【文献】
Int. J. Pept. Protein Res., 1989, Vol. 33, No. 6, pp. 397-402
【文献】
J. Chromatogr. A, 2012, Vol. 1260, pp. 120-125
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリペプチドおよび前記ポリペプチドの酸性変異体を含む溶液から、精製された前記ポリペプチドを製造する方法であって、前記ポリペプチドの前記酸性変異体は前記ポリペプチドの効力を抑制しており、(a)前記ポリペプチドを陰イオン交換(AIEX)クロマトグラフィマトリックスと接触させる工程と、(b)前記結合したポリペプチドを、pH8.0のTris/HCl中、150mMのNaCl〜pH8.0のTris/HCl中、300mMのNaCl、pH8.0のTris/HCl中、175mMのNaCl〜pH8.0のTris/HCl中、275mMのNaCl、またはpH8.0のTris/HCl中、192mMのNaCl〜pH8.0のTris/HCl中、245mMのNaClの線形塩勾配により、前記AIEXクロマトグラフィマトリックスから溶出させ、それにより前記ポリペプチドを前記酸性変異体から分離して、精製されたポリペプチドを製造する工程とを含み、
前記ポリペプチドが、細胞表面受容体CD22に結合する抗体もしくはその抗原結合フラグメント、およびシュードモナス(Pseudomonas)外毒素もしくはその変異体を含み、
酸性または脱アミド変異体の95%超が除去される、前記方法。
前記シュードモナス(Pseudomonas)外毒素またはその変異体は、配列番号16〜22からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する請求項1に記載の方法。
請求項11に記載の組成物と、塩化ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、および水酸化ナトリウムおよび水からなる群から選ばれる少なくとも1種の賦形剤を含む製剤。
請求項1に記載の方法に従って精製ポリペプチドを製造し、該精製ポリペプチドを用いて、5%未満の脱アミド種を有する精製ポリペプチドを含む組成物と、塩化ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、および水酸化ナトリウムおよび水からなる群から選ばれる少なくとも1種の賦形剤とを含む製剤を製造する方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、ポリペプチドまたは免疫複合体およびこれらの酸性変異体を含む溶液から、活性なポリペプチドまたは免疫複合体を精製する方法を提供する。一実施形態では、酸性変異体は、ポリペプチドまたは免疫複合体の脱アミド形態を含む。陰イオン交換カラムからの予期した溶出挙動とは異なって、塩の勾配溶出条件の下では、脱アミド変異体の大半は完全なポリペプチドに先立って溶出する。これらの方法の詳細が、本明細書中に記載れている。
【0020】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」、「タンパク質」および「タンパク質フラグメント」は、本明細書では、アミノ酸残基のポリマーを指す同義語として使用される。これらの用語は、1つ以上のアミノ酸残基が、対応する天然アミノ酸に対して人工的な化学模倣物であるアミノ酸ポリマーにも、また天然のアミノ酸ポリマーや非天然のアミノ酸ポリマーにも適用される。
【0021】
用語「アミノ酸」は、天然および合成アミノ酸、ならびにアミノ酸類似物、および天然アミノ酸と類似の機能を有するアミノ酸模倣物をいう。天然アミノ酸は、遺伝子コードでコードされたもの、および後で改変されたアミノ酸、例えば、ヒドロキシプロリン、ガンマ−カルボキシグルタミン酸塩およびO−ホスホセリンなどである。アミノ酸類似物は、天然アミノ酸と同じ基本化学構造、例えば、水素、カルボキシル基、アミノ基およびR基と結合したアルファ炭素などを有する化合物、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムをいう。そのような類似物は、改変されたR基(例えば、ノルロイシン)、または改変されたペプチド主鎖を有することができるが、天然アミノ酸と同じ基本化学構造を維持する。アミノ酸模倣物は、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然アミノ酸に類似した機能を有する化合物をいう。負荷電アミノ酸としては、アスパラギン酸(またはアスパラギン酸塩)およびグルタミン酸(またはグルタミン酸塩)が挙げられる。正荷電アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、およびリシンが挙げられる。
【0022】
本明細書において、精製すべき「組成物」は、目的のポリペプチドと1種以上の不純物とを含む。組成物は、「部分的に精製する」(すなわち、本明細書に記載する非親和性クロマトグラフィなどによる1つ以上の精製工程にかけられている)ことができ、またはポリペプチドを生成する宿主細胞または器官から直接得ることができる(例えば、組成物は、取り込んだ細胞の培養液を含むことができる)。
【0023】
用語「ポリペプチド」または「目的のポリペプチド」または「目的のタンパク質」および「標的タンパク質」または「タンパク質」は、同義語として使用され、本発明の方法により、タンパク質および他の物質(目的のポリペプチドの酸性変異体など)との混合物から精製されるべき、抗体または免疫複合体(本明細書で定義されているもの)などのタンパク質またはポリペプチドをいう。
【0024】
「酸性変異体」は、目的のポリペプチドより酸性度が高い(例えば、陽イオン交換クロマトグラフィにより測定される)、ポリペプチドまたは免疫複合体の変異体である。酸性変異体の例として、脱アミド変異体がある。
【0025】
脱アミドタンパク質は、グルタミンからグルタミン酸への転換などのように、フリーのアミド官能基のいくつかまたは全てをカルボン酸へと加水分解させたものである。この反応速度は、一次配列、3次元構造、pH、温度、緩衝液の種類、イオン強度および他の溶液特性に依存する。重要なのは、脱アミド反応は分子に負の電荷を導入することである。以下でさらに説明するように、タンパク質の脱アミド化は、タンパク質の活性に悪影響を与え得る。
【0026】
本明細書では、用語「抗体」および「免疫グロブリン」は、最も広い意味において同義語として使用され、モノクローナル抗体(例えば、完全長または完全なモノクローナル抗体)、ポリクローナル抗体、多価抗体、多重特異性抗体(例えば、所望の生物学的活性を示す限りにおいての二重特異性抗体)、および本明細書に記載する抗体フラグメントを含む。用語「二重特異性抗体」とは、2つの異なる結合特異性を有する任意の抗体を含むことを意図するものである。すなわち、この抗体は、同じ標的抗原上、または、より一般的には、異なる標的抗原上に位置し得る2つの異なるエピトープに結合する。
【0027】
天然抗体および免疫グロブリンは、通常、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質であり、2つの同じ軽鎖(L)および2つの同じ重鎖(H)から構成される。各軽鎖は1つのジスルフィド共有結合により重鎖と結合するが、異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間のジスルフィド結合の数は変化する。各重鎖および軽鎖はまた、一定の間隔を置いて鎖内ジスルフィド架橋を有している。各重鎖は一端に可変ドメイン(V
H)を有し、その後に複数の定常ドメインを有する。各軽鎖は一端に可変ドメイン(V
L)を有し、他端に定常ドメインを有する。軽鎖の定常ドメインは、重鎖の最初の定常ドメインと並び、軽鎖の可変ドメインは重鎖の可変ドメインと並んでいる。特定のアミノ酸残基は、軽鎖と重鎖の可変ドメイン間のインターフェースを形成すると考えられている(Clothia et al.,J.Mol.Biol.186,651−66,1985;Novotny and Haber,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82,4592−4596(1985))。5つのヒト免疫グロブリンクラスが、重鎖の構成に基づいて定義され、IgG、IgM、IgA、IgEおよびIgDと名付けられている。IgGクラスおよびIgAクラスの抗体は、さらにサブクラスに、すなわち、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4と、IgA1およびIgA2に分類される。IgG、IgAおよびIgD抗体の重鎖は、CH1、CH2およびCH3と呼ばれる3つの定常領域ドメインを有し、IgMおよびIgE抗体の重鎖は、CH1、CH2、CH3およびCH4の4つの定常領域ドメインを有する。したがって、重鎖は1つの可変領域と3つまたは4つの定常領域を有する。免疫グロブリンの構造と機能は、例えば、Harlow et al.,Eds.,Antibodies:A Laboratory Manual,Chapter 14,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor(1988)に概説されている。
【0028】
用語「抗体フラグメント」は、完全な抗体の一部をいい、かつ完全な抗体の抗原決定可変領域をいう。抗体フラグメントの例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fvおよび単鎖Fvフラグメント、線形フラグメント、単鎖抗体、および抗体フラグメントから形成された多重特異性抗体が挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0029】
用語「モノクローナル抗体」は、本明細書では、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体をいう。すなわち、集団を構成する個々の抗体が、わずかに存在し得る、自然に発生し得る突然変異体を除いて同じである。モノクローナル抗体は特異性が高く、単一の抗原に結合する。さらに、通常、異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含むポリクローナル抗体の調製物とは異なり、各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基を対象とする。抗体が「選択的に結合する」または「特異的に結合する」とは、抗体が、無関係のタンパク質を含む代替物質よりも、エピトープに対して、より頻繁に、より急速に、より長時間にわたって、より強い親和性で、またはこれらのいくつかの組み合わせで、反応、または結びつくことを意味する。「選択的に結合する」または「特異的に結合する」とは、例えば、抗体が、少なくとも約0.1mM、より一般的には少なくとも約1μMのK
Dでタンパク質と結合することを意味する。「選択的に結合する」または「特異的に結合する」とは、抗体が、時には少なくとも約0.1μMまたはより良好なK
Dで、他の時には少なくとも約0.01μMまたはより良好なK
Dで、タンパク質と結合することを、時には意味する。異なる種の相同タンパク質の間に配列の同一性があるために、特異的結合には、腫瘍細胞マーカータンパク質を1種以上の種の中で認識する抗体が含まれ得る。
【0030】
本明細書の抗体には、特に、重鎖および/または軽鎖の一部は、特定の種に由来するか、または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の、対応する配列と同一または相同であるが、鎖の残りの部分は、他の種に由来するか、または他の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体、およびそのような抗体のフラグメント(これらが所望の生物学的活性を示す限り)の、対応する配列と同一または相同である「キメラ」抗体が含まれる(米国特許第4,816,567号明細書;およびMorrison et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6851−6855(1984))。
【0031】
非ヒト(例えば、マウスなど)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小限の配列を含むキメラ抗体である。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、レシピエントの高度可変領域の残基が、所望の特異性、親和性および能力を有するマウス、ラット、ウサギ、または非ヒト霊長目動物などの非ヒト種(ドナー抗体)の高度可変領域の残基によって置換されている、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。ある場合には、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基が、対応する非ヒト残基で置換される。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体またはドナー抗体中には見られない残基を含むことができる。これらの改質は、抗体の働きをさらに高めるために行われる。一般に、ヒト化抗体は、高度可変領域ループの全てまたは実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンのそれに対応し、FRの全てまたは実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のそれである、少なくとも1つ、通常は2つの可変ドメインの全てを実質的に含むであろう。ヒト化抗体はまた、任意選択により、免疫グロブリンの定常領域(Fc)、通常はヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部を含むであろう。詳しくは、Jones et al.,Nature 321:522−525(1986);Riechmann et al.,Nature 332:323−329(1988);およびPresta,Curr.Op.Struct.Biol.2:593−596(1992)を参照されたい。次のレビュー記事、およびそこでの引用文献も参照されたい。Vaswani and Hamilton,Ann.Allergy,Asthma & Immunol.1:105−115(1998);Harris,Biochem.Soc.Transactions 23:1035−1038(1995);Hurle and Gross,Curr.Op.Biotech.5:428−433(1994)。
【0032】
「ヒト抗体」は、ヒトにより産生された抗体、および/または本明細書に記載するヒト抗体の作製手法を使用して作製された抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するものである。このヒト抗体の定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を明確に排除する。
【0033】
本明細書では、用語「免疫複合体」または「複合体」または「免疫毒素」は、細胞結合剤(例えば、抗CD22抗体またはそのフラグメント)に結合し、一般式:C−L−A(但し、C=細胞毒、L=リンカー、およびA=細胞結合剤(例えば、抗CD22抗体または抗体フラグメント))で定義される化合物またはその誘導体をいう。免疫複合体はまた、順序を逆にした一般式:A−L−Cで定義することもできる。
【0034】
本明細書では、用語「細胞毒」または「細胞毒薬物」は、細胞機能の抑制または妨害、および/または細胞の破壊を引き起こす物質をいう。この用語は、放射性同位元素(例えば、At
211、I
131、I
125、Y
90、Re
188、Sm
153、Bi
212、P
32およびLuの放射性同位元素)、化学療法薬、例えばメトトレキセート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロランブシル、ダウノルビシンまたは他の挿入剤、核酸分解酵素などの酵素およびそのフラグメント、抗生物質、および低分子毒素、または細菌、真菌、植物もしくは動物起源の酵素活性を有する毒素(これらのフラグメントおよび/または変異体を含む)、ならびに、後述する各種の抗腫瘍剤または抗癌剤を含むことを意図している。細胞毒薬物の例としては、アブリン、リシン、シュードモナス(Pseudomonas)外毒素(PE)、ジフテリア毒素(DT)、ボツリヌス毒素、またはこれらの改質毒素が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、PEおよびDTは、典型的には肝毒性によって死に至る高毒性の化合物である。しかしながら、PEおよびDTは、この毒素固有の標的成分(例えば、PEドメイン1aまたはDTのB鎖)を除去し、抗体などの異なる標的部分で置き換えることにより、免疫毒素として使用する形態に改変することができる。
【0035】
いくつかの実施形態では、毒素はシュードモナス(Pseudomonas)外毒素である。シュードモナス(Pseudomonas)外毒素A(PE)は、非常に活性な単量体タンパク質(分子量66kD)であり、シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)により分泌され、伸長因子2(EF−2)を、そのADP−リボシル化を触媒する(酸化されたNADのADPリボシル部分のEF−2への転移を触媒する)ことにより不活性化させて、真核細胞におけるタンパク質の合成を阻害する。
【0036】
この毒素は、細胞毒性を引き起こすために協調して作用する3つの構造ドメインを含む。ドメインIa(1〜252位のアミノ酸)は細胞結合を仲介する。ドメインII(253〜364位のアミノ酸)はサイトゾルへの移行を担い、ドメインIII(400〜613位のアミノ酸)は伸長因子2のADPリボシル化を仲介し、これがタンパク質を不活性化させ、細胞死を引き起こす。ドメインIb(365〜399位のアミノ酸)の機能は、依然未定義であるが、その大部分である365〜380位のアミノ酸は細胞毒性を喪失させずに削除することができる。Siegall et al.,J.Biol.Chem.264:14256−14261(1989)を参照されたい。
【0037】
本発明で使用するシュードモナス(Pseudomonas)外毒素(PE)には、天然配列、天然配列の細胞毒フラグメント、ならびに天然PEおよびその細胞毒フラグメントを保存的に改変した変異体が含まれる。PEの細胞毒フラグメントには、その後の標的細胞中でタンパク質の分解その他の処理(例えば、タンパク質またはプレタンパク質として)を行うか否かにかかわらず、細胞毒性を有するものが含まれる。PEの細胞毒フラグメントとしては、PE40、PE38、およびPE35が挙げられる。PE40は当該技術分野で既に説明がなされているように、PEの短縮誘導体である。Pai et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:3358−62(1991);Kondo et al.,J.Biol.Chem.263:9470−9475(1988)を参照されたい。PE38は、天然PEの253〜364位および381〜613位のアミノ酸からなる短縮PEである。PE35は、天然PEの280位のメチオニン(Met)、それに続く281〜364位および381〜613位のアミノ酸からなる、35kDのPEのカルボキシル末端フラグメントである。一実施形態では、細胞毒フラグメントPE38を使用する。PE38は、細胞中で処理して細胞毒形態に活性化させることができるプロタンパク質である。
【0038】
「PE免疫複合体」または「PE免疫毒素」は、抗体またはその抗原結合フラグメントと、PE毒素またはその変異体とを含む免疫複合体または免疫毒素である。
【0039】
ポリペプチドおよび1種以上の不純物を含む組成物からポリペプチドまたは免疫複合体を「精製する」とは、組成物から少なくとも1種の不純物を(完全に、または部分的に)除去することにより、組成物中のポリペプチドの純度を高めることを意味する。本発明では、親和性クロマトグラフィの工程を使用せずに精製を行う。
【0040】
用語「クロマトグラフィ」は、混合物の個々の溶質が移動相の影響下に固定媒体中を移動する速度、すなわち結合および溶出プロセスに差があることにより、混合物中の目的の溶質を混合物中の他の溶質から分離する方法をいう。
【0041】
用語「イオン交換」および「イオン交換クロマトグラフィ」は、混合物中の溶質不純物または汚染物質よりも、目的の溶質が、荷電化合物とより強くまたはより弱く非特異的に相互作用するように、混合物中の目的の溶質(タンパク質など)が、固相イオン交換物質に結合した(共有結合などにより)荷電化合物と相互作用するクロマトグラフィ法をいう。混合物中の汚染性溶質は、目的の溶質よりも、イオン交換物質のカラムから、より速くもしくはより遅く溶出するか、または目的の溶質と比べて、樹脂と結合するかもしくは樹脂から排除される。具体的には、「イオン交換クロマトグラフィ」には陽イオン交換、陰イオン交換および混合モードクロマトグラフィが含まれる。
【0042】
「イオン交換物質」という句は、負に帯電(すなわち、陽イオン交換樹脂)または正に帯電(すなわち、陰イオン交換樹脂)した固相を意味する。帯電は、1種以上の荷電リガンドを、例えば共有結合により固相と結合させることにより行うことができる。あるいは、またはさらに、帯電は固相固有の特性であってもよい(例えば、全体として負に帯電しているシリカの場合のように)。
【0043】
「陰イオン交換樹脂」は、正に帯電し、したがって、固相に結合した1種以上の正荷電リガンドを有する固相をいう。第4級アミノ基など、陰イオン交換樹脂の形成に適した、固相に結合する正荷電リガンドであれば、いかなるものも使用することができる。商業的に入手可能な陰イオン交換樹脂としては、Applied BiosystemsのDEAEセルロース、Poros PI 20、PI 50、HQ 10、HQ 20、HQ 50、D 50、SartoriusのSartobind Q、J.T.BakerのMonoQ、MiniQ、Source 15Qおよび30Q、Q、DEAEおよびANX Sepharose Fast Flow、Q Sepharose High Performance、QAE SEPHADEX(商標)およびFAST Q SEPHAROSE(商標)(GE Healthcare)、WP PEI、WP DEAM、WP QUAT、Biochrom Labs Inc.のHydrocell DEAEおよびHydrocell QA、BioradのUNOsphere Q、Macro−Prep DEAEおよびMacro−Prep High Q、Pall TechnologiesのCeramic HyperD Q、ceramic HyperD DEAE、Trisacryl MおよびLS DEAE、Spherodex LS DEAE、QMA Spherosil LS、QMA Spherosil MおよびMustang Q、Dow Liquid SeparationsのDOWEX Fine Mesh Strong Base Type I and Type II Anion ResinsおよびDOWEX MONOSPHER E 77、弱塩基陰イオン、MilliporeのIntercept Q membrane、Matrex Cellufine A200、A500、Q500およびQ800、EMDのFractogel EMD TMAE、Fractogel EMD DEAEおよびFractogel EMD DMAE、Sigma−AldrichのAmberlite weak strong anion exchangers type I and II、DOWEX weak and strong anion exchangers type I and II、Diaion weak and strong anion exchangers type I and II、Duolite、東ソー株式会社のTSK gel Q、およびDEAE 5PWおよび5PW−HR、Toyopearl SuperQ−650S、650Mおよび650C、QAE−550Cおよび650S、DEAE−650Mおよび650C、WhatmanのQA52、DE23、DE32、DE51、DE52、DE53、Express−Ion DおよびExpress−Ion Qが挙げられる。
【0044】
「固相」は、1種以上の荷電リガンドが付着することができる非水性マトリックスを意味する。固相は、精製カラム、ばらばらの粒子からなる不連続相、膜またはフィルターなどであってよい。固相を形成する物質の例としては、ポリサッカリド(アガロースおよびセルロースなど)、ならびにシリカ(例えば、制御された多孔質ガラス)、ポリ(スチレンジビニル)ベンゼン、ポリアクリルアミド、セラミック粒子、およびこれらの任意の派生物などの機械的に安定な他のマトリックスが挙げられる。
【0045】
本明細書において、目的の分子と、固相マトリックスに結合しているリガンドとの相互作用を説明するためなどに使用される用語「特異的結合」は、結合部位における静電力、水素結合、疎水性力および/またはファンデルワールス力と、結合部位におけるタンパク質とリガンドの構造の空間的相補性とが組み合わされた複合効果による、目的のタンパク質のリガンドへの一般的な可逆的結合をいう。結合部位における空間的相補性が大きく、かつ他の力が強いほど、それぞれのリガンドに対するタンパク質の結合特異性は強くなるであろう。特異的結合の例としては、抗体−抗原結合、酵素−基質結合、酵素−補助因子結合、金属イオンキレート化、DNA結合性タンパク質−DNA結合、調節タンパク質−タンパク質相互作用などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
本明細書において、目的の分子と、固相マトリックスに結合しているリガンドまたは他の化合物との相互作用を説明するためなどに使用される用語「非特異的結合」は、相互作用部位における静電力、水素結合、疎水性力および/またはファンデルワールス力により、目的のタンパク質が固相マトリックス上のリガンドまたは化合物に結合することをいうが、非構造的な力の効果を高める構造的相補性は有さない。非特異的相互作用の例としては、静電力、疎水性力およびファンデルワールス力の他、水素結合も挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
「塩」は、酸と塩基との相互作用によって生成する化合物である。本発明に有用な塩としては、酢酸塩(例えば、酢酸ナトリウム)、クエン酸塩(例えば、クエン酸ナトリウム)、塩化物(例えば、塩化ナトリウム)、硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム)またはカリウム塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
用語「洗剤」は、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート20または80);ポロキサマ(例えば、ポロキサマ188);Triton;ドデシル硫酸ナトリウム(SDS);ラウリル硫酸ナトリウム;オクチルグリコシドナトリウム;ラウリル−、ミリスチル−、リノレイル−またはステアリル−スルホベタイン;ラウリル−、ミリスチル−、リノレイル−またはステアリル−サルコシン;リノレイル−、ミリスチル−またはセチル−ベタイン;ラウロアミドプロピル−、コカミドプロピル−、リノールアミドプロピル−、ミリストアミドプロピル−、パルミドプロピル−またはイソステアラミドプロピル−ベタイン(例えば、ラウロアミドプロピル);ミリストアミドプロピル−、パルミドプロピル−またはイソステアラミドプロピル−ジメチルアミン;ナトリウムメチルココイル−またはナトリウムメチルオレオイル−タウレート;およびMONAQUAT(商標)シリーズ(Mona Industries, Inc.,Paterson、N.J.)などのイオン性または非イオン性の界面活性剤をいう。有用な洗剤は、ポリソルベート20(TWEEN 20(登録商標))またはポリソルベート80(TWEEN 80(登録商標))などのポリソルベートである。
【0049】
本発明で使用する「緩衝液」は、酸−塩基複合体成分の作用によって、酸または塩基の添加によるpHの変化に抵抗する溶液である。本発明の方法では、緩衝液の所望のpHと精製プロセスの特定の工程に応じて、各種の緩衝液を使用することができる[Buffers.A Guide for the Preparation and Use of Buffers in Biological Systems,Gueffroy,D.,ed.Calbiochem Corporation(1975)を参照されたい]。本発明の方法に望ましい範囲のpHに制御するために使用することができる緩衝液成分の例としては、酢酸塩、クエン酸塩、ヒスチジン、リン酸塩、酢酸アンモニウムなどのアンモニウム緩衝液、コハク酸塩、MES、CHAPS、MOPS、MOPSO、HEPES、Trisなどの他に、これらTRIS−リンゴ酸−NaOH、マレイン酸塩、クロロ酢酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、プロピオン酸塩、ピリジン、ピペラジン、ADA、PIPES、ACES、BES、TES、トリシン、ビシン、TAPS、エタノールアミン、CHES、CAPS、メチルアミン、ピペリジン、O−ホウ酸、炭酸、乳酸、ブタン二酸、ジエチルマロン酸、グリシルグリシン、HEPPS、HEPPSO、イミダゾール、フェノール、POPSO、コハク酸塩、TAPS、アミンベースの、ベンジルアミン、トリメチルまたはジメチルまたはエチルまたはフェニルアミン、エチレンジアミン、またはモルフォリンの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。必要に応じて、緩衝液中に追加成分(添加剤)を含有させることができ、例えば、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウムおよび塩化カリウムなどの塩を、緩衝液のイオン強度の調節に使用することができ、また、アミノ酸(グリシンおよびヒスチジンなど)、カオトロープ(尿素など)、アルコール(エタノール、マンニトール、グリセロールおよびベンジルアルコールなど)、洗剤(上記参照)、および糖(スクロース、マンニトール、マルトース、トレハロース、グルコースおよび果糖など)などの他の添加剤を含有させることができる。使用する緩衝液成分および添加剤と、それらの濃度は、本発明で実施するクロマトグラフィの種類によって変えることができる。
【0050】
「ローディング緩衝液」は、目的のポリペプチド分子と1種以上の不純物とを含む組成物を、イオン交換樹脂にロードするために使用されるものである。ローディング緩衝液は、目的のポリペプチド分子(および、一般には、1種以上の不純物)がイオン交換樹脂に結合するか、または不純物が樹脂に結合している間、目的のタンパク質がカラム内を流れるような、電気伝導率および/またはpHを有する。
【0051】
本明細書中で使用されるとき、用語「洗浄緩衝液」は、目的のポリペプチド分子を溶出させる前に、イオン交換樹脂を洗浄または再平衡化させるために使用する緩衝液をいう。都合のよいことに、洗浄緩衝液とローディング緩衝液が同じであってよい。しかし、このことは要求されない。
【0052】
「溶出緩衝液」は、目的のポリペプチドを固相から溶出するために使用される。溶出緩衝液の電気伝導率および/またはpHは、目的のポリペプチドがイオン交換樹脂から溶出されるような値である。
【0053】
ポリペプチドの「pI」または「等電点」は、ポリペプチドの正電荷がその負電荷とバランスするpHをいう。pIは、アミノ酸残基またはポリペプチド結合炭水化物のシアル酸残基の正味の電荷から計算するか、または等電点電気泳動により測定することができる。
【0054】
分子をイオン交換物質に「結合させる」とは、分子とイオン交換物質の1つまたは複数の荷電基との間のイオン的相互作用によって、分子がイオン交換物質の内部または表面上に可逆的に固定化されるように、その分子を適当な条件(pH/電気伝導率)下でイオン交換物質に暴露することを意味する。
【0055】
イオン交換物質を「洗浄する」とは、イオン交換物質の内部または表面に適当な緩衝液を流すことを意味する。
【0056】
イオン交換物質から分子(例えば、ポリペプチドまたは不純物)を「溶出させる」とは、イオン交換物質上の荷電部位に対し緩衝液とその分子が競合するように、イオン交換物質を取り囲む緩衝液のイオン強度を変えることによって、その分子をイオン交換物質から除去することを意味する。
【0057】
本開示および請求項で使用されるとき、単数形の「a」、「an」および「the」には、文脈がそうではないことを明確に示していない限り、複数形が含まれる。
【0058】
本明細書において、実施形態が用語「〜を含む」を使用して記載されている場合は、常に、「〜からなる」および/または「実質的に〜からなる」という用語で記載される別の類似の実施形態もまた提供されていると理解される。
【0059】
本明細書において、「Aおよび/またはB」などの句で使用される場合、用語「および/または」は、「AおよびB」、「AまたはB」、「A」、および「B」のいずれもを含むことを意図している。同様に、「A、Bおよび/またはC」などの句で使用されるとき、用語「および/または」は、次の各実施形態:A、BおよびC;A、BまたはC;AまたはC;AまたはB;BまたはC;AおよびC;AおよびB;BおよびC;A(単独);B(単独);ならびにC(単独)を包含することを意図している。
【0060】
シュードモナス(Pseudomonas)外毒素および他の毒素
毒素を本発明の抗体と共に使用して、免疫毒素を得ることができる。例示的な毒素としては、リシン、アブリン、ジフテリア毒素およびこれらのサブユニット、ならびにボツリヌス毒素A〜Fが挙げられる。これらの毒素は商業的供給源(例えば、Sigma Chemical Company,St.Louis,Mo.)から容易に入手することができる。ジフテリア毒素は、コリネバクレリウム・ジフテリアエ(Corynebaclerium diphtheriae)から単離される。リシンは、リキヌス・コムニス(Ricinus communis)(トウゴマの実)からのレクチンRCA60である。この用語はまた、この毒素変異体も参照する。例えば、米国特許第5,079,163号明細書および同第4,689,401号明細書を参照されたい。リキヌス・コムニス(Ricinus communis)凝集素(RCA)は、それぞれ約65および120kDの分子量により、RCA
60およびRCA
120と呼ばれる2つの形態で生ずる(Nicholson & Blaustein,J.Biochem.Biophys.Acta 266:543(1972))。A鎖はタンパク質合成を不活性化し、細胞を殺滅する役割を担う。B鎖は細胞表面のガラクトース残基にリシンを結合させ、サイトゾル中へのA鎖の輸送を助ける(Olsnes,et al.,Nature 249:627−631(1974)および米国特許第3,060,165号明細書)。
【0061】
アブリンには、アブルス・プレカロリウス(Abrus precalorius)からの毒性レクチンが含まれる。毒性成分、アブリンa、b、cおよびdは、約63および67kDの分子量を有し、2本のジスルフィド結合ポリペプチド鎖AおよびBからなる。A鎖はタンパク質の合成を抑制し、B鎖(アブリン−b)はD−ガラクトース残基に結合する(Funatsu,et al.,Agr.Biol.Chem.52:1095(1988);およびOlsnes,Methods Enzymol.50:330−335(1978)を参照されたい)
【0062】
本発明の好ましい実施形態では、毒素はシュードモナス(Pseudomonas)外毒素(PE)である。シュードモナス(Pseudomonas)外毒素(または外毒素A)は、シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)により産生される外毒素である。本明細書では、用語「シュードモナス(Pseudomonas)外毒素」は、完全長の天然(天然に存在する)PE、または改変されたPEをいう。そのような改変には、ドメインIaの除去、ドメイン1b、IIおよびIIIの各種アミノ酸の削除、単一アミノ酸の置換、およびカルボキシル末端での、KDEL(配列番号3)およびRDEL(配列番号4)などの1種以上の配列の追加を含み得るが、これらに限定されない。Siegall,et al.,J.Biol.Chem.264:14256−14261(1989)を参照されたい。好ましい実施形態では、PEの細胞毒フラグメントは、天然PEの細胞毒性の少なくとも50%、好ましくは75%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは95%を保持する。最も好ましい実施形態では、細胞毒フラグメントは、天然PEより高い毒性を有する。
【0063】
天然のシュードモナス(Pseudomonas)外毒素A(PE)は、シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)により分泌される極めて活性の高い単量体タンパク質(分子量66kD)であり、真核細胞のタンパク質合成を抑制する。天然PEの配列は、広く譲渡されている米国特許第5,602,095号明細書に示されており、参照することにより本明細書に組み込まれる。作用の方法は、伸長因子2(EF−2)のADP−リボシル化の不活性化である。この外毒素は、協調して細胞毒性を引き起こす3つの構造ドメインを含む。ドメインIa(1−252位のアミノ酸)は、細胞結合を仲介する。ドメインII(253−364位のアミノ酸)はサイトゾルへの転移を担い、ドメインIII(400−613位のアミノ酸)は伸長因子2のADPリボシル化を仲介する。ドメインIb(365−399位のアミノ酸)の機能は、依然未定義であるが、その大部分であるアミノ酸365−380は細胞毒性を損なうことなく削除することができる。上記のSiegall,et al.,(1989)を参照されたい。
【0064】
本発明で使用するPEには、天然配列、天然配列の細胞毒フラグメント、天然PEおよびその細胞毒フラグメントを保存的に改変した変異体が含まれる。本発明で有用なPE変異体は、米国特許第7,355,012号明細書、ならびに国際公開第2007/016150号パンフレットおよび国際公開第2009/032954号パンフレットに記載されている。PEの細胞毒フラグメントには、その後の標的細胞中でタンパク質の分解その他の処理(例えば、タンパク質またはプレタンパク質として)を行うか否かにかかわらず、細胞毒性を有するものが含まれる。PEの細胞毒フラグメントとしては、PE40、PE38およびPE35が挙げられる。
【0065】
好ましい実施形態では、PEは、非特異的細胞結合を低減または除去するために、米国特許第4,892,827号明細書に教示されているように、しばしばドメインIaを除去することによって改変されているが、これはまた、例えば、ドメインIaのある残基を変異させることによっても達成することができる。例えば、米国特許第5,512,658号明細書には、ドメインIaは存在するが、ドメインIaの57位、246位、247位および249位の塩基性残基が、酸性残基(グルタミン酸、または「E」)により置換されている変異PEでは、非特異的細胞毒性が大きく減少することが開示されている。PEのこの変異体は、時にPE4Eと呼ばれる。
【0066】
PE40は、当該技術分野で既に説明がなされているように、天然PE分子のドメインIaが削除されている、PEの短縮誘導体である。Pai,et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 88:3358−62(1991);およびKondo,et al.,J.Biol.Chem.263:9470−9475(1988)を参照されたい。PE35は、1〜279位のアミノ酸残基が削除されていて、分子は280位のmetから始まり、天然PEの281〜364位および381〜613位のアミノ酸が続く、PEの35kDのカルボキシル末端フラグメントである。PE35およびPE40については、例えば、米国特許第5,602,095号明細書および同第4,892,827号明細書に開示されている。PE4Eは、天然PEの全てのドメインを含むが、ドメインIaの57、246、247および249位の塩基性残基が酸性残基(グルタミン酸または「E」)により置換されている、PEの形態である。
【0067】
いくつかの好ましい実施形態では、細胞毒フラグメントPE38が使用される。PE38は、253〜364位および381〜613位のアミノ酸からなり、細胞内で処理すると、活性化されて細胞毒となる、短縮PEプロタンパク質である(例えば、米国特許第5,608,039号明細書、同第7,355,012号明細書、およびPastan et al.,Biochim.Biophys.Acta 1333:C
1−C
6(1997)を参照されたい)。
【0068】
上述したように、ドメイン1bの一部または全部は削除され得るものであり、残りの部分はリンカーによって結合するか、またはペプチド結合によって直接結合している。ドメインIIのアミノ部分の一部は削除され得る。そして、C末端は、天然配列の609〜613位残基(REDLK)(配列番号5)、またはサイトゾルへの移行を構成する能力を維持することが見出されている、REDL(配列番号4)またはKDEL(配列番号3)などの変異体、およびこれらの配列の繰り返しを含み得る。例えば、米国特許第5,854,044号明細書、同第5,821,238号明細書および同第5,602,095号明細書、ならびに国際公開第99/51643号パンフレットを参照されたい。好ましい実施形態では、PEは、PE4E、PE40またはPE38であるが、標的細胞中における移行およびEF−2リボシル化能力を維持している限り、非標的細胞に対して重大な毒性を引き起こさないレベルにまで、非特異的細胞毒性が除去または低減されているものであれば、いかなる形態のPEも本発明の免疫毒素に使用することができる。
【0069】
PEの保存的に改変された変異体
PE38などの目的のPEに関して、その保存的に改変された変異体またはその細胞毒フラグメントは、アミノ酸のレベルで、少なくとも80%の配列類似性、好ましくは少なくとも85%の配列類似性、より好ましくは少なくとも90%の配列類似性、最も好ましくは少なくとも95%の配列類似性を有する。
【0070】
用語「保存的に改変された変異体」は、アミノ酸にも核酸配列にも適用される。特定の核酸配列に関しては、保存的に改変された変異体は、同一、または実質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸配列を、あるいは核酸がアミノ酸配列をコードしない場合は、実質的に同一の核酸配列をいう。遺伝子コードの縮退のために、多数の、機能的に同一の核酸が、任意の所与のポリペプチドをコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUは全てアミノ酸のアラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンによって特定される全ての位置で、コードされたポリペプチドを変更することなく、コドンを記載された対応する任意のコドンに変更し得る。そのような核酸の変異は「サイレント変異」であり、それらは保存的に改変された変異体の1種である。ポリペプチドをコードする本明細書中のすべての核酸配列はまた、全ての可能性のある核酸のサイレント変異を示している。核酸中の各コドン(通常、メチオニンの唯一のコドンであるAUGを除く)を改変して機能的に同一の分子を得ることができることは、当業者であれば認識するであろう。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、記述された各配列に暗に示されている。
【0071】
アミノ酸配列に関しては、当業者であれば、コードされた配列中の単一のアミノ酸または僅かな割合のアミノ酸を変更、追加または削除する、核酸、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質配列に対する個々の置換、削除または追加が、変更がアミノ酸をそれと化学的に類似したアミノ酸で置換することになる「保存的に改変された変異体」であることを認識するであろう。
【0072】
本発明で使用するシュードモナス(Pseudomonas)外毒素の所望するレベルの細胞毒性は、当業者によく知られた分析法によって分析することができる。したがって、PEの細胞毒フラグメントと、そのようなフラグメントの保存的に改変された変異体の細胞毒性は、容易に分析することができる。当分野でよく知られた方法で、多数の候補PE分子の細胞毒性を同時に分析することができる。例えば、候補分子のサブグループの細胞毒性を分析することができる。候補分子の陽性的に反応するサブグループは、所望の細胞毒フラグメントが同定されるまで、連続的に細分割し、再分析することができる。そのような方法により、多数の細胞毒フラグメントまたはPEの保存的変異体を迅速にスクリーニングすることができる。
【0073】
抗CD22/PE免疫複合体
一実施形態では、目的のポリペプチドはCD22と特異的に結合する抗体を含む。「CD22」は、Igスーパーファミリーに属する系列制限B細胞抗原をいう。これはB細胞リンパ腫および白血病の60〜70%に発現し、B細胞の成長初期段階の細胞表面や幹細胞には存在しない。例えば、Vaickus et al.,Crit.Rev.Oncol/Hematol.11:267−297(1991)を参照されたい。他の実施形態では、目的のポリペプチドは、CD22と結合する抗体フラグメント(例えば、FabまたはscFv)である。
【0074】
抗体に関連する用語「抗CD22」は、本明細書では、CD22と特異的に結合する抗体をいい、CD22に対して生ずる抗体の意味を含む。いくつかの実施形態では、CD22は、ヒトCD22などの霊長目CD22である。一実施形態では、この抗体は、非霊長目哺乳動物にヒトCD22をコードするcDNAを導入後、その動物よって合成されたヒトCD22に対して生ずる。さらに他の実施形態では、目的のポリペプチドは、PE38外毒素を含むCD22抗体免疫複合体である。
【0075】
CD22/PE38免疫複合体の1つの例は、国際公開第98/41641号パンフレットおよび同第2003/27135号パンフレット、米国特許第7,541,034号明細書、同第7,355,012号明細書、および米国特許出願公開第2007/0189962号明細書(これらは全て、参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているCAT−8015である。CAT−8015は、シュードモナス(Pseudomonas)外毒素タンパク質PE38短縮形態に融合した、マウス抗CD22抗体RFB4をベースとする抗体Fvフラグメントからなる組み換え免疫毒素タンパク質である。抗CD22Fvフラグメントは、2つのドメイン、V
LおよびV
Hからなり、後者はヒトCD22標的との結合が改善されるように改変されている。CAT−8015タンパク質は、2つの独立したポリペプチド、V
L鎖(配列番号2)、およびC末端でPE38ドメインに融合したV
H鎖(V
H−PE38)(配列番号1)からなる。本発明に有用な他のV
LおよびV
H−PE38配列は、米国特許第7,541,034号明細書、同第7,355,012号明細書、および米国特許出願公開第2007/0189962号明細書に記載されている。両ドメインとも、それぞれ、分子間ジスルフィド結合を形成する改変システイン残基を含むように設計された。この特徴により、融合タンパク質の安定性が高まる。
【0076】
CAT−8015のV
H−38サブユニットのアミノ酸配列(配列番号1)は次の通りである。
【0077】
PE38配列は太字で示し、V
HドメインおよびPE38ドメイン間の5個のアミノ酸からなるリンカーには下線を付している。
【0078】
CAT−8015のV
Lサブユニットのアミノ酸配列(配列番号2)は次の通りである。
MDIQMTQTTSSLSASLGDRVTISCRASQDISNYLNWYQQKPDGTVKLLIYYTSILHSGVPSRFSGSGSGTDYSLTISNLEQEDFATYFCQQGNTLPWTFGCGTKLEIK(配列番号2)
【0079】
さらに他の実施形態では、免疫複合体のVHドメインのアミノ酸配列は、次のうちの1つである。
MEVQLVESGGGLVKPGGSLKLSCAASGFAFSIYDMSWVRQTPEKCLEWVAYISSGGGTTYYPDTVKGRFTISRDNAKNTLYLQMSSLKSEDTAMYYCARHSGYGTHWGVLFAYWGQGTLVTVSA(配列番号6)
MEVQLVESGGGLVKPGGSLKLSCAASGFAFSIYDMSWVRQTPEKCLEWVAYISSGGGTTYYPDTVKGRFTISRDNAKNTLYLQMSSLKSEDTAMYYCARHSGYGYNWGVLFAYWGQGTLVTVSA(配列番号7)
MEVQLVESGGGLVKPGGSLKLSCAASGFAFSIYDMSWVRQTPEKCLEWVAYISSGGGTTYYPDTVKGRFTISRDNAKNTLYLQMSSLKSEDTAMYYCARHSGYGTTWGVLFAYWGQGTLVTVSA(配列番号8)
MEVQLVESGGGLVKPGGSLKLSCAASGFAFSIYDMSWVRQTPEKCLEWVAYISSGGGTTYYPDTVKGRFTISRDNAKNTLYLQMSSLKSEDTAMYYCARHSGYGSTYGVLFAYWGQGTLVTVSA(配列番号9)
MEVQLVESGGGLVKPGGSLKLSCAASGFAFSIYDMSWVRQTPEKCLEWVAYISSGGGTTYYPDTVKGRFTISRDNAKNTLYLQMSSLKSEDTAMYYCARHSGYGTHWGVLFAYWGQGTLVTVSA(配列番号10)
MEVQLVESGGGLVKPGGSLKLSCAASGFAFSIYDMSWVRQTPEKCLEWVAYISSGGGTTYYPDTVKGRFTISRDNAKNTLYLQMSSLKSEDTAMYYCARHSGYGSSYGVLFAYWGQGTLVTVSA(配列番号11)
【0080】
さらに他の実施形態では、免疫複合体のVLドメインのアミノ酸配列は、次のうちの1つである。
MDIQMTQTTSSLSASLGDRVTISCRASQDIARYLNWYQQKPDGTVKLLIYYTSILHSGVPSRFSGSGSGTDYSLTISNLEQEDFATYFCQQGNTLPWTFGCGTKLEIK(配列番号12)
MDIQMTQTTSSLSASLGDRVTISCRASQDIHGYLNWYQQKPDGTVKLLIYYTSILHSGVPSRFSGSGSGTDYSLTISNLEQEDFATYFCQQGNTLPWTFGCGTKLEIK(配列番号13)
MDIQMTQTTSSLSASLGDRVTISCRASQDIGRYLNWYQQKPDGTVKLLIYYTSILHSGVPSRFSGSGSGTDYSLTISNLEQEDFATYFCQQGNTLPWTFGCGTKLEIK(配列番号14)
MDIQMTQTTSSLSASLGDRVTISCRASQDIRGYLNWYQQKPDGTVKLLIYYTSILHSGVPSRFSGSGSGTDYSLTISNLEQEDFATYFCQQGNTLPWTFGCGTKLEIK(配列番号15)
【0081】
他のある実施形態では、免疫複合体のPE毒素は、次のものから選択されるPEまたはその変異体である。
【0082】
天然PE
AEEAFDLWNECAKACVLDLKDGVRSSRMSVDPAIADTNGQGVLHYSMVLEGGNDALKLAIDNALSITSDGLTIRLEGGVEPNKPVRYSYTRQARGSWSLNWLVPIGHEKPSNIKVFIHELNAGNQLSHMSPIYTIEMGDELLAKLARDATFFVRAHESNEMQPTLAISHAGVSVVMAQTQPRREKRWSEWASGKVLCLLDPLDGVYNYLAQQRCNLDDTWEGKIYRVLAGNPAKHDLDIKPTVISHRLHFPEGGSLAALTAHQACHLPLETFTRHRQPRGWEQLEQCGYPVQRLVALYLAARLSWNQVDQVIRNALASPGSGGDLGEAIREQPEQARLALTLAAAESERFVRQGTGNDEAGAANGPADSGDALLERNYPTGAEFLGDGGDVSFSTRGTQNWTVERLLQAHRQLEERGYVFVGYHGTFLEAAQSIVFGGVRARSQDLDAIWRGFYIAGDPALAYGYAQDQEPDARGRIRNGALLRVYVPRSSLPGFYRTSLTLAAPEAAGEVERLIGHPLPLRLDAITGPEEEGGRLETILGWPLAERTVVIPSAIPTDPRNVGGDLDPSSIPDKEQAISALPDYASQPGKPPREDLK(配列番号16)
【0083】
PE40
GGSLAALTAHQACHLPLETFTRHRQPRGWEQLEQCGYPVQRLVALYLAARLSWNQVDQVIRNALASPGSGGDLGEAIREQPEQARLALTLAAAESERFVRQGTGNDEAGAANADVVSLTCPVAAGECAGPADSGDALLERNYPTGAEFLGDGGDVSFSTRGTQNWTVERLLQAHRQLEERGYVFVGYHGTFLEAAQSIVFGGVRARSQDLDAIWRGFYIAGDPALAYGYAQDQEPDARGRIRNGALLRVYVPRSSLPGFYRTSLTLAAPEAAGEVERLIGHPLPLRLDAITGPEEEGGRLETILGWPLAERTVVIPSAIPTDPRNVGGDLDPSSIPDKEQAISALPDYASQPGKPPREDLK(配列番号17)
【0084】
PE38
GGSLAALTAHQACHLPLETFTRHRQPRGWEQLEQCGYPVQRLVALYLAARLSWNQVDQVIRNALASPGSGGDLGEAIREQPEQARLALTLAAAESERFVRQGTGNDEAGAANGPADSGDALLERNYPTGAEFLGDGGDVSFSTRGTQNWTVERLLQAHRQLEERGYVFVGYHGTFLEAAQSIVFGGVRARSQDLDAIWRGFYIAGDPALAYGYAQDQEPDARGRIRNGALLRVYVPRSSLPGFYRTSLTLAAPEAAGEVERLIGHPLPLRLDAITGPEEEGGRLETILGWPLAERTVVIPSAIPTDPRNVGGDLDPSSIPDKEQAISALPDYASQPGKPPREDLK(配列番号18)
【0085】
PE35
MWEQLEQCGYPVQRLVALYLAARLSWNQVDQVIRNALASPGSGGDLGEAIREQPEQARLALTLAAAESERFVRQGTGNDEAGAANGPADSGDALLERNYPTGAEFLGDGGDVSFSTRGTQNWTVERLLQAHRQLEERGYVFVGYHGTFLEAAQSIVFGGVRARSQDLDAIWRGFYIAGDPALAYGYAQDQEPDARGRIRNGALLRVYVPRSSLPGFYRTSLTLAAPEAAGEVERLIGHPLPLRLDAITGPEEEGGRLETILGWPLAERTVVIPSAIPTDPRNVGGDLDPSSIPDKEQAISALPDYASQPGKPPREDLK(配列番号(配列番号19)
【0086】
PE−LR
RHRQPRGWEQLPTGAEFLGDGGDVSFSTRGTQNWTVERLLQAHRQLEERGYVFVGYHGTFLEAAQSIVFGGVRARSQDLDAIWRGFYIAGDPALAYGYAQDQEPDARGRIRNGALLRVYVPRSSLPGFYRTSLTLAAPEAAGEVERLIGHPLPLRLDAITGPEEEGGRLETILGWPLAERTVVIPSAIPTDPRNVGGDLDPSSIPDKEQAISALPDYASQPGKPPREDLK(配列番号20)
【0087】
PE−LR−6X
RHRQPRGWEQLPTGAEFLGDGGDVSFSTRGTQNWTVERLLQAHRQLEEGGYVFVGYHGTFLEAAQSIVFGGVRARSQDLDAIWAGFYIAGDPALAYGYAQDQEPDAAGRIRNGALLRVYVPRSSLPGFYATSLTLAAPEAAGEVERLIGHPLPLRLDAITGPEEAGGRLETILGWPLAERTVVIPSAIPTDPRNVGGDLDPSSIPDSEQAISALPDYASQPGKPPREDLK(配列番号21)
【0088】
PE−38(CAT−8015)
PEGGSLAALTAHQACHLPLETFTRHRQPRGWEQLEQCGYPVQRLVALYLAARLSWNQVDQVIRNALASPGSGGDLGEAIREQPEQARLALTLAAAESERFVRQGTGNDEAGAANGPADSGDALLERNYPTGAEFLGDGGDVSFSTRGTQNWTVERLLQAHRQLEERGYVFVGYHGTFLEAAQSIVFGGVRARSQDLDAIWRGFYIAGDPALAYGYAQDQEPDARGRIRNGALLRVYVPRSSLPGFYRTSLTLAAPEAAGEVERLIGHPLPLRLDAITGPEEEGGRLETILGWPLAERTVVIPSAIPTDPRNVGGDLDPSSIPDKEQAISALPDYASQPGKPPREDLK(配列番号22)
【0089】
免疫複合体のPE毒素は、直接またはリンカーを介して、VHまたはVLドメインのN末端またはC末端で、VHまたはVLドメインに融合または接合する。リンカーの一例は、CAT−8015について上に記載されており、アミノ酸配列KASGG(配列番号23)に対応する。他のリンカーは、この技術分野で知られた方法で容易に生じさせることができる。
【0090】
PE免疫複合体の発現
本発明のPE免疫複合体は、細菌細胞などの細胞内で発現し、その後、封入体から単離される。次いで、封入体から単離されたPE免疫複合体は、下流の精製工程でさらに精製される。
【0091】
本発明のPE免疫複合体を発現させるために、様々な宿主−発現ベクター系を利用することができる。そのような宿主−発現ベクター系は、目的のコード配列を生成し、次いで精製し得るビヒクルを表すものであるが、また、適切なヌクレオチドコード配列により形質転換または形質移入されたとき、本発明の抗体分子をインサイチュで発現することができる細胞を表すものでもある。これらには、抗体コード配列を含む、組み換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNA、またはコスミドDNA発現ベクターで形質転換された細菌(例えば、大腸菌(E.coli)、枯草菌(B.subtilis))などの微生物;抗体コード配列を含む、組み換え酵母発現ベクターで形質転換された酵母(例えば、サッカロミケス(Saccharomyces)、ピキア(Pichia));抗体コード配列を含む組み換えウイルス発現ベクター(例えば、バキュロウイルス)を感染させた昆虫細胞系;抗体コード配列を含む組み換えウイルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス、CaMV;タバコモザイクウイルス、TMV)を感染させるか、または抗体コード配列を含む組み換えプラスミド発現ベクターで形質転換された植物細胞系;あるいは、哺乳動物細胞のゲノムから誘導されたプロモーター(例えば、メタロチオネインプロモーター)、または哺乳動物ウイルスから誘導されたプロモーター(例えば、アデノウイルス後期プロモーター;ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター)を含む組換え発現構成体を有する哺乳動物細胞系(例えば、COS、CHO、BLK、293、3T3細胞)が含まれるが、これらに限定されない。
【0092】
VLおよびVH−PE毒素(例えば、VH−PE38)ポリペプチドのそれぞれをコードするDNAは、当分野でよく知られた方法で、発現ベクターに導入される。
【0093】
「ベクター」は、ある核酸を宿主細胞へクローニングおよび/または転移させるための任意の媒体をいう。ベクターは、他のDNAセグメントが結合して複製されるレプリコンであってもよい。「レプリコン」は、インビボでDNA複製の自律単位として機能する、すなわち、それ自身のコントロール下で複製し得る任意の遺伝因子(例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、染色体、ウイルス)をいう。用語「ベクター」には、インビトロ、エクスビボまたはインビボで核酸を細胞に導入するための媒体が含まれる。核酸の操作や、応答配列および誘導性プロモーターなどのプロモーターの遺伝子への組み込みなどのために、当分野で知られている多くのベクターを使用することができる。可能性のあるベクターとしては、例えば、pBR322もしくはpUCプラスミド誘導体などのプラスミド、またはブルースクリプト(Bluescript)ベクターが挙げられる。例えば、応答配列およびプロモーターに対応するDNAフラグメントの適切なベクターへの挿入は、適当なDNAフラグメントを、相補的な付着端を有する選択されたベクターに結合させることによって行うことができる。あるいは、DNA分子の末端を酵素により改変するか、または、DNAの末端にヌクレオチド配列(リンカー)を結合させることにより、任意のサイトを生成してもよい。そのようなベクターは、細胞を選択する選択マーカー遺伝子を含むよう操作することができる。そのようなマーカーにより、そのマーカーでコードされたタンパク質を発現する宿主細胞の同定および/または選択を行うことができる。
【0094】
用語「発現ベクター」は、宿主への形質転換後に挿入された核酸配列の発現を可能にするよう設計されたベクター、プラスミドまたは媒体をいう。クローン化された遺伝子、すなわち挿入された核酸配列、例えば抗CD22 VH、抗CD22 VL、またはPE毒素に融合した抗CD22 VHもしくはVLをコードする遺伝子は、通常、プロモーター、細小プロモーター、エンハンサーなどの調節因子のコントロール下に置かれる。所望の宿主細胞で核酸を発現させるのに有用な開始調節領域またはプロモーターは多数あり、当業者によく知られている。これらの遺伝子を発現させることができるプロモーターは、実質的にいかなるものも、発現ベクターにおいて使用することができ、限定はされないが、ウイルスプロモーター、バクテリアプロモーター、動物プロモーター、哺乳類プロモーター、合成プロモーター、構成プロモーター、組織特異性プロモーター、病因または病気関連プロモーター、発生特異的プロモーター、誘導性プロモーター、光制御プロモーターが挙げられ;限定はされないが、SV40初期(SV40)プロモーター領域、ラウス肉腫ウイルス(RSV)の3’末端反復配列(LTR)に含まれるプロモーター、アデノウイルス(Ad)のE1Aもしくは主要な後期プロモーター(MLP)、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)最初期プロモーター、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼ(TK)プロモーター、バキュロウイルスIE1プロモーター、伸長因子1アルファ(EF1)プロモーター、グリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素(GAPDH)プロモーター、ホスホグリセレートキナーゼ(PGK)プロモーター、ユビキチンC(Ube)プロモーター、アルブミンプロモーター、マウスメタロチオネイン−Lプロモーターおよび転写調節領域の制御配列、ユビキタスプロモーター(HPRT、ビメンチン、β−アクチン、チューブリンなど)、中間径線維のプロモーター(デスミン、神経細線維、ケラチン、GFAPなど)、治療遺伝子(MDR、CFTR、または第VIII因子タイプなどの)のプロモーター、発病または病気関連プロモーターが挙げられる。さらに、これらの発現配列は、エンハンサーまたは制御配列などの追加によって改変することができる。
【0095】
用語「発現」は、コード配列によってコードされた生成物の生物学的生成をいう。殆どの場合、コード配列を含むDNA配列は、メッセンジャーRNA(mRNA)を生成するために転写される。その後、メッセンジャーRNAは翻訳され、関連する生物学的活性を有するポリペプチド生成物を生成する。発現のプロセスには、また、イントロンを除去するためのスプライシングなどの転写RNA生成物に対するさらなる処理工程、および/またはポリペプチド生成物の翻訳後処理が含まれ得る。
【0096】
VLおよびVH−PE38ポリペプチドを、細胞、例えば大腸菌(E.coli)などの細菌細胞内で発現させる。ポリペプチドは、例えば、大腸菌(E.coli)細胞内で発現させ、封入体から単離する。ある実施形態では、VLおよびVH−PE38サブユニットを、異なる細胞で発現させる。例えば、VLを、1つの細胞内の第1のベクターに発現させ、VH−PE38を、異なる細胞内の第2のベクターに発現させる。各細胞系から封入体を回収し、可溶化する。ある実施形態では、封入体は約9.0〜約10.5の範囲のpHで可溶化される。さらに他の実施形態では、封入体は、pH9.0、pH9.5、pH10.0、またはpH10.5で可溶化される。可溶化したVLおよびVH−PE38封入体を混合し、VLおよびVH−PE38サブユニットを含む免疫複合体を生成する。
【0097】
他の実施形態では、VLおよびVH−PE38サブユニットを、同じ細胞内で異なるベクターで発現させる。例えば、VLを1つの細胞内で第1のベクターで発現させ、VH−PE38を同じ細胞内で異なるベクターで発現させる。細胞から封入体を回収して可溶化し、VLおよびVH−PE38サブユニットを混合して免疫複合体を形成する。他のある実施形態では、VLおよびVH−PE38サブユニットを、同じ細胞内で同じベクターで発現させる。
【0098】
この免疫複合体をさらに精製するために、下流でクロマトグラフィ工程を用いる。
【0099】
クロマトグラフィの条件
当分野で認識されているように、本発明のクロマトグラフィで使用する、ロード、洗浄および溶出条件は、使用する特定のクロマトグラフィの媒体/リガンドに依存するであろう。本発明のプロセスは、いうまでもなく、塩析、親和性クロマトグラフィ、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィ、逆相液体クロマトグラフィ、または一般的に使用されている任意の他のタンパク質精製法などの、他のタンパク質精製の方法と組み合わせて使用することができる。しかしながら、本発明のプロセスは、他の精製工程の必要性を除くか、または大きく低減するであろう。
【0100】
目的のポリペプチドのクロマトグラフィによる分離の過程では、陰イオン交換クロマトグラフィもまた実施される。当分野でよく知られているように、陰イオン交換体は、マトリックスおよび結合荷電基に関して様々な物質をベースにすることができる。例えば、言及した物質がマトリックス中で多少とも架橋し得る、次のマトリックス:アガロースベース(SEPHAROSE Fast Flow(登録商標)(Q−SEPHAROSE FFなど)およびSEPHAROSE High Performance(登録商標)など;セルロースベース(DEAE SEPHACEL(登録商標)など);シリカベースおよび合成ポリマーベース、またはSuperQ−650(TOSOH BIOSEPから)およびMacro High Q(BIO−RADから)などの樹脂、を使用し得る。陰イオン交換樹脂では、マトリックスに共有結合する荷電基は、例えば、ジエチルアミノエチル(DEAE)、第四級アミノエチル(QAE)、および/または第四級アンモニウム(Q)であってよい。ある実施形態では、樹脂は、Q Sepharose High Performance、Q Sepharose Fast Flow、DEAE Sepharose Fast Flow、Capto Q、Capto DEAE、Toyopearls SuperQ 650(M)、Toyopearls SuperQ 650(S)、Toyopearls DEAE 650(M)、Toyopearls DEAE 650(S)、TSKgel SuperQ−5PW(30)、TSKgel SuperQ−5PW(20)、TSKgel DEAE−5PW(30)、TSKgel DEAE−5PW(20)、EMD Chemicals:Fractogel EMD DEAE(S)、Fractogel EMD DEAE(M)、Fractogel EMD DMAE(S)、Fractogel EMD DMAE(M)、Fractogel EMD TMAE(S)、Fractogel EMD TMAE(M)、およびBaker Bond XWP500 PolyQuat−35,SPEを含む群から選択されるが、これらに限定されない。本プロセスの一実施形態では、陰イオン交換樹脂として、Q−SEPHAROSE FF(登録商標)が使用される。
【0101】
これらの樹脂のいずれもを小規模での抗体精製には使用し得るが、実生産スケールでの分離には、あるサイズの低価格の樹脂が適用される。樹脂のサイズが小さ過ぎる場合、系内にかなりの背圧が発生する。加えて、精製することができるポリペプチドの量が限られる。樹脂の製造または購入に費用がかかると、大規模な精製で使用するには経済的な実現性/実用性がない。
【0102】
このように、あまり費用をかけずに有効なスケールアップを行うには、本発明で使用する樹脂は、ある一定のサイズでなければならない。「実生産スケールの精製」とは、商業的規模の製造に見合う規模で、組み換え調製物から抗体を精製することを意味する。予備決定工程で使用する樹脂は、もしその樹脂が変更された場合、凝集体を分離するのに必要な条件の変化を容易に予測できるものではないから、実生産規模での精製の最終手順で使用するものと同じにすべきである。小規模または卓上での精製に有用な特定の樹脂は、大規模精製に適用することはできない。本発明に有用なそのような樹脂としては、例えば、Q−SEPHAROSE HPが挙げられる。しかしながら、当業者ならば、商業規模での製造に有用な他の陰イオン交換樹脂がわかるであろう。
【0103】
陰イオン交換クロマトグラフィカラムに充填する際に使用する樹脂の体積は、カラムの寸法、すなわちカラムの直径と樹脂の高さが反映され、例えば、適用溶液中の抗体の量や、使用する樹脂の結合能力により変化する。
【0104】
陰イオン交換クロマトグラフィを実施する前に、緩衝液で交換樹脂を平衡化することができる。交換樹脂の平衡化には、例えば、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、トリス、リン酸塩、ビス−トリス、およびL−ヒスチジンなど、各種の緩衝液が適している。当業者であれば、pHおよび電気伝導率が適用する抗体溶液とほぼ同じである限り、他の多くの緩衝液を平衡化に使用し得ることがわかるであろう。「結合−洗浄」プロセスを実施する場合、平衡化緩衝液と洗浄緩衝液は同じである。「結合−溶出」プロセスを実施する場合、溶出緩衝液はpHを調節する1種以上の緩衝材料から調製され得る。使用する塩は、例えば、塩化ナトリウムまたはリン酸カリウムなどの高溶解性の塩であるが、抗体の機能を維持し、かつ樹脂から抗体単量体を除去し得る塩であれば任意のものを使用することができる。
【0105】
「結合−溶出」プロセスの実施において、抗体単量体の樹脂からの溶出は、単量体抗体を効率良く溶出させるのに十分なpHとイオン強度を有する、実質的に非変性の緩衝液により実施することができ、それによって、凝集体を樹脂に結合させたまま、抗体含有溶出液を回収する。この場合、効率的溶出とは、樹脂にロードした抗体の少なくとも75%、または少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも95%が回収されることを意味する。イオン交換後の抗体調製物中には、僅かに約1.0%、好ましくは僅かに0.5%、最も好ましくは0.1%未満の凝集体が残る。
【0106】
一実施形態では、溶出は段階的勾配溶出として行われる。別の実施形態では、溶出は線形勾配で行われる。
【0107】
驚くべきことに、免疫複合体タンパク質の脱アミド変異体は、アスパラギン残基の脱アミドによって見かけの正味の負電荷が増加しているにもかかわらず、より高い塩濃度で溶出した。したがって、これらの効力が低下した変異体は、本明細書に記載したイオン交換クロマトグラフィにより、活性がより高いタンパク質から分離された。
【0108】
本発明のある実施形態では、ポリペプチドまたは免疫複合体の出発試料中に存在する酸性もしくは脱アミド変異体の約75%〜約99%が、精製プロセスで除去される。他の実施形態では、脱アミド変異体の少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%または99%が除去される。その結果、活性なポリペプチドまたは免疫複合体を含む組成物は、約25%〜約1%の値未満の、例えば、25%未満、20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満または1%未満の脱アミド種を含む。
【0109】
本発明の脱アミド変異体には、脱アミド化が免疫複合体内の1つ以上の残基、例えば、PE毒素内またはその変異体内の1つ以上の残基で生じている、PE毒素またはその変異体を含む免疫複合体が含まれる。ある実施形態では、脱アミド化は、免疫複合体内の1、2、3、4または5個の残基で起きている。他の実施形態では、PE毒素またはその変異体を含む免疫複合体は、PE毒素内またはその変異体内の1、2、3、4または5個の残基で、例えば、配列番号1の358位、配列番号16の495位、配列番号17の243位、配列番号18の227位、配列番号19の200位、配列番号20の212位、配列番号21の212位、または配列番号22の229位で脱アミド化されている。
【0110】
一実施形態においては、溶出緩衝液の塩濃度は、凝集体を置換せずに樹脂から抗体単量体を十分に外すことができるだけの高い値を有する。しかしながら、樹脂から抗体単量体を溶出させるためには、pHの上昇および塩濃度の低下を利用し得ると考えられる。
【0111】
本発明におけるクロマトグラフィ工程の一部または全ては、任意の機械的手段により実施することができる。クロマトグラフィは、例えば、カラム中で行い得る。カラムには、加圧下、または非加圧下で、かつ上から下、または下から上へ流すことができる。カラム内の流体の流れ方向は、クロマトグラフィプロセスの途中で逆転させることができる。クロマトグラフィはまた、固相媒体を試料のロード、洗浄および溶出に使用した液体から、重力、遠心分離、またはろ過などの任意の適切な手段で分離するバッチ法により実施することができる。クロマトグラフィはまた、試料中のある分子を他のものより強く吸着または保持するフィルターに試料を接触させることによって行うことができる。以下の説明で、本発明の様々な実施形態を、カラムで行うクロマトグラフィに関連して記載する。しかしながら、カラムの使用は、使用し得るいくつかのクロマトグラフィの1つの方法に過ぎず、当業者であればバッチ法またはフィルターを使用するものなどの他の方法にも本教示を容易に適用し得るため、カラムを使用する本発明の例示が、本発明の適用をカラムクロマトグラフィに限定するものではないことは理解される。
【0112】
各種の異なるロード、洗浄および溶出条件を所望の通りに使用することができる。いくつかの実施形態では、初期のロード条件を、初期の非HTから溶出したタンパク質(例えば、抗体)が直接HTカラムに適用されるようにする。
【0113】
溶出は、例えば、液相中の塩の条件を変化させることにより行うことができる。例えば、液相の塩および/または電気伝導率を、抗体が溶出する値まで増加(線形または段階的に)させる。例示的な洗浄条件としては、例えば、10mMリン酸塩、pH6.7が挙げられ、塩濃度を上昇させる(段階的または線形で)(例えば、10mMのリン酸塩、1.5MのNaCl、pH6.7へ)ことにより溶出させることができる。本明細書に記載する各種実施形態または任意選択は全て、あらゆる変形形態で組み合わせることができる。
【0114】
試料をカラムに適用する前に、タンパク質のクロマトグラフに使用するであろう緩衝液または塩で、カラムを平衡化することができる。後述するように、クロマトグラフィ(および精製すべきタンパク質のロード)は、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、マグネシウム、カルシウム、塩化物、フッ化物、酢酸塩、リン酸塩、および/またはクエン酸塩、および/またはトリス緩衝液などの種々の緩衝液または塩で実施することができる。廃棄が容易なことから、クエン酸塩緩衝液およびクエン酸塩が当業者に好まれている。そのような緩衝液または塩は、少なくとも約5.5のpHを有することができる。いくつかの実施形態では、平衡化はトリスまたはリン酸ナトリウム緩衝液を含む溶液中で起こり得る。いくつかの実施形態では、平衡化は少なくとも約5.5のpHで起こる。平衡化は、約6.0〜約8.6のpH、好ましくは約6.5〜約7.5のpHで起こり得る。溶液は、濃度が約25ミリモルで、pHが約6.8のリン酸ナトリウム緩衝液を含むことが最も好ましい。
【0115】
本発明のタンパク質精製方法は、任意のタンパク質からの酸性変異体の除去に適用可能である。本発明での使用が具体的に考えられるタンパク質には、抗体またはそのフラグメントが含まれる。他のタンパク質としては、1種以上の抗体免疫グロブリン定常ドメイン、任意選択により抗体のFc部分、および目的のタンパク質を含む組み換え融合タンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0116】
製剤
保管および使用のために、本発明の精製したポリペプチドまたは免疫複合体と薬学的に許容されるビヒクル(例えば、担体、賦形剤)(Remington,The Science and Practice of Pharmacy 20th Edition Mack Publishing,2000)とを組み合わせることによって、精製したポリペプチドまたは免疫複合体の製剤が調製される。適切な薬学的に許容されるビヒクルとしては、リン酸塩、クエン酸塩および他の有機酸などの無毒の緩衝液;塩化ナトリウムなどの塩;アスコルビン酸およびメチオニンなどの酸化防止剤;保存剤(例えば、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルアルコールまたはベンジルアルコール;メチルパラベンまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;およびm−クレゾール);低分子量ポリペプチド(例えば、アミノ酸残基が約10個未満);血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンまたはリシンなどのアミノ酸;モノサッカンデ(monosacchandes)、二糖類、グルコース、マンノースまたはデキストリンなどの炭水化物;EDTAなどのキレート剤;蔗糖、マンニトール、トレハロースまたはソルビトールなどの糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えば亜鉛タンパク質錯体);およびTWEENまたはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン系界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0117】
本発明の抗体および/または免疫複合体組成物(すなわち、抗体に結合したPE)は、静脈内投与、または体腔もしくは器官の内腔への投与などの非経口投与に特に有用である。投与用の組成物は、一般に、薬学的に許容される担体、好ましくは水性担体に溶解した抗体および/または免疫複合体の溶液を含むであろう。例えば、緩衝食塩水などの種々の水性担体を使用することができる。これらは殺菌されており、一般に望ましくない物質は含まない。これらの組成物は、従来の、よく知られた殺菌手法で殺菌することができる。これらの組成物は、生理条件に近似するために求められるように、pH調節剤および緩衝剤、毒性調節剤など、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなどの、薬学的に許容される補助物質を含有することができる。これらの製剤中の融合タンパク質の濃度は、大きく変化させることができ、選択した特定の投与形態や患者のニーズに従い、主として流体体積、粘度、体重などに基づいて選択されるであろう。
【0118】
したがって、静脈内投与用の典型的な免疫複合体医薬組成物は、1日当たり約0.3〜約50μg/kg、特に1日当たり20〜50μg/kgの総治療量で、その用量が、好ましくは連続的に、または1日3回に分けて投与されることになろう。投与組成物の実際の調製方法は、当業者に知られているか、または自明であり、Remington’s Pharmaceutical Science,19th ed.,Mack Publishing Company,Easton,Pa.(1995)などの刊行物に、より詳しく説明されている。
【0119】
本発明の免疫複合体を含む組成物は、治療のために投与することができる。治療用途では、組成物は、病気およびその合併症を治癒、または少なくとも部分的に阻止するのに十分な量が、病気に罹った患者に投与される。これを達成するのに十分な量は、「治療上有効な用量」と定義される。この使用での有効量は、病気の重篤度と患者の一般的健康状態に依るであろう。
【0120】
患者が必要とし、かつ耐えられる用量と頻度に応じて、組成物の単一、または複数回の投与が行われ得る。いずれにしても、組成物は、患者を有効に治療するために、十分な量の本発明のタンパク質を提供しなければならない。用量は、例えば、21日のサイクルで1日おきに1日3回または1日おきに連続的に投与することができるが、治療結果が達成されるか、または副作用により治療が中断されるまで、周期的に投与することができる。一般に、用量は、患者に許容できない毒性をもたらすことなく、病気の症状または兆候を治療または改善するのに十分な量であるべきである。化合物の有効量は、症状の自覚的軽減か、または臨床医もしくは他の資格を有するオブザーバーが客観的に識別できる改善のいずれかをもたらす量である。
【0121】
一実施形態では、免疫複合体は、少なくとも1種の許容される賦形剤を含む医薬組成物として処方される。薬剤として許容されるCAT−8015免疫複合体製剤は、25mMのリン酸ナトリウム中に0.5mg/mL〜2.5mg/mL、通常1.0mg/mL、1.1mg/mL、1.2mg/mL、1.3mg/mL、1.4mg/mLまたは1.5mg/mLのCAT−8015、4%のスクロース、8%のグリシン、0.02%のポリソルベート80(PS80)をpH7.4で含む。さらなる実施形態では、リン酸ナトリウムは20mM〜100mM、25mM〜50mM、または25mM〜35mMの範囲とすることができ;スクロースは2%、3%、4%、5%または6%とすることができ;グリシンは、5〜10%の範囲、通常5%、6%または7%とすることができ;ポリソルベート80は、約0.01%〜約1%の範囲、通常0.01%、0.02%、0.03%、0.04%または0.05%とすることができ;pHは6.5〜8.0の範囲、通常、7.2、7.3、7.4、7.5または7.6である。当業者に知られている他の緩衝剤もまた使用することができる。
【0122】
本発明のある実施形態では、製剤は凍結乾燥される。用語「凍結乾燥される」とは、急速凍結、および高真空下、凍結状態での脱水により、乾燥形態に調製される任意の組成物または製剤を意味する。「凍結乾燥する」または「凍結乾燥」は、溶液を凍結させ、乾燥させるプロセスをいう。凍結乾燥製剤または組成物は、しばしば、殺菌した蒸留水の添加により、使える状態にされるか、または元に戻される。ある実施形態では、本発明の凍結乾燥製剤は、元に戻して、バイアルに入れられる。
【0123】
静脈内投与では、液体製剤または凍結乾燥製剤から戻した製剤などの本発明の製剤は、バイアルに入れられ、製剤中の免疫複合体が上記濃度で含まれる。この製剤はバイアルから抜き出され、点滴(IV)バッグの溶液に加えられる。IVバッグには、約30mL〜約100mLの溶液、通常50mL、60mL、70mLまたは80mLの溶液が含まれる。他のIVバッグの「保護剤溶液」も、IVバッグの全体積に加えることができる。この保護剤溶液には、ポリソルベート80が、最終IVバッグの溶液中に含まれるポリソルベート80の量が、0.001%〜約3%の範囲、一般的には約0.01%〜約0.1%の範囲、より一般的には0.01%、0.02%、0.03%、0.04%または0.05%となるように含まれている。保護剤溶液は、ポリソルベート80が約0.5%〜約5%の濃度(0.5%、1.0%、1.5%、2.0%、2.5%、3.0%、3.5%、4.0%、4.5%、または5.0%とすることができる)となるように、予めバイアルに処方しておくことができる。保護剤溶液は、免疫複合体または薬剤(例えば、CAT−8015)がIVバッグの接触表面に吸着するのを防止し、それによって、投与中に免疫複合体または薬剤がIVバッグに付着するのを防止または抑制し、患者が適切な用量の免疫複合体または薬剤を受けることを可能にする。IVバッグの溶液は、各種の持続時間、通常30分〜1時間、通常30分間、点滴で患者に投与することができる。
【0124】
本発明の免疫複合体および製剤の各種の使用には、タンパク質の毒素作用で取り除き得る特定のヒト細胞によって引き起こされる多様な病状が含まれる。本発明の免疫複合体の1つの用途は、CD22を発現するB細胞悪性腫瘍または悪性B細胞の治療に対するものである。例示的なB細胞悪性腫瘍としては、慢性Bリンパ球細胞(B−CLL)、小児急性リンパ球性白血病(pALL)、濾胞性リンパ腫(FL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、非ホジキンスリンパ腫(NHL)および有毛細胞白血病(HCL)が挙げられる。
【0125】
本願で引用した全ての文書、特許、学術論文および他の資料は、参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0126】
添付の図面を参照しながら、本発明の複数の実施形態とともに、本発明全体を説明してきたが、当業者には各種の変更形態と修正形態が明白であり得ることは理解されるべきである。そのような変更形態および修正形態は、それらが本発明の範囲から逸脱していない限り、添付の特許請求の範囲で定義されている本発明の範囲に含まれると理解されるべきである。
【実施例】
【0127】
実施例1.CAT−8015の発現、回収および封入体分離
CAT−8015VLおよびCAT−8015VH−PE38発現ベクターを含む別々の細胞系の醗酵を行った。連続遠心分離により発酵槽から収集した。発酵槽収集物を毎分0.5〜0.8L、2〜8℃で連続遠心分離機に通し、約15,000rpmの速度で遠心分離した。遠心分離後、細胞ペーストを≦−70℃で凍結した。
【0128】
この処理の後、2〜8℃で12〜24時間かけてV
H−PE38およびV
L細胞ペーストを融解した。細胞を溶解し、VLおよびVH−PE38生成物を含む封入体を放出させた。その後、得られた封入体を可溶化して、V
H−PE38およびV
L生成物を得た。
【0129】
生成物を、30kDa限外濾過中空線維カートリッジを使用して、約1mg/mL(クーマシー総タンパク質分析法により測定)に濃縮した。その後、2.5〜3.0mS/cmの電気伝導率を得るために、5〜6倍体積の20mMのトリス、100mMのpH7.4の尿素で、残余分をダイアフィルターに通した。この生成物を、2〜8℃で最長72時間保管した。
【0130】
実施例2.高性能樹脂を使用した陰イオン交換クロマトグラフィによる活性CAT−8015の分析規模の精製
V
H−PE38サブユニットの発現により、そのサブユニットの脱アミド変異体が生成された。免疫複合体のPE38部分で、脱アミド化が生じることがわかった。V
H−PE38サブユニットの脱アミド化により、CAT−8015タンパク質の効力が低下した。驚くべきことに、下記のクロマトグラフィの条件が脱アミド変異体の除去に有効であり、したがって、精製過程で不活性種を除去する能力を提供できた。脱アミド化は、融合構成体のPE38部分で生じるため、そのクロマトグラフィの条件は、PE複合体の任意の脱アミド変異体の除去に適用することができる。
【0131】
CAT−8015を、単離した封入体から復元し、その後、4カラムプロセスで精製した。表1に復元および精製の単位操作の概要を示す。
【0132】
【表1】
【0133】
図1に、CAT−8015標準試料の分析イオン交換クロマトグラフィ(IEC)プロファイルを示す。プロファイルに示されるように、主ピークの溶出の前にプレピークが出現している。IECから溶出した個々の画分について、試験試料の用量依存的なCD22受容体発現ダウディ細胞系のアポトーシス細胞死を誘発する能力を測定するアポトーシス生物検定を使用して、CAT−8015生物活性を標準試料と比較して分析する。一旦CD22に結合し内部に取り入れられると、CAT−8015は、Caspase−Glo(商標)3/7 Assay Systemで測定することができるカスパーゼ3/7の活性化を介して、ダウディ細胞のアポトーシスを誘起する。試験試料の効力は、標準試料の50%有効濃度(EC50)を試験試料のEC50で除して算出される。アポトーシス生物検定の結果は、CAT−8015の相対的効力が、
図1に示すCAT−8015のプレピークの割合と相関することを示した。
図2に、この相対的効力とプレピークの割合との関係を示す。
【0134】
複数回のIEC分析からのプレピークと主ピークの画分を回収してプールし、ペプチドマッピングおよび液体クロマトグラフィ−質量分析/質量分析(LC−MS/MS)に供した。結果を、精製したCAT−8015のペプチドマッピングおよびLC−MS/MS実験から得られたものと比較した。精製したCAT−8015薬剤物質の分析から、Asn−358が部分的にAsp−358およびイソ−Asp−358へ脱アミド化されることがわかった(表2)。Asp−358およびイソ−Asp−358が、プレピーク画分中に大きく増加する一方、主ピーク画分には完全なCAT−8015が増加することがわかった(表2)。この2つを併せると、結果は、Asn−385の脱アミド化が、細胞ベースの生物検定における相対的効力の低下に繋がることを示している。Asp−358残基は免疫複合体のPE毒素部分に存在しており、したがって、これは、Asp−358が存在するPE毒素を含む免疫複合体またはその変異体が、脱アミド化、および効力または活性の低下を受け易いことを示すものである。
【0135】
【表2】
【0136】
完全なCAT−8015からの脱アミドCAT−8015の分離は、Source 15(粒子径:15μm;GE Healthcare)およびSepharose High Performance(粒子径:34μm;GE Healthcare)などの小径樹脂にQ(第四級アミノ基)などの強いイオン交換基が結合した陰イオン交換クロマトグラフィにより達成された。バイオ製造プロセスに小径クロマトグラフィ樹脂を適用することは、カラム形状、流量および緩衝液組成で定義される典型的な運転条件で大きな背圧が生じるために複雑である。これらの考慮と高分解能クロマトグラフィ工程に対する要件に基づき、完全なCAT−8015から脱アミドCAT−8015を分離するために、Q Sepharose High Performanceを選択した。各種の製造規模で、操作性を確保しながら高分解を達成するクロマトグラフィ条件を開発した。
【0137】
実施例3.CAT−8015のベンチスケール精製
まず、カラム容積(CV)の5倍の緩衝液C(前平衡化/ストリッピング緩衝液:10mMのトリス/HCl、pH8.0、1.0MのNaCl)でカラムの前平衡化を行い、次いで、5CVの緩衝液A(平衡化緩衝液:10mMのトリス/HCl、pH8.0)を用い、100cm/hrの線流速で、カラムを平衡化させた。クロマトグラフィ樹脂は、Millipore Vantageカラム、2.2cm×19.5cm、に充填したQ Sepharose High Performance(QHP、GE Healthcare)であり、AKTA Explorer上で使用した。高性能陰イオン交換カラムにロードするために、10kDaのMWCO膜を使用し、10倍体積の緩衝液Aでダイアフィルトレーションを行って、中間精製物のプールを調製した。ダイアフィルトレーションを行った疎水性相互作用生成物のプールを、100cm/hrの線流速でQHPカラムにロードし、その後、緩衝液Aを用い、同じ流速で、2CV再平衡化工程を行った。CAT−8015を、35%の緩衝液B(溶出緩衝液:10mMのトリス/HCl、pH8.0、500mMのNaCl)〜55%の緩衝液Bの10CVの線形勾配により、100cm/hrの線流速で溶出した。生成物の溶出を、280nmで監視した。画分を集め、分析イオン交換クロマトグラフィ(IEC)によりプレピークの%を分析した。25%未満のプレピークを含む画分をプールした。QHPプール分について、分析IECにより強陰イオン交換カラム上でプレピークの%を分析した。上記のアポトーシス生物検定により、相対効力を測定した。
【0138】
pH8.0で、CAT−8015は陰イオン交換樹脂に強く結合しており、流れ出た画分中にA280での吸収によるタンパク質は検出されなかった。175mMのNaClを含有するトリス/HCl、pH8.0、による初期の洗浄工程後、35%のB(トリス/HCl中175mMのNaCl、pH8.0)〜55%のB(トリス/HCl中275mMのNaCl、pH8.0)の線形塩勾配で、CAT−8015をカラムから溶出した。39%のB(トリス/HCl中192mMのNaCl、pH8.0)〜49%のB(トリス/HCl中245mMのNaCl、pH8.0)で、CAT−8015をカラムから溶出した。
図3にCAT−8015のQHPクロマトグラフィプロファイルを示す。
【0139】
分析IECにより画分を分析した。44.5%のB(223mMのNaCl)〜47.2%のB(236mMのNaCl)で溶出した画分の結果を表3に示す。
【0140】
【表3】
【0141】
表3は、線形塩勾配溶出モードで操作された陰イオン交換クロマトグラフィが、脱アミドCAT−8015を完全なCAT−8015から効率的に分離できることを示している。
【0142】
驚くべきことに、アスパラギン残基の脱アミド化により、正味の負電荷が明らかに増加するにもかかわらず、完全なCAT−8015がより高濃度の塩で溶出した。この結果は、IECで観察されたクロマトグラフィプロファイルと一致する。CAT−8015含有試料を、トリス/HCl緩衝液系によりpH8.0で平衡化した分析陰イオン交換カラム(PL−SAX、Varian)に注入し、工程と勾配溶出工程の組み合わせにより溶出させた(
図1)。
【0143】
プレピークの含有率が25%未満というプール基準にしたがって、画分を一つにした。QHPプールについて、SDS−PAGE、分析IECおよびアポトーシス生物検定により、プレピークの%および相対的効力を分析した。
図4に示すように、SDS−PAGE分析は、QHPロードプールおよび溶出試料に高度に精製されたCAT−8015が含まれていたことを示している。しかしながら、QHPロードプールは、IECによる純度および生物活性が目標の仕様に合致しなかった。QHPロードプールに対する純度および効力の測定結果は、下表4に示すように、QHP溶出液プールと比較して、QHPによる陰イオン交換クロマトグラフィ工程が、CAT−8015のIECによる純度および相対的効力を大きく増加させることを示している。QHPロードプールは、中間精製工程IIで生成された。
【0144】
【表4】
【0145】
その後、QHP生成物プールを、製剤緩衝液へダイアフィルトレーションして、CAT−8015薬剤物質を生成した。
【0146】
このように、CAT−8015薬剤物質の製造では、活性CAT−8015から脱アミドCAT−8015を分離する必要がある。QHPなどの高性能樹脂を使用する陰イオン交換クロマトグラフィが、完全なCAT−8015から脱アミドCAT−8015を分離することができ、かつ生物活性を目標仕様にまで高めることができることが、CAT−8015薬剤物質の製造を成功させる必須条件である。
【0147】
実施例4.CAT−8015の大規模精製
まず、カラムを、5CVの緩衝液C(前平衡化/ストリッピング緩衝液:10mMのトリス/HCl、pH8.0、1.0MのNaCl)により、66cm/hrの線流速で前平衡化し、次いで、5CVの緩衝液Aにより76cmの線速度で平衡化した。クロマトグラフィ樹脂は、Q Sepharose High Performance(QHP、GE Healthcare)とし、30cm×22cmのBP300カラム床に充填し、K Prime装置で使用した。高性能陰イオン交換カラムにローディングするために、10kDaのMWCO膜を使用し、10倍体積の緩衝液A(平衡化緩衝液:10mMのトリス/HCl、pH8.0)でダイアフィルトレーションを行って、中間精製物のプールを調製した。ダイアフィルトレーションを行った生成物プールを、64cm/hrの線流速で、QHPカラムにロードし、その後、緩衝液Aにより、76cm/hrの線流速で、2CVの再平衡化工程を行った。35%緩衝液B(溶出緩衝液:10mMのトリス/HCl、pH8.0、500mMのNaCl)〜55%緩衝液Bの10CV線形勾配により、線流速76cm/hrでCAT−8015を溶出させた。生成物の溶出を、280nmで監視した。画分を集め、分析イオン交換クロマトグラフィ(IEC)によりプレピークの%を分析した。25%未満のプレピークを含む画分をプールした。QHPプールについて、分析IECにより強陰イオン交換カラムでプレピークの%を分析した。アポトーシス生物検定により、相対的効力を測定した。
【0148】
上記のように、QHPを使用して、CAT−8015の大規模陰イオン交換クロマトグラフィを実施した。装置上の制限により、流速を落としてQHP精製を行った。電気伝導率22.3mS/cm〜26.4mS/cmでCAT−8015をカラムから溶出させた。
図5に、上記方法により精製したCAT−8015のQHPクロマトグラフィプロファイルを示す。
【0149】
分析IECにより画分を分析した。電気伝導率23.8mS/cm〜25.4mS/cmで溶出させた画分の結果を表5に示す。表5は、線形塩勾配溶出モードで操作する陰イオン交換クロマトグラフィにより、完全なCAT−8015から脱アミドCAT−8015を分離できることを示している。完全なCAT−8015からの脱アミドCAT−8015の分離は、2mS/cm未満の電気伝導率範囲内で生じた。
【0150】
【表5】
【0151】
プレピーク含有率が25%未満というプール基準にしたがって、画分4〜7を一つにした。SDS−PAGEおよびSEC、分析IEC、並びにアポトーシス生物検定により、プレピークの%および相対的効力を、QHPプールについて分析した。
図6に示すように、SDS−PAGE分析は、QHPロードプールおよび溶出試料に高度に精製されたCAT−8015が含まれていたことを示している。しかしながら、QHPロードプールは、SEC、IECによる純度および生物活性が目標の仕様に合致しなかった。QHPロードプールに対する純度および効力の測定結果は、下表6および7に示すように、QHP溶出液プールと比較して、QHPによる陰イオン交換クロマトグラフィ工程が、CAT−8015のSEC、IECによる純度および相対的効力を大きく増加させることを示している。QHPロードプールは、中間精製工程IIで生成された。
【0152】
【表6】
【0153】
【表7】
【0154】
QHP生成物プールを、その後、製剤緩衝液へとダイアフィルターして、CAT−8015薬剤物質を生成した。
【0155】
実施例2〜4は、Q Sepharose High Performanceなどの樹脂を使用する陰イオン交換クロマトグラフィが、完全なCAT−8015から脱アミドCAT−8015を分離し、かつ相対的効力を目標仕様に合致するように高めることができることを示している(表4および6を参照)。脱アミドCAT−8015は、完全なCAT−8015とは、負電荷が1つ追加されている点で異なる。陰イオン交換カラムからの予期される溶出挙動とは異なり、塩勾配溶出条件では、脱アミドCAT−8015の大半は完全なCAT−8015より先に溶出する(表3および5を参照)。この予期せぬ溶出パターンは、分析規模、ベンチ規模および大規模の陰イオン交換クロマトグラフィで観察された。この溶出パターンが予期できなかったのは、線形高塩濃度溶出緩衝液では、負電荷のより多い変異体を生ずると予想されたからであろう。このように、実施例2〜4は、線形溶出緩衝液を使用すれば、陰イオン交換クロマトグラフィにより、脱アミド種を活性免疫複合体から除去できることを示している。完全なCAT−8015からの脱アミドCAT−8015の分離は、特定の範囲の電気伝導率で生じており、これは、高分解能陰イオン交換樹脂、溶出条件の注意深い制御、および集めた画分のプロセス内試験の必要性を強調するものである。
【0156】
実施例5.CAT−8015製剤の生物活性の改変
CAT−8015組成物の効力は、特定量の脱アミドプレピークと活性な主ピークとを混合することによって調整した。CAT−8015の特定の効力を有する組成物を得るために、CAT−8015プレピーク生成物の一定量とCAT−8015主ピーク生成物の一定量とを合わせて、CAT−8015の特定の効力を有する組成物を得た。組成物中のCAT−8015効力のレベルを調節することによって、特定量の再構成CAT−8015を所望の用量で投与するためのCAT−8015製剤を製造した。
【0157】
実施例6.可溶化過程でのpHの調節は、捕捉および中間精製工程後に測定される脱アミド種を減少させる。
脱アミド種は、上記のように精製工程を行うことにより、活性免疫複合体から除去することができるが、CAT−8015の脱アミド種のレベルは、精製プロセスの初期の工程(すなわち、リフォールディング工程(上記表1の工程4))でpHを調節することによっても有効に減少させることができる。CAT−8015の脱アミド種の低レベル化を達成するために使用するリフォールディングの手順は、以下のサブ工程を含む。
【0158】
リフォールディングサブ工程1:可溶化、清澄化および濃縮:室温(15〜30℃)で12〜24時間かけて、VH−PE38およびVL封入体を解凍した。VH−PE38およびVL封入体を1:1のモル比で混合し、pH7.4の50mMのトリス、20mMのEDTAを加えて固形分15%(重量/体積)に調節した。固形分15%(重量/体積)の封入体懸濁液1kg当たり、5kgの封入体可溶化緩衝液(50mMのエタノールアミン、8Mの尿素、0.5Mのアルギニン、2mMのEDTA、10mMのDTE)を加えて、封入体を可溶化した。封入体可溶化緩衝液のpHを、pH9.0〜10.5の間で0.5pH刻みで変化させた。連続的に撹拌しながら室温(15〜30℃)で2時間可溶化させた。可溶化した封入体を、一連のフィルターを通す深層濾過により清澄化した。清澄化した濾液を、5kDa分子量カット(MWCO)の限外濾過膜を使用するタンジェント流濾過により、5〜6g/Lに濃縮した。
【0159】
リフォールディングサブ工程2:リフォールディング:清澄化し、濃縮した封入体濾液を予め冷却(2〜8℃)しておいたリフォールディング緩衝液(50mMのエタノールアミン、1Mのアルギニン、2mMのEDTA、0.91mMの酸化グルタチオン、pH9.5)に加えて10倍に希釈することにより、CAT−8015のリフォールディングを開始した。リフォールディング溶液を、連続的に混合しながら48〜72時間、2〜8℃に維持した。濃縮およびダイアフィルトレーションの前に、リフォールディング溶液を室温(15〜30℃)にすることにより、リフォールディングを終了した。リフォールディング溶液を、10kDaのMWCO膜を備えたタンジェント流濾過により濃縮し、10倍体積の20mM、pH7.4のリン酸カリウムでダイアフィルターにかけた。濃縮し、ダイアフィルターしたリフォールディング溶液を、0.2μmのフィルターを通して濾過した(TMAEロード)。
【0160】
捕捉工程(上記表1の工程5)の一部として、上記リフォールディング手順から得られたCAT−8015調製物を、pH7.4の20mMリン酸カリウムで平衡化したFractogel TMAEカラム(EMD Biosciences、または同等)にロードした。ロード後、カラムを、まず、pH7.4の20mMリン酸カリウムで洗浄し、次いで、20mMリン酸カリウム、pH7.4の0.1%(重量/重量)Triton X 100で洗浄し、さらにその後、pH7.4の20mMリン酸カリウム、100mM塩化ナトリウムで洗浄した。生成物を、pH7.4の20mMリン酸カリウム、200mM塩化ナトリウムの逆流下でカラムから溶出した。カラムを2M塩化ナトリウムによりストリッピングし、1N水酸化ナトリウムで洗浄し、室温で0.1N水酸化ナトリウム中に保管した。
【0161】
中間精製工程1の一部として、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィを実施した。ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィ工程は、フロースルー型クロマトグラフィ工程として操作した。上記捕捉工程から得られた生成物を、さらなる調節を行わずに直接、pH7.4の400mMリン酸カリウム、200mM塩化ナトリウム、次いでpH7.4の20mMリン酸カリウム、200mM塩化ナトリウムで平衡化したセラミックヒドロキシアパタイトカラム(Bio−Rad Laboratories、または同等)にロードした。クロマトグラフィのこの条件下で、生成物をフロースルー画分の形で集めた(HA生成物)。カラムを、pH7.4の400mMリン酸カリウム、200mM塩化ナトリウムでストリッピングし、1N水酸化ナトリウムで洗浄し、室温で0.1N水酸化ナトリウム中に保管した。
【0162】
高性能陰イオン交換クロマトグラフィにより、上記HA生成物中のプレピークパーセントを分析した。表8および
図7に、可溶化pHの関数として、HA生成物中のプレピークパーセントを示す。表8および
図7に示すように、VH−PE38およびVL封入体をより低いpHで可溶化すると、脱アミド化がより少ないCAT−8015生成物が得られる。再生および精製プロセスの初期工程でCAT−8015の脱アミド化を制御することが可能であれば、最終の精製済み薬剤物質の品質を維持しつつ、プロセス全体としての収率を増大させることができる。
【0163】
【表8】