(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
先ず、本発明の無機系成形培地について説明する。
本発明の無機系成形培地は、ブロック状に成形された多孔質無機系成形体の表面に撥水剤を塗布した後、当該撥水剤を塗布した表面の少なくとも一部が加熱処理されてなることを特徴とするものである。
本発明の無機系成形培地は、その形態が無機系成形培地の製造方法により規定されてなるものであることから、以下、無機系成形培地の製造方法に基づいて説明するものとする。
【0011】
本発明の無機系成形培地において、多孔質無機系成形体としては、主成分として無機物質を含み、栽培時に吸水し、根張りすることができる、植物が生育し得る空隙が形成されてなるものを意味する。
上記無機物質としては、無機粒子または無機繊維から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0012】
上記無機粒子としては、シリカバルーン、バーミキュライト、バーライト、サンゴ、泡ガラス(発泡ガラス)等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0013】
上記無機繊維としては、ロックウール、グラスウールや、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維等のセラミックファイバー等から選ばれる一種以上を挙げることができ、ロックウールが好ましい。
【0014】
多孔質無機系成形体において、無機物質の含有割合は、90〜99質量%であることが好ましく、95〜98質量%であることがより好ましく、96〜98質量%であることがさらに好ましい。
本発明の無機系成形培地において、多孔質無機系成形体中の無機物質の含有割合が上記範囲内にあることにより、後述する加熱処理を施した場合であっても、優れた耐熱性を示し、強度低下を招かないことから、優れた取扱い性(持ち回し性(ハンドリング性))を発揮することができる。
【0015】
多孔質無機系成形体としては、無機物質としてロックウール等の無機繊維を含むものが好ましい。
多孔質無機系成形体が、無機物質として無機粒子および無機繊維を含む場合、多孔質無機系成形体中の無機繊維の含有割合は、50〜80質量%であることが好ましく、60〜80質量%であることがより好ましく、70〜80質量%であることがさらに好ましい。
多孔質無機系成形体中の無機繊維の含有割合が上記範囲内にあることにより、栽培時に吸水し、植物が生育し得る空隙を容易に形成することができる。
【0016】
多孔質無機系成形体は、上記無機物質とともに、バインダーを含むものであってもよい。
上記バインダーとしては、無機バインダーおよび有機バインダーから選ばれる一種以上を挙げることができる。
無機バインダーとしては、ケイ酸ソーダ、コロイダルシリカ、アルミナゾル、リン酸アルミニウム等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
有機バインダーとしては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂繊維、熱融着繊維等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0017】
上記有機バインダーが熱硬化性樹脂である場合、熱硬化性樹脂としては、熱硬化性フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0018】
上記有機バインダーが熱可塑性樹脂である場合、熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル−エチレン共重合体樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0019】
上記有機バインダーが熱可塑性樹脂繊維である場合、熱可塑性樹脂繊維としては、上述した熱可塑性樹脂のいずれか一種以上からなる繊維を挙げることができる。
【0020】
上記有機バインダーが熱融着繊維である場合、熱融着繊維としては、単繊維中に融点の異なる樹脂材料を芯と鞘の状態で紡糸した繊維であって(芯鞘構造を採る繊維であって)、繊維形成性成分(芯部)と熱接着性成分(鞘部)からなるものを挙げることができる。
上記芯部を形成する樹脂材料としては、ポリエステル、ポリプロピレン等から選ばれる一種以上を挙げることができ、上記鞘部を形成する樹脂材料としては、ポリエチレン、低融点ポリエステル、低融点ポリプロピレン等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
具体的には、上記芯部がポリエステル、上記鞘部がポリエチレンにより形成されてなるもの、上記芯部がポリプロピレン、上記鞘部がポリエチレンにより形成されてなるもの、上記芯部がポリエステル、上記鞘部が低融点ポリエステルにより形成されてなるもの、上記芯部がポリプロピレン、上記鞘部が低融点ポリプロピレンにより形成されてなるものを挙げることができる。
【0021】
多孔質無機系成形体において、バインダーの含有割合は、1〜10質量%であることが好ましく、2〜5質量%であることがより好ましく、2〜4質量%であることがさらに好ましい。
本発明の無機系成形培地において、多孔質無機系成形体中のバインダーの含有割合が上記範囲内にあることにより、所定形状(ブロック形状)を維持して、優れた取扱い性(持ち回し性)を発揮することができる。
【0022】
本発明の無機系成形培地において、多孔質無機系成形体は、密度が、60〜90kg/m
3が好ましく、60〜80kg/m
3がより好ましく、65〜75kg/m
3がさらに好ましい。
多孔質無機系成形体の密度が上記範囲内にあることにより、適度な空隙を有し、吸水性、撥水性、植物の生育性等に優れた無機系成形培地を提供することができる。
【0023】
本発明の無機系成形培地において、多孔質無機系成形体は、ブロック状に成形されてなる。
多孔質無機系成形体の形状としては、立方体状、直方体状、円柱状等を挙げることができ、育苗時に一定スペースに多数の培地を配置して効率的に栽培できることから、立方体状または直方体状のものが好ましい。
ブロック状の多孔質無機系成形体は、例えば、多孔質無機系成形体の形成材料からなる角柱状物または円柱状物をスライスすることにより作成することができる。
【0024】
本発明の無機系成形培地において、多孔質無機系成形体が、ロックウール等の無機繊維を含むものである場合、例えば、高炉スラグと天然岩石を主原料とし、キュポラまたは電気炉を用いて、約1500℃の高温で液状に溶融し、高速回転体の遠心力で繊維化し、繊維化と同時にバインダーを吹き付け、このバインダーを吹き付けた繊維を集綿し、積層してブロック形状に成形した後、バインダーを硬化処理することにより製造することができる。
また、多孔質無機系成形体が、無機粒子を含むものである場合、例えば、無機粒子とバインダーとをミキサーで混合してブロック形状に成形した後、バインダーを硬化処理することにより製造することができる。
さらに、多孔質無機系繊維が、熱融着繊維を含むものである場合、例えば、熱融着繊維とロックウール等の無機繊維を水中で抄造し、フェルト状物とした後、所望厚さになるように積層してブロック形状に成形し、次いで、加熱して上記熱融着繊維を融着させ、バインダーを硬化処理することにより製造することができる。
【0025】
本発明の無機系成形培地において、多孔質無機系成形体は、ロックウールを主材とするロックウール成形体であることが好ましい。
ロックウール成形体は、安価に大量供給可能で一定の耐熱性を有することから、多孔質無機系成形体として好適である。
ロックウール成形体としては、ロックウール培地として市販されているものを挙げることができ、例えば、カルチャーマット(日本ロックウール(株)製)、やさいはなポット(同)等を挙げることができる。
なお、本出願書類において、ロックウールを主材とするとは、ロックウールを主成分として90〜99質量%含むことを意味する。
【0026】
本発明の無機系成形培地は、ブロック状に成形された多孔質無機系成形体の表面に撥水剤を塗布した後、当該撥水剤を塗布した表面の少なくとも一部が加熱処理されてなるものである。
【0027】
本発明の無機系成形培地において、撥水剤としては、シリコーン系(シリコーン樹脂系)のものが好ましい。
【0028】
本発明の無機系成形培地において、特に撥水剤がシリコーン系である場合には、後述する加熱処理によって変性(構造変化)を生じるために、長期に亘って撥水性を維持することが可能になると考えられる。
【0029】
本発明の無機系成形培地において、多孔質無機系成形体に撥水剤を塗布する方法は特に制限されず、噴霧器(スプレー)により塗布する方法や、刷毛塗りにより塗布する方法を挙げることができる。
【0030】
本発明の無機系成形培地において、多孔質無機系成形体の表面に塗布される撥水剤の塗布量は、140〜380g/m
2が好ましく、160〜240g/m
2がより好ましく、180〜220g/m
2がさらに好ましい。
多孔質無機系成形体の表面に塗布される撥水剤の塗布量が上記範囲内にあることにより、撥水剤の塗りムラや液だれを抑制しつつ、所望の撥水性を発揮し得る塗布膜を形成することができる。
【0031】
撥水剤は、多孔質無機系成形体の全面に塗布されていてもよいし一部の面にのみ塗布されていてもよい。
本発明の無機系成形培地を養液栽培用または水耕栽培用の培地として使用する場合、通常、培地は、その一部が培養液に浸漬した状態で使用されることになるが、アオコが発生するのは、専ら培養液の液面上に露出した部分になることから、培地の使用時に液面上に露出する部分に対応する部分にのみ撥水剤が塗布してもよい。
【0032】
本発明の無機系成形培地は、ブロック状に成形された多孔質無機系成形体の表面に撥水剤を塗布した後、当該撥水剤を塗布した表面の少なくとも一部が加熱処理されてなるものである。
【0033】
加熱処理方法としては、バーナーによる加熱処理、オーブンによる加熱処理、加熱した金属板の接触による処理等を挙げることができる。
【0034】
多孔質無機系成形体に加熱した金属板を接触させることにより加熱処理する場合、金属板の材質としては、加熱状態においてその形状を保持し得るものであれば特に制限されず、鉄、銅、ステンレス鋼、真鍮等から選ばれる一種以上を挙げることができ、真鍮であることが好ましい。
【0035】
上記加熱処理は、多孔質無機系成形体の表面に黒褐色の焦げが生じる程度まで行うことが好ましい。
【0036】
加熱処理方法がバーナーによる加熱処理である場合、加熱温度および加熱時間は、多孔質無機系成形体の表面に黒褐色の焦げが生じる程度、さらには塗布した撥水剤が白色化する程度の温度および時間を適宜選定すればよく、具体的には、加熱時間は、10〜60秒間であることが好ましく、20〜40秒間であることがより好ましく、20〜30秒間であることがさらに好ましい。
【0037】
加熱処理方法がオーブンによる加熱処理である場合、加熱温度および加熱時間は、多孔質無機系成形体の表面に黒褐色の焦げが生じる程度の温度および時間を適宜選定すればよく、具体的には、加熱温度は、250〜400℃であることが好ましく、250〜320℃であることがより好ましく、280〜320℃であることがさらに好ましく、また、加熱時間は、10〜60分間であることが好ましく、10〜30分間であることがより好ましく、10〜20分間であることがさらに好ましい。
【0038】
加熱処理方法が加熱した金属板の接触による処理である場合、加熱温度および加熱時間は、多孔質無機系成形体の表面に黒褐色の焦げが生じる程度の温度および時間を適宜選定すればよく、具体的には、加熱温度は、300〜500℃であることが好ましく、400〜500℃であることがより好ましく、450〜500℃であることがさらに好ましく、また、加熱時間は、5〜30秒間であることが好ましく、10〜20秒間であることがより好ましく、15〜20秒間であることがさらに好ましい。
【0039】
加熱時の雰囲気も特に制限されず、不活性雰囲気、空気雰囲気等から選ばれる一種以上の雰囲気を挙げることができる。
【0040】
本発明の無機系成形培地において、撥水剤としてシリコーン系のものを使用した場合、通常、加熱処理の過程で変性(構造変化)に起因すると考えられる変色を生じることから、係る変色が生じるまで加熱処理することが好適である。
【0041】
本発明の無機系成形培地においては、上記撥水剤を塗布した表面の少なくとも一部が加熱処理されていればよく、撥水剤を塗布した表面全部が加熱処理されていることが好ましい。
上述したように、アオコ等の苔藻類の発生を抑制する上では、培地の使用時に液面上に露出する部分に対応する部分にのみ撥水剤を塗布し、当該撥水剤を塗布した部分について加熱処理することが有効である。
【0042】
本発明の無機系成形培地において、撥水剤を塗布し、加熱処理して形成される塗布膜(撥水層)の厚さは、1〜6mmであることが好ましく、3〜6mmであることがより好ましく、3〜5mmであることがさらに好ましく、3〜4mmであることが特に好ましい。
なお、本出願書類において、上記塗布膜の膜厚は、無機系成形培地の側面をノギスで測定した値を意味する。
【0043】
本発明の無機系成形培地は、多孔質無機系成形体の形状に対応するブロック形状を成しており、例えば、立方体状、直方体状、円柱状等の形状を成している。
また、本発明の無機系成形培地は、一部の面に播種用の孔が穿孔されてなるものが好ましく、上記播種用の孔は、多孔質無機系成形体に予め穿孔されてなるものであってもよいし、上記加熱処理後に穿孔されてなるものであってもよく、上記加熱処理後に穿孔されてなるものであることが好ましい。
【0044】
本発明の無機系成形培地は、その側面が樹脂フィルムで包被されてなるものであることが好ましく、上記樹脂フィルムとしては、ポリエチレンフィルム等を挙げることができる。
側面が樹脂フィルムで包被されてなるものであることにより、培地の使用時に保形性を発揮し易くなり、取扱い性(持ち回し性)を向上させ易くなるとともに、栽培時に植物が成長しても倒伏し難くなるため、栽培効率を向上させることができる。
【0045】
本発明によれば、例えば収穫物が収穫されるまでの間等、長期間に亘ってアオコ等の苔藻類の発生を防ぐことができるとともに、取扱い性(持ち回し性)、撥水性、植物の生育性に優れ、特に養液栽培または水耕栽培に好適に使用し得る無機系成形培地を提供することができる。
本発明の無機系成形培地は、本発明の製造方法により好適に製造することができる。
【0046】
次に、本発明の無機系成形培地の製造方法について説明する。
本発明の無機系成形培地の製造方法は、ブロック状に成形された多孔質無機系成形体に撥水剤を塗布する撥水剤塗布工程と、撥水剤の塗布された多孔質無機系成形体の表面の少なくとも一部を加熱処理する加熱処理工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0047】
本発明の無機系成形培地の製造方法において、多孔質無機系成形体および撥水剤の詳細や、撥水剤の塗布方法およびその条件、撥水剤が塗布された多孔質無機系成形体の表面の少なくとも一部を加熱処理する方法およびその条件の詳細については、上述したとおりである。
【0048】
本発明の無機系成形培地の製造方法において、一部の面に播種用の孔が穿孔された無機系成形培地を製造しようとする場合、具体的には、(i)角柱状の多孔質無機系成形体形成材をスライスしてブロック状の多孔質無機系成形体を切り出した後、(ii)多孔質無機系成形体の所望の面に播種用の孔を穿孔し、(iii)適宜、溝加工を施して縦横のスリットを設けてその形状を規定するが、上記撥水剤塗布工程と焼成処理工程は、上記(i)ブロック状の多孔質無機系成形体を得る段階の後であれば、(ii)播種用の孔を穿孔する段階〜(iii)溝加工を施す段階の何れの段階で施してもよい。
例えば、上記撥水剤塗布工程と焼成処理工程を、(ii)播種用の孔を穿孔する段階の後や(iii)溝加工を施す段階の後に施してもよいし、(ii)播種用の孔を穿孔する段階の前に施してもよい。
【0049】
本発明の無機系成形培地や、本発明の製造方法で得られる無機系成形培地は、養液栽培、水耕栽培用の培地や、植物用保水材として好適に使用することができる。
本発明の無機系成形培地や、本発明の製造方法で得られる無機系成形培地は、通常、上面に穿孔された孔内に植物の種や苗、花卉類を配置した状態で、その下部を水や液肥に浸漬させた状態で保持したり、水や液肥を吸収させた状態で保持することにより使用することができる。
【0050】
本発明によれば、例えば収穫物が収穫されるまでの間等、長期間に亘ってアオコ等の苔藻類の発生を防ぐことができるとともに、取扱い性(持ち回し性)、撥水性、植物の生育性に優れ、養液栽培または水耕栽培に好適に使用し得る無機系成形培地を簡便に製造する方法を提供することができる。
【0051】
以下、本願発明の実施例に基づいて説明する。
なお、以下の実施例、比較例においては、多孔質無機系成形体として「ロックウール培地」を使用しているが、多孔質無機系成形体は「ロックウール培地」に限定されない。
【0052】
(比較例1)
比較例1として、撥水剤を塗布した表面を、天日干しして乾燥させてなる比較用無機系成形培地を用いたアオコ発生確認試験を行った。
すなわち、多孔質無機系成形体として、縦23mm、横23mm、高さ32mmのブロック形状を有する培地1(ロックウール培地、商品名:カルチャーマット、日本ロックウール(株)製)を用い、この培地1の播種用の孔(直径8mm、深さ10mm)が穿孔された面に対し、撥水剤として、シリコーン繊維処理剤(商品名:POLON-MF-33、信越化学工業(株)製)を水で3倍希釈したものを霧吹きで十分に(表面が白くなる程度まで)塗布した後、約3時間天日干しして塗布した撥水剤を乾燥させることにより、比較用無機系成形培地1を得た。
【0053】
(アオコ発生確認試験)
上記比較用無機系成形培地1において、撥水剤を塗布した面を上面として、その下部を浸水させ十分に吸水させた後、上面に設けられた孔に対しスイスチャードの種を一粒播種し、発芽させた後、液肥として園芸試験場処方(園試処方、均衡培養液)の1/3の濃度になるように調製したもの(EC0.8dS/m)を用いて液肥かん水を行い、経過を観察した。
また、対比のために、培地1(ロックウール培地、商品名:カルチャーマット、日本ロックウール(株)製)を使用して、播種用の孔が設けられた面を上面として、その下部を浸水させ十分に吸水させた後、上面に設けられた孔に対し、スイスチャードの種を一粒播種し、発芽させた後、液肥として園芸試験場処方(園試処方、均衡培養液)の1/3の濃度になるように調製したもの(EC0.8dS/m)を用いて液肥かん水を行って、同様に経過を観察した。
【0054】
図1は、液肥かん水して「1週間」経過後の様子であるが、撥水剤を塗布したもの(比較用無機系成形培地1)は、若干、アオコが発生したものの、撥水剤を塗布していないもの(培地1)に比べ、アオコの発生は少なかった。
図2は、液肥かん水して「2週間」経過後の様子であるが、何れも(撥水剤塗布有り・無し)ともにアオコが発生していた。かん水時、頭上かん水したため、撥水剤が流れ出て、撥水剤の撥水効果がなくなったと考えられる。
【0055】
(比較例2)
比較例2として、培地1(ロックウール培地、商品名:カルチャーマット、日本ロックウール(株)製)に代えて培地2(ロックウール培地、商品名:やさいはなポット、日本ロックウール(株)製)を用いた以外は、比較例1と同様にしてアオコ発生確認試験を行った。
すなわち、多孔質無機系成形体として、縦100mm、横100mm、高さ50mmのブロック形状を有する培地2(ロックウール培地、商品名:やさいはなポット、日本ロックウール(株)製)を用い、この培地2の播種用の孔(直径30mm、深さ30mm)が穿孔された面に対し、撥水剤として、シリコーン繊維処理剤(商品名:POLON-MF-33、信越化学工業(株)製)を水で3倍希釈したものを霧吹きで十分に(表面が白くなる程度まで)塗布した後、約3時間天日干しして塗布した撥水剤を乾燥させることにより、比較用無機系成形培地2を得た。
【0056】
(アオコ発生確認試験)
上記比較用無機系成形培地2において、撥水剤を塗布した面を上面として、その下部を浸水させ十分に吸水させた後、上面に設けられた孔に対しスイスチャードの種を一粒播種し、発芽させた後、液肥かん水を行って、経過を観察した。
また、対比のために、培地2を使用して、播種用の孔が設けられた面を上面として、その下部を浸水させ十分に吸水させた後、上面に設けられた孔に対し、スイスチャードの種を一粒播種し、発芽させた後、液肥として園芸試験場処方(園試処方、均衡培養液)の1/3の濃度になるように調製したもの(EC0.8dS/m)を用いて液肥かん水を行い、同様に経過を観察した。
【0057】
図3は、液肥かん水して「1週間」経過後の様子であるが、撥水剤を塗布したもの(比較用無機系成形培地2)は、アオコはほとんど発生していなかったが、撥水剤を塗布していないもの(培地2)には大量にアオコが発生していた。
図4は、液肥かん水後「2週間」経過後の様子であり、撥水剤を塗布したもの(比較用無機系成形培地2)にも、アオコが発生した。
【0058】
上記比較例1および比較例2の結果から、表面に塗布した撥水剤を天日干(自然乾燥)して乾燥させただけでは、撥水剤の効果を持続させることはできず、これは液肥かん水により撥水剤が流れ出てしまうためであると考えられた。
【0059】
(実施例1)
実施例1においては、比較例1において、上記のとおり培地1(ロックウール培地、商品名:カルチャーマット、日本ロックウール(株)製)の表面に撥水剤を塗布した後、当該表面をガスバーナーを用いて、培地1の表面に存在するバインダーが焦げて黒褐色に変色し、撥水剤が白色に変色するまで30秒間加熱して無機系成形培地1を形成し、得られた無機系成形培地1を使用して、上面に設けられた孔に播種しなかった以外は、比較例1と同様にしてアオコ発生確認試験を行った。
また、対比のために、培地1(ロックウール培地、商品名:カルチャーマット、日本ロックウール(株)製)を使用して、同様に上面に設けられた孔に播種することなくアオコ発生確認試験を行い、経過を観察した。
さらに、対比のために、培地1(ロックウール培地、商品名:カルチャーマット、日本ロックウール(株)製)の表面に撥水剤を塗布することなく、ガスバーナーを用いて、培地1の表面に存在するバインダーが焦げて黒褐色に変色するまで30秒間加熱する処理のみを施したものを使用して、同様に上面に設けられた孔に播種することなくアオコ発生確認試験を行い、経過を観察した。
【0060】
図5は、液肥かん水して「1週間」経過後の様子であるが、撥水剤を塗布していないもの(培地1(ロックウール培地、商品名:カルチャーマット、日本ロックウール(株)製)、
図5において「未処理」で表示)は、表面にアオコが発生しており、撥水剤を塗布することなく培地1(ロックウール培地、商品名:カルチャーマット、日本ロックウール(株)製)の表面に加熱処理のみ施したもの(
図5において「表面バーナー処理」で表示)は、表面にアオコが発生していた。
これに対して、培地1(ロックウール培地、商品名:カルチャーマット、日本ロックウール(株)製)に撥水剤を塗布し表面を加熱処理したもの(無機系成形培地1、
図5において、「撥水剤+バーナー処理」で表示)は、撥水剤が塗布されていない部分(吹きムラ)にアオコが発生したが、その表面の大部分においてアオコの発生が抑制されていた。
【0061】
図6は、液肥かん水して「2週間」経過後の様子であるが、撥水剤を塗布していないもの(培地1(ロックウール培地、商品名:カルチャーマット、日本ロックウール(株)製)、
図6において「未処理」で表示)は、表面にアオコが発生しており、撥水剤を塗布することなく培地1(ロックウール培地、商品名:カルチャーマット、日本ロックウール(株)製)の表面に加熱処理のみ施したもの(
図6において「表面バーナー処理」で表示)は、培地1よりも表面に多量のアオコが発生していた。
これに対して、培地1(ロックウール培地、商品名:カルチャーマット、日本ロックウール(株)製)に撥水剤を塗布し表面を加熱処理したもの(無機系成形培地1、
図6において、「撥水剤+バーナー処理」で表示)は、撥水剤が塗布されていない部分(吹きムラ)にアオコが発生したが、その表面の大部分においてアオコの発生が抑制されていた。
【0062】
上記実施例1の結果から、ガスバーナーで加熱することで、培地表面に撥水剤が保持されて撥水剤の効果を持続させることが可能であることが分かる。
【0063】
(実施例2)
多孔質無機系成形体として、ロックウール製の角柱状物をスライスすることにより、縦30mm、横30mm、高さ30mmのブロック形状に切り出したロックウール製の多孔質無機系成形体(密度74kg/m
3)を用い、この多孔質無機系成形体を1列あたり3個づつ計3列配置して(ブロック状の多孔質無機系成形体を合計9個配置して)多孔質無機系成形体セットを形成した。
上記多孔質無機系成形体セットを構成する各多孔質無機系成形体の一面に、撥水剤として、シリコーン繊維処理剤(商品名:POLON-MF-33、信越化学工業(株)製)を水で3倍希釈したものを、噴霧器を用いて、各多孔質無機系成形体あたり2gづつ(噴霧量が200g/m
2となるように)噴霧して塗布した後、撥水剤を塗布した表面を、バーナーを用いて、多孔質無機系成形体の表面に存在するバインダーが焦げて黒褐色に変色し、さらには撥水剤が白色に変色するまで30秒間加熱処理した。
次いで、上記各多孔質無機系成形体の撥水剤を塗布した面に対し、電動ドリルを用いて、直径8mm、深さ10mmの播種用の孔を各々穿孔することにより、無機系成形培地2を合計9個配置してなる無機系成形培地セットを得た。
【0064】
(栽培試験)
上記無機系成形培地セットにおいて、各無機系成形培地2の撥水剤を塗布した面を上面として、その下部を水を溜めたバットに浸漬させて十分に吸水させた後、上面に設けられた孔に対し各々コマツナの種を一粒づつ播種し、新聞紙で遮光することにより暗所で発芽させた。
次いで、各無機系成形培地セットに対し、液肥として、園芸試験場処方(園試処方、均衡培養液)の1/3の濃度になるように調製したものを使用して、底面から吸水させることにより液肥かん水を行い、経過を観察した。
【0065】
上記無機系成形培地セットにおいて、播種直前における無機系成形培地2の撥水性、強度および撥水層の厚さを表1に示すとともに、播種して13日経過後および21日経過後における、コマツナの生育数(計9個の無機系成形培地における全生育数)、無機系成形培地2のアオコの発生状況、撥水性および強度を表1に示す。
【0066】
なお、表1において、無機系成形培地2におけるアオコの発生状況、撥水性および強度は、以下の基準で評価した。
【0067】
(アオコの発生状況)
◎:9個の無機系成形培地全てにおいて撥水剤の塗布面にアオコの発生なし
○:9個の無機系成形培地のうち、1個の無機系成形培地の撥水剤の塗布面にアオコが発生。
△:9個の無機系成形培地のうち、2〜3個の無機系成形培地の撥水剤の塗布面にアオコが発生。
×:9個の無機系成形培地のうち、4〜9個の無機系成形培地の撥水剤の塗布面にアオコが発生。
【0068】
(撥水性)
◎:9個の無機系成形培地において、撥水剤を塗布した面に水を滴下したときに、全ての無機系成形培地で水滴を形成して流れ落ちる。
○:9個の無機系成形培地のうち、撥水剤を塗布した面に水を滴下したときに、1個の無機系成形培地に水が浸透する。
×:9個の無機系成形培地のうち、撥水剤を塗布した面に水を滴下したときに、2〜9個の無機系成形培地に水が浸透する。
【0069】
(強度)
◎:手で掴んだときに無機系成形培地の形態を保持しつつ把持することができる。
○:手で掴んだときに無機系成形培地の一部が崩れてしまう。
×:手で掴んだときに無機系成形培地全体が崩れてしまう。
【0070】
(実施例3)
実施例2において、撥水剤を塗布した表面をバーナーで加熱処理することに代えて、多孔質無機系成形体の表面に存在するバインダーが焦げて黒褐色に変色するまでオーブン内で250℃で20分間加熱処理した以外は、同様に処理することにより、無機系成形培地3を合計9個配置してなる無機系成形培地セットを得た。
得られた無機系成形培地セットにおいて、実施例2と同様にして栽培試験を行った。
上記無機系成形培地セットにおいて、播種直前における無機系成形培地の撥水性、強度および撥水層の厚さを表1に示すとともに、播種して13日経過後および21日経過後における、コマツナの生育数(計9個の無機系成形培地における全生育数)、無機系成形培地のアオコの発生状況、撥水性および強度を表1に示す。
なお、表1において、無機系成形培地におけるアオコの発生状況、撥水性および強度は、実施例2と同様の基準で評価した。
【0071】
(実施例4)
実施例2において、撥水剤を塗布した表面をバーナーで加熱処理することに代えて、多孔質無機系成形体の表面に存在するバインダーが焦げて黒褐色に変色するまでオーブン内で250℃で30分間加熱処理した以外は、同様に処理することにより、無機系成形培地4を合計9個配置してなる無機系成形培地セットを得た。
得られた無機系成形培地セットにおいて、実施例2と同様にして栽培試験を行った。
上記無機系成形培地セットにおいて、播種直前における無機系成形培地の撥水性、強度および撥水層の厚さを表1に示すとともに、播種して13日経過後および21日経過後における、コマツナの生育数(計9個の無機系成形培地における全生育数)、無機系成形培地のアオコの発生状況、撥水性および強度を表1に示す。
なお、表1において、無機系成形培地におけるアオコの発生状況、撥水性および強度は、実施例2と同様の基準で評価した。
【0072】
(実施例5)
実施例2において、撥水剤を塗布した表面をバーナーで加熱処理することに代えて、多孔質無機系成形体の表面に存在するバインダーが焦げて黒褐色に変色するまでオーブン内で300℃で15分間加熱処理した以外は、同様に処理することにより、無機系成形培地5を合計9個配置してなる無機系成形培地セットを得た。
得られた無機系成形培地セットにおいて、実施例2と同様にして栽培試験を行った。
上記無機系成形培地セットにおいて、播種直前における無機系成形培地の撥水性、強度および撥水層の厚さを表1に示すとともに、播種して13日経過後、21日経過後および32日経過後における、コマツナの生育数(計9個の無機系成形培地における全生育数)、無機系成形培地のアオコの発生状況、撥水性および強度を表1に示す。
なお、表1において、無機系成形培地におけるアオコの発生状況、撥水性および強度は、実施例2と同様の基準で評価した。
【0073】
(実施例6)
実施例2において、撥水剤を塗布した表面をバーナーで加熱処理することに代えて、内部に発熱体を埋め込んだ真鍮板を500℃に加熱した状態で、上記撥水剤を塗布した表面に15秒間押し当てて、多孔質無機系成形体の表面に存在するバインダーが焦げて黒褐色に変色するまで加熱処理を行った以外は、同様に処理することにより、無機系成形培地6を合計9個配置してなる無機系成形培地セットを得た。
得られた無機系成形培地セットにおいて、実施例2と同様にして栽培試験を行った。
上記無機系成形培地セットにおいて、播種直前における無機系成形培地の撥水性、強度および撥水層の厚さを表1に示すとともに、播種して13日経過後および28日経過後における、コマツナの生育数(計9個の無機系成形培地における全生育数)、無機系成形培地のアオコの発生状況、撥水性および強度を表1に示す。
なお、表1において、無機系成形培地におけるアオコの発生状況、撥水性および強度は、実施例2と同様の基準で評価した。
【0074】
(比較例3)
実施例2において、撥水剤を塗布した表面を加熱処理しなかった以外は、同様に処理することにより、比較用無機系成形培地3を合計9個配置してなる無機系成形培地セットを得た。
得られた無機系成形培地セットにおいて、実施例2と同様にして栽培試験を行った。
上記無機系成形培地セットにおいて、播種直前における無機系成形培地の撥水性を表2に示すとともに、播種して13日経過後および21日経過後における、コマツナの生育数(計9個の無機系成形培地における全生育数)、無機系成形培地のアオコの発生状況および撥水性を表2に示す。
なお、表2において、無機系成形培地におけるアオコの発生状況および撥水性は、実施例2と同様の基準で評価した。
【0075】
(比較例4)
実施例2において、多孔質無機系成形体の表面に撥水剤を塗布することなく多孔質無機系成形体の表面に存在するバインダーが焦げて黒褐色に変色するまでバーナーで加熱処理のみ行った以外は、同様に処理することにより、比較用無機系成形培地4を合計9個配置してなる無機系成形培地セットを得た。
得られた無機系成形培地セットにおいて、実施例2と同様にして栽培試験を行った。
上記無機系成形培地セットにおいて、播種直前における無機系成形培地の撥水性を表2に示すとともに、播種して13日経過後および21日経過後における、コマツナの生育数(計9個の無機系成形培地における全生育数)、無機系成形培地のアオコの発生状況および撥水性を表2に示す。
なお、表2において、無機系成形培地におけるアオコの発生状況および撥水性は、実施例2と同様の基準で評価した。
【0078】
表1より、実施例2〜実施例6で得られた無機系成形培地は、ブロック状に成形された多孔質無機系成形体の表面が、撥水剤の塗布後に当該撥水剤を塗布した表面が加熱処理されたものであることにより、例えば収穫物が収穫されるまでの間等、長期間に亘ってアオコの発生を防ぐことができるとともに、取扱い性(持ち回し性)、撥水性、植物の生育性に優れ、養液栽培または水耕栽培に好適に使用し得る無機系成形培地を提供することができることが分かる。
【0079】
これに対して、表2より、比較例3および比較例4で得られた比較用無機系成形培地は、ブロック状に成形された多孔質無機系成形体の表面が、撥水剤の塗布後に当該撥水剤を塗布した表面が加熱処理していないものであったり(比較例3)、撥水剤が塗布されていないものであることから(比較例4)、播種後において、アオコの発生を防ぐことができず、十分な撥水性を発揮し得ないものであることが分かる。