(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0003】
経口摂取のための非常に多様な剤型が、公知であり、医学分野において容易に利用可能である。これらのうちの最も一般的なものが錠剤である。医薬錠剤の主要な制限は、飲み下すのが困難であることに起因する芳しくない患者の服薬遵守、および錠剤の無効な溶解による、活性物質の生物学的利用率の欠如を含む。
【0004】
速溶性剤型(FDDF)は、使用するのに好都合であり、しばしば、患者の服薬遵守の問題に対処するために使用される。FDDFの多くの剤型、例えば、大量の芯剤/崩壊剤を含む、「緩く」圧縮された錠剤、大量の発泡剤を含む錠剤、および凍結乾燥された錠剤がある。最も一般には、活性成分を口腔中で放出するように設計される、凍結乾燥された速溶性剤型が、急速に溶解する、ゼラチンに基づいたマトリックスを使用して製剤化される。これらの剤型は、周知であり、広い範囲の薬物を送達するために使用され得る。ほとんどの速溶性剤型は、ゼラチンおよびマンニトールを、担体またはマトリックス形成剤として活用する。(Seagar,H.、「Drug-Delivery Products and Zydis Fast Dissolving Dosage Form」、J.Pharm.Pharmaco、vol.50、375〜382頁(1998))。
【0005】
凍結乾燥プロセスにより製造されたFDDF、例として、Zydis(登録商標)剤型が、しばしば好ましい。これらは、より迅速な崩壊時間(すなわち、5秒未満、一方、緩く圧縮された錠剤の場合には、1分)、より滑らかな口当たり(すなわち、圧縮錠剤中の多量の芯剤に伴うザラザラした感じがない)、胃に達する前(pregastric)の吸収が改善される可能性(それにより、特定の医薬品については、副作用が低下し、有効性が改善する)、および保存の選択肢の増加の明確に異なる利点を有する。
【0006】
典型的には、ゼラチンを使用して、包装から取り出す間の破損を阻止するのに十分な強度を剤型に与えるが、口腔内に置かれると、ゼラチンにより、剤型の即時の分散が可能になる。加水分解哺乳動物ゼラチンがしばしば、FDDFにおける最適なマトリックス形成剤であり、これは、それが、冷却すると、急速にゲル化することによる。また、非ゲル化魚ゼラチンも使用することができる。プロセスする間に、適量に分けた溶液/懸濁液を、好ましくは、気体の媒体を通過させることによって凍結する。それにより、溶液/懸濁液が急速に凍結し、このことにより、製造効率が改善される。
【0007】
ワクチンは、疾患に対する予防において重要であり、免疫応答を誘発することによって、それらの作用を発揮し、免疫応答の作用は、チャレンジしてくる生物体による感染を予防すること、または免疫応答が誘発されている抗原が感受性の組織に再びチャレンジする場合、免疫応答が誘発されていなければ生じるであろう疾患プロセスの開始を阻止することである。また、ワクチンは、抗原に対する免疫応答の性質またはレベルを改変して、宿主がすでに曝露されたことがある病原体を排除することを可能にするために治療的に使用することもできる。
【0008】
ほとんどの現存するワクチンが注射により送達され、それらは、苦痛を伴い、不都合であり、高価であり、粘膜組織において適切な免疫原性応答を誘導することができない場合がある。感染の大半が、粘膜表面に影響を及ぼすかまたは粘膜表面から開始する。これらの感染体に対する能動免疫獲得は、粘膜免疫応答の誘導の成功に依存し得る。粘膜ワクチンの成功により、分泌表面の防御、すなわち、粘膜免疫が可能になり、また、循環抗体の誘導により、全身免疫を誘導することもできる。また、粘膜ワクチンは、従来のワクチンよりも、患者への投与が容易でもあり、製造するのが安価でもある。注射による送達はもちろん、粘膜表面を直接標的にすることもなく、経口ワクチンに伴う利点をもたらすこともない。
【0009】
粘膜免疫の誘導は、免疫グロブリン(Ig)の出現により証明され、そのうち、粘膜を覆う粘液中のIgA抗体が特に重要である。IgAは、粘膜内で複数の作用を発揮する。最も顕著には、IgAが作用して、病原体および病原体の構成成分を中和し、感染を引き起こす、下部の上皮層へのそれらのアクセスおよび侵入を阻止する。1つの粘膜部位における免疫の賦活が、体内の他の部位の粘膜に防御を付与することは公知である。可能性として、経口ワクチンを使用して、口、消化器、呼吸器、泌尿生殖器および眼の病原体に対する免疫を誘導することができる。元々の抗原による賦活の点から離れた体内の部位において免疫を発生させるこの能力から、一般的な粘膜免疫系の概念が生じるに至った。粘膜免疫系の賦活により、全身免疫系における防御的な循環抗体、特に、IgG抗体を誘導し得ることがさらに示されている。また、最適な粘膜ワクチンは、Tリンパ球の応答、例として、抗体産生を支持することができるTヘルパー細胞の産生を誘導し、特定の病原体については、Th17細胞、Th1細胞、Th2細胞、および局所性かつ/または全身性に作用する細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の産生も誘導するはずである。
【0010】
経口送達するワクチンは、口および鼻咽頭領域中の鼻に関連するリンパ組織、リンパ節、扁桃腺および咽頭扁桃腺、ならびに小腸のパイエル板中の腸に関連するリンパ組織を賦活することができる。
【0011】
ワクチンには、抗原を組み込み、抗原は、ペプチド、タンパク質、多糖、または細菌、ウイルスもしくは他の微生物の全体もしくは部分的な断片や抽出物であり得、後者は、しばしば、毒性の構成成分を除去するために、弱毒化する。ワクチンが所望の防御作用を発生させるためには、抗原に対する曝露が、レシピエントにおける免疫応答を誘発するのに十分でなければならない。ワクチン接種の手順における主要な問題は、これらの抗原または抗原性化合物が、適切な部位に、必要な免疫応答を誘発するのに十分な分量で達するのを確保することである。ワクチン系中の抗原による賦活の際に必要な免疫応答をもたらすことができる、免疫系の2つの局面、すなわち、全身免疫系および粘膜免疫系がある。
【0012】
粘膜免疫系は、消化管、呼吸器、泌尿生殖器、および感覚器官を囲む膜中に位置する誘導性およびエフェクターのリンパ組織の領域からなる。誘導性部位は通常、組織立ったリンパ構造および粘膜中の抗原の存在を検出する能力を有する。リンパ組織の局部的な領域における抗原提示細胞は、吸収された抗原を拾い上げ、T細胞およびB細胞の応答を賦活する能力を有し、結果として、形質細胞の産生をもたらす。これらの形質細胞は、身体全体を通して局所またはエフェクター部位に存在し得、抗体、例として、IgAを分泌する。分泌されたIgA分子は、タンパク質分解に抵抗し、病原体のコロニー形成および進入を、それらを中和するかまたは凝集させることによって阻止する。他の状況では、IgA分子は、病原体が最初のバリアを貫通してしまった場合には、抗体依存性T細胞媒介型細胞傷害性を活性化させる。また、粘膜組織の賦活により、他の抗体のアイソタイプ、例として、IgG、IgMおよびIgEの産生が生じ得る。これらの他の抗体のアイソタイプは、粘膜中で作用を局所性に発揮することができ、または病原体が何とかして粘膜を貫通する場合には、全身性の作用を示し、それにより、追加の防御をもたらすこともできる。また、粘膜中で誘導されたT細胞応答は、粘膜部位にもまたは全身性にも存在し得、粘膜表面の防御および粘膜を貫通する病原体に対する防御を増強する。
【0013】
リンパ組織を形成する細胞の主要な機能は、病原体および毒素の吸収を阻止すること、またはこれらの病原体および毒素が粘膜組織に吸収されると、それらを不活性化させることである。一般に、かなりより高い用量の抗原が、粘膜の免疫化、とりわけ、経口経路を意図する場合には必要になる。このことは、有効な機械的および化学的なバリアの存在、ならびに酵素および酸による抗原の分解および消化に起因する。さらに、上気道および消化管から胃への、粘液線毛プロセス、蠕動プロセスおよび分泌プロセスによる物質の急速なクリアランスもある。
【0014】
粘膜は、無害の抗原、例として、食品および吸入粒子に対するエフェクター免疫応答の誘導を阻止するように進化してきた。その結果、粘膜表面に導入される多くの抗原が、生産的なT細胞およびB細胞の応答ではなく、「寛容」を誘導する。したがって、有効なワクチンを作製するためには、これらの自然のプロセスを克服する必要がある。
【0015】
経口固体剤型を調製して、粘膜経路を通してワクチンを送達し、かつ同時に、投与の簡便性および患者の快適さを失わないようにもする際に、困難が発生している。飲み下すのが困難である特定の患者は典型的には、固体経口ワクチンにとって、芳しくない候補であり、剤型の口腔中の物理的存在が増加する。
【0016】
市販されている経口ワクチンは、弱毒生ワクチン(例えば、ポリオ、チフス、ロタウイルス)または不活性化ワクチン(例えば、コレラ)のいずれかであり、適切な粘膜免疫応答を惹起するのに有効である。これは、それらの自然の感染部位が腸粘膜であり、ワクチンのユニットが、身体の自然の免疫防御機構を誘発するからである。しかし、(微生物の抗原性断片を含有する)サブユニットワクチン、トキソイドワクチンまたはコンジュゲートワクチンの有効かつ安全な経口ワクチンは、まだ確立されるに至っていない。これらのペプチドに基づいたワクチン戦略の経口送達は、胃の酸性環境および消化管(GIT)中に存在するタンパク質分解酵素に対する曝露時のそれらの分解に起因して、顕著に妨害される。また、抗原は一般に、大き過ぎて、GITの粘膜を横切って体循環中に拡散し得ず、体循環中へ能動輸送され得ない。したがって、しばしば、全身免疫応答または粘膜免疫応答のいずれかを惹起するには不十分な抗原が残存する。さらに、GIT内における粘膜応答の必須条件は、抗原提示細胞(APC)による抗原の取込みでもある。APCによる可溶性抗原の取込みは、抗原の微小粒子の取込みよりも効率がはるかに低い。したがって、可溶性抗原はしばしば、適切な免疫応答を達成することができず、このことにより実際に、抗原に対する寛容をもたらす恐れがある。
【0017】
GITの過酷な環境から抗原を防御し、粘膜応答を促進するために、種々の戦略が利用されてきた。これらは、抗原を膜で覆いリポソームとすること、免疫賦活複合体(ISCOM)、プロテオソーム(proteosome)および微小粒子を含む。しかし、そのような戦略は、有効な液性抗体および細胞媒介型応答を惹起するために、粘膜アジュバントの同時投与と併せた、非常に高い用量の抗原の送達を依然として必要とする場合がある。その上さらに、研究下のアジュバントのうちの多く、例として、コレラ毒素が、ヒトにおいて極めて毒性でもある。抗原の供給源(細菌、ウイルス、寄生生物等)にかかわらず、これらの問題は存在する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、細菌、ウイルスまたは他の微生物が引き起こす感染に対する防御のための改善された免疫原性応答を誘発するための経口ワクチンを送達するFDDFを開発することによって、当技術分野の問題を解決する。本発明者らは、ワクチンの送達のために、免疫応答強化マトリックス形成剤としてのデンプンを、場合により、少なくとも1つの追加のマトリックス形成剤と併せて利用する本発明のFDDFが、ヒト身体において感染に対する免疫をより良好に賦活することを発見した。本発明は、FDDFを作製するために、デンプンを含有する処方を使用する場合に、免疫応答において達成される驚くべき結果をもたらし、デンプンが、免疫応答を強化して、全身性の液性抗体および細胞媒介型応答の両方をもたらす。したがって、本発明は、様々な抗原に対して有効であり得る。
【0030】
本発明の新規のかつ驚くべき態様は、上記したように、デンプンに基づいた処方が、ワクチン抗原の経口送達の障害を回避することである。経口ワクチン送達に続く有効な免疫応答の発生に対するバリアとして作用する自然のプロセスを克服する能力は、本明細書に開示する処方の特有の属性から生じる。デンプンに基づいた速溶性製剤が微小粒子の性質を示すことが、(好ましくは、舌下または口腔内頬側からの投与を介する)口腔内での抗原の取込みを促進し、それにより、GITの分解機構を回避する。この取込み機構は、強力なアジュバントを必要とせずに、液性抗体および粘膜応答の両方を誘発する。
【0031】
達成された免疫応答プロファイルから、本発明が、任意のサブユニットワクチン、タンパク質コンジュゲートワクチンおよびトキソイドワクチンに適用でき、ワクチンを、全ての感染体、すなわち、ウイルス、細菌(細菌細胞もしくはウイルス粒子の全体もしくは部分的な断片もしくは抽出物)、または疾患を引き起こす、原生動物もしくは虫等の寄生生物の類、またはそれらの組合せに由来する抗原調製物に対して有効にすることが示されている。
【0032】
第1の実施形態は、(a)免疫原性量の抗原調製物および(b)少なくとも1つの免疫応答強化マトリックス形成剤を含む速溶性経口固体ワクチン剤型であって、少なくとも1つの免疫応答強化マトリックス形成剤がデンプンである、速溶性経口固体ワクチン剤型を対象とする。
【0033】
本明細書においては、句「速溶性」、「速分散性」および「速崩壊性」を互換的に使用することができる。本発明の目的では、「速溶性」は、考案の固体剤型の好ましくは、口腔中に置かれてからかつ/または唾液と接触してから60秒(1分)以内に崩壊する能力を指す。剤型は、より好ましい実施形態では、30秒以内、さらに好ましい実施形態では、10秒以内、最も好ましい実施形態では、5秒以内に崩壊する。本明細書で使用する場合、「経口」および「経口剤型」は、ヒトまたは動物の口腔中に置くことにより投与する医薬製剤を指す。「口腔」は、本明細書で使用する場合、舌の上もしくは下(舌下)、または口腔内頬側もしくは咽頭の領域中を含めた、ヒトまたは動物の口およびのどの内部の全ての空間を指す。
【0034】
「抗原調製物」は、本明細書で使用する場合、可溶性または粒子の抗原を組み込んでいる製剤であり、抗原は、ペプチド、タンパク質、多糖、細菌細胞もしくはウイルス粒子の全体もしくは部分的な断片もしくは抽出物であってもよく、または疾患を引き起こす、原生動物もしくは虫等の寄生生物に由来してもよく、またはそれらの組合せであってもよい。当技術分野で公知の任意の抗原が、本発明において使用するのに適しており、それらには、市販されている抗原、または病原体の調製物の精製により作製した抗原、無害のベクターから組換えにより発現させた抗原もしくは標準的な製造により合成して生成した抗原がある。FDDF中に組み込むのに適した抗原および抗原調製物を生成するための方法が、当技術分野で公知であり、公知の方法のうちのいずれかを、本発明において使用することができる。
【0035】
抗原調製物を、本発明の速溶性経口固体ワクチン剤型中に、FDDFの形態をとって提供する場合に抗原調製物が免疫原性を示すのに十分な量で含める。「免疫原性量」を、所望の免疫応答を誘発するのに適切な量と定義する。インフルエンザの場合、抗原調製物の免疫原性量は、好ましくは、約1μg〜約1mgである。当業者であれば、所与の疾患または感染についての免疫原性量を、いくつかある因子のうちでもとりわけ、FDDFを投与する患者の年齢および体重に基づいて容易に決定することができる。
【0036】
本発明の速溶性固体経口ワクチン剤型を使用して、ワクチンを送達することができ、ワクチンは、多種多様な疾患の症状を予防するかまたは低下させる(すなわち、抗体およびTリンパ球の創出を誘導することによって免疫を賦活する)。そのために、本発明の抗原調製物は、網羅的ではない、以下の代表的なリストの疾患に対する防御をもたらすのに有用な抗原を含有することができる:インフルエンザ、結核、髄膜炎、肝炎、百日咳、ポリオ、破傷風、ジフテリア、マラリア、コレラ、ヘルペス、チフス、HIV、AIDS、麻疹、ライム病、旅行者下痢、A、BおよびC型肝炎、中耳炎、デング熱、狂犬病、パラインフルエンザ、風疹、黄熱、赤痢、レジオネラ病、トキソプラズマ症、Q熱、出血熱、アルゼンチン出血熱、う歯、シャーガス病、大腸菌(E.coli)が引き起こす尿路感染、肺炎球菌性疾患、流行性耳下腺炎、チクングニア、ならびにそれらの組合せ。さらに、本発明の抗原調製物は、以下の非網羅的なリストの原因生物が引き起こす疾患に対する防御をもたらすのに有用な抗原を含有することもできる:ビブリオ属種、サルモネラ属種、ボルデテラ属種、ヘモフィルス属種、トキソプラズマ(Toxoplasmosis gondii)、サイトメガロウイルス、クラミジア属種、連鎖球菌種、ノーウォークウイルス、大腸菌(Escherichia coli)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、ロタウイルス、ナイセリア・ゴノレア(Neisseria gonorrhoeae)、ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis)、アデノウイルス、エプスタイン・バーウイルス、日本脳炎ウイルス、ニューモシスチス・カリニ(Pneumocystis carini)、単純ヘルペス、クロストリジウム属種、呼吸器多核体ウイルス、クレブシエラ属種、シゲラ属種、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、パルボウイルス、カンピロバクター属種、リケッチア属種、水痘帯状疱疹、エルシニア属種、ロスリバーウイルス、JCウイルス、ロドコッカス・エクイ(Rhodococcus equi)、モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)、パスツレラ・ヘモリチカ(Pasteurella haemolytica)、およびそれらの組合せ。
【0037】
また、本発明の獣医学的適用も企図する。したがって、本発明の抗原調製物は、以下の代表的なリストの獣医学的疾患に対する防御をもたらすのに有用な抗原を含有することができる:コクシジウム症、ニューカッスル病、流行性肺炎、ネコ白血病、萎縮性鼻炎、丹毒、口蹄疫、ブタ肺炎、ならびにペットおよび家畜に影響を及ぼす他の疾患状態および他の感染、ならびにそれらの組合せ。
【0038】
本発明の第1の実施形態の速溶性経口固体ワクチン剤型は、少なくとも1つの免疫応答強化マトリックス形成剤を含み、少なくとも1つの免疫応答強化マトリックス形成剤はデンプンである。本明細書で使用する場合、デンプンは、未改質デンプンのみならず、また、多種多様なデンプンに関連する生成物、およびより一般に、本発明の速溶性経口固体ワクチン剤型中のデンプンと同じ機能を示す任意の物質も指す。好ましくは、デンプンは、未改質デンプン、改質デンプンおよびそれらの組合せから選択される。好ましくは、改質デンプンは、α化デンプン、置換デンプン、架橋デンプン、分解デンプンおよびそれらの組合せからなる群から選択される。例示的な未改質デンプンとして、非限定的に、ジャガイモ、小麦、トウキビ(トウモロコシ)、キャッサバ(タピオカ)、大麦、クズウコン、米、サゴ、モロコシ、カラスムギ、キビおよびそれらの組合せが挙げられる。例示的な改質デンプンとして、非限定的に、未改質デンプンから調製されたが、物理的に、酵素的に、化学的にまたは別の方法により処理されたデンプン、例として、ヒドロキシアルキルデンプン(例えば、ヒドロキシプロピルデンプン)、カルボキシアルキルデンプン(例えば、カルボキシメチルデンプン)、四級アンモニウム型カチオンデンプン(例えば、デンプンベタイネート(starch betainate))、デンプンエステル(例えば、アシル化リン酸架橋デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、硝酸デンプン、硫酸デンプン、リン酸化デンプン、リン酸架橋デンプン、カルバミン酸デンプン等)がさらに挙げられる。分解されたデンプンは、デンプンを物理的に、熱的に、化学的に、酵素的にまたは別の方法により処理することによって調製され、それらの例示的なものとして、非限定的に、デキストリン、マルトデキストリン、プルラン、グルコース、シクロデキストリンおよびそれらの組合せが挙げられる。
【0039】
速溶性経口固体ワクチン剤型を形成するために続いて凍結する溶液または懸濁液中のデンプンの量は、好ましくは、約1重量%〜約12重量%、より好ましくは、約2重量%〜約10重量%、最も好ましくは、約2重量%〜約8重量%の範囲に及ぶ。抗原の溶液または懸濁液は、任意の分量に分注し、凍結および凍結乾燥して、乾燥生成物中に最終的な分量を得ることができる。例えば、30mgの2%溶液を分注し、乾燥する場合には、乾燥錠剤は、0.6mgのデンプンを含有し、一方、1gの同じ溶液を分注し、乾燥する場合には、乾燥錠剤は、20mgのデンプンを含有する。こうすることによって、異なる患者集団に投与するのに必要な柔軟性が得られる。好ましくは、速溶性経口固体ワクチン剤型中に存在するデンプンの量は、約2重量%〜約90重量%、より好ましくは、約5重量%〜約80重量%、最も好ましくは、約7重量%〜約75重量%の範囲に及ぶ。
【0040】
1つの理論に制限されるわけではないが、デンプンは、粒状構造の多粒子から構成されることから、このことにより、粒状表面上への抗原の採取または取込みが強化され、デンプンが血流中に吸収されると、抗原がそれと共に吸収されると考えられている。したがって、デンプンは、本発明においては、マトリックス形成剤としての作用を超えた機能を有し、例えば、免疫応答強化マトリックス形成剤として作用すると考えられている。デンプンは、抗原のヒト身体への送達を改善するのに加えて、一般に、ヒト身体内でのタンパク質およびペプチドの吸収を支援および改善すると考えられている。
【0041】
本明細書で使用する場合、「免疫応答強化」は、マトリックス形成剤が、本発明の速溶性経口固体ワクチン剤型が達成する免疫応答のタイプまたは程度に少なくとも部分的に関与することを意味する。
【0042】
好ましい実施形態では、速溶性経口固体ワクチン剤型は、少なくとも1つの追加のマトリックス形成剤をさらに含む。製造の間に、1つまたは複数の追加のマトリックス形成剤を、溶液または懸濁液中に組み込んでから、凍結して、速溶性経口固体ワクチン剤型を形成することができる。任意の従来のマトリックス形成剤が、追加のマトリックス形成剤として、本発明において使用するのに適している。適切な追加のマトリックス形成剤として、非限定的に、動物性もしくは植物性タンパク質に由来する物質、例として、ゼラチン、デキストリン、ならびに大豆、小麦およびサイリウム種子のタンパク質;ガム;多糖;アルギン酸;カルボキシメチルセルロース;カラゲナン;デキストラン;ペクチン;合成ポリマー、例として、ポリビニルピロリドン;ポリペプチド/タンパク質もしくは多糖の複合体、例として、ゼラチン-アカシアの複合体;糖、例として、マンニトール、デキストロース、ラクトース、ガラクトースおよびトレハロース;環状糖、例として、シクロデキストリン;無機塩、例として、リン酸ナトリウム、塩化ナトリウムおよびケイ酸アルミニウム;ならびに2〜12個の炭素原子を有するアミノ酸、例として、グリシン、L-アラニン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、L-ヒドロキシプロリン、L-イソロイシン、L-ロイシンおよびL-フェニルアラニン、またはそれらの組合せが挙げられる。速溶性経口固体ワクチン剤型中に存在する少なくとも1つの追加のマトリックス形成剤の量は、好ましくは、約10重量%〜約98重量%、より好ましくは、約20重量%〜約95重量%、最も好ましくは、約25重量%〜約93重量%の範囲に及ぶことができる。速溶性経口固体ワクチン剤型を形成するために続いて凍結する溶液または懸濁液中に存在する少なくとも1つの追加のマトリックス形成剤の量は、好ましくは、約0.01重量%〜約45重量%、より好ましくは、約0.01重量%〜約33重量%、最も好ましくは、約0.01重量%〜約21重量%の範囲に及ぶ。
【0043】
マトリックスの形成に加えて、マトリックス形成剤は、任意の抗原調製物の、溶液または懸濁液に関する分散の維持を援助することもできる。このことは、水中に十分には溶解せず、したがって、溶解させるのではなく、懸濁させなければならない抗原調製物の場合にはとりわけ有用である。
【0044】
好ましい実施形態では、少なくとも1つの追加のマトリックス形成剤は、マンニトールである。さらに別の好ましい実施形態では、少なくとも1つの追加のマトリックス形成剤は、ゼラチンである。さらに別の好ましい実施形態では、少なくとも1つの追加のマトリックス形成剤は、マンニトールおよびゼラチンを、少なくとも1つの免疫応答強化マトリックス形成剤としてのデンプンと組み合わせて含む。
【0045】
速溶性経口固体ワクチン剤型中のマンニトールの量は、存在する場合には、好ましくは、約2重量%〜約90重量%、より好ましくは、約5重量%〜約80重量%、最も好ましくは、約7重量%〜約65重量%の範囲に及ぶ。速溶性経口固体ワクチン剤型を形成するために続いて凍結する溶液または懸濁液中のマンニトールの量は、存在する場合には、好ましくは、約1重量%〜約15重量%、より好ましくは、約2重量%〜約10重量%、最も好ましくは、約2重量%〜約5重量%の範囲に及ぶ。速溶性経口固体ワクチン剤型中のゼラチンの量は、存在する場合には、好ましくは、約2重量%〜約85重量%、より好ましくは、約2.5重量%〜約65重量%、最も好ましくは、約3重量%〜約55重量%の範囲に及ぶ。速溶性経口固体ワクチン剤型を形成するために続いて凍結する溶液または懸濁液中のゼラチンの量は、存在する場合には、好ましくは、約1重量%〜約10重量%、より好ましくは、約1重量%〜約7重量%、最も好ましくは、約1重量%〜約4重量%の範囲に及ぶ。
【0046】
本発明の好ましい実施形態では、速溶性経口固体ワクチン剤型中に、ゼラチンが、約3重量%〜約55重量%の量で存在し、マンニトールが、約7重量%〜約65重量%の量で存在し、デンプンが、約7重量%〜約75重量%の量で存在する。本発明の好ましい実施形態では、速溶性経口固体ワクチン剤型を形成するために続いて凍結する溶液または懸濁液中に、ゼラチンが、約1重量%〜約4重量%の量で存在し、マンニトールが、約2重量%〜約5重量%の量で存在し、デンプンが、約2重量%〜約8重量%の量で存在する。
【0047】
別の好ましい実施形態では、少なくとも1つの追加のマトリックス形成剤は、ガム、例として、これらに限定されないが、アカシア、グアー、寒天、キサンタン、ジェラン、カラゲナン、カードラン、コンニャク、イナゴマメ、ウェラン(welan)、ガムトラガカント、アラビアゴム、ガムカラヤ、ガムガッチ、ペクチン、デキストラン、グルコマンナンおよびアルギン酸、またはそれらの組合せである。速溶性経口固体ワクチン剤型中のガムは、存在する場合には、好ましくは、約0.01重量%〜約80重量%の量の範囲に及ぶ。速溶性経口固体ワクチン剤型を形成するために続いて凍結する溶液または懸濁液中のガムは、存在する場合には、好ましくは、約0.01重量%〜約10重量%の量の範囲に及ぶ。より好ましい実施形態では、少なくとも1つの追加のマトリックス形成剤は、キサンタンガムである。速溶性経口固体ワクチン剤型中のキサンタンガムは、存在する場合には、好ましくは、約0.01重量%〜約80重量%の量の範囲に及ぶ。速溶性経口固体ワクチン剤型を形成するために続いて凍結する溶液または懸濁液中のキサンタンガムは、存在する場合には、好ましくは、約0.01重量%〜約10重量%の量の範囲に及ぶ。キサンタンガムを溶液または懸濁液に添加する場合、IL-6およびTNFアルファに関する免疫強化応答を、キサンタンガムを含有しない溶液または懸濁液を上回って増加させることができる。
【0048】
好ましい実施形態では、少なくとも1つの追加のマトリックス形成剤は、マンニトール、ゼラチンおよびキサンタンガムを含む。本発明のさらに好ましい実施形態では、速溶性経口固体ワクチン剤型中に、ゼラチンが、約3重量%〜約55重量%の量で存在し、マンニトールが、約7重量%〜約65重量%の量で存在し、デンプンが、約7重量%〜約75重量%の量で存在し、キサンタンガムが、約0.01重量%〜約80重量%の量で存在する。本発明の好ましい実施形態では、速溶性経口固体ワクチン剤型を形成するために続いて凍結する溶液または懸濁液中に、ゼラチンが、約1重量%〜約4重量%の量で存在し、マンニトールが、約2重量%〜約5重量%の量で存在し、デンプンが、約2重量%〜約8重量%の量で存在し、キサンタンガムが、約0.01重量%〜約10重量%の量で存在する。
【0049】
本発明の別の実施形態では、速溶性経口固体ワクチン剤型は、界面活性剤をさらに含む。非イオン性、アニオン性およびカチオン性の界面活性剤を含めて、当技術分野で公知の任意の界面活性剤が、本発明において使用するのに適している。本発明において使用することができる非イオン性界面活性剤の例として、これらに限定されないが、ポリエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、Tween)、ポリオキシエチレンステアレート、ソルビタン脂肪酸エステル(例えば、Span)、およびポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコ-ポリマー(例えば、ポロキサマー)が挙げられる。本発明において使用することができるアニオン性界面活性剤の例として、これらに限定されないが、ラウリル硫酸ナトリウム、ドクサートナトリウムおよびグリセロールモノオレアートが挙げられる。本発明において使用することができるカチオン性界面活性剤の例として、これらに限定されないが、塩化ベンザルコニウム、セトリミドおよび塩化セチルピリジニウムが挙げられる。好ましくは、界面活性剤は、Tween80、ポロキサマーおよびそれらの組合せからなる群から選択される。速溶性経口固体ワクチン剤型中の界面活性剤は、存在する場合には、好ましくは、約0.01重量%〜約80重量%の量の範囲に及ぶ。速溶性経口固体ワクチン剤型を形成するために続いて凍結する溶液または懸濁液中の界面活性剤は、存在する場合には、好ましくは、約0.01重量%〜約10重量%の量の範囲に及ぶ。界面活性剤を溶液または懸濁液に添加する場合、免疫強化応答を、界面活性剤を含有しない溶液または懸濁液を上回って増加させることができる。
【0050】
本発明の好ましい実施形態では、少なくとも1つの追加のマトリックス形成剤は、マンニトールおよびゼラチンを含み、速溶性経口固体ワクチン剤型は、界面活性剤をさらに含む。本発明のさらに好ましい実施形態では、速溶性経口固体ワクチン剤型中に、ゼラチンが、約3%〜約55%の量で存在し、マンニトールが、約7%〜約65%の量で存在し、デンプンが、約7%〜約75%の量で存在し、界面活性剤が、約0.01%〜約80%の量で存在する。本発明の好ましい実施形態では、速溶性経口固体ワクチン剤型を形成するために続いて凍結する溶液または懸濁液中に、ゼラチンが、約1重量%〜約4重量%の量で存在し、マンニトールが、約2重量%〜約5重量%の量で存在し、デンプンが、約2重量%〜約8重量%の量で存在し、界面活性剤が、約0.01重量%〜約10重量%の量で存在する。
【0051】
本発明の剤型は、場合により、アジュバントをさらに含み、アジュバントは、死滅ワクチンまたは不活性化ワクチンに対する免疫応答をブーストするのに有用であり、結果として、抗体の産生の増強および免疫学的記憶の増強をもたらす。最も有効となるには、免疫応答が、特定の疾患からの長期に及ぶ防御をもたらす記憶応答の発生と関連がある場合である。免疫系は、いったん曝露されると、抗原、および開始されて、抗原を不活性化させた免疫応答を「記憶する」。アジュバントの、免疫応答を増強する有効性は、アジュバントが組み合わせられる抗原に依存しない可能性がある。適切なアジュバントとして、これらに限定されないが、無毒性の細菌の断片、コレラ毒素(およびそれらの解毒化形態や画分)、キトサン、大腸菌の熱不安定性毒素(およびそれらの解毒化形態や画分)、ラクチド/グリコリドのホモ.+-.ポリマーおよびコポリマー(PLA/GA)、ポリ酸無水物、例えば、トリメリチルイミド-L-チロシン、DEAE-デキストラン、膜タンパク質抗原と複合体を形成したサポニン(免疫賦活複合体、ISCOM)、細菌の産物、例として、リポ多糖(LPS)およびムラミルジペプチド、(MDP)、リポソーム、コクリエート、プロテノイド、サイトカイン(インターロイキン、インターフェロン)、遺伝子工学的に作製された生存微生物ベクター、非感染性の百日咳突然変異毒素、ノイラミニダーゼ/ガラクトースオキシダーゼ、および突然変異株に由来する、弱毒化された細菌およびウイルスの毒素、ならびにそれらの組合せが挙げられる。当業者であれば、アジュバントの適切な量を容易に決定することができる。
【0052】
本発明の剤型は、ワクチンの標的部位への送達を促し、特定の実施形態では、ワクチンの、口腔中の標的の粘膜リンパ組織との接触を維持し、吸収の可能性があるこれらの表面におけるワクチン要素の滞留時間を増加させるように、粘膜接着系を設計することができる。経口摂取のための製品として、製品が服用されると、そこからワクチンが素早く放出し、したがって、高い濃度のワクチンを、所望の標的部位に素早く送達することができる。
【0053】
一部の速溶性固体剤型は、本質的に粘膜接着性である。にもかかわらず、場合により、粘膜接着性物質を、本発明の速溶性剤型に添加することができ、このことにより、抗原が口腔中の粘膜組織と接触した状態で存在するのを延長することができる。本発明において使用することができる適切な粘膜接着性物質には、これらに限定されないが、欧州特許出願第92109080.9号に記載されているものがあり、それらとして、ポリアクリルポリマー、例として、カルボマーおよびカルボマー誘導体(例えば、Polycarbophil(商標)、Carbopol(商標)等);セルロース誘導体、例として、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)およびカルボキシメチルセルロースナトリウム(NaCPC);ならびに天然ポリマー、例として、ゼラチン、アルギン酸ナトリウムおよびペクチンが挙げられる。代表的な粘膜接着性物質(生体接着性物質)ポリマーについての適切な商業的供給源として、これらに限定されないが、Carbopol(商標)アクリルコポリマー(BF Goodrich Chemical Co.、Cleveland、Ohioから入手可能);ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)(Dow Chemical、Midland、Mich.から入手可能);HEC(Natrosol)(Hercules Inc.、Wilmington、Del.から入手可能);HPC(Klucel(商標))(Dow Chemical Co.、Midland、Mich.から入手可能);MaCMC(Hercules,Inc.、Wilmington、Del.から入手可能);ゼラチン(Deamo Chemical Corp.、Elmford、N.Y.から入手可能);アルギン酸ナトリウム(Edward Mandell Co.,Inc.、Carmel、N.Y.から入手可能);ペクチン(BDH Chemicals Ltd.、Poole、Dorset、英国から入手可能);Polycarbophil(商標)(BF Goodrich Chemical Co.、Cleveland、Ohioから入手可能)が挙げられる。当業者であれば、粘膜接着性物質の適切な量を容易に決定することができる。
【0054】
また、本発明の速溶性経口固体ワクチン剤型は、他の任意選択の構成成分、例として、保存剤、抗酸化剤、粘度増強剤、着色剤、矯味剤、pH改変剤、甘味剤、味覚遮断剤およびそれらの組合せも含有することができる。適切な着色剤として、非限定的に、赤色、黒色および黄色の酸化鉄、ならびにFD&C染料、例として、Ellis & Everardから入手可能なFD&C青色2号およびFD&C赤色40号が挙げられる。適切な矯味剤として、非限定的に、ミント、ラズベリー、甘草、オレンジ、レモン、グレープフルーツ、カラメル、バニラ、サクランボおよびブドウの香料、ならびにこれらの組合せが挙げられる。適切なpH改変剤として、非限定的に、クエン酸、酒石酸、リン酸、塩酸、マレイン酸、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムおよびtris緩衝液が挙げられる。適切な甘味剤として、非限定的に、アスパルテーム、スクロース、スクラロース、アセスルファムKおよびタウマチンが挙げられる。適切な味覚遮断剤として、非限定的に、炭酸水素ナトリウムおよびデキストリン包接化合物が挙げられる。当業者であれば、これらの任意選択の成分の適切な量を容易に決定して、本発明の速溶性経口固体ワクチン剤型中に含めることができる。
【0055】
本発明の特定の実施形態では、速溶性経口固体ワクチン剤型は、場合により、マイクロスフェアを含むことができ、マイクロスフェアは生分解性であり得る。マイクロスフェアの物質自体が、アジュバントとして機能する場合があり、またはマイクロスフェアを、他のアジュバントと併せて使用してもよい。抗原調製物を、マイクロスフェアの上または中に吸収させるかまたは組み込むことができ、それにより、マイクロスフェア-抗原の複合体を形成する。したがって、組織がマイクロスフェア-抗原調製物の複合体に接触するとすぐに、抗原調製物が利用可能になって、リンパ組織中に有効に吸収される。
【0056】
本発明と共に使用することができる適切なマイクロスフェア物質は、生分解性ポリマー物質を含む。ポリ(乳酸)およびポリ(ラクチド-コ-グリシド)ポリマー等の疎水性物質、ならびにラテックスコポリマーが、特に適切である。また、これらのポリマー物質は、それらがリンパ組織中に吸収されるまで、酵素性および加水分解性の消化に対する抵抗性も付与し、リンパ組織では、遊離した抗原が、その免疫原性作用を発揮することができる。好ましいポリマー物質は、標的組織中への吸収を増強する疎水性物質である。好ましい実施形態では、マイクロスフェアは、アルギン酸ナトリウムまたはポリ(ラクチド-コ-グリシド)(PLGA)である。
【0057】
第1の実施形態の速溶性経口固体ワクチン剤型を、疾患の防御を必要とする患者(ヒトまたは動物)の口腔に投与すると、免疫応答が誘導される。免疫応答は、剤型内の抗原を得た病原体に特異的な抗体の産生、適切なT細胞抗体の生成、および場合によっては、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の産生を含む。また、免疫応答は、特定の疾患からの長期に及ぶ防御をもたらす記憶応答の発生も含むことができる。
【0058】
本発明では、好ましくは、速溶性経口固体ワクチン剤型を、舌の上もしくは下(舌下)、または口腔内頬側もしくは咽頭の領域中に置く。
【0059】
本発明の速溶性経口固体ワクチン剤型は、水なしで服用することができ、非常に少量の体積の唾液中に分散する。このことにより、扁桃腺に関連するリンパ組織を含有する粘膜組織が被覆されるのが増加し、これらの組織内における抗原の滞留時間が増加する。速溶性経口固体剤型が、急速に分散し、口および咽頭中の粘膜表面を被覆することは公知であり、口および咽頭には、粘膜に関連するリンパ組織が局在する。この点については、その本文が、参照により本明細書に組み込まれているWilsonらによる論文International Journal of Pharmaceutics、40(1997)、119〜123頁を参照されたい。したがって、速溶性経口固体剤型は、口、特に、舌の下、および咽頭における感受性のリンパ組織に対するワクチンの標的化を改善する。その結果、FDDFを介して送達する場合には、これらの組織、例えば、口腔内頬側咽頭および舌下の領域中の感受性のリンパ組織と接触するワクチンの濃度が増加する。
【0060】
速溶性剤型の任意の公知の製造方法を、本発明に従って使用することができる。好ましくは、本発明の速溶性経口固体ワクチン剤型を凍結乾燥する。本発明と共に使用するのに好ましい速溶性剤型は、英国特許第1,548,022号に記載されているものであり、この特許は、活性成分と、活性成分に対して不活性である、水溶性または水分散性の担体とのネットワークを含む固体速溶性経口剤型を対象とし、ネットワークは、溶媒中に活性成分と担体の溶液とを含む組成物から溶媒を昇華させることによって得られている。英国特許第1,548,022号は、凍結乾燥FDDF中のデンプンの使用については開示し得ていないが、そこに記載の方法を容易に改作して、本発明の速溶性経口固体ワクチン剤型を作製することができる。
【0061】
速溶性経口固体ワクチン剤型は典型的には、口中で急速に崩壊するように製剤化した白色、円形の錠剤である。しかし、色は、その中で使用する物質、または添加する着色剤に応じて変化させることができる。錠剤のサイズは一般に、約5mm〜約25mmであり、錠剤が製造および/または保存の間に置かれるブリスターの空洞のサイズおよび形状に従って形作られる。錠剤は、口腔中に置かれてから、典型的には、60秒以内、より好ましくは、30秒以内、さらにより好ましくは、10秒以内、最も好ましくは、5秒以内に崩壊するのを支援する、極めて多孔性のネットワークを含む。錠剤は、取扱いおよびブリスター包装からの取出しに、破壊することなく持ちこたえるために、物理的にロバストである。
【0062】
第2の実施形態では、速溶性経口固体ワクチン剤型は、(a)免疫原性量の不活性化インフルエンザウイルスおよび(b)少なくとも1つの免疫応答強化マトリックス形成剤を含み、少なくとも1つの免疫応答強化マトリックス形成剤はデンプンである。
【0063】
インフルエンザウイルスの任意の株が、本発明において使用するのに適している。インフルエンザのためのワクチンの製造においては、世界保健機関等の国際機関が、疾患を引き起こす株をモニターし、ワクチン接種が必要となる最も重要な株に関する特定の情報を毎年提供する。インフルエンザウイルスの表面上の主要な抗原が突然変異し続けることから、新しい株が継続的にモニターされ、新しいワクチンが製造される。同定されたインフルエンザ株の試料が、それらを使用して、ワクチンを調製するワクチンの製造者に利用可能になる。ウイルスは一般に、公知の標準的な手順に従って、ワクチン中で使用するために、すなわち、抗原調製物に調製される。不活性化インフルエンザウイルスを、本発明の速溶性経口固体ワクチン剤型中に、免疫原性量で含めることができる。典型的には、添加すべきウイルスの量が、動物における免疫原性の研究から定義され、赤血球凝集阻害(HAI)アッセイ等のアッセイにおいて定義される機能性抗体のレベルが、ワクチンの規制当局が同意した所望のレベルに達する。
【0064】
免疫原性量、デンプン、マトリックス形成剤、界面活性剤、マイクロスフェア、アジュバント、粘膜接着性物質等に関して上記に示した詳細は、本発明の第2の実施形態についても、本発明の第1の実施形態についてと同じである。
【0065】
第2の実施形態の速溶性経口固体ワクチン剤型を、インフルエンザからの防御を必要とする患者(ヒトまたは動物)の口腔に投与すると、インフルエンザ特異的抗体応答が誘導される。この抗体応答により、抗体応答の機能的能力を評価するHAIまたはウイルス中和試験(VNT)により測定する場合のウイルスの哺乳動物細胞に感染する能力が中和される。抗インフルエンザ免疫応答の他の所望の局面は、記憶BおよびT細胞応答の発生およびCTLの存在を含み、CTLは、ウイルスに感染した細胞を死滅させることが可能である。現在、ほとんどのワクチンは、もっぱら抗体応答を賦活するそれらの能力に関して評価される。しかし、インフルエンザ株横断的(cross-influenza strain)防御免疫を付与することが可能であるワクチンを生成する能力を、新しいワクチンのCTLを生成する能力を増強することによって達成することができる。好ましくは、速溶性経口固体ワクチン剤型を、舌の上もしくは下(舌下)、または口腔内頬側もしくは咽頭の領域中に置く。
【0066】
本発明の第3の実施形態は、患者において免疫応答を誘導する方法であって、本発明の第1の実施形態の速溶性経口固体ワクチン剤型を、免疫応答を必要とする人の口腔中に置く工程を含む方法を対象とする。好ましくは、口腔中に置くことは、舌の上もしくは下(舌下)、または口腔内頬側もしくは咽頭の領域中に置くことである。
【0067】
本発明の好ましい実施形態では、速溶性経口固体ワクチン剤型を投与して、陰性対照よりも大きく、免疫応答強化マトリックス形成剤としてのデンプンを含まないFDDFの投与よりも大きい免疫応答を誘導する。本明細書に定義する「陰性対照」は、不活性化ウイルスを用いる治療およびウイルスによる感染が行われない、実験において使用する動物である。
【0068】
本発明の第4の実施形態は、患者においてインフルエンザ特異的IgG応答を誘導する方法であって、本発明の第2の実施形態の速溶性経口固体ワクチン剤型を、免疫応答を必要とする人の口腔中に置く工程を含む方法を対象とする。好ましくは、口腔中に置くことは、舌の上もしくは下(舌下)、または口腔内頬側もしくは咽頭の領域中に置くことである。
【0069】
本発明は、任意の特定のワクチンではなく、ワクチンの経口送達の問題の解決に限定される。以下の実施例は、好ましい実施形態の一部における本発明の実行を例証する。特許請求の範囲に属する他の実施形態は、当業者に明らかであろう。
【実施例1】
【0070】
Seager,H.、「Drug-Delivery Products and Zydis Fast Dissolving Dosage Form」、J.Pharm.Pharmacol、vol.50、375〜382頁(1998)に記載されている種類は、当技術分野で公知のFDDFであるが、これを、ゼラチン、マンニトールおよびデンプンを用いて調製した。新規マトリックス処方を、1.5%(375mg)ウシ皮石灰処理ゼラチン、2.5%(625mg)ヒドロキシプロピルデンプン、3.0%(750mg)マンニトールおよび25mlの水を組み合わせ、混合物を75℃まで15分かけて加熱することによって調製した。溶液を、加熱する間覆って、蒸発を最小限に留めた。続いて、溶液を、冷水浴中で、室温、例えば、20〜25℃まで冷却した。5.5μlのストックインフルエンザ(A/Panama/2007/99H3N2)溶液を、24.5μlの新規マトリックス処方に添加し、したがって、各錠剤が、1μgのインフルエンザを含有した。ストックインフルエンザ添加後の、処方中のマトリックス形成剤の最終濃度を以下に示す:2.0%デンプン(w/v)、2.4%マンニトール(w/v)および1.2%ゼラチン(w/v)。次いで、処方を、半自動式のHamilton注入ポンプを使用して、ブリスターポケット中に注入し、1用量当たり30mgを分注した。次いで、注入した処方を、液体窒素チャンバー中に5分間置くことによって急速に凍結した。続いて、凍結した処方を、Edwards RV5ポンプにつなげたEdwards、Modulyo 4K凍結乾燥機を使用して凍結乾燥した。最初に、凍結乾燥機を15分にわたり始動して、システムを-45℃まであらかじめ冷却した。次いで、凍結した処方を、凍結乾燥機のチャンバー内の棚の上に直ちに移した。蓋をチャンバーの上に置き、真空ポンプのスイッチを入れて、排出バルブが閉じていることを確かめた。凍結乾燥機を一晩運転させて、試料を完全に凍結乾燥した。乾燥したら、真空ポンプおよび冷却器のスイッチを切り、排出栓をゆっくり回転させて、空気をシステム中に入れた。次いで、充填し、完全に凍結させたブリスターパックを、取り出し、箔製の小袋中に置き、乾燥剤を含有するガラス瓶中に密封し、使用するまで4℃で保存した。
【0071】
凍結乾燥した錠剤を、視覚的に検査した。主要な欠陥は見出されなかった。錠剤は全て、未変化であり、若干盛り上がっている以外は正常に見えた。錠剤は、37℃の精製水中に置くと、10秒以内に即座に崩壊した。
【0072】
得られた錠剤を、マウスに舌下投与し、続いて、血液試料を、第14、28および59日に試験した。サブクラスのELISAを実施して、治療した動物から収集した血清試料中のインフルエンザに特異的なIgG1およびIgG2aのレベルを評価した。試料を希釈して、1/40の最高濃度を得た。次いで、96ウエルプレートにわたり、試料の段階2倍希釈を、ウシ血清アルブミンを有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS/BSA)(1%)中で実施した。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート検出抗体、ヤギ抗マウスIgG1(Fc):HRPコンジュゲートおよびヤギ抗マウスIgG2a(Fc):HRPコンジュゲート(共に、AbD Serotec製)を、PBS/BSA中で1/1000に希釈した。未治療および未感染である動物から得られた血清を、陰性対照として含めた。結果を、下記の
図1に、「Zydis+flu s.l.(新規マトリックス)」として示す。
【0073】
比較例1
FDDFを、Zydis(登録商標)錠剤の一般に知られている調製に従って調製した。Zydis(登録商標)錠剤を、200mgのゼラチンを3.3mlの水と組み合わせ、混合物を60℃まで30分かけて加熱することによって調製した。溶液を、加熱する間覆って、蒸発を最小限に留めた。続いて、溶液を、冷水浴中で約25℃まで冷却した。これに続いて、150mgのマンニトールを、撹拌しながら添加した。インフルエンザ抗原A/Panama/2007/99H3N2のストック溶液を添加して、体積を5mlとし、したがって、各錠剤が、1μgのインフルエンザを含有した。インフルエンザ添加後のマトリックス形成剤の最終濃度は、4%ゼラチン(w/v)および3%マンニトール(w/v)であった。処方を、実施例1と同じ条件下でプロセスし、すなわち、溶解、冷却、凍結、凍結乾燥を行った。凍結乾燥した錠剤を、実施例1と同じように検査した。凍結乾燥した錠剤を、表面の欠陥について検査した。主要な欠陥は見出されず、錠剤は未変化であった。(錠剤を37℃の精製水100μl中に置くことによる)分散試験を、Zydis(登録商標)錠剤に対して実施し、錠剤は、10秒未満のうちに溶解した。
【0074】
2つのバッチを、このプロセスに従って作製した。第1のバッチから得られた錠剤を、マウスに舌下投与し、一方、第2のバッチから得られた10個の錠剤を、37℃に温めた水2ml中に溶解させ、動物1匹当たり200μlを胃内投与した(i.g.)。続いて、各群中のマウスから得られた血液試料を、第14、28および59日に試験した。サブクラスのELISAを実施して、治療した動物から収集した血清試料中のインフルエンザに特異的なIgG1およびIgG2aのレベルを評価した。試料を希釈して、1/40の最高濃度を得た。次いで、96ウエルプレートにわたり、試料の段階2倍希釈を、PBS/BSA(1%)中で実施した。HRPコンジュゲート検出抗体、ヤギ抗マウスIgG1(Fc):HRPコンジュゲートおよびヤギ抗マウスIgG2a(Fc):HRPコンジュゲート(共に、AbD Serotec製)を、PBS/BSA中で1/1000に希釈した。未治療および未感染である動物から得られた血清を、陰性対照として含めた。結果を、下記の
図1に、それぞれ、「Zydis+flu s.l.」および「Zydis+flu i.g.」として示す。
【0075】
比較例2
FDDFを、比較例1に従って調製し、ただし、ブリスターポケット中に注入する前に、アルギン酸ナトリウムマイクロカプセル化A/Panama/2007/99H3N2インフルエンザウイルスを、処方に添加し、したがって、各錠剤が、1μgのインフルエンザを含有した。最終的な量を達成するために、錠剤1つ当たり3つのマイクロカプセル化インフルエンザビーズを添加した。続いて、溶液を、実施例1と同じ条件下でプロセスし、すなわち、溶解、冷却、凍結、凍結乾燥を行った。凍結乾燥した錠剤を、実施例1と同じように検査した。
【0076】
凍結乾燥した錠剤を、表面の欠陥について検査した。主要な欠陥は見出されなかった。(錠剤を37℃の精製水100μl中に置くことによる)分散試験を、錠剤に対して実施し、錠剤は、10秒未満のうちに溶解した。
【0077】
得られた錠剤を、マウスに舌下投与し、続いて、血液試料を、第14および28日に試験した。サブクラスのELISAを実施して、治療した動物から収集した血清試料中のインフルエンザに特異的なIgG1およびIgG2aのレベルを評価した。試料を希釈して、1/40の最高濃度を得た。次いで、96ウエルプレートにわたり、試料の段階2倍希釈を、PBS/BSA(1%)中で実施した。HRPコンジュゲート検出抗体、ヤギ抗マウスIgG1(Fc):HRPコンジュゲートおよびヤギ抗マウスIgG2a(Fc):HRPコンジュゲート(共に、AbD Serotec製)を、PBS/BSA中で1/1000に希釈した。未治療および未感染である動物から得られた血清を、陰性対照として含めた。結果を、下記の
図1に、「Zydis+flu s.l.(アルギン酸ビーズ)」として示す。
【0078】
比較例3
FDDFを、比較例1に従って調製し、ただし、ブリスターポケット中に注入する前に、PLGAマイクロカプセル化A/Panama/2007/99H3N2インフルエンザウイルスを、処方に添加し、したがって、各錠剤が、1μgのインフルエンザを含有した。最終的な量を達成するために、計10μlのPLGAビーズを、20μlのFDDF混合物に添加して、錠剤1つ当たり10μlのマイクロカプセル化インフルエンザビーズの量を達成した。続いて、溶液を、実施例1と同じ条件下でプロセスし、すなわち、溶解、冷却、凍結、凍結乾燥を行った。凍結乾燥した錠剤を、実施例1と同じように検査した。
【0079】
凍結乾燥した錠剤を、表面の欠陥について検査した。調製したFDDF上に、主要な欠陥は見出されなかった。(錠剤を37℃の精製水100μl中に置くことによる)分散試験を、錠剤に対して実施し、錠剤は、10秒のうちに溶解した。
【0080】
得られた錠剤を、マウスに舌下投与し、続いて、血液試料を、第14、28および59日に試験した。サブクラスのELISAを実施して、治療した動物から収集した血清試料中のインフルエンザに特異的なIgG1およびIgG2aのレベルを評価した。試料を希釈して、1/40の最高濃度を得た。次いで、96ウエルプレートにわたり、試料の段階2倍希釈を、PBS/BSA(1%)中で実施した。HRPコンジュゲート検出抗体、ヤギ抗マウスIgG1(Fc):HRPコンジュゲートおよびヤギ抗マウスIgG2a(Fc):HRPコンジュゲート(共に、AbD Serotec製)を、PBS/BSA中で1/1000に希釈した。未治療および未感染である動物から得られた血清を、陰性対照として含めた。結果を、下記の
図1に、「Zydis+flu s.l.(PLGAビーズ)」として示す。
【実施例2】
【0081】
上記の例により実証されているように、Zydis(登録商標)処方は、舌下送達に続いて、抗原(Ag)に対する全身性の抗体応答を賦活する有効な手段である。得られた免疫応答のプロファイルは、Zydis(登録商標)処方に依存し、中和抗体の高い応答を含んだ。このことは、細胞外のウイルス/細菌の毒素、および体循環中に存在する抗原の中和において重要である。また、実施例1の処方は、抗原特異的細胞傷害性T細胞(CTL)の拡大増殖を推進することも可能であった。CTLは、細胞内感染を中和する重要な細胞媒介型免疫応答である。追加の研究を実施して、処方が達成する細胞媒介型応答をさらに改善した。
【0082】
これらの最初の研究の後、追加のin-vitroにおける研究を、培養物中のマウス脾臓マクロファージおよびフローサイトメトリーを使用して実施して、T細胞活性化の媒介において重要な意味をもつマクロファージの活性化レベルおよび分子の発現を決定した。in-vitroにおける研究のために、多くのこれらの因子の強力な刺激物質であることが公知のリポ多糖(LPS)を、陽性対照として使用した。処方を調製して、マウス脾臓マクロファージを使用するin-vitroにおける研究において使用した。これを、下記のTable 1(表1)に示す。
【0083】
【表1A】
【0084】
【表1B】
【0085】
処方を、以下の通り調製した。3.94mg/mlの濃度のインフルエンザ抗原のストック溶液を調製した。別個に、上記に列挙した各処方のためのマトリックス濃縮物を調製した。次いで、適切な分量のインフルエンザ抗原ストック溶液と処方のマトリックス濃縮物とを組み合わせて、500μlの最終体積の最終的な処方の溶液を得た。この最終的な混合した処方の溶液から、30mgの一定分量に対して、分注、凍結および凍結乾燥を行って、1μgまたは15μgのいずれかのインフルエンザ抗原を含有する錠剤を得た。Table 2(表2)に、この調製を要約する。
【0086】
【表2】
【0087】
適切な量の各構成成分を、分量の水中に溶解させることによって、マトリックス濃縮物を調製した。適切な量のマトリックス濃縮物を、必要量の抗原ストック溶液と組み合わせると、最終的な混合した処方の溶液中に、上記に記載する値に従うマトリックス構成成分のレベルを得た。例えば、処方1について、Table 3(表3)に、最終的な処方中のマトリックス濃縮物と重量パーセントとの間の関係を示す。
【0088】
【表3】
【0089】
脾臓細胞を、正常な成体BALB/cマウスから単離し、洗浄し、次いで、CD11b+マクロファージを、MACS分離により、Midi/MACS(商標)分離器の場内に保ったLSカラムを使用して精製した。マクロファージを洗浄し、組織培養培地中で培養した。これらを、1.8×10
5個のCD11b+細胞/試験ウエルで培養した。LPSを100ng/mlの最終濃度で添加して、陽性対照として作用させた。12種の処方のそれぞれについて1つのZydis(登録商標)錠剤を、組織培養培地中に溶解させ、それぞれを3つに分けた。また、賦活しない対照を、LPSも列挙した処方のうちのいずれも含有させずに調製した。48時間後、培養物を収集し、上清を取り出して、サイトカイン分析を行った。細胞を洗浄し、主要組織適合複合体(MHC)クラスII、CD25およびCD86に対する抗体を用いる染色に続いて、フローサイトメトリーを使用して、マクロファージの活性化を評価した。
【0090】
試験
A. in vitroにおける試験
抗原によるチャレンジに対するT細胞の性質および抗体応答は、抗原と接触したことによる活性化の状態および単核球/マクロファージ/樹状細胞により産生されるサイトカインにより定まる。特定のタイプのT細胞およびB細胞の応答を推進するために、アジュバントおよび送達ビヒクルにより、これらの応答を操作する。例えば、これらの細胞によるIL-12の賦活は、補体結合抗体、食細胞の活性化およびCTLの産生により特徴付けられるTh1免疫応答の促進と関連がある主要な決定因子である。IL-4は、Th2応答の主要な推進力であり、一方、IL-6は、TGFベータと一緒になって、粘膜IgA応答の主要な推進力となる。
【0091】
種々のマーカーを、マクロファージ活性化のレベルおよびタイプの指標として測定した。さらに、マクロファージが産生する主要なサイトカインも、マクロファージが促すことができる免疫反応のタイプの指標として評価して検討した。
【0092】
1. MHCクラスII
抗原に対するT細胞応答を推進するためには、クラスII MHCの上方制御が、抗原の提示の増強における必須のステップとなる。上方制御は、その特定の応答の速度または程度を活性化するかまたは増加させるプロセスである。
【0093】
マクロファージが、抗原(Ag)を食作用、エンドサイトーシスまたはマクロピノサイトーシスにより摂取すると、Agは、より小さなペプチド画分に分解される。次いで、これらの画分は、MHCに結合し、MHCが、細胞の表面に遊走し、抗原をT細胞に「提示する」。この抗原提示は、免疫応答を推進するのに必要なステップである。したがって、マクロファージ上のMHCクラスIIのレベルを増加させる能力により、抗原提示能力の増強が予測される。
【0094】
図2のデータは、(F9を除く)全ての処方が、MHCクラスIIの発現を増強し、賦活しない対照よりも顕著に高いレベルの平均蛍光強度、および陽性対照(LPS)と比較して好ましいレベルを発生させることを示している。
【0095】
2. CD25
CD25は、IL-2についての受容体の一部である。この分子の上方制御は、活性化の賦活に対する急性応答であり、高まった活性化状態、および抗原提示細胞として機能するための用意ができていることの指標となる。
【0096】
特定の共刺激因子およびサイトカインが、ナイーブT細胞に提示されると、T細胞の分化および拡大増殖に影響を及ぼす。
図3に示すように、全ての処方が、賦活しない対照よりも大きな応答、および陽性対照(LPS)と同等の応答を示している。処方6(Tween80を含有する)および処方7(ポロキサマー188を含有する)が、陽性対照を上回る応答の増加を示している。
【0097】
3. CD86
CD86は、(細胞媒介型免疫に必要な)ヘルパーT細胞および細胞傷害性T細胞の両方に影響を与える共刺激因子である。CD86は、ヘルパーT細胞および細胞傷害性T細胞の両方の応答を活性化させるために必要な、重要な意味をもつ第2のシグナルをもたらす。CD86は通常、休止状態の抗原提示細胞上では非常に低いレベルで発現し、免疫応答を発生させるためには、その上方制御は、そのような細胞がT細胞と生産的に相互作用するのを可能にする点で重要な意味をもつ事象である。
【0098】
図4に示すように、50℃でプロセスした処方(処方5、10、11、12)およびレシチンを含有する処方(処方9)を除く全ての処方が、CD86の発現の増加を賦活することが可能であり、陽性対照と比較して良好な応答をもたらした。
【0099】
4. サイトカインのプロファイル
T細胞応答を賦活し、T細胞応答の性質に影響を及ぼす点で重要な意味をもつサイトカイン応答を、サイトカインのプロファイルにより評価する。
【0100】
データは、デンプンに基づいた処方の免疫を強化する能力を示しており、また、T細胞応答を推進する、すなわち、T細胞を賦活し、T細胞を拡大増殖する(T細胞集団を増加させる)能力も示している。
【0101】
TNFアルファおよび(IL-12の尺度としての)IL12p40の存在は、Th1T細胞および細胞傷害性T細胞の応答の推進において重要であり、一方、IL-4は、T細胞の、主要な役割が抗体産生の賦活にあるTh2細胞への分化に有利に働く。IL-6は、特定の疾患の防御の媒介において重要な局面である、好中球の活性化の促進に関与するTh17応答の発生に関与し、かつまた、B細胞による抗体の産生の促進にも関与する。IL-10は、他の免疫応答を下方制御する能力を有する。下方制御は、応答の活性化、または応答の活性化速度もしくは程度を低下させるプロセスである。
【0102】
図5に示すように、全ての処方が、賦活しない対照と比較して、IL-6、TNFアルファおよびIL-12p40における応答の顕著な増加を示す。最も低いレベルのAg(1μg)およびデンプン(2.0%)を含有する処方1は、IL-6およびTNFアルファの観点から最も低い応答を示したが、IL-12p40のレベルは、他の処方に匹敵するかそれらよりも高かった。
【0103】
処方2においてのように、Agレベルのみを増加させ、一方、デンプンの低いレベル(2%)は維持すると、IL-6およびTNFアルファの増加が生じるが、IL-12p40応答は比較的低い。
【0104】
処方3においてのように、抗原は低いレベルとし、デンプンのレベルを増加させると、IL-6およびTNFアルファが増加し、処方1に匹敵するIL-12p40応答が発生する。このことは、デンプンの免疫強化特性を示している。処方1〜9は、ヒドロキシルプロピルデンプンを含み、一方、処方10は、コーンスターチを含み、処方11は、ろう質トウモロコシデンプンを含み、処方12は、米デンプンを含む。データは、異なる供給源のデンプンが、同じ免疫強化作用を発揮し得ることを示している。
【0105】
処方4においてのように、抗原およびデンプンの両方のレベルを増加させると、IL-6、TNFアルファおよびIL-12p40に関して、予想外に優れた応答の改善が示される。
【0106】
処方8は、キサンタンガムを含み、IL-6およびTNFアルファに関して、他の処方よりも大きな応答を示す。
【0107】
全ての処方が、低いレベルのIL-4を示す。IL-4が免疫応答の非常に早期に存在すると、Th1応答およびCTL応答から外れることがあらかじめ決まる。したがって、低いレベルのIL-4は、CTL応答の確立の観点から好ましい。IL-4は、Th2細胞の生成に向かう賦活をもたらす点で重要であり、続いて、Th2細胞は、抗体応答の促進に重要である。この目的には、低いレベルのIL-4が十分であり、他の細胞型が、その産生に向けて寄与することが公知である。
【0108】
全ての処方が、賦活しない対照に比して、より高いレベルのIL-10を示す。IL-10は、CTL応答を下方制御し、Th2応答に有利に働くことができる。しかし、陽性対照であるLPSもまた、高いレベルのIL-10を示し、にもかかわらず、これが、抗原提示細胞の強力な活性化剤であることは公知である。
【0109】
B. in vivoにおける試験
1. 実施例1および比較例1〜3の試験
5種の処方のうちの1つを投与した動物群のそれぞれ、および未治療の動物群(陰性対照)において、第14、28および59日にマウスから採取した血液試料を、インフルエンザ特異的IgGの存在について検討した。
図1のグラフは、異なる処方を用いた1、2および3回の免疫化の後のインフルエンザウイルスに対する抗体レベルを示す。全てのグラフが、群平均エンドポイント力価(EPT)±SEMを示す(n=8/群)。
【0110】
図1に示すように、実施例1の新規マトリックス処方を有するZydis(登録商標)製剤は、第14、28および59日に、比較例および未治療マウスの全てよりも高いEPT値を示す。新規マトリックス錠剤と1μgのインフルエンザとを用いて治療した群が、第14および28日にバックグラウンドを上回る抗体応答を示した唯一の動物であった。さらに、この応答のエンドポイント力価(EPT)は、第14日から第28日へ、第28日から第59日へと、免疫化の増加と共に増加した。
【0111】
2. 実施例2の試験
マクロファージ培養物を使用する実施例2に示したin-vitroにおける研究の結果に基づいて、特定の処方を選択して、マウスにおいて、in-vivoにおけるチャレンジ研究を行った。選択した処方は、F8(キサンタンガムを含有する)、F7(ポロキサマー188を含有する)、F10(コーンスターチを含有する)、F4(HPデンプンを含有する)、およびF12(米デンプンを含有する)であった。
【0112】
第0、10および20日に、5群の雌BALB/cマウスを、Table 1(表1)に示す試験処方を用いて免疫化した。第27日に、動物から、血清の分析のために採血し、次いで、動物に、a/Puerto Rico/8/34(PR8)H1N1インフルエンザウイルスを有する50μlの鼻腔内(i.n.)チャレンジを投与した。動物を、感染の徴候について7日にわたりモニターし、妥当性が確認されているスコア化体系に従ってスコア化した。Table 4(表4)に、処方についての投与スケジュールを示す。
【0113】
【表4】
【0114】
結果
各群のマウスの体重を、チャレンジ後の7日間モニターした。結果を、
図6に示す。
【0115】
免疫化せずに、H1N1 PR8に感染させた動物(感染対照)は、感染後の第3日から体重減少を急速に示し、第6日までに、20%の体重減少とすることが同意されたHome Office(HO)エンドポイントに達する。インフルエンザ抗原を含有する処方のうちの1つを用いて免疫化した動物は全て、より少ない体重減少を示した。特に、処方8、7および4中で抗原を投与した動物は、有意により少ない体重減少を示した(一元配置分散分析およびボンフェローニの多重比較検定に従って、それぞれ、P<0.001、P<0.01およびP<0.05)。
【0116】
疾患の程度を比較するために、動物を、以下のパラメータのそれぞれについて、0、0.5または1(それぞれ、臨床徴候なし、軽度の臨床徴候および中等度の臨床徴候)にスコア化し、可能な最大スコアは5とした。
- 立毛
- 猫背の姿勢
- 一定しない呼吸
- 運動に影響を受ける
- 涙目
【0117】
スコアを、感染後の経過日数に対してチャートし、
図7に示す。体重減少データと同様に、全ての処方が、感染させた、未免疫化対照よりも良好に機能した。また、臨床疾患スコアも、感染後の第6日まで、処方8、7および4を投与した群の間では、感染させただけの対照と比較して重症度の有意な低下を示している(それぞれ、P<0.01およびP<0.05)。
【0118】
体重減少および臨床疾患の発症に起因して、いくつかの動物が、第7日に達するまでにHome Office(HO)ヒトエンドポイントに達し、第6日に屠殺の必要があった。
図8に、5種の処方のうちの1つを用いて免疫化し、H1N1ウイルスを用いて感染させた後の第7日における生存率を示す。処方10を用いて治療した動物の50%、処方4を用いて治療した70%、および処方12を用いて治療した動物の60%が、第7日まで生存したことを認めることができる。処方8を用いて治療した動物は、1匹のみを第6日に屠殺しなければならず、処方7を投与した動物には第6日に屠殺しなければならないものはなかった。
【0119】
ELISAにより、死滅インフルエンザウイルスを捕捉抗原として、マウスIgG、IgG1またはIgG2aのいずれかを検出抗体として使用して、第27日に採取した血液から得られた血清試料を分析した。結果を、
図9、10および11に示す。選択された処方のそれぞれを用いた治療は、IgG1抗体およびIgG2a抗体の応答を示す。処方8を用いた動物の治療は、他の治療群、すなわち、処方7、10、4および12と比較して、抗H1N1抗体の有意により高い力価を賦活し、結果として、一元配置分散分析およびボンフェローニの多重比較検定により比較する場合、高いIgG力価(P<0.01)、特に、IgG2aアイソタイプ(P<0.001)をもたらした。データは、上記に報告した臨床的知見(すなわち、体重、臨床疾患スコアおよび生存率)を支持しており、選択された処方が、適切かつ防御的な免疫応答を惹起することができることを示している。
【0120】
図12は、in-vivoにおけるチャレンジ研究の終わりに採取した鼻の洗浄から得られたIgA応答を示す。その時点で、マウスを屠殺し、鼻の洗浄を、粘膜抗体応答の指標として、IgAについて分析した。結果は、全ての処方が、粘膜応答を賦活することが可能であり、処方8および12が、最も高い平均力価の値を示したことを示している。
【0121】
したがって、経口ワクチンのFDDFを製造するためにデンプンを免疫応答強化マトリックス形成剤として含む処方には、多数の利点がある。得られたFDDFは、細菌およびウイルスによる感染に対する免疫応答を増加させる予想外の技術的利点を有し、この利点は、先行技術としては、知られておらず、示唆されたことがない。
【0122】
本明細書に開示する好ましい実施形態の多数の変化形態、改変形態および変更形態が、当業者に明らかであり、それらは全て、請求する発明の精神および範囲のうちであることを予期および企図する。例えば、特定の実施形態を詳細に記載してきたが、当業者であれば、先行する実施形態および変更形態を改変して、種々のタイプの置換、追加または代替の物質を組み込むことができることを理解するであろう。したがって、本発明の変更形態のごく少数を本明細書に記載するに過ぎないにもかかわらず、そのような追加の改変形態および変更形態ならびにそれらの均等物の実行は、以下の特許請求の範囲において定義する本発明の精神および範囲のうちであることを理解されたい。本明細書に引用する特許出願、特許および他の刊行物は全て、それらの全体が参照により組み込まれている。