特許第6061843号(P6061843)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6061843検体不添加サンプルを操作不適サンプルと判定できるイムノクロマトグラフィーに基づく検出方法及びこれに用いるテストストリップ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061843
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】検体不添加サンプルを操作不適サンプルと判定できるイムノクロマトグラフィーに基づく検出方法及びこれに用いるテストストリップ
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20170106BHJP
【FI】
   G01N33/543 521
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-507709(P2013-507709)
(86)(22)【出願日】2012年3月29日
(86)【国際出願番号】JP2012058302
(87)【国際公開番号】WO2012133615
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2014年12月2日
(31)【優先権主張番号】特願2011-77149(P2011-77149)
(32)【優先日】2011年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 元喜
(72)【発明者】
【氏名】小林 幸司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 佐智子
【審査官】 加々美 一恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−055918(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/001598(WO,A1)
【文献】 特許第3726082(JP,B2)
【文献】 特表2008−507692(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/125877(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血漿または血清を希釈して得られるサンプル中の検出対象物を検出するイムノクロマトグラフィーに基づく検出方法であって、以下の工程を含む検出方法。
1)サンプルを以下のa)、b)およびc)を含むイムノクロマトグラフィー用テストストリップのサンプルパッドに提供する工程
a)サンプルパッド
b)サンプルパッドの下流に配置され、
検出対象物に対する第一の抗体が固定化された標識体、および
コントロール用成分であるヘモグロビンに対する第一の抗体が固定化された標識体
を含むコンジュゲートパッド
c)コンジュゲートパッドの下流に配置され、
前記検出対象物に対する第二の抗体およびヘモグロビンに対する第二の抗体が固定化された不溶性メンブレン
2)不溶性メンブレン上で、検出対象物と検出対象物に対する第一および第二の抗体との複合体の有無を検出する工程
3)不溶性メンブレン上で、ヘモグロビンとヘモグロビンに対する第一および第二の抗体との複合体の有無を検出する工程
4)3)の検出工程において複合体を検出できなかった場合にサンプル中に検体が含まれていなかったと判断する工程
【請求項2】
イムノクロマトグラフィー用テストストリップのb)はさらにサンプルに含まれない成分である第二のコントロール用成分を含み、
イムノクロマトグラフィー用テストストリップのc)はさらに前記第二のコントロール用成分に対する検出試薬を含み、
以下の工程5)をさらに有する請求項1に記載の検出方法。
5)不溶性メンブレン上で、第二のコントロール用成分の有無を検出する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体を希釈して得られるサンプル中の検出対象物を検出するイムノクロマトグラフィー法に関する。特に、詳しくは、検体に含まれる成分であって、検出対象物とは異なる成分の有無を検出することにより、検体の添加し忘れを検知できるイムノクロマトグラフィーに基づく検出方法およびこれに用いるテストストリップならびにテストキットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、診療所や小病院において、「患者を診察している間に種々の検査を実施したい」、というニーズが大きくなってきており、従来の外注検査から、Point of Care Testing(POCT)による検査が行われるようになってきている。このようなPOCT試薬の代表例としては、ラテラルフロー式のイムノクロマトグラフィー用テストストリップなどが挙げられる(特許文献1等)。一般的なイムノクロマトグラフィー用テストストリップには、検出対象物を検出するテストラインと、反応が成立したことを示すコントロールライン(本発明で後述する第二のコントロールライン、以下「背景技術」の説明において同じ。)があり、検出対象物と検出対象物に対する抗体が固定化された標識体との複合体は、不溶性メンブレン上に固定化された抗体に捕捉されテストラインを形成し、テストラインで捕捉されなかった残りの標識体がコントロールラインの抗免疫グロブリン抗体によって捕捉され、コントロールラインを形成する。
イムノクロマトグラフィーに基づく検出方法による測定方法には、テストラインの発色を目視で判定する定性的な方法と、テストラインの発色強度を専用機器で測定する定量的な方法が存在しており、それぞれの方法に対応するイムノクロマトグラフィー用テストストリップやデバイスが診療所や小病院の検査に使用されている。
イムノクロマトグラフィー用テストストリップのテストライン等の発色強度を専用機器で測定する定量的な方法に関しては、検体の種類、検体の使用量、試薬の測定原理に応じて、様々な前処理が行なわれる場合がある。そのため、サンプルをテストストリップまたはデバイスに提供するに際しても、検体をそのまま滴下する場合、検体を専用希釈液で希釈してから滴下する場合、および少量の検体を滴下後に専用希釈液を滴下する場合などが存在する。このうちでも専用希釈液による検体の希釈は、乳幼児や小児の検体など検体量を大量に採取することが難しい場合や、検体中の検出対象物が高濃度であるときに、検出対象物の濃度を検出に適した濃度に調整する場合等に行なわれる。
ここで、赤血球を含む血液検体を希釈する場合、検体を希釈して得られるサンプルにヘモグロビンの着色が発生するため、サンプル中に検体が含まれているかどうかは目視で確認することができる。しかし、血漿や血清、尿などの比較的色が薄い検体を高倍率で希釈した場合には、希釈されたサンプル液と検体希釈液自体との判別が肉眼では難しい。そのため、検体を添加し忘れて、検体希釈液のみをサンプルとしてテストストリップに滴下する恐れがある。
しかし、一般的なイムノクロマトグラフィー用テストストリップのコントロールラインは、テストラインとの反応に使われなかった標識体を捕捉することによって形成されるため、専用希釈液のみをテストストリップに滴下した場合であってもコントロールラインは現れる。それ故、検体を添加し忘れて希釈液のみからなるサンプルの場合でも試験は成立したものとみなされ、陰性または濃度は「0」と判定されてしまう。よって、誤った診断の要因となる。
このように、従来は検体の添加し忘れを検知する工程を含むイムノクロマトグラフィーに基づく検出方法および検体の添加し忘れを検知する手段を備えたイムノクロマトグラフィー用テストストリップは存在していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−524813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、検体の添加し忘れを検知する工程を含むイムノクロマトグラフィーに基づく検出方法および検体の添加し忘れを検知する手段を備えたイムノクロマトグラフィー用テストストリップを提供することにある。すなわち、血漿、血清、尿検体など、色の薄い検体を希釈して得られるサンプル中の検出対象物を検出するイムノクロマトグラフィーに基づく検出方法において、検体が添加されなかったサンプルを測定した場合には、操作不適サンプルとして判定し、希釈液への検体の添加し忘れを検知できる検出方法およびこれに用いるイムノクロマトグラフィー用テストストリップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、検体を希釈して得られるサンプル中の検出対象物を検出するイムノクロマトグラフィーに基づく検出方法において、検体中に含まれる成分であって検出対象物以外の成分(コントロール用成分)と、その成分に対する抗体が固定化された標識体との複合体を、不溶性メンブレン上に固相化された抗体で捕捉する事により、前記コントロール用成分の有無を検出し、検体の添加し忘れを検知することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
〔1〕検体を希釈して得られるサンプル中の検出対象物を検出するイムノクロマトグラフィーに基づく検出方法であって、以下の工程を含む検出方法。
1)サンプルを以下のa)、b)およびc)を含むイムノクロマトグラフィー用テストストリップのサンプルパッドに提供する工程
a)サンプルパッド
b)サンプルパッドの下流に配置され、
検出対象物に対する第一の抗体が固定化された標識体、および
検体に含まれ、検出対象物とは異なる成分であるコントロール用成分に対する第一の抗体が固定化された標識体
を含むコンジュゲートパッド
c)コンジュゲートパッドの下流に配置され、
前記検出対象物に対する第二の抗体および前記コントロール用成分に対する第二の抗体が固定化された不溶性メンブレン
2)不溶性メンブレン上で、検出対象物と検出対象物に対する第一および第二の抗体との複合体の有無を検出する工程
3)不溶性メンブレン上で、コントロール用成分とコントロール用成分に対する第一および第二の抗体との複合体の有無を検出する工程
4)3)の検出工程において複合体を検出できなかった場合にサンプル中に検体が含まれていなかったと判断する工程
〔2〕検体が、血漿または血清である前記〔1〕に記載の検出方法。
〔3〕コントロール用成分が、ヘモグロビンである前記〔1〕または〔2〕に記載の検出方法。
〔4〕イムノクロマトグラフィー用テストストリップのb)はさらにサンプルに含まれない成分である第二のコントロール用成分を含み、
イムノクロマトグラフィー用テストストリップのc)はさらに前記第二のコントロール用成分に対する検出試薬を含み、
以下の工程5)をさらに有する前記〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の検出方法。
5)不溶性メンブレン上で、第二のコントロール用成分の有無を検出する工程
〔5〕以下のa)、b)およびc)を含むイムノクロマトグラフィー用テストストリップ。
a)サンプルパッド
b)サンプルパッドの下流に配置され、
検出対象物に対する第一の抗体が固定化された標識体、および
検体に含まれ、検出対象物とは異なる成分であるコントロール用成分に対する第一の抗体が固定化された標識体、
を含むコンジュゲートパッド
c)コンジュゲートパッドの下流に配置され、
前記検出対象物に対する第二の抗体および前記コントロール用成分に対する第二の抗体が固定化された不溶性メンブレン
〔6〕b)のコンジュゲートパッドがさらに、サンプルに含まれない成分である第二のコントロール用成分、を含み
c)の不溶性メンブレンが、前記第二のコントロール用成分に対する検出試薬を含む
前記〔5〕に記載のイムノクロマトグラフィー用テストストリップ。
〔7〕コントロール用成分がヘモグロビンであり、コントロール用成分に対する抗体が抗ヘモグロビン抗体である前記〔5〕または〔6〕に記載のイムノクロマトグラフィー用テストストリップ。
〔8〕検体希釈液と前記〔5〕から〔7〕のいずれかに記載のイムノクロマトグラフィー用テストストリップおよび検体希釈液を含む、イムノクロマトグラフィー用テストキット。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、血漿、血清、尿などの検体を希釈して得られるサンプル中の検出対象物を検出するイムノクロマトグラフィーに基づく検出方法およびこれに用いるテストストリップにおいて、希釈液への検体の添加を忘れたサンプルを検知し、このようなサンプルを操作不適サンプルとして判定できる方法およびテストストリップを提供できる。従って、検査に不慣れな医療従事者による検体の添加し忘れが原因となる偽陰性及び偽低値(検出限界未満の濃度)を、操作不適サンプルとして判定することで、誤った判定を減少させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の1例についてのテストストリップの構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(検出方法)
本発明のイムノクロマトグラフィーに基づく検出方法は、検体を希釈して得られるサンプル中の検出対象物を検出する方法であって、以下の工程1)から4)を含むものである。
1)サンプルを以下のa)、b)およびc)を含むイムノクロマトグラフィー用テストストリップのサンプルパッドに提供する工程
a)サンプルパッド
b)サンプルパッドの下流に配置され、
検出対象物に対する第一の抗体が固定化された標識体、および
検体に含まれ、検出対象物とは異なる成分であるコントロール用成分に対する第一の抗体が固定化された標識体を含むコンジュゲートパッド
c)コンジュゲートパッドの下流に配置され、
前記検出対象物に対する第二の抗体および前記コントロール用成分に対する第二の抗体が固定化された不溶性メンブレン
2)不溶性メンブレン上で、検出対象物と、検出対象物に対する第一および第二の抗体との複合体、の有無を検出する工程
3)不溶性メンブレン上で、コントロール用成分と、コントロール用成分に対する第一および第二の抗体との複合体、の有無を検出する工程
4)3)の検出工程において複合体を検出できなかった場合にサンプル中に検体が含まれていなかったと判断する工程
上記の1)の工程は、イムノクロマトグラフィー用テストストリップを用いる工程であるが、通常のテストストリップには検出対象物を検出するための検出用試薬しか含まれないところ、本発明では、検体に含まれる成分であって、検出対象物とは異なる成分(コントロール用成分)を検出するための検出用試薬を含むことを特徴としている。
このようなコントロール用成分を検出する手段を備えたテストストリップを用いて、サンプル中の検出対象物を検出する工程2)、サンプル中のコントロール用成分を検出する工程3)を経て、サンプル中に検体が含まれていたかどうかを判定することができる。すなわち、工程4)では、工程3)においてコントロール用成分が検出されなかった場合に、サンプル中に検体が含まれていなかったと判断することができる。また、コントロール用成分が検出された場合は、たとえ工程2)において検出対象物が検出されない場合であっても、サンプル中には検体が含まれていたと判断することができる。なお、サンプル自体の提供の有無を検出できるように従来のコントロール用成分検出手段を本テストストリップに組み合わせることはもちろん可能である(後述する第二のコントロール成分)。
本発明のイムノクロマトグラフィー法にもとづく検出方法において、検出対象物と検出対象物に対する抗体が固定化された標識体との複合体は、テストストリップを構成する不溶性メンブレン上に固定化された検出対象物に対する抗体に捕捉されテストラインを形成する。また、コントロール用成分とコントロール用成分に対する抗体が固定化された標識体との複合体は、同不溶性メンブレン上に固定化されたコントロール用成分に対する抗体に捕捉されコントロールラインを形成する。ここで、テストラインおよびコントロールラインのいずれもが形成されなかった場合は、検体中に検出対象物が含まれていなかったのではなく、検体自体がサンプル中に含まれていなかった、つまり検体不添加サンプル(操作不適サンプル)と判断することができる。また、テストラインおよびコントロールラインの両方が形成された場合は、検体中に検出対象物が含まれていたと判断することができる。また、テストラインは形成されなかったがコントロールラインは形成された場合は、検体中に検出対象物が含まれていなかったと判断することができる。したがって、工程2)において検出対象物が検出されなかった場合に、そもそも検体に検出対象物が含まれていなかった(すなわち、陰性を示す)のか、あるいは、検体を希釈液に添加し忘れていたのか、の違いを区別して判断することができる。
このように、本発明によれば、コントロール用成分の検出有無により、希釈液への検体の添加を忘れたかどうかを検知し、検体を添加し忘れたサンプルを操作不適サンプルとして判定できる方法および試薬を提供できる。
【0009】
(検出対象物)
本発明に係る検出対象物は、血液、血漿、血清、髄液及び尿中に存在する物質で、例えば、C反応性蛋白(CRP)、IgA、IgG、IgMなどの炎症関係マーカー、フィブリン分解産物(例えばDダイマー)、可溶性フィブリン、トロンビン−アンチトロンビン複合体(TAT)、プラスミン−プラスミンインヒビター複合体(PIC)などの凝固・線溶マーカー、酸化LDL、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)などの循環関連マーカー、アディポネクチンなどの代謝関連マーカー、癌胎児性抗原(CEA)、α−フェトプロテイン(AFP)、CA19−9、CA125、前立腺特異抗原(PSA)などの腫瘍マーカー、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、クラミジアトラコマティス、淋菌などの感染症関連マーカー、アレルゲン特異的免疫グロブリンE(IgE)、ホルモン、薬物などが例示される。
【0010】
(コントロール用成分)
本発明に係るコントロール用成分とは、検体に含まれる成分であって検出対象物とは異なる成分であればいずれでもよく、検体に恒常的に含まれる成分であることが望ましい。具体的には、アルブミン、グロブリン、ヘモグロビンなどの血液中のタンパク質や、尿中アルブミンなどの尿中のタンパク質が挙げられる。
なお、微量のヘモグロビンは血漿・血清検体の中にも含まれているため、血漿・血清検体を希釈して測定する場合において、コントロール用成分として利用し、コントロールラインを形成することが可能であることを本発明者らは見出した。
また、本発明のイムノクロマトグラフィー用テストストリップは、検出対象物や検出対象物に対する抗体の性質にもよるが、10pg/mL以上の濃度であれば検出が可能である。したがって、疾患の有無に関わらず常時血液中に1μg/mL以上存在する物質であれば、テストラインで捕捉する検出対象物として検出することができ、また、コントロールラインで捕捉するコントロール用成分としても検出することが可能である。
【0011】
(検体およびサンプル)
本発明における検体は、血液、血漿、血清、髄液、尿などの体液をいい、これらの検体が検体希釈液で希釈されたものをサンプルという。
検体の希釈について、検出対象物がC反応性タンパク質(CRP)であり、コントロール用成分がヘモグロビン(Hb)である場合を例に詳述する。
検体の希釈は、検出対象物の測定に適した濃度を考慮して行われるが、一般的には希釈倍率は2〜10000倍である。
ここで、本発明の一例である後記のCRP測定用テストストリップは、乳幼児や小児を測定対象者と定め、検体量を1〜10μLで設計している。そこで、イムノクロマトグラフィーによる検出に必要なサンプル量を確保するために、検体希釈液にて20〜200倍に希釈する必要がある。
次に、本発明のイムノクロマトグラフィー用テストストリップ及びテストキットについて詳述する。
【0012】
(本発明で用いられる検出対象物に対する抗体)
本発明に用いられる検出対象物に対する抗体は、検出対象物に対して特異的に反応する抗体であればよく、それらを作製する方法によって何ら限定されるものではなく、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。例えば、検出対象物がヒトCRPの場合には、抗ヒトCRP抗体は、ヒトCRPに対して特異的に反応する抗体であればよく、それらを作製する方法によって何ら限定されるものではなく、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。一般的に当該抗体を産生するハイブリドーマは、KohlerとMilsteinの方法(Nature、第256巻495頁(1975年)参照)に準じ、ヒトCRPで免疫した動物の脾臓細胞と同種のミエローマ細胞(骨髄腫細胞)とを細胞融合して作製することができる。
ここで、本発明に用いられる抗体がモノクローナル抗体の場合、標識体固定化用抗体(第一の抗体)と不溶性メンブレン固定化用抗体(第二の抗体)の関係は、次の通りである。即ち、第一の抗体のエピトープが一価の場合は、第二の抗体のエピトープは第一の抗体と異なるが、第一の抗体のエピトープが多価の場合は、第二の抗体のエピトープは第一の抗体と同じであってもよいし、第一の抗体と第二の抗体が同じ抗体であってもよい。
上述の20〜200倍程度に希釈した検体をサンプルとするときには、CRP濃度が100倍希釈程度で0.2〜20mg/dLの測定が可能な抗体の組合せが望ましい。例えば、CRP測定用抗体の組み合わせとしては、標識体固定化用抗体として受託番号FERM BP−11344のハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体を用い、不溶性メンブレン固定化用抗体として受託番号FERM BP−11345のハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体を用いる組合せが挙げられる。
【0013】
(コントロール用成分に対する抗体)
本発明に用いられるコントロール用成分に対する抗体は、コントロール用成分に対して特異的に反応する抗体であればよく、それらを作製する方法によって何ら限定されるものではなく、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。例えば、コントロール用成分がヒトHbの場合には、抗ヒトHb抗体は、ヒトHbに対して特異的に反応する抗体であればよく、それらを作製する方法によって何ら限定されるものではなく、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。また、その他、モノクローナル抗体の製造方法、抗体の組み合わせに関する条件等は、抗CRP抗体に関する上記記載内容に準じる。
また、抗ヒトHb抗体の組合せとしては、例えば本願発明者らが、常法にしたがいヒトHbをマウスに免疫して作製した2つのハイブリドーマ#69202及び#69209より得られる抗ヒトHbモノクローナル抗体の組み合わせの他、市販の抗ヒトHb抗体の中から適宜適当な組合せを選択してもよい。
【0014】
(サンプルパッド)
本発明において、「サンプルパッド」とは、サンプルを受け入れる部位であり、パッドに成型された状態で液体のサンプルを吸収し、液体と検出対象物とが通り抜けることができるどんな物質及び形態をも含む。サンプルパッドに適した材料の具体例として、ガラス繊維(グラスファイバー)、アクリル繊維、親水性ポリエチレン材、乾燥紙、紙パルプ、織物等が含まれるが、これらに限定されない。好適には、グラスファイバー製パッドが用いられる。該サンプルパッドには、後述するコンジュゲートパッドの機能を併せ持たせることも出来る。また、サンプルパッドには、抗体固定化メンブレンにおける非特異的反応(吸着)を防止・抑制する目的で、通常使用されるブロッキング試薬を含ませることができる。
該ブロッキング試薬としては、例えばNEO PROTEIN SAVER(TOYOBO製)、セリシン、イムノブロックTM(大日本製薬製)、ApplieBlock(生化学バイオビジネス製)、SEA BLOCKTM/EIA/WB(PIERC製)、Blocking One(ナカライテスク製)、BSA、Blocking Peptide Fragment(TOYOBO製)、StartingBlockTM(PBS)Blocking Buffer(PIERCE製)、SmartBlockTM(CANDOR bioscience GmbH製)、HeteroBlock(Omega Biologicals製)、等から、特異的反応そのものに悪影響を与えないものを適宜選択可能である。
【0015】
(標識体)
標識体としては、通常、イムノクロマトグラフィー法における抗体の固定化担体として知られる公知の材料を用いることができる。例えば、金コロイド粒子、白金コロイド粒子、カラーラテックス粒子、磁性粒子などが好ましく、特に金コロイド粒子が好ましい。
金コロイド粒子の粒径は、イムノクロマトグラフィーに基づく測定の感度に大きく影響することが知られているが、本発明の金コロイド粒子の粒径としては20〜60nmが好ましく、特に30〜40nmが好ましい。上記の金コロイドは、一般に知られている方法、例えば、加熱したテトラクロロ金(III)酸水溶液にクエン酸三ナトリウム水溶液を滴下攪拌することによって製造することができる。
以下、金コロイド粒子を用いた場合について詳述する。
【0016】
(標識体への抗体の感作)
検出対象物またはコントロール用成分に対する抗体の金コロイドへの固定化、例えばCRPまたはHbに対する抗体の金コロイドへの固定化は、通常、物理吸着によって行う。この際、抗体濃度は0.5μg/mL〜5μg/mLに調製されるのが好ましく、緩衝液及びpHは、2mmol/Lリン酸緩衝液(pH6〜7)または2mmol/Lホウ酸緩衝液(pH8〜9)が好ましく、さらに好ましくは2mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)である。また、金コロイド上の抗体が結合していない領域は、BSAなどを結合させブロッキングするのが好適である。このようにして作製された金コロイド標識抗体は、変性を阻止するための成分(変性阻止剤)を含む保存試薬中に分散され保存される。この変性阻止剤としては、BSAなどのタンパク質、グリセリン、糖などが用いられる。
本明細書では、上記のような検出対象物に対する抗体である抗CRPモノクローナル抗体、コントロール用成分に対する抗体である抗Hbモノクローナル抗体などの、抗体が標識体に固定化されたものを「コンジュゲート」という。
【0017】
(検出試薬)
本発明において、「検出試薬」とは、具体的には少なくともコンジュゲートを含有する溶液である。
検出試薬は、コンジュゲートを安定な状態に保ち、サンプルと混合されたときにコンジュゲートに固定化された抗体が検出対象物(例えばCRP)またはコントロール用成分(例えばHb)と特異的に反応するのを促進する、あるいはコンジュゲートを迅速かつ効果的に溶解、流動化する目的で、例えば1種類以上の安定化剤、溶解補助剤等を含み得る。該安定化剤、溶解補助剤等としては、例えばウシ血清アルブミン(BSA)、スクロース、カゼイン、アミノ酸類などをあげることができる。
なお、本明細書において、「検出」又は「測定」という用語は、検出対象物、例えばCRP、コントロール用成分、例えばHbの存在の証明及び/又は定量などを含めて最も広義に解釈する必要があり、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。
【0018】
(コンジュゲートパッド)
本発明において、「コンジュゲートパッド」とは、上記の検出対象物と特異的に反応する検出試薬、例えばCRPと特異的に反応する検出試薬及び/またはコントロール用成分と特異的に反応する検出試薬、例えばHbと特異的に反応する検出試薬を後述のコンジュゲートパッドに適した材料に含浸させて乾燥させたものである。コンジュゲートパッドは、サンプルが該コンジュゲートパッドを通過する際、検出試薬とCRPまたはHbとで複合体を形成させる機能を有する。該コンジュゲートパッドは、それ単独で抗CRP抗体及び抗Hb抗体固定化メンブレンに接するように配置されていてもよい。あるいは、前記サンプルパッドと接触して配置され、毛細管流によってサンプルパッドを通過したサンプルを受入れ、引き続き該サンプルを毛細管流によって前記サンプルパッドとの接触面とは異なる面で接触する別のパッド(以後、「3rd Pad」と記す。)に移送するように配置されてもよい。なお、サンプルパッド、コンジュゲートパッドの一種以上の部位の選択や、選択された部位を抗体固定化メンブレンにどのように配置するかは、適宜に変更可能である。
該コンジュゲートパッドに適した材料として、紙、セルロース混合物、ニトロセルロース、ポリエステル、アクリロニトリルコポリマー、ガラス繊維またはレーヨンのような不織繊維が挙げられるが、これらに限定されない。好適には、グラスファイバー製パッドが用いられる。
また、該コンジュゲートパッドは、検出試薬を安定な状態に保ち、検出試薬がサンプルと接した際に、サンプル中の検出対象物(例えばCRP)またはコントロール用成分(例えばHb)と特異的に反応するのを促進、あるいは迅速かつ効果的に溶解、流動化する目的で、例えば1種類以上の安定化剤、溶解補助剤等を含み得る。該安定化剤、溶解補助剤等としては、例えばウシ血清アルブミン(BSA)、スクロース、カゼイン、アミノ酸類などをあげることができる。特に、抗CRP抗体では、Ca2+イオン存在下と非存在下において反応性が大きく異なる場合があり、反応性を制御する目的でコンジュゲートパッドには、適宜Ca2+イオンのキレート剤であるEDTAやEGTAなどを含有させても、反対にCa2+イオンを添加する目的でCaClなどのカルシウム塩類を添加しても良い。
【0019】
(3rd Pad)
本発明において、3rd Padとは、サンプルと検出試薬との反応成分のうち、検出対象物(例えばCRP)およびコントロール用成分(例えばHb)の検出に不要な成分を除去し、反応に必要な成分が抗体固定化メンブレンをスムーズに展開できるようにすることを目的として配置させることができる。例えば、血球や不溶性の血球破砕物などは、CRPまたはHbの検出に不要な成分として除去されることが望ましい。また、この3rd Padには、抗原抗体反応により生成する凝集体のうち、抗体固定化メンブレンに移動し、スムーズに展開できない位に大きくなった凝集体をあらかじめ除去するという付加的な効果を併せ持たせることも可能である。3rd Padとしては、液体とサンプルの成分とが通り抜けることができるどんな物質及び形態をも含む。具体例として、ガラス繊維(グラスファイバー)、アクリル繊維、親水性ポリエチレン材、乾燥紙、紙パルプ、織物等が含まれるが、これらに限定されない。好適には血球分離膜やそれに類する膜が用いられる。
【0020】
(抗体の不溶性メンブレンへの固定化)
本発明のイムノクロマトグラフィー用テストストリップにおける、検出対象物(例えばCRP)またはコントロール用成分(例えばHb)に対する抗体の不溶性メンブレンへの固定化は、一般に周知の方法で実施することができる。例えば、フロースルー式の場合、上記の抗体を所定の濃度に調製し、その液を一定量、点あるいは+など特定のシンボル状に、不溶性メンブレンに塗布する。ラテラルフロー式の場合には、上記の抗体を所定の濃度に調製し、その液をノズルから一定の速度で吐出しながら水平方向に移動させることのできる機構を有する装置などを用いて、ライン状に不溶性メンブレンに塗布することにより行われる。
この際、抗体の濃度は0.1mg/mL〜5mg/mLが好ましく、0.5mg/mL〜2mg/mLがさらに好適である。また、抗体の不溶性メンブレンの固定化量は、フロースルー式の場合には不溶性メンブレンに滴下する塗付量を調節することによって最適化でき、ラテラルフロー式の場合には上記の装置のノズルからの吐出速度を調節することによって最適化できる。特に、ラテラルフロー式の場合、0.5μL/cm〜2μL/cmが好適である。なお、本発明において、「フロースルー式メンブレンアッセイ」という場合は、サンプル液等が不溶性メンブレンに対して垂直に通過するように展開する方式を指し、「ラテラルフロー式メンブレンアッセイ」という場合は、試料液等が不溶性メンブレンに対して並行方向に移動するように展開する方式を指す。
また、本発明において、検出対象物(例えばCRP)、または、コントロール用成分(例えばHb)に対する抗体の不溶性メンブレンへの塗付位置については、ラテラルフロー式の場合、コンジュゲートパッドから、上記検出試薬が毛細管現象によって展開し、それぞれの抗体が塗付されたラインを順に通過するように配置されれば良い。好ましくは抗CRP抗体の塗付されたラインが上流にあり、抗Hb抗体の塗付されたラインはその下流に位置するように配置するのが好ましい。この際、それぞれのライン間の距離は標識体のシグナル検出が可能であるように十分の距離をとることが望ましい。フロースルー式の場合にも、CRPまたはHbに対する抗体の塗付位置は標識体のシグナル検出が可能であるように配置されていれば良い。
上記の不溶性メンブレンへ塗付する抗体液は、通常、所定の緩衝液を用いて調製することができる。その緩衝液の種類としては、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液など通常使用される緩衝液を挙げることができる。緩衝液のpHは6.0〜9.5の範囲が好ましく、6.5〜8.5がより好ましく、7.0〜8.0がさらに好ましい。緩衝液には、さらにNaClなどの塩類、スクロースなどの安定剤や保存剤、プロクリンなどの防腐剤等を含んでもよい。塩類には、NaClなどのようにイオン強度の調整のために含ませるもののほか、水酸化ナトリウムなど緩衝液のpHを調整する工程で添加するものも含まれる。
不溶性メンブレンに抗体を固定化した後、さらに、通常使用されるブロッキング剤を溶液あるいはミスト状にして抗体固定化部位以外を被覆し、ブロッキングを行うこともできる。本明細書では、上記のように抗体が固定化された不溶性メンブレンを「抗体固定化メンブレン」ということがある。
【0021】
(不溶性メンブレン)
本発明において、不溶性メンブレン(以下、単にメンブレンと記載することがある)としては、任意の材質のものが使用できる。例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン類、ガラス、セルロースやセルロース誘導体などの多糖類あるいはセラミックス等が挙げられるがこれらに限定されない。具体的には、ミリポア社、東洋濾紙社、ワットマン社などより販売されているガラス繊維ろ紙やセルロースろ紙などをあげることができる。また、この不溶性メンブレンの孔径と構造を適宜選択することにより、金コロイド標識抗体と検出対象物(例えばCRP)との免疫複合体がメンブレン中を流れる速度を制御することが可能である。メンブレン中を流れる速度の制御により、メンブレンに固定化された上記抗体に結合する標識抗体量を調節することができるため、メンブレンの孔径と構造は、本発明のイムノクロマトグラフィー用テストストリップのほかの構成材料との組み合わせを考慮して最適化することが望ましい。
【0022】
(吸収パッド)
本発明において、吸収パッドとは、不溶性メンブレンを移動・通過したサンプルを吸収することにより、サンプルの展開を制御する液体吸収性を有する部位である。ラテラルフロー式においては、テストストリップ構成の最下流に設ければよく、フロースルー式においては、例えば抗体固定化メンブレンの下部に設ければよい。該吸収パッドとしては、例えば、ろ紙を用いることができるが、これに限定されない。好適には、Whatman社の740−E等が用いられる。
【0023】
(テストストリップ)
本発明において、「テストストリップ」とは、少なくとも検出対象物に対する抗体を固定化した不溶性メンブレンを含むものであればよく、さらに必要に応じて試薬成分や他のメンブレン等を含むものをいう。他のメンブレンとしては、サンプルパッド、コンジュゲートパッド、吸収パッド等が挙げられる。該テストストリップは、通常、プラスチック製粘着シートのような固相支持体上に配列させる。該固相支持体を、サンプルの毛管流を妨げない物質で構成することはもとより、接着剤の成分をサンプルの毛管流を妨げない物質とすることは明らかである。なお、抗体固定化メンブレンの機械的強度を上げ且つアッセイ中の水分の蒸発(乾燥)を防ぐ目的でポリエステルフィルムなどをラミネート加工することも可能である。
該テストストリップは、ストリップの大きさや、サンプルの添加方法・位置、抗体固定化メンブレンにおける抗体の固定化位置、シグナルの検出方法などを考慮した適当な容器(ハウジング)に格納・搭載して使用することができ、このように格納・搭載された状態を「デバイス」という。
【0024】
(同一のテストストリップ)
検出対象物を検出するためのストリップとコントロール用成分を検出するためのストリップは、同一のストリップであっても、異なる別のストリップであってもよい。すなわち、同一のストリップの場合、該ストリップは、上述したように、コントロール用成分に対する第一の抗体が固定化された標識体及び検出対象物に対する第一の抗体が固定化された標識体を含有させた同一のコンジュゲートパッド、およびコントロール用成分に対する第二の抗体及び検出対象物に対する第二の抗体を固定化させた同一の不溶性メンブレンから構成されることになる。異なる別のストリップを用いる場合は、検出対象物に対する第一の抗体が固定化された標識体を含有させたコンジュゲートパッドと検出対象物に対する第二の抗体を固定化させた不溶性メンブレンから構成される検出対象物測定用のストリップと、コントロール用成分に対する第一の抗体が固定化された標識体を含有させたコンジュゲートパッドとコントロール用成分に対する第二の抗体を固定化させた不溶性メンブレンから構成されるコントロール用成分検出用のストリップとを用いて、同一サンプルの測定を行うことになる。同一のストリップの場合の方が、小型化でき、簡易に測定できるが、別々のストリップを用いる場合は、検出対象物が異なる複数のストリップを適宜組合わせることが可能であり、個々のストリップの汎用性が高まるものと思われる。また、ストリップは別々であっても、同一のハウジングに入れて1つのデバイスとすることはもちろん可能である。
本明細書において、「不溶性メンブレン」を「固相」、抗原や抗体を不溶性メンブレンに物理的あるいは化学的に担持させることあるいは担持させた状態を「固定」、「固定化」、「固相化」、「感作」、「吸着」と表現することがある。
【0025】
(検体希釈液)
本発明に係る希釈液は、検出対象物やコントロール用成分の、それぞれに対する抗体との抗原抗体反応を著しく阻害したり、または反対に著しく反応を促進し標識体が過凝集し毛細管現象による展開不良を起こしたりせず、抗原濃度に応じた抗原抗体反応のシグナル検出が可能であれば、いずれの組成の希釈液を用いても良い。このような希釈液としては、例えば、精製水や、pH6.0〜10.0の低濃度緩衝液が挙げられる。該低濃度緩衝液としては、例えば10mmol/L〜20mmol/Lリン酸緩衝液や10mmol/L〜20mmol/L Tris−HCl緩衝液、10mmol/L〜20mmol/L グリシン−HCl緩衝液が挙げられる。
また、試料液のストリップでの展開速度を制御する目的で、これらの希釈液に界面活性剤を添加することも可能である。特に、検出対象物の一例であるCRP測定系においては、標識体固定化用抗体として受託番号FERM BP−11344のハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体を用い、不溶性メンブレンに固定化用抗体として受託番号FERM BP−11345のハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体を用いるときには、希釈液に一般式CH(CHOSONa(n=5〜10)で表されるアルキル硫酸ナトリウムを含有させることによって、測定範囲を調節することができる。好適には、ヘキシル硫酸ナトリウムやオクチル硫酸ナトリウム等を0.05〜0.3%添加することによって好ましい濃度反応曲線が得られるためより望ましい。この際、望ましい希釈倍率は50倍から200倍である。その他、希釈液にCa2+イオンのキレート剤であるEDTAやEGTAなどを含有させてもよい。
【0026】
(第二のコントロール用成分)
本発明のイムノクロマトグラフィーに基づく検出方法には、いわゆる従来のコントロール用成分(本発明では第二のコントロール用成分という)を用いることももちろん可能である。すなわち、上記イムノクロマトグラフィー用テストストリップの構成において、コンジュゲートパッドがサンプルに含まれない成分である第二のコントロール用成分をさらに含み、不溶性メンブレンが、前記第二のコントロール用成分を検出する試薬をさらに含む構成を採ることにより実現できる。
コンジュゲートパッドに含ませる第二のコントロール用成分としては、例えば、標識体で標識され且つ検出対象物と反応しない抗体や、標識体で標識されたKLH(スカシ貝ヘモシアニン)などの高抗原性タンパク質などが挙げられる。これらの第二のコントロール用成分は、サンプル中に存在する可能性が考えられない成分(物質)であり、コントロール用成分に対する抗体(コントロール用成分捕捉抗体)と適切に対応するよう適宜に選択可能である。
不溶性メンブレンに固定化される前記第二のコントロール用成分を検出する試薬としては、例えば、コンジュゲートパッドに、標識されたKLHを第二のコントロール用成分として含む場合には、抗KLH抗体などが第二のコントロール用成分の検出試薬に該当する。当該検出試薬をメンブレンに固定化する位置は、適宜選択すれば良いが、検出対象物の検出試薬より下流側に配置されるのが好ましい。
本構成によれば、第二のコントロール用成分が検出されない場合には、サンプルがテストストリップに提供されなかったことも判断することができる。
【実施例】
【0027】
次に検出対象物としてCRP、コントロール用成分としてHbを検出する場合の実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
1.本発明のイムノクロマトグラフィー用テストストリップの1作製例
1)金コロイド標識抗CRP抗体及び金コロイド標識抗Hb抗体(コンジュゲート)の作製
抗CRPモノクローナル抗体(Clone:FERM BP−11344)と抗ヒトHbモノクローナル抗体(Clone:#69202)とを、それぞれ以下のi)及びii)のような、緩衝液条件と抗体濃度に調製し、1 OD/mLの金コロイド(粒径40nm)溶液20mLに対し、各1mLの抗体液を添加し、室温で10分間撹拌した。該各金コロイド−抗体混合液に対し、10%ウシ血清アルブミン(BSA)水溶液を2mL添加し、さらに5分間撹拌後、10℃にて、10,000rpmで45分間遠心し、沈渣(コンジュゲート)を得た。得られたコンジュゲートに対し、Conjugate Dilution Buffer(Scripps社製)を1.2mL添加しコンジュゲートを懸濁させた。各コンジュゲートの最大吸収波長における吸光度を測定した。
i)FERM BP−11344(20μg/mL)、2mmol/L リン酸緩衝液(pH7.0)
ii)#69202(80μg/mL)、2mmol/L ホウ酸緩衝液(pH9.0)(抗体は、便宜上、それぞれを産生するハイブリドーマのclone名で表している)
【0028】
2)コンジュゲートパッドの作製
上記1)で調製した抗CRPモノクローナル抗体感作コンジュゲートが20 OD/mL、抗Hbモノクローナル抗体感作コンジュゲートが10 OD/mLとなるように、1.33%カゼイン、4%スクロースを含む20mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH7.5)で希釈し、コンジュゲート溶液を作製した。これを、一定体積のグラスファイバー製パッド(日本ポール社、No.8964)に該パッド体積の1.2倍容量滲みこませた。ドライオーブン内で70℃、30分間加温することにより乾燥させ、コンジュゲートパッドとした。また、必要に応じ、増感剤などの添加剤を添加する場合には、前記コンジュゲート溶液に必要量を添加した後、同様の操作を行えばよい。
【0029】
3)抗CRP抗体及び抗Hb抗体固定化メンブレンの作製
抗CRPモノクローナル抗体(Clone:FERM BP−11345)及び抗Hbモノクローナル抗体(Clone:#69209)を1mg/mLになるように、2.5%スクロースを含む10mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.2)として調製し、ニトロセルロースメンブレン(ミリポア社、HF240またはHF180)の短辺の一端の内側の位置に抗CRPモノクローナル抗体、約5mmの間隔をあけて抗Hbモノクローナル抗体をイムノクロマト用ディスペンサー「XYZ3050」(BIO DOT社)を用いて0.75μL/cmとなるよう設定し、ライン状に塗布した。ドライオーブン内で70℃、45分乾燥し、抗体固定化メンブレンとした。
【0030】
4)サンプルパッドの作製
24mmol/L NaCl、0.5%スクロース及び30mmol/L エチレンジアミンテトラ酢酸を含む20mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH7.2)を、一定体積に切断したグラスファイバー製パッド(Lydall社)に該パッド体積の1.15倍容量滲みこませた。ドライオーブン内で70℃、45分乾燥し、サンプルパッドとした。
【0031】
5)テストストリップの作製
プラスチック製粘着シート(a)に上記抗体固定化メンブレン(b)を貼り、展開上流部側に抗CRP抗体(c)、次いで抗Hb抗体(d)の順に塗布部を配置し、さらにグラスファイバー製パッドからなる3rd Pad(i)を装着した。次いで、上記2)で作製したコンジュゲートパッド(e)を配置装着し、さらにこのコンジュゲートパッドに重なるように上記4)で作製したサンプルパッド(f)を配置装着し、反対側の端には吸収パッド(g)を配置装着した。また、最後に抗体固定化メンブレンおよび吸収パッドを被覆するように上面にポリエステルフィルム(h)を配置装着し、ラミネート加工した。このように各構成要素を重ね合わせた構造物に切断してテストストリップを作製した。該テストストリップは、アッセイの際、プラスチック性の専用のハウジング(サンプル添加窓部及び検出窓部を有する、図1中図示せず)に格納・搭載し、イムノクロマトグラフィー用テストデバイスの形態にした。図1にテストストリップの模式構成図を示した。
【0032】
6)希釈液の作製
ヘキシル硫酸ナトリウムを終濃度で0.1%含む10mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.2)に防腐剤を添加し、0.45μmフィルターで濾過した液体を本試薬の希釈液とした。
【0033】
[実施例1〕サンドイッチイムノクロマトグラフィー法によるCRP検出方法
(1)検体
採血に同意の得られた健常者一名からEDTA−2K真空採血管を用いて5mLの血液を採血し、遠心分離により血漿を分取した。分取した血漿を抗CRP抗体カラムに通してCRPを除去し、そのCRP除去血漿1mLにCRP組換え体を添加し、3.0mg/dL相当のCRP含有血漿に調製したものを検体1とした。また、CRP除去血漿1mLにCRP組換え体を添加しないものを検体2とした。CRP組換え体は、rCRP−C−リアクティブプロテイン(リコンビナント)(オリエンタル酵母工業株式会社製)を用いた。
(2)サンプルの調製
前記検体1と検体2の一部を前記希釈液にて101倍に希釈したものを通常操作サンプルとして使用した。また、希釈液そのものを、検体の添加を忘れた操作不適サンプルとして使用した。
(3)試験方法
通常操作サンプル及び操作不適サンプルの各々120μLをイムノクロマトグラフィー用テストストリップのサンプルパッド窓部に添加し、イムノクロマトリーダーICA−1000(浜松ホトニクス社)を用いて、5分後の該テストストリップの検出窓部のテストライン(CRP測定)とコントロールライン(Hb捕捉)の反射光強度を測定した。
(4)結果
通常操作サンプルにおいて、検体1はCRP濃度を測定するテストラインとHbと標識体の複合体を捕捉するコントロールラインの発色が認められ、検体2ではコントロールラインのみが認められた。したがって、これらのサンプルにはいずれも検体が含まれていたと判定することができる。一方、操作不適サンプルは、テストラインもコントロールラインも認められず、検体を添加し忘れたサンプルであると判定された(表1)。
【0034】
【表1】
【符号の説明】
【0035】
(a)プラスチック製粘着シート
(b)抗体固定化メンブレン
(c)抗CRP抗体
(d)抗ヘモグロビン抗体
(e)コンジュゲートパッド
(f)サンプルパッド
(g)吸収パッド
(h)ポリエステルフィルム
(i)3rd Pad
【0036】
FERM BP−11344
FERM BP−11345
【0037】
[寄託生物材料への言及]
(1)FERM BP−11344
イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所
独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566)
ロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付
平成21年11月26日
ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号
FERM BP−11344
(2)FERM BP−11345
イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所
独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566)
ロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付
平成21年11月26日
ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号
FERM BP−11345
図1