦板178Aの表面には、摩擦シート178Cが接着されている。
【0044】
一方、回転摩擦板178Bは、回転軸170側に組み込まれ、回転軸170と一体的に回転可能である。回転軸170の外周には、軸方向に沿ってスプライン(図示せず)が形成されており、回転摩擦板178Bの内周端がスプラインと係合している。これにより、回転摩擦板178Bは、回転軸170とスプラインを介して円周方向に一体化されると共に、回転軸170の軸方向に沿って移動可能となっている。
【0045】
所定の制動制御に基づいて、図示しない油圧機構から油路を介してシリンダ148内に圧油が供給されると、ブレーキピストン184が
図5の左方向に移動し、その当接面184Aが最右端に位置する固定摩擦板178Aを軸方向に押圧する。この結果、複数の固定摩擦板178Aと回転摩擦板178Bが次々に強い力で接触して、回転軸170の制動作用が発生する。制動制御が終了すると、シリンダ148内の圧油の供給が停止されるため、戻しばね185の復元力により、ブレーキピストン184が
図5中の右方向に戻り、各固定摩擦板178Aが元の軸方向位置に復帰する。これに伴って回転摩擦板178Bも元の軸方向位置に復帰し、固定摩擦板178Aと回転摩擦板178Bの接触が解かれて制動作用が消滅する。
【0046】
上記の湿式ブレーキ100において、非制動時に回転軸170が回転すると、ケーシング160内に封入されている冷却液は、その粘性のために、回転軸170とともに回転する回転摩擦板178Bの表面に引きずられ、回転摩擦板の回転方向と同じ方向に流れ出す。このとき、ケーシング160の回転摩擦板に対向する対向面160Bと、最左端に位置する回転摩擦板178Bの表面との間の隙間G3が小さいと、(対向面160Bと回転摩擦板178Bは相対回転するため)この箇所での冷却液の粘性抵抗が大きくなり、非制動時の回転効率が低下してしまう。
【0047】
そこで、
図1で示した実施形態と同様に、ケーシング160の延出部160Aの対向面160Bに凹部162が設けられている。この凹部162によって、ケーシングの対向面160Bと最左端の回転摩擦板178Bとの間の隙間の距離が、凹部162のある箇所では増加するので、回転軸の回転時の粘性抵抗を凹部が無い場合よりも小さくすることができる。上記の実施形態と同様に、凹部の数および形状は、様々に選択することができる。
【0048】
また、本発明は、入力軸と出力軸のそれぞれに接続された摩擦板同士を接触させることで動力の伝達を行うように構成された湿式クラッチにも適用することができる。
図5を参照して説明した湿式ブレーキと、湿式クラッチとは、摩擦板の接触で軸を制動するか、軸同士を連結するかという機能的な違いはあるものの、多板摩擦板の構成自体は同様なので、詳細な説明は省略する。
【0049】
以上、本発明の実施の形態について説明した。これらの実施の形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0050】
実施の形態では、IPMモータの反負荷側にブレーキ機構が配置された構成を例に説明したが、IPMモータの負荷側にブレーキ機構が配置されている構成であっても本発明を適用することができる。
【0051】
図1に示した実施の形態では、IPMモータおよびブレーキ機構の内部空間が一続きの空間となっておりこの空間に冷却液が封入されていることを述べた。しかしながら、モータの内部空間のみに冷却液が封入されている構成に対しても、本発明を適用することができる。また、モータの形式もIPMモータに限定されず、SPM(Surface Permanent Magnet)モータや誘導電動機であっても本発明を適用することができる。